説明

多層管状物及びその製造方法

【課題】本発明が解決しようとする課題は、機械的強度が損なわれることなく熱伝導性が高められ、且つ、ポリイミド樹脂とフッ素樹脂とが強固に接着した多層管状物及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る多層管状物の製造方法では、ポリイミド前駆体溶液の吐出開口と、その吐出開口よりも上に設けられるフッ素樹脂分散液の吐出開口とを有する塗膜形成装置において、塗膜成形器の孔内を下から上に向かって相対移動する芯体に対するフッ素樹脂分散液の塗膜形成開始位置がポリイミド前駆体溶液の塗膜形成開始位置よりも上側に位置するようにポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂分散液とが重ねて芯体に塗布された後、ポリイミド前駆体がイミド化されると共にフッ素樹脂が被膜化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンター等の電子写真画像形成装置の部材などに好適に使用される多層管状物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリイミドは、耐熱性、機械的特性等に優れている。このため、ポリイミドは、種々の分野で使用されあるいは使用を検討されている。例えば、その1つにレーザープリンターや電子写真式複写機におけるトナー像の中間転写ベルト及びトナー画像の被写体(紙、厚紙、OHPシート等)への加熱定着用部材(定着ロール、定着ベルトまたは加圧ベルト)がある。近年、図1に示されるようなフィルム定着方式が主流であり、例えば、特許文献1に開示された方法や装置がよく利用されている。このフィルム定着方式では、薄膜のポリイミド管状物が用いられているため、電源を入れてから待ち時間なく印刷でき、消費電力が小さい。このため、このフィルム定着方式は、環境にやさしい定着方式として全世界の人々に受け入れられている。図1に示される定着装置は、主に、定着ベルト1と、定着ベルト1の内側に配置されるベルトガイド2と、ベルトガイド2の中央付近に配置されるセラミックヒーター3と、セラミックヒーター3上に設置されるサーミスタ5と、加圧ローラー4とを備える。そして、この定着装置では、定着ベルト1を介してセラミックヒーター3と圧接させた加圧ローラー4との間に、トナー像が形成された複写紙7が順次送り込まれると、トナーが加熱溶融させられて複写紙上に定着される。なお、図1において、符号9は定着されたトナーであり、符号6は加圧ローラーの芯金部であり、Nは定着ベルト1と加圧ローラー4とのニップ面である。
【0003】
また、加熱定着用部材は離型性に優れていることが必要であるが、ポリイミドはこの要求品質を満たしてはいない。そこで離型性を向上させるために種々の検討がなされてきた。例えば、特許文献2では、熱可塑性ポリイミド系チューブにフッ素系チューブを被せ、熱融着により一体化して、チューブ表面に離型性を付与している。しかし、このようなチューブはポリイミドが熱可塑性であるために、加熱定着用部材としては耐熱性や機械的強度(ヤング率等)が充分あるとは言い難いものであった。また、このようなチューブは、一般に他素材との接着性に乏しいフッ素系チューブを被せて熱可塑性ポリイミド系チューブとただ単に熱融着によって接着したものにすぎない。このため、このようなチューブを定着用部材として長期間使用すると、両チューブ間に剥離箇所が生じ、やがてフッ素系チューブが全面剥離するという問題があった。
【0004】
一方、特許文献3では、熱硬化性ポリイミドシームレス管状フィルムの上に、プライマー層を設け、さらにその上にフッ素樹脂層を設けている。そして、その製造方法では、円筒状金型を用いて3回の浸漬コーティングが実施されている。しかし、このようなチューブではプライマー層とフッ素樹脂層が設けられるため、その分、フィルムのトータル厚みが厚くなり、定着用部材として要求される熱伝導性が悪くなる(定着速度が遅くなる)。しかし、熱伝導性を上げるためにフィルムのトータル厚みを薄くすると、チューブは、機械的強度(ヤング率等)の劣ったものになる。即ち、熱伝導性と機械的強度のバランスがとれたチューブを得ることができない。更に上述したように、このようなチューブを製造するためには、3回もの浸漬、乾燥が必要となるため、工数がかさむのみならず、それぞれの管理が必要となる。
【0005】
【特許文献1】特開平6−258969号公報
【特許文献2】特開平5−212837号公報
