説明

多層樹脂フィルム、樹脂被覆金属板、多層樹脂フィルムの製造方法、及び樹脂被覆金属板の製造方法

【課題】本発明は、溶融粘度が互いに相違する複数の樹脂層からなる多層フィルムにおいて、表面の凹凸が小さい多層樹脂フィルム、多層樹脂フィルムを金属板に積層してなる樹脂被覆金属板、および溶融粘度が互いに相違する複数の溶融樹脂を、高速でかつフィルム表面に凹凸を形成させずに積層して多層樹脂フィルムとする多層樹脂フィルムの製造方法、ならびに多層樹脂フィルムを金属板に積層する樹脂被覆金属板の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも着色成分を含有するポリエステル樹脂及び着色成分を含有しないポリエステル樹脂から構成される多層樹脂フィルムにおいて、前記着色成分を含有しないポリエステル樹脂が、押出温度における溶融張力Tmが1.0g≦Tmであり、且つ該着色成分を含有しないポリエステル樹脂から成るフィルムの厚さが全厚さの3分の1以上であることを特徴とする無延伸の多層樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融張力および溶融粘度が互いに相違する複数の樹脂層からなる表面の凹凸が小さい多層樹脂フィルム、その多層樹脂フィルムを被覆してなる樹脂被覆金属板、多層樹脂フィルムの製造方法、および樹脂被覆金属板の製造方法に関する。特に、樹脂フィルムの製膜速度が100m/分以上と高速生産が可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料缶などの分野においては、樹脂フィルム被覆金属板を絞り加工や絞りしごき加工を施してなる缶が多用されている。これは、樹脂フィルムが加工時における金属板に対する優れた接着性と、内容物に対する優れた耐透過性を兼備していることによる。これらの樹脂フィルム被覆金属板を成形加工してなる缶においては、近年、缶に充填する内容物の多様化、および缶コストの削減を目的としたさらなる缶体の軽量化のための加工度の上昇に伴って、優れた耐透過性および優れた加工接着性を単層の樹脂フィルムで両立させることが困難になってきている。そのため、加工接着性と耐透過性をそれぞれの特性に優れた単層の樹脂フィルムを用いてそれぞれ別個に担わせ、それらの個々の単層フィルムを多層化したフィルムを金属板に被覆することにより、従来よりさらに優れた加工接着性と耐透過性を有する、樹脂フィルム被覆金属板に用いる樹脂フィルムとして適用することが試みられている。
【0003】
しかし、上記のように物性の異なる樹脂フィルムを多層化して用いる場合、融点が異なり同一温度で加熱溶融させた場合の溶融粘度がそれぞれ異なる樹脂を加熱溶融し共押出してフィルムに製膜しなくてはならないが、融点が異なる樹脂を加熱溶融させる場合、同一温度で加熱溶融させると融解温度の高い樹脂の溶融粘度が高く、融解温度の低い樹脂の溶融粘度が低くなる場合が多い。そして、マルチマニフォルドダイを用いて同一温度でこのような樹脂を加熱溶融させた樹脂を多層化して積層する場合、隣接する樹脂の溶融粘度が異なると、個々のマニフォルドを通った個々の加熱溶融樹脂を多層樹脂として合流させる際に、樹脂層同士の界面において加熱溶融樹脂の流れに乱れが生じ、フィルム表面に厚みムラ(凹凸)が生じてしまうことがある。フィルム表面に生じる厚みムラはフローマークと呼ばれ、目視的に不良であるばかりでなく、缶体に成形するための絞り加工や絞りしごき加工、缶上部の開口部のネックイン(小径化)加工を実施する際に均一な加工が不可能となり、破胴などの原因となる。また、生産速度を向上させるために高速で溶融樹脂を押し出すと幅方向における寸法の差、すなわち耳の発生が大きくなったり、ダイリップから押し出された樹脂が均一に落下せず脈動しながら落下するようになり、均一な厚さのフィルムが得られなくなる。また、フィルムに着色成分である顔料が入ると、これらは発生しやすくなる。このような耳やフィルムの厚みムラ(凹凸、フローマーク)の発生を抑制するため、下記の公報に開示された方法が試みられている。
【0004】
特許文献1においては、互いの融点や加熱溶融時の粘度の相違が小さい樹脂を選択して用いることにより、フローマークの発生を防止する方法が開示されているが、樹脂フィルムに要求される物性によっては、互いの融点や加熱溶融時の粘度が大きく相違する樹脂を選択せざるを得ない場合が多く、この公報に開示された方法は、極く限られた用途にしか適用できない。
【0005】
