説明

大豆蛋白質及びその製造法並びにそれを使用した酸性の蛋白食品。

【課題】酸性での溶解性や安定性および乳化性やゲル形成性に優れ、酸性食品に有利に利用される大豆蛋白質素材およびその製造方法並びにこの蛋白素材を用いる酸性食品を提供することを目的とする。
【解決手段】豆乳を含む溶液を、液中のポリアニオン物質の除去若しくは不活性化、及び/又はポリカチオン物質の添加の処理を施した後、酸性下で100℃を越える温度での加熱処理を行うことにより、酸性での溶解性が高く、酸性食品への利用に適した大豆蛋白質が得られる。この蛋白を用いて酸性域での蛋白食品を提供することが出来る。
また、上記の処理とプロテアーゼによる分解処理を併せて行うことにより、酸性域で溶解性の高い、大豆蛋白質加水分解物が効率的に得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性域で良好な溶解性を示し、酸性食品に有効に使用され得る大豆蛋白質素材及びその製造法並びに、これを用いた蛋白食品及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆蛋白質は、古くから優れた食品蛋白質源として利用されるばかりでなく、乳化力、ゲル形成力などの様々な機能特性を備えていることから食品素材あるいは食品改質素材として、食肉製品、水産練り製品、惣菜、パン、製菓、飲料用素材に幅広く用いられている。また最近では大豆蛋白質が血中コレステロールを減少させることが明らかになり、その栄養生理機能が着目されるようになってきた。
【0003】
一方pH4.6未満のいわゆる酸性食品(柴崎勲監修:「殺菌・除菌応用ハンドブック」、SCIENCE FORUM、p.28)では、使用頻度の高いpH域(pH3.0〜4.5)で、大豆蛋白質は溶解しにくく機能特性も発揮しないため使用が制限されている。これは酸性食品のpHが大豆蛋白質の等電点(pH5付近)あるいは等電点近傍であるためである。酸性食品への大豆蛋白質の利用に関する従来の技術は、主に酸性飲料の製造に際し、酸性域での大豆蛋白質の凝集・沈殿を防ぐことを目的にしたものが多い。例えば、ペクチンなどの安定剤(特開昭54−52754)やHLB13以上のショ糖脂肪酸エステルなど乳化剤の添加(特公昭59−41709)などが知られている。
ここで、安定剤を添加した時の蛋白の状態について説明する。pH3.0〜4.5に調整した大豆蛋白質を含む溶液において、系中の大豆蛋白質はプラスの表面電荷を帯びているが、等電点近傍であるため帯電量の絶対値が低く、蛋白の凝集・沈殿を生じやすい。ペクチン、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロースなどポリアニオン多糖類を代表とする安定剤は、プラスに帯電した蛋白と相互作用し、安定剤分子の付着した蛋白粒子が全体としてマイナスの表面電荷を持つことになり、電気的反発により凝集・沈殿を回避することができる。しかしながら、これら安定剤や乳化剤を用いる方法は蛋白質素材が他素材と配合されて応用利用される時点のもので、蛋白質自体を溶解状態にするわけではないために、透明感を有するものは得られず、また蛋白素材そのものの乳化力、ゲル形成力などの機能特性は期待できない。
【0004】
一方、大豆蛋白質の等電点通過による凝集を抑制する方法(特開平7−16084、特開平12−77)も提案されているが、安定剤あるいは乳化剤の添加が必要であるので蛋白の状態は上記と同じである。
【0005】
等電点以下の酸性域で蛋白の溶解性を高める方法として、大豆蛋白質について特公昭53-19669(特許文献1)に開示されている方法がある。この方法はpH約2.0〜約4.2で固形分含量10〜15重量%の範囲内の単離した大豆蛋白質のスラリーを生成し、連続方式でスラリーに温度約120〜160℃で加熱処理を施すものである。
【0006】
しかしながら、この方法では大豆蛋白質の酸性域での溶解性について問題を残していた。大豆蛋白質スラリーを、pH3.0〜3.5に調整して高温加熱処理を施した場合、蛋白分子は分散状態になるものの白濁溶液となり、さらに保存中に蛋白の沈殿が発生し、酸性での蛋白食品、とりわけ酸性蛋白飲料に使用するには適していない。さらにこの方法で得られる白濁した蛋白は、乳化力、ゲル形成力などの機能性が乏しく、通常の分離大豆蛋白に期待される食品改質素材としての利用が著しく制限されるものであった。
【0007】
これ以外に、特公昭55-29654(特許文献2)にはフィターゼ処理とpH調整による分画を組み合わせてpH4.6以下で可溶な画分を単離する溶性蛋白画分の単離法が開示されている。しかしながら、この方法は分離大豆蛋白を原料として収率が14%と低く、実用性に乏しいものである。特開昭51-125300(特許文献3)には酸洗浄した脱脂大豆をpH2〜6で微生物由来の酸性フィターゼで処理し可溶化画分を分離することによる、pH3〜5で溶解性の優れた蛋白の製造法が開示されている。しかしながら、この方法は得られた蛋白はプロテアーゼにより高度に分解を受けている。また、可溶化画分と不溶化画分が生じ、これを分離することが必要なため、目的物である溶解性の高い蛋白分解物も収率は低いものとなる。
