説明

大型ディーゼル・エンジン

【課題】潤滑剤の導入時間を単純な方法により非常に正確に設定できる、シリンダ又はピストンの潤滑を可能にする潤滑システムを有する大型ディーゼル・エンジンを提供する。
【解決手段】少なくとも1つのシリンダ2を有し、シリンダ2はボアB及び長手方向軸線Aを有し、シリンダ2内部においてピストン3が滑り面21に沿って往復運動可能に構成され、潤滑システム5がシリンダの潤滑のために設けられ、潤滑システムは少なくとも2つの潤滑点6と潤滑剤供給部8とを含み、潤滑点6を通って潤滑剤を滑り面21に供給することができ、潤滑剤供給部8は潤滑剤貯蔵部10から潤滑点6へ潤滑剤を送る、大型ディーゼル・エンジンが提供される。潤滑剤供給部8が、潤滑点6に配置された少なくとも1つのポンプ・ノズル・ユニット7を備え、各ポンプ・ノズル・ユニット7が最大で2つの潤滑点6に連結されたポンプ72を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1の導入部に記載された大型ディーゼル・エンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
大型ディーゼル・エンジンは、2サイクル・エンジン又は4サイクル・エンジンとして設計できるが、船舶用の駆動ユニットとして、又は、例えば、電気エネルギ生成用の大型発電機を駆動するなどの定置式の運転においても頻繁に使用される。この点において、エンジンは、原則としてかなりの期間にわたって永久的な運転で稼働され、動作の安全性及び稼動性に関して高い要求が課せられる。従って、とりわけ、点検の間隔が長く、摩耗が少なく、燃料の扱いが経済的であることが、操作者にとって重要な基準となる。
【0003】
この点で、シリンダの潤滑及びピストンの潤滑が最も重要である。動作状態では、ピストンは、シリンダの内壁に沿って摺動し、シリンダの内壁は、滑り面として機能し、通常はシリンダ・ライナの形で作製されている。一方で、ピストンは可能な限り容易に、すなわちシリンダ内で障害なく摺動する必要があるが、もう一方で、ピストンは、燃焼過程において放出されるエネルギを機械的な仕事に効率的に変換するために、可能な限り緊密にシリンダ内の燃焼空間を密封しなければならない。
【0004】
こうした理由で、ピストンの優れた滑り特性を実現し、シリンダ壁、ピストン、及びピストン・リングの摩耗を可能な限り低く維持するために、通常はディーゼル・エンジンの動作中に潤滑油がシリンダに導入される。潤滑油は、さらに、攻撃的な(aggressive)燃焼生成物を中和し、同時に腐食を回避するように機能する。これらの多くの要求により、非常に高級で高価な物質が、潤滑油として頻繁に用いられる。
【0005】
今日の大型ディーゼル・エンジンに使用される潤滑システムは、ピストン・リングが移動中に滑り面に潤滑剤を分配するように、潤滑剤(通常は潤滑油)を、シリンダ壁を通して、ピストンの滑り面、又はピストンのピストン・リング・パッケージ内に直接的に送る。潤滑剤の導入は潤滑点を介して行われ、潤滑点は、一般的に、ノズル出口の開口、潤滑棒(lubrication bar)、又はいわゆるクイル(quill)を形成する。
【0006】
通常、1つのシリンダに対して1つの潤滑油ポンプを使用し、個々の潤滑点に供給をする。その潤滑油ポンプは、このシリンダの全ての潤滑点に潤滑剤を供給する。構造設計によっては、この潤滑油ポンプは、それぞれのシリンダ、又はそれぞれの潤滑点から何メートルか離れていることもある。
【0007】
所望の注入を精密におこなうことは、全く不可能ではないが、大きな困難を伴うということが既知のシステムの問題である。
【0008】
例えば、エンジンの最高速度において潤滑点の位置に応じて潤滑剤をピストン・リング・パッケージに導入しなければならない場合、実行可能な時間は、ピストン・リング・パッケージが潤滑点を通過する数ミリ秒しかない。例えば、潤滑剤の圧縮性又は液体の慣性によっても生じるシステムの慣性により、潤滑油ポンプは、補償のためのリード・タイムを有する必要がある。リード・タイムは、複雑な、及び/又は高価な方法で、決定され、設定されなければならない。
【0009】
システムにおける摩耗に応じて、又は動作条件に応じて、この必要となるリード・タイムは変化するので、監視して、効果的な導入時間と比較し、随意に補正する必要がある。
【0010】
