説明

多層フィルム製造装置及び製造方法

【課題】溶融温度が異なる複数種の樹脂を用いて多層フィルムを共押出で製造する。
【解決手段】多層フィルム製造装置15は、内部に樹脂A,B,Cを溶融状態で流動させるマニホールド流路16,17,18を設けた複数の第一ダイ19,20、21を放射状に配設する。各第一ダイには溶融温度の異なる樹脂A,B,Cを各溶融温度に応じた温度で加熱するヒータ24を設けた。マニホールド流路16,17,18は各第一ダイから第二ダイ22に延びる。各マニホールド流路16,17,18は各第一ダイ内で拡幅部16b、17b、18bを形成し、その下流側に薄膜化する流路16c、17c、18cを形成する。第二ダイ22内で各流路を合一し、リップ27から積層状態で押し出して、多層フィルムを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の熱可塑性樹脂を用いた共押し出しによる多層フィルム製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異種材料からなる熱可塑性樹脂製フィルムを積層して一体化した多層フィルム・シートによって、1種類の樹脂製シートでは得られない耐熱性、耐薬品性等を備えた高強度で耐久性の高い多層フィルム・シートが得られることが知られている。多層フィルムを製造する手段として、樹脂製のフィルムを個別に製造して各フィルム間に接着剤をコーティングし、互いに押圧することで一体化させて多層フィルムを製造したものがある。このような多層フィルムの製造方法は接着剤層が必要である等、多くの材料が必要で工程数が多く煩雑であり製造コストが高いという欠点があった。
【0003】
この欠点を改良する方法として、熱可塑性樹脂を複数の押し出し機によって同時に押し出して、1つのダイを通過させることでその内外で溶融状態の樹脂を1工程で同時に積層して多層フィルムを形成する共押出多層化技術が知られている。
共押出で多層フィルムを製造する装置としてフィードブロック型とマルチマニホールド型が知られている。
図6に示すフィードブロック型の多層フィルム製造装置1は、Tダイ2にフィードブロック3が接続されている。フィードブロック3には、例えば溶融状態の熱可塑性樹脂を押し出す図示しない3種類の押出機にアダプタを介して接続された3本のマニホールド流路4,5,6が設けられている。これらマニホールド流路4,5,6はフィードブロック3内で互いに当接するように三層に密接した合一状態とされる。
合一状態で各マニホールド流路4,5,6はTダイ2内に延び、図7に示すように、拡径した略台形状の拡幅部4a,5a,6aで各溶融樹脂が溜められて幅方向に薄膜状に引き延ばされてリップ8から押し出され、互いに密着して一体化された三層フィルムが得られる。その後、三層フィルムは冷却される。
このTダイ2では外周壁面にヒータ9を取り付けて加熱し、各マニホールド流路4,5,6内の樹脂の溶融と引き延ばしを進める。また、リップ8の近傍にはリップ調整ボルト10が設けられ、リップ調整ボルト10を進退させることでリップ8部分の各マニホールド流路4,5,6の空間を変化させて幅方向のフィルム厚みを統一させたり、フィルムの厚さを増減調整する。
【0004】
また、マルチマニホールド型の多層フィルム製造装置12として、図8及び図9に示すものが知られている。この多層フィルム製造装置12はTダイ2内に3種類の樹脂を個別に流動させるマニホールド流路4,5,6が互いに略平行に配設され、各マニホールド流路4,5,6内の拡径された拡幅部4a,5a,6aでそれぞれ溶融樹脂を滞留させて幅方向に引き延ばして薄膜状に形成する(図9参照)。その後、各マニホールド流路4,5,6で密着させて三層形状に合一化させてリップ8から各樹脂を押し出すことで、三層のフィルムを密着させ一体化させてなる三層フィルムが得られる。
このTダイ2においては、分離状態に保持された各マニホールド流路4,5,6の流路間やTダイ2の外周面にヒータ9を設置することで、各樹脂の溶融を保持させるようにしている。
【0005】
このような共押出で多層フィルムを製造する装置として、更に歩留まり性やリサイクル性を向上させる手法として、例えば特許文献1に記載されたものが提案されている。
