説明

天然源からの新規の抗酸化剤

本発明は、ジクロスタキス シネレアからかなりの収率(1.5%)で(−)−メスキトールを単離する方法、さらに抗酸化剤/フリーラジカル捕捉剤としての(−)メスキトールの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物源ジクロスタキス シネレア(Dichrostachys cinerea)から新規の化合物、即ち(−)−メスキトール(mesquitol)を良好な収率で単離することに関する。
【背景技術】
【0002】
果物および野菜の多い食事と、心臓血管疾患および一定の形態のがんの低いリスクとの関連性を示す疫学的証拠は、かなり多く存在する。これらの保護作用に寄与する有効成分は主として、抗酸化剤フィトケミカルに他ならないと、一般には考えられている。
【0003】
最近10年間の研究で、抗突然変異薬、抗炎症薬、抗アテローム硬化薬、抗糖尿病薬、抗肝臓毒素薬、抗老化薬としての、さらに、様々な神経疾患でのフリーラジカル捕捉剤/抗酸化剤の有効な作用を示す十分な証拠が蓄積されている。したがって、フリーラジカル/酸化ダメージによるか、白内障、リウマチ病、アテローム硬化症、アルツハイマー病および他の神経変性疾患などの抗酸化物質/酸化物質ホメオスタシスのアンバランスによる病的状態の薬理学的治療を改善するには、新規の抗酸化成分の探索が必須である。したがって、薬理学的手法は、抗酸化成分に富む有望な資源を探索することに焦点を置いている。したがって、高い割合で抗酸化成分を有する植物の医学的重要性は、注目されている。
【0004】
ジクロスタキス シネレアは、伝統的なインド医学系で使用されている薬用植物であり、利尿薬、結石溶解薬、鎮痛剤、消化薬、便秘および炎症状態において幅広く推奨されている。さらに、カパ(kapha)およびヴァータ(vata)の低い状態、関節痛、象皮病、消化不良、下痢、膀胱結石、有痛性排尿困難、腎症、膣病および慢性子宮症で使用することができる(Indian Medicinal Plants,Vol.2 330頁)。眼結石(opthalmia)、リウマチ、尿路結石および腎障害で使用することもできる(Wealth of India Vol.3、56頁)。さらに、プロテアーゼ阻害剤活性(CA,90,118086u)、対真菌毒性活性(Ind.J.plant.Physiol,1986,29(3),278-80頁)、抗菌性(Fitoterapia,1988,59(1),57-62頁)を有することも報告されている。したがって、このような重要な生物学的特性を有する分子を捜し求めることが、適当になりつつある。これに関連して、ジクロスタキス シネレアのファイトケミカル調査を行った。本出願人らは、フリーラジカル捕捉剤としての新規化合物(−)−メスキトールをかなりの収率で単離するために努力した。異性体(+)メスキトールは、Prosopis glandulosaから収率0.011%で以前に報告されていた(J.Chem.Soc.Perkin.Trans I,1986,1737)。
【非特許文献1】Indian Medicinal Plants,Vol.2 330頁
【非特許文献2】Wealth of India Vol.3、56頁
【非特許文献3】CA,90,118086u
【非特許文献4】Ind.J.plant.Physiol,1986,29(3),278-80頁
【非特許文献5】Fitoterapia,1988,59(1),57-62頁
【非特許文献6】J.Chem.Soc.Perkin.Trans I,1986,1737
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主な目的は、抗酸化剤として有用な新規化合物(−)−メスキトールを提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、植物源、即ちジクロスタキス シネレアから(−)−メスキトールをかなりの収率で製造する方法を提供することである。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、新規の化合物である(−)−メスキトールである。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、99.9%純粋な形態で単離された(−)−メスキトールである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、抗酸化剤として(−)−メスキトールを使用することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、抗酸化剤として有用な、天然源に由来する図2に示されているような新規の化合物、即ち、(−)−メスキトールを提供する。さらに本発明は、植物ジクロスタキス シネレアから純度99.9%で(−)−メスキトールを単離する方法を提供する。
