説明

多段式加熱装置

【課題】タクトタイムの大幅な短縮化が図り得ると共に、熱効率及び熱経済を大きく向上することができる多段式加熱装置を提供する。
【解決手段】盤状で、表裏両面から熱放射が可能な複数のプレート型ヒーター1と、これら複数のプレート型ヒーター1の外周部を取り囲む包囲部材11であって、複数のプレート型ヒーター1を上下方向に間隔を置いて平行又は略平行に多段に配置すると共に、各プレート型ヒーター1をその周辺部において支持することにより、上下に隣接するプレート型ヒーター1,1の対向面間に加熱処理室14を形成する包囲部材11と、加熱処理室14へ被加熱物を出し入れする出し入れ用開口12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体製造工程において半導体基板を加熱したり、LCDの製造工程においてガラス基板を加熱したりする場合等に好適に用いられる多段式加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板等の加熱に用いられる加熱装置として、従来、基板等の被加熱物の加熱処理室の底部にセサプタを配置すると共に、このセサプタの上部の加熱処理室内に加熱ランプを設けた構成の加熱装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の加熱装置は、真空搬送機等の搬送手段により被加熱物を1つずつ加熱処理室内に搬入してセサプタ上に載置し、加熱ランプからの輻射熱の一部によりセサプタ上に載置の被加熱物の上面部を加熱すると共に、加熱ランプからの輻射熱の残りの部分によりセサプタを加熱して、被加熱物の下面部をセサプタからの熱伝導によって加熱する。そして、加熱終了後、特許文献1に記載の加熱装置は、被加熱物を加熱処理室の外部に搬出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−260433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の加熱装置は、基板等の被加熱物を1つずつ加熱処理室内に搬入して加熱するものであるから、1つの被加熱物毎に、加熱昇温時間が必要であるのみならず、搬入搬出のための搬送時間も必要である。そのため、被加熱物に対する加熱時間(タクトタイム)が長くなり、生産性の向上にも自ずと限界がある。また、1つの被加熱物毎に、加熱昇温しなければならないために、被加熱物の入れ換え毎に熱エネルギーロスが発生し、熱効率、熱経済の面でも好ましいものでなかった。
【0006】
本発明は、タクトタイムの大幅な短縮化が図り得ると共に、熱効率及び熱経済を大きく向上することができる多段式加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、盤状で、表裏両面から熱放射が可能な複数のプレート型ヒーターと、前記複数のプレート型ヒーターの外周部を取り囲む包囲部材であって、前記複数のプレート型ヒーターを上下方向に間隔を置いて平行又は略平行に多段に配置すると共に、各前記プレート型ヒーターをその周辺部において支持することにより、上下に隣接する前記プレート型ヒーターの対向面間に加熱処理室を形成する包囲部材と、前記加熱処理室へ被加熱物を出し入れする出し入れ用開口と、を備える多段式加熱装置に関する。
【0008】
前記各プレート型ヒーターは、エネルギーを放出する1又は複数のエネルギー発生体と、前記エネルギー発生体を包囲するように配置される加熱板部材であって、前記エネルギー発生体から放出されるエネルギーを吸収して発熱し、表裏両面の全域へ熱伝達すると共に、表裏両面から外部に向けて熱放射する黒体材料からなる加熱板部材と、から構成されていることが好ましい。
【0009】
また、前記各プレート型ヒーターにおける前記加熱板部材は、カーボン、Si、SiC又はSiを含む黒体材料から形成されており、前記加熱板部材の表裏両面に、前記加熱板部材からの放出ガスを封じ込めるコーティング層が形成されていることが好ましい。
【0010】
