媒体攪拌型粉砕装置を用いる粉砕方法
【課題】 媒体攪拌型粉砕装置を使用して固形物のナノメートルサイズ粉砕を行う粉砕方法を提供すること。
【解決手段】 媒体攪拌型粉砕装置として、攪拌軸に中空部が形成され、中空部が容器の他端近傍において容器内部に開口され、攪拌軸にはこの中空部を攪拌軸と容器内面との間の空間に連通させる粉砕媒体戻り通路が形成され、スラリ−の動きに伴って容器の他端近傍に達した粉砕媒体が、スラリー入口から攪拌軸の中空部に入り、粉砕媒体戻り通路から攪拌軸と容器内面との間の空間に戻る循環運動をするようになっており、中空部内にスラリー出口が形成され、スラリー出口を囲むようにスクリーンが設けられ、スクリーンが回転駆動されるようになった形式の装置を使用し、粉砕媒体の大きさを20〜200μmとし、攪拌軸をその周速が3〜8m/secとなるように駆動する。
【解決手段】 媒体攪拌型粉砕装置として、攪拌軸に中空部が形成され、中空部が容器の他端近傍において容器内部に開口され、攪拌軸にはこの中空部を攪拌軸と容器内面との間の空間に連通させる粉砕媒体戻り通路が形成され、スラリ−の動きに伴って容器の他端近傍に達した粉砕媒体が、スラリー入口から攪拌軸の中空部に入り、粉砕媒体戻り通路から攪拌軸と容器内面との間の空間に戻る循環運動をするようになっており、中空部内にスラリー出口が形成され、スラリー出口を囲むようにスクリーンが設けられ、スクリーンが回転駆動されるようになった形式の装置を使用し、粉砕媒体の大きさを20〜200μmとし、攪拌軸をその周速が3〜8m/secとなるように駆動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体攪拌型粉砕装置を用いて固形物を微細粒子に粉砕する粉砕方法に関する。特に、本発明は、サンドミルやビーズミルのような媒体攪拌型粉砕装置を使用して、鉱物、顔料、染料、化学薬品、フェライト等の磁性材料、及びセラミックなどを、超微細粒、特にナノメートルサイズまで粉砕又は分散し、例えば塗料、印刷インク、顔料、磁気テープ用コーティング材、ゴム、接着剤、化粧品、及び塗り薬のような医薬などに調整するのに適したものとする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この用途に使用されている粉砕装置は、筒型の容器内に軸方向に攪拌軸を回転自在に配置し、この攪拌軸に攪拌ピンなどの攪拌部材を放射状に突出するように取り付けた構造を有する。スラリ−入口は容器の軸方向一端部に、スラリ−出口は容器の軸方向他端部に設けられる。容器内には、該容器内面と攪拌軸との間の空間である粉砕室にジルコニア、シリカ、ガラスビーズ、樹脂などの粉砕媒体を充填し、スラリ−入口からスラリ−を導入しながら攪拌軸を回転駆動して攪拌部材を回転させ、スラリ−を粉砕媒体の間に通すことによってスラリ−内の固形物を所望のサイズに微粉砕又は微細分散させる。スラリ−出口には、粉砕媒体をスラリ−から分離するために、スクリーン等の分離手段が設けられる。
従来のこの種の粉砕装置では、粉砕媒体が粉砕室の一部すなわちスラリ−出口付近に集中する傾向があるため、これに伴う幾多の問題が経験された。この問題に対処するため、特許第3400087号公報は、攪拌軸をスラリ−出口側端部において開口する中空構造とし、該端部における開口を攪拌軸の中空部への媒体循環用入口として機能させ、攪拌軸の側部にスリットを形成して媒体循環用出口として機能させ、粉砕室内においてスラリ−出口近傍に達した粉砕媒体が、攪拌軸の端部に形成された媒体循環用入口から攪拌軸の中空内部に入り、媒体循環用出口から粉砕室に戻されるという循環運動をするようにした構造を開示している。また、特許第3246973号公報は、媒体攪拌型粉砕装置を使用した連続式の粉砕システムを開示する。
【0003】
特公平2−10699号公報は、このような中空構造の攪拌軸を有する粉砕装置において、攪拌軸の中空内部にスラリ−取り出し用の管を固定配置し、この管のスラリ−取入れ口に分離装置を設けた構造を開示する。
【0004】
【特許文献1】特許第3400087号公報
【特許文献2】特許第3246973号公報
【特許文献3】特公平2−10699号公報
【特許文献4】国際公開WO96/39251
【特許文献5】(未公開先願)特願2004−222138号
【非特許文献1】粉体工学会誌第41巻第8号(通巻423号)第16ページないし第23ページ、平成16年8月10日発行
【非特許文献2】粉体工学会代40回夏季シンポジウム講演論文集、2004年7月29日〜30日、第13ページないし第14ページ、技術講演5「微小ビーズ対応ビーズミルの凝集ナノ粒子の分散」