この多層フィルムは、各層のフィルムシート間に接着剤層を形成して接着剤層によって3層の樹脂を互いに接着した3種5層のフィルムシートの構成を有している。そのため、この多層フィルム製造装置では、Tダイにおいて3種の樹脂を溶融させるための3本のマニホールド流路と、隣接する2本のマニホールド流路間にそれぞれ配設した接着剤を溶融するための2本のマニホールド流路とを備えており、リップから3種5層のフィルムシートを押し出して一体化させて冷却するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−5244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの多層フィルム製造装置では、Tダイが鉄等金属製であるため、ヒータを配置したとしてもダイの中で温度分布を作りにくく、フィルムを形成するための樹脂は互いに押出しに適した粘度が得られる温度範囲が近接した(例えば30℃〜40℃程度の差)素材しか使用できなかった。ダイの加熱温度がマニホールド流路内の樹脂の上述した押出しに適した粘度が得られる温度範囲(以下、適正温度範囲という)より低いと樹脂が固化したり、粘度が増大するため、押し出しが不可能になる不具合が発生し、ダイの加熱温度が樹脂の適正温度範囲より高い場合には溶融温度が熱で分解したり変性したりして異物発生や穴あきなどの不具合が発生する。
【0008】
また、適正温度範囲の相違する3種の熱可塑性樹脂A,B,Cについて樹脂粘度と押し出し温度との関係をグラフで示すと例えば図10に示すように表れる。Tダイ内における押出温度が適正温度範囲であると流動性が高く、適正温度範囲より低温の状態では、樹脂A,B,Cはいずれも最適粘度より粘度が高い押出不能状態または流動性不良状態になる。押出温度が適正温度範囲より高い状態であると樹脂は変性してゲル化したり熱分解することになる。
そして、例えば図11に示すように、押出温度をY℃に設定すると、樹脂Cは適正温度範囲内にあるが樹脂A,Bは適正温度範囲より低いために樹脂が固化したり粘度が増大するため、共押出による多層フィルムは製造できない。また、押出温度をY℃より高いZ℃に設定すると、樹脂A,Bは適正温度範囲内にあるが、樹脂Cは適正温度範囲より高温で変性し易くなり、ゲル化や熱分解による異物発生や穴あきなどの不具合が発生する。
そのため、溶融温度差が40℃を超えるような互いに異なる樹脂A,B,Cを共押出によって多層フィルムを製造することは困難であった。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて、適正温度範囲が相違する複数種類の熱可塑性樹脂を用いて多層フィルムを共押出によって製造するようにした多層フィルム製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による多層フィルム製造装置は、内部に熱可塑性樹脂を溶融状態で流動させるマニホールド流路を設けた第一ダイを複数配設し、各第一ダイには押し出しに適した粘度が得られる温度範囲の異なる熱可塑性樹脂を当該温度範囲に応じた温度で加熱するヒータがそれぞれ設けられ、第一ダイにそれぞれ設けられたマニホールド流路には溶融された熱可塑性樹脂を幅方向に拡幅し薄膜化するための拡幅部が設けられており、薄膜化した熱可塑性樹脂を合一する合一流路を経由してリップから積層フィルムを押出して成形することを特徴とする。
本発明に係る多層フィルム製造装置によれば、適正温度範囲の異なる複数種類の熱可塑性樹脂を、それぞれ固有の適正温度範囲に設定した複数の第一ダイの各マニホールド流路内で個別に溶融して薄膜化させ、合一流路を通して薄膜状の各熱可塑性樹脂を積層状態にして押し出し、積層フィルムとして成形する。そのため、比較的適正温度範囲の低い樹脂が、それより高い温度にさらされても熱分解したり変性する前に短時間でリップから外部に押し出すことができて、多層フィルムを製造することができる。
【0011】
本発明による多層フィルム製造方法は、適正温度範囲の異なる複数種類の熱可塑性樹脂をそれぞれ別個の第一ダイに設けたマニホールド流路に供給して溶融状態で流動させ、各第一ダイのマニホールド流路内で溶融状態の各樹脂を拡幅部で拡幅してその下流側で薄膜化させ、その後、溶融状態の各熱可塑性樹脂を互いに密着させて合一流路内に流入させて、リップから当該流路内の溶融された熱可塑性樹脂を薄膜状態で押し出して、多層フィルムとして成形するようにしたことを特徴とする。