【特許文献3】特開平7−178741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、機械的強度が損なわれることなく熱伝導性が高められ、且つ、ポリイミド樹脂とフッ素樹脂とが強固に接着した多層管状物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る多層管状物の製造方法は、重ね塗り工程、溶媒除去工程およびイミド化等工程を備える。重ね塗り工程では、塗膜形成装置が用いられる。この塗膜形成装置は、塗膜成形器、第1配送部および第2配送部を備える。塗膜成形器は、第1円筒壁および第2円筒壁を有する。なお、第1円筒壁及び第2円筒壁の内径は、円柱形又は円筒形の芯体が所定の隙間をもって通過できるように設計される。また、第1円筒壁及び第2円筒壁の内径は、いずれか一方が大きくなるように設計されている。また、ここにいう、「配送部」とは、加圧装置やポンプ等である。第1円筒壁は、開口を有する。なお、第1円筒壁において、開口は側壁の一部が除去されて形成されていてもよいし、側壁の全周に亘って均一に複数形成されていてもよい。第2円筒壁は、開口を有する。また、第2円筒壁は、軸が第1円筒壁の軸に沿うように第1円筒部の上側に配置される。第1配送部は、ポリイミド前駆体溶液が第1円筒壁の開口の外側から内側に吐出されるようにポリイミド前駆体溶液を第1円筒壁の開口に配送する。第2配送部は、フッ素樹脂分散液が第2円筒壁の開口の外側から内側に吐出されるようにフッ素樹脂分散液を第2円筒壁の開口に配送する。なお、配送部は、直接的に円筒壁の開口に配送してもよいし(例えば、液等貯留タンクから延びるパイプ等が直接円筒壁の開口に接続されている場合等)、液を円筒壁の開口の前等に設けられるプール部に一旦配送し、間接的に円筒壁の開口に配送してもよい。また、この重ね塗り工程では、芯体が塗膜成形器の孔内を下から上に向かって相対移動させられる。なお、芯体が塗膜成形器の孔内を下から上に向かって相対移動するとき、芯体は、第1円筒壁及び第2円筒壁の軸に沿って移動する。また、このように芯体を相対移動させる方法としては、塗膜成形器を固定し、芯体の軸端に取り付けられる吊紐を介して芯体を所定の速度で引き上げる方法や、芯体を固定し、塗膜成形器を所定の速度で芯体に沿って移動させる方法等が考えられる。そして、この重ね塗り工程では、塗膜形成装置において、芯体に対するフッ素樹脂分散液の塗膜形成開始位置がポリイミド前駆体溶液の塗膜形成開始位置よりも上側に位置するようにポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂分散液とが重ねて芯体に塗布される。なお、具体的には、第1円筒壁の開口と第2円筒壁の開口とが極めて近く芯体の相対移動速度が比較的高い場合、ポリイミド前駆体溶液の吐出開始タイミングをフッ素樹脂分散液の吐出開始タイミングよりも遅く設定すればよい。また、第1円筒壁の開口と第2円筒壁の開口とが比較的遠く芯体の相対移動速度が比較的高い場合や、第1円筒壁の開口と第2円筒壁の開口とが比較的近く芯体の相対移動速度が比較的低い場合、ポリイミド前駆体溶液の吐出開始タイミングをフッ素樹脂分散液の吐出開始タイミングと同時に設定してもよいしフッ素樹脂分散液の吐出開始タイミングよりも遅く設定してもよい。また、第1円筒壁の開口と第2円筒壁の開口とが比較的遠く芯体の相対移動速度が比較的低い場合、ポリイミド前駆体溶液の吐出開始タイミングとフッ素樹脂分散液の吐出開始タイミングとの先後はあまり問題とならない。つまり、ポリイミド前駆体溶液の吐出開始タイミング及びフッ素樹脂分散液の吐出開始タイミングは、第1円筒壁の開口と第2円筒壁の開口との距離、および芯体の相対移動速度に依存して決定されることになる。とにかく、本発明に係る多層管状物の製造方法の重ね塗り工程では、ポリイミド前駆体溶液の塗膜が第2円筒壁の開口に達した時点で、既にフッ素樹脂分散液が第2円筒壁の開口から吐出されていればそれでよい。溶媒除去工程では、ポリイミド前駆体溶液及びフッ素樹脂分散液から溶媒が除去される。イミド化等工程では、ポリイミド前駆体がイミド化されると共にフッ素樹脂が被膜化される。なお、本発明において、「被膜」とは、塗膜が乾燥又は/及び焼成されて形成された膜をいう。また、「塗膜」とは、液が塗布されて形成された液膜をいう。
【0008】
また、本発明においては、芯体の相対移動方向を逆転させるとともに、ポリイミド前駆体溶液を第2円筒壁の開口から吐出させ、フッ素樹脂分散液を第1円筒壁の開口から吐出させるようにしてもよい。なお、かかる場合、重ね塗り工程において、芯体に対するフッ素樹脂分散液の塗膜形成開始位置がポリイミド前駆体溶液の塗膜形成開始位置よりも下側に位置するようにポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂分散液とが重ねて芯体に塗布されることになる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る多層管状物の製造方法では、重ね塗り工程時、塗膜形成装置において、塗膜成形器の孔内を下から上に向かって相対移動する芯体に対するフッ素樹脂分散液の塗膜形成開始位置がポリイミド前駆体溶液の塗膜形成開始位置よりも上側に位置するようにポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂分散液とが重ねて芯体に塗布される。