【0005】
上記の特許文献1ないし3に開示された従来の構造は、それぞれの目的においては所期の効果を達成するものであるが、近年のナノテクノロジーのもとでの要求には満足に対処することが困難である。具体的に述べると、スラリ−内の固形物をナノメートルのサイズに微粒化し、しかもその微粒化を十分に満足できる短い時間内に達成するためには、粉砕媒体の直径を小さくすることが必要である。従来の粉砕装置において使用されるビーズの直径は、極微粉砕に用いられる極めて小さいものでも0.3mmないし0.5mmであるが、この大きさのビーズでは、近年のナノテクノロジーにおいて要求される超微細粒までの粉砕を満足なまでに達成することはできない。事実、ナノテクノロジーに対処する場合のビーズ直径としては0.2mm以下のものが要求されるようになる。
ナノメートルサイズの粉砕を行うには、粉砕された粒子が再度凝集して大きな粒径になるのを防止するために、ポリカルボン酸ナトリウム塩のような分散剤を添加することが試みられている。しかし、従来の方法では、所望の粉砕効果を達成するためには多量の分散剤を添加することが必要となり、分散剤による悪影響が心配される。さらに、従来の方法においては、粒子を所望の程度まで微細化するためには多大の時間を要し、消費電力が大きく不経済であり、かつ、スラリー温度が高くなって、粉砕媒体や攪拌部材の磨耗を早めるという問題がある。
【0006】
従来の粉砕装置において分離装置として使用されている構造には、ギャップ又はスリット構造のものと、スクリーン構造のものがある。このうち、ギャップ又はスリット構造では、上述した微細な直径のビーズをスラリ−から分離することは極めて困難である。スクリーン構造の分離装置は、スクリーンの目を細かくすることにより微細直径のビーズを分離することは可能であるが、スラリ−の粘度が高い場合や、粉砕又は分散が進行することにより粘度上昇を生じるスラリ−の場合には、上述のように微小サイズの粉砕媒体は、スクリーン付近に集中するようになり、異常発熱や異常磨耗、スクリーンの目詰まりなどの問題が生じる。
また、熱により性状が変化するスラリ−の場合には、粉砕装置内でスラリ−の温度上昇を低く抑えるためにスラリ−の流入量を多くして粉砕装置内の滞留時間を低く抑制することが必要になるが、この場合にも、上述の問題が生じる。
非特許文献1及び2には、遠心力を利用して粉砕媒体とスラリーとの分離を行うことにより、0.03mmサイズのビーズを使用できるようにした媒体攪拌型粉砕装置が開示されている。そして、これらの文献においては、このように微小サイズの粉砕媒体を使用して、攪拌部材の回転速度を特定の範囲にすることにより、粉砕又は分散された粒子の再凝集を防止して、微細な粉砕効果が達成できたことが報告されている。これらの文献では、この装置で0.03mmサイズのビーズを使用して粉砕を行う場合、ロータ周速すなわち攪拌部材周速10m/sにおいて最良の粉砕効果を達成できると述べている。
これら非特許文献1及び2においては、遠心力の作用を利用して粉砕媒体とスラリーとの分離を行うための遠心分離装置を攪拌部材とともに回転駆動し、粉砕媒体を遠心力によりスクリーン面から離す作用を得て、0.03mmといった極めて小さいサイズの粉砕媒体でも、スラリーから分離できるものと理解される。特許文献4は、これら非特許文献1及び2において言及された粉砕装置についての特許出願である。特許文献4に記載されているように、この粉砕装置における遠心分離装置は、一対のディスクと該ディスクの間に配置された複数のブレードから構成される。
しかし、これら非特許文献及び特許文献4に開示された遠心分離装置は、粉砕媒体とスラリーとの分離を主体にしているため、粉砕効率を無視したものとならざるを得ない。また、この粉砕装置では、粉砕媒体が容器のスラリー出口付近に密集することは避けられない。したがって、この形式の装置は、実験室段階では或る程度の効果が得られるとしても、長時間にわたる連続運転が必要になる実用機では、実用性が乏しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願人は、従来の媒体攪拌型粉砕装置における多くの問題に着目し、これらの問題を解決することを目的として、微小直径の粉砕媒体を安定的に継続使用することができる粉(未公開先願))。本出願人は、この未公開先願に係る粉砕装置を用いてさらに研究を続けた結果、ナノメートルサイズの超微細粒粉砕を効果的に達成できる方法を完成するに至った。
