多色表示装置
【課題】良好な視野角特性を備えながら、表示装置の基板作製の負荷が小さく、装置作製のスループットが高い多色表示装置を提供する。
【解決手段】各発光色の画素内部で光学距離の異なる領域40、41が設定されるように、全ての画素について共通に、反射電極層を構成する透明導電層25、26の厚さを二種類の異なる厚さに形成し、さらに緑色画素(もしくは青色画素)について、白色表示に対する視野角色ずれが最小となるように、前記光学距離の異なる領域40、41の面積比が決定されると共に、青色画素(もしくは緑色画素)では、青色単色(もしくは緑色単色)の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きく、赤色画素では、赤色単色の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きくなるように設定されている。
【解決手段】各発光色の画素内部で光学距離の異なる領域40、41が設定されるように、全ての画素について共通に、反射電極層を構成する透明導電層25、26の厚さを二種類の異なる厚さに形成し、さらに緑色画素(もしくは青色画素)について、白色表示に対する視野角色ずれが最小となるように、前記光学距離の異なる領域40、41の面積比が決定されると共に、青色画素(もしくは緑色画素)では、青色単色(もしくは緑色単色)の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きく、赤色画素では、赤色単色の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きくなるように設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層を含む有機化合物層に電圧を印加して発光する有機発光素子(有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子)を用いた表示装置に係り、詳しくは、2以上の異なる発光色を示す有機発光素子を備えた多色表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極との間に、発光層を含む有機化合物層を備えている。なお、以下の説明において、有機発光素子を単に「発光素子」もしくは「素子」と表記することもある。
【0003】
図15は、一般的な有機発光素子の積層構造を示す模式図である。図15において、有機発光素子は、基板1の上に、反射層2、陽極(透明導電層)3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、半透明層8及び陰極(透明電極)9を順に備えている。この有機発光素子に電流を流すことで、陽極9から注入されたホールと陰極3から注入された電子が、発光層5において再結合する。この再結合の際に生じるエネルギーによって発光層5の発光材料が励起状態になり、この発光材料が基底状態に戻る際にエネルギーを光として放出して発光する。
【0004】
このような有機発光素子では発光の一部が反射される。これにより、有機発光素子の内部で特定の波長の光が共振して強められる光学干渉効果が顕著に現れる。
【0005】
具体的には、基板1上の反射層2と半透明層8の反射界面との間で共振器構造が構成される。ここで、反射層2と半透明層8の反射界面との間の光学距離をL、共振波長をλ、素子からの発光を視認する角度をθ(素子に正対して視認する場合を0°)とする。また、上下の各電極3、9にて発光が反射する際の位相シフトの和をφ(rad)、光学干渉の次数をmとした場合、各パラメータ間に下記式(1)を満足する関係があると、共振による発光の強め合いが生じる。
【0006】
つまり、発光層5を光励起して生じる発光スペクトル(PLスペクトル)の最大ピーク波長と共振波長とを合わせると、素子から出射される発光スペクトルの最大ピーク波長の強度を高めることができる。以下、「PLスペクトル」と区別するため、素子から出射される発光スペクトルを「ELスペクトル」と呼ぶ。
【0007】
λ=2Lcosθ/(m−φ/2π) (mは正の整数)・・・(1)
【0008】
式(1)において、光学距離Lは、各層の屈折率(n)と膜厚(d)を掛け合わせた値(nd積)の和である。また、実際に各電極にて発光が反射する際、反射界面を構成する電極材料及び有機材料の組み合わせにより、位相シフトの和φは変化する。各層の屈折率(n)は、例えば、分光エリプソメーター等を用いて測定することができる。
【0009】
式(1)より、強め合いの最大ピーク波長(共振波長)λは光学距離Lにより変化する。また、素子に対して視認する角度(視野角)θが大きくなるとcosθ値が減少し、共振波長λが短波長側にシフトする。そのため、光学距離Lを有する素子を観察する視野角を大きくしていくと、共振波長が発光層の発光スペクトル(PLスペクトル)の最大ピーク波長からずれていき、その結果、ELスペクトルの最大ピーク波長が強められない。さらには、最大ピーク波長が弱められることになり、視野角が大きくなる程暗く見えるという問題があった。
【0010】
さらに、視野角が大きくなる場合、cosθ値の減少に伴い、共振波長λが短波長側にシフト(ブルーシフト)するため、発光素子の色みが変わって見えることも問題であった。
【0011】
そこで、1つの発光素子内部に光学距離の異なる部分を設け、視野角特性が異なる発光を組み合わせることで、視野角による特性変化を平均化、緩和した有機発光素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1には、発光素子内部の光学距離を変更して、例えば、視野角0度における共振波長と次数をそれぞれ510nm/m=2,570nm/m=1に設定した緑色発光素子が開示されている。また、1つの発光素子内部において、光学距離の異なる領域の面積比を最適化し、視野角依存性を低減させた有機発光素子が開示されている。さらに、これらの有機発光素子を発光画素としたエレクトルミネセンスパネルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−32327号公報(段落番号[0036]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1のエレクトロルミネッセンスパネルを構成する有機発光素子は、それぞれの色毎に視野角依存性を低減するように、画素内における光学距離や、光学距離の異なる領域の面積比を最適化している。
【0014】
上述したように、有機発光素子は、基板上の反射層とその上方の半透明層の反射界面との間に共振器構造が形成される。ところが、発光を生じる発光層が、この反射層と半透明層との間に設けられていることから、発光の共振に関わる光学距離としては、主に、発光層から反射層までの光学距離と、反射層から半透明層の反射界面までの光学距離の二種類が影響する。この二種類のパラメータにより、有機発光素子の光学特性を調整することができる。
【0015】
そのため、複数の発光色の有機発光素子を備える表示装置では、各色毎に少なくとも二種類の光学特性調整のパラメータがあると、各色毎に個別に発光特性を最適化することが好ましい。
【0016】
このような光学距離の変化は、反射層上の透明導電層や、各有機化合物層、その上部の半透明層の膜厚や材料を変更することで調整可能である。特許文献1に記載の有機発光素子では、素子の基板側に設ける透明電極の膜厚を二種類にし、かつその発光面積も調整して光学距離を調整している。そのため、例えば、RGB3色のフルカラーパネルを特許文献1の技術により実現しようとすると、1つのパネルに少なくとも6種類以上の異なる厚さの透明電極が必要となる。
【0017】
このように1画素内にある透明電極の膜厚を変更するには、例えば、フォトリソグラフィーなどの手法を用いるが、その際、作製する膜厚の種類の数に相当するフォトリソグラフィー工程数が必要となる。
【0018】
よって、特許文献1に記載の有機発光素子を多色表示装置の発光画素として適用しようとすると、表示装置用の基板作製の負荷が大きくなり、多色表示装置作製のスループットが低下するという問題があった。
【0019】
さらに、特許文献1はRGBの各色の色度の視野角特性を良化するもので、RGBを合成した色(例えば、白)の色度の視野角特性を必ずしも良化するものではない。RGBの合成色は、RGBの各色度および輝度により決まるもので、色度変化が小さくても輝度変化がRGBごとに異なれば合成色としては視野角特性が悪化する。逆に、色度変化が各色で大きくても輝度変化を調整して合成色の色度の視野角特性を良化することは可能である。
【0020】
本発明は、上記の課題に鑑み、良好な視野角特性を備えながら、表示装置の基板作製の負荷を小さくし、装置作製のスループットを高めることができる多色表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成すべく成された本発明の構成は以下の通りである。
【0022】
即ち、本発明に係る多色表示装置は、基板の上に、少なくともR(赤色)、G(緑色)、B(青色)を含む多色の有機発光素子からなる複数の画素を配置し、該有機発光素子は、反射電極層と半透明電極層との間に発光層を含む有機化合物層を有する多色表示装置であって、
各発光色の画素内部で光学距離の異なる領域が設定されるように、全ての画素について共通に、上記反射電極層を構成する透明導電層が二種類の異なる厚さを有し、
さらに緑色画素(もしくは青色画素)について、白色表示に対する視野角色ずれが最小となるように、前記光学距離の異なる領域の面積比が決定されると共に、
青色画素(もしくは緑色画素)では、青色単色(もしくは緑色単色)の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きく、赤色画素では、赤色単色の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きくなるように設定されていることを特徴とする多色表示装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、表示装置上にある全ての画素において、反射電極層を構成する透明導電層の厚さを二種類の異なる厚さに形成したので、従来の表示装置に比べて工程数が少なくなる。
【0024】
また、緑色画素(もしくは青色画素)について、白色表示に対する視野角色ずれが最小となるように、前記光学距離の異なる領域の面積比が決定される。さらに青色画素(もしくは緑色画素)では、青色単色(もしくは緑色単色)の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きく、赤色画素では、赤色単色の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きくなるように設定されている。したがって、良好な視野角特性を備えながら、表示装置の基板作製の負荷を小さくし、装置作製のスループットが高い多色表示装置を実現できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る多色表示装置の一実施形態の積層構造を示す模式図である。
【図2】緑色発光画素の視野角による色度変化特性を示す説明図である。
【図3】青色発光画素の視野角による色度変化特性を示す説明図である。
【図4】緑色の画素内部での透明導電層膜厚の異なる領域の面積割合をそれぞれ異ならせた場合の色度変化量δxyを示す説明図である。
【図5】青色の発光画素における、緑画素と同様な面積割合と合成光の色度変化量δxyの関係を示す説明図である。
【図6】赤色の発光画素における、緑画素と同様な面積割合と合成光の色度変化量δxyの関係を示す説明図である。
【図7】透明導電層10nmの緑色の発光画素におけるm=2、1の視野角による共振波長変化を示す説明図である。
【図8】透明導電層125nmの場合のm=3、2の視野角による共振波長変化を示す説明図である。
【図9】透明導電層の厚さ24nm、165nmの表示装置における緑色発光画素の視野角による色度変化特性を示す説明図である。