特許文献2は、加熱溶融させた複数の樹脂層をTダイの前で合流させるフィードブロック法を用い、フィードブロックと、フィードブロックに接続して多層樹脂フィルムを成形するTダイを組み合わせた多層押出成型方法において、フィードブロックに設けた加熱ヒータを温度制御することにより、多層に合流する積層境界面におけるずれ(フローマーク)などの不良現象を低減させる方法を開示している。図2にその多層押出成形装置の一例の概略を示す。多層押出成形装置は複数のマニフォルド14a〜14gを有するフィードブロック10と、マニフォルド14a〜14gからの樹脂の合流部16の下方に、フィードブロック10に接続して設けられたTダイ12とで構成されている。それぞれのマニフォルド14a〜14gからの樹脂通路の合流部の周辺に、例えばマニフォルド14bの出側の樹脂通路に加熱ヒータ20b、22b、温度計28bなど(説明の簡略のため、マニフォルド14bにのみ言及)を設け、各マニフォルドから供給される各溶融樹脂材料の温度/粘度を制御して温度/粘度を均一化することにより、多層樹脂に合流する積層境界面における不良現象を低減させる。
【0006】
しかし、フィードブロック法においては、多層に合流した後に樹脂が流入するTダイの内部が単層構造であり、合流して多層化した樹脂が合流部16からダイリップ32の出口開口部34までに至る距離が大きくなり、その距離を溶融樹脂が移動する間、Tダイは全体として加熱されるのみであるために、各樹脂層が同一粘度となる合流直後の各樹脂層のそれぞれ異なる加熱温度を温度差を有したままで保つことが不可能であり、出口開口部34においては各樹脂層の加熱温度が変化することによって、各樹脂層の溶融粘度を同一に保てなくなるので、フローマークの発生を防止することが困難になる。このように、この公報による方法も、同一の溶融粘度が得られる融点の差がそれ程大きく相違しない樹脂を用いるような、限られた用途にしか適用できない。また、これらの公報に開示された方法においても、溶融樹脂の張力が小さい場合は製膜速度を増大することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−290532号公報
【特許文献2】特開平11−309770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、溶融粘度が互いに相違する複数の樹脂層からなる多層フィルムにおいて、表面の凹凸が小さい多層樹脂フィルム、多層樹脂フィルムを金属板に積層してなる樹脂被覆金属板、および溶融粘度が互いに相違する複数の溶融樹脂を、高速でかつフィルム表面に凹凸を形成させずに積層して多層樹脂フィルムとする多層樹脂フィルムの製造方法、ならびに多層樹脂フィルムを金属板に積層する樹脂被覆金属板の製造方法を提供することを目的とする。特に、樹脂フィルムの製膜速度が100m/分以上と高速生産が可能な製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、少なくとも着色成分を含有するポリエステル樹脂及び着色成分を含有しないポリエステル樹脂から構成される多層樹脂フィルムにおいて、前記着色成分を含有しないポリエステル樹脂が、押出温度における溶融張力Tmが1.0g≦Tmであり、且つ該着色成分を含有しないポリエステル樹脂から成るフィルムの厚さが全厚さの3分の1以上であることを特徴とする無延伸の多層樹脂フィルムが提供される
本発明の多層樹脂フィルムにおいては、長さ方向の全幅方向で測定した最大厚さと最小厚さの差で表わされる厚みムラが、5.0μm以下である
また本発明によれば、上記多層樹脂フィルムを金属板に積層してなる樹脂被覆金属板が提供される
【0010】
本発明によればまた、押出温度における溶融張力Tmが1.0g≦Tmである着色成分を含有しないポリエステル樹脂及び着色成分を含有するポリエステル樹脂を少なくとも含む、2種類以上のポリエステル樹脂を、マルチマニフォルドダイを用いて、それぞれのマニフォルドに連続して設けられた押出機、それぞれのマニフォルド、およびそれぞれのマニフォルドに隣接するダイの部分のそれぞれの温度を制御し、溶融粘度の高い樹脂が通る押出機、マニフォルド、およびマニフォルドに隣接するダイの部分の温度を、溶融粘度の低い樹脂が通る押出機、マニフォルド、およびマニフォルドに隣接するダイの部分の温度より高温に保持して、着色成分を含有しないポリエステル樹脂から成るフィルムの厚さが全厚さの3分の1以上となるようにして、それぞれの溶融樹脂を積層して多層フィルムとすることを特徴とする、多層樹脂フィルムの製造方法が提供される
