説明

多層材料シートおよびその調製方法

本発明は、延伸超高分子量ポリオレフィンの一方向性単層の圧密化スタックを含む多層材料シートに関する。該スタック内の2つの連続した単層の延伸方向は異なる。さらに、少なくとも1つの単層の厚さは50μmを超えず、そして少なくとも1つの単層の強度は1.2GPa〜3GPaの間である。本発明は、該多層材料シートを含む耐弾性物品および該耐弾性物品の調製方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、延伸超高分子量ポリオレフィンの一方向性単層の圧密化スタック(積み重ね)を含む多層材料シートおよびその調製方法に関する。また本発明は、該多層材料シートを含む耐弾性物品にも関する。
【0002】
延伸超高分子量ポリエチレンの一方向性単層の圧密化スタックを含む多層材料シートは、EP1627719A1号明細書から知られている。この公報は、本質的に超高分子量ポリエチレンからなる複数の一方向性単層を含み、結合マトリックスを本質的に含まない多層材料シートを開示しており、スタック内の2つの連続した単層の延伸方向は異なる。多層材料シートの単層について開示される厚さは30〜120μmの間であり、好ましい範囲は50〜100μmである。
【0003】
EP1627719A1号明細書に従う多層材料シートは超高分子量ポリエチレンを使用し、結合マトリックスを本質的に含まない。この特徴は、所望の防弾特性を得るために必要である。EP1627719A1号明細書に従う多層材料シートは満足できる弾道性能を示すが、この性能はさらに改善することが可能である。
【0004】
本発明の目的は、既知の材料と比較したときに改善された防弾特性を有する多層材料シートを提供することである。
【0005】
この目的は、延伸超高分子量ポリオレフィンの一方向性単層の圧密化スタックを含む多層材料シートを提供することにより本発明に従って達成され、該スタック内の2つの連続した単層の延伸方向は異なり、少なくとも1つの単層の厚さは50μmを超えず、少なくとも1つの単層の強度は少なくとも1.2GPa、2.5GPaまたは3.0GPaである。好ましくは、少なくとも1つの単層の強度は1.2GPa〜3GPaの間であり、より好ましくは1.5〜2.6GPaの間、そして最も好ましくは1.8〜2.4GPaの間である。驚くことに、この特定の特徴の組み合わせによって、既知の多層材料シートより向上した防弾性能がもたらされることが分かった。さらに詳細には、EP1627719A1号明細書に従う多層材料シートの防弾性能を100%に合わせると、本発明に従う多層材料シートでは130%よりも高い防弾性能が得られた。本発明に従う材料シートの追加的な利点は、所望のレベルの防弾特性を得るために結合マトリックスを本質的に含まない超高分子量ポリエチレンの使用がもはや必要とされないことである。
【0006】
本発明に従う好ましい多層材料シートは、少なくとも1.2GPa、2.5GPaまたは3.0GPaの単層強度に対して、そして好ましくは、1.2GPa〜3GPaの間、より好ましくは1.5〜2.6GPaの間、最も好ましくは1.8〜2.4GPaの間であるの単層強度に対して、少なくとも1つの単層の厚さが25μmまたは29μm以下であることを特徴とする。本発明に従うさらに好ましい材料シートは、少なくとも1.2GPa、2.5GPaまたは3.0GPaの単層強度に対して、そして好ましくは、1.2GPa〜3GPaの間、より好ましくは1.5〜2.6GPaの間、最も好ましくは1.8〜2.4GPaの間である単層強度に対して、少なくとも1つの単層の厚さが3〜29μmの間、より好ましくは3〜25μmの間であることを特徴とする。本発明に従うもう1つの好ましい材料シートは、少なくとも1.2GPa、2.5GPaまたは3.0GPaの単層強度に対して、少なくとも1つの単層の厚さが5μmよりも大きく、好ましくは7μmよりも大きく、より好ましくは10μmよりも大きく、そして50μmを超えないことを特徴とする。より好ましくは、単層強度は1.2GPa〜3GPaの間であり、より好ましくは1.5〜2.6GPaの間であり、そして最も好ましくは1.8〜2.4GPaの間である。
【0007】
本発明によると、全ての単層が特許請求される範囲の厚さおよび強度を有する必要はないが、全ての単層が特許請求される範囲の厚さおよび強度を有する多層材料シートが特に好ましい。
