説明

多頭式ミシン

【課題】 多頭式ミシンにおいて、シークイン供給装置の調整・点検・キャンセル等のメンテナンス作業を各ミシンの前で容易に行えるようにする。
【解決手段】 機枠2に複数台の刺繍ミシン3を並設し、各ミシン3にシークイン供給装置7を付設する。各シークイン供給装置7に、シークインを連ねたテープの送出用アクチュエータと、供給機構の位置を切り替える昇降用アクチュエータと、供給機構を休止位置に待機させるキャンセル用アクチュエータとを設ける。送出用アクチュエータと昇降用アクチュエータを各ミシン3に共通のコントローラ11で自動制御する。送出用アクチュエータ、昇降用アクチュエータ、キャンセル用アクチュエータをミシン毎に別々に動作させるためのスイッチ69,71を各ミシン3のテンション台5に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シークイン供給装置を備えた多頭式ミシンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、刺繍ミシンを用いてシークイン(スパンコールともいう)を加工布に縫い付ける技術が知られている。例えば、特許文献1には、シークインの縫付途中に、ジャンプソレノイドで針棒叩きを針棒から退避させ、天秤で上糸を引き締めて、布送りに伴うシークインの裏返りを防止する技術が記載されている。特許文献2には、シークイン縫いに必要な縫製データを刺繍ミシンのコントローラにて設定する技術が記載されている。
【0003】
また、従来、シークインを連ねたテープを送り出し、テープから先頭のシークインを切断してミシンの縫付位置に供給する装置が知られている。例えば、特許文献3には、テープを幅方向にずれないように案内するガイドレールを備えた装置が記載されている。特許文献4には、シークインのサイズ変更に対応できるように、左右のガイドレールの間隔をテープの幅に応じて調整する手段を備えた装置が記載されている。
【特許文献1】特開平2−144094号公報
【特許文献2】特開平5−220284号公報
【特許文献3】西独国実用新案第9209764号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0768417号明細書
【0004】
ところで、シークインのサイズが変わると、テープの幅のみならず、テープの送り出し量が変化し、これに伴い、シークインの切断位置も変化する。このため、従来は、シークインのサイズに合わせて、供給装置の該当部材を調整した後、コントローラ上のボタンを押して、テープ送りモータを動作させ、テープを試しに送り出して、先頭のシークインの形状を検査し、正規形状のシークインが得られるまで、調整、送り出し、検査等の作業を繰り返し行っていた。
【0005】
また、複数台のミシンにそれぞれシークイン供給装置を付設した多頭式ミシンでは、各供給装置に設けられたエアシリンダが全ミシンに共通のコントローラで自動制御され、テープの供給機構が稼働位置と休止位置とに切り替えられる。そして、一部のミシンでシークイン縫いをキャンセルする場合や、トラブルが発生した供給装置を点検する場合などに、従来は、やはりコントローラ上のボタン操作によってエアシリンダを動作させていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、多頭式ミシンにおいては、機枠が複数台のミシンを並設するために横長になっているにも拘わらず、コントローラは機枠の片端に1台設置されているだけなので、調整作業に際し、従来は、作業者が各ミシンとコントローラとの間を何度も行き来する必要があった。しかも、供給装置が各ミシンに付設されているため、例えば20頭立てのミシンで全供給装置の調整作業を完了するには、多大な手間と時間がかかるという問題点があった。
【0007】
本発明の主たる目的は、上記課題を解決し、シークイン供給装置の各種メンテナンス作業を各ミシンヘッドの前で短時間に行うことができる多頭式ミシンを提供することにある。
【0008】
より具体的には、シークインのサイズが変わったときに、シークイン供給装置の調整作業を各ミシンヘッドの前で短時間に行うことができる多頭式ミシンを提供することにある。
【0009】
また、シークイン供給機構を加工布に接近する稼働位置と加工布から上方へ離れた休止位置との間で切り替える作業を、各ミシンヘッドの前で短時間に行うことができる多頭式ミシンを提供することにある。
【0010】
さらに、シークイン縫いを行わないミシンでのシークイン供給動作を各ミシンヘッドの前で容易にキャンセルすることができる多頭式ミシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、機枠に複数台のミシンを並設し、各ミシンにシークイン供給装置を付設した多頭式ミシンにおいて、次の特徴的手段(1)〜(4)が考えられ、本発明は(3)の手段を採ったものである。
【0012】
