説明

多管式熱交換構造

【課題】 多管式反応器および多管式熱交換器などの多管式熱交換構造において、複数の配管の外周面における欠陥を、渦流探傷用プローブにより精度よく検査することが可能な多管式熱交換構造を提供する。
【解決手段】 多管式熱交換構造100は、磁性体からなり、第1流体の流路となる複数の配管11と、複数の配管11を覆うように筒状に形成され、第2流体の流路となる外殻2と、外殻2内において、各配管11が挿通された状態で配管11の軸方向に間隔をあけて設けられる複数の邪魔板3とを含む。この邪魔板3は、外殻2内における第2流体の流れ方向を変化させるものであり、非磁性体からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多管式反応器および多管式熱交換器などが備える、多管式熱交換構造に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の配管内に流れる流体を、熱媒体との熱交換により所定の温度に調整する多管式熱交換構造を有する多管式反応器および多管式熱交換器が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1,2には、アクロレインからのアクリル酸、メタクロレインからのメタクリル酸などの気相酸化反応に用いる多管式反応器が開示されている。
【0004】
特許文献1,2に開示される多管式反応器は、アクロレインまたはメタクロレインのプロセス流体の流路となる複数の反応管からなる管束と、管束を覆い、溶融塩からなる熱媒体の流路となる反応器シェルと、反応器シェル内において熱媒体の流れ方向を変化させる邪魔板とを含んで構成される。この多管式反応器において、反応管は、炭素鋼などの磁性体またはステンレス鋼などの非磁性体からなる。
【0005】
また、特許文献1,2には明示されていないが、多管式反応器および多管式熱交換器などの多管式熱交換構造において備えられる邪魔板は、炭素鋼などの磁性体により形成されるのが一般的である(非特許文献1参照)。
【0006】
多管式反応器において、反応器シェル内に流れる溶融塩に空気の巻き込みが生じて邪魔板下等に空気層が形成されると、溶融塩への熱伝達が阻害されて局部的な昇温が生じ、反応管の外周面に腐食などの欠陥が発生する場合がある。そのため、反応管における邪魔板下の保守検査が必要となる。
【0007】
たとえば、非特許文献2には、フェライト相とオーステナイト相との二相ステンレス鋼の磁性体からなる配管の欠陥を検査する渦流探傷用プローブが開示されている。非特許文献2に開示される渦流探傷用プローブでは、円柱状ヨークの中央部の周囲に検出コイルが配置され、その両側のヨーク周囲に、磁化方向がヨークの半径方向であって、ヨーク側の磁極が相異する永久磁石が装着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−944号公報
【特許文献2】特開2010−132584号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「渦流探傷試験II」、社団法人日本非破壊検査協会、平成22年5月20日、p.119
【非特許文献2】「非破壊検査」、第42巻、第9号、平成5年、p.520〜526
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献2に開示される渦流探傷用プローブによって、多管式反応器および多管式熱交換器などの多管式熱交換構造における配管の欠陥を検査することができるが、その検査精度は良好なものとは言えない。その理由は、多管式熱交換構造の配管の外周面における邪魔板下の欠陥を渦流探傷検査するときに、磁性体からなる邪魔板の信号が検出されてしまうためである。
【0011】
したがって本発明の目的は、多管式反応器および多管式熱交換器などの多管式熱交換構造において、複数の配管の外周面における欠陥を、渦流探傷用プローブにより精度よく検査することが可能な多管式熱交換構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、磁性体からなり、第1の熱交換流体の流路となる複数の配管と、
前記複数の配管を覆うように筒状に形成され、第2の熱交換流体の流路となる外殻と、
前記外殻内に設けられ、前記配管が挿通される複数の邪魔板であって、非磁性体からなり、前記配管内を流れる第1の熱交換流体の流れ方向に間隔をあけて設けられる複数の邪魔板と、を含むことを特徴とする多管式熱交換構造である。
【0013】