【0008】
このように、pHが4.6未満である酸性食品で利用できる、pH3.0〜4.5の範囲で可溶であり、その溶液が外観上好ましい透明性と優れた保存安定性を有し、かつ乳化力、ゲル形成力などの機能性を有した大豆蛋白質素材はこれまでに得られていない。また、上記pH範囲で溶解性が高く、保存安定性の有る大豆蛋白質の加水分解物を効率よく製造する方法も知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭53-19669
【特許文献2】特公昭55-29654
【特許文献3】特開昭51-125300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、pHが4.6未満である酸性食品で利用できる、pH3.0〜4.5で可溶であり、優れた保存安定性を有し、とりわけ原料蛋白質として脱脂を行った物を用いた場合は、更に溶液が外観上好ましい透明性を有し、かつ乳化力、ゲル形成力などの機能性を有する大豆蛋白質およびその製造法並びにそれを使用した酸性の蛋白食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、pHが4.6未満である酸性食品に広く利用できる、pH3.0〜4.5で可溶であり、その溶液が外観上好ましい透明性と優れた保存安定性を有し、かつ乳化力、ゲル形成力などの機能性をも有した大豆蛋白質を製造するにあたり、鋭意研究を重ねた結果、下記に示す処理を実施することで、元々白濁していた蛋白溶液が透明性を有した可溶化状態になることを発見した。その処理とは、大豆蛋白質を含む溶液において、系中の大豆蛋白質のプラスの表面電荷を増加させる処理として、(A)該溶液中の原料蛋白質由来のポリアニオン物質を除去するか不活性化する処理、(B)該溶液中にポリカチオン物質を添加する処理、の(A)、(B)いずれか若しくは両方の処理を行った後、該蛋白質の等電点のpHより酸性域で、100℃を越える温度での加熱処理を行うことである。さらにこの蛋白の利用上の利便性を高めるために、上記処理物をpH4.5以下で乾燥することにより粉末状の大豆蛋白質を得ることも可能である。
【0012】
上記方法により、pH4.5以下での溶解率が90%以上で、かつ600nmの透過率(蛋白5重量%溶液)が20%T以上であり、かつ0.22MのTCA可溶化率が20%以下である、グロブリンを主成分とする大豆蛋白質が得られる。
系中の大豆蛋白質のプラスの表面電荷を増加させる処理として、一般に植物蛋白に含まれるフィチン酸のようなポリアニオン物質を除去するか若しくは不活性化する処理又は、ポリカチオン物質を添加すること、またはそれらを組み合わせた処理があげられる。
すなわち、本発明によれば大豆蛋白質を含む溶液に上記処理を実施することで、酸性域で優れた溶解性、保存安定性を示し、かつ乳化力、ゲル形成力などの機能特性を有する大豆蛋白質が得られる。
さらに本発明は、大豆蛋白質を含む溶液において、系中の蛋白のプラスの表面電荷を増加させる処理としてのポリアニオン物質の除去若しくは不活性化とポリカチオン物質の添加処理とプロテアーゼによる蛋白の加水分解を組み合わせて行った後、等電点より酸性域、具体的にはpH4.3以下で100℃を越える温度での加熱処理を行うことにより、不溶物の除去操作を行うことなく溶解性のよい大豆蛋白加水分解物を得るものである。
本発明の方法の処理では基本的に蛋白の系外への損失はなく、収率上のロスは無い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法により得られる大豆蛋白質は、酸性域での溶解性が向上しており、従来では沈殿凝集を起こすため用いることが出来なかった酸性域での食品の蛋白素材として、また、原料として脂肪分を除去した物を使用することにより、溶解性のみでなく、溶液の透明性の高い蛋白素材が得られ、濁りのない酸性食品の提供が可能となる。酸性下でのゲル化や乳化性を有する機能性食品素材として好適に用いることが出来、酸性食品の範疇が広がり、食生活における蛋白質の摂取のバラエティーも広げることが可能となる
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好ましい態様を記載する。本発明に用いる大豆蛋白質を含む溶液とは、大豆を原料とする豆乳、或いは脱脂大豆から不溶性繊維分(オカラ)を除いた抽出液等が相当する。本発明の中でも、透明性の高い大豆蛋白質を得るためには、脂肪分を除去した蛋白質成分の溶液が特に望ましい。また、プロテアーゼにより加水分解された大豆蛋白質の溶液でも良い。
【0015】
<溶解率・透過率・TCA可溶化率>