(1)各シークイン供給装置のアクチュエータを制御する各ミシンに共通のコントローラと、アクチュエータをミシン毎に別々に動作させるスイッチとを備え、スイッチを各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内に配置する。
【0013】
(2)各シークイン供給装置に、シークインを連ねたテープをミシンの縫付位置に向けて送り出す送出部材と、送出部材を駆動するアクチュエータとを設け、アクチュエータを制御する各ミシンに共通のコントローラと、アクチュエータをミシン毎に別々に動作させるスイッチとを備え、スイッチを各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内に配置する。
【0014】
(3)各シークイン供給装置に、シークインを連ねたテープをミシンの縫付位置に向けて送り出す送出部材を備えた供給機構と、供給機構を加工布に接近する稼働位置と加工布から離れた休止位置とに配置するアクチュエータとを設け、アクチュエータを制御する各ミシンに共通のコントローラと、アクチュエータをミシン毎に別々に動作させるスイッチとを備え、スイッチを各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内に配置する。
【0015】
(4)各シークイン供給装置に、シークインを連ねたテープをミシンの縫付位置に向けて送り出す送出部材を備えた供給機構と、供給機構を加工布に接近する稼働位置と加工布から上方へ離れた休止位置とに配置する昇降用アクチュエータと、供給機構を休止位置に待機させるキャンセル用アクチュエータとを設け、昇降用アクチュエータを制御する各ミシンに共通のコントローラと、キャンセル用アクチュエータをミシン毎に別々に動作させるスイッチとを備え、スイッチを各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内に配置する。
【0016】
上記各手段において、ミシンの種類は、特に限定されず、例えば、刺繍ミシン、直線縫いミシン、環縫いミシン等、シークインを縫付可能な各種ミシンを使用できる。シークインの形状は、特に限定されず、真円形、楕円形、角丸四角形、星形、菱形等を例示できる。シークインを連ねたテープとは、シークインが数珠繋ぎになった帯状材であり、その供給源にはリール、ボビン、容器等を使用できる。
【0017】
テープの送出部材としては、回転部材、揺動部材、直線移動部材、直線移動と揺動を組み合わせた複合運動部材等を例示できる。送出部材を駆動するアクチュエータには、例えば、モータ、ソレノイド、エアシリンダ等を使用できる。モータとしては、テープの送り出し量を容易に制御できる点で、ステッピングモータが好ましい。
【0018】
シークイン供給装置に、テープから先頭のシークインを切断する切断部材と、先頭のシークインの切断位置を調整する調整部材とを設けてもよい。
【0019】
切断部材は、先頭のシークインと次のシークインとの接続部を切断する部材であり、具体的には、接続部を剪断して先頭のシークインをテープから切り取るカッタ、あるいは、先頭のシークインを引っ張ってテープから切り離す部材等を使用できる。また、切断部材を専用のアクチュエータで駆動してもよく、ミシン可動部を利用して駆動してもよい。
【0020】
また、切断部材のアクチュエータを動作させるスイッチを各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内に配置してもよい。
【0021】
調整部材としては、切断部材の位置を調整する部材を用いてもよく、テープの送り出し量を調整する部材を用いてもよい。ただし、前者の場合は、ミシンの振動等で送出部材の移動量が変化すると、切断位置がずれ、シークインを正規形状(例えば真円形)に切断できなくなる可能性がある。これに対し、後者の場合は、送出部材の移動量を調整することで、シークインの接続部を切断部材に正確に位置決めし、装飾部品としてのシークインを見栄えよく切断できる利点がある。具体的には、調整部材に、送出部材の前進端位置を規制する規制部と、規制部をテープの送り出し方向に位置調整する調整部とを設けるのが好ましい。
【0022】
スイッチは、調整作業に際して、作業者がテープを試し送りするために操作する手元スイッチである。スイッチの配置場所は、各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内であれば、特に限定されない。例えば、スイッチを各ミシンのヘッドやテンション台に配置してもよく、シークイン供給装置のフレームに配置してもよく、各ミシン近傍の機枠やテーブルの下側に配置してもよい。また、ミシンに既設の各種スイッチをミシンの休止状態でテープ送り出し用の手元スイッチとして機能させることも可能である。
【0023】
さらに、スイッチは、シークイン供給装置のメンテナンス作業に際して、供給機構の位置を切り換えたり、シークイン縫いを行わないミシンでシークインの供給動作をキャンセルしたりするために操作する手元スイッチであり、その配置場所は、各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内であれば、特に限定されない。
