説明

太陽電池モジュール用封止材の製造方法

【課題】真空加熱ラミネートの際の熱収縮が小さい太陽電池モジュール用封止材を提供する。
【解決手段】酢酸ビニル含有量が28質量%以上33%質量以下であるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上1.0質量部以下の架橋剤と、0.5質量部以上1.0質量部以下の架橋助剤と、を含有する封止材組成物を成形後、120℃以上140℃以下で、0.5分以上10分以下のアニール処理を行なう。この方法で得られる太陽電池モジュール用封止材は、熱収縮率が10%以下であり、真空加熱ラミネート時の熱収縮が小さいので太陽電池素子の割れを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池モジュール用封止材の製造方法に関し、更に詳しくは、モジュール化工程における真空加熱ラミネートの際の熱収縮が小さい太陽電池モジュール用封止材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目されている。現在、種々の形態からなる太陽電池モジュールが開発され、提案されている。一般に太陽電池モジュールは、透明前面基板と太陽電池素子と裏面保護シートとが、封止材(充填材)を介して積層された構成である。
【0003】
太陽電池モジュールの封止材としては、透明性や流動性の面からEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)を主として、架橋剤と、架橋助剤とを含有する構成が知られている(特許文献1参照)。この場合、上記の組成物は未架橋で成形され、モジュール化の際の加熱によって架橋される。
【0004】
しかし、EVAは架橋時の熱収縮が顕著であることから、この収縮応力によって真空加熱ラミネートの際に太陽電池素子が割れるという問題がある。特に近年は太陽電池素子の厚さが0.2mm以下と薄くなる傾向があり、この熱収縮は従来に増して顕著な問題となっている。
【0005】
EVAの熱収縮を防止するには、応力緩和のためのアニール処理を施すことが有効なことが知られている。例えば下記の特許文献1には、EVAの成膜直後で軟化点以下となる前に、軟化点より20℃から25℃程度高い温度で、1分から2分程度のアニール処理を行なうことで熱収縮率を低下できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−84996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のEVA封止材は、太陽電池モジュール製造時の熱ラミネーション工程後のキュア工程を省略するファストキュア封止材に対応させる場合、すなわち分解温度がより低い有機過酸化物を選択する場合には、押出時の樹脂温度低下による熱収縮率上昇に対しアニール温度が低いため熱収縮率の改善が不十分となる。また、架橋剤や架橋助剤が多量に配合されているため温度を上げた場合には架橋が進み、封止材としての柔軟性が低下して封止性(充填性)が低下するという問題がある。
【0008】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、EVA封止材において、熱収縮を抑制しつつ、柔軟性も維持できる太陽電池モジュール用封止材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、架橋剤及び架橋助剤の量と、アニール条件との関係に着目し、従来より、架橋剤及び架橋助剤の量を減らして、更に、アニール処理を高温短時間処理とすることで、上記の課題解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上1.0質量部以下の架橋剤と、0.5質量部以上1.0質量部以下の架橋助剤と、を含有する封止材組成物を成形後、120℃以上140℃以下で、0.5分以上10分以下のアニール処理を行なう太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【0011】
(2) 100℃に加熱したタルクプレート上に、100mm×100mmの封止材フィルムの試験片を置き10分間静置した後の、加熱前後の試験片側辺長さの収縮割合である熱収縮率が10%以下である(1)記載の太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【0012】
(3) 前記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の酢酸ビニル含有量が28質量%以上33%質量以下である(1)又は(2)記載の太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【0013】
(4) (1)から(3)いずれか記載の太陽電池モジュール用封止材を真空加熱ラミネートで積層するモジュール化工程を備え、
前記モジュール化工程における真空加熱ラミネート温度が140℃から160℃であって、真空加熱ラミネート時間が10分以上30分以下である太陽電池モジュールの製造方法。
【0014】
(5) 前記真空加熱ラミネート後のゲル分率が70%以上99%以下である(4)記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【0015】