本発明で用いる溶解率(%)は蛋白の溶媒に対する可溶化の尺度であり、次のようにして定義する。つまり、蛋白粉末を蛋白質分が5.0重量%になるように水に分散させ十分撹拌した溶液を、必要に応じてpHを調整した後、10,000G×5分間遠心分離した上清蛋白の全蛋白に対する割合をケルダール法、ローリー法等の蛋白定量法により測定したものである。本発明で用いる透過率(%T)は蛋白を含んだ溶液の透明性の尺度であり、次のようにして定義する。つまり、蛋白粉末を蛋白質分が5.0重量%になるように水に分散させ十分撹拌した溶液を、必要に応じてpHを調整した後、分光光度計(日立社製:U−3210自記分光光度計)にて1cmセルを使用し600nmでの透過率(%T)を測定する。本発明で用いるTCA可溶化率(%)とは蛋白質の分解率の尺度であり、次のように定義する。つまり、蛋白粉末を蛋白質分が1.0重量%になるように水に分散させ十分撹拌した溶液に対し、全蛋白に対する0.22Mトリクロロ酢酸(TCA)可溶性蛋白の割合をケルダール法、ローリー法等の蛋白定量法により測定したものである。
【0016】
<プラスの表面電荷を増加させる処理>
本発明で実施する、等電点以下に調整した蛋白質を含む溶液において、系中の蛋白質のプラスの表面電荷を増加させる処理について以下説明する。系中のプラスの表面荷電の増加させるとは、換言すれば系中に存在するポリアニオン物質を除去するか不活性化すること、或いは系中にポリカチオン物質を添加することにより、実現される。大豆蛋白質の場合、ポリアニオン物質としてフィチン酸を含んでおり、フィチン酸の除去或いは不活性化が重要なポイントなる。なお、何れの処理であっても蛋白の系外への損失がなく蛋白の回収ができる。
【0017】
<フィターゼ処理>
本発明で大豆蛋白質を含む溶液でのポリアニオン物質の除去の目的で、低フィチン化処理が好適である。この低フィチン化処理の方法は特に限定されず、既知の方法が利用できる。例えば、透析、限外ろ過、電気透析などの膜処理、イオン交換樹脂処理などがあげられる。望ましい実用的な低フィチン化処理法としてフィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤(フィターゼ)を用いる方法があげられる。
本発明に使用するフィターゼは、蛋白の加水分解を望まない場合は、プロテーゼ活性がない、もしくは低いことが望ましい。プロテアーゼ活性が高いと、蛋白がプロテアーゼにより加水分解されることにより、ゲル形成力などの機能性の低下、低分子分解物の増加による呈味性の悪化などの問題が生じる。例えば、プロテアーゼによる蛋白加水分解がない、もしくは低い態様はフィチン酸分解酵素の作用後の蛋白のTCA可溶化率が20%以下好ましくは15%以下と規定することができる。上述の条件を満たすフィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤であれば特に起源は限定されないが、一般的に、微生物由来のフィターゼの方が、植物由来のものに比べフィチン酸分解活性が高く、かつ、共存するプロテアーゼ活性がより低いことから蛋白の加水分解や腐敗を防ぐ上で利点が多い。
【0018】
本発明の実施においてフィチン酸の低減効果はフィチン酸量が少なくなる程可溶化効果は高くなるが、フィチン酸を対蛋白重量あたり1重量%以下に低減させることが望ましい。例えば、通常脱脂大豆を水抽出してオカラを除いた抽出液を酸沈殿したカードスラリー等には、対蛋白重量あたり2重量%程度フィチン酸が含まれる。したがって、この場合フィチン酸含量を反応前の約50%以下に分解せしめるとよい。上記条件を満たせばフィターゼの作用条件は各々の至適条件で作用させることができ、特に限定されない。作用方法も同じく限定されない。例えば、そのような条件としてpH2.5〜7.5、温度20〜70℃、固形分に対して0.1〜100unit/g、好ましくは0.5〜50unit/gの範囲の添加、通常5分間〜3時間の範囲内の作用をあげることができるが、蛋白の変性と腐敗が避けることができれば上記範囲外で作用させることに差し支えはない。なるべく短時間で処理する必要があるなら、高いunitの酵素添加量で作用させればよい。なお、1unitのフィターゼ活性は標準の条件(pH5.5、37℃)の下で、反応初期の1分間に基質のフィチン酸から1μmolのリン酸を遊離する酵素量を表す。フィチン酸およびその塩の分解の程度は、溶液中のフィチン酸含量をAlii Mohamedの方法(Cereal Chemistry 63,475,1986)に準拠して、直接測定することにより求めた。
【0019】
<金属イオンの添加>