本発明の多層樹脂フィルムの製造方法においては、隣接する樹脂層の溶融粘度の差が、20〜500秒−1の剪断速度において3000ポアズ以下となるように、温度制御することが好適である。
【0011】
本発明よれば更に、押出温度における溶融張力Tmが1.0g≦Tmである着色成分を含有しないポリエステル樹脂及び着色成分を含有するポリエステル樹脂を少なくとも含む、2種類以上のポリエステル樹脂を、マルチマニフォルドダイを用いて、それぞれのマニフォルドに連続して設けられた押出機、それぞれのマニフォルド、およびそれぞれのマニフォルドに隣接するダイの部分のそれぞれの温度を制御し、溶融粘度の高い樹脂が通る押出機、マニフォルド、およびマニフォルドに隣接するダイの部分の温度を、溶融粘度の低い樹脂が通る押出機、マニフォルド、およびマニフォルドに隣接するダイの部分の温度より高温に保持して、着色成分を含有しないポリエステル樹脂から成るフィルムの厚さが全厚さの3分の1以上となるようにして、それぞれの溶融樹脂を積層して多層化した後、金属板上に押出すことを特徴とする、樹脂被覆金属板の製造方法が提供される
本発明の樹脂被覆金属板の製造方法煮においては、隣接する樹脂層の溶融粘度の差が、20〜500秒−1の剪断速度において3000ポアズ以下となるように、温度制御することが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、着色成分を含有した樹脂を少なくとも1種類含み、同一の加熱溶融温度における、20〜500秒−1の剪断速度における溶融粘度の差が3000〜20000ポアズである2種類以上の樹脂を、マルチマニフォルドダイを用いて、それぞれのマニフォルドに連続して設けられた押出機、それぞれのマニフォルド、およびそれぞれのマニフォルドに隣接するダイの部分のそれぞれの温度を制御し、溶融粘度の高い樹脂が通る押出機、マニフォルド、およびマニフォルドに隣接するダイの部分の温度を、溶融粘度の低い樹脂が通る押出機、マニフォルド、およびマニフォルドに隣接するダイの部分の温度より高温に保持して、隣接する樹脂層の溶融粘度の差を、20〜500秒−1の剪断速度において3000ポアズ以下とした後、溶融張力が1g以上である着色成分を含有しない樹脂の厚さが全厚さの3分の1以上となるようにして、それぞれの溶融樹脂を積層して多層フィルムとするものであり、高速度で製膜しても脈動や耳発生が増大することがなく、得られた樹脂フィルムの厚みムラは極めて小さい。また、このようにして得られる多層フィルムは表面における厚みムラが5μm以下であるので、目視的な平滑性に優れているのみならず、樹脂フィルム中に通常の多層フィルムにおけるような溶融粘度に基づく応力が生じることがないので、多層樹脂フィルムを金属板に積層被覆して多層樹脂フィルム被覆金属板とした場合に、樹脂フィルムに疵が付いても樹脂フィルムが金属板から捲れ上がって剥離することがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の多層フィルムの製造方法の一例を示す概略図。
【図2】従来の多層フィルムの製造方法の一例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明を説明する。図1は、溶融粘度が互いに相違する複数の樹脂層からなる本発明の多層フィルムの製造方法の一例を示す概略図である。説明を簡略にするため、2層樹脂フィルムの製膜に用いる場合を例示する。2個のマニフォルド2aおよび2bを有するマルチマニフォルドダイ1には、溶融粘度が高い方の樹脂を加熱溶融して押し出す押出機6aと溶融粘度が低い方の樹脂を加熱溶融して押し出す押出機6bが、それぞれ樹脂通路を介して2aおよび2bと接続して設けられている。マニフォルド2aおよび2bは、マルチマニフォルドダイ1の下方で合体してリップランド5となり、マルチマニフォルドダイ1の最下部のダイリップに設けられた吐出口7に連なっている。
【0015】
マルチマニフォルドダイ1には、ダイ本体の溶融粘度が高い方の樹脂が通る側を加熱するためのヒータ11aと溶融粘度が低い方の樹脂が通る側を加熱するためのヒータ11bと、マニフォルド2aおよび2bを加熱するためにそれぞれのマニフォルドに隣接して設けられたヒータ3aおよび3b、ならびにヒータ4aと4bが設けられ、さらに、押出機6aおよび押出機6bとマルチマニフォルド2aおよび2bをそれぞれ接続する樹脂通路を加熱するためのヒータ10aおよび10bが設けられている。これらのそれぞれのヒータを設けた部位付近には、図示しない熱電対などの温度測定手段を設けてそれぞれの部位の温度を測定しながら加熱温度を一定に制御し、マニフォルド2aおよび2b内のそれぞれの加熱溶融樹脂の粘度の差が一定範囲以内となるように個別にそれぞれのヒータの温度を制御する。