(6) 酢酸ビニル含有量が28質量%以上33%質量以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上1.0質量部以下の架橋剤と、0.5質量部以上1.0質量部以下の架橋助剤と、を含有し、
ゲル分率が0%以上3%以下であり、100℃に加熱したタルクプレート上に、100mm×100mmの封止材フィルムの試験片を置き10分間静置した後の、加熱前後の試験片側辺長さの収縮割合である熱収縮率が10%以下である太陽電池モジュール用封止材。
【0016】
(7) 140℃以上160℃以下で、10分以上30分の架橋処理後のゲル分率が70%以上99%以下である(6)記載の太陽電池モジュール用封止材。
【発明の効果】
【0017】
本発明の太陽電池モジュール用封止材及びその製造方法によれば、熱収縮を抑制しつつ、柔軟性も維持できるEVAの太陽電池モジュール用封止材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例における動的粘弾性(tanδ)の測定結果を示す図表である。
【図2】実施例(アニール処理なし)における真空加熱ラミネート時間とゲル分率との関係を測定した結果を示す図表である。
【図3】実施例(アニール処理あり)における真空加熱ラミネート時間とゲル分率との関係を測定した結果を示す図表である。
【図4】本発明の太陽電池モジュールの層構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<封止材組成物>
本発明に用いられる封止材組成物は、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)100質量部に対して、0.5質量部以上1.0質量部以下の架橋剤と、0.5質量部以上1.0質量部以下の架橋助剤と、を含有する。以下、これらの必須成分について説明した後、その他の樹脂、その他の成分について説明する。
【0020】
[EVA]
EVAとしては従来公知のものを使用でき特に限定されないが、酢酸ビニル含有量(VA含量)が28質量%以上33%質量以下であることが、太陽電池作製工程の真空加熱ラミネーション工程後、ゲル分率70%以上の高架橋度によって100℃以上150℃以下の耐熱性を得る点から好ましい。
【0021】
EVA樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、JISK7210法190℃において1g/10分以上40g/10分以下であることが好ましく、15g/10分以上40g/10分以下であることがより好ましい。JISK7206法のビカット軟化点では30℃から40℃の範囲が好ましい。MFRや軟化点が上記の範囲であることにより、樹脂を加熱溶融、添加剤と均一流動化させ一定形状に冷却まで変形する特性に優れる。
【0022】
[架橋剤]
架橋剤は公知のものが使用でき特に限定されず、例えば公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類;ジ‐t‐ブチルパーオキサイド、t‐ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐パーオキシ)ヘキシン‐3等のジアルキルパーオキサイド類;ビス‐3,5,5‐トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、o‐メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4‐ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t‐ブチルパーオキシアセテート、t‐ブチルパーオキシ‐2‐エチルヘキサノエート、t‐ブチルパーオキシピバレート、t‐ブチルパーオキシオクトエート、t‐ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t‐ブチルパーオキシベンゾエート、ジ‐t‐ブチルパーオキシフタレート、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン‐3、t‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート等のパーオキシエステル類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等の有機過酸化物、または、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4‐ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジクミルパーオキサイド、といったシラノール縮合触媒等を挙げることができる。これらは1種類でも2種以上を組み合わせても良い。具体的には、太陽電池作製の真空加熱ラミネーション工程におけるファストキュア法(真空加熱ラミネーションのみで封止材を高架橋させ、約150から160℃で30分から1時間静置し封止材を後架橋させるキュア工程を省略する方法)への適応の点からt‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(TBEC)が好ましく用いられる。
【0023】