また、これとは逆に、重ね塗り工程時、塗膜成形器の孔内を上から下に向かって相対移動する芯体に対するフッ素樹脂分散液の塗膜形成開始位置がポリイミド前駆体溶液の塗膜形成開始位置よりも下側に位置するようにポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂分散液とが重ねて芯体に塗布される。つまり、本発明に係る多層管状物の製造方法では、前者の場合、塗膜形成開始時において、フッ素樹脂分散液とポリイミド前駆体溶液との両液が芯体に直接に塗布され、その後、芯体の相対上昇によりポリイミド前駆体溶液の塗膜が第2円筒壁の開口に達すると、フッ素樹脂分散液は芯体に直接ではなくポリイミド前駆体溶液の塗膜の上に塗布されることなる。一方、後者の場合、塗膜形成開始時において、フッ素樹脂分散液とポリイミド前駆体溶液との両液が芯体に直接に塗布され、その後、芯体の相対下降によりポリイミド前駆体溶液の塗膜が第1円筒壁の開口に達すると、フッ素樹脂分散液は芯体に直接ではなくポリイミド前駆体溶液の塗膜の上に塗布されることなる。つまり、この多層管状物の製造方法では、ポリイミド前駆体溶液の塗膜がフッ素樹脂分散液吐出側の開口に達したときにその開口からフッ素樹脂分散液が吐出された状態になっている。
【0010】
ところで、上記とは逆に、塗膜形成装置において、塗膜成形器の孔内を下から上に向かって相対移動する芯体に対するフッ素樹脂分散液の塗膜形成開始位置がポリイミド前駆体溶液の塗膜形成開始位置よりも下側に位置するようにポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂分散液とが重ねて芯体に塗布される場合、あるいは、塗膜成形器の孔内を上から下に向かって相対移動する芯体に対するフッ素樹脂分散液の塗膜形成開始位置がポリイミド前駆体溶液の塗膜形成開始位置よりも上側に位置するようにポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂分散液とが重ねて芯体に塗布される場合であってフッ素樹脂分散液吐出側の開口を有する円筒壁(前者の場合は第2円筒壁であり、後者の場合は第1円筒壁)の内径がポリイミド前駆体吐出側の開口を有する円筒壁(前者の場合は第1円筒壁であり、後者の場合は第2円筒壁)の内径よりも僅かに大きく設定されている場合、つまり、フッ素樹脂分散液の塗膜が非常に薄く塗布されるように設定されている場合、芯体に塗布されているポリイミド前駆体溶液の塗膜がフッ素樹脂分散液吐出側の開口に侵入しやすくなり、特にフッ素樹脂分散液の塗布開始時においてフッ素樹脂分散液の塗膜の厚みの制御が非常に難しくなる。これに対し、本発明に係る多層管状物の製造方法では、上述したように、ポリイミド前駆体溶液の塗膜がフッ素樹脂分散液吐出側の開口に達したときに、その開口から既にフッ素樹脂分散液が吐出された状態になっており、ポリイミド前駆体溶液の塗膜のフッ素樹脂分散液吐出側の開口への侵入が防止されている。このため、この多層管状物の製造方法では、上述したようにフッ素樹脂分散液の塗膜が非常に薄く塗布されるように設定されている場合であっても、フッ素樹脂分散液の塗膜の厚みを精度よく制御することができる。例えば、焼成後のフッ素樹脂被膜が3μm以上10μm以下の非常に薄い膜厚であっても精度よく制御することが可能となる。したがって、この多層管状物の製造方法を利用すれば、最終的に完成した多層管状物におけるフッ素樹脂被膜の厚みを薄く均一にすることができ、引いてはその多層管状物の機械的強度を損なうことなく熱伝導性を高めることができる。
【0011】
また、本発明に係る多層管状物は、ポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂分散液とが液状態で重ねて塗布された後、溶媒が除去され、ポリイミド前駆体のイミド化とフッ素樹脂の被膜化が同時に行われることによって得られる。このため、ポリイミドとフッ素樹脂とは、強固に一体化しており、実用上、フッ素樹脂層の剥離等の問題は皆無である。したがって、本発明の多層管状物は、電子写真画像形成装置の部材などに好適に使用することができる。
また、本発明に係る多層ポリイミド管状物の製造方法では、プライマー層等を形成する必要がなく、重ね塗り工程、溶媒除去工程およびイミド化等工程のみを経て多層管状物を製造するのであれば、従来の製造方法よりも加工工程を大幅に簡略化、短縮化することができる。また、この多層管状物の製造方法では、常に新しい液を芯体に重ね塗りすることができ、液の異物や気泡などの混入がなく、高い歩留まりで高品質の多層管状物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ここでは、本発明の実施の形態について説明する。図2には、本発明の一実施形態に係る多層管状物の断面図を示す。この多層管状物30は、2層構造を有する多層管状物であって、ポリイミド樹脂層31及びフッ素樹脂層32とから構成されている。
【0013】
