説明

媒体中で化学化合物の相同性及び非相同性ならびに濃度を決定する方法

本発明は、媒体中に含有される少なくとも1つの化学化合物Vを検出する方法に関し、前記方法は、該化合物が媒体中に含有されているかどうかを検出するための検証ステップ、ならびに該化学化合物の濃度を決定する分析ステップから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体中に含有される少なくとも1つの化学化合物Vを検出する方法に関し、前記方法は、該化合物が媒体中に含有されているかどうかを検出するための検証ステップ、ならびに該化学化合物の濃度を決定する分析ステップから成る。本発明は、該方法を実施する装置ならびに物品の信頼性を確認する方法の使用又は鉱油を同定する方法の使用にも関する。
【0002】
化学化合物を同定又は試験するために多くの方法が用いられている。大半の分析方法は極めて様々な分析放射線を用い、これは、吸収、発光(例えば、蛍光又はリン光)、反射及び/又は散乱により、分析放射線の個々の波長に応じて、その元の強さに変化を受ける。この変化は、媒体中の化学化合物の存在又は不在を導き出すために、及び/又は媒体中の化学化合物の濃度を決定するために使用できる。このために、多くの装置は例えば様々なタイプの分光計として市販されている。
【0003】
しかし、従来技術から公知の装置は全体的に様々な欠点を被っており、これは特に実際の一連の使用で取り扱いを妥協している。例えば、1つの欠点は、多くの場合に検出すべき化学化合物が試験すべき媒体中にごく僅かな濃度でしか存在しないことである。一般に、それ自体の化学化合物から生じるシグナルは、それに応じて弱く、S/N比が相応して乏しいため、これらは頻繁に媒体のバックグランドシグナルにより消されてしまう。
【0004】
もう1つの欠点は、入手可能な市販の装置では、媒体中に化学化合物が含有されているか又は含有されていないかとは関係なく濃度の検出が実施されることにある。従って、例えば後続の評価において、乏しいS/N比を有する著しく弱いシグナルが実際に検出すべき化学化合物によるものなのかどうか、又は単にバックグラウンドシグナルであるのかどうかを決定することが困難である。よって、このような検出法は自動化には不適切である。それというのも、コンピューターは生じたシグナルの品質とは無関係に濃度を算出するように試すからである。従って、多くの場合に、このような自動化された方法は極めて信頼できない結果を生じ、実際に実験者はこの信頼性の無さについて知らされることはない。
【0005】
公知の装置と方法のもう1つの欠点は、装置の費用と測定にかかる時間が著しく大きいことである。その結果、このような方法と装置は、"in situ"分析において、例えば、生産プラント又は化学貯蔵施設で使用することが困難である。その代わりに、通常は相応の試料を取り出すことが必要であり、これは、引き続き相応の装置と方法を用いて、分析実験室において分析される。このような出費は、特に複数の試料がありかつ特定の問題に素早く応答する必要がある場合には、しばしば耐えられない。
【0006】
従って、本発明の課題は、従来技術から公知の方法と装置の欠点を回避する方法と装置の提供であり、かつ化学化合物Vの信頼できる検出を可能にすることである。
【0007】
提唱された方法は、媒体中に含有される少なくとも1つの化学化合物Vの検出に使用される。本発明の基本的な観念は、方法を検証ステップと分析ステップに分けることにある。検証ステップでは、化学化合物Vが媒体中に含有されているかどうかを決定する。分析ステップでは、少なくとも1つの化学化合物Vの濃度を決定する。
【0008】
媒体とは、原則的に化学化合物Vの分布を可能にするどの物質を意味してもよい。この場合に、化学化合物Vは必ずしも均質に分布している必要はないが、均質な分布は方法の実施を容易にする。それというのも、この場合に濃度cの決定は、媒体中で実施される方法の様式に依存しないからである。例えば、媒体には気体、クリームのようなペースト状物質、純粋な液体、液体混合物、分散液及び塗料のような液体、ならびにプラスチックのような固体が含まれる。広い意味での固体には、例えば、日常生活、自動車、建築物の壁などで使用される物体のように、どの基質の表面被覆(例えば、硬化被覆)も含まれる。
【0009】
提唱した方法では、少なくとも1つの化学化合物Vに関して高い柔軟性がある。従って、少なくとも1つの化学化合物は、例えば有機物質又は無機物質であってもよい。実際に、化学化合物Vのタイプは関連する媒体の種類による。気体媒体の場合には、例えば、化学化合物Vはしばしばガス又は蒸気である。この場合に、しばしば均質な分布は自動的に設定される。更に、均質な分布は適切な方法により達成することができる。その結果、例えば細かい固体粒子が液体又は気体媒体中に分布、特に分散していたとしても適切な方法により達成できる。ペースト状物又は液体媒体の場合には、化学化合物Vは通常は分子状に溶けているか、又は同じく細かい固体粒子として存在し、その際、気体又は液体媒体と比べて高い粘度ゆえに、ペースト状媒体中では固体粒子の分離は通常は希にしか生じない。
【0010】
液体媒体の場合には、例えば分散助剤及び/又は連続的な混合の存在で行うような適切な処置により、固体粒子の均質な分布は該方法を実施しながら達成してもよい。固体媒体が例えば分散液又は塗料である場合には、分解が生じないか、又はより長い期間にわたってのみ行われるように通常は既に調節されている。従って、測定関数又は比較関数の決定は通常は問題なく行うことができる。ここでも、場合により適切な均質化処置により分離による測定の無効化が妨げられる。
【0011】
特にプラスチックのような固体媒体の場合には、化学化合物Vは通常は細かい固体粒子又は分子状に溶けて存在する。この場合にも、当然ながら偏折現象は通常は問題とはならない。
【0012】
提唱した2つの方法ステップは、様々なサブステップに分けられる。従って、検証ステップは、まず媒体を可変波長λの第一の分析放射線に照射するサブステップを有する。その際、波長λは、少なくとも2つの異なる値を取る。例えば、波長λは、特定の所定期間にわたり、例えば調節可能な照射源、例えば、波長可変レーザー及び/又はスペクトロメーターを用いて連続的に調整してもよい。二者択一的又は更に、波長λの種々の計数値の間で切換えることもできる。この場合に、例えば個々の照射源、有利にはナローバンドの発光スペクトルを有する個々の照射源を使用し、かつそれらの間で切換えることができる。以下に実施態様例をより詳細に説明する。
【0013】
第二のサブステップでは、媒体及び/又は場合により媒体中に含有される少なくとも1つの化学化合物により、第一の分析放射線に対して応答して吸収、発光、反射及び/又は散乱された放射線を用いて、少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)は生じる。
【0014】
第一の分析放射線として、少なくとも1つの化学化合物Vと相互作用し、相応のスペクトル応答関数A(λ)を生じることができるどの放射線も用いられる。特に、これは電磁放射線であってよい。しかし、二者択一的に又は更に、中性子放射線又は電子線のような粒子放射線、又は超音波のような音響放射線を用いてもよい。
【0015】
第一の分析放射線の種類に相応して検出が構成される。検出した放射線は、必ずしも第一の分析放射線のタイプと同じタイプの放射線である必要はない。例えば、際だった波長シフトが生じるか、又は中性子放射線で刺激する際に、相応のγ放射線を応答関数として測定することができる。しかし、できるだけ簡単な方法を提供するために、第一の分析放射線及び検出された相応の放射線は、有利には可視スペクトル領域、赤外スペクトル域又は紫外スペクトル領域であることができる。
【0016】
更に、少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)は、第一の分析放射線に対する応答として感知された少なくとも1つの検出器シグナルに必ずしも直接に一致する必要はない。例えば、1つ以上の検出器シグナルから間接的に計算されたスペクトル応答関数A(λ)だけを生じることもできる。これは、下記の本発明の補強に役立つ。複数のスペクトル応答関数A(λ)を同時に把握することができ、例えば、蛍光シグナルと吸収シグナルを同時に把握することができる。
【0017】
実際には、少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)の選択もしくは少なくとも1つの検出シグナルの検出は、第一の分析放射線に対する系、特に媒体の状態による。第一の分析放射線に対する媒体の十分な透明度に関しては、少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)は、例えば系、特に媒体の吸収挙動もしくは透過挙動を再現する。この透明度が保証されないか、又は僅かな程度にしか保証されない場合には、スペクトル応答関数は、系の波長依存性の反射挙動の描写を再現することができる。系が刺激されて第一の分析放射線により放射線を発する場合には、波長依存性の放射挙動をスペクトル応答関数として使用するか、又はこのスペクトル応答関数を生じるために使用してもよい。更に、種々のスペクトル応答関数の組合せも可能である。更に、少なくとも1つのスペクトル応答関数は、第一の分析放射線の波長ならびに検出の波長の両方の関数として測定してもよい。なぜならば、刺激の波長と検出波長は、必ずしも同一である必要がないからである。
【0018】
引き続き、検証ステップの3番目のサブステップでは、少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)と少なくとも1つのパターン関数R(λ)の間で相関が行われる。このような相関は、パターン関数とスペクトル応答関数の"スーパーポジション"を明らかに示す。その際、パターン関数とスペクトル応答関数は、それぞれ波長軸に対して座標シフトδλ分だけシフトし、かつその際に、各座標シフトに関して、2つの関数A(λ)とR(λ)の重なりを決定する。相応して、スペクトル相関関数K(δλ)が、公知の相関方法により形成される。この相関方法は、例えば計算により、又はハードウェアコンポーネントにより実施できる。少なくとも1つのパターン関数R(λ)は、例えばリファレンス試料のスペクトル応答関数であってよい。二者択一的に、又は更に少なくとも1つのパターン関数は分析的に計算されるパターン関数を含み、文献テーブル(例えば、公知のスペクトルのまとめ)に寄託されたパターン関数から計算することができる。1つ以上のスペクトル応答関数は、1つ以上のパターン関数と比較でき、相応する数のスペクトル相関関数K(δλ)が形成される。
【0019】
有利な変法では、スペクトル相関関数K(δλ)の算出に以下の関係式:
【数1】

