説明

大型薄肉セラミック体の製造方法

【課題】低コストで安定した、大型、大面積で薄肉のセラミック体の製造方法を提供する。
【解決手段】耐熱性を有する型にセラミック原料粉末スラリーを注入し、乾燥、固化させる工程と、型の内部あるいは表面に形成された成形体を脱型せず型ごと焼成炉内に配し、所定温度に加熱し、前記成形体を焼結せしめ、炉冷後、型から焼結体を取り出す工程から成る大型薄肉セラミック体の製造方法。
【効果】脱型することなく、成形後、そのまま焼成することにより成形体のハンドリングが不要となり、大型薄肉セラミック体を容易に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度大型薄肉セラミック体及びその製造方法等に関するものであり、更に詳しくは、焼成セッターのように、大型、大面積でありながら薄肉であるために、焼結前の状態である成形体のハンドリングが非常に困難な形状及び形態のセラミック体製品、そのハンドリングを容易にして製造する方法及び装置に関するものである。本発明は、従来法では、成形体のハンドリングが困難であり、焼結時の寸法変化が大きく、焼結過程における変形や反りを小さく抑えることができなかった焼成セッターのような大型、大面積で薄肉のセラミック体製品を簡便な操作手段及び工程で、しかも、従来法の問題点を確実に解決して、製造することを可能とする上記焼成セッター等の製造技術及びその高精度大型薄肉セラミック体製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、従来セラミック製品として公知の焼成セッター等の大型薄肉セラミック体製品を、高精度で、高効率で、高品質を維持して生産するための新しい生産技術を新たに提案するものである。従来の大型薄肉セラミック体製品の製造方法としては、例えば、以下のような公知例があげられる。即ち、(1)アルミナ粉末を添加混合した粘土粉末に超高温用セラミツクフアイバ−短繊維を混合して型付けした後、乾燥・焼成することにより、苛酷な自然条件下での使用に適した建築用セラミツク板を製造する、建築用セラミツク板の成形方法が提案されている(特許文献1)。そして、この方法では、粘土粉末とセラミツクフアイバ−短繊維は予め混合して型内に吹付けてもよいとされている。
【0003】
また、(2)大型や複雑形状のセラミツクス成形体でも、クラツクの発生が無く、変形が極めて少なく、寸法精度が良好な焼結体にすることができる方法を提供するものとして、セラミツクス成形体の焼結方法においては、焼成治具内にセラミツクス粉体を入れ、セラミツクス粉体を15〜70%の相対密度にタツピングして粉体ベツドを形成し、粉体ベツドの上にセラミツクス成形板を配置し、セラミツクス成形板上にセラミツクス成形体を載置した後で焼結を行う、セラミツクス成形体の焼結方法が提案されている(特許文献2)。そして、この方法では、セラミツクス成形体とセラミツクス成形板とを同じ材質のセラミツクスにより形成することが好ましく、セラミツクス成形板の上面の平面度が1mm以下であり、かつセラミツクス成形体とセラミツクス成形板の焼結収縮率の差が1%以内であることが好ましいとされている。
【0004】
また、(3)練土状の可塑性セラミツク組成物を出発原料とし、この出発原料を真空押出し成形機あるいは真空土練機により、角柱状、円柱状あるいはその他の形状に押出し成形した成形体をプレス機により加圧成形することにより、
内部歪みを除去し、かつ密度の均一な加圧成形体に成形する、大型薄肉のセラミツク板体の成形方法及び成形型が提案されている(特許文献3)。
【0005】
また、(4)(A)可塑性のないセラミツクスはい土100部と、有機質繊維(例;古紙の解砕物)及び/又は無機質繊維(例;ムライト繊維)2〜20部とを、水で混練してスラリー(固形分含有量;5〜25%)とし、次に、上記スラリ−に、それぞれ0.1〜1%のアニオン系分散剤とカチオン系凝集剤とを添加し、撹拌した後、ウエツトマシ−ン等を用いて脱水し、生成されたフロツクを積層させてウエツトマツト(グリ−ンシ−ト)を作成し、次いで、常法に従い、乾燥、焼成して製品を得る、可塑性なきはい土を使用する大型板状セラミツクスの成形方法が提案されている(特許文献4)。この方法では、上記ウエツトマツトは、大型(例;500×500×4mm程度)であつても移動、運搬に耐えるだけのグリ−ン強度、たわみ性を有しているので、容易に大型製品を製造することができるとされている。
