多重自己脱離放出スペーサーとして構築されたプロドラッグ
本発明は、単一の活性化後に複数の脱離基を放出する多重放出スペーサー又はスペーサー系に関する。本発明は、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系を介して、同一又は異なる2以上の脱離基(図中ではL)に連結された指定子を含む化合物に関し、特に前記指定子の除去又は変換が少なくとも2つの脱離基を放出する化合物に関する。
【化1】
【化1】
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、多重放出スペーサー又はスペーサー系を含む化合物又はプロドラッグに関する。多重放出スペーサーは、一回の活性化に際して、複数の脱離基を放出する自己脱離スペーサーとして定義される。一以上の(階層;generation)のこれら多重放出スペーサーは、例えば、複数の治療又は診断用の親部分を標的細胞又は標的部位に選択的に送達するために、好ましい作用部位において単一の活性化工程によって活性化される複合体又はプロドラッグを得るために使用することができる。本発明において、好ましくは、標的細胞は腫瘍細胞である。
【発明の背景】
【0002】
化学療法剤の選択性の欠如は、癌の治療における主要な問題である。癌の化学療法では極めて毒性の高い化合物が使用されるので、深刻な副作用を伴うのが通例である。胃腸管毒性や骨髄毒性など用量を制限する副作用のために、腫瘍を完全に根絶する薬物濃度に達することはできない。さらに、治療が長期にわたると、腫瘍は、抗癌剤に対する耐性を生じることがある。現在の薬剤開発においては、腫瘍部位への細胞毒性薬の誘導は、主要な最終目標の一つであると考えることができる。
【0003】
腫瘍細胞又は腫瘍組織に対する選択性を得るのに有望なアプローチは、腫瘍関連酵素の存在を活用することである。比較的高レベルの腫瘍特異的酵素は、腫瘍の近傍又は内部において、薬理学的に不活性なプロドラッグを対応する活性な親薬物に変換することができる。この考え方によれば、高濃度の有毒な抗癌剤を腫瘍部位で生成させることが可能である。用量が十分に大きければ全ての腫瘍細胞を死滅させることができ、これによって、薬剤耐性を有する腫瘍細胞の発生を減少させ得る。
【0004】
ある種の腫瘍組織には、レベルが増加する酵素が幾つか存在する。1つの例は、ある種の壊死腫瘍領域から遊離される酵素β−グルクロニダーゼである。さらに、腫瘍の浸潤及び転移には、幾つかのタンパク分解酵素が関連していることが示されている。例えば、カテプシンやウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u−PA)系から得られるプロテアーゼのような複数の酵素が全て、腫瘍の転移に関わっている。セリンプロテアーゼであるプラスミンは、腫瘍の浸潤と転移において中心的な役割を果たしている。タンパク分解活性を有する型のプラスミンが、u−PAによって、不活性なプロ酵素型のプラスミノーゲンから形成される。腫瘍に付随してプラスミンが存在することを活用すれば、プラスミンで切断可能な複合体又はプロドラッグを誘導することができる。
【0005】
抗体運搬酵素プロドラッグ療法(ADEPT;antibody−directed enzyme prodrug therapy)1、ポリマー運搬酵素プロドラッグ療法(PDEPT)若しくは高分子運搬酵素プロドラッグ療法(MDEPT)2、ウイルス運搬酵素プロドラッグ療法(VDEPT)3又は遺伝子運搬酵素プロドラッグ療法(GDEPT)4を介して、酵素は標的細胞又は標的組織の近傍又は内部に輸送することも可能である。
【0006】
本発明の技術は、指定子(切断又は変換され得るユニット)と脱離基(例えば、親薬物又は検出可能な分子)の間に挿入できる新規スペーサー(リンカー)又はスペーサー系(リンカー系)に関する。さらに、本発明は、指定子と、前記新規スペーサー又はスペーサー系と、複数の脱離基とを含むプロドラッグ及び(バイオ)複合体に関し、リンカー(系)の一方の側にあるターゲッティング部分への結合を可能とする反応性部分とリンカー(系)の他方の側にある複数の脱離基(例えば、親薬物又は検出可能な分子)への結合を可能とする反応性部分とを含有する、(保護された)指定子を有する二官能性リンカー系に関する。過去に開発された多数の抗癌剤複合体とプロドラッグが、自己脱離コネクター又はリンカー(自己脱離スペーサーとも呼ばれる)を含有している。このスペーサーは、酵素的切断を促進して、薬物放出の速度を増大させるために、指定子と薬物の間に組み込まれる(図1に示す通り)。指定子(例えばプロテアーゼに対するオリゴペプチド基質、又は、例えばβ−グルクロニダーゼに対するβ−グルクロニド基質とすることができる)が、部位特異的に除去又は変換された後、自発的なスペーサーの脱離が生じて、細胞毒性親薬物を放出しなければならない。現在まで、プロドラックの活性化とこれに続くスペーサーの脱離が起こると1つの薬物分子を放出する自己脱離スペーサーが実施されてきた。これまでに報告されてきた複数の薬物部分を含有するプロドラッグと(バイオ)複合体を検討すると、放出すべき薬物分子ごとに独立した切断が必要とされた。
【0007】
WO 98/13059は、自己脱離スペーサーを介して治療薬に共有結合された、アミノ末端キャップされたペプチドを含むプロドラッグを記載している関連の開示である。特に、この文書は、p−アミノベンジル−オキシカルボニル(PABC)の自己脱離スペーサーとしての使用を記載している。PABC電子カスケードスペーサーは、例えば、「Carl et al., J. Med. Chem., 1981, vol. 24, 479−480」から既に公知であった。具体的には、PABCに結合された抗癌剤ドキソルビシン、マイトマイシンC、パクリタキセル及びカンプトセシンが記載されている。記載されている別の自己脱離スペーサーは、構造p−NH−Ph−CH=C(CH2O−)2を有するp−アミノ−ビス(ヒドロキシメチル)スチレン(BHMS)であり、カルボニル基を含むものは、構造がp−NH−Ph−CH=C(CH2OCO−)2である。この開示において、該スペーサーはビスカルバメートとして記載されており、薬物のアミン官能基を介して、2つの薬物分子がこのスペーサーに連結されることが教示されていることが注目される。実際にBHMSスペーサーに結合されることが開示されている唯一の薬物部分は、ドキソルビシンである。ドキソルビシンは、その糖アミノ基を介して結合され、スペーサーと薬物間にカルバメート結合を与える。さらに、該スペーサーは2つの薬物部分を結合できると述べられている。しかしながら、この文書は、実際に放出される薬物分子の数については全く言及していない。
【0008】
複数の共有結合された生物活性分子が末端基として搭載された他の系が報告されている。例としては、各ヒドラゾンリンカー5の酸分解後にドキソルビシンを放出する系、ドキソルビシンを含有する星形のHPMAコポリマー6、又は多重搭載されたポリ(エチレングリコール)プロドラッグ7がある。中核として抗体を有し、ドキソルビシンを含有する星型HPMAコポリマーも報告されている8。最近の出版物の数多くが、抗体当たりに結合する薬物の数を増やす目的で、抗体を含有するプロドラッグ又はバイオ複合体とともに、分岐したリンカーを使用することを記載している9。しかしながら、本発明者らが知る限りでは、これまでに報告された各多重搭載されたプロドラッグ系では、全ての末端基を放出するために、各単一の末端基が独立に切断される必要がある。
【0009】
このため、所望の作用部位で必要とされる活性化に関して十分な数の活性薬物の放出(効率)が改善された、プロドラッグ又は(バイオ−)複合体が必要とされている。多くの場合、プロドラッグ又は(バイオ)複合体において、ターゲッティングされる化合物の効力を向上させるために、ターゲッティングユニット当たりの薬物搭載を増加させることが望ましい。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系を介して同一又は異なる2以上の脱離基(Z)に連結された指定子(V)を含む化合物であって、単一の活性化工程において、少なくとも2つの脱離基を放出し、前記活性化工程が前記指定子の除去又は変換である化合物によって、上記要求を充足する。自己脱離スペーサーは、指定子と脱離基の間に2以上のスペーサーが組み込まれるように、互いに結合させることもできる。本明細書の以下の記載では、互いに接続された2以上のスペーサー(自己脱離多重放出スペーサー又は一重放出スペーサーの何れかである)を有する(自己脱離)スペーサー系という用語も使用される。
【0011】
本発明は、(保護された)指定子を含む二官能性リンカー系をも記載するものであり、該指定子は、スペーサー(系)の一方の側にあるターゲッティング部分への結合を可能とする反応性部分を含有する(これは最初の指定子とともに官能化された指定子Vになる)。さらに、二官能性リンカー系は、複数の脱離基(例えば、親薬物又は検出可能な分子)への結合を可能とする反応性部分を含む。
【発明の詳細な説明】
【0012】
本発明には、単一の活性化工程後に2以上の脱離基の放出を誘導するために使用できる新しい技術が開示されている。本技術は、例えば疾病に関連し又は臓器特異的な組織又は細胞へ薬物を誘導するために使用できるプロドラッグ又は複合体、例えば単一の活性化工程後に2以上の親分子部分を放出することが既に知られた複合体又はプロドラッグについて改良された腫瘍特異的複合体又はプロドラッグを調製するために、例えば適用することができる。これは、治療上の有利性を目指している。本発明は、特異的な疾病に関連し若しくは特異的にターゲッティングされる生体分子がプロドラッグ若しくは複合体を薬物に変換することができ又はプロドラッグ若しくは複合体の薬物への変換を誘導することができる特異的な標的部位への送達が必要とされる全ての薬物に適用できると考えられる。本発明は、さらに、親部分放出の特徴を増大させる目的で、化合物の(非特異的)徐放にも適用することができる。
【0013】
別の側面において、本発明は、診断アッセイ方法に適用することができる。酵素によって選択的に活性化されて複数の検出可能な分子(脱離基)を放出し、これにより、アッセイの感度を増加させる多重放出スペーサー又はスペーサー系を含有する本発明の化合物によって、酵素を検出することが可能である。
【0014】
本発明には、単一の活性化が発生したときに、複数の脱離基分子の放出を可能とする自己脱離多重放出スペーサーが開示されている。これらの自己脱離多重放出スペーサーは、複合体又はプロドラッグ(例えば、抗癌プロドラッグ)中に適用可能であり、(酵素的)活性化当たりに解離される薬物分子の量を著しく増大させて、治療上の有利性をもたらし得る。
【0015】
本記述全体及び特許請求の範囲中の包括的構造では、構造的要素を定義するために文字が使用される。これらの文字の中には、C、N、O、P、B、F、S、V、W、I、Yなどの原子を表しているものと誤解され得るものがある。これらの文字が原子を表さない場合には常に混同を避けるために、これらの文字は太字で表記される。
【0016】
本記述全体及び特許請求の範囲中の包括的構造では、分子構造又はその一部が描かれている。このような描画において一般的であるように、原子間の結合は線によって表され、一部の事例では、太線又は破線又はくさび形の線によって立体化学を表示する。一般に、末端が空白(「自由」末端)の線(すなわち、一方の末端が別の線を有さず又は当該末端に接続された特定の原子を有しない)は、CH3基を表す。これは、以下に記載されている本発明の好ましい化合物を表す描画については正しい。しかしながら、本発明の化合物の構造的要素、特に、A、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、O、T、U及びYを表す構造の場合、末端が空白の線は、化合物又は複合体の別の構造的要素が付着する位置を表す。これは、V、S又はZへの付着を含む。好ましい構造的要素(W−)w(X−)xCc、(W−)w(X−)xC(Dd)c、(W−)w(X−)xC(D(Ee)d)c、及び(W−)w(X−)xC(D(E(Ff)e)d)cを表す描画についても、末端が空白の線は、V、S又はZへの付着を含む、化合物又は複合体の別の構造的要素の付着の位置を表す。別の構造的要素への結合を表す線の別の描き方は、線の「自由」末端に垂直な波線で線を描くことであろう。
【0017】
さらに、構造が左から右へ読まれるという仮定の下で、構造又は構造の一部が描かれる。すなわち、指定子Vが常に左側に位置し、脱離基Z又は反応性部分Sが常にこのような構造の右側に位置する。
【0018】
本発明によって、複数の部分を放出することができる2つの「分岐自己脱離スペーサー(本明細書では「多重放出スペーサー(multiple release spacer)」とも称される)」が開発された。単一の部分のみを放出することができるスペーサーは、「非分岐スペーサー」又は「一重放出スペーサー」と称される。1,(4+2n)−脱離(n=0、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10)(例えば、1,6−脱離、1,8−脱離、又は1,10−脱離)を通じて自己脱離する分岐又は非分岐何れかのスペーサーは、さらに「電子カスケード」スペーサーと称される。
【0019】
2個の脱離基を放出できるスペーサー(以下、「二重放出スペーサー」と称する)が指定子と脱離基の間に使用される場合、(酵素的)活性化当たり2個の脱離基分子が放出される(図2a)。3個の脱離基を放出できるスペーサー(以下、「三重放出スペーサー」と称する)が使用される場合、活性化された化合物又はプロドラッグ当たり3個の脱離基分子が放出されるであろう(図2b)。
【0020】
スペーサーが、直接的な結合を介して、1又は複数の他のスペーサーに接続される場合、このスペーサーの組み合わせは、「スペーサー系」と称される。これらのスペーサーのうち少なくとも1つが多重放出スペーサーである場合、「多重放出スペーサー系」と称される。
【0021】
アニリンをベースとするスペーサーとは、左側に芳香族アミノ基を含む多重放出又は一重放出スペーサーである。フェノール又はチオフェノールをベースとするスペーサーとは、左側に、それぞれ芳香族水酸基又はチオ基を含む多重放出又は一重放出スペーサーである。左側とは、例えば、図5、6、7及び8に示されている分子中の位置を指す。
【0022】
驚くべきことに、2以上の脱離基分子が放出されるには、アニリンをベースとする多重放出スペーサーのみが使用される場合、脱離基は脂肪族アミン基でないことが必要とされることが明らかとなった。換言すれば、スペーサーがアニリンをベースとする多重放出スペーサーであれば、脱離基(Z)は、それらの脂肪族アミン基を介して、自己脱離多重放出スペーサーに結合されるべきではない。実施例において、脱離基Zが、その第一級アミン基を介して、プロピルアミン、p−メトキシベンジルアミン、ベンジルアミン、又はp−クロロベンジルアミンに結合されれば、最大限、これらの脱離基の1つが実際に放出されることが示される(実施例22、23、26、27、及び28/図20、21、24、及び25を参照)。
【0023】
スペーサーがフェノールをベースとする若しくはチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーである場合、又は多重放出スペーサーがフェノール若しくはチオフェノールをベースとする一重放出スペーサー若しくはスペーサー系に直接結合されている場合には、しかしながら、全ての脱離基が活性化の際に解離されるので、脱離基はそれらの脂肪族アミノ基を介して結合することもできる。
【0024】
好ましくは、前記脱離基Zは、例えば、O、S、芳香族N、又は脂肪族Nなど、十分な電子吸引能を有する基を介して、自己脱離多重放出スペーサーに連結される。本発明において、芳香族Nとは、例えば、(置換された)フェニル環又は他の(複素)芳香族基などの芳香族基に共有結合された窒素原子を意味するのみならず、芳香族Nは、例えばピロール環又はイミダゾール環中など芳香環中の窒素を意味する場合もあることに留意することが重要である。本発明に開示されているように、多重放出スペーサーがアニリンをベースとするスペーサーである場合、前記脱離基は、脂肪族アミンより優れた脱離基能を保有しなければならない。プロピルアミン、p−メトキシベンジルアミン、ベンジルアミン、及びp−クロロベンジルアミンでさえ、スペーサーがアニリンをベースとするスペーサーである場合、全ての末端基の完全な放出を誘導するのに十分な電子吸引能を有していなかった。これに対して、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、パクリタキセル、及びある種のパラ置換アニリン誘導体は全て、本発明に開示された二重及び三重放出スペーサーから完全に放出されることが示された。例えば、本明細書に開示された二重放出スペーサーの場合、パラ置換アニリン誘導体がNH−C6H4−CH2−O−CO−NH−CH2−Rであったときには、多重放出は起こらなかった。これに対して、パラ置換アニリン誘導体がNH−C6H4−CH=C(CH2−O−CO−2’−O−パクリタキセル)2であったときには、多重放出が起こった。多重放出スペーサーがフェノール若しくはチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーである場合、又は多重放出スペーサーがフェノール若しくはチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーに結合されている場合には、脂肪族アミンも適切な脱離基であり、全ての脂肪族アミン脱離基の放出が起こる。これは、脂肪族アルコールが適切な脱離基であることが判明し(例えば、H2N−C6H4−CH=C(CH2−O−CO−2’−O−パクリタキセル)2から、二分子のパクリタキセルが放出される)、従って、脂肪族アルコールに関する脱離能の増加の故に、多重放出スペーサー(例えば、H2N−C6H4−CH=C(CH2−O−C(O)O−C6H4−CH2OC(O)(NR1R2)2)から脂肪族アミン脱離基が接続されたフェノールをベースとするスペーサーの放出が生じるはずであるという論拠に基づくことができる。ヒドロキシベンジルをベースとするスペーサー−脂肪族アミン複合体からの脂肪族アミンの脱離が知られているので10、脂肪族アミンがフェノールをベースとするスペーサーに直接接続されたスペーサー系からも脂肪族アミンの放出も起こる。
【0025】
以上のことは、多重放出が生じるか否かが僅かな変化によって決定され得ることを示している。スペーサーがアニリンをベースとするスペーサーである場合、脂肪族アミンの全て、さらには調べたパラ置換アニリン誘導体の一部でさえ、2以上の脱離基の放出が起こらず、スペーサーがフェノール又はチオフェノールをベースとするスペーサーである場合には放出が起こるが、調べた他のパラ置換アニリン誘導体及び全てのヒドロキシル脱離基において、全ての末端基の完全な脱離が、用いたスペーサーの種類とは無関係に起こった。
【0026】
少なくとも2分子が本発明の化合物から脱離するためには、前記脱離基は、例えば、その第一級、第二級若しくは第三級アルコール、そのフェノール、若しくはホスフェートなどその酸素、その硫黄、又はその芳香族アミンを介して結合されるべきである。脱離基の脂肪族アミノ基を介して結合された少なくとも2つの脱離基が1つの多重放出スペーサーを含む複合体から脱離するためには、前記スペーサーは、フェノール若しくはチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーとすべきであり、又はアニリンをベースとする多重放出スペーサーを1つ含むスペーサー系は、この多重放出スペーサーに直接接合された、フェノール若しくはチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーも含むべきである。自己脱離多重放出スペーサー(系)と脱離基との連結は、炭酸塩、アルキルリン酸塩、オキシカルボニルチオ、カルバミン酸塩、又はN−アリール−カルバミン酸塩として記述することができる。ある場合には、例えば、アリールエーテル結合を介して一重放出自己脱離スペーサーに結合された芳香族アルコール脱離基の場合11には、前記脱離基は、自己脱離を損なわずに、オキシカルボニルユニットを用いずにスペーサーに連結することもできる。
【0027】
一つの実施形態において、前記化合物は、自己脱離多重放出スペーサーを1個有する。さらなる実施形態において、前記化合物は、自己脱離多重放出スペーサーを2個以上備える。さらなる実施形態において、前記化合物は、自己脱離多重放出スペーサーを3個以上備える。
【0028】
自己脱離多重放出スペーサーは、互いに結合させることもできる(図3及び4)。この場合には、多重階層の多重放出スペーサーを含有する化合物が得られる。本発明の化合物のスペーサー系中に1個の多重放出スペーサーが組み込まれれば、該化合物は一重階層の多重放出スペーサーを含有する。第一の自己脱離多重放出スペーサーに2以上の自己脱離多重放出スペーサーが結合されれば、得られる化合物は二重階層の多重放出スペーサー(第二階層)を含有する。前記第二階層の自己脱離多重放出スペーサーを構成する二以上の自己脱離多重放出スペーサーに2以上の自己脱離多重放出スペーサーが結合されれば、得られる化合物は三重階層の多重放出スペーサー(第三階層)を含有する。本発明の化合物が2以上の階層の自己脱離多重放出スペーサーを含有すれば、前記化合物は樹状(又は樹脂形状)構造を有し、デンドリマーと称し得る。本発明の一つの実施形態において、前記化合物は、自己脱離多重放出スペーサーを1個有する。本発明のさらなる実施形態において、前記化合物は、2以上の階層の自己脱離多重放出スペーサーを備える。さらなる実施形態において、前記化合物は、3以上の階層の自己脱離多重放出スペーサーを備える。例えば、第一の自己脱離二重放出スペーサーに2個の自己脱離二重放出スペーサーを結合させ、必要に応じて4個の自己脱離二重放出スペーサーを第二の2個の自己脱離二重放出スペーサーに再度結合させることによって、樹状構造が構築される。指定子当たり結合できる脱離基分子(例えば薬物分子)の数は、組み込まれる自己脱離多重放出スペーサーの階層ごとに指数的に増加する。先行する階層に結合された自己脱離多重放出スペーサーの新しい各階層が、新しく組み込まれた前記階層の多重放出スペーサーに結合され得る脱離基の数に等しい係数だけ、前記化合物又は複合体中に最終的に存在できる脱離基分子の数を増加させる。得られる最終の化合物又はプロドラッグ(又はバイオ複合体)がデンドリマーである。
【0029】
このように、本発明のさらなる実施形態において、前記化合物は、樹状構造の形態の自己脱離多重放出スペーサー系を含む。少なくとも2分子がこのような樹状多重放出スペーサー系から脱離するためには、前記脱離基は、例えば、それらの第一級、第二級又は第三級アルコール、それらのフェノール、若しくはそれらのホスフェートなどそれらの酸素、それらの硫黄、又はそれらの芳香族アミンを介して結合されるべきである。脱離基の脂肪族アミノ基を介して結合された少なくとも2つの脱離基が脱離するためには、樹状多重放出スペーサー系の少なくとも1つの階層は、フェノール若しくはチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーを含むか、フェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーを介して多重放出スペーサーの次の階層若しくは脱離基に結合すべきである。好ましくは、多重放出スペーサー又はスペーサー系の最高階層は、フェノール又はチオフェノールをベースとすべきである。
【0030】
好ましい実施形態において、アニリン、フェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサー(系)を使用する場合には、脱離基は脂肪族アミンではなく、好ましくは、例えばO、S又は芳香族Nである。
【0031】
デンドリマー(星形ポリマーとしても知られる)とは、多数の末端基を有し、高度に分岐した明確な樹形高分子である12。これまでに活用されてきたデンドリマー(又は樹状)構造の応用の1つは、薬物送達である13。デンドリマーによる薬物送達の新たに生起している分野では、生物学的に活性な物質は、デンドリマーの末端基に共有結合されるか、又はデンドリマーの内部に封入することができる。これまでに報告された第一のケースの例では、各薬物分子は、化学的又は生物的な切断工程を介して独立に解離されなければならない14。第二のケースでは、特異的な生理条件がデンドリマーのフォールディング及び/又は三次構造が変化し、これによって封入された物質を放出する必要がある。デンドリマーからの活性物質の放出は、pH15、光感受性ユニットの導入16、又は酵素的切断17によって誘導することができる。
【0032】
本明細書に開示された新規自己脱離多重放出スペーサーは、単一の活性化が全ての末端基を放出させるのに十分であるように、デンドリマー末端基に共有結合された多重脱離基(例えば、生物的に活性な物質)を完全に放出させることができる(図3と4)。単一の化学又は生物的な活性化が起こると、自己脱離反応のカスケードが誘導されることによって、複数の脱離基が放出されるはずである。これらの特性を有するデンドリマーは、幾つかの用途において有用であり得、診断の分野及び薬物送達の分野(例えば、デンドリマー物質の腫瘍選択的な分解が望まれる、抗癌療法において)において特に有用であると考えられる。唯一つのターゲッティング又は薬物送達装置の利用によって、複数の薬物分子が部位特異的に放出され得る。一重放出スペーサー又はスペーサー系を介して、必要に応じて互いに接続された、多重放出自己脱離スペーサーの2以上の階層を含有する化合物は、さらに、「カスケードデンドリマー」と称される。
【0033】
本発明の多重放出スペーサー若しくはスペーサー系又はカスケードデンドリマーに対しては、幾つかの用途が考えられる。第一に、生物活性化合物を部位特異的に送達することができる。この概念は抗癌剤に対して適用できるだけでなく、例えば、例えばβ−ラクタマーゼ等の細菌酵素によって活性化されるカスケードデンドリマー中の末端基として抗生物質を組み込むことができる。さらに、カスケードデンドリマーは、農薬を放出するために農芸化学分野に適用できる18。高度な合成を通じて、2以上の異なる親化合物を含有するカスケードデンドリマーを調製することができる。癌、細菌疾患、及びHVIなどの疾病に対して臨床的に重要な治療の様式として併用療法が浮上することが考えられる場合には、これは興味深いものとなり得る。
【0034】
さらに、生物分解性デンドリマーは、プラスチックなどの生物分解性物質の製造に関して興味深いものとなり得、又は、例えば、酵素的に分解可能な配列を取り込むことによって薬物の制御放出又は徐放を可能とする装置として使用し得る。さらに、カスケードデンドリマーは、診断目的に使用することができる19。カスケードデンドリマーは、診断アッセイにおける増幅機構として機能する。以下を参照のこと。
【0035】
抗癌剤の特異性を向上させるために幾つかの戦略が開発されており、プロドラッグの概念がそのうちの1つである20,21。プロドラッグは活性な薬物の不活性誘導体であり、部位特異的に活性化されて活性な親薬物を放出する。腫瘍特異的な酵素又は腫瘍が標的とされる酵素によって活性化されるプロドラッグは、有望な結果を示している22。あるいは、Ringsdorfによって既に報告されているような23、ポリマーに結合された抗腫瘍剤のプロドラッグは、別のターゲッティング原理を与える。デンドリマーなどのポリマーは、透過性及び保持増大効果(EPR;enhanced permeability and retention effect)のために、腫瘍特異性を受動的にもたらすことができる24。不連続(漏出性)且つ十分に形成されていない腫瘍内皮とリンパ排液の不良のために、この効果によって、40kDを超えるおよその分子量を有するポリマー性物質が腫瘍組織内部に保持される。薬物送達のために頻繁に使用されるポリマー性担体は、ポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](ポリ−HPMA)25、ポリグルタミン酸(例えば、ポリ−L−グルタミン酸(PG))、及びポリ(エチレン)グリコール(PEG)26である。当然のことながら、デンドリマーは従来のポリマーほど多分散系ではないので、薬物送達にデンドリマーを適用することは、他のポリマーに比べて好ましいことがあり得る。一般に、デンドリマーはポリマーより容易に均一な化合物として得ることが可能であり、この事実のために、デンドリマー状物質は医薬用途として認可を取得しやすいであろう。
【0036】
従来のデンドリマー又はポリマーに対するカスケードデンドリマーの重要な利点は、選択的に分解可能であるため、身体から選択的に除去され得るということであろう。身体から除去され得る合成高分子の最大分子量は25ないし45kDの範囲にわたるので、身体からのポリマーのクリアランスは、現在のポリマー性薬物送達系における制約要因である27。本明細書中に開示されているカスケードデンドリマーは、同じくこれらの望ましい分解可能性特性を有する自己集合デンドリマー状システム28の代替物と考えることができる。
【0037】
このように、共有結合された抗癌薬分子を末端基として含有し、腫瘍環境中に局在する特異的酵素によって又は他の任意の特異的な化学的若しくは生物的現象によって活性化される本発明の多重放出デンドリマー複合体及びプロドラッグは、腫瘍選択的な抗癌化合物に関して望ましい多数の特性を兼ね備えるであろう。
【0038】
より具体的には、本発明は、式
V−(W−)W(X−)XC((A−)aZ)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(A−)aZd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(A−)aZ)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aZ)f)e)d)c、
(式中、
Vは、[O]、及び必要に応じて予め受容体に結合した後に、化学的、光化学的、物理的、生物的、又は酵素的活性化によって除去又は変換される指定子から選択され;
(W−)W(X−)XC((A−)a)c、
(W−)W(X−)XC(D(A−)a)d)c、
(W−)W(X−)XC(D(E(A−)a)e)d)c、
(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)a)f)e)d)c、
は、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系であり;
W及びXは、各々、同一又は異なる一重放出1,(4+2n)電子カスケードスペーサーであり;
Aは、環状化脱離スペーサーであり;
C、D、E、及びFは、各々、活性化されると、それぞれc、d、e、及びf脱離基を最大限に放出することができる自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系であり;
各Zは、独立に、脱離基又はH又はOH又は反応性部分であり;
aは、0又は1であり;
c、d、e、及びfは、独立に、2(2を含む)ないし24(24を含む)の整数であり;
w及びxは、独立に、0(0を含む)ないし5(5を含む)の整数である。
【0039】
nは、0(0を含む)ないし10(10を含む)の整数である。)
の化合物に関する。
【0040】
さらなる実施形態において、本発明は、式
V−(W−)W(X−)XC((A−)aS)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aSd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aS)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aS)f)e)d)c、
(式中、
V、W、X、C、D、E、F、A、w、x、c、d、e、f、及びaは上記定義のとおりであり、各Sは、独立に、意味を持たないか又はH、OH、若しくは同一若しくは異別であり得る脱離基Zへの多重放出スペーサー系を結合させて、それぞれ、化合物
V−(W−)W(X−)XC((A−)aZ)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aZd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aZ)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aZ)f)e)d)c、
を与えることができる反応性部分である。)
の化合物に関する。
【0041】
本発明の化合物又はプロドラッグ(又は(バイオ)複合体)は、部位特異的に除去又は変換することができ、新規自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系(W−)W(X−)XC((A−)a)c又は(W−)W(X−)XC(D((A−)a)d)c又は(W−)W(X−)XC(D(E((A−)a)e)d)c又は(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)a)f)e)d)cを介して少なくとも2つの治療若しくは診断部分Z又は少なくとも2つの反応性部分Sに共有結合される基からなるように作られた指定子Vを含む。これらの自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系は、部分Z又は部分Sを付着させるための部位を複数有する。
【0042】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系C、D、E、及びFは、式
【化15】
【0043】
(式中、
Bは、NR1、O、及びSから選択され;
Pは、C(R2)(R3)Q−(W−)w(X−)xであり;
Qは、意味を持たないか又は−O−CO−であり;
W及びXは、各々、同一又は異なる一重放出1,(4+2n)電子カスケードスペーサーであり;
G、H、I、J、K、L、M、N、及びOは、独立に、式:
【化16】
【0044】
を有する化合物から選択されるか、
(式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は、独立に、H、C1−6アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ(OH)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1、NRx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)を表し、Rx、Rx1、Rx2は、独立に、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択され、前記R1、R2、R3、R4、及びR5の2以上は、必要に応じて互いに接続されて1若しくは複数の脂肪族又は芳香族環状構造を形成する。)、又は、
G、J、及びMは、P及び水素の群からも選択され得るが、但し、G、J、及びMの2つが水素であれば、残りの基は、
【化17】
【0045】
若しくは、
【化18】
【0046】
でなければならず、同時に、
【化19】
【0047】
に共役していなければならず、
g、h、i、j、k、l、m、n、o、h’、g’、k’、j’、n’、m’は、独立に、0、1、又は2であるが、但し、
G=水素又はPであれば、g、h、i、h’、及びg’は全て0に等しく;
J=水素又はPであれば、j、k、l、k’、及びj’は全て0に等しく;
M=水素又はPであれば、m、n、o、n’、及びm’は全て0に等しく;
G、H、I、J、K、L、M、N、又はOが、
【化20】
【0048】
であれば、
それぞれ、g+g’=1、h+h’=1、i=1、j+j’=1、k+k’=1、l=1、m+m’=1、n+n’=1、又はo=1であり;
G、H、I、J、K、L、M、N、又はOが、
【化21】
【0049】
であれば、
それぞれg+g’=2、h+h’=2、i=2、j+j’=2、k+k’=2、l=2、m+m’=2、n+n’=2、又はo=1であり;
g’=0であり且つGが水素又はPでなければ、h、h’、及びiは0に等しく且つg>0であり;
g=0であり且つGが水素又はPでなければ、g’>0であり;
g’>0且つh’=0であれば、i=0且つh>0であり;
g’>0且つh=0であれば、h’>0且つi>0であり;
j’=0且つJが水素又はPでなければ、k、k’、lは0に等しく且つj>0であり;
j=0且つJが水素又はPでなければ、j’>0であり;
j’>0且つk’=0であれば、l=0且つk>0であり;
j’>0且つk=0であれば、k’>0且つl>0であり;
m’=0且つMが水素又はPでなければ、n、n’、oは0に等しく且つm>0であり;
m=0且つMが水素又はPでなければ、m’>0であり;
m’>0且つn’=0であれば、o=0且つn>0であり;
m’>0且つn=0であれば、n’>0且つo>0であり;
w及びxは、独立に、0(0を含む)ないし5(5を含む)の整数であり;
但し、前記化合物がCのみを含有しており、D、E、及びFが存在せず、B=NR1であり、G及びMはHであり、g、h、i、h’、g’、k、l、k’、l’、m、n、o、n’、及びm’は0であり、J=
【化22】
【0050】
であり、j=2であり、Q=−O−CO−であり、w及びxが0であり、R1、R2、R3、及びR4がHであれば、脱離基Zのうち少なくとも1つは、脂肪族アミノ基を介してQに接続されない。)
を有する化合物から独立に選択される。
【0051】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、前記1,(4+2n)電子カスケードスペーサーW及びXが、式
【化23】
【0052】
(式中、
Qは、意味を持たないか又は−O−CO−であり;
t、u、及びyは、独立に0ないし5の整数であり;
T、U、及びYは、独立に、式:
【化24】
【0053】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9は、独立に、H、C1−6アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ(OH)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)を表し、Rx、Rx1、Rx2は、独立に、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択され、置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、又はR9の2以上は、必要に応じて互いに接続されて1又は複数の脂肪族又は芳香族環状構造を形成する。)
を有する化合物から独立に選択される。)
を有する化合物から独立に選択される。
【0054】
好ましい実施形態において、脱離基Zは、脱離基のO、S、又は芳香族Nを介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に連結されている。
【0055】
上記式をさらに明確化するために、図13に記載されている化合物26が例として役立つであろう。この化合物は、式V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aZd)cの化合物である。この化合物は、4つの末端基Zが結合された2階層の二重放出スペーサーを含有している。指定子Vは[O]であり、これはV−BがB(Cの一部)の酸化型であることを意味する。この官能基の還元が自己脱離を誘導する。このような部分V−Bは化学的に還元することができるが、生理的条件下において低酸素状態下で又はニトロ還元酵素によって還元することもできる。Zはパクリタキセルである。指定子[O]と多重放出スペーサーの間には、一重放出スペーサーが組み込まれておらず、これはw−x=0であることを意味している。Cは、ベンジリデン−プロパン−1,3−ビス−オキシカルボニルユニットを含有する二重放出スペーサーであり、図8に図示されている原理に基づいて脱離する。環状化脱離スペーサーは存在せず、これはa=0であることを意味している。第一の二重放出スペーサーに2個の二重放出スペーサーが結合されており、d=c=2である。
【0056】
一般に、本発明に開示されている多重放出スペーサーは、2つのレベルで分岐が為されている(すなわち、i)指定子の位置に対してオルト置換基とパラ置換基の両方を導入できる芳香環上での分岐、及びii)二重結合の終末C原子が2個の脱離基を付着できる分岐点を与える、芳香環のパラ及び/又はオルト位置に存在する共役二重結合をさらに組み込むことによる分岐)ので、多重放出特性を有する。理論的には、多重放出スペーサー又はスペーサー系を得るための自己脱離スペーサーを分岐させるこれら2つの要素は無限に伸長させ得る。
【0057】
1又は複数の(階層の)自己脱離多重放出スペーサーを組み込むことに加えて、指定子と第一の多重放出スペーサーの間に、一重放出(非分岐とも呼ばれる)自己脱離スペーサー又はスペーサー系を組み込むことが望ましい場合もある。これによって、活性化工程を促進させ得る。この一重放出自己脱離スペーサー又はスペーサー系は、−(W−)W(X−)Xによって表される。さらに、最終的な複合体の表面積を増加させるために、前の階層に一重放出自己脱離スペーサー又はスペーサー系を追加して、多重放出スペーサーの次の階層に結合させるか(このようにして、多重放出スペーサー系の前の階層を得る)、又は、脱離基Zの前にある多重放出スペーサーの最高階層に結合させることも望ましいことがある。これによって、収容できる末端基の数を増加させることができるとともに、複合体の最終サイズを増加させることもでき、例えば透過性及び保持増大(EPR)効果から得られる利点などのある種の利点と両立することができる。さらに、アニリンをベースとする多重放出スペーサーのみが使用されている場合には、多重放出スペーサーの階層、又は、好ましくは、脱離基Zの前の多重放出スペーサーの最高階層にフェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーを接続すると、それらの脂肪族アミノ基によって多重放出スペーサー系に結合されている2個以上の脱離基Zの放出が可能になる。
【0058】
アニリンをベースとする多重放出スペーサーのみが使用されており、それらの脂肪族アミノ基によって脱離基Zが結合された多重放出スペーサー系にフェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーが組み込まれていない場合には、Z基が1個だけ放出されるであろう。これは、脱離基Zの脂肪族アミノ基によって脱離基Zが結合している多重放出スペーサー系へのアニリンをベースとする一重放出スペーサーの組み込みについても当てはまる。多重放出スペーサーの階層又は脱離基Z若しくは反応性部分Sの前にある多重放出スペーサーの最高階層に付加された一重放出スペーサーは、上記式中では、C、D、E及びFの一部である、P中の−(W−)w(X−)xによって表される。
【0059】