本発明に係る多層フィルム製造方法によれば、適正温度範囲の異なる複数種類の樹脂を、それぞれ固有の適正温度範囲に設定した複数の第一ダイの各マニホールド流路内で個別に溶融して拡幅して薄膜化させた後、合一流路内で複数種類の熱可塑性樹脂を薄膜状態で積層させてリップから押し出すことで多層フィルムが得られる。そのため、薄膜化した後の複数種類の溶融樹脂の流動経路が短くて済み、その流動経路内での加熱温度が一部の樹脂の適正温度範囲より高くても変性や熱分解等が発生する前にリップから押し出すことができ、低くても流動性を損なう前にリップから押し出すことができて、複数種類の熱可塑性樹脂を多層フィルムとして製造できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る多層フィルム製造装置及び製造方法によれば、適正温度範囲の異なる複数種類の樹脂をそれぞれ固有の適正温度範囲に設定した各第一ダイのマニホールド流路内で個別に溶融して薄膜化したため、その後は合一流路を経由してリップから押し出すだけでよいから経路が短くて済み、その経路間での加熱温度が一部の樹脂の適正温度範囲より高くても変性や熱分解等が発生する前にリップから押し出すことができ、低くても流動性を損なう前にリップから押し出すことができて、複数種類の熱可塑性樹脂を多層フィルムとして製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一の実施例による多層フィルム製造装置を示す要部構成図である。
【図2】第一実施例による多層フィルム製造装置内でマニホールド流路によって溶融樹脂が形成される要部形状を模式的に示す図である。
【図3】本発明の第二の実施例による多層フィルム製造装置を示す要部構成図である。
【図4】本発明の第三の実施例による多層フィルム製造装置を示す要部構成図である。
【図5】本発明で使用する樹脂の種類と製造した多層フィルムの用途を示す表である。
【図6】従来の多層フィルム製造装置を示す要部構成図である。
【図7】図6に示す多層フィルム製造装置において、マニホールド流路によって溶融樹脂が形成される要部形状を模式的に示す図である。
【図8】従来の多層フィルム製造装置の別の例を示す要部構成図である。
【図9】図8に示す多層フィルム製造装置において、樹脂を多層フィルム製造装置内で薄膜化した状態を模式的に示す図である。
【図10】溶融温度の異なる3種類の樹脂について押出温度と樹脂粘度との関係を示す図である。
【図11】設定した温度における図10に示す各樹脂の状態を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による多層フィルム製造装置は、複数の第一ダイにそれぞれ設けたマニホールド流路の各拡幅部の下流側に、各マニホールド流路を互いに接合させる合一流路と、ここを経由してきた積層状態にある溶融樹脂を押し出すリップとが備えられている。
本発明に係る多層フィルム製造装置によれば、適正温度範囲の異なる熱可塑性樹脂を、それぞれ固有の適正温度範囲に設定した複数の第一ダイの各マニホールド流路内で個別に溶融して薄膜化させた後に、合一流路を通して薄膜状の各熱可塑性樹脂を積層状態にして短い経路でリップから押し出し、積層フィルムを成形する。
【0015】
また、合一流路の近傍には、温度勾配を与える温度勾配手段が設定されていてもよい。
温度勾配手段によって、合一流路で積層された薄膜状の各熱可塑性樹脂をそれぞれ異なる適正温度範囲に近い温度に保持して、変性する前に積層状態でリップから押し出すことができる。
また、温度勾配手段として、合一流路における少なくとも一方側にヒータが配設されていてもよく、適正温度範囲の比較的高い薄膜状の熱可塑性樹脂に対向してヒータを設けることで複数の薄膜状の熱可塑性樹脂に温度勾配を持たせることができる。
また、温度勾配手段として、合一流路に他の部分とは熱伝導率の異なる材質で形成されていると共に冷却手段を有するブロックが設けられてもよく、この構成によっても合一流路内の積層状態の複数の熱可塑性樹脂に温度勾配を設けることができる。
【0016】