【図10】透明導電層の厚さ24nm、165nmの表示装置における緑色の画素内部での透明導電層膜厚の異なる領域の面積割合をそれぞれ異ならせた場合の色度変化量δxyを示す説明図である。
【図11】透明導電層の厚さ24nm、165nmの表示装置における青色の発光画素における、緑画素と同様な面積割合と合成光の色度変化量δxyの関係を示す説明図である。
【図12】本実施形態の多色表示装置の画素配置の一例を示す概略図である。
【図13】本実施形態の多色表示装置の画素配置の一例を示す図である。
【図14】本実施形態の多色表示装置の画素配置の一例を示す図である。
【図15】一般的な有機発光素子の積層構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、説明の都合上から、図面では各層を認識可能な大きさで表しており、図面の縮尺は実際のものとは異なっている。また、本明細書で特に図示または記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知または公知技術を適用する。
【0027】
図1は、本発明に係る多色表示装置の一実施形態の積層構造を示す模式図である。なお図1において、同一の名称の層が2層の積層構成である場合、説明上の便宜から、その2層の各層にA、Bの符号を付して説明している。
【0028】
本実施形態で例示する多色表示装置は、基板20の上に、少なくともR(赤色)、G(緑色)、B(青色)を含む多色の有機発光素子からなる複数の発光画素を配置したトップエミッション型のアクティブマトリックス表示装置である。具体的には、本実施形態の多色表示装置は、RGBの発光画素を備え、各発光色の有機発光素子は、反射電極層と半透明電極層との間に発光層を含む有機化合物層を有する共振器構造を構成している。なお、以下の説明において単に「画素」もしくは「発光画素」と表記しているが、RGBの3色一組を主画素、R、G、Bの各発光画素を副画素とする。
【0029】
図1に示すように、基板20上に、TFT駆動回路21、平坦化膜22、コンタクトホール23、反射層24及び透明導電層A25を備えている。透明導電層A25は、RGBの各発光画素(副画素)で共通の膜厚に形成されている。さらに、各発光画素の透明導電層A25上の一部の領域には、各発光画素で共通の膜厚の透明導電層B26が形成されている。反射層24及び透明導電層A25、B26は、上記反射電極層を構成している。
【0030】
これら透明導電層A25及び透明導電層B26の上には、RGBの各発光画素で共通の膜厚の正孔輸送層A27と、各発光画素でそれぞれ膜厚が異なる正孔輸送層B28とが形成されている。すなわち、正孔輸送層A27、B28の合計膜厚は各発光色で個別に設定されている。なお、本発明においては、正孔輸送層B28は、各発光色で共通の膜厚でもよい。また、正孔輸送層B28は、発光色によっては設けない構成であってもよい。
【0031】
この膜厚が異なる正孔輸送層B28の上には、RGBの各発光画素毎にそれぞれ赤色の発光層29、緑色の発光層30、青色の発光層31が形成されている。また、RGBの異なる発光色の発光層29、30、31は、個別の膜厚に設定されている。
【0032】
各発光層29、30、31の上には、各発光画素で共通に電子輸送層32、電子注入層33が形成されている。この電子注入層33上に、上記半透明電極層を構成する電極A34及び電極B35が形成されている。
【0033】
また、RGBの各発光画素の間には、各色を離間する素子分離膜36が形成されている。このように形成された多色発光素子の上には、乾燥窒素が充填される封止空間37を介して、封止部材38が形成されている。
【0034】
この多色の有機発光素子では、透明導電層A25及び透明導電層B26を陽極とし、電極A34及び電極B35を陰極として、電流を流す。すると、透明導電層A25及び透明導電層B26から正孔輸送層A27及び正孔輸送層B28へ注入された正孔と、電極A34及び電極B35から電子注入層33へ注入された電子とが、各色の発光層29、30、31まで移動して再結合する。この再結合の際に生じるエネルギーによって発光層29、30、31の発光材料が励起状態になり、発光材料が基底状態に戻る際にエネルギーを光として放出し、素子が発光する。このとき生じた発光は、電極A34及び電極B35を通じて素子の外部へと出射される。
【0035】
本実施形態の多色表示装置は、このような多色の有機発光素子が基板20上にマトリクス状に複数配置されている。基板20は、特に限定されないが、金属、セラミックス、ガラス、石英等が用いられる。また、基板20としてプラスティックシート等のフレキシブルシートを用いることにより、フレキシブルな表示装置を形成することも可能である。
【0036】
反射層24としては、透明導電層A25との界面における可視光の波長域における反射率が少なくとも50%以上、好ましくは、80%以上となる材料からなる層が望ましい。この条件を満たす材料としては、例えばアルミニウム、銀、クロム等の金属や、それらの合金が挙げられる。また、反射層24は金属のような導電性部材で構成される必要はなく、誘電体多層膜ミラーのような絶縁性部材を反射層として用いることもできる。
【0037】
透明導電層A25及び透明導電層B26としては、例えば金属酸化物導電膜、具体的には、インジウム錫酸化物(ITO)膜や、インジウム亜鉛酸化物(IZO(商標))膜等を用いることができるが、これらに限定されない。なお、透明とは、可視光に対して70%以上100%以下の透過率を有することを意味する。透明であることを満たす透明導電層A25及び透明導電層B26の条件としては、消衰係数のκが0.05以下、好ましくは0.01以下となることが、透明導電層A25及び透明導電層B26で発光した光が減衰されることを抑制する観点で好ましい。
【0038】
透明導電層A25及び透明導電層B26は、例えばスパッタリング法等により成膜できるが、これに限定されない。また、発光画素内部の一部の領域に透明導電層A25のみを成膜し、他の領域に透明導電層A25及び透明導電層B26を成膜することは、例えば、汎用のフォトリソグラフィー法を用いることにより対応可能である。なお、必要に応じ、透明導電層A25及び透明導電層B26の段差となっている部分に絶縁性の樹脂部材を設けてもよい。このように構成することにより、段差部分で発光素子の透明導電層と電極A34とが短絡することを回避できる。
【0039】
正孔輸送層A27、B28、赤色の発光層29、緑色の発光層30、青色の発光層31、電子輸送層32、電子注入層33に用いる有機化合物は、低分子材料もしくは高分子材料で構成しても、あるいは両者で構成してもよく、特に限定されない。また、必要に応じて公知の材料が使用できる。
【0040】
図1では、5層型(正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層)の有機化合物層を例示している。これに限定されず、有機化合物層は単層型(発光層)、2層型(正孔輸送層/発光層)、3層型(正孔輸送層/発光層/電子輸送層)、4層型(正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層)のいずれの構成でもよい。また、有機化合物層の層数や積層順は、電極の構成によって適宜決定される。
【0041】
有機化合物層は、一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマ、あるいは適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、インクジェット法等)により形成される。
【0042】
電子注入層33としては、例えばフッ化リチウムや、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の一般に用いられる電子注入材料を用いることができる。また、電子輸送性の有機化合物材料に、アルカリ金属やアルカリ土類金属もしくはその化合物を0.1%以上数十%以下含有させて電子注入層33とすることもできる。その際、電子注入層33の膜厚を10〜100nm程度に設定すると、その後に形成する電極A34及び電極B35の成膜ダメージを緩和できるので好ましい。
【0043】
電極A34及び電極B35は、発光層29、30、31で発光した光を素子外に取り出すために、光透過性を有している必要がある。また、電極A34に薄膜金属電極を適用して半透明電極層となるように構成すれば、基板側に設けた反射層24との間で共振器構造が形成されるので好ましい。本実施形態では、電極A34が半透明電極層である構成を採用し、反射層24と半透明電極層A34との間に、複数の光透過層と発光層29、30、31を有する。金属薄膜を電極A34として用いる場合、透過率の観点から、膜厚は5nm以上30nm以下、好ましくは5nm以上20nm以下であることが望ましい。さらに、電極A34は、金属酸化物導電膜と金属薄膜との2層構成であってもよい。
【0044】
また、電極B35としては、透明導電層A25及び透明導電層B26と同様に金属酸化物導電膜を用いることができる。金属酸化物導電膜を用いる場合、電極B35の膜厚は10nm以上1000nm以下、好ましくは30nm以上300nm以下の範囲で設定すると、電極のシート抵抗及び透過率の観点から望ましい。電極A34で十分な抵抗が得られていれば、電極B35は必須ではない。これらの電極A34及び電極B35は、例えば、スパッタリング等の公知の方法で成膜することができる。これらの電極A34及び電極B35の上に光学調整層などの層を形成してもよい。
【0045】
封止としてガラス、金属のような材料で気体を封入して封止することに代えて、無機材料もしくは有機材料、またはそれらの多層膜で直接覆って封止してもよい。封止部材38は、素子を外部環境の酸素や水分より保護する目的で設けられ、例えばガラス、気体不透過性フィルム、金属等を用いることができる。また、防湿性能を高めるために、封止空間37内に吸湿材(不図示)を配置してもよい。
【0046】
さらに、封止部材38と有機発光素子との間の封止空間37に乾燥窒素を充填する代わりに、保護膜を素子に直接成膜するようにしてもよい。この保護膜としては、例えば窒化シリコン、窒化酸化シリコン等の金属窒化物膜や、酸化タンタル等の金属酸化物膜、ダイヤモンド薄膜、樹脂膜等を単一の膜または複数の膜として用いることができる。この場合、より薄い有機発光素子が得られるので、特に好ましい。
【0047】
図1の透明導電層A25とB26は、積層順序を逆にしてもよい。あるいは、透明導電層A25とB26の積層順序を逆にして、下に位置している透明導電層B26を絶縁性透明膜にしてもよい。この場合、アノード側からのホールは、上に位置した透明導電層A25によって供給される。
【0048】
続いて、本発明に係る多色表示装置の発光特性について説明する。下記表1は、本実施形態の多色表示装置を構成する各層の膜厚を示している。
【0049】
【表1】
【0050】
本実施形態の多色表示装置は、各発光画素内に、透明導電層の膜厚を10nmと、125nm(10+115nm)との二種類の厚さに形成している。正孔輸送層B及び発光層の膜厚は、発光色毎に変化させているが、それ以外の正孔輸送層A、電子輸送層、電子注入層、電極A及び電極Bの膜厚は、発光色によらず共通である。また、透明導電層の上に、形成する有機化合物層及び電極は、発光色毎に同一の膜厚で形成している。そのため、光学特性調整の自由度としては、RGBの個別膜厚3種類、追加する透明導電層膜厚、及び各色共通層の膜厚があり、表示装置の光学特性調整パラメータは合計5種類となる。
【0051】
各発光画素内部には、透明導電層の膜厚が異なる領域が形成されているため、画素内部における透明導電層が厚い領域と薄い領域とでは、反射層と電極A及び電極Bとの間に形成される共振器構造の光学距離が異なる。そのため、既述した式(1)で示される共振波長λが変化し、各発光画素内部における透明導電層が厚い領域と薄い領域とから生じる発光特性は異なる。
【0052】
下記表2には、各色発光画素において、透明導電層が10nm、125nmのそれぞれの領域における発光の色度を示す。表2に示すように、透明導電層の膜厚の違いにより共振器構造の光学距離が異なり、共振波長が変化するため、発光画素内部のそれぞれの領域における発光の発光色度が異なる。
