説明

多相構造型共重合体ラテックスおよびそれからなる紙塗工用共重合体ラテックス

【課題】 流動性が良好で、かつドライピック強度、ベタツキ性に優れた塗工紙を提供し得る紙塗工用バインダーとして有用な多相構造型共重合体ラテックスの提供。
【解決手段】 (a1)脂肪族共役ジエン10〜70重量%、(a2)水溶性エチレン系単量体0.5〜10重量%、並びに(a3)前記(a1)および(a2)成分と共重合可能な他のビニル系単量体30〜89.5重量%からなる重合体Aと(b1)脂肪族共役ジエン20〜80重量%、(b2)水溶性エチレン系単量体0〜10重量%、並びに(b3)前記(b1)および(b2)成分と共重合可能な他のビニル系単量体20〜80重量%からなる重合体B(但し、重合体A+重合体B=100重量部)からなる共重合体ラテックスであり、前記脂肪族共役ジエン系単量体が(b1)−(a1)≧3重量%を満たし、かつ該重合体相Aの粒子内部に重合体相Bが2個以上存在してなる多相構造型共重合体ラテックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一粒子内部に多相構造を有する共重合体ラテックスに関するものである。さらに詳しくは、流動性が良好で、かつドライピック強度、ベタツキ性に優れた塗工紙を提供し得る紙塗工用バインダーとして有用な多相構造を有する紙塗工用共重合体ラテックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗工紙は塗工原紙の表面に紙用塗被組成物を塗布、乾燥して製造される。塗工紙は印刷物に広く利用され、高品質の塗工紙を得るために顔料と水性バインダーとを主成分とした紙用塗被組成物の研究・改良が進められている。水性バインダーとしてはデンプンなどの天然バインダーやスチレンーブタジエン系共重合体ラテックスの合成エマルションバインダーが広く用いられており、このバインダーの性能が塗工紙最終製品の品質に占める割合は大きいとされている。
近年、紙加工分野において高速塗工化、高生産化が進められているなか、塗工紙に対しても従来より高い品質が求められている。すなわち、紙用塗被組成物には塗工時の性能として、高せん断下での優れた流動性および良好な機械的安定性、さらにはたとえバッキングロールを汚したとしてもすぐに取り除ける高再分散性(ロール洗浄性)が要求され、塗工紙には高いレベルのドライピック強度、印刷光沢などの高品質化が求められている。
そのため、紙塗工用に使用されているスチレンーブタジエン系共重合体ラテックスの品質設計や製造方法に関してはさまざまな検討がされ、技術改良が紹介されている。
一般的にはラテックス中のエチレン系不飽和カルボン酸などの使用量を多くすることで機械的安定性は向上するが、塗料粘度が著しく悪化し、単に使用量を多くすることは高速塗工化には適さないことが知られている。
【0003】
例えば、特開平2003−268019号公報(特許文献1)によると、特定組成の単量体を二段階以上に分割して乳化重合するに際し、特定の種類の単量体組成を重合する第一工程(A)と残りの単量体組成を重合する工程(B)からなり、該工程中特定の期間の重合転化率を制御することで、塗工紙のピック強度、湿潤ピック強度および耐ブリスター性との高度なバランスを有し、さらに耐ベタツキ性、ロール汚れ洗浄性、ウエットラブ特性といった塗工紙の製造工程における耐ロール汚れ適性にも優れた性能を付与するとの技術開示がある。
また、特開平10−245450号公報(特許文献2)によると、水溶性エチレン系単量体と水溶性重合開始剤の使用割合を調整することで、高濃度・高速塗工時の流動性と機械的安定性に優れ、かつ塗工紙性能および塗工操業性に優れた共重合体ラテックスが得られるとの技術開示がある。
しかし、これらのさまざまな改良技術は、紙塗工用共重合体ラテックスに要求される高レベルの品質を満足するに至っておらず、更なる改良が強く求められていた。
【特許文献1】特開平2003−268019号公報
【特許文献2】特開平10−245450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、流動性が良好で、かつドライピック強度、ベタツキ性に優れた塗工紙を提供し得る紙塗工用バインダーとして有用な多相構造型共重合体ラテックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上述の課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の単量体組成からなる共重合体ラテックスであって、該共重合体ラテックス粒子について同一粒子内での異なる重合体の形成、配置に着眼点を置き、本発明を完成するにいたった。