【0006】
更に、(5)一対の無端ベルトコンベアを適当な空間をおいて、搬送面が地面と垂直になるように設置し、搬送面においては原材料である硬化あるいはゲル化するバインダーを含んだセラミックスラリーを加熱する手段を有し、セラミックスラリーの供給装置と併せて、セラミック生成形体を連続生産できる、セラミック生成形体の製造装置が提案されている(特許文献5)。
【0007】
しかしながら、上記公知の事例に記載されたいずれの方法も、大型セラミック成形体の製造方法に係るものであるが、これらの方法では、いずれも、成形体のハンドリングが困難であるために、サイズや厚さ等に大きな制約がある。各公知例において、以下の通りのその他の問題点がある。即ち、上記(1)では、セラミック短繊維を使用しており、非酸化物でなる板を作製する場合、焼成過程で短繊維は脆化するために、不適当である。上記(2)では、成形体を操作する必要があり、薄肉化には限界がある。上記(3)では、押し出し成形機のような大掛かりな設備が必要となる。上記(4)では、原料成分が特定されており、また、繊維を使用するため、非酸化物セラミックスのシートを作製することは困難である。上記(5)では、成形体の大きさに制約があり、また、大型化に伴い設備も大きくなり、コストアップとなる。また、熱硬化樹脂の使用量が多くなるため、コストアップに繋がるだけでなく、環境負荷も大きい。
【0008】
このように、従来の手法では、例えば、焼成セッターのような、大型、大面積で薄肉の板状部材は、焼成前の状態(成形体)は、強度が低く、ハンドリングが極めて困難であること、また、焼成により緻密化する場合、焼成収縮に伴いセッターとの摩擦力により不均一な応力による、変形が生じること、また、大型化に対応して大型設備も必要となり、コストアップ要因となること、等の問題点があり、当技術分野では、それらの問題点の無い新しい製造技術の開発が強く求められていた。
【0009】
【特許文献1】特開昭59−184763号公報
【特許文献2】特開平10−251073号公報
【特許文献3】特開平08−72036号公報
【特許文献4】特開昭60−166258号公報
【特許文献5】特開平08−039539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術におけるような問題点が無く、大型薄肉セラミック体を簡便な操作手段及び工程でハンドリング良く生産することができる新しい製造技術を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、型の内部あるいは表面に形成された成形体を脱型せずに、型ごと所定温度に加熱し、成形体を焼結せしめる工程と反応焼結工程とを採用することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。本発明は、上述の課題を解決することのでき、低コストで高精度の大型薄肉セラミック体を安定して高効率で製造できる技術及び該方法で製造される高精度大型薄肉セラミック体製品を提供することを目的とするものである。
【0011】
また、通常、セラミックスの焼結では、被焼結物以外の炉全体を加熱する方法が一般であり、投入されるエネルギーの大部分は被焼成物以外の加熱に費やされ、その効率は極めて悪いが、本発明では、反応焼結工程を採用することにより、それらの問題点を解決した大型薄肉セラミック体の製造技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)セラミック原料粉末スラリーの成形体を脱型せず、型ごと焼結した反応焼結材から成ることを特徴とする大型薄肉セラミック体。
(2)セラミック体が、ケイ素及び/又は窒化ケイ素の原料粉末の反応焼結材から成る前記(1)に記載の大型薄肉セラミック体。
(3)セラミック体が、ケイ素、アルミナ、又はジルコニア系焼結材からなる前記(1)に記載の大型薄肉セラミック体。
(4)焼結時の収縮率が8%以下に抑制された反応焼結材から成る前記(1)に記載の大型薄肉セラミック体。
(5)焼結時の変形や反り及び寸法変化が抑制された反応焼結材から成る前記(1)に記載の大型薄肉セラミック体。
(6)耐熱性を有する型にセラミック原料粉末スラリーを注入し、乾燥、固化させる工程、型の内部あるいは表面に形成された成形体を脱型せず、型ごと所定温度に加熱し、前記成形体を焼結せしめる工程、及び、冷却後、型から焼結体を取り出す工程から成ることを特徴とする大型薄肉セラミック体の製造方法。