更に、前記各プレート型ヒーターにおける前記加熱板部材の内部に、前記エネルギー発生体を冷却するための不活性ガスを流動させるガス導入路が、設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タクトタイムの大幅な短縮化が図り得ると共に、熱効率及び熱経済を大きく向上することができる多段式加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る多段式加熱装置10の全体斜視図である。
【図2】多段式加熱装置10の包囲部材11の一部を取り外した状態の斜視図である。
【図3】多段式加熱装置10の内部構造を示す正面図である。
【図4】多段式加熱装置10におけるプレート型ヒーター1の外観を示し、(A)は平面図、(B)は側面図、(C)は正面図である。
【図5】図4に示すX−X線に沿った拡大断面図である。
【図6】図4に示すY−Y線に沿った拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
図1から図3を参照して、本実施形態に係る多段式加熱装置10の全体構造を説明する。図1は、本実施形態に係る多段式加熱装置10の全体斜視図である。図2は、多段式加熱装置10の包囲部材11の一部を取り外した状態の斜視図である。図3は、多段式加熱装置10の内部構造を示す正面図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、多段式加熱装置10は、盤状で、表裏両面から熱放射が可能な複数のプレート型ヒーター1と、これら複数のプレート型ヒーター1の全外周部を取り囲む筺状の包囲部材11と、被加熱物の出し入れ用開口12と、を備える。
【0015】
6つのプレート型ヒーター1を、図3に示すように、上下方向に間隔を置いて平行に多段に配置すると共に、各プレート型ヒーター1を、それらの周辺部において脚部材13を介して支持する。これにより、上下に隣接するプレート型ヒーター1,1の対向面間に、それぞれ加熱処理室14が形成される。プレート型ヒーター1の構成については後述する。
【0016】
筺状の包囲部材11は、図1及び図2に示すように、多段に積み重ね配置されたプレート型ヒーター1の全外周部を取り囲むことにより、上下に複数の加熱処理室14の周囲を包囲する。筺状の包囲部材11は、例えば、SUSの反射板から構成されている。このように構成されることで、包囲部材11は、プレート型ヒーター1から加熱処理室14に向けて放射される熱エネルギーの外部への漏れ出しを防ぐと共に、周辺へ放射される熱エネルギーを加熱処理室14側に反射させる熱反射機能を有する。
【0017】
また、各加熱処理室14には、各加熱処理室14の加熱温度を個別に制御可能とするための熱電対15が設けられている。
また、被加熱物の出し入れ用開口12は、筺状の包囲部材11の前面板部材16を着脱自在に構成することにより、開閉可能とされている。
【0018】
次に、図4から図6を参照して、本実施形態に係る多段式加熱装置10におけるプレート型ヒーター1の具体的な構造について説明する。図4は、プレート型ヒーター1の外観を示し、(A)は平面図、(B)は側面図、(C)は正面図である。図5は、図4に示すX−X線に沿った拡大断面図である。図6は、図4に示すY−Y線に沿った拡大断面図である。
【0019】
図4及び図5に示すように、本実施形態のプレート型ヒーター1は、光エネルギーを放出するエネルギー放出体としての複数のランプ2と、複数のランプ2の略全周を包囲するように配置される盤状加熱板部材3と、盤状加熱板部材3の表面に被覆されるコーティング層4と、を備える。
【0020】
ランプ2は、8つの管状のランプであって、同一水平面内に所定の等間隔で互いに平行に並列して、配置されている。各ランプ2は、同一の長さを有する。ランプ2の長さ方向の両端部は、細径部2aを形成している。
複数のランプ2の発光は、それぞれ独立して制御されることが好ましい。
【0021】
盤状加熱板部材3は、8つのランプ2の上方部領域を覆う上部加熱板部材3Aと、8つのランプ2の下方部領域を覆う下部加熱板部材3Bと、を有する。上部加熱板部材3Aの下面部及び下部加熱板部材3Bの上面部には、断面視で半円状の下向き凹溝5A及び上向き凹溝5Bが形成されている。
上部加熱板部材3Aの下向き凹溝5Aと下部加熱板部材3Bの上向き凹溝5Bとの間にランプ2を収容すると共に、支持部材(不図示)を介して各ランプ2の両端の細径部2aを盤状加熱板部材3に支持させる。
【0022】
