説明

多相分周器

本発明の多相分周器はリングに接続された複数のダイナミックインバータを具え、リング全周上の中間ノードが交差結合ラッチで安定化されている。クロック入力パルスが各ダイナミックインバータの出力をイネーブルし、対応する状態変化をクロスラッチに生じさせる。多相出力がすべてのラッチに並列に与えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ディジタル回路、特に多相分周器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単周波数、単相ディジタルクロックがコンピュータや種々の電子デバイスに使用されている。これらのクロックの直接的もしくは位相ロックループ(PLL)及び分周器による発生又は同期化は簡単であり、その技術は高度に発達している。
【0003】
新型のプロセッサ及びパワーコンバータは多相クロックを新規に使用し、これらは一般に均等に分布された位相を有する2相、3相、4相及び5相クロックを必要とする。これらの多相クロックは発信器により直接発生させることができる。ゲールイアン・ヨールデン(Geerjan Joorden)と本発明者のウェンイ ソング(Wenyi Song)は多相リング発信器を開発している(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0032300号明細書(公開日:2004年2月19日)
【0005】
このような多相リング発振器は偶数の交差結合トランジスタとインバータを端から端までリング構成に配置している。出力位相は各インバータの出力からタップで取り出される。4つのこのようなインバータは4相出力を発生する。奇数のインバータは、ループ一周の総合位相シフトが360度にならないので使用できない。
【0006】
等間隔位相の奇数の多相クロックを発生させる方法は分周器を用いる。この場合には外部発生の精密基準クロック源を用いて多相クロックを同期させる。一例は、フィリップストライメディアプロセッサにおいて3相クロックを発生させるために使用されている分周器である。
【0007】
ディジタル分周器はコンピュータや通信回路において基準発信器からの種々の有用クロックを同期させるために使用されている。ディジタル分周器は入力としてクロック信号”cki”を受信し、新クロック信号”cko”を出力する。ckoの周波数はckiの周波数を整数で除算した周波数である。このような分周器は固定の1/n分周器又はプログラマブル1/m分周器として論理的に実現できる。
【0008】
同期型分周器及びカウンタは1つのクロックで全てのメモリ素子を並列にクロックする。プログラマブルディジタル分周器は、有限ステートマシン(FSM)、例えば紙と鉛筆によって、又はシノプシスデザインコンパイラのような論理合成ツールを用いて実現できる。直接ディジタル合成(DDS)は別の方法であり、入力ckiでクロックされるアキュムレータを使用する。毎入力クロックサイクル時に、アキュムレータが固定の整数“P”をそのカウントに加える。数“P”は、毎“N”入力クロックサイクルの終了時にアキュムレータがオーバフローするように選択することができる。こうすると、オーバフロー出力は分周器の出力”cko”として機能する。
【0009】
非同期型の分周器及びカウンタはクロックを用いてチェーン内の第1フリップフロップをトリガし、前段のQ出力を用いて次段をクロックする。例えば、リップルカウンタ、ディケードカウンタ及びアップ−ダウンカウンタは非同期技術を使用する。
【発明の開示】
【0010】
簡単に説明すると、本発明の多相分周器はリングに接続された複数のダイナミックインバータを具え、リング全周における中間ノードを交差結合ラッチで安定化させていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の一つの利点は、多相ディジタル分周器が提供されることにある。
【0012】
本発明の他の利点は、少数のトランジスタで実現できる多相ディジタル分周器が提供されることにある。
【0013】
本発明の更に他の利点は、任意の偶整数で分周するように拡張できる分周器が提供されることにある。
【0014】