【0053】
【表2】
【0054】
ところで、解像度にもよるが、一つの発光画素は、対角3インチ、QVGA解像度の表示装置の場合は約190μm程度、VGA解像度の表示装置の場合は約95μm程度と微小である。そのため、一つの発光画素より視認される発光特性としては、それぞれの領域の発光特性を合成したものと同等である。このような各発光画素における合成色度(x,y)は、色度座標と明るさがそれぞれ(x1,y1,Y1)と(x2,y2,Y2)の場合、下記数1の式により求められる。
【0055】
【数1】
【0056】
下記表3には、各色発光画素におけるそれぞれの領域の発光特性を画素内での面積比1:1で合成した場合における各色発光画素の合成色度を示している。
【0057】
【表3】
【0058】
表3に示すように、各発光画素の合成特性は、各発光画素内部のそれぞれの領域における発光特性により決定される。
【0059】
図2は、緑色発光画素の視野角(0〜85°)による色度変化特性を示す説明図である。透明導電層10nmの領域では、正面の色度座標(0.265,0.680)から視野角を傾けるにつれて、色度図上において左方向に色度が変化する。一方、透明導電層125nmの領域では、正面色度座標(0.177,0.734)から、色度図上において、左回りに色度が変化する。また、それらを1:1で合成した合成色度は、色度座標(0.230,0.702)から、色度図上において、左方向に色度が変化する。
【0060】
この合成光の視野角による色度変化量を、下記数2より算出される色度変化量δxyにより評価する。色度変化量δxyは、装置を正面から観測した場合の色度と、装置を視野角50度から観測した場合の色度の変化量を示す。下記数2において、(x0,y0)は装置を正面から観測した時の色度、(x50,y50)は装置を視野角50度から観測した時の色度である。
【0061】
【数2】
【0062】
図3は、青色発光画素の視野角による色度変化特性を示す説明図である。青色発光画素は、緑色発光画素と共に、表示装置の白色表示に対して視野角色ずれの影響が大きい。青色発光画素の色度変化特性は、左下から円弧を描くように右上がりに変化していることが判る。
【0063】
図4は、緑色の画素内部での透明導電層膜厚の異なる領域の面積割合をそれぞれ異ならせた場合の色度変化量δxyを示す説明図である。図4の色度変化曲線に示すように、透明導電層膜厚の異なる領域の面積割合を調整することにより、合成光の、即ち発光画素の視野角特性を調整することが可能となる。また、面積割合を調整した合成光の色度変化量は、透明導電層が10nm、125nmの面積割合を100%とした場合のそれぞれの色度変化量0.085,0.164よりも小さくすることができる。
【0064】
図5は、青色の発光画素における、緑画素と同様な面積割合と合成光の色度変化量δxyの関係を示す説明図である。図5に示すように、青色画素では、透明導電層が125nmの面積割合が増加するにつれて、色度変化量δxyが一様に増加する。
【0065】
このように、光学距離が異なる領域面積割合を変化させ、視野角による発光色の変化を調整することが可能である。そこで、この面積割合を表示装置の光学特性を調整するパラメータとして取り入れ、本実施形態の表示装置では、先の膜厚による5つの調整パラメータと合わせて、合計6種類の調整パラメータを得た。
【0066】
ところで、本実施形態のような多色表示装置は、主に、テレビジョンや携帯電話、デジタルカメラや、ビデオカメラ等のディスプレイとして使用される。そのような使用用途では、各発光画素を単独で発光させ原色表示させるような使い方よりも、各色発光画素からの光を加法混色して、例えば、白色や肌色等の中間色を表示させるような使い方が一般的である。例えば、RGBの3色を加法混色した合成発光の色度(x,y)は、各発光画素の発光色度と明るさをそれぞれR(x1,y1,Y1)、G(x2,y2,Y2)、B(x3,y3,Y3)とすると数3より算出される。
【0067】
【数3】
【0068】
上述したように、本実施形態の多色表示装置では、6種類の調整パラメータにより、白色表示時の視野角色ずれが少なくなるようにする。より具体的には、二種類の透明導電層厚さと、各色個別層、各色共通層厚さ、及び各発光画素において光学距離の異なる領域の面積割合調整により、白色表示の視野角色ずれを軽減する。
【0069】
また本実施形態では、緑色発光画素について、2つの領域からの発光の合成により、発光画素トータルの視野角色ずれを小さくする面積割合に設定する。さらに、青色発光画素については、透明導電層10nmの色度変化量δxyが、透明導電層125nmに比べ小さく、透明導電層10nmの面積割合を多く設定すると、青色発光画素トータルの視野角色ずれを小さくできる。そこで、透明導電層10nmの領域が多くなるように設定する。
【0070】
なお、面積割合は、必ずしも発光色毎の視野角色ずれを極小になるように設定する必要はなく、表示装置の白色表示の視野角色ずれが少なくなる観点で面積割合を選択する。
【0071】
本実施形態では、各色発光画素内部で、透明導電層10nmと125nmの領域の面積割合を下記表4のように設定した。
【0072】
【表4】
【0073】
このとき、各色発光画素の輝度比を、赤:緑:青=27.8:64.4:7.8に設定し、表示装置を正面から視認した際に、色温度6500kに相当する白色を表示するように調整した。赤色の各色個別層、面積比は、白色表示における視野角の色度変化が最小になるように調整するため、上述したように赤単色の色度の視野角特性は最小化するわけではない。この表示装置を視野角50度までの色ずれ量をu’v’色空間での変化量δu’v’として算出すると、0.0009と非常に小さな値を示した(後述する実施例1の表10参照)。
【0074】
一般にu’v’空間において許容される色変化量δu’v’は、0.02程度であるため、本実施形態の表示装置は、視野角に色ずれが大幅に抑制され、良好な視野角特性を備えた表示装置といえる。
【0075】
なお、δu’v’は、下記数4により算出される。数4において、(u’0,v’0)は装置を正面から観測したときのu’v’色空間における色度であり、(u’50,v’50)は装置を視野角50度から観測したときの色度である。
【0076】
【数4】
【0077】
また、本実施形態の緑色画素のような視野角色ずれの設定を、光学距離や面積割合を調整して、他色の発光画素に適用することも可能である。ただし、白色表示時の輝度比は、他の色の画素に比べて、緑色発光画素が高い。そのため、緑色発光画素の視野角特性は、表示装置全体の視野角特性への影響が大きいため、緑色画素をこのような設定とすることが特に好ましい。
【0078】
さらに、各画素を構成する各層の光学定数は、青色の波高波長付近で急峻に変化する。そのため、青色発光画素では、視野角を変化させると共振器構造の光学距離も、他の発光色の画素に比べて大きく変化し、視野角による特性変動が大きい。そのため、青色発光画素に、本実施形態の緑色発光画素のように、画素トータルの色ずれが少なくなるように設定してもよい。
【0079】
そして図6は、赤色画素の面積比とδxyの関係を示す説明図である。赤色画素における光学距離の異なる領域の面積比は、表示装置の白色表示における視野角色度変化が小さくなるように調整する目的で決定され、赤色画素単色の視野角特性を最適化するわけではない。即ち、図6に示すように、緑色画素、青色画素の色ずれとの兼ね合いから、赤色画素では必ずしもδxyが最小になっていない。
【0080】
なお、このような各色発光画素の面積割合の変更は、画素内部に透明導電層の異なる領域を形成するフォトリソグラフィー工程で同時に行うことができる。したがって、特別な工程を追加することなく、1つの工程の追加で2つの調整パラメータを増やすことができるため、好ましい。
【0081】
また、本実施形態のような透明導電層や、発光画素内部の面積割合を変えずに、例えば、有機化合物層を発光色毎に正孔輸送層B28、発光層以外の膜厚を変更して調整パラメータを増やすことも可能である。しかし、必要パラメータの数だけ、例えば、マスク蒸着等が必要となるため、表示装置作製のスループットの観点で課題となる。
【0082】
ここで、本実施形態において、透明導電層として10nmと125nmの膜厚を選択したのは、異なる次数の光学干渉条件を適用するためである。即ち、既述した式(1)において、素子内部での光学干渉効果によって強められる波長λは、光学距離L、視認角度θ(素子に正対する場合を0°)、光の反射界面での位相シフトの和φといった素子の構造パラメータ、及び光学干渉の次数mにより定まる。なお、これらの光学定数は、例えば分光エリプソメーター等を用いて測定することができる。
【0083】
反射界面での位相シフトφは、界面を形成する2つ層の材料のうち、光が入射する側にある材料を媒質I、他方の材料を媒質IIとし、それぞれの光学定数を(n1,k1)、(n2,k2)とすると、下記式(2)の関係式で表すことができる。
【0084】
φ=tan-1(2n1k2/(n12−n22−k22))・・・(2)
【0085】
本実施形態の多色表示装置において、例えば、各層の屈折率を有機化合物層1.85、光透過層(透明導電層)1.92、陽極の屈折率0.12、消衰係数を3.46とする。この場合、上記表1の膜厚を用いて発光層内部の発光領域と陽極との間で生じる光学干渉の共振波長を上記式(1)の関係式より算出する。光透過層(透明導電層)厚さ10nmの共振波長を下記表5に、厚さ125nmの共振波長を下記表6に示す。
【0086】
なお、下記表5及び表6の共振波長の計算では、発光層内部での発光領域を、赤色発光画素では発光層中央部、緑色及び青色発光画素では発光層−電子輸送層界面とし、発光領域と陽極間の光学距離をLとする。
【0087】
【表5】
【0088】
【表6】
【0089】
表5及び表6より、光学干渉の共振波長は、各有機化合物層や、透明導電層の膜厚、光学干渉の次数、また視野角により変化する。
【0090】
表5におけるm=2条件と、表6におけるm=3条件は、共振波長の差異が18〜67nm程度であり、略同等な光学干渉条件になっている。
【0091】
本実施形態では、正孔輸送層Bを除き有機化合物層の膜厚が同一であるが、光学干渉の次数が異なり、かつ、その共振波長が同等となるように、透明導電層の膜厚を設定する。
【0092】
また、視野角による共振波長の変化について考えてみる。透明導電層の厚さにより、共振波長の変化が異なる。例えば、透明導電層10nmの緑色の発光画素におけるm=2、1の視野角による共振波長変化を図7に示す。また、同様に透明導電層125nmの場合のm=3、2の視野角による共振波長変化を図8に示す。
【0093】
装置正面において、491nm(図7 m=2条件)、473nm(図8 m=3条件)にあった共振波長は、視野角の変化とともに短波長にシフトする。いずれも約30度以上の視野角領域では、その共振波長は、可視の波長領域よりも短波長となる。さらに、視野角が30度以上の領域では、正面よりも次数が低いm=1条件(図7)、m=2条件(図8)の共振波長が、緑色の波長領域(500〜600nm)にオーバーラップするようになる。そのため、視野角30度までの領域では、より次数の高い条件の共振波長変化に応じて、また、30度以上の領域では、正面よりも次数の低い条件の共振波長変化に応じて、色度が変化する。
【0094】
この正面よりも次数の低い共振波長の影響は、透明導電層を125nmとした場合により顕著で、上記図2に示した透明導電層125nmの色度変化は、このような高次、低次の干渉条件の組み合わせにより生じる。
【0095】
一方、透明導電層10nmの場合は、正面よりも次数の低い干渉条件の影響が軽微であり、その色度変化は、主にm=2条件の共振波長が視野角とともに短波長側へシフトする影響による。そのため図2において、右から左へと色度が一様に変化する様子を示す。
【0096】
そのため、透明導電層10nmの素子と透明導電層125nmの素子を混色して得る合成光の色度は、視野角により色度が、それぞれが略反対方向に変化する二種類の素子を混合していることから、合成色としての色度変化を少なくできる。
【0097】