一般に、フェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出又は多重放出スペーサーに比べて、アニリンをベースとする一重放出又は多重放出スペーサーが好ましい。しかしながら、上記は、多重放出スペーサー系の中にフェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーを含めることが有益である場合があり得ることを示している。同じ理由で、フェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーを含めることが有益な場合がある。一般に、脂肪族アミノ基を介して多重放出スペーサー又はスペーサー系に接続された2以上のZ基を放出させるためには、C、D(存在する場合)、E(存在する場合)、又はF(存在する場合)の何れかの階層、好ましくはA、Z、又はSの何れかに接続された階層の多重放出スペーサー又はスペーサー系の少なくとも1つ、好ましくは全部が、フェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサー又はスペーサー系でなければならない。すなわち、i)その階層中の少なくとも1つ、好ましくは全ての多重放出スペーサーについてB=O若しくはSであるか、又はii)前記階層中の全ての多重放出スペーサーについてB=Nである場合には、前記階層中の少なくとも1つ、好ましくは全ての多重放出スペーサーの少なくとも2つの分岐に少なくとも1つの一重放出スペーサーが接続されており、それらの一重放出スペーサーの少なくとも2つについてB=O若しくはSである。
【0060】
上式において、Qは好ましくはO−COであるが、意味を持たなくてもよい。例えば、自己脱離スペーサーと脱離基との間にアリールエーテル結合を有する化合物(オキシカルボニル官能基が欠如している。(Qが意味を持たない))も自己脱離を行うと報告されている11。
【0061】
Carlらによって、1981年に開発されたような1,6脱離の原理は、プロドラッグの設計において使用できる最も用途の広い自己脱離原理の1つと考えられる。この原理によれば、スペーサーの脱離は、図5に図示されている機序を介して進行する。この脱離プロセスは、プロドラッグのコンセプトに応用すると、極めて奏功することが明らかとなっている。図5及び6に示されているように電子カスケードシーケンスを通じて自己脱離するスペーサーは、一般的には、環化反応を介して脱離するスペーサーより、脱離の半減期がずっと早い。これは、環状化スペーサーと電子カスケードスペーサーとの顕著な差である。
【0062】
切除可能部分と脱離基の間、例えば、WO 02/083180に開示されているように指定子と薬物の間に、伸長された自己脱離スペーサーを組み込むことができる(参考文献29も参照)。自己脱離スペーサーの長さを増加させることには、さらなる利点があり得る。長さが増加した自己脱離スペーサーは、複合体又はプロドラッグの活性化の速度及び/又は効率を増加させ得る。結果として、薬物の放出特性は、長いスペーサーを通じて増大され得る。本発明の自己脱離スペーサー又はスペーサー系は、それ自体伸長されており、又は1つの多重放出スペーサー系内に複数の自己脱離リンカーが組み合わされているので、例えば1,6−脱離スペーサーなどの従来の自己脱離スペーサーより長くすることもできる。このように、本発明のスペーサー又はスペーサー系は分岐することができるが、さらに、伸長させることができる。スペーサー又はスペーサー系の両因子(長さと分岐の程度)は、複合体又はプロドラッグを設計するときに、慎重に検討しなければならない。特に分岐点が活性化の部位に近接している場合には、高度な分岐は、複合体又はプロドラッグの活性化の効率化に関して不利なことがある。多数の脱離基Zを収容するために高度な分岐が望ましい場合には、指定子Vと分岐点の間に一重放出自己脱離スペーサーを組み込むことが有益であり得る。これによって、活性化の効率が増加し得る。
【0063】
一重放出スペーサーをさらに組み込むことによって外圏の表面が増加し、その結果、さらに多くの末端基(例えば薬物)を収容することができるので、多重放出スペーサーの階層に一重放出スペーサーを接続することによって、組み込まれ得る末端基の総数を増加させることが可能となり得る。所望の特性を有する複合体又はプロドラッグを得るために、1又は複数の一重放出自己脱離スペーサーを必要に応じて含む特異的な多重放出スペーサー又はスペーサー系の選択を検討しなければならない。
【0064】
本発明に開示されている新規自己脱離多重放出スペーサーは互いに結合させて、芳香族アミンをp−ニトロフェニルカーボネートに結合するために触媒としてヒドロキシベンゾトリアゾールを利用することによってアリールカルバメート官能基を介してスペーサーが結合されている多重放出スペーサー系を与えることができる。
【0065】
本発明は、別の側面において、Aが環状化スペーサーである上記式の化合物に関し、
【化25】
【0066】
(式中、
aは、0又は1の整数であり;
bは、0又は1の整数であり;
cは、0又は1の整数であり;但し、
a+b+c=2又は3;
R1及びR2は、H、以下の群:ヒドロキシ(OH)、エーテル(ORx)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)のうち1又は複数によって必要に応じて置換されているC1−6アルキル(Rx、Rx1、及びRx2は、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択される。)を独立に表し;
Sが意味を持たない場合にはR2が意味を持たず、これは、最も右側の窒素原子とカルボニル基の間に二重結合が存在することを意味し(N=C=O);
R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、独立に、H、C1−6アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ(OH)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)を表し(Rx、Rx1、及びRx2は、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択される。);
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、1又は複数の脂肪族又は芳香族環状構造の一部とすることができ、前記置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8の二以上は、必要に応じて互いに接続されて1又は複数の脂肪族又は芳香族環状構造を形成する。)
から選択される式を有するω−アミノアミノカルボニル環状化スペーサーとさらに称される。
【0067】
ω−アミノアミノカルボニル環状化スペーサーAのω−アミノ基は、1つの階層、好ましくは最高次の階層(A、Z、又はSに接続されているもの)中にフェノール又はチオフェノールをベースとするスペーサーを含有する多重放出スペーサー系に接続されている場合には、特定の電子吸引置換基に近接している必要はなく、芳香族窒素である必要もない。
【0068】
ω−アミノアミノカルボニル環状化スペーサーのωアミノ基は、十分な脱離基能を有するべきである。好ましい実施形態では、ω−アミノアミノカルボニル環状化スペーサーのωアミノ基は、N−アリール又は脂肪族Nであり、電子吸引基が適切にその電子吸引特性を発揮して前記ωアミノ基の脱離基能が増加するように、Nは電子吸引基の近傍に位置する。しかし、脱離アミノ基の求核性は、十分に速い環化反応を可能とするのに十分でなければならない。
【0069】
さらなる実施形態において、本発明は、基Aがω−アミノアミノカルボニル環状化スペーサーであり、Zがそのヒドロキシル基を介してAに結合された部分である、化合物に関する。
【0070】
本発明の好ましい化合物は、
(W−)w(X−)xCc、
(W−)w(X−)xC(Dd)c、
(W−)w(X−)xC(D(Ee)d)c、又は
(W−)w(X−)xC(D(E(Ff)e)d)c、
【化26−1】
【化26−2】
【化26−3】
【化26−4】
【化26−5】
【化26−6】
【化26−7】
【化26−8】
【化26−9】
からなる群及び一重放出1,6−脱離p−アミノベンジルオキシカルボニルスペーサーが一重放出1,8−脱離p−アミノシンナミルオキシカルボニルスペーサーによって置換された上記化合物から選択される化合物である。
【0071】
さらなる実施形態において、前のパラグラフに図示されている化合物は、ω−アミノアミノカルボニル環状化スペーサーAをさらに含む。
【0072】
本発明は、本発明に記載されている自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系自体にも関する。このように、本発明は、指定子Vがなく、例えばアミノトリオール16(図11)及びアミノジオール23(図13)によって例示されるように、Z又はSがH又はOHである、上述の化合物に関し、2以上のスペーサーを有するスペーサー系に及ぶ。
【0073】
本発明は、指定子、脱離基、反応性部分又はスペーサーとの結合を促進するために使用できる自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系自体の誘導体に関する。例えば、アミノ基はそのイソシアネートとして誘導化することができ、アルコール基はそのp−ニトロフェニルカルボネートとして誘導化することができる。他の誘導化は、当業者の知識の範囲に属する。
【0074】
スペーサー又はスペーサー系の一方の末端は、指定子、例えばプラスミンに対する基質であるトリペプチドと反応することが可能でなければならない。典型的には、スペーサー又はスペーサー系のこの末端はアミノ基又はヒドロキシル基であるが、別の官能基とすることもできる。リンカーまたはリンカー系の他方の末端に位置する官能基は、脱離基Z(薬物)と反応することが可能でなければならない。典型的には、多重放出スペーサー又はスペーサー系のこれらの末端はヒドロキシル基であるが、他の官能基とすることもできる。一つの実施形態において、これらの官能基は薬物のヒドロキシル基と反応して、リンカーと薬物の間に例えばカーボネート結合を形成する。別の実施形態において、これらの官能基は、薬物の芳香族アミノ基と反応して、リンカーと薬物の間に例えばN−アリールカルバメート結合を形成する。さらに別の実施形態において、これらの官能基は薬物のスルフヒドリル基と反応して、リンカーと薬物の間に例えばオキシカルボニルチオ結合を形成する。さらに別の実施形態において、これらの官能基は、薬物のカルボン酸基と反応する。スペーサーAがスペーサー系に含まれていれば、典型的には、薬物のヒドロキシル基はAと反応して、AとZの間にカルバメート結合を形成する。
【0075】
本発明の化合物において、前記指定子Vは、典型的には、標的細胞、例えば腫瘍細胞の近傍又は内部に存在する酵素によって特異的に切断される基質分子を含有する。より好ましくは、前記指定子Vは、身体の他の部分に比べて標的細胞の近傍又は内部においてレベルが上昇して存在する酵素によって特異的に切断される基質を含有し、最も好ましくは、前記酵素は標的細胞の近傍又は内部においてのみ存在する。ある実施形態において、適切には、前記指定子Vは、特定の細胞に化合物を誘導するためにターゲッティング部分を構成する。
【0076】
本発明の化合物において、前記指定子Vは、所定の標的細胞集団に付随する受容体若しくは他の受容部分への選択的な結合によって又は別の機序により標的細胞の近傍又は内部に本発明の化合物を蓄積させることによって、生じた化合物を標的部位に誘導することができるターゲッティング部分と反応できる反応性部分を含有することもできる。これらの化合物が2以上の反応性部分Sを含有する場合には、前記化合物は、以降「二官能性リンカー」と称される。前記化合物が2以上の部分Zを有する場合には、前記化合物は、以降「一機能性スペーサー−脱離基複合体」と称される。ターゲッティング基を有する指定子の他に、標的部位において特異的に切断できる基質、多重放出スペーサー系、及び2以上の脱離基Zを含有する本発明のプロドラッグを調製するために、二官能性リンカーと一機能性スペーサー−脱離基複合体を何れも使用することができる。本発明では、複数の脱離基を放出できるスペーサー及びスペーサー系が記載されているが、例えば、参考文献として援用されるWO 02/83180及びEP 1243276に記載されているように、一重放出スペーサー及びスペーサー系を含有する一機能性スペーサー−脱離基複合体と二官能性リンカーも設計できることが明らかである。
【0077】
本発明の一側面において、V中の反応性部分は、ターゲッティング部分上の求核基(例えば、チオール基、アミノ基、又はアルデヒド基)と反応して、ターゲッティング部分を含有する新しい指定子Vを形成する。
【0078】
本発明の好ましい側面において、V中の反応性部分は、タンパク質又はタンパク質断片上の求核基(例えば、チオール基、アミノ基、又はアルデヒド基)と反応して、タンパク質又はタンパク質断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0079】
本発明のさらに好ましい側面において、V中の反応性部分は、抗体又は抗体断片上の求核基(例えば、チオール基、アミノ基、又はアルデヒド基)と反応して、抗体又は抗体断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0080】
本発明のさらに好ましい別の側面において、V中の反応性部分は、ペプチドベクター又は受容体結合部分上の求核基(例えば、チオール基、アミノ基、又はアルデヒド基)と反応して、ペプチドベクター又は受容体結合部分をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0081】
好ましい実施形態において、V中の前記反応性部分は、
【化27】
【0082】
(Xは、een脱離基である。)であるが、これらに限定されない。これらの反応性部分は、求核基(例えば、チオール基)を有するターゲッティング部分を、このような反応性部分を有する指定子Vに結合して、ターゲッティング部分を含有する新しい指定子Vを形成するために使用することができる。
【0083】
本発明のさらに好ましい実施形態において、V中の反応性部分は、
【化28】
【0084】
であり(これらに限定されない。)、タンパク質又はタンパク質断片上の求核基(例えば、チオール基)と反応して、タンパク質又はタンパク質断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0085】
本発明のさらに好ましい別の実施形態において、V中の反応性部分は、
【化29】
【0086】
であり(これらに限定されない。)、抗体又は抗体断片上の求核基(例えば、チオール基)と反応して、抗体又は抗体断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0087】
本発明のさらに好ましい別の実施形態において、V中の反応性部分は、
【化30】
【0088】
であり(これらに限定されない。)、ペプチドベクター又は受容体結合部分上の求核基(例えば、チオール基)と反応して、ペプチドベクター又は受容体結合部分をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0089】
別の好ましい実施形態において、V中の反応性部分は、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、p−ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステルなどの活性化されたエステル、さらにはイソチオシアネート、イソシアネート、無水物、酸塩化物、塩化スルホニル、又はアルデヒド(これらに限定されない。)である。これらの反応性部分は、求核基(例えば、アミノ基)を有するターゲッティング部分を、このような反応性部分を有する指定子Vに結合して、ターゲッティング部分を含有する新しい指定子Vを形成するために使用することができる。
【0090】
本発明のさらに好ましい実施形態において、V中の反応性部分は、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、p−ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステルなどの活性化されたエステル、さらにはイソチオシアネート、イソシアネート、無水物、酸塩化物、塩化スルホニル、又はアルデヒド(これらに限定されない。)であり、タンパク質又はタンパク質断片上の求核基(例えば、アミノ基)と反応して、タンパク質又はタンパク質断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0091】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、V中の反応性部分は、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、p−ニトロフェニルエステルなどの活性化されたエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、さらにはイソチオシアネート、イソシアネート、無水物、酸塩化物、塩化スルホニル、又はアルデヒド(これらに限定されない。)であり、抗体又は抗体断片上の求核基(例えば、アミノ基)と反応して、抗体又は抗体断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0092】
本発明のさらに好ましい別の実施形態において、V中の反応性部分は、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、p−ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステルなどの活性化されたエステル、さらにはイソチオシアネート、イソシアネート、無水物、酸塩化物、塩化スルホニル、又はアルデヒド(これらに限定されない。)であり、ペプチドベクター又は受容体結合部分上の求核基(例えば、アミノ基)と反応して、ペプチドベクター又は受容体結合部分をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0093】
別の実施形態において、V中の前記反応性部分は、アミノ基又はヒドラジン基であるが、これらに限定されない。これらの反応性部分は、求核基(例えば、アルデヒド基)を有するターゲッティング部分を、このような反応性部分を有する指定子Vに結合して、ターゲッティング部分を含有する新しい指定子Vを形成するために使用することができる。
【0094】
本発明のさらに好ましい実施形態において、V中の反応性部分は、アミノ基又はヒドラジン基であり(これらに限定されない。)、タンパク質又はタンパク質断片上の求核基(例えば、アルデヒド基)と反応して、タンパク質又はタンパク質断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0095】
本発明のさらに好ましい別の実施形態において、V中の反応性部分は、アミノ基又はヒドラジン基であり(これらに限定されない。)、抗体又は抗体断片上の求核基(例えば、アルデヒド基)と反応して、抗体又は抗体断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0096】
本発明のさらに好ましい別の実施形態において、V中の反応性部分は、アミノ基又はヒドラジン基であり(これらに限定されない。)、ペプチドベクター又は受容体結合部分上の求核基(例えば、アルデヒド基)と反応して、ペプチドベクター又は受容体結合部分をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0097】
前記指定子Vは、所定の標的細胞集団に付随する受容体若しくは他の受容部分への選択的な結合によって又は別の機序により標的細胞の近傍又は内部に本発明の化合物を蓄積させることによって、本発明の化合物を標的部位に誘導する部分を含有することもできる。このターゲッティング部分は、例えば、ボンベシン、トランスフェリン、ガストリン、ガストリン放出ペプチド、αvβ3及び/又はαvβ5−インテグリン受容体(RGD含有ペプチドなど)、血小板由来成長因子、IL−2、IL−6、腫瘍増殖因子、ワクシニア増殖因子、インシュリン及びインシュリン様増殖因子I及びII、抗原認識イムノグロブリン若しくはその抗原認識断片、又は炭水化物を特異的に結合する分子であり得る。好ましくは、免疫グロブリン(又はその断片)によって認識されるその抗原は、標的細胞、例えば腫瘍特異抗原に対して特異的である。
【0098】
一つの実施形態において、前記指定子Vは、特異的に認識されるため、標的細胞(例えば腫瘍細胞)の近傍又は内部に存在するプロテアーゼ、例えばプラスミン、カテプシン、カテプシンB、前立腺特異抗原(PSA)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u−PA)、又はマトリックスメタロプロテイナーゼのファミリーのメンバーによって切断され得るアミノ酸配列からなるジペプチド、トリペプチド、又はオリゴペプチドを含有する。典型的には、前記指定子Vは、セリンプロテアーゼであるプラスミンに対する基質を含有する。
【0099】
別の実施形態において、Vは、1又は複数のカテプシン、典型的にはカテプシンに対する基質を含有する。さらに別の実施形態において、Vは、腫瘍細胞の近傍又は内部に存在するβ−グルクロニダーゼによって特異的に認識されるβ−グルクロニドを含有する。さらに別の実施形態において、前記指定子は[O]であり、例えば、低酸素条件下において又はニトロ還元酵素によって還元できるニトロ基を生じる。別の実施形態において、Vは、ニトロ(複素)芳香族部分、例えば、ニトロベンジルオキシカルボニルである。ニトロ基の還元又はニトロ芳香族指定子の除去後、本発明に記載されたスペーサー又はスペーサー系の脱離が薬物放出を引き起こす。疾病特異的及び/又は臓器特異的及び/又は特異的に標的とされる酵素及び/又は受容体による認識の後、特異的に切断される任意の指定子を、本発明において請求されるスペーサー又はスペーサー系を含有する複合体及びプロドラッグの中に組み込み得ることが理解できるであろう。
【0100】
1つの実施形態において、本発明は、前記指定子Vがトリペプチドを含有する化合物に関する。好ましくは、前記トリペプチドは、そのC末端を介して、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に連結される。より好ましくは、前記トリペプチドのC末端アミノ酸残基はアルギニン及びリジンから選択され、前記トリペプチドの中央アミノ酸残基はアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、シクロヘキシルグリシン、トリプトファン及びプロリンから選択され、前記トリペプチドのN末端アミノ酸残基はDアミノ酸残基及び保護されたグリシンを含む保護されたLアミノ酸残基から選択される。
【0101】
さらなる実施形態において、前記指定子Vは、D−アラニルフェニルアラニルリジン、D−バリルロイシルリジン、D−アラニルロイシルリジン、D−バリルフェニルアラニルリジン、D−バリルトリプトファニルリジン、及びD−アラニルトリプトファニルリジンから選択される。
【0102】
ジペプチド、トリペプチド若しくはオリゴペプチドの形態であれ、又は他の任意の形態であれ、指定子Vは、保護基を含有し得ることを銘記すべきである。保護された指定子Vを有するこのような化合物は、例えば指定子特異的酵素と接触される場合には、脱離基を放出しなくてもよい。しかしながら、脱保護され且つ適切に活性化されると、このような化合物は脱離基を放出するため、保護された指定子Vを有するこのような化合物も本発明の範囲に属する。特に、上記のことは、先述した二官能性又は一機能性化合物
V−(W−)W(X−)XC((A−)aS)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aS)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aS)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aS)f)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC((A−)aZ)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aZd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aZ)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aZ)f)e)d)c、
に関して想定することができる。化学的官能基、特にアミノ酸に対する適切な保護基が、有機化学者に周知であり、例えば「T.W. Greene, Protective Groups in Organic Synthesis, John Wiley & Sons, New York,1981」に記載されている。
【0103】
さらなる実施形態において、本発明は、指定子Vが、C末端を介して、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に共有結合された、アミノ末端がキャップされたペプチドである化合物に関する。好ましくは、指定子Vは、ベンジルオキシカルボニルフェニルアラニルリジン、ベンジルオキシカルボニルバリルリジン、D−フェニルアラニルフェニルアラニルリジン、ベンジルオキシカルボニルバリルシトルリン、tert−ブチルオキシカルボニルフェニルアラニルリジン、ベンジルオキシカルボニルアラニルアルギニルアルギニン、ベンジルオキシカルボニルフェニルアラニル−N−トシルアルギニン、2−アミノエチルチオスクシンイミドプロピオニルバリニルシトルリン、2−アミノエチルチオスクシンイミドプロピオニルリジルフェニルアラニルリジン、アセチルフェニルアラニルリジン、及びベンジルオキシカルボニルフェニルアラニル−O−ベンゾイルスレオニンから選択される。
【0104】
前記部分Zは、好ましくは、治療又は診断部分であるが、水素又はOH基又は反応性部分とすることもできる。多重放出スペーサー又はスペーサー系への脱離基の最終的な結合が完全には進行しない場合、H又はOH基又は反応性部分が、その合成の間に、最終複合体中に偶然導入されることがある。H又はOH基は脱離基として作用せずに、脱離基Zの脱離を阻害すると予想される。
【0105】
Zは、例えば、抗癌剤、抗生物質、抗炎症剤、又は抗ウイルス剤とすることができる。典型的には、前記部分Zは、抗癌剤である。好ましくは、前記抗癌剤はヒドロキシル含有エトポシド、カンプトテシン、イリノテカン(CPT−11)、SN−38、トポテカン、9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、10−ヒドロキシカンプトテシン、GG211、ラルトテカン(lurtotecan)、コンブレスタチン、パクリタキセル、ドセタキセル、エスペラマイシン、1,8−ジヒドロキシ−ビシクロ[7.3.1]トリデカ−4−エン−2,6−ジイン−13オン、アングイジン(anguidine)、ドキソルビシン、モルホリン−ドキソルビシン、N−(5,5−ジアセトキシペンチル)ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、タリソマイシン、ブレオマイシン、4−ビス(2−クロロエチル)アミノフェノール、4−ビス(2−フルオロエチル)アミノフェノール、及びそれらの誘導体である。
【0106】
抗癌剤は、スルフヒドリルを含有する、エスペラマイシン、6−メルカプトプリン、又はそれらの誘導体とすることもできる。抗癌剤は、カルボキシルを含有する、メトトレキサート、アミノプテリン、カンプトテシン(ラクトンの開環型)、クロラムブシル、メルファラン、酪酸及びレチノイン酸、並びにそれらの誘導体とすることもできる。抗癌剤は、アジリジンアミノを含有する又は芳香族アミノを含有する、マイトマイシンC、マイトマイシンA、十分な脱離基能を有するアミン官能性を含有するアンスラサイクリン誘導体、ミトキサントロン、9−アミノカンプトテシン、メトトレキサート、アミノプテリン、タリソマイシン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、N,N−ビス(2−クロロエチル)−p−フェニレンジアミン、N,N−ビス(2−フルオロエチル)−p−フェニレンジアミン、デオキシシチジン、シトシンアラビノシド、ゲムシタビン、及びそれらの誘導体とすることもできる。
【0107】
抗癌剤は、脂肪族アミノを含有する、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、N−(5,5−ジアセトキシペンチル)ドキソルビシン、アントラサイクリン、N8−アセチルスペルミジン、1−(2−クロロエチル)−1,2−ジメタンスルホニルヒドラジン、又はそれらの誘導体とすることもできる。
【0108】
一つの実施形態において、Zは、その2’−ヒドロキシル基を介して、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、パクリタキセル、ドセタキセル、又はそれらの誘導体から選択される。さらなる実施形態において、Zは、その20−ヒドロキシル基を介して、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、カンプトテシン、イリノテカン(CPT−11)、SN−38、トポテカン、9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、10−ヒドロキシカンプトテシン、GG211、ラルトテカン、又はそれらの誘導体から選択される。さらなる実施形態において、Zは、そのフェノール性ヒドロキシル基を介して、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、SN−38、トポテカン、10−ヒドロキシカンプトテシン、エトポシド、4−ビス−(2−クロロエチル)アミノフェノール、4−ビス−(2−フルオロエチル)アミノフェノール、コンブレスタチン、又はそれらの誘導体から選択される。さらなる実施形態において、Zは、その芳香族第一級アミン基を介して、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、9−アミノカンプトテシン、N,N−ビス(2−クロロエチル)−p−フェニレンジアミン、N,N−ビス(2−フルオロエチル)−p−フェニレンジアミン、又はそれらの誘導体から選択される。さらなる実施形態において、Zは、その脂肪族アミノ基を介して、自己脱離多重放出スペーサー(系)に結合された、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、又はそれらの誘導体から選択されるが、但し、多重放出スペーサー系の少なくとも1つの階層、好ましくは最高次の階層はフェノール又はチオフェノールをベースとするスペーサーを含有する。
【0109】
前記部分Sは、多重放出スペーサー(系)への部分Zの結合を可能とする反応性部分である。部分Sが、カルボニル基を介して、多重放出スペーサー又はスペーサー系に接続される場合、適切なS部分には、N−スクシンイミジル−N−オキシド、p−ニトロフェノキシド、ペンタフルオロフェノキシド、カルボキシレート、ハロゲン化物、及びスルホネートが含まれるが、これらに限定されない。前記部分Sが、多重放出スペーサー系のメチレン基に直接接続される場合、適切なS部分には、ハロゲン化物及びスルホネートが含まれるが、これらに限定されない。前記部分SはH又はOHであってもよいが、この場合には、Sがインシチュで反応性部分に転換された後、同一の反応混合物中でZによって反応性部分が置換されることによって、Zへの結合が行われる。
【0110】
2以上の部分Zを含有する本発明の化合物を調製するために、2以上の部分Sを含有する本発明の化合物を使用することができる。2以上の部分Sを含有する本発明の化合物は、反応性部分も含有する指定子Vを含有しているので、該化合物は二官能性リンカーと命名された。2以上の部分Sを含有する本発明の化合物が、反応性部分を含有していない指定子Vを含有する場合には、前記化合物は、以降、「一機能性指定子−スペーサー複合体」と称される。本発明では、複数の脱離基を放出できるスペーサー及びスペーサー系が記載されているが、例えば、参考文献として援用されるWO 02/83180及びEP 1243276に記載されているように、一重放出スペーサー及びスペーサー系を含有する一機能性指定子−スペーサー複合体と二官能性リンカーも設計できることが明らかである。
【0111】
本発明の好ましい化合物は、
【化31−1】
【化31−2】
【化31−3】
【化31−4】
【化31−5】
【化31−6】
【化31−7】
からなる群から選択される化合物及びそれらの塩である。
【0112】
単一のp−NH−Ph−CH=C(CH2OCO−)2スペーサーを介して2つのドキソルビシン分子に共有結合された、アミノ末端がキャップされたペプチドからなる化合物は、本発明の範囲から除外される。さらに、単一のp−NH−Ph−CH=C(CH2OCO−)2スペーサーを介して2つの抗癌剤分子に共有結合された、アミノ末端がキャップされたペプチドからなる化合物は、本発明の範囲から除外されるものもあり、又は除外されないものもある。
【0113】
酵素を定量的に検出する必要がある場合には、酵素的な切断が多数の検出可能な分子を解離させることができるので、該酵素によって酵素的に切断される化合物又は複合体中に多重放出スペーサー又はスペーサー系を組み込むことによって、このようなアッセイの感度が増大する。
【0114】
試料中の酵素、例えばプロテアーゼの検出又は測定は、(タンパク分解)酵素の基質である、本発明の多重放出スペーサー又はスペーサー系を含有する化合物とともに前記試料をインキュベートし、前記基質の(タンパク分解)切断を観察することによって実施することができる。「酵素を測定する」という用語は、定性分析(すなわち、酵素の存在を検出し、酵素が存在するかどうかを測定する)と定量分析(すなわち、酵素を定量化し、試料中に存在する酵素活性を測定する)の両方を意味する。
【0115】
多くのプロテアーゼに対して、発色性又は蛍光発生性ペプチド基質が考案されており、多くの場合市販されている。多くの場合、例えば、セリンプロテアーゼの場合、酵素は加水分解される結合のC末端側にある配列を認識しない。この部分は、p−ニトロアニリン又はβ−ナフチルアミンのような発色性又は蛍光発生性脱離基によって置き換えることができる。このような発色性又は蛍光発生性化合物は、本発明の化合物中で脱離基Zとして役割を果たすことができる。多重放出スペーサー又はスペーサー系は、生体液又は組織抽出液中の酵素の生理的濃度を検出及び定量するために取得できる感度を増加させ得る。
【0116】
測定すべき酵素によって切断され得る認識部位(例えば、活性化部位)を含有するそのプロ酵素を介して、酵素を間接的に測定することもできる。このような場合、プロ酵素の切断は、本発明の多重放出スペーサー又はスペーサー系を含有する、活性化されたプロ酵素の適切な基質を用いて、生じた活性を観察することによって検出することができる。
【0117】
一実施形態において、本発明は、本発明の化合物が使用される診断アッセイ方法に関する。
【0118】
さらなる実施形態において、本発明は、本発明の化合物を使用することによって、酵素の存在又は量が測定される方法に関する。
【0119】
さらなる実施形態において、本発明は、本発明の化合物を使用することによって、プロテアーゼの存在又は量が測定される方法に関する。
【0120】
さらなる実施形態において、本発明は、使用される本発明の化合物が前記プロテアーゼに対する基質を含み、脱離基Zが検出される、方法に関する。
【0121】
さらなる実施形態において、本発明は、使用される本発明の化合物が前記プロテアーゼによるプロ酵素前駆体の切断の生成物である酵素に対する基質を含み、脱離基Zが検出される、方法に関する。
【0122】
前記指定子Vは、透過性及び保持増大(EPR)効果のために、標的細胞、例えば腫瘍細胞の近傍又は内部に本発明の化合物を蓄積させる、例えばポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](ポリ−HPMA)、ポリグルタミン酸(ポリ−L−グルタミン酸(PG))、又はポリ(エチレン)グリコール(PEG)などのポリマーも含み得る。これらのポリマーは、それ自体、ターゲッティング部分とみなしてもよい。他の蓄積機序に加えて、EPR効果の結果として蓄積し得るさらに大きな構造を得るために、本発明の2以上の分子を、中央(コア)のモノマー又はポリマー性分子に結合してもよい。適切なポリマーは、例えば、ポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](ポリ−HPMA)、ポリグルタミン酸(ポリ−L−グルタミン酸(PG))、又はポリ(エチレン)グリコール(PEG)である。このように、本発明は、ポリマー構造と接続された本発明の化合物を2以上含む複合構造にも関する。
【0123】
多重放出デンドリマープロドラッグ又は(バイオ)複合体を構築するための適切なモノマーとして機能し得る多重放出スペーサーの構造が開示されている。適切なモノマーは、活性化後に2以上の脱離基を放出することができる。本明細書に開示されているこのような多重放出モノマーの1つの構造が図7に図示されている。図7に示されているように、このモノマーからの三重放出は、非分岐1,4及び1,6脱離スペーサーの原理に基づいている30。1のアミンのマスキングが外れた後(図7)、2は電子カスケード反応を行うことができ、このカスケード反応の後、反応性非芳香族種3は求核試薬(例えば、水など)によって直ちに捕捉されて、4中の芳香族アミン官能基を再度生成する。この自己脱離と捕捉のプロセスがさらに2回繰り返され、その後、3つの脱離基L−Hが解離される。3つの電子カスケード脱離反応が図7に示されているように起こる順序は、無作為に選択された。実際、3つの断片化(2つの1,4脱離と1つの1,6脱離)は、任意の無作為な順序で起こり得る。このモノマーをn階層使用すれば、3nの末端基を含有するカスケードデンドリマーを構築できる可能性がある。
【0124】
図8は、二重放出スペーサーからの薬物放出の原理を示している。この二重放出スペーサーの自己脱離は、1,8脱離に基づいている。7中のアミノ基の脱保護が8を与え、2つの1,8−脱離反応の発端となり、2個の脱離基L−Hを放出する。
【0125】
ニトロ官能基の対応するヒドロキシルアミン又はアミン官能基への還元を通じて、マスクされたアミンからアミン又はヒドロキシルアミンが生成され得る。ヒドロキシルアミンとアミン誘導体の両方がスペーサーの自己脱離を誘導する。
【0126】
本明細書に開示された多重放出スペーサー又はスペーサー系を含有する複合体及びプロドラッグからの脱離基の多重放出についての原理を証明するために、1又は2階層の多重放出スペーサーに末端基として結合された複数の脱離基を含有する化合物が合成された。多重放出リンカー又はリンカー系の中心に位置する芳香環に付着されたニトロ基が還元されたときに、これらの化合物は脱離基を放出する予定であった。対応するヒドロキシルアミン又はアミンへのニトロ基の還元は、多重放出カスケードの引き金を引き、全ての脱離基を同時に解離するはずである。あるいは、アミンのマスクを外すためにAloc脱離基を除去することにより、自己脱離を誘発させることができる。原理の証明を与える化合物としての役割を果たす以外に、パクリタキセルなどの抗腫瘍薬を脱離基として含有する前記合成されたニトロ芳香族化合物は、腫瘍中の低酸素領域へ薬物を選択的に誘導して、この領域でニトロ基が還元されるという用途を考えることができる。あるいは、これらの化合物は、運搬酵素プロドラッグ療法(DEPT)アプローチの1つを通じて腫瘍細胞に誘導されるニトロ還元酵素によって活性化される複合体及びプロドラッグとして使用できる。これらの化合物の合成が開示されている。
【0127】
三重放出構築ブロックニトロジオール11(図9)及びアミノトリオール16(図11)は、多数の経路で合成することができる。例えばニトロメシチレンから出発して、対応するアミノ−トリ−メチルエステル又はアミノ−トリ−カルボン酸を得るための幾つかのアプローチが報告されている31。
【0128】
二重放出構築ブロックニトロジオール(図12)の合成が、文献に報告されている32。二重放出構築ブロックアミノジオール23(図13)は、2−p−ニトロベンジリデン−プロパン−1,3−ジオール20のニトロ基の還元によって合成できる。
【0129】
三重放出の原理の証明は、1に類似する構造を有するモノマーモデル化合物によって与えられるはずである(図7)。このような化合物を得るために、ニトロトリオール11は、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)の存在下で過剰のp−ニトロフェニルクロロギ酸及びピリジンで活性化されて、三重に活性化された化合物12を与えた(図9)33。三重に活性化された12は、続いて、ベンジルアルコールと反応してモデル化合物13を与えるか、又はフェネチルアルコールと反応してモデル化合物14を与えた。三重に活性化された12は、ベンジルアミンとも反応して、モデル化合物15を得た(図10)。
【0130】
モデル化合物19(図11)を得るために、Aloc基でアミノトリオール16をN保護して17を得、続いて、p−ニトロフェニルクロロギ酸で三重に活性化して18を得、プロピルアミンと結合した。
【0131】
10に類似する構造を有する二重放出スペーサー(図8)が両脱離基を実際に放出できるという事実についての原理の証明も、本発明に開示されている。この目的のために、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)の存在下で過剰のp−ニトロフェニルクロロギ酸及びピリジンにより、ニトロジオール20を二重に活性化して、二重に活性化された化合物21を得た(図12)。続いて、二重に活性化された21をパクリタキセルと反応させて、所望のモデル化合物22を得た。
【0132】
10に類似する構造を有するスペーサー(図8)からの二重放出に対する原理の証明を与える以外に、2階層の二重放出スペーサーを含有する多重放出プロドラッグ又は(バイオ)複合体からの4つの脱離基の放出に対する原理の証明を与えるために、モデル化合物を合成した。この目的のために、HOBtを触媒として使用して、アミノジオール23の2分子を二重に活性化された21に結合させ、テトラオール24を得た(図13)。ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)とピリジンの存在下で過剰のp−ニトロフェニルクロロギ酸により、テトラオール24を四重に活性化して、四重に活性化された化合物25を得た。続いて、四重に活性化された25をパクリタキセルと反応して、所望のモデル化合物26を得た。
【0133】
二重に活性化された21をベンジルアミンとも反応させて、モデル化合物27を得た(図14)。モデル化合物をさらに合成するために、二重に活性化された21を一重放出1,6脱離スペーサーとも反応させて28を得(図15)、続いてp−ニトロフェニルクロロギ酸を用いて28を活性化して29を得た。二重に活性化された29をp−メトキシベンジルアミン、p−クロロベンジルアミン、又はフェネチルアルコールと反応させて、それぞれ、モデル化合物30、31、及び32を得た(図16)。
【0134】
一重1,6脱離を実証するための参照化合物を得るために、p−ニトロベンジルクロロギ酸33をベンジルアミンと反応させてモデル
化合物34を得た(図17)。
【0135】
