説明

多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法、スクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、ウォータージェット用オリフィス、伸線ダイス、ならびに切削工具

【課題】ダイヤモンドにアクセプター元素が均一に添加されたナノ多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法ならびに該多結晶ダイヤモンドを用いた各種工具を提供する。
【解決手段】ナノ多結晶ダイヤモンド1は、炭素と、該炭素中に原子レベルで分散するように添加されたIII族元素3と、不可避不純物とで構成される。該多結晶ダイヤモンド1の結晶粒径は500nm以下である。上記多結晶ダイヤモンド1は、III族元素が炭素中に原子レベルで分散するように添加された黒鉛に、高圧プレス装置内で熱処理を施すことで作製可能である。上記ナノ多結晶ダイヤモンド1は、スクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、ウォータージェット用オリフィス、伸線ダイス、切削工具等の工具に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法、スクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、ウォータージェット用オリフィス、伸線ダイス、ならびに切削工具に関し、特に、ナノサイズの結晶粒を有し、III族元素が均一に添加された多結晶ダイヤモンド(以下、「III族元素添加ナノ多結晶ダイヤモンド」と称する)およびその製造方法ならびに該多結晶ダイヤモンドを用いた各種工具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノ多結晶ダイヤモンドが、天然の単結晶ダイヤモンドを超える硬さを有し、工具として優れた性質を備えるということが明らかになってきた。該ナノ多結晶ダイヤモンドは本来絶縁体であるが、ダイヤモンドに対してアクセプターとなる元素を添加することで、ダイヤモンドに導電性を付与することができる。例えば、E.A. Ekimov et al,Nature,Vol.428(2004),542〜545(非特許文献1)に、硼素を添加したダイヤモンドの合成方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】E.A. Ekimov et al,Nature,Vol.428(2004),542〜545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記非特許文献1に記載の方法では、黒鉛(グラファイト)とBCとを反応させて硼素を黒鉛に固溶させている。しかし、この方法では、硼素を黒鉛中に原子レベルで分散させることは困難である。そのため、硼素が固溶した黒鉛をダイヤモンドに直接変換した場合、ドーパントクラスター等が生じてしまう。また、硼素を黒鉛に固溶する際に、硼素の水素化物、酸化物等が生じる。これらの触媒作用により、変換後のダイヤモンドの結晶粒径が局所的に異常に大きくなることもある。この結果、結晶粒径の揃った硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドを作製するのが困難となる。
【0005】
そこで、次に考えられる方法としては、黒鉛粉末と、硼素のようなアクセプター元素の粉末とをできるだけ細かく粉砕し、厳しく選別したうえで、混合あるいはさらに加熱反応処理を施したものを原料とする方法が挙げられる。
【0006】
しかしながら、この方法でも、アクセプター原子が単独で黒鉛粉末と混り合うことは難しく、アクセプター原子の多くは、少なくとも2つ以上の原子が隣接したクラスター状になる。そのため、ダイヤモンド中でアクセプター元素の濃度分布が生じ易くなる。その結果、ダイヤモンドの結晶粒が部分的に急成長し易くなり、均一なナノサイズの結晶粒をもつナノ多結晶ダイヤモンドを得ることは困難であった。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、ダイヤモンドにアクセプター元素が従来にないレベルで均一に添加されたナノ多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法、当該多結晶ダイヤモンドを用いたスクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、ウォータージェット用オリフィス、伸線ダイス、ならびに切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る多結晶ダイヤモンドは、炭素と、該炭素中に原子レベルで分散するように添加されたIII族元素と、不可避不純物とで構成される。該多結晶ダイヤモンドの結晶粒径(結晶粒の最大長さ)は500nm以下程度である。
【0009】
上記III族元素は、好ましくは、置換型の孤立原子として炭素中に分散する。III族元素の濃度は、例えば1×1014/cm以上1×1022/cm以下程度である。上記多結晶ダイヤモンドは、1500℃以上の温度で、III族元素を含むガスと炭化水素ガスとの混合ガスを熱分解して得られた黒鉛を焼結することで作製可能である。
【0010】
本発明に係る多結晶ダイヤモンドの製造方法は、III族元素が炭素中に原子レベルで分散するように添加された黒鉛を準備する工程と、高圧プレス装置内で該黒鉛に熱処理を施してこの黒鉛をダイヤモンドに変換する工程とを備える。
【0011】
上記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、焼結助剤や触媒を添加することなく、高圧プレス装置内で黒鉛に熱処理を施すことが好ましい。上記黒鉛を準備する工程は、真空チャンバ内にIII族元素を含むガスと炭化水素ガスとの混合ガスを導入し、1500℃以上の温度で混合ガスを熱分解して基材上に黒鉛を形成する工程を含むものであってもよい。上記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、基材上に形成された黒鉛に8GPa以上の高圧下で1500℃以上の熱処理を施してもよい。上記混合ガスを、基材の表面に向けて流すようにすることが好ましい。炭化水素ガスとしては、例えばメタンガスを使用可能である。
【0012】
上記多結晶ダイヤモンドは、様々な工具に使用することができる。具体的には、上記多結晶ダイヤモンドを、スクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、ウォータージェット用オリフィス、伸線ダイス、切削工具に使用可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る多結晶ダイヤモンドでは、炭素中に原子レベルで分散するようにIII族元素を添加しているので、従来にないレベルの均一さでIII族元素をダイヤモンド中に添加することができ、ナノ多結晶ダイヤモンドにp型導電性を付与することができる。
【0014】
本発明に係る多結晶ダイヤモンドの製造方法では、真空チャンバ内で、III族元素が炭素中に原子レベルで分散するように添加された黒鉛に熱処理を施して多結晶ダイヤモンドに変換しているので、従来にないレベルでIII族元素が均一に添加されたナノ多結晶ダイヤモンドを作製することができ、またナノ多結晶ダイヤモンドにp型導電性を付与することができる。
【0015】
本発明に係る多結晶ダイヤモンドは、優れた耐酸化性をも有するので、スクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、ウォータージェット用オリフィス、伸線ダイス、切削工具のような工具に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の1つの実施の形態における多結晶ダイヤモンドを基材上に作製した状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の1つの実施の形態における硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンド中の不純物分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図1〜図2を用いて説明する。
本実施の形態におけるIII族元素添加ナノ多結晶ダイヤモンドは、該多結晶ダイヤモンド本体を構成する炭素中に原子レベルで分散するように添加されたIII族元素を備える。また、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、バインダーを使わない、ナノサイズの結晶粒径を持つ多結晶ダイヤモンドである。