また本発明による多層フィルム製造装置では、合一流路とリップは、第二ダイに設けられていてもよい。
この構成を採用すれば、第二ダイでは温度勾配手段によって上述の複数の第一ダイとは別個に温度設定ができるから、合一流路内で適正温度範囲の異なる薄膜化された複数の熱可塑性樹脂を、熱分解したり変性する前に短い経路でリップから外部に押し出すことができる。
【0017】
また、合一流路とリップは、最も適正温度範囲が高い第一ダイに設けられていてもよい。
この場合でも、比較的適正温度範囲の低い第一ダイのマニホールド流路が、最も適正温度範囲が高い第一ダイのマニホールド流路に合一流路で合流してリップから押し出されるまでの経路が短いから、比較的適正温度範囲の低い熱可塑性樹脂が、それより高い温度にさらされても熱分解したり変性する前に短時間でリップから外部に押し出すことができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例による多層フィルム製造装置について添付図面により説明する。
まず図1及び図2により第一の実施例を説明する。
図1に示す第一の実施例による多層フィルム製造装置15は、フィルム成形用ダイとしてTダイ14が設けられている。このTダイ14は、複数本、例えば3本のマニホールド流路16,17,18を個別に保持する第一ダイ19、第一ダイ20,第一ダイ21と、これら第一ダイ19〜21の下流側に接続して設けられた第二ダイ22とを備えている。第一ダイ19、20、21にはそれぞれ溶融温度の異なる熱可塑性樹脂(以下、単に樹脂という)が押出機から各マニホールド流路16,17,18に供給される。
図1において、第一ダイは右側から左側に向けて第一ダイ19、第一ダイ20,第一ダイ21が配設され、各第一ダイ19、20,21は第二ダイ22に向けて放射状に配列されているが、各第一ダイ19、20,21の配列の姿勢は任意である。
【0019】
第一ダイ19内に設けたマニホールド流路16は、図2に溶融状態の樹脂A,B,Cの形状で示すように、例えば円筒形溝のマニホールド部16aが下流側途中部分で略台形状に拡幅されて溶融樹脂を滞留させ、幅方向に拡幅し薄膜化するための拡幅部16bが形成され、その下流側に流路16cが形成される。流路16cは第一ダイ19から突出して第二ダイ22内に延びている。同様に、他の第一ダイ20、21も、マニホールド部17a、18aと拡幅部17b、18bと流路17c、18cが形成されている。
ここで、第一ダイ19、20、21における各マニホールド流路16,17,18にそれぞれ供給される樹脂を便宜的に樹脂A,B,Cとして区別する。これら樹脂A,B,Cは最大溶融温度差が100℃〜300℃程度あるものとし、押し出しに適した粘度に設定する温度範囲即ち溶融温度範囲が互いに異なるものとする。本明細書では、樹脂を押し出しに適した粘度に設定できる温度範囲を適正温度範囲という。ここでは適正温度範囲の大きいものから順に樹脂A,B,Cとする。
【0020】
また、第一ダイ19にはヒータ24が取り付けられており、図示しない制御手段によってヒータ24の温度を設定できるようになっている。ここでは、マニホールド流路16内の樹脂Aの溶融温度またはこれより若干高い温度に設定されている。同様に、第一ダイ20,21にもそれぞれヒータ24、24が取り付けられ、各ヒータ24の温度はマニホールド流路17,18を流動する樹脂B,Cの溶融温度または若干高い温度に設定されている。
【0021】
第二ダイ22は、上述した従来のダイよりも短い長さに設定されている。この第二ダイ22は第一ダイ19、20,21から突出するマニホールド流路16,17,18の流路16c、17c、18cが内部で中心側に向けて放射状に延伸して互いに当接し、三層に密接した積層状態となる。この積層構成を合一流路26として第二ダイ22の先端であるリップ27に延びて開口している。
第二ダイ22は鉄製等であるため異なる範囲の温度設定が困難である。そのため、第二ダイ22は図示しないヒータによって各樹脂A,B,Cのうち最も高温の樹脂Aの溶融温度に全体が設定されている。また、第二ダイ22の一部のヒータ28はマニホールド流路16〜18の合一流路26に沿って配設され、マニホールド流路16の流路16cに対向している。