また、透明導電層の膜厚としては、共振波長が上記の関係を満たしていればよく、10nm、125nmの以外の組み合わせでもよい。ただし、二種類の素子を混色して得る合成光の色度を小さくするためには、視野角により色度がそれぞれ略反対方向に変化する二種類の素子となるような組み合わせでないと効果はない。したがって、数値を限定するのは困難であるが、透明導電層としては10nm乃至200nmが製造容易性・小型化の観点から好ましい。
【0098】
例えば、下記表7のような積層構成でも、上記と同等の特性を得ることができる。
【0099】
【表7】
【0100】
このような積層構成の表示装置の各発光色の発光画素の面積割合を下記表8に、この表示装置の各発光色の色度及び視野角50度における白色の色ずれ量δu’v’を下記表9にそれぞれ示す。
【0101】
【表8】
【0102】
【表9】
【0103】
さらに図9は、透明導電層の膜厚が24nm、165nmの場合の表示装置の緑色の発光画素における0〜80度の範囲で視野角を変化させた場合の色度変化を示す説明図である。図9に示すように、透明導電層の膜厚が24nm、165nmの表示装置は、透明導電層の膜厚が10nm、125nmの表示装置と同様の作用効果により、その合成色の色度変化を小さくすることが可能である。即ち、表7及び図9に示すように、透明導電層の膜厚、段差が異なっても同様な傾向を示している。
【0104】
図10は、表7に示した積層構成の表示装置の緑色発光画素の面積比と色度変化量δxyの特性を示す説明図である。図11は、表7に示した積層構成の表示装置の青色発光画素の面積比と色度変化量δxyの特性を示す説明図である。図10及び図11に示すように、色度変化量δxyの特性は、透明導電層の膜厚や段差(膜厚の差)が異なっても同様の傾向で現れる。
【0105】
図12から図14は、本実施形態の多色表示装置の画素配置の例示する概略図である。これらの図面において、40は光学距離が異なる領域の光学領域Aの部分、41は光学距離が異なる領域の光学領域Bの部分を示している。
【0106】
発光画素内部の光学距離が異なる領域40、41の配置は特に制限がなく、図12に示すように、光学距離の異なる領域40、41が発光画素によらず、同一面積比及び同一配置で配列されていてもよい。
【0107】
また、光学距離の異なる領域がモアレやムラを回避するように配置されていると、より好ましい。適切な配置としては、例えば、図13に示す光学距離の異なる領域40、41は、隣接する同色の画素同士の面積比及び配置を同一に維持しながら、複数の発光色を有する主画素単位(RGBの3色からなる主画素単位)で領域40、41の相互位置を交互(千鳥状)に変えることが好ましい。さらに、図14に示す光学距離の異なる領域40、41は、隣接する同色の画素同士の面積比及び配置を同一に維持しながら、異なる発光色の副画素同士で上記領域40、41の相互位置を交互(千鳥状)に変えることが好ましい。
【0108】
以上説明したように、本実施形態の多色表示装置は、表示装置上にある全ての画素において、反射電極層を構成する透明導電層A25、B25の厚さを二種類の異なる厚さ(10nm、125nm)に形成している。したがって、従来の表示装置に比べて工程数が少なくなる。
【0109】
また、緑色画素(もしくは青色画素)について、白色表示に対する視野角色ずれが最小となるように、前記光学距離の異なる領域40、41の面積比が決定している。さらに青色画素(もしくは緑色画素)では、青色単色(もしくは緑色単色)の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きく、赤色画素では、赤色単色の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きくなるように設定されている。したがって、表示装置の基板作製の負荷を小さくし、装置作製のスループットが高く、良好な視野角特性を備える多色表示装置を実現できる。
【0110】
また、図13及び図14のように、隣接画素で光学距離の異なる二種類の領域40、41を交互に配置することで、合成色の色度の視野角特性を良化でき、画質の良好な多色表示装置を実現できる。
【0111】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これは本発明の説明のための例示であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【0112】
例えば、上記実施形態では、基板20の上に陽極を形成した構成の一例を示したが、基板側より陰極、有機化合物層、陽極の順序で構成されていてもよく、電極の積層順序に特に制限はない。
【実施例】
【0113】
以下、実施例を挙げて、本発明に係る多色表示装置をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0114】
<実施例1>
実施例1では、図1に示す構成の多色表示装置を以下に示す工程で作製した。
【0115】
支持体として、ガラス基板20上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路21を形成し、その上にアクリル樹脂からなる平坦化層22を形成し、フォトリソグラフィー技術によりコンタクトホール23を形成した。
【0116】
この上に、スパッタリング法により、反射層24としてアルミニウム合金(AlNd)を150nmの膜厚で成膜し、パターニングした。
【0117】
次に、スパッタリング法により、透明導電層A25としてITOを10nmの膜厚で成膜し、画素毎にパターニングした。続いて、スパッタリング法により、透明導電層B26としてITOを115nmの膜厚で成膜し、画素内における一部の領域のITO厚さが10nm、他方の領域のITO厚さが125nmになるように、パターニングをした。このとき、画素内部におけるITO厚さが10nmと125nmとなる領域の面積比は、上記表4に記載の面積比となるようにパターニングを行った。
【0118】
その後、アクリル樹脂により素子分離膜36を形成した。これをイソプロピルアルコール(IPA)で超音波洗浄し、次いで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄し後、有機化合物を真空蒸着により成膜する。
【0119】
有機化合物層の成膜は、まず、正孔輸送層A27として下記化1の化学式で示される化合物をすべての画素に共通に118nmの膜厚で成膜した。その成膜の際の真空度は1×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secであった。
【0120】
次に、シャドーマスクを用いて、赤色、緑色、青色の各発光画素に対して、正孔輸送層B28として下記化1の化学式で示される化合物[I]をそれぞれ135nm、52nm、8nmの膜厚で成膜した。
【0121】
【化1】
【0122】
その後、シャドーマスクを用いて、赤色の発光層29、緑色の発光層30、青色の発光層31をそれぞれ30nm、40nm、24nmの厚さで成膜した。赤色の発光層29としては、最大ピーク波長620nm、半値幅97nmのPLスペクトルを示す発光材料を用いた。緑色の発光層30としては、最大ピーク波長525nm、半値幅68nmのPLスペクトルを示す発光材料を用いた。青色の発光層31としては、最大ピーク波長460nm、半値幅45nmのPLスペクトルを示す発光材料を用いた。
【0123】
さらに、共通の電子輸送層32として、真空蒸着法にてバソフェナントロリン(Bphen)を20nmの厚さで成膜した。蒸着時の真空度は1×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0124】
次に、共通の電子注入層33として、BphenとCs2CO3を共蒸着(重量比90:10)して28nmの厚さで成膜した。蒸着時の真空度は3×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0125】
その後、各画素共通の電極A34として、銀を12nmの厚さで成膜した。蒸着時の真空度は2×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0126】
続いて、この電極A34までを成膜した基板を、真空を保持したままでスパッタ装置に移動し、電極B35としてITOを50nmの厚さで成膜した
その後、この基板を乾燥窒素が充填されているグローブボックス内に移動し、この基板の周辺部にUV硬化樹脂をシールディスペンサーにより塗布した。そして、有機発光素子に対応する部分が0.3mmの深さで掘り込まれた、厚さ0.7mmの凹型のガラス板(封止部材38)をこの基板の上から覆い被せた。基板上の周辺樹脂部に紫外線を照射し、樹脂の硬化で基板とガラス板を密着させ、表示装置を得た。なお、図1には、UV硬化樹脂は示されていない。
【0127】
下記表10に、以上のようにして得られた表示装置の各色の発光色度及び視野角50度における白色の色ずれ量δu’v’を示す。
【0128】
【表10】
【0129】
<比較例1>
比較例1では、反射層24上に設ける透明導電層の膜厚を発光画素内部の全面において一律に10nmとした。それ以外は実施例1と同様にして、多色表示装置を作成した。
【0130】
下記表11は、比較例1の素子の各層の膜厚を示している。なお、表示装置の正面において、各色の発光色度を実施例1の表示装置と略一致させるため、正孔輸送層A27及び正孔輸送層B28の膜厚を調整している。
【0131】
【表11】
【0132】
さらに下記表12は、以上のようにして得られた比較例1の多色表示装置の各色の発光色度及び視野角50度における白色の色ずれ量δu’v’を示している。
【0133】
【表12】
【0134】
表10及び表12より、実施例1の多色表示装置は、比較例1の多色表示装置に比して、視野角による白色の色ずれ量δu’v’が大幅に軽減され、良好な発光特性を示すことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明に係る表示装置は、照明や、電子機器のディスプレイとして、また、表示装置用のバックライト等の様々な用途に適用できる。電子機器のディプレイとしては、テレビ受像機、パーソナルコンピュータのディスプレイ、撮像装置の背面表示部、携帯電話の表示部、携帯ゲーム機の表示部等が挙げられる。その他、携帯音楽再生装置の表示部、携帯情報端末(PDA)の表示部、カーナビゲーションシステムの表示部等が挙げられる。
【符号の説明】
【0136】
20 基板、24 反射層、25 透明導電層A、26 透明導電層B、27 正孔輸送層A、28 正孔輸送層B、29 赤色発光層、30 緑色発光層、31 青色発光層、32 電子輸送層、33 電子注入層、34 電極A、35 電極B、40 領域(光学距離Aの部分)、41 領域(光学距離Bの部分)
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層を含む有機化合物層に電圧を印加して発光する有機発光素子(有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子)を用いた表示装置に係り、詳しくは、2以上の異なる発光色を示す有機発光素子を備えた多色表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極との間に、発光層を含む有機化合物層を備えている。なお、以下の説明において、有機発光素子を単に「発光素子」もしくは「素子」と表記することもある。
【0003】
図15は、一般的な有機発光素子の積層構造を示す模式図である。図15において、有機発光素子は、基板1の上に、反射層2、陽極(透明導電層)3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、半透明層8及び陰極(透明電極)9を順に備えている。この有機発光素子に電流を流すことで、陽極9から注入されたホールと陰極3から注入された電子が、発光層5において再結合する。この再結合の際に生じるエネルギーによって発光層5の発光材料が励起状態になり、この発光材料が基底状態に戻る際にエネルギーを光として放出して発光する。
【0004】
