説明

姿勢補正装置、マイケルソン干渉計、およびフーリエ変換分光分析装置

【課題】簡便な構成でマイグレーションの発生を抑制しつつ光学素子を所望の姿勢に補正する姿勢補正装置を得る。
【解決手段】姿勢補正装置30は、圧電素子110と、圧電素子110に駆動電圧を印加する駆動回路111とを備える。駆動回路111は、所定の補正条件に応じて圧電素子110に駆動電圧を印加することによって、圧電素子110を伸縮させ、駆動電圧が印加された圧電素子110の伸縮を利用して光学素子15の姿勢を補正する第1電圧印加モードと、駆動回路111が第1電圧印加モードにおいて圧電素子110に印加する駆動電圧とは異なる所定の交流電圧を圧電素子110に印加することによって、圧電素子110を発熱させ、圧電素子110に含有される水分量を低減させる第2電圧印加モードとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、姿勢補正装置、マイケルソン干渉計、およびフーリエ変換分光分析装置に関し、特に、圧電素子の伸縮を利用して光学素子の姿勢を補正する姿勢補正装置、その姿勢補正装置を備えたマイケルソン干渉計、およびそのマイケルソン干渉計を備えたフーリエ変換分光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平01−059019号公報(特許文献1)には、圧電素子の伸縮を利用して固定鏡の姿勢を補正するフーリエ変換分光分析装置が開示されている。当該公報は、移動鏡の往復の周期ごとに固定鏡の姿勢を調整するようにしたので、経時的な干渉強度変化を除去することができるとともに、安定した干渉計を実現することができると述べている。
【0003】
ここで、特許文献1のように固定鏡の姿勢を圧電素子を用いて調整するためには、圧電素子に直流電圧またはバイアス電圧を伴ったパルス電圧を印加することが多いが、このような電圧を印加し続けると、マイグレーションという現象が発生し易い。マイグレーション現象が発生すると、圧電素子の絶縁抵抗が低下し、その圧電素子は所望の特性を発揮することができなくなる。特に、圧電素子を高温かつ高湿の環境下で長時間動作し続けると、圧電素子の表面に水分子が吸着することによってマイグレーション現象の発生が促進され、圧電素子は早期に劣化する。
【0004】
特開2006−217719号公報(特許文献2)には、圧電素子自身を加熱する無機物の発熱体を備えた圧電素子が開示されている。当該公報は、この圧電素子によれば、マイグレーションの発生を抑制し、圧電素子における湿気を原因とする絶縁破壊の発生を防ぐことができると述べている。
【0005】
特開2004−025474号公報(特許文献3)には、電圧印加時における圧電素子の周囲の相対湿度を所定の値以下に保つ湿度調節手段を備えた圧電素子が開示されている。当該公報は、この圧電素子によれば、マイグレーションの発生を抑制し、圧電素子における湿気を原因とする絶縁破壊の発生を防ぐことができると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平01−059019号公報
【特許文献2】特開2006−217719号公報
【特許文献3】特開2004−025474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ミラー、レンズ、またはビームスプリッターなどの光学素子の姿勢を圧電素子の伸縮によって補正する姿勢補正装置においては、マイグレーションの発生を抑制し、圧電素子に所望の特性を発揮させることにより、光学素子を所望の姿勢に正確に補正することが望まれる。
【0008】
特開2006−217719号公報(特許文献2)に開示される発明においては、マイグレーションの発生を抑制するために、圧電素子自身を加熱する無機物の発熱体が別途必要となる。特開2004−025474号公報(特許文献3)に開示される発明においては、マイグレーションの発生を抑制するために、圧電素子の周囲の相対湿度を所定の値以下に保つ湿度調節手段が別途必要となる。
【0009】
本発明は、従来に比べてより簡便な構成でマイグレーションの発生を抑制することができるとともに、光学素子を所望の姿勢に正確に補正することが可能な姿勢補正装置、その姿勢補正装置を備えたマイケルソン干渉計、および、そのマイケルソン干渉計を備えたフーリエ変換分光分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づく姿勢補正装置は、光学素子の姿勢を補正する姿勢補正装置であって、上記光学素子に接続され、伸縮することによって上記光学素子の姿勢を変える圧電素子と、上記圧電素子に駆動電圧を印加し、上記駆動電圧の電圧値を変更することによって上記圧電素子の伸縮量を制御する駆動回路と、を備え、上記駆動回路は、所定の補正条件に応じて上記圧電素子に上記駆動電圧を印加することによって、上記圧電素子を伸縮させ、上記駆動電圧が印加された上記圧電素子の伸縮を利用して上記光学素子の姿勢を補正する第1電圧印加モードと、上記駆動回路が上記第1電圧印加モードにおいて上記圧電素子に印加する上記駆動電圧とは異なる所定の交流電圧を上記圧電素子に印加することによって、上記圧電素子を発熱させ、上記圧電素子に含有される水分量を低減させる第2電圧印加モードと、を有する。
【0011】
好ましくは、上記駆動回路が上記第1電圧印加モードにおいて上記圧電素子に印加する上記駆動電圧は、直流電圧を含む。好ましくは、上記駆動回路は、上記駆動回路が上記光学素子の姿勢を補正していないときに上記第2電圧印加モードを実行する。
【0012】
好ましくは、上記駆動回路は、上記第2電圧印加モードを実行した後に、上記第1電圧印加モードを実行する。好ましくは、上記駆動回路は、当該姿勢補正装置が起動された際に、上記第2電圧印加モードを実行する。好ましくは、上記駆動回路は、予め決められた時刻または予め決められた時間間隔で上記第2電圧印加モードを実行する。
【0013】