(7)上記セラミック原料粉末が、ケイ素を含む前記(6)に記載の大型薄肉セラミック体の製造方法。
(8)上記焼結が、ケイ素を雰囲気ガスとの反応により窒化物に転化させる反応焼結過程を含む前期(6)に記載の大型薄肉セラミック体の製造方法。
(9)上記耐熱性を有する型が、カーボン材料の型である前記(6)に記載の大型薄肉セラミック体の製造方法。
(10)上記固化が、スラリーのゲル化反応による固化である前記(6)に記載の大型薄肉セラミック体の製造方法。
(11)上記耐熱性を有する型が、多孔質セラミックスの型である前記(6)に記載の大型セラミック体の製造方法。
(12)上記耐熱性を有する型の材料が、導電性の多孔質セラミックスである前記(6)に記載の大型セラミック体の製造方法。
(13)上記導電性の多孔質セラミックスの型に直接通電し、型内の成形物を固化、焼結させる前記(12)に記載の大型セラミック体の製造方法。
(14)上記導電性の多孔質セラミックスが、吸水性のあるカーボン、窒化ケイ素系多孔材、又は炭化ケイ素系多孔材である前記(12)に記載の大型セラミック体の製造方法。
(15)上記多孔質セラミックスが、反応焼結窒化ケイ素であることを特徴とする前記(6)、(11)、(12)に記載の大型セラミック体の製造方法。
(15)上記固化が、スラリーに含まれる液体成分の多孔質内への吸水作用による前記(6)又は(12)に記載の大型薄肉セラミック体の製造方法。
(17)上記焼結過程において、セラミックスの収縮率が8%を超えない前記(6)から(14)のいずれかに記載の大型セラミック体の製造方法。
(18)導電性の多孔質セラミックスから成るスラリー成形型、該成形型に通電可能に取り付けた電極、及び成形型の反り防止プレートから成ることを特徴とする通電焼結装置。
(19)上記スラリー成形型が、複数の分割された多孔体単位の組み立て集合体から成る前記(18)に記載の装置。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の高精度大型薄肉セラミック体の製造方法は、耐熱性を有する型にセラミック原料粉末スラリーを注入し、乾燥、固化させる工程、型の内部あるいは表面に形成された成形体を脱型せず、型ごと所定温度に加熱し、前記成形体を焼結せしめる工程、及び、冷却後、型から焼結体を取り出す工程から成ることを特徴とするものである。そして、本発明では、上記の目的を達成するために、以下の手段が採用される。耐熱性を有する型にセラミック原料粉末スラリーを注入し、乾燥、固化させる工程と、型の内部あるいは表面に形成された成形体を脱型せず、型ごと所定温度に加熱し、前記成形体を焼結せしめ、炉冷後、型から焼結体を取り出す工程と、また、ケイ素を含むスラリーを使用し、反応焼結を含む工程とが採用される。
【0014】
本発明では、それにより、焼結時の寸法変化が小さく、焼結過程における変形や反りを小さく抑えることができ、低コストで、高精度大型薄肉セラミック体を安定して製造することが実現できる。ここで、加熱は、例えば、導電性を有する型に直接通電等により行い、成形から焼結までを一貫して行う方法、及び成形、乾燥までを行い、型ごと焼成炉内に配して外部加熱により焼結する方法等がある。この場合、型(セッターともなる)と被焼結体の間の反応を抑えるために、BN等の粉末を両者の間に介在させることが効果的であり、好適である。本発明では、大型薄肉セラミック体において、上述の寸法変化、変形や反りを小さく抑制した反応焼結材から成る製品が高精度大型薄肉セラミック体と定義される。
【0015】
本発明では、材料は、窒化ケイ素が主流であるが、アルミナやジルコニアといった耐熱性を有するセラミックスあるいは金属であっても効果は期待できるので、同様に使用することができる。ただし、その場合、収縮率を抑える必要がある。収縮率は、初期の成形体の密度に依存するが、通常の場合、焼結時の収縮率は8%以内となるように焼成条件をコントロールすることが望ましい。
【0016】
本発明では、耐熱性を有する型として、カーボン材料から成る型、多孔質セラミックスから成る型、例えば、導電性の多孔質セラミックスから成る型が使用され、具体的には、例えば、吸水性のあるカーボン、窒化ケイ素多孔材、炭化ケイ素系多孔材、反応焼結窒化ケイ素などが使用される。しかし、型の材料は、これらに限定されるものでは無く、これらと同効もしくは類似の材料であれば同様に使用することができる。