【発明の効果】
【0024】
上記手段(1)の多頭式ミシンによれば、複数台のミシンにシークイン供給装置を付設した多頭式ミシンにおいて、各シークイン供給装置のアクチュエータを動作させるスイッチを各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内に配置したので、作業者は各ミシンの前に立ちながら調整・点検等の各種メンテナンス作業(以下の各発明における作業も全て含む)を楽に短時間で行うことができる。
【0025】
より具体的な上記手段(2)の多頭式ミシンによれば、各シークイン供給装置のテープ送出部材のアクチュエータを動作させるスイッチを各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内に配置したので、作業者は各ミシンの前に立ちながらテープを送り出すことができ、シークインのサイズ変更に伴う調整作業を楽に短時間で行うことができる。
【0026】
また、上記手段(3)すなわち本発明の多頭式ミシンによれば、各シークイン供給機構を稼働位置と休止位置とに配置するアクチュエータを動作させるスイッチを各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内に配置したので、作業者は各ミシンの前に立ちながらそのシークイン供給装置を単独で位置切り替えすることができる。
【0027】
さらに、上記手段(4)の多頭式ミシンによれば、供給機構を休止位置に待機させるキャンセル用アクチュエータを動作させるスイッチを各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内に配置したので、作業者はシークイン縫いを行わないミシンでシークインの供給を各ミシンの前に立ちながら容易にキャンセルすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
機枠に複数台のミシンを並設し、各ミシンにシークイン供給装置を付設し、各シークイン供給装置が、シークインを連ねたテープをミシンの縫付位置に向けて送り出す送出部材と、送出部材を駆動するアクチュエータと、テープから先頭のシークインを切断する切断部材と、先頭のシークインの切断位置を調整する調整部材とを備え、各アクチュエータを動作させるスイッチを各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内、好ましくは各ミシンのヘッドやテンション台に配置する。また、各シークイン供給装置を加工布に接近する稼働位置と加工布から上方へ離れた休止位置とに配置するアクチュエータを設け、各アクチュエータを動作させるスイッチを各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内、好ましくは各ミシンのヘッドやテンション台に配置する。
【0029】
図面に基づきより具体的に説明すると、図1,図4に示すように、多頭式ミシン1の機枠2には複数台のミシン3が並設され、各ミシン3にシークイン供給装置7が付設される。各シークイン供給装置7には、シークインSを連ねたテープ17をミシン3の縫付位置に向けて送り出す送出部材31と、送出部材31を駆動するアクチュエータとしてのステッピングモータ36と、送出部材31を備えた供給機構21を加工布9に接近する稼働位置と加工布9から上方へ離れた休止位置とに配置する昇降用アクチュエータとしてのエアシリンダ15(図3参照)と、供給機構21を休止位置に待機させるキャンセル用アクチュエータとしてのソレノイド24とが設けられる。
【0030】
そして、多頭式ミシン1は各ミシン3に共通のコントローラ11を備え、コントローラ11によって各シークイン供給装置7のステッピングモータ36とエアシリンダ15とが一斉に自動制御される。各ミシン3において、ミシン3の前に立つ作業者の手が届く範囲内には、ステッピングモータ36、エアシリンダ15、ソレノイド24のうち、少なくとも一つのアクチュエータをミシン毎に別々に動作させるスイッチ69,71が設けられる。好ましくは、スイッチ69,71を各ミシン3のヘッド4又はテンション台5に配置するとよい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を具体化した実施例を図面に基づいて説明する。図1に示すように、この多頭式ミシン1の機枠2には、複数台(例えば20台)の刺繍ミシン3が並設されている。各刺繍ミシン3はヘッド4とテンション台5とベッド6とを備え、ヘッド4の片側にシークイン供給装置7が付設されている。機枠2にはベッド6と同じ高さにテーブル8が架設され、テーブル8の上に加工布9を保持する刺繍枠10が載置されている。テーブル8の片端には1台のコントローラ11が設置され、コントローラ11により全頭の刺繍ミシン3とシークイン供給装置7とが同期制御される。
【0032】