このような有機発光素子では発光の一部が反射される。これにより、有機発光素子の内部で特定の波長の光が共振して強められる光学干渉効果が顕著に現れる。
【0005】
具体的には、基板1上の反射層2と半透明層8の反射界面との間で共振器構造が構成される。ここで、反射層2と半透明層8の反射界面との間の光学距離をL、共振波長をλ、素子からの発光を視認する角度をθ(素子に正対して視認する場合を0°)とする。また、上下の各電極3、9にて発光が反射する際の位相シフトの和をφ(rad)、光学干渉の次数をmとした場合、各パラメータ間に下記式(1)を満足する関係があると、共振による発光の強め合いが生じる。
【0006】
つまり、発光層5を光励起して生じる発光スペクトル(PLスペクトル)の最大ピーク波長と共振波長とを合わせると、素子から出射される発光スペクトルの最大ピーク波長の強度を高めることができる。以下、「PLスペクトル」と区別するため、素子から出射される発光スペクトルを「ELスペクトル」と呼ぶ。
【0007】
λ=2Lcosθ/(m−φ/2π) (mは正の整数)・・・(1)
【0008】
式(1)において、光学距離Lは、各層の屈折率(n)と膜厚(d)を掛け合わせた値(nd積)の和である。また、実際に各電極にて発光が反射する際、反射界面を構成する電極材料及び有機材料の組み合わせにより、位相シフトの和φは変化する。各層の屈折率(n)は、例えば、分光エリプソメーター等を用いて測定することができる。
【0009】
式(1)より、強め合いの最大ピーク波長(共振波長)λは光学距離Lにより変化する。また、素子に対して視認する角度(視野角)θが大きくなるとcosθ値が減少し、共振波長λが短波長側にシフトする。そのため、光学距離Lを有する素子を観察する視野角を大きくしていくと、共振波長が発光層の発光スペクトル(PLスペクトル)の最大ピーク波長からずれていき、その結果、ELスペクトルの最大ピーク波長が強められない。さらには、最大ピーク波長が弱められることになり、視野角が大きくなる程暗く見えるという問題があった。
【0010】
さらに、視野角が大きくなる場合、cosθ値の減少に伴い、共振波長λが短波長側にシフト(ブルーシフト)するため、発光素子の色みが変わって見えることも問題であった。
【0011】
そこで、1つの発光素子内部に光学距離の異なる部分を設け、視野角特性が異なる発光を組み合わせることで、視野角による特性変化を平均化、緩和した有機発光素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1には、発光素子内部の光学距離を変更して、例えば、視野角0度における共振波長と次数をそれぞれ510nm/m=2,570nm/m=1に設定した緑色発光素子が開示されている。また、1つの発光素子内部において、光学距離の異なる領域の面積比を最適化し、視野角依存性を低減させた有機発光素子が開示されている。さらに、これらの有機発光素子を発光画素としたエレクトルミネセンスパネルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−32327号公報(段落番号[0036]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1のエレクトロルミネッセンスパネルを構成する有機発光素子は、それぞれの色毎に視野角依存性を低減するように、画素内における光学距離や、光学距離の異なる領域の面積比を最適化している。
【0014】
上述したように、有機発光素子は、基板上の反射層とその上方の半透明層の反射界面との間に共振器構造が形成される。ところが、発光を生じる発光層が、この反射層と半透明層との間に設けられていることから、発光の共振に関わる光学距離としては、主に、発光層から反射層までの光学距離と、反射層から半透明層の反射界面までの光学距離の二種類が影響する。この二種類のパラメータにより、有機発光素子の光学特性を調整することができる。
【0015】
そのため、複数の発光色の有機発光素子を備える表示装置では、各色毎に少なくとも二種類の光学特性調整のパラメータがあると、各色毎に個別に発光特性を最適化することが好ましい。
【0016】
このような光学距離の変化は、反射層上の透明導電層や、各有機化合物層、その上部の半透明層の膜厚や材料を変更することで調整可能である。特許文献1に記載の有機発光素子では、素子の基板側に設ける透明電極の膜厚を二種類にし、かつその発光面積も調整して光学距離を調整している。そのため、例えば、RGB3色のフルカラーパネルを特許文献1の技術により実現しようとすると、1つのパネルに少なくとも6種類以上の異なる厚さの透明電極が必要となる。
【0017】
このように1画素内にある透明電極の膜厚を変更するには、例えば、フォトリソグラフィーなどの手法を用いるが、その際、作製する膜厚の種類の数に相当するフォトリソグラフィー工程数が必要となる。
【0018】
よって、特許文献1に記載の有機発光素子を多色表示装置の発光画素として適用しようとすると、表示装置用の基板作製の負荷が大きくなり、多色表示装置作製のスループットが低下するという問題があった。
【0019】
さらに、特許文献1はRGBの各色の色度の視野角特性を良化するもので、RGBを合成した色(例えば、白)の色度の視野角特性を必ずしも良化するものではない。RGBの合成色は、RGBの各色度および輝度により決まるもので、色度変化が小さくても輝度変化がRGBごとに異なれば合成色としては視野角特性が悪化する。逆に、色度変化が各色で大きくても輝度変化を調整して合成色の色度の視野角特性を良化することは可能である。
【0020】
本発明は、上記の課題に鑑み、良好な視野角特性を備えながら、表示装置の基板作製の負荷を小さくし、装置作製のスループットを高めることができる多色表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成すべく成された本発明の構成は以下の通りである。
【0022】
即ち、本発明に係る多色表示装置は、基板の上に、少なくともR(赤色)、G(緑色)、B(青色)を含む多色の有機発光素子からなる複数の画素を配置し、該有機発光素子は、反射電極層と半透明電極層との間に発光層を含む有機化合物層を有する多色表示装置であって、
各発光色の画素内部で光学距離の異なる領域が設定されるように、全ての画素について共通に、上記反射電極層を構成する透明導電層が二種類の異なる厚さを有し、
さらに緑色画素(もしくは青色画素)について、白色表示に対する視野角色ずれが最小となるように、前記光学距離の異なる領域の面積比が決定されると共に、
青色画素(もしくは緑色画素)では、青色単色(もしくは緑色単色)の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きく、赤色画素では、赤色単色の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きくなるように設定されていることを特徴とする多色表示装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、表示装置上にある全ての画素において、反射電極層を構成する透明導電層の厚さを二種類の異なる厚さに形成したので、従来の表示装置に比べて工程数が少なくなる。
【0024】
また、緑色画素(もしくは青色画素)について、白色表示に対する視野角色ずれが最小となるように、前記光学距離の異なる領域の面積比が決定される。さらに青色画素(もしくは緑色画素)では、青色単色(もしくは緑色単色)の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きく、赤色画素では、赤色単色の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きくなるように設定されている。したがって、良好な視野角特性を備えながら、表示装置の基板作製の負荷を小さくし、装置作製のスループットが高い多色表示装置を実現できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る多色表示装置の一実施形態の積層構造を示す模式図である。
【図2】緑色発光画素の視野角による色度変化特性を示す説明図である。
【図3】青色発光画素の視野角による色度変化特性を示す説明図である。
【図4】緑色の画素内部での透明導電層膜厚の異なる領域の面積割合をそれぞれ異ならせた場合の色度変化量δxyを示す説明図である。
【図5】青色の発光画素における、緑画素と同様な面積割合と合成光の色度変化量δxyの関係を示す説明図である。
【図6】赤色の発光画素における、緑画素と同様な面積割合と合成光の色度変化量δxyの関係を示す説明図である。
【図7】透明導電層10nmの緑色の発光画素におけるm=2、1の視野角による共振波長変化を示す説明図である。
【図8】透明導電層125nmの場合のm=3、2の視野角による共振波長変化を示す説明図である。
【図9】透明導電層の厚さ24nm、165nmの表示装置における緑色発光画素の視野角による色度変化特性を示す説明図である。
【図10】透明導電層の厚さ24nm、165nmの表示装置における緑色の画素内部での透明導電層膜厚の異なる領域の面積割合をそれぞれ異ならせた場合の色度変化量δxyを示す説明図である。
【図11】透明導電層の厚さ24nm、165nmの表示装置における青色の発光画素における、緑画素と同様な面積割合と合成光の色度変化量δxyの関係を示す説明図である。
【図12】本実施形態の多色表示装置の画素配置の一例を示す概略図である。
【図13】本実施形態の多色表示装置の画素配置の一例を示す図である。
【図14】本実施形態の多色表示装置の画素配置の一例を示す図である。
【図15】一般的な有機発光素子の積層構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、説明の都合上から、図面では各層を認識可能な大きさで表しており、図面の縮尺は実際のものとは異なっている。また、本明細書で特に図示または記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知または公知技術を適用する。
【0027】
図1は、本発明に係る多色表示装置の一実施形態の積層構造を示す模式図である。なお図1において、同一の名称の層が2層の積層構成である場合、説明上の便宜から、その2層の各層にA、Bの符号を付して説明している。
【0028】
本実施形態で例示する多色表示装置は、基板20の上に、少なくともR(赤色)、G(緑色)、B(青色)を含む多色の有機発光素子からなる複数の発光画素を配置したトップエミッション型のアクティブマトリックス表示装置である。具体的には、本実施形態の多色表示装置は、RGBの発光画素を備え、各発光色の有機発光素子は、反射電極層と半透明電極層との間に発光層を含む有機化合物層を有する共振器構造を構成している。なお、以下の説明において単に「画素」もしくは「発光画素」と表記しているが、RGBの3色一組を主画素、R、G、Bの各発光画素を副画素とする。
【0029】
図1に示すように、基板20上に、TFT駆動回路21、平坦化膜22、コンタクトホール23、反射層24及び透明導電層A25を備えている。透明導電層A25は、RGBの各発光画素(副画素)で共通の膜厚に形成されている。さらに、各発光画素の透明導電層A25上の一部の領域には、各発光画素で共通の膜厚の透明導電層B26が形成されている。反射層24及び透明導電層A25、B26は、上記反射電極層を構成している。
【0030】
これら透明導電層A25及び透明導電層B26の上には、RGBの各発光画素で共通の膜厚の正孔輸送層A27と、各発光画素でそれぞれ膜厚が異なる正孔輸送層B28とが形成されている。すなわち、正孔輸送層A27、B28の合計膜厚は各発光色で個別に設定されている。なお、本発明においては、正孔輸送層B28は、各発光色で共通の膜厚でもよい。また、正孔輸送層B28は、発光色によっては設けない構成であってもよい。
【0031】
この膜厚が異なる正孔輸送層B28の上には、RGBの各発光画素毎にそれぞれ赤色の発光層29、緑色の発光層30、青色の発光層31が形成されている。また、RGBの異なる発光色の発光層29、30、31は、個別の膜厚に設定されている。