ポリアニオン物質の不活性化は、フィチン酸のようなポリアニオンと大豆蛋白との結合を阻害することを指し、二価以上の金属イオンの添加により行うことができる。本発明で大豆蛋白質を含む溶液に添加する二価以上の金属イオンはカルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、アルミニウムなどの金属の水溶性塩あるいは水酸化物であって、無機酸塩または有機酸塩のいずれでも使用できる。これらの金属イオンは単独または混合物として用いることができる。100℃を越える温度での加熱処理後の大豆蛋白質の溶解性、透明性を改善する効果はこれら二価以上の金属イオンの添加単独でも得られるが、低フィチン化処理など、ポリアニオン物質の除去処理と組み合わせることで効果を著しく高めることができる。これら二価以上の金属イオンの添加量は、多いほど可溶化効果は高まるが、金属イオンとして当該蛋白を含む溶液中の固形分に対し0.2〜3重量%の範囲が好ましく、この範囲より少ない場合は蛋白の可溶化効果が弱く、また多い場合は増粘あるいは凝集が起こる傾向にあり望ましくない。添加方法は特に限定されない。
【0020】
<ポリカチオン物質の添加>
本発明で大豆蛋白質を含む溶液に添加するポリカチオン物質としてキトサンが例示される。キトサンはキチンの脱アセチル化物でグルコサミンのポリマーである。キトサンは一般にエビ、カニなどの甲殻類を加工する際に生じる殻を原料として製造される。本発明で大豆蛋白質を含む溶液に添加するキトサンは水溶性であることが好ましく、例えば脱アセチル化度が50%以上、より好ましくは70%以上であるものを使用する。100℃を越える温度での加熱処理後の大豆蛋白質の溶解性、透明性を改善する効果はこれらキトサンの添加単独でも得られるが、ポリアニオン物質を除去或いは不活性化する処理と組み合わせることで効果を著しく高めることができる。これらキトサンの添加量は、大豆蛋白質を含む溶液中の固形分の0.2重量%以上が好ましく、この範囲より少ない場合は蛋白の可溶化効果が弱い。添加量を増やす程効果は高くなるが、キトサンの種類によっては増粘が起こったり、またキトサン独特の苦みが強くなったりと好ましくない場合がある。一義的に規定されるものではないが、溶液中の固形分の40重量%以下の添加が好ましい。添加方法はキトサンの場合溶媒のpHで溶解性が異なるため、酸性域(例えばpH5以下)で大豆蛋白質を含む溶液に添加することが望ましい。
【0021】
<加熱・乾燥処理>
ポリアニオン物質の除去法としての低フィチン化処理を行いフィチン酸含量を対蛋白重量あたり1重量%以下に低減させる、若しくは二価以上の金属イオンを添加する、又はポリカチオン物質を添加する、或いはさらにそれらを組み合わせた処理を行った大豆蛋白質を含む溶液を固形分3重量%〜18重量%、好ましくは固形分8重量%〜14重量%でかつpHを2.3〜4.3に調整し、100℃〜160℃、好ましくは105℃〜145℃で加熱する。pH2.3未満の場合透明性の高い蛋白溶液が得られるものの、使用酸量が著しく増大し、蛋白の風味、実用性の面から好ましくない。またpH4.3を越える場合、白濁傾向が進み凝集が生じやすく好ましくない。固形分が3重量%以下の場合、品質は問題ないが作業効率が悪く好ましくない。固形分18重量%以上の場合、蛋白溶液の粘度が著しく上昇し、その後の作業性を悪化させる場合があり好ましくない。ただし、大豆蛋白質が分解物の場合は、増粘の影響が小さく、濃度を高くすることも可能である。
【0022】
加熱温度が100℃以下の場合には蛋白の可溶化が不完全で透明性のレベルも低く、160℃を越える場合にはペプチド結合の分解等により蛋白の機能性・栄養性が下がる恐れがあり好ましくない。加熱時間は特に限定されず数秒間〜60分間でよいが、あまり長時間の加熱は風味等の品質への影響に留意すべきである。加熱方式は問わないが、望ましい方式としてスチームインジェクション方式の連続式直接加熱殺菌装置が例示できる。この装置は管内に流れる液体に蒸気を吹き込む方式で、瞬間的に100℃を越える高温に加熱することができる。加熱後の大豆蛋白質を含む溶液は、溶液のままで使うことももちろん可能であるが、利用上の利便性を高めるために、粉末化する場合もあり、この場合は、得られた溶液をpH4.5以下で乾燥し、粉末化することが好適である。乾燥時のpHを4.5を超えるようにすると、得られた粉末を再溶解した場合の酸性での溶解性が低下し、好ましくない。
乾燥の方法は特に限定されず、噴霧乾燥装置などが好適である。本発明によって得られた大豆蛋白質は、通常の蛋白質が溶解性の低いpH3.5〜4.5で可溶化し、中でも脂肪分を除去した原料からであれば、透明性の高い溶液が得られる。
【0023】
<加水分解>
本発明でのプロテアーゼによる加水分解については、該蛋白質の等電点のpHより酸性域で、100℃を越える温度で該蛋白質溶液を加熱処理する工程の前に分解反応を行っておけばよく、大豆蛋白質を含む溶液へのポリアニオン物質の除去若しくは不活性化処理または、ポリカチオン物質の添加処理の前、後又はこれら処理と同時に分解処理を行うことが出来る。使用するプロテアーゼや分解反応の条件、プロテアーゼ添加量などは、特に規定されない。
【0024】
<利用食品>