好ましくは、本発明に基づく上記の姿勢補正装置は、上記圧電素子の抵抗値を検出する抵抗検出部をさらに備え、上記駆動回路は、上記抵抗検出部によって検出された上記圧電素子の上記抵抗値が所定の範囲から外れた場合に、上記第2電圧印加モードを実行する。好ましくは、本発明に基づく上記の姿勢補正装置は、上記圧電素子の周りの湿度を検出する湿度検出部をさらに備え、上記駆動回路は、上記湿度検出部によって検出された上記圧電素子の周りの上記湿度が所定の値を超えていた場合に、上記第2電圧印加モードを実行する。
【0014】
本発明に基づくマイケルソン干渉計は、本発明に基づく上記の姿勢補正装置と、移動鏡と、上記光学素子としての固定鏡と、光源と、上記光源から出射された光を上記固定鏡に向かう光と上記移動鏡に向かう光とに分割するとともに、上記固定鏡および上記移動鏡の各々によって反射された光を合成し干渉光として出射するビームスプリッターと、上記干渉光を検出する検出器と、を備える。
【0015】
本発明に基づくフーリエ変換分光分析装置は、本発明に基づく上記のマイケルソン干渉計と、上記検出器が検出した上記干渉光のスペクトルを算出する演算部と、上記演算部によって得られた上記スペクトルを出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来に比べてより簡便な構成でマイグレーションの発生を抑制することができるとともに、光学素子を所望の姿勢に正確に補正することが可能な姿勢補正装置、その姿勢補正装置を備えたマイケルソン干渉計、および、そのマイケルソン干渉計を備えたフーリエ変換分光分析装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態におけるフーリエ変換分光分析装置を模式的に示す図である。
【図2】実施の形態におけるマイケルソン干渉計に用いられる参照検出器の構成を示す正面図である。
【図3】(A)は、実施の形態におけるマイケルソン干渉計に用いられる参照検出器が検出した干渉光の一部の強度の経時的な変化を示す図である。(B)は、実施の形態におけるマイケルソン干渉計に用いられる参照検出器が検出した干渉光の残部の強度の経時的な変化を示す図である。
【図4】実施の形態における姿勢補正装置の分解した状態を示す斜視図である。
【図5】実施の形態における姿勢補正装置を示す平面図である。
【図6】図5中におけるVI−VI線に沿った矢視断面図である。
【図7】実施の形態における姿勢補正装置が光学素子(固定鏡)の姿勢を補正する際の様子を示す断面図である。
【図8】実施の形態における姿勢補正装置に用いられる圧電素子(第1圧電素子)に印加される駆動電圧(第2電圧印加モード)と時間との関係を示す図である。
【図9】実施の形態における姿勢補正装置に用いられる圧電素子(第2圧電素子)に印加される駆動電圧(第2電圧印加モード)と時間との関係を示す図である。
【図10】実施の形態における姿勢補正装置に用いられる圧電素子(第1圧電素子)に印加される駆動電圧(第1電圧印加モード)と時間との関係を示す図である。
【図11】実施の形態における姿勢補正装置に用いられる圧電素子(第2圧電素子)に印加される駆動電圧(第1電圧印加モード)と時間との関係を示す図である。
【図12】実施の形態における姿勢補正装置に用いられる圧電素子(第1圧電素子)に印加される駆動電圧と圧電素子の変位量との関係を示す図である。
【図13】実施の形態における姿勢補正装置に用いられる圧電素子(第2圧電素子)に印加される駆動電圧と圧電素子の変位量との関係を示す図である。
【図14】実施の形態における姿勢補正装置が光学素子(固定鏡)の姿勢を補正している際(第1電圧印加モードの開始時)の様子を示す断面図である。
【図15】実施の形態における姿勢補正装置に用いられる圧電素子(第1圧電素子および第2圧電素子)に印加される他の駆動電圧と圧電素子の変位量との関係を示す図である。
【図16】実施の形態における姿勢補正装置(第1変形例)を示す断面図である。
【図17】実施の形態における姿勢補正装置(第2変形例)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に基づいた実施の形態について、以下、図面を参照しながら説明する。実施の形態の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。実施の形態の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0019】
(フーリエ変換分光分析装置100・マイケルソン干渉計1)
図1は、実施の形態におけるフーリエ変換分光分析装置100を模式的に示す図である。図1に示すように、フーリエ変換分光分析装置100は、マイケルソン干渉計1、演算部2、および出力部3を備える。マイケルソン干渉計1は、分光光学系11、参照光学系21、および姿勢補正装置30を含む。
【0020】
(分光光学系11)
分光光学系11は、光源12、コリメート光学系13、ビームスプリッター14、固定鏡15(光学素子)、移動鏡16、集光光学系17、検出器18、および駆動機構60を有する。ビームスプリッター14に対する固定鏡15および移動鏡16の位置は、図1に示すような構成であってもよく、図1に示すものとは反対の構成であってもよい。
【0021】
光源12は、分光用の光源である。光源12は、ハロゲンランプ等から構成され、赤外光等を含む広い波長のランプ光を出射する。光源12から出射された光は、参照光学系21(詳細は後述する)における光路合成鏡23に導入され、参照光源22(詳細は後述する)から出射された光と合成される。合成された光は光路合成鏡23から出射され、コリメート光学系13によって平行光に変換された後、ビームスプリッター14に導入される。ビームスプリッター14はハーフミラー等から構成される。ビームスプリッター14に導入された光(入射光)は2光束に分割される。
【0022】