【0008】
一方向性単層は配向テープまたはフィルムから得られ得る。一方向性テープおよび単層は、本出願との関連では、一方向、すなわち延伸方向におけるポリマー鎖の好ましい配向を示すテープおよび単層を意味する。このようなテープおよび単層は、延伸、好ましくは一軸延伸によって製造することができ、異方性の機械特性を示すであろう。
【0009】
本発明の多層材料シートは好ましくは超高分子量ポリエチレンを含む。超高分子量ポリエチレンは線状でも分枝状でもよいが、好ましくは線状ポリエチレンが使用される。線状ポリエチレンは、本明細書では、100個の炭素原子につき1つよりも少ない側鎖、好ましくは300個の炭素原子につき1つよりも少ない側鎖を有するポリエチレンを意味すると理解され、側鎖または分枝は通常少なくとも10個の炭素原子を含有する。例えばEP0269151号明細書に記載されるように、側鎖は、2mm厚の圧縮成形フィルムにおけるFTIRによって適切に測定することができる。線状ポリエチレンは、さらに、5mol%までのプロペン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテン、オクテンなどの共重合させることができる1つまたは複数の他のアルケンを含有することができる。好ましくは、線状ポリエチレンは高モル質量を有し、固有粘度(IV、135℃においてデカリン溶液で測定)は少なくとも4dl/g、より好ましくは少なくとも8dl/g、最も好ましくは少なくとも10dl/gである。このようなポリエチレンは、超高分子量ポリエチレン、UHMWPEとも呼ばれる。固有粘度は、MnおよびMwのような実際のモル質量パラメータよりも容易に決定することができる分子量の尺度である。このタイプのポリエチレンフィルムは、特に良好な防弾特性をもたらす。
【0010】
本発明に従うテープは、フィルムの形態で調製することができる。このようなフィルムまたはテープの好ましい形成方法は、無端ベルトの組み合わせの間に高分子粉末を供給し、高分子粉末をその融点よりも低い温度で圧縮成形し、そして得られた圧縮成形ポリマーを圧延し、続いて延伸することを含む。このような方法は、例えば、参照によって本明細書中に援用されるEP0733460A2号明細書に記載されている。所望される場合には、ポリマー粉末を供給および圧縮成形する前に、ポリマー粉末は、前記ポリマーの融点よりも高い沸点を有する適切な液体有機化合物と混合されてもよい。圧縮成形は、無端ベルトを搬送しながらポリマー粉末を無端ベルトの間に一時的に保持することによって実行されてもよい。これは、例えば、無端ベルトに接続された加圧プラテンおよび/またはローラを提供することによって行うことができる。好ましくはUHMWPEがこの方法で使用される。このUHMWPEは、固体状態で延伸可能であることが必要とされる。
【0011】
フィルムのもう1つの好ましい形成方法は、ポリマーを押出機に供給し、その融点よりも高い温度でフィルムを押出し、そして押出されたポリマーフィルムを延伸することを含む。所望される場合には、ポリマーを押出機に供給する前に、好ましくは超高分子量ポリエチレンを用いる場合などのように、ポリマーは適切な液体有機化合物と混合され、例えばゲルを形成してもよい。
【0012】
好ましくは、ポリエチレンフィルムは、このようなゲル法によって調製される。適切なゲル紡糸法は、例えばGB−A−2042414号明細書、GB−A−2051667号明細書、EP0205960A号明細書および国際公開第01/73173A1号パンフレット、ならびに「高度な繊維紡糸技術(Advanced Fibre Spinning Technology)」、T.ナカジマ(Nakajima)編、Woodhead Publ.Ltd(1994年)、ISBN1855731827に記載されている。簡潔に言うと、ゲル紡糸法は、高い固有粘度のポリオレフィンの溶液を調製するステップと、溶解温度よりも高い温度で該溶液をフィルムに押し出すステップと、ゲル化温度よりも低い温度までフィルムを冷却し、それによりフィルムを少なくとも部分的にゲル化させるステップと、溶媒を少なくとも部分的に除去する前、最中、または後にフィルムを延伸するステップとを含む。
【0013】
