説明

太陽電池及びその製造方法

【解決手段】シリコン基板1と、前記シリコン基板1の受光面側に形成され、ドーパント高濃度拡散層3とこの高濃度拡散層3よりもドーパント濃度が低い低濃度拡散層4とを有するp型セレクティブエミッタ層2と、前記p型セレクティブエミッタ層2の高濃度拡散層3と電気的に接続する受光面電極6と、前記シリコン基板1の裏面側に形成されたn型拡散層5と、前記n型拡散層5と電気的に接続する裏面電極7と、を備える太陽電池であって、前記受光面電極直下となる高濃度拡散層3がシリコン窒化膜8と接し、前記低濃度拡散4層がシリコン酸化膜9と接することを特徴とする太陽電池。
【効果】高濃度拡散層と低濃度拡散層とを有するp型セレクティブエミッタ層を有する太陽電池を簡便に製造することができ、容易に低オーミックコンタクトが形成でき、製造歩留まりを高レベルで維持しながら高性能の太陽電池及びその製造方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型セレクティブエミッタ層を有する太陽電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、民生用の太陽電池を製造するにあたって、その製造コストの低減が重要課題であり、一般的には以下のような工程で太陽電池を製造する方法が広く採用されている。
【0003】
まず、チョクラルスキー(CZ)法により作製した単結晶シリコンインゴットやキャスト法により作製した多結晶シリコンインゴットをマルチワイヤー法でスライスすることにより得られたn型シリコン基板を用意する。次に、アルカリ溶液で基板表面のスライスによるダメージを取り除いた後、最大高さ10μm程度の微細凹凸(テクスチャ)を受光面と裏面との両面に形成する。続いて、種々の方法により基板の両面にドーパントを熱拡散させて受光面となる第1主面に基板とは逆導電型となるp型ドーパントを拡散させることによりp型セレクティブエミッタ層を形成し、裏面となる第2主面に基板と同導電型であるn型ドーパントを拡散させて銀電極とのオーミックコンタクトを取れるようにする。次に、表面のパッシベーション能力を向上させるために、受光面側及び裏面側に酸化膜を50〜100Å形成させる。さらに受光面及び裏面にはTiO2又はSiNを、例えば、70nm程度の膜厚で堆積させて、反射防止膜を形成する。次に銀を主成分とする裏面電極用ペーストを裏面全面に櫛型状又は格子状に印刷し、焼成することにより裏面電極を形成する。一方、受光面電極は、銀を主成分とする受光面電極用ペーストを例えば幅100〜150μm程度の櫛形状に印刷、焼成することにより形成する。
【0004】
このような手法は、デバイスを構成する上で必要最小限の工程数となっているにもかかわらず、エネルギー変換効率等の太陽電池の特性を高める様々な効果が付随している点で優れた手法である。例えば、基板に拡散層を形成する際のドーパントの熱拡散はゲッタリング作用によりバルク内の少数キャリヤの拡散長を改善する働きがある。さらに、酸化膜及びTiO2又はSiN等の反射防止膜の形成は、光学的効果(反射率低減)とともにシリコン表面近傍で発生するキャリヤの再結合速度を低減する働きがある。
【0005】
しかしながら、受光面電極のコンタクト抵抗を充分に低くするためには、ボロン等の拡散層表面ドーパント濃度を2.0〜3.0×1020cm-3程度にするとよいが、基板の表面がこれ程の高濃度となると表面準位が非常に高くなるので、受光面近傍でのキャリヤ再結合が促進され、短絡電流、開放電圧が制限され、変換効率が頭打ちとなる。また、ボロン拡散層は酸化膜形成時に表面ドーパント濃度が低下することが知られている。
【0006】