また、第二ダイ22には、合一流路26に対してヒータ28とリップ27に隣接して空間30が形成され、この空間30を通してリップ調整ボルト31がそれぞれ進退可能に幅方向に等間隔に複数配設されている。リップ調整ボルト31をねじ込むことで先端が空間30に位置するリップ27の側面を押圧してリップ27を変形可能としている。そのため、リップ27はフレキシブルである。リップ調整ボルト31でリップ27が押されることで、合一流路26の厚みが調整でき、押し出されるフィルムの幅方向の厚みを均一化できる。
【0022】
本実施例による多層フィルム製造装置15は上述の構成を備えており、次に多層フィルム製造方法について説明する。
各押出機から3種類の樹脂A,B,Cが溶融されて、第一ダイ19,20,21の各マニホールド流路16,17,18に個別に供給される。第一ダイ19,20,21はそれぞれ供給される樹脂A,B,Cの溶融温度に応じた異なる加熱温度に保持されている。各マニホールド流路16,17,18に供給される樹脂A,B,Cは各ヒーター24によって更にそれぞれの溶融温度で加熱されるために、個別に溶融状態で進みそれぞれ適正粘度範囲に保持されて流動性が確保される。
そして、各マニホールド流路16,17,18内で拡幅部16b、17b、18bによって各樹脂A,B,Cは滞留し拡幅され、図2に示すように16b、17b、18bの下流側に接続される流路16c、17c、18cで薄膜化される。
【0023】
そして、流動性を増した樹脂A,B,Cは更にマニホールド流路16,17,18の流路16c、17c、18c内を流動して薄膜形状で第一ダイ19,20,21から第二ダイ22内に流動し、合一流路26で各流路16c、17c、18cが三層に積層された状態となってリップ27の開口から押し出される。押し出された各樹脂A,B,Cは薄膜のフィルムが積層して一体化された三層フィルムとして形成されており、その後に冷却される。
ここで、第一ダイ19,20,21ではマニホールド流路16,17,18内の各樹脂A,B,Cはそれぞれの溶融温度に応じて個別に加熱される。そして、溶融状態に保持された各樹脂A,B,Cはマニホールド流路16,17,18内で第二ダイ22に移動すると、第二ダイ22は最も溶融温度の高い樹脂Aの溶融温度に維持されている。そのため、樹脂BやCは適正温度範囲(適正粘度範囲)を超えた高温に曝されて時間の経過によって変質して押出不良や流動性不良になり易いが、第二ダイ22での合一流路は短いために、変質する前に短時間でリップ27から押し出される。
【0024】
なお、第二ダイ22における合一流路26には樹脂Aの流路側にヒータ28を設けたから、熱伝導により樹脂Aが流動する部分が最も高温になり、樹脂Bと樹脂Cが流動する部分は順次ヒータ28から遠い位置にあるため、若干の温度傾斜(例えば30℃〜40℃程度)を発生する。そのため、樹脂B、樹脂Cが樹脂Aに対して順次温度低下するため、この点からも樹脂Bや樹脂Cについて高温加熱による変質を起こしにくい。
また、第二ダイ22において、リップ調整ボルト31を進退調整することで、リップ27をフレキシブルに変形可能であり、リップ27における合一流路の厚みを調整できるから、押し出される三層フィルムの幅方向の厚みを統一できる。
【0025】
上述のように本実施例による多層フィルム製造装置15によれば、溶融温度が100℃〜300℃程度の範囲で相違するフィルム成形用の樹脂A,B,Cを用いて、第一ダイ19,20,21では個々の適切な溶融温度に設定してマニホールド流路16,17,18内を流動させることで、適正温度で溶融状態に保持して第二ダイ22のリップ27近傍まで流動できる。そして、個別の第一ダイ19,20,21に続く一体型の第二ダイ22が最も溶融温度の高い樹脂Aの溶融温度に設定されていても、比較的溶融温度の低い樹脂B,Cを樹脂Aと共に合一流路内を短時間で流動させて共押し出しでき、樹脂B,Cが分解したり変質したりするのを防止して品質のよい三層フィルムを製造できる。
特に本実施例では、第一ダイ19,20,21内のマニホールド流路16,17,18において、各樹脂A,B,Cを拡幅部16b、17b、18bで幅方向に拡幅、薄膜化し、流路16c、17c、18cから第二ダイに押し出す。そのため、第二ダイ22での合一流路26は積層して押し出すだけであるから、高温状態での各溶融樹脂の流動経路と流動時間を短縮できる。
【0026】