通常は等電点付近の酸性では蛋白質は凝集して透明感のある蛋白食品は得難いものである。本発明により得られる大豆蛋白質素材或いは、この大豆蛋白質の加水分解物を用いることにより、酸性域で透明感があり、蛋白の沈殿を起こさず、保存安定性の良い蛋白飲料が作成される。飲料作製時の風味付けは糖類、香料等嗜好に合わせて選ばれる。蛋白質の含有量は、蛋白質摂取の必要度にもよるが、数パーセント〜数十パーセントの濃度が好ましい範囲である。また、本発明により得られる大豆蛋白質素材或いは、この大豆蛋白質の加水分解物を用い、適当なゲル化剤と併用することにより、透明感がある蛋白質を含んだ酸性ゼリー状食品も作製される。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明の実施態様を具体的に説明する。ただし、これらは例示であって、本発明がこれらの実施例によってその技術範囲が限定されるものではない。
【0026】
実施例1 <調製法:フィターゼ処理>
大豆を圧扁し、n-ヘキサンを抽出溶媒として油を抽出分離除去して得られた低変性脱脂大豆(窒素可溶指数(NSI):91)1重量部に7重量部の水を加え、希水酸化ナトリウム溶液でpH7に調整し、室温で1時間攪拌しながら抽出後、4,000Gで遠心分離しオカラおよび不溶分を分離し、脱脂豆乳を得た。この脱脂豆乳をリン酸にてpH4.5に調整後、連続式遠心分離機(デカンター)を用い2,000Gで遠心分離し、不溶性画分(酸沈殿カード)および可溶性画分(ホエー)を得た。酸沈殿カードを固形分10重量%になるように加水し酸沈殿カードスラリーを得た。これをリン酸でpH3.5に調整した後40℃になるように加温した。これらの溶液(フィチン酸含量1.96重量%/固形分、TCA可溶化率4.6%)に固形分あたり8unit相当のフィターゼ(新日本化学工業社製「スミチームPHY」)を加え、30分間酵素作用を行った。反応後この酵素作用物(フィチン酸含量0.04重量%/固形分、TCA可溶化率4.7%)をリン酸または水酸化ナトリウムでpH3.0、3.5、4.0に調整し、それぞれ連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。これらを噴霧乾燥し大豆蛋白質粉末を得た。
本実施例中のpH3.5で処理して得られた大豆蛋白質粉末のグロブリン含量を、SOYA PROTEIN ASSAY KIT(Tepnel Bio Systems Ltd.社製)を用いELISA法により測定したところ、固形分あたり74.0重量%であり、本蛋白はグロブリンを主成分とするものであった。
【0027】
比較例1 <加熱のみ>
実施例1で調製した固形分10重量%の酸沈殿カードスラリーをリン酸でpH3.0、3.5、4.0に調整した後、連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。これらを噴霧乾燥し大豆蛋白質粉末を得た。ただし、pH4.0に調整した溶液は加熱中に著しく凝集したため以後の乾燥は行わなかった。
【0028】
実施例2 <調製法:キトサン添加処理>
実施例1で調製した固形分10重量%の酸沈殿カードスラリーをリン酸でpH3.5に調整した後、キトサン(焼津水産化学工業社製「キトサンLL」:脱アセチル化度80%以上、1%粘度10cps以上)を固形分に対し5.0重量%添加した。十分撹拌し、pH3.0で連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。これを噴霧乾燥し大豆蛋白質粉末を得た。
【0029】
実施例3 <調製法:金属イオン添加>
実施例1で調製した固形分10重量%の酸沈殿カードスラリーをリン酸でpH3.0に調整した後、塩化カルシウム2水和物(キシダ化学社製)を固形分に対し5.0重量%(カルシウムイオンとして1.35重量%)添加した。十分撹拌し、pH3.5で連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。これを噴霧乾燥し大豆蛋白質粉末を得た。
【0030】
実施例4 <調製法:フィターゼ+キトサン>
実施例1で調製したフィターゼ作用物に実施例2記載のキトサンを固形分に対し1.0重量%添加した。十分撹拌し、リン酸または水酸化ナトリウムでpH3.5、4.0に調整して連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。これを噴霧乾燥し大豆蛋白質粉末を得た。
【0031】
実施例5 <調製法:フィターゼ(脱脂豆乳)>
実施例1で調製した脱脂豆乳をリン酸にてpH3.0に調整後40℃になるように加温した。この溶液(フィチン酸含量2.20重量%/固形分、TCA可溶化率8.6%)に固形分あたり8unit相当の実施例1記載のフィターゼを加え、30分間酵素作用を行った。反応後pH3.0のまま、この酵素作用物(フィチン酸含量0.05重量%/固形分、TCA可溶化率8.8%)を連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。この溶液を水酸化ナトリウムでpH5.0に調整後、連続式遠心分離機(デカンター)を用い2,000Gで遠心分離し、不溶性画分(酸沈殿カード)および可溶性画分(ホエー)を得た。酸沈殿カードを固形分10重量%になるように加水し酸沈殿カードスラリーを得た。この酸沈殿カードスラリーを混合有機酸(クエン酸:リンゴ酸=2.3)でpH3.0に調整した後、連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。これを噴霧乾燥し大豆蛋白質粉末を得た。
