説明

天井クレーンの浮き上り防止構造

【課題】簡単な構造で、地震発生時における走行車輪の走行レールからの浮き上りを確実に防止し得、耐震性の向上を図り得る天井クレーンの浮き上り防止構造を提供する。
【解決手段】走行レール2の上方に該走行レール2と平行に延びるよう補助レール10を補助レール支持台11を介して敷設し、クレーンガーダ4に設けられた走行車輪5を地震発生時に前記補助レール10により上から押え付けるように支持可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場や原子炉建屋等の構造物の天井に据え付けられて屋内の荷役を行う天井クレーンの浮き上り防止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、工場等においては、屋内での荷役を行うための天井クレーンを装備する場合が多く、こうした天井クレーンとしては、例えば、図3に示されるような構造のものが用いられている。
【0003】
図3に示される天井クレーンは、建屋1内の天井部の左右両側部に、前後方向へ水平に延びる一対の走行レール2を、レール支持台3を介して敷設し、該一対の走行レール2上に、クレーンガーダ4を、走行車輪5を介して前後方向へ走行可能となるよう架け渡すと共に、該クレーンガーダ4上に、吊荷用フック6が巻き上げ下げ自在に吊り下げられたトロリ7を、左右方向へ延びる横行レール8に沿って横行可能となるよう搭載してなる構成を有している。
【0004】
前述の如き天井クレーンにおいては、走行車輪5が走行レール2上に乗ることのみによって支持されていることから、大地震が発生した際に、鉛直方向の力が作用して上下方向に大きな揺れが加わりその応答が大きくなると、クレーンガーダ4の中央部が大きく撓み、その勢いで走行車輪5が走行レール2から浮き上がって脱輪し、クレーンガーダ4が落下してしまう虞れがある。
【0005】
前記走行車輪5の走行レール2からの浮き上り量は、最大で約200[mm]程度にまで達することが計算上求められており、こうした不具合を回避してクレーンガーダ4が落下することを防ぐために、従来においては、クレーンガーダ4の両端部に、地震発生時にレール支持台3に係合可能な浮き上り防止ラグ9を取り付けることが提案されていた。
【0006】
尚、地震発生時における天井クレーンの振動を抑制し、走行車輪がレールから脱輪することを防止するための一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【特許文献1】特開2001−10779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の如く、クレーンガーダ4の両端部に、地震発生時にレール支持台3に係合可能な浮き上り防止ラグ9を取り付けるのでは、クレーンガーダ4の上下方向の揺れによって浮き上り防止ラグ9並びにレール支持台3に過大な応力が局部的に加わり、その固定部が破損する可能性があり、浮き上り防止ラグ9並びにレール支持台3をそれぞれ剛性のきわめて高いものとしなければならず、現実問題として実施は困難となっていた。
【0008】
又、特許文献1に開示されたものでは、クレーンガーダ4に上下方向の振動を抑制するダンパを多数配設する必要があり、構造が複雑でコストアップにつながる一方、ダンパによる減衰力を利用しているため、地震の第一波によるクレーンガーダ4の浮き上りには対応できないという欠点を有していた。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、簡単な構造で、地震発生時における走行車輪の走行レールからの浮き上りを確実に防止し得、耐震性の向上を図り得る天井クレーンの浮き上り防止構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、建屋内の天井部に敷設された一対の走行レールにクレーンガーダを走行車輪を介して走行可能となるよう架け渡してなる天井クレーンの浮き上り防止構造であって、
走行レールの上方に該走行レールと平行に延びるよう敷設され且つクレーンガーダに設けられた車輪を地震発生時に上から押え付けるように支持可能な補助レールを備えたことを特徴とする天井クレーンの浮き上り防止構造にかかるものである。
【0011】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0012】
地震発生時には、鉛直方向の力が作用して上下方向に大きな揺れが加わりその応答が大きくなると、クレーンガーダの中央部が大きく撓み、その勢いで走行車輪が走行レールから浮き上がろうとするが、クレーンガーダに設けられた車輪が補助レールによって上から押え付けられるように支持され、これにより、走行車輪が走行レールから浮き上がって脱輪することが避けられ、クレーンガーダが落下する心配がなくなる。
【0013】
そして、走行レールの上方に該走行レールと平行に延びるよう敷設された補助レールに対して車輪を当接させる構造であるため、従来のように、クレーンガーダの両端部に、地震発生時にレール支持台に係合可能な浮き上り防止ラグを取り付けるのとは異なり、クレーンガーダの上下方向の揺れによってレール支持台等に過大な応力が局部的に加わることはないので、その固定部が破損する心配はなく、レール支持台を剛性のきわめて高いものとする必要もない。
【0014】
又、特許文献1に開示されたもののように、クレーンガーダに上下方向の振動を抑制するダンパを多数配設する必要もなく、構造が簡単でコストアップが避けられる一方、地震の第一波によるクレーンガーダの浮き上りにも対応できる。
【0015】
前記天井クレーンの浮き上り防止構造においては、地震発生時に補助レールによって上から押え付けられるように支持される車輪を走行車輪とすることができる。
【0016】
又、前記天井クレーンの浮き上り防止構造においては、地震発生時に補助レールによって上から押え付けられるように支持される車輪を、走行車輪の上方に位置するようクレーンガーダに配設された補助車輪とすることもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の天井クレーンの浮き上り防止構造によれば、簡単な構造で、地震発生時における走行車輪の走行レールからの浮き上りを確実に防止し得、耐震性の向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明を実施する形態の一例であって、図中、図3と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、走行レール2の上方に該走行レール2と平行に延びるよう補助レール10を補助レール支持台11を介して敷設し、クレーンガーダ4に設けられた走行車輪5を地震発生時に前記補助レール10により上から押え付けるように支持可能としたものである。
