説明

太陽電池用透明電極膜およびそれを用いた太陽電池

【課題】耐湿熱性に優れ、可視光領域だけでなく近赤外線領域においても透過性に優れ、しかも低抵抗値を有する希少金属を使用しない安価な酸化物透明電極膜からなる太陽電池用透明電極膜、およびそれを設けた太陽電池を提供することである。
【解決手段】
本発明の太陽電池用透明電極膜は、酸化亜鉛にドーパントとして低原子価金属酸化物をドープした酸化物透明電極膜からなる。該酸化物透明電極膜は、酸化亜鉛を主成分とし、低原子価金属酸化物をドープしたターゲットまたはタブレットを用いて、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD法)またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法にて成膜されたものであり、低原子価金属酸化物が、低原子価金属と亜鉛との原子数比で0.02〜0.1の割合となるようにドープされ、そして酸化物透明導電膜の比抵抗が2.0×10-3Ω・cm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低抵抗で、可視域から近赤外域の透過率の高く、耐湿熱性に優れた酸化物透明電極膜からなる太陽電池用透明電極膜と、それを用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物透明電極膜は、高い導電性と可視光領域での高い透過率とを有する。このため、酸化物透明電極膜は太陽電池、液晶表示素子、その他各種受光素子等の電極として利用されている。特に、低抵抗で、透過率の高い酸化物透明電極膜を形成できるスパッタリングターゲット、イオンプレーティングタブレット等を用いて形成される酸化物透明電極膜は、太陽光エネルギーを十分利用することができ、太陽電池に好適である。
【0003】
酸化物透明電極膜には、アンチモンやフッ素がドーピングされた酸化錫(SnO2)膜、アルミニウムやガリウムがドーピングされた酸化亜鉛(ZnO)膜、錫などがドーピングされた酸化インジウム(In23)膜などが広範に利用されている。特に錫がドーピングされた酸化インジウム膜、すなわちIn23:Sn膜はITO(Indium Tin Oxide)膜と称され、低抵抗の膜が容易に得られることから良く用いられている。
【0004】
これらの膜は、キャリア電子濃度の高い酸化物透明電極膜であり、近赤外域の波長での反射吸収特性に優れているため、自動車窓ガラスや建築物の窓ガラス等に用いる熱線反射膜や、各種の帯電防止膜、冷凍ショーケースなどの防曇用の透明発熱体としても利用されている。
【0005】
上記の酸化物透明電極膜の製造方法としては、スパッタリング法や蒸着法、イオンプレーティング法、透明導電層形成用塗液を塗布する方法が良く用いられている。特に、スパッタリング法やイオンプレーティング法は、蒸気圧の低い材料を用いて被成膜物質(以下、単に「基板」と示す。)上に膜を形成する場合や、精密な膜厚制御が必要とされる際に有効な手法であり、操作が非常に簡便であることから広範に利用されている。
【0006】
ここで、太陽電池はp型とn型の半導体を積層したものであり、半導体の種類によって大別される。もっとも多く使用されている太陽電池は、安全で資源量の豊富なシリコンを用いたものである。
シリコンを用いた太陽電池の中には、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池の3種類がある。
また、化合物薄膜系太陽電池とよばれるCuInSe2、GaAs、CdTe、Cu2ZnSnSe4などの化合物半導体の薄膜を用いた太陽電池も開発が行われている(特許文献1〜3参照)
【0007】
何れのタイプの太陽電池でも、太陽光が入射する側の電極には酸化物透明電極膜が不可欠であり、従来、ITO膜や、アルミニウムやガリウムがドーピングされた酸化亜鉛(ZnO)膜が利用されてきた。
【0008】
次に、上記の化合物薄膜系太陽電池について詳説する。
化合物薄膜を用いた太陽電池は、通常は広いバンドギャップを持つ化合物半導体薄膜(n型半導体の中間層)と、狭いバンドギャップを持つ化合物薄膜(p型半導体の光吸収層)のヘテロ接合とで構成されている。
中間層としてn型半導体を、吸収層としてp型半導体を用いるのは、太陽電池の中間層に適した広いバンドギャップ(>2.4eV)を持つp型半導体薄膜があまり存在しないことや少数キャリアの拡散長が電子のほうが長いからである。
【0009】
光吸収層のp型半導体としては、CuInSe2、CuInS2、CuGaSe2、CuGaS2およびこれらの固溶体やCdTeが利用可能である。より高いエネルギー変換効率を得るために必要とされる条件は、より多くの光電流を得るための光学的な最適設計と、界面または特に吸収層においてキャリアの再結合のない高品質なヘテロ接合および薄膜を作ることである。
高品質なヘテロ界面は、中間層と吸収層の組合せと関係が深く、CdS/CdTe系やCdS/CuInSe2系、CdS/Cu(In,Ga)Se2系などにおいて有用なヘテロ接合が得られている。
【0010】
また、太陽電池の高効率化の試みとして、より広いバンドギャップをもつ半導体、たとえば、中間層の半導体薄膜としてCdZnS等の試みによって、太陽光の短波長光の感度向上がはかられている。
さらに、CdSや(Cd,Zn)Sの入射光側には、それらの薄膜よりバンドギャップの大きな半導体、たとえば、ZnOや(Zn,Mg)O薄膜などを窓層として配することにより、再現性の高い高性能な太陽電池が提案されている。
【0011】
太陽光が入射する側の電極として利用されている酸化物透明電極膜としては、従来、ITO膜や、アルミニウムやガリウムがドーピングされた酸化亜鉛(ZnO)膜が利用されている。
ここで、用いられる酸化物透明電極膜に要求される特性には、低抵抗であることと、太陽光の透過率が高いことがある。
【0012】
太陽光のスペクトルは、350nmの紫外線から2500nmの赤外線までを含み、これらの光エネルギーを有効に電気エネルギーに変換できるよう、なるべく広い波長範囲の光を透過できる酸化物透明電極膜が必要とされる。
【0013】
一般に、物質に光が入射すると、一部は反射され、残りの一部は物質内に吸収され、さらにその残りが透過される。
In23系やZnO系の透明導電材料はn型半導体であり、キャリア電子が存在して、その移動が電気伝導に寄与する。このような酸化物透明電極膜中のキャリア電子は赤外線を反射したり吸収したりする。
膜中のキャリア電子濃度が多くなると赤外線の反射と吸収は多くなる(非特許文献1参照)。つまり、キャリア電子濃度が高くなると赤外線の透過を低下させる。赤外線の透過を低下させないためのキャリア電子濃度は5.5×1020cm-3以下、好ましくは4.0×1020cm-3以下である。
【0014】
従来用いられていたITO膜やアルミニウムやガリウムがドープされた酸化亜鉛(ZnO)膜は、キャリア電子濃度が1×1021cm-3以上であるから、低抵抗であるが、1000nm以上の波長を有する赤外線を吸収したり反射したりして、ほとんど通さない。
【0015】
また、一般に、物質の比抵抗ρは、キャリア電子濃度nとキャリア電子の移動度μの積に依存する(1/ρ=enμ、e:電荷素量)。赤外線のような長波長における透過率を上げるためにキャリア電子濃度を少なくするのであれば、比抵抗ρを小さくするために移動度μを大きくする必要がある。
【0016】
従来材料の低抵抗の酸化物電極膜におけるキャリア電子の移動度は、例えばITO膜では約20〜30cm2/Vsecである。
酸化インジウム(In23)系などのn型半導体のキャリア電子の移動度は、主に、イオン化不純物散乱や中性不純物散乱などに支配されていると言われている(不純物は、イオンの状態で含まれる不純物をイオン化不純物、周囲に余分な酸素が吸着して中性の状態で含まれる不純物を中性不純物と呼んでいる)。キャリア電子を増大させるために添加する不純物元素の量が多くなると、キャリア電子は、散乱され、その移動度は低下する。
ITOのような材料でも酸素欠損を少なくするような成膜、つまり、スパッタ時に酸素の導入量を増やすことによって、キャリア電子を少なくして赤外線透過率を上げることが可能である。
しかし、この方法では中性不純物が増大してしまい、それによる移動度の著しい低下が生じ、電気抵抗率が上がってしまう。
【0017】