次に本発明の他の実施例について説明するが、上述の第一の実施例と同一または同様の部材、部品等については同一の符号を用いて説明を省略する。
図3は本発明の第二の実施例による多層フィルム製造装置35を示す図である。本第二の実施例における第一の実施例との相違点は、第二ダイ22のリップ部27に関する。
本第二の実施例による多層フィルム製造装置35では、リップ部27における合一流路26と空間30との間の一部分をなすブロック27Aを第二ダイ22の他の部分より熱伝導率の低い材質のものを用いる。合一流路26に対してブロック27Aと反対側にヒータ28が設けられている。これにより、合一流路26にヒータ28のみ配置した場合より大きい温度勾配を設定できる。
【0027】
例えば、第二ダイ22の材質を銅(熱伝導率370W/mK)とすると、ブロック27Aをアルミ(熱伝導率200W/mK)、鋼材(熱伝導率53W/mK)、鉛(熱伝導率35W/mK)またはステンレス鋼(熱伝導率17W/mK)等とすることができる。なお、第二ダイ22の材質とブロック27Aの材質とは両者の熱伝導率に差があればどのような材質を採用してもよく、例えば第二ダイ22の材質に鋼材を用い、ブロック27Aの材質に鉛やステンレス鋼等を用いることもできる。
また、ヒーター28として例えば電熱線ヒーターや誘導加熱ヒーターなどを用いることができる。
また、ブロック27A内には冷却手段36が設けられており、これによってヒーター28との間で合一流路26に一層大きな温度勾配を設定できる。冷却手段36は水冷管や冷却ファン等を用いることができる。
【0028】
なお、本実施例においては、温度勾配手段として、第二ダイ22の合一流路26に沿って温度勾配を設定するヒーター28,熱伝導率の低いブロック27A、冷却手段36を設けたが、必ずしもこれらを全て設定する必要はなく、合一流路26における溶融温度の相違する樹脂A,B,Cの配列位置に応じて、任意の1または複数の温度勾配手段を設定すればよい。
【0029】
上述のように本第二実施形態による多層フィルム製造装置35によれば、第一の実施例による効果に加えて、溶融温度の最も高い樹脂Aの温度に設定された第二ダイ22内において、合一流路26の溶融温度の相違する樹脂A,B,Cの配列に沿ってヒーター28,熱伝導率の低いブロック27A、冷却手段36を設けて温度勾配を大きくしたから、設定温度より溶融温度の低い樹脂B,Cが第二ダイ22を流動する間に変質したり分解したりすることを一層防止できて、より高品質な三層フィルムを製造できる。
【0030】
次に本発明の第三実施例による多層フィルム製造装置について図4により説明する。
図4に示す多層フィルム製造装置40は上述の実施例と相違して第二ダイ22を省略し、供給する樹脂A,B,Cの数に応じた本数、ここでは3本の第一ダイ41、42、43で構成されている。
第一ダイ41、42、43は略放射状に配設されており、中央に位置する第一ダイ41内に設けたマニホールド流路44が最も溶融温度の高い樹脂Aを溶融状態で流動させるものであり、両側の第一ダイ42,43内にそれぞれ設けたマニホールド流路45、46が樹脂B,Cを溶融状態で流動させるものである。図に示すように、樹脂Aを流動させる中央の第一ダイ41は他の第一ダイ42,43より長く樹脂Aの流動方向先端にはリップ27が形成されている。
【0031】
そして、両側の第一ダイ42,43は中央の第一ダイ41の先端側部にそれぞれ連結されている。中央の第一ダイ41内に設けた樹脂Aを流動させるマニホールド流路44はリップ27の開口まで延びている。両側の第一ダイ42,43にそれぞれ設けた樹脂B,Cを流動させるためのマニホールド流路45、46は中央の第一ダイ41との接合部から中央の第一ダイ41内に延びており、樹脂Aのマニホールド流路44に交差する領域で屈曲または湾曲して樹脂Aのマニホールド流路44の両側に密接して三層の合一流路48を形成してリップ27の開口に連通している。
【0032】
中央の第一ダイ41のマニホールド流路44は上述の実施例と同様に、図示しない押出機からアダプタ49Aを介して溶融された樹脂Aの供給を受けている。そして、マニホールド流路44内では、例えば円筒形溝のマニホールド44aが下流側途中部分で拡幅部44bを形成し、その下流側に樹脂Aを薄膜化する流路44cが形成され、合一流路48からリップ27に延びている。同様に、他の第一ダイ42、43もアダプタ49B,49Cを介して押出機に接続され、マニホールド部45a、46aと拡幅部45b、46bと流路45c、46cが形成されている。マニホールド流路45、46は、第一ダイ42、43から最も高温の中央の第一ダイ41内に延びている。
