大環状金属錯体および重合触媒としてのそれらの使用
シクロファン金属錯体を含む組成物、そのようなシクロファン金属錯体を触媒として用いる重合方法、およびそのような方法によって生成されるポリマー組成物。これらの方法によって調製され得るポリマーの例としては、ポリエチレンおよびポリオレフィンが挙げられる。本発明のシクロファン金属錯体は、高温で安定しており、このため全て、または一部が高温(例えば50℃を超える温度)で行われる重合反応を触媒するのに用いてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2003年8月7日に提出された米国暫定特許出願番号60/493,519号への優先権を主張するものであり、その全容は本願に援用される。
本発明は概して、化学およびポリマー科学に関し、より詳細には重合触媒として使用可能な金属錯体およびそれにより得られるポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
特定のジイミン配位子の遷移金属錯体が、過去に開示されている。過去に記載されたそれらの遷移金属錯体の一部は、重合触媒として活性があることが報告されている。しかしながら、先に記載されたそれらの遷移金属錯体は、オレフィン触媒用に用いると通常、熱安定性が低く、このため高温での高分子量ポリマーの生成には用いることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
当該技術分野において、オレフィン重合を触媒するとともに、通常、高分子量ポリマーの重合によって生じる高温において安定である、新規な遷移金属錯体の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、下記の一般式Iを有する大環状金属錯体を提供する。
【0005】
【化1】
上記式中、A1およびA2は、同一であっても異なっていてもよく、飽和または不飽和であり、環式または非環式であり、キラルまたはアキラルである環状構造、例えばシクロアルキル、または
【0006】
【化2】
である。ここで、Zは、O、NR3、S、CR6=CR7、CR6=NおよびN=CR6から選択され、R6およびR7がHである場合、前記環は、H、アルキル、アルコキシ、アミノ、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロおよびトリフルオロメチルから選択される1個以上の置換基Qによって任意に置換されていてもよく、R6およびR7は、更に結合して、O、NおよびSから選択される1個以上のヘテロ原子によって任意に置換された環式環を形成していてもよく、少なくとも1箇所の二重結合を含んでいてもよい。
【0007】
B1およびB2は、同一であっても異なっていてもよく、−Ar−T−Ar−、−T−Ar−T−および−T−から選択され、ここで、Arは、芳香族環(例えばフェニル、フリル、チエニル、ピロリル、インドリル、イソインドリル、ピリジル、ナフチルなど)である。
【0008】
Tは、飽和または不飽和であり、かつ環式または非環式であり、かつキラルまたはアキラルである1〜10個の炭素原子を有する炭化水素基である。T内の1個以上の前記炭素原子は、O、S、SO、SO2、NR3(式中、R3は、H、アルキル(C1〜4)、シクロアルキル(C3〜6)、アリール、アラルキルおよびアシル(C2〜6)である)、(SiR4R5)n(式中、nは、1または2である)、および−Si(R4R5)−O−Si(R4R5)−(式中、R4およびR5は、同一であっても異なっていてもよく、アルキル(C1〜4)、シクロアルキル(C3〜6)、アリールおよびアラルキルから選択される)のうちから選択される1個以上のヘテロ原子またはヘテロ基によって任意に置換されていてもよい。
【0009】
H1およびH2は、N、P、OおよびSを含むいずれか1個のヘテロ原子から独立して選択される。これらのヘテロ原子は、中性形態で存在するか、または前記へテロ原子に結合したプロトンが外れた場合に対応するアニオンとして存在してもよい。
【0010】
単結合、二重結合またはそれら両方の組み合わせのいずれかによってH1およびH2に結合したR1およびR2は、同一であっても異なっていてもよく、アルキル、アルコキシ、アミノ、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロおよびトリフルオロメチルで任意に置換されたアルキル、アリール、アラルキルから選択される。あるいは、R1およびR2は、二座配位子の場合には、アルキレンもしくは置換されたアルキレン架橋を介して結合して、環式環を形成してもよく、その例は図4A〜4Eに示されており、以下に論じる。三座配位子の場合には、R1およびR2は、前記アルキレン架橋の1個以上のメチレン基が、O、P、SおよびNから選択されたヘテロ原子G、もしくはそのようなヘテロ原子を含む複素環によって置換されていてもよく、その例は図5A〜5Bに示されており、以下に論じる。
【0011】
R' およびR''は、アルキル、アルケニル、アリール、アラルキルおよびシクロアルキルである。
XおよびYは、ハロゲン、擬ハロゲン、カルボン酸エステル、アミノ、置換アミノ、アルコキシまたはアリールオキシ基から選択される。
【0012】
Mは、遷移族金属イオンまたは主族金属イオンである。Mは、配位子の種類に基づいて選択され、Fe、Ru、Os、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Zn、Al、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWを含む。その例は、図6A〜6Cに示されており、以下に論じる。
【0013】
さらに、B1、B2、A1およびA2が、フェニル環を含む場合、B1−B2−A1−A2−B1の結合が、好ましくは各環部分の1,3位もしくは1,4位、またはその組み
合わせのいずれかを介して行われており、B1、B2、A1およびA2が、複素環を含む場合、前記結合は、5員環ではC2〜C5のいずれかを介して行われてもよく、6員環ではC2〜C6のいずれかを介して行われていてもよい。
【0014】
更に本発明によれば、大環状金属錯体は、シクロファン金属錯体、例えばシクロファンベースのNiII−α−ジイミン錯体を含んでいてもよい。
更に本発明によれば、先の一般式Iで示される物質の組成物が得られ、B2が存在しない場合には、そのような組成物は、以下のような一般式IIの「半錯体(half complexes)」となる。
【0015】
【化3】
更に本発明によれば、本発明の錯体は、以下のような式III で示されるシクロファンベースのNiII−α−ジイミン錯体を包含する。
【0016】
【化4】
更に本発明によれば、先の一般式I、IIまたはIII の錯体1種以上の存在下でモノマーおよび/またはプレポリマーを反応させることによって、ポリエチレンおよびポリオレフィンなどのポリマーを合成する方法が付与される。
【0017】
更に本発明によれば、先の一般式I、IIまたはIII の錯体の1種以上の存在下でモノマーおよびプレポリマーの少なくともいずれかを反応させることによって合成されたポリマーが提供される。そのようなポリマーとしてはポリエチレンおよびポリオレフィンがあるが、それらに限定されるものではない。
【0018】
本発明の更なる態様および構成は、以下に示す詳細な説明および実施例を読むことによって、当業者には明白となろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、高温で比較的安定しており、かつ高温で高分子オレフィンポリマーを生成する際に使用可能な遷移金属触媒を提供する。これらの触媒は、その温度安定性が改善されているため、工業的気相オレフィン重合法などの様々な種類のオレフィン重合法に用いることができる。
【0020】
本発明の触媒の例は、新規なシクロファンベースの配位子と、Ni(II)および他の遷移金属イオンとの錯体形成によって形成され得る。以下に示す詳細な説明のセクションAに記載するとおり、本発明の触媒は、エチレン重合に対して非常に高い活性を示し、高分子量ポリマーを生成させる。加えて以下に示す詳細な説明のセクションBに記載するとおり、該触媒は、α−オレフィンを重合する活性も有している。新規な触媒の重要な特性は高温熱安定性であり、この特性は該触媒を工業的気相重合法に適したものにする。この触媒は、ポリオレフィンをプラスチックおよび/またはエラストマーとして調製するのに用いることができる。
【0021】
A.高温ポリエチレン重合における本発明の組成物の合成および使用
近年になり、後周期遷移金属のオレフィン重合触媒が、新規な分枝のトポロジーと官能基への改善された耐性とを有するポリオレフィンを調製するために使用可能であることが報告されている1。そのような系の一つは、ブルックハート(Brookhart)およびその関係者から報告されたNiII−およびPdII−α−ジイミン錯体である2。これらのNiII系は、エチレンの高分子量(MW)ポリエチレン(PE)への重合において、早周期金属触媒に匹敵する活性を有することが示され、PdII系は、アクリル酸メチルなどの機能性オレフィンを組み入れ得ることが示された2。PdII−α−ジイミン触媒によって形成されたPEの分枝のトポロジーは、単にエチレン圧を変動させることによって、直鎖状〜高分枝状〜樹状に調整することができた3。先行技術の後周期遷移金属のオレフィン重合触媒は、所望の特性を呈し得るが、厳密な制約の一つとして、温度への高い感受性がある。その触媒は、PdII系では50℃で4a、NiII系では70℃で4b急速に分解する。NiII触媒によって形成されるPEのMWも、重合の温度が上昇するに連れて急激に低下する4b。気相オレフィン重合は通常、80〜100℃で操作されるため、これらの問題のせいでこれらの触媒の商品化が著しく阻害されていた5。
【0022】
本願に記載するとおり、本出願人は、有意に改善された熱安定性を示し、工業的気相オレフィン重合に適した温度範囲で高分子量PEを生成させる新規なシクロファンベースのNiII−α−ジイミン触媒を発明した。
【0023】
シクロファンの化学は、その合成に対する単なる好奇心に始まり、分子認識、超分子化学および生物模擬などの様々な用途に向けた特性の活用に至るまで興味深い研究分野に発展した6。しかし、遷移金属触媒での配位子としてのシクロファンの使用が、十分に調査されていなかったことは、興味深いことである7。我々は、高温で十分なエチレン重合を行うための第1のシクロファンベースの遷移金属錯体をここに報告する(図1)。図1に示した非環式化合物触媒(A)では、アリール基が配位面に対してほぼ直交して存在するため、アリールのイソプロピル置換基が軸方向に配置されて、エチレンの会合連鎖移動(associative chain transfer)を遮断する2。しかし高温では、アリール基が垂直な向きから離れて回転し得るため、会合連鎖移動が増加して、形成されるPEのMWが低下する4b。さらに、アリール基が配位面に向かって回転するため、アリール環のイソプロピル置換基がC−H活性化のための金属中心の近傍に達して、メタラサイクルを形成する。これはこの触媒ファミリーの潜在的失活経路の一つとして提案された4a。図1に示す本発明