【0020】
尚、前記通常時には走行車輪5が補助レール10に接触せず、走行に支障を来さないようにし、地震発生時にのみ走行車輪5が補助レール10に接触するようにしてある。
【0021】
次に、上記図示例の作用を説明する。
【0022】
地震発生時には、鉛直方向の力が作用して上下方向に大きな揺れが加わりその応答が大きくなると、クレーンガーダ4の中央部が大きく撓み、その勢いで走行車輪5が走行レール2から浮き上がろうとするが、クレーンガーダ4に設けられた走行車輪5が補助レール10によって上から押え付けられるように支持され、これにより、走行車輪5が走行レール2から浮き上がって脱輪することが避けられ、クレーンガーダ4が落下する心配がなくなる。
【0023】
そして、走行レール2の上方に該走行レール2と平行に延びるよう敷設された補助レール10に対して走行車輪5を当接させる構造であるため、従来のように、クレーンガーダ4の両端部に、地震発生時にレール支持台3に係合可能な浮き上り防止ラグ9を取り付けるのとは異なり、クレーンガーダ4の上下方向の揺れによってレール支持台3等に過大な応力が局部的に加わることはないので、その固定部が破損する心配はなく、レール支持台3を剛性のきわめて高いものとする必要もない。
【0024】
又、特許文献1に開示されたもののように、クレーンガーダ4に上下方向の振動を抑制するダンパを多数配設する必要もなく、構造が簡単でコストアップが避けられる一方、地震の第一波によるクレーンガーダ4の浮き上りにも対応できる。
【0025】
こうして、簡単な構造で、地震発生時における走行車輪5の走行レール2からの浮き上りを確実に防止し得、耐震性の向上を図り得る。
【0026】
図2は本発明を実施する形態の他の例であって、図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図1に示すものと同様であるが、本図示例の特徴とするところは、図2に示す如く、走行レール2の上方に該走行レール2と平行に延びるよう補助レール10を補助レール支持台11を介して敷設すると共に、走行車輪5の上方に位置するようクレーンガーダ4に補助車輪12を補助車輪支持台13を介して配設し、該補助車輪12を地震発生時に前記補助レール10により上から押え付けるように支持可能とした点にある。
【0027】
図2に示す例の場合、地震発生時には、鉛直方向の力が作用して上下方向に大きな揺れが加わりその応答が大きくなると、クレーンガーダ4の中央部が大きく撓み、その勢いで走行車輪5が走行レール2から浮き上がろうとするが、クレーンガーダ4に設けられた補助車輪12が補助レール10によって上から押え付けられるように支持され、これにより、走行車輪5が走行レール2から浮き上がって脱輪することが避けられ、クレーンガーダ4が落下する心配がなくなる。
【0028】
そして、走行レール2の上方に該走行レール2と平行に延びるよう敷設された補助レール10に対して補助車輪12を当接させる構造であるため、従来のように、クレーンガーダ4の両端部に、地震発生時にレール支持台3に係合可能な浮き上り防止ラグ9を取り付けるのとは異なり、クレーンガーダ4の上下方向の揺れによってレール支持台3等に過大な応力が局部的に加わることはないので、その固定部が破損する心配はなく、レール支持台3を剛性のきわめて高いものとする必要もない。
【0029】
又、特許文献1に開示されたもののように、クレーンガーダ4に上下方向の振動を抑制するダンパを多数配設する必要もなく、構造が簡単でコストアップが避けられる一方、地震の第一波によるクレーンガーダ4の浮き上りにも対応できる。
【0030】
こうして、図2に示す例の場合も、図1に示す例の場合と同様に、簡単な構造で、地震発生時における走行車輪5の走行レール2からの浮き上りを確実に防止し得、耐震性の向上を図り得る。
【0031】
尚、本発明の天井クレーンの浮き上り防止構造は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す要部拡大正面図である。
【図2】本発明を実施する形態の他の例を示す要部拡大正面図である。
【図3】従来の天井クレーンの一例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 建屋
2 走行レール
3 レール支持台
4 クレーンガーダ
5 走行車輪(車輪)
6 吊荷用フック
7 トロリ
8 横行レール
10 補助レール
11 補助レール支持台
12 補助車輪(車輪)
13 補助車輪支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋内の天井部に敷設された一対の走行レールにクレーンガーダを走行車輪を介して走行可能となるよう架け渡してなる天井クレーンの浮き上り防止構造であって、
走行レールの上方に該走行レールと平行に延びるよう敷設され且つクレーンガーダに設けられた車輪を地震発生時に上から押え付けるように支持可能な補助レールを備えたことを特徴とする天井クレーンの浮き上り防止構造。
【請求項2】
地震発生時に補助レールによって上から押え付けられるように支持される車輪を走行車輪とした請求項1記載の天井クレーンの浮き上り防止構造。
【請求項3】
地震発生時に補助レールによって上から押え付けられるように支持される車輪を、走行車輪の上方に位置するようクレーンガーダに配設された補助車輪とした請求項1記載の天井クレーンの浮き上り防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−269428(P2007−269428A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95367(P2006−95367)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】