製造されたフィルムの延伸、好ましくは一軸延伸は、当該技術分野において既知の手段によって実行され得る。このような手段は、適切な延伸装置における押出伸長および引張伸長を含む。機械的な強度および剛性の増大を達成するために、延伸は多段階で実行されてもよい。好ましい超高分子量ポリエチレンフィルムの場合、延伸は、通常、多数の延伸ステップで一軸的に実行される。第1の延伸ステップは、例えば、3の伸長係数までの延伸を含むことができる。多数回の延伸によって、通常、120℃までの延伸温度では9の伸長係数、140℃までの延伸温度では25の伸長係数、150℃までおよびそれより高い延伸温度では50の伸長係数が得られる。上昇する温度における多数回の延伸によって、約50以上の伸長係数が達成され得る。この結果、高強度テープが得られ、それによって、超高分子量ポリエチレンのテープの場合、1.2GPa〜3GPaおよびそれ以上の特許請求される強度範囲を容易に得ることができる。
【0014】
得られた延伸テープは、それ自体が単層を製造するように使用されてもよいし、もしくはその所望される幅に切断されるか、または延伸方向に沿って分割されてもよい。このように製造された一方向性テープの幅は、テープを製造するフィルムの幅によって制限されるだけである。テープの幅は、好ましくは2mmよりも大きく、より好ましくは5mmよりも大きく、そして最も好ましくは30、50、75または100mmよりも大きい。テープまたは単層の面密度は、広い範囲にわたって、例えば3〜200g/mの間で変わり得る。好ましい面密度は5〜120g/mの間、より好ましくは10〜80g/mの間、そして最も好ましくは15〜60g/mの間の範囲である。UHMWPEについては、面密度は好ましくは50g/m未満であり、より好ましくは29g/mまたは25g/m未満である。
【0015】
本発明に従うもう1つの好ましい多層材料シートは、少なくとも1つの単層が、同一方向に位置合わせされた複数の延伸ポリオレフィンの一方向性テープを含み、隣接するテープが重なり合わないことを特徴とする。これは、多層材料シートに、EP1627719A1号明細書に開示される構成よりも遥かに簡単な構成を提供する。実際、EP1627719A1号明細書に開示される多層材料は、複数の超高分子量ポリエチレンのテープを互いに隣接して位置決めすることによって製造され、該テープはその長手方向縁部のいくらかの接触領域上で重なり合う。好ましくは、この領域はさらに、高分子フィルムで被覆される。本発明の好ましい実施形態の多層材料は、良好な防弾性能のためにこの複雑な構成を必要としない。
【0016】
いくつかの実施形態では、一方向性シートの取り扱いおよび製造中に単層の構造が保持されるように、単層は、複数の一方向性テープを結合および安定化するために局所的に適用されたバインダーを含み得る。適切なバインダーは、例えば、EP0191306B1号明細書、EP1170925A1号明細書、EP0683374B1号明細書およびEP1144740A1号明細書に記載されている。単層の形成中のバインダーの適用はテープを有利に安定化し、従ってより高速の製造サイクルの達成を可能にする。
【0017】
本発明に従うもう1つの特に好ましい多層材料シートは少なくとも1つの単層を含み、好ましくは全ての単層は、織物構造を形成するように位置合わせされた複数の延伸ポリマーの一方向性テープから構成される。このようなテープは、延伸超高分子量ポリオレフィン、特に超高分子量ポリエチレンの小さいストリップを織る、編むなどの紡織技法を適用することによって製造することができる。ストリップは、本発明により要求されるのと同じ厚さおよび強度値を有する。
【0018】
本発明に従う多層材料シートは、好ましくは少なくとも2つの一方向性単層、好ましくは少なくとも4つの一方向性単層、より好ましくは少なくとも6つの一方向性単層、さらにより好ましくは少なくとも8つの一方向性単層、そして最も好ましくは少なくとも10の一方向性単層を含む。本発明の多層材料シート内の一方向性単層の数が増大すると、これらの材料シートからの物品(例えば、防弾板)の製造が簡略化される。
【0019】
また本発明は、特許請求されるタイプの多層材料シートの調製方法にも関する。本発明に従う方法は、
