説明

太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)シートの製造方法

【課題】シート幅や厚みをほぼ保持したまま熱収を低減できるアニール処理方法を提供すること。
【解決手段】溶融したエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)をTダイ12より押し出しポリシングロール13cで冷却してシート3を成形し、入口から出口に至る領域の内少なくとも一部に加熱領域を有するダブルベルトプレス装置17を通過させ、該ダブルベルトプレス装置の前記加熱領域の下流側の領域または該ダブルベルトプレス装置を出た直後において前記シートを冷却した後巻き取ることを特徴とする太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)シートの製造方法に係り、特に、加熱時の収縮が小さく、太陽電池の封止材として好適なEVAシートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、資源の有効利用や環境汚染の防止等の面から、太陽光を直接電気エネルギーに変換する太陽電池が注目され、開発が進められている。太陽電池は、一般に、図3―1、図3−2に示すように、ガラス基板1とバックシート2との間にガラス面側封止材シート3a,バックシート面側封止材シート3bにより、太陽電池セル4を封止した構成を採っている。(以降、ガラス面側封止材シート3aおよびバックシート面側封止材シート3bを総称して、封止材シート3a,3bと呼ぶこともある)
例えば太陽電池モジュールとして主流である結晶シリコン型太陽電池の場合、図3−1に示すように、ガラス基板1、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以降、エチレン−酢酸ビニル共重合体をEVAと表すこともある)からなるガラス面側封止剤シート3a、太陽電池セル(シリコン発電素子)4、EVAからなるバックシート面側封止剤シート3b及びバックシート2の順で積層され、真空ラミネータにより積層体を真空下で加熱することによりEVAからなる封止剤シート3a,3bを加熱溶融して架橋硬化させることにより、図3−2のように、気泡なく接着された太陽電池モジュールが製造される。
【0003】
このような太陽電池モジュールの製造において、EVAからなる封止材シート3a,3bの加熱時の収縮が大きいと、その収縮変形によりシリコン発電素子4が破損する場合がある。そのため、EVAからなる封止材シート3a,3bには、加熱時の収縮が小さいことが要求される。さらに近年、結晶シリコンの資源有効活用や、太陽電池モジュール普及に向けたコストダウンの要請から、シリコン発電素子の厚さは100μm前後に薄くなってきており、ますますEVAからなる封止材シートの加熱収縮(以降、熱収と記すこともある)を小さくする要求が強くなっている。
【0004】
この太陽電池の封止材シートとして用いられるEVAシートは、溶融したEVAを直線状のスリットを有するTダイから押し出し、冷却ロールで急冷固化するTダイ法により製膜されている。その概要を図1を用いて説明する。図1はEVAシート3を連続的に成形し巻取ロール体にするシート成形装置の構成要素を示した図である。なお、この図1は主要部のみを示し、2軸押出機11やTダイ12を固定するフレームや中間ロール等は省略している。図1において、2軸押出機11で、EVAを架橋剤や他の添加剤と溶融混練し、Tダイ12でシート状に押し出し、ポリシングロール13a〜13cで冷却固化して固体シートに成形する。その際、ポリシングロール13bの表面には彫刻で凹凸パターンを形成しており、冷却固化の際に、シートに凹凸形状が転写される。この凹凸形状は太陽電池モジュールを製造する際にシリコン発電素子に接触する面に向けて積層され、加熱圧縮される工程でシリコン発電素子を割らないようクッション性を持たせる機能がある。ポリシングロール13a〜13cを出たEVAシート3は、アニール処理装置14を通過する。このアニール処理装置14で、EVAシート3が持つ熱歪みが低減される。このアニール処理装置14には、図2に示すように、遠赤外線ヒータ15を多数並べてEVAシート3を非接触で加熱する熱処理炉方式や、加熱したロール上にシートを搬送させることでシートを加熱するロール方式が知られている(例えば特許文献1、2)。このようなアニール処理装置14を経た後、インライン検査器31で異物の有無等を検査した後、シートは巻き取り機32によって巻き取られる。
【0005】