のシクロファンベースの錯体(B)では、金属中心が配位子の核に配置されるため、大環式環が金属の軸面を完全に遮断して、モノマーが導入されポリマーが成長するためのシス配位部位が2箇所しか残らない。配位子の強固な骨格によりアリール−窒素結合の自由な回転が阻害される。これは、該触媒が高温で高MWポリマーを形成するのを可能にすると考えられる。回転の柔軟性がないため、オルト置換基に対するC−H活性化が不可能になり、そのためこの潜在的な触媒の失活経路を封鎖するものと思われる。他の系でも、強固な大環式環配位子が、金属錯体の配位安定性を高め得ることが観察された7b。これらの考察に基づいて、本出願人、はシクロファンベースのα−ジイミン配位子を設計して、非環式α−ジイミン系の重大な熱感受性問題に取り組んだ。より一般的には我々は、金属錯体を触媒用に設計する際の新規な配位子骨格ファミリーとしてシクロファンを想定する。
【0024】
図2に示すとおり、シクロファン配位子の合成は、市販の2,6−ジブロモ−4−メチルアニリン2および4−ホルミルフェニルボロン酸3の鈴木カップリングによって開始し、その後ウィティッヒ(Wittig)反応によってジアルデヒドをジビニルに変換して、生成物4を総収率64%で得ることができる。生成物4をアセナフテンキノンと縮合して、α−ジイミン5を得、それを閉環メタセシス8によって環化し、その後、水素化してシクロファンα−ジイミン6を得た。ジクロロメタン中でシクロファンα−ジイミン6を(DME)NiBr2によって錯体化して、以下のエチレン重合試験用のプレ触媒としての最終的なNiBr2錯体(1)を得た。
【0025】
錯体(1)の空間充填分子モデル(C)を、図1の最も右側に示す。図示したとおり、活性NiII中心は、シクロファン配位子の核と一致している9。分子モデルの上面図は、金属中心の軸面がシクロファン環によって完全に遮蔽されることを示している。図3の表に要約したとおり、錯体(1)(図2)は、様々な温度および時間でエチレン重合を行うために、トルエン中で修飾メチルアルミノキサン(MMAO)によって活性化した。
【0026】
図2の錯体(1)をトルエン中のMMAOに暴露すると、エチレン重合用の高活性触媒が得られた。その活性化触媒は、最も活性のある早周期遷移金属触媒10、および後周期遷移金属触媒2a、4b、11と同様のエチレン重合活性を示し、ターンオーバー頻度(TOF)が1.5×106/h(生産性42,000kg(PE)・[モル(Ni)・時]−1に相当する)であった。重合を30〜90℃で実施して、熱安定性をテストした。各温度で、5〜15分の範囲の異なる期間で3回重合を実施して、触媒の使用寿命をテストした。データは、触媒が90℃までの温度で高活性を保持することを示している。重要なことに、温度が30℃から70℃に上昇すると、10分の重合で観察されるTOFが10%未満しか低下しなかった(登録番号2および8)。90℃であっても、10分の重合でのTOFの低下は、30%未満である(登録番号2および11)。これは、一般に60〜85℃で活性が急激に低下する非環式NiII−α−ジイミン対照物(例えば参照番号5の4g)と好対照である4b。一定温度、異なる期間での重合のTOFを計算したところ、活性触媒がかなりの期間、活性を保持していることが示された。70℃未満の温度で、触媒は、15分間、ほぼ一定の生産性を保持した。70℃および90℃での重合では、生産性が最初の10分間は一定であり、その後、減少し始めたことから、高温ではより後になって失活し始めることが示唆された。
【0027】
図2の錯体(1)を用いて得られたPEのMWは、同様に温度が上昇しても低下しなかった。これもまた、PEのMWが通常、温度が上昇するに連れて急速に低下する4b非環式NiII−α−ジイミン系とは対照的である。観察されたモノモーダルな分子量分布、および比較的狭い多分散度指数(PDI)は、触媒の単一サイトの性質を示している。形成されたPEは、短鎖分枝を含み、13C NMRで明らかにされたとおり、ほとんどが単純なメチル分枝である。重合温度が上昇するに連れて、分枝密度が上昇し、これはNiII−α−ジイミン系と一致する。分枝密度は、同様の条件で容積の大きい非環式NiII−α
−ジイミン系によって生成されたPEと同等である。分岐は、ブルックハート2およびフィンク(Fink)12が提案したチェーン・ウォーキング機構によって生成されたものと思われる。
【0028】
要約すると、本発明の新規なシクロファンベースのNiII−α−ジイミン錯体(1)が、MMAOによって活性化される際に非常に効果的なエチレン重合触媒となることが示された。その新規な触媒は、気相オレフィン重合法に適した温度範囲で十分に高い熱適合性を示す。形成されたPEのMWは高く、重合温度に関して比較的一定している。本出願人は、現在、新規なシクロファンベースの遷移金属錯体ファミリーの重合特性を研究している。
【0029】
上記実験で用いた配位子、錯体およびポリマーの合成および特性の詳細、ならびにこの詳細な説明の前述のセクションAに示した脚注に関する参考資料は、本特許出願の別記Aに記載している。
【0030】
B.高温ポリオレフィン重合における本発明の組成物の合成および使用
以下の段落は、図7〜18に関連し、以下の段落に示した参照番号は、図7〜11に表記した参照番号に関するものである。
【0031】
図7は、α−オレフィンを重合するためにメチルアルミノキサン(MAO)により活性化された非環式ジイミン配位子系に由来するニッケル触媒(1)の使用を方程式の形式で示しているi。Pd触媒系を含むこれらの先行技術の触媒iiは、室温でのα−オレフィンを重合において、より堅牢であり、より低温(0〜10℃)においてのみリビング重合を示すことが報告されている。しかし、おそらくエチレン雰囲気下、50℃で触媒の失活が観察されたため、これらの報告は、周囲温度よりも高い温度での触媒の潜在的活性については触れていないiii 。
【0032】
本出願人は、図8に示す大環状NiII−α−ジイミン錯体iv(2)を開発し、そのような錯体(2)は、高温でのエチレン重合の触媒として十分な触媒であり、更にブルックハートviが開発した図7に示す元の非環式ジイミン触媒(1)の活性および安定性をしのぐことを示した。
【0033】
図8に示した大環状錯体(2)の活性を調査する連続試験において、α−オレフィンで重合を、極性コモノマーで共重合を試行した。
a)Ni−シクロファン錯体を用いた1−ヘキセンの重合
図9に示すとおり、α−オレフィンを重合する際の本発明のNi−シクロファンジイミン触媒(2)の活性を、1−ヘキセンでテストし、ブルクハート触媒(1)および別の非環式のレイガー型触媒(3)と比較した。この比較の結果を、図10の表に示す。
【0034】
最初の実験は、トルエン中の2.66M濃度の1−ヘキセンで実施し、温度0、25、75および95℃で熱安定性を比較した。0℃での重合データは、シクロファン触媒(2)(TON=488〜784)が、ブルックハート触媒(1)(TON=1468〜3850)よりも活性が低いことを示した。0℃で本発明のシクロファン触媒(2)の活性が低かったことは十分に理解されていないが、触媒の活性化が遅いためではないかと思われる。触媒(2)が非常に嵩高いこと、およびそのシクロファンの微細構造によって、0℃でα−オレフィンモノマーに容易に接近できないためとも考えられる。低温条件では、登録番号F84およびブルックハートのデータと比較して低分子量のポリ(1−ヘキセン)が得られた。
【0035】
本発明のシクロファン触媒(2)を室温でブルックハート触媒(1)と比較した場合に
、同じ傾向が観察される可能性がある。嵩高い非環式レイガー型触媒(3)は、低分子量でかなり低い活性であることを示した。
【0036】
b)75℃および95℃での触媒活性および分子量データ
一般に、より高温で重合すると、本発明のシクロファン触媒(2)が、先行技術の非環式触媒(1)および(3)よりも活性があることが示される。1−ヘキセンモノマーは64℃で沸騰し、つまり75℃および95℃では還流されてほとんど気相になる。本発明のシクロファン触媒(2)が、75℃ではより多くのポリマーを生成し、分子量は保持しながら(MW〜622K)室温での性能を上回る(室温でTON3992、75℃でTON5466)ことが重合によって示された。これは、ブルックハート触媒(1)(室温でTON4515、75℃でTON1022)およびレイガー型触媒(3)(室温でTON1901、75℃でTON618)の急激な活性低下、およびそれらの分子量の低下とは対照的である。非環式触媒で観察された低い活性は、先に記載したとおり熱不安定性のために触媒が失活するためである。シクロファンの構成は、Ni−ジイミン触媒の熱安定性を事実上改善する。
【0037】
図11のグラフは、本発明のシクロファン触媒(2)と先行技術の非環式触媒(1)および(3)との熱安定の比較を示している。シクロファン触媒(2)は、より高温で優れた触媒活性を明白に示す。非環式触媒(PDI=1.43〜1.49)と比較して、75℃でシクロファン触媒(2)(PDI=1.17)による低いポリマー多分散度が観察されたことから、若干のリビング重合活性が示唆される。こうしてこの観察をテストするために、20分間隔で一部を回収し、GPCを用いて分子量データを測定するリビング重合実験を75℃で実施した。図12の表に生データを示し、図13に分子量対時間の対応するグラフを示す。これらの結果は、多分散性をほぼ維持しながら分子量が増大している(60分で100万に達する)ことによって、75℃での系が最初の1時間の間においてリビングであることを示している。しかし1時間を過ぎると、分子量が低下する。これは、より長時間ではモノマーの供給が枯渇するためであろう。
【0038】
これらの実験で用いた材料、調製物および手順の詳細、ならびにこの詳細な説明の前述のセクションBに示した脚注に関する参考資料は、本特許出願の別記Bに記載している。
本発明を、本発明の特定の実施例または実施形態を参照しながら先に説明したが、本発明の精神および範囲を逸脱することなくそれらの実施例および実施形態に様々な追加、消去、変更および改良を施し得ることを理解すべきである。例えば、実施形態または実施例が予期される使用に不適切にならない限りは、一つの実施形態または実施例の構成または属性を、別の実施形態または実施例に組み込むか、または一緒に利用することができる。合理的な追加、消去、改良および変更の全てが、記載した実施例および実施形態の均等物とみなされ、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【0039】
別記A
概論: 空気および/または水感受性化合物の操作の全てを、標準的シュレンク(Schlenk)法を利用して実施した。有機金属化合物は、窒素を充填した減圧雰囲気ドライボックス内で取り扱った。高分解能質量スペクトルを、マイクロマスLCT(Micromass LCT)またはマイクロマス・オートスペック(Micromas Autospec)で記録した。元素分析は、ジョージア州ノークロスのアトランティック・マイクロラボ社(Atlantic Microlab)で実施した。1Hおよび13C NMRスペクトルは、ブルカー社アバンス−500または400(Bruker Avance−500 or 400)分光装置で記録した。化学シフトは、残留溶媒に対比させて記録する。ポリエチレンの1H NMRスペクトルは、10秒の遅延時間を利用して140℃のC6D5Br中で測定した。1H NMR分光測定によって測定したメチル、メチンおよびメチレン基の積分値から、ポリエチレンの分岐度を推定した1。ポリマー・