また本発明の多管式熱交換構造は、前記邪魔板が、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼からなることを特徴とする。
【0014】
また本発明の多管式熱交換構造は、前記配管が、炭素鋼、ニッケル、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼である二相ステンレス鋼、およびニッケル・銅合金であるモネルメタルから選ばれる磁性体からなることを特徴とする。
【0015】
また本発明の多管式熱交換構造は、前記第2の熱交換流体が、亜硝酸ナトリウムを含む溶融塩、または水蒸気からなる熱媒体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、多管式熱交換構造は、磁性体からなり、第1の熱交換流体の流路となる複数の配管と、配管を覆うように筒状に形成され、第2の熱交換流体の流路となる外殻と、外殻内において、配管が挿通された状態で配管内を流れる第1の熱交換流体の流れ方向に間隔をあけて設けられる複数の邪魔板とを含む。この邪魔板は、外殻内における第2の熱交換流体の流れ方向を変化させるものであり、非磁性体からなる。このように、邪魔板を非磁性体により形成することによって、多管式熱交換構造の配管の外周面における邪魔板下の欠陥を渦流探傷検査するときに、邪魔板の信号の出現を抑制することができるので、配管の外周面における欠陥を、渦流探傷用プローブにより精度よく検査することができる。
【0017】
また本発明によれば、多管式熱交換構造では、邪魔板が、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼からなる。これによって、配管の外周面における邪魔板下の欠陥を渦流探傷検査するときに、邪魔板の信号の出現を確実に抑制することができるので、配管の外周面における欠陥を、渦流探傷用プローブにより精度よく検査することができる。
【0018】
また本発明によれば、多管式熱交換構造では、邪魔板が非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼により形成されるのに対して、配管が、炭素鋼、ニッケル、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼である二相ステンレス鋼、およびニッケル・銅合金であるモネルメタル等から選ばれる磁性体により形成される。異種の金属材が接触した場合には、異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)が発生する可能性がある。このガルバニック腐食は、腐食電位が卑な金属材がアノード、貴な金属材がカソードとなって電池を構成し、卑な金属材の方の腐食が促進される現象である。本発明の多管式熱交換構造では、邪魔板と配管とが異種の金属材により構成されているが、邪魔板をオーステナイト系ステンレス鋼で形成し、配管を炭素鋼、ニッケル、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼である二相ステンレス鋼およびニッケル・銅合金であるモネルメタル等から選ばれる材料により形成することによって、邪魔板と配管との接触部においてガルバニック腐食が発生するのを防止することができる。
【0019】
また本発明によれば、多管式熱交換構造では、外殻内を流れる第2の熱交換流体が、亜硝酸ナトリウムを含む溶融塩、または水蒸気等からなる熱媒体である。このような多管式熱交換構造では、外殻で覆われる各配管の外周面、および外殻内に設けられる邪魔板は、溶融塩または水蒸気等からなる熱媒体に接触することになる。特に、第2の熱交換流体として溶融塩を用いた場合には、この溶融塩は電解質であるので、邪魔板と配管との接触部におけるガルバニック腐食が懸念されるが、邪魔板をオーステナイト系ステンレス鋼で形成し、配管を炭素鋼、ニッケルおよびオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼である二相ステンレス鋼等から選ばれる材料により形成することによって、邪魔板と配管との接触部においてガルバニック腐食が発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の一形態に係る多管式熱交換構造100の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の実施の一形態に係る多管式熱交換構造100の構成を示す図である。本実施形態の多管式熱交換構造100は、複数の配管11内に流れる第1の熱交換流体(以下、「第1流体」という)を、外殻2の胴部21内に流れる第2の熱交換流体(以下、「第2流体」という)との熱交換により所定の温度に調整するものである。このような多管式熱交換構造100は、アクロレインからのアクリル酸、メタクロレインからのメタクリル酸などの気相酸化反応などの有機合成反応に用いられる多管式反応器、多管式熱交換器などが備える構造である。