そこで、受光面側に形成する拡散層の表面ドーパント濃度を低減することにより変換効率を改善する方法が発案されている(例えば、特許文献1参照)。この技術によると拡散層の表面ドーパント濃度が1.0×1020cm-3程度又はそれ以下でも、低オーミックコンタクトを形成可能である。これは、電極用ペーストに含まれる銀フィラーの周りにドーパントを含む化合物を添加しておくことによるもので、これにより、電極焼成時、ドーパントが電極直下に高濃度層を形成する。しかしながら、このように電極用ペーストに含まれる銀フィラーの周りにドーパントを含む化合物を添加する方法では、安定的に拡散層と電極のコンタクトを形成することができないため、フィルファクタが低く、かつ、信頼性が低い太陽電池となってしまうといった問題がある。
【0007】
また、電極直下のみにドーパントを高濃度に含む高濃度拡散層を形成し、受光面の他の部分の拡散層の表面ドーパント濃度を下げること、つまりセレクティブエミッタを形成することにより変換効率を向上させる方法として、例えば「光電変換装置及びその製造方法」が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この方法は、埋め込み型電極太陽電池の電極形成方法(例えば、特許文献3,4参照)を、電解メッキ法からスクリーン印刷法へ変更したものである。これにより、製造管理を容易とし、併せて製造コストも低減することが可能とされている。
【0008】
しかしながら、埋め込み型電極太陽電池の製造方法において、セレクティブエミッタを得るためには、n型拡散層を形成する熱処理を行った後、高濃度n型拡散層を形成する熱処理を行うため、最低2回のドーパントの熱拡散を行う必要があり、工程が煩雑となって製造コストの増加を招く。
【0009】
また別のセレクティブエミッタを形成することにより変換効率を向上させる方法としては、「太陽電池の製造方法」(例えば、特許文献5参照)が提案されている。この方法では、インクジェット方式により複数の種類の塗布剤の塗り分けを同時に行い、ドーパント濃度やドーパント種類が異なる領域を簡単な工程で作り出すことを提案している。しかしながら、このようなインクジェット方式において、ドーパントとしてリン酸等を用いると腐食対策が必要であり、装置が複雑となる上に、メンテナンスも煩雑となる。また、ドーパント濃度や種類が異なる塗布剤をインクジェットで塗り分けても、1回の熱処理で拡散させると、オートドープにより所望の濃度差が得られなくなってしまう。
【0010】
さらに、電極直下のみに高濃度拡散層を形成し、受光面の他の部分の拡散層の表面ドーパント濃度を下げることにより変換効率を向上させる別の方法としては、例えば「太陽電池の製造方法」(例えば、特許文献6参照)が提案されている。しかしながら、この方法では、低濃度拡散層と高濃度拡散層を形成するための拡散熱処理を2回施す必要があり、簡便でない。だからといって熱処理を1回にすると、オートドーピングにより受光面の電極直下以外の部分もドーパントが高濃度となり、高変換効率を示さなくなる。
【0011】
受光面がp型となる太陽電池においても、高変換効率とするにはセレクティブエミッタの形成は必要不可欠であり、表面ドーパント濃度のコントロールが重要である。しかしながら、ボロンのセレクティブエミッタを形成することは容易ではなく、従来の方法では複数回の拡散マスク形成や熱処理が必要であり、工程が複雑かつ煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6180869号明細書
【特許文献2】特開2004−273826号公報
【特許文献3】特開平8−37318号公報
【特許文献4】特開平8−191152号公報
【特許文献5】特開2004−221149号公報
【特許文献6】特開2004−281569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、簡便な方法でp型セレクティブエミッタ層を形成することができ、表面ドーパント濃度がコントロールされて、高いエネルギー変換効率を有する太陽電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、高濃度のp型拡散層を形成し、このp型拡散層の一部をシリコン窒化膜でマスクした後、酸化することにより、濃度差をつけた複数回の熱処理工程を必要とせず、簡便かつ確実にp型セレクティブエミッタ層を形成することができることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0015】