ラボラトリー社(Polymer Laboatory)のPLゲル 5μmの混合Cカラム(PLgel 5μm mixed−C column)を取り付けたアギレント(Agilent)LC 1100シリーズを利用して、トルエン中でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を実施した。ポリエチレン標準によって、較正曲線を作成した。
【0040】
材料: パングボーン他(Pangborn et. al.)2が記載した手順を利用して、トルエン、ジクロロメタンおよびジエチルエーテルを精製した。機械的に撹拌される600mLパール・オートクレーブで、高圧重合を実施した。超高純度エチレンは、エアガス社(Airgas)から購入し、更に精製せずに使用した。イソブチル基を12%含むトルエン(d=0.88g/mL)中の修飾メチルアルミノキサン(MMAO)の7%Al(重量%)溶液は、アクゾノベル社(Akzo Nobel)から購入した。アセナフテンキノン、4−ホルミルフェニルボロン酸、2,6−ジブロモ−4−メチルアニリン、およびメチルトリフェニルホスホニウムブロミドは、アルドリッチ・ケミカル社(Aldrich Chemical Co.)から購入した。(DME)NiBr2は、ストレム社(Strem)から購入した。C6D5Brは、アルドリッチ社から購入し、活性化した4A°モレキュラーシーブス上で保存した。第2世代グラブス(Grubbs)・ルテニウムカルベン・メタセシス触媒は、マテリア社(Materia Inc.)より寄贈された。
【0041】
4の合成:
【0042】
【化5】
Aの合成3 ジオキサン中の2,6−ジムロモ−4−メチルアニリン2(15.9g;60ミリモル)と、Pd(PPh3)4(8.32g;12モル%)との混合物を、70℃で20分間撹拌した。少量のエタノールおよびジオキサン中に溶解した溶液4−ホルミルフェニルボロン酸3(25g;3当量)を前記混合物に添加し、その後2MのNa2CO3(6当量)を添加した。この混合物を加熱して、3日間還流した。有機相を分離して、水相を酢酸エチルで3回抽出した。有機相を全てひとまとめにして、Na2SO4で乾燥させ、溶媒を除去した。黄色の粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン:EtOAc=2:1)にかけて、生成物Aを収率85%で得た。1H NMR(CDCl3):δ10.06(s,2H,−CHO);8.0(d,J=8.1Hz,4H,arom.H);7.70(d,J=8.1Hz,4H,arom.H)6.96(s,2H,arom.H);4.30(s,2H,−NH2);2.25(s,3H,−CH3)。13C NMR:192.7, 145.9, 138.9,134.8,130.8,130.0, 129.8, 126.3,126.2,19.9ppm。
【0043】
4の合成 THF中のメチルトリフェニルホスホニウムブロミド(162ミリモル;58g)の溶液に、カリウムtert−ブトキシド(178ミリモル;21g)を3回に分けて15分間隔で添加した。混合物をアルゴン下、室温で1時間撹拌した。その後、溶液を−78℃に冷却した。THF中のA(54ミリモル)の溶液を、滴下漏斗を通して上記溶液に緩やかに添加した。混合物を−78℃で3時間撹拌し、その後、室温に加温した。最後に反応を水でクエンチし、エーテルで抽出し、ブラインで洗浄してMgSO4で乾燥
させて、粗生成物を得た。その粗生成物をクロマトグラフィーにかけて、生成物4を黄色固体として収率75%で得た。1H NMR(CDCl3):δ7.49(s,8H,arom.H);6.95(s,2H,arom.H);6.75(q,J=17.6,10.9Hz,2H,−CH=C);5.79(d,J=17.6,0.7Hz,2H.トランス末端ビニル水素);5.27(d,J=10.9,0.7 Hz,2H,シス末端ビニル水素);3.74(s,br,2H,−NH2);2.30(s,3H,−CH3)。13C NMR:139.8, 138.8,137.0,136.9,130.7,129.9, 128.2,127.8,127.1,114.4,20.8ppm。HRMS C23H21Nの計算値:311.1674;実測値:311.1674。C23H21Nの分析計算値:C 88.71%、H 6.80%;実測値: C 87.80%,H 6.75%。
【0044】
α−ジイミン5の合成:4,5
【0045】
【化6】
ディーン・スターク(Dean−Stark)装置および冷却管を取り付けた三つ口フラスコ中で、ベンゼン(50mL)中のアセナフテンキノン(15ミリモル)とp−トルエンスルホン酸(0.25モル%)との混合物を、アルゴン下で撹拌した。その後、ベンゼン中の4(2.5当量)の溶液を添加した(非常に少量の1,4−ヒドロキノンを添加して、スチリル二重結合の重合を防いだ)。混合物を加熱して5日還流し、水副生成物を共沸混合冷媒によって絶えず除去した。その後、溶媒の量を真空下で減少させ、生成物をクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン)にかけて、生成物5を赤橙色固体として収率60%で得た。1H NMR:δ7.51(d,J=8.3Hz,2H,a);7.40(d,J=8.3Hz,8H,arom.H);7.20(s,4H,d);7.15(pseudo t,2H,b);7.00(d,J=8.3Hz,8H,arom.H);6.76(d,J=7.2Hz,2H,c);6.53(m,4H,e);5.58(d,J=17.6,0.8Hz,4H,f);5.10(d,J=11.6,4H,f);2.47(s,6H,g)。13C NMR:161.0,144.9,140.6,140.0, 137.1,136.1,134.6,131.6,131.4,130.7,130.1,130.0, 128.5,127.6, 126.1,122.8,113.8,21.43ppm。HRMS [C58H44N2+H]+の計算値:769.3583;実測値:769.3599。
【0046】
シクロファンα−ジイミン6の合成:
【0047】
【化7】
Bの合成 CH2Cl2中の化合物5(0.046g;0.06ミリモル)と、第2世代グルブス・メタセシス触媒(6モル%)との混合物を、窒素雰囲気下で50〜60℃で撹拌した6。反応をESMSでモニタリングした。冷却した後、溶液をセライトでろ過した。溶媒を蒸発させて、黄色固体を得た。この黄色固体をクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン/CH2Cl2=1:1)にかけて、生成物Bを収率78%で得た。1H NMR:δ7.86(d,J=7.9Hz,2H,a);7.42(pseudo t,2H,b);7.33(d,J=7.7Hz,4H,arom.H);7.23(s,4H,d);6.82−6.80(重複、10H:4H for c/f,4H arom.H
and 2H for c);6.68(d,J=7.7Hz,4H,arom.H);6.48(d,J=7.7Hz,4H,arom.H);2.49(s,6H,g)。13C NMR:162.2,146.0,140.5,138.0,137.3,133.9,133.4,131.5,131.3,131.2,130.6,130.0, 129.8,129.2, 129.1,128.7,128.0,123.9,21.4ppm。HRMS [C54H36N2+H]+の計算値:713.2957;実測値:713.2933。
【0048】
6の合成 CH2Cl2/MeOH(1:1)中の生成物B(0.35ミリモル)とPd/C(10モル%)との混合物を、水素雰囲気下で2時間撹拌した。その後、混合物をセライトでろ過して溶媒を蒸発させ、黄色固体を得た。固体をクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン/酢酸エチル/アセトン:7/3/0.5)にかけて、生成物6を黄色粉末として収率77%で得た。1H NMR:δ7.86(d,J=8.3Hz,2H,a);7.44(pseudo t,b);7.28(m,4H,arom.H);7.13(s,4H,d);6.78(d,J=7.9Hz,4H,arom.H);6.72(d、J=7.2Hz,2H,c)6.54(d、J=7.7Hz,4H,arom.H);6.35(d、J=7.7Hz,4H,arom.H)2.94(m,4H,e または f);2.79(m,4H,e or f);2.45(s,6H,g)。13C NMR:138.8; 138.0;137.3;137.3;133.4;131.6,131.3;130.6,130.3;129.8;128.7;127.9;123.9;123.8;36.2;21.5ppm。UV/Vis(DCM)λmax(nm)262,302,412。HRMS [C54H40N2+H]+の計算値:717.3270;実測値:717.3295。C54H40N2の分析計算値:C90.47%,H5.62%,N3.91%;実測値:C 90.12%,H5.77%,N3.67%。
【0049】
錯体1の合成:7
【0050】
【化8】
CH2Cl2中の6(0.28ミリモル)と(DME)NiBr2との混合物を、窒素雰囲気下で撹拌した。溶液は、1時間以内に黄色から暗緑色に変化した。溶液を室温で一晩撹拌した。溶媒および残留DMEを高真空下で24時間除去し、暗緑色粉末を得た。錯体の常磁性により、十分なNMRスペクトルを得ることができなかった。元素分析、ならびに配位子6を表す412nmから錯体1を表す548nmおよび608nmへのUV/Vis吸収バンドのシフトによって、錯体形成を確認した。UV/Vis(DCM)λmax(nm)292,396,548,608。C54H40Br2N2Ni・CH2Cl2の分析計算値8:C64.74%,H4.15%,N2.75%;実測値:C 64.77%,H4.46%,N2.68%。
【0051】
重合の一般的手順:1,7 600mLパール・オートクレーブを真空下、110℃で数時間加熱し、エチレンで2回洗い流した。その後、室温に冷却し、エチレンで2回バックフィルして内圧を低下させた。グローブボックス内で調製したトルエン(200mL)およびMMAO(1.6mL;3000当量)を、窒素流の下でパール反応容器に移した。オートクレーブを密閉して、エチレン圧を200psiに上昇させた。溶液をエチレン圧下で激しく撹拌し、系の温度を所望の重合温度よりも5℃低い温度にして、15分間平衡にした。その後、オートクレーブを換気して、内圧を低下させた。少量のトルエンに溶解した錯体1を、オートクレーブに移し、その後密閉し、激しく撹拌しながらエチレン圧200psiに加圧した。温度(±3℃)を保持しながら、特定の反応時間で反応を実施した。最後に、オートクレーブを換気して、大量のメタノール/アセトンを添加し、重合をクエンチして、残留するMMAOを失活させた。沈殿したポリマーを回収して、真空下、100℃で乾燥させた。