架橋剤の10時間半減期温度は、押出機内で架橋反応が開始しない樹脂温度の上限の点から100℃〜120℃の有機過酸化物が好ましい。
【0024】
架橋剤の含有量は、EVAの100質量部に対して0.5質量部以上〜1.0質量部以下含まれることが好ましい。0.5質量部未満であると、架橋不足により高温での耐熱性が劣り、また、架橋時間が長くなってファストキュアできないので好ましくない。なお、ファストキュアとは、後述するモジュール化工程において後架橋工程が不要のことを意味する。1.0質量部を超えると、後述するアニール処理で架橋が進んで封止材の柔軟性が低下するので好ましくない。
【0025】
[架橋助剤]
本発明においては、好ましくは炭素−炭素二重結合及び/またはエポキシ基を有する多官能モノマー、より好ましくは多官能モノマーの官能基がアリル基、(メタ)アクリレート基、ビニル基である。これによって適度な架橋反応を促進させる。
【0026】
具体的な架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルマレエート等のポリアリル化合物、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル及びエポキシ基を2つ以上含有する1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルなどのエポキシ系化合物を挙げることができる。これらは単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0027】
上記のなかでも、比較的反応速度が遅く反応による収縮率が低い点からトリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましく使用できる。
【0028】
なお、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート等のポリ(メタ)アクリロキシ化合物、二重結合とエポキシ基を含むグリシジルメタクリレート、等は反応速度が速いために好ましくない。
【0029】
架橋助剤の含有量は、EVAの100質量部に対して0.5質量部以上〜1.0質量部以下含まれることが好ましい。0.5質量部未満であると、架橋不足により高温での耐熱性が劣り、また、架橋時間が長くなってファストキュアできないので好ましくない。1.0質量部を超えると、後述するアニール処理で架橋が進んで封止材の柔軟性が低下するので好ましくない。
【0030】
[ラジカル吸収剤]
本発明においては、ラジカル重合開始剤となる上記の架橋剤と、それをクエンチするラジカル吸収剤とを併用することにより、架橋の程度を調整してゲル分率を更に細かく調整してもよい。このようなラジカル吸収剤としては、ヒンダードフェノール系などの酸化防止剤や、ヒンダードアミン系の耐候安定化などが例示できる。架橋温度付近でのラジカル吸収能力が高い、ヒンダードフェノール系のラジカル吸収剤が好ましい。ラジカル吸収剤の使用量は、組成物中に0.01質量%〜3質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.05質量部〜2.0質量部の範囲である。この範囲内であれば適度に架橋反応を抑制できる。
【0031】
[その他の成分]
封止材組成物には、さらにその他の成分を含有させることができる。例えば、本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物から作製された封止材に耐候性を付与するための耐候性マスターバッチ、各種フィラー、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の成分が例示される。これらの含有量は、その粒子形状、密度等により異なるものではあるが、それぞれ太陽電池モジュール用封止材組成物中に0.001〜5質量%の範囲内であることが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、太陽電池モジュール用封止材組成物に対して、長期に亘って安定した機械強度や、黄変やひび割れ等の防止効果等を付与することができる。
【0032】
耐候性マスターバッチとは、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び上記の酸化防止剤等をEVA等の樹脂に分散させたものであり、これを太陽電池モジュール用封止材組成物に添加することにより、太陽電池モジュール用封止材に良好な耐候性を付与することができる。耐候性マスターバッチは、適宜作製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。耐候性マスターバッチに使用される樹脂としては、本発明に用いるEVAでもよく、上記のその他の樹脂であってもよい。なお、これらの光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤は、それぞれ1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0033】
更に、封止材組成物に用いられる他の成分としては上記以外に、シランカップリング剤などの接着性向上剤、核剤、分散剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、難燃剤等を挙げることができる。
【0034】