分割された光の一方は固定鏡15に照射される。固定鏡15の表面で反射した光(反射光)は、反射前と略同一の光路を通過してビームスプリッター14に再び照射される。分割された光の他方は移動鏡16に照射される。移動鏡16の表面で反射した光(反射光)は、反射前と略同一の光路を通過してビームスプリッター14に再び照射される。固定鏡15からの反射光および移動鏡16からの反射光は、ビームスプリッター14によって合成される(重ね合わせられる)。
【0023】
ここで、分割された光の他方が移動鏡16の表面で反射する際、移動鏡16は駆動機構60によって平行を維持した状態で矢印AR方向に往復移動(並進移動)している。駆動機構60は、たとえば平行板ばね構造を有する。移動鏡16の往復移動によって、固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光との間には、光路長の差が生じる。固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光とは、ビームスプリッター14で合成されることによって干渉光を形成する。
【0024】
移動鏡16の位置に応じて光路長の差は連続的に変化する。光路長の差に応じて干渉光としての光の強度も連続的に変化する。光路長の差が、たとえば、コリメート光学系13からビームスプリッター14に照射される光の波長の整数倍のとき、干渉光としての光の強度は最大となる。
【0025】
干渉光を形成した光は試料Sに照射される。試料Sを透過した光は集光光学系17によって集光される。集光された光は、参照光学系21(詳細は後述する)における光路分離鏡24に導入される。検出器18は、光路分離鏡24から出射された光を干渉パターン(インターフェログラム)として検出する。この干渉パターンは、CPU(Central Processing Unit)等を含む演算部2に送られる。演算部2は、収集(サンプリング)した干渉パターンをアナログ形式からデジタル形式に変換し、変換後のデータをさらにフーリエ変換する。
【0026】
フーリエ変換によって、試料Sを透過した光(干渉光)の波数(=1/波長)毎の光の強度を示すスペクトル分布が算出される。フーリエ変換後のデータは、出力部3を通して他の機器に出力されたりディスプレイ等に表示されたりする。このスペクトル分布に基づいて、試料Sの特性(たとえば、材料、構造、または成分量)が分析される。
【0027】
(参照光学系21)
参照光学系21は、コリメート光学系13、ビームスプリッター14、固定鏡15、移動鏡16、集光光学系17、参照光源22、光路合成鏡23、光路分離鏡24、参照検出器25、および信号処理部26を有する。コリメート光学系13、ビームスプリッター14、固定鏡15、移動鏡16、および集光光学系17は、分光光学系11および参照光学系21の双方の構成として共通している。
【0028】
参照光源22は、移動鏡16の位置を検出したり、演算部2におけるサンプリングのタイミング信号を生成したりするための光源である。参照光源22は、半導体レーザー等の発光素子から構成され、赤色光等の光を出射する。上述のとおり、参照光源22から出射された光は光路合成鏡23に導入される。光路合成鏡23はハーフミラー(波長選択性のあるミラー)等から構成される。光源12からの光は光路合成鏡23を透過する。参照光源22からの光は光路合成鏡23によって反射される。
【0029】
光源12からの光および参照光源22からの光は、光路合成鏡23によって合成された状態で、光路合成鏡23から同一光路上に出射される。光路合成鏡23から出射された光は、コリメート光学系13によって平行光に変換された後、ビームスプリッター14に導入されて2光束に分割される。
【0030】
上述のとおり、分割された光の一方は固定鏡15に照射され、反射光としてビームスプリッター14に再び照射される。分割された光の他方は移動鏡16に照射され、反射光としてビームスプリッター14に再び照射される。固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光とは、ビームスプリッター14で合成されることによって干渉光を形成する。
【0031】
上述のとおり、干渉光を形成した光は試料Sに照射される。試料Sを透過した光は集光光学系17によって集光される。集光された光は、参照光学系21における光路分離鏡24に導入される。光路分離鏡24はハーフミラー(波長選択性のあるミラー)等から構成される。光路分離鏡24に導入された光(入射光)は2光束に分割される。
【0032】
光源12から出射され、光路合成鏡23、コリメート光学系13、ビームスプリッター14、固定鏡15、移動鏡16、試料S、および集光光学系17を通して光路分離鏡24に導入された光は、光路分離鏡24を透過する。上述のとおり、光路分離鏡24を透過したこの光(干渉光)は、検出器18によって検出される。
【0033】
一方、参照光源22から出射され、光路合成鏡23、コリメート光学系13、ビームスプリッター14、固定鏡15、移動鏡16、試料S、および集光光学系17を通して光路分離鏡24に導入された光は、光路分離鏡24によって反射される。光路分離鏡24からの反射光(干渉光)は、4分割センサ等から構成される参照検出器25によって干渉パターンとして検出される。
【0034】
干渉光の干渉パターンは、CPU等を含む信号処理部26に送られる。信号処理部26は、収集した干渉パターンに基づいて光路分離鏡24からの反射光の強度を算出する。信号処理部26は、光路分離鏡24からの反射光の強度に基づいて、演算部2におけるサンプリングのタイミングを示す信号を生成することができる。演算部2におけるサンプリングのタイミングを示す信号は、公知の手段によって生成されることができる。
【0035】
信号処理部26は、光路分離鏡24からの反射光の強度に基づいて、2光路間における光の傾き(固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光との相対的な傾き)を算出することもできる。2光路間における光の傾きは、たとえば以下のように算出される。
【0036】