p型のボロン拡散層は、酸化処理時にSiO2とSi中の偏析係数と拡散速度の差からボロンドーパントが酸化膜に移ってしまい、拡散層のドーパント低濃度化の現象が起こる。太陽電池において、短波長領域での変換効率を向上させるためには、受光面における表面ドーパント濃度は低いほうがよいが、電極接触抵抗を低減するためには、ドーパント濃度を高くする必要がある。拡散層中のドーパント濃度が低下すると、オーミックコンタクトが得られないこととなる。本発明においては、酸化処理前にシリコン窒化膜を電極直下(電極接続位置)となるp型拡散層の表面のみにパターン状に堆積させることで、シリコン窒化膜が酸化防止膜として働き、酸化処理時にシリコン窒化膜形成部分において、表面ドーパント濃度の低減を抑えることが可能となる。結果として、電極直下(電極接続位置)となる領域に高濃度拡散層が形成されていることから電極接触抵抗を低減できる一方、前記シリコン窒化膜非形成領域の表面ドーパント濃度は低くなり、短波長領域での変換効率を向上させることができると共に、酸化処理時に表面のシリコン酸化膜(パッシベーション膜)が形成され、p型拡散層において高濃度拡散層と低濃度拡散層とを有するp型セレクティブエミッタ層を簡便に形成することができる。
【0016】
従って、本発明は下記太陽電池及びその製造方法を提供する。
[1].シリコン基板と、
前記シリコン基板の受光面側に形成され、ドーパント高濃度拡散層とこの高濃度拡散層よりもドーパント濃度が低い低濃度拡散層とを有するp型セレクティブエミッタ層と、
前記p型セレクティブエミッタ層の高濃度拡散層と電気的に接続する受光面電極と、
前記シリコン基板の裏面側に形成されたn型拡散層と、
前記n型拡散層と電気的に接続する裏面電極と、
を備える太陽電池であって、前記受光面電極直下となる高濃度拡散層がシリコン窒化膜と接し、前記低濃度拡散層がシリコン酸化膜と接することを特徴とする太陽電池。
[2].p型セレクティブエミッタ層のドーパントがボロンであることを特徴とする[1]記載の太陽電池。
[3].高濃度拡散層の表面ドーパント濃度が1.0×1018cm-3〜5.0×1020cm-3であり、低濃度拡散層の表面ドーパント濃度が1.0×1017cm-3〜1.0×1019cm-3であることを特徴とする[1]又は[2]記載の太陽電池。
[4].シリコン基板がn型であることを特徴とする[1]、[2]又は[3]記載の太陽電池。
[5].シリコン基板の裏面側にn型拡散層を形成すると共に、シリコン基板の受光面側に高濃度p型拡散層を形成し、このp型拡散層の受光面電極接続位置となる領域を部分的にシリコン窒化膜でマスクした後、前記p型拡散層の酸化処理を行って、前記シリコン窒化膜形成領域に接するp型拡散層を高濃度拡散層として保持すると共に、前記酸化処理によりp型拡散層のシリコン窒化膜非形成領域にシリコン酸化膜を形成し、このシリコン酸化膜に接するp型拡散層を低濃度拡散層として形成したことを特徴とする[1]記載の太陽電池の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の太陽電池及びその製造方法によれば、高濃度拡散層と低濃度拡散層とを有するp型セレクティブエミッタ層を有する太陽電池を簡便に製造することができ、容易に低オーミックコンタクトが形成でき、製造歩留まりを高レベルで維持しながら高性能の太陽電池及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の太陽電池の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の太陽電池の製造方法の一例について説明する概略断面図である。 (A)はシリコン基板、(B)は裏面にn型拡散層を形成した状態、(C)は受光面にp型拡散層を形成した状態、(D)はシリコン窒化膜を電極直下となるp型高濃度拡散層の領域に形成した状態、(E)は表面にシリコン酸化膜を形成することで、前記p型拡散層の前記シリコン窒化膜形成領域に接する部分をp型高濃度拡散層、シリコン窒化膜非形成領域をp型低濃度拡散層とした状態、(F)はさらに反射防止シリコン窒化膜を形成した状態、(G)は受光面電極及び裏面電極を形成した状態を示す。
【図3】比較例の太陽電池の製造方法の一例について説明する概略断面図である。 (A)はシリコン基板、(B)は裏面にn型拡散層を形成した状態、(C)はp型高濃度拡散層を形成した状態、(D)はp型低濃度拡散層を形成した状態、(E)はシリコン酸化膜を形成した状態、(F)はさらに反射防止シリコン窒化膜を形成した状態、(G)は受光面電極及び裏面電極を形成した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の太陽電池の実施形態及び製造方法について、図1及び図2に基づき説明する。図1は本発明に係る太陽電池の概略断面図であり、図2は本発明の太陽電池の製造方法を説明する概略断面図である。本発明の太陽電池は、シリコン基板1と、前記シリコン基板1の受光面側に形成され、ドーパント高濃度拡散層3とこの高濃度拡散層3よりもドーパント濃度が低い低濃度拡散層4とを有するp型セレクティブエミッタ層2と、前記p型セレクティブエミッタ層2の高濃度拡散層3と電気的に接続する受光面電極6と、前記シリコン基板1の裏面側に形成されたn型拡散層5と、前記n型拡散層5と電気的に接続する裏面電極7とを備えた太陽電池であって、前記受光面電極6直下となる高濃度拡散層3がシリコン窒化膜8と接し、前記低濃度拡散層4がシリコン酸化膜9と接するものであり、この太陽電池の製造方法は、シリコン基板の裏面側にn型拡散層を形成すると共に、シリコン基板の受光面側に高濃度p型拡散層を形成し、このp型拡散層の電極接続位置となる領域を部分的にシリコン窒化膜でマスクした後、前記p型拡散層の酸化処理を行って、前記シリコン窒化膜形成領域に接するp型拡散層を高濃度拡散層として保持すると共に、前記酸化処理によりp型拡散層のシリコン窒化膜非形成領域にシリコン酸化膜を形成し、このシリコン酸化膜に接するp型拡散層を低濃度拡散層として形成するものである。
【0020】
以下、本発明の太陽電池の製造方法について詳細に説明する。
(1)シリコン基板1はn型でもp型でも本手法を用いてp型拡散層の濃度差を与えることができるが、p型セレクティブエミッタ層を形成する本発明においてはn型基板を使用する。このシリコン単結晶基板はチョクラルスキー(CZ)法及びフロートゾーン(FZ)法のいずれの方法によって作製されていてもよい。シリコン基板1の比抵抗は、高性能の太陽電池を作る点から、0.1〜20Ω・cmが好ましく、0.5〜2.0Ω・cmがより好ましい。シリコン基板としては、リンドープn型単結晶シリコン基板が好ましい。リンドープのドーパント濃度は1×1015cm-3〜5×1016cm-3が好ましい。
【0021】
(2)ダメージエッチング/テクスチャ形成
例えば、シリコン基板1を水酸化ナトリウム水溶液に浸し、ダメージ層をエッチングで取り除く。この基板のダメージ除去は、水酸化カリウム等の強アルカリ水溶液を用いてもよく、フッ硝酸等の酸水溶液でも同様の目的を達成することが可能である。ダメージエッチングを行った基板1にランダムテクスチャを形成する。太陽電池は通常、表面に凹凸形状を形成するのが好ましい。その理由は,可視光域の反射率を低減させるために、できる限り2回以上の反射を受光面で行わせる必要があるためである。これら一つ一つの山のサイズは1〜20μm程度が好ましい。代表的な表面凹凸構造としてはV溝、U溝が挙げられる。これらは,研削機を利用して形成可能である。また、ランダムな凹凸構造を作るには、水酸化ナトリウムにイソプロピルアルコールを加えた水溶液に浸してウェットエッチングしたり、他には、酸エッチングやリアクティブ・イオン・エッチング等を用いることができる。なお、図1,2では両面に形成したテクスチャ構造は微細なため省略する。