すなわち、本発明の課題は、上記未公開先願に係る媒体攪拌型粉砕装置を用いてナノメートルサイズの超微細粉砕を効果的に行うことができる粉砕方法を提供することである。ここで、「粉砕」という用語は、一般的な意味での粉砕に限らず、粒子を非常に微細なサイズまで細かくする、業界で「分散」と呼ばれることがある粒子の微細化も含む意味に用いる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方法において使用される媒体攪拌型粉砕装置は、一端側にスラリ−入口を有する筒状の容器と、該容器内に長手方向に配置された回転自在な攪拌軸と、該攪拌軸を回転駆動するための駆動装置とを備える。攪拌軸は攪拌部材を有するものとすることができ、攪拌軸と容器内面との間の空間により形成される粉砕室に粉砕媒体が入れられており、駆動装置で攪拌軸を回転駆動しながらスラリ−入口からスラリ−を導入することにより、該スラリー内の固形物が粉砕される。攪拌軸は、容器の他端近傍において該容器に対し開口する中空部が形成され、攪拌軸にはこの中空部を攪拌軸と容器内面との間の上述の空間に連通させる粉砕媒体戻り通路が形成され、スラリ−の動きに伴って容器の該他端近傍に達した粉砕媒体が、攪拌軸の開口から攪拌軸の中空部に入り、粉砕媒体戻り通路から攪拌軸と容器内面との間の粉砕室に戻る循環運動をする。攪拌軸の中空部内にスラリ−出口が配置され、中空部内にスラリー出口を囲むようにスクリーンが設けられ、該スクリーンが回転駆動されるように構成される。
【0009】
この装置においては、スラリー出口は攪拌軸に形成することができ、スクリーンは攪拌軸に固定して、該攪拌軸とともに回転駆動することができる。そして、攪拌軸内にはスラリー出口に通じるスラリー出口通路を設けることができる。或いは、別の態様として、スラリー出口を攪拌軸の中空部内に回転自在に配置された管状のスラリ−出口部材により構成し、スクリーンは管状部材に固定し、攪拌軸とは別に該管状部材を回転駆動する手段を設けることができる。
本発明の方法は、上述の構成の粉砕装置を使用し、かつ、粉砕媒体の大きさを20〜200μmとし、攪拌軸をその周速が3〜8m/secとなるように駆動することからなるものである。スクリーンの目のサイズは、粉砕媒体の直径の1/2以下であることが好ましく、より好ましくは、粉砕媒体の直径の1/3とする。
【0010】
(作用)
本発明の上記した構成によれば、スラリ−から粉砕媒体を分離するためのスクリーンが回転駆動されるため、スクリーン近傍に達したスラリ−及び粉砕媒体には回転運動が誘起され、この回転運動による遠心力はスラリ−よりも粉砕媒体の方が高くなるため、粉砕媒体にはスクリーンから離れる付勢力が生じる。このため、粉砕媒体はスクリーンに接近することなく循環することになる。本発明の方法においては、攪拌部材の回転駆動の周速を低くする方が、粒子の再凝集を防止するのに効果的であり、動力損失も少なく、比較的小さな投入動力で、0.1μm以下のサイズへの粉砕が可能になる。粉砕媒体のサイズを20μm以下にすると、超微粒子への粉砕には効果的であるが、スラリーからの粉砕媒体の分離が困難になり、実用的ではない。粉砕媒体のサイズを200μmより大きくすると、十分な粉砕効果を達成できない。
本発明においては、攪拌軸の中空部内にスラリー出口が形成され、このスラリー出口を囲むようにスクリーンが設けられ、該スクリーンが回転駆動されるように構成された装置を用いるので、直径が0.2mm以下といった微小サイズの粉砕媒体を用いても、スラリーからの粉砕媒体の分離が可能になる。さらに、攪拌軸の周速を比較的低くしても、この粉砕媒体の分離は支障なく達成できることが確認された。本発明者らの研究の結果、この装置を使用した場合、攪拌軸の周速が低いほど、低い投入動力で微細粒への粉砕効果を達成できることが分かった。攪拌軸の周速が8m/sec以上、例えば10m/secでは、投入動力を高めても、0.1μm以下の粒子サイズまで粉砕するのは困難である。周速が3m/sec以下の場合には、スラリーと粉砕媒体との分離が困難になる可能性がある。ここで、攪拌軸の周速は、該攪拌軸に攪拌部材が設けられている場合には、攪拌部材の半径方向先端の周速である。
本発明の方法においては、攪拌軸を低速で回転駆動するので、粉砕媒体に作用する遠心力は比較的低くなり、粉砕媒体が遠心力により容器内壁面に衝突させられることがなくなり、容器及び粉砕媒体の磨耗によるスラリーの汚染が軽減される。また、粉砕媒体は、容器内の粉砕室から攪拌軸の中空部内を通り、粉砕媒体戻り通路から粉砕室の戻るという循環運動をするので、粉砕媒体同士の接触や衝突が軽減され粉砕媒体の摩滅及び破損が軽減される。結果として、粉砕装置自体の寿命も大幅に増加する。