【0016】
押出機6aおよび押出機6bで加熱溶融された、同一の加熱溶融温度における溶融粘度の差が20〜500秒−1の剪断速度において3000〜20000ポアズである2種類の樹脂は、それぞれマルチマニフォルドダイ1内に設けられたマニフォルド2aおよび2bを通り、マルチマニフォルドダイ1の下方で合体したリップランド5の入口で積層され、ダイ1の最下部のダイリップに設けられた吐出口7から、吐出口7の下方に設けられた内部を水などの冷媒が循環するように構成された冷却ロール9上に吐出され、冷却固化した多層樹脂フィルム8となり、連続的にコイル状に巻き取るコイラーなどの巻取手段12に巻き取られる。
【0017】
このように構成された多層樹脂フィルムの製造装置を用いて、本発明の多層樹脂フィルムは以下のようにして製膜することができる。
適用可能な上記樹脂フィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば下記のポリエステル樹脂が適用できる。ポリエステル樹脂が誘導される酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタール酸、P−β−オキシエトキシ安息香酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の2塩基性芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、シクロヘキサンジ酢酸等の脂環族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、トリメット酸、ピロメリット酸、ヘミメリット酸、1,1,2,2−エタンテトラカルボン酸、1,1,2−エタントリカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、ビフェニルー3,4,3’,4’−テトラカルボン酸等の多塩基酸等が挙げられる。勿論、これらは、単独でも或いは2種以上の組み合わせでも使用される。ポリエステルが誘導されるアルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコ−ル、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−へキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のジオール類や、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,2,6−へキサントリオール、ソルビトール、1,1,4,4−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン等の多価アルコール等が挙げられる。勿論、これらは、単独でも或いは2種以上の組み合わせでも使用できる。
【0018】
本発明の多層樹脂フィルムに用いられる着色成分としては、従来樹脂フィルムの着色に用いられていた着色剤全てを用いることができ、例えば、次のものを例示できる。
黒色顔料:カーボンブラック、マグネタイト、アセチレンブラック、ランブラック、アニリンブラック。
黄色顔料:黄鉛、亜鉛黄、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマンネントイエローNCG、タートラジンレーキ。
橙色顔料:赤口黄鉛、モリブテンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、インダスレンブリリアントオレンジRK、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジGK。
赤色顔料:ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀カドミウム、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウオッチングレッドカルシウム塩、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3B。