図2,図3に示すように、シークイン供給装置7は、ヘッド4に取り付けられるフレーム13を備えている。フレーム13には、スライドカバー14がエアシリンダ15によりリニアガイド16を介して斜めに昇降可能に支持されている。スライドカバー14には、シークインSを直列に連ねたテープ17(詳細は図7参照)を収納するリール18と、テープ17を案内する複数の回転子19と、テープ17を刺繍ミシン3の縫付位置(針棒20の下側)に供給する供給機構21とが設けられている。
【0033】
供給機構21は、エアシリンダ15の伸長時に、加工布9に接近する稼働位置に配置され(図3a参照)、エアシリンダ15の収縮時に、加工布9から上方へ離れた休止位置に配置される(図3b参照)。スライドカバー14には突起22が設けられ、フレーム13に係止板23とこれを回動するソレノイド24とが設けられている。そして、コントローラ11にてシークイン縫いを行わない刺繍ミシン3が指定され、そのミシン3に該当するシークイン供給装置7のソレノイド24が励磁され、係止板23に突起22が係止され、供給機構21が休止位置に保持される。
【0034】
図4に示すように、供給機構21の基板26にはブロック27によりロッド28が保持され、ロッド28にスライダ29が前後動可能に支持されている。スライダ29には送出部材31がボルト30で上下に揺動可能に軸支され、バネ32によって下方へ付勢されている。送出部材31の前端にはL字形の送りピン33が下向きに突設され、その下端後側に斜面34が形成されている。スライダ29の前進時には、送出部材31が送りピン33の下端をシークインSの穴hに挿入して、テープ17を刺繍ミシン3の縫付位置に向けて送り出す。スライダ29の後退時には、送出部材31が斜面34の作用で上方へ揺動し、送りピン33がテープ17から離脱する。
【0035】
基板26の裏面(送出部材31と反対側の面)にはステッピングモータ36が設置され、その出力軸37はアーム38、リンク39を介しスライダ29に連結されている。縫製運転中は、ステッピングモータ36が刺繍ミシン3の主軸(図示略)と同期して制御され、出力軸37の正逆回転に伴いスライダ29が前後に駆動され、送出部材31の前進時に、テープ17の先頭シークインSが針棒20の下側に供給される。基板26の前端には切断部材41が軸40で上下に回動可能に支持されている。そして、針棒20の下降時に、針止め42(図2参照)が切断部材41を踏み下げ、切断部材41が先頭シークインSをテープ17から切断する。切断部材41には、左右方向(テープ送り方向と直角の方向)に長いカッタが用いられている。
【0036】
図5,図6に示すように、供給機構21の底板44上には左右一対の案内板45が載置され、各案内板45の相対面にテープ17を縫付位置に向けて直進案内するガイド溝46が形成されている。右側の案内板45は長孔47を通るネジ48で底板44に対し左右方向へ位置調整可能に取り付けられている。左側の案内板45は前後2枚の幅板49で右側の案内板45に対し平行移動可能に保持されている。前側の幅板49には連動板51がボルト50で軸支され、連動板51の切欠52に案内板45のピン53が嵌入されている。そして、図6(a)(b)に示すように、連動板51を回動することにより、ガイド溝46の間隔がその中心を変えずにテープ17の幅(シークインSの直径)に応じて調整される。
【0037】
左右の案内板45の間において、底板44には送りピン33の下端が嵌入するスリット55が前後に長く形成されている。スリット55の右側において底板44の上には支柱56がネジ57で固定され、支柱56に調整部材58がボルト59で組み付けられている。調整部材58には、支柱56に挿入される長孔60と、支柱56に螺合する調整ボルト61と、送出部材31の前方に突出する規制片62とが設けられている。そして、規制片62は送出部材31の前進端位置を規制する規制部として機能し、調整ボルト61は規制片62を長孔60の長さ範囲でテープ17の送り出し方向(前後方向)に位置調整する調整部として機能する。これにより、調整部材58は、テープ17の送り出し量を加減し、先頭のシークインSの切断位置をその直径に合わせて調整できるように構成されている。
【0038】
図7に示すように、送出部材31及び規制片62の相対面には斜状部63,64が形成され、斜状部63,64の係合により送出部材31が前進端位置で揺動規制され、刺繍ミシン3の振動等による送りピン33の浮き上がりが防止される。従って、送りピン33によりテープ17の後退を阻止した状態で、先頭のシークインSと次のシークインSとの接続部を切断位置に正確に位置決めすることができる。また、送りピン33の下端でテープ17を底板44に押し付け、この部分より先のテープ17のばたつきを防止して、シークインSの接続部を切断部材41で正確に切断することもできる。後側のブロック27にはスライダ29に当接するストップボルト65が螺着され、このボルト65によって送出部材31の後退端位置が調整される。ブロック27の下側には、ガイド溝46の手前でテープ17を底板44に押え伏せる板バネ66と、板バネ66の先端高さを調整するボルト67とが設けられている。