本発明においては、攪拌軸に与えられる回転駆動力及び粉砕媒体に与えられる運動エネルギを、粒子の凝集体を分散させるのに要する程度の低い値にすることができるので、従来の方法に比して低動力で微細粒子サイズへの粉砕が可能になる。
本発明の方法においては、媒体攪拌型粉砕装置は、特許文献2の図1に記載されたような循環系配置とし、スラリーが粉砕装置に繰り返し通されるようにして、粉砕効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図について説明する。
図1(A)及び(B)は、本発明の第一の実施形態を示す縦断面図及び横断面図である。図に示すように、粉砕機1は、円筒状の容器2を備えており、該容器2の両端には蓋部材3及び底部材4が液蜜に取り付けられている。容器2の内部には、軸方向に延びるように回転自在な攪拌軸6が配置され、該攪拌軸6と容器2の内面との間に空間すなわち粉砕室5が形成されている。この粉砕室5にはガラスビーズやセラミックビーズのような粉砕媒体が充填される。粉砕媒体は、ナノメートルサイズの粉砕のために20〜200μmの直径である。
【0012】
攪拌軸6には、軸方向及び周方向に間隔をもって放射状に外向きに突出するように複数の棒状の攪拌部材7が固定されている。攪拌部材7は、棒状の代わりに円盤状としてもよく、円盤状の場合には、攪拌部材7は、複数個が軸方向に間隔をもって攪拌軸6に固定される。
【0013】
容器2の蓋部材3に隣接する軸方向一端部付近には、スラリ−入口管11が固定されてスラリ−入口を構成する。攪拌軸6は、蓋部材3を貫通して容器2の外部に延びる軸部分を有し、この軸部分が支持部材8により容器2に対し回転自在であるが軸方向には移動しないように支持される。攪拌軸6を回転駆動するための駆動装置は、図示しない電動モータその他適当な原動機である。攪拌軸6の上述した軸部分にはプーリー10が取り付けられ、該プーリー10が、伝動ベルト9により原動機の出力軸に設けたプーリー(図示せず)に連結されている。この連結により、攪拌軸6が電動モータ等の原動機により回転駆動される。
【0014】
攪拌軸6は、容器2のスラリ−入口管11から遠い側の端部が符号15で示すように開口したコップ型の中空形状であり、攪拌軸6は、その中空部12に対応する壁部分にスリット16が形成されている。攪拌軸6の端部における上述の開口15は粉砕媒体循環用入口を構成し、スリット16は粉砕媒体循環用戻り通路17を構成する。
攪拌軸6の中空部12には、攪拌軸6を貫通して該中空部12内に延びるスラリ−出口管18が配置される。スラリ−出口管18の端部は攪拌軸6の中空部12内に位置してスラリ−出口13を構成する。スラリ−出口管18は、スラリ−出口13に連通し、攪拌軸6を軸方向に通るスラリ−出口通路を構成する。
攪拌軸6の中空部12には、スクリーン14がスラリ−出口13を囲むように配置される。このスクリーン14は、攪拌軸6に固定され、該攪拌軸6とともに回転する。
作動に際しては、攪拌軸6を連続的に回転駆動しながら、粉砕すべき固形物を含むスラリ−、例えば炭酸カルシウムスラリ−がスラリ−ポンプ(図示せず)により所定の流量でスラリ−入口管11から連続的に導入される。媒体攪拌型粉砕装置の作動は周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0015】
粉砕室5のスラリ−入口管11から遠い側の端部近傍においては、スラリ−と粉砕媒体は、矢印20で示すように、攪拌軸6の端部の開口15により形成される粉砕媒体循環用入口から攪拌軸6の中空部12内に入り、スラリ−は、スクリーン14を通り、スラリ−出口13からスラリ−出口管18内を通って取り出される。粉砕媒体は、スクリーン14の回転に伴う遠心力の作用により半径方向外向きに付勢されるため、スクリーン14から離れてスリット16により形成される粉砕媒体循環用出口17を通って粉砕室5に戻される。したがって、粉砕媒体が微小直径の場合に、粉砕媒体がスクリーン14を目詰まりさせる恐れはなくなる。その結果、スクリーンの異常磨耗が防止され、異常発熱の問題も生じない。
【0016】
図2は、本発明の他の実施形態を示す縦断面図である。この実施形態においては、図1の実施形態に対応する部分は図1と同一の符号付して示し、説明は、図1の実施形態との相違点についてのみ行う。
この実施形態においては、スラリ−出口管18は、攪拌軸6から分離して形成される。
スラリ−出口管18の一端部は攪拌軸6の中空部12内に位置してスラリ−出口13を構成する。スラリ−出口13を囲むスクリーン14は、底部材4を軸方向に貫通して容器2の外側に延びる回転軸を有し、この回転軸は、支持部材21により底部材4に対し回転自在であるが軸方向には移動しないように支持される。スクリーン14の回転軸の外側端部にはプーリー23が固定され、この回転軸は、該プーリー23に巻かれた伝動ベルト22を介して図示しない電動モータのような駆動装置により回転駆動される。この実施形態の作動は、図1の実施形態の作動と同一であるので、詳細については説明を省略する。