【0052】
【表1】
別記B
材料 トルエン、ジクロロメタンおよびジエチルエーテルを精製した溶媒系から得る。機械的に撹拌される600mLパール・オートクレーブで、高圧重合を実施した。超高純度エチレンおよびプロピレンガズをエアガス社から購入し、更に精製せずに使用した。イソブチル基を12%含むトルエン(d=0.88g/mL)中の修飾メチルアルミノキサン(MMAO)の7%Al(重量%)溶液を、アクゾノベル社から購入した。メチルウンデセノアートをアルドリッチ社から購入し、2NのNa2CO3、50%のCaCl2、およびブラインで洗浄することによって精製し、更に蒸留したi。1−ヘキセン(99%)および1−オクタデセン(90%)をアルドリッチ・ケミカル社から購入し、N2を用いて脱気した。
【0053】
概論 ポリマーの分枝は、10秒の遅延時間で120℃のテトラクロロエタン中で測定した。1H NMR分光測定によって測定したメチル、メチンおよびメチレン基の積分値から、ポリエチレンの分岐度を推定した。HPアギレントGPC対ポリスチレン標準を使用して、室温のトルエン中でゲル浸透クロマトグラフィーを測定した。パーキン・エルマー・パイリス6 DSC(Perlon Elmer Pyris 6 DSC)で熱分析を実施し、融解転移を吸熱最大に達した温度として報告し、ガラス転移温度を転移の中点の温度として報告した。
【0054】
1−ヘキセン重合の一般的手順(表1):
触媒をトルエンに溶解して、1−ヘキセンを添加した。混合物を所望の温度に加熱し、その温度で5分間撹拌した。トルエン中のMMAOを添加して、特定の時間、反応物を撹拌した。反応物をメタノール中の10%HClでクエンチして、ポリマーをアセトンで沈殿させた。ポリマーを回収して、MeOH/HCl、H2Oおよびアセトンで洗浄した。その後、80℃の高真空で乾燥した。
【0055】
1−ヘキセンのリビング重合における分割試料採取(表2):
触媒2を秤量して(4.6mg;5×10−6モル)、ドライボックス中において火力乾燥したフラスコに入れた。トルエン(70ml)を添加して触媒を溶解し、緑色の溶液を得た。1−ヘキセン(35ml;280ミリモル;2.66M)を、グローブボックスにおいて混合物に添加した。混合物を75℃に加熱して、5分間撹拌した。トルエン中のMMAOを添加すると、溶液は桃色がかった色に変化した。20分毎に2時間、重合溶液から5.0mlのアリコートを取り出し、メタノール中の10%HClを添加してクエンチした。アセトンを添加してポリマーを沈殿させた。回収したポリマーをMeOH/HCl、H2Oおよびアセトンで洗浄した。その後、80℃の高真空で乾燥させた。ゲル透過クロマトグラフィー(トルエン、30℃、ポリスチレン標準)を利用して、各ポリマー分取液の分子量および多分散度を得た。
【0056】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】非環式NiII−α−ジイミン錯体(A)をシクロファンベースのNiII−α−ジイミン錯体(B)と比較した図。
【図2】本発明のシクロファンベースのNiII−α−ジイミン錯体(B)の合成スキーム。
【図3】本明細書に記載した重合データを要約した表。
【図4A】多数の本発明の二座配位子の化学構造を示す図。
【図4B】多数の本発明の二座配位子の化学構造を示す図。
【図4C】多数の本発明の二座配位子の化学構造を示す図。
【図4D】多数の本発明の二座配位子の化学構造を示す図。
【図4E】多数の本発明の二座配位子の化学構造を示す図。
【図5A】多数の本発明の三座配位子の化学構造を示す図。
【図5B】多数の本発明の三座配位子の化学構造を示す図。
【図6A】本発明の錯体を調製する際に使用可能な異なる種類の配位子に好ましい金属の例を示す構造図。
【図6B】本発明の錯体を調製する際に使用可能な異なる種類の配位子に好ましい金属の例を示す構造図。
【図6C】本発明の錯体を調製する際に使用可能な異なる種類の配位子に好ましい金属の例を示す構造図。
【図7】ポリオレフィン重合反応における先行技術のブルックハート触媒(1)の使用を示す概略図。
【図8】本発明のNi−シクロファンジイミン触媒(2)の化学構造を示す図。
【図9】本発明のNi−シクロファンジイミン触媒および2種の先行技術の触媒の存在下で1−ヘキセンを重合してポリ(1−ヘキセン)ポリマーを形成させた実験の概略図。
【図10】図9の実験における触媒活性およびポリマー分子を示す表。
【図11】図9の実験において本発明のNi−シクロファンジイミン触媒と2種の先行技術の触媒とで様々な温度での触媒活性を比較したグラフ。
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2003年8月7日に提出された米国暫定特許出願番号60/493,519号への優先権を主張するものであり、その全容は本願に援用される。
本発明は概して、化学およびポリマー科学に関し、より詳細には重合触媒として使用可能な金属錯体およびそれにより得られるポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
特定のジイミン配位子の遷移金属錯体が、過去に開示されている。過去に記載されたそれらの遷移金属錯体の一部は、重合触媒として活性があることが報告されている。しかしながら、先に記載されたそれらの遷移金属錯体は、オレフィン触媒用に用いると通常、熱安定性が低く、このため高温での高分子量ポリマーの生成には用いることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
当該技術分野において、オレフィン重合を触媒するとともに、通常、高分子量ポリマーの重合によって生じる高温において安定である、新規な遷移金属錯体の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、下記の一般式Iを有する大環状金属錯体を提供する。
【0005】
【化1】
上記式中、A1およびA2は、同一であっても異なっていてもよく、飽和または不飽和であり、環式または非環式であり、キラルまたはアキラルである環状構造、例えばシクロアルキル、または
【0006】
【化2】
である。ここで、Zは、O、NR3、S、CR6=CR7、CR6=NおよびN=CR6から選択され、R6およびR7がHである場合、前記環は、H、アルキル、アルコキシ、アミノ、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロおよびトリフルオロメチルから選択される1個以上の置換基Qによって任意に置換されていてもよく、R6およびR7は、更に結合して、O、NおよびSから選択される1個以上のヘテロ原子によって任意に置換された環式環を形成していてもよく、少なくとも1箇所の二重結合を含んでいてもよい。
【0007】
B1およびB2は、同一であっても異なっていてもよく、−Ar−T−Ar−、−T−Ar−T−および−T−から選択され、ここで、Arは、芳香族環(例えばフェニル、フリル、チエニル、ピロリル、インドリル、イソインドリル、ピリジル、ナフチルなど)である。
【0008】
Tは、飽和または不飽和であり、かつ環式または非環式であり、かつキラルまたはアキラルである1〜10個の炭素原子を有する炭化水素基である。T内の1個以上の前記炭素原子は、O、S、SO、SO2、NR3(式中、R3は、H、アルキル(C1〜4)、シクロアルキル(C3〜6)、アリール、アラルキルおよびアシル(C2〜6)である)、(SiR4R5)n(式中、nは、1または2である)、および−Si(R4R5)−O−Si(R4R5)−(式中、R4およびR5は、同一であっても異なっていてもよく、アルキル(C1〜4)、シクロアルキル(C3〜6)、アリールおよびアラルキルから選択される)のうちから選択される1個以上のヘテロ原子またはヘテロ基によって任意に置換されていてもよい。
【0009】
H1およびH2は、N、P、OおよびSを含むいずれか1個のヘテロ原子から独立して選択される。これらのヘテロ原子は、中性形態で存在するか、または前記へテロ原子に結合したプロトンが外れた場合に対応するアニオンとして存在してもよい。
【0010】
単結合、二重結合またはそれら両方の組み合わせのいずれかによってH1およびH2に結合したR1およびR2は、同一であっても異なっていてもよく、アルキル、アルコキシ、アミノ、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロおよびトリフルオロメチルで任意に置換されたアルキル、アリール、アラルキルから選択される。あるいは、R1およびR2は、二座配位子の場合には、アルキレンもしくは置換されたアルキレン架橋を介して結合して、環式環を形成してもよく、その例は図4A〜4Eに示されており、以下に論じる。三座配位子の場合には、R1およびR2は、前記アルキレン架橋の1個以上のメチレン基が、O、P、SおよびNから選択されたヘテロ原子G、もしくはそのようなヘテロ原子を含む複素環によって置換されていてもよく、その例は図5A〜5Bに示されており、以下に論じる。
【0011】
R' およびR''は、アルキル、アルケニル、アリール、アラルキルおよびシクロアルキルである。
XおよびYは、ハロゲン、擬ハロゲン、カルボン酸エステル、アミノ、置換アミノ、アルコキシまたはアリールオキシ基から選択される。
【0012】
Mは、遷移族金属イオンまたは主族金属イオンである。Mは、配位子の種類に基づいて選択され、Fe、Ru、Os、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Zn、Al、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWを含む。その例は、図6A〜6Cに示されており、以下に論じる。
【0013】
さらに、B1、B2、A1およびA2が、フェニル環を含む場合、B1−B2−A1−A2−B1の結合が、好ましくは各環部分の1,3位もしくは1,4位、またはその組み
合わせのいずれかを介して行われており、B1、B2、A1およびA2が、複素環を含む場合、前記結合は、5員環ではC2〜C5のいずれかを介して行われてもよく、6員環ではC2〜C6のいずれかを介して行われていてもよい。
【0014】
更に本発明によれば、大環状金属錯体は、シクロファン金属錯体、例えばシクロファンベースのNiII−α−ジイミン錯体を含んでいてもよい。
更に本発明によれば、先の一般式Iで示される物質の組成物が得られ、B2が存在しない場合には、そのような組成物は、以下のような一般式IIの「半錯体(half complexes)」となる。
【0015】
【化3】
更に本発明によれば、本発明の錯体は、以下のような式III で示されるシクロファンベースのNiII−α−ジイミン錯体を包含する。
【0016】
【化4】
更に本発明によれば、先の一般式I、IIまたはIII の錯体1種以上の存在下でモノマーおよび/またはプレポリマーを反応させることによって、ポリエチレンおよびポリオレフィンなどのポリマーを合成する方法が付与される。
【0017】