本発明の実施の形態に係る多層管状物30において、ポリイミド樹脂層は微粒子を含むことが好ましい。微粒子の添加によって多層管状物30に新たな特性を付加できるからである。なお、微粒子は導電性微粒子、熱伝導性微粒子及びフッ素樹脂微粒子より成る群から選ばれる少なくとも1つの微粒子であることが好ましい。
【0014】
例えば、多層管状物30を中間転写ベルト等として用いる場合、導電性微粒子をポリイミド樹脂層31に添加するのが好ましい。導電性微粒子の添加によって半導電性領域の表面抵抗率や体積抵抗率等の精密な電気特性を調整できるからである。導電性微粒子としてはカーボンブラック、カーボンナノファイバー、グラファイト、金属粉末、ニッケルファイバーなどの微粒子を用いることができる。
【0015】
また、例えば、多層管状物30を定着ベルト等として用いる場合、窒化硼素などの熱伝導性微粒子をポリイミド樹脂層31に添加するのが好ましい。フィルム定着装置(図1参照)において複写紙上に形成されたトナー像を高速で熱定着するためにはセラミックヒーターの発熱量を効率よくトナーの定着に伝える必要があるが、そのためには、定着ベルトの熱伝導率は高い方が好ましいからである。なお、このような熱伝導性微粒子としては、無機微粒子が好ましく、例えば、窒化硼素、アルミナ、炭化ケイ素、チタン酸カリウム、窒化アルミ、マイカ、シリカ、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。これらの中でも、窒化硼素、アルミナ、炭化ケイ素、窒化アルミはより好ましい熱伝導性微粒子である。
【0016】
なお、熱伝導性微粒子の含有量は、通常10重量%以上60重量%以下、好ましくは20重量%以上50重量%以下である。この範囲であると、機械的特性を低下させることなく熱伝導性を改善できる。なお、熱伝導性微粒子の平均粒子径は、1μm以上20μm以下の範囲内であり、好ましくは5μm以上15μm以下の範囲内である。
【0017】
また、図3に示す塗膜成形装置では、成形ダイスのサイズを変更することにより多層管状物30の各層の被膜厚みを自由に選択することができる。このため、この塗膜成形装置を用いれば、多層管状物30の特性に強弱をつけることができる。ポリイミド樹脂層の厚みは3μm以上500μm以下の範囲内であることが好ましく、10μm以上100μm以下の範囲内であることがより好ましく、40μm以上70μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。フッ素樹脂層の厚みは3μm以上50μm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5μm以上10μm以下の範囲内である。
【0018】
また、本発明の実施の形態に係る多層管状物30の内径は、特に限定されるものではないが、0.1mm以上1,000mm以下の範囲内であることが好ましい。電子写真画像形成装置の部材として用いられる多層管状物は内径が10mm以上500mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0019】
次に、本発明の実施の形態に係る多層管状物30では、ポリイミド樹脂層が芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で重合させた結果得られるポリイミド前駆体をイミド化したものであることが好ましい。なお、ポリイミド前駆体溶液を利用すれば、微粒子を均一に分散できるだけでなく、粘度や固形分濃度の調整により各ポリイミド樹脂層の厚みを幅広く設定でき、さらに、常温で液状成形でき、且つ比較的コンパクトな設備で成形が可能である。
【0020】
ポリイミド前駆体溶液は、略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で反応させて得ることができる。芳香族テトラカルボン酸二無水物の代表例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物や9,9−ビス[4−(3,4’−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物等が挙げられる。また、これらをメタノール、エタノールなどアルコール類と反応させてエステル化合物としてもよい。
【0021】
また、芳香族ジアミンの代表例としては、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等の芳香族ジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン等の脂環式ジアミン等が挙げられる。
これら芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンは、単独であるいは混合して使用することができる。また、ポリイミド前駆体溶液まで完成させてそれらのポリイミド前駆体溶液を混合して使用することもできる。また、化学イミド化剤等を用いてイミド化されていてもよい。