を使用する。
【0020】
ここで、Nは
【数2】

により有利に計算される正規化因子を表す。積分は、適切な波長の間隔、例えば−∞から+∞にわたり、又は測定に使用される波長間隔にわたり実施される。
【0021】
例えば、種々の照射源の間で切換えることにより、連続的な第一の分析放射線の代わりに波長λの離散的値を有する第一の分析放射線が使用される場合には、方程式(1)と(2)による積分の代わりに、リーマン合計が形成される:
【数3】

【0022】
この場合に、適切な数の支点iが合計され、かつΔλiは、それぞれ適切な間隔の間隔長さを示す。N*は、連続したNに相応する正規化因子である。このようなリーマン合計は、当業者に公知である。
【0023】
ここで記載した少なくとも1つのスペクトル相関関数K(δλ)を決定する方法の他に、少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)と少なくとも1つのパターン関数R(λ)の比較に用いることができる他の相関関数も従来技術及び数学から公知である。
【0024】
少なくとも1つのスペクトル相関関数K(δλ)の本質から、検証ステップの4番目のサブステップでは、少なくとも1つの化学化合物Vが媒体中に含有されているのかどうかに関する情報を得ることができる。検出すべき化学物質のスペクトル応答関数が少なくとも1つのパターン関数R(λ)として使用される場合には、例えば、パターン関数とスペクトル応答関数がよく相関している。例えば、スペクトル応答関数が、特殊な波長で鋭い、すなわち理想的な場合に無限に狭い最大値(ピーク)を有する場合には、スペクトル相関関数K(δλ)は、波長δλ=0で、無限に狭いピークの高さを有し、そうでなければ0に等しい。実際に定期的に生じるスペクトル応答関数の有限幅は、相関関数も相応して広くなる。
【0025】
実際に生じるような少なくとも1つのスペクトル相関関数K(δλ)の有限幅にもかかわらず、少なくとも1つの化学化合物Vが媒体中に含有されているかどうかの情報は、パターン認識ステップにより、少なくとも1つのスペクトル相関関数から得ることができる。特に、少なくとも1つのスペクトル相関関数K(δλ)は、δλ=0の付近(理想的な場合には丁度δλ=0、下記参照)に特徴的な最大値を有し、かつ引き続き(0点の右と左)低下する。通常は、検出すべき化学化合物のスペクトル応答関数は、公知である(例えば、比較測定値から又は相応のデータベースから)ので、少なくとも1つのスペクトル相関関数K(δλ)の経過も相応して予測でき、かつパターン認識ステップでは、目的を定めてこのスペクトル相関関数K(δλ)の存在を試験できる。例えば、パターン認識ステップでのこの試験は、市販のパターン認識−ソフトウェアを利用しながら実施でき、例えば、相応のパターン認識アルゴリズムを利用しながら実施できる。この場合に、少なくとも1つの化学化合物が媒体中に含有されているかどうかという"デジタル"情報に必ずしも遭遇する必要はなく、むしろ例えばこの少なくとも1つの化学化合物、もしくは少なくとも1つの化学化合物の幾つかが存在する確率を生じることができる。例えば、80%の確率で特定の化学化合物Vが媒体中に存在している中間結果が、実験者にアウトプットされる。
【0026】
検証ステップの実施に関しては、パターン認識ステップが結論付けられる。しかし、検証ステップが他のサブステップを含んでいて、かつ必ずしも記載した順序で実施する必要が無いことを指摘しておく。
【0027】
検証ステップとは別々に実施するのが有利である分析ステップは、それ自体が少なくとも2つのサブステップを有する。同様に以下に記載されている分析ステップのサブステップは、記載された順序で実施する必要がなく、かつ他のサブステップを加えてもよい。方法は、分析ステップと検証ステップの他に、更なる方法ステップを含んでいてもよい。
【0028】
分析ステップの第一のステップでは、少なくとも1つの励起波長λEXを有する少なくとも1つの第二の分析放射線に媒体を照射する。第一の分析放射線に関する上記の注釈は、相応して第二の分析放射線にも当てはまる。また、1つの分析放射線の代わりに、複数の照射源を同時に、交互に又は連続的に使用することもできる。第二の分析放射線は、第一の分析放射線と同じ分析放射線であってよいので、特に同一の照射源を使用することができる。しかし、第一の分析放射線とは異なり、ここでは励起波長λEXのバリエーションが必ずしも必要ではないので、濃度cの情報を生じるために、明確に設定された励起波長λEXを有する照射源を使用することもできる。しかし、実際には第二の分析放射線の励起波長λEXは、例えば、波長領域を連続的にスキャンすることにより、又は2個以上の波長の間で切換えることにより2つの異なる波長を有する。
【0029】
分析ステップの第二のサブステップでは、媒体及び/又は場合により該媒体中に含有される少なくとも1つの化学化合物により、波長λEXの第二の分析放射線に対する応答として吸収、発光、反射及び/又は散乱された放射線を用いて、少なくとも1つの化学化合物Vの濃度cが推定される。この目的で、少なくとも1つのスペクトル分析関数B(λEX、λRES)を生成し、その際λRESは、媒体及び/又は少なくとも1つの化学化合物の応答波長である。上記の少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)と同様に、少なくとも1つのスペクトル分析関数B(λEX、λRES)は、必ずしも直に検出器シグナルである必要はなく、反対に例えばまず変換(例えば、コンピューター又はフィルターによる再処理)又は他の変形を実施することができる。複数のスペクトル分析関数B(λEX、λRES)、例えば透過関数と蛍光関数を把握することもできる。
【0030】
記載したように、少なくとも1つのスペクトル分析関数は、励起波長λEXと応答波長λRESの両方の関数である。例えば、種々の応答波長λRESを、個々の励起波長λEXに関して測定できる。しかし、例えば、広帯域検出器を用いて、スペクトル分析関数B(λEX、λRES)を応答波長λRESの波長領域にわたる積分により把握するのが適切である。しかし、この場合に少なくとも1つの励起波長λEXは、有利には"遮蔽"するので、これが把握した応答波長λRESの波長領域内に含まれないか、又は僅かなレベルでのみ含まれる。これは、例えば相応のフィルター技術によって行うことができ、その際、励起波長λEXがフィルターアウトされる。この場合に、例えば、エッジフィルター、バンドパスフィルター又は極性化フィルターを使用することができる。このように、少なくとも1つのスペクトル分析関数は、応答波長領域にわたる積分により単に励起波長λEXの関数として把握される。これはシグナルの評価を著しく簡素化する。
【0031】
次に、少なくとも1つのスペクトル分析関数B(λEX、λRES)から、少なくとも1つの化学化合物Vの濃度cが推測される。このステップは、スペクトル分析関数B(λEX、λRES)と媒体中の化学化合物の濃度cの間で公知の関数c=f(B)を用いて行われる。従って、スペクトル分析関数B(λEX、λRES)と濃度cの間の関数fを決定できる。このために、例えばリファレンス及び/又は校正測定値から得られた相応の比較データのセットが表にまとめられている。多くの場合に、関数fは(少なくとも近似的に)分析により公知である。従って、例えば蛍光シグナルは、検出すべき少なくとも1つの化学化合物の濃度に少なくとも近似的に直接に比例する。再び、吸収シグナルから、ランベルト・ベールの法則により濃度を推測することができる。
【0032】
しかし1つの問題は、少なくとも1つのスペクトル分析関数B(λEX、λRES)が通常は極めて弱いシグナルしか有さないことである。それというのも、検出すべき少なくとも1つの化学化合物が極めて僅かな濃度でしか媒体中に含有されていないからである。従って、S/N比ならびにそれにより生じる結果も不十分である。更なる問題は、バックグランドシグナルが存在することである。なぜならば、例えば媒体自体が相応する波長領域内でスペクトル分析関数B(λEX、λRES)に寄与するからである。この問題点は、様々な方法で減少させることができる。従って、例えば少なくとも1つのスペクトル分析関数のバックグランドを予め実験的に測定し、かつ例えば、少なくとも1つの化学化合物を含有しない媒体において相応の測定を実施することによって表にできる。このようなバックグランドシグナルは、少なくとも1つのスペクトル分析関数を評価する前に、かつ少なくとも1つのスペクトル分析関数の前の濃度を算出する前に、少なくとも1つのスペクトル分析関数から引くことができる。また、少なくとも1つのスペクトル分析関数は、二者択一的に、又は更に、例えば相応のフィルターを用いることにより再処理できる。先に既に記載したような応答波長λRESの所定の波長領域にわたる少なくとも1つのスペクトル分析関数の全体的な把握は、シグナル強度の増大に、ひいては評価の信頼性に寄与する。
【0033】
本発明による方法の特に有利な実施態様では、二者択一的に、又は更にロックイン法を使用できる。この場合に、第二の分析放射線は、周波数fで周期的に変調される。このようなロックイン法は分光分析法や電子工学の他の分野から公知である。例えば、少なくとも1つのスペクトル分析関数は、時間解像度を用いてB(λEX、λRES, t)と把握される。応答波長λRESの波長領域にわたり全体的な把握も可能であり、この場合に、少なくとも1つのスペクトル分析関数は、時間解像度を用いてB(λEX, t)と把握される。変調周波数は、例えば数十Hz〜数十kHzの間の範囲内であることができる。例えば、電磁放射線(例えば、可視、赤外又は紫外スペクトル領域)を使用する場合には、少なくとも1つの第二の分析放射線のビームパスにおいて、いわゆる"チョッパー"の使用により変調を形成できる。
【0034】
少なくとも1つのスペクトル分析関数B(λEX、λRES, t)を評価するために、変調周波数f(すなわち、所定のスペクトルの範囲内)において、少なくとも1つのスペクトル分析関数の周波数スペクトルから簡単にシグナルを評価する通常の高周波法を使用できる。このような高周波法には、例えば周波数混合が含まれ、これにより少なくとも1つのスペクトル分析関数と変調数波数fのシグナルが混合され、続いて相応のフィルター、特にローパスフィルターが続く。
【0035】
数学的評価もできる。従って、例えば方程式:
【数4】