図3ないし図6は、攪拌部材7の種々の形状を示す断面図である。図3は円盤状の攪拌部材の例を示す。図4は扇型の攪拌部材の例であり、図5は3角形攪拌部材、図6は円柱状攪拌部材の例である。図6の例では、攪拌軸の外面に円柱形状の突出部が形成され、この突出部を貫通してスリット16が形成される。
図7は、媒体攪拌型粉砕装置を循環系として使用する例装置示す概略図である。図1に示す粉砕機1のスラリー出口管18が管路24によりスラリータンク26の上部に接続される。スラリータンク26の底部は、スラリーポンプ25を有する管路27により粉砕機1のスラリー入口11に接続される。スラリータンク26には、電動機28により回転駆動される攪拌羽根29が設けられる。このような循環系は、特許文献2に記載されている。
【0017】
本発明においては、粉砕媒体の直径は、前述の通り20から200μmであり、攪拌軸6は、その周速が3〜8m/secとなるように回転駆動される。ここで、攪拌軸6の周速とは、該攪拌軸6に攪拌部材7が設けられる場合には、該攪拌部材7の先端の回転方向速度である。
(実施例)
本発明の方法により、結晶構造アナターゼ型の光触媒用酸化チタンを粉砕すなわち分散させた。スラリーは、溶媒に水を使用し、固形分濃度が5%となるように調整した。分散剤として東亜合成株式会社によりアロンT40の名称で市販されている合成ポリカルボン酸ナトリウム塩を、酸化チタンに対し重量比5%の割合で添加した。媒体攪拌型粉砕機は図1に示す構造のものを使用し、図7に示すように攪拌羽根29を備えるスラリータンクを配置して、循環系を構成した。スラリーの供給量は、180kg/hとした。粉砕媒体としてジルコニア球を使用し、該粉砕媒体の直径が300μm、200μm、100μmの場合について粉砕を行った。攪拌軸の周速は4m/secとした。得られた結果を、粉砕後の粒子径と投入動力との関係で図8に示す。粒子の粒度は、日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置を使用して測定した。
同じ粉砕装置において、200μmのジルコニア球の粉砕媒体を使用して上述のように調整したスラリーについて粉砕処理を行った。この場合の攪拌軸の周速は、13m/sec、10m/sec、8m/sec、6m/sec、4m/secであった。得られた結果を図9に示す。
図8から分かるように、攪拌軸周速4m/secのもとで、粉砕媒体直径が300μmの場合、投入動力を増大させても0.1μm以下の粉砕を行うことは困難である。また、図9から分かるように、直径200μmの粉砕媒体を使用した場合、攪拌軸周速が8m/sec以下にならないと0.1μm以下の微細粒に粉砕できない。これは、一旦粉砕された粒子が、与えられるエネルギにより再凝集する結果であると推察される。さらに、粉砕媒体直径が小さいほど、また攪拌軸周速が低いほど、低投入動力で高い粉砕効果を達成できることが分かる。
図10に、粉砕前の粒子の粒度分布と、直径200μmの粉砕媒体を使用し、攪拌軸周速13m/sec及び4m/secにおいて粉砕処理をした後の粒度分布を対比して示す。この図から、4m/secの周速のもとでの粉砕により、粒度分布を小さくする効果が達成できることが分かる。これに対して、攪拌軸周速13m/secでは、粒度分布が幅広になるという好ましくない結果が得られる。
図11は、粒子の結晶構造を示すX線回折図である。図から分かるように、攪拌軸周速4m/secの粉砕処理では、粒子の結晶構造にほとんど変化がない。これに対して、攪拌軸周速13m/secでは、結晶構造が壊れ、非晶質化していることが分かる。
(効果)
本発明においては、攪拌軸に、容器の他端近傍に粉砕媒体入口を有する中空部と、この中空部を攪拌軸と容器内面との間の空間に連通させるスリットとが形成され、スラリ−の動きに伴って容器端部近傍に達した粉砕媒体が、スラリー入口から攪拌軸の中空部に入り、スリットから上記空間に戻る循環運動をするので、粉砕媒体が容器端部に集中する傾向が防止される。さらに、本発明によれば、攪拌軸の中空部内にスラリ−出口が配置され、中空部内にスラリー出口を囲むようにスクリーンが設けられ、該スクリーンが回転駆動されるように構成されているため、スラリ−より重い粉砕媒体は、遠心力の作用によりスクリーンから遠ざかる方向に付勢され、ナノメートルサイズの粉砕のために微細粒径の粉砕媒体を使用してもスクリーンを目詰まりさせる恐れがなくなる。したがって、本発明においては、スクリーンの目詰まりを心配することなく微細直径の粉砕媒体を使用することが可能になり、しかも、攪拌軸の周速を低くして低エネルギの粉砕を行うことが可能になる。このため、粒子の結晶構造に悪影響を与えることなく、工業的規模において、ナノメートルサイズの粉砕を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)は、本発明の一実施形態を示す媒体攪拌型粉砕装置の縦断面図、(B)は、(A)に示す粉砕装置の横断面図。