【0022】
(3)n型拡散層形成
シリコン基板1全体に酸化膜21を形成する。次に、裏面の酸化膜21aをフッ酸等の薬液を用いて除去し、受光面側のみをマスクした状態にする。さらに、裏面にドーパントを含む塗布剤を塗布した後に熱処理を行うことでn型拡散層5を裏面に形成する。熱処理後、シリコン基板1に付いたガラス成分はガラスエッチング等により洗浄する。ドーパントはリンが好ましい。n型拡散層5の表面ドーパント濃度は、1.0×1018cm-3〜5.0×1020cm-3が好ましく、1.0×1019cm-3〜5.0×1020cm-3がより好ましい。
【0023】
(4)p型拡散層形成
同様の処理を受光面で行い、p型拡散層10を受光面全体に形成する。具体的には、裏面側のみをマスク処理し、受光面の酸化膜21bを除去した後、受光面にドーパントを含む塗布剤をスクリーン印刷又はスピン塗布して熱処理を行い、p型拡散層10を形成する。p型拡散層10の表面ドーパント濃度は、1.0×1018cm-3〜5.0×1020cm-3が好ましく、1.0×1019cm-3〜5.0×1020cm-3がより好ましい。ドーパントはボロンが好ましい。
【0024】
(5)pn接合分離
プラズマエッチャーを用い、pn接合分離を行う。このプロセスではプラズマやラジカルが受光面や裏面に侵入しないよう、サンプルをスタックし、その状態で端面を数ミクロン削る。接合分離後、基板に付いたガラス成分、シリコン粉等はガラスエッチング等により洗浄する。
【0025】
(6)p型拡散層の受光面電極接続位置となる領域を部分的にシリコン窒化膜でマスクし、受光面電極6直下で受光面電極接続位置となる領域のみに窒化膜が形成されるようにパターニングされたガラスマスク又はシリコン基板のマスクを用い、窒化膜デポジションの際に受光面側と合わせてパターン開口部のみにシリコン窒化膜のCVD膜を堆積させることで、シリコン窒化膜のパターニングが可能である。
【0026】
(7)酸化処理
p型拡散層の酸化処理は酸素雰囲気下で800〜1000℃で0.5〜2時間行うことが好ましい。酸化処理前にシリコン窒化膜8を、受光面電極6直下で受光面電極接続位置となるp型拡散層10の表面のみにパターン状に堆積させることで、シリコン窒化膜8が酸化防止膜として働き、ドーパントの表面濃度の低減を抑えることが可能となる。つまり、その後酸化処理をすることにより、シリコン窒化膜8形成部分はシリコン酸化膜が形成されず、シリコン窒化膜8と接する部分は、ドーパント濃度が維持されて高濃度拡散層3が形成される。それ以外の部分(シリコン窒化膜非形成領域)には、シリコン酸化膜9が形成され、これにより、シリコン窒化膜8形成部分以外の表面ドーパント濃度が低くなり、低濃度拡散層4が形成される。このようにして、受光面における高濃度拡散層3と低濃度拡散層4の表面濃度差を確実に形成することが可能となる。p型セレクティブエミッタ層2は、受光面電極6直下となる高濃度拡散層3がシリコン窒化膜8と接し、低濃度拡散層がシリコン酸化膜9と接する。また、p型セレクティブエミッタ層2を形成するのに熱処理を一回で済ますことができるため、非常に簡便な方法でありながら、高性能な太陽電池を得ることができる。
【0027】
