説明

大気浄化装置

【課題】ラジエータに担持された吸着材の吸着能力を精度良く診断することができる大気浄化装置を提供する。
【解決手段】大気浄化装置は、大気中の特定の物質を低温で吸着し且つ高温で離脱させる吸着材を担持したラジエータ4と、ラジエータを通過した気体の流通路内に配置されると共に気体中のNOXの濃度を検出するNOXセンサ12と、吸着材の温度を検出する温度センサ11と、NOXセンサによって検出されたNOXの濃度に基づいて吸着材の吸着能力を診断する診断手段13とを具備する。診断手段は、吸着材の温度が上昇している間の濃度検出期間中に濃度検出手段によって検出される特定の物質の濃度に基づいて吸着材の吸着能力を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中のオゾン(O3)や窒素酸化物(NOX)等の成分を浄化する大気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が走行することにより、その車体表面やラジエータ表面等に空気が接触して流れることに着目して、車体表面やラジエータ表面等に大気中の有害物質を浄化する触媒等を配置して、大気中の有害物質を浄化する装置が知られている。
【0003】
このような装置の一つとして、ラジエータ表面にオゾンを浄化するオゾン浄化触媒を配置し、車両を走行させることにより大気中のオゾンを浄化するオゾン浄化装置が挙げられる。特に、特許文献1には、オゾン浄化触媒の劣化を検出する機能を備えた車両用オゾン浄化装置が開示されている。すなわち、ラジエータ表面に埃等の異物が付着したり、大気中の硫黄酸化物(SOX)等が吸蔵されたりすると、オゾン浄化触媒が劣化してしまう。そこで、特許文献1に記載の車両用オゾン浄化装置では、オゾン浄化触媒の前後にオゾン濃度検出センサを設けて、オゾン浄化触媒に流入する空気中のオゾン濃度とオゾン量か触媒から流出する空気中のオゾン濃度とを検出し、これら検出値に基づいてオゾン浄化触媒の劣化を検出するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−347829号公報
【特許文献2】特開2003−83042号公報
【特許文献3】特開2007−64683号公報
【特許文献4】米国特許第6695473号明細書
【特許文献5】特開昭57−164807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したようなオゾン浄化触媒では、一般に、ラジエータの温度が低温である期間中にはそのオゾン浄化能力が低下してしまう。そこで、低温においてもオゾンを浄化することができるように、ラジエータにオゾン浄化触媒に加えてオゾン等の物質を吸着可能な吸着材を担持させることが提案されている。これにより、ラジエータの温度が低温である期間中にはラジエータを通過する空気中のオゾン等は吸着材に吸着されると共に、ラジエータの温度が或る程度高温になると吸着していたオゾン等が吸着材から離脱し、オゾン浄化触媒によって浄化される。
【0006】
しかしながら、このような吸着材も、上記特許文献1に記載のオゾン浄化触媒と同様に劣化してしまう場合がある。また、例えば、ラジエータが交換されると、新しいラジエータには吸着材が担持されていない場合がある。このように車両の使用や修理に伴い、吸着材の吸着能力が低下してしまうことがあるため、吸着材の吸着能力を一定以上に維持するためには定期的に吸着材の吸着能力を診断する必要がある。
【0007】
ところが、例えば上記文献1に記載のオゾン浄化触媒の劣化診断方法と同様に、吸着材の前後にセンサを設けて吸着材に流出入する空気中のオゾン等の濃度を検出しても、吸着材の吸着能力を高精度に診断するのは困難である。この理由は、空気中のオゾン等の濃度がそもそも低いことや、空気が吸着材を備えたラジエータを通過する時間が短いことによりラジエータの通過前後でオゾン等の濃度変化が低いこと等が挙げられる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ラジエータに担持された吸着材の吸着能力を精度良く診断することができる大気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、第1の発明では、大気中の特定の物質を低温で吸着し且つ高温で離脱させる吸着材を担持したラジエータと、該ラジエータを通過した気体の流通路内に配置されると共に該気体中の特定の物質の濃度を検出する濃度検出手段と、上記吸着材の温度を検出する温度検出手段と、上記濃度検出手段によって検出された上記特定の物質の濃度に基づいて吸着材の吸着能力を診断する診断手段とを具備し、上記診断手段は、前記吸着材の温度が上昇している期間である濃度検出期間中に上記濃度検出手段によって検出される上記特定の物質の濃度に基づいて上記吸着材の吸着能力を診断する。