【図2】本発明の第二の実施形態を示す媒体攪拌型粉砕装置の縦断面図。
【図3】円盤状攪拌部材の例を示す粉砕装置の横断面図。
【図4】扇型の攪拌部材の例を示す粉砕装置の横断面図。
【図5】3角形状の攪拌部材の例を示す粉砕装置の横断面図。
【図6】円柱状の攪拌部材の例を示す粉砕装置の横断面図。
【図7】図1に示す媒体攪拌型粉砕装置をスラリータンクに接続して循環系とした配置を示す概略図。
【図8】図7の装置において、幾つかの異なる直径の粉砕媒体を使用して粉砕を行った結果を示す図表。
【図9】図7の装置において、幾つかの異なる攪拌軸周速により粉砕を行った結果を示す図表。
【図10】攪拌軸周速と粒度分布の関係を示す図表。
【図11】攪拌軸周速が結晶構造に及ぼす影響を示す図表。
【符号の説明】
【0019】
1 粉砕機
2 容器
3 蓋部材
4 底部材
5 粉砕室
6 攪拌軸
7 攪拌部材
12 中空部
13 スラリ−出口
14 スクリーン
15 媒体循環用入口
16 スリット
17 媒体循環用出口
18 スラリ−出口管
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体攪拌型粉砕装置を用いて固形物を微細粒子に粉砕する粉砕方法に関する。特に、本発明は、サンドミルやビーズミルのような媒体攪拌型粉砕装置を使用して、鉱物、顔料、染料、化学薬品、フェライト等の磁性材料、及びセラミックなどを、超微細粒、特にナノメートルサイズまで粉砕又は分散し、例えば塗料、印刷インク、顔料、磁気テープ用コーティング材、ゴム、接着剤、化粧品、及び塗り薬のような医薬などに調整するのに適したものとする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この用途に使用されている粉砕装置は、筒型の容器内に軸方向に攪拌軸を回転自在に配置し、この攪拌軸に攪拌ピンなどの攪拌部材を放射状に突出するように取り付けた構造を有する。スラリ−入口は容器の軸方向一端部に、スラリ−出口は容器の軸方向他端部に設けられる。容器内には、該容器内面と攪拌軸との間の空間である粉砕室にジルコニア、シリカ、ガラスビーズ、樹脂などの粉砕媒体を充填し、スラリ−入口からスラリ−を導入しながら攪拌軸を回転駆動して攪拌部材を回転させ、スラリ−を粉砕媒体の間に通すことによってスラリ−内の固形物を所望のサイズに微粉砕又は微細分散させる。スラリ−出口には、粉砕媒体をスラリ−から分離するために、スクリーン等の分離手段が設けられる。
従来のこの種の粉砕装置では、粉砕媒体が粉砕室の一部すなわちスラリ−出口付近に集中する傾向があるため、これに伴う幾多の問題が経験された。この問題に対処するため、特許第3400087号公報は、攪拌軸をスラリ−出口側端部において開口する中空構造とし、該端部における開口を攪拌軸の中空部への媒体循環用入口として機能させ、攪拌軸の側部にスリットを形成して媒体循環用出口として機能させ、粉砕室内においてスラリ−出口近傍に達した粉砕媒体が、攪拌軸の端部に形成された媒体循環用入口から攪拌軸の中空内部に入り、媒体循環用出口から粉砕室に戻されるという循環運動をするようにした構造を開示している。また、特許第3246973号公報は、媒体攪拌型粉砕装置を使用した連続式の粉砕システムを開示する。
【0003】
特公平2−10699号公報は、このような中空構造の攪拌軸を有する粉砕装置において、攪拌軸の中空内部にスラリ−取り出し用の管を固定配置し、この管のスラリ−取入れ口に分離装置を設けた構造を開示する。
【0004】
【特許文献1】特許第3400087号公報
【特許文献2】特許第3246973号公報
【特許文献3】特公平2−10699号公報
【特許文献4】国際公開WO96/39251
【特許文献5】(未公開先願)特願2004−222138号
【非特許文献1】粉体工学会誌第41巻第8号(通巻423号)第16ページないし第23ページ、平成16年8月10日発行