本発明の上述の目的及び他の目的、特徴及び利点は以下に記載するその特定の実施例の詳細な説明を特に添付図面とともに参照すると明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は多相分周器の第1の構成ブロックとして有用な本発明によるダイナミックインバータの実施例を示し、全体が参照符号100で示されている。ダイナミックインバータ100はパワーレールVddとグラウンド(gnd)との間に接続され、入力(i)、正クロック入力(cp)、負クロック入力(cn)及び出力(o)を有する。ダイナミックインバータ100は4つのトランジスタ、即ち2つのPMOS型トランジスタ102及び104と2つのNMOS型トランジスタ106及び108で構成される。クロック”cp”がロウで、そのコンプリメントクロック”cn”がハイであるとき、インバータの出力はその入力のコンプリメントになる。”cp”がハイで、”cn”がロウのときは、出力は高インピーダンス状態になる。
【0016】
図2は多相分周器の第2の構成ブロックとして有用な本発明によるクロスラッチの実施例を示し、全体が参照符号200で示されている。クロスラッチ200は交差接続トランジスタ202及び204を具える。2つのノード”j”及び”k”はコンプリメント値をラッチする。
【0017】
図3は本発明の多相1/4分周器の実施例を示し、全体が参照符号300で示されている。この分周器300は図1及び図2に示す2つの構成ブロック、例えばダイナミックインバータ100及びクロスラッチ200で構成することができる。インバータ301−308は初段から終段までリングに接続される。入力クロック”cp”及び”cn”は一つおきのインバータ毎に逆転される。4つのラッチ310,312,314及び316は、インバータの相補対301及び305;302及び306;303及び307;304及び308の出力をそれぞれラッチするように結合される。これらのラッチはリング全周の状態を適切な状態に初期化する。多相出力はS1−S4とそれらのコンプリメントS5−S8である。
【0018】
分周器300は、リング内のインバータの数を変えることによって遇整数“E”で分周するように変更できる。リング内のインバータの総数は2Eであり、クロスラッチの数はEである。多相出力は常に任意の除数Eに対して均等に分布する。
【0019】
図4は1/4多相分周器400のプロトタイプ実現例で測定された波形を示す。出力S1はS5とコンプリメントであり、出力S2は出力6とコンプリメントであり、出力S3は出力7とコンプリメントであり、出力S4は出力8とコンプリメントである。これらの出力の間には90度の等しい位相シフトがある。
【0020】
分周器300は、半数のインバータを使用し、”cp”クロック入力のみを使用することで簡単化することができる。この目的のために、若干異なる構成ブロックを使用する。
【0021】
図5は、本発明のダイナミックインバータの実施例を示し、全体が参照符号500で示されている。ダイナミックインバータ500はパワーレール(Vdd)とp−出力(op)との間に接続されたトランジスタ504及び506を具えるPMOSストレージ半部502を有する。このインバータはp−入力(ip)、p−クロック入力(cp)を含む。ダイナミックインバータ500は更にn−出力(on)とグラウンド(gnd)との間に接続されたトランジスタ510及び512を具えるNMOSストレージ半部508を有する。このインバータはn−入力(in)、n−クロック入力(cn)を含む。
【0022】
図6は本発明の第2の構成ブロックであるPMOSクロスラッチの実施例を示し、全体が参照符号600で示されている。クロスラッチ600は交差接続トランジスタ602及び604を具える。2つのノードjp及びkpはコンプリメント値をラッチする。
【0023】
図7は本発明の簡略化された1/4多相分周器の実施例を示し、全体が参照符号700で示されている。この分周器700は、図2、5及び6に示す構成ブロック、例えばNMOSクロスラッチ200、PMOSストレージ半部502及びNMOSストレージ半部508及びPMOSクロックラッチ600で構成できる。この分周器700はダイナミックPMOSストレージユニット701−704とダイナミックNMOSストレージユニット705−708とに分割された4つのダイナミックインバータ500(図5)を用いる。各ダイナミックPMOSストレージユニット701−704の出力を次のダイナミックNMOSストレージユニット705−708の入力に接続してリングを構成する。PMOSストレージユニットの出力ノードはp1−p4で示され、NMOSストレージユニットの出力ノードはn1−n4で示されている。