他の参照化合物も2個調製した(図18)。上記のモデル化合物のニトロ官能基の還元に必要とされる条件で処理したときにこれらの化合物が変化を受けないことを実証するために、炭酸ジベンジル35と2’−O−シンナミルオキシカルボニルパクリタキセル36を参照化合物として合成した。
【0136】
前記複合体、被検化合物、及び参照化合物はアニリンをベースとするスペーサーに基づいているが、フェノール又はチオフェノールをベースとする1又は複数のスペーサーを含有する類似の化合物を同様に調製できることが当業者には明らかである。
【0137】
3つの脱離基全ての放出に対する原理の証明を与えるために、酢酸の存在下で亜鉛を用いてニトロ基を還元することによって、13と14のマスクを外した(図19)。1時間以内に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の完全な消失とかなりの量のベンジルアルコール又はフェネチルアルコールの形成が示された。生成物のNMRスペクトルは、遊離のベンジルアルコール又はフェネチルアルコールの完全な形成を示し、炭酸ベンジル又は炭酸フェネチルのプロトンからのシグナルは全く存在しない。
【0138】
モデル化合物15のニトロ官能基を還元すると(図20)、薄層クロマトグラフィーによって単一の生成物の形成が示された。しかしながら、ベンジルアミンの形成は全く又はほとんど観察されなかった。NMRによれば、最大33%のベンジルアミンが15から放出された。
【0139】
パラジウムテトラキストリフェニルホスフィン及びモルホリンでモデル化合物19(図21)を処理すると、1時間以内に出発化合物が消失した。しかしながら、同じく、プロピルアミンの完全な放出は全く観察されなかった。
【0140】
両パクリタキセル脱離基の放出に対する原理の証明を与えるために、酢酸の存在下で亜鉛を用いてニトロ基を還元することによって、22のマスクを外した(図22)。30分以内に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の完全な消失とかなりの量のパクリタキセルの形成が示された。生成物のNMRスペクトルは、遊離のパクリタキセルの完全な形成を示し、パクリタキセル−2’−カルボネートのプロトンからのシグナルは全く存在しなかった。
【0141】
2階層の多重放出スペーサーを含有し、4個のパクリタキセル単位を含有するモデル化合物26のニトロ基を同様に還元すると、30分以内に出発物質が完全に消失し、薄層クロマトグラフィーに従ってかなりの量のパクリタキセルが形成された(図23)。この場合にも、生成物のNMRスペクトルは、遊離のパクリタキセルの完全な形成を示した。
【0142】
ベンジルアミンを脱離基として含有するモデル化合物27(図24)を亜鉛で処理すると、出発化合物が消失することが示された。しかしながら、この場合にも、ベンジルアミンの完全な放出は全く観察されなかった。
【0143】
脂肪族アミン脱離基(p−メトキシベンジルアミン又はp−クロロベンジルアミン)を含有するモデル化合物30及び31も還元された。何れの場合にも、30分以内に、出発化合物が単一の生成物へと変換されたが、この場合にも、遊離のアミンは全く形成されなかった。
【0144】
化合物32を含有するフェネチルアルコール脱離基を同じ条件下で還元すると、1H−NMRで観察されたところによると、生成物が遊離のフェネチルアルコールへと完全に変換されることが示された。
【0145】
脱離基が脂肪族アミンである場合に、一重放出一重放出1,6−脱離スペーサーが自己脱離するかどうかを確認するために、化合物34を還元した。NMRは、ベンジルアミンの完全な放出を示した。
【0146】
参照化合物35及び36を亜鉛と酢酸でも処理した(図28)。1H−NMRによると、両化合物とも全く分解を示さなかったが、これは、ニトロ含有モデル化合物からの脱離基の解離が望ましくない副反応によるものではないことを示している。
【0147】
モデル化合物を含有する脂肪族アミン脱離基の幾つかの還元生成物から、幾つかの事例では、ニトロ還元又はAloc脱保護から1ないし3ヵ月後に、解離された脱離基のパーセントは不変であることが、NMR又は薄層クロマトグラフィーによって示された。各事例において、1当量以内の脂肪族アミンが放出された。本明細書に開示されたアニリンをベースとする二重及び三重放出の多重放出スペーサーは何れも、脱離基が脂肪族アミンである場合には、1個を超える脱離基を放出することはできない。図7及び8に示されている多重放出構造は、本発明において、脱離基が芳香族アミン又は酸素(ヒドロキシル)である場合には、多重放出特性を有することが示された。脱離基の電子吸引能の程度によって、1を超える脱離基が本明細書に開示されたスペーサーから解離され得るか否かが決定されることが明らかである。多重放出スペーサーがフェノール若しくはチオフェノールをベースとした多重放出スペーサーである場合、又は多重放出スペーサーがフェノール若しくはチオフェノールをベースとした一重スペーサーに結合されている場合には、脂肪族アミンも適切な脱離基であり、全ての脂肪族アミン脱離基の放出が起こる。脂肪族アルコールが適切な脱離基であることが判明し(例えば、H2N−C6H4−CH=C(CH2−O−CO−2’−O−パクリタキセル)2から、二分子のパクリタキセルが放出される)、従って、脂肪族アルコールに関する脱離能の増加の故に、多重放出スペーサー(例えば、H2N−C6H4−CH=C(CH2−O−C(O)O−C6H4−CH2OC(O)(NR1R2)2)から脂肪族アミン脱離基が接続されたフェノールをベースとするスペーサーの放出が起こる。ヒドロキシベンジルをベースとするスペーサー−脂肪族アミン複合体からの脂肪族アミンの脱離が知られているので10、脂肪族アミンがフェノールをベースとするスペーサーに直接接続されたスペーサー系からも脂肪族アミンの放出が起こる。
【0148】
本発明に開示されている化合物又はプロドラッグ中の指定子Vが生理的条件下で除去又は変換され、このためVに結合された分岐スペーサー又はスペーサー系のBのマスクが外れると、自己脱離後に形成された反応性中間体が水によって捕捉され、これによって、アミノジオール23及び/又はアミノトリオール16のような分子を再生成するものと思われる。本発明に開示されたモノマーの1つを用いて構築された多重放出複合体又はプロドラッグを薬物送達目的で使用するときには、多重自己脱離カスケードの後にプロドラッグ又は(バイオ)複合体の分解生成物は無毒性でなければならない(腫瘍誘導アプローチで放出されるべき薬物からの生成物を除く)。従って、本発明者らは、十分に性質が決定された7つのヒト腫瘍細胞株群におけるアミノトリオールモノマー16とアミノジオールモノマー23の細胞毒性を調べた。両化合物は、無毒性であることが明らかとなった(実施例33を参照)。
【0149】
デンドリマープロドラッグ又は複合体当たりの達成可能な末端基(例えば、薬物部分)の総数は、立体条件によって制限されることがある。複数の巨大な生物活性末端基を組み込むことが望まれる場合には、数階層の多重放出モノマースペーサーのみを使用することができるであろう。多重放出スペーサーの階層に又は脱離基Zの前の多重放出スペーサーの最高階層に非分岐自己脱離スペーサー(系)をさらに追加して、外圏表面を拡大させ、より多くの末端基が付着できるようにすることによって、組み込むことができる末端基の数を増加させ得る。
【0150】
4−アミノベンジルアルコール1,6−脱離スペーサーの電子カスケード自己脱離プロセスは、短い半減期で進行することが知られている。部位特異的な活性化後に素早い薬物放出が必要とされるので、自己脱離スペーサーの薬物送達への適用において、これは重要な要因である。これより遅い脱離基の放出が望まれる場合には、スペーサー脱離プロセスが遅延するように、スペーサーモノマーを調節することができる。これは、本発明の機能的多重放出スペーサー又はスペーサー系が徐放目的で使用される場合に有用であり得る。
【0151】
未分岐及び分岐モノマーアミノベンジルオキシカルボニル及び関連の電子カスケードスペーサー又はスペーサー系は、カルバメート結合を介して、モノマースペーサーの次の階層に結合することが可能であり、これは、生理的な条件下ではエステル又はカルボネート結合より安定であると思われる34。
【0152】
本発明には、新しい多重放出スペーサー及びスペーサー系の合成と用途が記載されている。1つの実施形態において、多重放出プロドラッグ又は(バイオ)複合体中に用いられている二重又は三重放出モノマーは、幾つかの連続する1,4、1,6、又は1,8脱離を通じて末端基(薬物)を放出する。二重又は三重自己脱離の原理の証明は、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、又はパクリタキセルを脱離基として含有するニトロベンジル又はニトロシンナミル誘導体を化学的に還元した際に与えられた(図19、22、23、26)。完全な放出が薄層クロマトグラフィーによって観察され、NMRによって明確に確認された。二階層の二重放出モノマー及び4個のパクリタキセル部分を含有する化合物は、ニトロ基の還元後に全ての末端基を放出することが示された(図23)。
【0153】
明らかに、指定子と多重放出スペーサーの間に非分岐自己脱離スペーサーを組み込むことができる。これは、指定子の酵素的除去又は変換にとって有益であり得る。指定子に直接結合された分岐多重放出部分は、切断されるべき指定子−スペーサー結合の周囲の立体的な密集を増大させ得るので、一重放出自己脱離スペーサーを追加することは、この問題に対する解決策となり得る。
【0154】
このように、指定子を効率的に除去又は変換するためには、一部のケースでは、指定子と多重放出スペーサーの1以上の階層との間に1又は複数の一重放出自己脱離スペーサーを組み込むことが特に好ましい。これは、式
V−(W−)W(X−)XC((A−)aZ)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aZd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aZ)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aZ)f)e)d)c、
の化合物において、w+x>0であることを意味する。
【0155】
さらに、脱離基Zの前に存在する多重放出スペーサーの最高階層に一重自己脱離スペーサーを付加してもよい。これは、Z(好ましくは薬物)をスペーサーに付着させている官能基の化学的性質に応じて、Zの放出を増大させるのに有益であり得る。Z(例えば薬物部分)の前に一重放出自己脱離スペーサーを組み込むことは、最終生成物の安定性にとって有益であり得る。例えば、自己脱離ωアミノアミノカルボニル環状化スペーサーが一重放出又は多重放出電子カスケードとそのヒドロキシル基を通じて接続された脱離基との間に組み込まれれば、生理的条件下で使用した場合、最終生成物の安定性が増加し得る。さらに、アニリンをベースとする多重放出スペーサーのみが使用されている場合には、多重放出スペーサーの階層、又は、好ましくは、脱離基Zの前の多重放出スペーサーの最高階層にフェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーを追加すると、それらの脂肪族アミノ基によって多重放出スペーサー系に結合されている2個以上の脱離基Zの放出が可能になる。アニリンをベースとする多重放出スペーサーのみが使用されており、それらの脂肪族アミノ基によって脱離基Zが結合された多重放出スペーサー系にフェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーが組み込まれていない場合には、Z基が1個だけ放出されるであろう。
【0156】
さらに別の側面において、本発明は、治療を必要とする哺乳動物を治療するための薬学的調製物を製造するための上記化合物の何れかの使用に関する。本発明は、治療を必要とする哺乳動物を治療する方法であって、治療的有効用量の薬学的組成物を哺乳動物に投与することを含む方法に関する。
【0157】
さらなる側面において、本発明は、経口、局所又は注射によって投与するための固体又は液体調合物を得るために、上記化合物を含有する薬学的組成物を調製する方法に関する。このような方法は、前記化合物を薬学的に許容される担体と混合する工程を少なくとも含む。
【0158】
本発明は、本発明の上記化合物を含む医薬組成物にも関する。本発明の化合物は、薬学的組成物として、薬学的担体とともに精製された形態で投与し得る。好ましい形態は、所期の投与様式と治療又は診断用途に依存する。薬学的担体は、本発明の化合物を患者に送達するのに適した任意の適合性のある無毒性物質であり得る。薬学的に許容される担体は本分野において周知であり、例えば、(無菌)水若しくは生理的緩衝食塩水などの水溶液又はその他の溶媒若しくはビヒクル(グリコール、グリセロール、オリーブオイルなどのオイル、又は注射可能な有機エステル、アルコール、脂肪、蝋など)が含まれ、不活性な固体を担体として使用してもよい。薬学的に許容される担体は、さらに、本発明の化合物の吸収を例えば安定化させ又は増大させるように作用する生理的に許容される化合物をさらに含有してもよい。このような生理的に許容される化合物には、例えば、グルコース、スクロース若しくはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸若しくはグルタチオンなどの抗酸化剤、キレート剤、低分子量のタンパク質又はその他の安定化剤又は賦形剤が含まれる。当業者であれば、生理的に許容される化合物を含む薬学的に許容される担体の選択は、例えば、組成物の投与経路に依存することを知悉しているであろう。薬学的に許容される佐剤、緩衝剤、分散剤なども、前記薬学的組成物中に組み込むことができる。
【0159】
経口投与の場合、カプセル、錠剤、及び粉末などの固体剤形、又はエリキシル、シロップ、及び懸濁液などの液体剤形で活性成分を投与することができる。活性成分は、不活性成分及びグルコース、ラクトース、スクロース、マニトール、デンプン、セルロース又はセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、滑石粉、炭酸マグネシウムなどの粉末化された担体とともに、ゼラチンカプセル中に封入することができる。所望の色、味、安定性、緩衝能、分散特性又はその他の公知の特性を与えるために追加できる不活性成分の例は、弁柄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、食用白色インクなどである。圧縮剤を作るために、類似の希釈剤を使用することができる。錠剤及びカプセルともに、何時間にもわたって医薬を継続的に放出させるために、徐放製品として製造することができる。不快な味を覆い隠し、環境から錠剤を保護するために、圧縮錠には糖衣を施し若しくはフィルムでコートすることができ、又は胃腸管の中で選択的に崩壊させるために腸溶コートすることができる。経口投与用の液体剤形は、患者の受容を増加させるために着色剤及び着香剤を含有することができる。
【0160】
しかしながら、本発明の化合物は非経口的に投与することが好ましい。非経口投与用の本発明の化合物の調製物は無菌でなければならない。必要に応じて凍結乾燥及び再構成を行う前又は後に、無菌ろ過膜を通過させるろ過によって無菌化は容易に行える。本発明の化合物を投与するための非経口経路は、公知の方法(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、又は病変内経路による注射又は注入)に従う。本発明の化合物は、注入によって又はボーラス注入によって継続的に投与し得る。静脈内注入用の典型的な組成物は、本発明の化合物の種類及び必要とされる投薬療法に応じて、20%のアルブミン溶液を必要に応じて補充した最大100ないし500mLの無菌0.9% NaCl又は5%グルコースと1mgないし10gの本発明の化合物とを含有するように作製することができる。非経口投与可能な組成物を調製する方法は本分野において周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science35など様々な文献により詳しく記載されている。
【0161】
本発明は、抗体運搬酵素プロドラッグ療法(ADEPT)1、ポリマー運搬酵素プロドラッグ療法(PDEPT)又は高分子運搬酵素プロドラッグ療法(MDEPT)2、ウイルス運搬酵素プロドラッグ療法(VDEPT)3又は遺伝子運搬酵素プロドラッグ療法(GDEPT)4を介して標的細胞又は標的組織の近傍又は内部に輸送される酵素によって前記指定子Vが除去又は変換される、上記化合物にも関する。
【0162】
以下の実施例によって、本発明をさらに例示する。これらの実施例は例示を目的とするものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものでない。
【実施例1】
【0163】
ニトロトリオール11の活性化による三重に活性化された12の取得(図9参照)。アルゴン雰囲気下で、無水THF6mL中に、100mg(0.47mmol)のニトロトリオール11を溶かした。5mLの無水THF中の4−ニトロフェニルクロロギ酸(1.42g、15当量)とピリジン(569μL、15当量)の溶液に、この溶液を滴下した。この反応混合物を1時間攪拌し、ジクロロメタンを加え、10%クエン酸と塩水で有機層を洗浄した。無水硫酸ナトリウム上で有機層を乾燥させ、乾燥状態になるまで蒸発させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 3/5)によって生成物を精製して、三重に活性化された139mg(42%)の12を得た。1H-NMR(300 MHz,CDCl3) δ5.41(s,2H,CH2), 5.47(s,4H,CH2), 7.37-7.42(m,6H,aromatic), 7.76(s,2H,aromatic), 8.26-8.30(m,6H,aromatic)ppm;FAB-MS m/e 709(M+H)+,731(M+Na)+;元素分析(C30H20O17N4) 計算値 C 50.86%, H 2.85%, N 7.91%, 実測値 C 51.09%, H 3.13%, N 7.54%。
【実施例2】
【0164】
三重に活性化された12へのベンジルアルコールの結合による13の取得(図9参照)。三重に活性化された12(29.5mg、0.042mmol)を無水ジクロロメタン中に溶かした。ベンジルアルコール(13μL、3.1当量)及びDMAP(17mg、3.3当量)を加え、この反応混合物を64時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、飽和炭酸水素ナトリウム、10%クエン酸、及び塩水で有機層を洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 3/5)によって生成物を精製して、15mg(59%)の所望の生成物13を得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13) δ 5.15-5.18(m, 8H, benzylic), 5.27 (s, 4H, benzylic), 7.33-7.39(m, 15H, aromatic benzyl alcohol), 7.52 (s, 2H, aromatic spacer) ppm.
【実施例3】
【0165】
三重に活性化された12へのフェネチルアルコールの結合による14の取得(図9参照)。三重に活性化された12(27mg、0.038mmol)を無水ジクロロメタン中に溶かし、この溶液を0℃まで冷却した。フェネチルアルコール(16μL、3.5当量)及びDMAP(16mg、3.5当量)を加え、この反応混合物を室温にし、40時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、飽和炭酸水素ナトリウム、10%クエン酸、及び塩水で有機層を洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 1/1)によって生成物を精製して、14mg(57%)の所望の生成物14を得た。1H-NMR (300 MHz, DMSO-D6/CDC13/CD30D) δ 2.91(m, 6H, CH2CH2Ph), 4.30(m, 6H, CH2CH2Ph), 5.18(m, 6H,OCH2Ph), 7.14-7.28(m, 15H, aromatic), 7.58 (s, 2H, aromatic) ppm; ESI-MS m/e 680 (M+Na)+.
【実施例4】
【0166】
三重に活性化された12へのベンジルアミンの結合による15の取得(図10参照)。ジクロロメタン中の12(523mg、0.738mmol)の溶液に、ベンジルアミン(403μL、3.69mmol)及びEt3N(514μL、3.69mmol)を加えた。この反応混合物を室温で4時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、10%クエン酸、飽和炭酸水素ナトリウム及び塩水で得られた混合物を洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH 25/1)によって、15(406mg、90%)を固体として得た。1H-NMR (300 MHz,CDC13) δ4.31-4.36 (m, 6H, benzylic benzylamine), 5.13 (s, 2H, benzylic spacer), 5.20 (s, 4H, benzylic spacer), 7.23-7.34 (m, 17H, aromatic) ppm.
【実施例5】
【0167】
アミノトリオール16の保護によるアリルN−[2,4,6−トリ(ヒドロキシメチル)フェニル]カルバメート17の取得(図11参照)。アルゴン雰囲気下にある20mLの無水THF中の1.085gの16(5.92mmol)の溶液に、1.48mL(Aloc)2O(1.5当量)と200mg HOBt(0.25当量)を加えた。この反応混合物を室温で72時間加熱した。THFを蒸発させ、カラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH 6/1)によって生成物を精製し、872mg(55%)の所望の化合物17を得た。Mp 87℃;1H-NMR (300 MHz, CDCL3/CD30D) δ 4.58-4.66 (m, 8H, 3 x CH2 and 2 Aloc), 5.25-5.41(m, 2H, Aloc), 5.86-6.11 (m, 1H, Aloc), 7.35 (s, 2H, aromatic) ppm;MS(EI) m/e 249(M-H20)+; 元素分析(C13Hl7N05・7/8H20) 計算値 C 55.17%, H 6.68%, N 4.95%、実測値 C 55.16%, H 6.16%, N 4.81%.
【実施例6】
【0168】
トリオール17の活性化による三重に活性化されたトリカーボネート18の取得(図11参照)。無水THF中の9.47gの4−ニトロフェニルクロロギ酸(15当量)と3.8mLのピリジン(15当量)の溶液に、アルゴン雰囲気下で、無水THF中の837mgのトリオール17(3.13mmol)の溶液を滴下させて加えた。この反応混合物を室温で5時間攪拌し、THFを蒸発させた。CH2Cl2を加え、10%のクエン酸水溶液と塩水で有機層を洗浄した。無水Na2SO4上で有機層を乾燥させ、蒸発させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 2/5)によって生成物を精製して、1.546g(65%)のトリカーボネート18を得た。Mp 46℃; 1H-NMR (300 MHz,CDCL3) δ 4.68 (d, 2H, J = 5.7 Hz, Aloc), 5.22-5. 37 (m, 8H, 3 x CH2 and 2 Aloc), 5.89-6. 07 (m, 1H, Aloc), 7.35-7. 42 (m, 6H, aromatic), 7.67 (s, 2H, aromatic), 8.26-8.30 (m, 6H, aromatic) ppm; MS(EI) m/e 763 (M+H)+, 785 (M+Na)+; 元素分析(C34H26N4017・3H20) 計算値 C 50.00%, H 3.95%, N 6.86%, 実測値 C 49.99%, H 3.33%, N 6.44%.
【実施例7】
【0169】
三重に活性された18へのベンジルアミンの結合によるトリスカルバベート19の取得(図11参照)。ジクロロメタン中の18(313mg、0.410mmol)の溶液に、プロピルアミン(169μL、2.05mmol)及びEt3N(286μL、2.05mmol)を加えた。この反応混合物を室温で16時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、10%クエン酸、飽和炭酸水素ナトリウム及び塩水で得られた混合物を洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH 20/1)によって、19(158mg、74%)を固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13) δ 0.87-0.94(m, 9H, Me), 1.43-1.56 (m, 6H,CH2CH2CH3), 3.07-3.15 (m, 6H,CH2CH2CH3), 4.63 (d, 2H, Aloc), 5.01-5.17(m, 8H, 2H Aloc and 6H O-CH2), 5.95(m, 1H, Aloc), 7.32 (bs, 2H, aromatic) ppm.
【実施例8】
【0170】
ニトロトリオール20の活性化による二重に活性化された21の取得(図12参照)。アルゴン雰囲気下で、3mLの無水THFにニトロジオール20(130mg、0.621mmol)を溶かし、この溶液を0℃まで冷却した。この溶液に、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(865μL、8当量)、4−ニトロフェニルクロロギ酸(751mg、6当量)、及びピリジン(25μL、0.5当量)を加えた。この反応混合物を室温(Rt)にして、16時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、水、飽和炭酸水素ナトリウム、及び水で有機層を洗浄した。無水硫酸ナトリウム上で有機層を乾燥させ、乾燥状態になるまで蒸発させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 2/5)によって生成物を精製して、280mg(84%)の二重に活性化された21を得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13) δ 5.04 (s, 2H, CH2), 5.08 (s, 2H, CH2), 7.12 (s, 1H, vinylic), 7.38 (d, 2H, J=3.9 Hz, aromatic), 7.41 (d, 2H, J=3.9 Hz, aromatic), 7.51 (d, 2H, J=8.3 Hz, aromatic), 8.25-8. 30 (m, 6H, aromatic) ppm; 元素分析 (C24H17N3Ol2) 計算値 C 53.44%, H 3.18%, N 7.79%, 測定値 C 53.68%, H 3.44%, N 7.31%.
【実施例9】
【0171】
二重に活性化された21へのパクリタキセルの結合による22の取得(図12参照)。二重に活性化された21(40mg、0.075mmol)を1mLの無水ジクロロメタン中に溶かし、この溶液を0℃まで冷却した。パクリタキセル(128mg、2当量)及び4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)(20mg、2.2当量)を加え、この反応混合物を室温にして、16時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、飽和炭酸水素ナトリウム、0.5N 硫酸水素カリウム、及び塩水で有機層を洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc)によって生成物を精製して118mg(80%)の所望の生成物22を得た。1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.14 (s, 6H, 17), 1.26 (s, 6H, 16), 1.68 (s, 6H, 19), 1.91 (bs, 6H, 18), 2.21 (s, 3H, 10-acetyl), 2.22 (s, 3H, 10-acetyl), 2.46 (s, 6H, 4-acetyl), 3.80 (bd, 2H, 3), 4.19 (d, 2H, 20b), 4.31 (d, 2H, 20a), 4.43 (m, 2H, 7), 4.76 (dd, 2H, CH2-cinnamyl), 4.85 (s, 2H, CH2-cinnamyl), 4.95 (d, 2H, 5), 5.46 (d, 1H, J=3.0 Hz, 2'), 5.49 (d, 1H, J=3.1 Hz, 2'), 5.68 (d, 2H, J=7.2 Hz, 2), 6.05 (m, 2H, 3'), 6.20-6.35 (m, 4H, 10 and 13), 6.92 (s, 1H, vinylic cinnamyl), 7.30-7.65 (m, 24H, aromatic), 7.71 (m, 4H, aromatic N-Bz), 8.12-8.16 (m, 6H, aromatic, 4H 2-Bz and 2H cinnamyl) ppm; ESI-MS m/e 1993 (M+Na)+; 元素分析 (Cl06H109N3034) 計算値 C 64.66%, H 5.58%, N 2.13%, 実測値 C 65.02%, H 6.07%,
N 1.72%.
【実施例10】
【0172】
二重に活性化された21へのアミノジオール23の結合によるテトラオール24の取得(図13参照)。3mLの無水ジメチルホルムアミド(DMF)中に、二重に活性化された21(154mg、0.285mmol)を溶かし、アミノジオール23(113mg、2.2当量)、DIPEA(99μL、2当量)、及び触媒量のヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(HOBt)(15mg、0.39当量)を加えた。反応混合物を16時間攪拌した。HOBt(8mg、0.2当量)を加え、反応混合物をさらに64時間攪拌した。EtOAc中の10% 2−プロパノールを加え、水で有機層を洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。カラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/MeOH 6/1)によって粗生成物を精製してテトラオール24(72mg、41%)を得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13/CD30D) δ 4.31 (m, 8H, CH20H), 4.91 (s, 2H, CH2OCO), 4.95 (s, 2H, CH20CO), 6.62 (s, 2H, vinylic), 6.98 (s, 1H, vinylic), 7.24 (d, 2H, J=8.6 Hz, aromatic), 7.24 (d, 2H, J=8.6 Hz, aromatic), 7.40 (m, 4H, aromatic), 7.56 (d, 2H, J=8.5 Hz, aromatic), 8.26 (d, 2H, J=8.8 Hz, aromatic) ppm; FAB-MS m/e 643 (M+Na)+; 元素分析 (C32H33N3O10) 計算値 C 62.03%, H 5.37%, N 6.78%, 測定値 C 62.62%, H 5.71%,N 6. 18%.
【実施例11】
【0173】
テトラオール24の活性化による四重に活性化された25の取得(図13参照)。無水THF中にテトラオール24(58mg、0.094mmol)を溶かし、この溶液を0℃まで冷却した。DIPEA(261μL、16当量)、4−ニトロフェニルクロロギ酸(226mg、12当量)、及びピリジン(8μL、1当量)を溶液に加えた。反応混合物を室温にして、16時間攪拌した。無水ジクロロメタンを加え、この反応混合物をさらに24時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、飽和炭酸水素ナトリウム、10%クエン酸、及び塩水で有機層を洗浄した。無水硫酸ナトリウム上で有機層を乾燥させ、乾燥状態になるまで蒸発させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 5/4)によって生成物を精製して、65mg(54%)の四重に活性化された25を得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13) δ 4.93 (s, 2H, CH20CONH), 4.95 (s, 2H, CH20CONH), 5.03 (s, 4H, CH20COO), 5.07 (s, 4H, CH2OCOO), 6.80-7. 02 (m, 3H, vinylic), 7.28-7.50 (m, 18H, aromatic), 8.23-8.29 (m, 10H, aromatic) ppm; ESI-MS m/e 1302 (M+Na)+; 元素分析 (C60H45N7O26) 計算値 C 56.30%, H 3.54%, N 7.66%, 実測値 C 56.58%, H 3.74%, N 7.37%.
【実施例12】
【0174】
四重に活性化された25へのパクリタキセルの結合による26の取得(図13参照)。四重に活性化された25(13mg、0.010mmol)を1mLの無水ジクロロメタン中に溶かし、この溶液を0℃まで冷却した。パクリタキセル(35mg、4当量)及びDMAP(5.5mg、4.4当量)を加え、この反応混合物を室温にして、16時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、飽和炭酸水素ナトリウム、0.5N 硫酸水素カリウム、及び塩水で有機層を洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc)によって生成物を精製して27mg(64%)の所望の生成物26を得た。1H-NMR (300 MHz,CDC13) δ 1.15 (m, 12H, 17), 1.26 (m, 12H, 16), 1.68 (bs, 12H, 19), 1.89 (m, 12H, 18), 2.17 (m, 12H, 10-acetyl), 2.42 (m, 12H, 4-acetyl), 3.80 (m, 4H, 3), 4.20 (m, 4H, 20b), 4.29 (m, 4H, 20a), 4.40 (m, 4H, 7), 4.75-5.00 (m, 16H, 4H 5 and 12H CH2-cinnamyl), 5.47 (m, 4H, 2'), 5.65 (m, 4H, 2), 5.97 (m, 4H, 3'), 6.13-6.38 (m, 8H, 10 and 13), 6.76-6.91 (m, 3H, vinylic cinnamyl), 7.23-7.65 (m, H, aromatic), 7.71 (d, 8H, aromatic N-Bz), 8.13(m, 8H, aromatic 2-Bz), 8.23 (d, 2H, aromatic cinnamyl) ppm; ESI-MSm/e 4157 (M+H20)+
【実施例13】
【0175】
二重に活性化された21へのベンジルアミンの結合による27の取得(図14参照)。ジクロロメタン(2mL)中の21(50mg、92.7μmol)の溶液に、ベンジルアミン(51μL、0.464mmol)及びEt3N(65μL、0.464mmol)を加えた。この反応混合物を室温で16時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、10%クエン酸、飽和炭酸水素及び塩水で得られた混合物を洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOh 40/1)によって、27(38mg、79.9μmol、86%)を固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13) δ 4.33-4.39 (m, 4H, benzylic), 4.79 (s, 2H, spacer), 4.82 (s, 2H, spacer), 6.78 (s, 1H, alkene), 7.25-7. 35 (m, 12H, aromatic), 7.42 (d, 2H, aromatic spacer), 8.18 (d, 2H, aromatic spacer) ppm.
【実施例14】
【0176】
二重に活性された21へのp−アミノベンジルアルコールの結合による28の取得(図15参照)。DMF(5mL)中に化合物21(330mg、0.612mmol)を溶かし、p−アミノベンジルアルコール(166mg、1.35mmol)、DIPEA(214μL、1.22mmol)、及び1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(24.8mg、0.184mmol)を室温で加えた。この反応混合物を室温で2日間加熱した。この反応混合物を減圧下で濃縮した後、酢酸エチル(75mL)中に溶かした。10%のクエン酸水溶液及び塩水でこの透明な溶液を洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(クロロホルム/MeOH 8/1)によって、凍結乾燥後に28(181mg、0.357mmol、58%)を白色の固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CD30D/CDC13) δ 4.57 (s, 4H, CH20H), 4.89 (s, 2H, CH20C(O)R), 4.92 (s, 2H, CH20C(O)R), 6.95 (s, 1H, CH=CR2), 7.25-7. 54 (m, 10H, aromatic), 8.24 (d, 2H, J=8.8 Hz, aromatic) ppm; ESI-MS m/e 530 (M+Na)+; 元素分析 (C26H25N308) 計算値 C 61.53%, H 4.97%, N 8.28%, 実測値 C 61.60%, H 5.20%, N 7.61%.
【実施例15】
【0177】
p−ニトロフェニルクロロギ酸によるジオール28の活性化による29の取得(図15参照)。THF(5mL)中の化合物28(160mg、0.315mmol)の溶液に、DIPEA(440μL、2.52mmol)、p−ニトロフェニルクロロギ酸(381mg、1.89mmol)、及びピリジン(12.9μL、0.158mmol)を0℃で加えた。この反応混合物をゆっくり室温まで加温し、一晩攪拌した。酢酸エチル(75mL)をこの反応混合物に加え、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、10%クエン酸水溶液、及び塩水でこの混合物を洗浄した。無水硫酸ナトリウム上で有機画分を乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン 1/1)によって、凍結乾燥後に29(155mg、0.187mmol、59%)を白色固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13/DMSO-D6) δ 4.90 (s, 2H, CH20C(O)NHR), 4.95 (s, 2H, CH20C(O)NHR), 5.23 (s, 4H, CH20C(O)OR), 6.96 (s, 1H, CH=CR2), 7.34-7.56 (m, 14H, aromatic), 8.22-8.28 (m, 6H, aromatic) ppm; ESI-MS m/e 860 (M + Na)+, 1697 (2M+Na)+; 元素分析 (C40H31N5016・1.5 H20) 計算値 C 55.56%, H 3.96%, N 8.10%, 実測値 C 55.60%, H 3.96%, N 8. 30%.
【実施例16】
【0178】
二重に活性化された29へのp−メトキシベンジルアミンの結合による30の取得(図16参照)。1−メチル−2−ピロリジノン(4mL)中の29(50mg、59.7μmol)の溶液に、0℃で、p−メトキシベンジルアミン(31μL、0.24mmol)及びDIPEA(3.0μL、18μmol)を加えた。この反応混合物を室温で15時間攪拌した。酢酸エチル中のイソプロパノールの10%溶液(25mL)を加え、得られた混合物を水及び塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン 1/3)によって30(35.0mg、42.0μmol、70%)を白色固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13/CD30D) δ 3.79 (s, 6H, OCH3), 4.26 (s, 4H, NCH2), 4.90 (s, 2H, CH2OC(O)NHC6H4R), 4.94 (s, 2H, CH20C(O)NHC6H4R), 5.04 (s, 4H, CH20C(O)NCH2R), 6.85 (d, 4H, J=8.6 Hz, aromatic), 6.96 (s, 1H, CH=CR2), 7.19-7.28 (m, 8H, aromatic), 7.37-7.42 (m, 4H, aromatic), 7.53 (d, 2H, J=8.6 Hz, aromatic), 8.25 (m, 2H, aromatic) ppm; FAB-MS m/e 856 [M+Na]+, 1690 [2M+Na]+.
【実施例17】
【0179】
二重に活性化された29へのp−クロロベンジルアミンの結合による31の取得(図16参照)。THF(4mL)中の29(72mg、86μmol)の溶液に、0℃で、p−クロロベンジルアミン(42μL、0.34mmol)及びDIPEA(4.5μL、26μmol)を加えた。この反応混合物を室温で15時間攪拌した。この反応混合物を減圧下で濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン 1/1)によって残留物を精製し、31(60mg、71.2mmol、83%)を凍結乾燥後に白色固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13/CD30D) δ4.27 (s, 4H, NCH2), 4.89 (s, 2H, CH2OC(O)NHC6H4R), 4.94 (s, 2H, CH20C(O)NHC6H4R), 5.03 (s, 4H, CH20C(O)NCH2R), 6.98 (s, 1H, CH=CR2), 7.21-7.29 (m, 12H, aromatic), 7.40-7.44 (m, 4H, aromatic), 7.57 (d, 2H, J=8.6 Hz, aromatic), 8.25 (m, 2H, aromatic) ppm; FAB-MS m/e 864 [M+Na]+.