第1の発明によれば、吸着材の温度の上昇中に濃度検出手段によって検出される濃度に基づいて吸着材の吸着能力が診断される。ここで、吸着材の温度が上昇するときには、吸着材に吸着されていた特定の物質が離脱され、このときラジエータを通過した気体中には比較的多量に特定の物質が含まれる。従って、濃度検出手段によって検出される特定の物質の濃度は、濃度検出手段による検出が困難なほど低くはない。また、吸着材から離脱される特定の物質の量、すなわち濃度検出手段によって検出される特定の物質の濃度は吸着材の吸着能力によって変化する。このため、濃度検出手段によって特定の物質の濃度に基づいて吸着材の吸着能力を比較的高精度に診断することができる。
【0010】
上記課題を解決するために、第2の発明では、大気中の特定の物質を低温で吸着し且つ高温で離脱させる吸着材を担持したラジエータと、該ラジエータを通過した気体の流通路内に配置されると共に該気体中の特定の物質の濃度を検出する濃度検出手段と、上記吸着材の温度を検出する温度検出手段と、上記濃度検出手段によって検出された上記特定の物質の濃度に基づいて吸着材の吸着能力を診断する診断手段とを具備し、上記診断手段は、前記吸着材の温度が離脱開始温度以上に達してから濃度検出手段によって検出される濃度がほぼ零になるまでの間の期間である濃度検出期間中に上記濃度検出手段によって検出される上記特定の物質の濃度に基づいて上記吸着材の吸着能力を診断する。
【0011】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、上記診断手段は、上記濃度検出期間中における温度検出手段によって検出された温度の変化に対する濃度検出手段によって検出された濃度の変化の割合に基づいて上記吸着材の吸着能力を診断する。
【0012】
第4の発明では、第1又は第2の発明において、上記診断手段は、上記濃度検出期間中における上記濃度検出手段によって検出された上記特定の物質の濃度の積算値に基づいて上記吸着材の吸着能力を診断する。
【0013】
第5の発明では、第1又は第2の発明において、上記診断手段は、上記濃度検出期間中における上記濃度検出手段によって検出された上記特定の物質の濃度の変化量に基づいて吸着材の吸着能力を診断する。
【0014】
第6の発明では、第1〜第5のいずれか一つの発明において、上記ラジエータは大気中のオゾンの分解浄化を促進するオゾン浄化触媒をさらに担持する。
【0015】
第7の発明では、第1〜第6のいずれか一つの発明において、上記ラジエータを搭載する車両は、該車両の客室内に車両外の外気を導入する外気導入モードと車両の客室内に車両外の外気を導入しない内気循環モードとの間で切替可能な空調機器を具備し、上記吸着材から特定の物質が離脱しているとき又は該特定の物質が離脱すると予想されるときには、上記空調機器が外気導入モードから内気循環モードに切り替えられる。
【0016】
第8の発明では、第1〜第7のいずれか一つの発明において、上記特定の物質はNOXである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ラジエータに担持された吸着材の吸着能力を精度良く診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
【0019】
図1は、本発明の大気浄化装置が搭載された内燃機関の冷却系統を概略的に示す図である。図1に示したように、機関本体1の冷却水流通路は、上流側連通管2及び下流側連通管3を介してラジエータ4に連結される。上流側連通管2内では機関本体1の冷却水流通路からラジエータ4に向かって冷却水が流れ、下流側連通管3内ではラジエータ4から機関本体1の冷却水流通路に向かって冷却水が流れる。
【0020】
下流側連通管3にはサーモスタット5及びウォータポンプ6が設けられている。サーモスタット5には、上流側連通管2から分岐したバイパス管7が連結される。サーモスタット5は、機関本体1内の冷却水の温度を一定温度以上に保つためのものであり、機関本体1内の冷却水の温度が一定温度よりも低いときには閉じられる。サーモスタット5が閉じられると、ラジエータ4からサーモスタット5へと向かう下流側連通管3内の冷却水の流れが遮断され、従って冷却水はラジエータ4内を流れなくなる。また、サーモスタット5が閉じられると、同時にバイパス管7の下流側連通管3への出口が開かれ、よって冷却水はバイパス管7を通って流れるようになる。すなわち、サーモスタット5が閉じられると、冷却水は図1中の白矢印に示したように流れることになる。