【0011】
本発明により、(−)−メスキトールは、天然源ジクロスタキス シネレアからかなりの収率で単離されることが判明し、さらに、(−)−メスキトールは、初めて単離された新規化合物であり、抗酸化特性を示すことが判明した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
抗酸化剤化合物は近年、フリーラジカルが重要な役割を果たしている複数の原因からなる疾患、即ち、冠状動脈性心疾患、がん、糖尿病、リウマチ病および炎症性状態におけるその幅広い活性スペクトルにより注目を集めている。現在では、天然資源からの抗酸化組成物または化合物を利用または収穫することに、多大な注目が向けられている。
【0013】
本発明は、有用で新規な源ジクロスタキス シネレアから得られる、図2に示されている抗酸化剤化合物(−)−メスキトールを提供する。(−)−メスキトールは、前記の新規の源から純粋で有効な抗酸化剤分子として単離される。(−)−メスキトールを、薬理学的/治療学的に許容されている既存の抗酸化剤プロブコールおよびα−トコフェロールと比較した。(−)−メスキトールは、前記の参照薬物よりも良好で、薬理学的/治療学的に許容されている添加剤と共に使用することができることが判明している。これは、現在使用されている医薬的に重要な親油性抗酸化剤プロブコールおよびα−トコフェロールよりも有用で良好な抗酸化剤分子であることが証明されている。これは、炎症性疾患状態、アテローム硬化症、糖尿病合併症、がん、肝毒性ならびに酸化ストレスおよび/またはフリーラジカルの捕捉下での高い発生による明白な酸化負荷により仲介されるか促進される様々な疾患状態で、より良好な治療能力を有しうる。
【0014】
本発明の1実施形態では、(−)−メスキトールは、前記の参照薬物よりもかなり少ない量で有効でありうる。
【0015】
本発明の1実施形態は、抗酸化剤として有用な化合物に関する。
【0016】
ジクロスタキス シネレアから(−)−メスキトールを単離する方法は、
(a)ジクロスタキス シネレアの乾燥木材粉末をヘキサンで抽出するステップと;
(b)ステップ(a)の残留物をクロロホルムで抽出するステップと;
(c)ステップ(b)の残留物をメタノールで抽出して、メタノール抽出物を得るステップと;
(d)真空下に、ステップ(c)のメタノール抽出物を濃縮するステップと;
(e)ステップ(d)の濃縮されたメタノール抽出物をシリカゲル(60〜120メッシュ)に吸着させて、シリカゲルカラム(直径5cm、高さ100cm)に負荷するステップと;
(f)クロロホルム−メタノール勾配でカラムを溶離するステップと;
(g)クロロホルム中5%のメタノールで溶離されるフラクションを集めるステップと;
(h)ステップ(g)の溶離されたフラクションを濃縮して、純粋な(−)−メスキトールを得るステップとを含む。
【0017】
本発明の1実施形態では、単離のために使用される溶剤は、ヘキサン、クロロホルムおよびメタノールから選択される。
【0018】
本発明の他の実施形態では、得られる(−)−メスキトールの収率は、乾燥原料に対して約1.5%である。前記のパーセンテージは、重量%である。
【0019】
もう1つの実施形態は、フリーラジカルが、疾患状態の発症/仲介に関与している場合に、治療薬として有用な抗酸化剤/フリーラジカル捕捉剤として(−)−メスキトールを使用することに関する。
【0020】
ジクロスタキス シネレアは、(−)−メスキトールのための源であり、かなりの収量でこの植物中にそれが存在することにより、本発明がより重要なものとなっている。
【0021】
本発明により、植物源からの抗酸化剤成分としての新規の化合物(−)−メスキトールの単離が具体化され、さらに、医学的に重要な酸化剤薬物分子に匹敵するそのフリーラジカル捕捉特性が同定される。
【0022】
さらに本発明を、詳述のために用意されている次の実施例でさらに記載するが、その際、これらによって、本発明は何ら限定されてはならない。
【実施例1】
【0023】
実施手順:新規化合物(−)メスキトールを単離するための方法。ジクロスタキス シネレアの乾燥した幹の樹皮パウダー(2Kg)をソックスレー装置に負荷した。始めに、粉末をヘキサンで抽出した。ヘキサンを抽出した後の残留物をさらに、クロロホルムで抽出した。クロロホルムで抽出した後に、残留物をコニカルフラスコに入れ、室温でメタノールに浸漬した。メタノール溶液を濾過し、真空下に濃縮した(50g)。メタノール抽出物(50g)をシリカゲル(60〜120メッシュ)に吸着させ、シリカゲル(60〜120メッシュ)カラム(直径5cm、高さ100cm)に負荷した。
【0024】
クロロホルム−メタノール勾配で、カラムを溶離した。特定のフラクションを得ることで、望ましい化合物が得られるように、クロロホルム−メタノール勾配を選択した。この場合、クロロホルム中5%のメタノールで溶離されるフラクションを別に集めて、濃縮する。