【実施例18】
【0180】
二重に活性化された29へのフェネチルアルコールの結合による32の取得(図16参照)。THF(2mL)中の29(18mg、21μmol)の溶液に、0℃で、フェネチルアルコール(10.3μL、85.9μmol)、DIPEA(1.9μL、11μmol)、及びDMAP(10.5mg、85.9μmol)を加えた。この反応混合物を室温で15時間攪拌した。この反応混合物を減圧下で濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン 1/1)によって残留物を精製し、32(9.5mg、12mmol、55%)を凍結乾燥後に白色固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13/CD30D) δ 2.97 (t, 4H, J=7.0 Hz, CH2CH2Ph), 4.34 (t, 4H, J=7.0 Hz, CH2CH2Ph), 4.90 (s, 2H, CH2OC(O)NHC6H4R), 4.94 (s, 2H, CH20C(O)NHC6H4R), 5.07 (s, 4H, CH20C(O)OR), 6.97 (s, 1H, CH=CR2), 7.19-7.30 (m, 14H, aromatic), 7.39-7.44 (m, 4H, aromatic), 7.54 (d, 2H, J=8.7 Hz, aromatic), 8.25 (d, 2H, J=8.7 Hz, aromatic) ppm; FAB-MS m/e 804 [M+H]+, 826 [M+Na]+.
【実施例19】
【0181】
4−ニトロベンジルクロロギ酸33へのベンジルアミンの結合による34の取得(図17参照)。0℃のTHF中のベンジルアミン(101μL、0.923mmol)とEt3N(129μL、1当量)の混合物に、THF中のクロロギ酸エステル33(200mg、0.923mmol)の溶液を滴下させながら添加した。この反応混合物を室温にして、16時間攪拌した。EtOAcを加え、0.1M NaOH、10% クエン酸、及び塩水で有機層を洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させて、所望の生成物34を定量的に得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13) δ4.39 (d, 2H, J=6.0 Hz, benzylic benzylamine), 5.22 (s, 2H, benzylic spacer), 7.25-7.40 (m, 5H, aromatic benzylamine), 7.50 (d, 2H, J=8.4 Hz, aromatic spacer), 8.20 (d, 2H, aromatic spacer) ppm.
【実施例20】
【0182】
三重脱離の原理の証明。13を還元した際のベンジルアルコールの形成(図19参照)。3mLのMeOH/AcOH/THF(1.5/0.5/1)の中に化合物13を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで攪拌した。30分後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失とかなりの量のベンジルアルコールの形成が示された。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮し、ジオキサンを加え、生じた溶液を凍結乾燥した。1H-NMR(300MHz, CDCl3/CD3OD/CD3CN/DMSO-D6) δ 4.57 (s, 2H, benzylic), 7.28-7.36(m, 5H, aromatic) ppm,同一の溶媒中で遊離のベンジルアルコールについて観察されたピークと同一。
【実施例21】
【0183】
三重脱離の原理の証明。14を還元した際のフェネチルアルコールの形成(図19参照)。3.75mLのMeOH/AcOH/THF(2/0.75/1)の中に化合物14を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで攪拌した。1時間後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失とかなりの量のフェネチルアルコールの形成が示された。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮し、ジオキサンを加え、生じた溶液を凍結乾燥した。1H-NMR (300 MHz, DMSO-D6/CD3OD/D2O) δ 2.68 (t, 2H, CH2CH2Ph), 3.58 (t, 2H, CH2CH2Ph), 7.11-7.22 (m, 5H, aromatic) ppm. 同一の溶媒中で遊離のベンジルアルコールについて観察されたヒ゜ークと同一;ESI-MS m/e 122(M)+。
【実施例22】
【0184】
15中のニトロ基の還元。ベンジルアミンの脱離の失敗(図20参照)。
【0185】
10mLのMeOH/AcOH(8/2)の中に化合物15(16mg)を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで攪拌した。30分後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失が示され、単一の生成物へ完全に変換されることが明らかとなった。ベンジルアミンの形成は全く又はほとんど観察されなかった。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮し、この混合物を凍結乾燥した。数多くの様々な環境下(重水素化された溶媒の異なる組み合わせ、異なるpH(酸性、中性、塩基性)、異なる緩衝液)で、1H−NMRは、遊離のベンジルアミンの形成を殆ど示さなかった。2日後に、最大33%の遊離ベンジルアミンが観察された(1H−NMR)。還元された生成物をDMF中に溶かしても、放出されたベンジルアミンの量を増加させなかった。Raneyニッケル/ヒドラジンを用いた15の還元によって、異なる結果は得られなかった。
【実施例23】
【0186】
19からのAloc基の脱保護。プロピルアミンの脱離の失敗(図21参照)。化合物19(36mg、69μmol)を1mLのCDCl3の中に溶かした。モルホリンを加え(20当量、120μL、1.38mmol)、この溶液にアルゴンを通気した。次いで、触媒量のパラジウムテトラキストリフェニルホスフィンを加えた。プロピルアミンの脱離を1H−NMRによって調べた。1時間後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失が示された。数多くの様々な環境下(重水素化された溶媒の異なる組み合わせ、異なるpH(酸性、中性、塩基性)、異なる緩衝液、異なる求核試薬の存在下)で、1H−NMRによって、最大33%の遊離プロピルアミンが2週間後に形成されたことが示された。
【実施例24】
【0187】
二重脱離の原理の証明。22を還元した際のパクリタキセルの形成(図22参照)。3.5mLのMeOH/AcOH/THF(2/0.5/1)の中にニトロシンナミルビスカーボネート22を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで攪拌した。30分以内に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の完全な消失とかなりの量のパクリタキセルの形成が示された。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮し、ジオキサンを加え、得られた溶液を凍結乾燥した。1H−NMR中の明確なピーク、(300 MHz,CD3OD) δ 4.19 (s, 4H, 20a and 20b), 4.32 (dd, 2H, 7), 4.74 (d, 2H, 2’), 4.99 (dd, 2H, 5), 5.65 (m, 4H, 2 and 3’), 6.16 (t, 2H, 13), 6.45 (s, 2H, 10) ppmは、同一の溶媒中で遊離のベンジルアルコールについて観察されたピークと同一であった。プロトンNMRスペクトルは、2’に結合したパクリタキセルを示さなかった;複合体されていないパクリタキセルのみが存在した;FAB-MS m/e 854 (M+H)+; 876(M+Na)+。
【実施例25】
【0188】
四重脱離の原理の証明。26を還元した際のパクリタキセルの形成(図23参照)。3.25mLのMeOH/AcOH/THF(1.5/0.75/1)の中に化合物26を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物を攪拌した。30分後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失とかなりの量のパクリタキセルの形成が示された。16時間後に、この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮し、ジオキサンを加え、得られた溶液を凍結乾燥した。1H−NMR中の明確なピーク、(300 MHz, CD3OD/CDCl3/DMSO-D6) δ 4.77(d, 4H, 2’), 4.98 (d, 4H, 5), 5.65 (m, 8H, 2 and 3’), 6.17 (m, 4H, 13), 6.39 (s, 4H, 10)ppm,同一の溶媒中で遊離のパクリタキセルについて観察されたピークと同一であった;ESI-MS m/e 877(M+Na)+。
【実施例26】
【0189】
27中のニトロ基の還元。ベンジルアミンの脱離の失敗(図24参照)。MeOHとAcOHの4:1混合物(7.5mL)中の27(18mg、38μmol)の溶液に、亜鉛粉末を加え、この反応混合物を室温で攪拌した。1時間後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失が示され、単一の生成物へ完全に変換されることが明らかとなった。ベンジルアミンの形成は全く観察されなかった。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮し、ジオキサンを加え、この混合物を凍結乾燥した。求核試薬の存在下又は不存在下で、一部の事例では緩衝化された、様々なpHを有する重水素化された多数の様々な溶媒の組み合わせ中に、1日後でさえ、50パーセントを超える遊離のベンジルアミンの形成は1H−NMRによって示されなかった。
【実施例27】
【0190】
30中のニトロ基の還元。p−メトキシベンジルアミンの脱離の失敗(図25参照)。THFとメタノールの1:1混合物(2mL)中の30(10mg、12μmol)の溶液に、Raneyニッケル(水中の50%スラリー、0.05mL)とヒドラジン一水和物(1.0μL、21μmol)を加えた。薄層クロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 3/1)によって、20分以内に、単一の生成物へと完全に変換されることが示された。この反応混合物を室温で一晩攪拌した。p−メトキシベンジルアミンの形成は、一晩後にも全く観察されなかった。この反応混合物をろ過し、減圧下で濃縮した。DMSO−d6とD2Oの1:1混合物中に、残留物を溶かした。1H−NMRによって、1、5、又は20日後に、遊離のp−メトキシベンジルアミンは全く形成されないことが示された。p−メトキシベンジルアミンの放出を伴わない還元された30の緩やかな分解が観察された。
【実施例28】
【0191】
31中のニトロ基の還元。p−クロロベンジルアミンの脱離の失敗(図25参照)。THFとメタノールの1:1混合物(2mL)中の31(10mg、12μmol)の溶液に、Raneyニッケル(水中の50%スラリー、0.05mL)とヒドラジン一水和物(0.6μL、12μmol)を加えた。薄層クロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 3/1)によって、30分以内に、単一の生成物へと完全に変換されることが示された。この反応混合物をろ過し、減圧下で濃縮した。CDCl3とCD3ODの1:1混合物中に、残留物を溶かした。1H−NMRによって、2時間、15時間、2日、又は5日後に、遊離のp−メトキシベンジルアミンは全く形成されないことが示された。p−クロロベンジルアミンの放出を伴わない還元された31の緩やかな分解が観察された。
【実施例29】
【0192】
32中のニトロ基の還元。フェネチルアルコールの形成(図26参照)。THFとメタノールの1:1混合物(1.5mL)中の32(8.0mg、10μmol)の溶液に、Raneyニッケル(水中の50%スラリー、0.05mL)とヒドラジン一水和物(0.5μL、10μmol)を加えた。20分後に、ヒドラジン一水和物(0.5μL、10μmol)を加えた。薄層クロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 1/1)によって、1時間後に、単一の生成物へと完全に変換されることが示された。この反応混合物をろ過し、減圧下で濃縮した。CDCl3とCD3ODの1:1混合物中に残留物を溶かし、これに、DMSO−d6を10滴加えた。1H−NMRによって、遊離のフェネチルアルコールが完全に放出されることが示された。1H−NMRスペクトル中の明確なピーク、(300 MHz, CD3OD/CDCl3/DMSO-D6) δ 2.83 (t, 2H, J=7.1 Hz, CH2CH2Ph) and 3.76 (t, 2H, J=7.1 Hz, CH2CH2Ph)ppm,同一の溶媒中でフェネチルアルコールについて観察されたピークと同一であった。
【実施例30】
【0193】
一重脱離の原理の証明。34の還元によるベンジルアミンの形成(図27参照)。3.75mLのMeOH/AcOH/THF(2/0.75/1)の中に化合物34(40mg)を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで攪拌した。100分後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失とかなりの量のベンジルアミンの形成が示された。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮した。1H-NMR (300 MHz, CD3OD/CDCl3/DMSO-D6) δ 3.98 (s, 2H, benzylic, liberated benzylamine), 7.34-7.43 (m, 5H, aromatic, liberated benzylamine) ppm,同一の溶媒中で遊離のベンジルアミンについて観察されたピークと同一、遊離のベンジルアミンの完全な放出が示された。複合体されたベンジルアミンから得られたNMRシグナルが消失した。
【実施例31】
【0194】
35の安定性。亜鉛による35の処理(図28参照)。2.5mLのMeOH/THF/AcOH(1.5/0.5/0.5)中に炭酸ジベンジル35(13mg)を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで16時間攪拌した。薄層クロマトグラフィーによって新しい化合物が形成されていないことが示され、35の安定性が明らかとなった。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮した。1H-NMR (300 MHz, CDCl3/CD3OD/DMSO-D6) δ 5.07(s, 4H, benzylic), 7.27 (m, 10H, aromatic) ppm,生成物が出発化合物と同一であることが示された;ベンジルアルコールは全く観察されなかった。
【実施例32】
【0195】
36の安定性。亜鉛による35の処理(図28参照)。2.5mLのMeOH/THF/AcOH(1.5/0.5/0.5)中にパクリタキセル−2’−カーボネート36(3mg)を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで16時間攪拌した。薄層クロマトグラフィーによって新しい化合物が形成されていないことが示され、36の安定性が明らかとなった。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮した。1H−NMRスペクトル中の明確なピーク、(300 MHz, CDCl3/CD3OD/DMSO-D6) δ 4.81 (d, 2H, J=7.2Hz, CH2cinnamyl), 5.38 (d,1H,J=8.7 Hz,2’) ppm,生成物が出発化合物と同一であることが示された;シンナミルアルコール又は遊離のパクリタキセルは全く観察されなかった。
【実施例33】
【0196】
多重放出スペーサー16及び23の細胞毒性。7つの明確に性質決定されたヒト腫瘍細胞株とミクロ培養サルファーローダミンB(SRB)試験を利用して、モノマースペーサーの抗増殖効果をインビトロで決定した。抗増殖効果を決定し、ID50値(ng/mL)(5日のインキュベーション後に、対照細胞増殖に比べて、50%の細胞増殖の阻害を与える(プロ)ドラッグの濃度である)として表した。
【0197】
三重放出モノマー16:細胞株(ng/mLで表したID50値):MCF−7;乳癌(>62.500)、EVSA−T;乳癌(>62.500)。WIDR;大腸癌(>62.500)。IGROV;卵巣癌(>62.500)。M19;悪性黒色腫(>62.500)。A498;腎臓癌(55867)。H226;非小細胞肺癌(>62.500)。
【0198】
二重放出モノマー23:細胞株(ng/mLで表したID50値):MCF−7;乳癌(>62.500)、EVSA−T;乳癌(>62.500)。WIDR;大腸癌(>62.500)。IGROV;卵巣癌(>62.500)。M19;悪性黒色腫(>62.500)。A498;腎臓癌(56.784)。H226;非小細胞肺癌(42.406)。
【参考文献】
【0199】
【図面の簡単な説明】
【0200】
【図1】図1は、プロドラッグを含有するスペーサーの親薬物への転換を模式的に示している。
【図2】図2は、多重放出スペーサー含有化合物からの複数の脱離基分子の解離を模式的に示している。
【図3】図3は、二階層の二重放出スペーサーを含有する化合物から4個の脱離基分子が解離する様子を模式的に示している。
【図4】図4は、二階層の三重放出スペーサーを含有する化合物から9個の脱離基分子が解離する様子を模式的に示している。
【図5】図5は、1,6−脱離の原理を示している。
【図6】図6は、1,8−脱離の原理を示している。
【図7】図7は、三重放出スペーサーからの3個の脱離基の脱離について提案される原理を示している。
【図8】図8は、二重放出スペーサーからの2個の脱離基の脱離について提案される原理を示している。
【図9】図9は、三重放出スペーサーと3個のベンジルアルコール又はフェネチルアルコール脱離基とを含有する2つのモデル化合物の調製を示している。
【図10】図10は、三重放出スペーサーと3個のベンジルアミン脱離基とを含有するモデル化合物の調製を示している。
【図11】図11は、三重放出スペーサーと3個のプロピルアミン脱離基とを含有するモデル化合物の調製を示している。
【図12】図12は、二重放出スペーサーと2個のパクリタキセル部分とを含有するプロドラッグの調製を示している。
【図13−1】図13は、二階層の二重放出スペーサーと4個のパクリタキセル部分とを含有するプロドラッグの調製を示している。
【図13−2】図13は、二階層の二重放出スペーサーと4個のパクリタキセル部分とを含有するプロドラッグの調製を示している。
【図14】図14は、二重放出スペーサーと2個のベンジルアミン脱離基とを含有するモデル化合物の調製を示している。
【図15】図15は、2個の一重放出スペーサーに連結された二重放出スペーサーを含有するp−ニトロフェニルカーボネートで二重に活性化された化合物の調製を示している。
【図16】図16は、2個の一重放出スペーサーに結合された二重放出スペーサーを含有する3個のモデル化合物の調製を示している。
【図17】図17は、ベンジルアミンに結合された一重放出スペーサーを含有するモデル化合物の調製を示している。
【図18】図18は、参照化合物ジベンジルカーボネートと2’−O−シンナミルオキシカルボニルパクリタキセルを示している。
【図19】図19は、3個のベンジルアルコール又は3個のフェネチルアルコール脱離基を含有し、全ての脱離基が同時に解離する、2個のモデル化合物中のニトロ基の還元を示している。
【図20】図20は、3個のベンジルアミン脱離基を含有するモデル化合物中のニトロ基の還元を示している。
【図21】図21は、3個のプロピルアミン脱離基を含有するモデル化合物からのAloc基の除去を示している。
【図22】図22は、2個のパクリタキセル部分を含有し、パクリタキセルの2分子を同時に解離するプロドラッグ中のニトロ基の還元を示している。
【図23】図23は、4個のパクリタキセル部分を含有し、パクリタキセルの4分子を同時に解離するプロドラッグ中のニトロ基の還元を示している。
【図24】図24は、2個のベンジルアミン脱離基を含有するモデル化合物中のニトロ基の還元を示している。
【図25】図25は、2個のp−メトキシベンジルアミン又は2個のp−クロロベンジルアミン脱離基を含有する2個のモデル化合物中のニトロ基の還元を示している。
【図26】図26は、2個のフェネチルアルコール部分を含有し、フェネチルアルコールの2分子を同時に解離するモデル化合物中のニトロ基の還元を示している。
【図27】図27は、ベンジルアミン脱離基を含有し、ベンジルアミンの解離を伴うモデル化合物中のニトロ基の還元を示している。
【図28】図28は、出発物質の分解を一切引き起こさない、亜鉛と酢酸による2つの参照化合物の処理を示している。
【発明の分野】
【0001】
本発明は、多重放出スペーサー又はスペーサー系を含む化合物又はプロドラッグに関する。多重放出スペーサーは、一回の活性化に際して、複数の脱離基を放出する自己脱離スペーサーとして定義される。一以上の(階層;generation)のこれら多重放出スペーサーは、例えば、複数の治療又は診断用の親部分を標的細胞又は標的部位に選択的に送達するために、好ましい作用部位において単一の活性化工程によって活性化される複合体又はプロドラッグを得るために使用することができる。本発明において、好ましくは、標的細胞は腫瘍細胞である。
【発明の背景】
【0002】
化学療法剤の選択性の欠如は、癌の治療における主要な問題である。癌の化学療法では極めて毒性の高い化合物が使用されるので、深刻な副作用を伴うのが通例である。胃腸管毒性や骨髄毒性など用量を制限する副作用のために、腫瘍を完全に根絶する薬物濃度に達することはできない。さらに、治療が長期にわたると、腫瘍は、抗癌剤に対する耐性を生じることがある。現在の薬剤開発においては、腫瘍部位への細胞毒性薬の誘導は、主要な最終目標の一つであると考えることができる。
【0003】
腫瘍細胞又は腫瘍組織に対する選択性を得るのに有望なアプローチは、腫瘍関連酵素の存在を活用することである。比較的高レベルの腫瘍特異的酵素は、腫瘍の近傍又は内部において、薬理学的に不活性なプロドラッグを対応する活性な親薬物に変換することができる。この考え方によれば、高濃度の有毒な抗癌剤を腫瘍部位で生成させることが可能である。用量が十分に大きければ全ての腫瘍細胞を死滅させることができ、これによって、薬剤耐性を有する腫瘍細胞の発生を減少させ得る。
【0004】
ある種の腫瘍組織には、レベルが増加する酵素が幾つか存在する。1つの例は、ある種の壊死腫瘍領域から遊離される酵素β−グルクロニダーゼである。さらに、腫瘍の浸潤及び転移には、幾つかのタンパク分解酵素が関連していることが示されている。例えば、カテプシンやウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u−PA)系から得られるプロテアーゼのような複数の酵素が全て、腫瘍の転移に関わっている。セリンプロテアーゼであるプラスミンは、腫瘍の浸潤と転移において中心的な役割を果たしている。タンパク分解活性を有する型のプラスミンが、u−PAによって、不活性なプロ酵素型のプラスミノーゲンから形成される。腫瘍に付随してプラスミンが存在することを活用すれば、プラスミンで切断可能な複合体又はプロドラッグを誘導することができる。
【0005】
抗体運搬酵素プロドラッグ療法(ADEPT;antibody−directed enzyme prodrug therapy)1、ポリマー運搬酵素プロドラッグ療法(PDEPT)若しくは高分子運搬酵素プロドラッグ療法(MDEPT)2、ウイルス運搬酵素プロドラッグ療法(VDEPT)3又は遺伝子運搬酵素プロドラッグ療法(GDEPT)4を介して、酵素は標的細胞又は標的組織の近傍又は内部に輸送することも可能である。
【0006】
本発明の技術は、指定子(切断又は変換され得るユニット)と脱離基(例えば、親薬物又は検出可能な分子)の間に挿入できる新規スペーサー(リンカー)又はスペーサー系(リンカー系)に関する。さらに、本発明は、指定子と、前記新規スペーサー又はスペーサー系と、複数の脱離基とを含むプロドラッグ及び(バイオ)複合体に関し、リンカー(系)の一方の側にあるターゲッティング部分への結合を可能とする反応性部分とリンカー(系)の他方の側にある複数の脱離基(例えば、親薬物又は検出可能な分子)への結合を可能とする反応性部分とを含有する、(保護された)指定子を有する二官能性リンカー系に関する。過去に開発された多数の抗癌剤複合体とプロドラッグが、自己脱離コネクター又はリンカー(自己脱離スペーサーとも呼ばれる)を含有している。このスペーサーは、酵素的切断を促進して、薬物放出の速度を増大させるために、指定子と薬物の間に組み込まれる(図1に示す通り)。指定子(例えばプロテアーゼに対するオリゴペプチド基質、又は、例えばβ−グルクロニダーゼに対するβ−グルクロニド基質とすることができる)が、部位特異的に除去又は変換された後、自発的なスペーサーの脱離が生じて、細胞毒性親薬物を放出しなければならない。現在まで、プロドラックの活性化とこれに続くスペーサーの脱離が起こると1つの薬物分子を放出する自己脱離スペーサーが実施されてきた。これまでに報告されてきた複数の薬物部分を含有するプロドラッグと(バイオ)複合体を検討すると、放出すべき薬物分子ごとに独立した切断が必要とされた。
【0007】
WO 98/13059は、自己脱離スペーサーを介して治療薬に共有結合された、アミノ末端キャップされたペプチドを含むプロドラッグを記載している関連の開示である。特に、この文書は、p−アミノベンジル−オキシカルボニル(PABC)の自己脱離スペーサーとしての使用を記載している。PABC電子カスケードスペーサーは、例えば、「Carl et al., J. Med. Chem., 1981, vol. 24, 479−480」から既に公知であった。具体的には、PABCに結合された抗癌剤ドキソルビシン、マイトマイシンC、パクリタキセル及びカンプトセシンが記載されている。記載されている別の自己脱離スペーサーは、構造p−NH−Ph−CH=C(CH2O−)2を有するp−アミノ−ビス(ヒドロキシメチル)スチレン(BHMS)であり、カルボニル基を含むものは、構造がp−NH−Ph−CH=C(CH2OCO−)2である。この開示において、該スペーサーはビスカルバメートとして記載されており、薬物のアミン官能基を介して、2つの薬物分子がこのスペーサーに連結されることが教示されていることが注目される。実際にBHMSスペーサーに結合されることが開示されている唯一の薬物部分は、ドキソルビシンである。ドキソルビシンは、その糖アミノ基を介して結合され、スペーサーと薬物間にカルバメート結合を与える。さらに、該スペーサーは2つの薬物部分を結合できると述べられている。しかしながら、この文書は、実際に放出される薬物分子の数については全く言及していない。
【0008】
複数の共有結合された生物活性分子が末端基として搭載された他の系が報告されている。例としては、各ヒドラゾンリンカー5の酸分解後にドキソルビシンを放出する系、ドキソルビシンを含有する星形のHPMAコポリマー6、又は多重搭載されたポリ(エチレングリコール)プロドラッグ7がある。中核として抗体を有し、ドキソルビシンを含有する星型HPMAコポリマーも報告されている8。最近の出版物の数多くが、抗体当たりに結合する薬物の数を増やす目的で、抗体を含有するプロドラッグ又はバイオ複合体とともに、分岐したリンカーを使用することを記載している9。しかしながら、本発明者らが知る限りでは、これまでに報告された各多重搭載されたプロドラッグ系では、全ての末端基を放出するために、各単一の末端基が独立に切断される必要がある。
【0009】
このため、所望の作用部位で必要とされる活性化に関して十分な数の活性薬物の放出(効率)が改善された、プロドラッグ又は(バイオ−)複合体が必要とされている。多くの場合、プロドラッグ又は(バイオ)複合体において、ターゲッティングされる化合物の効力を向上させるために、ターゲッティングユニット当たりの薬物搭載を増加させることが望ましい。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系を介して同一又は異なる2以上の脱離基(Z)に連結された指定子(V)を含む化合物であって、単一の活性化工程において、少なくとも2つの脱離基を放出し、前記活性化工程が前記指定子の除去又は変換である化合物によって、上記要求を充足する。自己脱離スペーサーは、指定子と脱離基の間に2以上のスペーサーが組み込まれるように、互いに結合させることもできる。本明細書の以下の記載では、互いに接続された2以上のスペーサー(自己脱離多重放出スペーサー又は一重放出スペーサーの何れかである)を有する(自己脱離)スペーサー系という用語も使用される。
【0011】
本発明は、(保護された)指定子を含む二官能性リンカー系をも記載するものであり、該指定子は、スペーサー(系)の一方の側にあるターゲッティング部分への結合を可能とする反応性部分を含有する(これは最初の指定子とともに官能化された指定子Vになる)。さらに、二官能性リンカー系は、複数の脱離基(例えば、親薬物又は検出可能な分子)への結合を可能とする反応性部分を含む。
【発明の詳細な説明】
【0012】
本発明には、単一の活性化工程後に2以上の脱離基の放出を誘導するために使用できる新しい技術が開示されている。本技術は、例えば疾病に関連し又は臓器特異的な組織又は細胞へ薬物を誘導するために使用できるプロドラッグ又は複合体、例えば単一の活性化工程後に2以上の親分子部分を放出することが既に知られた複合体又はプロドラッグについて改良された腫瘍特異的複合体又はプロドラッグを調製するために、例えば適用することができる。これは、治療上の有利性を目指している。本発明は、特異的な疾病に関連し若しくは特異的にターゲッティングされる生体分子がプロドラッグ若しくは複合体を薬物に変換することができ又はプロドラッグ若しくは複合体の薬物への変換を誘導することができる特異的な標的部位への送達が必要とされる全ての薬物に適用できると考えられる。本発明は、さらに、親部分放出の特徴を増大させる目的で、化合物の(非特異的)徐放にも適用することができる。
【0013】
別の側面において、本発明は、診断アッセイ方法に適用することができる。酵素によって選択的に活性化されて複数の検出可能な分子(脱離基)を放出し、これにより、アッセイの感度を増加させる多重放出スペーサー又はスペーサー系を含有する本発明の化合物によって、酵素を検出することが可能である。
【0014】
本発明には、単一の活性化が発生したときに、複数の脱離基分子の放出を可能とする自己脱離多重放出スペーサーが開示されている。これらの自己脱離多重放出スペーサーは、複合体又はプロドラッグ(例えば、抗癌プロドラッグ)中に適用可能であり、(酵素的)活性化当たりに解離される薬物分子の量を著しく増大させて、治療上の有利性をもたらし得る。
【0015】
本記述全体及び特許請求の範囲中の包括的構造では、構造的要素を定義するために文字が使用される。これらの文字の中には、C、N、O、P、B、F、S、V、W、I、Yなどの原子を表しているものと誤解され得るものがある。これらの文字が原子を表さない場合には常に混同を避けるために、これらの文字は太字で表記される。
【0016】
本記述全体及び特許請求の範囲中の包括的構造では、分子構造又はその一部が描かれている。このような描画において一般的であるように、原子間の結合は線によって表され、一部の事例では、太線又は破線又はくさび形の線によって立体化学を表示する。一般に、末端が空白(「自由」末端)の線(すなわち、一方の末端が別の線を有さず又は当該末端に接続された特定の原子を有しない)は、CH3基を表す。これは、以下に記載されている本発明の好ましい化合物を表す描画については正しい。しかしながら、本発明の化合物の構造的要素、特に、A、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、O、T、U及びYを表す構造の場合、末端が空白の線は、化合物又は複合体の別の構造的要素が付着する位置を表す。これは、V、S又はZへの付着を含む。好ましい構造的要素(W−)w(X−)xCc、(W−)w(X−)xC(Dd)c、(W−)w(X−)xC(D(Ee)d)c、及び(W−)w(X−)xC(D(E(Ff)e)d)cを表す描画についても、末端が空白の線は、V、S又はZへの付着を含む、化合物又は複合体の別の構造的要素の付着の位置を表す。別の構造的要素への結合を表す線の別の描き方は、線の「自由」末端に垂直な波線で線を描くことであろう。
【0017】
さらに、構造が左から右へ読まれるという仮定の下で、構造又は構造の一部が描かれる。すなわち、指定子Vが常に左側に位置し、脱離基Z又は反応性部分Sが常にこのような構造の右側に位置する。
【0018】
本発明によって、複数の部分を放出することができる2つの「分岐自己脱離スペーサー(本明細書では「多重放出スペーサー(multiple release spacer)」とも称される)」が開発された。単一の部分のみを放出することができるスペーサーは、「非分岐スペーサー」又は「一重放出スペーサー」と称される。1,(4+2n)−脱離(n=0、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10)(例えば、1,6−脱離、1,8−脱離、又は1,10−脱離)を通じて自己脱離する分岐又は非分岐何れかのスペーサーは、さらに「電子カスケード」スペーサーと称される。
【0019】
2個の脱離基を放出できるスペーサー(以下、「二重放出スペーサー」と称する)が指定子と脱離基の間に使用される場合、(酵素的)活性化当たり2個の脱離基分子が放出される(図2a)。3個の脱離基を放出できるスペーサー(以下、「三重放出スペーサー」と称する)が使用される場合、活性化された化合物又はプロドラッグ当たり3個の脱離基分子が放出されるであろう(図2b)。
【0020】
スペーサーが、直接的な結合を介して、1又は複数の他のスペーサーに接続される場合、このスペーサーの組み合わせは、「スペーサー系」と称される。これらのスペーサーのうち少なくとも1つが多重放出スペーサーである場合、「多重放出スペーサー系」と称される。
【0021】
アニリンをベースとするスペーサーとは、左側に芳香族アミノ基を含む多重放出又は一重放出スペーサーである。フェノール又はチオフェノールをベースとするスペーサーとは、左側に、それぞれ芳香族水酸基又はチオ基を含む多重放出又は一重放出スペーサーである。左側とは、例えば、図5、6、7及び8に示されている分子中の位置を指す。
【0022】
驚くべきことに、2以上の脱離基分子が放出されるには、アニリンをベースとする多重放出スペーサーのみが使用される場合、脱離基は脂肪族アミン基でないことが必要とされることが明らかとなった。換言すれば、スペーサーがアニリンをベースとする多重放出スペーサーであれば、脱離基(Z)は、それらの脂肪族アミン基を介して、自己脱離多重放出スペーサーに結合されるべきではない。実施例において、脱離基Zが、その第一級アミン基を介して、プロピルアミン、p−メトキシベンジルアミン、ベンジルアミン、又はp−クロロベンジルアミンに結合されれば、最大限、これらの脱離基の1つが実際に放出されることが示される(実施例22、23、26、27、及び28/図20、21、24、及び25を参照)。
【0023】
スペーサーがフェノールをベースとする若しくはチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーである場合、又は多重放出スペーサーがフェノール若しくはチオフェノールをベースとする一重放出スペーサー若しくはスペーサー系に直接結合されている場合には、しかしながら、全ての脱離基が活性化の際に解離されるので、脱離基はそれらの脂肪族アミノ基を介して結合することもできる。
【0024】
好ましくは、前記脱離基Zは、例えば、O、S、芳香族N、又は脂肪族Nなど、十分な電子吸引能を有する基を介して、自己脱離多重放出スペーサーに連結される。本発明において、芳香族Nとは、例えば、(置換された)フェニル環又は他の(複素)芳香族基などの芳香族基に共有結合された窒素原子を意味するのみならず、芳香族Nは、例えばピロール環又はイミダゾール環中など芳香環中の窒素を意味する場合もあることに留意することが重要である。本発明に開示されているように、多重放出スペーサーがアニリンをベースとするスペーサーである場合、前記脱離基は、脂肪族アミンより優れた脱離基能を保有しなければならない。プロピルアミン、p−メトキシベンジルアミン、ベンジルアミン、及びp−クロロベンジルアミンでさえ、スペーサーがアニリンをベースとするスペーサーである場合、全ての末端基の完全な放出を誘導するのに十分な電子吸引能を有していなかった。これに対して、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、パクリタキセル、及びある種のパラ置換アニリン誘導体は全て、本発明に開示された二重及び三重放出スペーサーから完全に放出されることが示された。例えば、本明細書に開示された二重放出スペーサーの場合、パラ置換アニリン誘導体がNH−C6H4−CH2−O−CO−NH−CH2−Rであったときには、多重放出は起こらなかった。これに対して、パラ置換アニリン誘導体がNH−C6H4−CH=C(CH2−O−CO−2’−O−パクリタキセル)2であったときには、多重放出が起こった。多重放出スペーサーがフェノール若しくはチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーである場合、又は多重放出スペーサーがフェノール若しくはチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーに結合されている場合には、脂肪族アミンも適切な脱離基であり、全ての脂肪族アミン脱離基の放出が起こる。これは、脂肪族アルコールが適切な脱離基であることが判明し(例えば、H2N−C6H4−CH=C(CH2−O−CO−2’−O−パクリタキセル)2から、二分子のパクリタキセルが放出される)、従って、脂肪族アルコールに関する脱離能の増加の故に、多重放出スペーサー(例えば、H2N−C6H4−CH=C(CH2−O−C(O)O−C6H4−CH2OC(O)(NR1R2)2)から脂肪族アミン脱離基が接続されたフェノールをベースとするスペーサーの放出が生じるはずであるという論拠に基づくことができる。ヒドロキシベンジルをベースとするスペーサー−脂肪族アミン複合体からの脂肪族アミンの脱離が知られているので10、脂肪族アミンがフェノールをベースとするスペーサーに直接接続されたスペーサー系からも脂肪族アミンの放出も起こる。
【0025】
以上のことは、多重放出が生じるか否かが僅かな変化によって決定され得ることを示している。スペーサーがアニリンをベースとするスペーサーである場合、脂肪族アミンの全て、さらには調べたパラ置換アニリン誘導体の一部でさえ、2以上の脱離基の放出が起こらず、スペーサーがフェノール又はチオフェノールをベースとするスペーサーである場合には放出が起こるが、調べた他のパラ置換アニリン誘導体及び全てのヒドロキシル脱離基において、全ての末端基の完全な脱離が、用いたスペーサーの種類とは無関係に起こった。
【0026】
少なくとも2分子が本発明の化合物から脱離するためには、前記脱離基は、例えば、その第一級、第二級若しくは第三級アルコール、そのフェノール、若しくはホスフェートなどその酸素、その硫黄、又はその芳香族アミンを介して結合されるべきである。脱離基の脂肪族アミノ基を介して結合された少なくとも2つの脱離基が1つの多重放出スペーサーを含む複合体から脱離するためには、前記スペーサーは、フェノール若しくはチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーとすべきであり、又はアニリンをベースとする多重放出スペーサーを1つ含むスペーサー系は、この多重放出スペーサーに直接接合された、フェノール若しくはチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーも含むべきである。自己脱離多重放出スペーサー(系)と脱離基との連結は、炭酸塩、アルキルリン酸塩、オキシカルボニルチオ、カルバミン酸塩、又はN−アリール−カルバミン酸塩として記述することができる。ある場合には、例えば、アリールエーテル結合を介して一重放出自己脱離スペーサーに結合された芳香族アルコール脱離基の場合11には、前記脱離基は、自己脱離を損なわずに、オキシカルボニルユニットを用いずにスペーサーに連結することもできる。
【0027】
一つの実施形態において、前記化合物は、自己脱離多重放出スペーサーを1個有する。さらなる実施形態において、前記化合物は、自己脱離多重放出スペーサーを2個以上備える。さらなる実施形態において、前記化合物は、自己脱離多重放出スペーサーを3個以上備える。
【0028】
自己脱離多重放出スペーサーは、互いに結合させることもできる(図3及び4)。この場合には、多重階層の多重放出スペーサーを含有する化合物が得られる。本発明の化合物のスペーサー系中に1個の多重放出スペーサーが組み込まれれば、該化合物は一重階層の多重放出スペーサーを含有する。第一の自己脱離多重放出スペーサーに2以上の自己脱離多重放出スペーサーが結合されれば、得られる化合物は二重階層の多重放出スペーサー(第二階層)を含有する。前記第二階層の自己脱離多重放出スペーサーを構成する二以上の自己脱離多重放出スペーサーに2以上の自己脱離多重放出スペーサーが結合されれば、得られる化合物は三重階層の多重放出スペーサー(第三階層)を含有する。本発明の化合物が2以上の階層の自己脱離多重放出スペーサーを含有すれば、前記化合物は樹状(又は樹脂形状)構造を有し、デンドリマーと称し得る。本発明の一つの実施形態において、前記化合物は、自己脱離多重放出スペーサーを1個有する。本発明のさらなる実施形態において、前記化合物は、2以上の階層の自己脱離多重放出スペーサーを備える。さらなる実施形態において、前記化合物は、3以上の階層の自己脱離多重放出スペーサーを備える。例えば、第一の自己脱離二重放出スペーサーに2個の自己脱離二重放出スペーサーを結合させ、必要に応じて4個の自己脱離二重放出スペーサーを第二の2個の自己脱離二重放出スペーサーに再度結合させることによって、樹状構造が構築される。指定子当たり結合できる脱離基分子(例えば薬物分子)の数は、組み込まれる自己脱離多重放出スペーサーの階層ごとに指数的に増加する。先行する階層に結合された自己脱離多重放出スペーサーの新しい各階層が、新しく組み込まれた前記階層の多重放出スペーサーに結合され得る脱離基の数に等しい係数だけ、前記化合物又は複合体中に最終的に存在できる脱離基分子の数を増加させる。得られる最終の化合物又はプロドラッグ(又はバイオ複合体)がデンドリマーである。