また、特許文献4によれば、チタンを添加した酸化インジウム膜の比抵抗が5.7×10-4Ω・cm以下の低抵抗であり、キャリア電子濃度が5.5×1020cm-3以下であり、移動度が40cm2/Vsec以上であり、1000nm以上の波長を有する近赤外線が、膜に吸収されたり反射されたりすることなく、膜を通過する。
しかし、この膜は酸化インジウムを主成分とし、該酸化インジウムの結晶相中のインジウムを、チタン/インジウム原子数比で0.003〜0.120の割合でチタンに置換しており、ほとんどが希少金属であるインジウムを用いており、資源問題のおそれもあり、コストが高くなってしまっている。
【0018】
それ以外にも酸化インジウムを主成分とし、近赤外領域の高透過性を実現するものがある。(特許文献5〜10参照)
また、フラットパネルディスプレイ、タッチパネル等に適用される通常の透明導電膜は、基本的に屋内等で使用される。それに対して、太陽電池に適用される透明導電膜は当然のことながら屋外、直射日光が照射されるような屋外の過酷な環境において使用される。そのため、太陽電池に適用される透明導電膜には、通常のフラットパネルディスプレイ、タッチパネル等に適用される通常の透明導電膜と比較して、特にさらに厳しい条件での耐湿熱性が求められる。
なお、通常の透明導電膜の耐湿熱性は、温度60℃、相対湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持して劣化を促進させた透明導電膜が所定条件を満たすものであるかどうかで判断されるが、太陽電池に適用される透明導電膜の耐湿熱性では、温度85℃、相対湿度85%RHの雰囲気中で1000時間保持して劣化を促進させた透明導電膜が同様の所定の条件を満たすものであるかどうかで判断される(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平5−218479号公報
【特許文献2】特開平9−55526号公報
【特許文献3】特開平11−145493号公報
【特許文献4】特開2010−153386号公報
【特許文献5】特開昭59−204625号公報
【特許文献6】特開平9−209134号公報
【特許文献7】特開平9−161542号公報
【特許文献8】特開平6−349338号公報
【特許文献9】特開平7−54132号公報
【特許文献10】特開2004−43851号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】透明導電膜の技術、日本学術振興会編、オーム社、p.55〜57
【非特許文献2】JISハンドブック22−2 電子II-2 [オプトエレクトロニクス](C8917(附属書10 耐熱性(高温保存)試験B−1))、p.1216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記ITO膜や酸化インジウムを主成分としチタン等のドーパントを添加した酸化インジウム系やアルミやガリウムをドーパントした酸化亜鉛(ZnO)系は、(i)低抵抗で可視光領域での透過率が高いが、近赤外領域での透過率が低い、(ii)低抵抗で可視光領域での透過率も近赤外領域の透過率も高いが、希少金属のインジウムを主成分として用いる必要があるため、資源問題を抱えており、極めてコスト高になってしまう、(iii)太陽電池に適用される透明導電膜は屋外の過酷な環境において使用されるが、促進試験であるこのような過酷な環境よりもさらに厳しい条件では、充分な耐湿熱性を有さないという大きな3つの問題点があった。
【0022】
これらの問題により、これらの膜を光入射側に用いた太陽電池は近赤外領域の太陽光エネルギーを十分利用することができなかった。
酸化物透明電極膜による赤外線の反射や吸収はキャリア電子濃度が大きいほど大きくなるから、これらのITO膜や酸化亜鉛(ZnO)膜で近赤外領域での透過率が低いのは、低抵抗の裏返しとしてキャリア電子濃度が高いためと考えられる。
【0023】
本発明は、上記課題を克服することを目的に提案された材料を使用するものであり、前提条件として、インジウムのような希少金属(レアメタル)を一切用いないため極めて安価であり、可視光領域だけでなく近赤外線領域においても透過性に優れ、しかも低抵抗値を有し、耐湿熱性に優れた酸化物透明電極膜を提供することを目的としている。これまでそのような材料はまったく存在していない。
また、本発明における酸化物透明電極膜を太陽電池に用いることによって、従来では不可能であった近赤外線領域の太陽光エネルギーの高効率利用を可能にする。
【0024】
すなわち、本発明の課題は、可視光領域だけでなく近赤外線領域においても透過性に優れ、しかも低抵抗値を有する希少金属を使用しない安価な酸化物透明電極膜からなる太陽電池用透明電極膜、およびそれを備えた太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者は、上記問題を解決すべく種々検討した結果、酸化亜鉛を主成分とし、低原子価金属酸化物を含有したターゲットまたはタブレットを用いて、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法(PLD法)またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法にて成膜された酸化物透明導電膜であって、酸化亜鉛に低原子価金属が、低原子価金属/亜鉛の原子数比で0.02〜0.1の割合で置換され、酸化物透明電極膜の比抵抗が2.0×10-3Ω・cm以下である酸化物透明電極膜は、近赤外領域の透過性に優れて、当該透明導電膜を太陽電池の透明導電膜に適用した時に変換効率が向上するという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0026】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)酸化亜鉛にドーパントとして低原子価金属酸化物をドープした酸化物透明電極膜からなる、ことを特徴とする太陽電池用透明電極膜。
(2)前記酸化物透明電極膜が、酸化亜鉛を主成分とし、低原子価金属酸化物をドープしたターゲットまたはタブレットを用いて、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD法)またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法にて成膜された酸化物透明導電膜であり、低原子価金属酸化物が、低原子価金属と亜鉛との原子数比が0.02〜0.1の割合となるようにドープされ、そして酸化物透明導電膜の比抵抗が2.0×10-3Ω・cm以下であることを特徴とする、前記(1)に記載の太陽電池用透明電極膜。
(3)低原子価金属酸化物が、低原子価酸化チタン、低原子価酸化ニオブ、低原子価酸化タンタルおよび低原子価酸化モリブデンから選ばれることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の太陽電池用透明電極膜。
(4)低原子価酸化チタンが、一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)で表されることを特徴とする、前記(3)に記載の太陽電池用透明電極膜。
(5)低原子価酸化チタンが、TiO(II)、Ti23(III)、Ti35、Ti47、Ti611、Ti59およびTi815から選ばれることを特徴とする、前記(3)または(4)に記載の太陽電池用透明電極膜。
(6)低原子価酸化ニオブが、NbO(II)、Nb23(III)およびNbO2(IV)から選ばれることを特徴とする、前記(3)に記載の太陽電池用透明電極膜。
(7)低原子価酸化タンタルが、TaO2(IV)およびTa23(III)から選ばれることを特徴とする、前記(3)に記載の太陽電池用透明電極膜。
(8)低原子価酸化モリブデンが、MoO2(IV)およびMo23(III)から選ばれることを特徴とする、前記(3)に記載の太陽電池用透明電極膜。
(9)前記太陽電池用透明電極膜の波長780〜1500nmにおける平均光透過率が85%以上であることを特徴とする、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の太陽電池用透明電極膜。