各マニホールド流路44,45,46の流路44c、45c、46cはリップ部27で三層に接合された合一流路48を構成する。
そして、各第一ダイ41、42,43の外周面には流動する樹脂A,B,Cの溶融温度に応じた温度にそれぞれ加熱するためのヒータ24が取り付けられている。なお、第一ダイ41に設けたヒータ24は、中央の第一ダイ41と両側の第一ダイ42,43との接合部において、両側の第一ダイ42,43に非接触に設置されていることが好ましい。
【0033】
本第三の実施例による多層フィルム製造装置40は上述の構成を備えているから、各押出機から3種類の樹脂A,B,Cが溶融されてアダプタ49A,49B,49Cを介して、第一ダイ41,42,43の各マニホールド流路44,45,46に個別に供給される。各マニホールド流路44,45,46にそれぞれ供給される樹脂A,B,Cは各ヒーター24によって更にそれぞれの溶融温度で加熱されるために、個別に溶融状態で進み適正粘度範囲に保持されて流動性が確保される。
そして、各マニホールド流路44,45,46内で拡幅部44b、45b、46bによって各樹脂A,B,Cは滞留して拡幅され、図2に示すようにそれぞれ流路44c、45c、46cで薄膜化される。
【0034】
中央の第一ダイ41では、マニホールド流路44内の樹脂Aは加熱溶融されて流動性を確保してそのまま合一流路48へ流れる。両側の第一ダイ42、43では、マニホールド流路45,46は各第一ダイ42、43内でそれぞれ樹脂B,Cの溶融温度で加熱溶融され、拡径された拡幅部45b、46bによって各樹脂B,Cは滞留して拡幅され、それぞれ流路45c、46cで薄膜化される。
そして、マニホールド流路45,46の流路45c、46cは両側の第一ダイ42,43から中央の第一ダイ41に延びて、合一流路48で中央の流路44cの両側に45c、46cが密着されている。そのため、樹脂B,Cはそれぞれの溶融温度に加熱された両側の第一ダイ42,43から中央の第一ダイ41に流動して、樹脂Aの溶融温度に曝されるが、中央の第一ダイ41内の経路は短いために高温によって溶融樹脂B,Cが熱分解したり変性したりする前に短時間でリップ27の開口から押し出される。
押し出された薄膜状の樹脂A,B,Cは三層フィルム50となり、冷却されて固化する。
【0035】
なお、上述した多層フィルム製造装置40では、最も溶融温度の高い樹脂Aを流動する第一ダイ41を中央に設け、樹脂Aより溶融温度が低い樹脂B,Cを流動させる第一ダイ42,43を両側に配置して第一ダイ41に対して斜めに傾斜して接続するように構成したが、いずれの第一ダイを中央に配置してもよい。いずれの場合でも、最も加熱温度(溶融温度)の高い第一ダイ41にリップ27を設けて、比較的加熱温度の低い第一ダイ42,43を接合させるようにすることが構成を簡単にする上で好ましい。
【0036】
上述したように、本第三の実施例による多層フィルム製造装置40は、第二ダイ22を省略して溶融温度の異なる樹脂A,B,Cの種類に応じた三本の第一ダイ41、42、43で構成されているから、構造が一層シンプルになりコストを低減できる。
【0037】
なお、第三の実施例による多層フィルム製造装置40では、リップ27の領域に熱伝導率の比較的低いブロック27,ヒーター28,冷却手段36を設けていないが、これらの少なくともいずれかまたは全てを設置して合一流路48に温度勾配を設けてもよい。
【0038】
次に、溶融温度の異なる複数種類の樹脂A,B,Cを、本実施例による多層フィルム製造装置15,25,40を用いて同時に共押し出しする樹脂素材と、得られる多層フィルムの用途の一例について図5に示す。