図2を参照して、4分割センサから構成される参照検出器25は、4つの受光領域E1〜E4を有している。受光領域E1〜E4は反時計回りに並んで相互に隣接している。受光領域E1〜E4によって構成される領域に、光路分離鏡24からの反射光が照射される。受光領域E1〜E4によって構成される領域の中心と、光路分離鏡24からの反射光のスポットDの中心とは略一致している。
【0037】
受光領域E1〜E4は、光路分離鏡24からそれぞれの領域に照射された反射光の強度を検出する。光路分離鏡24からの反射光の強度は、経時的に変化する位相信号として、たとえば図3(A)および図3(B)に示されるように検出される。
【0038】
図3(A)および図3(B)の各々の横軸は、時間(単位:秒)の経過を示している。図3(A)の縦軸は、受光領域E1が検出した光強度および受光領域E2が検出した光強度の和を強度A1(相対値)として示している。図3(B)の縦軸は、受光領域E3が検出した光強度および受光領域E4が検出した光強度の和を強度A2(相対値)として示している。
【0039】
図3(A)および図3(B)に示すように、強度A1と強度A2との間に、位相差Δが生じているとする。位相差Δに基づいて、2光路間での光の傾き(固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光との相対的な傾き)が算出される。受光領域E1〜E4からなる他の組合せ(たとえば受光領域E1,E4と受光領域E2,E3との組合せ)によって、他の位相差Δを得ることができる。上記の位相差Δとこの他の位相差Δとに基づいて、2光路間での光の傾きの方向(ベクトル)を算出することもできる。
【0040】
(姿勢補正装置30)
図1を再び参照して、姿勢補正装置30は、信号処理部26における検出結果(固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光との相対的な傾き)に基づいて、固定鏡15の姿勢(移動鏡16の表面に対する固定鏡15の表面の相対的な角度)を補正する。当該補正によって、固定鏡15における反射光の光路が補正され、2光路間での光の傾きを無くす(若しくは減少させる)ことが可能となる。姿勢補正装置30がマイケルソン干渉計1内に設けられていることによって、干渉光をより精度高く生成することが可能となる。
【0041】
図4〜図6を参照して、本実施の形態における姿勢補正装置30の構成について詳細に説明する。図4は、姿勢補正装置30の分解した状態を示す斜視図である。図5は、姿勢補正装置30を示す平面図である。図6は、図5中におけるVI−VI線に沿った矢視断面図である。姿勢補正装置30は、固定鏡15の姿勢を所望の姿勢に補正する。
【0042】
図4に示すように、姿勢補正装置30は、固定鏡15を揺動可能に支持する支持部150を備える。本実施の形態における支持部150は、圧電素子110(第1圧電素子)、圧電素子120(第2圧電素子)、圧電素子130、圧電素子140、ベース部材152、および台座156を含む。
【0043】
圧電素子110,120,130,140は、互いに略同一の形状を有するとともに、互いに略同一のヒステリシス特性を有するものが用いられる。圧電素子110,120,130,140は、互いに対向するように、平面視(図5参照)正方形状に配置される。
【0044】
圧電素子110,120,130,140は、次述する台座156および接着剤158を介して固定鏡15に接続される。固定鏡15の姿勢を補正するためには、圧電素子110,120,130,140のうちの1つの圧電素子が用いられてもよい。圧電素子110,120,130,140は、本実施の形態のように固定鏡15に間接的に接続されていてもよく、台座156および接着剤158を介さずに固定鏡15に直接的に接続されていてもよい。
【0045】
図4〜図6を参照して、台座156は、円板状の大径部156aおよび円板状の小径部156bから構成される。台座156の材質は、たとえばステンレス等の金属である。圧電素子110,120,130,140の各々の長手方向における一方の端部が、ベース部材152に固定される。ベース部材152の材質も、たとえばステンレス等の金属である。圧電素子110,120,130,140の各々の長手方向における他方の端部上に、台座156の小径部156bが設けられる。
【0046】
図6に示すように、圧電素子110,120,130,140の各々の長手方向における他方の端部と台座156の小径部156bとの間には、接着剤158が設けられる。接着剤158としては、たとえば比較的ヤング率の大きいエポキシ接着剤、または適度な弾性を有したエポキシ系の変成シリコーン接着剤が用いられる。接着剤158には、直径(たとえば30μm)の揃った球形のプラスチックビーズが混合されているとよい。台座156の大径部156a上に、固定鏡15が固着される。
【0047】
圧電素子110には、駆動回路111(第1駆動回路)が接続される。駆動回路111は、圧電素子110を伸縮させる所定の駆動電圧V111(第1駆動電圧)を出力する。駆動電圧V111が印加された圧電素子110は、矢印AR110方向に伸縮する。
【0048】
圧電素子120には、駆動回路121(第2駆動回路)が接続される。駆動回路121は、圧電素子120を伸縮させる所定の駆動電圧V121(第2駆動電圧)を出力する。駆動電圧V121が印加された圧電素子120は、矢印AR120方向に伸縮する。
【0049】
圧電素子130,140は、圧電素子110,120と同様に構成されるとともに、圧電素子110,120と同様に機能する。以下、圧電素子110,120についてのみ説明する。圧電素子110の伸縮および圧電素子120の伸縮によって、固定鏡15は揺動される。換言すると、固定鏡15は、圧電素子110,120の伸縮によって所定の姿勢に変化される。
【0050】
駆動電圧V111を出力する駆動回路111には、制御部160が接続される。駆動電圧V121を出力する駆動回路121にも、制御部160が接続される。制御部160は、サーボ制御を行なうために、姿勢補正信号出力部170に接続される。姿勢補正信号出力部170は、図1における信号処理部26に接続されており、信号処理部26から固定鏡15の姿勢に関する情報を取得する。姿勢補正信号出力部170は、取得した情報に応じて、固定鏡15を所望の姿勢に補正するための姿勢補正信号S170を出力する。