(10)前記太陽電池用透明電極膜の波長780〜1500nmにおける平均光透過率が80%以上であり、表面抵抗が20Ω/□以下であり、耐湿熱性試験(85℃、85%RH 1000時間)後のシート抵抗値が、当該耐湿熱性試験前のシート抵抗値に対して1.5倍以内であることを特徴とする、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の太陽電池用透明電極膜。
(11)電極層を設けた基板または電極性を備えた金属基板上に、p型半導体の光吸収層、n型半導体の中間層、半導体の窓層、およびn型の透明電極層をこの順で順次積層した構造を有する太陽電池において、前記透明電極層が、前記(1)〜(10)のいずれかに記載の太陽電池用透明電極膜であることを特徴とする太陽電池。
(12)透明性基板上に、透明電極層、半導体の窓層、n型の半導体の中間層、p型の半導体の光吸収層、および金属電極をこの順で順次積層した構造を有する太陽電池において、前記透明電極層が、前記(1)〜(10)のいずれかに記載の太陽電池用透明電極膜であることを特徴とする太陽電池。
(13)前記光吸収層が、CuInSe2、CuInS2、CuGaSe2、CuGaS2、およびこれらの固溶体、およびCdTeから選ばれる少なくとも一つである前記(11)または(12)に記載の太陽電池。
(14)光吸収層が、CuZnS2、CuSnS2、CuZnSe2、CuSnSe2およびこれらの固溶体、およびCdTeから選ばれる少なくとも一つである前記(11)〜(13)のいずれかに記載の太陽電池。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、可視光領域だけでなく近赤外線領域の透過性、および耐湿熱性に優れ、しかも低抵抗値を有し、希少金属を一切有さず、資源問題がなく安価な酸化物透明電極膜からなる太陽電池用透明電極膜、および該太陽電池用透明電極膜を備えた太陽電池を提供することができ、産業上極めて有用な発明といえる。
本発明における酸化物透明電極膜からなる太陽電池用透明電極膜を各種の太陽電池の光入射側の透明電極に用いることによって、従来不可能であった近赤外線領域の太陽光エネルギーを高効率に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】波長190nm〜2500nmの範囲における酸化物透明電極膜の直線透過率(%)を示すグラフである。
【図2】本発明の一実施形態に係る太陽電池の層構成を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態に係る太陽電池は、電極層を設けた基板または電極性を備えた金属基板上に、p型半導体の光吸収層、n型半導体の中間層、半導体の窓層、およびn型の透明電極層を順次積層した構造を有する。
本発明の他の実施形態に係る太陽電池は、透明性基板上に透明電極層、半導体の窓層、n型の半導体の中間層、p型の半導体の光吸収層、および金属電極を順次積層した構造を有する。
いずれの太陽電池においても、透明電極層は、後述する酸化物透明電極膜からなるものである。
【0030】
本発明の太陽電池を構成する各層の材質は、単結晶シリコン、多結晶シリコン、またはアモルファスシリコンを用いたシリコン系太陽電池;CuInSe2、Cu(Ga,In)Se2、GaAs、CdTeなどの化合物半導体を用いた太陽電池;色素増感型太陽電池などに用いられる材質を用いればよい。
【0031】
光吸収層の材質は、特に限定されないが、例えば、CuInSe2、CuInS2、CuGaSe2、CuGaS2およびこれらの固溶体、およびCdTeから選ばれるのが好ましい。あるいは、光吸収層の材質がCuZnS2、CuSnS2、CuZnSe2、CuSnSe2およびこれらの固溶体から選ばれるものであってもよい。特に後者の材質からなる光吸収層は、インジウムやガリウム等のレアメタルを使用しない次世代の太陽電池への適用が期待されている。
【0032】
本発明に係る酸化物透明電極膜は、酸化亜鉛に、ドーパントとして低原子価金属酸化物をドープした酸化物透明電極膜からなる。該膜は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD)法またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法にて成膜することができる。
【0033】
例えば、スパッタリング法では、原料であるスパッタリングターゲットとして低原子価金属酸化物をドーパントの原料として用いた酸化亜鉛系酸化物焼結体ターゲットを用い、スパッタリング装置内に基板と前記ターゲットを配置し、酸素ガスを含むアルゴン不活性ガス雰囲気中で、前記基板を所定の温度で加熱し、この基板と前記ターゲットとの間に電界を印加してターゲット基板間にプラズマを発生させることによって、酸化亜鉛の亜鉛の一部を低原子価金属で置換した酸化物透明電極膜を基板上に作製することができる。
【0034】
一方、イオンプレーティング法では、原料であるイオンプレーティング用タブレットとして、低原子価金属を含む酸化亜鉛系酸化物焼結体タブレットを用い、イオンプレーティング装置内に基板と、前記タブレットを銅ハース内に配置し、酸素ガスを含むアルゴン不活性ガス雰囲気中で、前記基板を所定の温度で加熱し、前記銅ハースから電子銃を用いてタブレットを蒸発させ、基板付近でプラズマを発生させることによって、タブレット蒸気をイオン化し、酸化亜鉛の亜鉛の一部を低原子価金属で置換した酸化物透明電極膜を基板上に作製することができる。
【0035】
なお、上記ターゲットまたはタブレット中の低原子価金属の含有量を変えることにより、膜中の低原子価金属の含有量を変化させることができる。この時、作製される酸化物透明電極膜の構造や結晶性は、膜中の低原子価金属の含有量、基板加熱温度、不活性ガス雰囲気中の酸素分圧、成膜速度等の成膜条件に依存する。
【0036】
このような方法は一例であるが、こうして、酸化亜鉛を主成分として低原子価金属酸化物を含有する酸化物透明電極膜、すなわち本発明における酸化物透明電極膜を得ることができる。
【0037】
本発明における低原子価金属酸化物をドーパントの原料として用いたターゲットまたはタブレットは、実質的に亜鉛と、低原子価金属を含む酸化物焼結体である。
ここで、「実質的」とは、酸化物焼結体を構成する全原子の99%以上が亜鉛、低原子価金属および酸素からなることを意味する。
【0038】
酸化物焼結体においては、低原子価金属の原子数が全金属原子数に対して2%以上10%以下の割合で含有されることが好ましく、さらに好ましくは、低原子価金属の原子数が全金属原子数に対して3%以上9%以下となる割合、より好ましくは3%以上6%以下となる割合で含有される。この低原子価金属の原子数の割合が2%未満となると、この酸化物焼結体をターゲットとして形成された膜の耐薬品性などの化学的耐久性が不充分となるおそれがある。一方、低原子価金属の原子数の割合が10%を超えると、低原子価金属が亜鉛サイトに十分置換固溶できなくなり、この酸化物焼結体をターゲットとして形成された膜の導電性や透明性が不充分となるおそれがある。
ここで、全金属原子数とは、酸化物焼結体を作製するために用いる原料粉末に含まれる全金属原子数であり、全金属原子数の約90〜98%を亜鉛が占める。そのため、ターゲットまたはタブレットにおいて、酸化亜鉛が主成分となる。低原子価金属は単成分である必要なく、低原子価金属の複数成分であっても構わない。
【0039】
酸化物焼結体は、原子数比でX/(Zn+X)の値が0.02以上0.1以下(式中、Xは、チタン、ニオブ、タンタルおよびモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種を示す)である、すなわち実質的に低原子価金属酸化物の結晶相を含有しない。原子数比でX/(Zn+X)の値が0.02未満である酸化物焼結体では、通常、低原子価金属が酸化亜鉛に完全に反応するため、酸化物焼結体中に低原子価金属酸化物の結晶相は生成されず、原子数比でX/(Zn+X)の値が0.1を超える酸化物焼結体では、一般に、低原子価金属が酸化亜鉛へ反応しきれないため、酸化物焼結体中に低原子価金属酸化物が生じやすくなる。しかし、酸化物焼結体に低原子価金属酸化物の結晶相が含まれていると、得られる膜が、比抵抗などの物性にムラがあり均一性に欠けるものとなるおそれがあるため、酸化物焼結体では、X/(Zn+X)の値を上記範囲内とするのが好ましく、実質的に低原子価金属酸化物の結晶相を含有しない。