【0022】
本実施形態の多管式熱交換構造100は、磁性体からなり、第1流体の流路となる複数の配管11と、複数の配管11を覆うように筒状に形成され、第2流体の流路となる外殻2と、外殻2内に設けられ、各配管11が挿通される複数の邪魔板3とを含む。この邪魔板3は、配管11の軸方向(第1流体の流れ方向)に間隔をあけて設けられ、外殻2内における第2流体の流れ方向を変化させる非磁性体からなる部材である。
【0023】
多管式熱交換構造100において外殻2は、円筒形状の胴部21と、胴部21の両端に連なる半球殻形状の第1ヘッド部22および第2ヘッド部23とを主構造として構成されている。この外殻2内には、胴部21内の空間と第1ヘッド部22内の空間とを隔てる第1隔壁41と、胴部21内の空間と第2ヘッド部23内の空間とを隔てる第2隔壁42とが配置されている。また、第1ヘッド部22には、第1隔壁41と第1ヘッド部22とで囲まれた空間に連通して外部に開口する第1流体供給開口部51が設けられている。第2ヘッド部23には、第2隔壁42と第2ヘッド部23とで囲まれる空間に連通して外部に開口する第1流体導出開口部52が設けられている。
【0024】
また、胴部21には、第1隔壁41、第2隔壁42および胴部21で囲まれた空間に連通して外部に開口する第2流体供給開口部61および第2流体導出開口部62が設けられている。なお、第2流体供給開口部61は、胴部21における第1ヘッド部22側に設けられ、第2流体導出開口部62は、胴部21における第2ヘッド部23側に設けられている。
【0025】
第1隔壁41と第2隔壁42との間には、複数の配管11が管束1になって設けられており、各配管11の両端部は、それぞれ、第1隔壁41で囲まれた第1ヘッド部22内の空間、および第2隔壁42で囲まれた第2ヘッド部23内の空間に連通している。
【0026】
さらに、胴部21内の空間には、外殻2の胴部21内を流れる第2流体の流れ方向を規則的に変化させる複数の邪魔板3が、配管11の軸方向に間隔をあけて、軸方向に直交して設けられている。この邪魔板3には、貫通孔31が形成されており、この貫通孔31に配管11が挿通されている。また、各邪魔板3には、厚み方向に貫通する複数の開口部32が設けられている。
【0027】
以上のように構成された多管式熱交換構造100では、第1流体供給開口部51から供給された第1流体は、第1ヘッド部22に導入される。このように第1ヘッド部22に導入された第1流体は、第1ヘッド部22内の空間から各配管11内を矢符Aの方向に流れて、第2ヘッド部23内の空間へと流れ込む。第2ヘッド部23内に流れ込んだ第1流体は、第1流体導出開口部52から外部に導出される。
【0028】
第2流体供給開口部61から供給された第2流体は、胴部21内の空間に導入される。このように胴部21内の空間に導入された第2流体は、邪魔板3の表面および開口部32で案内され、蛇行するように流れ方向を変化させながら、胴部21内を矢符Bの方向に流れ、第2流体導出開口部62から外部に導出される。このようにして胴部21内を流れる第2流体は、各配管11の外周面と接触して配管11内を流れる第1流体との間で熱交換を行う。
【0029】
ここで、各配管11内を流れる第1流体は、第2流体との熱交換で温度調整される対象となる流体である。たとえば、多管式熱交換構造100を有機合成反応に用いられる多管式反応器に適用した場合、第1流体は、有機合成反応時の合成原料となる有機化合物、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液などである。また、外殻2の胴部21内を流れる第2流体としては、加熱用熱媒体として、亜硝酸ナトリウムを含む溶融塩、水蒸気、油(シリコン油、ダウサム(登録商標)A(ビフェニルとジフェニルエーテルとの3:7混合物である。)、ジベンジルトルエン)などを挙げることができ、冷却用熱媒体として、空気、アセトン、液化窒素、ブライン(塩を主成分とする不凍液)、ガス冷媒(アンモニア、フロン、二酸化炭素)などを挙げることができる。これらの中でも、加熱用熱媒体としては、亜硝酸ナトリウムを含む溶融塩、水蒸気が好ましい。
【0030】