【0032】
各発光層29、30、31の上には、各発光画素で共通に電子輸送層32、電子注入層33が形成されている。この電子注入層33上に、上記半透明電極層を構成する電極A34及び電極B35が形成されている。
【0033】
また、RGBの各発光画素の間には、各色を離間する素子分離膜36が形成されている。このように形成された多色発光素子の上には、乾燥窒素が充填される封止空間37を介して、封止部材38が形成されている。
【0034】
この多色の有機発光素子では、透明導電層A25及び透明導電層B26を陽極とし、電極A34及び電極B35を陰極として、電流を流す。すると、透明導電層A25及び透明導電層B26から正孔輸送層A27及び正孔輸送層B28へ注入された正孔と、電極A34及び電極B35から電子注入層33へ注入された電子とが、各色の発光層29、30、31まで移動して再結合する。この再結合の際に生じるエネルギーによって発光層29、30、31の発光材料が励起状態になり、発光材料が基底状態に戻る際にエネルギーを光として放出し、素子が発光する。このとき生じた発光は、電極A34及び電極B35を通じて素子の外部へと出射される。
【0035】
本実施形態の多色表示装置は、このような多色の有機発光素子が基板20上にマトリクス状に複数配置されている。基板20は、特に限定されないが、金属、セラミックス、ガラス、石英等が用いられる。また、基板20としてプラスティックシート等のフレキシブルシートを用いることにより、フレキシブルな表示装置を形成することも可能である。
【0036】
反射層24としては、透明導電層A25との界面における可視光の波長域における反射率が少なくとも50%以上、好ましくは、80%以上となる材料からなる層が望ましい。この条件を満たす材料としては、例えばアルミニウム、銀、クロム等の金属や、それらの合金が挙げられる。また、反射層24は金属のような導電性部材で構成される必要はなく、誘電体多層膜ミラーのような絶縁性部材を反射層として用いることもできる。
【0037】
透明導電層A25及び透明導電層B26としては、例えば金属酸化物導電膜、具体的には、インジウム錫酸化物(ITO)膜や、インジウム亜鉛酸化物(IZO(商標))膜等を用いることができるが、これらに限定されない。なお、透明とは、可視光に対して70%以上100%以下の透過率を有することを意味する。透明であることを満たす透明導電層A25及び透明導電層B26の条件としては、消衰係数のκが0.05以下、好ましくは0.01以下となることが、透明導電層A25及び透明導電層B26で発光した光が減衰されることを抑制する観点で好ましい。
【0038】
透明導電層A25及び透明導電層B26は、例えばスパッタリング法等により成膜できるが、これに限定されない。また、発光画素内部の一部の領域に透明導電層A25のみを成膜し、他の領域に透明導電層A25及び透明導電層B26を成膜することは、例えば、汎用のフォトリソグラフィー法を用いることにより対応可能である。なお、必要に応じ、透明導電層A25及び透明導電層B26の段差となっている部分に絶縁性の樹脂部材を設けてもよい。このように構成することにより、段差部分で発光素子の透明導電層と電極A34とが短絡することを回避できる。
【0039】
正孔輸送層A27、B28、赤色の発光層29、緑色の発光層30、青色の発光層31、電子輸送層32、電子注入層33に用いる有機化合物は、低分子材料もしくは高分子材料で構成しても、あるいは両者で構成してもよく、特に限定されない。また、必要に応じて公知の材料が使用できる。
【0040】
図1では、5層型(正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層)の有機化合物層を例示している。これに限定されず、有機化合物層は単層型(発光層)、2層型(正孔輸送層/発光層)、3層型(正孔輸送層/発光層/電子輸送層)、4層型(正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層)のいずれの構成でもよい。また、有機化合物層の層数や積層順は、電極の構成によって適宜決定される。
【0041】
有機化合物層は、一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマ、あるいは適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、インクジェット法等)により形成される。
【0042】
電子注入層33としては、例えばフッ化リチウムや、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の一般に用いられる電子注入材料を用いることができる。また、電子輸送性の有機化合物材料に、アルカリ金属やアルカリ土類金属もしくはその化合物を0.1%以上数十%以下含有させて電子注入層33とすることもできる。その際、電子注入層33の膜厚を10〜100nm程度に設定すると、その後に形成する電極A34及び電極B35の成膜ダメージを緩和できるので好ましい。
【0043】
電極A34及び電極B35は、発光層29、30、31で発光した光を素子外に取り出すために、光透過性を有している必要がある。また、電極A34に薄膜金属電極を適用して半透明電極層となるように構成すれば、基板側に設けた反射層24との間で共振器構造が形成されるので好ましい。本実施形態では、電極A34が半透明電極層である構成を採用し、反射層24と半透明電極層A34との間に、複数の光透過層と発光層29、30、31を有する。金属薄膜を電極A34として用いる場合、透過率の観点から、膜厚は5nm以上30nm以下、好ましくは5nm以上20nm以下であることが望ましい。さらに、電極A34は、金属酸化物導電膜と金属薄膜との2層構成であってもよい。
【0044】
また、電極B35としては、透明導電層A25及び透明導電層B26と同様に金属酸化物導電膜を用いることができる。金属酸化物導電膜を用いる場合、電極B35の膜厚は10nm以上1000nm以下、好ましくは30nm以上300nm以下の範囲で設定すると、電極のシート抵抗及び透過率の観点から望ましい。電極A34で十分な抵抗が得られていれば、電極B35は必須ではない。これらの電極A34及び電極B35は、例えば、スパッタリング等の公知の方法で成膜することができる。これらの電極A34及び電極B35の上に光学調整層などの層を形成してもよい。
【0045】
封止としてガラス、金属のような材料で気体を封入して封止することに代えて、無機材料もしくは有機材料、またはそれらの多層膜で直接覆って封止してもよい。封止部材38は、素子を外部環境の酸素や水分より保護する目的で設けられ、例えばガラス、気体不透過性フィルム、金属等を用いることができる。また、防湿性能を高めるために、封止空間37内に吸湿材(不図示)を配置してもよい。
【0046】
さらに、封止部材38と有機発光素子との間の封止空間37に乾燥窒素を充填する代わりに、保護膜を素子に直接成膜するようにしてもよい。この保護膜としては、例えば窒化シリコン、窒化酸化シリコン等の金属窒化物膜や、酸化タンタル等の金属酸化物膜、ダイヤモンド薄膜、樹脂膜等を単一の膜または複数の膜として用いることができる。この場合、より薄い有機発光素子が得られるので、特に好ましい。
【0047】
図1の透明導電層A25とB26は、積層順序を逆にしてもよい。あるいは、透明導電層A25とB26の積層順序を逆にして、下に位置している透明導電層B26を絶縁性透明膜にしてもよい。この場合、アノード側からのホールは、上に位置した透明導電層A25によって供給される。
【0048】
続いて、本発明に係る多色表示装置の発光特性について説明する。下記表1は、本実施形態の多色表示装置を構成する各層の膜厚を示している。
【0049】
【表1】
【0050】
本実施形態の多色表示装置は、各発光画素内に、透明導電層の膜厚を10nmと、125nm(10+115nm)との二種類の厚さに形成している。正孔輸送層B及び発光層の膜厚は、発光色毎に変化させているが、それ以外の正孔輸送層A、電子輸送層、電子注入層、電極A及び電極Bの膜厚は、発光色によらず共通である。また、透明導電層の上に、形成する有機化合物層及び電極は、発光色毎に同一の膜厚で形成している。そのため、光学特性調整の自由度としては、RGBの個別膜厚3種類、追加する透明導電層膜厚、及び各色共通層の膜厚があり、表示装置の光学特性調整パラメータは合計5種類となる。
【0051】
各発光画素内部には、透明導電層の膜厚が異なる領域が形成されているため、画素内部における透明導電層が厚い領域と薄い領域とでは、反射層と電極A及び電極Bとの間に形成される共振器構造の光学距離が異なる。そのため、既述した式(1)で示される共振波長λが変化し、各発光画素内部における透明導電層が厚い領域と薄い領域とから生じる発光特性は異なる。
【0052】
下記表2には、各色発光画素において、透明導電層が10nm、125nmのそれぞれの領域における発光の色度を示す。表2に示すように、透明導電層の膜厚の違いにより共振器構造の光学距離が異なり、共振波長が変化するため、発光画素内部のそれぞれの領域における発光の発光色度が異なる。
【0053】
【表2】
【0054】
ところで、解像度にもよるが、一つの発光画素は、対角3インチ、QVGA解像度の表示装置の場合は約190μm程度、VGA解像度の表示装置の場合は約95μm程度と微小である。そのため、一つの発光画素より視認される発光特性としては、それぞれの領域の発光特性を合成したものと同等である。このような各発光画素における合成色度(x,y)は、色度座標と明るさがそれぞれ(x1,y1,Y1)と(x2,y2,Y2)の場合、下記数1の式により求められる。
【0055】
【数1】
【0056】
下記表3には、各色発光画素におけるそれぞれの領域の発光特性を画素内での面積比1:1で合成した場合における各色発光画素の合成色度を示している。
【0057】
【表3】
【0058】
表3に示すように、各発光画素の合成特性は、各発光画素内部のそれぞれの領域における発光特性により決定される。
【0059】
図2は、緑色発光画素の視野角(0〜85°)による色度変化特性を示す説明図である。透明導電層10nmの領域では、正面の色度座標(0.265,0.680)から視野角を傾けるにつれて、色度図上において左方向に色度が変化する。一方、透明導電層125nmの領域では、正面色度座標(0.177,0.734)から、色度図上において、左回りに色度が変化する。また、それらを1:1で合成した合成色度は、色度座標(0.230,0.702)から、色度図上において、左方向に色度が変化する。
【0060】
この合成光の視野角による色度変化量を、下記数2より算出される色度変化量δxyにより評価する。色度変化量δxyは、装置を正面から観測した場合の色度と、装置を視野角50度から観測した場合の色度の変化量を示す。下記数2において、(x0,y0)は装置を正面から観測した時の色度、(x50,y50)は装置を視野角50度から観測した時の色度である。
【0061】
【数2】
【0062】
図3は、青色発光画素の視野角による色度変化特性を示す説明図である。青色発光画素は、緑色発光画素と共に、表示装置の白色表示に対して視野角色ずれの影響が大きい。青色発光画素の色度変化特性は、左下から円弧を描くように右上がりに変化していることが判る。
【0063】
図4は、緑色の画素内部での透明導電層膜厚の異なる領域の面積割合をそれぞれ異ならせた場合の色度変化量δxyを示す説明図である。図4の色度変化曲線に示すように、透明導電層膜厚の異なる領域の面積割合を調整することにより、合成光の、即ち発光画素の視野角特性を調整することが可能となる。また、面積割合を調整した合成光の色度変化量は、透明導電層が10nm、125nmの面積割合を100%とした場合のそれぞれの色度変化量0.085,0.164よりも小さくすることができる。
【0064】
図5は、青色の発光画素における、緑画素と同様な面積割合と合成光の色度変化量δxyの関係を示す説明図である。図5に示すように、青色画素では、透明導電層が125nmの面積割合が増加するにつれて、色度変化量δxyが一様に増加する。
【0065】