次に、本発明の太陽電池モジュール用封止材及びそれを用いた太陽電池モジュールの一例について、図面を参照しながら説明する。図3は、本発明の太陽電池モジュールについて、その層構成の一例を示す断面図である。本発明の太陽電池モジュール1は、入射光の受光面側から、透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、及び裏面保護シート6が順に積層されている。本発明の太陽電池モジュール1は、前面封止材層3及び背面封止材層5の少なくとも一方に上記の太陽電池モジュール用封止材(以下単に「封止材シート」ともいう)を使用する。
【0035】
<太陽電池モジュール用封止材>
本発明の封止材シートは、例えば、上記の封止材組成物を、従来公知のTダイ法などで成形(製膜)加工した後に、アニール処理して得られるものであり、厚さ300から650μmのシート状又はフィルム状としたものである。なお、本発明におけるシート状とはフィルム状も含む意味であり両者に差はない。その成形温度は例えば90℃から120℃が例示できる。
【0036】
シート化された封止材シートは必ずしも単層でなくてもよい。封止材シートと、透明前面基板2や太陽電池素子4や裏面保護シート6などの被封止部材との密着性を向上させるためには、その界面に本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物が配置されていればよい。本発明の封止材組成物を上記界面付近に偏って存在させることにより、より低コストで本発明の封止材シートを製造することができる。
【0037】
本発明の封止材組成物を上記界面付近に偏って存在させるための方法としては、例えば、封止材シートの構造を3層以上の構造、すなわち2枚の最外層と、この最外層に挟まれたコア層とを少なくとも有する多層フィルムからなる構造とする方法が挙げられる。上記のような、多層フィルムからなる封止材シートを作製するには、例えば、従来公知のTダイ多層共押出し法を用いることができる。
【0038】
<封止材のアニール処理>
本発明の封止材シートは、上記封止材組成物を成形後にアニール処理して得られる。ここで、アニール条件は120℃以上140℃以下で、0.5分以上10分以下という高温短時間処理であり、より好ましくは、処理時間は1分以上2分以下である。アニール温度が120℃未満であると、熱収縮率が10%以下とならなくなるので好ましくなく、140℃を超えると柔軟性が失われ流動性が低下しセル(太陽電池素子)への形状追従性が悪くなるので好ましくない。また、アニール時間が0.5分未満であると、熱収縮率が10%以下とならなくなるので好ましくなく、10分を超えると低架橋度ながらも硬化し始めるので好ましくない。
【0039】
なお、アニール処理後のゲル分率は3%以下であることが好ましく、より好ましくは0%である。
【0040】
このように、本発明は、上記の封止材組成物と高温短時間アニール処理との組み合わせによって、低熱収縮率と柔軟性とを両立させた点に特徴がある。後述する実施例の図1(試験例1)及び図2(試験例2)を用いてこのことを説明する。
【0041】
図1に示すように、本発明に用いる封止材組成物は、架橋剤と架橋助剤の量を減らすことで低温部でのtanδの挙動が大きく異なる。具体的にはモジュール化工程の真空加熱ラミネーション温度である150℃付近ではどちらも充分に架橋することでtanδが同じように低下している。この領域での挙動に大きな変化はない。一方、架橋温度より低い90℃から140℃付近では本発明に用いる封止材組成物のほうがtanδが大きく、すなわち軟らかい性質を有している一方、上記の特許文献1のように架橋剤と架橋助剤の量が多い比較例1ではtanδが小さく硬くなっていることが解かる。すなわち、本発明のほうがモジュール化工程で温度上昇する際に90℃から140℃付近での柔軟性を有していることから封止性に優れることになる。もちろん、架橋剤と架橋助剤の量を減らすことで熱収縮率は小さくすることができる。
【0042】
次に、図2によって150℃における真空加熱ラミネート時間とゲル分率との関係との観点から考察すると、本発明に用いる封止材組成物は、比較例よりゲル分率の立ち上がりが急激であり、真空加熱ラミネート時間8分付近まではゲル分率がゼロである。一方、比較例では真空加熱ラミネート時間4分付近から徐々にゲル分率が増加している。このことから、比較例で高温短時間のアニール処理を行なうと、架橋が進んでしまい柔軟性が低下し、モジュール化工程での封止性が悪くなることが理解できる。
【0043】
すなわち、本発明では、架橋剤と架橋助剤の量を減らすことで低熱収縮率を可能とするとともに、図2のような時間−ゲル分率のプロファイルを得て架橋を遅らせる。これによって高温短時間のアニール処理を可能として、低熱収縮率に加えて、低温での柔軟性と高温での架橋性(耐熱性)を有する、きわめてバランスの良いEVAの封止材シートを得ることに成功したものである。
【0044】
この封止材シートの段階での熱収縮率は、100℃に加熱したタルクプレート上に、100mm×100mmの封止材フィルムの試験片を置き10分間静置した後の、加熱前後の試験片側辺長さの収縮割合として測定して10%以下、好ましくは5%以下である。なお、試験片側辺のMD/CD方向(縦方向と横方向)によって収縮率が異なる場合には、収縮率が大きいほうの値を採用する。
【0045】
<太陽電池モジュール>