そのような方策にもかかわらず、潤滑剤の効果的な導入時間に関して、不都合なほどに高い不正確さを生じる可能性が依然としてある。それは、例えば、潤滑点と、それを供給する潤滑剤ポンプとの距離が実質的にそれぞれ異なり、それにより、移動する潤滑剤の液体の慣性がそれぞれ異なり、圧縮性に差が生じるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、この従来技術を出発点とし、本発明の目的は、可能な限り効率的で柔軟性があり、潤滑剤の導入時間を単純な方法により非常に正確に設定できる、シリンダ又はピストンの潤滑を可能にする潤滑システムを有する大型ディーゼル・エンジンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的に適う本発明の主題は、独立請求項の構成により特徴付けられる。
【0013】
従って、本発明により、少なくとも1つのシリンダを有する大型ディーゼル・エンジンであって、シリンダはボア及び長手方向軸線を有し、シリンダ内部において、ピストンが滑り面に沿って往復運動可能に構成されており、潤滑システムがシリンダの潤滑のために設けられており、潤滑システムは少なくとも2つの潤滑点と潤滑剤供給部とを含み、潤滑点を通って潤滑剤を滑り面に供給することができるようになっており、潤滑剤供給部は潤滑剤貯蔵部から潤滑点へ潤滑剤を送るようになっている、大型ディーゼル・エンジンが提供される。潤滑剤供給部が、潤滑点に配置された少なくとも1つのポンプ・ノズル・ユニットを備え、各ポンプ・ノズル・ユニットが最大で2つの潤滑点に潤滑剤を供給できるように、各ポンプ・ノズル・ユニットが最大で2つの潤滑点に連結されたポンプを含む。
【0014】
ポンプ・ノズル・ユニットは、潤滑点に直接的に設けられ、とりわけ潤滑点がノズル出口の開口を形成するようになっているので、ポンプと、それによって供給される潤滑点との間の距離が非常に短くなる。従って、ラインが長いために生じる問題、とりわけ潤滑剤の液体の慣性及び圧縮性に基づく問題は、少なくとも大幅に緩和され、潤滑剤の導入時間について正確性を増すことが可能になる。
【0015】
各ポンプ・ノズル・ユニットのポンプを、別のポンプ・ノズル・ユニットのポンプから独立に作動させることが可能となっている。独立に作動可能な各ポンプが、1つ又は最大で2つの潤滑点に対して設けられるので、非常に柔軟で効率的なシリンダの潤滑となり、とりわけ、大型ディーゼル・エンジンのそれぞれの動作状態に単純な方法で適用することが可能である。
【0016】
潤滑剤の導入の正確性について、時間的にできるだけ正確にするためには、ポンプ・ノズル・ユニットのポンプの吐出部と、吐出部に連結された各潤滑点との間隔のいずれもが、最大でシリンダのボアの直径と同じ大きさであることが好ましい。
【0017】
好ましい実施例では、ポンプ・ノズル・ユニットが、ポンプの吐出部を潤滑点のうちの1つに連結する少なくとも1つのノズルを含み、各ノズルが最大でシリンダのボアの直径と同じ長さである。
【0018】
好ましい実施例では、各潤滑点を独立して時間精度良く制御できるように、ポンプ・ノズル・ユニットが、各潤滑点に1つずつ設けられ、好ましくは独立に作動させることが可能となっている。これにより、シリンダの潤滑に対する非常に高い柔軟性が実現できる。
【0019】
好ましい実施例では、2つの潤滑点に連結され、ポンプの吐出部と潤滑点との間隔が、両方の潤滑点について等しくなるように構成された、少なくとも1つのポンプ・ノズル・ユニットが設けられている。ポンプ・ノズル・ユニット当たりに2つの潤滑点を有する実施例により、装置が簡易的になり、及び/又はコスト低減される。潤滑点は、ポンプ・ノズル・ユニットから同じ間隔にあるため、すなわち、とりわけポンプ・ノズル・ユニットに対して対称に配置されるため、潤滑点とそれらに供給するポンプとの間のライン長が異なることから生じる全ての問題が回避できる。
【0020】
非常に簡単な構造とする観点から、好ましい実施例は、ポンプ・ノズル・ユニットのポンプが、それぞれピストン・ポンプとして作製され、ピストン・ポンプ内において動作ピストンがポンプ空間内で往復運動可能なように構成され、ある搬送量の潤滑剤が各行程毎にポンプの吐出部を通ってノズルに送られる。
【0021】
一変形例では、ポンプ・ノズル・ユニットのポンプが、複数の動作ピストンを含み、各動作ピストンが個々のポンプ空間内に構成されている。作動サイクル当たりに潤滑点に送られる潤滑剤の搬送量は、例えば、この構成を使用した簡単な方法で設定できる。例えば部分負荷の動作において、潤滑剤の必要量が少ない場合には、1つだけ動作ピストンを作動させることができ、潤滑剤の必要量が多い場合には、2つ以上の動作ピストンを作動させる。