により、まず少なくとも1つのスペクトル分析関数B(λEX、λRES, t)から少なくとも1つのフィルターしたスペクトル分析関数が作られる。
【0036】
この場合に、τは、例えばエッジパスフィルター又はバンドパスフィルターのエッジに相応する時間定数である。このようにフィルターされたスペクトル分析関数B(τ, λEX、λRES)は、元のシグナルB(λEX、λRES, t)と比べて著しくきれいになる。それというのも、このフィルターしたシグナルは、変調周波数fの周辺で極めて狭い周期間隔(約1/τ)の幅でのみノイズと妨害シグナルを有するからである。
【0037】
引き続き、上記のように、きれいにし、フィルターしたシグナルB(τ, λEX、λRES)から一般的に実験的に算出又は分析により導いた方程式c=f(B)を用いて例えば、媒体中の少なくとも1つの化学化合物の濃度を推定できる。従って、蛍光シグナルの場合には、次の方程式:
【数5】

により、(例えば実験的に算出または作表した)最初の比例定数K1により、濃度cを推定できる。
【0038】
吸収シグナルの場合には、例えば、ランベルト・ベールの法則の変形に相当する方程式:
【数6】

により、第二の比例定数K2により濃度を推定できる。
【0039】
このように、記載した変法のうち1つに示した方法を使用しながら、少なくとも1つの化学化合物Vが媒体中に含有されているかどうかを早くかつ確実に算出できるだけではなく、同様に引き続き濃度を算出できる。特に、該方法は検証ステップにおいて、化合物Vが実際に媒体中に含有されていることが確認された場合にだけ実施することができる。これは、記載した方法を簡単かつ信頼できる方法で自動化できることに寄与し、その際、相応の中間結果(例えば、特定の化学化合物の存在又は不在)を出すことができる。例えば、相応のコンピューター及びコンピューターアルゴリズムを用いる方法の自動化も、簡単かつ信頼できる方法で可能である。
【0040】
本発明による方法は、様々な方法で再処理できる。有利な再処理は、記載した実施態様の変法のうち1つに示した検証ステップに関し、かつ特に媒体自体が少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)に影響を及ぼし得るという問題に関する。従って、特に少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)は、検出すべき少なくとも1つの化学化合物に由来するのではなく、媒体自体及び/又は媒体中に含有される不純物に由来するシグナル部分を有する。このようなシグナル部分は、少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)においてバックグランドシグナルを引き起こす。
【0041】
もう1つの問題点は、媒体のマトリックスが少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)のシフトを生じ得ることから成る。特に、このことは媒体のマトリックスが、少なくとも1つの化学化合物、ひいてはこれらの少なくとも1つの化学化合物のスペクトル特性に分子又は原子的な影響を及ぼすことに起因する。これらの作用の変種は、いわゆるソルバトクロミズムであり、これは溶剤(媒体)の作用下に、例えばスペクトルの特徴的な最大値が波長シフトを生じるように化合物のスペクトルがシフトを引き起す作用である。
【0042】
本発明によれば、この作用は、少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)の代わりに、又はこれに加えて、少なくとも1つの生の応答関数(raw response function)A’(λ’)が把握される場合に遭遇する。引き続き、この少なくとも生の応答関数は、方程式:
A(λ)=A’(λ’)−H(λ’) (5)
に相応する少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)に変換される。
【0043】
この場合にλは、シフト修正波長、特にソルバトクロミズム効果だけ修正した波長であり、これは例えば次のように:
λ=λ’−Δλs (6)
計算される。
【0044】
この場合に、Δλsは、予め例えば実験的に算出しておくことができ、作表するか、又は相応の量子力学的計算により算出できる所定の波長シフト(ソルバトクロミズムシフト)である。
【0045】
従って、例えば、化合物Vを含有する媒体のスペクトル応答関数を、化合物Vを含有するリファレンス媒体及び/又はリファレンス応答関数と比較できる。シフトからは、相応して波長シフトΔλsが算出できる。
【0046】
二者択一的な方法では、予め先に記載したスペクトル相関関数と同様にスペクトル相関関数K(δλ)が使用される。この場合に、化合物Vを含有する媒体のスペクトル応答関数と、同様に化合物Vを含有する他の媒体(リファレンス媒体)のスペクトル応答関数の間で相関が形成される。基準応答関数を第二のスペクトル応答関数の代わりに使用できる。既に例えば前記のソルバトクロミズム効果、及び化合物Vのスペクトル特性に対する媒体の作用により、互いに2つのスペクトルがシフトしたので、スペクトル相関関数の最大値は、もはやδλ=0にはない。その代わりに、波長軸上の0点に対して波長シフトΔλs分だけシフトする。0点に対するスペクトル相関関数K(δλ)の最大値のシフトから、Δλsを決定できる。このように、自動化法であっても前記相関関数K(δλ)を使用しながら、実験者が必ずしも介入することなく、簡単に波長シフトΔλsを算出できる。しかし、上記のように付加的に又は二者択一的に、波長シフトΔλsの種々の値を、種々の公知の媒体に対してプロトコールし、かつ作表し、必要な場合に呼び出して使用できる。
【0047】
二者択一的に、記載した波長シフトの校正の他に、方程式(5)に示されているように、バックグラウンドも校正されるか、又は少なくとも減少する。この目的で、バックグランド関数H(λ’)が使用される。このバックグランド関数H(λ’)を決定するために、種々の方法が利用される。一方で、更に種々のバックグランド関数を作表でき、例えばバックグランド関数が実験的に算出される。従って、例えば化合物Vを含有する媒体のスペクトル応答関数を、特に簡単に差を取ることにより化合物Vを含有していない媒体のスペクトル応答関数及び/又はリファレンス応答関数と比較できる。この偏差から、例えば、フィット関数、特にフィットした多項式の形、又は似たような関数の形でスペクトルバックグランドH(λ’)を決定できる。このようなフィッティングルーチンは、市販されていて、かつ数多くの分析アルゴリズムの構成部分である。得られたスペクトルバックグランド関数は、例えば蓄積され、かつ必要な場合に呼び出すことができる。
【0048】
二者択一的に、かつ更に、スペクトルバックグランドH(λ’)を決定するために、相関を使用できる。この場合に、方程式(5)により、スペクトル応答関数A(λ)への生の応答関数A’(λ’)の変換を実施できる(上記参照)。この場合に、例えばバックグランド関数(又は二者択一的に、又は更に波長シフトΔλs)については、特定のセットのパラメーターを、例えばフィット関数、例えば多項式をバックグランドにフィッティングした結果として仮定できる。引き続き、仮定したパラメーターセットでこの変換を実施した後に、方程式:
【数7】