(a)各テープが隣接するテープに対して平行に配向されるように位置合わせされた本発明に従う複数の延伸超高分子量ポリエチレンテープを提供するステップであって、隣接するテープが部分的に重なり合い得るステップと、
(b)前記複数の延伸超高分子量ポリエチレンテープを基材上に位置決めし、それにより第1の単層を形成するステップと、
(c)本発明に従う複数の延伸超高分子量ポリエチレンテープを第1の単層上に位置決めし、それにより第2の単層を形成するステップであって、第2の単層の方向が第1の単層の方向に対して角度αを成すステップと、
(d)このようにして形成されたスタックを高温下に圧縮して、その単層を圧密化するステップと
を含む。
【0020】
一方向性単層を圧縮することによってこれらは互いに十分に相互接続され、これは、一方向性単層が例えば室温などの通常の使用条件下で剥離しないことを意味する。特許請求される方法により、必要とされる厚さおよび強度の単層を有する多層材料シートを容易に製造することができる。
【0021】
本発明に従う多層材料シートは、ベストまたは装甲板などの耐弾性物品の製造において特に有用である。弾道用途は、防弾物を貫くいわゆるAP弾、簡易爆発物、および硬質粒子(例えば、破片および榴散弾など)を含むいくつかの種類の弾丸に対して弾道脅威を有する用途を含む。
【0022】
本発明に従う耐弾性物品は、少なくとも2つの一方向性単層、好ましくは少なくとも10の一方向性単層、より好ましくは少なくとも20の一方向性単層、さらにより好ましくは少なくとも30または40の一方向性単層、そして最も好ましくは少なくとも80の一方向性単層を含む。スタック内の2つの連続した単層の延伸方向はαの角度だけ異なる。角度αは、好ましくは45〜135°の間であり、より好ましくは65〜115°の間であり、そして最も好ましくは80〜100°の間である。
【0023】
好ましくは、本発明に従う耐弾性物品は、セラミック、金属(好ましくは、鋼、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロムおよび鉄)またはこれらの合金、ガラスおよび黒鉛、もしくはこれらの組み合わせからなる群から選択される無機材料のさらなるシートを含む。特に好ましいのは金属である。このような場合、金属シート中の金属は、好ましくは、少なくとも350℃、より好ましくは少なくとも500℃、最も好ましくは少なくとも600℃の融点を有する。適切な金属としては、アルミニウム、マグネシウム、チタン、銅、ニッケル、クロム、ベリリウム、鉄および銅が挙げられ、例えば鋼およびステンレス鋼およびアルミニウムとマグネシウムとの合金(いわゆるアルミニウム5000シリーズ)、およびアルミニウムと亜鉛およびマグネシウムまたは亜鉛、マグネシウムおよび銅との合金(いわゆるアルミニウム7000シリーズ)のようなこれらの合金が含まれる。前記合金において、例えばアルミニウム、マグネシウム、チタンおよび鉄の量は、好ましくは、少なくとも50wt%である。好ましい金属シートは、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、ベリリウム、鉄(これらの合金も含む)を含む。より好ましくは、金属シートはアルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、鉄およびこれらの合金に基づく。この結果、良好な耐久性を有する軽量の防弾性物品がもたらされる。さらにより好ましくは、金属シート中の鉄およびその合金は、少なくとも500のブリネル硬度を有する。最も好ましくは、金属シートは、アルミニウム、マグネシウム、チタン、およびこれらの合金に基づく。この結果、最高の耐久性を有する最軽量の防弾性物品がもたらされる。本出願における耐久性は、熱、水分、光および紫外線放射へさらされる条件下での複合体の寿命を意味する。さらなる材料シートは単層スタック内のどこにでも位置決めすることができるが、好ましい耐弾性物品は、さらなる材料シートが単層スタックの外側、最も好ましくは少なくともその衝突面に位置決めされることを特徴とする。
【0024】