【0029】
このように、本発明のさらなる実施形態において、前記化合物は、樹状構造の形態の自己脱離多重放出スペーサー系を含む。少なくとも2分子がこのような樹状多重放出スペーサー系から脱離するためには、前記脱離基は、例えば、それらの第一級、第二級又は第三級アルコール、それらのフェノール、若しくはそれらのホスフェートなどそれらの酸素、それらの硫黄、又はそれらの芳香族アミンを介して結合されるべきである。脱離基の脂肪族アミノ基を介して結合された少なくとも2つの脱離基が脱離するためには、樹状多重放出スペーサー系の少なくとも1つの階層は、フェノール若しくはチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーを含むか、フェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーを介して多重放出スペーサーの次の階層若しくは脱離基に結合すべきである。好ましくは、多重放出スペーサー又はスペーサー系の最高階層は、フェノール又はチオフェノールをベースとすべきである。
【0030】
好ましい実施形態において、アニリン、フェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサー(系)を使用する場合には、脱離基は脂肪族アミンではなく、好ましくは、例えばO、S又は芳香族Nである。
【0031】
デンドリマー(星形ポリマーとしても知られる)とは、多数の末端基を有し、高度に分岐した明確な樹形高分子である12。これまでに活用されてきたデンドリマー(又は樹状)構造の応用の1つは、薬物送達である13。デンドリマーによる薬物送達の新たに生起している分野では、生物学的に活性な物質は、デンドリマーの末端基に共有結合されるか、又はデンドリマーの内部に封入することができる。これまでに報告された第一のケースの例では、各薬物分子は、化学的又は生物的な切断工程を介して独立に解離されなければならない14。第二のケースでは、特異的な生理条件がデンドリマーのフォールディング及び/又は三次構造が変化し、これによって封入された物質を放出する必要がある。デンドリマーからの活性物質の放出は、pH15、光感受性ユニットの導入16、又は酵素的切断17によって誘導することができる。
【0032】
本明細書に開示された新規自己脱離多重放出スペーサーは、単一の活性化が全ての末端基を放出させるのに十分であるように、デンドリマー末端基に共有結合された多重脱離基(例えば、生物的に活性な物質)を完全に放出させることができる(図3と4)。単一の化学又は生物的な活性化が起こると、自己脱離反応のカスケードが誘導されることによって、複数の脱離基が放出されるはずである。これらの特性を有するデンドリマーは、幾つかの用途において有用であり得、診断の分野及び薬物送達の分野(例えば、デンドリマー物質の腫瘍選択的な分解が望まれる、抗癌療法において)において特に有用であると考えられる。唯一つのターゲッティング又は薬物送達装置の利用によって、複数の薬物分子が部位特異的に放出され得る。一重放出スペーサー又はスペーサー系を介して、必要に応じて互いに接続された、多重放出自己脱離スペーサーの2以上の階層を含有する化合物は、さらに、「カスケードデンドリマー」と称される。
【0033】
本発明の多重放出スペーサー若しくはスペーサー系又はカスケードデンドリマーに対しては、幾つかの用途が考えられる。第一に、生物活性化合物を部位特異的に送達することができる。この概念は抗癌剤に対して適用できるだけでなく、例えば、例えばβ−ラクタマーゼ等の細菌酵素によって活性化されるカスケードデンドリマー中の末端基として抗生物質を組み込むことができる。さらに、カスケードデンドリマーは、農薬を放出するために農芸化学分野に適用できる18。高度な合成を通じて、2以上の異なる親化合物を含有するカスケードデンドリマーを調製することができる。癌、細菌疾患、及びHVIなどの疾病に対して臨床的に重要な治療の様式として併用療法が浮上することが考えられる場合には、これは興味深いものとなり得る。
【0034】
さらに、生物分解性デンドリマーは、プラスチックなどの生物分解性物質の製造に関して興味深いものとなり得、又は、例えば、酵素的に分解可能な配列を取り込むことによって薬物の制御放出又は徐放を可能とする装置として使用し得る。さらに、カスケードデンドリマーは、診断目的に使用することができる19。カスケードデンドリマーは、診断アッセイにおける増幅機構として機能する。以下を参照のこと。
【0035】
抗癌剤の特異性を向上させるために幾つかの戦略が開発されており、プロドラッグの概念がそのうちの1つである20,21。プロドラッグは活性な薬物の不活性誘導体であり、部位特異的に活性化されて活性な親薬物を放出する。腫瘍特異的な酵素又は腫瘍が標的とされる酵素によって活性化されるプロドラッグは、有望な結果を示している22。あるいは、Ringsdorfによって既に報告されているような23、ポリマーに結合された抗腫瘍剤のプロドラッグは、別のターゲッティング原理を与える。デンドリマーなどのポリマーは、透過性及び保持増大効果(EPR;enhanced permeability and retention effect)のために、腫瘍特異性を受動的にもたらすことができる24。不連続(漏出性)且つ十分に形成されていない腫瘍内皮とリンパ排液の不良のために、この効果によって、40kDを超えるおよその分子量を有するポリマー性物質が腫瘍組織内部に保持される。薬物送達のために頻繁に使用されるポリマー性担体は、ポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](ポリ−HPMA)25、ポリグルタミン酸(例えば、ポリ−L−グルタミン酸(PG))、及びポリ(エチレン)グリコール(PEG)26である。当然のことながら、デンドリマーは従来のポリマーほど多分散系ではないので、薬物送達にデンドリマーを適用することは、他のポリマーに比べて好ましいことがあり得る。一般に、デンドリマーはポリマーより容易に均一な化合物として得ることが可能であり、この事実のために、デンドリマー状物質は医薬用途として認可を取得しやすいであろう。
【0036】
従来のデンドリマー又はポリマーに対するカスケードデンドリマーの重要な利点は、選択的に分解可能であるため、身体から選択的に除去され得るということであろう。身体から除去され得る合成高分子の最大分子量は25ないし45kDの範囲にわたるので、身体からのポリマーのクリアランスは、現在のポリマー性薬物送達系における制約要因である27。本明細書中に開示されているカスケードデンドリマーは、同じくこれらの望ましい分解可能性特性を有する自己集合デンドリマー状システム28の代替物と考えることができる。
【0037】
このように、共有結合された抗癌薬分子を末端基として含有し、腫瘍環境中に局在する特異的酵素によって又は他の任意の特異的な化学的若しくは生物的現象によって活性化される本発明の多重放出デンドリマー複合体及びプロドラッグは、腫瘍選択的な抗癌化合物に関して望ましい多数の特性を兼ね備えるであろう。
【0038】
より具体的には、本発明は、式
V−(W−)W(X−)XC((A−)aZ)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(A−)aZd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(A−)aZ)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aZ)f)e)d)c、
(式中、
Vは、[O]、及び必要に応じて予め受容体に結合した後に、化学的、光化学的、物理的、生物的、又は酵素的活性化によって除去又は変換される指定子から選択され;
(W−)W(X−)XC((A−)a)c、
(W−)W(X−)XC(D(A−)a)d)c、
(W−)W(X−)XC(D(E(A−)a)e)d)c、
(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)a)f)e)d)c、
は、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系であり;
W及びXは、各々、同一又は異なる一重放出1,(4+2n)電子カスケードスペーサーであり;
Aは、環状化脱離スペーサーであり;
C、D、E、及びFは、各々、活性化されると、それぞれc、d、e、及びf脱離基を最大限に放出することができる自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系であり;
各Zは、独立に、脱離基又はH又はOH又は反応性部分であり;
aは、0又は1であり;
c、d、e、及びfは、独立に、2(2を含む)ないし24(24を含む)の整数であり;
w及びxは、独立に、0(0を含む)ないし5(5を含む)の整数である。
【0039】
nは、0(0を含む)ないし10(10を含む)の整数である。)
の化合物に関する。
【0040】
さらなる実施形態において、本発明は、式
V−(W−)W(X−)XC((A−)aS)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aSd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aS)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aS)f)e)d)c、
(式中、
V、W、X、C、D、E、F、A、w、x、c、d、e、f、及びaは上記定義のとおりであり、各Sは、独立に、意味を持たないか又はH、OH、若しくは同一若しくは異別であり得る脱離基Zへの多重放出スペーサー系を結合させて、それぞれ、化合物
V−(W−)W(X−)XC((A−)aZ)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aZd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aZ)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aZ)f)e)d)c、
を与えることができる反応性部分である。)
の化合物に関する。
【0041】
本発明の化合物又はプロドラッグ(又は(バイオ)複合体)は、部位特異的に除去又は変換することができ、新規自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系(W−)W(X−)XC((A−)a)c又は(W−)W(X−)XC(D((A−)a)d)c又は(W−)W(X−)XC(D(E((A−)a)e)d)c又は(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)a)f)e)d)cを介して少なくとも2つの治療若しくは診断部分Z又は少なくとも2つの反応性部分Sに共有結合される基からなるように作られた指定子Vを含む。これらの自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系は、部分Z又は部分Sを付着させるための部位を複数有する。
【0042】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系C、D、E、及びFは、式
【化15】
【0043】
(式中、
Bは、NR1、O、及びSから選択され;
Pは、C(R2)(R3)Q−(W−)w(X−)xであり;
Qは、意味を持たないか又は−O−CO−であり;
W及びXは、各々、同一又は異なる一重放出1,(4+2n)電子カスケードスペーサーであり;
G、H、I、J、K、L、M、N、及びOは、独立に、式:
【化16】
【0044】
を有する化合物から選択されるか、
(式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は、独立に、H、C1−6アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ(OH)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1、NRx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)を表し、Rx、Rx1、Rx2は、独立に、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択され、前記R1、R2、R3、R4、及びR5の2以上は、必要に応じて互いに接続されて1若しくは複数の脂肪族又は芳香族環状構造を形成する。)、又は、
G、J、及びMは、P及び水素の群からも選択され得るが、但し、G、J、及びMの2つが水素であれば、残りの基は、
【化17】
【0045】
若しくは、
【化18】
【0046】
でなければならず、同時に、
【化19】
【0047】
に共役していなければならず、
g、h、i、j、k、l、m、n、o、h’、g’、k’、j’、n’、m’は、独立に、0、1、又は2であるが、但し、
G=水素又はPであれば、g、h、i、h’、及びg’は全て0に等しく;
J=水素又はPであれば、j、k、l、k’、及びj’は全て0に等しく;
M=水素又はPであれば、m、n、o、n’、及びm’は全て0に等しく;
G、H、I、J、K、L、M、N、又はOが、
【化20】
【0048】
であれば、
それぞれ、g+g’=1、h+h’=1、i=1、j+j’=1、k+k’=1、l=1、m+m’=1、n+n’=1、又はo=1であり;
G、H、I、J、K、L、M、N、又はOが、
【化21】
【0049】
であれば、
それぞれg+g’=2、h+h’=2、i=2、j+j’=2、k+k’=2、l=2、m+m’=2、n+n’=2、又はo=1であり;
g’=0であり且つGが水素又はPでなければ、h、h’、及びiは0に等しく且つg>0であり;
g=0であり且つGが水素又はPでなければ、g’>0であり;
g’>0且つh’=0であれば、i=0且つh>0であり;
g’>0且つh=0であれば、h’>0且つi>0であり;
j’=0且つJが水素又はPでなければ、k、k’、lは0に等しく且つj>0であり;
j=0且つJが水素又はPでなければ、j’>0であり;
j’>0且つk’=0であれば、l=0且つk>0であり;
j’>0且つk=0であれば、k’>0且つl>0であり;
m’=0且つMが水素又はPでなければ、n、n’、oは0に等しく且つm>0であり;
m=0且つMが水素又はPでなければ、m’>0であり;
m’>0且つn’=0であれば、o=0且つn>0であり;
m’>0且つn=0であれば、n’>0且つo>0であり;
w及びxは、独立に、0(0を含む)ないし5(5を含む)の整数であり;
但し、前記化合物がCのみを含有しており、D、E、及びFが存在せず、B=NR1であり、G及びMはHであり、g、h、i、h’、g’、k、l、k’、l’、m、n、o、n’、及びm’は0であり、J=
【化22】
【0050】
であり、j=2であり、Q=−O−CO−であり、w及びxが0であり、R1、R2、R3、及びR4がHであれば、脱離基Zのうち少なくとも1つは、脂肪族アミノ基を介してQに接続されない。)
を有する化合物から独立に選択される。
【0051】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、前記1,(4+2n)電子カスケードスペーサーW及びXが、式
【化23】
【0052】
(式中、
Qは、意味を持たないか又は−O−CO−であり;
t、u、及びyは、独立に0ないし5の整数であり;
T、U、及びYは、独立に、式:
【化24】
【0053】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9は、独立に、H、C1−6アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ(OH)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)を表し、Rx、Rx1、Rx2は、独立に、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択され、置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、又はR9の2以上は、必要に応じて互いに接続されて1又は複数の脂肪族又は芳香族環状構造を形成する。)
を有する化合物から独立に選択される。)
を有する化合物から独立に選択される。
【0054】
好ましい実施形態において、脱離基Zは、脱離基のO、S、又は芳香族Nを介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に連結されている。
【0055】
上記式をさらに明確化するために、図13に記載されている化合物26が例として役立つであろう。この化合物は、式V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aZd)cの化合物である。この化合物は、4つの末端基Zが結合された2階層の二重放出スペーサーを含有している。指定子Vは[O]であり、これはV−BがB(Cの一部)の酸化型であることを意味する。この官能基の還元が自己脱離を誘導する。このような部分V−Bは化学的に還元することができるが、生理的条件下において低酸素状態下で又はニトロ還元酵素によって還元することもできる。Zはパクリタキセルである。指定子[O]と多重放出スペーサーの間には、一重放出スペーサーが組み込まれておらず、これはw−x=0であることを意味している。Cは、ベンジリデン−プロパン−1,3−ビス−オキシカルボニルユニットを含有する二重放出スペーサーであり、図8に図示されている原理に基づいて脱離する。環状化脱離スペーサーは存在せず、これはa=0であることを意味している。第一の二重放出スペーサーに2個の二重放出スペーサーが結合されており、d=c=2である。
【0056】
一般に、本発明に開示されている多重放出スペーサーは、2つのレベルで分岐が為されている(すなわち、i)指定子の位置に対してオルト置換基とパラ置換基の両方を導入できる芳香環上での分岐、及びii)二重結合の終末C原子が2個の脱離基を付着できる分岐点を与える、芳香環のパラ及び/又はオルト位置に存在する共役二重結合をさらに組み込むことによる分岐)ので、多重放出特性を有する。理論的には、多重放出スペーサー又はスペーサー系を得るための自己脱離スペーサーを分岐させるこれら2つの要素は無限に伸長させ得る。
【0057】
1又は複数の(階層の)自己脱離多重放出スペーサーを組み込むことに加えて、指定子と第一の多重放出スペーサーの間に、一重放出(非分岐とも呼ばれる)自己脱離スペーサー又はスペーサー系を組み込むことが望ましい場合もある。これによって、活性化工程を促進させ得る。この一重放出自己脱離スペーサー又はスペーサー系は、−(W−)W(X−)Xによって表される。さらに、最終的な複合体の表面積を増加させるために、前の階層に一重放出自己脱離スペーサー又はスペーサー系を追加して、多重放出スペーサーの次の階層に結合させるか(このようにして、多重放出スペーサー系の前の階層を得る)、又は、脱離基Zの前にある多重放出スペーサーの最高階層に結合させることも望ましいことがある。これによって、収容できる末端基の数を増加させることができるとともに、複合体の最終サイズを増加させることもでき、例えば透過性及び保持増大(EPR)効果から得られる利点などのある種の利点と両立することができる。さらに、アニリンをベースとする多重放出スペーサーのみが使用されている場合には、多重放出スペーサーの階層、又は、好ましくは、脱離基Zの前の多重放出スペーサーの最高階層にフェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーを接続すると、それらの脂肪族アミノ基によって多重放出スペーサー系に結合されている2個以上の脱離基Zの放出が可能になる。
【0058】
アニリンをベースとする多重放出スペーサーのみが使用されており、それらの脂肪族アミノ基によって脱離基Zが結合された多重放出スペーサー系にフェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーが組み込まれていない場合には、Z基が1個だけ放出されるであろう。これは、脱離基Zの脂肪族アミノ基によって脱離基Zが結合している多重放出スペーサー系へのアニリンをベースとする一重放出スペーサーの組み込みについても当てはまる。多重放出スペーサーの階層又は脱離基Z若しくは反応性部分Sの前にある多重放出スペーサーの最高階層に付加された一重放出スペーサーは、上記式中では、C、D、E及びFの一部である、P中の−(W−)w(X−)xによって表される。
【0059】
一般に、フェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出又は多重放出スペーサーに比べて、アニリンをベースとする一重放出又は多重放出スペーサーが好ましい。しかしながら、上記は、多重放出スペーサー系の中にフェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーを含めることが有益である場合があり得ることを示している。同じ理由で、フェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーを含めることが有益な場合がある。一般に、脂肪族アミノ基を介して多重放出スペーサー又はスペーサー系に接続された2以上のZ基を放出させるためには、C、D(存在する場合)、E(存在する場合)、又はF(存在する場合)の何れかの階層、好ましくはA、Z、又はSの何れかに接続された階層の多重放出スペーサー又はスペーサー系の少なくとも1つ、好ましくは全部が、フェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサー又はスペーサー系でなければならない。すなわち、i)その階層中の少なくとも1つ、好ましくは全ての多重放出スペーサーについてB=O若しくはSであるか、又はii)前記階層中の全ての多重放出スペーサーについてB=Nである場合には、前記階層中の少なくとも1つ、好ましくは全ての多重放出スペーサーの少なくとも2つの分岐に少なくとも1つの一重放出スペーサーが接続されており、それらの一重放出スペーサーの少なくとも2つについてB=O若しくはSである。
【0060】
上式において、Qは好ましくはO−COであるが、意味を持たなくてもよい。例えば、自己脱離スペーサーと脱離基との間にアリールエーテル結合を有する化合物(オキシカルボニル官能基が欠如している。(Qが意味を持たない))も自己脱離を行うと報告されている11。
【0061】
Carlらによって、1981年に開発されたような1,6脱離の原理は、プロドラッグの設計において使用できる最も用途の広い自己脱離原理の1つと考えられる。この原理によれば、スペーサーの脱離は、図5に図示されている機序を介して進行する。この脱離プロセスは、プロドラッグのコンセプトに応用すると、極めて奏功することが明らかとなっている。図5及び6に示されているように電子カスケードシーケンスを通じて自己脱離するスペーサーは、一般的には、環化反応を介して脱離するスペーサーより、脱離の半減期がずっと早い。これは、環状化スペーサーと電子カスケードスペーサーとの顕著な差である。
【0062】
切除可能部分と脱離基の間、例えば、WO 02/083180に開示されているように指定子と薬物の間に、伸長された自己脱離スペーサーを組み込むことができる(参考文献29も参照)。自己脱離スペーサーの長さを増加させることには、さらなる利点があり得る。長さが増加した自己脱離スペーサーは、複合体又はプロドラッグの活性化の速度及び/又は効率を増加させ得る。結果として、薬物の放出特性は、長いスペーサーを通じて増大され得る。本発明の自己脱離スペーサー又はスペーサー系は、それ自体伸長されており、又は1つの多重放出スペーサー系内に複数の自己脱離リンカーが組み合わされているので、例えば1,6−脱離スペーサーなどの従来の自己脱離スペーサーより長くすることもできる。このように、本発明のスペーサー又はスペーサー系は分岐することができるが、さらに、伸長させることができる。スペーサー又はスペーサー系の両因子(長さと分岐の程度)は、複合体又はプロドラッグを設計するときに、慎重に検討しなければならない。特に分岐点が活性化の部位に近接している場合には、高度な分岐は、複合体又はプロドラッグの活性化の効率化に関して不利なことがある。多数の脱離基Zを収容するために高度な分岐が望ましい場合には、指定子Vと分岐点の間に一重放出自己脱離スペーサーを組み込むことが有益であり得る。これによって、活性化の効率が増加し得る。
【0063】
一重放出スペーサーをさらに組み込むことによって外圏の表面が増加し、その結果、さらに多くの末端基(例えば薬物)を収容することができるので、多重放出スペーサーの階層に一重放出スペーサーを接続することによって、組み込まれ得る末端基の総数を増加させることが可能となり得る。所望の特性を有する複合体又はプロドラッグを得るために、1又は複数の一重放出自己脱離スペーサーを必要に応じて含む特異的な多重放出スペーサー又はスペーサー系の選択を検討しなければならない。
【0064】
本発明に開示されている新規自己脱離多重放出スペーサーは互いに結合させて、芳香族アミンをp−ニトロフェニルカーボネートに結合するために触媒としてヒドロキシベンゾトリアゾールを利用することによってアリールカルバメート官能基を介してスペーサーが結合されている多重放出スペーサー系を与えることができる。
【0065】
本発明は、別の側面において、Aが環状化スペーサーである上記式の化合物に関し、
【化25】
【0066】
(式中、
aは、0又は1の整数であり;
bは、0又は1の整数であり;
cは、0又は1の整数であり;但し、
a+b+c=2又は3;
R1及びR2は、H、以下の群:ヒドロキシ(OH)、エーテル(ORx)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)のうち1又は複数によって必要に応じて置換されているC1−6アルキル(Rx、Rx1、及びRx2は、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択される。)を独立に表し;
Sが意味を持たない場合にはR2が意味を持たず、これは、最も右側の窒素原子とカルボニル基の間に二重結合が存在することを意味し(N=C=O);
R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、独立に、H、C1−6アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ(OH)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)を表し(Rx、Rx1、及びRx2は、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択される。);
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、1又は複数の脂肪族又は芳香族環状構造の一部とすることができ、前記置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8の二以上は、必要に応じて互いに接続されて1又は複数の脂肪族又は芳香族環状構造を形成する。)
から選択される式を有するω−アミノアミノカルボニル環状化スペーサーとさらに称される。
【0067】
ω−アミノアミノカルボニル環状化スペーサーAのω−アミノ基は、1つの階層、好ましくは最高次の階層(A、Z、又はSに接続されているもの)中にフェノール又はチオフェノールをベースとするスペーサーを含有する多重放出スペーサー系に接続されている場合には、特定の電子吸引置換基に近接している必要はなく、芳香族窒素である必要もない。
【0068】
ω−アミノアミノカルボニル環状化スペーサーのωアミノ基は、十分な脱離基能を有するべきである。好ましい実施形態では、ω−アミノアミノカルボニル環状化スペーサーのωアミノ基は、N−アリール又は脂肪族Nであり、電子吸引基が適切にその電子吸引特性を発揮して前記ωアミノ基の脱離基能が増加するように、Nは電子吸引基の近傍に位置する。しかし、脱離アミノ基の求核性は、十分に速い環化反応を可能とするのに十分でなければならない。
【0069】
さらなる実施形態において、本発明は、基Aがω−アミノアミノカルボニル環状化スペーサーであり、Zがそのヒドロキシル基を介してAに結合された部分である、化合物に関する。
【0070】
本発明の好ましい化合物は、
(W−)w(X−)xCc、
(W−)w(X−)xC(Dd)c、
(W−)w(X−)xC(D(Ee)d)c、又は
(W−)w(X−)xC(D(E(Ff)e)d)c、
【化26−1】
【化26−2】
【化26−3】
【化26−4】
【化26−5】
【化26−6】
【化26−7】
【化26−8】
【化26−9】
からなる群及び一重放出1,6−脱離p−アミノベンジルオキシカルボニルスペーサーが一重放出1,8−脱離p−アミノシンナミルオキシカルボニルスペーサーによって置換された上記化合物から選択される化合物である。
【0071】
さらなる実施形態において、前のパラグラフに図示されている化合物は、ω−アミノアミノカルボニル環状化スペーサーAをさらに含む。
【0072】
本発明は、本発明に記載されている自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系自体にも関する。このように、本発明は、指定子Vがなく、例えばアミノトリオール16(図11)及びアミノジオール23(図13)によって例示されるように、Z又はSがH又はOHである、上述の化合物に関し、2以上のスペーサーを有するスペーサー系に及ぶ。
【0073】
本発明は、指定子、脱離基、反応性部分又はスペーサーとの結合を促進するために使用できる自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系自体の誘導体に関する。例えば、アミノ基はそのイソシアネートとして誘導化することができ、アルコール基はそのp−ニトロフェニルカルボネートとして誘導化することができる。他の誘導化は、当業者の知識の範囲に属する。
【0074】
スペーサー又はスペーサー系の一方の末端は、指定子、例えばプラスミンに対する基質であるトリペプチドと反応することが可能でなければならない。典型的には、スペーサー又はスペーサー系のこの末端はアミノ基又はヒドロキシル基であるが、別の官能基とすることもできる。リンカーまたはリンカー系の他方の末端に位置する官能基は、脱離基Z(薬物)と反応することが可能でなければならない。典型的には、多重放出スペーサー又はスペーサー系のこれらの末端はヒドロキシル基であるが、他の官能基とすることもできる。一つの実施形態において、これらの官能基は薬物のヒドロキシル基と反応して、リンカーと薬物の間に例えばカーボネート結合を形成する。別の実施形態において、これらの官能基は、薬物の芳香族アミノ基と反応して、リンカーと薬物の間に例えばN−アリールカルバメート結合を形成する。さらに別の実施形態において、これらの官能基は薬物のスルフヒドリル基と反応して、リンカーと薬物の間に例えばオキシカルボニルチオ結合を形成する。さらに別の実施形態において、これらの官能基は、薬物のカルボン酸基と反応する。スペーサーAがスペーサー系に含まれていれば、典型的には、薬物のヒドロキシル基はAと反応して、AとZの間にカルバメート結合を形成する。
【0075】
本発明の化合物において、前記指定子Vは、典型的には、標的細胞、例えば腫瘍細胞の近傍又は内部に存在する酵素によって特異的に切断される基質分子を含有する。より好ましくは、前記指定子Vは、身体の他の部分に比べて標的細胞の近傍又は内部においてレベルが上昇して存在する酵素によって特異的に切断される基質を含有し、最も好ましくは、前記酵素は標的細胞の近傍又は内部においてのみ存在する。ある実施形態において、適切には、前記指定子Vは、特定の細胞に化合物を誘導するためにターゲッティング部分を構成する。
【0076】
本発明の化合物において、前記指定子Vは、所定の標的細胞集団に付随する受容体若しくは他の受容部分への選択的な結合によって又は別の機序により標的細胞の近傍又は内部に本発明の化合物を蓄積させることによって、生じた化合物を標的部位に誘導することができるターゲッティング部分と反応できる反応性部分を含有することもできる。これらの化合物が2以上の反応性部分Sを含有する場合には、前記化合物は、以降「二官能性リンカー」と称される。前記化合物が2以上の部分Zを有する場合には、前記化合物は、以降「一機能性スペーサー−脱離基複合体」と称される。ターゲッティング基を有する指定子の他に、標的部位において特異的に切断できる基質、多重放出スペーサー系、及び2以上の脱離基Zを含有する本発明のプロドラッグを調製するために、二官能性リンカーと一機能性スペーサー−脱離基複合体を何れも使用することができる。本発明では、複数の脱離基を放出できるスペーサー及びスペーサー系が記載されているが、例えば、参考文献として援用されるWO 02/83180及びEP 1243276に記載されているように、一重放出スペーサー及びスペーサー系を含有する一機能性スペーサー−脱離基複合体と二官能性リンカーも設計できることが明らかである。
【0077】
本発明の一側面において、V中の反応性部分は、ターゲッティング部分上の求核基(例えば、チオール基、アミノ基、又はアルデヒド基)と反応して、ターゲッティング部分を含有する新しい指定子Vを形成する。
【0078】
本発明の好ましい側面において、V中の反応性部分は、タンパク質又はタンパク質断片上の求核基(例えば、チオール基、アミノ基、又はアルデヒド基)と反応して、タンパク質又はタンパク質断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0079】
本発明のさらに好ましい側面において、V中の反応性部分は、抗体又は抗体断片上の求核基(例えば、チオール基、アミノ基、又はアルデヒド基)と反応して、抗体又は抗体断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0080】
本発明のさらに好ましい別の側面において、V中の反応性部分は、ペプチドベクター又は受容体結合部分上の求核基(例えば、チオール基、アミノ基、又はアルデヒド基)と反応して、ペプチドベクター又は受容体結合部分をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0081】
好ましい実施形態において、V中の前記反応性部分は、
【化27】
【0082】
(Xは、een脱離基である。)であるが、これらに限定されない。これらの反応性部分は、求核基(例えば、チオール基)を有するターゲッティング部分を、このような反応性部分を有する指定子Vに結合して、ターゲッティング部分を含有する新しい指定子Vを形成するために使用することができる。
【0083】
本発明のさらに好ましい実施形態において、V中の反応性部分は、
【化28】
【0084】
であり(これらに限定されない。)、タンパク質又はタンパク質断片上の求核基(例えば、チオール基)と反応して、タンパク質又はタンパク質断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0085】
本発明のさらに好ましい別の実施形態において、V中の反応性部分は、
【化29】
【0086】
であり(これらに限定されない。)、抗体又は抗体断片上の求核基(例えば、チオール基)と反応して、抗体又は抗体断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0087】
本発明のさらに好ましい別の実施形態において、V中の反応性部分は、
【化30】
【0088】
であり(これらに限定されない。)、ペプチドベクター又は受容体結合部分上の求核基(例えば、チオール基)と反応して、ペプチドベクター又は受容体結合部分をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0089】
別の好ましい実施形態において、V中の反応性部分は、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、p−ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステルなどの活性化されたエステル、さらにはイソチオシアネート、イソシアネート、無水物、酸塩化物、塩化スルホニル、又はアルデヒド(これらに限定されない。)である。これらの反応性部分は、求核基(例えば、アミノ基)を有するターゲッティング部分を、このような反応性部分を有する指定子Vに結合して、ターゲッティング部分を含有する新しい指定子Vを形成するために使用することができる。
【0090】
本発明のさらに好ましい実施形態において、V中の反応性部分は、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、p−ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステルなどの活性化されたエステル、さらにはイソチオシアネート、イソシアネート、無水物、酸塩化物、塩化スルホニル、又はアルデヒド(これらに限定されない。)であり、タンパク質又はタンパク質断片上の求核基(例えば、アミノ基)と反応して、タンパク質又はタンパク質断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0091】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、V中の反応性部分は、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、p−ニトロフェニルエステルなどの活性化されたエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、さらにはイソチオシアネート、イソシアネート、無水物、酸塩化物、塩化スルホニル、又はアルデヒド(これらに限定されない。)であり、抗体又は抗体断片上の求核基(例えば、アミノ基)と反応して、抗体又は抗体断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0092】
本発明のさらに好ましい別の実施形態において、V中の反応性部分は、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、p−ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステルなどの活性化されたエステル、さらにはイソチオシアネート、イソシアネート、無水物、酸塩化物、塩化スルホニル、又はアルデヒド(これらに限定されない。)であり、ペプチドベクター又は受容体結合部分上の求核基(例えば、アミノ基)と反応して、ペプチドベクター又は受容体結合部分をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0093】
別の実施形態において、V中の前記反応性部分は、アミノ基又はヒドラジン基であるが、これらに限定されない。これらの反応性部分は、求核基(例えば、アルデヒド基)を有するターゲッティング部分を、このような反応性部分を有する指定子Vに結合して、ターゲッティング部分を含有する新しい指定子Vを形成するために使用することができる。
【0094】
本発明のさらに好ましい実施形態において、V中の反応性部分は、アミノ基又はヒドラジン基であり(これらに限定されない。)、タンパク質又はタンパク質断片上の求核基(例えば、アルデヒド基)と反応して、タンパク質又はタンパク質断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0095】
本発明のさらに好ましい別の実施形態において、V中の反応性部分は、アミノ基又はヒドラジン基であり(これらに限定されない。)、抗体又は抗体断片上の求核基(例えば、アルデヒド基)と反応して、抗体又は抗体断片をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0096】
本発明のさらに好ましい別の実施形態において、V中の反応性部分は、アミノ基又はヒドラジン基であり(これらに限定されない。)、ペプチドベクター又は受容体結合部分上の求核基(例えば、アルデヒド基)と反応して、ペプチドベクター又は受容体結合部分をターゲッティング部分として含有する新しい指定子Vを形成する。
【0097】
前記指定子Vは、所定の標的細胞集団に付随する受容体若しくは他の受容部分への選択的な結合によって又は別の機序により標的細胞の近傍又は内部に本発明の化合物を蓄積させることによって、本発明の化合物を標的部位に誘導する部分を含有することもできる。このターゲッティング部分は、例えば、ボンベシン、トランスフェリン、ガストリン、ガストリン放出ペプチド、αvβ3及び/又はαvβ5−インテグリン受容体(RGD含有ペプチドなど)、血小板由来成長因子、IL−2、IL−6、腫瘍増殖因子、ワクシニア増殖因子、インシュリン及びインシュリン様増殖因子I及びII、抗原認識イムノグロブリン若しくはその抗原認識断片、又は炭水化物を特異的に結合する分子であり得る。好ましくは、免疫グロブリン(又はその断片)によって認識されるその抗原は、標的細胞、例えば腫瘍特異抗原に対して特異的である。
【0098】
一つの実施形態において、前記指定子Vは、特異的に認識されるため、標的細胞(例えば腫瘍細胞)の近傍又は内部に存在するプロテアーゼ、例えばプラスミン、カテプシン、カテプシンB、前立腺特異抗原(PSA)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u−PA)、又はマトリックスメタロプロテイナーゼのファミリーのメンバーによって切断され得るアミノ酸配列からなるジペプチド、トリペプチド、又はオリゴペプチドを含有する。典型的には、前記指定子Vは、セリンプロテアーゼであるプラスミンに対する基質を含有する。
【0099】
別の実施形態において、Vは、1又は複数のカテプシン、典型的にはカテプシンに対する基質を含有する。さらに別の実施形態において、Vは、腫瘍細胞の近傍又は内部に存在するβ−グルクロニダーゼによって特異的に認識されるβ−グルクロニドを含有する。さらに別の実施形態において、前記指定子は[O]であり、例えば、低酸素条件下において又はニトロ還元酵素によって還元できるニトロ基を生じる。別の実施形態において、Vは、ニトロ(複素)芳香族部分、例えば、ニトロベンジルオキシカルボニルである。ニトロ基の還元又はニトロ芳香族指定子の除去後、本発明に記載されたスペーサー又はスペーサー系の脱離が薬物放出を引き起こす。疾病特異的及び/又は臓器特異的及び/又は特異的に標的とされる酵素及び/又は受容体による認識の後、特異的に切断される任意の指定子を、本発明において請求されるスペーサー又はスペーサー系を含有する複合体及びプロドラッグの中に組み込み得ることが理解できるであろう。