【0022】
ポンプ・ノズル・ユニットの動作ピストン及び関連するポンプ空間が、異なる量を搬送するように構成されている実施例の場合、ポンプ・ノズル・ユニットの動作ピストンが一定の搬送容量で動作されるので、とりわけ有利である。潤滑剤の必要量が低減した場合、一行程当たりの搬送量がより少ない動作ピストンを作動させることができ、これに対して潤滑剤の必要量が増加した場合には、一行程当たり搬送量がより大きい動作ピストンを作動させることができ、及び/又は複数の動作ピストンを作動させることができる。
【0023】
ポンプ・ノズル・ユニットのポンプを、液圧もしくは空気圧によって、又は液圧/空気圧複合型によって作動させることが可能となっていることが好ましい。
【0024】
ポンプ・ノズル・ユニットのポンプを、電気的に作動させることが可能となっていれば、当然有利である。
【0025】
好ましい実施例では、潤滑システムが、全ての潤滑剤供給部に連結された、潤滑剤用のコモン・レール貯蔵部を含む。
【0026】
潤滑点が、シリンダの長手方向軸線によって表される軸線方向に対して異なる位置に配置されている場合に、とりわけシリンダ内の効率的かつ柔軟性のある潤滑の観点で有利である。すなわち、潤滑剤は異なるレベルにおいてシリンダに導入できる。
【0027】
異なる潤滑剤用の少なくとも2つの潤滑貯蔵部が、異なる潤滑剤を潤滑点に供給することができるように設けられていても有利である。原則として2つ以上の潤滑点が大型ディーゼル・エンジン内に設けられるので、本発明の潤滑システムの実施例により、少なくとも2つの異なる潤滑剤がシリンダに導入できる。従って、例えば、燃焼空間の近くにおいて、攻撃的な燃焼生成物の中和に対してとりわけ好ましい潤滑剤を導入し、燃焼空間からさらに離れた位置において、摺動特性がとりわけ好ましい潤滑剤を使用することができる。エンジンの動作状態、例えば部分負荷又は全負荷に応じて、シリンダ潤滑のために異なる潤滑剤を使用することも可能である。
【0028】
さらに、ポンプ・ノズル・ユニットによって送られる潤滑剤の量を予めある設定可能な値に設定する手段が設けられていれば好ましい。従って、それぞれの動作条件に適合させてシリンダの潤滑をおこなうことができる。
【0029】
本発明のさらに有利な方法及び好ましい実施例が従属請求項から得られる。
【0030】
本発明を実施例及び図面を参照して、以下により詳細に説明する。概略図で示しており、原寸ではなく、部分的に断面で示している。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明大型ディーゼル・エンジンの第1の実施例の概略図である。
【図2】第1の実施例のシリンダを通る概略断面図である。
【図3】本発明大型ディーゼル・エンジンの第2の実施例のポンプ・ノズル・ユニットの図である。
【図4】潤滑点の配置に関する変形例の図である。
【図5】ポンプ・ノズル・ユニットの変形例の概略図である。
【実施例】
【0032】
図1は、本発明大型ディーゼル・エンジンの第1の実施例を概略図で示し、大型ディーゼル・エンジンは参照番号1によって全体を示され、2サイクル・エンジン又は4サイクル・エンジンとして設計可能である。図2は、図1の大型ディーゼル・エンジン1の、通常は複数あるシリンダ2のうちの1つの概略断面図を示す。シリンダ2はボアを有し、ボアの直径はB、長手方向軸線はAで示されている。図2の断面は、シリンダ2の長手方向軸線Aに垂直である。
【0033】
ピストン3は、それ自体は既知の方法でシリンダ2内において往復運動可能に構成されており、大型ディーゼル・エンジン1の動作状態でシリンダ2の内壁において滑り面21に沿って移動する。滑り面21は、通常はシリンダ・インサート又はライナによって形成される。図のピストン3の上端は、燃焼過程が行われる燃焼空間4の境界となり、ピストン3は、通常は全体にピストン・リング・パッケージ31として示される複数のピストン・リングを有する。
【0034】
ピストン3の優れた滑り特性を達成し、シリンダ壁、ピストン3及びピストン・リング・パッケージ31の摩耗を可能な限り低く保つために、大型ディーゼル・エンジン1の動作中に、ピストン3、ピストン・リング・パッケージ31、及び滑り面を潤滑する潤滑剤、例えば潤滑油などを滑り面21に供給する必要がある。潤滑剤は、さらに、攻撃的な燃焼生成物を中和し、同時に、例えば硫黄腐食などの腐食を回避するように機能する。
【0035】