上述のようにランプ2を収容し、両端の細径部2aを支持した状態で、盤状加熱板部材3の周辺部の複数個所において、上部加熱板部材3Aと下部加熱板部材3Bとは、図6に示すように、SiC(炭化ケイ素)又はセラミック材料製の連結ボルト6と下部加熱板部材3Bに形成された雌ネジとにより固定されて、連結されている。なお、図面上では、連結ボルト6が設けられるのは、6箇所であるが、角部の4箇所でもよく、8箇所でもよい。
【0023】
盤状加熱板部材3は、例えば、カーボン、Si(シリコン=ケイ素)、SiC又はSiを含む黒体材料から形成されている。黒体材料からなる盤状加熱板部材3は、ランプ2から放出される光エネルギーを吸収して発熱し、上部加熱板部材3Aの表面及び下部加熱板部材3Bの裏面の全域へ熱伝達すると共に、表裏両面から外部に向けて熱放射する。
【0024】
コーティング層4は、盤状加熱板部材3における上部加熱板部材3Aの下向き凹溝5Aの内面を含む全表面、及び、下部加熱板部材3Bの上向き凹溝5Bの内面を含む全表面に被覆されて、形成されている。コーティング層4は、石英ガラス(SiO)コーティング層であって、盤状加熱板部材3の表裏両面から放出される放出ガスを封じ込める。例えば、盤状加熱板部材3がカーボンやSiCで形成されている場合において、盤状加熱板部材3が炭素の共有結合温度以上に加熱昇温したときには、炭素結合(C−C結合)が切れて、炭素ガスを放出することになるが、ガラスコーティング層4は炭素ガスの外部への放出を防止する。
なお、コーティング層4は、窒化アルミコーティング層であってもよい。
【0025】
また、図5に示すように、盤状加熱板部材3の内部には、ガス導入路7が設けられている。ガス導入路7は、ランプ2の外側の空間であって、上部加熱板部材3Aの下向き凹溝5Aと下部加熱板部材3Bの上向き凹溝5Bとの間の空間に形成される。ランプ2の長手方向一端部の近傍の下部加熱板部材3Bには、ガス導入ポート8が形成されている。ガス導入路7内には、ガス導入ポート8から、He(ヘリウム)、Ar(アルゴン)、N(窒素)等の不活性ガスが導入される。ガス導入路7に導入された不活性ガスは、図5中の矢印に示すように流動し、これにより、ランプ2を冷却すると共に、ランプ2から放射される光エネルギーの減衰を抑制する。
【0026】
特に、プレート型ヒーター1を大気中で用いる場合に、ガス導入路7に不活性ガスを導入する(流通させる)ことが効果的である。これにより、ガス導入路7の内部に存在する(光エネルギーの減衰作用が比較的大きい)大気をガス導入路7から排除して、光エネルギーの減衰抑制効果を、更に向上させることができる。
【0027】
上述のように構成された本実施形態のプレート型ヒーター1は、盤状加熱板部材3における上部加熱板部材3Aの表面及び下部加熱板部材3Bの裏面からそれぞれ熱エネルギーを放射する。
【0028】
詳しくは、ランプ2から放射される全ての波長の光エネルギーは、黒体材料からなる盤状加熱板部材3により吸収されて、熱エネルギーに転換される。そして、熱エネルギーは、盤状加熱板部材3が有する優れた熱伝導特性により、盤状加熱板部材3における上部加熱板部材3Aの表面及び下部加熱板部材3Bの裏面に伝達され、上部加熱板部材3Aの表面及び下部加熱板部材3Bの裏面の全域が、均等に且つ急速に昇温されて、上方及び下方の加熱処理室14へ向けて熱エネルギーを放射する。
複数のランプ2の発光をそれぞれ独立して制御することにより、盤状加熱板部材3の均一な昇温を、一層容易に実現することができる。
【0029】
以上のようなプレート型ヒーター1を多段に積み重ねて構成された本実施形態の多段式加熱装置10においては、半導体基板等の複数の被加熱物(不図示)を、各加熱処理室14内に挿入することにより、被加熱物は、各加熱処理室14の上下に対向するプレート型ヒーター1から放射される熱エネルギーを上面側及び下面側の両方から受けることになる。これにより、複数の加熱処理室14内に載置された複数の被加熱物を一挙に、そして、急速に且つ均一に加熱処理することが可能となり、タクトタイムの大幅な短縮化が図れると共に、熱効率及び熱経済を大きく向上することができる。
また、プレート型ヒーター1の盤状加熱板部材3が、エネルギーの吸収性及び熱伝導性に優れた黒体材料から構成されている。そのため、各被加熱物を熱歪みのない高い品質のものに熱処理することができる。
【0030】