高濃度拡散層3の表面ドーパント濃度は、1.0×1018cm-3〜5.0×1020cm-3が好ましく、1.0×1019cm-3〜5.0×1020cm-3がより好ましい。また、低濃度拡散層4の表面ドーパント濃度は1.0×1017cm-3〜1.0×1019cm-3が好ましく、1.0×1018cm-3〜1.0×1019cm-3がより好ましい。高濃度拡散層の表面ドーパント濃度と、低濃度拡散層の表面ドーパント濃度との比(高濃度拡散層の表面ドーパント濃度/低濃度拡散層の表面ドーパント濃度)は、5〜200が好ましく、10〜100がより好ましい。また、シリコン窒化膜8の膜厚は10〜100nmが好ましく、20〜50nmがより好ましい。シリコン酸化膜9の膜厚は50〜200nmが好ましく、60〜120nmがより好ましい。
【0028】
高濃度拡散層3の表面ドーパント濃度と、低濃度拡散層4の表面ドーパント濃度については、上記範囲での組合せとして、高濃度部分と低濃度部分が存在すればよく数値範囲の重複については適切な範囲内で高低関係が成立すればよい。
【0029】
(8)保護膜形成
引き続き、ダイレクトプラズマCVD装置を用い、p型セレクティブエミッタ層2上に反射防止シリコン窒化膜11を堆積する。この膜厚は、70〜100nmが好ましい。他の反射防止膜として酸化膜、二酸化チタン膜、酸化亜鉛膜、酸化スズ膜等があり、代替が可能である。また、形成法も上記以外にリモートプラズマCVD法、コーティング法、真空蒸着法等があるが、経済的な観点から、上記、窒化膜をプラズマCVD法によって形成するのが好適である。
【0030】
(9)電極形成
スクリーン印刷装置等を用い、受光面側及び裏面側に、例えば銀からなるペーストを、スクリーン印刷装置を用いてp型高濃度拡散層及びn型拡散層上に印刷し、櫛形電極パターン状に塗布して乾燥させる。最後に、焼成炉において、500〜900℃で1〜30分焼成を行い、前記p型拡散層及びn型拡散層と電気的に接続する受光面電極6、裏面電極7を形成する。この場合、焼成中に電極ペースト中のガラスフリットがシリコン窒化膜8、反射防止シリコン窒化膜11及びシリコン酸化膜9をファイアスルーすることにより、電極と拡散層との電気的な導通が達成される。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術範囲に包含される。
【0032】
[実施例1]
図2及び表1に示す製造方法フローチャートにより、図1に示す太陽電池を製造した。
結晶面方位(100)、15.65cm角200μm厚、アズスライス比抵抗2Ω・cm(ドーパント濃度7.2×1015cm-3)リンドープn型単結晶シリコン基板を、水酸化ナトリウム水溶液に浸してダメージ層をエッチングで取り除き、水酸化カリウム水溶液にイソプロピルアルコールを加えた水溶液に浸してアルカリエッチングすることでテクスチャ形成を行った。得られたシリコン基板1全体を1000℃・1時間処理して酸化膜21を形成した。次に、裏面の酸化膜21aをフッ酸等の薬液を用いて除去し、裏面にリンドーパントを含む塗布剤を塗布した後に、900℃・1時間熱処理を行い、n型拡散層5を裏面に形成した。熱処理後、基板に付いたガラス成分は高濃度フッ酸溶液等により除去後、洗浄した。
再度、シリコン基板全体にシリコン酸化膜を形成し、受光面のシリコン酸化膜21bをフッ酸等の薬液を用いて除去し、受光面にボロンドーパントを含む塗布剤を塗布した後に、1000℃・1時間熱処理を行い、p型高濃度拡散層10を受光面全体に形成した。
次に、プラズマエッチャーを用い、pn接合分離を行った。プラズマやラジカルが受光面や裏面に侵入しないよう、対象をスタックした状態で端面を数ミクロン削った。基板に付いたガラス成分を高濃度フッ酸溶液等により除去後、洗浄した。
次に、p型高濃度拡散層10の受光面電極直下となる領域のみにシリコン窒化膜が形成されるように、CVD法によりシリコン窒化膜8を常法によりパターン形成した。次に、酸化熱処理を酸素雰囲気下で900℃・10分の時間で行った。p型拡散層10は、受光面電極6直下となるp型高濃度拡散層3、p型低濃度拡散層4を有し、p型セレクティブエミッタ層2が形成された。また、p型高濃度拡散層3上にシリコン窒化膜8が形成され、p型低濃度拡散層4上にシリコン酸化膜9が形成された。酸化処理後のシリコン窒化膜8(マスク)の膜厚は20nmであり、シリコン酸化膜9の膜厚は100nmであった。