【0018】
III族元素は、炭素に対して電子が一個少ない結合を取り得る元素であり、ダイヤモンドにおいてアクセプターとなる元素である。III族元素としては、たとえば、硼素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等を挙げることができる。これらの元素から選ばれる一つ以上の元素を使用可能であるが、同様の機能を有する他の元素を使用してもよい。III族元素の中では、硼素が好適であるが、硼素と他の元素と組合せた混合元素を使用することも可能である。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンド1は、基材2上に形成され、原子レベルで均一に分散したIII族元素3を含む。なお、「原子レベルで分散する」とは、本願明細書では、たとえば、真空雰囲気中で、炭素と、III族元素とを、気相状態で混合させて固化して固体炭素を作製した場合に、該固体炭素中にIII族元素が分散するレベルの分散状態をいう。
【0020】
該ナノ多結晶ダイヤモンド1は、基材上に形成された黒鉛(グラファイト)に高温高圧下で熱処理を施すことで作製可能である。黒鉛は、一体の固体であり、結晶化部分を含む。図1の例では、ナノ多結晶ダイヤモンド1は、平板状の形状を有しているが、任意の形状、厚みとすることが考えられる。基材上に形成された黒鉛に熱処理を施してナノ多結晶ダイヤモンド1を作製した場合には、ナノ多結晶ダイヤモンド1と黒鉛は、基本的に同形状を有することとなる。
【0021】
上記III族元素は、黒鉛の形成段階で黒鉛中に添加することができる。具体的には、III族元素を含むガスと炭化水素ガスとの混合ガスを1500℃以上の温度で熱分解して基材上に黒鉛を形成し、同時に黒鉛中にIII族元素を添加することができる。
【0022】
上記III族元素を含むガスとしては、たとえばIII族元素の水素化物からなる第1のガス、トリメチル硼素、トリエチル硼素、トリメチルボレートから選ばれる一つ以上のガスからなる有機金属系の第2のガス、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムハイドライド、トリイソブチルアルミニウムから選ばれる一つ以上のガスからなる有機金属系の第3のガス、トリメチルガリウム、トリエチルガリウムから選ばれる一つ以上のガスからなる有機金属系の第4のガス、トリメチルインジウム、トリエチルインジウムから選ばれる一つ以上のガスからなる有機金属系の第5のガス、トリメチルタリウム、トリエチルタリウムから選ばれる一つ以上のガスからなる有機金属系の第6のガスのいずれかを使用可能である。上記ガスの2つ以上を適宜混合することも考えられる。
【0023】
上記のように、気相の状態で黒鉛形成用の原料ガス中にIII族元素を混合して黒鉛中にIII族元素を添加することで、黒鉛中に原子レベルで均一にIII族元素を添加することができる。また、炭化水素ガスに対するIII族元素を含むガスの添加量を適切に調整することで、所望の量のIII族元素を黒鉛に添加することができる。
【0024】
上記混合ガスの熱分解は真空チャンバ内で行うことができ、この際に真空チャンバ内の真空度を比較的高く設定することで、黒鉛中への不純物混入を抑制することができる。しかし、実際には、黒鉛中には、意図しない不可避不純物が混入してしまう。この不可避不純物としては、窒素、水素、酸素、シリコン、遷移金属等であって、添加することを意図した上記III族元素以外の元素を挙げることができる。
【0025】
本実施の形態のIII族元素添加ナノ多結晶ダイヤモンドを作製するために使用する黒鉛では、各不可避不純物の量が0.01質量%以下程度である。つまり、黒鉛中の不可避不純物濃度が、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析での検出限界以下程度である。また、遷移金属については、黒鉛中の濃度が、ICP(Inductively Coupled Plasma)分析やSIMS分析における検出限界以下程度である。
【0026】
このように、黒鉛中の不純物量をSIMS分析やICP分析での検出限界レベルにまで低下させることで、該黒鉛を用いてダイヤモンドを作製した場合に、添加することを意図したIII族元素以外の不純物量が極めて少ない多結晶ダイヤモンドを作製することができる。なお、SIMS分析やICP分析での検出限界より若干多い不純物を含む黒鉛を用いた場合でも、従来と比較すると格段に優れた特性の多結晶ダイヤモンドが得られる。
図2に、本実施の形態におけるナノ多結晶ダイヤモンド中の硼素および不純物分布の一例を示す。なお、図2に示される硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドは、上述のIII族元素である硼素を含有した黒鉛を、10−2Paの真空雰囲気中で、2000℃で熱処理して得られたものである。また、硼素濃度や不純物濃度はSIMS分析にて測定した。
図2に示されるように、ダイヤモンド中の硼素濃度および各不純物の濃度の深さ方向のばらつきが小さくなっているのがわかる。また、本実施の形態におけるナノ多結晶ダイヤモンド中の不純物量が極めて低い値となっていることがわかる。
下記の表1に、硼素源としてのBCと、従来の手法で作製した黒鉛とを混合し、10−2Paの真空雰囲気中で、2000℃で熱処理することで、黒鉛に硼素を固溶して得られた硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドと、本実施の形態の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドについて、BCの混入率を比較した結果を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、黒鉛に硼素を固溶して得られた硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドでは、添加する硼素濃度が増大するにつれてBCの混入率が高くなるのに対し、本実施の形態の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドでは、添加する硼素濃度が増大しても、BCの混入率は0.01質量%未満と極めて低くなっているのがわかる。
【0029】
本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、上記のようにIII族元素を原子レベルで均一に含む一方で、不純物量は極めて少ない。このナノ多結晶ダイヤモンドでは、炭素中でIII族元素の原子が、クラスター状に凝集することがなく、ダイヤモンド全体にわたってほぼ均一に分散した状態となる。理想的には、III族元素の原子は、上記炭素中で、互いに孤立した状態で存在する。III族元素の原子は、炭素原子と置換した状態で炭素(ダイヤモンド本体)中に存在し、炭素中に単純に混入された状態ではなく、III族元素の原子と炭素原子とが化学的に結合したような状態となる。
【0030】
上記のように、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドが炭素中に原子レベルで分散するIII族元素を備えるので、従来にないレベルで、III族元素が均一に添加されたナノ多結晶ダイヤモンドが得られる。また、ナノ多結晶ダイヤモンド中にIII族元素を原子レベルで均一に分散させることができるので、ダイヤモンド全体にわたって所望のp型導電性を付与することができる。
【0031】
III族元素を添加した本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドでは、III族元素が原子レベルでダイヤモンド中に分散しているので、上述のように凝集した状態でダイヤモンド中に混入したIII族元素がほとんど存在しない。また、添加されたIII族元素はダイヤモンドの結晶粒界に凝集することもなく、ダイヤモンド中に不純物も極めて少ないので、ダイヤモンド結晶の異常成長をも効果的に抑制することができる。その結果、10〜500nmといったナノサイズの結晶粒径(結晶粒の最大長さ)を有し、かつp型導電性を有するナノ多結晶ダイヤモンドが得られる。
【0032】
さらに、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドでは、ダイヤモンド中でのIII族元素の濃度分布も生じ難くなる。このことからも、ダイヤモンドの結晶粒の局所的な異常成長を効果的に抑制することができる。その結果、従来例と比較すると、ダイヤモンドの結晶粒の大きさをも揃えることができる。