により相関関数を決定できる。
【0049】
この相関関数K(δλ)は方程式(1)に相当するが、しかし今では変換したスペクトル応答関数A(λ)を有している。同時に、リファレンス相関関数KAuto(δλ)は次の方程式:
【数8】

により形成される。
【0050】
この2番目のスペクトル相関関数KAuto(δλ)は、それ自体との少なくとも1つのパターン関数R(λ)の自己相関に相応する。理想的な場合には、相関関数K(δλ)は、自己相関関数KAuto(δλ)と全く同じである。少なくとも1つのバックグランド関数(及び場合により、二者択一的に又は更に波長シフトΔλs)に選択されたパラメーターセットは、K(δλ)をKAuto(δλ)に近似させることにより最適化できる。より良く一致するほど、パラメーターセットの選択も一層よくなる。これらの方法は、例えば、公知の数学的方法(最小二乗法)を用いて数学的に簡単に自動化できる。閾値を定義することもでき、その際、関数K(δλ)が所定の閾値(又はそれより良い値)まで相関関数KAuto(δλ)と一致した時に反復的な最適化が中断する。
【0051】
本発明による方法もしくは上記の構成のうち1つにおいて該方法を実施するための本発明による装置は、公知の方法かつ装置と比べて多くの利点を有する。特に、1つの利点は記載した方法の簡単な自動化である。従って、該方法は簡単に自動化でき、かつ特にin situでも使用できる小さく簡単に取り扱う測定装置に組み込むことができる。それにもかかわらず、記載した方法による分析は丈夫で信頼できる。それというのも、記載した妨げになる影響を取り除くか又は著しく減少させることができるからである。
【0052】
従って、本発明による方法は一方では種々の媒体中の内容物の濃度を正確に決定するために使用できる。他方で、特に大気中に浮遊している酸化窒素、二酸化硫黄又は細かい物質のような汚染物質の決定に使用できる。
【0053】
他方で、本発明による方法は、少なくとも1つの化学化合物Vを標識物質として含有している媒体の信頼性又は非信頼性を決定するためにも用いられる。その際に、既に存在する内容物を化学化合物として使用できる。しかし、別々に標識物質を添加することもできる。この場合に、特に有利なことは、視覚でも通常の分光分析法によっても同定できない程に僅かな量で標識物質を添加できることである。従って、本発明による方法は、相応に標識した製品パッケージ、鉱油の信頼性を決定するため、及び/又は物品の信頼性をテストするために、又は(場合により違法な)操作の存在を明らかにするために使用できる。
【0054】
更に、媒体の製造の際に由来する副生成物、又は媒体(例えば、溶剤、分散液、プラスチックなど)の製造の際に使用される触媒の痕跡を化学化合物Vとして検出できる。植物油のような天然生成物の場合には、例えば(油を含有する)植物の培養現場では典型的である物質を検出することができる。これらの物質の相同性又は非相同性を決定することにより、天然生成物、例えば油の起源を確認又は否定することができる。同様のことは、例えば石油貯蔵所によって一般的な微量成分のスペクトルを有する石油のタイプにも当てはまる。
【0055】
少なくとも1つの化学化合物を、媒体、例えば液体に意図的に添加する場合には、このように標識された媒体を信頼できるものとして決定するか、又は可能性として有り得る操作を認識することができる。このように税制上優遇されている燃料油は、例えば税金がより重くかかるディーゼル油と区別でき、又は石油精錬所のような大規模な工場では、液体生成物流を標識し、これにより追跡できる。本発明による方法は、極めて低濃度の少なくとも1つの化合物Vを決定できるので、それに応じて低濃度で媒体に添加できる。該化合物の存在による可能性としてあり得るマイナスの影響は、例えば、燃料油もしくはディーゼル油が燃焼する際に大幅に排除できる。
【0056】
同様に、例えば、規則にかなって製造され、納税し、かつ販売されたアルコール飲料を、不法に製造され流通された物品と区別するために蒸留酒を標識できる。当然ながら、ヒトの飲食にとって安全である化学化合物Vはこの場合に標識に使用されるべきである。
【0057】
更に、少なくとも1つの化学化合物Vは、プラスチック又は塗料の標識に使用することもできる。これは、例えばプラスチックもしくは塗料の信頼性又は非信頼性を決定するか、又は使用済のプラスチックをリサイクルの観点から適切な分類を保証するために行ってもよい。本発明による方法の増大した感度は、この場合に利点である。それというのも、少なくとも1つの化学化合物、例えば染料は、極めて少量でのみ添加でき、それによりプラスチックまたは被覆の視覚的外観に影響を与えないからである。
【0058】
本発明による方法は、液体媒体中に均質に分散した少なくとも1つの化学化合物V’の相同性又は非相同性の決定に使用するのが特に有利である。
【0059】
液体媒体として、特に、有機液体及びそれらの混合物、例えば、アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ネオペンタノール又はヘキサノール、グリコール、例えば、1,2−エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−、2,3−又は1,4−ブチレングリコール、ジ−又はトリエチレングリコール、又はジ−又はトリプロピレングリコール、エーテル、例えばメチルターブチルエーテル、1,2−エチレングリコールモノ−又はジメチルエーテル、1,2−エチレングリコールモノ−又はジエチルエーテル、3−メトキシプロパノール、3−イソプロポキシプロパノール、テトラヒドロフラン又はジオキサン、ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン又はジアセトンアルコール、エステル、例えばメチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート又はブチルアセテート、脂肪族又は芳香族炭化水素、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、石油エーテル、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン、デカリン、ジメチルナフタレン、石油揮発性溶剤、鉱油、例えばガソリン、灯油、ディーゼル油又は燃料油、天然油、例えばオリーブ油、大豆油又はヒマワリ油、又は天然又は合成モーター油、作動油又はギアー油、例えば、車両エンジン油又はミシン油、又はブレーキ液が挙げられる。これらには、特殊なタイプの植物、例えば、ヨウシュナタネ又はヒマワリの加工により得られる製品も含まれると解釈すべきである。このような製品は、"バイオディーゼル"という用語でも公知である。
【0060】
本発明によれば、該方法は特に鉱油中での少なくとも1つの化学化合物Vの相同性又は非相同性ならびに濃度を決定するための用途がある。この場合に、少なくとも1つの化学化合物は鉱油用の標識物質であるのが特に有利である。
【0061】
鉱油用の標識物質は、通常はスペクトルの可視波長でも非可視波長領域内でも吸収を示す物質である(例えば、NIR内)。極めて様々な化合物クラスが、標識物質として提唱される:フタロシアニン、ナフタロシアニン、ニッケル−ジチオール錯体、芳香族アミンのアンモニウム化合物、メチン染料及びアズレンスクエア酸染料(例えば、WO 94/02570 A1、WO 96/10629 A1、先願のドイツ国特許明細書10 2004 003 791.4)、またアゾ染料(例えば、DE 2129590 A1、US 5252106、EP 256460 A1、EP 059818 A1、EP 0519270 A2、EP 0679710 A1、EP 0803563 A1、EP 0989164 A1、WO 95/10581 A1、WO 95/17483 A1)。ガソリン又は鉱油を着色/標識するためのアントラキノン誘導体は、文献US 2611772、US 2068372、EP 1001003A1、EP 1323811A2及びWO 94/21752A1ならびに先願のドイツ国特許明細書103615040に記載されている。
【0062】
鉱油から抽出し、かつ引き続き誘導化した後にようやく視覚的又は分光学的に認識可能な呈色反応を示す物質も、鉱油用の標識物質として記載されている。このような標識物質は、アニリン誘導体(例えば、WO 94/11466A1)又はナフチルアミン誘導体(例えば、US 4209302、WO 95/07460 A1)である。本発明の方法によれば、アニリン誘導体及びナフチルアミン誘導体は、予め誘導化せずに検出できる。
【0063】
前記の文献中で部分的に述べてあるように、色を視覚的又は分光学的により良く決定するように増大した呈色反応を得るため、又は標識物質を濃縮するために、本発明より抽出及び/又は誘導化をすることもできるが、しかし通常は必要ではない。
【0064】
文献WO 02/50216A2には、特に芳香族カルボニル化合物がUV−分光器により検出される標識物質として開示されている。本発明による方法を用いると、これらの化合物の検出ははるかに少ない濃度で可能である。
【0065】
自明ながら、前記文献中に記載された標識物質は、他の液体の標識にも使用でき、その際、このような液体は既に例示的に記載されている。
【0066】
実施例:
鉱油用の標識物質として、相関分光法により種々のアントラキノン染料を試験した。
A)アントラキノン染料の製造
【化1】