また、上述の加熱処理時において、各ブレート型ヒーター1における盤状加熱板部材3が炭素の共有結合温度以上に加熱昇温されることに伴って、炭素結合(C−C結合)が切れて、炭素ガスを発生することになる。ところが、その炭素ガスは、上部加熱板部材3Aの表面及び下部加熱板部材3Bの裏面に被覆されたガラスコーティング層4により封じ込められており、加熱処理室14へ放出されることがない。そのため、加熱処理室14内に載置される半導体基板等の被加熱物(不図示)が、炭素ガスにより汚染されたり、性能や品質を劣化されたりすることがない。これによって、被加熱物の性能や品質を良好に維持することができる。
【0031】
更に、各ブレート型ヒーター1におけるランプ2の外周部のガス導入路7に不活性ガスを導入して流動させることにより、ランプ2を冷却してランプ2の過熱損傷による寿命の低下を抑制できると共に、ランプ2から放射される光エネルギーの減衰を抑制して、常に高い加熱効率を確保することができる。
【0032】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々の形態で実施することができる。
例えば、前述の実施形態においては、プレート型ヒーター1として、黒体材料から形成される盤状加熱板部材3における上部加熱板部材3A及び下部加熱板部材3Bによりランプ2を包囲するように構成したもので説明したが、これに制限されない。盤状加熱板部材3の表裏両面から熱エネルギーを放射するプレート型ヒーター1であれば、どのような内部構造を有するプレート型ヒーターを用いてもよい。
【0033】
また、前述の実施形態においては、エネルギー発生体として、複数の管状のランプ2を並列配置したが、複数のシーズヒーターを並列配置してもよい。複数のシーズヒーターの発熱は、それぞれ独立して制御されることが好ましい。また、単一のランプ2又はシーズヒーターを用いてもよい。
盤状加熱板部材3は、黒体材料以外の材料から形成することもできる。
【符号の説明】
【0034】
1……プレート型ヒーター
2……ランプ(エネルギー発生体)
3……盤状加熱板部材
4……コーティング層
7……不活性ガス導入路
10……多段式加熱装置
11……包囲部材
12……出し入れ用開口
14……加熱処理室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
盤状で、表裏両面から熱放射が可能な複数のプレート型ヒーターと、
前記複数のプレート型ヒーターの外周部を取り囲む包囲部材であって、前記複数のプレート型ヒーターを上下方向に間隔を置いて平行又は略平行に多段に配置すると共に、各前記プレート型ヒーターをその周辺部において支持することにより、上下に隣接する前記プレート型ヒーターの対向面間に加熱処理室を形成する包囲部材と、
前記加熱処理室へ被加熱物を出し入れする出し入れ用開口と、を備える
多段式加熱装置。
【請求項2】
前記各プレート型ヒーターは、エネルギーを放出する1又は複数のエネルギー発生体と、前記エネルギー発生体を包囲するように配置される加熱板部材であって、前記エネルギー発生体から放出されるエネルギーを吸収して発熱し、表裏両面の全域へ熱伝達すると共に、表裏両面から外部に向けて熱放射する黒体材料からなる加熱板部材と、から構成されている
請求項1に記載の多段式加熱装置。
【請求項3】
前記各プレート型ヒーターにおける前記加熱板部材は、カーボン、Si、SiC又はSiを含む黒体材料から形成されており、
前記加熱板部材の表裏両面に、前記加熱板部材からの放出ガスを封じ込めるコーティング層が形成されている
請求項2に記載の多段式加熱装置。
【請求項4】
前記各プレート型ヒーターにおける前記加熱板部材の内部に、前記エネルギー発生体を冷却するための不活性ガスを流動させるガス導入路が、設けられている
請求項2又は3に記載の多段式加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−204597(P2012−204597A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67724(P2011−67724)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(511078233)コアテクノロジー株式会社 (5)
【Fターム(参考)】