本発明に従う耐弾性物品は、好ましくは、最大でも100mmの厚さを有する上記の無機材料のさらなるシートを含む。好ましくは、無機材料のさらなるシートの最大厚さは75mmであり、より好ましくは50mm、そして最も好ましくは25mmである。この結果、重量と防弾特性との間の最良のバランスがもたらされる。好ましくは、無機材料のさらなるシートが金属シートである場合、さらなるシート、好ましくは金属シートの厚さは少なくとも0.25mmであり、より好ましくは少なくとも0.5mm、そして最も好ましくは少なくとも0.75mmである。この結果、さらにより良好な防弾性能が得られる。
【0025】
無機材料の更なるシートは、任意で、多層材料シートとの接着性を改善するために前処理されてもよい。さらなるシートの適切な前処理には、機械的処理、例えば研磨または研削によるその表面の粗化または清浄化、例えば硝酸による化学エッチング、およびポリエチレンフィルムとの積層が含まれる。
【0026】
耐弾性物品のもう1つの実施形態では、さらなるシートと多層材料シートとの間に、結合層、例えば接着剤が適用されてもよい。このような接着剤は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂またはビニルエステル樹脂を含むことができる。好ましくは、結合層は、耐弾性物品の30重量%未満、より好ましくは耐弾性物品の20重量%未満、さらにより好ましくは10重量%未満、そして最も好ましくは5重量%未満を含む。
【0027】
もう1つの好ましい実施形態では、結合層はさらに、無機繊維、例えばガラス繊維または炭素繊維の織層または不織層を含むことができる。また、例えばスクリュー、ボルトおよびスナップフィットなどの機械的手段によって、さらなるシートを多層材料シートに付着させることも可能である。本発明に従う耐弾性物品が、AP弾に対する脅威に遭遇し得る弾道用途において使用される場合、さらなるシートは、好ましくは、セラミック層で被覆された金属シートを含む。このようにして、以下の層状構造:セラミック層/金属シート/少なくとも2枚の一方向性シート(一方向性シートの繊維の方向は隣接する一方向性シートの繊維の方向に対して角度αである)を有する防弾性物品が得られる。適切なセラミック材料としては、例えば、アルミナ酸化物、酸化チタン、酸化ケイ素、炭化ケイ素および炭化ホウ素が挙げられる。セラミック層の厚さは弾道脅威のレベルに依存するが、通常2mm〜30mmの間で異なる。この耐弾性物品は、好ましくは、セラミック層が弾道脅威に直面するように位置決めされる。これにより、AP弾および硬質破片に対する最大の防護が付与される。
【0028】
また本発明は、
(a)少なくとも、本発明に従う多層材料シートと、セラミック、鋼、アルミニウム、チタン、ガラスおよび黒鉛、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される無機材料のさらなるシートとを積み重ねるステップと、
(b)積み重ねたシートを高い温度および圧力下で圧密化するステップと
を含む耐弾性物品の製造方法にも関する。
【0029】
耐弾性物品の好ましい製造方法は、
(a)少なくとも、延伸超高分子量ポリオレフィンの一方向性単層の圧密化スタックを含む多層材料シートと、セラミック、鋼、アルミニウム、チタン、ガラスおよび黒鉛、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される材料のさらなるシートとを積み重ねるステップであって、該スタック内の2つの連続した単層の延伸方向が異なり、少なくとも1つの単層の厚さが50μmを超えず、より好ましくは29μmを超えず、またはさらにより好ましくは25μmを超えず、少なくとも1つの単層の強度が少なくとも1.2GPa、2.0、2.5または3.0GPaである(またはさらにより好ましくは1.2GPa〜3GPaの間である)ステップと、
(b)積み重ねたシートを高い温度および圧力下で圧密化するステップと
を含む。
【0030】