すなわち、本発明は、(a1)脂肪族共役ジエン系単量体10〜70重量%、(a2)水溶性エチレン系単量体0.5〜10重量%、並びに(a3)前記(a1)成分および(a2)成分と共重合可能な他のビニル系単量体30〜89.5重量%からなる重合体Aと(b1)脂肪族共役ジエン系単量体20〜80重量%、(b2)水溶性エチレン系単量体0〜10重量%、並びに(b3)前記(b1)成分および(b2)成分と共重合可能な他のビニル系単量体20〜80重量%からなる重合体B(但し、重合体A+重合体B=100重量部)からなる共重合体ラテックスであり、前記脂肪族共役ジエン系単量体が(b1)−(a1)≧3重量%を満たし、かつ該重合体相Aの粒子内部に重合体相Bが2個以上存在することを特徴とする多相構造型共重合体ラテックスを提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、流動性が良好で、かつドライピック強度、ベタツキ性に優れた塗工紙を提供し得る紙塗工用バインダーが得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明における多相構造を有する共重合体ラテックスを構成する脂肪族共役ジエン系単量体(a1)(b1)としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に1,3−ブタジエンの使用が好ましい。
【0008】
水溶性エチレン系単量体(a2)(b2)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などのモノまたはジカルボン酸(無水物)を挙げることができる。
【0009】
上記脂肪族共役ジエン系単量体(a1)(b1)および水溶性エチレン系単量体(a2)(b2)と共重合可能な他の単量体(a3)(b3)としては、芳香族ビニル単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、シアン化ビニル単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体が挙げられる。
【0010】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびビニルベンゼンなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にスチレンが好ましい。
【0011】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリルレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマエート、ジメチルマレート、ジエチルマレート、ジメチルイタコネ−ト、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート、等が挙げられ、1種または2種以上用いることが出来る。特にメチルメタアクリルレートが好ましい。
【0012】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特に2−ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。
【0013】
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にアクリロニトリルが好ましい。
【0014】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールジメチルアクリルアミドなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にアクリルアミドが好ましい。
【0015】
さらに、上記の単量体のほかに、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステル類、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等の塩基性単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどを使用することができる。
【0016】
本発明における多相構造を有する共重合体ラテックスの乳化重合においては、公知の乳化剤、連鎖移動剤、重合開始剤さらには環内に1個の不飽和結合を有する不飽和環状炭化水素を使用することができる。
【0017】
乳化剤として、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルエーテル型スルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩などのアニオン性界面活性剤あるいはポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型などのノニオン性界面活性剤が1種または2種以上で用いることができる。
【0018】