ここで、低原子価金属酸化物の結晶相としては、例えば、酸化チタンの結晶相、酸化ニオブの結晶相、酸化タンタルの結晶相、酸化モリブデン結晶相などが挙げられる。
【0040】
酸化チタンの結晶相とは、具体的には、Ti23、TiOのほか、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含むものとする。
酸化ニオブの結晶相とは、具体的には、Nb25、NbO2、Nb23,NbOのほか、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含むものとする。
酸化タンタルの結晶相とは、具体的には、Ta25、TaO2、Ta23、TaOのほか、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含むものとする。
酸化モリブデンの結晶相とは、具体的には、MoO3、MoO2、Mo23のほか、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含むものとする。
【0041】
酸化物焼結体は、ニオブ源として、原子価が2価、3価または4価である低原子価ニオブ元素を、タンタル源として、原子価が2価、3価または4価である低原子価タンタル元素を用い、チタン源としては各種原子価であればよく、モリブデン源として、原子価が3価または4価の低原子価モリブデン元素を用い、例えば、これらの低原子価金属の酸化物粉末を酸化亜鉛粉末と混合しプレス成形されるのが好ましい。
低原子価金属酸化物は、低原子価酸化チタン、低原子価酸化ニオブ、低原子価酸化タンタルおよび低原子価酸化モリブデンから選ばれる少なくとも1つであるのが好ましい。
【0042】
具体的には、低原子価酸化チタンとは、TiO(II)、Ti23(III)のように、原子価が2価または3価の整数であるチタン元素の酸化物だけでなく、Ti35、Ti47、Ti611、Ti59、Ti815等をも含む一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)で表される新規な低原子価酸化チタンをいう。この低原子価酸化チタンの粉末は、前記一般式で表される酸化チタンの1種を単独で用いてもよく、または2種以上の混合物を用いてもよい。なかでも、特にTi23(III)の粉末を用いるのが好ましい。これは、Ti23のイオン半径が0.67Åであり、亜鉛のイオン半径が0.74Åであるため、亜鉛のイオン半径と極めて近く固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。
【0043】
前記一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタンは、単成分を作製するのは難しく、混合物として得られる。通常、酸化チタン(TiO2)を水素雰囲気等の還元雰囲気にて、還元剤としてカーボン等を用いて、加熱することにより作製することができる。水素濃度、還元剤としてカーボン量、加熱温度を調製することにより、低原子価酸化チタンの混合物の割合を制御することができる。
【0044】
低原子価酸化ニオブとしては、例えば、酸化ニオブ(II)、酸化ニオブ(III)、酸化ニオブ(IV)などが挙げられ、それぞれ単独で用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
低原子価タンタルとしては、例えば、酸化タンタル(II)、酸化タンタル(III)、酸化タンタル(IV)などが挙げられ、それぞれ単独で用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
低原子価酸化モリブデンとしては、例えば、酸化モリブデン(III)、酸化モリブデン(IV)などが挙げられ、それぞれ単独で用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、前記低原子価酸化金属の構造は、X線回折装置(X−Ray Diffraction、 XRD)、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectroscopy、 XPS)などの機器分析によって確認することができる。
【0045】
以上のような酸化物焼結体は、後述する酸化亜鉛系酸化物焼結体の製造方法によって好ましく得られるが、該製造方法により得られたものに限定されるわけではない。通常、酸化物焼結体を還元雰囲気にて焼結した場合は、酸素欠損の導入により、得られる酸化物焼結体の比抵抗は低くなり、酸化雰囲気にて焼結した場合は、比抵抗は高くなる。
【0046】
酸化物焼結体は、酸化物焼結体の相対密度が93%以上、好ましくは95〜100%であるのがよい。ここで、相対密度とは、酸化物焼結体の密度を理論密度で除し、100を掛けたものと定義する。相対密度が93%未満であると、焼結体の特徴である、成膜速度が速い、安定な成膜が可能という特徴を損なわれるおそれがある。
【0047】
(酸化亜鉛系酸化物焼結体の製造方法)
酸化亜鉛系酸化物焼結体の製造方法は、下記(A)および(B)のうち少なくとも1種を含む原料粉末を成形した後、得られた成形体を焼結することにより、上述した本発明における酸化物焼結体を得る方法である。
(A)低原子価金属酸化物粉と、酸化亜鉛粉もしくは水酸化亜鉛粉(以下、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉を「酸化亜鉛粉(水酸化亜鉛粉)」という場合がある)との混合粉
(B)亜鉛と低原子価金属酸化物化合物粉(低原子価金属酸化物と酸化亜鉛が固相反応によって生成する複合酸化物粉)
前記原料粉末の具体例としては、前記した低原子価金属酸化物粉と酸化亜鉛粉(水酸化亜鉛粉)との混合粉か、または亜鉛と低原子価金属酸化物化合物粉を含むものであればよい。
【0048】
低原子価金属酸化物粉は、低原子価酸化チタン粉、低原子価酸化ニオブ粉、低原子価酸化タンタル粉および低原子価酸化モリブデン粉から選ばれる少なくとも1つである。
前記低原子価酸化モリブデン粉としては、MoO2、Mo23等の粉末を用いることができ、特に、Mo23の粉末を用いるのが好ましい。なぜなら、Mo23のイオン半径が0.69Åであり、亜鉛のイオン半径が0.74Åである。亜鉛のイオン半径と極めて近く固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。
前記低原子価酸化ニオブ粉としては、例えば、NbO2、NbO、Nb23等の粉末を用いることができ、特に、Nb23の粉末を用いるのが好ましい。なぜなら、Nb23のイオン半径は0.72Åであり、亜鉛のイオン半径は0.74Åであるので、亜鉛のイオン半径と極めて近く固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。
前記低原子価酸化タンタル粉としては、例えば、TaO2、TaO、Ta23等の粉末を用いることができ、特に、Ta23の粉末を用いるのが好ましい。なぜなら、Ta23のイオン半径が0.72Åであり、亜鉛のイオン半径が0.74Åであり、亜鉛のイオン半径と極めて近く固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。
前記低原子価酸化チタン粉とは、TiO(II)、Ti23(III)のように、原子価が2価または3価の整数であるチタン元素の酸化物だけでなく、Ti35、Ti47、Ti611、Ti59、Ti815等をも含む一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)で表される新規な低原子価酸化チタンの粉末をいう。この低原子価酸化チタンの粉末は、前記一般式で表される酸化チタンの1種を単独で用いてもよく、または2種以上の混合物を用いてもよい。なかでも、特にTi23(III)の粉末を用いるのが好ましい。これは、Ti23のイオン半径が0.67Åであり、亜鉛のイオン半径が0.74Åであるため、亜鉛のイオン半径と極めて近く固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。
前記酸化亜鉛粉としては、通常、ウルツ鉱構造のZnO等の粉末が用いられ、さらにこのZnOを予め還元雰囲気で焼成して酸素欠損を含有させたものを用いてもよい。
前記水酸化亜鉛粉としては、アモルファスもしくは結晶構造のいずれであってもよい。