更に本発明によれば、先の一般式I、IIまたはIII の錯体の1種以上の存在下でモノマーおよびプレポリマーの少なくともいずれかを反応させることによって合成されたポリマーが提供される。そのようなポリマーとしてはポリエチレンおよびポリオレフィンがあるが、それらに限定されるものではない。
【0018】
本発明の更なる態様および構成は、以下に示す詳細な説明および実施例を読むことによって、当業者には明白となろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、高温で比較的安定しており、かつ高温で高分子オレフィンポリマーを生成する際に使用可能な遷移金属触媒を提供する。これらの触媒は、その温度安定性が改善されているため、工業的気相オレフィン重合法などの様々な種類のオレフィン重合法に用いることができる。
【0020】
本発明の触媒の例は、新規なシクロファンベースの配位子と、Ni(II)および他の遷移金属イオンとの錯体形成によって形成され得る。以下に示す詳細な説明のセクションAに記載するとおり、本発明の触媒は、エチレン重合に対して非常に高い活性を示し、高分子量ポリマーを生成させる。加えて以下に示す詳細な説明のセクションBに記載するとおり、該触媒は、α−オレフィンを重合する活性も有している。新規な触媒の重要な特性は高温熱安定性であり、この特性は該触媒を工業的気相重合法に適したものにする。この触媒は、ポリオレフィンをプラスチックおよび/またはエラストマーとして調製するのに用いることができる。
【0021】
A.高温ポリエチレン重合における本発明の組成物の合成および使用
近年になり、後周期遷移金属のオレフィン重合触媒が、新規な分枝のトポロジーと官能基への改善された耐性とを有するポリオレフィンを調製するために使用可能であることが報告されている1。そのような系の一つは、ブルックハート(Brookhart)およびその関係者から報告されたNiII−およびPdII−α−ジイミン錯体である2。これらのNiII系は、エチレンの高分子量(MW)ポリエチレン(PE)への重合において、早周期金属触媒に匹敵する活性を有することが示され、PdII系は、アクリル酸メチルなどの機能性オレフィンを組み入れ得ることが示された2。PdII−α−ジイミン触媒によって形成されたPEの分枝のトポロジーは、単にエチレン圧を変動させることによって、直鎖状〜高分枝状〜樹状に調整することができた3。先行技術の後周期遷移金属のオレフィン重合触媒は、所望の特性を呈し得るが、厳密な制約の一つとして、温度への高い感受性がある。その触媒は、PdII系では50℃で4a、NiII系では70℃で4b急速に分解する。NiII触媒によって形成されるPEのMWも、重合の温度が上昇するに連れて急激に低下する4b。気相オレフィン重合は通常、80〜100℃で操作されるため、これらの問題のせいでこれらの触媒の商品化が著しく阻害されていた5。
【0022】
本願に記載するとおり、本出願人は、有意に改善された熱安定性を示し、工業的気相オレフィン重合に適した温度範囲で高分子量PEを生成させる新規なシクロファンベースのNiII−α−ジイミン触媒を発明した。
【0023】
シクロファンの化学は、その合成に対する単なる好奇心に始まり、分子認識、超分子化学および生物模擬などの様々な用途に向けた特性の活用に至るまで興味深い研究分野に発展した6。しかし、遷移金属触媒での配位子としてのシクロファンの使用が、十分に調査されていなかったことは、興味深いことである7。我々は、高温で十分なエチレン重合を行うための第1のシクロファンベースの遷移金属錯体をここに報告する(図1)。図1に示した非環式化合物触媒(A)では、アリール基が配位面に対してほぼ直交して存在するため、アリールのイソプロピル置換基が軸方向に配置されて、エチレンの会合連鎖移動(associative chain transfer)を遮断する2。しかし高温では、アリール基が垂直な向きから離れて回転し得るため、会合連鎖移動が増加して、形成されるPEのMWが低下する4b。さらに、アリール基が配位面に向かって回転するため、アリール環のイソプロピル置換基がC−H活性化のための金属中心の近傍に達して、メタラサイクルを形成する。これはこの触媒ファミリーの潜在的失活経路の一つとして提案された4a。図1に示す本発明
のシクロファンベースの錯体(B)では、金属中心が配位子の核に配置されるため、大環式環が金属の軸面を完全に遮断して、モノマーが導入されポリマーが成長するためのシス配位部位が2箇所しか残らない。配位子の強固な骨格によりアリール−窒素結合の自由な回転が阻害される。これは、該触媒が高温で高MWポリマーを形成するのを可能にすると考えられる。回転の柔軟性がないため、オルト置換基に対するC−H活性化が不可能になり、そのためこの潜在的な触媒の失活経路を封鎖するものと思われる。他の系でも、強固な大環式環配位子が、金属錯体の配位安定性を高め得ることが観察された7b。これらの考察に基づいて、本出願人、はシクロファンベースのα−ジイミン配位子を設計して、非環式α−ジイミン系の重大な熱感受性問題に取り組んだ。より一般的には我々は、金属錯体を触媒用に設計する際の新規な配位子骨格ファミリーとしてシクロファンを想定する。
【0024】
図2に示すとおり、シクロファン配位子の合成は、市販の2,6−ジブロモ−4−メチルアニリン2および4−ホルミルフェニルボロン酸3の鈴木カップリングによって開始し、その後ウィティッヒ(Wittig)反応によってジアルデヒドをジビニルに変換して、生成物4を総収率64%で得ることができる。生成物4をアセナフテンキノンと縮合して、α−ジイミン5を得、それを閉環メタセシス8によって環化し、その後、水素化してシクロファンα−ジイミン6を得た。ジクロロメタン中でシクロファンα−ジイミン6を(DME)NiBr2によって錯体化して、以下のエチレン重合試験用のプレ触媒としての最終的なNiBr2錯体(1)を得た。
【0025】
錯体(1)の空間充填分子モデル(C)を、図1の最も右側に示す。図示したとおり、活性NiII中心は、シクロファン配位子の核と一致している9。分子モデルの上面図は、金属中心の軸面がシクロファン環によって完全に遮蔽されることを示している。図3の表に要約したとおり、錯体(1)(図2)は、様々な温度および時間でエチレン重合を行うために、トルエン中で修飾メチルアルミノキサン(MMAO)によって活性化した。
【0026】
図2の錯体(1)をトルエン中のMMAOに暴露すると、エチレン重合用の高活性触媒が得られた。その活性化触媒は、最も活性のある早周期遷移金属触媒10、および後周期遷移金属触媒2a、4b、11と同様のエチレン重合活性を示し、ターンオーバー頻度(TOF)が1.5×106/h(生産性42,000kg(PE)・[モル(Ni)・時]−1に相当する)であった。重合を30〜90℃で実施して、熱安定性をテストした。各温度で、5〜15分の範囲の異なる期間で3回重合を実施して、触媒の使用寿命をテストした。データは、触媒が90℃までの温度で高活性を保持することを示している。重要なことに、温度が30℃から70℃に上昇すると、10分の重合で観察されるTOFが10%未満しか低下しなかった(登録番号2および8)。90℃であっても、10分の重合でのTOFの低下は、30%未満である(登録番号2および11)。これは、一般に60〜85℃で活性が急激に低下する非環式NiII−α−ジイミン対照物(例えば参照番号5の4g)と好対照である4b。一定温度、異なる期間での重合のTOFを計算したところ、活性触媒がかなりの期間、活性を保持していることが示された。70℃未満の温度で、触媒は、15分間、ほぼ一定の生産性を保持した。70℃および90℃での重合では、生産性が最初の10分間は一定であり、その後、減少し始めたことから、高温ではより後になって失活し始めることが示唆された。
【0027】
図2の錯体(1)を用いて得られたPEのMWは、同様に温度が上昇しても低下しなかった。これもまた、PEのMWが通常、温度が上昇するに連れて急速に低下する4b非環式NiII−α−ジイミン系とは対照的である。観察されたモノモーダルな分子量分布、および比較的狭い多分散度指数(PDI)は、触媒の単一サイトの性質を示している。形成されたPEは、短鎖分枝を含み、13C NMRで明らかにされたとおり、ほとんどが単純なメチル分枝である。重合温度が上昇するに連れて、分枝密度が上昇し、これはNiII−α−ジイミン系と一致する。分枝密度は、同様の条件で容積の大きい非環式NiII−α
−ジイミン系によって生成されたPEと同等である。分岐は、ブルックハート2およびフィンク(Fink)12が提案したチェーン・ウォーキング機構によって生成されたものと思われる。
【0028】
要約すると、本発明の新規なシクロファンベースのNiII−α−ジイミン錯体(1)が、MMAOによって活性化される際に非常に効果的なエチレン重合触媒となることが示された。その新規な触媒は、気相オレフィン重合法に適した温度範囲で十分に高い熱適合性を示す。形成されたPEのMWは高く、重合温度に関して比較的一定している。本出願人は、現在、新規なシクロファンベースの遷移金属錯体ファミリーの重合特性を研究している。
【0029】
上記実験で用いた配位子、錯体およびポリマーの合成および特性の詳細、ならびにこの詳細な説明の前述のセクションAに示した脚注に関する参考資料は、本特許出願の別記Aに記載している。
【0030】
B.高温ポリオレフィン重合における本発明の組成物の合成および使用
以下の段落は、図7〜18に関連し、以下の段落に示した参照番号は、図7〜11に表記した参照番号に関するものである。
【0031】
図7は、α−オレフィンを重合するためにメチルアルミノキサン(MAO)により活性化された非環式ジイミン配位子系に由来するニッケル触媒(1)の使用を方程式の形式で示しているi。Pd触媒系を含むこれらの先行技術の触媒iiは、室温でのα−オレフィンを重合において、より堅牢であり、より低温(0〜10℃)においてのみリビング重合を示すことが報告されている。しかし、おそらくエチレン雰囲気下、50℃で触媒の失活が観察されたため、これらの報告は、周囲温度よりも高い温度での触媒の潜在的活性については触れていないiii 。
【0032】
本出願人は、図8に示す大環状NiII−α−ジイミン錯体iv(2)を開発し、そのような錯体(2)は、高温でのエチレン重合の触媒として十分な触媒であり、更にブルックハートviが開発した図7に示す元の非環式ジイミン触媒(1)の活性および安定性をしのぐことを示した。
【0033】
図8に示した大環状錯体(2)の活性を調査する連続試験において、α−オレフィンで重合を、極性コモノマーで共重合を試行した。
a)Ni−シクロファン錯体を用いた1−ヘキセンの重合
図9に示すとおり、α−オレフィンを重合する際の本発明のNi−シクロファンジイミン触媒(2)の活性を、1−ヘキセンでテストし、ブルクハート触媒(1)および別の非環式のレイガー型触媒(3)と比較した。この比較の結果を、図10の表に示す。
【0034】