連鎖移動剤としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物や、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリアミド等のビニルエーテル、α−メチルスチレンダイマー、ターピノレン、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。
【0019】
これらの連鎖移動剤の使用量については何ら制限はなく、共重合体ラテックスに求められる性能に応じて適宜調整することができるが、好ましくは単量体混合物100重量部に対して0.05〜5重量部の範囲である。
【0020】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。さらに、本発明において好ましく用いられる還元剤の具体例としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩、また、L−アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類、更にはデキストロース、サッカロースなどの還元糖類、更にはジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。
【0021】
環内に1個の不飽和結合を有する不飽和環状炭化水素としてはシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等が挙げられるが特にシクロヘキセンが好ましい。また、その他にペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素化合物を併用しても良い。なお、本発明においては、該不飽和環状炭化水素を使用することにより、本発明の目的とする多相構造を有する共重合体ラテックスを得るうえで好ましい。該の使用量は単量体100重量部に対して0.1〜40重量部であることが好ましい。
【0022】
本発明における各種成分の添加方法については特に制限するものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法の何れでも採用することができる。また、その乳化重合方法においても特に制限はなく、一段重合、ニ段重合又は多段階重合等何れでも採用することができる。更に、乳化重合において、常用の電解質、重合促進剤、キレート剤等を使用することができる。
【0023】
本発明における多相構造を有する共重合体ラテックスは、(a1)脂肪族共役ジエン系単量体10〜70重量%、(a2)水溶性エチレン系単量体0.5〜10重量%、並びに(a3)前記(a1)成分および(a2)成分と共重合可能な他のビニル系単量体30〜89.5重量%からなる重合体Aと(b1)脂肪族共役ジエン系単量体20〜80重量%、(b2)水溶性エチレン系単量体0〜10重量%、並びに(b3)前記(b1)成分および(b2)成分と共重合可能な他のビニル系単量体20〜80重量%からなる重合体B(但し、重合体A+重合体B=100重量部)からなる共重合体ラテックスであり、前記脂肪族共役ジエン系単量体が(b1)−(a1)≧3重量%を満たし、かつ該重合体相Aの粒子内部に重合体相Bが2個以上存在することが必要である。前記脂肪族共役ジエン系単量体が(b1)−(a1)≧3重量%を満たさない場合には、ベタツキ性が劣るため好ましくない。また、その重合体の配置形成として、該重合体相Aの粒子内部に重合体相Bが2個以上存在しない場合には、強度と流動性バランスが低下するため好ましくない。このような多相構造を有する共重合体ラテックスは、例えば2段重合の1段目と2段目とのSP値(溶解度パラメータ)を0.5以上、さらに好ましくは1.0以上設けること、また該重合体相Aの粒子内部に重合体相Bを2個以上存在させるためには、重合途中で粒子内の膨潤度を変化させたり、重合途中で重合開始剤を水溶性のものから油溶性のものに、または油溶性のものから水溶性のものに置換することで適宜調製することが可能である。具体的には2段重合法において、1段目あるいは2段目の重合途中で環内に1個の不飽和結合を有する不飽和環状炭化水素などを添加して粒子の膨潤度を変化させる方法や、2段目の重合途中で重合開始剤を水溶性系から油溶性系に変更するなどの方策が有効的である。
【0024】
なお、上記多相構造を有する共重合体ラテックスを構成する重合体相Aと重合体相Bとの割合についても特に制限はないが、好ましくは重合体相A/重合体相B(重量比)=20〜80/80〜20である。
また、本発明における多相構造を有する共重合体ラテックスは、上記のとおり該重合体相Aの粒子内部に重合体相Bが2個以上存在することが必要であるが、その重合体粒子は、全粒子中に60%以上、さらには全粒子中に80%以上存在することが好ましい。
【0025】