【0100】
1つの実施形態において、本発明は、前記指定子Vがトリペプチドを含有する化合物に関する。好ましくは、前記トリペプチドは、そのC末端を介して、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に連結される。より好ましくは、前記トリペプチドのC末端アミノ酸残基はアルギニン及びリジンから選択され、前記トリペプチドの中央アミノ酸残基はアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、シクロヘキシルグリシン、トリプトファン及びプロリンから選択され、前記トリペプチドのN末端アミノ酸残基はDアミノ酸残基及び保護されたグリシンを含む保護されたLアミノ酸残基から選択される。
【0101】
さらなる実施形態において、前記指定子Vは、D−アラニルフェニルアラニルリジン、D−バリルロイシルリジン、D−アラニルロイシルリジン、D−バリルフェニルアラニルリジン、D−バリルトリプトファニルリジン、及びD−アラニルトリプトファニルリジンから選択される。
【0102】
ジペプチド、トリペプチド若しくはオリゴペプチドの形態であれ、又は他の任意の形態であれ、指定子Vは、保護基を含有し得ることを銘記すべきである。保護された指定子Vを有するこのような化合物は、例えば指定子特異的酵素と接触される場合には、脱離基を放出しなくてもよい。しかしながら、脱保護され且つ適切に活性化されると、このような化合物は脱離基を放出するため、保護された指定子Vを有するこのような化合物も本発明の範囲に属する。特に、上記のことは、先述した二官能性又は一機能性化合物
V−(W−)W(X−)XC((A−)aS)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aS)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aS)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aS)f)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC((A−)aZ)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aZd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aZ)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aZ)f)e)d)c、
に関して想定することができる。化学的官能基、特にアミノ酸に対する適切な保護基が、有機化学者に周知であり、例えば「T.W. Greene, Protective Groups in Organic Synthesis, John Wiley & Sons, New York,1981」に記載されている。
【0103】
さらなる実施形態において、本発明は、指定子Vが、C末端を介して、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に共有結合された、アミノ末端がキャップされたペプチドである化合物に関する。好ましくは、指定子Vは、ベンジルオキシカルボニルフェニルアラニルリジン、ベンジルオキシカルボニルバリルリジン、D−フェニルアラニルフェニルアラニルリジン、ベンジルオキシカルボニルバリルシトルリン、tert−ブチルオキシカルボニルフェニルアラニルリジン、ベンジルオキシカルボニルアラニルアルギニルアルギニン、ベンジルオキシカルボニルフェニルアラニル−N−トシルアルギニン、2−アミノエチルチオスクシンイミドプロピオニルバリニルシトルリン、2−アミノエチルチオスクシンイミドプロピオニルリジルフェニルアラニルリジン、アセチルフェニルアラニルリジン、及びベンジルオキシカルボニルフェニルアラニル−O−ベンゾイルスレオニンから選択される。
【0104】
前記部分Zは、好ましくは、治療又は診断部分であるが、水素又はOH基又は反応性部分とすることもできる。多重放出スペーサー又はスペーサー系への脱離基の最終的な結合が完全には進行しない場合、H又はOH基又は反応性部分が、その合成の間に、最終複合体中に偶然導入されることがある。H又はOH基は脱離基として作用せずに、脱離基Zの脱離を阻害すると予想される。
【0105】
Zは、例えば、抗癌剤、抗生物質、抗炎症剤、又は抗ウイルス剤とすることができる。典型的には、前記部分Zは、抗癌剤である。好ましくは、前記抗癌剤はヒドロキシル含有エトポシド、カンプトテシン、イリノテカン(CPT−11)、SN−38、トポテカン、9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、10−ヒドロキシカンプトテシン、GG211、ラルトテカン(lurtotecan)、コンブレスタチン、パクリタキセル、ドセタキセル、エスペラマイシン、1,8−ジヒドロキシ−ビシクロ[7.3.1]トリデカ−4−エン−2,6−ジイン−13オン、アングイジン(anguidine)、ドキソルビシン、モルホリン−ドキソルビシン、N−(5,5−ジアセトキシペンチル)ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、タリソマイシン、ブレオマイシン、4−ビス(2−クロロエチル)アミノフェノール、4−ビス(2−フルオロエチル)アミノフェノール、及びそれらの誘導体である。
【0106】
抗癌剤は、スルフヒドリルを含有する、エスペラマイシン、6−メルカプトプリン、又はそれらの誘導体とすることもできる。抗癌剤は、カルボキシルを含有する、メトトレキサート、アミノプテリン、カンプトテシン(ラクトンの開環型)、クロラムブシル、メルファラン、酪酸及びレチノイン酸、並びにそれらの誘導体とすることもできる。抗癌剤は、アジリジンアミノを含有する又は芳香族アミノを含有する、マイトマイシンC、マイトマイシンA、十分な脱離基能を有するアミン官能性を含有するアンスラサイクリン誘導体、ミトキサントロン、9−アミノカンプトテシン、メトトレキサート、アミノプテリン、タリソマイシン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、N,N−ビス(2−クロロエチル)−p−フェニレンジアミン、N,N−ビス(2−フルオロエチル)−p−フェニレンジアミン、デオキシシチジン、シトシンアラビノシド、ゲムシタビン、及びそれらの誘導体とすることもできる。
【0107】
抗癌剤は、脂肪族アミノを含有する、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、N−(5,5−ジアセトキシペンチル)ドキソルビシン、アントラサイクリン、N8−アセチルスペルミジン、1−(2−クロロエチル)−1,2−ジメタンスルホニルヒドラジン、又はそれらの誘導体とすることもできる。
【0108】
一つの実施形態において、Zは、その2’−ヒドロキシル基を介して、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、パクリタキセル、ドセタキセル、又はそれらの誘導体から選択される。さらなる実施形態において、Zは、その20−ヒドロキシル基を介して、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、カンプトテシン、イリノテカン(CPT−11)、SN−38、トポテカン、9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、10−ヒドロキシカンプトテシン、GG211、ラルトテカン、又はそれらの誘導体から選択される。さらなる実施形態において、Zは、そのフェノール性ヒドロキシル基を介して、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、SN−38、トポテカン、10−ヒドロキシカンプトテシン、エトポシド、4−ビス−(2−クロロエチル)アミノフェノール、4−ビス−(2−フルオロエチル)アミノフェノール、コンブレスタチン、又はそれらの誘導体から選択される。さらなる実施形態において、Zは、その芳香族第一級アミン基を介して、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、9−アミノカンプトテシン、N,N−ビス(2−クロロエチル)−p−フェニレンジアミン、N,N−ビス(2−フルオロエチル)−p−フェニレンジアミン、又はそれらの誘導体から選択される。さらなる実施形態において、Zは、その脂肪族アミノ基を介して、自己脱離多重放出スペーサー(系)に結合された、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、又はそれらの誘導体から選択されるが、但し、多重放出スペーサー系の少なくとも1つの階層、好ましくは最高次の階層はフェノール又はチオフェノールをベースとするスペーサーを含有する。
【0109】
前記部分Sは、多重放出スペーサー(系)への部分Zの結合を可能とする反応性部分である。部分Sが、カルボニル基を介して、多重放出スペーサー又はスペーサー系に接続される場合、適切なS部分には、N−スクシンイミジル−N−オキシド、p−ニトロフェノキシド、ペンタフルオロフェノキシド、カルボキシレート、ハロゲン化物、及びスルホネートが含まれるが、これらに限定されない。前記部分Sが、多重放出スペーサー系のメチレン基に直接接続される場合、適切なS部分には、ハロゲン化物及びスルホネートが含まれるが、これらに限定されない。前記部分SはH又はOHであってもよいが、この場合には、Sがインシチュで反応性部分に転換された後、同一の反応混合物中でZによって反応性部分が置換されることによって、Zへの結合が行われる。
【0110】
2以上の部分Zを含有する本発明の化合物を調製するために、2以上の部分Sを含有する本発明の化合物を使用することができる。2以上の部分Sを含有する本発明の化合物は、反応性部分も含有する指定子Vを含有しているので、該化合物は二官能性リンカーと命名された。2以上の部分Sを含有する本発明の化合物が、反応性部分を含有していない指定子Vを含有する場合には、前記化合物は、以降、「一機能性指定子−スペーサー複合体」と称される。本発明では、複数の脱離基を放出できるスペーサー及びスペーサー系が記載されているが、例えば、参考文献として援用されるWO 02/83180及びEP 1243276に記載されているように、一重放出スペーサー及びスペーサー系を含有する一機能性指定子−スペーサー複合体と二官能性リンカーも設計できることが明らかである。
【0111】
本発明の好ましい化合物は、
【化31−1】
【化31−2】
【化31−3】
【化31−4】
【化31−5】
【化31−6】
【化31−7】
からなる群から選択される化合物及びそれらの塩である。
【0112】
単一のp−NH−Ph−CH=C(CH2OCO−)2スペーサーを介して2つのドキソルビシン分子に共有結合された、アミノ末端がキャップされたペプチドからなる化合物は、本発明の範囲から除外される。さらに、単一のp−NH−Ph−CH=C(CH2OCO−)2スペーサーを介して2つの抗癌剤分子に共有結合された、アミノ末端がキャップされたペプチドからなる化合物は、本発明の範囲から除外されるものもあり、又は除外されないものもある。
【0113】
酵素を定量的に検出する必要がある場合には、酵素的な切断が多数の検出可能な分子を解離させることができるので、該酵素によって酵素的に切断される化合物又は複合体中に多重放出スペーサー又はスペーサー系を組み込むことによって、このようなアッセイの感度が増大する。
【0114】
試料中の酵素、例えばプロテアーゼの検出又は測定は、(タンパク分解)酵素の基質である、本発明の多重放出スペーサー又はスペーサー系を含有する化合物とともに前記試料をインキュベートし、前記基質の(タンパク分解)切断を観察することによって実施することができる。「酵素を測定する」という用語は、定性分析(すなわち、酵素の存在を検出し、酵素が存在するかどうかを測定する)と定量分析(すなわち、酵素を定量化し、試料中に存在する酵素活性を測定する)の両方を意味する。
【0115】
多くのプロテアーゼに対して、発色性又は蛍光発生性ペプチド基質が考案されており、多くの場合市販されている。多くの場合、例えば、セリンプロテアーゼの場合、酵素は加水分解される結合のC末端側にある配列を認識しない。この部分は、p−ニトロアニリン又はβ−ナフチルアミンのような発色性又は蛍光発生性脱離基によって置き換えることができる。このような発色性又は蛍光発生性化合物は、本発明の化合物中で脱離基Zとして役割を果たすことができる。多重放出スペーサー又はスペーサー系は、生体液又は組織抽出液中の酵素の生理的濃度を検出及び定量するために取得できる感度を増加させ得る。
【0116】
測定すべき酵素によって切断され得る認識部位(例えば、活性化部位)を含有するそのプロ酵素を介して、酵素を間接的に測定することもできる。このような場合、プロ酵素の切断は、本発明の多重放出スペーサー又はスペーサー系を含有する、活性化されたプロ酵素の適切な基質を用いて、生じた活性を観察することによって検出することができる。
【0117】
一実施形態において、本発明は、本発明の化合物が使用される診断アッセイ方法に関する。
【0118】
さらなる実施形態において、本発明は、本発明の化合物を使用することによって、酵素の存在又は量が測定される方法に関する。
【0119】
さらなる実施形態において、本発明は、本発明の化合物を使用することによって、プロテアーゼの存在又は量が測定される方法に関する。
【0120】
さらなる実施形態において、本発明は、使用される本発明の化合物が前記プロテアーゼに対する基質を含み、脱離基Zが検出される、方法に関する。
【0121】
さらなる実施形態において、本発明は、使用される本発明の化合物が前記プロテアーゼによるプロ酵素前駆体の切断の生成物である酵素に対する基質を含み、脱離基Zが検出される、方法に関する。
【0122】
前記指定子Vは、透過性及び保持増大(EPR)効果のために、標的細胞、例えば腫瘍細胞の近傍又は内部に本発明の化合物を蓄積させる、例えばポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](ポリ−HPMA)、ポリグルタミン酸(ポリ−L−グルタミン酸(PG))、又はポリ(エチレン)グリコール(PEG)などのポリマーも含み得る。これらのポリマーは、それ自体、ターゲッティング部分とみなしてもよい。他の蓄積機序に加えて、EPR効果の結果として蓄積し得るさらに大きな構造を得るために、本発明の2以上の分子を、中央(コア)のモノマー又はポリマー性分子に結合してもよい。適切なポリマーは、例えば、ポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](ポリ−HPMA)、ポリグルタミン酸(ポリ−L−グルタミン酸(PG))、又はポリ(エチレン)グリコール(PEG)である。このように、本発明は、ポリマー構造と接続された本発明の化合物を2以上含む複合構造にも関する。
【0123】
多重放出デンドリマープロドラッグ又は(バイオ)複合体を構築するための適切なモノマーとして機能し得る多重放出スペーサーの構造が開示されている。適切なモノマーは、活性化後に2以上の脱離基を放出することができる。本明細書に開示されているこのような多重放出モノマーの1つの構造が図7に図示されている。図7に示されているように、このモノマーからの三重放出は、非分岐1,4及び1,6脱離スペーサーの原理に基づいている30。1のアミンのマスキングが外れた後(図7)、2は電子カスケード反応を行うことができ、このカスケード反応の後、反応性非芳香族種3は求核試薬(例えば、水など)によって直ちに捕捉されて、4中の芳香族アミン官能基を再度生成する。この自己脱離と捕捉のプロセスがさらに2回繰り返され、その後、3つの脱離基L−Hが解離される。3つの電子カスケード脱離反応が図7に示されているように起こる順序は、無作為に選択された。実際、3つの断片化(2つの1,4脱離と1つの1,6脱離)は、任意の無作為な順序で起こり得る。このモノマーをn階層使用すれば、3nの末端基を含有するカスケードデンドリマーを構築できる可能性がある。
【0124】
図8は、二重放出スペーサーからの薬物放出の原理を示している。この二重放出スペーサーの自己脱離は、1,8脱離に基づいている。7中のアミノ基の脱保護が8を与え、2つの1,8−脱離反応の発端となり、2個の脱離基L−Hを放出する。
【0125】
ニトロ官能基の対応するヒドロキシルアミン又はアミン官能基への還元を通じて、マスクされたアミンからアミン又はヒドロキシルアミンが生成され得る。ヒドロキシルアミンとアミン誘導体の両方がスペーサーの自己脱離を誘導する。
【0126】
本明細書に開示された多重放出スペーサー又はスペーサー系を含有する複合体及びプロドラッグからの脱離基の多重放出についての原理を証明するために、1又は2階層の多重放出スペーサーに末端基として結合された複数の脱離基を含有する化合物が合成された。多重放出リンカー又はリンカー系の中心に位置する芳香環に付着されたニトロ基が還元されたときに、これらの化合物は脱離基を放出する予定であった。対応するヒドロキシルアミン又はアミンへのニトロ基の還元は、多重放出カスケードの引き金を引き、全ての脱離基を同時に解離するはずである。あるいは、アミンのマスクを外すためにAloc脱離基を除去することにより、自己脱離を誘発させることができる。原理の証明を与える化合物としての役割を果たす以外に、パクリタキセルなどの抗腫瘍薬を脱離基として含有する前記合成されたニトロ芳香族化合物は、腫瘍中の低酸素領域へ薬物を選択的に誘導して、この領域でニトロ基が還元されるという用途を考えることができる。あるいは、これらの化合物は、運搬酵素プロドラッグ療法(DEPT)アプローチの1つを通じて腫瘍細胞に誘導されるニトロ還元酵素によって活性化される複合体及びプロドラッグとして使用できる。これらの化合物の合成が開示されている。
【0127】
三重放出構築ブロックニトロジオール11(図9)及びアミノトリオール16(図11)は、多数の経路で合成することができる。例えばニトロメシチレンから出発して、対応するアミノ−トリ−メチルエステル又はアミノ−トリ−カルボン酸を得るための幾つかのアプローチが報告されている31。
【0128】
二重放出構築ブロックニトロジオール(図12)の合成が、文献に報告されている32。二重放出構築ブロックアミノジオール23(図13)は、2−p−ニトロベンジリデン−プロパン−1,3−ジオール20のニトロ基の還元によって合成できる。
【0129】
三重放出の原理の証明は、1に類似する構造を有するモノマーモデル化合物によって与えられるはずである(図7)。このような化合物を得るために、ニトロトリオール11は、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)の存在下で過剰のp−ニトロフェニルクロロギ酸及びピリジンで活性化されて、三重に活性化された化合物12を与えた(図9)33。三重に活性化された12は、続いて、ベンジルアルコールと反応してモデル化合物13を与えるか、又はフェネチルアルコールと反応してモデル化合物14を与えた。三重に活性化された12は、ベンジルアミンとも反応して、モデル化合物15を得た(図10)。
【0130】
モデル化合物19(図11)を得るために、Aloc基でアミノトリオール16をN保護して17を得、続いて、p−ニトロフェニルクロロギ酸で三重に活性化して18を得、プロピルアミンと結合した。
【0131】
10に類似する構造を有する二重放出スペーサー(図8)が両脱離基を実際に放出できるという事実についての原理の証明も、本発明に開示されている。この目的のために、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)の存在下で過剰のp−ニトロフェニルクロロギ酸及びピリジンにより、ニトロジオール20を二重に活性化して、二重に活性化された化合物21を得た(図12)。続いて、二重に活性化された21をパクリタキセルと反応させて、所望のモデル化合物22を得た。
【0132】
10に類似する構造を有するスペーサー(図8)からの二重放出に対する原理の証明を与える以外に、2階層の二重放出スペーサーを含有する多重放出プロドラッグ又は(バイオ)複合体からの4つの脱離基の放出に対する原理の証明を与えるために、モデル化合物を合成した。この目的のために、HOBtを触媒として使用して、アミノジオール23の2分子を二重に活性化された21に結合させ、テトラオール24を得た(図13)。ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)とピリジンの存在下で過剰のp−ニトロフェニルクロロギ酸により、テトラオール24を四重に活性化して、四重に活性化された化合物25を得た。続いて、四重に活性化された25をパクリタキセルと反応して、所望のモデル化合物26を得た。
【0133】
二重に活性化された21をベンジルアミンとも反応させて、モデル化合物27を得た(図14)。モデル化合物をさらに合成するために、二重に活性化された21を一重放出1,6脱離スペーサーとも反応させて28を得(図15)、続いてp−ニトロフェニルクロロギ酸を用いて28を活性化して29を得た。二重に活性化された29をp−メトキシベンジルアミン、p−クロロベンジルアミン、又はフェネチルアルコールと反応させて、それぞれ、モデル化合物30、31、及び32を得た(図16)。
【0134】
一重1,6脱離を実証するための参照化合物を得るために、p−ニトロベンジルクロロギ酸33をベンジルアミンと反応させてモデル
化合物34を得た(図17)。
【0135】
他の参照化合物も2個調製した(図18)。上記のモデル化合物のニトロ官能基の還元に必要とされる条件で処理したときにこれらの化合物が変化を受けないことを実証するために、炭酸ジベンジル35と2’−O−シンナミルオキシカルボニルパクリタキセル36を参照化合物として合成した。
【0136】
前記複合体、被検化合物、及び参照化合物はアニリンをベースとするスペーサーに基づいているが、フェノール又はチオフェノールをベースとする1又は複数のスペーサーを含有する類似の化合物を同様に調製できることが当業者には明らかである。
【0137】
3つの脱離基全ての放出に対する原理の証明を与えるために、酢酸の存在下で亜鉛を用いてニトロ基を還元することによって、13と14のマスクを外した(図19)。1時間以内に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の完全な消失とかなりの量のベンジルアルコール又はフェネチルアルコールの形成が示された。生成物のNMRスペクトルは、遊離のベンジルアルコール又はフェネチルアルコールの完全な形成を示し、炭酸ベンジル又は炭酸フェネチルのプロトンからのシグナルは全く存在しない。
【0138】
モデル化合物15のニトロ官能基を還元すると(図20)、薄層クロマトグラフィーによって単一の生成物の形成が示された。しかしながら、ベンジルアミンの形成は全く又はほとんど観察されなかった。NMRによれば、最大33%のベンジルアミンが15から放出された。
【0139】
パラジウムテトラキストリフェニルホスフィン及びモルホリンでモデル化合物19(図21)を処理すると、1時間以内に出発化合物が消失した。しかしながら、同じく、プロピルアミンの完全な放出は全く観察されなかった。
【0140】
両パクリタキセル脱離基の放出に対する原理の証明を与えるために、酢酸の存在下で亜鉛を用いてニトロ基を還元することによって、22のマスクを外した(図22)。30分以内に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の完全な消失とかなりの量のパクリタキセルの形成が示された。生成物のNMRスペクトルは、遊離のパクリタキセルの完全な形成を示し、パクリタキセル−2’−カルボネートのプロトンからのシグナルは全く存在しなかった。
【0141】
2階層の多重放出スペーサーを含有し、4個のパクリタキセル単位を含有するモデル化合物26のニトロ基を同様に還元すると、30分以内に出発物質が完全に消失し、薄層クロマトグラフィーに従ってかなりの量のパクリタキセルが形成された(図23)。この場合にも、生成物のNMRスペクトルは、遊離のパクリタキセルの完全な形成を示した。
【0142】
ベンジルアミンを脱離基として含有するモデル化合物27(図24)を亜鉛で処理すると、出発化合物が消失することが示された。しかしながら、この場合にも、ベンジルアミンの完全な放出は全く観察されなかった。
【0143】
脂肪族アミン脱離基(p−メトキシベンジルアミン又はp−クロロベンジルアミン)を含有するモデル化合物30及び31も還元された。何れの場合にも、30分以内に、出発化合物が単一の生成物へと変換されたが、この場合にも、遊離のアミンは全く形成されなかった。
【0144】
化合物32を含有するフェネチルアルコール脱離基を同じ条件下で還元すると、1H−NMRで観察されたところによると、生成物が遊離のフェネチルアルコールへと完全に変換されることが示された。
【0145】
脱離基が脂肪族アミンである場合に、一重放出一重放出1,6−脱離スペーサーが自己脱離するかどうかを確認するために、化合物34を還元した。NMRは、ベンジルアミンの完全な放出を示した。
【0146】
参照化合物35及び36を亜鉛と酢酸でも処理した(図28)。1H−NMRによると、両化合物とも全く分解を示さなかったが、これは、ニトロ含有モデル化合物からの脱離基の解離が望ましくない副反応によるものではないことを示している。
【0147】
モデル化合物を含有する脂肪族アミン脱離基の幾つかの還元生成物から、幾つかの事例では、ニトロ還元又はAloc脱保護から1ないし3ヵ月後に、解離された脱離基のパーセントは不変であることが、NMR又は薄層クロマトグラフィーによって示された。各事例において、1当量以内の脂肪族アミンが放出された。本明細書に開示されたアニリンをベースとする二重及び三重放出の多重放出スペーサーは何れも、脱離基が脂肪族アミンである場合には、1個を超える脱離基を放出することはできない。図7及び8に示されている多重放出構造は、本発明において、脱離基が芳香族アミン又は酸素(ヒドロキシル)である場合には、多重放出特性を有することが示された。脱離基の電子吸引能の程度によって、1を超える脱離基が本明細書に開示されたスペーサーから解離され得るか否かが決定されることが明らかである。多重放出スペーサーがフェノール若しくはチオフェノールをベースとした多重放出スペーサーである場合、又は多重放出スペーサーがフェノール若しくはチオフェノールをベースとした一重スペーサーに結合されている場合には、脂肪族アミンも適切な脱離基であり、全ての脂肪族アミン脱離基の放出が起こる。脂肪族アルコールが適切な脱離基であることが判明し(例えば、H2N−C6H4−CH=C(CH2−O−CO−2’−O−パクリタキセル)2から、二分子のパクリタキセルが放出される)、従って、脂肪族アルコールに関する脱離能の増加の故に、多重放出スペーサー(例えば、H2N−C6H4−CH=C(CH2−O−C(O)O−C6H4−CH2OC(O)(NR1R2)2)から脂肪族アミン脱離基が接続されたフェノールをベースとするスペーサーの放出が起こる。ヒドロキシベンジルをベースとするスペーサー−脂肪族アミン複合体からの脂肪族アミンの脱離が知られているので10、脂肪族アミンがフェノールをベースとするスペーサーに直接接続されたスペーサー系からも脂肪族アミンの放出が起こる。
【0148】
本発明に開示されている化合物又はプロドラッグ中の指定子Vが生理的条件下で除去又は変換され、このためVに結合された分岐スペーサー又はスペーサー系のBのマスクが外れると、自己脱離後に形成された反応性中間体が水によって捕捉され、これによって、アミノジオール23及び/又はアミノトリオール16のような分子を再生成するものと思われる。本発明に開示されたモノマーの1つを用いて構築された多重放出複合体又はプロドラッグを薬物送達目的で使用するときには、多重自己脱離カスケードの後にプロドラッグ又は(バイオ)複合体の分解生成物は無毒性でなければならない(腫瘍誘導アプローチで放出されるべき薬物からの生成物を除く)。従って、本発明者らは、十分に性質が決定された7つのヒト腫瘍細胞株群におけるアミノトリオールモノマー16とアミノジオールモノマー23の細胞毒性を調べた。両化合物は、無毒性であることが明らかとなった(実施例33を参照)。
【0149】
デンドリマープロドラッグ又は複合体当たりの達成可能な末端基(例えば、薬物部分)の総数は、立体条件によって制限されることがある。複数の巨大な生物活性末端基を組み込むことが望まれる場合には、数階層の多重放出モノマースペーサーのみを使用することができるであろう。多重放出スペーサーの階層に又は脱離基Zの前の多重放出スペーサーの最高階層に非分岐自己脱離スペーサー(系)をさらに追加して、外圏表面を拡大させ、より多くの末端基が付着できるようにすることによって、組み込むことができる末端基の数を増加させ得る。
【0150】
4−アミノベンジルアルコール1,6−脱離スペーサーの電子カスケード自己脱離プロセスは、短い半減期で進行することが知られている。部位特異的な活性化後に素早い薬物放出が必要とされるので、自己脱離スペーサーの薬物送達への適用において、これは重要な要因である。これより遅い脱離基の放出が望まれる場合には、スペーサー脱離プロセスが遅延するように、スペーサーモノマーを調節することができる。これは、本発明の機能的多重放出スペーサー又はスペーサー系が徐放目的で使用される場合に有用であり得る。
【0151】
未分岐及び分岐モノマーアミノベンジルオキシカルボニル及び関連の電子カスケードスペーサー又はスペーサー系は、カルバメート結合を介して、モノマースペーサーの次の階層に結合することが可能であり、これは、生理的な条件下ではエステル又はカルボネート結合より安定であると思われる34。
【0152】
本発明には、新しい多重放出スペーサー及びスペーサー系の合成と用途が記載されている。1つの実施形態において、多重放出プロドラッグ又は(バイオ)複合体中に用いられている二重又は三重放出モノマーは、幾つかの連続する1,4、1,6、又は1,8脱離を通じて末端基(薬物)を放出する。二重又は三重自己脱離の原理の証明は、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、又はパクリタキセルを脱離基として含有するニトロベンジル又はニトロシンナミル誘導体を化学的に還元した際に与えられた(図19、22、23、26)。完全な放出が薄層クロマトグラフィーによって観察され、NMRによって明確に確認された。二階層の二重放出モノマー及び4個のパクリタキセル部分を含有する化合物は、ニトロ基の還元後に全ての末端基を放出することが示された(図23)。
【0153】
明らかに、指定子と多重放出スペーサーの間に非分岐自己脱離スペーサーを組み込むことができる。これは、指定子の酵素的除去又は変換にとって有益であり得る。指定子に直接結合された分岐多重放出部分は、切断されるべき指定子−スペーサー結合の周囲の立体的な密集を増大させ得るので、一重放出自己脱離スペーサーを追加することは、この問題に対する解決策となり得る。
【0154】
このように、指定子を効率的に除去又は変換するためには、一部のケースでは、指定子と多重放出スペーサーの1以上の階層との間に1又は複数の一重放出自己脱離スペーサーを組み込むことが特に好ましい。これは、式
V−(W−)W(X−)XC((A−)aZ)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aZd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aZ)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aZ)f)e)d)c、
の化合物において、w+x>0であることを意味する。
【0155】
さらに、脱離基Zの前に存在する多重放出スペーサーの最高階層に一重自己脱離スペーサーを付加してもよい。これは、Z(好ましくは薬物)をスペーサーに付着させている官能基の化学的性質に応じて、Zの放出を増大させるのに有益であり得る。Z(例えば薬物部分)の前に一重放出自己脱離スペーサーを組み込むことは、最終生成物の安定性にとって有益であり得る。例えば、自己脱離ωアミノアミノカルボニル環状化スペーサーが一重放出又は多重放出電子カスケードとそのヒドロキシル基を通じて接続された脱離基との間に組み込まれれば、生理的条件下で使用した場合、最終生成物の安定性が増加し得る。さらに、アニリンをベースとする多重放出スペーサーのみが使用されている場合には、多重放出スペーサーの階層、又は、好ましくは、脱離基Zの前の多重放出スペーサーの最高階層にフェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーを追加すると、それらの脂肪族アミノ基によって多重放出スペーサー系に結合されている2個以上の脱離基Zの放出が可能になる。アニリンをベースとする多重放出スペーサーのみが使用されており、それらの脂肪族アミノ基によって脱離基Zが結合された多重放出スペーサー系にフェノール又はチオフェノールをベースとする一重放出スペーサーが組み込まれていない場合には、Z基が1個だけ放出されるであろう。
【0156】
さらに別の側面において、本発明は、治療を必要とする哺乳動物を治療するための薬学的調製物を製造するための上記化合物の何れかの使用に関する。本発明は、治療を必要とする哺乳動物を治療する方法であって、治療的有効用量の薬学的組成物を哺乳動物に投与することを含む方法に関する。
【0157】
さらなる側面において、本発明は、経口、局所又は注射によって投与するための固体又は液体調合物を得るために、上記化合物を含有する薬学的組成物を調製する方法に関する。このような方法は、前記化合物を薬学的に許容される担体と混合する工程を少なくとも含む。
【0158】
本発明は、本発明の上記化合物を含む医薬組成物にも関する。本発明の化合物は、薬学的組成物として、薬学的担体とともに精製された形態で投与し得る。好ましい形態は、所期の投与様式と治療又は診断用途に依存する。薬学的担体は、本発明の化合物を患者に送達するのに適した任意の適合性のある無毒性物質であり得る。薬学的に許容される担体は本分野において周知であり、例えば、(無菌)水若しくは生理的緩衝食塩水などの水溶液又はその他の溶媒若しくはビヒクル(グリコール、グリセロール、オリーブオイルなどのオイル、又は注射可能な有機エステル、アルコール、脂肪、蝋など)が含まれ、不活性な固体を担体として使用してもよい。薬学的に許容される担体は、さらに、本発明の化合物の吸収を例えば安定化させ又は増大させるように作用する生理的に許容される化合物をさらに含有してもよい。このような生理的に許容される化合物には、例えば、グルコース、スクロース若しくはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸若しくはグルタチオンなどの抗酸化剤、キレート剤、低分子量のタンパク質又はその他の安定化剤又は賦形剤が含まれる。当業者であれば、生理的に許容される化合物を含む薬学的に許容される担体の選択は、例えば、組成物の投与経路に依存することを知悉しているであろう。薬学的に許容される佐剤、緩衝剤、分散剤なども、前記薬学的組成物中に組み込むことができる。
【0159】
経口投与の場合、カプセル、錠剤、及び粉末などの固体剤形、又はエリキシル、シロップ、及び懸濁液などの液体剤形で活性成分を投与することができる。活性成分は、不活性成分及びグルコース、ラクトース、スクロース、マニトール、デンプン、セルロース又はセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、滑石粉、炭酸マグネシウムなどの粉末化された担体とともに、ゼラチンカプセル中に封入することができる。所望の色、味、安定性、緩衝能、分散特性又はその他の公知の特性を与えるために追加できる不活性成分の例は、弁柄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、食用白色インクなどである。圧縮剤を作るために、類似の希釈剤を使用することができる。錠剤及びカプセルともに、何時間にもわたって医薬を継続的に放出させるために、徐放製品として製造することができる。不快な味を覆い隠し、環境から錠剤を保護するために、圧縮錠には糖衣を施し若しくはフィルムでコートすることができ、又は胃腸管の中で選択的に崩壊させるために腸溶コートすることができる。経口投与用の液体剤形は、患者の受容を増加させるために着色剤及び着香剤を含有することができる。
【0160】
しかしながら、本発明の化合物は非経口的に投与することが好ましい。非経口投与用の本発明の化合物の調製物は無菌でなければならない。必要に応じて凍結乾燥及び再構成を行う前又は後に、無菌ろ過膜を通過させるろ過によって無菌化は容易に行える。本発明の化合物を投与するための非経口経路は、公知の方法(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、又は病変内経路による注射又は注入)に従う。本発明の化合物は、注入によって又はボーラス注入によって継続的に投与し得る。静脈内注入用の典型的な組成物は、本発明の化合物の種類及び必要とされる投薬療法に応じて、20%のアルブミン溶液を必要に応じて補充した最大100ないし500mLの無菌0.9% NaCl又は5%グルコースと1mgないし10gの本発明の化合物とを含有するように作製することができる。非経口投与可能な組成物を調製する方法は本分野において周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science35など様々な文献により詳しく記載されている。
【0161】
本発明は、抗体運搬酵素プロドラッグ療法(ADEPT)1、ポリマー運搬酵素プロドラッグ療法(PDEPT)又は高分子運搬酵素プロドラッグ療法(MDEPT)2、ウイルス運搬酵素プロドラッグ療法(VDEPT)3又は遺伝子運搬酵素プロドラッグ療法(GDEPT)4を介して標的細胞又は標的組織の近傍又は内部に輸送される酵素によって前記指定子Vが除去又は変換される、上記化合物にも関する。
【0162】
以下の実施例によって、本発明をさらに例示する。これらの実施例は例示を目的とするものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものでない。
【実施例1】
【0163】
ニトロトリオール11の活性化による三重に活性化された12の取得(図9参照)。アルゴン雰囲気下で、無水THF6mL中に、100mg(0.47mmol)のニトロトリオール11を溶かした。5mLの無水THF中の4−ニトロフェニルクロロギ酸(1.42g、15当量)とピリジン(569μL、15当量)の溶液に、この溶液を滴下した。この反応混合物を1時間攪拌し、ジクロロメタンを加え、10%クエン酸と塩水で有機層を洗浄した。無水硫酸ナトリウム上で有機層を乾燥させ、乾燥状態になるまで蒸発させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 3/5)によって生成物を精製して、三重に活性化された139mg(42%)の12を得た。1H-NMR(300 MHz,CDCl3) δ5.41(s,2H,CH2), 5.47(s,4H,CH2), 7.37-7.42(m,6H,aromatic), 7.76(s,2H,aromatic), 8.26-8.30(m,6H,aromatic)ppm;FAB-MS m/e 709(M+H)+,731(M+Na)+;元素分析(C30H20O17N4) 計算値 C 50.86%, H 2.85%, N 7.91%, 実測値 C 51.09%, H 3.13%, N 7.54%。
【実施例2】
【0164】
三重に活性化された12へのベンジルアルコールの結合による13の取得(図9参照)。三重に活性化された12(29.5mg、0.042mmol)を無水ジクロロメタン中に溶かした。ベンジルアルコール(13μL、3.1当量)及びDMAP(17mg、3.3当量)を加え、この反応混合物を64時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、飽和炭酸水素ナトリウム、10%クエン酸、及び塩水で有機層を洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 3/5)によって生成物を精製して、15mg(59%)の所望の生成物13を得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13) δ 5.15-5.18(m, 8H, benzylic), 5.27 (s, 4H, benzylic), 7.33-7.39(m, 15H, aromatic benzyl alcohol), 7.52 (s, 2H, aromatic spacer) ppm.
【実施例3】
【0165】
三重に活性化された12へのフェネチルアルコールの結合による14の取得(図9参照)。三重に活性化された12(27mg、0.038mmol)を無水ジクロロメタン中に溶かし、この溶液を0℃まで冷却した。フェネチルアルコール(16μL、3.5当量)及びDMAP(16mg、3.5当量)を加え、この反応混合物を室温にし、40時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、飽和炭酸水素ナトリウム、10%クエン酸、及び塩水で有機層を洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 1/1)によって生成物を精製して、14mg(57%)の所望の生成物14を得た。1H-NMR (300 MHz, DMSO-D6/CDC13/CD30D) δ 2.91(m, 6H, CH2CH2Ph), 4.30(m, 6H, CH2CH2Ph), 5.18(m, 6H,OCH2Ph), 7.14-7.28(m, 15H, aromatic), 7.58 (s, 2H, aromatic) ppm; ESI-MS m/e 680 (M+Na)+.
【実施例4】
【0166】
三重に活性化された12へのベンジルアミンの結合による15の取得(図10参照)。ジクロロメタン中の12(523mg、0.738mmol)の溶液に、ベンジルアミン(403μL、3.69mmol)及びEt3N(514μL、3.69mmol)を加えた。この反応混合物を室温で4時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、10%クエン酸、飽和炭酸水素ナトリウム及び塩水で得られた混合物を洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH 25/1)によって、15(406mg、90%)を固体として得た。1H-NMR (300 MHz,CDC13) δ4.31-4.36 (m, 6H, benzylic benzylamine), 5.13 (s, 2H, benzylic spacer), 5.20 (s, 4H, benzylic spacer), 7.23-7.34 (m, 17H, aromatic) ppm.