上記の全ての方法の圧密化は、水圧プレスにおいて適切に行うことができる。圧密化は、単層が互いに比較的堅固に付着されて1つの単位を形成することを意味するように意図される。圧密化中の温度は、通常、プレスの温度によって調節される。最低温度は、通常、圧密化の妥当な速度が得られるように選択される。この点において、80℃が適切な下限の温度であり、好ましくはこの下限は少なくとも100℃、より好ましくは少なくとも120℃、最も好ましくは少なくとも140℃である。最高温度は、延伸ポリマー単層が例えば融解のためにその高い機械特性を失う温度よりも低く選択される。好ましくは、温度は、延伸ポリマー単層の融解温度よりも少なくとも10℃低く、より好ましくは少なくとも15℃低く、そしてさらにより好ましくは少なくとも20℃低い。延伸ポリマー単層が明確な融解温度を示さない場合、延伸ポリマー単層がその機械特性を失い始める温度が融解温度の代わりに読み取られるべきである。好ましい超高分子量ポリエチレンの場合、通常、149℃よりも低い温度、好ましくは145℃よりも低い温度が選択されるであろう。圧密化中の圧力は、好ましくは、少なくとも7MPaであり、より好ましくは少なくとも15MPa、さらにより好ましくは少なくとも20MPa、そして最も好ましくは少なくとも35MPaである。このようにして、剛性の防弾性物品が得られる。圧密化のための最適な時間は、通常、温度、圧力および部品の厚さなどの条件に応じて5〜120分の範囲であり、日常的な実験によって確認することができる。湾曲した防弾性物品が製造される場合、まずさらなる材料シートを所望の形状に予備成形してから、単層および/または多層材料シートと共に圧密化することが有利であり得る。
【0031】
好ましくは、高い耐弾性を達成するために、高温での圧縮成形の後に、同様に圧力下で冷却が行われる。圧力は、好ましくは、少なくとも温度が緩和を防止するのに十分低くなるまで保持される。この温度は、当業者によって規定することができる。超高分子量ポリエチレンの単層を含む耐弾性物品が製造される場合、典型的な圧縮温度は90〜150℃、好ましくは115〜130℃の範囲である。典型的な圧縮圧力は100〜400バール、より好ましくは110〜350バール、さらにより好ましくは110〜250バール、最も好ましくは120〜160バールの間の範囲であり、圧縮時間は通常20分、好ましくは40分〜180分の間である。
【0032】
本発明の多層材料シートおよび防弾性物品は、低重量で既知の物品のように改善されたレベルの保護を提供するので、これまでに知られている防弾性材料以上に特に有利である。耐弾性以外に、特性には、例えば熱安定性、貯蔵寿命、耐変形性、他の材料シートへの結合能力、成形性などが含まれる。
【0033】
本出願で言及される試験方法(他に示されない限り)は以下の通りである。
・ 固有粘度(IV)は、方法PTC−179(Hercules Inc.Rev.、1982年4月29日)に従って、2g/l溶液の量の酸化防止剤としてのDBPCと共にデカリン中135℃で、異なる濃度で測定される粘度をゼロ濃度に外挿することによって決定される(溶解時間は16時間である)。
・ 引張特性(25℃で測定):引張強さ(または強度)、引張弾性率(またはモジュラス)および破断伸び(またはeab)は、500mmの繊維の公称ゲージ長、50%/分のクロスヘッド速度を用いて、ASTM D885Mにおいて規定されるマルチフィラメントヤーンにおいて定義および決定される。測定される応力−ひずみ曲線に基づいて、モジュラスは0.3〜1%の間でひずみを傾斜させて決定される。モジュラスおよび強度を計算するために、測定される引張力は、10メートルの繊維を秤量することによって決定される力価で除され、GPaの値は0.97g/cmの密度を仮定して計算される。薄いフィルムの引張特性は、ISO1184(H)に従って測定した。
【0034】
本発明は以下の実施例および比較実験によって、これらに限定されることなく、これからさらに説明される。
【0035】
[実施例および比較実験]
[実施例−テープの製造]
20の固有粘度を有する超高分子量ポリエチレンをデカリンと混合して、7重量%の懸濁液にした。懸濁液を押出機に供給し、170℃の温度で混合して、均質なゲルを生じた。次に、600mmの幅および800μmの厚さを有するスロットダイを通してゲルを供給した。スロットダイから押し出した後、ゲルを水浴中で急冷することによってゲル−テープを形成した。ゲルテープを3.8の係数で伸長し、その後、デカリンの量が1%より少なくなるまで、50℃および80℃の2つの部分からなるオーブン内でテープを乾燥させた。その後、この乾燥ゲルテープを140℃のオーブン内で5.8の伸長比で伸長し、続いて、第2の伸長ステップを150℃のオーブン温度で行い、18マイクロメートルの最終厚さを得た。