しかしながら、図2に示すような非接触のヒータによる熱処理の場合、シート3は搬送ロール16の間を搬送されるときに、シートに発生する熱収縮応力により幅方向、走行方向に縮もうとする力が働き、シートは収縮する。そのため熱処理炉の入口と出口ではシート幅が変わってしまう。また走行方向の縮みについても、搬送ロール間でシートが破れる場合もある。従来は、その収縮力を緩和するため、各搬送ロール16の速度を個別に調整し、下流に向かうほど搬送速度を遅くするようにしていた。このように熱処理プロセスで幅方向、走行方向で収縮が起きると、シート幅の調整が難しくなり、必要な製品幅が得られなくなったり、また幅方向、走行方向で収縮した分、厚みが厚くなり、Tダイ12での厚み調整も難しくなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−084996号公報
【特許文献2】特開2010−100032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの知見によると、特許文献1に記載されているような製造方法では、アニール処理プロセスの前後においてシートの収縮が生じ、シートの幅や厚みが変化してしまうため、予めその変化量を見込んで、Tダイから押し出すシートの幅や厚みを調整しなければならなかった。またその収縮や厚み変化は、幅方向で分布を持っている場合があるが、その場合はTダイにおいて、その幅方向の分布を予測して厚み分布を調整する必要があり、極めて難解な調整となってしまう。
【0008】
以上説明したように従来技術では、アニール処理での幅収縮や厚み変化を補正するTダイでの厚み分布調整が困難であった。
【0009】
上記のような従来技術の問題点に鑑み、シート幅や厚みをほぼ保持したまま熱収を低減できるアニール処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、上記のような従来技術の問題点に鑑み、シート幅の変化や厚みの変化が生じにくい熱収の低減方法を鋭意検討した結果、上記目的を達成したものである。すなわち、
(1)溶融したエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)をTダイより押し出しポリシングロールで冷却してシートを成形し、入口から出口に至る領域の内少なくとも一部に加熱領域を有するダブルベルトプレス装置を通過させ、該ダブルベルトプレス装置の前記加熱領域の下流側の領域または該ダブルベルトプレス装置を出た直後において前記シートを冷却した後巻き取ることを特徴とする太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。
(2)ダブルベルト表面が離型性処理されたダブルベルトプレス装置を用いる前記(1)に記載の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)シートの製造方法。
(3)前記ダブルベルトプレス装置が、加熱領域の下流に冷却領域を有し、前記ダブルベルトプレス装置内でシートの加熱および冷却を行う前記(1)または(2)に記載の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。
(4)前記ダブルベルトプレス装置の加熱領域の温度がエチレン−酢酸ビニル共重合体の融点の+10 ℃ 以上+30 ℃ 以下である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。
(5)前記ダブルベルトプレス装置の加熱領域の通過時間が20秒以上1分以下である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。
(6)前記ダブルベルトプレス装置を出た直後のシートの少なくとも片面にエンボス加工を行う前記(1)〜(5)のいずれかに記載の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)シートの製造方法。
(7)前記ダブルベルトプレス装置のベルト表面が粗面化加工を施されたものである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。
【0011】
一般に太陽電池モジュールの封止材には、光透過性や耐湿性に優れ、ガラスとの密着性も良く、コスト面で優れるエチレン−酢酸ビニル共重合体が主流となっている。エチレン−酢酸ビニル共重合体は、エチレンと酢酸ビニルから合成される共重合体であるが、本発明において適用されるEVAシートの主原料樹脂であるEVAとしては、酢酸ビニル(VA)含有率が20〜35質量%であることが好ましい。35質量%より大きい場合、水蒸気透過率が大きくなり、太陽電池の封止材として要求される透湿性が確保できない場合がある。また20質量%未満であると、樹脂が硬すぎるため、太陽電池モジュールの製造工程でシリコン発電素子を割ってしまう場合がある。また、本発明で用いられるEVAは、メルトフローレートが2〜50g/10分であることが好ましい。