紫色顔料:マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ。
青色顔料:群青、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBC。
緑色顔料:クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファナルイエローグリーンG。
白色顔料:ルチル型又はアナターゼ方の二酸化チタン、亜鉛華、グロスホワイト、パーライト、硫酸沈降性パーライト、炭酸カルシウム、石膏、沈降性シリカ、エアロジル、タルク、焼成或いは未焼成クレイ、炭酸バリウム、アルミナホワイト、合成或いは天然マイカ、合成ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム。
【0019】
着色剤の粒径は、一般に0.05乃至2μm、特に0.1乃至0.5μmの範囲にあることが好ましい。これにより、優れた加工性と隠蔽力の両方を兼ね備えることが可能となる。本発明の目的に特に好適な着色剤は、二酸化チタンであり、このものは白色で大きい隠蔽力を有している。
着色剤の樹脂への配合量は、着色成分含有樹脂の溶融粘度及び溶融張力を上述した範囲にし得る限り特に制限はなく、用途に応じて適宜決定することができる。
【0020】
同一の加熱溶融温度における溶融粘度が上記のように20〜500秒−1の剪断速度において3000〜20000ポアズの範囲でそれぞれ異なり、かつそのうちの1種の着色成分を含有した樹脂(図1の場合は2種であり、説明を容易にするため、以下、図1に示す押出機6bで加熱溶融する方の樹脂が着色成分を含む場合を想定して説明する)のそれぞれのペレットを押出機6aおよび6bで加熱溶融し、それぞれの押出機の下方に設けられたマルチマニフォルドダイ1内のそれぞれの樹脂通路を介して接続されたマニフォルド2aおよび2bに導かれ、合体部に向かって進んでいく。このとき、それぞれの樹脂はヒータ10aおよび10b、ヒータ11aおよび11b、ヒータ3aおよび3b、ヒータ4aおよび4bにより、それぞれの樹脂の溶融粘度の差が、20〜500秒−1の剪断速度において3000ポアズ以下となるように、それぞれのヒータの加熱温度をそれぞれのヒータ付近に設けられた熱電対などの温度測定手段で測定しながら制御する。
【0021】
次いで、以上のようにしてそれぞれの溶融粘度の差が20〜500秒−1の剪断速度において3000ポアズ以下とされた溶融樹脂はマニフォルド2aおよび2bの合体部で合体したリップランド5の入口で積層され、吐出口7から冷却ロール9上に吐出されて固化し、多層(2層)フィルム8となるが、特に高速度で溶融樹脂を押し出した場合、押出温度における着色成分を含有した樹脂の溶融張力が0.5g未満であるか、または着色成分を含有しない樹脂の溶融張力が1g未満であると押し出されるフィルム状の溶融樹脂が脈動して長手方向の厚さが不均一になったり幅方向で耳が発生するようになる。着色成分を含有した樹脂の溶融張力Tmが0.5g≦Tm<1.0gの樹脂を用い、押し出された多層フィルムの全厚さに対してこの溶融張力0.5g≦Tm<1.0gの樹脂の層が2分の1以上、あるいはTm≧1.0gの樹脂を用い、押し出された多層フィルムの全厚さに対してこの溶融張力0.5g≦Tm<1.0gの樹脂の層が3分の1以上となるように、または、着色成分を含有しない樹脂の溶融張力が1g以上の樹脂を用い、押し出された多層フィルムの全厚さに対してこの溶融張力が1g以上の樹脂の厚さが3分の1以上となるように押出量を制御することにより、脈動や耳の発生を防止することができる。そのため、より高速で製膜することができる。
【0022】
以上のようにして、溶融粘度の差を調整し、樹脂の少なくともいずれか1種に着色成分を含有した樹脂を用いて吐出量を調整した後、吐出口7から冷却ロール9上に吐出されて固化した多層(2層)フィルム8は、巻取手段12に巻き取られる。このようにして本発明の多層樹脂フィルムが製造される。
【0023】
上記のようにして得られる本発明の多層樹脂フィルムは、多層樹脂フィルム表面における凹凸の差が5μm以下であることが好ましい。凹凸の差が5μmを超えると目視的に不良であるばかりでなく、多層樹脂フィルムを金属板に積層被覆して多層樹脂フィルム被覆金属板とした後、この多層樹脂フィルム被覆金属板を缶体に成形するために絞り加工や絞りしごき加工を実施したり、缶上部の開口部のネックイン加工を実施する際に樹脂フィルムが金属板から剥離したり、加工度が局所的に異なるために、絞り加工や絞りしごき加工において破胴したり、ネックイン加工においてクラッシュしたりして缶体に成形加工できない。