【0022】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを溶解させる有機極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、ピリジン、ジメチルテトラメチレンスルホン、テトラメチレンスルホン、γーブチロラクトン等が挙げられる。なお、これらの溶媒は、単独で使用されてもよいし混合されて使用されてもよい。
【0023】
ポリイミド前駆体溶液は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で通常は90度C以下で反応させることによって得られ、溶媒中の固形分濃度は、製造する多層ポリイミド管状物の仕様や加工条件によって設定されるが、通常は10重量%以上50重量%以下の範囲内である。
【0024】
また、有機極性溶媒中で芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させると、その重合状況によって溶液の粘度が上昇するが、使用に際しては希釈により所定の粘度に調整して使用することができる。製造条件や作業条件によって異なるが、通常1ポイズ以上10,000ポイズ以下の粘度で使用される。本発明の実施の形態では重ね塗りして成形するためポリイミド前駆体溶液の粘度は200ポイズ以上5,000ポイズ以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは400ポイズ以上4,000ポイズ以下の範囲内である。また、ポリイミド前駆体溶液の粘度は、フッ素樹脂分散液の粘度よりも高いことが好ましい。
【0025】
本発明の実施の形態に係る多層管状物30において、フッ素樹脂層32は、フッ素樹脂分散液のフッ素樹脂が被膜化されたものであることが好ましい。フッ素樹脂としては、とくに限定されるものではないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。本発明の多層管状物30を定着ベルト等として使用する場合、フッ素樹脂層は、未定着のトナーを除去しやすく、溶融したトナーのベルト表面への付着(オフセット)を防止する働きをする。なお、これらのフッ素樹脂は単体で使用されてもよいし混合されて使用されてもよい。
【0026】
例えば、多層管状物30を中間転写ベルト等として用いる場合、導電性微粒子をフッ素樹脂層32に添加するのが好ましい。導電性微粒子の添加によって半導電性領域の表面抵抗率や体積抵抗率等の精密な電気特性を調整できるからである。導電性微粒子としてはカーボンブラック、カーボンナノファイバー、グラファイト、金属粉末、ニッケルファイバーなどの微粒子を用いることができる。
【0027】
また、例えば、多層管状物30を定着ベルト等として用いる場合、熱伝導性向上のために窒化硼素などの微粒子や、耐磨耗性向上のためにウイスカー形状の微粒子をフッ素樹脂層32に添加してもよい。フィルム定着装置(図1参照)では複写紙上に形成されたトナー像を高速で熱定着するためにはセラミックヒーターの発熱量を効率よくトナーの定着に伝える必要があるが、そのためには、定着ベルトの熱伝導率は高い方が好ましいからである。また、種々の複写紙(紙、厚紙、OHPシート等)の連続通紙によっても画像が劣化するが、この劣化を防止するためには、定着ベルト、とくにフッ素樹脂層の耐磨耗性は高い方が好ましいからである。なお、このような微粒子としては、無機微粒子が好ましく、例えば、窒化硼素、アルミナ、炭化ケイ素、チタン酸カリウム、窒化アルミ、マイカ、シリカ、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。これらの中でも、窒化硼素、アルミナ、炭化ケイ素、窒化アルミはより好ましい熱伝導性微粒子である。
【0028】
なお、微粒子の含有量は、通常10重量%以上60重量%以下の範囲内、好ましくは20重量%以上50重量%以下の範囲内である。この範囲内であると、フッ素樹脂層の非粘着性を低下させることなく種々の物性を改善できる。なお微粒子の平均粒子径は、1μm以上20μm以下の範囲内であり、好ましくは5μm以上15μm以下の範囲内である。
【0029】
フッ素樹脂分散液を利用すれば、粘度や固形分濃度の調整によりフッ素樹脂層の厚みを幅広く設定でき、さらに、常温で液状成形できる。また、フッ素樹脂分散液は、フッ素樹脂層に新しい機能を付与するための種々の性能を有する微粒子を添加しやすく好ましい。
【0030】
フッ素樹脂は、平均粒子径が0.1μm以上15μm以下の粒子であることが好ましい。この範囲内であると、焼成によって被膜化されたフッ素樹脂に、クラックが入りにくく、また表面粗度が高くなりすぎずに好ましい。また、被膜の形成しやすさの点で、平均粒子径は、バイモダル(二並数)又はマルチモダル(多並数)であることがより好ましい。
【0031】