また、本実施形態の多管式熱交換構造100では、各配管11は磁性体からなり、各邪魔板3は非磁性体からなる。このように、邪魔板3を非磁性体により形成することによって、多管式熱交換構造100の配管11の外周面における邪魔板3下の欠陥を渦流探傷検査するときに、邪魔板3の信号の出現を抑制することができるので、配管11の外周面における欠陥を、渦流探傷用プローブにより精度よく検査することができる。
【0031】
配管11を構成する磁性体としては、炭素鋼、モリブデン鋼、クロム・モリブデン合金鋼、9〜12%クロム鋼、ニッケル・クロム・鉄合金、ニッケル鋼、ニッケル、ニッケル・銅合金(モネルメタル)、ニッケル・モリブデン・クロム合金、ニッケル・クロム・モリブデン・鉄合金、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(二相ステンレス鋼)、フェライト系ステンレス鋼などを挙げることができる。これらの中でも、炭素鋼、ニッケル、ニッケル・銅合金(モネルメタル)、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(二相ステンレス鋼)が好ましい。また、邪魔板3を構成する非磁性体としては、オーステナイト系ステンレス鋼、黄銅、銅、チタン、チタン合金などを挙げることができ、これらの中でもオーステナイト系ステンレス鋼が好ましい。
【0032】
邪魔板3が、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼で構成されることによって、配管11の外周面における邪魔板3下の欠陥を渦流探傷検査するときに、邪魔板3の信号の出現を確実に抑制することができるので、配管11の外周面における欠陥を、渦流探傷用プローブにより精度よく検査することができる。
【0033】
次に、邪魔板3の材質の違いによる渦流探傷検査性について、実験例を示しながら説明する。
【0034】
(第1実験:非磁性体からなる邪魔板の渦流探傷検査性)
配管11として磁性体のニッケルからなる配管(外径φ24mm×厚み1.7mm×長さ1300mm)を用い、その配管11に模擬欠陥としてφ3.0mmの貫通孔を形成した。この模擬欠陥を、以下に示す渦流探傷検査装置により検査した。
【0035】
<プローブ>
円柱状ヨークの中央部の周囲に永久磁石を、その磁化方向がヨークの軸方向になるように装着し、中央の永久磁石の上に2個の検出コイル、その検出コイルの両側にそれぞれ磁場圧縮コイルが配置されたプローブを用いた。
・ヨーク:炭素鋼S15Cなまし材
・永久磁石:ネオジウムマグネット(株式会社アサヒコーポレーション製)
・検出コイル、磁場圧縮コイル:線径φ0.06mmの銅線で巻数が70回のコイル
【0036】
<渦流探傷器>
Vector22(GEインスペクション・テクノロジーズ・ジャパン株式会社製)
【0037】
<実験結果>
邪魔板3として非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)を用いた場合と、磁性体の炭素鋼(SS400)を用いた場合とで、渦流探傷検査性の比較を行った。
【0038】
具体的には、試験周波数を10kHz、30kHz、90kHzと変化させ、邪魔板および模擬欠陥の振幅値および位相角を測定した。このとき、渦流探傷器のキャリブレーションは、模擬欠陥の欠陥信号の位相角を135度、Y成分信号の振幅値が1Vとなるように調整した。実験結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1から明らかなように、磁性体のSS400からなる邪魔板3による信号の振幅値は、いずれの試験周波数においても、模擬欠陥の振幅値よりも大きく、さらに、試験周波数を変化させても位相差が少ない。
【0041】
これに対して、非磁性体のSUS304からなる邪魔板3による信号の振幅値は、いずれの試験周波数においても、模擬欠陥の振幅値よりも小さい。この結果より、邪魔板3を非磁性体により形成することによって、邪魔板3の信号の出現を抑制することができるので、配管11の外周面における欠陥を、渦流探傷用プローブにより精度よく検査することができる、ということがわかる。
【0042】
また、多管式熱交換構造100には、タイロッド、タイロッドナット、スペーサが配置されている。タイロッド、タイロッドナット、スペーサ(以下、これらをまとめて「タイロッド等」という)は、その外面が、配管11の外周面に対して3mm程度の間隔をあけて配置される場合がある。
【0043】