【0017】
これらの耐熱性を有する型に注入するセラミック原料粉末スラリーとしては、例えば、ケイ素、ケイ素及び窒化ケイ素の混合粉末から成るスラリー、ケイ素、Al、Yの混合粉末から成るスラリー、アルミナやジルコニアの原料粉末から成るスラリー、その他、ムライト、チタン酸アルミ、炭化ケイ素、コージェライトが例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、通常の大型薄肉セラミック体の原料として使用し得るものであれば、同様に使用することができる。
【0018】
本発明では、上記耐熱性を有する型にセラミック原料粉末スラリーを注入し、乾燥、固化させる工程が採用されるが、これらでは、セラミック成形体作製の通常の手段が使用される。また、上記固化させる手段としては、スラリーのゲル化反応による固化や、セラミックスの型に直接通電し、型内の成形物を固化、焼結させる方法が例示される。また、固化を、スラリーに含まれる液体成分の多孔質内への吸水作用により行う方法も適宜採用される。次に、本発明では、型の内部あるいは表面に形成された成形体を脱型せず、型ごと所定温度に加熱し、前記成形体を焼結せしめ、冷却後、型から焼結体を取り出す工程が採用されるが、上記焼結では、好適には、例えば、ケイ素を雰囲気ガスとの反応により窒化物に転化させる反応焼結手段、セラミックスの型に直接通電し、型内の成形物を固化、焼結する手段が採用される。
【0019】
本発明では、好適には、例えば、成形型として、例えば、中子ピンで分割された多孔体を組み立てて型を構成する工程、該成形型にスラリーを流し込み、乾燥、固化して成形体を作製する工程、次いで、中子ピンを抜き、成形体を脱型せず、型ごと焼成炉に入れ、所定温度で加熱、焼成し、反応焼成体とする工程、炉冷後、これを取り出し、製品とする工程、が採用される。
【0020】
上記焼成工程では、好適には、例えば、ケイ素と窒化ケイ素の混合粉末の場合、1400〜1450℃、260〜300MPa、ケイ素、アルミナ及びイットリアの反応焼結の場合、1400〜1800℃、248〜645MPa、アルミナの焼結の場合、1000〜1800℃、5〜375MPa、ジルコニアの焼結の場合、1000〜1800℃、7〜657MPa、の各条件が採用されるが、これらに制限されるものではなく、焼結材の種類に応じて任意に設定することができる。
【0021】
本発明では、例えば、上述の工程と、ケイ素を含むスラリーを使用し、反応焼結を含むプロセスを含むプロセスを取り入れることで、従来法のような成形体のハンドリングの困難性の問題が全く無く、焼結時の寸法変化が小さく、焼結過程における変形や反りを小さく抑えた高精度の大型、大面積で薄肉のセラミック焼結体を作製し、提供することが可能となる。本発明では、焼成条件を制御することで、焼結時の収縮率を8%以下に抑えたセラミック焼結体を作製することができる。
【0022】
焼成セッター等の大型、大面積で薄肉の板状セラミックス部材を製造する場合、従来法では、成形体を脱型して焼成炉に搬入するので、1)焼成前の成形体は強度が低く、ハンドリングが極めて困難である、2)焼成収縮に伴い、焼成台とセッター等との摩擦力により生じる不均一な応力により、焼成体に変形が生じる、3)大型化に対応して大型設備が必要となり、高コストを要する、等の問題点があった。これに対し、本発明では、成形型の内部あるいは表面に形成された成形体を脱型せず、所定温度に加熱し、焼成すること、及び、その際に、ケイ素を含むスラリーを使用し、反応焼結を含むプロセスを取り入れること、により、上述の従来技術の問題点を確実に解決して、高精度の反応焼結材から成る、焼成セッター等の大型、大面積で薄肉の板状部材を作製し、提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
(1)スラリーの調製
Si粉末(#600)、窒化ケイ素粉末(SN−7)を6:4の割合で混合した粉末100gに対して、水を35ml、分散剤(アロンA−6114)を1g、Methacrylamide を7.5g、N-N’-Methylenebisacrylamideを1.5g添加し、ポリエチレン製のポット及び窒化ケイ素製のボールを用いてボールミルを1時間行った。混合後のスラリーをビーカーに移した後、スターラーで撹拌しながら1mlの水に溶解したAnmonium