【0012】
本発明で用いるEVAを含む樹脂組成物には、耐熱性の向上のための添加剤として架橋剤を配合して架橋構造を持たせるが、この架橋剤としては、一般に、100〜120℃以上で架橋反応を開始し始める有機過酸化物が用いられる。このような有機過酸化物としては、例えば2,5−ジメチルヘキサン;2,5−ジハイドロパーオキサイド;2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン;3−ジ−t−ブチルパーオキサイド;t−ジクミルパーオキサイド;2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン;ジクミルパーオキサイド;α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン;n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン;2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン;t−ブチルパーオキシベンゾエート;ベンゾイルパーオキサイド等を用いることができる。これらの有機過酸化物の配合量は、一般にEVA100質量部に対して5質量部以下、好ましくは0.5〜2質量部である。
【0013】
更に、EVAの架橋率を向上させ、耐熱性を向上するための添加剤としてEVAに架橋助剤を添加することができる。この目的に供される架橋助剤としては、公知のものとしてトリアリルイソシアヌレート;トリアリルイソシアネート等の3官能の架橋助剤の他、NKエステル等の単官能の架橋助剤等も挙げることができる。これらの架橋助剤の配合量は、一般にEVA100質量部に対して5質量部以下、好ましくは1〜3質量部である。
【0014】
また、太陽電池の封止膜として、ガラスや発電素子との接着力を向上させるための添加剤として、EVAにシランカップリング剤を添加することが一般的である。この目的に供されるシランカップリング剤としては公知のもの、例えばγ−クロロプロピルトリメトキシシラン;ビニルトリクロロシラン;ビニルトリエトキシシラン;ビニル−トリス−(β−メトキシエトキシ)シラン;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン;β−(3,4−エトキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン;ビニルトリアセトキシシラン;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン;N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤の配合量は、一般にEVA100質量部に対して5質量部以下、好ましくは0.1〜1質量部である。
【0015】
更に、EVAの安定性を向上させるための添加剤として、ハイドロキノン;ハイドロキノンモノメチルエーテル;p−ベンゾキノン;メチルハイドロキノンなどを添加することができ、これらの配合量は、一般にEVA100質量部に対して3質量部以下である。
【0016】
更に、必要に応じ、上記以外の添加剤として紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等を添加することができる。紫外線吸収剤には、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン;2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルフォベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系;フェニルサルシレート;p−t−ブチルフェニルサルシレート等のヒンダートアミン系がある。老化防止剤としては、アミン系;フェノール系;ビスフェニル系;ヒンダートアミン系があり、例えばジ−t−ブチル−p−クレゾール;ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペラジル)セバケート等がある。
【0017】
本発明においては、図4に示すように、かかるEVAおよび添加剤を2軸押出機11により溶融混練した後、Tダイ12より押し出し、ポリシングロール13a、13cで冷却固化してEVAシート3を成形する。この冷却固化の際に生じたEVAシート3の熱歪みを低減させるために、EVAシート3をアニール処理した後に、インライン検査器31で異物の有無等を検査した後、巻取機にてロール体に巻き取る。このアニール処理には、EVAシート3を一旦融点以上まで加熱した後、EVAシート3を高温状態に一定時間以上保つことで、EVAシート3内のEVAの分子配向が緩和され、熱歪みが低減する効果がある。