【0032】
実施例1〜5および比較例1で得られた粉末を各々蛋白分が5重量%になるように分散させ十分撹拌した溶液を調製した。この溶液をpH3.5、4.0、4.5に希アルカリまたは希酸溶液でpHを調整し、溶解率・透過率の測定および保存テストを実施した。保存テストは各溶液を95℃達温で加熱殺菌し、冷蔵庫中30日間保存し沈殿状況の目視観察により実施した。それらの結果を表1に示した。
【0033】
〈表1〉


(記号の意味) 沈殿物有無
−:なし。 ±:僅かにあり。 +:あり。
++:目立ってあり
【0034】
比較例1の場合、加熱処理pHを下げるとpH3.5での溶解率が向上する傾向を示したが、pH4.0以上は加熱処理pHに関わらず、等電点沈殿と推測される沈殿が発生した。また、加熱処理pHが3.0、溶液のpHが3.5であっても透過率の低い白濁溶液となり、保存中の沈殿を抑制できなかった。これらの結果から、100℃を越える加熱処理だけで、pH3.5〜4.5での優れた溶解性や透明性、及び優れた保存安定性を有する大豆蛋白質を得ることができなかった。
【0035】
これに対し、実施例1〜3の場合、加熱処理pHに関わらず、pH3.5、4.0、4.5で溶解率90%以上、透過率20%T以上、保存中の沈殿なしであり、目標の品質のものが得られた。ただし、実施例1で加熱処理のpHが4.0の場合で目標品質のものが得られたが、加熱処理pHが低い場合に比べ若干透過率が下がり気味となった。そこで、実施例4のようにキトサンを加熱前に添加することで加熱処理pHを4.0に上げても高い透過率を示す蛋白が得られ、相乗効果が認められた。
【0036】
実施例6 <分解物:フィターゼ/キトサン>
実施例1で調製した固形分10重量%の酸沈殿カードスラリーをリン酸でpH3.5に調整した後50℃になるように加温した。これらの溶液に固形分あたり1%の微生物由来のプロテアーゼ(新日本化学工業社製「スミチームAP」)を加え、1時間加水分解を行った。反応後この加水分解物(TCA可溶化率45.5%)をpH3.5に調整し3つに分け、1番目は40℃に下げ、固形分あたり8unit相当の実施例1記載のフィターゼを加え、pH3.5で30分間酵素作用を行った。反応後この酵素作用物(フィチン酸含量0.04重量%/固形分、TCA可溶化率は実質的に変化なし)をpH3.5に再調整し連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。2番目は実施例2記載のキトサンを固形分に対して5.0%重量添加した。十分撹拌し、pH3.5に再調整後連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。3番目はフィターゼ処理とキトサン添加(固形分に対して1.0%重量)を併用し、pH3.5に再調整後連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。これを噴霧乾燥し大豆蛋白質粉末を得た。
【0037】
比較例2 <分解物>
実施例6で調製したプロテアーゼによる加水分解物をpH3.5に再調整し連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。これを噴霧乾燥し加水分解物の粉末を得た。
【0038】
実施例6および比較例2で得られた粉末を各々蛋白分が5重量%になるように分散させ十分撹拌した溶液を調製した。この溶液をpH3.5、4.0、4.5に希アルカリ溶液でpHを調整し、溶解率・透過率の測定および保存テストを実施した。保存テストは各溶液を95℃達温で加熱殺菌し、冷蔵庫中30日間保存し沈殿状況の目視観察により実施した。それらの結果を表2に示した。
【0039】
比較例2の場合、pH4.0以上は等電点沈殿と推測される沈殿が発生した。また、溶液のpHが3.5であっても透過率の低い白濁溶液となり、保存中の沈殿を抑制できなかった。これらの結果から、比較例1同様加水分解物についても100℃を越える加熱処理だけで、pH3.5?4.5で優れた溶解性や透明性、および優れた保存安定性を持たせることができなかった。これに対し、実施例6の場合、pH4.5は等電点沈殿と推測される沈殿が発生したが、フィターゼ作用あるいはキトサン添加によりpH3.5、4.0で溶解率90%以上、透過率20%T以上、保存中の沈殿なしであり、pH4.0以下で優れた溶解性・透明性、かつ優れた保存安定性を有する分解物が得られた。さらに、実施例4のようにフィターゼ作用とキトサン添加の併用でより高い透過率を示す蛋白が得られ、相乗効果が認められた。
【0040】
実施例7 <市販SPI>