【0024】
任意の偶整数“E”に対して他の偶数分周が可能であり、各分周器はE個のダイナミックインバータ、E個のNMOSクロスラッチ及びE個のPMOSクロスラッチを必要とする。PMOSクロスラッチはNMOSストレージの出力ノードに接続され、NMOSラッチはPMOSストレージの出力ノードに接続される。ノードpjがNMOSクロスラッチの一つのノードに接続される場合、このクロスラッチの他のノードはノードp(E-j)に接続する必要がある。同じことがPMOSクロスラッチ接続にも言える。任意の周波数Fに対して、ノードn1−nEの出力信号は、同一の周波数F/Eを有するとともに2つの隣接ノード間で(F/E)/2の等位相差を有するものとなる。
【0025】
図8は、簡略化された1/4多相分周器700のプロトタイプ実現例で測定された波形を示す。出力n1−n4は4つの位相の間に90度の等しい位相シフトを有することがわかる。
【0026】
図9は、本発明の1/2直角位相出力分周器の一実施例を示し、全体が900で示されている。分周器900は12個のトランジスタのみで実現できる。分周器900はPMOSストレージユニット901及び902とNMOSストレージユニット903及び904のリングを具える。分周器クロック入力は各ストレージユニットの“cp”入力に供給され、多相出力は“n1”,“n2”,“p1”,“p2”として得られる。PMOSラッチ906とNMOSラッチ908がリング全周の状態を適切なビット状態にせしめる。
【0027】
本発明の特定の実施例を開示し説明したが、この説明は本発明を限定するものではない。多くの変更や変形が当業者に明らかであり、本発明は添付の特許請求の範囲によりのみ限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】多相分周器の第1構成ブロックとして有用な本発明のダイナミックインバータの実施例の概略図である。
【図2】多相分周器の第2構成ブロックとして有用な本発明のNMOSクロスラッチの実施例の概略図である。
【図3】代表的な1/4分周を実現する本発明の多相分周器の実施例の構成図である。
【図4】図3の分周器のプロトタイプ実現例で測定された種々のキー波形の概略図である。
【図5】簡略化された多相分周器の第3及び第4構成ブロックとして有用なPMOS部及びNMOS部を有する本発明のダイナミックインバータの実施例の概略図である。
【図6】簡略化された多相分周器の第5構成ブロックとして有用な本発明のPMOSクロスラッチの実施例の概略図である。
【図7】代表的な1/4分周を実現する図3の実施例を更に改善し簡略化した本発明の多相分周器の実施例の構成図である。
【図8】図7の分周器のプロトタイプ実現例で測定された種々の主要な波形の概略図である。
【図9】12個のトランジスタのみを使用する直角出力を有する本発明の1/2多相分周器実施例の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初段から終段までリング構成に接続された複数のダイナミックインバータと、前記複数のダイナミックインバータの連続するインバータ間の中間ノードに接続され、対向するダイナミックインバータの出力に相補ビット状態を強制的に付与する複数のクロスラッチと、前記複数のダイナミックインバータの各インバータに並列に接続された分周器クロック入力と、各ダイナミックインバータの出力から並列に多相出力を出力する分周器出力を具えることを特徴とする分周器。
【請求項2】
前記複数のダイナミックインバータの各々を構成する第1の構成ブロックであって、トーテムポール接続された第1及び第2のPMOSトランジスタと第1及び第2のNMOSトランジスタを具え、前記第2のPMOSトランジスタと前記第1のNMOSトランジスタとの接続点から出力が取り出され、前記第1のPMOSトランジスタと前記第2のNMOSトランジスタのゲートに接続された入力と、前記第2のPMOSトランジスタのゲートに接続された正クロック入力(cp)及び前記第1NMOSトランジスタのゲートに接続された負クロック入力(cn)とを有する第1の構成ブロックを更に具えることを特徴とする請求項1記載の分周器。
【請求項3】