【0033】
ダイヤモンド中のIII族元素の濃度は、任意に設定可能である。ダイヤモンド中のIII族元素の濃度を高くすることも低くすることも可能である。いずれの場合も、ダイヤモンド中にIII族元素を均一に分散させることができるので、ダイヤモンド中でIII族元素の濃度分布が生じるのを効果的に抑制することができる。それにより、ダイヤモンドの局所的な導電性のばらつきの発生をも効果的に抑制することができる。
【0034】
なお、III族元素の添加濃度は、ダイヤモンドにp型導電性を付与するためには、1014〜1022/cm程度の範囲が好ましい。ダイヤモンドに金属的な良好な導電性を付与するためには、III族元素の添加濃度は、1019/cm程度以上であることが好ましく、ダイヤモンドに半導体性を付与するには、III族元素の添加濃度は、1014〜1019/cm未満程度が好ましい。
【0035】
上記のようにIII族元素を添加することで、ノンドープナノ多結晶ダイヤモンドに比べて硬度が低下することが懸念されたが、硬度は同等であった。つまり、本実施の形態のIII族元素添加ナノ多結晶ダイヤモンドは、ノンドープナノ多結晶ダイヤモンドと同等の硬度を有し、かつp型導電性を備えることとなる。
【0036】
本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドを用いて、例えば切削工具を作製したところ、導電性を持ちながらもノンドープナノ多結晶ダイヤモンドと同等以上の切削性能、寿命(耐摩耗特性)を持つことが分かった。さらに、絶縁材料を切削した場合も、ナノ多結晶ダイヤモンドが導電性を有することから、静電気による削りかすの付着が抑制されるという利点もあった。なお、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドの用途については、後に詳述する。
【0037】
次に、本実施の形態のIII族元素添加ナノ多結晶ダイヤモンドの製造方法について説明する。
【0038】
まず、真空チャンバ内で、1500℃以上3000℃以下程度の温度に基材を加熱する。加熱方法としては周知の手法を採用することができる。たとえば、基材を直接あるいは間接的に1500℃以上の温度に加熱可能なヒータを真空チャンバに設置することが考えられる。
【0039】
基材としては、1500℃〜3000℃程度の温度に耐え得る材料であれば、いかなる金属、無機セラミック材料、炭素材料でも使用可能である。しかし、原材料となる黒鉛に不純物を混入させないという観点から、基材を炭素で作製することが好ましい。より好ましくは、基材を、不純物の極めて少ないダイヤモンドや黒鉛で構成することが考えられる。この場合、少なくとも上記基材の表面を、ダイヤモンドや黒鉛で構成すればよい。
【0040】
次に、真空チャンバ内に、炭化水素ガスと、III族元素を含むガスとを導入する。このとき、真空チャンバ内の真空度は20〜100Torr程度にしておく。それにより、炭化水素ガスとIII族元素を含むガスとを真空チャンバ内で混合することができる。この混合ガスを1500℃以上の温度で熱分解することにより、基材上に、III族元素を原子レベルで取り込んだ黒鉛を形成することができる。なお、混合ガスの導入後に基材を加熱し、該基材上にIII族元素を含む黒鉛を形成するようにしてもよい。
【0041】
上記炭化水素ガスとしては、たとえばメタンガスを使用可能である。III族元素を含むガスとしては、上述の各種ガスを使用することができる。炭化水素ガスとIII族元素を含むガスとの混合ガスは、例えば10−7%〜100%までの比率で真空チャンバ内に導入することができる。
【0042】
黒鉛の形成時には、炭化水素ガスと、III族元素を含むガスとを、基材の表面に向けて流すようにすることが好ましい。それにより、基材近傍で効率的に各ガスを混合することができ、III族元素を含有する黒鉛を効率的に基材上に生成することができる。炭化水素ガスやIII族元素含有ガスは、基材の真上から基材に向けて供給してもよく、斜め方向あるいは水平方向から基材に向けて供給するようにしてもよい。真空チャンバ内に、炭化水素ガスやIII族元素含有ガスを基材に導く案内部材を設置することも考えられる。
【0043】
上記のようにして製造され、III族元素が炭素中に原子レベルで分散するように添加された黒鉛を、高圧プレス装置等を用いて、高温高圧下で焼結することで、従来にないレベルでIII族元素が均一に添加されたIII族元素添加ナノ多結晶ダイヤモンドを作製することができる。
【0044】
なお、黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、焼結助剤や触媒を添加することなく、高圧下で黒鉛に熱処理を施すことが好ましい。また、黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、基材上に形成された黒鉛に8GPa以上、1500℃以上の高温高圧下で熱処理を施してもよい。
【0045】
本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドの作製に使用可能な上記黒鉛は、例えば一部に結晶化部分を含む結晶状あるいは多結晶である。また、黒鉛の密度は、好ましくは、0.8g/cmより大きい。それにより、黒鉛を焼結した際の体積変化を小さくすることができる。また、黒鉛を焼結した際の体積変化を小さくして歩留まりを向上させるという観点から、実験的には、黒鉛の密度を1.4g/cm以上2.0g/cm以下程度とすることが更に好ましい。
【0046】
黒鉛の密度を上記の範囲とするのは、黒鉛の密度が1.4g/cmよりも低い場合には、高温高圧プロセス時の体積変化が大きすぎて、温度制御がきかなくなることがあると考えられるからである。また、黒鉛の密度が2.0g/cmより大きいと、ダイヤモンドに割れの発生する確率が2倍以上になってしまうことがあるからである。
【0047】
次に、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドの適用例について説明する。
硼素のようなアクセプターが添加されたp型ダイヤモンドでは、4価の炭素の一部を3価の原子が占めることになる。この場合、共有結合電子が、系として、1個不足した状態になるが、外部から電子を得て、ダイヤモンド構造を保つことができる。
【0048】
他方、n型ダイヤモンドの場合には、ドナーが活性化して電子を放出すると、その電子は、導伝帯すなわち、反結合性の軌道のバンド化によって作られるエネルギー状態を占めることとなる。そのため、ダイヤモンド結合が弱くなる傾向にあると考えられる。
【0049】
それに対し、アクセプターの場合には、電子を1個受け取った分だけ、非結合の共有結合を完全に満たすため、ダイヤモンドの結合性が高くなると考えられる。すなわち、アクセプターをダイヤモンドに添加することで、ダイヤモンドの耐熱特性や耐摩耗性の向上が期待できる。
【0050】
例えば本実施の形態の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドでは、ダイヤモンド中に硼素を原子レベルで分散させることができるので、異種元素である硼素を多量にダイヤモンドに添加しても、ダイヤモンドの機械的特性は全く損なわれない。そのため、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、ノンドープでバインダー(結合材)レスのナノ多結晶ダイヤモンドと同等の高いヌープ硬度を有する。このようなナノ多結晶ダイヤモンドは、様々な機械加工に使用される工具に有用である。
【0051】
本願発明者等が、本実施の形態の手法で作製され、それぞれ硼素を0.1質量%、0.3質量%、0.6質量%含む硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドを用いて切削工具を作製し、実際にアルミニウム材の切削を行ったところ、30km切削時でも、逃げ面の磨耗量は3μm以下と小さかった。それに対し、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドを用いて切削工具を作製し、同様の試験を行ったところ、逃げ面の磨耗量は、上記の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドの場合の2倍以上となった。
【0052】