【0021】
一方、サーモスタット5が開かれると、ラジエータ4からサーモスタット5へと向かう下流側連通管3内の冷却水の流れが許可され、従って冷却水はラジエータ4内を流れるようになる。また、サーモスタット5が開かれると、同時にバイパス管7の下流側連通管3への出口が閉じられ、よって冷却水はバイパス管7を通っては流れなくなる。すなわち、サーモスタット5が開かれると、冷却水は図1中の黒矢印に示したように流れることになる。
【0022】
図1に示した内燃機関を搭載した車両の進行方向は図1の下向きであり、よって車両の走行により発生する空気流は、ラジエータ4に対して図1に斜線付き矢印Aで示した方向に流れる。この空気流により、ラジエータ4からの放熱が行われ、ラジエータ4内を流れる高温の冷却水が冷やされる。また、車両の停車時にはラジエータ4に取り付けられたファン8が駆動せしめられ、このファン8によって発生した空気流も、ラジエータ4に対して図1に矢印Aで示した方向に流れ、よってラジエータ4内を流れる高温の冷却水が冷やされる。
【0023】
また、ラジエータ4にはラジエータ4の表面の温度を検出する温度センサ11が設けられる。さらに、エンジンルーム内であってラジエータ4を通過した空気が流れる場所、すなわちラジエータ4を通過する空気流のラジエータ4下流側の場所には、NOXの濃度を検出するためのNOXセンサ12が設けられる。従って、このNOXセンサ12では、ラジエータ4を通って流れた空気流中に含まれるNOXの濃度が検出される。これら温度センサ11及びNOXセンサ12は電子制御ユニット(ECU)13に接続され、温度センサ11及びNOXセンサ12の出力がECU13に入力される。なお、温度センサ11はラジエータ4自体の温度ではなく、ラジエータ4内を流れる冷却水の温度を検出してもよい。
【0024】
図2はラジエータ4を概略的に示す正面図であり、図3はラジエータ4の一部を部分的に示す拡大断面図である。図2に示したように本実施形態のラジエータ4は水平方向に延びる複数の冷却水流通部41と、これら冷却水流通部41間で波状に延びるフィン42とを具備する。ラジエータ4に流入した冷却水は冷却水流通部41を通って流れる。一方、ラジエータ4を通って流れる空気は、フィン42の間及びフィン42と冷却水流通部41との間を通って流れる。この空気により直接的に又はフィン42を介して冷却水流通部41内を流れる冷却水が冷却される。
【0025】
また、図3に示したように、フィン42の表面上及び冷却水流通部41の外側表面上には触媒・吸着材層43が設けられる。触媒・吸着材層43には空気中の特定の物質(例えばオゾン等)を還元浄化する浄化触媒と、上記空気中の特定の物質及びこの物質とは別の物質(例えば、NOX、HC)を吸着する吸着材とが担持される。浄化触媒としては、例えば、酸化マンガン(MnO2)等が用いられる。一方、吸着材としては、活性炭、ゼオライト等が用いられる。なお、活性炭は浄化触媒としても用いることが可能であるため、吸着材として活性炭を用いた場合には別に浄化触媒を設けなくてもよい。以下では、浄化触媒として酸化マンガンを用い、吸着材として活性炭を用いた場合を例にとって説明する。
【0026】
浄化触媒である酸化マンガン(MnO)では下記反応式(1)、(2)で表される化学反応によりオゾンが浄化される。
MnO+O3→MnO2+O2 …(1)
MnO2+O3→MnO+2O2 …(2)
上述した化学反応は比較的低温でも発生し、ラジエータ4の温度が例えば80℃以上(放熱のために冷却水が流れている場合のラジエータ4の温度)であれば、ラジエータ4を流通する空気流中に含まれているほとんどのオゾンを浄化することができる。また、ラジエータ4の温度がそれよりも低い場合であっても、上記化学反応により或る程度オゾンを浄化することができる。
【0027】
吸着材はオゾン、NOX及びHC等を吸着することができる。以下では、オゾンとNOXを例にとって説明する。上述したようにラジエータ4を流通する空気流中に含まれているオゾンは基本的に触媒・吸着材層43中の浄化触媒によって浄化されることになるが、ラジエータ4が低温であることによって浄化触媒によっては浄化されずに残ったオゾンは触媒・吸着材層43中の吸着材に吸着されることになる。このように吸着材に吸着されたオゾンはラジエータ4の温度が上昇すると吸着材から離脱せしめられ、離脱されたオゾンは浄化触媒によって浄化される。
【0028】