【0036】
[テープの性能試験]
38ツイスト/メートルの頻度でテープをより合わせ、通常のヤーンに関して試験される狭い構造を形成することによって、テープの引張特性を試験した。更なる試験は、500mmの繊維の公称ゲージ長、50%/分のクロスヘッドおよびタイプFibre Grip D5618Cのlnstron2714クランプを用いて、ASTM D885Mに従った。
【0037】
[実施例:テープからの装甲パネルの製造]
互いに隣接する平行テープを有するテープの第1の層を置いた。隣接する平行テープの第2の層を第1の層の上に置き、第2の層のテープの方向は第1の層のテープの方向に垂直であった。続いて、第3の層(この場合も第2の層に垂直)を第2の層の上に置いた。第3の層を置き、これは、第1の層と比較して小さいシフト(約5mm)を有した。このシフトは、特定の位置におけるテープ縁部の可能性のある蓄積を最低限にするために適用した。第2の層と比較して小さいシフト(約5mm)を有する第4の層を第3の層に垂直に置いた。2.57kg/mの面密度(AD)が達せられるまで手順を繰り返した。層状テープのスタックをプレス内に移動し、145℃の温度および300バールの圧力で65分間加圧した。80℃の温度が達せられるまで圧力下で冷却を行った。テープに結合剤は全く適用しなかった。それにもかかわらず、スタックは剛性の均質な800×400mm板に融合された。
【0038】
[装甲パネルの性能試験]
装甲板に、9mmパラベラム弾により実施した射撃試験を受けさせた。試験はV50および/または吸収エネルギー(E−abs)を決定することを目的として実施した。V50は、発射体の50%が装甲板を貫通し得る速度である。試験手順は以下のとおりであった。第1の発射体を予想V50速度で発射した。実際の速度を衝突の少し手前で測定した。発射体が停止したら、約10%速い意図される速度で次の発射体を発射した。貫通したら、約10%遅い意図される速度で次の発射体を発射した。衝突の実際の速度を常に測定した。V50は、最も高い2回の停止および最も低い2回の貫通の平均とした。装甲の性能は、V50における発射体の運動エネルギーを計算し、これを板のADで除することによっても決定した(E−abs)。
【0039】
【表1】

【0040】
市販の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)一方向性繊維から形成したシートにおいて比較実験Aを実施した。繊維を20重量%の熱可塑性ポリマーに含浸させて一緒に結合した。比較実験Aにおける単層の強度は2.8GPaであった。これは、繊維の強度に単層内の繊維含量を掛けたものである。比較実験の単層を165バールの圧力下、約125℃で65分間圧縮して、必要とされる面密度を有するシートを製造した。圧縮後の単層の厚さは65ミクロンであった。
【0041】
結果は、50μmを超えない単層および少なくとも1.2GPaの単層強度を有する多層材料シートが、従来のUD繊維に基づく多層シートから製造した装甲シートと比較して予想外に改善された防弾性能を生じることを確認する。特に、本発明の多層材料シートは、従来技術からの比較サンプルよりも著しく高いE−abs値を生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸超高分子量ポリオレフィンの一方向性単層の圧密化スタックを含む多層材料シートであって、前記スタック内の2つの連続した単層の延伸方向が異なり、少なくとも1つの単層の厚さが50μmを超えず、少なくとも1つの単層の強度が少なくとも1.2Gpaである材料シート。
【請求項2】
前記少なくとも1つの単層の強度が、1.2GPa〜3GPaの間である請求項1に記載の材料シート。
【請求項3】
前記少なくとも1つの単層の強度が、少なくとも3GPaである請求項1に記載の材料シート。
【請求項4】
前記少なくとも1つの単層の厚さが、10μmよりも大きい請求項1に記載の材料シート。
【請求項5】
前記少なくとも1つの単層の厚さが、29μmを超えない請求項1または2に記載の材料シート。
【請求項6】
前記少なくとも1つの単層の厚さが、3〜29μmの間である請求項3に記載の材料シート。
【請求項7】
前記少なくとも1つの単層の強度が、1.5〜2.6GPaの間である請求項1または2に記載の材料シート。