フッ素樹脂分散液は、被膜の形成しやすさの点で、フッ素樹脂の熱分解温度よりも低い温度で揮散又は熱分解する樹脂を添加しておくことが好ましい。なぜなら、フッ素樹脂分散液を乾燥・焼成するとき、フッ素樹脂粒子への結着(バインダー)硬化を維持しながら徐々に分解して収縮による被膜のひび割れを防止するからである。
【0032】
フッ素樹脂分散液の分散溶媒は、フッ素樹脂を分散できるものであれば、とくに限定されるものではないが、ポリイミド前駆体溶液との重ね塗りをするため、ポリイミド前駆体に対して溶解力の高い溶媒であることが好ましい。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、ピリジン、ジメチルテトラメチレンスルホン、テトラメチレンスルホン、γーブチロラクトン等が挙げられる。なお、これらの溶媒は、単独で使用されてもよいし混合されて使用されてもよい。
【0033】
フッ素樹脂分散液は、使用に際しては希釈により所定の粘度に調整して使用することができる。製造条件や作業条件によって異なるが、通常1ポイズ以上10,000ポイズ以下の粘度で使用される。本発明の実施の形態では重ね塗りして成形するためフッ素樹脂分散液の粘度は200ポイズ以上5,000ポイズ以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは400ポイズ以上4,000ポイズ以下の範囲内である。また、フッ素樹脂分散液の粘度は、ポリイミド前駆体溶液の粘度よりも低いことが好ましい。
【0034】
そして、本発明の実施の形態に係る多層管状物30は、主に、ポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂分散液とを重ね塗りする重ね塗り工程と、ポリイミド前駆体溶液及びフッ素樹脂分散液から溶媒を除去する溶媒除去工程と、イミド化及びフッ素樹脂の被膜化を行うイミド化等工程とを経て製造される。重ね塗り工程では、円柱形または円筒形の芯体の外面にポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂分散液とが重ねて塗布される。また、溶媒除去工程では、加熱等によりポリイミド前駆体溶液及びフッ素樹脂分散液からある程度の量の溶媒が除去される。イミド化等工程では、ポリイミド前駆体がイミド化されると共にフッ素樹脂が被膜化される。このような製造方法では、ポリイミド前駆体溶液の芯体への塗布が一回で済むため熱効率を高めることができると共に処理時間を短縮することができ、品質の高い多層管状物が作製される。なお、溶媒除去工程では、すべての溶媒が除去されている必要はない。
【0035】
このような製造方法を実施するのに、成形ダイスを重ねて落下させる方法や、円筒状芯体の外面あるいは内面にディスペンサーやスプレー装置などを用いて重ねて塗布する方法、図3に示されるような塗膜成形装置50を用いる方法などが挙げられるが、図3に示されるような塗膜成形装置50を用いることが特に好ましい。
【0036】
この塗膜成形装置50は、図3に示されるように、主に、第1塗膜成形ダイス54、第2塗膜成形ダイス55、第1加圧タンク58、第2加圧タンク59、第1バルブ60、第2バルブ61、第1主管、第2主管、第1分配管62、第2分配管63、第1分配器64、第2分配器65、第1加圧バルブ68、及び第2加圧バルブ69から構成される。
【0037】
第1塗膜成形ダイス54は、中空の円筒成形体である。また、第2塗膜成形ダイス55は、第1塗膜成形ダイス54と同様に中空の円筒成形体である。なお、塗膜成形ダイス54,55の内径は、目的とする多層管状物の内径や厚みの仕様により決定される。なお、その際、芯体の外径、芯体の引き上げ速度、ポリイミド前駆体溶液56およびフッ素樹脂分散液57の粘度あるいはスリット開口66,67からの吐出速度などを考慮する必要がある。また、第2塗膜成形ダイス55は、軸が第1塗膜成形ダイス54の軸と沿うように第1塗膜成形ダイス54の上側に近接して配置される。なお、第1塗膜成形ダイス54及び第2塗膜成形ダイス55には、内周壁に所定の間隙で全周に渡ってスリット開口66,67が複数形成されている。このようにスリット開口66,67を形成すると、円周方向の吐出むらがなく、均一な厚さの液成形層を形成できるからである。また、スリット開口66,67の幅は、0.5mm以上5mm以下の範囲内であることが好ましい。また、第1塗膜成形ダイス54及び第2塗膜成形ダイス55には外周壁に少なくとも1つ以上の液投入口が形成されており、その液投入口には複数の分配管62,63が接続される。
【0038】
第1加圧タンク58及び第2加圧タンク59は、ポリイミド前駆体溶液56、フッ素樹脂分散液57を貯蔵するための貯蔵容器である。そして、これらの加圧タンク58,59には、それぞれの上蓋に加圧バルブ68,69が取り付けられており、また、それぞれの下方にバルブ60,61が取り付けられている。
【0039】