潤滑システム5が、シリンダの潤滑用又はピストンの潤滑用に設けられ、その潤滑システム5は、複数の潤滑点6を備え、それを介して潤滑剤が滑り面21に供給される。第1の実施例では、全部で8つの潤滑点6が設けられ、シリンダ2の周縁部に沿って配置される(図2参照)。潤滑点6は、それぞれノズル71出口の開口を形成し、そこを通って潤滑剤がシリンダ2に導入される。本出願の枠内で、「ノズル」は、潤滑剤の導入に適した全ての装置を意味し、それらは、例えば狭義では、そこを通って潤滑剤が濃縮されジェットとして噴射され、若しくは微粒化する形で噴射されるノズルでもよく、又は、そこを通って潤滑剤が流れる若しくは滴る、例えばクイルと呼ばれる、チャネル若しくはスタブでもよく、又は、潤滑剤を大型ディーゼル・エンジン1のシリンダ2に導入するために知られる全てのその他の装置でよい。
【0036】
潤滑剤供給部8が、潤滑剤貯蔵部10から潤滑点6へ潤滑剤を送るためにさらに設けられる。この実施例では、潤滑剤貯蔵部10は、コモン・レール貯蔵部又はアキュムレータとして作製され、潤滑剤が貯蔵部又はアキュムレータから流出し、潤滑点6まで達するために十分な圧力で、潤滑剤を収容する。潤滑剤は、一般に1〜20バールの圧力でコモン・レール貯蔵部から提供される。他の方法として、ポンプ(図示せず)によって潤滑剤を貯蔵容器から送ることも当然可能であり、又は、潤滑剤を深いタンクの潤滑剤貯蔵部に入れ、そこから重力によって流出できるようにすることも当然可能である。
【0037】
本発明では、潤滑剤供給部8は、潤滑点6において潤滑油供給部8と一体化した少なくとも1つのポンプ・ノズル・ユニット7を含み、各ポンプ・ノズル・ユニット7は、最大で2つの潤滑点6に供給できるように最大で2つの潤滑点6に連結されたポンプ72を含む。第1の実施例では、各ポンプ72は、他の全ての各ポンプ・ノズル・ユニット7のポンプから独立に作動できる。
【0038】
図2が示す第1の実施例では、潤滑点6ごとに、独立に作動可能なポンプ・ノズル・ユニット7が1つずつ設けられ、ポンプ・ノズル・ユニットの数が潤滑点6の数と同じとなるように、各ポンプ・ノズル・ユニット7に、1つずつの潤滑点6が設けられる。
【0039】
潤滑油供給部8と一体化したポンプ・ノズル・ユニット7は、それぞれ、潤滑点6において、例えばシリンダ2の外壁において直接配置され、それぞれのポンプ72と、それによって供給される潤滑点6との間に生じる間隔が非常に短くなる。ノズル71出口の開口がそれぞれの潤滑点6を形成し、ノズル71が、それぞれのポンプ72と共にポンプ・ノズル・ユニット7を形成するので、ポンプ72とノズル71の間に連結ラインはない。実質的により短い反応時間がこの潤滑から得られ、それによって潤滑剤の注入の正確性が大幅に増加する。
【0040】
ポンプ・ノズル・ユニット7のポンプ72の吐出部と、ポンプ72に連結された潤滑点6との間の間隔D(図2)は、最大でシリンダのボア2の直径Bと同じ大きさであることが好ましい。具体的には、ポンプ72の吐出部を潤滑点6に連結するポンプ・ノズル・ユニット7のノズル71の長さも、最大でシリンダ2のボア径と同じであることが好ましくい。
【0041】
逆止弁73(図2には示さない)が、潤滑点6からポンプ72への潤滑剤の逆流を防止するためにノズル71にそれぞれ設けられる。
【0042】
ポンプ・ノズル・ユニット7のポンプ72は、ピストン・ポンプとして作製され、ピストン・ポンプ内には動作ピストン74がポンプ空間75内で往復運動可能なように配置される。動作ピストン74の各行程の際に、ある搬送量の潤滑剤がポンプ72の吐出部を通ってノズル71内に送られる。
【0043】
ポンプ72の動作ピストン74を作動させるために、図1に示す実施例において電気制御された3/2方向制御弁である切替え部材9が設けられる。切替え部材9は、第1の切替え位置において、動作ピストン74の背面側を圧力貯蔵部11に供給された作動媒体、例えば液圧媒体、圧縮油、又は圧縮空気に連結する。第2の切替え位置(図1に示されている位置)においては、切替え部材9が動作ピストン74の背面側を出口ライン103に連結し、そこを通して、ポンプ72の動作ピストン74の背面から作動媒体を排出することができる。切替え部材9は、切替え部材9を第2の切替え位置から第1の切替え位置にバネ92の力に逆らって移動させるための電磁石91をさらに備える。
【0044】
切替え部材9の作動のための電磁石91の制御は、点線で示された信号線200を介して切替え部材9に連結された調整ユニット12によって行われる。
【0045】