ところで、吸着材の吸着能力は様々な要因で低下する。吸着能力の低下要因としては、例えば、ラジエータ4に担持されていた吸着材が剥離すること、埃等の異物が吸着材表面上に付着すること、ユーザによりラジエータ4が触媒・吸着材層43を有していないラジエータに交換されてしまうこと等が考えられる。このため、ラジエータ4によるオゾンやNOXの浄化能力を維持するためには、吸着材の吸着能力の診断を定期的に行うことが必要である。
【0029】
吸着材の吸着能力の診断方法としては、例えば、ラジエータ4の上流及び下流にそれぞれオゾンセンサ又はNOXセンサを設け、上流側のセンサの出力と下流側のセンサの出力とを比較し、上流側のセンサによって検出されたオゾン濃度又はNOX濃度と下流側のセンサによって検出されたオゾン濃度又はNOX濃度との差が小さくなったときに吸着材の吸着能力が低下していると診断する方法が考えられる。
【0030】
ところが、このような方法では吸着材の吸着能力の診断は困難である。すなわち、ラジエータ4を流通する空気流中に含まれているオゾン又はNOXの濃度は比較的低いため、ラジエータ4を通過する前後で空気流中に含まれているオゾン又はNOXの濃度の差はあまり大きくない。このため、オゾン又はNOXの濃度の差に基づく出力の差とセンサ等に含まれるノイズとの判別が困難であり、よって吸着材の吸着能力の診断精度が低くなってしまう。
【0031】
ここで、上述したように、吸着材に吸着されたNOXはラジエータ4の温度が上昇すると離脱せしめられるが、吸着材の吸着能力が低下するとこのNOXの離脱量が減少する。特に、ラジエータ4を触媒・吸着材層43のないラジエータに交換したような場合には、NOXはラジエータ4には全く吸着されず、よってラジエータ4の温度が上昇してもNOXは全く離脱せしめられない。
【0032】
図4はラジエータ4の温度とラジエータ4を通った空気流中に含まれるNOXの濃度とのタイムチャートである。図中の実線は吸着材の吸着能力が高いときのラジエータ4下流の空気流中に含まれているNOXの濃度の推移を示しており、破線及び一点鎖線は吸着材の吸着能力が低いとき及び吸着材が全く存在しないときのラジエータ4下流の空気流中に含まれているNOXの濃度の推移を示している。
【0033】
図示した例では、時刻T0からT1にかけてラジエータ4の温度が25℃から80℃まで昇温された場合を示している。図示したように、時刻T0まではラジエータ4の温度は25℃であり、このときラジエータ4を流通する空気流からはラジエータ4においてNOXが除去(吸着材に吸着)されるため、ラジエータ4下流の空気流中にはNOXはほとんど含まれていない。
【0034】
その後、機関本体1内の冷却水の温度が上昇してサーモスタット5が開き、ラジエータ4内に高温の冷却水が流入すると、ラジエータ4の温度が上昇する。このラジエータ4の温度の上昇に伴って吸着材に吸着されているNOXの離脱量が増大し、その結果ラジエータ4下流の空気流中に含まれているNOXの濃度が上昇していく。その後、NOX濃度は、ピークに達した後徐々に低下していき、最終的にはラジエータ4の温度が高温であってもNOXが離脱されなくなり、ほぼ零となる。
【0035】
吸着材の吸着能力が高いときには、図4に実線で示したように、時刻T0〜時刻T1において単位時間当たりのNOX濃度の上昇量(変化量)が大きく、温度の上昇量(変化量)に対するNOX濃度の上昇量(変化量)の割合が大きく、また時刻T0〜時刻T1又は時刻T0〜時刻T2(ラジエータ4下流の空気流中のNOX濃度がほぼ零となった時刻)におけるNOX濃度の積分値が大きい。
【0036】
一方、吸着材の吸着能力が低いときには、図4に破線で示したように、NOX濃度は、ラジエータ4の温度が上昇している時刻T0〜時刻T1の間ずっと上昇していくわけではなく、ラジエータ4の温度の上昇途中にNOX濃度はピークとなり、その後徐々に低下していく。そして、吸着材の吸着能力が低いときには、時刻T0〜時刻T1において単位時間当たりのNOX濃度の上昇量(変化量)が小さく、温度の上昇量(変化量)に対するNOX濃度の上昇量(変化量)の割合も小さく、また時刻T0〜時刻T1又は時刻T0〜時刻T3(ラジエータ4下流の空気流中のNOX濃度がほぼ零となった時刻)におけるNOX濃度の積分値が大きい。さらに、ラジエータ4を触媒・吸着材層のないものに交換したこと等により吸着材の吸着能力が零であるときには、図4に一点鎖線で示したように、ラジエータ4の温度が上昇してもNOX濃度はほぼ零のままである。
【0037】