このように、光学距離が異なる領域面積割合を変化させ、視野角による発光色の変化を調整することが可能である。そこで、この面積割合を表示装置の光学特性を調整するパラメータとして取り入れ、本実施形態の表示装置では、先の膜厚による5つの調整パラメータと合わせて、合計6種類の調整パラメータを得た。
【0066】
ところで、本実施形態のような多色表示装置は、主に、テレビジョンや携帯電話、デジタルカメラや、ビデオカメラ等のディスプレイとして使用される。そのような使用用途では、各発光画素を単独で発光させ原色表示させるような使い方よりも、各色発光画素からの光を加法混色して、例えば、白色や肌色等の中間色を表示させるような使い方が一般的である。例えば、RGBの3色を加法混色した合成発光の色度(x,y)は、各発光画素の発光色度と明るさをそれぞれR(x1,y1,Y1)、G(x2,y2,Y2)、B(x3,y3,Y3)とすると数3より算出される。
【0067】
【数3】
【0068】
上述したように、本実施形態の多色表示装置では、6種類の調整パラメータにより、白色表示時の視野角色ずれが少なくなるようにする。より具体的には、二種類の透明導電層厚さと、各色個別層、各色共通層厚さ、及び各発光画素において光学距離の異なる領域の面積割合調整により、白色表示の視野角色ずれを軽減する。
【0069】
また本実施形態では、緑色発光画素について、2つの領域からの発光の合成により、発光画素トータルの視野角色ずれを小さくする面積割合に設定する。さらに、青色発光画素については、透明導電層10nmの色度変化量δxyが、透明導電層125nmに比べ小さく、透明導電層10nmの面積割合を多く設定すると、青色発光画素トータルの視野角色ずれを小さくできる。そこで、透明導電層10nmの領域が多くなるように設定する。
【0070】
なお、面積割合は、必ずしも発光色毎の視野角色ずれを極小になるように設定する必要はなく、表示装置の白色表示の視野角色ずれが少なくなる観点で面積割合を選択する。
【0071】
本実施形態では、各色発光画素内部で、透明導電層10nmと125nmの領域の面積割合を下記表4のように設定した。
【0072】
【表4】
【0073】
このとき、各色発光画素の輝度比を、赤:緑:青=27.8:64.4:7.8に設定し、表示装置を正面から視認した際に、色温度6500kに相当する白色を表示するように調整した。赤色の各色個別層、面積比は、白色表示における視野角の色度変化が最小になるように調整するため、上述したように赤単色の色度の視野角特性は最小化するわけではない。この表示装置を視野角50度までの色ずれ量をu’v’色空間での変化量δu’v’として算出すると、0.0009と非常に小さな値を示した(後述する実施例1の表10参照)。
【0074】
一般にu’v’空間において許容される色変化量δu’v’は、0.02程度であるため、本実施形態の表示装置は、視野角に色ずれが大幅に抑制され、良好な視野角特性を備えた表示装置といえる。
【0075】
なお、δu’v’は、下記数4により算出される。数4において、(u’0,v’0)は装置を正面から観測したときのu’v’色空間における色度であり、(u’50,v’50)は装置を視野角50度から観測したときの色度である。
【0076】
【数4】
【0077】
また、本実施形態の緑色画素のような視野角色ずれの設定を、光学距離や面積割合を調整して、他色の発光画素に適用することも可能である。ただし、白色表示時の輝度比は、他の色の画素に比べて、緑色発光画素が高い。そのため、緑色発光画素の視野角特性は、表示装置全体の視野角特性への影響が大きいため、緑色画素をこのような設定とすることが特に好ましい。
【0078】
さらに、各画素を構成する各層の光学定数は、青色の波高波長付近で急峻に変化する。そのため、青色発光画素では、視野角を変化させると共振器構造の光学距離も、他の発光色の画素に比べて大きく変化し、視野角による特性変動が大きい。そのため、青色発光画素に、本実施形態の緑色発光画素のように、画素トータルの色ずれが少なくなるように設定してもよい。
【0079】
そして図6は、赤色画素の面積比とδxyの関係を示す説明図である。赤色画素における光学距離の異なる領域の面積比は、表示装置の白色表示における視野角色度変化が小さくなるように調整する目的で決定され、赤色画素単色の視野角特性を最適化するわけではない。即ち、図6に示すように、緑色画素、青色画素の色ずれとの兼ね合いから、赤色画素では必ずしもδxyが最小になっていない。
【0080】
なお、このような各色発光画素の面積割合の変更は、画素内部に透明導電層の異なる領域を形成するフォトリソグラフィー工程で同時に行うことができる。したがって、特別な工程を追加することなく、1つの工程の追加で2つの調整パラメータを増やすことができるため、好ましい。
【0081】
また、本実施形態のような透明導電層や、発光画素内部の面積割合を変えずに、例えば、有機化合物層を発光色毎に正孔輸送層B28、発光層以外の膜厚を変更して調整パラメータを増やすことも可能である。しかし、必要パラメータの数だけ、例えば、マスク蒸着等が必要となるため、表示装置作製のスループットの観点で課題となる。
【0082】
ここで、本実施形態において、透明導電層として10nmと125nmの膜厚を選択したのは、異なる次数の光学干渉条件を適用するためである。即ち、既述した式(1)において、素子内部での光学干渉効果によって強められる波長λは、光学距離L、視認角度θ(素子に正対する場合を0°)、光の反射界面での位相シフトの和φといった素子の構造パラメータ、及び光学干渉の次数mにより定まる。なお、これらの光学定数は、例えば分光エリプソメーター等を用いて測定することができる。
【0083】
反射界面での位相シフトφは、界面を形成する2つ層の材料のうち、光が入射する側にある材料を媒質I、他方の材料を媒質IIとし、それぞれの光学定数を(n1,k1)、(n2,k2)とすると、下記式(2)の関係式で表すことができる。
【0084】
φ=tan-1(2n1k2/(n12−n22−k22))・・・(2)
【0085】
本実施形態の多色表示装置において、例えば、各層の屈折率を有機化合物層1.85、光透過層(透明導電層)1.92、陽極の屈折率0.12、消衰係数を3.46とする。この場合、上記表1の膜厚を用いて発光層内部の発光領域と陽極との間で生じる光学干渉の共振波長を上記式(1)の関係式より算出する。光透過層(透明導電層)厚さ10nmの共振波長を下記表5に、厚さ125nmの共振波長を下記表6に示す。
【0086】
なお、下記表5及び表6の共振波長の計算では、発光層内部での発光領域を、赤色発光画素では発光層中央部、緑色及び青色発光画素では発光層−電子輸送層界面とし、発光領域と陽極間の光学距離をLとする。
【0087】
【表5】
【0088】
【表6】
【0089】
表5及び表6より、光学干渉の共振波長は、各有機化合物層や、透明導電層の膜厚、光学干渉の次数、また視野角により変化する。
【0090】
表5におけるm=2条件と、表6におけるm=3条件は、共振波長の差異が18〜67nm程度であり、略同等な光学干渉条件になっている。
【0091】
本実施形態では、正孔輸送層Bを除き有機化合物層の膜厚が同一であるが、光学干渉の次数が異なり、かつ、その共振波長が同等となるように、透明導電層の膜厚を設定する。
【0092】
また、視野角による共振波長の変化について考えてみる。透明導電層の厚さにより、共振波長の変化が異なる。例えば、透明導電層10nmの緑色の発光画素におけるm=2、1の視野角による共振波長変化を図7に示す。また、同様に透明導電層125nmの場合のm=3、2の視野角による共振波長変化を図8に示す。
【0093】
装置正面において、491nm(図7 m=2条件)、473nm(図8 m=3条件)にあった共振波長は、視野角の変化とともに短波長にシフトする。いずれも約30度以上の視野角領域では、その共振波長は、可視の波長領域よりも短波長となる。さらに、視野角が30度以上の領域では、正面よりも次数が低いm=1条件(図7)、m=2条件(図8)の共振波長が、緑色の波長領域(500〜600nm)にオーバーラップするようになる。そのため、視野角30度までの領域では、より次数の高い条件の共振波長変化に応じて、また、30度以上の領域では、正面よりも次数の低い条件の共振波長変化に応じて、色度が変化する。
【0094】
この正面よりも次数の低い共振波長の影響は、透明導電層を125nmとした場合により顕著で、上記図2に示した透明導電層125nmの色度変化は、このような高次、低次の干渉条件の組み合わせにより生じる。
【0095】
一方、透明導電層10nmの場合は、正面よりも次数の低い干渉条件の影響が軽微であり、その色度変化は、主にm=2条件の共振波長が視野角とともに短波長側へシフトする影響による。そのため図2において、右から左へと色度が一様に変化する様子を示す。
【0096】
そのため、透明導電層10nmの素子と透明導電層125nmの素子を混色して得る合成光の色度は、視野角により色度が、それぞれが略反対方向に変化する二種類の素子を混合していることから、合成色としての色度変化を少なくできる。
【0097】
また、透明導電層の膜厚としては、共振波長が上記の関係を満たしていればよく、10nm、125nmの以外の組み合わせでもよい。ただし、二種類の素子を混色して得る合成光の色度を小さくするためには、視野角により色度がそれぞれ略反対方向に変化する二種類の素子となるような組み合わせでないと効果はない。したがって、数値を限定するのは困難であるが、透明導電層としては10nm乃至200nmが製造容易性・小型化の観点から好ましい。
【0098】
例えば、下記表7のような積層構成でも、上記と同等の特性を得ることができる。
【0099】
【表7】
【0100】
このような積層構成の表示装置の各発光色の発光画素の面積割合を下記表8に、この表示装置の各発光色の色度及び視野角50度における白色の色ずれ量δu’v’を下記表9にそれぞれ示す。
【0101】
【表8】
【0102】
【表9】
【0103】
さらに図9は、透明導電層の膜厚が24nm、165nmの場合の表示装置の緑色の発光画素における0〜80度の範囲で視野角を変化させた場合の色度変化を示す説明図である。図9に示すように、透明導電層の膜厚が24nm、165nmの表示装置は、透明導電層の膜厚が10nm、125nmの表示装置と同様の作用効果により、その合成色の色度変化を小さくすることが可能である。即ち、表7及び図9に示すように、透明導電層の膜厚、段差が異なっても同様な傾向を示している。
【0104】
図10は、表7に示した積層構成の表示装置の緑色発光画素の面積比と色度変化量δxyの特性を示す説明図である。図11は、表7に示した積層構成の表示装置の青色発光画素の面積比と色度変化量δxyの特性を示す説明図である。図10及び図11に示すように、色度変化量δxyの特性は、透明導電層の膜厚や段差(膜厚の差)が異なっても同様の傾向で現れる。
【0105】
図12から図14は、本実施形態の多色表示装置の画素配置の例示する概略図である。これらの図面において、40は光学距離が異なる領域の光学領域Aの部分、41は光学距離が異なる領域の光学領域Bの部分を示している。
【0106】
発光画素内部の光学距離が異なる領域40、41の配置は特に制限がなく、図12に示すように、光学距離の異なる領域40、41が発光画素によらず、同一面積比及び同一配置で配列されていてもよい。
【0107】
また、光学距離の異なる領域がモアレやムラを回避するように配置されていると、より好ましい。適切な配置としては、例えば、図13に示す光学距離の異なる領域40、41は、隣接する同色の画素同士の面積比及び配置を同一に維持しながら、複数の発光色を有する主画素単位(RGBの3色からなる主画素単位)で領域40、41の相互位置を交互(千鳥状)に変えることが好ましい。さらに、図14に示す光学距離の異なる領域40、41は、隣接する同色の画素同士の面積比及び配置を同一に維持しながら、異なる発光色の副画素同士で上記領域40、41の相互位置を交互(千鳥状)に変えることが好ましい。
【0108】
以上説明したように、本実施形態の多色表示装置は、表示装置上にある全ての画素において、反射電極層を構成する透明導電層A25、B25の厚さを二種類の異なる厚さ(10nm、125nm)に形成している。したがって、従来の表示装置に比べて工程数が少なくなる。