磁性体からなる配管11の外周面における欠陥を、渦流探傷用プローブにより検査するときに、タイロッド等が炭素鋼などの磁性体により形成されている場合、そのタイロッド等からの磁場の影響を受けて、精度よく検査することができないおそれがある。
【0044】
配管11の外周面における欠陥検査に対する、タイロッド等の影響を確認するために、次のような実験を行った。
【0045】
配管11として、ニッケル配管(外径φ34mm×厚み1.8mm)、二相ステンレス鋼配管(外径φ25.4mm×厚み1.6mm)、炭素鋼STB340配管(外径φ34mm×厚み2.3mm)を用い、各配管に模擬欠陥としてφ3.0mmの貫通孔を形成した。このような各配管に対して、タイロッド等を想定した炭素鋼STB340からなる想定炭素鋼管(外径φ19mm×厚み2mm)を、5mmの間隔をあけて配置した。このとき、各配管と想定炭素鋼管とは、各配管の軸線と想定炭素鋼管の軸線とが互いに平行で、かつ、想定炭素鋼管の軸線方向端部(管端)が各配管に対向するように、配置されている。そして、各配管の模擬欠陥を渦流探傷検査装置により検査した。具体的には、まず、各配管内に渦流探傷用プローブを配置し、その渦流探傷用プローブが各配管の軸線方向一端部に位置した状態で、渦流探傷器の「0(ゼロ)」バランスを取った。次に、渦流探傷用プローブを、各配管の軸線方向一端部から他端部に向けて、各配管内を移動させた。このとき、模擬欠陥からの信号の信号強度が変動しないように渦流探傷器を調整した。そして、渦流探傷用プローブが各配管内において想定炭素鋼管の管端に対応する位置に移動したときの、管端からの信号を渦流探傷用プローブにて検出した。その結果、想定炭素鋼管の管端からの信号がノイズとなることがわかった。
【0046】
これに対して、タイロッド等を邪魔板3と同様に、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼により形成することによって、配管11の外周面における欠陥を、渦流探傷用プローブにより精度よく検査することができる。
【0047】
(第2実験:邪魔板を構成する非磁性体の種類による渦流探傷検査性)
配管11として磁性体のニッケルからなる配管(外径φ24mm×厚み1.7mm×長さ1300mm)を用い、その配管11に模擬欠陥としてφ3.0mmの貫通孔を形成した。この模擬欠陥を、前述の第1実験と同様にして、渦流探傷検査装置により検査した。
【0048】
<実験結果>
邪魔板3を構成する非磁性体として、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)、チタン(TP−340H)、チタン合金(Ti−6Al−4V)のそれぞれを用いた場合において、渦流探傷検査性の比較を行った。
【0049】
具体的には、試験周波数を5kHz、10kHz、20kHz、30kHz、40kHzと変化させ、邪魔板および模擬欠陥の振幅値および位相角を測定した。このとき、渦流探傷器のキャリブレーションは、模擬欠陥の欠陥信号の位相角を135度、Y成分信号の振幅値が1Vとなるように調整した。実験結果を表2に示す。なお、表2において、振幅値は、模擬欠陥の振幅値を1Vに換算して示している。
【0050】
【表2】

【0051】
表2から明らかなように、邪魔板3を構成する非磁性体として、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)、チタン(TP−340H)、チタン合金(Ti−6Al−4V)のいずれの材料を用いても、邪魔板3の信号の出現を抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態の多管式熱交換構造100では、邪魔板3が非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼により形成されるのに対して、配管11が、炭素鋼、ニッケル、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(二相ステンレス鋼)、およびニッケル・銅合金(モネルメタル)等から選ばれる磁性体により形成される。異種の金属材が接触した場合には、ガルバニック腐食が発生する可能性がある。このガルバニック腐食は、腐食電位が卑な金属材がアノード、貴な金属材がカソードとなって電池を構成し、卑な金属材の方の腐食が促進される現象である。本実施形態の多管式熱交換構造100では、邪魔板3と配管11とが異種の金属材により構成されているが、邪魔板3をオーステナイト系ステンレス鋼で形成し、配管11を炭素鋼、ニッケル、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(二相ステンレス鋼)およびニッケル・銅合金(モネルメタル)等から選ばれる材料により形成することによって、邪魔板3と配管11との接触部においてガルバニック腐食が発生するのを防止することができる。