【0051】
制御部160は、姿勢補正信号出力部170から受けた姿勢補正信号S170に応じて、駆動回路111から出力される駆動電圧V111の電圧値と、駆動回路121から出力される駆動電圧V121の電圧値とをそれぞれ変更する。駆動電圧V111の電圧値は、圧電素子110の伸縮量に変換される。駆動電圧V121の電圧値は、圧電素子120の伸縮量に変換される。
【0052】
駆動電圧V111,V121の電圧値が圧電素子110,120の伸縮量にそれぞれ変換されることによって、固定鏡15における所望の姿勢を得ることが可能となるとともに、固定鏡15の表面の角度は所望の値に設定されることが可能となる。ここで、駆動回路111,121は、圧電素子110,120のそれぞれの姿勢を補正する第1電圧印加モードと、圧電素子110,120に含有される水分量をそれぞれ低減させる第2電圧印加モードと、を有する。
【0053】
(第1電圧印加モード)
第1電圧印加モードにおいては、駆動回路111,121は、所定の補正条件(たとえば、姿勢補正信号出力部170から出力される姿勢補正信号S170および制御部160による制御)に応じて、圧電素子110,120に駆動電圧V111,V121をそれぞれ印加する。圧電素子110,120は、駆動電圧V111,V121の印加によってそれぞれ伸縮する。駆動電圧V111,V121がそれぞれ印加された圧電素子110,120の伸縮を利用して、固定鏡15の姿勢が補正される。
【0054】
第1電圧印加モードにおいては、圧電素子110に印加される駆動電圧V111と圧電素子120に印加される駆動電圧V121とが互いに逆位相となるように、制御部160は駆動回路111および駆動回路121を制御するとよい。
【0055】
図7に示すように、圧電素子110に印加される駆動電圧V111と圧電素子120に印加される駆動電圧V121とが互いに逆位相となることによって、たとえば圧電素子110が収縮している場合は、圧電素子120は伸長することとなる(図7中の白抜き矢印参照)。これにより、固定鏡15は矢印AR15方向に傾く。固定鏡15を所望の姿勢に補正する際、圧電素子110に印加される駆動電圧V111と圧電素子120に印加される駆動電圧V121とが互いに逆位相となることによって、固定鏡15を所望の姿勢に簡便に補正することが可能となる。
【0056】
(第2電圧印加モード)
第2電圧印加モードは、上述のとおり、圧電素子110,120に含有される水分量を低減させるために実行される。第2電圧印加モードは、たとえば、フーリエ変換分光分析装置100(図1参照)の主電源が使用者によって投入されることによって姿勢補正装置30が起動された際に(起動された直後に)実行されるとよい。第2電圧印加モードは、フーリエ変換分光分析装置100がスタンバイの状態から復帰した直後に実行されてもよい。
【0057】
第2電圧印加モードは、予め決められた時刻または予め決められた時間間隔で実行されてもよい。第2電圧印加モードは、駆動回路111,121が第1電圧印加モードを実行した後に実行されてもよいし、駆動回路111,121が第1電圧印加モードを実行する前に実行されてもよい。また、第2電圧印加モードは、駆動回路111,121が第1電圧印加モードを実行していないとき(換言すると、固定鏡15の姿勢が補正されていないとき)に実行されるとよい。
【0058】
第2電圧印加モードにおいては、駆動回路111,121が第1電圧印加モードにおいて圧電素子110,120に印加する駆動電圧V111,V121とは異なる所定の交流電圧が、圧電素子110,120に印加される。図8は、第2電圧印加モードにおいて、圧電素子110に印加される駆動電圧V111と時間との関係を示す図である。図9は、第2電圧印加モードにおいて、圧電素子120に印加される駆動電圧V121と時間との関係を示す図である。
【0059】
図8に示すように、第2電圧印加モードにおいては、最大電圧がVmaxであり、最低電圧が0Vである正弦波の駆動電圧V111が、駆動回路111から圧電素子110に供給される。正弦波である駆動電圧V111のオフセット電圧Vaは、たとえばVmax/2の値に設定される。正弦波である駆動電圧V111の周波数fdは、姿勢補正装置30の共振周波数よりも小さい値に設定される。
【0060】
図9に示すように、第2電圧印加モードにおいては、最大電圧がVmaxであり、最低電圧が0Vである正弦波の駆動電圧V121が、駆動回路121から圧電素子120に供給される。正弦波である駆動電圧V121のオフセット電圧Vaも、たとえばVmax/2の値に設定される。正弦波である駆動電圧V121の周波数fdも、姿勢補正装置30の共振周波数よりも小さい値に設定される。
【0061】
図8および図9に示すように、本実施の形態における制御部160は、圧電素子110に印加される駆動電圧V111と圧電素子120に印加される駆動電圧V121とが互いに逆位相となるように、駆動回路111および駆動回路121を制御する。換言すると、本実施の形態における制御部160は、正弦波である駆動電圧V111の位相と正弦波である駆動電圧V121の位相とが、互いに180°ずれるように駆動回路111および駆動回路121を制御する。
【0062】
圧電素子110に駆動電圧V111が印加されることによって圧電素子110の伸縮が開始され、圧電素子120に駆動電圧V121が印加されることによって圧電素子120の伸縮が開始される。これにより、支持部150によって支持されている固定鏡15は、往復回動運動を開始する。
【0063】
ここで、第2電圧印加モードにおいて伸縮を繰り返す圧電素子110,120は、その伸縮に伴って、次の式に表される充放電を繰り返す。
電力P=(1/2)×fd×C×Vmax(Cは圧電素子110,120の静電容量)