【0025】
クロロホルム−メタノール勾配を使用するシリカゲルカラム(>200メッシュ、直径3cmおよび長さ50cm)を使用して、前記のフラクションをさらに精製した。クロロホルム中5%のメタノールでの溶離液により、純粋な(−)−メスキトール(30g)が得られた。(−)−メスキトールの分光データを下記に示す。
【0026】
(−)−メスキトール
1. 分子式: C1514
2. HNMR:δ[(CDCO;200MHz]、δ2.71(1H、dd、J8Hzおよび15.0Hz、4−Hax)、2.89(1H、dd、J5Hzおよび15Hz、4−Heq)、4.0(1H、m、3−H)、4.0(1H、br s、3−OH)、4.62(1H、d、J7.5Hz、2−H)、6.4(2H、s、5,6−H)、6.72−6.88(3H、m、2’,5’,6’−H)および7.25、7.55(2−OH、それぞれ一重項)7.95(2−OH、s)
3. 13C−NMR:δ32.08(C−4)、66.49(C−3)、81.08(C−2)、108.07(C−6)、112.07(C−4a)、114.39(C−5)、115.20(C−5)、118.20(C−6)、118.68(C−2)、130.89(C−1)、132.85(C−8)、144.17(C−7)、144.86(C−8a)、144.94(C−3‘,4’)。
4. EIMS:290[M]、152、139、123。
5. IRνmax(KBr)cm−1:3306
【実施例2】
【0027】
フリーラジカル捕捉性抗酸化剤の効力のin vitro評価
幅広く使用されているフリーラジカル1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジルラジカル(DPPH)を捕捉するその能力/効力に関して、本化合物の抗酸化剤活性を試験した。よく許容されており、試験されている抗酸化剤、即ち、プロブコールおよびα−トコフェロールを、参照化合物として採用した。化合物の1mg/mlDMSO濃縮物を調製し、続いて、DMSOでより低い濃度まで希釈した。試験化合物200μlをトリス−HCl緩衝液(pH7.4)中で1mlまで再構成した。エタノール中に溶解されているDPPHラジカルの500μMを等容量で、これと反応させた。暗所で45分間インキュベーションした後に、517nmでの吸光度を記録した。こうして、ラジカル捕捉活性パーセントを算出した。読み取りを全て、三重に行った。結果(図1)により、検討中の化合物は、強力な抗酸化/フリーラジカル捕捉特性を有することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ジクロスタキス シネレアからの(−)−メスキトールおよび参照化合物の抗酸化(抗フリーラジカル、DPPH)活性を示すグラフ。
【図2】(−)−メスキトールの構造を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式により表される、抗酸化剤として使用することができる新規化合物(−)−メスキトール:
【化1】

【請求項2】
ジクロスタキス シネレアから新規の(−)−メスキトールを単離する方法において、
(a)ジクロスタキス シネレアの乾燥木材粉末をヘキサンで抽出するステップと;
(b)ステップ(a)の残留物をクロロホルムで抽出するステップと;
(c)ステップ(b)の残留物をメタノールで抽出して、メタノール抽出物を得るステップと;
(d)真空下に、ステップ(c)のメタノール抽出物を濃縮するステップと;
(e)ステップ(d)の濃縮されたメタノール抽出物をシリカゲル(60〜120メッシュ)に吸着させて、シリカゲルカラムに負荷するステップと;
(f)クロロホルム−メタノール勾配でカラムを溶離するステップと;
(g)クロロホルム中5%のメタノールで溶離されるフラクションを集めるステップと;
(h)ステップ(g)の溶離されたフラクションを濃縮して、純粋な(−)−メスキトールを得るステップとを含む方法。
【請求項3】
(−)メスキトールは、純度99.9%で得られる、請求項2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−514947(P2006−514947A)
【公表日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−559945(P2004−559945)
【出願日】平成14年12月17日(2002.12.17)
【国際出願番号】PCT/IB2002/005426
【国際公開番号】WO2004/054993
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(505185709)カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ (35)
【Fターム(参考)】