また、本実施の形態の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドと、従来の手法で硼素を添加した多結晶ダイヤモンドと、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドと、単結晶ダイヤモンドとを準備し、♯1500の砥石を用い、250rpmで30分、2.5kgの荷重を加えて研磨したところ、本実施の形態の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドの磨耗量が0.01〜0.02μm/分と極めて小さいことを確認できた。なお、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドを含む他のダイヤモンドの磨耗量は、本実施の形態の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドの磨耗量の5倍以上もあった。
【0053】
以上のことから、本実施の形態の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドを用いて工具を作製することで、優れた耐磨耗性が得られることを確認できた。
【0054】
本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、導電性を有するので、放電加工にも適用することができる。より詳しくは、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、凹状曲面などの複雑な三次元形状を作製するための工具に適用可能である。
【0055】
例えば多結晶ダイヤモンド中へ硼素を添加する場合、放電加工への適用が可能な良導体とするためには、ダイヤモンドへの硼素の添加濃度は、1020〜1022/cm程度の範囲内であることが好ましい。ここで、硼素の添加濃度を1022/cmよりも高めると、ダイヤモンド中での硼素の均質分散が困難となり、多結晶ダイヤモンドの機械的特性を損なうことが懸念される。よって、上記のようにダイヤモンドへの硼素の添加濃度は1022/cm以下であることが好ましい。
【0056】
本願発明者等は、本実施の形態の手法でナノ多結晶ダイヤモンドに硼素を添加することで、異種元素が添加されていないノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドよりも、有酸素雰囲気中での耐熱性(耐酸化性)を向上させることができることをも見出した。
【0057】
本願発明者等が、本実施の形態の手法で、それぞれ硼素を0.1質量%、0.3質量%、0.6質量%含む硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドを作製し、比較例としてノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドを準備し、500℃〜900℃の温度で1時間の熱処理を施した後の各ダイヤモンドの残存量を測定したところ、本実施の形態の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドの残存量は、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドの残存量の4倍以上もあった。つまり、本実施の形態の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドが、有酸素雰囲気中で優れた耐熱性(耐酸化性)を有することを確認することができた。
【0058】
多結晶ダイヤモンドを切削工具に使用した場合、切削中に切削液やミストにより工具刃先を冷却しても、切削点での被削材との摺動により、工具刃先の温度は1000℃近くにまで達する。そのため、多結晶ダイヤモンドを切削工具に使用する場合には、耐酸化性に優れることも要求される。
【0059】
本実施の形態に係る硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドの場合、有酸素雰囲気中で高温に晒されると、該ナノ多結晶ダイヤモンドの表面に硼素の酸化物被膜が形成される。このため、本実施の形態に係る硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドは、通常の多結晶ダイヤモンドよりも優れた耐酸化性を有することとなる。したがって、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、切削工具にも有用であり、該ナノ多結晶ダイヤモンドを使用することにより、複雑形状の加工も行える。また、工具寿命をも長くすることができ、高い形状精度を維持した加工が可能な切削工具を提供することができる。
【0060】
さらに、上記の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドでは、ダイヤモンド中に硼素が原子レベルで分散しているため、有酸素雰囲気下で高温に晒されるダイヤモンドの表面全体にわたってほぼ均一に硼素の酸化被膜を形成することができる。このため、耐酸化性が極めて高くなり、上述の効果が顕著となる。
【0061】
絶縁性のナノ多結晶ダイヤモンドを工具に使用する場合には、ダイヤモンドの加工方法に制限がある。より詳しくは、工具として使用可能なレベルに刃先を精密に仕上げる方法として、ほぼ機械研磨に頼るしかない。そのため、絶縁性のナノ多結晶ダイヤモンドは、平面的な形状の工具にしか適用できない。具体的には、単結晶ダイヤモンドでも製造されている平面のみで構成される矩形バイトやV字形状のバイト、平面と1つの曲面で構成されるRバイト等に工具形状が限定される。回転工具としても、平面的なRバイト円弧の一部を切り取った刃先形状のボールエンドミルや、四角錐の四コーナーを切れ刃としたドリルなど、平面構成された単純形状に限定される。
【0062】
それに対し、本実施の形態の導電性ナノ多結晶ダイヤモンドの場合、耐酸化性に優れているので、様々な刃先の研磨方法を採用することができる。そのため、絶縁性のナノ多結晶ダイヤモンドの場合よりも複雑な形状の切削工具や回転工具に適用することが可能となる。
【0063】
他方、光学素子の大面積化により、金型の大型化が進んでおり、大面積金型の連続切削が可能な耐摩耗性の高い工具に対する要望も高まっている。本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、耐摩耗性にも極めて優れているので、このような工具にも適用可能である。
【0064】
また、従来、ウオータージェット用オリフィスの材質として単結晶ダイヤモンドが用いられている。しかし、単結晶ダイヤモンドでは、その結晶方位に依存して摩耗量が異なる(偏摩耗)ので、使用時間の経過にともない目的の切断幅が得られなくなるという問題がある。
【0065】
例えば単結晶ダイヤモンドの(111)面と(100)面とでは、摩耗量は大幅に異なるが、単結晶ダイヤモンド製のオリフィスは、そのオリフィス孔内面の周方向に様々な結晶方位の面を有している。そのため、使用開始当初はオリフィス孔内面が円筒形状であっても、オリフィスの使用に伴い短時間で摩耗しやすい面の摩耗が進行し、円筒形状が崩れ、オリフィス孔の内面形状が円筒形状から6角形などの多角形に拡がってしまう。その結果、上述のように目的の切断幅が得られなくなるという問題が生じる。
【0066】
上記の偏摩耗の対策として、焼結ダイヤモンドを用いることが考えられる。焼結ダイヤモンドは、ダイヤモンド粒子をコバルト等の金属バインダーを用いて焼結して作製され、ダイヤモンド粒子間には金属バインダーが存在している。しかし、金属バインダー部分がダイヤモンド粒子よりも軟らかいため、やはり短時間で摩耗が進行する。バインダーが減少すればダイヤモンド粒子の脱落も起こり、オリフィス孔が拡がり、長期間安定した切断幅が得られないという問題がある。特に、切断効率の向上を目的としたウォータージェットの場合、水に硬質粒子(アルミナ等)を添加した溶液を高圧で噴射するため、ダイヤモンド粒子よりも軟らかい金属バインダー部分は短時間で摩耗が進行し、長期間安定した切断幅が得られないという問題がある。
【0067】
また、金属バインダーを含まない多結晶ダイヤモンドとして、CVD(化学気相蒸着)法で金属製オリフィス孔の内面にダイヤモンド薄膜をコーティングする方法がある。しかし、薄膜であることや、ダイヤモンド粒子間の結合力が小さい等の理由で、摩耗が進行し易く、寿命が短いという問題がある。
【0068】
それに対し、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、多結晶であり、耐摩耗性にも極めて優れているため、上述のような偏摩耗を効果的に抑制することができる。また、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、バインダーを含まないので、バインダー部分での磨耗の進行をも回避することができる。したがって、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、ウォータージェット用オリフィスにも有用である。