圧電素子110,120には、材料素子の内部損失および電極の電気抵抗による熱損等の損失があるため、充放電により5%〜8%のエネルギーが熱に変わる。したがって、圧電素子110,120は往復回動運動によって自己発熱する。圧電素子110,120に含まれている水分が蒸発するとともに、圧電素子110,120に含有される水分量が低減される。その結果、圧電素子110,120の絶縁抵抗が低下するというマイグレーション現象の発生を抑えることが可能となる。
【0064】
本実施の形態におけるフーリエ変換分光分析装置100においては、フーリエ変換分光分析装置100が起動された後、姿勢補正装置30が予め決められた所定の時間の間だけ第2電圧印加モードを実行する。その後、フーリエ変換分光分析装置100は、使用者による指示を待って、分析動作を開始する。フーリエ変換分光分析装置100による分析動作が行なわれることに合わせて、姿勢補正装置30は、第1電圧印加モードを実行する。
【0065】
図10は、第1電圧印加モードにおいて、圧電素子110に印加される駆動電圧V111と時間との関係を示す図である。図11は、第1電圧印加モードにおいて、圧電素子120に印加される駆動電圧V121と時間との関係を示す図である。図10および図11に示すように、第1電圧印加モードが実行されると、まず、圧電素子110には電圧値がVmaxである駆動電圧V111が所定の時間の間印加され、圧電素子120には電圧値が0Vである駆動電圧V121が所定の時間の間印加される。
【0066】
電圧値がVmaxである駆動電圧V111が圧電素子110に印加されるとともに電圧値が0Vである駆動電圧V121が圧電素子120に印加された状態は、固定鏡15が最大に回動した状態である。その後、時刻T1において、圧電素子110および圧電素子120には、固定鏡15が所定の角度に回動する傾き(設定傾き)に対応する駆動電圧V111,V121(本実施の形態においては電圧値がVaである直流電圧)がそれぞれ印加される。
【0067】
図12は、圧電素子110に印加される駆動電圧V111の大きさと圧電素子110の変位量X110との関係を示す図である。図12に示すように、圧電素子110は、所定のヒステリシス特性H110を有している。
【0068】
圧電素子110に印加される駆動電圧V111のうち、最も大きな電圧値を最大電圧値Vmaxとし、最も小さな電圧値を最小電圧値Vmin(本実施の形態においては0V)とする。最大電圧値Vmaxおよび最小電圧値Vminは、いずれも設計などによって定められる。
【0069】
圧電素子110に最大電圧値Vmaxが印加された場合、圧電素子110においては変位量Xmaxが得られる(図12中の点Pmax)。圧電素子110に最小電圧値Vminが印加された場合、圧電素子110においては変位量Xminが得られる(図12中の点Pmin)。圧電素子110は、最大電圧値Vmaxと最小電圧値Vminとの間においては、図12に示すようなヒステリシス特性H110を有している。
【0070】
たとえば、ある時点において圧電素子110に印加されている駆動電圧V111が、電圧値V10であるとする(図12中の点P10)。圧電素子110に印加されている電圧が最大電圧値Vmaxに昇圧された場合、圧電素子110の変位量X110は、変位量X10(図12中の点P10)から変位量Xmax(図12中の点Pmax)まで、線L13aに示されるヒステリシス曲線を描くように変化する。
【0071】
その後、圧電素子110に印加される駆動電圧V111が、最大電圧値Vmaxから電圧値V1aに設定されたとする。圧電素子110の変位量X110は、変位量Xmax(図12中の点Pmax)から変位量X13(図12中の点P13)まで、線L13cに示されるヒステリシス曲線を描くように変化する。
【0072】
図13は、圧電素子120に印加される駆動電圧V121の大きさと圧電素子120の変位量X120との関係を示す図である。図13に示すように、圧電素子120は、所定のヒステリシス特性H120を有している。本実施の形態においては、圧電素子120のヒステリシス特性H120と、圧電素子110のヒステリシス特性H110(図12参照)とは互いに略同一である。
【0073】
圧電素子120に印加される駆動電圧V121のうち、最も大きな電圧値を最大電圧値Vmaxとし、最も小さな電圧値を最小電圧値Vmin(本実施の形態においては0V)とする。最大電圧値Vmaxおよび最小電圧値Vminは、いずれも設計などによって定められる。
【0074】
圧電素子120に最大電圧値Vmaxが印加された場合、圧電素子120においては変位量Xmaxが得られる(図13中の点Pmax)。圧電素子120に最小電圧値Vminが印加された場合、圧電素子120においては変位量Xminが得られる(図13中の点Pmin)。圧電素子120は、最大電圧値Vmaxと最小電圧値Vminとの間においては、図13に示すようなヒステリシス特性H120を有している。
【0075】
たとえば、ある時点において圧電素子120に印加されている駆動電圧V121が、電圧値V20であるとする(図13中の点P20)。圧電素子120に印加されている電圧が最小電圧値Vmin(本実施の形態においては0V)に降圧された場合、圧電素子120の変位量X120は、変位量X20(図13中の点P20)から変位量Xmin(図13中の点Pmin)まで、線L24aに示されるヒステリシス曲線を描くように変化する。
【0076】
その後、圧電素子120に印加される駆動電圧V121が、最小電圧値Vminから電圧値V2aに設定されたとする。圧電素子120の変位量X120は、変位量Xmin(図13中の点Pmin)から変位量X24(図13中の点P24)まで、線L24cに示されるヒステリシス曲線を描くように変化する。
【0077】
図12〜図14を参照して、圧電素子110においては、現在の電圧値V10から最大電圧値Vmaxに一旦設定された後に電圧値V1aに設定される。電圧値V10がその過去に圧電素子110に対して昇圧方向に印加されたものであるか、または、電圧値V10がその過去に圧電素子110に対して降圧方向に印加されたものであるかに関わらず、最終的に得られる圧電素子110の変位量X110は、変位量X13となる。