【0039】
そして、すべての各刺繍ミシン3のテンション台5(図1参照)には、各ミシン3と組み合わされたシークイン供給装置7において、ステッピングモータ36を動作させるためのスイッチ69が配置されている。このスイッチ69の位置は各刺繍ミシン3の前に立つ作業者の手が届く範囲内にある。そして、縫製運転の停止中に、作業者がこのスイッチ69を操作したときには、ステッピングモータ36が一回だけ正逆回転し、送出部材31が一往復し、送りピン33がテープ17を送り出す。従って、シークインSのサイズが変わった場合に、作業者はコントローラ11まで行かずともテープ17を即座に送り出すことができる。なお、本実施例のスイッチ69は、縫製運転中に操作されたときに、該当する刺繍ミシン3を一時停止させる機能を兼ね備えている。
【0040】
次に、シークインのサイズ変更に伴う調整作業について説明する。図7は、多頭式ミシン1の通常運転時に、供給機構21が例えば直径5mmのシークインSを供給している状態を示す。この状態では、ステッピングモータ36が、刺繍ミシン3の主軸と同期して制御され、コントローラ11に設定されたステップ数で回転する。そして、送出部材31が、(a)に示す後退端位置から前進してテープ17を5mm送り出し、(b)に示す前進端位置で規制片62に当接して停止し、先頭のシークインSを底板44の前方へ送り出す。この直後に、針棒20が下降し、針止め42が切断部材41を踏み下げ、切断部材41がテープ17から先頭のシークインSを切り離す。
【0041】
図8は、シークインSの直径が9mmに変わった場合の供給機構21の調整方法を示す。このサイズ変更にあたっては、全刺繍ミシン3の停止状態で、まず、コントローラ11において、ステッピングモータ36のステップ数を9mm相当値に設定する。次に、供給機構21において、案内板45を開いてガイド溝46の間隔を調整し、調整部材58を前進させて規制片62の位置を調整する(図6b参照)。続いて、スイッチ69を押し、ステッピングモータ36を動作させ、送出部材31を駆動し、テープ17を試し送りする。そして、切断部材41を指先で押し下げ、先頭のシークインSを切断し、その形状を検査し、不具合があれば、再調整、再送りを繰り返し、正規形状のシークインSを得る。
【0042】
図9は、シークインSの直径が7mmに変わった場合の供給機構21の調整方法を示す。この場合も、同様の手順で調整作業を進めることができる。ただし、7mmの場合は、送出部材31の後退端位置が5mm,9mmの場合と相違するため、ストップボルト65を回して、スライダ29の原点位置を調整する必要がある。調整後は、スイッチ69を押し、テープ17を送り出し、先頭のシークインSを切断し、形状を検査し、再調整、再送りを繰り返して、正規形状のシークインSを得る。従って、いずれのサイズへの変更に際しても、作業者は各ミシン3の前に立ちながらテープ17の送り出し量を容易に調整することができる。
【0043】
次に、本実施例では、各刺繍ミシン3において、テンション台5にシークイン供給装置7のエアシリンダ15を動作させるためのスイッチ71が設けられている。このスイッチ71の位置も各刺繍ミシン3の前に立つ作業者の手が届く範囲内にある。従って、縫製運転の停止中に、各ミシンの前でスイッチ71を操作することにより、操作したミシン3に該当する供給機構21を単独で休止位置又は稼働位置に切り替えることができる。
【0044】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)図1に示すように、テーブル8の下側において、機枠2の両端間にスイッチ棒70を架設する。このスイッチ棒70を、多頭式ミシン1の稼働時に、全刺繍ミシン3を一斉に起動・停止させるためのスイッチとして用い、多頭式ミシン1の休止時には、全シークイン供給装置7のステッピングモータ36を一斉に動作させるためのスイッチとして用いる。こうすれば、シークインサイズの変更に際し、作業者は各ミシン3の前に立ちながら手元でスイッチ棒70を操作できるうえ、全頭の供給装置7で調整を済ませた後に、一回のスイッチ操作でテープ17を一斉に送り出すことができる。
【0045】
(2)各刺繍ミシン3又はその周辺であって各刺繍ミシン3の前に立つ作業者の手が届く範囲内に、各シークイン供給装置7のソレノイド24を動作させるためのスイッチ(図示略)を設け、縫製運転中に、スイッチが操作されたミシン3に該当する供給機構21を単独で休止位置に保持できるように構成する。
(3)各刺繍ミシン3において、ヘッド4に左右2台のシークイン供給装置7を設置する。
【0046】
(4)図1に示すテンション台5又はヘッド4に3つのスイッチを設け、各スイッチをステッピングモータ36を動作させるためのスイッチ、エアシリンダ15を動作させるためのスイッチ、ソレノイド24を動作させるためのスイッチとして用いる。