【0018】
本発明においてTダイ法とは、溶融した樹脂を平板状のダイから押し出してフラットなシートやフィルムを成形する方法を言う。平板状のダイは、押し出したいシート幅に従い幅広の形状となるため、押出機に取り付けるとT型となることから、総称してTダイと呼ばれる。
【0019】
本発明においてポリシングロール13とは、Tダイ12から押し出されたシート状の溶融樹脂を一対のロールで挟持加圧してシートの厚みと表面性の賦形を同時に行うための、複数のロールにより構成されたシート搬送装置のことである。構成される各ロールは、溶融樹脂の冷却や賦形性に適した温度に調整される機構や、各ロール間の間隙および加圧圧力を調整できる機構を備える。
【0020】
本発明において、ダブルベルトプレス装置とは、図5に示すように、上下一対の金属ベルト18a,18bの間に樹脂シートを挟み、シートの各搬送位置でベルトの温度や圧力を適宜調整しながらシートを搬送することで、シートを加圧、加熱(場合により、同装置内で冷却も)することで、シートを加熱処理・成形する装置のことを指す。2つのベルトでEVAシートを拘束しながらシートを加熱することにより、シート加熱時の熱収縮による平面方向変形、およびそれに伴う厚み方向の変形を抑え、寸法精度を維持しまたまま、EVAシート3をアニール処理することが可能となる。
【0021】
本発明においてはシートの熱歪みを低減するために、前記ダブルベルトプレス装置のシートの入口から出口に至る領域の内少なくとも一部にシートを適切な温度まで加熱するための、加熱領域を有する必要がある。この加熱は、前記金属ベルトとシートとの接触部にて接触熱伝達によりシートを加熱することが効率がよく、金属ベルトを加熱する方式により目的の機能が達成される。金属ベルトの加熱には、金属ベルトを搬送するロールを媒体等で加熱する方法、ヒータを近接させて輻射熱で加熱する方法、電磁誘導の原理により加熱する方法が挙げられるがいずれでも良い。また本発明において、加熱領域の温度とは、前記加熱領域でシートが最も高温となる温度のことを指す。さらに加熱領域の通過時間とは、前記ダブルベルトプレス装置内でEVAシート搬送される間に、EVAの融点の+10℃以上となる時間のことを指す。また前記加熱領域よりも下流で、ダブルベルトプレス装置の出口までの領域で、シート温度が前記加熱領域での温度よりも下がるように、冷却する領域があることがより望ましい。なおこの冷却では、ダブルベルトプレス装置の出口から出たシートが、自重等によりたわみ変形を起こさないように、EVAの融点+10℃以下にシート温度を低減させる機能があればよい。また、EVAシートが高温状態のまま巻き取ると、巻き取ったシートロールの層間でブロッキングが起きる恐れがあるため、ダブルベルトプレス装置の出口から巻取装置までの領域で、シートを融点−30℃以下になるように冷却するための冷却ロール21を有することが望ましい。
【0022】
本発明において、ダブルベルト表面を離型性処理するとは、ダブルベルトプレス装置の出口において、EVAシートがベルトから容易に剥離され、次の工程にスムーズに搬送させるために、ベルト表面に、離型性の良い材料であるフッ素系樹脂シリコーン系樹脂をコーティング加工したり、また硬度の高いセラミック系材料などでベルト表面に溶射加工を施すことをいう。
【0023】
また本発明におけるエンボス加工とは、ダブルベルトプレス装置より下流において、搬送ロールとEVAシートが粘着したり、巻き取りロール体でEVAシート同士がブロッキングしないように、EVAシートと搬送ロールとの間の接触面積、およびEVAシート同士の接触面積ができるだけ小さくなるように、EVAシート表面に凹凸の形状を付与する加工のことをいう。
【0024】
また本発明における粗面化加工とは、EVAシート表面に凹凸の形状を転写するために、ダブルベルト装置のベルト表面に凹凸の形状を付与しておく加工のことを指す。なおこの粗面化加工の方法には、サンドブラスト、エッチング、彫刻、などが例示できるが、所定の表面粗さに加工できる方法であれば、特に限定するものではない。
【0025】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記シート表面の面粗さRzが3〜20μmであり、凹凸がまんべんなく分布しているシートが好ましい。
【0026】
以上説明したように、加熱処理をダブルベルトプレス装置により行なう場合、連続方式にて加熱処理が可能となり、またシートの走行方向( 長手方向) の加熱の連続性や、加熱面全体の温度の均一性が好適なものになる。前記ダブルベルトプレス装置が1台のベルトプレス機内で加熱と冷却とを連続して行なう場合、ベルトプレス装置の下流側のシートの走行安定性が高まり、寸法精度や膜厚精度が向上する。しかも、加熱後に圧力をかけながら冷却するため、分子鎖の配向状態を維持させ易く、より確実に熱収を低減させることができる。