【0078】
同様に、圧電素子120においては、現在の電圧値V20から最小電圧値Vminに一旦設定された後に電圧値V2aに設定される。電圧値V20がその過去に圧電素子120に対して昇圧方向に印加されたものであるか、または、電圧値V20がその過去に圧電素子120に対して降圧方向に印加されたものであるかに関わらず、最終的に得られる圧電素子120の変位量X120は、変位量X24となる。
【0079】
電圧値V1aにおける圧電素子110の変位量X110が一義的に定められるとともに、電圧値V2aにおける圧電素子120の変位量X120が一義的に定められることが可能となるため、姿勢補正装置30においては、固定鏡15を所望の姿勢に正確に補正することが可能となる。電圧値V1a,V2aは、予め設定されていた値(設計値)であってもよいし、姿勢補正信号出力部170から受けた姿勢補正信号S170に応じて算出された値であってもよい。
【0080】
固定鏡15が所望の姿勢に補正(粗調整)された後、光路分離鏡24(図1参照)からの反射光の強度に基づいて2光路間における光の傾きを算出した信号処理部26は、姿勢補正信号出力部170に対してその算出した値に応じた所定の信号を送る。姿勢補正信号出力部170は、姿勢補正信号S170を制御部160に送る。
【0081】
圧電素子110は、制御部160によって制御される駆動回路111からの駆動電圧V111を受けて、固定鏡15の傾きが所望の姿勢となるように連続的に駆動される。圧電素子120は、制御部160によって制御される駆動回路121からの駆動電圧V121を受けて、固定鏡15の傾きが所望の姿勢となるように連続的に駆動される。なお、これらについては、圧電素子130,140(図4,図5参照)についても同様である。圧電素子110,120,130,140の伸縮によって、固定鏡15は所望の姿勢にさらに補正(微調整)されることとなる。姿勢補正装置30は、信号処理部26における検出結果(固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光との相対的な傾き)に基づいて固定鏡15を所望の姿勢に補正するため、マイケルソン干渉計1としては、干渉光をより精度高く生成することが可能となる。
【0082】
図15に示すように、圧電素子110に印加されるべき駆動電圧V111の電圧値V1a、および圧電素子120に印加されるべき駆動電圧V121の電圧値V2aは、最大電圧値Vmaxおよび最小電圧値Vminに対して、以下の式を満足するように構成されるとよい。
V1a=V2a=(Vmax+Vmin)/2=Va
上記の式が満足される場合、圧電素子110の変位量X110は、変位量X13となり(図15中の点P13)、圧電素子120の変位量X120は、変位量X24となる(図15中の点P24)。図15に示すように、圧電素子110および圧電素子120が、電圧値V1a,V2a(=Va)を中心として電圧値V3aおよび電圧値V3bの間でサーボ制御される場合、上記の式が満足されることによって、圧電素子110のヒステリシス曲線の両折り返し点を含むラインLAの傾きと、圧電素子120のヒステリシス曲線の両折り返し点を含むラインLBの傾きとが、互いに同一となる。
【0083】
固定鏡15の姿勢が補正(粗調整)されて設定傾きに到達した時点の圧電素子110の感度(電圧−変位特性)と、固定鏡15の姿勢が補正(粗調整)されて設定傾きに到達した時点の圧電素子120の感度とは、その絶対値が互いに略同一となるため、その後の補正駆動(微調整)に際して、固定鏡15の回動の中心は光軸上(姿勢補正装置30の中心線上)に保たれ、光路長の変動は原理的には発生しないこととなる。したがって、印加電圧に対する変位量(伸縮量)が圧電素子110および圧電素子120において略同一となるため、固定鏡15の姿勢は、より安定して補正されることが可能となる。
【0084】
また、互いに逆位相となるように印加される駆動電圧V111および駆動電圧V121の各々は、電圧値V1a,V2aを中心として対称な電圧値であるとよい。換言すると、駆動電圧V111として圧電素子110に印加される電圧値(VA)と、駆動電圧V121として圧電素子120に印加される電圧値(VB)と、電圧値V1a,V2aとの間には、(VA+VB)/2=電圧値V1a=電圧値V2aの関係が常に成立しているとよい。
【0085】
当該構成によれば、圧電素子110および圧電素子120のほぼ中央の部分に、固定鏡15の回動軸(揺動軸)が形成される。圧電素子110および圧電素子120は、固定鏡15に対していわゆるpush−pull動作をすることになる。上記の回動軸を中心として、圧電素子110の伸縮量と圧電素子120の伸縮量に応じて固定鏡15の姿勢は正確に補正されることが可能となる。結果として、固定鏡15の姿勢はさらに安定して補正されることが可能となる。
【0086】
図16に示すように、姿勢補正装置30は、抵抗検出部113,123をさらに備えていてもよい。抵抗検出部113は、圧電素子110の抵抗値を周知の方法で検出する。抵抗検出部123は、圧電素子120の抵抗値を検出する。制御部160は、抵抗検出部113,123によって検出された圧電素子110,120の抵抗値が所定の範囲から外れた場合に(所定の値を下回った場合に)、第2電圧印加モードを実行するように駆動回路111,121を制御する。圧電素子110,120に対して自己発熱させるタイミングが、抵抗検出部113,123および制御部160によって適切に判断されるため、圧電素子110,120の絶縁抵抗が低下するというマイグレーション現象の発生をより効果的に抑えることが可能となる。
【0087】
図17に示すように、姿勢補正装置30は、湿度検出部114,124をさらに備えていてもよい。湿度検出部114は、圧電素子110の周囲(たとえば圧電素子110の表面)の湿度を検出する。湿度検出部124は、圧電素子120の周囲(たとえば圧電素子120の表面)の湿度を検出する。制御部160は、湿度検出部114,124によって検出された圧電素子110,120の周囲の湿度が所定の範囲から外れた場合に(所定の値を超えていた場合)に、第2電圧印加モードを実行するように駆動回路111,121を制御する。圧電素子110,120に対して自己発熱させるタイミングが、湿度検出部114,124および制御部160によって適切に判断されるため、圧電素子110,120の絶縁抵抗が低下するというマイグレーション現象の発生をより効果的に抑えることが可能となる。