persulfateを0.13g、 N-N-N’-N’- Tetramethylethylenediamineを1ml加え、ワセリンを塗布した型にスラリーを流し込んだ。
【0025】
(2)大型薄肉セラミック体の製造(製造例1)
一方、カーボン材料でなる薄板に井桁状に枠を配し、その表面はBNを軽く吹き付け塗布した。このとき、枠内の面積は500×700mmである。この枠内に厚さが約5mmとなるようにスラリーを流し込んだ(図1)。その後、室温で24時間乾燥を行った。脱脂処理後、焼成内に上記型ごと配し、9気圧の窒素雰囲気中、最高、1400℃まで加熱し、反応焼成を行った。炉冷後、取出し、外観上ほとんど変形の無い500×700×5mmの大型薄肉セラミック体を得た。
【0026】
(3)大型薄肉セラミック体の製造(製造例2)
また、200×500×で深さ10mmとしたカーボン製の型に電極を取り付け、内部に、製造例1と同様にスラリーを注入した。窒素気流中、通電加熱を行い固化させた。表面の温度を放射温度計により測定しながら通電した。最高、1400℃まで加熱することにより、内部の成形体を焼結することができた。冷却後、取り出し、外観上ほとんど変形の無い200×500×5mmの大型薄肉セラミック体を得た。
【実施例2】
【0027】
原料として、アルミナ粉末(AL−160SG4)100に対して、分散剤A6114:0.75、水:20の比率となるようこれらを配合して、総計1000gとした。これらを約16時間ボールミルを使って混合した。バインダーとして、寒天(増粘多糖類、ゲル化剤)を5g投入し、更に、2時間混合後、脱泡した。これを同じ材質でなるアルミナの型を実施例1と同様に構成した。なお、型は3分割品であり、それらをセラミックスボルトで固定してひとつの型とした。井桁内部に上記スラリーを鋳込み、約90℃で30分加熱後、1500℃で2時間焼成した。炉冷後、取出し、外観上ほとんど変形の無い大型薄肉セラミック体を得た。
【実施例3】
【0028】
平均粒径が1ミクロン程度の窒化ケイ素粉末及びアルミナ、イットリアがそれぞれ90:3:5となるように秤量し、所定量のPVA、粉末総重量に対して、140wt%の水を配合し、ボールミルにより混合した。一方、500mm×500mmの枠内寸法として、井桁状の型を構成した。また、型には、直径10ミリ程度の樹脂性中子ピンを格子点位置に間隔25ミリで規則正しく配置した。
【0029】
なお、この型は、多孔質の反応焼結窒化ケイ素系複合材料で作製されている。この型内にBNを塗布した後、深さが約6mmとなるよう上記スラリーを井桁内に注入した。所定時間経過後、外枠ならびに中子ピンをはずした。乾燥後、0.93MPaの窒素雰囲気中、反応焼結後、最高、1650℃で焼成した。このとき、同じくそり防止のために反応焼結材のプレートでフタをした。得られた焼結体は成形体に対して約5.7%の収縮が生じていることがわかった。炉冷後、取出し、外観上ほとんど変形の無い窒化ケイ素製大型薄肉セラミック体を得た。図2に、工程を示す。
【実施例4】
【0030】
ケイ素+窒化ケイ素粉末の混合粉末を原料として、実施例1と同様のプロセスにて、成形体を作製した。温度を変えて焼成を行い、得られた焼結体の焼成過程における収縮率と変形量の関係を図3に示す。反応焼結法で作製しているため、ほとんど変形はないことがわかる。図中、枠内の数字は焼成温度ならびに得られた材料の曲げ強度を示す。また、ここでは変形量(基準面に対する反った面の距離)の許容値を10mm以内とした(以下同様)。
【実施例5】
【0031】
ケイ素、アルミナ、イットリア混合粉末を用い、実施例3と同様のプロセスにて、成形体を作製した。温度を変えて焼成を行い、得られた焼結体の焼成過程における収縮率と変形率の関係を図4に示す。収縮率は8%以内とすることが望ましい。
【実施例6】
【0032】
アルミナ、ジルコニアのスラリーを使って、実施例2と同様のプロセスにて、大型薄肉成形体を作製した。成形後、温度を変えて焼成を行い、そのときの収縮率と変形量の関係をプロットした(図5、図6)。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上詳述したように、本発明は、高精度の大型薄肉セラミック体の製造方法及びその製品に係るものであり、本発明によれば、耐熱性を有する型にセラミック原料粉末スラリーを注入し、乾燥、固化させる工程と、これを脱型することなく、型とその内部に形成した成形体を同時に焼成炉内に配し、所定温度に加熱し、前記成形体を焼結せしめ、炉冷後、型から焼結体を取り出す工程を採用し、また、ケイ素を含むスラリーを使用し、反応焼結を含むプロセスを取り入れることにより、焼結時の寸法変化が小さく、焼結過程における変形や反りを小さく抑えることができる、高精度の大型薄肉セラミック体を低コストで安定して製造できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ゲルキャストによる大型薄肉セラミック体の製造方法の概要を示す。