最初の実験は、トルエン中の2.66M濃度の1−ヘキセンで実施し、温度0、25、75および95℃で熱安定性を比較した。0℃での重合データは、シクロファン触媒(2)(TON=488〜784)が、ブルックハート触媒(1)(TON=1468〜3850)よりも活性が低いことを示した。0℃で本発明のシクロファン触媒(2)の活性が低かったことは十分に理解されていないが、触媒の活性化が遅いためではないかと思われる。触媒(2)が非常に嵩高いこと、およびそのシクロファンの微細構造によって、0℃でα−オレフィンモノマーに容易に接近できないためとも考えられる。低温条件では、登録番号F84およびブルックハートのデータと比較して低分子量のポリ(1−ヘキセン)が得られた。
【0035】
本発明のシクロファン触媒(2)を室温でブルックハート触媒(1)と比較した場合に
、同じ傾向が観察される可能性がある。嵩高い非環式レイガー型触媒(3)は、低分子量でかなり低い活性であることを示した。
【0036】
b)75℃および95℃での触媒活性および分子量データ
一般に、より高温で重合すると、本発明のシクロファン触媒(2)が、先行技術の非環式触媒(1)および(3)よりも活性があることが示される。1−ヘキセンモノマーは64℃で沸騰し、つまり75℃および95℃では還流されてほとんど気相になる。本発明のシクロファン触媒(2)が、75℃ではより多くのポリマーを生成し、分子量は保持しながら(MW〜622K)室温での性能を上回る(室温でTON3992、75℃でTON5466)ことが重合によって示された。これは、ブルックハート触媒(1)(室温でTON4515、75℃でTON1022)およびレイガー型触媒(3)(室温でTON1901、75℃でTON618)の急激な活性低下、およびそれらの分子量の低下とは対照的である。非環式触媒で観察された低い活性は、先に記載したとおり熱不安定性のために触媒が失活するためである。シクロファンの構成は、Ni−ジイミン触媒の熱安定性を事実上改善する。
【0037】
図11のグラフは、本発明のシクロファン触媒(2)と先行技術の非環式触媒(1)および(3)との熱安定の比較を示している。シクロファン触媒(2)は、より高温で優れた触媒活性を明白に示す。非環式触媒(PDI=1.43〜1.49)と比較して、75℃でシクロファン触媒(2)(PDI=1.17)による低いポリマー多分散度が観察されたことから、若干のリビング重合活性が示唆される。こうしてこの観察をテストするために、20分間隔で一部を回収し、GPCを用いて分子量データを測定するリビング重合実験を75℃で実施した。図12の表に生データを示し、図13に分子量対時間の対応するグラフを示す。これらの結果は、多分散性をほぼ維持しながら分子量が増大している(60分で100万に達する)ことによって、75℃での系が最初の1時間の間においてリビングであることを示している。しかし1時間を過ぎると、分子量が低下する。これは、より長時間ではモノマーの供給が枯渇するためであろう。
【0038】
これらの実験で用いた材料、調製物および手順の詳細、ならびにこの詳細な説明の前述のセクションBに示した脚注に関する参考資料は、本特許出願の別記Bに記載している。
本発明を、本発明の特定の実施例または実施形態を参照しながら先に説明したが、本発明の精神および範囲を逸脱することなくそれらの実施例および実施形態に様々な追加、消去、変更および改良を施し得ることを理解すべきである。例えば、実施形態または実施例が予期される使用に不適切にならない限りは、一つの実施形態または実施例の構成または属性を、別の実施形態または実施例に組み込むか、または一緒に利用することができる。合理的な追加、消去、改良および変更の全てが、記載した実施例および実施形態の均等物とみなされ、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【0039】
別記A
概論: 空気および/または水感受性化合物の操作の全てを、標準的シュレンク(Schlenk)法を利用して実施した。有機金属化合物は、窒素を充填した減圧雰囲気ドライボックス内で取り扱った。高分解能質量スペクトルを、マイクロマスLCT(Micromass LCT)またはマイクロマス・オートスペック(Micromas Autospec)で記録した。元素分析は、ジョージア州ノークロスのアトランティック・マイクロラボ社(Atlantic Microlab)で実施した。1Hおよび13C NMRスペクトルは、ブルカー社アバンス−500または400(Bruker Avance−500 or 400)分光装置で記録した。化学シフトは、残留溶媒に対比させて記録する。ポリエチレンの1H NMRスペクトルは、10秒の遅延時間を利用して140℃のC6D5Br中で測定した。1H NMR分光測定によって測定したメチル、メチンおよびメチレン基の積分値から、ポリエチレンの分岐度を推定した1。ポリマー・
ラボラトリー社(Polymer Laboatory)のPLゲル 5μmの混合Cカラム(PLgel 5μm mixed−C column)を取り付けたアギレント(Agilent)LC 1100シリーズを利用して、トルエン中でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を実施した。ポリエチレン標準によって、較正曲線を作成した。
【0040】
材料: パングボーン他(Pangborn et. al.)2が記載した手順を利用して、トルエン、ジクロロメタンおよびジエチルエーテルを精製した。機械的に撹拌される600mLパール・オートクレーブで、高圧重合を実施した。超高純度エチレンは、エアガス社(Airgas)から購入し、更に精製せずに使用した。イソブチル基を12%含むトルエン(d=0.88g/mL)中の修飾メチルアルミノキサン(MMAO)の7%Al(重量%)溶液は、アクゾノベル社(Akzo Nobel)から購入した。アセナフテンキノン、4−ホルミルフェニルボロン酸、2,6−ジブロモ−4−メチルアニリン、およびメチルトリフェニルホスホニウムブロミドは、アルドリッチ・ケミカル社(Aldrich Chemical Co.)から購入した。(DME)NiBr2は、ストレム社(Strem)から購入した。C6D5Brは、アルドリッチ社から購入し、活性化した4A°モレキュラーシーブス上で保存した。第2世代グラブス(Grubbs)・ルテニウムカルベン・メタセシス触媒は、マテリア社(Materia Inc.)より寄贈された。
【0041】
4の合成:
【0042】
【化5】
Aの合成3 ジオキサン中の2,6−ジムロモ−4−メチルアニリン2(15.9g;60ミリモル)と、Pd(PPh3)4(8.32g;12モル%)との混合物を、70℃で20分間撹拌した。少量のエタノールおよびジオキサン中に溶解した溶液4−ホルミルフェニルボロン酸3(25g;3当量)を前記混合物に添加し、その後2MのNa2CO3(6当量)を添加した。この混合物を加熱して、3日間還流した。有機相を分離して、水相を酢酸エチルで3回抽出した。有機相を全てひとまとめにして、Na2SO4で乾燥させ、溶媒を除去した。黄色の粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン:EtOAc=2:1)にかけて、生成物Aを収率85%で得た。1H NMR(CDCl3):δ10.06(s,2H,−CHO);8.0(d,J=8.1Hz,4H,arom.H);7.70(d,J=8.1Hz,4H,arom.H)6.96(s,2H,arom.H);4.30(s,2H,−NH2);2.25(s,3H,−CH3)。13C NMR:192.7, 145.9, 138.9,134.8,130.8,130.0, 129.8, 126.3,126.2,19.9ppm。
【0043】
4の合成 THF中のメチルトリフェニルホスホニウムブロミド(162ミリモル;58g)の溶液に、カリウムtert−ブトキシド(178ミリモル;21g)を3回に分けて15分間隔で添加した。混合物をアルゴン下、室温で1時間撹拌した。その後、溶液を−78℃に冷却した。THF中のA(54ミリモル)の溶液を、滴下漏斗を通して上記溶液に緩やかに添加した。混合物を−78℃で3時間撹拌し、その後、室温に加温した。最後に反応を水でクエンチし、エーテルで抽出し、ブラインで洗浄してMgSO4で乾燥
させて、粗生成物を得た。その粗生成物をクロマトグラフィーにかけて、生成物4を黄色固体として収率75%で得た。1H NMR(CDCl3):δ7.49(s,8H,arom.H);6.95(s,2H,arom.H);6.75(q,J=17.6,10.9Hz,2H,−CH=C);5.79(d,J=17.6,0.7Hz,2H.トランス末端ビニル水素);5.27(d,J=10.9,0.7 Hz,2H,シス末端ビニル水素);3.74(s,br,2H,−NH2);2.30(s,3H,−CH3)。13C NMR:139.8, 138.8,137.0,136.9,130.7,129.9, 128.2,127.8,127.1,114.4,20.8ppm。HRMS C23H21Nの計算値:311.1674;実測値:311.1674。C23H21Nの分析計算値:C 88.71%、H 6.80%;実測値: C 87.80%,H 6.75%。
【0044】
α−ジイミン5の合成:4,5
【0045】
【化6】
ディーン・スターク(Dean−Stark)装置および冷却管を取り付けた三つ口フラスコ中で、ベンゼン(50mL)中のアセナフテンキノン(15ミリモル)とp−トルエンスルホン酸(0.25モル%)との混合物を、アルゴン下で撹拌した。その後、ベンゼン中の4(2.5当量)の溶液を添加した(非常に少量の1,4−ヒドロキノンを添加して、スチリル二重結合の重合を防いだ)。混合物を加熱して5日還流し、水副生成物を共沸混合冷媒によって絶えず除去した。その後、溶媒の量を真空下で減少させ、生成物をクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン)にかけて、生成物5を赤橙色固体として収率60%で得た。1H NMR:δ7.51(d,J=8.3Hz,2H,a);7.40(d,J=8.3Hz,8H,arom.H);7.20(s,4H,d);7.15(pseudo t,2H,b);7.00(d,J=8.3Hz,8H,arom.H);6.76(d,J=7.2Hz,2H,c);6.53(m,4H,e);5.58(d,J=17.6,0.8Hz,4H,f);5.10(d,J=11.6,4H,f);2.47(s,6H,g)。13C NMR:161.0,144.9,140.6,140.0, 137.1,136.1,134.6,131.6,131.4,130.7,130.1,130.0, 128.5,127.6, 126.1,122.8,113.8,21.43ppm。HRMS [C58H44N2+H]+の計算値:769.3583;実測値:769.3599。
【0046】
シクロファンα−ジイミン6の合成:
【0047】
【化7】
Bの合成 CH2Cl2中の化合物5(0.046g;0.06ミリモル)と、第2世代グルブス・メタセシス触媒(6モル%)との混合物を、窒素雰囲気下で50〜60℃で撹拌した6。反応をESMSでモニタリングした。冷却した後、溶液をセライトでろ過した。溶媒を蒸発させて、黄色固体を得た。この黄色固体をクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン/CH2Cl2=1:1)にかけて、生成物Bを収率78%で得た。1H NMR:δ7.86(d,J=7.9Hz,2H,a);7.42(pseudo t,2H,b);7.33(d,J=7.7Hz,4H,arom.H);7.23(s,4H,d);6.82−6.80(重複、10H:4H for c/f,4H arom.H