【0069】
上記以外のダイヤモンド素材の適用例として、伸線ダイスの材質として単結晶ダイヤモンドを用いる例を挙げることができる。
【0070】
しかし、単結晶ダイヤモンドには、上述のような偏摩耗の問題が生じることから、単結晶ダイヤモンドを使用した伸線ダイスでは、使用時間の経過にともない目的の線径及び真円度が得られなくなるという問題がある。
【0071】
単結晶ダイヤモンド製の伸線ダイスの場合も、ウォータージェット用オリフィスの場合と同様に、ダイス孔内面は周方向に様々な結晶方位の面を有する。そのため、使用開始当初はダイス孔内面の形状が円形であっても、摩耗しやすい面の摩耗が短時間で進行し、ダイス孔内面の形状は、円形から、6角形などの多角形の形状に拡がってしまう。その結果、目的の線径及び真円度が得られなくなるという問題がある。
【0072】
上記の偏摩耗の対策として、焼結ダイヤモンドを用いることも考えられるが、ウォータージェット用オリフィスの場合と同様に、ダイス孔が拡がり長期間安定した線径及び真円度が得られないという問題がある。
【0073】
そこで、酸を使ってバインダーを除去して使用することが考えられるが、ダイヤモンド粒子同士の結合力が低いためダイヤモンド粒が脱落し、やはり目的の線径及び真円度が得られなくなるという問題がある。
【0074】
バインダーを含まない多結晶ダイヤモンドである、CVD法による多結晶ダイヤモンドを使用することも考えられるが、やはりダイヤモンド粒子間の結合力が小さいので摩耗が進行し易く、寿命が短いという問題がある。同様に、高純度グラファイトを出発物質として、8GPa以上、2200℃以上の超高圧高温下における間接加熱による直接変換焼結により得られた、バインダーを含まない多結晶ダイヤモンドを用いることも考えられるが、この場合には、耐酸化性が悪いため、摩耗が進行し易く、寿命が短いという問題がある。
【0075】
さらに、孔形状が円形以外の四角形等の多角形の伸線ダイスを製作する場合、単結晶ダイヤモンドはレーザーで加工されるため、高精度な加工は困難であった。金属バインダーを含むダイヤモンドは導電性があり放電加工が可能であるが、ダイヤモンドの粒径が大きいために、同様に高精度な加工は困難であった。
【0076】
それに対し、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、偏摩耗を効果的に抑制することができ、バインダーを含まないのでバインダー部分での磨耗の進行をも回避することができる。また、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド粒子同士の大き結合力を備え、導電性をも有し、かつ耐酸化性にも優れているので、伸線ダイスにも有用である。
【0077】
同様に、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、スクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー等の工具にも有用である。
【0078】
次に、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0079】
真空チャンバー内でメタンガスとトリメチル硼素を1:1で混合し、1900℃に加熱したダイヤモンド基材上に上記混合ガスを吹き付けた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に硼素を含有する黒鉛が堆積した。この黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。ICP元素分析によると、黒鉛中の硼素濃度は0.06質量%であった。
【0080】
上記黒鉛を、合成温度2200℃、15GPaでダイヤモンドに変換し、硼素が添加されたナノ多結晶ダイヤモンドを得た。該多結晶ダイヤモンドの結晶粒径(結晶粒の最大長さ)は、各々10〜100nmの大きさであった。X線パターンから、BCの析出は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。該ナノ多結晶ダイヤモンドから3mm×1mmの大きさの基板を切り出して該基板の電気抵抗を測定したところ、100Ωであった。
【実施例2】
【0081】
真空チャンバー内でメタンガスとホウ酸トリメチルを1:1で混合し、1900℃に加熱したダイヤモンド基材上に上記混合ガスを吹き付けた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に硼素を含有する黒鉛が堆積した。この黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。ICP元素分析によると、黒鉛中の硼素濃度は0.5質量%であった。
【0082】
上記黒鉛を、合成温度2200℃、15GPaでダイヤモンドに変換し、硼素が添加されたナノ多結晶ダイヤモンドを得た。該多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nmの大きさであった。X線パターンから、BCの析出は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。該ナノ多結晶ダイヤモンドから3mm×1mmの大きさの基板を切り出して該基板の電気抵抗を測定したところ、10Ωであった。
【実施例3】
【0083】
真空チャンバー内でメタンガスとホウ酸トリメチルを1:1で混合し、1900℃に加熱したダイヤモンド基材上に上記混合ガスを吹き付けた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に硼素を含有する黒鉛が堆積した。この黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。ICP元素分析によると、黒鉛中の硼素濃度は0.5質量%であった。
【0084】
上記黒鉛を、合成温度2200℃、8GPaでダイヤモンドに変換し、硼素が添加されたナノ多結晶ダイヤモンドを得た。該多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nmの大きさであった。X線パターンから、BCの析出は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。該ナノ多結晶ダイヤモンドから3mm×1mmの大きさの基板を切り出して該基板の電気抵抗を測定したところ、10Ωであった。
【実施例4】
【0085】
真空チャンバー内でメタンガスとホウ酸トリメチルを1:1で混合し、1900℃に加熱したダイヤモンド基材上に上記混合ガスを吹き付けた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に硼素を含有する黒鉛が堆積した。この黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。ICP元素分析によると、黒鉛中の硼素濃度は0.5質量%であった。
【0086】
上記黒鉛を、合成温度1800℃、15GPaでダイヤモンドに変換し、硼素が添加されたナノ多結晶ダイヤモンドを得た。該多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nmの大きさであった。X線パターンから、BCの析出は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。該ナノ多結晶ダイヤモンドから3mm×1mmの大きさの基板を切り出して該基板の電気抵抗を測定したところ、10Ωであった。
【0087】
<比較例1>
粒径2μm以下の純黒鉛とBCとを混合し、該混合物を2000℃で焼成して炭素中に硼素を固溶させた。黒鉛中の硼素濃度は0.5質量%であった。この黒鉛を、合成温度2200℃、15GPaで直接多結晶ダイヤモンドに変換した。ところが、該多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々1μm〜100μmの大きさであり、結晶粒サイズのばらつきは大きかった。この多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は75GPaであった。また、該多結晶ダイヤモンドから3mm×1mmの大きさの基板を切り出して該基板の電気抵抗を測定したところ、10Ωであった。