そこで、本実施形態では、吸着材のこのような性質を利用して、吸着材の吸着能力を診断することとしている。すなわち、ラジエータ4の温度が上昇している(図4中の時刻T0からT1)間、又は吸着材の温度が吸着材に吸着されているNOXが離脱を開始する温度(以下、「離脱開始温度」という)Temに達した時期からNOXセンサ12によって検出されるNOX濃度がほぼ零になる時期までの間(図4中に実線で示した例の場合、時刻T4から時刻T2)にNOXセンサ12によって検出されたNOX濃度に基づいて吸着材の吸着能力が診断される。
【0038】
具体的には、例えば、ラジエータ4の温度が上昇している間(図4中の時刻T0〜時刻T1)に検出された単位時間当たりのNOX濃度の上昇量(変化量)が多い場合には吸着材の吸着能力が高いと診断し、逆に増大量が少ない場合には吸着能力が低下していると診断する。或いは、ラジエータ4の温度が上昇している間(図4中の時刻T0〜時刻T1)に検出されたNOX濃度上昇量(変化量)の温度上昇量(変化量)に対する割合が大きい場合には吸着材の吸着能力が高いと診断し、逆にNOX濃度増大量の温度上昇量に対する割合が低い場合には吸着能力が低下していると診断する。または、ラジエータ4の温度が上昇している間(図4中の時刻T0〜時刻T1)、又は吸着材の温度が離脱開始温度Temに達した時期からNOX濃度がほぼ零になる時期までの間(例えば、図4中の時刻T4〜時刻T2)に検出されたNOX濃度の積分値が大きい場合には吸着材の吸着能力が高いと診断し、逆にNOX濃度の積分値が低い場合には吸着能力が低下していると診断する。或いは、これらパラメータのうち二つ以上のパラメータに基づいて吸着材の吸着能力を診断するようにしてもよい。
【0039】
本実施形態では、このようにしてNOXセンサ12によって検出されたNOX濃度に基づいて吸着材の吸着能力が診断される。特に、ラジエータ4の温度が上昇して吸着材からNOXが離脱せしめられたときのNOX濃度は大気中のNOX濃度よりも比較的高いことから、センサに含まれるノイズとの判別は困難ではなく、よって吸着材の吸着能力の診断精度は高い。
【0040】
なお、上記実施形態では、ラジエータ4の温度を検出する温度センサ11によって検出されたラジエータ4の温度に基づいてNOX濃度の検出期間を特定しているが、他の方法によって特定することも可能である。例えば、サーモスタット5の開弁中にはラジエータ4の温度が高くなることから、サーモスタット5の開閉弁タイミングに基づいてNOX濃度の検出期間を特定してもよい。
【0041】
図5は、吸着材の吸着能力の診断を行う診断制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。なお、図5に示したフローチャートでは、吸着材の吸着能力が零となっていないか、すなわちラジエータ4が触媒・吸着材層43を有していないラジエータに交換されていないかを診断する制御を示している。
【0042】
図5を参照すると、ステップS10において機関本体1内の冷却水の温度を検出する温度センサ(図示せず)によって検出された本体冷却水温Tthwが冷間始動判定温度Taよりも低いか否かが判定される。ここで冷間始動判定温度Taは始動時に内燃機関が冷間であるか否かを判定するための温度であり、本体冷却水温Tthwが冷間始動判定温度Taよりも低い場合に内燃機関の冷間始動時であると判定される。ステップS10において本体冷却水温Tthwが冷間始動判定温度Ta以上であると判定された場合、すなわち内燃機関の冷間始動時ではない場合には制御ルーチンが終了せしめられる。
【0043】
一方、ステップS10において本体冷却水温Tthwが冷間始動判定温度Taよりも低いと判定された場合、すなわち内燃機関の冷間始動時であると判定された場合にはステップS11へと進む。ステップS11では、本体冷却水温Tthwがサーモスタット開弁温度Tthop以上となったか否かが判定される。すなわち、上述したようにサーモスタット5が開弁しない限りラジエータ4には高温の冷却水が流れず、よってラジエータ4の温度は上昇しない。従って、サーモスタット4が開弁したことはラジエータ4の温度が上昇することを意味する。従って、ステップS11では、ラジエータ4の温度が上昇するか否かを判定しているといえる。
【0044】
ステップS11において、本体冷却水温Tthwがサーモスタット開弁温度Tthopよりも低いと判定された場合、すなわちラジエータ4の温度はまだ上昇しないと判定された場合には、ステップS11が繰り返される。その後、本体冷却水温Tthwがサーモスタット開弁温度Tthop以上になったと判定された場合、すなわちラジエータ4の温度が上昇すると判定された場合には、ステップS12へと進む。