and 2H for c);6.68(d,J=7.7Hz,4H,arom.H);6.48(d,J=7.7Hz,4H,arom.H);2.49(s,6H,g)。13C NMR:162.2,146.0,140.5,138.0,137.3,133.9,133.4,131.5,131.3,131.2,130.6,130.0, 129.8,129.2, 129.1,128.7,128.0,123.9,21.4ppm。HRMS [C54H36N2+H]+の計算値:713.2957;実測値:713.2933。
【0048】
6の合成 CH2Cl2/MeOH(1:1)中の生成物B(0.35ミリモル)とPd/C(10モル%)との混合物を、水素雰囲気下で2時間撹拌した。その後、混合物をセライトでろ過して溶媒を蒸発させ、黄色固体を得た。固体をクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン/酢酸エチル/アセトン:7/3/0.5)にかけて、生成物6を黄色粉末として収率77%で得た。1H NMR:δ7.86(d,J=8.3Hz,2H,a);7.44(pseudo t,b);7.28(m,4H,arom.H);7.13(s,4H,d);6.78(d,J=7.9Hz,4H,arom.H);6.72(d、J=7.2Hz,2H,c)6.54(d、J=7.7Hz,4H,arom.H);6.35(d、J=7.7Hz,4H,arom.H)2.94(m,4H,e または f);2.79(m,4H,e or f);2.45(s,6H,g)。13C NMR:138.8; 138.0;137.3;137.3;133.4;131.6,131.3;130.6,130.3;129.8;128.7;127.9;123.9;123.8;36.2;21.5ppm。UV/Vis(DCM)λmax(nm)262,302,412。HRMS [C54H40N2+H]+の計算値:717.3270;実測値:717.3295。C54H40N2の分析計算値:C90.47%,H5.62%,N3.91%;実測値:C 90.12%,H5.77%,N3.67%。
【0049】
錯体1の合成:7
【0050】
【化8】
CH2Cl2中の6(0.28ミリモル)と(DME)NiBr2との混合物を、窒素雰囲気下で撹拌した。溶液は、1時間以内に黄色から暗緑色に変化した。溶液を室温で一晩撹拌した。溶媒および残留DMEを高真空下で24時間除去し、暗緑色粉末を得た。錯体の常磁性により、十分なNMRスペクトルを得ることができなかった。元素分析、ならびに配位子6を表す412nmから錯体1を表す548nmおよび608nmへのUV/Vis吸収バンドのシフトによって、錯体形成を確認した。UV/Vis(DCM)λmax(nm)292,396,548,608。C54H40Br2N2Ni・CH2Cl2の分析計算値8:C64.74%,H4.15%,N2.75%;実測値:C 64.77%,H4.46%,N2.68%。
【0051】
重合の一般的手順:1,7 600mLパール・オートクレーブを真空下、110℃で数時間加熱し、エチレンで2回洗い流した。その後、室温に冷却し、エチレンで2回バックフィルして内圧を低下させた。グローブボックス内で調製したトルエン(200mL)およびMMAO(1.6mL;3000当量)を、窒素流の下でパール反応容器に移した。オートクレーブを密閉して、エチレン圧を200psiに上昇させた。溶液をエチレン圧下で激しく撹拌し、系の温度を所望の重合温度よりも5℃低い温度にして、15分間平衡にした。その後、オートクレーブを換気して、内圧を低下させた。少量のトルエンに溶解した錯体1を、オートクレーブに移し、その後密閉し、激しく撹拌しながらエチレン圧200psiに加圧した。温度(±3℃)を保持しながら、特定の反応時間で反応を実施した。最後に、オートクレーブを換気して、大量のメタノール/アセトンを添加し、重合をクエンチして、残留するMMAOを失活させた。沈殿したポリマーを回収して、真空下、100℃で乾燥させた。
【0052】
【表1】
別記B
材料 トルエン、ジクロロメタンおよびジエチルエーテルを精製した溶媒系から得る。機械的に撹拌される600mLパール・オートクレーブで、高圧重合を実施した。超高純度エチレンおよびプロピレンガズをエアガス社から購入し、更に精製せずに使用した。イソブチル基を12%含むトルエン(d=0.88g/mL)中の修飾メチルアルミノキサン(MMAO)の7%Al(重量%)溶液を、アクゾノベル社から購入した。メチルウンデセノアートをアルドリッチ社から購入し、2NのNa2CO3、50%のCaCl2、およびブラインで洗浄することによって精製し、更に蒸留したi。1−ヘキセン(99%)および1−オクタデセン(90%)をアルドリッチ・ケミカル社から購入し、N2を用いて脱気した。
【0053】
概論 ポリマーの分枝は、10秒の遅延時間で120℃のテトラクロロエタン中で測定した。1H NMR分光測定によって測定したメチル、メチンおよびメチレン基の積分値から、ポリエチレンの分岐度を推定した。HPアギレントGPC対ポリスチレン標準を使用して、室温のトルエン中でゲル浸透クロマトグラフィーを測定した。パーキン・エルマー・パイリス6 DSC(Perlon Elmer Pyris 6 DSC)で熱分析を実施し、融解転移を吸熱最大に達した温度として報告し、ガラス転移温度を転移の中点の温度として報告した。
【0054】
1−ヘキセン重合の一般的手順(表1):
触媒をトルエンに溶解して、1−ヘキセンを添加した。混合物を所望の温度に加熱し、その温度で5分間撹拌した。トルエン中のMMAOを添加して、特定の時間、反応物を撹拌した。反応物をメタノール中の10%HClでクエンチして、ポリマーをアセトンで沈殿させた。ポリマーを回収して、MeOH/HCl、H2Oおよびアセトンで洗浄した。その後、80℃の高真空で乾燥した。
【0055】
1−ヘキセンのリビング重合における分割試料採取(表2):
触媒2を秤量して(4.6mg;5×10−6モル)、ドライボックス中において火力乾燥したフラスコに入れた。トルエン(70ml)を添加して触媒を溶解し、緑色の溶液を得た。1−ヘキセン(35ml;280ミリモル;2.66M)を、グローブボックスにおいて混合物に添加した。混合物を75℃に加熱して、5分間撹拌した。トルエン中のMMAOを添加すると、溶液は桃色がかった色に変化した。20分毎に2時間、重合溶液から5.0mlのアリコートを取り出し、メタノール中の10%HClを添加してクエンチした。アセトンを添加してポリマーを沈殿させた。回収したポリマーをMeOH/HCl、H2Oおよびアセトンで洗浄した。その後、80℃の高真空で乾燥させた。ゲル透過クロマトグラフィー(トルエン、30℃、ポリスチレン標準)を利用して、各ポリマー分取液の分子量および多分散度を得た。
【0056】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】非環式NiII−α−ジイミン錯体(A)をシクロファンベースのNiII−α−ジイミン錯体(B)と比較した図。
【図2】本発明のシクロファンベースのNiII−α−ジイミン錯体(B)の合成スキーム。
【図3】本明細書に記載した重合データを要約した表。
【図4A】多数の本発明の二座配位子の化学構造を示す図。
【図4B】多数の本発明の二座配位子の化学構造を示す図。
【図4C】多数の本発明の二座配位子の化学構造を示す図。
【図4D】多数の本発明の二座配位子の化学構造を示す図。
【図4E】多数の本発明の二座配位子の化学構造を示す図。
【図5A】多数の本発明の三座配位子の化学構造を示す図。
【図5B】多数の本発明の三座配位子の化学構造を示す図。
【図6A】本発明の錯体を調製する際に使用可能な異なる種類の配位子に好ましい金属の例を示す構造図。
【図6B】本発明の錯体を調製する際に使用可能な異なる種類の配位子に好ましい金属の例を示す構造図。
【図6C】本発明の錯体を調製する際に使用可能な異なる種類の配位子に好ましい金属の例を示す構造図。
【図7】ポリオレフィン重合反応における先行技術のブルックハート触媒(1)の使用を示す概略図。
【図8】本発明のNi−シクロファンジイミン触媒(2)の化学構造を示す図。
【図9】本発明のNi−シクロファンジイミン触媒および2種の先行技術の触媒の存在下で1−ヘキセンを重合してポリ(1−ヘキセン)ポリマーを形成させた実験の概略図。
【図10】図9の実験における触媒活性およびポリマー分子を示す表。
【図11】図9の実験において本発明のNi−シクロファンジイミン触媒と2種の先行技術の触媒とで様々な温度での触媒活性を比較したグラフ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式で示される金属錯体を含む物質の組成物であって、
【化1】
上記式中、B1およびB2は、同一であっても異なっていてもよく、−Ar−T−Ar−、−T−Ar−T−および−T−(式中、Arは、芳香族環である)から選択され、
Tは、飽和または不飽和であり、かつ環式または非環式であり、かつキラルまたはアキラルである、1〜10個の炭素原子を有する炭化水素基であり、T内の1つ以上の炭素は、O、S、SO、SO2、NR3(式中、R3は、H、アルキル(C1〜4)、シクロアルキル(C3〜6)、アリール、アラルキルおよびアシル(C2〜6)である)、(SiR4R5)n(式中、nは、1または2である)、および−Si(R4R5)−O−Si(R4R5)−(式中、R4およびR5は、同一であっても異なっていてもよく、アルキル(C1〜4)、シクロアルキル(C3〜6)、アリールおよびアラルキルから選択される)から選択される1 つ以上のヘテロ原子または基によって置換されていてもよく、
A1およびA2は、同一であっても異なっていてもよく、飽和または不飽和であり、かつ置換または未置換であり、かつキラルまたはアキラルである環状構造、例えばシクロアルキル、または
【化2】
であり、式中、Zは、O、NR3、S、CR6=CR7、CR6=NおよびN=CR6から選択され、R6およびR7がHである場合、前記環は、H、アルキル、アルコキシ、アミノ、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロおよびトリフルオロメチルから選択される1個以上の置換基Qによって任意に置換されていてもよく、R6およびR7は、更に結合して、O、NおよびSから選択される1個以上のヘテロ原子によって任意に置換された環式環を形成していてもよく、少なくとも1箇所の二重結合を含んでいてもよく、
H1およびH2は、N、P、OおよびSを含むいずれか1個のヘテロ原子から独立して選択され、これらのヘテロ原子は、中性形態で存在するか、または前記へテロ原子に結合したプロトンがはずれた場合に対応するアニオンとして存在してもよく、
単結合、二重結合またはそれら双方の組み合わせのいずれかによってH1およびH2に