【0024】
また、本発明の多層樹脂フィルムは、上記の多層樹脂フィルムの製造方法を用いてダイリップの吐出部から加熱溶融した多層樹脂を、直接金属板にフィルム状に吐出して積層被覆して多層樹脂フィルム被覆金属板とすることができる。また、上記の多層樹脂フィルムの製造方法を用いて作成した多層樹脂フィルムを公知の積層方法を用いて、金属板に直接、または接着剤を介して積層して多層樹脂フィルム被覆金属板とすることもできる。なお、加熱溶融した多層樹脂を、直接金属板にフィルム状に吐出して積層被覆する場合、積層被覆後の多層樹脂フィルムの表面における凹凸の差は、上記と同様の理由で5μm以下であることが好ましい。
なお、以上の説明においては2種類の樹脂を用いる2層の樹脂フィルムを製膜する場合を説明したが、マニフォルド3個以上を設けたマルチマニフォルドダイとそれぞれのマニフォルドに接続して押出機を3個以上設けることにより、3層以上の樹脂フィルムを製膜可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を示し、本発明を詳細に説明する。
(比較例1)
耐透過性に優れたポリエステル樹脂A(エチレンテレフタレート/エチレンイソフタレート共重合体(エチレンイソフタレート10モル%)、融点:220℃、固有粘度:0.85、260℃、剪断速度:100秒−1における溶融粘度:7500ポアズ、溶融張力:0.7g)(以下、簡略に樹脂Aという。溶融張力は、キャピログラフ3A(商品名:東洋精機(株)製)を用い、樹脂温度:260℃、押出速度:10mm/分、巻取速度:10m/分、ノズル径:1mm、ノズル長さ:10mmの条件で測定した)と、加工接着性に優れたポリエステル樹脂B(エチレンテレフタレート/エチレンイソフタレート共重合体(エチレンイソフタレート15モル%)、融点:215℃、固有粘度:0.9、融点:215℃、温度260℃でかつ剪断速度:100秒−1における溶融粘度:9000ポアズ、溶融張力:0.7g)(以下、簡略に樹脂Bという)に着色成分としてTiOを27wt%添加した樹脂(260℃、剪断速度:100秒−1における溶融粘度:4000ポアズ、溶融張力:0.4g)を、それぞれ押出機を用いて樹脂Aを265℃、樹脂B(TiOを27wt%添加)を260℃加熱して溶融させた。次いで、2台の押出機に2個のマニフォルドが樹脂通路を介して連接し、それらのマニフォルドに隣接した個別に温度制御するヒータを設けたマルチマニフォルドダイのそれぞれのマニフォルドに、2層フィルムに製膜した後の樹脂Aの厚さと樹脂Bの厚さの比が1:3であり2層樹脂フィルムの厚さが16μmとなるように吐出量を調整して溶融樹脂Aおよび溶融樹脂Bを導いた。マルチマニフォルドダイの溶融樹脂Aが通る側と溶融樹脂Aが通る樹脂通路およびマニフォルド、およびマルチマニフォルドダイの溶融樹脂Bが通る側と溶融樹脂Bが通る樹脂通路およびマニフォルドはそれぞれに隣接するヒータでいずれも260℃に予め加熱しておき、溶融樹脂Aおよび溶融樹脂Bをそれぞれのマニフォルドを通過させた。この時、Tダイ直前の樹脂温度と剪断速度100秒−1における樹脂粘度は、樹脂A:265℃、約6500ポアズ、樹脂B+TiO:260℃、4000ポアズである。このようにして溶融樹脂Aと溶融樹脂Bを加熱した後、溶融樹脂Aと溶融樹脂Bをマニフォルドの合体部で合体させて積層し、マニフォルドの合体点からリップランドを経て70m/分の速度で吐出口から2層樹脂として吐出したところ、吐出樹脂は、耳揺れと脈動が発生し、長手方向の膜厚精度が7μm以上となった。吐出した後、吐出口の下方に設けた内部に水を循環させた冷却ロールに落下させて冷却固化し、幅約1mの2層樹脂フィルムとしてコイラーに巻き取った。
【0026】
(実施例1)