【0027】
さらに、前記ダブルベルトプレス装置の加熱温度がEVAの融点の+10 ℃ 以上+30 ℃ 以下であり、前記冷却温度が融点+10 ℃ 以下である場合、加熱時に適切な樹脂粘度状態でシート内の応力を緩和させることができ、しかも冷却時に適切な樹脂粘度状態でシートを装置から搬出することができるため、寸法精度のよい低熱収のEVAシートをより確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、シート幅や厚みをほぼ保持したまま熱収を低減できるアニール処理方法を提供することができ、熱収の低いシートを再現性のよい生産プロセスで製造でき、調整ロスを短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来の太陽電池封止材用EVAシートの製造方法の一例を示した概略模式図である。
【図2】従来の太陽電池封止材用EVAシートの製造方法の一例を示した概略模式図である。
【図3−1】太陽電池モジュールの部材構成を示した概略模式図である。
【図3−2】太陽電池モジュールの部材構成を示した概略模式図である。
【図4】本発明の太陽電池封止材用EVAシートの製造方法の一例を示した概略模式図である。
【図5】本発明の太陽電池封止材用EVAシートの製造方法に用いるダブルベルトプレス装置の一例を示した概略模式図である。
【図6】本発明の太陽電池封止材用EVAシートの製造方法の一例を示した概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)シートの製造方法を図面を参照しながら説明する。
【0031】
図4は、本発明の製造方法の一実施態様を示すシート製膜装置の概略図である。なお図4は主要部のみを示し、構造物を固定するフレームや搬送ロールの一部は省略してある。なお、従来例と同一または同等の機能を有する構成要素には同一番号を付け、詳細な説明を省略する。
図4に示すシート製膜装置には、高温下でEVAと添加剤を溶かし混練する2軸押出機11、混練された溶融樹脂をシート状に押し出すTダイ12、押し出された高温のシートを冷却固化して固体シートに成形するポリシングロール13a、13cが設けられている。こうして成形されたEVAシート3が、ダブルベルトプレス装置17に送られ、予め加熱されたベルト18により再加熱されたままダブルベルトプレス装置17に挟持されながら搬送される。EVAシート3は、ダブルベルトプレス装置17を出た直後に冷却ロール21により適温まで冷却された後、後工程に送られる。
【0032】
さらにダブルベルトプレス装置部17でのEVAシート3の加熱処理について詳しく説明すると、加熱処理には、EVAシートを均一に加熱処理を行なうことのできるベルトプレスタイプを用いることが好ましい。ここでいうベルトプレスタイプとは、ベルト間にシートを挟み圧着する構造を有するものを意味する。このようなベルトプレスタイプは、ベルトを駆動ドラム19、20にて一定の速度で移動できるために連続した加熱処理が可能となる。加熱処理に用いられるダブルベルトプレス装置17は、前記構造を有するものであれば特に限定されないが、たとえば、加圧にプレスをもちいた液圧式ダブルベルトプレス機、加圧ロールを用いたロール式ダブルベルトプレス機、ベルト把持型ベルトプレス機、ロートキュアー等を用いる事ができるが、ギャップ調整の融通性からロール式ダブルベルトプレス機が好ましい。
【0033】
本発明では、前記加熱処理後のEVAシートの80℃における熱収を20%以下とすることを特徴とし、特に熱収0〜15% が好ましい。この熱収が20%を超えると、太陽電池モジュール製造時に、特に120μm以下の薄型太陽電池セルを扱う場合において、EVAシートの収縮変形によって太陽電池セルの位置をずらしたり、また太陽電池セルを割ってしまう場合がある。
【0034】
また、ダブルベルトプレス装置が1台のダブルベルトプレス装置機内で加熱と冷却とを連続して行なうものであることが好ましい。さらに、加熱圧延時の際の温度は、好ましくはEVAの融点+10 ℃ 以上かつ+30℃以下の温度、より好ましくは、EVAの融点+15℃以上かつ+25℃ 以下の温度である。熱歪みの緩和を促進させるにはEVAの融点+10 ℃以上の温度が好ましく、またプレス状態でもシートの厚みや幅寸法を維持するためにEVAの融点+30 ℃以下の温度が好ましい。なお、本明細書において、EVAの融点とは、DSC測定における昇温過程での吸熱ピーク値温度を言う。
【0035】
冷却の際の温度は、好ましくはEVAの融点+10℃以下、より好ましくは前記融点以下かつ前記融点−30℃以上である。即ち、シートの拘束状態を保持して、加熱処理した後のEVAシートを、張力による変形を抑制しながら、シートの下流工程に搬送するためには上記温度条件が好ましい。