【請求項8】
前記少なくとも1つの単層の強度が、1.8〜2.4GPaの間である請求項5に記載の材料シート。
【請求項9】
前記ポリオレフィンが、超高分子量ポリエチレンを含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の材料シート。
【請求項10】
強度対厚さの比が、少なくとも4×1013N/mである請求項1〜9のいずれか一項に記載の材料シート。
【請求項11】
前記スタック内の2つの連続した単層の延伸方向が、45〜135°の間、そしてより好ましくは80〜100°の間の角度αだけ異なる請求項1〜10のいずれか一項に記載の材料シート。
【請求項12】
少なくとも1つの単層が、同一方向に位置合わせされた複数の延伸ポリオレフィンの一方向性テープを含み、隣接するテープが重なり合わない請求項1〜11のいずれか一項に記載の材料シート。
【請求項13】
少なくとも1つの単層が、織布を形成するように位置合わせされた複数の延伸ポリオレフィンの一方向性テープを含む請求項1〜12のいずれか一項に記載の材料シート。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の材料シートを含む耐弾性物品。
【請求項15】
少なくとも10の一方向性単層を含む請求項11に記載の耐弾性物品。
【請求項16】
セラミック、鋼、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロムおよび鉄またはこれらの合金、ガラスおよび黒鉛、もしくはこれらの組み合わせからなる群から選択される材料のさらなるシートを含む請求項11または12に記載の耐弾性物品。
【請求項17】
前記材料のさらなるシートが、単層スタックの外側に、少なくともその衝突面において位置決めされる請求項13に記載の耐弾性物品。
【請求項18】
前記無機材料のさらなるシートの厚さが、最大でも50mmである請求項13または14に記載の耐弾性物品。
【請求項19】
前記材料のさらなるシートと、請求項1〜10のいずれか一項に記載の材料シートとの間に結合層が存在し、前記結合層が、無機繊維の織層または不織層を含む請求項13〜15のいずれか一項に記載の耐弾性物品。
【請求項20】
(a)請求項1〜10のいずれか一項に記載の多層材料シートと、セラミック、鋼、アルミニウム、チタン、ガラスおよび黒鉛、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される材料のシートとを積み重ねるステップと、
(b)前記積み重ねたシートを温度および圧力をかけて圧密化するステップと
を含む耐弾性物品の製造方法。
【請求項21】
少なくとも200マイクロメートルの高さを有し、そして少なくとも200の幅対高さの比を有する開口部を通して、約4dl/g〜40dl/gの間の固有粘度(デカリン中135℃で測定)を有するポリエチレンの溶液を押し出すステップと、
ゲルが形成される温度よりも高温で該流体生成物を伸長するステップと、
非混和性の液体からなる急冷浴内で前記流体生成物を急冷してゲル生成物を形成するステップと、
ゲル生成物を伸長するステップと、
ゲル生成物から溶媒を除去するステップと、任意選択的にゲル生成物を伸長するステップとを含み、総伸長比が少なくとも20である、ポリエチレンテープの調製方法。
【請求項22】
前記溶液が5〜30重量%の間のポリエチレンを含み、総伸長比が少なくとも40である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項20〜22のいずれか一項に記載の方法によって得られるポリエチレンテープまたはフィルム。

【公表番号】特表2009−534234(P2009−534234A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506988(P2009−506988)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003690
【国際公開番号】WO2007/122011
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】