図4に示すように、太陽電池モジュール1は、モジュール化工程において、例えば、上記の透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、及び裏面保護シート6からなる部材を順次積層してから真空吸引等により一体化し、その後、真空加熱ラミネーション法等の成形法により、上記の部材を一体成形体として加熱圧着成形して製造することができる。
【0046】
また、太陽電池モジュール1は、通常の熱可塑性樹脂において通常用いられる成形法、例えば、Tダイ押出成形等により、太陽電池素子4の表面側及び裏面側のそれぞれに、前面封止材層3及び背面封止材層5を溶融積層して、太陽電池素子4を前面封止材層3及び背面封止材層5でサンドし、次いで、透明前面基板2及び背面保護シート6を順次積層し、次いで、これらを真空吸引等により一体化して加熱圧着する方法で製造してもよい。
【0047】
なお、上記のように封止材シートは成形時に未架橋であるので、このモジュール化工程において架橋を行なう。この場合、モジュール化工程における真空加熱ラミネート時間が、所定の温度、例えば、真空加熱ラミネート時間温度が140℃から160℃であって、真空加熱ラミネート時間が10分から30分以内で、所定のゲル分率に到達して架橋を完了できる。なお、160℃を超えるとセルにダメージを与える恐れがあるので好ましくない。すなわち本発明の封止材シートは、別工程で架橋処理が不要のファストキュアが可能となっている。
【0048】
なお、本発明の太陽電池モジュール1において、前面封止材層3及び背面封止材層5以外の部材である透明前面基板2、太陽電池素子4及び背面保護シート6は、従来公知の材料を特に制限なく使用することができる。また、本発明の太陽電池モジュール1は、上記部材以外の部材を含んでもよい。なお、本発明の封止材シートは単結晶型に限らず、薄膜型その他のすべての太陽電池モジュールに適用できる。
【0049】
このようにして得られる、本発明の太陽電池モジュールでは、封止材シートの架橋後のゲル分率が70%以上99%以下、好ましくは80%以上99%以下である。なお、本発明におけるゲル分率とは、後述する実施例の図2及び図3に示すように、特に温度と時間に指定がない場合には、実施例の方法での150℃×30分間の架橋処理後のゲル分率を意味する。また、上記の「架橋の完了」とは、ゲル分率が上昇後に定常状態(サチレート)に達する時点を意味する。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<太陽電池モジュール用封止材の製造>
下記の材料を、表1の組成の組成物として混合して溶融し、常法Tダイ法により厚さ400μmとなるように成膜して未架橋の封止材を得た。成膜温度は95℃とした。なおアニール処理は行なっていない。
EVA−1:酢酸ビニル含量33%、三井デュポンポリケミカル製、商品名EVAFLEX/EV150Rグレード
EVA−2:酢酸ビニル含量28%、三井デュポンポリケミカル製、商品名EVAFLEX/EV250Rグレード
【0051】
架橋剤(TBEC):t‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(アルケマ吉富株式会社製、商品名ルペロックスTBEC)
架橋剤(101):2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(アルケマ吉富株式会社製、商品名ルペロックス101)
架橋助剤A(TMPT):トリメチロールプロパントリメタクリレート(Sartomer社製、商品名SR350)
架橋助剤B(TAIC):トリアリルイソシアヌレート(Sartomer社製、商品名SR533)
シランカップリング剤(SC剤):信越化学工業株式会社製、商品名KBM503
UV吸収剤(UV剤):ケミプロ化成社製、商品名KEMISORB12)
酸化防止剤A:BASF社製、商品名Irganox1076
酸化防止剤B:BASF社製、商品名Irganox1330
酸化防止剤C:BASF社製、商品名Irganox1010
酸化防止剤D:BASF社製、商品名Irgafos168
ヒンダードアミン系光安定剤(HALS):BASF社製、Tinuvin770
【0052】
【表1】

【0053】
<試験例1>
実施例1と比較例1について動的粘弾性(tanδ)の変化を測定した。その結果を図1に示す。なお、測定は装置Anton Paar社製、Physica MCR301を用いて、振り角γ=5%,角周波数ω=11/sの測定条件にて行なった。
【0054】
<試験例2>
実施例1、2と比較例2について真空加熱ラミネート温度150℃で真空加熱ラミネート時間を変化させた際のゲル分率(%)の変化を測定した。その結果を図2及び図3に示す。図2はアニール処理なしであり、図3は120℃×1分のアニール処理を施した後にゲル分率を測定した結果である。
【0055】
ゲル分率は下記の条件で測定し、ゲル分率の測定サンプルは、離型処理を施された厚さ50μmのPETフィルム(100mm×100mm)に封止材(50mm×50mm×厚さ約0.4から0.5mm)を挟み、真空加熱ラミネーターにより、所定の温度と時間ラミネートしたものを測定に供した。
ゲル分率(%):架橋後封止材0.1gを樹脂メッシュに入れ、60℃トルエンにて4時間抽出したのち、樹脂メッシュごと取出し乾燥処理後秤量し、抽出前後の重量比較を行い残留不溶分の質量%を測定しこれをゲル分率とした。
