説明

天然染料によりケラチン繊維を染色する染色助剤

【課題】天然染料を用いて、人毛、獣毛等のケラチン繊維を染色する際、容易に効果的に染色する染色助剤を提供する。
【解決の手段】1分子内にアルカリ金属またはアンモニアと反応する官能基を二つ以上持つ分子が、1分子に対し2モル以上のアルカリ金属またはアンモニアと塩を形成している染色助剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人毛、獣毛等のケラチン繊維を天然染料で効果的に染色する為の染色助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
天然染料を用いて行われる草木染めに於いては、特許文献1に記載されてるように、高温で長時間の煮染を繰り返し、染色性を高めているが、作業が煩雑である。まして人の毛髪を染めるには、このような厳しい条件を採用することは非常に困難である。そこでフェニレンジアミン、脂肪族ジアミン等が染色助剤として使用されているが、非特許文献1に記載されてるように、アレルギーやかぶれを起こす副作用が危惧されている。
【特許文献1】特開平8−13361
【非特許文献1】FREGRANCE JOURNAL2001−8特集「染毛剤・染毛料の機能と最近の開発動向」第11〜15頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
人毛、獣毛等のケラチン繊維を、天然染料により草木染めするときの染色性を高め、かつ染色条件が穏和で簡単であり、かつ安全性の高い染色助剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、カルボキシル基を2個以上有する多塩基性酸、アミノ酸、アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有する含窒素ヘテロ環化合物、及びムコ多糖類からなる群から選択される物質のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩であり、カルボキシル基、アミノ基又は/及びイミノ基の2個以上がアルカリ金属又はアンモニウムと塩を形成していることを特徴とする、ケラチン繊維染色助剤である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の染色助剤を用いることにより、低い温度、短い時間でケラチン繊維を天然染料で染色することができると共に、人毛の染色に使用してもアレルギー反応又はかぶれを引き起こすことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明におけるカルボキシル基を2個以上持つ多塩基性酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、クエン酸、リンゴ酸、及び酒石酸が挙げられる。これらの多塩基性酸の中でも、染色性を高めるためにカルボキシル基を3個有するクエン酸が好ましく使用される。
【0007】
本発明におけるアミノ酸の具体例としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、シスチン、システィン、メチオニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン及びリシンが挙げられる。この中でも、染色性をより高めるためにヒスチジン、トリプトファン及びアルギニンが好ましく利用さ、入手の容易の観点からアルギニンが便利に使用される。
【0008】
本発明の含窒素ヘテロ環化合物の具体例としては、アラントイン、シアヌル酸及びイソシアヌル酸が挙げられる。
【0009】
本発明のムコ多糖類の具体例としては、ヒアルロン酸、キトサン及びコンドロイチン硫酸が挙げられる。
【0010】
本発明の染色助剤は、上記化合物のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩であり、カルボキシル基、アミノ基及び/又はイミノ基の2個以上がアルカリ金属又はアンモニウムと塩を形成している。アルカリ金属塩の具体例としてはナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
【0011】
本発明の染色助剤の製造方法については特別の制限はなく、アルカリ金属水溶液又はアンモニア水に、例えば室温で前記物質を添加し、撹拌する方法を採用することができる。
【0012】
本発明の染色助剤と組み合わせて使用される天然染料の具体例としては、ログウッド、カテキン、カテキュウ、ミロバラン、エンジュ、スオウ、クチナシ、ラックダイ、柿渋、茜草、五倍子、山桃、ザクロ、ヘナ、及びコチニールが挙げられ、これらは単独で使用してもよく2種以上組み合わせて使用してもよい。天然染料は一般に0.1〜30重量%の水溶液として使用される。硫酸第一鉄、塩化第二鉄、硫酸銅、酢酸カルシュウム又は酢酸アルミのような媒染剤を、天然染料の水溶液に対して0.1〜10%添加して、所望の色に予め発色させ、使用することもできる。
【0013】
本発明に於けるケラチン繊維の具体例としては、人毛及び獣毛が挙げられる。
【0014】
次に本発明の染色助剤を用いる染色方法について説明する。染色助剤は液状、ゲル状又はクリーム状で使用され、その濃度は一般に0.1〜30重量%である。天然染料又はこれと媒染剤との反応物である染色剤も、液状、ゲル状又はクリーム状で使用され、その濃度は一般に0.1〜30重量%である。
【0015】
ケラチン繊維は、例えば次のようにして染色される。まず被染色物であるケラチン繊維を、染色助剤の水溶液に、浸すか塗布して前処理し、次いで前処理した被染色物を水洗し、水分を取り除く。その後、染色剤の水溶液に被染色物を浸すか、塗布して染色する。次いで染色されたケラチン繊維を洗剤又はシャンプーで洗浄し、更に水又は温水で濯ぎ、ついで乾燥する。前処理及び染色の温度は通常10〜90℃であり、染色の温度と時間とは比例関係にあり、温度が高ければ時間は短くなる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
実施例1〜8及び比較例1〜2。
使用した染色助剤及び染色剤を表1及び表2に示す。まず表1及び表2に示す構成成分からなる、染色助剤の水溶液にヤクの毛を浸し、50℃で10分間前処理をし、水で濯ぎ水分を取り除いた。次に表1及び表2に示す天然染料の水溶液に硫酸第一鉄、塩化第二鉄又は酢酸アルミニウムを加え、予め発色させた染色剤の水溶液に、前処理したヤクの毛を浸し、40℃で10分間染色し、洗剤で水洗後乾燥した。染色度の評価結果を表1及び表2に併記する。評価基準は次のとおりである。
◎ 濃く染色された。
○ やや染色された。
× 殆ど染色されない。
なお使用した成分原料は以下のとおりである。
L―アルギニン、L―ヒスチジン、L−シスチン及びL−アルギニン酸:味の素(株)社製。
クエン酸及びシアヌル酸:和光純薬工業(株)社製。
カテキン:三井農林(株)社製、商品名「ポリフェノンKN」(登録商標)。
ヒアルロン酸:キューピー(株)社製、商品名「ヒアルロン酸HA−Q」。
ログウッド20%水溶液:洛東化成工業(株)社製、商品名「RKカラー7LOーHPG」。
ラックダイ20%水溶液:洛東化成工業(株)社製、商品名「RKカラー7LA―200L」。
エンジュ20%水溶液:洛東化成工業(株)社製、商品名「RKカラー4EN―HPG」。
ヤクの毛(ウシ科ヤク種):市販品。
【0018】
比較例1〜2は、染色助剤による前処理を行わなかった以外は、比較例1は実施例1と比較例2は実施例8と同一条件で染色したが、ヤクの毛はほとんど染色されなかった。