【実施例5】
【0167】
アミノトリオール16の保護によるアリルN−[2,4,6−トリ(ヒドロキシメチル)フェニル]カルバメート17の取得(図11参照)。アルゴン雰囲気下にある20mLの無水THF中の1.085gの16(5.92mmol)の溶液に、1.48mL(Aloc)2O(1.5当量)と200mg HOBt(0.25当量)を加えた。この反応混合物を室温で72時間加熱した。THFを蒸発させ、カラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH 6/1)によって生成物を精製し、872mg(55%)の所望の化合物17を得た。Mp 87℃;1H-NMR (300 MHz, CDCL3/CD30D) δ 4.58-4.66 (m, 8H, 3 x CH2 and 2 Aloc), 5.25-5.41(m, 2H, Aloc), 5.86-6.11 (m, 1H, Aloc), 7.35 (s, 2H, aromatic) ppm;MS(EI) m/e 249(M-H20)+; 元素分析(C13Hl7N05・7/8H20) 計算値 C 55.17%, H 6.68%, N 4.95%、実測値 C 55.16%, H 6.16%, N 4.81%.
【実施例6】
【0168】
トリオール17の活性化による三重に活性化されたトリカーボネート18の取得(図11参照)。無水THF中の9.47gの4−ニトロフェニルクロロギ酸(15当量)と3.8mLのピリジン(15当量)の溶液に、アルゴン雰囲気下で、無水THF中の837mgのトリオール17(3.13mmol)の溶液を滴下させて加えた。この反応混合物を室温で5時間攪拌し、THFを蒸発させた。CH2Cl2を加え、10%のクエン酸水溶液と塩水で有機層を洗浄した。無水Na2SO4上で有機層を乾燥させ、蒸発させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 2/5)によって生成物を精製して、1.546g(65%)のトリカーボネート18を得た。Mp 46℃; 1H-NMR (300 MHz,CDCL3) δ 4.68 (d, 2H, J = 5.7 Hz, Aloc), 5.22-5. 37 (m, 8H, 3 x CH2 and 2 Aloc), 5.89-6. 07 (m, 1H, Aloc), 7.35-7. 42 (m, 6H, aromatic), 7.67 (s, 2H, aromatic), 8.26-8.30 (m, 6H, aromatic) ppm; MS(EI) m/e 763 (M+H)+, 785 (M+Na)+; 元素分析(C34H26N4017・3H20) 計算値 C 50.00%, H 3.95%, N 6.86%, 実測値 C 49.99%, H 3.33%, N 6.44%.
【実施例7】
【0169】
三重に活性された18へのベンジルアミンの結合によるトリスカルバベート19の取得(図11参照)。ジクロロメタン中の18(313mg、0.410mmol)の溶液に、プロピルアミン(169μL、2.05mmol)及びEt3N(286μL、2.05mmol)を加えた。この反応混合物を室温で16時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、10%クエン酸、飽和炭酸水素ナトリウム及び塩水で得られた混合物を洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH 20/1)によって、19(158mg、74%)を固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13) δ 0.87-0.94(m, 9H, Me), 1.43-1.56 (m, 6H,CH2CH2CH3), 3.07-3.15 (m, 6H,CH2CH2CH3), 4.63 (d, 2H, Aloc), 5.01-5.17(m, 8H, 2H Aloc and 6H O-CH2), 5.95(m, 1H, Aloc), 7.32 (bs, 2H, aromatic) ppm.
【実施例8】
【0170】
ニトロトリオール20の活性化による二重に活性化された21の取得(図12参照)。アルゴン雰囲気下で、3mLの無水THFにニトロジオール20(130mg、0.621mmol)を溶かし、この溶液を0℃まで冷却した。この溶液に、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(865μL、8当量)、4−ニトロフェニルクロロギ酸(751mg、6当量)、及びピリジン(25μL、0.5当量)を加えた。この反応混合物を室温(Rt)にして、16時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、水、飽和炭酸水素ナトリウム、及び水で有機層を洗浄した。無水硫酸ナトリウム上で有機層を乾燥させ、乾燥状態になるまで蒸発させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 2/5)によって生成物を精製して、280mg(84%)の二重に活性化された21を得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13) δ 5.04 (s, 2H, CH2), 5.08 (s, 2H, CH2), 7.12 (s, 1H, vinylic), 7.38 (d, 2H, J=3.9 Hz, aromatic), 7.41 (d, 2H, J=3.9 Hz, aromatic), 7.51 (d, 2H, J=8.3 Hz, aromatic), 8.25-8. 30 (m, 6H, aromatic) ppm; 元素分析 (C24H17N3Ol2) 計算値 C 53.44%, H 3.18%, N 7.79%, 測定値 C 53.68%, H 3.44%, N 7.31%.
【実施例9】
【0171】
二重に活性化された21へのパクリタキセルの結合による22の取得(図12参照)。二重に活性化された21(40mg、0.075mmol)を1mLの無水ジクロロメタン中に溶かし、この溶液を0℃まで冷却した。パクリタキセル(128mg、2当量)及び4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)(20mg、2.2当量)を加え、この反応混合物を室温にして、16時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、飽和炭酸水素ナトリウム、0.5N 硫酸水素カリウム、及び塩水で有機層を洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc)によって生成物を精製して118mg(80%)の所望の生成物22を得た。1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.14 (s, 6H, 17), 1.26 (s, 6H, 16), 1.68 (s, 6H, 19), 1.91 (bs, 6H, 18), 2.21 (s, 3H, 10-acetyl), 2.22 (s, 3H, 10-acetyl), 2.46 (s, 6H, 4-acetyl), 3.80 (bd, 2H, 3), 4.19 (d, 2H, 20b), 4.31 (d, 2H, 20a), 4.43 (m, 2H, 7), 4.76 (dd, 2H, CH2-cinnamyl), 4.85 (s, 2H, CH2-cinnamyl), 4.95 (d, 2H, 5), 5.46 (d, 1H, J=3.0 Hz, 2'), 5.49 (d, 1H, J=3.1 Hz, 2'), 5.68 (d, 2H, J=7.2 Hz, 2), 6.05 (m, 2H, 3'), 6.20-6.35 (m, 4H, 10 and 13), 6.92 (s, 1H, vinylic cinnamyl), 7.30-7.65 (m, 24H, aromatic), 7.71 (m, 4H, aromatic N-Bz), 8.12-8.16 (m, 6H, aromatic, 4H 2-Bz and 2H cinnamyl) ppm; ESI-MS m/e 1993 (M+Na)+; 元素分析 (Cl06H109N3034) 計算値 C 64.66%, H 5.58%, N 2.13%, 実測値 C 65.02%, H 6.07%,
N 1.72%.
【実施例10】
【0172】
二重に活性化された21へのアミノジオール23の結合によるテトラオール24の取得(図13参照)。3mLの無水ジメチルホルムアミド(DMF)中に、二重に活性化された21(154mg、0.285mmol)を溶かし、アミノジオール23(113mg、2.2当量)、DIPEA(99μL、2当量)、及び触媒量のヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(HOBt)(15mg、0.39当量)を加えた。反応混合物を16時間攪拌した。HOBt(8mg、0.2当量)を加え、反応混合物をさらに64時間攪拌した。EtOAc中の10% 2−プロパノールを加え、水で有機層を洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。カラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/MeOH 6/1)によって粗生成物を精製してテトラオール24(72mg、41%)を得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13/CD30D) δ 4.31 (m, 8H, CH20H), 4.91 (s, 2H, CH2OCO), 4.95 (s, 2H, CH20CO), 6.62 (s, 2H, vinylic), 6.98 (s, 1H, vinylic), 7.24 (d, 2H, J=8.6 Hz, aromatic), 7.24 (d, 2H, J=8.6 Hz, aromatic), 7.40 (m, 4H, aromatic), 7.56 (d, 2H, J=8.5 Hz, aromatic), 8.26 (d, 2H, J=8.8 Hz, aromatic) ppm; FAB-MS m/e 643 (M+Na)+; 元素分析 (C32H33N3O10) 計算値 C 62.03%, H 5.37%, N 6.78%, 測定値 C 62.62%, H 5.71%,N 6. 18%.
【実施例11】
【0173】
テトラオール24の活性化による四重に活性化された25の取得(図13参照)。無水THF中にテトラオール24(58mg、0.094mmol)を溶かし、この溶液を0℃まで冷却した。DIPEA(261μL、16当量)、4−ニトロフェニルクロロギ酸(226mg、12当量)、及びピリジン(8μL、1当量)を溶液に加えた。反応混合物を室温にして、16時間攪拌した。無水ジクロロメタンを加え、この反応混合物をさらに24時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、飽和炭酸水素ナトリウム、10%クエン酸、及び塩水で有機層を洗浄した。無水硫酸ナトリウム上で有機層を乾燥させ、乾燥状態になるまで蒸発させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 5/4)によって生成物を精製して、65mg(54%)の四重に活性化された25を得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13) δ 4.93 (s, 2H, CH20CONH), 4.95 (s, 2H, CH20CONH), 5.03 (s, 4H, CH20COO), 5.07 (s, 4H, CH2OCOO), 6.80-7. 02 (m, 3H, vinylic), 7.28-7.50 (m, 18H, aromatic), 8.23-8.29 (m, 10H, aromatic) ppm; ESI-MS m/e 1302 (M+Na)+; 元素分析 (C60H45N7O26) 計算値 C 56.30%, H 3.54%, N 7.66%, 実測値 C 56.58%, H 3.74%, N 7.37%.
【実施例12】
【0174】
四重に活性化された25へのパクリタキセルの結合による26の取得(図13参照)。四重に活性化された25(13mg、0.010mmol)を1mLの無水ジクロロメタン中に溶かし、この溶液を0℃まで冷却した。パクリタキセル(35mg、4当量)及びDMAP(5.5mg、4.4当量)を加え、この反応混合物を室温にして、16時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、飽和炭酸水素ナトリウム、0.5N 硫酸水素カリウム、及び塩水で有機層を洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。カラムクロマトグラフィー(EtOAc)によって生成物を精製して27mg(64%)の所望の生成物26を得た。1H-NMR (300 MHz,CDC13) δ 1.15 (m, 12H, 17), 1.26 (m, 12H, 16), 1.68 (bs, 12H, 19), 1.89 (m, 12H, 18), 2.17 (m, 12H, 10-acetyl), 2.42 (m, 12H, 4-acetyl), 3.80 (m, 4H, 3), 4.20 (m, 4H, 20b), 4.29 (m, 4H, 20a), 4.40 (m, 4H, 7), 4.75-5.00 (m, 16H, 4H 5 and 12H CH2-cinnamyl), 5.47 (m, 4H, 2'), 5.65 (m, 4H, 2), 5.97 (m, 4H, 3'), 6.13-6.38 (m, 8H, 10 and 13), 6.76-6.91 (m, 3H, vinylic cinnamyl), 7.23-7.65 (m, H, aromatic), 7.71 (d, 8H, aromatic N-Bz), 8.13(m, 8H, aromatic 2-Bz), 8.23 (d, 2H, aromatic cinnamyl) ppm; ESI-MSm/e 4157 (M+H20)+
【実施例13】
【0175】
二重に活性化された21へのベンジルアミンの結合による27の取得(図14参照)。ジクロロメタン(2mL)中の21(50mg、92.7μmol)の溶液に、ベンジルアミン(51μL、0.464mmol)及びEt3N(65μL、0.464mmol)を加えた。この反応混合物を室温で16時間攪拌した。ジクロロメタンを加え、10%クエン酸、飽和炭酸水素及び塩水で得られた混合物を洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOh 40/1)によって、27(38mg、79.9μmol、86%)を固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13) δ 4.33-4.39 (m, 4H, benzylic), 4.79 (s, 2H, spacer), 4.82 (s, 2H, spacer), 6.78 (s, 1H, alkene), 7.25-7. 35 (m, 12H, aromatic), 7.42 (d, 2H, aromatic spacer), 8.18 (d, 2H, aromatic spacer) ppm.
【実施例14】
【0176】
二重に活性された21へのp−アミノベンジルアルコールの結合による28の取得(図15参照)。DMF(5mL)中に化合物21(330mg、0.612mmol)を溶かし、p−アミノベンジルアルコール(166mg、1.35mmol)、DIPEA(214μL、1.22mmol)、及び1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(24.8mg、0.184mmol)を室温で加えた。この反応混合物を室温で2日間加熱した。この反応混合物を減圧下で濃縮した後、酢酸エチル(75mL)中に溶かした。10%のクエン酸水溶液及び塩水でこの透明な溶液を洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(クロロホルム/MeOH 8/1)によって、凍結乾燥後に28(181mg、0.357mmol、58%)を白色の固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CD30D/CDC13) δ 4.57 (s, 4H, CH20H), 4.89 (s, 2H, CH20C(O)R), 4.92 (s, 2H, CH20C(O)R), 6.95 (s, 1H, CH=CR2), 7.25-7. 54 (m, 10H, aromatic), 8.24 (d, 2H, J=8.8 Hz, aromatic) ppm; ESI-MS m/e 530 (M+Na)+; 元素分析 (C26H25N308) 計算値 C 61.53%, H 4.97%, N 8.28%, 実測値 C 61.60%, H 5.20%, N 7.61%.
【実施例15】
【0177】
p−ニトロフェニルクロロギ酸によるジオール28の活性化による29の取得(図15参照)。THF(5mL)中の化合物28(160mg、0.315mmol)の溶液に、DIPEA(440μL、2.52mmol)、p−ニトロフェニルクロロギ酸(381mg、1.89mmol)、及びピリジン(12.9μL、0.158mmol)を0℃で加えた。この反応混合物をゆっくり室温まで加温し、一晩攪拌した。酢酸エチル(75mL)をこの反応混合物に加え、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、10%クエン酸水溶液、及び塩水でこの混合物を洗浄した。無水硫酸ナトリウム上で有機画分を乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン 1/1)によって、凍結乾燥後に29(155mg、0.187mmol、59%)を白色固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13/DMSO-D6) δ 4.90 (s, 2H, CH20C(O)NHR), 4.95 (s, 2H, CH20C(O)NHR), 5.23 (s, 4H, CH20C(O)OR), 6.96 (s, 1H, CH=CR2), 7.34-7.56 (m, 14H, aromatic), 8.22-8.28 (m, 6H, aromatic) ppm; ESI-MS m/e 860 (M + Na)+, 1697 (2M+Na)+; 元素分析 (C40H31N5016・1.5 H20) 計算値 C 55.56%, H 3.96%, N 8.10%, 実測値 C 55.60%, H 3.96%, N 8. 30%.
【実施例16】
【0178】
二重に活性化された29へのp−メトキシベンジルアミンの結合による30の取得(図16参照)。1−メチル−2−ピロリジノン(4mL)中の29(50mg、59.7μmol)の溶液に、0℃で、p−メトキシベンジルアミン(31μL、0.24mmol)及びDIPEA(3.0μL、18μmol)を加えた。この反応混合物を室温で15時間攪拌した。酢酸エチル中のイソプロパノールの10%溶液(25mL)を加え、得られた混合物を水及び塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン 1/3)によって30(35.0mg、42.0μmol、70%)を白色固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13/CD30D) δ 3.79 (s, 6H, OCH3), 4.26 (s, 4H, NCH2), 4.90 (s, 2H, CH2OC(O)NHC6H4R), 4.94 (s, 2H, CH20C(O)NHC6H4R), 5.04 (s, 4H, CH20C(O)NCH2R), 6.85 (d, 4H, J=8.6 Hz, aromatic), 6.96 (s, 1H, CH=CR2), 7.19-7.28 (m, 8H, aromatic), 7.37-7.42 (m, 4H, aromatic), 7.53 (d, 2H, J=8.6 Hz, aromatic), 8.25 (m, 2H, aromatic) ppm; FAB-MS m/e 856 [M+Na]+, 1690 [2M+Na]+.
【実施例17】
【0179】
二重に活性化された29へのp−クロロベンジルアミンの結合による31の取得(図16参照)。THF(4mL)中の29(72mg、86μmol)の溶液に、0℃で、p−クロロベンジルアミン(42μL、0.34mmol)及びDIPEA(4.5μL、26μmol)を加えた。この反応混合物を室温で15時間攪拌した。この反応混合物を減圧下で濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン 1/1)によって残留物を精製し、31(60mg、71.2mmol、83%)を凍結乾燥後に白色固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13/CD30D) δ4.27 (s, 4H, NCH2), 4.89 (s, 2H, CH2OC(O)NHC6H4R), 4.94 (s, 2H, CH20C(O)NHC6H4R), 5.03 (s, 4H, CH20C(O)NCH2R), 6.98 (s, 1H, CH=CR2), 7.21-7.29 (m, 12H, aromatic), 7.40-7.44 (m, 4H, aromatic), 7.57 (d, 2H, J=8.6 Hz, aromatic), 8.25 (m, 2H, aromatic) ppm; FAB-MS m/e 864 [M+Na]+.
【実施例18】
【0180】
二重に活性化された29へのフェネチルアルコールの結合による32の取得(図16参照)。THF(2mL)中の29(18mg、21μmol)の溶液に、0℃で、フェネチルアルコール(10.3μL、85.9μmol)、DIPEA(1.9μL、11μmol)、及びDMAP(10.5mg、85.9μmol)を加えた。この反応混合物を室温で15時間攪拌した。この反応混合物を減圧下で濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン 1/1)によって残留物を精製し、32(9.5mg、12mmol、55%)を凍結乾燥後に白色固体として得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13/CD30D) δ 2.97 (t, 4H, J=7.0 Hz, CH2CH2Ph), 4.34 (t, 4H, J=7.0 Hz, CH2CH2Ph), 4.90 (s, 2H, CH2OC(O)NHC6H4R), 4.94 (s, 2H, CH20C(O)NHC6H4R), 5.07 (s, 4H, CH20C(O)OR), 6.97 (s, 1H, CH=CR2), 7.19-7.30 (m, 14H, aromatic), 7.39-7.44 (m, 4H, aromatic), 7.54 (d, 2H, J=8.7 Hz, aromatic), 8.25 (d, 2H, J=8.7 Hz, aromatic) ppm; FAB-MS m/e 804 [M+H]+, 826 [M+Na]+.
【実施例19】
【0181】
4−ニトロベンジルクロロギ酸33へのベンジルアミンの結合による34の取得(図17参照)。0℃のTHF中のベンジルアミン(101μL、0.923mmol)とEt3N(129μL、1当量)の混合物に、THF中のクロロギ酸エステル33(200mg、0.923mmol)の溶液を滴下させながら添加した。この反応混合物を室温にして、16時間攪拌した。EtOAcを加え、0.1M NaOH、10% クエン酸、及び塩水で有機層を洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させて、所望の生成物34を定量的に得た。1H-NMR (300 MHz, CDC13) δ4.39 (d, 2H, J=6.0 Hz, benzylic benzylamine), 5.22 (s, 2H, benzylic spacer), 7.25-7.40 (m, 5H, aromatic benzylamine), 7.50 (d, 2H, J=8.4 Hz, aromatic spacer), 8.20 (d, 2H, aromatic spacer) ppm.
【実施例20】
【0182】
三重脱離の原理の証明。13を還元した際のベンジルアルコールの形成(図19参照)。3mLのMeOH/AcOH/THF(1.5/0.5/1)の中に化合物13を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで攪拌した。30分後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失とかなりの量のベンジルアルコールの形成が示された。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮し、ジオキサンを加え、生じた溶液を凍結乾燥した。1H-NMR(300MHz, CDCl3/CD3OD/CD3CN/DMSO-D6) δ 4.57 (s, 2H, benzylic), 7.28-7.36(m, 5H, aromatic) ppm,同一の溶媒中で遊離のベンジルアルコールについて観察されたピークと同一。
【実施例21】
【0183】
三重脱離の原理の証明。14を還元した際のフェネチルアルコールの形成(図19参照)。3.75mLのMeOH/AcOH/THF(2/0.75/1)の中に化合物14を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで攪拌した。1時間後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失とかなりの量のフェネチルアルコールの形成が示された。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮し、ジオキサンを加え、生じた溶液を凍結乾燥した。1H-NMR (300 MHz, DMSO-D6/CD3OD/D2O) δ 2.68 (t, 2H, CH2CH2Ph), 3.58 (t, 2H, CH2CH2Ph), 7.11-7.22 (m, 5H, aromatic) ppm. 同一の溶媒中で遊離のベンジルアルコールについて観察されたヒ゜ークと同一;ESI-MS m/e 122(M)+。
【実施例22】
【0184】
15中のニトロ基の還元。ベンジルアミンの脱離の失敗(図20参照)。
【0185】
10mLのMeOH/AcOH(8/2)の中に化合物15(16mg)を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで攪拌した。30分後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失が示され、単一の生成物へ完全に変換されることが明らかとなった。ベンジルアミンの形成は全く又はほとんど観察されなかった。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮し、この混合物を凍結乾燥した。数多くの様々な環境下(重水素化された溶媒の異なる組み合わせ、異なるpH(酸性、中性、塩基性)、異なる緩衝液)で、1H−NMRは、遊離のベンジルアミンの形成を殆ど示さなかった。2日後に、最大33%の遊離ベンジルアミンが観察された(1H−NMR)。還元された生成物をDMF中に溶かしても、放出されたベンジルアミンの量を増加させなかった。Raneyニッケル/ヒドラジンを用いた15の還元によって、異なる結果は得られなかった。
【実施例23】
【0186】
19からのAloc基の脱保護。プロピルアミンの脱離の失敗(図21参照)。化合物19(36mg、69μmol)を1mLのCDCl3の中に溶かした。モルホリンを加え(20当量、120μL、1.38mmol)、この溶液にアルゴンを通気した。次いで、触媒量のパラジウムテトラキストリフェニルホスフィンを加えた。プロピルアミンの脱離を1H−NMRによって調べた。1時間後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失が示された。数多くの様々な環境下(重水素化された溶媒の異なる組み合わせ、異なるpH(酸性、中性、塩基性)、異なる緩衝液、異なる求核試薬の存在下)で、1H−NMRによって、最大33%の遊離プロピルアミンが2週間後に形成されたことが示された。
【実施例24】
【0187】
二重脱離の原理の証明。22を還元した際のパクリタキセルの形成(図22参照)。3.5mLのMeOH/AcOH/THF(2/0.5/1)の中にニトロシンナミルビスカーボネート22を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで攪拌した。30分以内に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の完全な消失とかなりの量のパクリタキセルの形成が示された。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮し、ジオキサンを加え、得られた溶液を凍結乾燥した。1H−NMR中の明確なピーク、(300 MHz,CD3OD) δ 4.19 (s, 4H, 20a and 20b), 4.32 (dd, 2H, 7), 4.74 (d, 2H, 2’), 4.99 (dd, 2H, 5), 5.65 (m, 4H, 2 and 3’), 6.16 (t, 2H, 13), 6.45 (s, 2H, 10) ppmは、同一の溶媒中で遊離のベンジルアルコールについて観察されたピークと同一であった。プロトンNMRスペクトルは、2’に結合したパクリタキセルを示さなかった;複合体されていないパクリタキセルのみが存在した;FAB-MS m/e 854 (M+H)+; 876(M+Na)+。
【実施例25】
【0188】
四重脱離の原理の証明。26を還元した際のパクリタキセルの形成(図23参照)。3.25mLのMeOH/AcOH/THF(1.5/0.75/1)の中に化合物26を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物を攪拌した。30分後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失とかなりの量のパクリタキセルの形成が示された。16時間後に、この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮し、ジオキサンを加え、得られた溶液を凍結乾燥した。1H−NMR中の明確なピーク、(300 MHz, CD3OD/CDCl3/DMSO-D6) δ 4.77(d, 4H, 2’), 4.98 (d, 4H, 5), 5.65 (m, 8H, 2 and 3’), 6.17 (m, 4H, 13), 6.39 (s, 4H, 10)ppm,同一の溶媒中で遊離のパクリタキセルについて観察されたピークと同一であった;ESI-MS m/e 877(M+Na)+。
【実施例26】
【0189】
27中のニトロ基の還元。ベンジルアミンの脱離の失敗(図24参照)。MeOHとAcOHの4:1混合物(7.5mL)中の27(18mg、38μmol)の溶液に、亜鉛粉末を加え、この反応混合物を室温で攪拌した。1時間後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失が示され、単一の生成物へ完全に変換されることが明らかとなった。ベンジルアミンの形成は全く観察されなかった。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮し、ジオキサンを加え、この混合物を凍結乾燥した。求核試薬の存在下又は不存在下で、一部の事例では緩衝化された、様々なpHを有する重水素化された多数の様々な溶媒の組み合わせ中に、1日後でさえ、50パーセントを超える遊離のベンジルアミンの形成は1H−NMRによって示されなかった。
【実施例27】
【0190】
30中のニトロ基の還元。p−メトキシベンジルアミンの脱離の失敗(図25参照)。THFとメタノールの1:1混合物(2mL)中の30(10mg、12μmol)の溶液に、Raneyニッケル(水中の50%スラリー、0.05mL)とヒドラジン一水和物(1.0μL、21μmol)を加えた。薄層クロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 3/1)によって、20分以内に、単一の生成物へと完全に変換されることが示された。この反応混合物を室温で一晩攪拌した。p−メトキシベンジルアミンの形成は、一晩後にも全く観察されなかった。この反応混合物をろ過し、減圧下で濃縮した。DMSO−d6とD2Oの1:1混合物中に、残留物を溶かした。1H−NMRによって、1、5、又は20日後に、遊離のp−メトキシベンジルアミンは全く形成されないことが示された。p−メトキシベンジルアミンの放出を伴わない還元された30の緩やかな分解が観察された。
【実施例28】
【0191】
31中のニトロ基の還元。p−クロロベンジルアミンの脱離の失敗(図25参照)。THFとメタノールの1:1混合物(2mL)中の31(10mg、12μmol)の溶液に、Raneyニッケル(水中の50%スラリー、0.05mL)とヒドラジン一水和物(0.6μL、12μmol)を加えた。薄層クロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 3/1)によって、30分以内に、単一の生成物へと完全に変換されることが示された。この反応混合物をろ過し、減圧下で濃縮した。CDCl3とCD3ODの1:1混合物中に、残留物を溶かした。1H−NMRによって、2時間、15時間、2日、又は5日後に、遊離のp−メトキシベンジルアミンは全く形成されないことが示された。p−クロロベンジルアミンの放出を伴わない還元された31の緩やかな分解が観察された。
【実施例29】
【0192】
32中のニトロ基の還元。フェネチルアルコールの形成(図26参照)。THFとメタノールの1:1混合物(1.5mL)中の32(8.0mg、10μmol)の溶液に、Raneyニッケル(水中の50%スラリー、0.05mL)とヒドラジン一水和物(0.5μL、10μmol)を加えた。20分後に、ヒドラジン一水和物(0.5μL、10μmol)を加えた。薄層クロマトグラフィー(EtOAc/ヘプタン 1/1)によって、1時間後に、単一の生成物へと完全に変換されることが示された。この反応混合物をろ過し、減圧下で濃縮した。CDCl3とCD3ODの1:1混合物中に残留物を溶かし、これに、DMSO−d6を10滴加えた。1H−NMRによって、遊離のフェネチルアルコールが完全に放出されることが示された。1H−NMRスペクトル中の明確なピーク、(300 MHz, CD3OD/CDCl3/DMSO-D6) δ 2.83 (t, 2H, J=7.1 Hz, CH2CH2Ph) and 3.76 (t, 2H, J=7.1 Hz, CH2CH2Ph)ppm,同一の溶媒中でフェネチルアルコールについて観察されたピークと同一であった。
【実施例30】
【0193】
一重脱離の原理の証明。34の還元によるベンジルアミンの形成(図27参照)。3.75mLのMeOH/AcOH/THF(2/0.75/1)の中に化合物34(40mg)を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで攪拌した。100分後に、薄層クロマトグラフィーによって、出発化合物の消失とかなりの量のベンジルアミンの形成が示された。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮した。1H-NMR (300 MHz, CD3OD/CDCl3/DMSO-D6) δ 3.98 (s, 2H, benzylic, liberated benzylamine), 7.34-7.43 (m, 5H, aromatic, liberated benzylamine) ppm,同一の溶媒中で遊離のベンジルアミンについて観察されたピークと同一、遊離のベンジルアミンの完全な放出が示された。複合体されたベンジルアミンから得られたNMRシグナルが消失した。
【実施例31】
【0194】
35の安定性。亜鉛による35の処理(図28参照)。2.5mLのMeOH/THF/AcOH(1.5/0.5/0.5)中に炭酸ジベンジル35(13mg)を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで16時間攪拌した。薄層クロマトグラフィーによって新しい化合物が形成されていないことが示され、35の安定性が明らかとなった。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮した。1H-NMR (300 MHz, CDCl3/CD3OD/DMSO-D6) δ 5.07(s, 4H, benzylic), 7.27 (m, 10H, aromatic) ppm,生成物が出発化合物と同一であることが示された;ベンジルアルコールは全く観察されなかった。
【実施例32】
【0195】
36の安定性。亜鉛による35の処理(図28参照)。2.5mLのMeOH/THF/AcOH(1.5/0.5/0.5)中にパクリタキセル−2’−カーボネート36(3mg)を溶かした。亜鉛粉末を加え、この反応混合物をRtで16時間攪拌した。薄層クロマトグラフィーによって新しい化合物が形成されていないことが示され、36の安定性が明らかとなった。この混合物をhyflo上でろ過し、MeOH/ジクロロメタンでこの残留物を洗浄した。ろ過物を真空中で濃縮した。1H−NMRスペクトル中の明確なピーク、(300 MHz, CDCl3/CD3OD/DMSO-D6) δ 4.81 (d, 2H, J=7.2Hz, CH2cinnamyl), 5.38 (d,1H,J=8.7 Hz,2’) ppm,生成物が出発化合物と同一であることが示された;シンナミルアルコール又は遊離のパクリタキセルは全く観察されなかった。
【実施例33】
【0196】
多重放出スペーサー16及び23の細胞毒性。7つの明確に性質決定されたヒト腫瘍細胞株とミクロ培養サルファーローダミンB(SRB)試験を利用して、モノマースペーサーの抗増殖効果をインビトロで決定した。抗増殖効果を決定し、ID50値(ng/mL)(5日のインキュベーション後に、対照細胞増殖に比べて、50%の細胞増殖の阻害を与える(プロ)ドラッグの濃度である)として表した。
【0197】
三重放出モノマー16:細胞株(ng/mLで表したID50値):MCF−7;乳癌(>62.500)、EVSA−T;乳癌(>62.500)。WIDR;大腸癌(>62.500)。IGROV;卵巣癌(>62.500)。M19;悪性黒色腫(>62.500)。A498;腎臓癌(55867)。H226;非小細胞肺癌(>62.500)。
【0198】
二重放出モノマー23:細胞株(ng/mLで表したID50値):MCF−7;乳癌(>62.500)、EVSA−T;乳癌(>62.500)。WIDR;大腸癌(>62.500)。IGROV;卵巣癌(>62.500)。M19;悪性黒色腫(>62.500)。A498;腎臓癌(56.784)。H226;非小細胞肺癌(42.406)。
【参考文献】
【0199】
【図面の簡単な説明】
【0200】
【図1】図1は、プロドラッグを含有するスペーサーの親薬物への転換を模式的に示している。
【図2】図2は、多重放出スペーサー含有化合物からの複数の脱離基分子の解離を模式的に示している。
【図3】図3は、二階層の二重放出スペーサーを含有する化合物から4個の脱離基分子が解離する様子を模式的に示している。
【図4】図4は、二階層の三重放出スペーサーを含有する化合物から9個の脱離基分子が解離する様子を模式的に示している。
【図5】図5は、1,6−脱離の原理を示している。
【図6】図6は、1,8−脱離の原理を示している。
【図7】図7は、三重放出スペーサーからの3個の脱離基の脱離について提案される原理を示している。
【図8】図8は、二重放出スペーサーからの2個の脱離基の脱離について提案される原理を示している。
【図9】図9は、三重放出スペーサーと3個のベンジルアルコール又はフェネチルアルコール脱離基とを含有する2つのモデル化合物の調製を示している。
【図10】図10は、三重放出スペーサーと3個のベンジルアミン脱離基とを含有するモデル化合物の調製を示している。
【図11】図11は、三重放出スペーサーと3個のプロピルアミン脱離基とを含有するモデル化合物の調製を示している。
【図12】図12は、二重放出スペーサーと2個のパクリタキセル部分とを含有するプロドラッグの調製を示している。
【図13−1】図13は、二階層の二重放出スペーサーと4個のパクリタキセル部分とを含有するプロドラッグの調製を示している。
【図13−2】図13は、二階層の二重放出スペーサーと4個のパクリタキセル部分とを含有するプロドラッグの調製を示している。
【図14】図14は、二重放出スペーサーと2個のベンジルアミン脱離基とを含有するモデル化合物の調製を示している。
【図15】図15は、2個の一重放出スペーサーに連結された二重放出スペーサーを含有するp−ニトロフェニルカーボネートで二重に活性化された化合物の調製を示している。
【図16】図16は、2個の一重放出スペーサーに結合された二重放出スペーサーを含有する3個のモデル化合物の調製を示している。
【図17】図17は、ベンジルアミンに結合された一重放出スペーサーを含有するモデル化合物の調製を示している。
【図18】図18は、参照化合物ジベンジルカーボネートと2’−O−シンナミルオキシカルボニルパクリタキセルを示している。
【図19】図19は、3個のベンジルアルコール又は3個のフェネチルアルコール脱離基を含有し、全ての脱離基が同時に解離する、2個のモデル化合物中のニトロ基の還元を示している。
【図20】図20は、3個のベンジルアミン脱離基を含有するモデル化合物中のニトロ基の還元を示している。
【図21】図21は、3個のプロピルアミン脱離基を含有するモデル化合物からのAloc基の除去を示している。
【図22】図22は、2個のパクリタキセル部分を含有し、パクリタキセルの2分子を同時に解離するプロドラッグ中のニトロ基の還元を示している。
【図23】図23は、4個のパクリタキセル部分を含有し、パクリタキセルの4分子を同時に解離するプロドラッグ中のニトロ基の還元を示している。
【図24】図24は、2個のベンジルアミン脱離基を含有するモデル化合物中のニトロ基の還元を示している。
【図25】図25は、2個のp−メトキシベンジルアミン又は2個のp−クロロベンジルアミン脱離基を含有する2個のモデル化合物中のニトロ基の還元を示している。
【図26】図26は、2個のフェネチルアルコール部分を含有し、フェネチルアルコールの2分子を同時に解離するモデル化合物中のニトロ基の還元を示している。
【図27】図27は、ベンジルアミン脱離基を含有し、ベンジルアミンの解離を伴うモデル化合物中のニトロ基の還元を示している。
【図28】図28は、出発物質の分解を一切引き起こさない、亜鉛と酢酸による2つの参照化合物の処理を示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系を介して、同一又は異なる脱離基(Z)が2以上連結された指定子(V)を有する化合物であって、単一の活性化工程で、少なくとも2つの脱離基を放出し、前記活性化工程が前記指定子の除去又は変換である化合物。
【請求項2】
2以上の自己脱離多重放出スペーサーを有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
樹状構造形態の自己脱離多重放出スペーサーの2以上の階層が組み込まれた自己脱離多重放出スペーサー系を有する、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
V−(W−)W(X−)XC((A−)aZ)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aZd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aZ)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aZ)f)e)d)c、
から選択される式
(式中、
Vは、[O]、及び必要に応じて予め受容体に結合した後に、化学的、光化学的、物理的、生物的、又は酵素的活性化によって除去又は変換される指定子から選択され;
(W−)W(X−)XC((A−)a)c、
(W−)W(X−)XC(D((A−)a)d)c、
(W−)W(X−)XC(D(E((A−)a)e)d)c、
(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)a)f)e)d)c、
は、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系であり;
W及びXは、各々、同一又は異なる一重放出1,(4+2n)電子カスケードスペーサーであり;
Aは、環状化脱離スペーサーであり;
C、D、E、及びFは、各々、活性化されると、それぞれc、d、e、及びf脱離基を最大限に放出することができる自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系であり;
各Zは、独立に、脱離基又はH又はOH又は反応性部分であり;
aは、0又は1であり;
c、d、e、及びfは、独立に、2(2を含む)ないし24(24を含む)の整数であり;
w及びxは、独立に、0(0を含む)ないし5(5を含む)の整数であり;
nは、0(0を含む)ないし10(10を含む)の整数である。)
を有する請求項1、2、又は3に記載の化合物。
【請求項5】
前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系C、D、E、及びFが、式
【化1】
(式中、
Bは、NR1、O、及びSから選択され;
Pは、C(R2)(R3)Q−(W−)w(X−)xであり;式中、
Qは、意味を持たないか又は−O−CO−であり;
W及びXは、各々、同一又は異なる一重放出1,(4+2n)電子カスケードスペーサーであり;
G、H、I、J、K、L、M、N、及びOは、独立に、式:
【化2】
を有する化合物から選択されるか、
(式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は、独立に、H、C1−6アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ(OH)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)を表し、Rx、Rx1、Rx2は、独立に、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択され、前記置換基R1、R2、R3、R4、及びR5の2以上は、必要に応じて互いに接続されて1若しくは複数の脂肪族又は芳香族環状構造を形成する。)、又は、
G、J、及びMは、P及び水素の群から選択され得るが、但し、G、J、及びMの2つが水素であれば、残りの基は、
【化3】
若しくは、
【化4】
でなければならず、同時に、
【化5】
に共役していなければならず、
g、h、i、j、k、l、m、n、o、h’、g’、k’、j’、n’、m’は、独立に、0、1、又は2であるが、但し、
G=水素又はPであれば、g、h、i、h’、及びg’は全て0に等しく;
J=水素又はPであれば、j、k、l、k’、及びj’は全て0に等しく;
M=水素又はPであれば、m、n、o、n’、及びm’は全て0に等しく;
G、H、I、J、K、L、M、N、又はOが、
【化6】
であれば、
それぞれ、g+g’=1、h+h’=1、i=1、j+j’=1、k+k’=1、l=1、m+m’=1、n+n’=1、又はo=1であり;
G、H、I、J、K、L、M、N、又はOが、
【化7】
であれば、
それぞれg+g’=2、h+h’=2、i=2、j+j’=2、k+k’=2、l=2、m+m’=2、n+n’=2、又はo=1であり;
g’=0であり且つGが水素又はPでなければ、h、h’、及びiは0に等しく且つg>0であり;
g=0であり且つGが水素又はPでなければ、g’>0であり;
g’>0且つh’=0であれば、i=0且つh>0であり;
g’>0且つh=0であれば、h’>0且つi>0であり;
j’=0且つJが水素又はPでなければ、k、k’、lは0に等しく且つj>0であり;
j=0且つJが水素又はPでなければ、j’>0であり;
j’>0且つk’=0であれば、l=0且つk>0であり;
j’>0且つk=0であれば、k’>0且つl>0であり;
m’=0且つMが水素又はPでなければ、n、n’、oは0に等しく且つm>0であり;
m=0且つMが水素又はPでなければ、m’>0であり;
m’>0且つn’=0であれば、o=0且つn>0であり;
m’>0且つn=0であれば、n’>0且つo>0であり;
w及びxは、独立に、0(0を含む)ないし5(5を含む)の整数であり;
但し、前記化合物がCのみを含有しており、D、E、及びFが存在せず、B=NR1であり、G及びMはHであり、g、h、i、h’、g’、k、l、k’、l’、m、n、o、n’、及びm’は0であり、J=