【0088】
<比較例2>
粒径2μm以下の純黒鉛を、硼素を含む溶液に12時間浸漬した後に取り出し、該黒鉛に2000℃で加熱処理を施した。熱処理後の黒鉛中の硼素濃度は0.003質量%であった。液をアルカリ性にしても、酸性にしても、有機溶媒にしても、硼素が黒鉛中に取り込まれることはほとんど無かった。
【0089】
<比較例3>
かさ密度0.8g/cmの黒鉛を用いた場合、体積変化が大きいため、合成途中に異常が生じて装置を停止せざるを得ない状況が発生する頻度が2倍以上であった。
【0090】
<比較例4>
ドーピングをしていない、高純度のグラファイトを原料に8GPaの高圧、2000℃の高温下で保持したところ、グラファイトはダイヤモンドに変換しなかった。
【実施例5】
【0091】
上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンド、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドを用いて、先端が4ポイント(4角形の平面状)のスクライブツールをそれぞれ製作した。作製されたそれぞれのスクライブツールを用いて、サファイヤ基板に負荷20gで長さ50mmのスクライブ溝を200本形成した。その後、それぞれのスクライブツールの先端部分の多結晶ダイヤモンドの摩耗量を電子顕微鏡により観察したところ、単結晶ダイヤモンド製のスクライプツールに比べて、上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンドの摩耗量が0.2倍以下に少なくなつた。
【0092】
一方、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドは、本実施例の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドに比較して耐熱酸化特性に劣るため、高温になるスクライブツール先端の摩耗量が本実施例の3倍となった。このように、上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンドをスクライブツールに使用することで、ナノ多結晶ダイヤモンドがほとんど摩耗せず、したがって工具形状の変化が小さく、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドに比して顕著な寿命を呈することを確認できた。
【実施例6】
【0093】
上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンド、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドを用いて、先端がシングルポイント(円錐状)のドレッサーを製作した。作製されたそれぞれのドレッサーを、WA(ホフイトアルミナ)砥石を用いて、湿式で、低石周速が30m/sec、切り込み量が0.05mmの条件で、磨耗させた。その後、ドレッサーの磨耗量を、高さゲージ計により測定したところ、単結晶ダイヤモンド製のドレッサーに比べて、上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンドの摩耗量が0.3倍以下に少なくなった。
【0094】
一方、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドは、本実施例の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドに比較して耐熱酸化特性に劣るため、高温になるドレッサー先端の摩耗量が本実施例の4倍となった。このように、上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンドをドレッサーに使用することで、ナノ多結晶ダイヤモンドがほとんど摩耗せず、したがって工具形状の変化が小さく、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドに比して顕著な寿命を呈することを確認できた。
【実施例7】
【0095】
上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンド、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドを用いて、直径φlmm、刃長3mmのドリル(回転工具)を作製した。作製されたそれぞれのドリルを用いて、回転数4000回転数/分、送り2μm/回転の条件で、厚さ1.0mmの超硬合金(WC―Co)製の板に孔をあけた。ドリルが磨耗または破損するまでにあけることができた孔の数は、単結晶ダイヤモンド製のドリルに比べて、5倍以上多くなった。
【0096】
一方、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドは、本実施例の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドに比較して耐熱酸化特性に劣るため、高温になるドリル先端の摩耗量が本実施例の4倍となった。このように、上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンドをドリルに使用することで、ナノ多結晶ダイヤモンドがほとんど摩耗せず、したがって工具形状の変化が小さく、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドに比して顕著な寿命を呈することを確認できた。
【実施例8】
【0097】
伸線ダイスに用いるナノ多結晶ダイヤモンドとして、添加元素が硼素で、その濃度が1×1018/cm、結晶粒径が100nmの硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドを用いた。このナノ多結晶ダイヤモンドを用いて、孔径がφ30μmの伸線ダイスを作製した。
【0098】
上記伸線ダイスを用いてダイス寿命を評価した。具体的には、孔径φ30μmのダイスがφ32μmに拡がるまでの線引時間を測定したところ、線引時間は、単結晶ダイヤモンドを用いた場合の5倍、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドを用いた場合の2倍であることが分かった。
【0099】
一方、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドは、本実施例の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドに比較して耐熱酸化特性に劣るため、高温になる線引摩擦面の摩耗量が本実施例の5倍となった。
【0100】
このように、上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンドを伸線ダイスに使用することで、ナノ多結晶ダイヤモンドがほとんど摩耗せず、したがって工具形状の変化が小さく、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドに比して顕著な寿命を呈することを確認できた。
【実施例9】
【0101】
アブレッシブウォータージェット用オリフィスに用いるナノ多結晶ダイヤモンドとして、添加元素が硼素で、その濃度が1×1019/cm、結晶粒径が200nmの硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドを用いた。このナノ多結晶ダイヤモンドを用いて、短辺150μm、長辺300μmの長方形である多角形ウオータージェット用オリフィスを作製した。
【0102】
上記ウォータージェット用オリフィスを用いて切断性を評価した。具体的には、ウォータージェット用オリフィスの長辺が400μmに拡がるまでの切断時間を測定したところ、切断時間は、金属バインダーであるCoを含み、ダイヤモンド粒径が5μmの多結晶ダイヤモンドと比べると20倍であることが分かった。
【0103】
一方、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドは、本実施例の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドに比較して耐熱酸化特性に劣るため、高温になるアブレッシブ粒子(硬質粒子)と接触する孔のダイヤ表面の摩耗量が本実施例の3.5倍となった。このように、上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンドをノズルに使用することで、ナノ多結晶ダイヤモンドがほとんど摩耗せず、したがって工具形状の変化が小さく、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドに比して顕著な寿命を呈することを確認できた。