【非特許文献2】粉体工学会代40回夏季シンポジウム講演論文集、2004年7月29日〜30日、第13ページないし第14ページ、技術講演5「微小ビーズ対応ビーズミルの凝集ナノ粒子の分散」
【0005】
上記の特許文献1ないし3に開示された従来の構造は、それぞれの目的においては所期の効果を達成するものであるが、近年のナノテクノロジーのもとでの要求には満足に対処することが困難である。具体的に述べると、スラリ−内の固形物をナノメートルのサイズに微粒化し、しかもその微粒化を十分に満足できる短い時間内に達成するためには、粉砕媒体の直径を小さくすることが必要である。従来の粉砕装置において使用されるビーズの直径は、極微粉砕に用いられる極めて小さいものでも0.3mmないし0.5mmであるが、この大きさのビーズでは、近年のナノテクノロジーにおいて要求される超微細粒までの粉砕を満足なまでに達成することはできない。事実、ナノテクノロジーに対処する場合のビーズ直径としては0.2mm以下のものが要求されるようになる。
ナノメートルサイズの粉砕を行うには、粉砕された粒子が再度凝集して大きな粒径になるのを防止するために、ポリカルボン酸ナトリウム塩のような分散剤を添加することが試みられている。しかし、従来の方法では、所望の粉砕効果を達成するためには多量の分散剤を添加することが必要となり、分散剤による悪影響が心配される。さらに、従来の方法においては、粒子を所望の程度まで微細化するためには多大の時間を要し、消費電力が大きく不経済であり、かつ、スラリー温度が高くなって、粉砕媒体や攪拌部材の磨耗を早めるという問題がある。
【0006】
従来の粉砕装置において分離装置として使用されている構造には、ギャップ又はスリット構造のものと、スクリーン構造のものがある。このうち、ギャップ又はスリット構造では、上述した微細な直径のビーズをスラリ−から分離することは極めて困難である。スクリーン構造の分離装置は、スクリーンの目を細かくすることにより微細直径のビーズを分離することは可能であるが、スラリ−の粘度が高い場合や、粉砕又は分散が進行することにより粘度上昇を生じるスラリ−の場合には、上述のように微小サイズの粉砕媒体は、スクリーン付近に集中するようになり、異常発熱や異常磨耗、スクリーンの目詰まりなどの問題が生じる。
また、熱により性状が変化するスラリ−の場合には、粉砕装置内でスラリ−の温度上昇を低く抑えるためにスラリ−の流入量を多くして粉砕装置内の滞留時間を低く抑制することが必要になるが、この場合にも、上述の問題が生じる。
非特許文献1及び2には、遠心力を利用して粉砕媒体とスラリーとの分離を行うことにより、0.03mmサイズのビーズを使用できるようにした媒体攪拌型粉砕装置が開示されている。そして、これらの文献においては、このように微小サイズの粉砕媒体を使用して、攪拌部材の回転速度を特定の範囲にすることにより、粉砕又は分散された粒子の再凝集を防止して、微細な粉砕効果が達成できたことが報告されている。これらの文献では、この装置で0.03mmサイズのビーズを使用して粉砕を行う場合、ロータ周速すなわち攪拌部材周速10m/sにおいて最良の粉砕効果を達成できると述べている。
これら非特許文献1及び2においては、遠心力の作用を利用して粉砕媒体とスラリーとの分離を行うための遠心分離装置を攪拌部材とともに回転駆動し、粉砕媒体を遠心力によりスクリーン面から離す作用を得て、0.03mmといった極めて小さいサイズの粉砕媒体でも、スラリーから分離できるものと理解される。特許文献4は、これら非特許文献1及び2において言及された粉砕装置についての特許出願である。特許文献4に記載されているように、この粉砕装置における遠心分離装置は、一対のディスクと該ディスクの間に配置された複数のブレードから構成される。
しかし、これら非特許文献及び特許文献4に開示された遠心分離装置は、粉砕媒体とスラリーとの分離を主体にしているため、粉砕効率を無視したものとならざるを得ない。また、この粉砕装置では、粉砕媒体が容器のスラリー出口付近に密集することは避けられない。したがって、この形式の装置は、実験室段階では或る程度の効果が得られるとしても、長時間にわたる連続運転が必要になる実用機では、実用性が乏しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願人は、従来の媒体攪拌型粉砕装置における多くの問題に着目し、これらの問題を解決することを目的として、微小直径の粉砕媒体を安定的に継続使用することができる粉(未公開先願))。本出願人は、この未公開先願に係る粉砕装置を用いてさらに研究を続けた結果、ナノメートルサイズの超微細粒粉砕を効果的に達成できる方法を完成するに至った。