【化8】
であり、j=2であり、Q=−O−CO−であり、w及びxが0であり、R1、R2、R3、及びR4がHであれば、脱離基Zのうち少なくとも1つは、脂肪族アミノ基を介してQに接続されない。)、
を有する化合物から独立に選択される、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項6】
前記1,(4+2n)電子カスケードスペーサーW及びXが、式
【化9】
(式中、
Qは、意味を持たないか又は−O−CO−であり;
t、u、及びyは、独立に0ないし5の整数であり;
T、U、及びYは、独立に、式:
【化10】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9は、独立に、H、C1−6アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ(OH)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)を表し、Rx、Rx1、Rx2は、独立に、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択され、置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、又はR9の2以上は、必要に応じて互いに接続されて1又は複数の脂肪族又は芳香族環状構造を形成する。)
を有する化合物から独立に選択される。)、
を有する化合物から独立に選択される、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項7】
前記離脱基Zが、該脱離基のO、S、又は芳香族Nを介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に連結されている、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項8】
前記脱離基Zが、脂肪族Nを介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に連結されており、階層C、D(存在する場合)、E(存在する場合)、又はF(存在する場合)のうち何れかの多重放出スペーサー又はスペーサー系の少なくとも1つがフェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサー又はスペーサー系であり、
i)前記階層中の少なくとも1つの多重放出スペーサーについて、B=O若しくはSであり、又は、
ii)前記階層中の全ての多重放出スペーサーについてB=Nである場合には、少なくとも1つの一重放出スペーサーは、前記階層中の少なくとも1つの多重放出スペーサーの少なくとも2つの分岐に接続されており、前記一重放出スペーサーのうち少なくとも2つについてB=O又はSである、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項9】
前記階層中の全ての多重放出スペーサー又はスペーサー系についてB=O又はSである、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
前記フェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーが、A又はZ又はSのうち何れかに接続されており、Sが請求項26に定義されているとおりである、請求項8又は9に記載の化合物。
【請求項11】
前記ω−アミノアミノカルボニル環状化脱離スペーサーAが、式:
【化11】
(式中、
aは、0又は1の整数であり、
bは、0又は1の整数であり;
cは、0又は1の整数であり;但し、
a+b+c=2又は3;
(式中、
R1とR2は、H、以下の群:ヒドロキシ(OH)、エーテル(ORx)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)のうち1又は複数によって必要に応じて置換されているC1−6アルキル(Rx、Rx1、及びRx2は、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択される。)を独立に表し;
R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、独立に、H、C1−6アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ(OH)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)を表し(Rx、Rx1、及びRx2は、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択される。)
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、一又は複数の脂肪族又は芳香族環状構造の一部とすることができ、置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、又はR8の2以上は、必要に応じて、互いに接続されて、一又は複数の脂肪族又は芳香族環状構造を形成する。)
を有する化合物である、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項12】
基Aがωアミノアミノカルボニル環状化スペーサーであり、Zがそのヒドロキシル基を介してAに結合された部分である、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項13】
w+x>0である、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項14】
(W−)w(X−)xCc、
(W−)w(X−)xC(Dd)c、
(W−)w(X−)xC(D(Ee)d)c、又は
(W−)w(X−)xC(D(E(Ff)e)d)c、
が、
【化12−1】
【化12−2】
【化12−3】
【化12−4】
【化12−5】
【化12−6】
【化12−7】
【化12−8】
からなる群及び一重放出1,6−脱離p−アミノベンジルオキシカルボニルスペーサーが一重放出1,8−脱離p−アミノシンナミルオキシカルボニルスペーサーによって置換された上記化合物から選択される、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項15】
ωアミノ−アミノカルボニル環状化スペーサーをさらに有する、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
前記指定子Vが、プラスミン、カテプシンのうちの1つ、カテプシンB、β−グルクロニダーゼ、前立腺特異抗原(PSA)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u−PA)、マトリックスメタロプロテイナーゼのファミリーのメンバーによって切断され得る基質を含有するか、又は前記指定子Vが[O]であり若しくは低酸素条件下での還元若しくはニトロ還元酵素による還元によって除去若しくは変換され得るニトロ−(複素)芳香族部分を含有する、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項17】
Zが、抗生物質、抗炎症剤、抗ウイルス剤、及び好ましくは抗癌剤から選択される、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項18】
Zが、
(ヒドロキシル含有細胞毒性化合物)エトポシド、コンブレスタチン、カンプトテシン、イリノテカン(CPT−11)、SN−38、トポテカン、9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、10−ヒドロキシカンプトテシン、GG211、ラルトテカン、パクリタキセル、ドセタキセル、エスペラマイシン、1,8−ジヒドロキシ−ビシクロ[7.3.1]トリデカ−4−エン−2,6−ジイン−13オン、アングイジン、ドキソルビシン、モルホリン−ドキソルビシン、N−(5,5−ジアセトキシペンチル)ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、タリソマイシン、ブレオマイシン、4−ビス(2−クロロエチル)アミノフェノール、4−ビス(2−フルオロエチル)アミノフェノール、及びそれらの誘導体、
(スルフヒドリル含有化合物)エスペラマイシン、及び6−メルカプトプリン、並びにそれらの誘導体、
(カルボキシル含有化合物)メトトレキサート、アミノプテリン、カンプトテシン(ラクトンの開環型)、クロラムブシル、メルファラン、酪酸及びレチノイン酸、並びにそれらの誘導体、
(アジリジンアミノ含有化合物又は芳香族アミノ含有化合物)マイトマイシンC、マイトマイシンA、十分な脱離基能を有するアミン官能性を含有するアンスラサイクリン誘導体、ミトキサントロン、9−アミノカンプトテシン、メトトレキサート、アミノプテリン、タリソマイシン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、N,N−ビス(2−クロロエチル)−p−フェニレンジアミン、N,N−ビス(2−フルオロエチル)−p−フェニレンジアミン、デオキシシチジン、シトシンアラビノシド、ゲムシタビン、及びそれらの誘導体、
(脂肪族アミノ含有化合物)ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、N−(5,5−ジアセトキシペンチル)ドキソルビシン、アントラサイクリン、N8−アセチルスペルミジン、1−(2−クロロエチル)−1,2−ジメタンスルホニルヒドラジン、又はそれらの誘導体
から選択される、請求項17の化合物。
【請求項19】
Zが、その2’ヒドロキシル基を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合されたパクリタキセル、ドセタキセル、又はそれらの誘導体を表す、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
Zが、その20ヒドロキシル基を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、カンプトテシン、イリノテカン(CPT−11)、SN−38、トポテカン、9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、10−ヒドロキシカンプトテシン、GG211、ラルトテカン、又はそれらの誘導体を表す、請求項18に記載の化合物。
【請求項21】
Zが、そのフェノール性ヒドロキシル基を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、SN−38、トポテカン、10−ヒドロキシカンプトテシン、エトポシド、4−ビス−(2−クロロエチル)アミノフェノール、4−ビス−(2−フルオロエチル)アミノフェノール、又はそれらの誘導体を表す、請求項18に記載の化合物。
【請求項22】
Zが、その芳香族一級アミン基を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、9−アミノカンプトテシン、N,N−ビス(2−クロロエチル)−p−フェニレンジアミン、N,N−ビス(2−フルオロエチル)−p−フェニレンジアミン、又はそれらの誘導体を表す、請求項18に記載の化合物。
【請求項23】
Zが、その脂肪族一級アミン基を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、N−(5,5−ジアセトキシペンチル)ドキソルビシン、アントラサイクリン、N8−アセチルスペルミジン、1−(2−クロロエチル)−1,2−ジメタンスルホニルヒドラジン、又はそれらの誘導体
を表し、階層C、D(存在する場合)、E(存在する場合)、又はF(存在する場合)のうち何れかの多重放出スペーサー又はスペーサー系の少なくとも1つがフェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサー又はスペーサー系であり、
i)前記階層中の少なくとも1つの多重放出スペーサーについて、B=O又はSであり、又は、
ii)前記階層中の全ての多重放出スペーサーについてB=Nである場合には、少なくとも1つの一重放出スペーサーは、前記階層中の少なくとも1つの多重放出スペーサーの少なくとも2つの分岐に接続されており、前記一重放出スペーサーのうち少なくとも2つについてB=O又はSである、
請求項18に記載の化合物。
【請求項24】
前記階層中の全ての多重放出スペーサー又はスペーサー系についてB=O又はSである、請求項23に記載の化合物。
【請求項25】
前記フェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーが、A又はZ又はSのうち何れかに接続されており、Sが請求項26に定義されているとおりである、請求項23又は24に記載の化合物。
【請求項26】
V−(W−)W(X−)XC((A−)aS)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aSd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aS)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aS)f)e)d)c、
(式中、
V、W、X、C、D、E、F、A、w、x、c、d、e、f、及びaは先行する請求項に定義のとおりであり、各Sは、独立に、意味を持たないか又はH、OH、若しくは同一若しくは異別であり得る脱離基Zへの多重放出スペーサー系を結合させて、それぞれ、化合物
V−(W−)W(X−)XC((A−)aZ)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aZd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aZ)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aZ)f)e)d)c、
を与えることができる反応性部分である。)
から選択される式を有する化合物。
【請求項27】
前記反応性部分Sが、カルボニル基を介して、前記多重放出スペーサー又はスペーサー系に接続されている、請求項26に記載の化合物。
【請求項28】
Sが、N−スクシンイミジル−N−オキシド、p−ニトロフェノキシド、ペンタフルオロフェノキシド、又は塩化物を表す、請求項27に記載の化合物。
【請求項29】
Sが、前記多重放出スペーサー又はスペーサー系のメチレン基に接続されている、請求項26に記載の化合物。
【請求項30】
Sが、塩化物、臭化物、p−トルエンスルホネート、トリフルオロメチルスルホネート、又はメチルスルホネートを表す、請求項29に記載の化合物。
【請求項31】
前記指定子Vがトリペプチドである、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項32】
前記トリペプチドが、そのC末端を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に連結されている、請求項31に記載の化合物。
【請求項33】
前記トリペプチドの前記C末端アミノ酸残基がアルギニン及びリジンから選択され、前記トリペプチドの中央アミノ酸残基がアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、シクロヘキシルグリシン、トリプトファン及びプロリンから選択され、前記トリペプチドの前記N末端アミノ酸残基がDアミノ酸残基及び保護されたグリシンを含む保護されたLアミノ酸残基から選択される、請求項32に記載の化合物。
【請求項34】
前記指定子VがD−アラニルフェニルアラニルリジン、D−バリルロイシルリジン、D−アラニルロイシルリジン、D−バリルフェニルアラニルリジン、D−バリルトリプトファニルリジン、及びD−アラニルトリプトファニルリジンから選択される、請求項33に記載の化合物。
【請求項35】
前記指定子Vが、C末端を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に共有結合されている、アミノ末端がキャップされたペプチドである、先行する何れかの請求項に記載の化合物。
【請求項36】
前記指定子Vがベンジルオキシカルボニルフェニルアラニルリジン、ベンジルオキシカルボニルバリルリジン、D−フェニルアラニルフェニルアラニルリジン、ベンジルオキシカルボニルバリルシトルリン、tert−ブチルオキシカルボニルフェニルアラニルリジン、ベンジルオキシカルボニルアラニルアルギニルアルギニン、ベンジルオキシカルボニルフェニルアラニル−N−トシルアルギニン、2−アミノエチルチオスクシンイミドプロピオニルバリニルシトルリン、2−アミノエチルチオスクシンイミドプロピオニルリジルフェニルアラニルリジン、アセチルフェニルアラニルリジン、及びベンジルオキシカルボニルフェニルアラニル−O−ベンゾイルスレオニンから選択される、請求項35に記載の化合物。
【請求項37】
前記指定子Vが、ターゲッティング部分に前記化合物を結合させるために使用できる反応性部分を有する、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項38】
前記反応性部分が、
【化13】
であり、式中Xがeen脱離基である、請求項37に記載の化合物。
【請求項39】
前記反応性部分が、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、p−ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、イソチオシアネート、イソシアネート、無水物、酸塩化物、塩化スルホニル、及びアルデヒドである、請求項37に記載の化合物。
【請求項40】
前記反応性部分が、ヒドラジン基又はアミノ基である、請求項37に記載の化合物。
【請求項41】
前記指定子Vがターゲッティング部分を有する、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項42】
前記ターゲッティング部分が、タンパク質又はタンパク質断片、抗体又は抗体断片、受容体結合部分又はペプチドベクター部分、及びポリマー又は樹状部分からなる群から選択される、請求項41に記載の化合物。
【請求項43】
【化14−1】
【化14−2】
【化14−3】
【化14−4】
【化14−5】
【化14−6】
からなる群から選択される、先行する請求項の何れかに記載の化合物及びそれらの塩。
【請求項44】
請求項4の化合物を調製するための、請求項26ないし30又は37ないし40に記載の化合物の使用。
【請求項45】
先行する請求項の何れかに記載の化合物が使用される、診断アッセイ方法。
【請求項46】
酵素の存在又は量が測定される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
プロテアーゼの存在又は量が測定される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
使用される前記化合物が前記プロテアーゼに対する基質を有しており、脱離基Zが検出される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
使用される前記化合物が酵素に対する基質を有しており、前記酵素が前記プロテアーゼによる当該酵素のプロ酵素前駆体の切断による生成物であり、脱離基Zが検出される、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
ポリマー構造と接続された、先行する請求項の何れかに記載の2以上の化合物を含む複合構造。
【請求項51】
ADEPT、PDEPT、MDEPT、VDEPT、又はGDEPTを介して標的細胞又は標的組織の近傍又は内部に輸送される酵素によって、前記指定子Vが除去又は変換される、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項52】
治療が必要な哺乳動物を治療するための薬学的組成物の調製のための、先行する請求項の何れかに記載の化合物の使用。
【請求項53】
請求項1ないし51の何れかに記載の化合物を含む薬学的組成物。
【請求項54】
請求項1ないし51の何れかに記載の化合物と薬学的に許容される担体とを混合する工程を含む、薬学的組成物を調製する方法。
【請求項55】
請求項52又は53に記載された薬学的組成物又は請求項54の方法によって得られた薬学的組成物の治療的有効用量を哺乳動物に投与することを含む、治療を必要とする哺乳動物を治療する方法。
【請求項1】
自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系を介して、同一又は異なる脱離基(Z)が2以上連結された指定子(V)を有する化合物であって、単一の活性化工程で、少なくとも2つの脱離基を放出し、前記活性化工程が前記指定子の除去又は変換である化合物。
【請求項2】
2以上の自己脱離多重放出スペーサーを有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
樹状構造形態の自己脱離多重放出スペーサーの2以上の階層が組み込まれた自己脱離多重放出スペーサー系を有する、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
V−(W−)W(X−)XC((A−)aZ)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aZd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aZ)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aZ)f)e)d)c、
から選択される式
(式中、
Vは、[O]、及び必要に応じて予め受容体に結合した後に、化学的、光化学的、物理的、生物的、又は酵素的活性化によって除去又は変換される指定子から選択され;
(W−)W(X−)XC((A−)a)c、
(W−)W(X−)XC(D((A−)a)d)c、
(W−)W(X−)XC(D(E((A−)a)e)d)c、
(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)a)f)e)d)c、
は、自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系であり;
W及びXは、各々、同一又は異なる一重放出1,(4+2n)電子カスケードスペーサーであり;
Aは、環状化脱離スペーサーであり;
C、D、E、及びFは、各々、活性化されると、それぞれc、d、e、及びf脱離基を最大限に放出することができる自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系であり;
各Zは、独立に、脱離基又はH又はOH又は反応性部分であり;
aは、0又は1であり;
c、d、e、及びfは、独立に、2(2を含む)ないし24(24を含む)の整数であり;
w及びxは、独立に、0(0を含む)ないし5(5を含む)の整数であり;
nは、0(0を含む)ないし10(10を含む)の整数である。)
を有する請求項1、2、又は3に記載の化合物。
【請求項5】
前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系C、D、E、及びFが、式
【化1】
(式中、
Bは、NR1、O、及びSから選択され;
Pは、C(R2)(R3)Q−(W−)w(X−)xであり;式中、
Qは、意味を持たないか又は−O−CO−であり;
W及びXは、各々、同一又は異なる一重放出1,(4+2n)電子カスケードスペーサーであり;
G、H、I、J、K、L、M、N、及びOは、独立に、式:
【化2】
を有する化合物から選択されるか、
(式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は、独立に、H、C1−6アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ(OH)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)を表し、Rx、Rx1、Rx2は、独立に、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択され、前記置換基R1、R2、R3、R4、及びR5の2以上は、必要に応じて互いに接続されて1若しくは複数の脂肪族又は芳香族環状構造を形成する。)、又は、
G、J、及びMは、P及び水素の群から選択され得るが、但し、G、J、及びMの2つが水素であれば、残りの基は、
【化3】
若しくは、
【化4】
でなければならず、同時に、
【化5】
に共役していなければならず、
g、h、i、j、k、l、m、n、o、h’、g’、k’、j’、n’、m’は、独立に、0、1、又は2であるが、但し、
G=水素又はPであれば、g、h、i、h’、及びg’は全て0に等しく;
J=水素又はPであれば、j、k、l、k’、及びj’は全て0に等しく;
M=水素又はPであれば、m、n、o、n’、及びm’は全て0に等しく;
G、H、I、J、K、L、M、N、又はOが、
【化6】
であれば、
それぞれ、g+g’=1、h+h’=1、i=1、j+j’=1、k+k’=1、l=1、m+m’=1、n+n’=1、又はo=1であり;
G、H、I、J、K、L、M、N、又はOが、
【化7】
であれば、
それぞれg+g’=2、h+h’=2、i=2、j+j’=2、k+k’=2、l=2、m+m’=2、n+n’=2、又はo=1であり;
g’=0であり且つGが水素又はPでなければ、h、h’、及びiは0に等しく且つg>0であり;
g=0であり且つGが水素又はPでなければ、g’>0であり;
g’>0且つh’=0であれば、i=0且つh>0であり;
g’>0且つh=0であれば、h’>0且つi>0であり;
j’=0且つJが水素又はPでなければ、k、k’、lは0に等しく且つj>0であり;
j=0且つJが水素又はPでなければ、j’>0であり;
j’>0且つk’=0であれば、l=0且つk>0であり;
j’>0且つk=0であれば、k’>0且つl>0であり;
m’=0且つMが水素又はPでなければ、n、n’、oは0に等しく且つm>0であり;
m=0且つMが水素又はPでなければ、m’>0であり;
m’>0且つn’=0であれば、o=0且つn>0であり;
m’>0且つn=0であれば、n’>0且つo>0であり;
w及びxは、独立に、0(0を含む)ないし5(5を含む)の整数であり;
但し、前記化合物がCのみを含有しており、D、E、及びFが存在せず、B=NR1であり、G及びMはHであり、g、h、i、h’、g’、k、l、k’、l’、m、n、o、n’、及びm’は0であり、J=
【化8】
であり、j=2であり、Q=−O−CO−であり、w及びxが0であり、R1、R2、R3、及びR4がHであれば、脱離基Zのうち少なくとも1つは、脂肪族アミノ基を介してQに接続されない。)、
を有する化合物から独立に選択される、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項6】
前記1,(4+2n)電子カスケードスペーサーW及びXが、式
【化9】
(式中、
Qは、意味を持たないか又は−O−CO−であり;
t、u、及びyは、独立に0ないし5の整数であり;
T、U、及びYは、独立に、式:
【化10】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9は、独立に、H、C1−6アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ(OH)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)を表し、Rx、Rx1、Rx2は、独立に、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択され、置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、又はR9の2以上は、必要に応じて互いに接続されて1又は複数の脂肪族又は芳香族環状構造を形成する。)
を有する化合物から独立に選択される。)、
を有する化合物から独立に選択される、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項7】
前記離脱基Zが、該脱離基のO、S、又は芳香族Nを介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に連結されている、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項8】
前記脱離基Zが、脂肪族Nを介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に連結されており、階層C、D(存在する場合)、E(存在する場合)、又はF(存在する場合)のうち何れかの多重放出スペーサー又はスペーサー系の少なくとも1つがフェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサー又はスペーサー系であり、
i)前記階層中の少なくとも1つの多重放出スペーサーについて、B=O若しくはSであり、又は、
ii)前記階層中の全ての多重放出スペーサーについてB=Nである場合には、少なくとも1つの一重放出スペーサーは、前記階層中の少なくとも1つの多重放出スペーサーの少なくとも2つの分岐に接続されており、前記一重放出スペーサーのうち少なくとも2つについてB=O又はSである、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項9】
前記階層中の全ての多重放出スペーサー又はスペーサー系についてB=O又はSである、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
前記フェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーが、A又はZ又はSのうち何れかに接続されており、Sが請求項26に定義されているとおりである、請求項8又は9に記載の化合物。
【請求項11】
前記ω−アミノアミノカルボニル環状化脱離スペーサーAが、式:
【化11】
(式中、
aは、0又は1の整数であり、
bは、0又は1の整数であり;
cは、0又は1の整数であり;但し、
a+b+c=2又は3;
(式中、
R1とR2は、H、以下の群:ヒドロキシ(OH)、エーテル(ORx)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)のうち1又は複数によって必要に応じて置換されているC1−6アルキル(Rx、Rx1、及びRx2は、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択される。)を独立に表し;
R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、独立に、H、C1−6アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ(OH)、アミノ(NH2)、一置換されたアミノ(NRxH)、二置換されたアミノ(NRx1Rx2)、ニトロ(NO2)、ハロゲン、CF3、CN、CONH2、SO2Me、CONHMe、環状C1−5アルキルアミノ、イミダゾリル、C1−6アルキルピペラジニル、モルホリノ、チオール(SH)、チオエーテル(SRx)、テトラゾール、カルボキシ(COOH)、カルボキシレート(COORx)、スルホキシ(S(=O)2OH)、スルホネート(S(=O)2ORx)、スルホニル(S(=O)2Rx)、スルフィキシ(S(=O)OH)、スルフィネート(S(=O)ORx)、スルフィニル(S(=O)Rx)、ホスホノオキシ(OP(=O)(OH)2)、及びホスフェート(OP(=O)(ORx)2)を表し(Rx、Rx1、及びRx2は、C1−6アルキル基、C3−20複素環基又はC5−20アリール基から選択される。)
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、一又は複数の脂肪族又は芳香族環状構造の一部とすることができ、置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、又はR8の2以上は、必要に応じて、互いに接続されて、一又は複数の脂肪族又は芳香族環状構造を形成する。)
を有する化合物である、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項12】
基Aがωアミノアミノカルボニル環状化スペーサーであり、Zがそのヒドロキシル基を介してAに結合された部分である、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項13】
w+x>0である、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項14】
(W−)w(X−)xCc、
(W−)w(X−)xC(Dd)c、
(W−)w(X−)xC(D(Ee)d)c、又は
(W−)w(X−)xC(D(E(Ff)e)d)c、
が、
【化12−1】
【化12−2】
【化12−3】
【化12−4】
【化12−5】
【化12−6】
【化12−7】
【化12−8】
からなる群及び一重放出1,6−脱離p−アミノベンジルオキシカルボニルスペーサーが一重放出1,8−脱離p−アミノシンナミルオキシカルボニルスペーサーによって置換された上記化合物から選択される、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項15】
ωアミノ−アミノカルボニル環状化スペーサーをさらに有する、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
前記指定子Vが、プラスミン、カテプシンのうちの1つ、カテプシンB、β−グルクロニダーゼ、前立腺特異抗原(PSA)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u−PA)、マトリックスメタロプロテイナーゼのファミリーのメンバーによって切断され得る基質を含有するか、又は前記指定子Vが[O]であり若しくは低酸素条件下での還元若しくはニトロ還元酵素による還元によって除去若しくは変換され得るニトロ−(複素)芳香族部分を含有する、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項17】
Zが、抗生物質、抗炎症剤、抗ウイルス剤、及び好ましくは抗癌剤から選択される、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項18】
Zが、
(ヒドロキシル含有細胞毒性化合物)エトポシド、コンブレスタチン、カンプトテシン、イリノテカン(CPT−11)、SN−38、トポテカン、9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、10−ヒドロキシカンプトテシン、GG211、ラルトテカン、パクリタキセル、ドセタキセル、エスペラマイシン、1,8−ジヒドロキシ−ビシクロ[7.3.1]トリデカ−4−エン−2,6−ジイン−13オン、アングイジン、ドキソルビシン、モルホリン−ドキソルビシン、N−(5,5−ジアセトキシペンチル)ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、タリソマイシン、ブレオマイシン、4−ビス(2−クロロエチル)アミノフェノール、4−ビス(2−フルオロエチル)アミノフェノール、及びそれらの誘導体、
(スルフヒドリル含有化合物)エスペラマイシン、及び6−メルカプトプリン、並びにそれらの誘導体、
(カルボキシル含有化合物)メトトレキサート、アミノプテリン、カンプトテシン(ラクトンの開環型)、クロラムブシル、メルファラン、酪酸及びレチノイン酸、並びにそれらの誘導体、
(アジリジンアミノ含有化合物又は芳香族アミノ含有化合物)マイトマイシンC、マイトマイシンA、十分な脱離基能を有するアミン官能性を含有するアンスラサイクリン誘導体、ミトキサントロン、9−アミノカンプトテシン、メトトレキサート、アミノプテリン、タリソマイシン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、N,N−ビス(2−クロロエチル)−p−フェニレンジアミン、N,N−ビス(2−フルオロエチル)−p−フェニレンジアミン、デオキシシチジン、シトシンアラビノシド、ゲムシタビン、及びそれらの誘導体、
(脂肪族アミノ含有化合物)ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、N−(5,5−ジアセトキシペンチル)ドキソルビシン、アントラサイクリン、N8−アセチルスペルミジン、1−(2−クロロエチル)−1,2−ジメタンスルホニルヒドラジン、又はそれらの誘導体
から選択される、請求項17の化合物。
【請求項19】
Zが、その2’ヒドロキシル基を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合されたパクリタキセル、ドセタキセル、又はそれらの誘導体を表す、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
Zが、その20ヒドロキシル基を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、カンプトテシン、イリノテカン(CPT−11)、SN−38、トポテカン、9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、10−ヒドロキシカンプトテシン、GG211、ラルトテカン、又はそれらの誘導体を表す、請求項18に記載の化合物。
【請求項21】
Zが、そのフェノール性ヒドロキシル基を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、SN−38、トポテカン、10−ヒドロキシカンプトテシン、エトポシド、4−ビス−(2−クロロエチル)アミノフェノール、4−ビス−(2−フルオロエチル)アミノフェノール、又はそれらの誘導体を表す、請求項18に記載の化合物。
【請求項22】
Zが、その芳香族一級アミン基を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、9−アミノカンプトテシン、N,N−ビス(2−クロロエチル)−p−フェニレンジアミン、N,N−ビス(2−フルオロエチル)−p−フェニレンジアミン、又はそれらの誘導体を表す、請求項18に記載の化合物。
【請求項23】
Zが、その脂肪族一級アミン基を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に結合された、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、N−(5,5−ジアセトキシペンチル)ドキソルビシン、アントラサイクリン、N8−アセチルスペルミジン、1−(2−クロロエチル)−1,2−ジメタンスルホニルヒドラジン、又はそれらの誘導体
を表し、階層C、D(存在する場合)、E(存在する場合)、又はF(存在する場合)のうち何れかの多重放出スペーサー又はスペーサー系の少なくとも1つがフェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサー又はスペーサー系であり、
i)前記階層中の少なくとも1つの多重放出スペーサーについて、B=O又はSであり、又は、
ii)前記階層中の全ての多重放出スペーサーについてB=Nである場合には、少なくとも1つの一重放出スペーサーは、前記階層中の少なくとも1つの多重放出スペーサーの少なくとも2つの分岐に接続されており、前記一重放出スペーサーのうち少なくとも2つについてB=O又はSである、
請求項18に記載の化合物。
【請求項24】
前記階層中の全ての多重放出スペーサー又はスペーサー系についてB=O又はSである、請求項23に記載の化合物。
【請求項25】
前記フェノール又はチオフェノールをベースとする多重放出スペーサーが、A又はZ又はSのうち何れかに接続されており、Sが請求項26に定義されているとおりである、請求項23又は24に記載の化合物。
【請求項26】
V−(W−)W(X−)XC((A−)aS)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aSd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aS)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aS)f)e)d)c、
(式中、
V、W、X、C、D、E、F、A、w、x、c、d、e、f、及びaは先行する請求項に定義のとおりであり、各Sは、独立に、意味を持たないか又はH、OH、若しくは同一若しくは異別であり得る脱離基Zへの多重放出スペーサー系を結合させて、それぞれ、化合物
V−(W−)W(X−)XC((A−)aZ)c、
V−(W−)W(X−)XC(D((A−)aZd)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E((A−)aZ)e)d)c、
V−(W−)W(X−)XC(D(E(F((A−)aZ)f)e)d)c、
を与えることができる反応性部分である。)
から選択される式を有する化合物。
【請求項27】
前記反応性部分Sが、カルボニル基を介して、前記多重放出スペーサー又はスペーサー系に接続されている、請求項26に記載の化合物。
【請求項28】
Sが、N−スクシンイミジル−N−オキシド、p−ニトロフェノキシド、ペンタフルオロフェノキシド、又は塩化物を表す、請求項27に記載の化合物。
【請求項29】
Sが、前記多重放出スペーサー又はスペーサー系のメチレン基に接続されている、請求項26に記載の化合物。
【請求項30】
Sが、塩化物、臭化物、p−トルエンスルホネート、トリフルオロメチルスルホネート、又はメチルスルホネートを表す、請求項29に記載の化合物。
【請求項31】
前記指定子Vがトリペプチドである、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項32】
前記トリペプチドが、そのC末端を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に連結されている、請求項31に記載の化合物。
【請求項33】
前記トリペプチドの前記C末端アミノ酸残基がアルギニン及びリジンから選択され、前記トリペプチドの中央アミノ酸残基がアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、シクロヘキシルグリシン、トリプトファン及びプロリンから選択され、前記トリペプチドの前記N末端アミノ酸残基がDアミノ酸残基及び保護されたグリシンを含む保護されたLアミノ酸残基から選択される、請求項32に記載の化合物。
【請求項34】
前記指定子VがD−アラニルフェニルアラニルリジン、D−バリルロイシルリジン、D−アラニルロイシルリジン、D−バリルフェニルアラニルリジン、D−バリルトリプトファニルリジン、及びD−アラニルトリプトファニルリジンから選択される、請求項33に記載の化合物。
【請求項35】
前記指定子Vが、C末端を介して、前記自己脱離多重放出スペーサー又はスペーサー系に共有結合されている、アミノ末端がキャップされたペプチドである、先行する何れかの請求項に記載の化合物。
【請求項36】
前記指定子Vがベンジルオキシカルボニルフェニルアラニルリジン、ベンジルオキシカルボニルバリルリジン、D−フェニルアラニルフェニルアラニルリジン、ベンジルオキシカルボニルバリルシトルリン、tert−ブチルオキシカルボニルフェニルアラニルリジン、ベンジルオキシカルボニルアラニルアルギニルアルギニン、ベンジルオキシカルボニルフェニルアラニル−N−トシルアルギニン、2−アミノエチルチオスクシンイミドプロピオニルバリニルシトルリン、2−アミノエチルチオスクシンイミドプロピオニルリジルフェニルアラニルリジン、アセチルフェニルアラニルリジン、及びベンジルオキシカルボニルフェニルアラニル−O−ベンゾイルスレオニンから選択される、請求項35に記載の化合物。
【請求項37】
前記指定子Vが、ターゲッティング部分に前記化合物を結合させるために使用できる反応性部分を有する、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項38】
前記反応性部分が、
【化13】
であり、式中Xがeen脱離基である、請求項37に記載の化合物。
【請求項39】
前記反応性部分が、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、p−ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、イソチオシアネート、イソシアネート、無水物、酸塩化物、塩化スルホニル、及びアルデヒドである、請求項37に記載の化合物。
【請求項40】
前記反応性部分が、ヒドラジン基又はアミノ基である、請求項37に記載の化合物。
【請求項41】
前記指定子Vがターゲッティング部分を有する、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項42】
前記ターゲッティング部分が、タンパク質又はタンパク質断片、抗体又は抗体断片、受容体結合部分又はペプチドベクター部分、及びポリマー又は樹状部分からなる群から選択される、請求項41に記載の化合物。
【請求項43】
【化14−1】
【化14−2】
【化14−3】
【化14−4】
【化14−5】
【化14−6】
からなる群から選択される、先行する請求項の何れかに記載の化合物及びそれらの塩。
【請求項44】
請求項4の化合物を調製するための、請求項26ないし30又は37ないし40に記載の化合物の使用。
【請求項45】
先行する請求項の何れかに記載の化合物が使用される、診断アッセイ方法。
【請求項46】
酵素の存在又は量が測定される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
プロテアーゼの存在又は量が測定される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
使用される前記化合物が前記プロテアーゼに対する基質を有しており、脱離基Zが検出される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
使用される前記化合物が酵素に対する基質を有しており、前記酵素が前記プロテアーゼによる当該酵素のプロ酵素前駆体の切断による生成物であり、脱離基Zが検出される、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
ポリマー構造と接続された、先行する請求項の何れかに記載の2以上の化合物を含む複合構造。
【請求項51】
ADEPT、PDEPT、MDEPT、VDEPT、又はGDEPTを介して標的細胞又は標的組織の近傍又は内部に輸送される酵素によって、前記指定子Vが除去又は変換される、先行する請求項の何れかに記載の化合物。
【請求項52】
治療が必要な哺乳動物を治療するための薬学的組成物の調製のための、先行する請求項の何れかに記載の化合物の使用。
【請求項53】
請求項1ないし51の何れかに記載の化合物を含む薬学的組成物。
【請求項54】
請求項1ないし51の何れかに記載の化合物と薬学的に許容される担体とを混合する工程を含む、薬学的組成物を調製する方法。
【請求項55】
請求項52又は53に記載された薬学的組成物又は請求項54の方法によって得られた薬学的組成物の治療的有効用量を哺乳動物に投与することを含む、治療を必要とする哺乳動物を治療する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13−1】
【図13−2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13−1】
【図13−2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公表番号】特表2006−507322(P2006−507322A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−551297(P2004−551297)
【出願日】平成15年11月14日(2003.11.14)
【国際出願番号】PCT/NL2003/000804
【国際公開番号】WO2004/043493
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(503347345)シンタルガ・ビーブイ (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年11月14日(2003.11.14)
【国際出願番号】PCT/NL2003/000804
【国際公開番号】WO2004/043493
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(503347345)シンタルガ・ビーブイ (4)
【Fターム(参考)】
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