(CAS−No.:108313−21−9, モル質量:797.11, C546042λmax=760nm(トルエン))
1,4,5,8−テトラキス[(4−ブチルフェニル)アミノ]−9,10−アントラセンジオンを文献EP204304A2と同じように合成した。
【0067】
このために、4−ブチルアニリン(97%濃度)82.62g(0.5370mol)を製造し、1,4,5,8−テトラクロロアントラキノン(95.2%濃度)11.42g(0.0314mol)、酢酸カリウム13.40g(0.1365mol)、無水硫酸酸銅(II)1.24g(0.0078mol)及びベンジルアルコール3.41g(0.0315mol)を添加し、かつこのバッチを130℃まで加熱した。これを130℃で6.5時間撹拌し、次に170℃まで加熱し、かつ170℃で6時間撹拌した。60℃まで冷却した後に、アセトン240mlを添加し、次に25℃で吸引濾過し、かつ残留物を初めにアセトン180mlで洗浄し、次に濾液が17μSの熱伝導係数を有するまで水850mlで洗浄した。洗浄した残留物を最後に乾燥させた。収率78.4%に相応する生成物19.62gが得られた。
【0068】
全く同じように、1,4,5,8−テトラクロロアントラキノンと相応の芳香族アミンを反応させることにより、以下に記載する化合物を合成した。
【0069】
【化2】