上記樹脂Aと、ポリエステル樹脂C(エチレンテレフタレート/エチレンイソフタレート共重合体(エチレンイソフタレート15モル%)をトリメリット酸(0.3モル%)で変性したもの、融点:215℃、固有粘度:0.8、温度260℃でかつ剪断速度:100秒−1における溶融粘度:8000ポアズ、溶融張力:1.2g)(以下、簡略に樹脂Cという)に、着色成分としてTiOを27wt%添加した樹脂(260℃、剪断速度:100秒−1における溶融粘度:4500ポアズ、溶融張力:0.65g)を、それぞれ押出機を用いて樹脂Aを265℃、樹脂C(TiOを27wt%添加)を260℃加熱して溶融させた。次いで、2台の押出機に2個のマニフォルドが樹脂通路を介して連接し、それらのマニフォルドに隣接した個別に温度制御するヒータを設けたマルチマニフォルドダイのそれぞれのマニフォルドに、2層フィルムに製膜した後の樹脂Aの厚さと樹脂C(TiOを27wt%含む)の厚さの比が1:3であり2層樹脂フィルムの厚さが16μmとなるように吐出量を調整して溶融樹脂Aおよび溶融樹脂Cを導いた。マルチマニフォルドダイの溶融樹脂Aが通る側と溶融樹脂Aが通る樹脂通路およびマニフォルドはそれに隣接するヒータで260℃に、マルチマニフォルドダイの溶融樹脂Aが通る側と溶融樹脂Cが通る樹脂通路およびマニフォルドはそれぞれに隣接するヒータで250℃に予め加熱しておき、溶融樹脂Aおよび溶融樹脂Cをそれぞれのマニフォルドを通過させた。この時、Tダイ直前の樹脂温度と剪断速度100秒−1における樹脂粘度は、樹脂A:265℃、約6500ポアズ、樹脂C+TiO:250℃、約5000ポアズである。このようにして溶融樹脂Aと溶融樹脂Cを加熱した後、溶融樹脂Aと溶融樹脂Cをマニフォルドの合体部で合体させて積層し、マニフォルドの合体点からリップランドを経て100m/分の速度で吐出口から2層樹脂として吐出したところ、吐出樹脂は脈動せず、フィルムの幅方向に耳は生じなかった。吐出した後、吐出口の下方に設けた内部に水を循環させた冷却ロールに落下させて冷却固化し、幅約1mの2層樹脂フィルムとしてコイラーに巻き取った。
【0027】
(実施例2)
上記樹脂Bに、着色成分としてTiOを27wt%添加した樹脂(260℃、剪断速度:100秒−1における溶融粘度:4000ポアズ、溶融張力:0.4g)と樹脂Cを、それぞれ押出機を用いて樹脂B(TiOを27wt%添加)を260℃、樹脂Cを270℃加熱して溶融させた。次いで、2台の押出機に2個のマニフォルドが樹脂通路を介して連接し、それらのマニフォルドに隣接した個別に温度制御するヒータを設けたマルチマニフォルドダイのそれぞれのマニフォルドに、2層フィルムに製膜した後の樹脂Cの厚さと樹脂B(TiOを27wt%含む)の厚さの比が1:2であり2層樹脂フィルムの厚さが16μmとなるように吐出量を調整して溶融樹脂Cおよび溶融樹脂Bを導いた。マルチマニフォルドダイの溶融樹脂Cが通る側と溶融樹脂Bが通る樹脂通路およびマニフォルドはそれに隣接するヒータで260℃に、マルチマニフォルドダイの溶融樹脂Cが通る側と溶融樹脂Bが通る樹脂通路およびマニフォルドはそれぞれに隣接するヒータで260℃に予め加熱しておき、溶融樹脂Cおよび溶融樹脂Bをそれぞれのマニフォルドを通過させた。この時、Tダイ直前の樹脂温度と剪断速度100秒−1における樹脂粘度は、樹脂C:268℃、約6300ポアズ、樹脂B+TiO:260℃、約4000ポアズである。このようにして溶融樹脂Cと溶融樹脂Bを加熱した後、溶融樹脂Cと溶融樹脂Bをマニフォルドの合体部で合体させて積層し、マニフォルドの合体点からリップランドを経て100m/分の速度で吐出口から2層樹脂として吐出したところ、吐出樹脂は脈動せず、フィルムの幅方向に耳は生じなかった。吐出した後、吐出口の下方に設けた内部に水を循環させた冷却ロールに落下させて冷却固化し、幅約1mの2層樹脂フィルムとしてコイラーに巻き取った。
【0028】
[特性評価]
上記のようにして作成した実施例1〜2、比較例1の樹脂フィルムの特性を、下記のように評価した。
<厚みムラ>
実施例1〜2、比較例1の樹脂フィルムを、製膜開始5分後の樹脂フィルムの長手方向の15mの部分で1m毎(16箇所)に全幅方向(約1m)の厚さを連続測定し、長さ方向16箇所の全幅方向で測定した全ての測定値の最大厚さと最小厚さの差を厚みムラとして求めた。