【0053】
また、本実施形態の多管式熱交換構造100では、外殻2の胴部21内に配置される各配管11の外周面、および外殻2の胴部21内に設けられる各邪魔板3は、第2流体に接触することになる。特に、第2流体として亜硝酸ナトリウムを含む溶融塩を用いた場合には、この溶融塩は電解質であるので、邪魔板3と配管11との接触部におけるガルバニック腐食が懸念されるが、邪魔板3をオーステナイト系ステンレス鋼で形成し、配管11を炭素鋼、ニッケルおよびオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(二相ステンレス鋼)等から選ばれる材料により形成することによって、邪魔板3と配管11との接触部においてガルバニック腐食が発生するのを防止することができる。
【0054】
次に、邪魔板3の材質の違いによるガルバニック腐食性について、実験例を示しながら説明する。
【0055】
(第3実験:ガルバニック腐食性)
非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)からなる試験片と、磁性体の試験片(炭素鋼STB340、ニッケル、モネルメタル、二相ステンレス鋼)とを接触させた状態で、400℃の亜硝酸ナトリウムを含む溶融塩、および水蒸気の流体中に配置し、ガルバニック腐食性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
表3から明らかなように、SUS304と炭素鋼STB340との組合せ、SUS304とニッケルとの組合せ、SUS304とモネルメタルとの組合せ、SUS304と二相ステンレス鋼との組合せのいずれにおいても、ガルバニック腐食の発生が見られなかった。この結果より、邪魔板3をオーステナイト系ステンレス鋼で形成し、配管11を炭素鋼、ニッケル、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼である二相ステンレス鋼およびニッケル・銅合金であるモネルメタル等から選ばれる材料により形成することによって、邪魔板3と配管11との接触部においてガルバニック腐食が発生するのを防止することができる、ということがわかる。
【符号の説明】
【0058】
1 管束
2 外殻
3 邪魔板
11 配管
21 胴部
22 第1ヘッド部
23 第2ヘッド部
31 貫通孔
32 開口部
41 第1隔壁
42 第2隔壁
51 第1流体供給開口部
52 第1流体導出開口部
61 第2流体供給開口部
62 第2流体導出開口部
100 多管式熱交換構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体からなり、第1の熱交換流体の流路となる複数の配管と、
前記複数の配管を覆うように筒状に形成され、第2の熱交換流体の流路となる外殻と、
前記外殻内に設けられ、前記配管が挿通される複数の邪魔板であって、非磁性体からなり、前記配管内を流れる第1の熱交換流体の流れ方向に間隔をあけて設けられる複数の邪魔板と、を含むことを特徴とする多管式熱交換構造。
【請求項2】
前記邪魔板は、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼からなることを特徴とする請求項1に記載の多管式熱交換構造。
【請求項3】
前記配管は、炭素鋼、ニッケル、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼である二相ステンレス鋼、およびニッケル・銅合金であるモネルメタルから選ばれる磁性体からなることを特徴とする請求項2に記載の多管式熱交換構造。
【請求項4】
前記第2の熱交換流体は、亜硝酸ナトリウムを含む溶融塩、または水蒸気からなる熱媒体であることを特徴とする請求項3に記載の多管式熱交換構造。

【図1】
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【公開番号】特開2012−149871(P2012−149871A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277527(P2011−277527)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】