【0070】
【化3】

【0071】
【化4】

【0072】
【化5】

【0073】
本発明の他の利点と構成は、図により示される以下の実施態様例に関連して説明することにする。しかし、本発明は示された実施態様例に制限されることはない。
【0074】
図1Aは、相対濃度1でのカチオン性シアニン染料の吸収スペクトルを示す。
【0075】
図1Bは、相対濃度0.002での図1Aによるカチオン性シアニン染料の吸収スペクトルを示す。
【0076】
図2Aは、図1Aによるスペクトルの相対関数を示す。
【0077】
図2Bは、図1Bによる吸収スペクトルの図2Aによる相対スペクトルを示す。
【0078】
図3は、本発明の方法を実施するための本発明による装置の実施態様例を示す。
【0079】
図4は、本発明の一例の図式的フローチャートを示す。
【0080】
図5Aは、ディーゼル燃料油中の上記例1によるアントラキノン染料の濃度−吸収測定の例を示す。
【0081】
図5Bは、ディーゼル燃料油中の上記例1によるアントラキノン染料の濃度−蛍光測定の例を示す。
【0082】
図1Aと図1B中には、2つの異なる濃度でのカチオン性シアニン染料の吸収スペクトルが記載されている。この場合には、図1B中のシアニン染料の濃度は、単に図1A中のシアニン染料の濃度の0.002である。図1Aから分かるように、このシアニン染料は、約700nmにおいて吸収で鋭い最大値を有し、これを"Ext"と称する。図1Aに記載された吸収をこの最大値まで正規化し、その際、最大の吸収値を任意に1の値までスケールした。図1B中の吸収を同じ換算係数でスケールし、これにより図1Aによる吸収と比較可能である。この場合に、λEXは励起波長を示す。図1Aに比べて、図1Bのシアニン染料の濃度は500倍少なく、約700nmでの本来の鋭い吸収バンドはノイズにより完全に消されていることが分かる。従って、この試験では、このような希釈の場合でさえも、そもそもシアニン染料(化合物)が溶液(媒体)中に含有されているのかどうかが信頼性をもって予測できない。
【0083】
反対に、図2Aと2B中では、図1Aと1Bによる試験の相関スペクトルをプロットした。この場合に、プロットは任意の単位で行った。その際、図2A中の相関スペクトルK(δλ)は、図1Aによるスペクトルに相応し、図2B中のプロットの相関関数K(δλ)は、図1B中の記載に相応する。相関関数は、それぞれ波長シフトδλの関数としてプロットした。
【0084】
図2Aと2B中の相関関数は、この実施態様例では任意の単位で記載されている。相関関数の計算に関しては、上記の方程式(1)を使用した。この場合に、スペクトル応答関数A(λ)として、図1Aと1B中の記載によるスペクトルを使用した。パターン関数R(λ)として、データ蓄積したシアニン染料の"きれいな"吸収関数、すなわち、良好なS/N比を有する十分な濃度での吸収関数を使用した。この具体的な例では、図1Aによる吸収関数は、それ自体がパターン関数R(λ)として使用された。因数Nでの正規化はこの場合に省略したので、プロットは任意の単位である。
【0085】
従って、この実施例では図2A中の例の相関関数K(δλ)はいわゆる自己相関関数である。なぜならば、図1Aによるスペクトルの相関がそれ自体で決定されたからである。事実上、殆どノイズの無い相関スペクトルが得られ、これはシアニン染料の特徴であり、かつ例えばデータベース内に蓄積してもよい。
【0086】
図1Bによる極めて騒雑な吸収シグナルとは反対に、図2Bによる相関関数はノイズに消されていない鋭い輪郭を示した。従って、500倍希釈のシアニン染料の場合でも、吸収の相関関数が、図2Aの自己相関関数と著しく似て示されていることが分かる。特定のシアニン染料が溶液中に含有されているかどうかを決定する場合には、例えばパターン認識により、図2Bによる相関関数を図2Aによる相関関数と比較し、かつシアニン染料が溶液中に含有されている信頼性を計算できる。このように、この信頼性が決定される確証ステップを実施できる。
【0087】
図3には、可能な実施態様例の形で本発明による方法を実施するための装置が記載されている。装置は、試料ホルダー(310)を有し、この実施態様例では液体媒体(312)を溶液の形で収容するためのキュベットとして形成されている。
【0088】
更に、図3による装置は照射源(314)を有する。この照射源(314)は、例えばダイオードレーザー又は染料レーザーのような可変波長レーザーであることができる。二者択一的に又は更に、発光ダイオード、例えば、種々の発光波長の発光ダイオードの間で切換えが可能な発光ダイオードアレイを備えることもできる。この実施態様例では、照射源(314)は、二重関数を満たし、第一の分析放射線(316)を生じる第一の照射源としても、第二の分析放射線(318)を生じる第二の照射源としてもはたらく。
【0089】
従って、第一の検出器(320)と第二の検出器(322)が更に備えられる。これらは、第一の検出器が媒体により透過される第一の分析放射線(316)の部分(324)を検出し、かつ第二の検出器(322)が第二の分析放射線(318)に応答して媒体(312)から透過された蛍光ライト(326)を検出するように配置される。この場合に、検出器(320)と(322)の配置は、透過光(324)と蛍光ライト(326)が相互に垂直に位置するように選択される。その際、透過光(324)は、第一の分析放射線(316)の延長部分で測定される。更に、第二の分析放射線(318)のビームパス中では、例えば分節したホイールの形で配置される光学"チョッパー"(328)が備えられる。このようなチョッパーは当業者に公知であり、かつ第二の分析放射線(318)を周期的に中断するように使用される。更に、蛍光ライト(326)のビームパス中では、光学エッジフィルター(330)が備えられる。
【0090】
第二の検出器(322)は、ロックイン増幅器(332)に接続し、次にこれはそれ自体がチョッパー(328)に接続している。
【0091】
中央制御と評価ユニット(334)が更に備えられている。この例では、中央制御と評価ユニット(334)がチョッパー(328)、ロックイン増幅器(332)、照射源(314)及び第一の検出器(320)に接続している。図3に記号により示されたインプット/アウトプットインターフェース(336)により、実験者は、中央制御と評価ユニット(334)を操作し、ならびに中央制御と評価ユニット(334)から情報を引き出すことができる。例えば、インプット/アウトプットインターフェース(336)は、キーボード、マウス又はトラックボール、スクリーン、モバイルデータメモリーのインターフェース、データ電気通信ネットワークへのインターフェース又は同様に当業者に公知のインプット及び/又はアウトプット手段を有していてもよい。
【0092】
中央制御と評価ユニット(334)は、次に相関エレクトロニックス(338)を有する。この例では(場合により相応の増幅器エレクトロニックス又はシグナル調整エレクトロニックスを介して)第一の検出器(320)に接続している。中央制御と評価ユニット(334)は更に決定論理回路(340)を有し、これは相関エレクトロニックス(338)に接続する。更に評価装置(342)が備えられ、これは次に決定論理回路(340)に接続している。最後に、1つ以上のプロセッサーの形で中央演算ユニット(334)も備えられている。これは、前記の3つのコンポーネント(338)、(340)及び(342)に接続し、かつこれらのコンポーネントを制御できる。中央演算ユニット(344)は、例えば、1つ以上の揮発性及び/又は非揮発性メモリーの形でデータメモリー(346)を有する。
【0093】
図3による配列は、当業者により簡単に変更してもよく、かつ相応の状況に合わせられることを述べておく。前記中央制御ユニット及び評価ユニット(334)のコンポーネントは、必ずしも別々である必要はなく、むしろ物理的に組合わさったコンポーネントである。例えば、1つの電子装置は中央制御と評価ユニット(334)の複数のコンポーネントの関数を利用してもよい。ロックイン増幅器(332)は、完全に又は部分的に中央制御ユニット及び評価ユニット(334)に組み込まれていてもよい。この他に、図3には表示されていない付加的なコンポーネント、フィルター、増幅器、更なるコンピューターシステム又はそのようなものを備えて、更に検出器320、322のシグナルをきれいにすることもできる。更に中央制御ユニット及び評価ユニット(334)のコンポーネントの関数は、ハードウェアコンポーネントの代わりに相応のソフトウェアコンポーネントにより完全に又は部分的に引き継ぐこともできる。例えば、決定論理回路(340)は必ずしもハードウェアコンポーネントに関わるのではなく、例えば、相応のソフトウェアモジュールを備えてもよい。同様のことは、相応のエレクトロニックス(338)と評価装置(342)にも当てはまる。例えば、これらのコンポーネントの幾つか又は全ては、コンピュータープログラム又はコンピュータープログラムモジュールであってよく、これらは中央演算ユニット(344)において実行される。
【0094】
図3による装置の機能性に関しては、本発明による方法の可能な実施態様例について図4に示された図式フローチャートを用いて以下に説明する。図4に記号で示された方法ステップは、必ずしも記載された順番で実施されるではなく、かつ図4には示されていない他の方法ステップで実施することもできる。方法ステップは、平行して又は繰り返し実施してもよい。
【0095】
第一の方法ステップ(410)では、媒体(312)は、照射源(314)により第一の分析放射線(316)で照射され、その際、第一の分析放射線(316)の波長λは変化する。これは例えば、波長λが特定の領域内に入れ替われるいわゆる"スキャン"であってよい。第二の分析放射線(318)は、この方法ステップ(410)の間活性ではない。チョッパー(328)は、最大透過度にスイッチを入れ、かつ第一の分析放射線(316)の照射を阻害しない。
【0096】
方法ステップ(412)では、第一の分析放射線(316)の透過光(324)は、検出器(320)により把握され、かつ相応の検出器シグナルが生成される。この検出器シグナルは、相関エレクトロニックス(338)に伝えられ、その際に場合により付加的なシグナル調整ステップ、例えば、フィルタリング又はそのようなものが挿入されてもよい。相関エレクトロニックス(338)に関しては、このように生成されたシグナルは、第一の分析放射線(316)の波長λ’の"生の応答関数"を生じる。例えば、相関エレクトロニックス(338)が各時点で発光したばかりの第一の分析放射線(316)の波長λ’に関する情報を有するように照射源(314)は、中央制御ユニット及び評価ユニット(334)により運転してもよい。
【0097】
引き続き生の応答関数A’(λ’)のクリーニングは、例えば相関エレクトロニックス(338)で実施される方法ステップ(414)で行われる。上記のようなこのクリーニングに関しては、データメモリー(346)の情報を使用することができる。このように、例えば、公知のソルバトクロミズム効果は、波長λ’を波長λに変換することにより、ステップ(414)できれいにできる(方程式6参照)。二者択一的に又は更に、前記の方程式5により、生の応答関数A’(λ’)を相応のバックグランドシグナルH(λ’)からきれいにしてもよい。このために、データメモリー(346)に蓄積された情報を同様に用いてもよい。このように、方法ステップ(414)で生の応答関数A’(λ’)からスペクトル応答関数A(λ)が生じる。
【0098】
引き続く相関ステップ(416)では、このように生じたスペクトル応答関数A(λ’)を相関フォーメーションに課す。第一の分析放射線(316)が連続的に又は段階的に同調したかどうかにより、例えば、方程式1又は方程式3を使用してもよい。この場合に、例えば、データメモリー(346)に蓄積されているパターン関数R(λ)を用いてもよい。このために、例えば中央演算ユニット(344)はデータベースを有することができ、これを例えば再びデータメモリー(346)に蓄積してもよい。
【0099】
このように、方法ステップ(416)において、例えば、図2Aと2Bに記載した相関シグナルによる相関シグナルが生じる。この相関シグナルは、方法ステップ(418)で特殊なパターンに関して試験でき、この事はパターン認識ステップの範囲内で行ってもよい。このように、上記のように媒体(312)中の特定の化合物が存在する確率についての情報が得られる。この確率についての情報は、例えば、インプット/アウトプットインターフェイス(336)を介してユーザー又は実験者へアウトプットすることができる。パターン認識ステップ(418)が完了してから、次にサブステップ(410〜418)を含む検証ステップ(420)が、この実施態様例で結論づけられる。