第1加圧バルブ68及び第2加圧バルブ69には加圧空気ボンベ等が取り付けられており、第1加圧バルブ68及び第2加圧バルブ69が開状態となると、加圧タンク58,59内部が加圧される。なお、このとき、バルブ60,61が開状態となっていると、第1加圧タンク58に貯蔵されるポリイミド前駆体溶液56が塗膜成形ダイス54の中空空間に、第2加圧タンク59に貯蔵されるフッ素樹脂分散液57が塗膜成形ダイス55の中空空間に送出される。
【0040】
第1バルブ60及び第2バルブ61は、開閉式の電動弁である。なお、これらのバルブ60,61は図示しないタイミング制御装置に通信接続されており、このタイミング制御装置の運転開始ボタンが押されると、先ず、第2バルブ61が開状態となり、その後所定時間が経過した後に第1バルブ60が開状態となる。
【0041】
第1分配器62及び第2分配器63は1つの入口と複数の出口を有しており、その入口には主管が接続され、出口には分配管62,63が接続される。つまり、この分配器62,63は、加圧タンク68,69から主管を通って配送されるポリイミド前駆体溶液56、フッ素樹脂分散液57を複数経路に分配する役割を担う。
【0042】
つまり、第1加圧バルブ68及び第2加圧バルブ69が開いた状態でタイミング制御装置の運転開始ボタンが押されると、フッ素樹脂分散液57が第2分配器65により複数の経路に分配された後、第2塗膜成形ダイス55に供給され、スリット開口部67から吐出される。そして、少し遅れて、ポリイミド前駆体溶液56が第1分配器64により複数の経路に分配された後、第1塗膜成形ダイス54に供給され、スリット開口部66から吐出される。
【0043】
次に塗膜成形過程を説明する。塗膜成形装置50の塗膜成形ダイス54,55の内側に、吊紐70を通し、塗膜成形ダイス54,55の下側に配置された芯体51の上端部に吊紐を固定する。そして、その吊紐70を駆動モーター(図示せず)に結び、芯体51を所定の速度で引き上げることができるようにする。そして、第1加圧バルブ68及び第2加圧バルブ69を開いて、各加圧タンク58,59中に加圧空気を送り込み、タイミング制御装置の運転開始ボタンを押す。すると、先ず、第2バルブ61が開状態となり、フッ素樹脂分散液57が第2塗膜形成ダイス55のスリット開口67から吐出される。そして、これと同時に芯体51を所定の速度で引き上げると、芯体51の外面にフッ素樹脂分散液57が形成される。なお、このとき、フッ素樹脂分散液57の吐出量及び芯体51の引き上げ速度の少なくとも一方を制御すると、フッ素樹脂分散液57を一定の厚みで液成形することができる。そして、第2バルブ61が開状態になってから少し経過した後、第1バルブ60が開状態となり、ポリイミド前駆体溶液56が第1塗膜形成ダイス54のスリット開口66から吐出される。このようにすると、第2塗膜成形ダイス55のスリット開口67へのポリイミド前駆体溶液塗膜52の侵入を防ぐことができる。このため、第2塗膜成形ダイス55の内円筒空間の半径が第1塗膜成形ダイス54の内円筒空間の半径よりも僅かに大きくされている場合、つまり、フッ素樹脂分散液57の塗膜が非常に薄く塗布されるように設定されている場合であっても、フッ素樹脂分散液塗膜53の厚みを精度よく制御することができる。そして、このようにして、ポリイミド前駆体溶液塗膜52の上にフッ素樹脂分散液塗膜53が形成される。つまり、この塗膜成形装置50では、ポリイミド前駆体溶液56により多層管状物30のポリイミド樹脂層31(内層)が形成され、フッ素樹脂分散液57により多層管状物30のフッ素樹脂層32(外層)が形成されることになる。なお、このとき、ポリイミド前駆体溶液56の吐出量及び芯体51の引き上げ速度の少なくとも一方を制御すると、ポリイミド前駆体溶液56を一定の厚みで液成形することができる。なお、好ましい実施の形態では、スリット開口66,67から一定量のポリイミド前駆体溶液56およびフッ素樹脂分散液57を吐出させると共に、芯体51の引き上げ速度を逐次制御する。このようにすれば、ポリイミド前駆体溶液塗膜52およびフッ素樹脂分散液塗膜53の厚みを精度よく一定とすることができる。最後に、第2バルブ61が閉状態となり、第2塗膜形成ダイス55のスリット開口67からのフッ素樹脂分散液57の吐出が停止される。そして、第2バルブ61が閉状態になってから少し経過した後、第1バルブ60が閉状態となり、第1塗膜成形ダイス54のスリット開口66からのポリイミド前駆体溶液56の吐出が停止される。このようにすれば、終端部分において芯体51にフッ素樹脂分散液57が直接に塗布されることがない。このため、イミド化等工程では、終端部分にフッ素樹脂の薄膜塗膜ができずガス抜けがよくなり、最終的に芯体51から多層管状物30を分離しやすくなる。
【0044】
なお、このような塗膜成形では、スリット開口66,67から吐出される液の粘度及び吐出力により、芯体51に自動調芯的な応力が加わるため、塗膜を均一な厚みに成形することができる。
【0045】