【0036】
さらに好ましくは、最上流加熱ドラム19と、最下流冷却ドラム20との間のロールにも、段階的に温度を変えるための温度調整機構を設けることもできる。例えば最上流ドラムと最下流ドラムの間に、ベルトの内側からベルトを押す加圧ロールを設け、その加圧ロールの温度を調整する方法が例として挙げられる。図5にその一例の装置概略図を示すが、ベルトの内側に加圧ローラ22a、22bを設け、加圧用エアシリンダ23の圧力を調整することにより、加圧ローラ22aを押す力、ベルト18aと18bの接触面同士にかかる圧力を調整することができる。さらにこれらの加圧ローラ22a、22bには温度調整用の媒体循環構造等によりローラ温度が調整可能な構造であることが好ましい。この温度調整構造により、各位置におけるベルト18a、18bの温度を調整し、EVAシート3の温度を適宜調整することが可能になる。加圧ロールの組み数は、特に限定されないが、通常、10〜30個程度であることが好ましい。また、加圧ロールの噛み込み角度は0°にしてギャップを一定にすることが好ましい。なお、ここで言う噛み込み角度とは、EVAシートの進行水平方向に対するベルト面の角度を意味し、該ベルト面とはEVAシートが狭持される領域を示す。
【0037】
また、ダブルベルトプレス装置17によりシートが加熱される時間は、シートが融点+10℃以上に維持される時間が20秒以上であることが好ましい。EVAシートは融点以上になると軟化し始めるが、発明者らの知見によると、さらに融点+10℃以上の温度領域において熱歪みが緩和し易くなる。ダブルベルトプレス装置の加熱時間の目安としては、加熱された上下ベルトの両方に接触する位置から剥離する位置まで、すなわち最上流側ドラムの中心軸から最下流側ドラムの中心軸までの距離をシートが搬送される時間が20秒以上かつ1分以下あることが好ましい。20秒未満であると、EVAシート内の熱歪みが十分緩和されないままシートが冷却されることになり、熱歪みが残ってしまう場合がある。また1分以上にすると熱収は十分低減できるが、ベルトの長さがその分長くなり、設備が高価なものとなってしまう。
【0038】
また、ベルト18a、18bの表面には、高温で粘着性のあるEVAシート3がベルト18a、18bから容易に剥離され、次の工程にスムーズに搬送させるために、ベルト表面に、離型性がよく、耐熱性のある材料であるフッ素系樹脂やシリコーン系樹脂をコーティング加工したり、また硬度の高いセラミック系材料などを溶射加工することにより、離型性を向上させる処理を施していることが好ましい。特にフッ素系樹脂やシリコーン系樹脂は、ベルト表面への塗布加工により、比較的安価に離型性処理を実現できるので、より好ましい。
【0039】
また、シートと接触するベルト表面は、粗面化処理を施した方がよい。EVAシートは特に高温では粘着性があるため、シートを接触搬送するガイドロールと密着して剥がれにくくなったり、巻取ロール体に巻き取った際に、シート同士でブロッキングする場合がある。そのため、EVAシートの少なくとも片面には凹凸を設けるエンボス加工を施し、接触するものとの接触面積をできるだけ小さくすることが好ましい。EVAシートはダブルベルトプレス装置で加熱処理される際に軟化し、ベルト表面形状を転写するため、ベルト表面は、Rzで1〜30μmの範囲で粗面化処理しておくことが好ましい。特にRzが10〜30μmであれば、太陽電池モジュール製造時に太陽電池セルに接触する際のクッション性を向上させることができるため、より好ましい。ただ、Rz=10μm以上の粗面化は、一般的なサンドブラスト処理等では困難となるため、クッション性を意図的に設計する意味でも、彫刻加工をベルト表面に施すことが好ましい。さらにこの粗面化処理を上下のベルト表面ともに処理しておくことにより、搬送ロールとの接触面がシートの上下面いずれになった場合でも剥離性を向上させることができるので好ましい。
【0040】
また、EVAシートのエンボス加工処理は、ダブルベルトプレス装置の直後に処理してもよい。図6にその方法の一例の概略図を示すが、ダブルベルトプレス装置で加熱処理されたシートが、高温のまま搬送され、エンボス処理ローラ24およびエンボス処理対向ローラ25にニップされることにより、エンボス処理ローラ24の表面形状がEVAシート3に転写される。その後、冷却ロール21を通過することによりEVAシート3が冷却された後、巻き取り機に搬送される。
【0041】