【0045】
ステップS12では、NOXセンサ12によりラジエータ4を通って流れた空気流中のNOXの濃度の検出が開始される。次いで、ステップS13では、NOXセンサ12によって検出された単位時間当たりのNOX濃度の変化量ΔCnoxを、ラジエータ4に取り付けられた温度センサ11によって検出された単位時間当たりの温度の変化量ΔTthwrで除算した値(ΔCnox/ΔTthwr)が予め定められた値Xよりも大きいか否かが判定される。ここで、予め定められた値Xは、それ以上ΔCnox/ΔTthwrの値が小さいとラジエータ4を通って流れた空気流中のNOX濃度が低すぎて、吸着材の吸着能力がほぼ零となっていると考えられるような値である。
【0046】
ステップS13において値ΔCnox/ΔTthwrが予め定められた値X以下であると判定された場合、すなわち吸着材からNOXがほとんど離脱されていないと判定された場合には、ステップS14へと進む。ステップS14では、ラジエータ4、特に吸着材に異常があると診断され、ユーザに対して異常表示がなされる。一方、ステップS13において値ΔCnox/ΔTthwrが予め定められた値Xよりも大きいと判定された場合には、ステップS15へと進む。
【0047】
ステップS15では、温度センサ11によって検出されたラジエータ4の温度Tthwrが完全暖機判定温度Tb以上であるか否かが判定される。完全暖機判定温度Tbは、サーモスタット5が開かれてラジエータ4に高温の冷却水が流れているときにラジエータ4が通常到達する温度である。ステップS15において、ラジエータ4の温度Tthwrが完全暖機判定温度Tbよりも低いと判定された場合には、ステップS13が繰り返される。一方、ステップS15においてラジエータ4の温度Tthwrが完全暖機判定温度Tb以上になったと判定された場合にはステップS16へと進む。ステップS16では、ラジエータ4、特に吸着材には異常がないと診断され、制御ルーチンが終了せしめられる。
【0048】
ところで、内燃機関1を搭載した車両は、通常、エアーコンディショナ等の空調機器(図示せず)を具備している。この空調機器では、車両の客室内に車両外の外気を導入する外気導入モードと、車両の客室内に車両外の外気を導入せずに客室内の空気を循環させる内気循環モードとを備えており、これら外気導入モードと内気循環モードとの両空調モードはユーザにより手動で又はECU13により自動で切り替えられる。
【0049】
一方、上述したようにラジエータ4の吸着材からNOX等が離脱する場合、離脱したNOX等はエンジンルーム内に流入することになる。ここで、上記空調モードを外気導入モードにしている場合の客室への空気取込口はエンジンルーム付近に配置されることが多く、従って吸着材からNOX等が脱離しているときに空調モードを外気導入モードにしていると、離脱されたNOXが客室内に侵入してしまうことになる。
【0050】
そこで、本実施形態では、ラジエータ4の吸着材からNOX等が離脱せしめられるとき、又は吸着材からNOX等が離脱せしめられると予想されるときには、空調モードが外気導入モードになっている場合、内気循環モードに強制的に切り替えるようにしている。これにより、ラジエータ4の吸着材からNOX等が離脱せしめられるときでも、客室内にNOX等が侵入してしまうことが防止される。
【0051】
図6は、空調機器を制御する空調制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。図6のステップS20、21は基本的に図5のステップS10、11と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
ステップS21において、本体冷却水温Tthwがサーモスタット開弁温度Tthop以上になったと判定された場合、すなわちラジエータ4の温度が上昇して吸着材からNOX等が離脱することが予想されると判定された場合には、ステップS22へと進む。ステップS22では、現在の空調モードが外気導入モードとなっているか否かが判定される。ステップS22において、現在の空調モードが内気循環モードになっていると判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。一方、ステップS22において、現在の空調モードが外気導入モードとなっていると判定された場合にはステップS23へと進む。ステップS23では、空調モードが外気導入モードから内気循環モードへと切り替えられる。
【0053】