評価結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、少なくとも1種類の着色成分を含んだフィルムの着色成分を含有した樹脂の溶融張力:Tmが0.5g≦Tm<1.0gでかつ厚さが全厚さの2分の1以上、あるいはTm≧1.0gでかつ厚さが全厚さの3分の1以上であるか、または着色成分を含まないフィルムの溶融張力が1g以上で、かつ、厚さが全厚さの3分の1以上である多層樹脂フィルムを製膜した場合は、高速度で製膜しても脈動や耳発生が増大することがなく、得られた樹脂フィルムの厚みムラは極めて小さい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の多層樹脂フィルムを金属板に積層してなる樹脂被覆金属板は、絞り缶や絞りしごき缶への成形に適しており、絞り加工や絞りしごき加工を実施したり、缶上部の開口部のネックイン加工を実施しても、樹脂フィルムが金属板から剥離することがなく、また局所的に加工度が異なる部位がないので、絞り加工や絞りしごき加工において破胴したり、ネックイン加工においてクラッシュしたりすることがなく、安定して缶体に成形加工することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも着色成分を含有するポリエステル樹脂及び着色成分を含有しないポリエステル樹脂から構成される多層樹脂フィルムにおいて、前記着色成分を含有しないポリエステル樹脂が、押出温度における溶融張力Tmが1.0g≦Tmであり、且つ該着色成分を含有しないポリエステル樹脂から成るフィルムの厚さが全厚さの3分の1以上であることを特徴とする無延伸の多層樹脂フィルム。
【請求項2】
長さ方向の全幅方向で測定した最大厚さと最小厚さの差で表わされる厚みムラが、5.0μm以下であることを特徴とする、請求項1記載の多層樹脂フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の多層樹脂フィルムを金属板に積層してなる樹脂被覆金属板。
【請求項4】
押出温度における溶融張力Tmが1.0g≦Tmである着色成分を含有しないポリエステル樹脂及び着色成分を含有するポリエステル樹脂を少なくとも含む、2種類以上のポリエステル樹脂を、マルチマニフォルドダイを用いて、それぞれのマニフォルドに連続して設けられた押出機、それぞれのマニフォルド、およびそれぞれのマニフォルドに隣接するダイの部分のそれぞれの温度を制御し、溶融粘度の高い樹脂が通る押出機、マニフォルド、およびマニフォルドに隣接するダイの部分の温度を、溶融粘度の低い樹脂が通る押出機、マニフォルド、およびマニフォルドに隣接するダイの部分の温度より高温に保持して、着色成分を含有しないポリエステル樹脂から成るフィルムの厚さが全厚さの3分の1以上となるようにして、それぞれの溶融樹脂を積層して多層フィルムとすることを特徴とする、多層樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
隣接する樹脂層の溶融粘度の差が、20〜500秒−1の剪断速度において3000ポアズ以下となるように、温度制御することを特徴とする請求項4記載の多層樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
押出温度における溶融張力Tmが1.0g≦Tmである着色成分を含有しないポリエステル樹脂及び着色成分を含有するポリエステル樹脂を少なくとも含む、2種類以上のポリエステル樹脂を、マルチマニフォルドダイを用いて、それぞれのマニフォルドに連続して設けられた押出機、それぞれのマニフォルド、およびそれぞれのマニフォルドに隣接するダイの部分のそれぞれの温度を制御し、溶融粘度の高い樹脂が通る押出機、マニフォルド、およびマニフォルドに隣接するダイの部分の温度を、溶融粘度の低い樹脂が通る押出機、マニフォルド、およびマニフォルドに隣接するダイの部分の温度より高温に保持して、着色成分を含有しないポリエステル樹脂から成るフィルムの厚さが全厚さの3分の1以上となるようにして、それぞれの溶融樹脂を積層して多層化した後、金属板上に押出すことを特徴とする、樹脂被覆金属板の製造方法。
【請求項7】
隣接する樹脂層の溶融粘度の差が、20〜500秒−1の剪断速度において3000ポアズ以下となるように、温度制御することを特徴とする請求項6記載の樹脂被覆金属板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−149109(P2009−149109A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92400(P2009−92400)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【分割の表示】特願2003−386215(P2003−386215)の分割
【原出願日】平成15年11月17日(2003.11.17)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】