【0049】
低原子価金属酸化物化合物粉(低原子価金属酸化物と酸化亜鉛が固相反応によって生成する複合酸化物粉)の具体例としては、ニオブ酸亜鉛化合物粉、タンタル酸亜鉛化合物粉、モリブデン酸亜鉛化合物粉などが挙げられる。
前記ニオブ酸亜鉛化合物粉としては、例えば、Zn3Nb28、ZnNb26、Zn4Nb29等の粉末を用いることができ、特に、Zn3Nb28の粉末を用いるのが好ましい。
前記タンタル酸亜鉛化合物粉としては、例えば、ZnTa26、Zn3Ta28、Zn4Ta29等の粉末を用いることができ、特に、Zn3Ta28の粉末を用いるのが好ましい。
前記モリブデン酸亜鉛化合物粉(酸化亜鉛と低原子価酸化モリブデンとの固相反応による複合酸化物)としては、例えば、ZnMoO4、Zn2Mo38、Zn3Mo29、ZnMo27、ZnMoO3、ZnMoO4、Zn3Mo38、ZnMo810、ZnMoO3等の粉末を用いることができ、特に、ZnMoO3の粉末を用いるのが好ましい。
原料粉末として各々用いる化合物(粉)の平均粒径は、それぞれ1μm以下であることが好ましい。
【0050】
酸化物焼結体が酸化亜鉛と酸化モリブデンとを含む場合、すなわち前記原料粉末として酸化モリブデン粉と酸化亜鉛粉(水酸化亜鉛粉)との混合粉を用いる場合もしくは酸化モリブデン粉と酸化亜鉛粉(水酸化亜鉛粉)とモリブデン酸亜鉛化合物粉との混合粉を用いる場合の各粉の混合割合は、各々用いる化合物(粉)の種類に応じて、最終的に得られる酸化物焼結体において原子数比で上記X/(Zn+X)の値、すなわちMo/(Zn+Mo)の値が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。その際、亜鉛はモリブデンに比べて蒸気圧が高く焼結した際に揮散しやすいことを考慮して、所望する酸化物焼結体の目的組成(ZnとMoとの原子数比)よりも、予め亜鉛の量が多くなるように混合割合を設定しておくことが好ましい。
【0051】
酸化物焼結体が酸化亜鉛と酸化ニオブと酸化タンタルとを含む場合、すなわち前記原料粉末が、酸化ニオブ粉および酸化タンタル粉と酸化亜鉛粉(水酸化亜鉛粉)とからなる原料粉末である場合、もしくは酸化ニオブ粉および/または酸化タンタル粉と、酸化亜鉛粉(水酸化亜鉛粉)と、ニオブ酸亜鉛化合物粉および/またはタンタル酸亜鉛化合物粉とからなる原料粉末である場合(酸化ニオブ粉と酸化亜鉛粉(水酸化亜鉛粉)とニオブ酸亜鉛化合物粉とからなる原料粉末である場合、および酸化タンタル粉と酸化亜鉛粉(水酸化亜鉛粉)とタンタル酸亜鉛化合物粉とからなる原料粉末である場合を除く)の各原料粉末の混合割合は、各々用いる化合物(粉)の種類に応じて、最終的に得られる酸化物焼結体において原子数比で上記X/(Zn+X)の値、すなわち(Nb+Ta)/(Zn+Nb+Ta)の値が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。その際、亜鉛はニオブに比べて蒸気圧が高く焼結した際に揮散しやすいことを考慮して、所望する酸化物焼結体の目的組成(ZnとNbおよびTaとの原子数比)よりも、予め亜鉛の量が多くなるように混合割合を設定しておくことが好ましい。
【0052】
本発明では、酸化ニオブおよび酸化タンタルとして、低原子価ニオブおよび低原子価タンタルの酸化物を用いるものであるから、大気雰囲気中でのアニール処理を施すと、いずれも酸化されて主原子価(ニオブは5価、タンタルは5価)になってしまう。そのため、不活性雰囲気、還元雰囲気で焼結されるのが好ましい(大気雰囲気焼結その後、還元アニールも含める)。具体的には、亜鉛の揮散のしやすさは、焼結する際の雰囲気によって異なり、例えば、酸化亜鉛粉を用いた場合、大気雰囲気や酸化雰囲気では酸化亜鉛粉自体の揮散しか起こらないが、不活性雰囲気、還元雰囲気で焼結すると、酸化亜鉛が還元されて、酸化亜鉛よりもさらに揮散しやすい金属亜鉛となるので、亜鉛の消失量が増すことになる(ただし、後述のように、一旦焼結した後、還元雰囲気中でアニール処理を施す場合には、アニール処理を施す時点で既に複合酸化物となっているので、亜鉛が揮散しにくい)。したがって、目的組成に対してどの程度亜鉛の量を増やしておくかについては、焼結の雰囲気などを考慮して設定すればよく、例えば、大気雰囲気や酸化雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.0〜1.05倍程度、不活性雰囲気、還元雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.1〜1.3倍程度とすればよい。なお、原料粉末として各々用いる化合物(粉)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0053】
本発明では、酸化モリブデンとして低原子価酸化モリブデンの酸化物を用いるものであるから、大気雰囲気中でのアニールでは、酸化されて主原子価(6価)になってしまう。そのため、不活性雰囲気、還元雰囲気で焼結されるのが好ましい(大気雰囲気焼結その後、還元アニールも含める)。具体的には、亜鉛の揮散のしやすさは、焼結する際の雰囲気によって異なり、例えば、酸化亜鉛粉を用いた場合、大気雰囲気や酸化雰囲気では酸化亜鉛粉自体の揮散しか起こらないが、不活性雰囲気、還元雰囲気で焼結すると、酸化亜鉛が還元されて、酸化亜鉛よりもさらに揮散しやすい金属亜鉛となるので、亜鉛の消失量が増すことになる(ただし、後述のように、一旦焼結した後、還元雰囲気中でアニール処理を施す場合には、アニール処理を施す時点で既に複合酸化物となっているので、亜鉛が揮散しにくい)。したがって、目的組成に対してどの程度亜鉛の量を増やしておくかについては、焼結の雰囲気などを考慮して設定すればよく、例えば、大気雰囲気や酸化雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.0〜1.05倍程度、不活性雰囲気、還元雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.1〜1.3倍程度とすればよい。なお、原料粉末として各々用いる化合物(粉)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0054】
前記原料粉末として酸化チタン粉と、酸化亜鉛粉(水酸化亜鉛粉)との混合粉を用いる場合、もしくは酸化チタン粉と酸化亜鉛粉(水酸化亜鉛粉)とチタン酸亜鉛化合物粉との混合粉を用いる場合の各粉の混合割合は、各々用いる化合物(粉)の種類に応じて、最終的に得られる酸化物焼結体において原子数比で上記X/(Zn+X)の値、すなわちTi/(Zn+Ti)の値が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。その際、亜鉛はチタンに比べて蒸気圧が高く焼結した際に揮散しやすいことを考慮して、所望する酸化物焼結体の目的組成(ZnとTiとの原子数比)よりも、予め亜鉛の量が多くなるように混合割合を設定しておくことが好ましい。具体的には、亜鉛の揮散のしやすさは、焼結する際の雰囲気によって異なり、例えば、酸化亜鉛粉を用いた場合、大気雰囲気や酸化雰囲気では酸化亜鉛粉自体の揮散しか起こらないが、還元雰囲気で焼結すると、酸化亜鉛が還元されて、酸化亜鉛よりもさらに揮散しやすい金属亜鉛となるので、亜鉛の消失量が増すことになるのである(ただし、後述のように、一旦焼結した後、還元雰囲気中でアニール処理を施す場合には、アニール処理を施す時点で既に複合酸化物となっているので、亜鉛が揮散しにくい)。したがって、目的組成に対してどの程度亜鉛の量を増やしておくかについては、焼結の雰囲気などを考慮して設定すればよく、例えば、大気雰囲気や酸化雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.0〜1.05倍程度、還元雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.1〜1.3倍程度とすればよい。なお、原料粉末として各々用いる化合物(粉)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0055】