次いでステップS24では、温度センサ11によって検出されたラジエータ4の温度Tthwrが完全暖機判定温度Tb以上であるか否かが判定され、完全暖機判定温度Tbよりも低いと判定されている間はステップS24が繰り返される。その後、ラジエータ4の温度が上昇してラジエータ4の温度Tthwrが完全暖機判定温度Tb以上になったと判定された場合にはステップS25へと進む。ステップS25では、空調モードが内気循環モードから外気導入モードへと戻され、制御ルーチンが終了せしめられる。
【0054】
次に、本発明の第二実施形態の大気浄化装置について説明する。図7に示したように、第二実施形態の大気浄化装置の構成は、基本的に第一実施形態の大気浄化装置の構成と同様である。ただし、上記第一実施形態では、浄化触媒として酸化マンガン(MnO)が用いられているのに対して、本実施形態では電磁波を吸収することができるフェライトが用いられる。
【0055】
なお、本実施形態では、浄化触媒としてフェライトを用いているが、浄化触媒として酸化マンガン(MnO)等を用いると共に、浄化触媒とは別にフェライト等の電磁波を吸収することができる物質を触媒・吸着材層43に担持させてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、ラジエータ4の両側に電磁波発信機15と電磁波受信機16とが設けられる。図7に示した例では、ラジエータ4を空気が流れる方向において上流側に電磁波発信機15が配置されると共に下流側に電磁波受信機16が配置される。電磁波発信機15は、ラジエータ4の表面に向けて電磁波を放射し、電磁波受信機16は電磁波発信機15による電磁波の放射方向に配置されて、電磁波発信機15から放射された電磁波を受信する。
【0057】
このように構成された大気浄化装置では、内燃機関の始動時等に、フェライトが吸収可能な周波数の電磁波及びフェライトが吸収不能な周波数の電磁波が電磁波発信機15から放射される。ラジエータ4としてフェライトが担持された触媒・吸着材層43を備えるラジエータが用いられている場合には、電磁波発信機15からフェライトが吸収可能な周波数の電磁波が放射されると、この電磁波がラジエータ4のフェライトにより吸収され、よって電磁波受信機16では全く電磁波を受信できなくなるか、弱い電磁波(すなわち、電磁波発信機15によって放射された電磁波よりも強度の弱い電磁波)しか受信できなくなる。一方、この場合、電磁波発信機15からフェライトが吸収不能な周波数の電磁波が放射されても、この電磁波はフェライトには吸収されず、よって電磁波受信機16は強い電磁波(すなわち、電磁波発信機15によって放射された電磁波と同程度の強度の電磁波)を受信することができる。
【0058】
一方、ラジエータ4が触媒・吸着材層43を備えていないラジエータに交換されてしまった場合には、電磁波発信機15からフェライトが吸収可能な周波数の電磁波が放射されても、この電磁波はラジエータ4において吸収されることはなく、よって電磁波受信機16では強い電磁波を受信することができる。また、この場合、電磁波発信機15からフェライトが吸収不能な周波数の電磁波が放射されても、この電磁波はラジエータ4において吸収されることはなく、よって電磁波受信機16では強い電磁波を受信することができる。
【0059】
このように、電磁波発信機15からフェライトが吸収可能な周波数の電磁波を放射したときに、ラジエータ4としてフェライトが担持された触媒・吸着材層43を備えるラジエータが用いられている場合には電磁波受信機16は弱い電磁波を受信し、ラジエータ4として触媒・吸着材層43を備えていないラジエータが用いられている場合には電磁波受信機16は強い電磁波を受信する。従って、本実施形態では、電磁波発信機15からフェライトが吸収可能な周波数の電磁波を放射することにより、ラジエータ4が触媒・吸着材層43を備えていないラジエータに交換されてしまっているか否かを診断することができる。
【0060】
また、電磁波発信機15からフェライトが吸収不能な周波数の電磁波を放射したときには、ラジエータ4が触媒・吸着材層43を備えているか否かに関わらず、電磁波受信機16では強い電磁波を受信する。従って、電磁波発信機15からフェライトが吸収不能な周波数の電磁波を放射したときに電磁波受信機16が強い電磁波を受信しなければ、電磁波発信機15又は電磁波受信機16自体が故障していると診断されることになる。すなわち、本実施形態では、ラジエータ4が触媒・吸着材層43を備えていないラジエータに交換されてしまっているか否かの診断に加えて電磁波発信機15又は電磁波受信機16の故障診断をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の大気浄化装置が搭載された内燃機関の冷却系統を概略的に示す図である。