【0109】
また、緑色画素(もしくは青色画素)について、白色表示に対する視野角色ずれが最小となるように、前記光学距離の異なる領域40、41の面積比が決定している。さらに青色画素(もしくは緑色画素)では、青色単色(もしくは緑色単色)の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きく、赤色画素では、赤色単色の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きくなるように設定されている。したがって、表示装置の基板作製の負荷を小さくし、装置作製のスループットが高く、良好な視野角特性を備える多色表示装置を実現できる。
【0110】
また、図13及び図14のように、隣接画素で光学距離の異なる二種類の領域40、41を交互に配置することで、合成色の色度の視野角特性を良化でき、画質の良好な多色表示装置を実現できる。
【0111】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これは本発明の説明のための例示であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【0112】
例えば、上記実施形態では、基板20の上に陽極を形成した構成の一例を示したが、基板側より陰極、有機化合物層、陽極の順序で構成されていてもよく、電極の積層順序に特に制限はない。
【実施例】
【0113】
以下、実施例を挙げて、本発明に係る多色表示装置をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0114】
<実施例1>
実施例1では、図1に示す構成の多色表示装置を以下に示す工程で作製した。
【0115】
支持体として、ガラス基板20上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路21を形成し、その上にアクリル樹脂からなる平坦化層22を形成し、フォトリソグラフィー技術によりコンタクトホール23を形成した。
【0116】
この上に、スパッタリング法により、反射層24としてアルミニウム合金(AlNd)を150nmの膜厚で成膜し、パターニングした。
【0117】
次に、スパッタリング法により、透明導電層A25としてITOを10nmの膜厚で成膜し、画素毎にパターニングした。続いて、スパッタリング法により、透明導電層B26としてITOを115nmの膜厚で成膜し、画素内における一部の領域のITO厚さが10nm、他方の領域のITO厚さが125nmになるように、パターニングをした。このとき、画素内部におけるITO厚さが10nmと125nmとなる領域の面積比は、上記表4に記載の面積比となるようにパターニングを行った。
【0118】
その後、アクリル樹脂により素子分離膜36を形成した。これをイソプロピルアルコール(IPA)で超音波洗浄し、次いで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄し後、有機化合物を真空蒸着により成膜する。
【0119】
有機化合物層の成膜は、まず、正孔輸送層A27として下記化1の化学式で示される化合物をすべての画素に共通に118nmの膜厚で成膜した。その成膜の際の真空度は1×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secであった。
【0120】
次に、シャドーマスクを用いて、赤色、緑色、青色の各発光画素に対して、正孔輸送層B28として下記化1の化学式で示される化合物[I]をそれぞれ135nm、52nm、8nmの膜厚で成膜した。
【0121】
【化1】
【0122】
その後、シャドーマスクを用いて、赤色の発光層29、緑色の発光層30、青色の発光層31をそれぞれ30nm、40nm、24nmの厚さで成膜した。赤色の発光層29としては、最大ピーク波長620nm、半値幅97nmのPLスペクトルを示す発光材料を用いた。緑色の発光層30としては、最大ピーク波長525nm、半値幅68nmのPLスペクトルを示す発光材料を用いた。青色の発光層31としては、最大ピーク波長460nm、半値幅45nmのPLスペクトルを示す発光材料を用いた。
【0123】
さらに、共通の電子輸送層32として、真空蒸着法にてバソフェナントロリン(Bphen)を20nmの厚さで成膜した。蒸着時の真空度は1×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0124】
次に、共通の電子注入層33として、BphenとCs2CO3を共蒸着(重量比90:10)して28nmの厚さで成膜した。蒸着時の真空度は3×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0125】
その後、各画素共通の電極A34として、銀を12nmの厚さで成膜した。蒸着時の真空度は2×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0126】
続いて、この電極A34までを成膜した基板を、真空を保持したままでスパッタ装置に移動し、電極B35としてITOを50nmの厚さで成膜した
その後、この基板を乾燥窒素が充填されているグローブボックス内に移動し、この基板の周辺部にUV硬化樹脂をシールディスペンサーにより塗布した。そして、有機発光素子に対応する部分が0.3mmの深さで掘り込まれた、厚さ0.7mmの凹型のガラス板(封止部材38)をこの基板の上から覆い被せた。基板上の周辺樹脂部に紫外線を照射し、樹脂の硬化で基板とガラス板を密着させ、表示装置を得た。なお、図1には、UV硬化樹脂は示されていない。
【0127】
下記表10に、以上のようにして得られた表示装置の各色の発光色度及び視野角50度における白色の色ずれ量δu’v’を示す。
【0128】
【表10】
【0129】
<比較例1>
比較例1では、反射層24上に設ける透明導電層の膜厚を発光画素内部の全面において一律に10nmとした。それ以外は実施例1と同様にして、多色表示装置を作成した。
【0130】
下記表11は、比較例1の素子の各層の膜厚を示している。なお、表示装置の正面において、各色の発光色度を実施例1の表示装置と略一致させるため、正孔輸送層A27及び正孔輸送層B28の膜厚を調整している。
【0131】
【表11】
【0132】
さらに下記表12は、以上のようにして得られた比較例1の多色表示装置の各色の発光色度及び視野角50度における白色の色ずれ量δu’v’を示している。
【0133】
【表12】
【0134】
表10及び表12より、実施例1の多色表示装置は、比較例1の多色表示装置に比して、視野角による白色の色ずれ量δu’v’が大幅に軽減され、良好な発光特性を示すことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明に係る表示装置は、照明や、電子機器のディスプレイとして、また、表示装置用のバックライト等の様々な用途に適用できる。電子機器のディプレイとしては、テレビ受像機、パーソナルコンピュータのディスプレイ、撮像装置の背面表示部、携帯電話の表示部、携帯ゲーム機の表示部等が挙げられる。その他、携帯音楽再生装置の表示部、携帯情報端末(PDA)の表示部、カーナビゲーションシステムの表示部等が挙げられる。
【符号の説明】
【0136】
20 基板、24 反射層、25 透明導電層A、26 透明導電層B、27 正孔輸送層A、28 正孔輸送層B、29 赤色発光層、30 緑色発光層、31 青色発光層、32 電子輸送層、33 電子注入層、34 電極A、35 電極B、40 領域(光学距離Aの部分)、41 領域(光学距離Bの部分)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、少なくともR(赤色)、G(緑色)、B(青色)を含む多色の有機発光素子からなる複数の画素を配置し、該有機発光素子は、反射電極層と半透明電極層との間に発光層を含む有機化合物層を有する多色表示装置であって、
各発光色の画素内部で光学距離の異なる領域が設定されるように、全ての画素について共通に、前記反射電極層を構成する透明導電層が二種類の異なる厚さを有し、
さらに緑色画素(もしくは青色画素)について、白色表示に対する視野角色ずれが最小となるように、前記光学距離の異なる領域の面積比が決定されると共に、
青色画素(もしくは緑色画素)では、青色単色(もしくは緑色単色)の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きく、赤色画素では、赤色単色の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きくなるように設定されていることを特徴とする多色表示装置。
【請求項2】
前記発光層の膜厚と前記有機化合物層を構成する正孔輸送層の膜厚が、各発光色で個別に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の多色表示装置。
【請求項3】
前記光学距離の異なる領域が画素によらず、同一面積比及び同一配置で配列されていることを特徴とする請求項1または2に記載の多色表示装置。
【請求項4】
前記光学距離の異なる領域は、隣接する同色の画素同士の面積比及び配置を同一に維持しながら、RGBの画素単位で前記光学距離の異なる領域の相互位置を交互に変えることを特徴とする請求項1または2に記載の多色表示装置。
【請求項5】
前記光学距離の異なる領域は、隣接する同色の画素同士の面積比及び配置を同一に維持しながら、異なる発光色の画素同士の前記光学距離の異なる領域の相互位置を交互に変えることを特徴とする請求項1または2に記載の多色表示装置。
【請求項1】
基板の上に、少なくともR(赤色)、G(緑色)、B(青色)を含む多色の有機発光素子からなる複数の画素を配置し、該有機発光素子は、反射電極層と半透明電極層との間に発光層を含む有機化合物層を有する多色表示装置であって、
各発光色の画素内部で光学距離の異なる領域が設定されるように、全ての画素について共通に、前記反射電極層を構成する透明導電層が二種類の異なる厚さを有し、
さらに緑色画素(もしくは青色画素)について、白色表示に対する視野角色ずれが最小となるように、前記光学距離の異なる領域の面積比が決定されると共に、
青色画素(もしくは緑色画素)では、青色単色(もしくは緑色単色)の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きく、赤色画素では、赤色単色の視野角色ずれの少ない光学距離の領域の面積が大きくなるように設定されていることを特徴とする多色表示装置。
【請求項2】
前記発光層の膜厚と前記有機化合物層を構成する正孔輸送層の膜厚が、各発光色で個別に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の多色表示装置。
【請求項3】
前記光学距離の異なる領域が画素によらず、同一面積比及び同一配置で配列されていることを特徴とする請求項1または2に記載の多色表示装置。
【請求項4】
前記光学距離の異なる領域は、隣接する同色の画素同士の面積比及び配置を同一に維持しながら、RGBの画素単位で前記光学距離の異なる領域の相互位置を交互に変えることを特徴とする請求項1または2に記載の多色表示装置。
【請求項5】
前記光学距離の異なる領域は、隣接する同色の画素同士の面積比及び配置を同一に維持しながら、異なる発光色の画素同士の前記光学距離の異なる領域の相互位置を交互に変えることを特徴とする請求項1または2に記載の多色表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−54091(P2012−54091A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195541(P2010−195541)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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