上記の多相構造を有する共重合体ラテックスと顔料から紙用塗被組成物を得ることが出来る。通常、顔料100重量部に対し該共重合体ラテックスが固形物換算で2〜100重量部、好ましくは5〜30重量部使用される。さらに必要に応じてその他の結合剤0〜30重量部とともに水性分散液として調整される。
【0026】
ここで、顔料としては、カオリンクレー、タルク、硫酸バリウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、サチンホワイト等の無機顔料、あるいはポリスチレンラテックスのような有機顔料が挙げられ、これらは単独または混合して使用される。
【0027】
また、必要に応じて澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の変性澱粉、大豆蛋白、カゼイン等の天然バインダー、あるいはポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルラテックス、アクリル系ラテックス等の合成ラテックスを使用してもよい。
【0028】
紙用塗被組成物を調整するには、さらにその他の助剤、例えば分散剤(ピロリン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等)、消泡剤(ポリグリコール、脂肪酸エステル、リン酸エステル、シリコーンオイル等)、レべリング剤(ロート油、ジシアンジアミド、尿素等)、防腐剤、耐水化剤、離型剤(ステアリン酸カルシウム、パラフィンエマルジョン等)、蛍光染料、カラー保水性向上剤(カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等)が必要に応じて添加される。
【0029】
さらに、紙用塗被組成物を塗工用紙へ塗工する方法は、公知の技術、例えばエアナイフコーター、ブレードコーター、ロールーコーター、バーコーター等の塗工機によって行われる。また、塗工後は表面を乾燥し、カレンダーリングなどにより仕上げる。
【0030】
以下、実施例を挙げ本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものでない。なお実施例中、割合を示す部および%は重量基準によるものである。
【0031】
(共重合体ラテックスの製造)
(実施例1)
容量20リットルのオートクレーブに、水123部、炭酸水素ナトリウム0.01部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.10部、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.35部と表1に示した第1段目単量体と重合開始剤と連鎖移動剤等を仕込み、反応温度55℃、反応時間6時間で1段目重合した。1段目の重合転化率98.5%を確認し、さらに表1に示した2段目単量体の半分を反応温度72℃、反応時間2.0時間で連続的に添加し、いったん水溶性開始剤を分解させた後、油溶性開始剤とシクロへキセンを添加し、残りの2段目単量体を反応温度72℃、反応時間2.0時間で連続的に添加し重合を継続した。重合転化率が98.5%以上になった時点で重合を終了した。その後、得られた共重合体ラテックスを水酸化ナトリウムを用いてpH7.1に調整し、加熱減圧蒸留で未反応単量体を除去した。未反応単量体の回収が完了した後、共重合体ラテックス中に含まれる50μm以下の微細凝集物を除去しラテックス(ア)を得た。
【0032】
(実施例2)
容量20リットルのオートクレーブに、水143部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.78部と表1に示した第1段目単量体と重合開始剤と連鎖移動剤等を仕込み、反応温度65℃、反応時間6.5時間で1段目重合した。1段目の重合転化率98.5%を確認し、さらに表1に示した2段目単量体の半分を反応温度75℃、反応時間2.0時間で連続的に添加し、いったん油溶性開始剤を分解させた後、水溶性開始剤を添加し、残りの2段目単量体を反応温度75℃、反応時間2.0時間で連続的に添加し重合を継続した。重合転化率が98.5%以上になった時点で重合を終了した。その後、得られた共重合体ラテックスを水酸化ナトリウムを用いてpH7.1に調整し、加熱減圧蒸留で未反応単量体を除去した。未反応単量体の回収が完了した後、共重合体ラテックス中に含まれる50μm以下の微細凝集物を除去しラテックス(イ)を得た。
【0033】
(実施例3)