さらに、太陽電池モジュールに加工する際に太陽電池セルと接触するシート面に、比較的深い凹凸処理が加工できるように、シート表面により深いエンボス処理を施すことが、セルのズレや割れの問題を起きにくくする目的でさらに好ましい。そのために、ダブルベルトプレス装置のベルト18aまたは18b、あるいはエンボス処理ローラ24の表面にに彫刻加工等によりRz=10μm以上の深い凹凸形状を形成しておくことが好ましい。なお、本発明の場合はダブルベルトプレス装置17以降ででEVAシート3にエンボス処理するので、背景技術および図1で説明したような高価な彫刻加工を施したポリシングロール13bは必要なく、鏡面処理または軽度の梨地処理を施したポリシングロール13cが使用可能である。
【0042】
以上のように説明した本発明のダブルベルトプレス装置による加熱処理方法を用いて、EVAシートを製造することにより、熱収が低くかつ寸法精度のよいEVAシートを製造することができる。またこうして製造したEVAシートを結晶型太陽電池モジュールの製造に適用することにより、セルのズレや割れが置きにくく歩留まりのよい太陽電池製造工程とすることができる。
【実施例】
【0043】
本実施例で用いた測定法を下記に示す。
(1)シートの厚み
成形したEVAシートを、下記測定器にて幅方向20点の厚みを測定し、平均厚み、最大厚み、最小厚みを求めた。
測定器:ミツトヨ社製 シックネスゲージ(547−301型)
(2)熱収(加熱収縮性)
得られたEVAシートから一辺が120mmの平面正方形状の試験片を切り出した。この試験片上に二本の互いに平行な直線を製造時の走行方向(以降MD方向と略記する)に100mmの間隔を存して描いた。
【0044】
次に、試験片を80℃に加熱した温水内に浸漬させ60秒経過してから、EVAシートを温水から取り出し、シート表面の水分を取り除いた。
試験片上に描いた二本の直線間の間隔A(mm)をノギスで5点測定し、下記式に基づいて加熱収縮率を算出し、平均値を求めた。
【0045】
熱収(%)=100×(100−A)/100
(実施例1)
図4に概略を示した製造装置を用いてEVAシートAを製造した。なおダブルベルトプレス装置17の概略構造は図5と同じものである。具体的には、EVA(酢酸ビニル含有量:28質量%、メルトフローレイト:15g/10分、融点:71℃)100質量部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート(1時間半減期温度:119℃)0.5質量部、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.1質量部及び2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン0.3質量部からなる樹脂組成物を2軸押出機11に供給して100℃にて溶融混練し、2軸押出機11に接続され且つ105℃に保持されたTダイ12からEVAシートを押出した。なおTダイのリップ幅は1300mm、リップ間隙は1.0mmである。
【0046】
このEVAシートを20℃に保持されたポリシングロール13a、13cによって冷却固化した。なお、EVAシートがTダイから吐出された時点のシート温度は107℃であった。またこのときのシート幅は1150mm、シート搬送速度は10m/分であった。
【0047】
次に、ダブルベルトプレス装置17にEVAシート3を搬送し、2つのベルト18a、18bでシートを挟むようにシート3を供給した。ダブルベルトプレス装置17の主な構成は下記の通りである。
(1)ダブルベルト
・材質、厚み:ステンレス製、1mm
・幅:1500mm
・表面粗さ(Rz10点平均粗さ):上ベルト 12μm、下ベルト 6μm
(2)駆動ドラム
・直径、面長:直径500mm、面長1600mm
・ドラム中心軸間距離:5.5m
(3)加圧ローラ
・直径、面長:直径100mm、面長1600mm
・配列ピッチ:200mm
・各ローラ押付力:1kN
このダブルベルトプレス装置17は、最上流側の駆動ドラム19および各加圧ローラ22a、22bを100℃に温度調節し、また最下流側の駆動ドラム20は60℃に温度調節した。このとき、各駆動ドラム上を搬送しているステンレスベルト18表面の温度は、上流側ドラム上で94℃、下流側ドラム上で67℃であった。
【0048】
こうしてEVAシート3をダブルベルトプレス装置17を通して加熱処理したシートを冷却ロール部21で冷却して巻き取った。巻き取った直後のシート温度は28℃であった。こうして得られたEVAシートの厚みは平均値0.52mm、最大値0.54mm、最小値0.50mmであった。またシートのMD方向の熱収は、11%であった。
(比較例1)
図4において、ポリシングロール13から搬送されたシートを、ダブルベルトプレス装置17を通過せず巻き取ったこと以外は実施例1と同様にしてEVAシートを巻き取った。巻き取った直後のシート温度は25℃であった。こうして得られたEVAシートの厚みは平均値0.55mm、最大値0.56mm、最小値0.54mmであった。またシートのMD方向の熱収は、60%であった。