市販分離大豆蛋白(不二製油社製「ニューフジプロR」、蛋白質含量90%)を固形分8%になるように水に分散し十分撹拌したのち、リン酸でpH3.5に調整し40℃になるように加温した。この溶液(フィチン酸含量2.2重量%/固形分、TCA可溶化率5.0%)を2つに分け、一方は固形分あたり8unit相当の実施例1に記載のフィターゼを加え、30分間酵素作用を行った。反応後この酵素作用物(フィチン酸含量0.03重量%/固形分、TCA可溶化率5.1%)を連続式直接加熱殺菌装置にて140℃15秒間加熱した。他方は実施例2で使用したキトサンを固形分に対して5.0%重量添加した。十分撹拌し、pH3.5に再調整後連続式直接加熱殺菌装置にて140℃15秒間加熱した。これを噴霧乾燥し大豆蛋白質粉末を得た。
【0041】
比較例3 <市販SPI>
実施例7と同じ市販分離大豆蛋白を固形分8%になるように水に分散し十分撹拌したのち、リン酸でpH3.5に調整し、連続式直接加熱殺菌装置にて140℃15秒間加熱した。これを噴霧乾燥し大豆蛋白質粉末を得た。
実施例7および比較例3で得られた粉末を各々蛋白分が5重量%になるように分散させ十分撹拌した溶液を調製した。この溶液をpH3.5、4.0、4.5に希アルカリ溶液でpHを調整し、溶解率・透過率の測定および保存テストを実施した。保存テストは各溶液を95℃達温で加熱殺菌し、冷蔵庫中30日間保存し沈殿状況の目視観察により実施した。それらの結果を表2に示した。
比較例3の場合、何れのpHでも溶解率は80%以下にとどまり、沈殿を抑制できなかった。これに対し、実施例7の場合、市販の分離大豆蛋白であっても、フィターゼ作用あるいはキトサン添加によりpH3.5〜4.5で溶解率90%以上という溶解性に優れ、透明性もあり、かつ保存中の沈殿がないという保存安定性にも優れたものが得られた。
【0042】
〈表2〉

【0043】
実施例8 <市販豆乳>
市販豆乳(トーラク社製「豆乳プレーン」固形分7%以上、蛋白分3.8%、脂質分3.2%)をリン酸でpH3.5に調整し40℃になるように加温した。この溶液(フィチン酸含量2.1重量%/固形分、TCA可溶化率8.8%)を2つに分け、一方は固形分あたり8unit相当の実施例1記載のフィターゼを加え、30分間酵素反応を行った。反応後この酵素作用物(フィチン酸含量0.04重量%/固形分、TCA可溶化率9.0%)を連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。他方は実施例2で使用したキトサンを固形分に対して5.0%重量添加した。十分撹拌し、pH3.5に再調整後連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。
【0044】
比較例4 <市販豆乳>
実施例8と同じ市販豆乳をリン酸でpH3.5に調整し、連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。
実施例8および比較例4で得られた豆乳を各々pH3.5、4.0、4.5に希アルカリ溶液でpHを調整し、沈殿率の測定および保存テストを実施した。保存テストは各溶液を95℃達温で加熱殺菌し、冷蔵庫中30日間保存し沈殿状況の目視観察により実施した。それらの結果を表3に示した。なお、沈殿率は固形分が7重量%になるように分散させ十分撹拌した溶液を、必要に応じてpHを調整した後、10,000G×5分間遠心分離した沈殿の固形分の全固形分に対する割合として算出した。
比較例4の場合、pH4以上で著しい凝集沈殿が見られ、pH3.5であっても沈殿率が10%を上回り、安定性の低い状態であった。これに対し、実施例8の場合、pH4.5は等電点沈殿と推測される沈殿が発生したが、フィターゼ作用あるいはキトサン添加によりpH3.5、4.0で沈殿率10%以下、保存中の沈殿なしであり、高い安定性を示した。
【0045】
〈表3〉

【0046】
比較例5 <加熱温度の比較>
実施例1で調製したフィターゼ作用物、実施例6で調製した加水分解物のフィターゼ作用物及び実施例7で調製した市販分離大豆蛋白のフィターゼ作用物各々をpH3.5で98℃10分間バッチ式加熱処理を施し、これらを噴霧乾燥し大豆蛋白質粉末を得た。
比較例5で得られた粉末を各々蛋白分が5重量%になるように分散させ十分撹拌した溶液を調製した。これらの溶液をpH4.0に希アルカリ溶液で調整し、溶解率・透過率の測定および保存テストを実施した。表4に示すように、全てのサンプルで100℃までの加熱処理では目標品質レベルに達しないことが明らかである。
【0047】
〈表4〉

【0048】
実施例9 <乳化活性・ゲル破断荷重>