容量20リットルのオートクレーブに、水178部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.45部、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.5部と表1に示した1段目単量体と重合開始剤と連鎖移動剤等を仕込み、反応温度75℃、反応時間4時間で1段目重合した。1段目重合転化率98.5%を確認し、さらに表1に示した2段目単量体の半分を反応温度72℃、反応時間2.0時間で連続的に添加した。1時間かけてシクロへキセンのみを除去した後、残りの2段目単量体と水溶性開始剤を反応温度72℃、反応時間2.0時間で連続的に添加し重合を継続した。重合転化率が98.5%以上になった時点で重合を終了した。その後、得られた共重合体ラテックスを水酸化ナトリウムを用いてpH7.1に調整し、加熱減圧蒸留で未反応単量体を除去した。未反応単量体の回収が完了した後、共重合体ラテックス中に含まれる50μm以下の微細凝集物を除去しラテックス(ウ)を得た。
【0034】
(比較例1)
容量20リットルのオートクレーブに、水139部、炭酸水素ナトリウム0.15部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.9部、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.8部と表2に示した1段目単量体と重合開始剤と連鎖移動剤等を仕込み、反応温度72℃で乳化重合を行った。1段目の重合転化率98.5%を確認し、さらに表2に示した2段目単量体を反応温度75℃、反応時間2.0時間で連続的に添加し重合を継続した。重合転化率が98.5%以上になった時点で重合を終了した。その後、得られた共重合体ラテックスを水酸化ナトリウムを用いてpH7.1に調整し、加熱減圧蒸留で未反応単量体を除去した。未反応単量体の回収が完了した後、共重合体ラテックス中に含まれる50μm以下の微細凝集物を除去しラテックス(エ)を得た。
【0035】
(比較例2)
容量20リットルのオートクレーブに、水133部、炭酸水素ナトリウム0.15部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.15部、と表2に示した1段目単量体と重合開始剤と連鎖移動剤等を仕込み、反応温度65℃、反応時間8時間で1段目重合した。重合転化率が98.5%以上になった時点で重合を終了した。その後、得られた共重合体ラテックスを水酸化ナトリウムを用いてpH7.1に調整し、加熱減圧蒸留で未反応単量体を除去した。未反応単量体の回収が完了した後、共重合体ラテックス中に含まれる50μm以下の微細凝集物を除去しラテックス(オ)を得た。
【0036】
(比較例3)
容量20
リットルのオートクレーブに、水157部、炭酸水素ナトリウム0.05部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.05部、と表2に示した1段目単量体と重合開始剤と連鎖移動剤等を仕込み、反応温度72℃、反応時間5時間で1段目重合した。1段目の重合転化率98.5%を確認し、さらに表2に示した2段目単量体を反応温度66℃、反応時間6時間で連続的に添加し重合を継続した。重合転化率が98.5%以上になった時点で重合を終了した。その後、得られた共重合体ラテックスを水酸化ナトリウムを用いてpH7.1に調整し、加熱減圧蒸留で未反応単量体を除去した。未反応単量体の回収が完了した後、共重合体ラテックス中に含まれる50μm以下の微細凝集物を除去しラテックス(カ)を得た。
【0037】
(比較例4)
容量20リットルのオートクレーブに、水114部、炭酸水素ナトリウム0.05部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.35部、と表2に示した1段目単量体と重合開始剤と連鎖移動剤等を仕込み、反応温度63℃、反応時間4時間で1段目重合した。1段目の重合転化率98.5%を確認し、さらに表2に示した2段目単量体の半分を反応温度75℃、反応時間3.5時間で連続的に添加し、いったん油溶性開始剤を分解させた後、水溶性開始剤を添加し、残りの2段目単量体を反応温度75℃、反応時間1.5時間で連続的に添加し重合を継続した。重合転化率が98.5%以上になった時点で重合を終了した。その後、得られた共重合体ラテックスを水酸化ナトリウムを用いてpH7.1に調整し、加熱減圧蒸留で未反応単量体を除去した。未反応単量体の回収が完了した後、共重合体ラテックス中に含まれる50μm以下の微細凝集物を除去しラテックス(キ)を得た。
【0038】
(共重合体ラテックスの評価)
共重合体ラテックス(ア)〜(ウ)および共重合体ラテックス(エ)〜(キ)を用いて下記の示す方法に従って測定した結果を表1および表2に示す。
共重合ラテックスの電子顕微鏡観察(多相構造確認)
得られた共重合体ラテックスを走査型電子顕微鏡(日本電子製:JSM−6360LA型)を用いて写真を撮影して多相構造の有無およびその形成状態(重合体相A中の重合体Bの個数)、を確認した。また、300個の粒子を確認し、該多相構造を形成している粒子数(%)を計測した。
【0039】
共重合体ラテックスの粒子径測定