本発明では、酸化チタンは低原子価酸化チタンの酸化物を用いるものであるから、大気雰囲気中でのアニールでは、酸化されて主原子価(4価)になってしまう。そのため、不活性雰囲気、還元雰囲気で焼結されるのが好ましい(大気雰囲気焼結その後、還元アニールも含める)。具体的には、亜鉛の揮散のしやすさは、焼結する際の雰囲気によって異なり、例えば、酸化亜鉛粉を用いた場合、大気雰囲気や酸化雰囲気では酸化亜鉛粉自体の揮散しか起こらないが、不活性雰囲気、還元雰囲気で焼結すると、酸化亜鉛が還元されて、酸化亜鉛よりもさらに揮散しやすい金属亜鉛となるので、亜鉛の消失量が増すことになる(ただし、後述のように、一旦焼結した後、還元雰囲気中でアニール処理を施す場合には、アニール処理を施す時点で既に複合酸化物となっているので、亜鉛が揮散しにくい)。したがって、目的組成に対してどの程度亜鉛の量を増やしておくかについては、焼結の雰囲気などを考慮して設定すればよく、例えば、大気雰囲気や酸化雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.0〜1.05倍程度、不活性雰囲気、還元雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.1〜1.3倍程度とすればよい。なお、原料粉末として各々用いる化合物(粉)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0056】
前記原料粉末は成形される前に、粉砕処理が施されてもよい。粉砕処理が施されることで、原料粉末は幅の狭い粒度分布に整えられ、後述する焼結において、均一に固相焼結させることができ、密度の高い酸化物焼結体を得ることができる。
粉砕処理する方法としては、特に限定されず、例えば、メディアを使用する場合、ビーズミル、ボールミル、遊星ミル、サンドグラインダー、振動ミルまたはアトライター等の装置を備えた粉砕機による方法、メディアを使用しないジェットミル、ナノマイザー、スターバースト等の湿式超高圧微粒化装置などが挙げられる。
【0057】
前記原料粉末を成形する際の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、原料粉末と水系溶媒とを混合し、得られたスラリーを充分に湿式混合により混合した後、固液分離・乾燥・造粒し、得られた造粒物を成形すればよい。湿式混合は、例えば、硬質ZrO2ボール等を用いた湿式ボールミルや振動ミルにより行なえばよく、湿式ボールミルや振動ミルを用いた場合の混合時間は、12〜78時間程度が好ましい。なお、原料粉末をそのまま乾式混合してもよいが、湿式混合の方がより好ましい。固液分離・乾燥・造粒については、それぞれ公知の方法を採用すればよい。
得られた造粒物を成形する際には、例えば、造粒物を型枠に入れ、冷間プレスや冷間静水圧プレスなどの冷間成形機を用いて1ton/cm2以上の圧力をかけて成形することができる。このとき、ホットプレスなどを用いて熱間で成形を行うと、製造コストの面で不利となるとともに、大型焼結体が得にくくなる。
なお、成形体として造粒物を得る際には、乾燥後、公知の方法で造粒すればよいのであるが、その場合、原料粉末とともにバインダーも混合することが好ましい。バインダーとして、例えば、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル等を用いることができる。
【0058】
得られた成形体の焼結は、大気雰囲気、不活性雰囲気、還元雰囲気(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、真空、水素等)および酸化雰囲気(大気よりも酸素濃度が高い雰囲気)のいずれかの雰囲気中、600〜1500℃で行なう。そして、大気雰囲気または酸化雰囲気中で焼結した場合には、その後さらに還元雰囲気中でアニール処理を施すようにする。この大気雰囲気中または酸化雰囲気中で焼結した後に施す還元雰囲気中でのアニール処理は、酸化物焼結体に酸素欠損を生じさせ、比抵抗を低下させるために行なうものである。したがって、大気雰囲気中または還元雰囲気中で焼結した際にも、さらなる比抵抗の低下を所望する場合には、焼結後、前記アニール処理を施すのが好ましいことは言うまでもない。
【0059】
いずれの雰囲気中で焼結する際も、焼結温度は600〜1500℃、好ましくは1000〜1300℃とする。焼結温度が600℃未満であると、焼結が充分に進行しないので、ターゲット密度が低くなり、一方、1500℃を超えると、酸化亜鉛自体が分解して消失してしまうこととなる。なお、成形体を前記焼結温度まで昇温する際には、昇温速度を、1000℃までは5〜10℃/分とし、1000℃を超え1500℃までは1〜4℃/分とすることが、焼結密度を均一にするうえで好ましい。
【0060】
いずれの雰囲気中で焼結する際も、焼結時間(すなわち、焼結温度での保持時間)は、3〜15時間とすることが好ましい。焼結時間が3時間未満であると、焼結密度が不充分となりやすく、得られる酸化物焼結体の強度が低下する傾向があり、一方、15時間を超えると、焼結体の結晶粒成長が著しくなるとともに、空孔の粗大化、ひいては最大空孔径の増大化を招く傾向があり、その結果、焼結密度が低下するおそれがある。
【0061】
焼結を行なう際の方法は、特に制限されるものではなく、常圧焼成法、ホットプレス法、熱間等方圧加圧法(HIP法)、冷間等方圧加圧法(CIP法)、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法等を採用することができる。
前記アニール処理を施す際の還元雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、真空および水素からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる雰囲気が挙げられる。前記アニール処理の方法としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、水素などの非酸化性ガスを導入しながら常圧で加熱する方法や、真空(好ましくは、2Pa以下)下で加熱する方法等により行うことができるが、製造コストの観点からは、前者の常圧で行う方法が有利である。
【0062】
前記アニール処理を施すに際し、アニール温度(加熱温度)は、1000〜1400℃とするのが好ましく、より好ましくは1100〜1300℃とするのがよい。アニール時間(加熱時間)は、7〜15時間とするのが好ましく、より好ましくは8〜12時間とするのがよい。アニール温度が1000℃未満であると、アニール処理による酸素欠損の導入が不充分になるおそれがあり、一方、1400℃を超えると、亜鉛が揮散しやすくなり、得られる酸化物焼結体の組成(Znと金属との原子数比)が所望の比率と異なってしまうおそれがある。
【0063】
前記アニール処理を施す際の不活性雰囲気、還元雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、真空および水素からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる雰囲気が挙げられる。前記アニール処理の方法としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、水素などの非酸化性ガスを導入しながら常圧で加熱する方法や、真空(好ましくは、2Pa以下)下で加熱する方法等により行うことができるが、製造コストの観点からは、前者の常圧で行う方法が有利である。
【0064】
(ターゲット)
本発明におけるターゲットは、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法による成膜に用いられるターゲットである。なお、このような成膜の際に用いる固形材料のことを「タブレット」と称する場合もあるが、本発明においてはこれらを含め「ターゲット」と称することとする。
【0065】
本発明におけるターゲットは、上述した酸化亜鉛系酸化物焼結体を加工してなる。
加工方法は、特に制限されず、適宜公知の方法を採用すればよい。例えば、酸化亜鉛系酸化物焼結体に平面研削等を施した後、所定の寸法に切断してから、支持台に貼着することにより、本発明におけるターゲットを得ることができる。また、必要に応じて、複数枚の酸化物焼結体を分割形状にならべて、大面積のターゲット(複合ターゲット)としてもよい。
【0066】