(比較例2)
図3において、ポリシングロール13から搬送されたシートを、遠赤外線ヒータを用いたアニール処理装置14を通過させて巻き取ったこと以外は実施例1と同様にしてEVAシートを得た。なおこのときの、アニール装置内を通過するシートの温度は最大85℃で、アニール装置14内をEVAシート3が30秒間通過する条件とした。
こうしてEVAシート3をアニール処理装置14を通して加熱処理したシートを冷却ロール部21で冷却して巻き取った。巻き取った直後のシート温度は33℃であった。こうして得られたEVAシートの厚みは平均値0.59mm、最大値0.67mm、最小値0.52mmであった。またシート幅は、アニール処理前は実施例1と同じ1150mmであったが、アニール処理後に1020mmまで収縮していた。またシートのMD方向の熱収は、28%であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)シートの製造方法に非常に好適であるが、他のシート、フィルム等のウェブのアニール処理などにも応用でき、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0050】
1 ガラス基板
2 バックシート
3 EVAシート
3a ガラス面側封止材シート
3b バックシート面側封止剤シート
4 太陽電池セル
5 アルミフレーム
6 配線ボックス
11 2軸押出機
12 Tダイ
13a ポリシングロール(表面に彫刻加工なし)
13b ポリシングロール(表面に彫刻加工あり)
13c ポリシングロール(表面に彫刻加工なし)
14 アニール処理装置
15 遠赤外線ヒータ
16 搬送ローラ
17 ダブルベルトプレス装置
18 スチールベルト
18a 上側スチールベルト
18b 下側ブレーキベルト
19 上流側駆動ドラム
20 下流側駆動ドラム
21 冷却ローラ
22 加圧ローラ
22a 上側加圧ローラ
22b 下側加圧ローラ
23 加圧用シリンダ
24 エンボス処理ローラ
25 エンボス処理対向ローラ
31 インライン検査器
32 巻取機
33 ギヤポンプ
34 シート搬送方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融したエチレン−酢酸ビニル共重合体をTダイより押し出しポリシングロールで冷却してシートを成形し、入口から出口に至る領域の内少なくとも一部に加熱領域を有するダブルベルトプレス装置を通過させ、該ダブルベルトプレス装置の前記加熱領域の下流側の領域または該ダブルベルトプレス装置を出た後において前記シートを冷却した後巻き取ることを特徴とする太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。
【請求項2】
ダブルベルト表面が離型性処理されたダブルベルトプレス装置を用いる請求項1に記載の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。
【請求項3】
前記ダブルベルトプレス装置が、加熱領域の下流に冷却領域を有し、前記ダブルベルトプレス装置内でシートの加熱および冷却を行う請求項1または2に記載の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。
【請求項4】
前記ダブルベルトプレス装置の加熱領域の温度がエチレン−酢酸ビニル共重合体の融点の+10 ℃ 以上+30 ℃ 以下である請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。
【請求項5】
前記ダブルベルトプレス装置の加熱領域の通過時間が20秒以上1分以下である請求項1〜4のいずれかに記載の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。
【請求項6】
前記ダブルベルトプレス装置を出た直後のシートの少なくとも片面にエンボス加工を行う請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。
【請求項7】
前記ダブルベルトプレス装置のベルト表面が粗面化加工を施されたものである請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池封止材用エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−71502(P2012−71502A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218498(P2010−218498)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】