酸化熱処理後のn型拡散層5、p型高濃度拡散層3、p型低濃度拡散層4におけるドーパント濃度は、それぞれ4.2×1020cm-3、2.8×1020cm-3、5.8×1018cm-3であった(高濃度拡散層の表面ドーパント濃度/低濃度拡散層の表面ドーパント濃度=48)。なお、ドーパント濃度は、SIMS測定で分析を行ったが、拡散層表面を角度研摩して広がり抵抗測定によりドーピングプロファイルを得ることもできる。
引き続き、ダイレクトプラズマCVD装置を用い、シリコン窒化膜8上及び、受光面と裏面のシリコン酸化膜9上に反射防止シリコン窒化膜11を積層した。この膜厚は70nmであった。
受光面側及び裏面側にそれぞれ銀ペーストを電極印刷し、乾燥後800℃で20分焼成を行い、受光面電極6及び裏面電極7を形成した。この場合、焼成中に電極ペースト中のガラスフリットがシリコン酸化膜及びシリコン窒化膜をファイアスルーすることにより、電極と拡散層との電気的な導通を達成した。
【0033】
[比較例1]
図3及び表2に示す製造方法フローチャートにより、太陽電池を製造した。
結晶面方位(100)、15.65cm角200μm厚、アズスライス比抵抗2Ω・cm(ドーパント濃度7.2×1015cm-3)リンドープn型単結晶シリコン基板101を、水酸化ナトリウム水溶液に浸してダメージ層をエッチングで取り除き、水酸化カリウム水溶液にイソプロピルアルコールを加えた水溶液に浸してアルカリエッチングすることでテクスチャ形成を行った。得られたシリコン基板101全体を1000℃・1時間処理して酸化膜121を形成した。次に、裏面の酸化膜121をフッ酸等の薬液を用いて除去し、裏面にリンドーパントを含む塗布剤を塗布した後に、900℃・1時間熱処理を行い、n型拡散層105を裏面に形成した。熱処理後、基板に付いたガラス成分は高濃度フッ酸溶液等により除去後、洗浄した。
次に、受光面側の電極直下となる部分にp型高濃度拡散層103を形成した。具体的には、シリコン基板101全体を酸化膜マスク処理し、受光面側の電極直下となる部分の酸化膜のみフッ酸等の薬液を用いて除去、パターニングして、基板が露出した部分にボロンドーパントを含む塗布剤をスクリーン印刷するか又は受光面全体にスピン塗布して、1000℃・1時間熱処理を行った。熱処理後、基板に付いたガラス成分は高濃度フッ酸溶液等により除去後、洗浄した。
次に、受光面側の電極直下となる部分以外の所にp型低濃度拡散層104を形成した。具体的には、シリコン基板1全体を酸化膜マスク処理し、受光面側のみフッ酸等の薬液を用いて除去し、受光面全体にボロンドーパントを含む塗布剤をスクリーン印刷するか又は受光面全体にスピン塗布して、950℃・1時間熱処理を行った。これにより、p型低濃度拡散層104を受光面側の電極直下以外となる部分に均一に形成した。
次に、プラズマエッチャーを用い、pn接合分離を行った。プラズマやラジカルが受光面や裏面に侵入しないよう、対象をスタックした状態で端面を数ミクロン削った。基板に付いたガラス成分を高濃度フッ酸溶液等により除去後、洗浄した。
次に、酸化熱処理を、酸素雰囲気下で900℃・10分の時間で行い、p型高濃度拡散層103及びp型低濃度拡散層104上にシリコン酸化膜109を形成した。シリコン酸化膜109の膜厚は100nmであった。
酸化熱処理後のn型拡散層105、p型高濃度拡散層103、p型低濃度拡散層104におけるドーパント濃度は、それぞれ4.1×1020cm-3、1.1×1020cm-3、6.7×1019cm-3であった。
【0034】
次に、ダイレクトプラズマCVD装置を用い、受光面及び裏面のシリコン酸化膜109上に反射防止シリコン窒化膜111を積層した。この膜厚は70nmであった。
【0035】
受光面側及び裏面側にそれぞれ銀ペーストを電極印刷し、乾燥後800℃で20分焼成を行い、受光面電極106及び裏面電極107を、実施例1と同様の方法で形成した。