調整ユニット12は、自動調整入力部13及び手動調整入力部14を有し、それらは調整ユニット12にそれぞれ信号により接続される(図1において点線矢印201及び202で示されている)。自動調整入力部13は、好ましくはリアルタイムで、エンジンの速度もしくは負荷、又はクランク・シャフトの位置もしくは場所などのその他のシステム・パラメータなど、現状の動作状態に関する情報を含む入力信号を自動的に受け取る。滑り面21への潤滑剤の注入について、制御すべき時間、随意的に量、及び潤滑点6は、これらの入力信号を参照して決定される。パラメータ又は初期値は、手動で手動調整入力部14を介して調整ユニット12に伝達できる。
【0046】
潤滑システム5は、動作状態で以下の通り動作する。滑り面21に潤滑剤を全く供給しない場合、潤滑システム5は図1に示す状態である。切替え部材9は、動作ピストン74の背面側が作動媒体の出口ライン103に連結された切替え位置にある。ポンプ空間75がライン100を介して潤滑剤貯蔵部10に連結される。逆止弁76がライン100に設けられ、それによって潤滑剤がポンプ空間75から潤滑剤貯蔵部10へ逆流することが防止される。潤滑剤は、潤滑剤貯蔵部10内に貯蔵され、常用圧力よりわずかな過圧状態、例えば0.2〜1バールの過圧状態にされており、それは逆止弁76を開けるのには十分であるが、ノズル71の逆止弁73を開けるのには十分でない。従って、ポンプ空間75は、潤滑剤によって完全に満たされ、動作ピストン74は下死点すなわち図中の左端に達する。随意で、図示しないバネによって動作ピストン74にさらに負荷をかけ、動作ピストン74をこの図示した位置に付勢することも有利である。
【0047】
潤滑措置を開始するために、調整ユニット12は、電磁石が切替え部材をもう一方の切替え位置に持っていくように、信号線200を介して制御パルスを出力する。次いで、動作ピストン74の背面側は、作動媒体用の圧力貯蔵部に連結される。作動媒体は、圧力貯蔵部11から、連結ライン102及び101を介して、動作ピストン74の背面側に向かって流出し、下死点すなわち図中の右端に達するまで、動作ピストン74を右に移動させる。ポンプ空間75内の潤滑剤は、動作ピストン74のこの移動によってノズル71を通って押し出され、潤滑点6を介してシリンダ2内の滑り面21に移動する。
【0048】
次いで調整ユニット12は、切替え部材9を切り替えて、バネ92によって支持された図1に示された切替え位置に戻し、それによって作動媒体が動作ピストン74の背面側から排出されて出口ライン103に入り、それによって動作ピストン74は図中の左側の下死点に再び移動し、ポンプ空間75は再びライン100を介して潤滑剤によって満たされる。
【0049】
作動媒体が圧縮空気である場合、出口ライン103を通って、作動媒体を簡単に吹き出させることができる。作動媒体が圧縮油又は液圧流体である場合、出口ライン103を介して、作動媒体を導いて逆流させ、次いで例えばコモン・レール貯蔵部として作製された圧力貯蔵部11に再び供給できる。
【0050】
上述の液圧又は空気圧によるポンプ72の作動に加えて、空気圧/液圧複合型の作動を実現することもできる。
【0051】
ポンプ72の直接的な電気作動も可能であり、コイルによって、及び/又はその他の電気的に作動する変換器もしくはパルサーによって、例えば圧電性結晶作動式の変換器もしくはパルサーなどによって生じる電磁気力により、動作ピストン74は往復運動する。
【0052】
潤滑剤はポンプ72から移動し、ノズル71に直接的に入り、潤滑点6に達するので、反応時間は、大型ディーゼル・エンジンの既知の潤滑システムと比較して極端に短い。ポンプ72と潤滑点6との間の液体の慣性、及び潤滑剤の圧縮性の両方によって、事実上は遅延効果を生じないので、潤滑する時間について非常に高い精度が得られる。ピストン3が高速に移動するので、作動サイクル当たり数ミリ秒しか潤滑を実行できないという観点から見ても、この潤滑点6の潤滑過程又は位置決めとすることが可能であり、良いということが分かる。
【0053】
各ポンプ・ノズル・ユニット7は、それぞれの別のポンプ・ノズル・ユニット7から独立に作動できるので、非常に高い柔軟性のある潤滑、及び効率的な潤滑が実現できる。従って、例えば潤滑剤の必要性が低下した場合、図2に示された8つの潤滑点6の全てを使用しないようにするのではなく、例えば、ポンプ・ノズル・ユニット7のうちの4つのみを作動させ、総数8つの潤滑点6のうちの4つのみを通って潤滑剤を滑り面21に供給することが可能である。
【0054】