【図2】ラジエータの概略正面図である。
【図3】ラジエータの一部を部分的に示す拡大断面図である。
【図4】ラジエータの温度とラジエータを通った空気流中に含まれるNOXの濃度とのタイムチャートである。
【図5】吸着材の吸着能力の診断を行う診断制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】空調機器を制御する空調制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】第二実施形態の大気浄化装置が搭載された内燃機関の冷却系統を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 機関本体
2 上流側連通管
3 下流側連通管
4 ラジエータ
5 サーモスタット
6 ウォータポンプ
7 バイパス管
8 ファン
11 温度センサ
12 NOXセンサ
13 ECU
41 冷却水流通部
42 フィン
43 触媒・吸収剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中の特定の物質を低温で吸着し且つ高温で離脱させる吸着材を担持したラジエータと、該ラジエータを通過した気体の流通路内に配置されると共に該気体中の特定の物質の濃度を検出する濃度検出手段と、上記吸着材の温度を検出する温度検出手段と、上記濃度検出手段によって検出された上記特定の物質の濃度に基づいて吸着材の吸着能力を診断する診断手段とを具備し、
上記診断手段は、前記吸着材の温度が上昇している期間である濃度検出期間中に上記濃度検出手段によって検出される上記特定の物質の濃度に基づいて上記吸着材の吸着能力を診断する、大気浄化装置。
【請求項2】
大気中の特定の物質を低温で吸着し且つ高温で離脱させる吸着材を担持したラジエータと、該ラジエータを通過した気体の流通路内に配置されると共に該気体中の特定の物質の濃度を検出する濃度検出手段と、上記吸着材の温度を検出する温度検出手段と、上記濃度検出手段によって検出された上記特定の物質の濃度に基づいて吸着材の吸着能力を診断する診断手段とを具備し、
上記診断手段は、前記吸着材の温度が離脱開始温度以上に達してから濃度検出手段によって検出される濃度がほぼ零になるまでの間の期間である濃度検出期間中に上記濃度検出手段によって検出される上記特定の物質の濃度に基づいて上記吸着材の吸着能力を診断する、大気浄化装置。
【請求項3】
上記診断手段は、上記濃度検出期間中における温度検出手段によって検出された温度の変化に対する濃度検出手段によって検出された濃度の変化の割合に基づいて上記吸着材の吸着能力を診断する、請求項1又は2に記載の大気浄化装置。
【請求項4】
上記診断手段は、上記濃度検出期間中における上記濃度検出手段によって検出された上記特定の物質の濃度の積算値に基づいて上記吸着材の吸着能力を診断する、請求項1又は2に記載の大気浄化装置。
【請求項5】
上記診断手段は、上記濃度検出期間中における上記濃度検出手段によって検出された上記特定の物質の濃度の変化量に基づいて吸着材の吸着能力を診断する、請求項1又は2に記載の大気浄化装置。
【請求項6】
上記ラジエータは大気中のオゾンの分解浄化を促進するオゾン浄化触媒をさらに担持する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の大気浄化装置。
【請求項7】
上記ラジエータを搭載する車両は、該車両の客室内に車両外の外気を導入する外気導入モードと車両の客室内に車両外の外気を導入しない内気循環モードとの間で切替可能な空調機器を具備し、
上記吸着材から特定の物質が離脱しているとき又は該特定の物質が離脱すると予想されるときには、上記空調機器が外気導入モードから内気循環モードに切り替えられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の大気浄化装置。
【請求項8】
上記特定の物質はNOXである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の大気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−29816(P2010−29816A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196829(P2008−196829)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】