結合したR1およびR2は、同一であっても異なっていてもよく、アルキル、アルコキシ、アミノ、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロおよびトリフルオロメチルで任意に置換されたアルキル、アリール、アラルキルから選択されるか、またはR1およびR2は、二座配位子の場合には、アルキレンもしくは置換されたアルキレン架橋を介して結合して、環式環を形成してもよく(別記1)、三座配位子の場合には、前記アルキレン架橋の1個以上のメチレン基が、O、P、SおよびNから選択されたヘテロ原子G、もしくはそのようなヘテロ原子を含む複素環によって置換されていてもよく、
R' およびR''は、アルキル、アルケニル、アリール、アラルキルおよびシクロアルキルであり、
XおよびYは、ハロゲン、擬ハロゲン、カルボン酸エステル、アミノ、置換アミノ、アルコキシまたはアリールオキシ基から選択され、
Mは、遷移族金属イオンまたは主族金属イオンであり、配位子の種類に基づいて選択され、Fe、Ru、Os、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Zn、Al、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWを含む、組成物。
【請求項2】
前記芳香族環ARが、フェニル、フリル、チエニル、ピロリル、インドリル、イソインドリル、ピリジルおよびナフチルのうちから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
B1、B2、A1およびA2が、フェニル環を含み、B1−B2−A1−A2−B1の結合が、各環部分の1,3位または1,4位のいずれかを介して行われている、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
B1、B2、A1およびA2が、複素環を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記複素環式化合物が、5員環を有し、B1−B2−A1−A2−B1の結合が、C2〜C5のいずれかを介して行われている、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記複素環式化合物が、6員環を有し、B1−B2−A1−A2−B1の結合が、C2〜C6のいずれかを介して行われている、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の一般式Iを有する組成物であって、B2が存在しない場合には、以下の一般式II
【化3】
を有する組成物。
【請求項8】
前記錯体が、シクロファンベースのNiII−α−ジイミン錯体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
以下の式III
【化4】
を有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
ポリマーを調製する方法であって、
A)請求項1に記載の組成物を含む触媒の存在下でモノマーまたはプレポリマーの少なくとも1種を反応させるステップを含む方法。
【請求項11】
ステップAの反応の少なくとも一部が、約50℃を超える温度で起こる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーが、ポリエチレンである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマーが、ポリオレフィンである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が、気相重合を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項1】
以下の一般式で示される金属錯体を含む物質の組成物であって、
【化1】
上記式中、B1およびB2は、同一であっても異なっていてもよく、−Ar−T−Ar−、−T−Ar−T−および−T−(式中、Arは、芳香族環である)から選択され、
Tは、飽和または不飽和であり、かつ環式または非環式であり、かつキラルまたはアキラルである、1〜10個の炭素原子を有する炭化水素基であり、T内の1つ以上の炭素は、O、S、SO、SO2、NR3(式中、R3は、H、アルキル(C1〜4)、シクロアルキル(C3〜6)、アリール、アラルキルおよびアシル(C2〜6)である)、(SiR4R5)n(式中、nは、1または2である)、および−Si(R4R5)−O−Si(R4R5)−(式中、R4およびR5は、同一であっても異なっていてもよく、アルキル(C1〜4)、シクロアルキル(C3〜6)、アリールおよびアラルキルから選択される)から選択される1 つ以上のヘテロ原子または基によって置換されていてもよく、
A1およびA2は、同一であっても異なっていてもよく、飽和または不飽和であり、かつ置換または未置換であり、かつキラルまたはアキラルである環状構造、例えばシクロアルキル、または
【化2】
であり、式中、Zは、O、NR3、S、CR6=CR7、CR6=NおよびN=CR6から選択され、R6およびR7がHである場合、前記環は、H、アルキル、アルコキシ、アミノ、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロおよびトリフルオロメチルから選択される1個以上の置換基Qによって任意に置換されていてもよく、R6およびR7は、更に結合して、O、NおよびSから選択される1個以上のヘテロ原子によって任意に置換された環式環を形成していてもよく、少なくとも1箇所の二重結合を含んでいてもよく、
H1およびH2は、N、P、OおよびSを含むいずれか1個のヘテロ原子から独立して選択され、これらのヘテロ原子は、中性形態で存在するか、または前記へテロ原子に結合したプロトンがはずれた場合に対応するアニオンとして存在してもよく、
単結合、二重結合またはそれら双方の組み合わせのいずれかによってH1およびH2に
結合したR1およびR2は、同一であっても異なっていてもよく、アルキル、アルコキシ、アミノ、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロおよびトリフルオロメチルで任意に置換されたアルキル、アリール、アラルキルから選択されるか、またはR1およびR2は、二座配位子の場合には、アルキレンもしくは置換されたアルキレン架橋を介して結合して、環式環を形成してもよく(別記1)、三座配位子の場合には、前記アルキレン架橋の1個以上のメチレン基が、O、P、SおよびNから選択されたヘテロ原子G、もしくはそのようなヘテロ原子を含む複素環によって置換されていてもよく、
R' およびR''は、アルキル、アルケニル、アリール、アラルキルおよびシクロアルキルであり、
XおよびYは、ハロゲン、擬ハロゲン、カルボン酸エステル、アミノ、置換アミノ、アルコキシまたはアリールオキシ基から選択され、
Mは、遷移族金属イオンまたは主族金属イオンであり、配位子の種類に基づいて選択され、Fe、Ru、Os、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Zn、Al、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWを含む、組成物。
【請求項2】
前記芳香族環ARが、フェニル、フリル、チエニル、ピロリル、インドリル、イソインドリル、ピリジルおよびナフチルのうちから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
B1、B2、A1およびA2が、フェニル環を含み、B1−B2−A1−A2−B1の結合が、各環部分の1,3位または1,4位のいずれかを介して行われている、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
B1、B2、A1およびA2が、複素環を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記複素環式化合物が、5員環を有し、B1−B2−A1−A2−B1の結合が、C2〜C5のいずれかを介して行われている、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記複素環式化合物が、6員環を有し、B1−B2−A1−A2−B1の結合が、C2〜C6のいずれかを介して行われている、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の一般式Iを有する組成物であって、B2が存在しない場合には、以下の一般式II
【化3】
を有する組成物。
【請求項8】
前記錯体が、シクロファンベースのNiII−α−ジイミン錯体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
以下の式III
【化4】
を有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
ポリマーを調製する方法であって、
A)請求項1に記載の組成物を含む触媒の存在下でモノマーまたはプレポリマーの少なくとも1種を反応させるステップを含む方法。
【請求項11】
ステップAの反応の少なくとも一部が、約50℃を超える温度で起こる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーが、ポリエチレンである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマーが、ポリオレフィンである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が、気相重合を含む、請求項10に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−506814(P2007−506814A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522778(P2006−522778)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/025586
【国際公開番号】WO2005/014658
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(500210903)ザ、リージェンツ、オブ、ザ、ユニバーシティ、オブ、カリフォルニア (31)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/025586
【国際公開番号】WO2005/014658
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(500210903)ザ、リージェンツ、オブ、ザ、ユニバーシティ、オブ、カリフォルニア (31)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【Fターム(参考)】
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