熱収縮率(%):100℃に加熱したタルクプレート上に、100mm×100mmの封止材フィルムの試験片を置き10分間静置した後の、加熱前後の試験片側辺長さの収縮割合を熱収縮率とした。
【0056】
実施例1、2のアニール後熱収縮率はそれぞれ、5%、5%であり、比較例1、2のアニール後熱収縮率はそれぞれ5%、5%であった。この結果と図3を併せて考察すると、図3より、架橋剤と架橋助剤を本発明より多く含有する組成の比較例1においては、アニール処理によって架橋が進んでしまい、真空加熱ラミネート時間8分でゲル分率が50%付近まで上昇しており、既に硬化が進んで柔軟性に劣ることが解かる。一方、実施例1、2では真空加熱ラミネート時間8分でゲル分率が0%であり、高温短時間のアニール処理によって熱収縮率が低下し、かつ、アニール処理後も柔軟性に優れることが解かる。
【0057】
<試験例3>
架橋剤と架橋助剤と種類と量を表2のように変化させた以外は実施例1と同様にして、実施例3及び4、比較例3から6の封止剤を得た。これらについて120℃×10分のアニール処理後の熱収縮率と動的粘弾性(DMA)を測定した。また、これらの未架橋封止材を155℃×10分間、真空加熱ラミネーターで処理して架橋を行ない(モジュール化工程における真空加熱ラミネートに相当)、それぞれの実施例及び比較例について架橋後封止材を得てた。その結果をまとめて表2に示す。なお、表中DMA変化の○×は80℃から110℃でのtanδが変化ない場合を○、変化ある場合を×として評価したものである。
【0058】
【表2】

【0059】
表2から、架橋剤及び架橋助剤が本発明の範囲内より少ない比較例3においては、アニール後のゲル分率は0%と低くDMA変化も小さいので、アニール処理後の柔軟性が維持しているが、真空加熱ラミネート後のゲル分率が40%と低く耐熱性に劣る。また、架橋剤及び架橋助剤が本発明の範囲内より多い比較例4においては、真空加熱ラミネート後のゲル分率は95%と高く耐熱性に優れるが、アニール後のゲル分率が10%と高くDMAのtanδも大きいので、アニール処理後の柔軟性が劣る。
【0060】
なお、架橋助剤としてTMPTを用いた試験例5、6については架橋速度が早いためにアニール後のゲル分率が4〜8%と高くなり、DMAのtanδも大きくアニール処理後の柔軟性が劣る。
【符号の説明】
【0061】
1 太陽電池モジュール
2 透明前面基板
3 前面封止材層
4 太陽電池素子
5 背面封止材層
6 背面保護シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上1.0質量部以下の架橋剤と、0.5質量部以上1.0質量部以下の架橋助剤と、を含有する封止材組成物を成形後、120℃以上140℃以下で、0.5分以上10分以下のアニール処理を行なう太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【請求項2】
100℃に加熱したタルクプレート上に、100mm×100mmの封止材フィルムの試験片を置き10分間静置した後の、加熱前後の試験片側辺長さの収縮割合である熱収縮率が10%以下である請求項1記載の太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【請求項3】
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の酢酸ビニル含有量が28質量%以上33%質量以下である請求項1又は2記載の太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3いずれか記載の太陽電池モジュール用封止材を真空加熱ラミネートで積層するモジュール化工程を備え、
前記モジュール化工程における真空加熱ラミネート温度が140℃から160℃であって、真空加熱ラミネート時間が10分以上30分以下である太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記真空加熱ラミネート後のゲル分率が70%以上99%以下である請求項4記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項6】
酢酸ビニル含有量が28質量%以上33%質量以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上1.0質量部以下の架橋剤と、0.5質量部以上1.0質量部以下の架橋助剤と、を含有し、
ゲル分率が0%以上3%以下であり、100℃に加熱したタルクプレート上に、100mm×100mmの封止材フィルムの試験片を置き10分間静置した後の、加熱前後の試験片側辺長さの収縮割合である熱収縮率が10%以下である太陽電池モジュール用封止材。
【請求項7】
140℃以上160℃以下で、10分以上30分の架橋処理後のゲル分率が70%以上99%以下である請求項6記載の太陽電池モジュール用封止材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−52004(P2012−52004A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194966(P2010−194966)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】