【0100】
次に検証ステップ(420)の結果に基づいて決定ステップ(422)を実施する、すなわち、例えば、媒体(312)中に特定の化合物が存在する確率に基づいて決定ステップを実施する。この決定ステップ(422)は、例えば、図3による装置中で決定論理回路(340)において実施してもよい。場合によりデータメモリー(346)中に蓄積された閾値を設定することもできる。化合物の存在は特定の確率を上回って仮定されるのに対して、その不在はこれを下回って仮定されるのがよい。この実施例中の決定ステップ(422)では、引き続く分析ステップ(424)が実施されるかどうかに応じて決定は行われる("化合物が存在する"(426)又は"化合物が不在である"(428))。
【0101】
化合物が不在の場合に(図4中428)、相応の情報がユーザー又は実験者にアウトプットされる方法ステップ(430)を実施することができる。引き続き、該方法はステップ(432)で完了する。
【0102】
しかし、決定ステップ(422)において、化合物の存在が結論付けられた場合には(図4中426)、分析ステップ(424)が開始する。この分析ステップ(424)は、ここで記載した実施態様例では、媒体(312)の定量的蛍光分析に基づいて、もしくはこの媒体中に含有される化合物に基づいて行われる。この場合に、ロックイン増幅器を使用する場合には、化学化合物(例えば、シアニン染料)の僅かな濃度でさえも、できるだけノイズの無いシグナルが高い強さで生じるように使用される。
【0103】
分析ステップ(424)の第一のサブステップ(434)では、全体の光学装置は、今度実施すべき分析ステップ(424)により切換えられる。それに応じて、例えばロックイン増幅器(332)及びチョッパー(328)が開始する。これが既に行われていない場合には、第一の分析放射線(316)のスイッチを切ってもよい。
【0104】
引き続き、サブステップ(436)では、照射源(314)により第二の分析放射線(318)の発光が開始する。この第二の分析放射線(318)は、例えば固定された励起波長λEXで発光される。ここでも、二者択一的に相応のスキャンを実施してもよい。固定した励起波長λEXで励起する際に、例えば(媒体312中に存在することが分かっている)染料又は化学化合物に最適に適合した励起波長を選択することもできる。従って、例えばこの化学化合物の吸収最大値に相応する励起波長λEXを選択することができる。
【0105】
次に、媒体(312)もしくは化学化合物により発光される蛍光ライト(326)は、第二の検出器(322)により検出される。このようにスペクトル分析関数B(λEX、λRES)は、第二の分析放射線の波長λRESの関数として、及び蛍光放射線(326)の波長λRESの関数として生じる。このスペクトル分析関数B(λEX、λRES)は、エッジフィルター(330)の限界波長よりも大きな波長λRESを有する全ての蛍光ライト(326)が検出器(322)により積分により検出されるように、この実施態様例にて積分により把握される。
【0106】
第二の分析放射線(318)は、チョッパー(328)により、例えば、分節チョッパーホイール又は相応の多孔ディスクを用いて周期的に阻害される。この阻害の頻度は、チョッパーの前からロックイン増幅器(332)まで進む。このロックイン増幅器中では、チョッパー(328)のリファレンスシグナルの周波数混合(例えば、阻害周波数fでのコサインシグナル)が行われる。この周波数混合の後、このように生じたシグナルはローパスフィルターによりフィルターされ、かつ評価装置(342)に進む。記載した周波数混合とフィルタリングは、方程式9に示した演算処理の"ハードウェアの実現"に相応する。このように、方程式9によるシグナルB(λ、λEX、λRES)は、ロックイン増幅器(332)から評価装置(342)へ進む。
【0107】
評価装置(342)内では、引き続き媒体(312)中の化学化合物の濃度がサブステップ(440)で計算される。図3による実施態様例は蛍光分析であるので、化学化合物の濃度は、一般に蛍光ライトの強さ、ひいてはロックイン増幅器(332)により生じるシグナル(λ、λEX、λRES)に殆ど比例する。この場合にエッジフィルター(330)は、蛍光ライト(326)が照射源(314)から由来する第二の分析放射線と混ざることから阻害し、このことが定量分析をより困難にする。従って、濃度の計算は例えばデータメモリー(346)に蓄積された校正因子を用いて実施できる。これは、前述の校正測定において再び算出しておいたものである。サブステップ(440)での濃度測定の結果は、それ自体を引き続きデータメモリー(346)に蓄積してもよい。二者択一的に、又は更に、ユーザーへのインプット/アウトプットインターフェース(336)によるアウトプットは、サブステップ(442)で行っても良い。引き続き、方法をサブステップ(444)で終了するか、又は更に試料を試験してもよい。
【0108】
最後に、図5Aと5Bには、媒体(312)中の化学化合物の濃度決定をするサブステップ(440)の結果の例が記載されている。これは、上記の方法の信頼性を証明している。この場合に、化学化合物としての上記例1によるアントラキノン染料を、媒体としてのFirma Aral社のディーゼル燃料中に種々の濃度cで混合し、かつ上記の方法により同定かつ定量化した。
【0109】
7つの波長470nm、525nm、615nm、700nm、750nm、780nm及び810nmのリファレンスを安定化した発光ダイオード(LEDs)を有する照射源(314)をこのために使用し、その際、照射源(314)はこれらの発光ダイオードの発光ライトの間で切換え可能であった。更に、分析ステップ(424)では、ロックイン法を使用した。しかし、図3による実施態様例のように、チョッパー(328)を用いる変調の代わりに、この実施態様例では、発光ダイオードから発光された第二の分析放射線(318)の強さを直接に変調することもできる。このために、LEDsの電流の強さをマイクロコントローラーにより変調してもよい(例えば、中央制御ユニット及び評価ユニット(334)内の中央演算ユニット(344))。
【0110】
透過光(324)も蛍光ライト(326)も、この実施例では分析ステップ(424)用に把握し、かつ濃度cの決定に利用した。従って、この実施例では2つの別々のスペクトル分析関数B(λEX、t)が生じ、これを別々に評価した。透過光(324)の強さは、シリコン光電池により第一の検出器(320)として測定し、かつ中央制御ユニット及び評価ユニット(334)に含有されるマイクロコントローラー(この実施例では、LED制御に使用したものと同じマイクロコントローラー)を用いてデジタル化し、かつ上記のロックイン法に従って評価した。同様に、蛍光ライト(326)は第二の検出器(322)としての更なるシリコンフォトダイオードにより、RG850タイプのカラーフィルター(330)を通して把握し、かつマイクロコントローラーを用いてデジタル化し、かつ評価した。
【0111】
これらの定量化分析の結果は、図5A(吸収測定)と5B(蛍光測定)に記載されている。ディーゼル燃料中のアントラキノン染料の実際の計測濃度は、x軸に記載されているのに対して、分析ステップ(424)で決定した吸収測定(図5A)もしくは蛍光測定(図5B)の計測濃度は、それぞれy軸に示されている。4つの様々な測定試行(測定1〜測定4)を実施した。
【0112】
一方で、結果は、種々の測定結果が良好に重なり合って存在し、かつ該方法が良好な再現性を伴った結果を導いていることを示している。更に、約200ppbを下回る範囲内に僅かな偏差があり、かつ実際の計測濃度と、吸収測定もしくは蛍光測定の間に極めて良好な一致があることが分かる。その点で、この実施例は記載した方法による吸収測定も蛍光測定も、分析ステップ(424)に極めて適切であることを示している。例えば、更に本発明による方法の正確性を増すために、種々の測定法を用いて得られた濃度の統計平均値(例えば、図5Aにより吸収測定から決定した濃度c、及び図5Bにより蛍光測定から決定した濃度c)を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1Aは、相対濃度0.002での図1Aによるカチオン性シアニン染料の吸収スペクトルを表す図であり、図1Bは、相対濃度0.002での図1Aによるカチオン性シアニン染料の吸収スペクトルを表す図である。
【図2】図2Aは、図1Aによるスペクトルの相対関数を表す図である。図2Bは、図1Bによる吸収スペクトルの図2Aによる相対スペクトルを表す図である。
【図3】図3は、本発明の実施するための本発明による装置の実施態様例を表す図である。
【図4】図4は、本発明の一例の図式的フローチャートを表す図である。
【図5】図5Aは、ディーゼル燃料油中の上記例1によるアントラキノン染料の濃度−吸収測定の例を表す図であり、図5Bは、ディーゼル燃料油中の上記例1によるアントラキノン染料の濃度−蛍光測定の例を表す図である。
【符号の説明】
【0114】
310 試料ホルダー、 312 媒体、 314 照射源、 316 第一の分析放射線、 318 第二の分析放射線、 320 第一の検出器、 322 第二の検出器、 324 透過光、 326 蛍光ライト、 328 チョッパー、 330 エッジフィルター、 332 ロックイン増幅器、 334 中央制御ユニット及び評価ユニット、 336 インプット/アウトプットインターフェイス、 338 相関エレクトロニックス、 340 決定論理回路、 342 評価装置、 344 中央演算ユニット、 346 データメモリー、 410 第一の分析放射線での照射、 412 生の応答関数A(λ)の検出、 414 生の応答関数のクリーニング、スペクトル応答関数の生成、 416 相関フォーメーション、 418 パターン認識ステップ、 420 検証ステップ、 422 決定ステップ、 424 分析ステップ、 426 化合物の存在、 428 化合物の不在、 430 ユーザーへの情報のアウトプット、 432 方法の完了、 334 チョッパーとロックイン増幅器の開始、 436 第二の分析の開始、 438 蛍光の検出、 440 濃度の計算、 442 濃度のアウトプット、 444 方法の完了
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体(312)中に含有されている少なくとも1つの化学化合物Vを検出する方法であって、該方法は、Vが媒体(312)中に含有されているかどうかを決定する検証ステップ(420)と、更に少なくとも1つの化学化合物Vの濃度cを決定する分析ステップ(424)から成り、
− 前記検証ステップは、次のサブステップ:
(a1)媒体(312)を可変波長λの第一の分析放射線(316)で照射し、その際、該波長λは少なくとも2つの異なる値を取り;
(a2)分析放射線(316)に応答して媒体(312)により吸収及び/又は発光及び/又は反射及び/又は散乱された放射線(324、326)を用いて、少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)を生成し;
(a3)少なくとも1つのスペクトル相関関数K(δλ)は、少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)と、少なくとも1つのパターン関数R(λ+δλ)のスペクトル比較により形成され、その際、少なくとも1つのパターン関数R(λ)は、化学化合物Vを含有する媒体(312)のスペクトル測定関数を表し、かつその際δλは座標シフトであり;
(a4)パターン認識ステップ(418)において、少なくとも1つのスペクトル相関関数K(δλ)が試験され、かつ少なくとも1つの化学化合物Vが媒体(312)中に含有されているかどうかを推定する;
を有し、
− 前記分析ステップ(424)は、次のサブステップ:
(b1)媒体(312)を少なくとも1つの励起波長λEXを有する少なくとも1つの第二の分析放射線(318)で照射し;
(b2)波長λEXの第二の分析放射線(318)に応答して媒体(312)により吸収及び/又は発光及び/又は反射及び/又は散乱された応答波長λRESの放射線を用いて、少なくとも1つのスペクトル分析関数B(λEX、λRES)を生成し、かつこれから濃度cを推定する;
を有する、媒体(312)中に含有されている少なくとも1つの化学化合物Vを検出する方法。
【請求項2】
検証ステップ(420)において、化合物Vが媒体(312)に含有されていることが確認された場合にのみ、分析ステップ(424)を実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スペクトル相関関数K(δλ)は、以下の1つ以上の方程式(1)〜(4)により:
【数1】