例えば第1例では、最も溶融温度の高い(例えば250℃〜310℃)2種の樹脂としてフッ素樹脂を用い、その間にナイロン樹脂(溶融温度170℃〜265℃)を挟んで構成した三層フィルムとして、高強度撥水フィルムが得られる。第2例として、最も溶融温度の高い(例えば250℃〜310℃)フッ素樹脂と、比較的溶融温度の低いポリエチレン樹脂(溶融温度110℃〜140℃)を接合して構成した二層フィルムとして、耐薬品性フィルムが得られる。第3例として、最も溶融温度の高い(例えば約280℃)PPS樹脂と、比較的溶融温度の低いEVA樹脂(溶融温度60℃〜90℃)を接合して構成した二層フィルムとして、耐薬品性粘着フィルムが得られる。
なお上述の第1乃至第3例で、各樹脂の融点を記載したが、実際の製造時における樹脂の溶融温度とは必ずしも一致しないことがある。
【0039】
なお、上述の各実施例では、溶融温度の異なる2〜3種類の樹脂を用いて第一ダイを樹脂の数だけ設けた多層フィルム製造装置15,25、40について説明したが、複数樹脂の種類の組合せや第一ダイ及びマニホールド流路の数は任意である。
また、本発明は、上述の各実施例で説明したように、第一ダイ19,20,21、41、42,43に設けたマニホールド流路16,17,18、44,45,46で、マニホールド部16a,17a,18a、44a,45a,46aから拡幅部16b、17b、18b、44b、45b、46bを介して流路16c、17c、18c、44c、45c、46で薄膜化されていて、各樹脂を個別に薄膜状態に形成できればよい。各樹脂について、その後の合一流路26,48での密着やリップ27からの押し出しは、いずれかの第一ダイや第二ダイ22、或いは他の適宜手段の少なくともいずれかに設けられていればよい。
【符号の説明】
【0040】
15、25、40 多層フィルム製造装置
16,17,18、44,45,46 マニホールド流路
16b、17b、18b、44b、45b、46b 拡幅部
16c、17c、18c、44c、45c、46c 流路
19,20,21、41,42,43 第一ダイ
22 第二ダイ
24,28 ヒーター
26、48 合一流路
27 リップ
27A ブロック
31 リップ調整ボルト
36 冷却手段
50 三層フィルム
A,B,C 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に熱可塑性樹脂を溶融状態で流動させるマニホールド流路を設けた第一ダイを複数配設し、各第一ダイには押し出しに適した粘度が得られる最適温度範囲の異なる熱可塑性樹脂を当該最適温度範囲に応じた温度で加熱するヒータがそれぞれ設けられ、前記第一ダイにそれぞれ設けられた前記マニホールド流路には溶融された熱可塑性樹脂を幅方向に拡幅する拡幅部と、該拡幅部の下流側で溶融樹脂を薄膜化するための流路とが設けられ、
前記複数のマニホールド流路を合一させる合一流路を経由してリップから溶融された薄膜状の熱可塑性樹脂を押し出して積層フィルムを成形することを特徴とする多層フィルム製造装置。
【請求項2】
前記合一流路の近傍には、温度勾配を与える温度勾配手段が設定されている請求項1に記載された多層フィルム製造装置。
【請求項3】
前記温度勾配手段として、前記合一流路における少なくとも一方側にヒータが配設されている請求項2に記載された多層フィルム製造装置。
【請求項4】
前記温度勾配手段として、前記合一流路の片側に熱伝導率の異なる材質で形成されているブロックが設けられ、かつ冷却手段を備えている請求項2または3に記載された多層フィルム製造装置。
【請求項5】
前記合一流路とリップは、第二ダイに設けられている請求項1乃至4のいずれかに記載された多層フィルム製造装置。
【請求項6】
適正温度範囲の異なる複数種類の熱可塑性樹脂をそれぞれ別個の第一ダイに設けたマニホールド流路に供給して溶融状態で流動させ、各第一ダイのマニホールド流路内で溶融状態の各樹脂を拡幅部で拡幅してその下流側で薄膜化させ、その後、溶融状態の各熱可塑性樹脂を互いに密着させて合一流路内に流入させて、リップから薄膜状態で押し出して、多層フィルムとして成形するようにしたことを特徴とする多層フィルム製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−136456(P2011−136456A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296887(P2009−296887)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】