切替え部材9が、異なるポンプ・ノズル・ユニット7の複数のポンプ72を作動させる実施例も可能である。例えば、1つのシリンダ2に対し1つの切替え部材9を設け、このシリンダ2の全てのポンプ72を作動させることが可能である。この方法により、装置が簡易的になり、コスト低減される。
【0055】
ポンプ・ノズル・ユニット7の各ポンプ72を、それぞれの一定の容量を搬送するように作動させ、潤滑剤の導入を行うことができる。すなわち、動作ピストン74のそれぞれの作動ごとに、それぞれのポンプ空間75の容量の総量がノズル71内に送られる。
【0056】
ストローク制御して搬送する実施例も可能である。この点では、動作ピストン74がポンプ空間75内の潤滑剤のうちのいくらかをノズル71に送るように、切替え部材9が、時間において制御される。動作ピストン74の背面側は、動作ピストン74が図1において右端の位置に達する前に、この目的に応じて減圧される。それによって搬送過程が終了し、動作ピストン74が図面の左に移動し、潤滑剤はライン100を介して潤滑剤貯蔵部10からポンプ空間75に流れる。
【0057】
ストローク制御された搬送において、動作ピストン74のそれぞれの位置を検出できるセンサを設けることが有利である。この位置は調整ユニット12に伝達される。
【0058】
図3は、本発明大型ディーゼル・エンジン1の第2の実施例のポンプ・ノズル・ユニット7の図である。機能的に同じ又は同等の部品には、図1及び図2と同様の参照番号が付けられている。
【0059】
図1、図2、及び第1の実施例に関連して行われた全ての説明が、類似又は同じ意味において第2の実施例にも適用される。
【0060】
この実施例では、ポンプ・ノズル・ユニット7が2つの潤滑点6に連結される。この点では、ポンプ・ノズル・ユニット7は、ポンプ72の吐出部と潤滑点6との間隔が、両方の潤滑点6に対して等しくなるように配置されることが好ましい。
【0061】
ノズル71は、分岐ノズル71として作製され、ここでは、それぞれが潤滑点6に達する2つのアーム71a及び71bに分かれる。ノズル71が対称に設計されているため、両方の潤滑点において完全に同時の供給が確実に行われる。アーム71a又はアーム71bに関して測定した場合、ノズル71の長さは、最大でシリンダ2のボアの直径Bと同じ大きさであることが好ましい。
【0062】
ポンプ72のポンプ空間75、又はポンプ72の吐出部に開口し、そこから2つの潤滑点6のうちの1つにそれぞれ導かれる2つのノズルを、分岐ノズル71の代わりに設けることも当然可能である。
【0063】
図4は、第1の実施例及び第2の実施例の両方に適用可能な、潤滑点6の配置の変形例を示す。
【0064】
この変形例では、潤滑点6’及び6’’が、シリンダ2の長手方向軸線Aによって決定される軸線方向に対して異なる位置に配置される。潤滑点6’は、図面においてより下側に配置される。それに対して潤滑点6’’は、図面においてより上側に、燃焼空間4のより近くに配置される。
【0065】
とりわけ、この変形例では、異なる潤滑剤を潤滑点6’及び6’’に供給できるように、異なる潤滑剤のための少なくとも2つの潤滑剤貯蔵部10を設けることも可能である。従って、例えば、燃焼空間4の近くにおいて、潤滑点6’’を通して、攻撃的な燃焼生成物の中和に対してとりわけ好ましい潤滑剤を導入し、燃焼空間4からさらに離れた位置において、摺動特性がとりわけ好ましい潤滑剤を使用することができる。エンジンの動作状態、例えば部分負荷又は全負荷に応じて、シリンダ潤滑のために異なる潤滑剤を使用することも可能である。
【0066】
図4の図面とは異なり、異なる軸線方向レベルにおいて配置された2つの潤滑点6’、6’’を、同じポンプ・ノズル・ユニット7によって、すなわち図3と同類の方法で、供給することもできる。
【0067】
図5は、第1の実施例及び第2の実施例の両方に適用可能な、ポンプ・ノズル・ユニット7の変形例の概略図を示す。
【0068】
この変形例では、ポンプ・ノズル・ユニット7は複数の動作ピストンを含む。すなわち、ここでは、3つの動作ピストン741、742、及び743が含まれ、それぞれが個々のポンプ空間751、752、及び753内に配置されている。それぞれの動作ピストン741、742、及び743を作動させるために、切替え部材9’、9’’、及び9’’’が、上述した方法と同類の方法で、動作ピストンごとに1つずつ設けられる。この変形例は、上述のストローク制御による搬送方法に加えて、ポンプ・ノズル・ユニット7によって送られる潤滑剤の量を予めある設定可能な値に設定する手段を示している。すなわち、この手段においては、潤滑過程当たり、動作ピストン741、742、及び743のうちの1つのみを作動させる、又は、2つを作動させる、又は3つ全てを作動させる。