前記複数のクロスラッチの各々を構成する第2の構成ブロックであって、第1及び第2のNMOSトランジスタを具え、第1のNMOSトランジスタのゲートが第2のNMOSトランジスタのドレインに、第2のNMOSトランジスタのゲートが第1のNMOSトランジスタのドレインに交差接続されている第2の構成ブロックを更に具えることを特徴とする請求項1記載の分周器。
【請求項4】
前記複数のダイナミックインバータの第1のインバータの”cp”入力と前記複数のダイナミックインバータの第2のインバータの”cn”入力に接続された分周器クロック作動入力”ckin”を具え、以下同様に後続の2つのインバータが交互に分周器作動入力”ckin”に接続されている請求項2記載の分周器。
【請求項5】
前記複数のダイナミックインバータの第1のインバータの”cn”入力と前記複数のダイナミックインバータの第2のインバータの”cp”入力に接続された分周器クロック作動入力”ckin”を具え、以下同様に後続の2つのインバータが交互に分周器作動入力”ckin”に接続されている請求項2記載の分周器。
【請求項6】
前記複数のダイナミックインバータの奇数番のインバータを構成する第3の構成ブロックであるPMOSストレージユニットであって、トーテムポール接続された第1及び第2のPMOSトランジスタを具え、”op”出力と、前記第1のPMOSトランジスタのゲートに接続された”ip”入力と、前記第2のPMOSトランジスタのゲートに接続された正クロック入力(cp)とを有するPMOSストレージユニットと、前記複数のダイナミックインバータの偶数番のインバータを構成する第4の構成ブロックであるNMOSストレージユニットであって、トーテムポール接続された第1及び第2のNMOSトランジスタを具え、”on”出力と、前記第2のNMOSトランジスタのゲートに接続された”in”入力と、前記第1のNMOSトランジスタのゲートに接続された負クロック入力(cn)とを有するNMOSストレージユニットと、前記複数のクロスラッチの奇数番のクロスラッチを構成する第5の構成ブロックであって、前記PMOSストレージユニットの対応する対の出力に接続されたNMOSクロスラッチを具える第5の構成ブロックと、前記複数のクロスラッチの偶数番のクロスラッチを構成する第6の構成ブロックであって、前記NMOSストレージユニットの対応する対の出力に接続されたPMOSクロスラッチを具える第6の構成ブロックとを更に具えることを特徴とする請求項1記載の分周器。
【請求項7】
リングに接続された第1〜第4のインバータを具え、第1及び第3インバータがインバータ出力(p1-p2)と直列に接続された第1及び第2のPMOSトランジスタを有し、第2及び第4インバータがインバータ出力(n1-n2)と直列に接続された第1及び第2のNMOSトランジスタを有し、各第2のNMOSトランジスタのゲートが対応する前段のインバータ出力(p1-p2)に接続され、前記第2のPMOSトランジスタ及び前記第1のNMOSトランジスタのすべてのゲートがクロック入力(cp)に並列に接続され、更に、入力クロック(cp)後に前段のインバータ出力(p1-p2)の各々を保持するように接続されたNMOSラッチと、入力クロック(cp)後に前段のインバータ出力(n1-n2)の各々を保持するように接続されたPMOSラッチとを具え、多相分周出力が各インバータ出力(p1,p2,n1,n2)から並列に供給されることを特徴とする1/4多相分周器。
【請求項8】
複数のインバータをリングに配置し、前記インバータのすべてを共通のクロックでクロックし、前記複数のインバータの対向するインバータ対をクロスラッチで結合してビット初期化及びサンプルホールディングを実行させ、各インバータの出力からインバータ対で均等に分布された位相を有する多相周波数出力を得ることを特徴とする多相信号発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−545322(P2008−545322A)
【公表日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519121(P2008−519121)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【国際出願番号】PCT/IB2006/052217
【国際公開番号】WO2007/004183
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(507219491)エヌエックスピー ビー ヴィ (657)
【Fターム(参考)】