【実施例10】
【0104】
実施例2と同様の手法で、基板上に黒鉛を堆積させた。ICP元素分析によると、ホウ素濃度は0.5質量%であった。これは、1×1021/cmの硼素濃度に相当する。この黒鉛を利用し、実施例2と同様の手法で、黒鉛から直接ナノ多結晶ダイヤモンドを得た。このナノ多結晶ダイヤモンドから3mm×1mmのサイズの基板を切り出し、電気抵抗を測定したところ、電気抵抗値は10Ωであった。
【0105】
上記の導電性ナノ多結晶ダイヤモンドを、切削工具本体に、活性ロウ材を用いて、不活性雰囲気中で接合した。多結晶ダイヤモンドの面を研磨した後、放電加工により逃げ面を切断加工して、Rバイトを作製した。比較のために、従来のCoバインダーを含む焼結ダイヤモンドを用いた工具(比較例A)を同様に放電加工により作製した。
【0106】
放電加工による刃先の稜線精度は、焼結ダイヤモンドで作製した比較例Aでは、含まれるダイヤ砥粒の粒径に依存して2〜5μm以下であったのに対し、硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンド(本発明例1)では、0.5μm以下と良好であった。また加工時間も比較例Aと同等であった。
【0107】
さらに、逃げ面を研磨により加工した硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンド工具(本発明例2)と、ノンドープナノ多結晶ダイヤモンド工具(比較例B)と、単結晶ダイヤモンド工具(比較例C)とを作製し、切削評価を行った。本発明例2と比較例Bについては、共に刃先稜線精度が0.1μm以下と精緻な刃先精度が得られた。
【0108】
なお、評価試験内容は次のとおりである。
・工具形状:コーナーR0.4mm、逃げ角11°、すくい角0°
・被削材:材質−アルミニウム合金 A390
形状−φ110×500mm U字形状4溝付
・加工方法:円筒外周断続旋削 湿式
・切削液:水溶性エマルジョン
・切削条件:切削速度Vc=800m/min、切込みap=0.2mm、送り速度f=0.1mm/rev、切削距離10km
上記の条件にて切削評価を行った後に、工具刃先を観察し、損耗状態を確認したところ、比較例Aは、逃げ面摩耗量が約45μmと大きく刃先形状が損なわれていたのに対し、本発明例1の場合、5μmの逃げ面摩耗量と良好であった。
【0109】
一方、研磨仕上げの本発明例2は、摩耗量約2μmであり、比較例Bの摩耗量3.5μm、比較例Cの摩耗量3.5μmと比較して非常に良好であり、従来のノンドープのナノ多結晶ダイヤと同等以上の耐摩耗特性を示し、工具寿命に優れることが分かった。
【0110】
また、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドを用いた場合と、硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドを用いた場合とで、その特性を比較すると、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドは、600℃以上の高温で、大気中の酸素によって燃焼してしまい、徐々に質量が減少した。そして、950℃では切削工具の変形が著しく、ナノ多結晶ダイヤモンドの8割が焼損してしまった。
【0111】
それに対し、上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンドでは、600℃〜800℃の間でもほぼ質量の減少は無く、950℃以上の温度でも、質量の損失はわずかに5〜8%であった。
【0112】
このように、上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンドを切削工具に使用した場合も、ナノ多結晶ダイヤモンドは、優れた耐磨耗性を有し、かつ高温下でも焼損せず、したがって工具形状の変化が小さく、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドに比して顕著な耐酸化性を呈することを確認できた。
【実施例11】
【0113】
ナノ多結晶ダイヤモンドの原料の合成には、まず、真空チャンバー内でメタンガスとトリメチルホウ素を4:1で混合し、1900℃に加熱したダイヤモンド基板上に吹きつけて基板上に黒鉛を堆積させた。このとき、チャンバ内の真空度は20〜30Torrであった。得られた黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。SIMS元素分析によりボロン濃度は約50ppmであった。これは、1×1019/cmの硼素濃度に相当する。
【0114】
上記の黒鉛を利用し、合成温度2200℃、15GPaで、黒鉛から直接ナノ多結晶ダイヤモンドを得た。該ナノ多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nmの大きさであった。X線パターンから、BCの析出などは見られなかった。この多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は125GPaであった。このナノ多結晶ダイヤモンドから3mm×1mmのサイズの基板を切り出し、電気抵抗を測定したところ、電気抵抗値は500Ωであった。
【0115】
上記の導電性ナノ多結晶ダイヤモンドを、切削工具本体に、活性ロウ材を用いて、不活性雰囲気中で接合し、多結晶ダイヤモンドの面を研磨した。さらに、逃げ面を研磨により加工した硼素添加多結晶ダイヤモンド工具(本発明例3)及び、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンド工具(比較例D)、単結晶ダイヤモンド工具(比較例E)を作成し、切削評価を行った。本発明例3と比較工具Dは、共に刃先の稜線精度が0.1μm以下と精緻な刃先精度が得られた。
【0116】
なお、評価試験内容は次のとおりである。
・工具形状:コーナーR0.4mm、逃げ角11°、すくい角0°
・被削材:材質−アルミニウム合金 A390
形状−φ110×500mm U字形状4溝付
・加工方法:円筒外周断続旋削 湿式
・切削液:水溶性エマルジョン
・切削条件:切削速度Vc=800m/min、切込みap=0.2mm、送り速度f=0.1mm/rev、切削距離10km
本発明例3では、摩耗量が約1.0μmであり、比較例Dの摩耗量3.5μm、比較例Eの摩耗量3.5μmと比較して非常に良好であり、本発明例3は、従来のノンドープのナノ多結晶ダイヤと同等以上の耐摩耗特性を示し、工具寿命に優れることが分かった。
【0117】
切削中の工具刃先の切削点は極めて高温になる。ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドに比べて耐酸化性に優れる硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドは、切削中の摩擦熱による熱劣化や高温下での反応摩耗の影響が極めて低いため、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドや単結晶ダイヤモンドに比べて高い性能が得られる。
【0118】
このように、上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンドを切削工具に使用した場合も、ナノ多結晶ダイヤモンドは、優れた耐磨耗性を有ししたがって工具形状の変化が小さく、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドに比して顕著な性能を呈することを確認できた。
【実施例12】
【0119】
実施例2と同様の手法で、基板上に黒鉛を堆積させた。ICP元素分析によると、ホウ素濃度は0.5質量%であった。これは、1×1021/cmの硼素濃度に相当する。この黒鉛を利用し、実施例2と同様の手法で、黒鉛から直接ナノ多結晶ダイヤモンドを得た。このナノ多結晶ダイヤモンドから3mm×1mmのサイズの基板を切り出し、電気抵抗を測定したところ、電気抵抗値は10Ωであった。
【0120】
上記の導電性ナノ多結晶ダイヤモンドを、工具本体に、活性ロウ材を用いて、不活性雰囲気中で接合した。多結晶ダイヤモンドの面を研磨した後、放電加工により逃げ面を切断加工し、ねじれ形状の切れ刃2枚を持つφ0.5mmのボールエンドミル(本発明品4)を作製した。比較のために、従来のCoバインダーを含む焼結ダイヤモンドを用いた工具(比較例F)を同様に放電加工により作製した。