本発明における酸化物透明電極膜の形成方法は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法により成膜を行うものであるが、その際の具体的手法や条件などについては、上述したターゲットを用いること以外、特に制限はなく、公知のスパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法の手法や条件を適宜採用すればよい。
【0067】
以上のようにして、本発明の太陽電池に用いる酸化物透明電極膜、すなわち本発明の太陽電池用透明電極膜が形成される。
本発明における酸化物透明電極膜の膜厚は、用途に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、好ましくは50〜600nm、より好ましくは100〜500nmである。50nm未満であると、充分な比抵抗が確保できないおそれがあり、一方、600nmを超えると膜に着色が生じてしまうおそれがある。
上記特性を有する膜は、近赤外領域での透過率が極めて高く、低抵抗であるため太陽電池の透明電極として有用である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
なお、得られた透明導電性基板の評価は以下の方法で行なった。
【0069】
<比抵抗>
比抵抗は、抵抗率計(三菱化学(株)製「LORESTA−GP、MCP−T610」)を用いて、四端子四探針法により測定した。詳しくは、サンプルに4本の針状の電極を直線上に置き、外側の二探針間に一定の電流を流し、内側の二探針間に一定電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定し、抵抗を求めた。
<表面抵抗>
表面抵抗(Ω/□)は、比抵抗(Ω・cm)を膜厚(cm)で除することにより算出した。
<透過率>
透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製「V−670」)を用いて測定した。
<耐湿熱性>
透明導電性基板を、温度85℃、相対湿度85%RHの雰囲気中に1000時間保持する耐湿熱性試験に付した後、表面抵抗(シート抵抗)を測定した。耐湿熱性試験後の表面抵抗が、耐湿熱性試験前の表面抵抗の1.5倍以下であると、耐湿熱性に優れると言える。
【0070】
(実施例1)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および酸化チタン粉末(TiO(II);(株)高純度化学研究所製、純度99.99%)を原料粉末とし、これらをZn:Tiの原子数比が97:3となる割合で混合し、原料粉末の混合物を得た。
次いで、得られた混合物を金型に入れ、一軸プレスにより成形圧500kg/cm2にて成形し、直径30mm、厚さ5mmの円盤状の成形体を得た。この成形体を常圧(101325Pa)のアルゴン雰囲気下、1000℃で4時間アニールして、酸化物焼結体(1)を得た。
得られた酸化物焼結体(1)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)であった。この酸化物焼結体(1)の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とチタン酸亜鉛(Zn2TiO4)の結晶相の混合物であり、酸化チタンは全く存在していなかった。
【0071】
次に、得られた酸化物焼結体(1)を20mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜した透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板;コーニング社製の無アルカリガラス「1737」、厚さ0.7mm)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
【0072】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は4.2×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は8.4Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均89%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。波長190nm〜2500nmの範囲における透明導電性基板の直線透過率(%)を図1に示す。
図1から明らかなように、可視光領域だけでなく近赤外線領域(780nm〜1500nm)における光透過率は非常に高かった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿熱製試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.45倍であり、耐湿熱性に優れることがわかった。
【0073】
よって、このような酸化物透明電極膜を、例えば図2に示すような太陽電池の受光部側の酸化物透明電極膜(5)に用いると、耐湿熱性にも優れ赤外線領域の太陽エネルギーを有効に電気エネルギーに変換することができる。
【0074】
(比較例1)
平均粒径が1μmの酸化亜鉛粉末97.7重量部と、平均粒径が0.2μmの酸化アルミニウム粉末2.3重量部とを、ポリエチレン製ポットに入れ、乾式ボールミルを用いて72時間混合し、原料粉末の混合物を得た。得られた混合物を金型に入れ、成形圧300kg/cm2の圧力でプレスを行い、成形体を得た。この成形体に3ton/cm2の圧力でCIPによる緻密化処理を施した後、以下の条件で焼結して、アルミニウムドープ酸化亜鉛の酸化物焼結体(C1)を得た。
焼結温度 :1500℃
昇温速度 :50℃/時間
保持時間 :5時間
焼結雰囲気 :大気中
【0075】
得られた酸化物焼結体(C1)は、X線回折で分析したところ、ZnOとZnAl24との2相の混合組織であった。
【0076】
次に、得られた酸化物焼結体(C1)を4インチφ、6mmtの形状に加工し、インジウム半田を用いて無酸素銅製バッキングプレートにボンディングすることにより、ターゲットを作製した。
そして、このターゲットを用いて、以下の条件でスパッタリング法による成膜を行い、透明基材(石英ガラス基板)上に膜厚500nmの透明導電膜を形成し、透明導電性基板を得た。形成した膜中のAl含有量は2.3重量%であった。
装置:dcマグネトロンスパッタ装置
磁界強度:1000Gauss(ターゲット直上、水平成分)
基板温度:200℃
到達真空度:5×10-5Pa
スパッタリングガス:Ar
スパッタリングガス圧:0.5Pa
DCパワー:300W
【0077】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は4.1×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は8.2Ω/□であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均72%であった。波長190nm〜2500nmの範囲における透明導電性基板の直線透過率(%)を図1に示す。
図1から明らかなように、可視光領域の透過率は高いが、近赤外線領域(780nm〜1500nm)における光透過率は低かった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿熱製試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の5.84倍であり、耐湿熱性に劣ることがわかった。
【0078】
よって、このような酸化物透明電極膜を、例えば図2に示すような太陽電池の受光部側の酸化物透明電極膜(5)に用いると、耐湿熱性も劣り、赤外線領域の太陽エネルギーを有効に電気エネルギーに変換することができない。
【0079】
(比較例2)
実施例1と同様の透明基板(コーニング社製の無アルカリガラス「1737」、厚さ0.7mm)上に、通常のスパッタリング法により以下の成膜条件で、膜厚100nmとなるように、ITO膜を形成した。
(スパッタリング成膜条件)
装置:DCマグネトロンスパッタ装置
磁界強度:1000Gauss(ターゲット直上、水平成分)
基板温度:200℃
スパッタリングガス:Ar、O2
スパッタリングガス圧:0.5Pa
酸素分圧:0.0〜3.0%
DCパワー:100W
【0080】