本発明により得られた大豆蛋白質の機能性(乳化力・ゲル形成力)の評価を行った。乳化力は乳化活性を測定することで評価した。結果は表5に示す。乳化活性は実施例1、2において加熱処理pHが3.5の粉末および比較例1において加熱処理pHが3.0の粉末を固形分が1重量%になるように分散させ十分撹拌した溶液をpH3.5、4.0、4.5に希アルカリ溶液でpHを調整し、その溶液3mlに大豆油1mlを加え、超音波分散機で乳化物を調製し、0.1重量%SDS溶液で1000倍に希釈して溶液濁度(500nmの吸光度)を測定した。評価はその濁度値が高いほど乳化力が高いと判断する。この方法で実施例1、2および比較例1で得られた粉末について乳化活性を測定した。比較例1ではpH3.5においてわずかな乳化活性を示すに止まったのに対し、実施例1、2ではpHに関わらず高い乳化活性を示した。
【0049】
ゲル形成力はゼリー強度を測定することで評価した。ゼリー強度は実施例1、2において加熱処理pHが3.5の粉末および比較例1において加熱処理pHが3.0の粉末の18重量%ペースト(粉体に対して4.5倍加水)をpH3.5、4.0、4.5に希アルカリ溶液で調整し、ケーシング折径35mmに充填し80℃にて30分間加熱、冷却後、レオメーター(山電社製)を用い、直径5mmプランジャー球を使用して測定した。比較例1ではpH3.5においてわずかなゲル破断荷重を示すに止まったのに対し、実施例1、2ではpHに関わらず高いゲル破断荷重を示した。
これらの結果より、乳化力・ゲル形成力のいずれにおいても実施例1、2の方が優れていることが明らかであった。
【0050】
〈表5〉

【0051】
実施例10 <飲料の応用例>
実施例1で得られた粉末(加熱pH3.5)8.0部、果糖ブドウ糖液(日本コーンスターチ社製)8.0部、5倍濃縮リンゴ果汁(フードマテリアル社製)2.0部、リンゴ香料(高砂香料社製)0.2部、水81.8部の配合で十分に撹拌混合し、クエン酸ナトリウムでpHを3.8に調整後、95℃達温加熱殺菌し、酸性大豆蛋白質飲料を試作した。得られた飲料は、透明性が高く保存安定性も高いもので、また安定剤・乳化剤フリーにより粘度が低く飲みやすいものであった。
【0052】
実施例11 <ゼリー飲料の応用例>
実施例7で得られた粉末(フィターゼ処理とキトサン添加併用)5.0部、果糖ブドウ糖液(日本コーンスターチ社製)8.0部、5倍濃縮パイナップル果汁(フードマテリアル社製)2.5部、寒天(伊那寒天社製)0.3部、パイナップル香料(高砂香料社製)0.2部、水84.0部の配合で、寒天以外を十分に撹拌混合しクエン酸ナトリウムでpHを3.6に調整後、95℃達温加熱殺菌を行い、加熱により膨潤させた寒天液と高温で混ぜ合わせ、チアーパックに充填後一晩冷蔵によりゲル化させ大豆蛋白質ゼリー飲料を試作した。得られたゼリー飲料は、好ましい透明性を有し、食感も良好であった。また、保存中に濁りや沈殿などの変化は生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の方法により得られる大豆蛋白質は、酸性域での溶解性が向上しており、従来では沈殿凝集を起こすため用いることが出来なかった酸性域での食品の蛋白素材として、また、原料として脂肪分を除去した物を使用することにより、溶解性のみでなく、溶液の透明性の高い蛋白素材が得られ、濁りの少ない酸性食品の提供が可能となる。酸性下でのゲル化や乳化性を有する機能性食品素材として好適に用いることが出来、酸性食品の範疇が広がり、食生活における蛋白質の摂取のバラエティーも広げることが可能となる

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆蛋白質を含む溶液が豆乳であって、該溶液に(A)該溶液中の原料大豆蛋白質由来のフィチン酸をフィターゼ処理を行うことにより除去する処理、(B)pH5以下で該溶液中にキトサンを添加する処理、の(A)、(B)いずれか若しくは両方の処理を行った後、pHが2.3〜3.4の酸性域で、100℃を越え160℃までの温度で該蛋白質溶液を加熱処理を行うことにより、pH4.5以下における溶解率が90%以上の蛋白質を得ることを特徴とする大豆蛋白質素材の製造方法。
【請求項2】
大豆蛋白質を含む溶液が豆乳であって、該溶液に(A)該溶液中の原料大豆蛋白質由来のフィチン酸をフィターゼ処理を行うことにより除去する処理、(B)pH5以下で該溶液中にキトサンを添加する処理、の(A)、(B)いずれか若しくは両方の処理を行った後、pHが2.3〜3.4の酸性域で、100℃を越え160℃までの温度で該蛋白質溶液を加熱処理を行うことにより得られる、pH4.5以下における溶解率が90%以上の大豆蛋白質素材。
【請求項3】
請求項2に記載の大豆蛋白質素材を用いる酸性蛋白飲料。

【公開番号】特開2009−149697(P2009−149697A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95517(P2009−95517)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【分割の表示】特願2002−567072(P2002−567072)の分割
【原出願日】平成14年2月25日(2002.2.25)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】