【0069】
ポンプ空間751、752、及び753は、同じ容積とすることができ、又は異なる容積とすることができる。図5に示された実施例では、ポンプ空間751が最も小さい容積を有し、ポンプ空間752が二番目に大きな容積を有し、ポンプ空間753が最大の容積を有する。従って、動作ピストン741、742、及び743が、それぞれポンプ空間751、752、及び753を完全に空にするように一定量を搬送する場合、動作ピストン741のみを作動させたときに、動作サイクル当たりの搬送量が最も小さくなる。それぞれの動作ピストン741、742、743の1つのみを作動させる場合、動作ピストン743を作動させたときに搬送量が最大になる。
【0070】
動作ピストン741、742、743のうちの2つ又は3つ全てを一緒に作動させることも当然可能である。搬送する潤滑剤のそれぞれの量を、単純な方法で、理想的には大型ディーゼル・エンジン1のそれぞれの動作状態に適合させることも可能である。
【0071】
図5に示す変形例を、ストローク制御された搬送により動作させることも可能であることが理解される。
【0072】
ここに示された実施例とは異なり、ピストン3から潤滑剤を滑り面21に供給するように、大型ディーゼル・エンジン1のピストン3に潤滑点を設けることも可能である。この場合、ポンプ・ノズル・ユニット7も、ピストン3内に、又はピストン・ロッド内に配置されることが好ましい。潤滑点6が、ピストン3、及びシリンダ2の両方に設けられる実施例も当然可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 大型ディーゼル・エンジン
2 シリンダ
3 ピストン
4 燃焼空間
5 潤滑システム
6 潤滑点
6’ 潤滑点
6’’ 潤滑点
7 ポンプ・ノズル・ユニット
8 潤滑剤供給部
9 切替え部材
9’ 切替え部材
9’’ 切替え部材
9’’’ 切替え部材
10 潤滑剤貯蔵部
11 圧力貯蔵部
12 調整ユニット
13 自動調整入力部
14 手動調整入力部
20 信号ライン
21 滑り面
31 ピストン・リング・パッケージ
71 ノズル
71a アーム
71b アーム
72 ポンプ
73 逆止弁
74 動作ピストン
75 ポンプ空間
76 逆止弁
91 電磁石
92 バネ
100 ライン
101 ライン
102 ライン
103 ライン
200 信号線
201 点線矢印
202 点線矢印
741 動作ピストン
742 動作ピストン
743 動作ピストン
751 ポンプ空間
752 ポンプ空間
753 ポンプ空間
A 長手方向軸線
B ボア
D 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのシリンダ(2)を有する大型ディーゼル・エンジンであって、前記シリンダ(2)はボア(B)及び長手方向軸線(A)を有し、前記シリンダ(2)内部において、ピストン(3)が滑り面(21)に沿って往復運動可能に構成されており、潤滑システム(5)が前記シリンダの潤滑のために設けられており、前記潤滑システムは少なくとも2つの潤滑点(6)と潤滑剤供給部(8)とを含み、前記潤滑点(6)を通って潤滑剤を前記滑り面(21)に供給することができるようになっており、前記潤滑剤供給部(8)は潤滑剤貯蔵部(10)から前記潤滑点(6)へ潤滑剤を送るようになっている、大型ディーゼル・エンジンにおいて、
前記潤滑剤供給部(8)が、前記潤滑点(6)に配置された少なくとも1つのポンプ・ノズル・ユニット(7)を備え、各ポンプ・ノズル・ユニット(7)が最大で2つの前記潤滑点(6)に潤滑剤を供給できるように、前記各ポンプ・ノズル・ユニット(7)が最大で2つの前記潤滑点(6)に連結されたポンプ(72)を含むことを特徴とする大型ディーゼル・エンジン。
【請求項2】
前記各ポンプ・ノズル・ユニット(7)の前記ポンプ(72)を、別のポンプ・ノズル・ユニット(7)の前記ポンプ(72)から独立に作動させることが可能となっている、請求項1に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項3】
前記ポンプ・ノズル・ユニット(7)の前記ポンプ(72)の吐出部と前記吐出部に連結された各潤滑点(6)との間隔(D)のいずれもが、最大で前記シリンダ(2)の前記ボアの直径(B)と同じ大きさである、請求項1又は請求項2に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項4】