【0019】
【表1】



【表2】



【0020】
表1及び表2の結果から、実施例1〜8に於いては、染色助剤処理を50℃10分間、及び染色剤による処理を40℃10分間、という極めて穏和な条件下で、ヤクの毛が所定の色に濃く染色されていることが分かる。染色助剤を使用しなかった他は、染色助剤を使用しなかった他は、実施例1と同様に処理した比較例1及び実施例8と同様に処理した比較例2に於いては、ヤクの毛は殆ど染色されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を2個以上有する多塩基性酸、アミノ酸、アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有する、含窒素ヘテロ環化合物及びムコ多糖類からなる群から、選択される物質のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩であり、カルボキシル基、アミノ基及び/又はイミノ基の2個以上がアルカリ金属又はアンモニウムと塩を形成していることを特徴とする、ケラチン繊維染色助剤。
【請求項2】
多塩基性酸がシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、クエン酸、リンゴ酸、及び酒石酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1記載のケラチン繊維染色助剤。
【請求項3】
アミノ酸がグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、シスチン、システィン、メチオニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン及びリシンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1記載のケラチン繊維染色助剤。
【請求項4】
含窒素ヘテロ環化合物がアラントイン、シアヌル酸及びイソシアヌル酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1記載のケラチン繊維染色助剤。
【請求項5】
ムコ多糖類がヒアルロン酸、キトサン及びコンドロイチン硫酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1記載のケラチン繊維染色助剤。

【公開番号】特開2009−167118(P2009−167118A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5211(P2008−5211)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(501075062)有限会社エスケープランナー (2)
【Fターム(参考)】