実施例1の製造フローチャートを表1に、比較例1の製造フローチャートを表2に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
実施例及び比較例で得られた太陽電池を、25℃の雰囲気の中、ソーラーシミュレータ(光強度:1kW/m2,スペクトル:AM1.5グローバル)の下で電流電圧特性を測定した。結果を表3に示す。なお、表中の数字は実施例及び比較例で試作したセル10枚の平均値である。
【0039】
【表3】

【0040】
上記のように、実施例によるセレクティブエミッタを有する太陽電池は、p型高濃度拡散層濃度を保持した効果により、比較例のp型セレクティブエミッタ形成と比較して、開放電圧とフィルファクタが向上した結果となった。p型高濃度拡散層による拡散電位の向上に加えて、電極とのコンタクト抵抗が低減したことにより変換効率が向上している。これにより、p型高濃度拡散層の濃度保持において窒化膜によるマスクが有用であり、さらに少ない工程数でp型セレクティブエミッタを形成することが可能であることが分かる。なお、上記では半導体装置の一つである太陽電池について詳述したが、本発明は太陽電池だけに限定されるものでなく、面内に表面濃度の異なる拡散層を形成しなければならない、又は所望の拡散濃度を保持しなければならない他の半導体装置についても、本発明の窒化膜マスクが適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0041】
1 シリコン基板
2 p型セレクティブエミッタ層
3 p型高濃度拡散層
4 p型低濃度拡散層
5 n型拡散層
6 受光面電極
7 裏面電極
8 シリコン窒化膜
9 シリコン酸化膜
10 p型拡散層
11 反射防止シリコン窒化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板と、
前記シリコン基板の受光面側に形成され、ドーパント高濃度拡散層とこの高濃度拡散層よりもドーパント濃度が低い低濃度拡散層とを有するp型セレクティブエミッタ層と、
前記p型セレクティブエミッタ層の高濃度拡散層と電気的に接続する受光面電極と、
前記シリコン基板の裏面側に形成されたn型拡散層と、
前記n型拡散層と電気的に接続する裏面電極と、
を備える太陽電池であって、前記受光面電極直下となる高濃度拡散層がシリコン窒化膜と接し、前記低濃度拡散層がシリコン酸化膜と接することを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
p型セレクティブエミッタ層のドーパントがボロンであることを特徴とする請求項1記載の太陽電池。
【請求項3】
高濃度拡散層の表面ドーパント濃度が1.0×1018cm-3〜5.0×1020cm-3であり、低濃度拡散層の表面ドーパント濃度が1.0×1017cm-3〜1.0×1019cm-3であることを特徴とする請求項1又は2記載の太陽電池。
【請求項4】
シリコン基板がn型であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の太陽電池。
【請求項5】
シリコン基板の裏面側にn型拡散層を形成すると共に、シリコン基板の受光面側に高濃度p型拡散層を形成し、このp型拡散層の受光面電極接続位置となる領域を部分的にシリコン窒化膜でマスクした後、前記p型拡散層の酸化処理を行って、前記シリコン窒化膜形成領域に接するp型拡散層を高濃度拡散層として保持すると共に、前記酸化処理によりp型拡散層のシリコン窒化膜非形成領域にシリコン酸化膜を形成し、このシリコン酸化膜に接するp型拡散層を低濃度拡散層として形成したことを特徴とする請求項1記載の太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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