共重合体ラテックスの数平均粒子径を動的光散乱法により測定した。尚、測定に際しては、LPA−3000/3100(大塚電子製)を使用した。
【0040】
(紙用塗被組成物の作成)
次に、得られた共重合ラテックスを用いて、下記の処方により紙用塗被組成物を調整した。
<固形分換算>
顔料; カオリンクレー 60部
重質炭酸カルシウム40部
添加剤; NaOH 0.18部
バインダー;共重合ラテックス 10部
燐酸エステル化澱粉 4部
水; 全固形分が64%になる量
【0041】
(塗工紙の作成と評価)
市販の熱風塗工乾燥機MLC−100S型を用いて、塗工原紙(坪量67g/m)に、得られた紙塗工用組成物を塗工し、塗工紙を作製した。
塗工条件:熱風塗工乾燥機MLC−100S型にて、上記組成物の塗工量が片面13g/mとなるようにワイヤーバーを用いて塗工した。塗工速度は46m/minに設定した。
乾燥条件:塗工から約0.5秒後に、150℃の乾燥炉内で、温度210℃、風速33m/秒の熱風により3秒間乾燥した。
得られた各塗工紙を、相対湿度65%、温度20℃の条件下で一昼夜調湿した後、線圧60kg/cm、温度50℃、通紙速度7m/分、表裏2回ずつ合計4回の通紙条件でスーパーカレンダー処理し、得られた塗工紙を下記に示す各試験に供して評価し、結果を表1および表2に示した。
【0042】
塗工紙のドライピック強度の評価
RI印刷機で各塗工紙試料を同時に印刷した際のピッキングの程度を肉眼で判定し、5級(最も良い)から1級(最も悪い)まで相対的に評価した。
【0043】
ベタツキ性
ポリエチレンテレフタレートフィルム上にワイヤーバー#10を用いてラテックスフイルムを作成し、熱風循環式オーブン中で110℃×1分間乾燥して乾燥塗工量で10g/mとなるようにフィルムを得る。フィルムサンプルの上にNo.5ろ紙を置き、加圧式熱ロール装置にて圧着したのち、ろ紙をはずして、フィルム上に付着したろ紙の状態を目視で判定し、以下に示す○(最も良い)から×(最も悪い)までを相対的に評価した。結果を表1に示した。
(優)○ > △ > ×(劣)
【0044】
紙用塗被組成物の流動性の評価
二重円筒型のハーキュレスハイシェアー粘度計(熊谷理機工業社製)を使用した。内筒ボブFを用いて、高せん断速度を与える4000rpmにおける各紙塗工用組成物の見掛け粘度(mPa・s)を測定した。数値の低い方が見掛け粘度は低く、流動性が良い。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の多相構造型共重合体ラテックスを紙塗工用バインダーとして使用することにより、流動性が良好で、かつドライピック強度、ベタツキ性に優れた塗工紙を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1の共重合体ラテックス(ァ)の電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1の共重合体ラテックス(エ)の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)脂肪族共役ジエン系単量体10〜70重量%、(a2)水溶性エチレン系単量体0.5〜10重量%、並びに(a3)前記(a1)成分および(a2)成分と共重合可能な他のビニル系単量体30〜89.5重量%からなる重合体Aと(b1)脂肪族共役ジエン系単量体20〜80重量%、(b2)水溶性エチレン系単量体0〜10重量%、並びに(b3)前記(b1)成分および(b2)成分と共重合可能な他のビニル系単量体20〜80重量%からなる重合体B(但し、重合体A+重合体B=100重量部)からなる共重合体ラテックスであり、前記脂肪族共役ジエン系単量体が(b1)−(a1)≧3重量%を満たし、かつ該重合体相Aの粒子内部に重合体相Bが2個以上存在することを特徴とする多相構造型共重合体ラテックス。
【請求項2】
該重合体相Aの粒子内部に重合体相Bが2個以上存在する多相構造型重合体粒子が、全粒子中に60%以上存在してなる請求項1記載の多相構造型共重合体ラテックス。
【請求項3】
数平均粒子径が50〜190nmである請求項1に記載の多相構造型共重合体ラテックス。
【請求項4】
環内に1個の不飽和結合を有する不飽和環状炭化水素を使用して乳化重合してなる請求項1〜3何れかに記載の多相構造型共重合体ラテックス。
【請求項5】
請求項1〜4何れかに記載の多相構造型共重合体ラテックスからなる紙塗工用共重合体ラテックス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−7529(P2009−7529A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172475(P2007−172475)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】