【0121】
放電加工による刃先の稜線精度は、焼結ダイヤモンドで作製した比較例Fでは、含まれるダイヤ砥粒の粒径に依存して、2〜5μm程度であったのに対し、硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンド(本発明品4)では0.5μm以下と良好であった。さらに、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドを用いて、レーザ加工により同形状のエンドミルを作製し、逃げ面を局所的に研磨加工し、刃先品位を仕上げた(比較例G)。
【0122】
なお、評価試験内容は次のとおりである。
・工具形状: φ0.5mm 2枚刃 ボールエンドミル
・被削材:材質−STAVAX
・切削液:白灯油
・切削条件:工具回転速度20000rpm、切込みap=0.005mm/ピッチ、送り速度f=100mm/min
上記の条件にて切削評価を行ったところ、本発明品4の工具寿命は、比較例Fの5倍以上、比較例Gの1.5倍以上であり、非常に良好であった。
切削中の工具刃先の切削点は極めて高温になる。ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドに比べて耐酸化性に優れるホウ素添加ナノ多結晶ダイヤモンドは、切削中の摩擦熱による熱劣化や反応摩耗の影響が極めて低い為、高硬度金型材の切削においてもノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドや単結晶ダイヤモンドに比べて高い性能が得られる。
【0123】
このように、上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンドを回転工具に使用した場合も、ナノ多結晶ダイヤモンドは、優れた耐磨耗性を有ししたがって工具形状の変化が小さく、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドに比して顕著な性能を呈することを確認できた。
【実施例13】
【0124】
実施例2と同様の手法で、基板上に黒鉛を堆積させた。ICP元素分析によると、ホウ素濃度は0.5質量%であった。これは、1×1021/cmの硼素濃度に相当する。この黒鉛を利用し、実施例2と同様の手法で、黒鉛から直接ナノ多結晶ダイヤモンドを得た。このナノ多結晶ダイヤモンドから3mm×1mmのサイズの基板を切り出し、電気抵抗を測定したところ、電気抵抗値は10Ωであった。得られた多結晶体より放電加工により、直径3mm、厚さ0.8mm、刃先開角度120°のスクライブホイールを製作して、ガラス基板をスクライブ評価した。その結果、本実施例のタイヤモンド多結晶体は250km程度の長距離をスクライブできた。
【0125】
比較のために、ノンドープの多結晶ダイヤモンドと、単結晶ダイヤモンドにより同形状のスクライブホイールを作成し、同様にガラス基板をスクライブ評価したところ、ノンドープの多結晶ダイヤモンドでは、本実施例のダイヤモンド多結晶体とほぼ同等の240kmをスクライブできたが、単結晶ダイヤモンドでは1/3の距離しかスクライブできなかった。
【0126】
一方、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドは、本実施例の硼素添加ナノ多結晶ダイヤモンドに比較して耐熱酸化特性に劣るため、高温になるスクライブホイール外周の摩耗量が本実施例の1.5倍となった。このように、上記実施例のナノ多結晶ダイヤモンドをスクライブホイールに使用することで、ナノ多結晶ダイヤモンドがほとんど摩耗せず、したがって工具形状の変化が小さく、ノンドープのナノ多結晶ダイヤモンドに比して顕著な寿命を呈することを確認できた。
【0127】
さらに、本実施例のナノ多結晶ダイヤモンドを様々な工具に適用することで、優れた工具寿命、耐磨耗性、耐酸化性等を発揮することも確認できた。
【0128】
しかし、上記以外の範囲の条件であっても、特許請求の範囲に記載の範囲であれば、優れた特性を有するナノ多結晶ダイヤモンドを作製できるものと考えられる。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の実施の形態および実施例を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0129】
1 ナノ多結晶ダイヤモンド、2 基材、3 III族元素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素と、
前記炭素中に原子レベルで分散するように添加されたIII族元素と、
不可避不純物とで構成され、
結晶粒径が500nm以下である、多結晶ダイヤモンド。
【請求項2】
前記III族元素は、置換型の孤立原子として前記炭素中に分散する、請求項1に記載の多結晶ダイヤモンド。
【請求項3】
前記III族元素の濃度は、1×1014/cm以上1×1022/cm以下である、請求項1または請求項2に記載の多結晶ダイヤモンド。
【請求項4】
前記多結晶ダイヤモンドは、1500℃以上の温度で、前記III族元素を含むガスと炭化水素ガスとの混合ガスを熱分解して得られた黒鉛を焼結することで作製される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
【請求項5】
III族元素が炭素中に原子レベルで分散するように添加された黒鉛を準備する工程と、
高圧プレス装置内で前記黒鉛に熱処理を施して前記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程と、
を備えた、多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項6】
前記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、焼結助剤や触媒を添加することなく、前記高圧プレス装置内で前記黒鉛に熱処理を施す、請求項5に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項7】
前記黒鉛を準備する工程は、前記真空チャンバ内に前記III族元素を含むガスと炭化水素ガスとの混合ガスを導入し、1500℃以上の温度で前記混合ガスを熱分解して基材上に黒鉛を形成する工程を含む、請求項5または請求項6に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項8】
前記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、前記基材上に形成された前記黒鉛に8GPa以上の高圧下で1500℃以上の熱処理を施す、請求項7に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項9】
前記混合ガスを、前記基材の表面に向けて流すようにした、請求項7に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項10】
前記炭化水素ガスは、メタンガスである、請求項5から請求項9のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いたスクライブツール。
【請求項12】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いたスクライブホイール。
【請求項13】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いたドレッサー。
【請求項14】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いた回転工具。
【請求項15】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いたウォータージェット用オリフィス。
【請求項16】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いた伸線ダイス。
【請求項17】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いた切削工具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−28500(P2013−28500A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165749(P2011−165749)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】