(5)図1に示すテンション台5のスイッチ71を各シークイン供給装置7のソレノイド24を動作させるためのスイッチとして用いる。
(6)図10に示すスイッチ71をエアシリンダ15を動作させるためのスイッチとして用いる。
(7)図10に示すスイッチ71をソレノイド24を動作させるためのスイッチとして用いる。
【0047】
上記(6)の実施例について詳細に説明すると、図10に示す多頭式ミシン1では、各刺繍ミシン3のテンション台5に、シークイン供給装置7のエアシリンダ15をミシン毎に別々に動作させるためのスイッチ71が設けられている。縫製運転中は、実施例1と同様、各エアシリンダ15がコントローラ11によって一斉に自動制御され、シークイン縫い開始信号に応答し、各供給機構21が休止位置から稼働位置に下降し、シークイン縫い終了信号に応答し、各供給機構21が稼働位置から休止位置に上昇する。
【0048】
また、縫製運転の停止中に、作業者がテンション台5のスイッチ71を操作したときには、操作した刺繍ミシン3に該当する供給機構21が単独で休止位置又は稼働位置に切り替えられる。このとき、スイッチ71が各刺繍ミシン3の前に立つ作業者の手が届く範囲内に配置されているので、作業者はコントローラ11まで行かずとも、刺繍ミシン3の前に立ちながら、供給機構21の点検・修理等のメンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0049】
上記(7)の実施例について詳細に説明すると、この多頭式ミシン1では、図10に示すスイッチ71が各シークイン供給装置7のソレノイド24を別々に動作させるためのスイッチとして用いられている。前記実施例と同様、全刺繍ミシン3でシークイン縫いを行う場合には、すべてのソレノイド24が消磁され、係止板23が突起22から外れた位置に配置され(図3a参照)、エアシリンダ15が伸縮可能な状態に保持される。そして、各エアシリンダ15がコントローラ11によって自動制御され、各供給機構21が稼働位置と休止位置とに切り替えられる。
【0050】
一部の刺繍ミシン3でシークイン縫いを行わない場合には、縫製運転の開始に先立ち、作業者がテンション台5のスイッチ71を操作することにより、操作した刺繍ミシン3に該当する供給装置7のソレノイド24が励磁される。そして、係止板23が突起22に係止され(図3b参照)、エアシリンダ15が収縮状態に保持され、供給機構21が休止位置で待機する。このとき、スイッチ71が各刺繍ミシン3の前に立つ作業者の手が届く範囲内に配置されているので、作業者は刺繍ミシン3の前に立ちながら、シークイン縫いを行わない刺繍ミシン3でのシークイン供給動作を容易にキャンセルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る実施例の多頭式ミシンの正面図である。
【図2】図1の多頭式ミシンに装備されたシークイン供給装置を示す側面図である。
【図3】図2のシークイン供給装置の昇降機構を示す側面図である。
【図4】図2のシークイン供給装置の供給機構を示す側面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図4の供給機構によるテープ送り動作を示す側面図である。
【図8】図7とは異なるサイズのシークインに適合する調整方法を示す側面図である。
【図9】図8とは異なるサイズのシークインに適合する調整方法を示す側面図である。
【図10】本発明に係る別の実施例の多頭式ミシンの正面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機枠に複数台のミシンを並設し、各ミシンにシークイン供給装置を付設し、各シークイン供給装置に、シークインを連ねたテープをミシンの縫付位置に向けて送り出す送出部材を備えた供給機構と、供給機構を加工布に接近する稼働位置と加工布から離れた休止位置とに配置するアクチュエータとを設け、該アクチュエータを制御する各ミシンに共通のコントローラと、該アクチュエータをミシン毎に別々に動作させるスイッチとを備え、該スイッチを各ミシン又はその周辺であって各ミシンの前に立つ作業者の手が届く範囲内に配置し、縫製運転の停止中に、各ミシンの前でスイッチを操作することにより、操作したミシンに該当する供給機構を単独で休止位置又は稼働位置に切り替えることができるようにしたことを特徴とする多頭式ミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−285483(P2009−285483A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206915(P2009−206915)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【分割の表示】特願2004−82866(P2004−82866)の分割
【原出願日】平成16年3月22日(2004.3.22)
【出願人】(000135690)株式会社バルダン (125)
【Fターム(参考)】