(式中、Nは正規化因子であり、有利には
【数2】

である)
又は相応のリーマン合計
【数3】

(式中、適切な数の支点iにわたり合計され、その際、Δλiは、個々の支点iの間隔長さであり、N*は正規化因子であり、有利には
【数4】

である)
により、少なくとも1つの応答関数A(λ)と少なくとも1つのパターン関数R(λ)から形成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
サブステップ(a2)では、1つ以上のスペクトル応答関数A(λ)、特に透過関数T(λ)と発光関数E(λ)が生成され、その際、発光関数E(λ)は、有利には蛍光関数を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
サブステップ(a2)では、まず少なくとも1つの生の応答関数A’(λ’)が把握され、かつその際、引き続き少なくとも1つの生の応答関数を以下のように少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)に変換する:
A(λ)=A’(λ’)−H(λ’) (5)
(式中、λはシフト修正波長、特にソルバトクロミズム効果だけ修正した波長であり、
その際、
λ=λ’+Δλ (6)
であり、その式中で、Δλsは所定の波長シフトであり、かつH(λ’)は所定のバックグランド関数であり、特に第一の分析照射線(316)に対する媒体(312)自体の応答である)、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
波長シフトΔλsを、少なくとも1つの以下の方法:
− 化合物Vを含有する媒体(312)のスペクトル応答関数を、化合物Vを含有するリファレンス媒体のスペクトル応答関数及び/又はリファレンス応答関数と比較し、かつ波長シフトΔλsを方程式(6)によるスペクトルシフトから決定する;
− 媒体(312)中の化合物Vのスペクトル応答関数を、他の媒体(312)中の化合物Vのスペクトル応答関数及び/又は基準応答関数と比較することにより、特にδλ=0に対するスペクトル相関関数K(δλ)の最大値のシフトから波長シフトΔλsを決定することにより、スペクトル相関関数K(δλ)をサブステップ(a3)により形成する
により実験的に決定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
スペクトルバックグランド関数H(λ’)を、以下の少なくとも1つの方法:
− 化合物Vを含有する媒体(312)のスペクトル応答関数を、化合物Vを含有しない媒体(312)のスペクトル応答関数及び/又はリファレンス応答関数と比較し、かつ偏差からスペクトルバックグランド関数H(λ’)を決定する;
− 少なくとも1つのスペクトル応答関数A(λ)とサブステップ(a3)による少なくとも1つのパターン関数R(λ)とのスペクトル比較により形成された第一のスペクトル相関関数K(δλ)を、少なくとも1つのパターン関数R(λ)とサブステップ(a3)によるそれ自体とのスペクトル比較により形成された第二のスペクトル相関関数KAuto(δλ)にフィッティングさせることにより、スペクトルバックグランド関数H(λ’)を決定し、その際、有利には許容範囲の閾値がフィッティングに予め設定されている
により実験的に決定する、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つのスペクトルバックグランド関数H(λ’)及び/又は少なくとも1つの波長シフトΔλsは、データベース、有利にはメディアにより蓄積されたデータベースから引き出される、請求項5から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
第二の分析放射線(318)の励起波長λEXは、少なくとも2つの異なる値を取る、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのスペクトル分析関数B(λEX、λRES)は、蛍光関数を有する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのスペクトル分析関数B(λEX、λRES)は、応答波長λRESの波長領域にわたる積分により把握され、その際、有利には少なくとも1つの励起波長λEXは、この波長領域に含まれない、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
分析ステップ(424)では、ロックイン法を使用し、その際、周波数fで周期的に変調した励起波長λEXの少なくとも1つの第二の分析放射線(318)が使用される、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つのスペクトル分析関数は、時間分解的にB(λEX、λRES, t)として、有利には応答波長λRESの波長領域にわたる積分によりB(λEX, t)として把握される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
化合物Vの濃度cは、c=f(B)により決定され、その際、fは公知の、特に実験的に決定又は分析的に誘導したスペクトル分析関数Bの関数であり、特に
c=K1・B(τ, λEX、λRES) (7) 又は
c=K2・log B(τ, λEX、λRES) (8)
であり、その際、
【数5】

(式中、τは時間定数、特にフィルター、有利にはエッジフィルター又はバンドパスフィルターによる所定の時間定数であり、かつその際、K1とK2は、所定の比例定数、特に1つ以上の校正媒体、特に校正溶液により実験的に決定された比例定数である)である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの化学化合物の検出は、鉱油を同定するために及び/又は物品の信頼性を検査するために実施される、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
次のもの:
− 媒体(312)を収容するための少なくとも1つの試料ホルダー(310);
− 第一の分析放射線(316)を生成するための少なくとも1つの第一の照射源(314);
− 第一の分析放射線(316)に応答して媒体(312)により吸収及び/又は発光及び/又は反射及び/又は散乱された放射線(324,326)を検出するための少なくとも1つの第一の検出器(320);
− スペクトル相関関数K(δλ)を形成するための相関手段を有し、かつパターン認識ステップ(418)を実施するためのパターン認識手段を有する少なくとも1つの相関エレクトロニックス(338);
− 第二の分析放射線(318)を形成するための、少なくとも1つの第二の照射源(314)、有利には少なくとも1つの第一の照射源(314)と同一の少なくとも1つの第二の照射源(314);
− 第二の分析放射線(318)に応答して媒体(312)により吸収及び/又は発光及び/又は反射及び/又は散乱された放射線(324,326)を検出するための、少なくとも1つの第二の検出器(322)、有利には少なくとも1つの第一の検出器(320)とは異なる少なくとも1つの第二の検出器(322);及び
− 媒体(312)中に含まれる少なくとも1つの化学化合物Vの濃度cを決定するための評価装置(342)
を有する、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法を実施するための装置。
【請求項17】
パターン認識ステップ(418)の結果に応じて、分析ステップ(424)を開始するための決定論理回路(340)を更に有する、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
更に、第二の分析放射線(318)を周期的に変調するための少なくとも1つの変調器(328)、ならびに少なくとも1つのロックイン増幅器(332)を有する、請求項16又は17に記載の装置。
【請求項19】
少なくとも1つの第一の照射源(314)は、所定のスペクトル特性を有する複数の個々の照射源、特に複数の発光ダイオード、有利には発光ダイオードアレイを有し、その際、少なくとも1つの第一の照射源は、個々の照射源の間で切換えが可能である、請求項16から18までのいずれか1項に記載の装置。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate


【公表番号】特表2009−522541(P2009−522541A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547959(P2008−547959)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【国際出願番号】PCT/EP2006/070222
【国際公開番号】WO2007/074156
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】