また、上記とは逆に、芯体51の移動方向を逆転させるとともに、ポリイミド前駆体溶液56を第2加圧タンク59に投入して第2塗膜成形ダイス55のスリット開口67から吐出させ、フッ素樹脂分散液を第1加圧タンク58に投入して第1塗膜成形ダイス54のスリット開口66から吐出させるようにしてもよい。なお、かかる場合、タイミング制御装置は、先ず、第1バルブ60を開状態とし、第1バルブ60が開状態になってから少し経過した後に第2バルブ61が開状態となるように制御することになる。
【0046】
なお、本発明の実施の形態で使用される芯体51は、イミド化のための加熱に耐えられる耐熱性を有していれば特に限定されるものではない。金属としては、加工性および芯体の寸法精度などから判断して好ましいものを使用すればよい。また、芯体外面は離型剤で覆われていることが好ましい。離型剤とは、例えば、セラミックスコーティング、フッ素樹脂コーティング、シリコーンコーティング等である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る多層管状物の製造方法は、従来の多層管状物と同等の機械的強度、従来の多層管状物よりも高い熱伝導性、従来の多層管状物と同等またはそれ以上の界面接着性を有する新規の多層管状物を製造することができるという特徴を有しており、フィルム定着装置に用いる定着フィルムや転写ベルトなどを製造する方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】レーザービームプリンターのフィルム定着装置の模式的部分断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る多層管状物の模式的部分断面図である。
【図3】本発明に係る塗膜成形装置の模式的概略図である。
【符号の説明】
【0049】
30 多層管状物
31 ポリイミド樹脂層
32 フッ素樹脂層
50 塗膜成形装置
51 芯体
52 ポリイミド前駆体溶液塗膜
53 フッ素樹脂分散液塗膜
54 第1塗膜成形ダイス
55 第2塗膜成形ダイス
56 ポリイミド前駆体溶液
57 フッ素樹脂分散液
58 第1加圧タンク
59 第2加圧タンク
64 第1分配器
65 第2分配器
66 第1スリット開口
67 第2スリット開口
70 吊紐
Y 芯体の引き上げ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する第1円筒壁と、開口を有し軸が前記第1円筒壁の軸に沿うように前記第1円筒部の上側に配置される第2円筒壁とを有する塗膜成形器と、ポリイミド前駆体溶液が前記第1円筒壁の開口の外側から内側に吐出されるように前記ポリイミド前駆体溶液を前記第1円筒壁の開口に配送する第1配送部と、フッ素樹脂分散液が前記第2円筒壁の開口の外側から内側に吐出されるように前記フッ素樹脂分散液を前記第2円筒壁の開口に配送する第2配送部とを備える塗膜形成装置において、前記塗膜成形器の孔内を下から上に向かって相対移動する芯体に対する前記フッ素樹脂分散液の塗膜形成開始位置が前記ポリイミド前駆体溶液の塗膜形成開始位置よりも上側に位置するように前記ポリイミド前駆体溶液と前記フッ素樹脂分散液とを重ねて前記芯体に塗布する重ね塗り工程と、
前記ポリイミド前駆体溶液及び前記フッ素樹脂分散液から溶媒を除去する溶媒除去工程と、前記ポリイミド前駆体をイミド化すると共に前記フッ素樹脂を被膜化するイミド化等工程とを備える多層管状物の製造方法。
【請求項2】
開口を有する第1円筒壁と、開口を有し軸が前記第1円筒壁の軸に沿うように前記第1円筒部の上側に配置される第2円筒壁とを有する塗膜成形器と、フッ素樹脂分散液が前記第1円筒壁の開口の外側から内側に吐出されるように前記フッ素樹脂分散液を前記第1円筒壁の開口に配送する第1配送部と、ポリイミド前駆体溶液が前記第2円筒壁の開口の外側から内側に吐出されるように前記ポリイミド前駆体溶液を前記第2円筒壁の開口に配送する第2配送部とを備える塗膜形成装置において、前記塗膜成形器の孔内を上から下に向かって相対移動する芯体に対する前記フッ素樹脂分散液の塗膜形成開始位置が前記ポリイミド前駆体溶液の塗膜形成開始位置よりも下側に位置するように前記ポリイミド前駆体溶液と前記フッ素樹脂分散液とを重ねて前記芯体に塗布する重ね塗り工程と、
前記ポリイミド前駆体溶液及び前記フッ素樹脂分散液から溶媒を除去する溶媒除去工程と、前記ポリイミド前駆体をイミド化すると共に前記フッ素樹脂を被膜化するイミド化等工程とを備える多層管状物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多層管状物の製造方法により得られた多層管状物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−110684(P2010−110684A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284784(P2008−284784)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】