得られたITO膜の比抵抗は、2.0×10-4Ω・cmであり、シート抵抗は20Ω/□であった。
得られたITO膜付き基板の透過率について、波長190nm〜2500nmの範囲における直線透過率(%)を図1に示す。
図1に示すように、ITO膜付き基板では、可視領域(波長400〜780nm)における透過率については優れているが、近赤外領域(780nm〜1500nm)の透過率は平均72%程度であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿熱製試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.38倍であり、耐湿熱性に優れることがわかった。
よって、このような酸化物透明電極膜を、耐湿熱性は優れるが、例えば図2に示すような太陽電池の受光部側の酸化物透明電極膜(5)に用いると、赤外線領域の太陽エネルギーを有効に電気エネルギーに変換することができない。
【0081】
(実施例2)
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図2は本発明の一実施形態に係る太陽電池を示す略示断面図である。
ガラス基板(6)上に直流マグネトロンスパッタ法で、実施例1の酸化物透明電極膜(5)を、実施例1と同じ成膜条件で500nm程度の厚さに形成した。
その上に、直流マグネトロンスパッタ法で、ZnOターゲットを使用し、スパッタガスとしてArを用い、窓層(4)としてZnO薄膜を膜厚150nm程度の厚さに形成した。
その上に、ヘテロpn接合を形成するため、半導体の中間層(3)としてCdS薄膜を溶液析出法で、CdI2、NH4Cl2、NH3、チオ尿素の混合溶液を用いて、50nm程度の厚さに形成した。
その上に、p型半導体の光吸収層(2)としてCuInGaSe2薄膜を真空蒸着法で2〜3μmの厚さに形成した。
その上に、裏側金属電極層(1)としてAu膜を真空蒸着法で1μm程度の厚さに形成した。
【0082】
この太陽電池のAM1.5(100mW/cm2)の照射光を酸化物透明電極膜側から照射して特性を調べたところ、太陽電池の耐湿熱性も向上し、酸化物透明電極膜(5)の近赤外領域の透過性が優れるため、変換効率が極めて高いことがわかった。
【0083】
(比較例3)
酸化物透明電極膜に比較例1のAZO膜を用いた以外は実施例2と同様の条件、手順で、図2の構造の太陽電池を作製し、同様の条件で太陽電池の特性を調べたところ、太陽電池の耐湿熱性も劣り、変換効率は本発明の実施例2の太陽電池と較べて極めて低かった。
【0084】
(比較例4)
酸化物透明電極膜に比較例2のITO膜を用いた以外は実施例2と同様の条件、手順で、図2の構造の太陽電池を作製し、同様の条件で特性を調べたところ、変換効率は低く、本発明の実施例2の太陽電池と較べて極めて低かった。
【0085】
実施例2及び比較例3,4は、光吸収層にCuInSe2薄膜を用いた太陽電池の例を示したが、光吸収層にCuInS2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2、Cu(In,Ga)(S,Se)2、CdTeの薄膜を用いても同じ結果であり、本発明における酸化物透明電極膜を用いた方が、従来の酸化物透明電極膜を用いた場合よりも、明らかに高い変換効率の太陽電池を製造できることがわかった。
【0086】
以上のように、本実施例で得られた太陽電池の特性は、従来の構成で得られる太陽電池の特性よりはるかに優れていることが確認できた。このことは、本発明における酸化物透明電極膜が、耐湿熱性も優れ、可視光だけでなく近赤外線の透過率も高いため、太陽光エネルギーを高効率に電気エネルギーに変換できたからであると考えられる。
【符号の説明】
【0087】
1 裏側金属電極層
2 光吸収層
3 半導体の中間層
4 窓層
5 酸化物透明電極膜
6 ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛にドーパントとして低原子価金属酸化物をドープした酸化物透明電極膜からなる、ことを特徴とする太陽電池用透明電極膜。
【請求項2】
前記酸化物透明電極膜が、酸化亜鉛を主成分とし、低原子価金属酸化物をドープしたターゲットまたはタブレットを用いて、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD法)またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法にて成膜された酸化物透明導電膜であり、
低原子価金属酸化物が、低原子価金属と亜鉛との原子数比が0.02〜0.1の割合となるようにドープされ、そして
酸化物透明導電膜の比抵抗が2.0×10-3Ω・cm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の太陽電池用透明電極膜。
【請求項3】
低原子価金属酸化物が、低原子価酸化チタン、低原子価酸化ニオブ、低原子価酸化タンタルおよび低原子価酸化モリブデンから選ばれることを特徴とする、請求項1または2に記載の太陽電池用透明電極膜。
【請求項4】
低原子価酸化チタンが、一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)で表されることを特徴とする、請求項3に記載の太陽電池用透明電極膜。
【請求項5】
低原子価酸化チタンがTiO(II)、Ti23(III)、Ti35、Ti47、Ti611、Ti59およびTi815から選ばれることを特徴とする、請求項3または4に記載の太陽電池用透明電極膜。
【請求項6】
低原子価酸化ニオブがNbO(II)、Nb23(III)およびNbO2(IV)から選ばれることを特徴とする、請求項3に記載の太陽電池用透明電極膜。
【請求項7】
低原子価酸化タンタルがTaO2(IV)およびTa23(III)から選ばれることを特徴とする、請求項3に記載の太陽電池用透明電極膜。
【請求項8】
低原子価酸化モリブデンがMoO2(IV)およびMo23(III)から選ばれることを特徴とする、請求項3に記載の太陽電池用透明電極膜。
【請求項9】
前記太陽電池用透明電極膜の波長780〜1500nmにおける平均光透過率が85%以上であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の太陽電池用透明電極膜。
【請求項10】
前記太陽電池用透明電極膜の波長780〜1500nmにおける平均光透過率が80%以上であり、表面抵抗が20Ω/□以下であり、耐湿熱性試験(85℃、85%RH 1000時間)後のシート抵抗値が、当該耐湿熱性試験前のシート抵抗値に対して1.5倍以内であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の太陽電池用透明電極膜。
【請求項11】
電極層を設けた基板または電極性を備えた金属基板上に、p型半導体の光吸収層、n型半導体の中間層、半導体の窓層、およびn型の透明電極層をこの順で順次積層した構造を有する太陽電池において、
前記透明電極層が、請求項1〜10のいずれかに記載の太陽電池用透明電極膜であることを特徴とする太陽電池。
【請求項12】
透明性基板上に、透明電極層、半導体の窓層、n型の半導体の中間層、p型の半導体の光吸収層、および金属電極をこの順で順次積層した構造を有する太陽電池において、
前記透明電極層が、請求項1〜10のいずれかに記載の太陽電池用透明電極膜であることを特徴とする太陽電池。
【請求項13】
前記光吸収層が、CuInSe2、CuInS2、CuGaSe2、CuGaS2、およびこれらの固溶体、およびCdTeから選ばれる少なくとも一つである請求項11または12に記載の太陽電池。
【請求項14】
光吸収層が、CuZnS2、CuSnS2、CuZnSe2、CuSnSe2およびこれらの固溶体、およびCdTeから選ばれる少なくとも一つである請求項11または12のいずれかに記載の太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−134434(P2012−134434A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17250(P2011−17250)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】