【図2】スリップキャストによる大型薄肉セラミック体の製造方法の概要を示す。
【図3】反応焼結窒化ケイ素で薄板を作製したときの収縮率と変形量の関係を示す。
【図4】二段焼結窒化ケイ素で薄板を作製したときの収縮率と変形量の関係を示す。
【図5】アルミナを焼結した場合の収縮率と変形量の関係を示す。
【図6】ジルコニアを焼結した場合の収縮率と変形量の関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック原料粉末スラリーの成形体を脱型せず、型ごと焼結した反応焼結材から成ることを特徴とする大型薄肉セラミック体。
【請求項2】
セラミック体が、ケイ素及び/又は窒化ケイ素の原料粉末の反応焼結材から成る請求項1に記載の大型薄肉セラミック体。
【請求項3】
セラミック体が、ケイ素、アルミナ、又はジルコニア系焼結材からなる請求項1に記載の大型薄肉セラミック体。
【請求項4】
焼結時の収縮率が8%以下に抑制された反応焼結材から成る請求項1に記載の大型薄肉セラミック体。
【請求項5】
焼結時の変形や反り及び寸法変化が抑制された反応焼結材から成る請求項1に記載の大型薄肉セラミック体。
【請求項6】
耐熱性を有する型にセラミック原料粉末スラリーを注入し、乾燥、固化させる工程、型の内部あるいは表面に形成された成形体を脱型せず、型ごと所定温度に加熱し、前記成形体を焼結せしめる工程、及び、冷却後、型から焼結体を取り出す工程から成ることを特徴とする大型薄肉セラミック体の製造方法。
【請求項7】
上記セラミック原料粉末が、ケイ素を含む請求項6に記載の大型薄肉セラミック体の製造方法。
【請求項8】
上記焼結が、ケイ素を雰囲気ガスとの反応により窒化物に転化させる反応焼結過程を含む請求項6に記載の大型薄肉セラミック体の製造方法。
【請求項9】
上記耐熱性を有する型が、カーボン材料の型である請求項6に記載の大型薄肉セラミック体の製造方法。
【請求項10】
上記固化が、スラリーのゲル化反応による固化である請求項6に記載の大型薄肉セラミック体の製造方法。
【請求項11】
上記耐熱性を有する型が、多孔質セラミックスの型である請求項6に記載の大型セラミック体の製造方法。
【請求項12】
上記耐熱性を有する型の材料が、導電性の多孔質セラミックスである請求項6記載の大型セラミック体の製造方法。
【請求項13】
上記導電性の多孔質セラミックスの型に直接通電し、型内の成形物を固化、焼結させる請求項12に記載の大型セラミック体の製造方法。
【請求項14】
上記導電性の多孔質セラミックスが、吸水性のあるカーボン、窒化ケイ素系多孔材、又は炭化ケイ素系多孔材である請求項12に記載の大型セラミック体の製造方法。
【請求項15】
上記多孔質セラミックスが、反応焼結窒化ケイ素であることを特徴とする請求項6、11、12に記載の大型セラミック体の製造方法。
【請求項16】
上記固化が、スラリーに含まれる液体成分の多孔質内への吸水作用による請求項6又は12記載の大型薄肉セラミック体の製造方法。
【請求項17】
上記焼結過程において、セラミックスの収縮率が8%を超えない請求項6から14のいずれかに記載の大型セラミック体の製造方法。
【請求項18】
導電性の多孔質セラミックスから成るスラリー成形型、該成形型に通電可能に取り付けた電極、及び成形型の反り防止プレートから成ることを特徴とする通電焼結装置。
【請求項19】
上記スラリー成形型が、複数の分割された多孔体単位の組み立て集合体から成る請求項18に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−306681(P2006−306681A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133764(P2005−133764)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】