前記各ポンプ・ノズル・ユニット(7)が、前記ポンプ(72)の前記吐出部を前記潤滑点(6)のうちの1つに連結する少なくとも1つのノズル(71)を含み、各ノズル(71)が最大で前記シリンダ(2)の前記ボアの直径(B)と同じ長さである、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項5】
前記ポンプ・ノズル・ユニット(7)が、各潤滑点(6)に1つずつ設けられ、好ましくは独立に作動させることが可能となっている、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項6】
2つの前記潤滑点(6)に連結され、前記ポンプ(72)の前記吐出部と前記潤滑点(6)との間隔が、両方の前記潤滑点(6)について等しくなるように構成された、少なくとも1つのポンプ・ノズル・ユニット(7)が設けられている、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項7】
前記ポンプ・ノズル・ユニット(7)の前記ポンプ(72)が、それぞれピストン・ポンプとして作製され、前記ピストン・ポンプ内において動作ピストン(74)がポンプ空間(75)内で往復運動可能なように構成され、ある搬送量の潤滑剤が各行程毎に前記ポンプ(72)の前記吐出部を通って前記ノズル(71)に送られる、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項8】
前記ポンプ・ノズル・ユニット(7)の前記ポンプ(72)が、複数の動作ピストン(741、742、743)を含み、各動作ピストンが個々のポンプ空間(751、752、753)内に構成されている、請求項7に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項9】
前記ポンプ・ノズル・ユニット(7)の前記動作ピストン(741、742、743)及び関連する前記ポンプ空間(751、752、753)が、異なる量を搬送するように設計されている、請求項8に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項10】
前記ポンプ・ノズル・ユニット(7)の前記ポンプ(72)を、液圧もしくは空気圧によって、又は液圧/空気圧複合型によって作動させることが可能となっている、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項11】
前記ポンプ・ノズル・ユニット(7)の前記ポンプ(72)を、電気的に作動させることが可能となっている、請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項12】
前記潤滑システム(5)が、全ての前記潤滑剤供給部(8)に連結された、潤滑剤用のコモン・レール貯蔵部(10)を含む、請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項13】
前記潤滑点(6、6’、6’’)が、前記シリンダ(2)の前記長手方向軸線(A)によって表される軸線方向に対して異なる位置に配置されている、請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項14】
異なる潤滑剤用の少なくとも2つの潤滑貯蔵部が、異なる潤滑剤を前記潤滑点(6、6’、6’’)に供給することができるように設けられている、請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載された大型ディーゼル・エンジン。
【請求項15】
前記ポンプ・ノズル・ユニット(7)によって送られる潤滑剤の量を予めある設定可能な値に設定する手段が設けられている、請求項1から請求項14までのいずれか一項に記載された大型ディーゼル・エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−96181(P2010−96181A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238348(P2009−238348)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(501082602)ヴェルトジィレ シュヴァイツ アクチェンゲゼルシャフト (46)
【Fターム(参考)】