【0088】
(作用・効果)
以上説明したとおり、姿勢補正装置30における駆動回路111,121は、圧電素子110,120の姿勢を補正する第1電圧印加モードと、圧電素子110,120に含有される水分量を低減させる第2電圧印加モードとを有する。第2電圧印加モードにおいて圧電素子110,120は自己発熱し、圧電素子110,120に含まれていた水分は蒸発するとともに、圧電素子110,120に含有される水分量が低減される。これらについては、圧電素子130,140(図4,図5参照)についても同様である。
【0089】
したがって、姿勢補正装置30は、圧電素子110,120,130,140の絶縁抵抗が低下するというマイグレーション現象の発生を、簡素な構成によって効果的に抑えることが可能となる。姿勢補正装置30によれば、従来に比べてより簡便な構成でマイグレーションの発生を抑制することができるとともに、光学素子としての固定鏡15を所望の姿勢に正確に補正することができる。
【0090】
以上、本発明に基づいた実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0091】
1 マイケルソン干渉計、2 演算部、3 出力部、11 分光光学系、12 光源、13 コリメート光学系、14 ビームスプリッター、15 固定鏡(光学素子)、16 移動鏡、17 集光光学系、18 検出器、21 参照光学系、22 参照光源、23 光路合成鏡、24 光路分離鏡、25 参照検出器、26 信号処理部、30 姿勢補正装置、60 駆動機構、100 フーリエ変換分光分析装置、110,120,130,140 圧電素子、111,121 駆動回路、113,123 抵抗検出部、114,124 湿度検出部、150 支持部、152 ベース部材、156 台座、156a 大径部、156b 小径部、158 接着剤、160 制御部、170 姿勢補正信号出力部、E1,E2,E3,E4 受光領域、H110,H120 ヒステリシス特性、L13a,L13c,L24a,L24c 線、LA,LB ライン、S 試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子の姿勢を補正する姿勢補正装置であって、
前記光学素子に接続され、伸縮することによって前記光学素子の姿勢を変える圧電素子と、
前記圧電素子に駆動電圧を印加し、前記駆動電圧の電圧値を変更することによって前記圧電素子の伸縮量を制御する駆動回路と、を備え、
前記駆動回路は、
所定の補正条件に応じて前記圧電素子に前記駆動電圧を印加することによって、前記圧電素子を伸縮させ、前記駆動電圧が印加された前記圧電素子の伸縮を利用して前記光学素子の姿勢を補正する第1電圧印加モードと、
前記駆動回路が前記第1電圧印加モードにおいて前記圧電素子に印加する前記駆動電圧とは異なる所定の交流電圧を前記圧電素子に印加することによって、前記圧電素子を発熱させ、前記圧電素子に含有される水分量を低減させる第2電圧印加モードと、を有する、
姿勢補正装置。
【請求項2】
前記駆動回路が前記第1電圧印加モードにおいて前記圧電素子に印加する前記駆動電圧は、直流電圧を含む、
請求項1に記載の姿勢補正装置。
【請求項3】
前記駆動回路は、前記駆動回路が前記光学素子の姿勢を補正していないときに前記第2電圧印加モードを実行する、
請求項1または2に記載の姿勢補正装置。
【請求項4】
前記駆動回路は、前記第2電圧印加モードを実行した後に、前記第1電圧印加モードを実行する、
請求項1から3のいずれかに記載の姿勢補正装置。
【請求項5】
前記駆動回路は、当該姿勢補正装置が起動された際に、前記第2電圧印加モードを実行する、
請求項1から4のいずれかに記載の姿勢補正装置。
【請求項6】
前記駆動回路は、予め決められた時刻または予め決められた時間間隔で前記第2電圧印加モードを実行する、
請求項1から4のいずれかに記載の姿勢補正装置。
【請求項7】
前記圧電素子の抵抗値を検出する抵抗検出部をさらに備え、
前記駆動回路は、前記抵抗検出部によって検出された前記圧電素子の前記抵抗値が所定の範囲から外れた場合に、前記第2電圧印加モードを実行する、
請求項1から4のいずれかに記載の姿勢補正装置。
【請求項8】
前記圧電素子の周りの湿度を検出する湿度検出部をさらに備え、
前記駆動回路は、前記湿度検出部によって検出された前記圧電素子の周りの前記湿度が所定の値を超えていた場合に、前記第2電圧印加モードを実行する、
請求項1から4のいずれかに記載の姿勢補正装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の姿勢補正装置と、
移動鏡と、
前記光学素子としての固定鏡と、
光源と、
前記光源から出射された光を前記固定鏡に向かう光と前記移動鏡に向かう光とに分割するとともに、前記固定鏡および前記移動鏡の各々によって反射された光を合成し干渉光として出射するビームスプリッターと、
前記干渉光を検出する検出器と、を備える、
マイケルソン干渉計。
【請求項10】
請求項9に記載のマイケルソン干渉計と、
前記検出器が検出した前記干渉光のスペクトルを算出する演算部と、
前記演算部によって得られた前記スペクトルを出力する出力部と、を備える、
フーリエ変換分光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−110886(P2013−110886A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255101(P2011−255101)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】