すなわち、本発明の課題は、上記未公開先願に係る媒体攪拌型粉砕装置を用いてナノメートルサイズの超微細粉砕を効果的に行うことができる粉砕方法を提供することである。ここで、「粉砕」という用語は、一般的な意味での粉砕に限らず、粒子を非常に微細なサイズまで細かくする、業界で「分散」と呼ばれることがある粒子の微細化も含む意味に用いる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方法において使用される媒体攪拌型粉砕装置は、一端側にスラリ−入口を有する筒状の容器と、該容器内に長手方向に配置された回転自在な攪拌軸と、該攪拌軸を回転駆動するための駆動装置とを備える。攪拌軸は攪拌部材を有するものとすることができ、攪拌軸と容器内面との間の空間により形成される粉砕室に粉砕媒体が入れられており、駆動装置で攪拌軸を回転駆動しながらスラリ−入口からスラリ−を導入することにより、該スラリー内の固形物が粉砕される。攪拌軸は、容器の他端近傍において該容器に対し開口する中空部が形成され、攪拌軸にはこの中空部を攪拌軸と容器内面との間の上述の空間に連通させる粉砕媒体戻り通路が形成され、スラリ−の動きに伴って容器の該他端近傍に達した粉砕媒体が、攪拌軸の開口から攪拌軸の中空部に入り、粉砕媒体戻り通路から攪拌軸と容器内面との間の粉砕室に戻る循環運動をする。攪拌軸の中空部内にスラリ−出口が配置され、中空部内にスラリー出口を囲むようにスクリーンが設けられ、該スクリーンが回転駆動されるように構成される。
【0009】
この装置においては、スラリー出口は攪拌軸に形成することができ、スクリーンは攪拌軸に固定して、該攪拌軸とともに回転駆動することができる。そして、攪拌軸内にはスラリー出口に通じるスラリー出口通路を設けることができる。或いは、別の態様として、スラリー出口を攪拌軸の中空部内に回転自在に配置された管状のスラリ−出口部材により構成し、スクリーンは管状部材に固定し、攪拌軸とは別に該管状部材を回転駆動する手段を設けることができる。
本発明の方法は、上述の構成の粉砕装置を使用し、かつ、粉砕媒体の大きさを20〜200μmとし、攪拌軸をその周速が3〜8m/secとなるように駆動することからなるものである。スクリーンの目のサイズは、粉砕媒体の直径の1/2以下であることが好ましく、より好ましくは、粉砕媒体の直径の1/3とする。
【0010】
(作用)
本発明の上記した構成によれば、スラリ−から粉砕媒体を分離するためのスクリーンが回転駆動されるため、スクリーン近傍に達したスラリ−及び粉砕媒体には回転運動が誘起され、この回転運動による遠心力はスラリ−よりも粉砕媒体の方が高くなるため、粉砕媒体にはスクリーンから離れる付勢力が生じる。このため、粉砕媒体はスクリーンに接近することなく循環することになる。本発明の方法においては、攪拌部材の回転駆動の周速を低くする方が、粒子の再凝集を防止するのに効果的であり、動力損失も少なく、比較的小さな投入動力で、0.1μm以下のサイズへの粉砕が可能になる。粉砕媒体のサイズを20μm以下にすると、超微粒子への粉砕には効果的であるが、スラリーからの粉砕媒体の分離が困難になり、実用的ではない。粉砕媒体のサイズを200μmより大きくすると、十分な粉砕効果を達成できない。
本発明においては、攪拌軸の中空部内にスラリー出口が形成され、このスラリー出口を囲むようにスクリーンが設けられ、該スクリーンが回転駆動されるように構成された装置を用いるので、直径が0.2mm以下といった微小サイズの粉砕媒体を用いても、スラリーからの粉砕媒体の分離が可能になる。さらに、攪拌軸の周速を比較的低くしても、この粉砕媒体の分離は支障なく達成できることが確認された。本発明者らの研究の結果、この装置を使用した場合、攪拌軸の周速が低いほど、低い投入動力で微細粒への粉砕効果を達成できることが分かった。攪拌軸の周速が8m/sec以上、例えば10m/secでは、投入動力を高めても、0.1μm以下の粒子サイズまで粉砕するのは困難である。周速が3m/sec以下の場合には、スラリーと粉砕媒体との分離が困難になる可能性がある。ここで、攪拌軸の周速は、該攪拌軸に攪拌部材が設けられている場合には、攪拌部材の半径方向先端の周速である。
本発明の方法においては、攪拌軸を低速で回転駆動するので、粉砕媒体に作用する遠心力は比較的低くなり、粉砕媒体が遠心力により容器内壁面に衝突させられることがなくなり、容器及び粉砕媒体の磨耗によるスラリーの汚染が軽減される。また、粉砕媒体は、容器内の粉砕室から攪拌軸の中空部内を通り、粉砕媒体戻り通路から粉砕室の戻るという循環運動をするので、粉砕媒体同士の接触や衝突が軽減され粉砕媒体の摩滅及び破損が軽減される。結果として、粉砕装置自体の寿命も大幅に増加する。
本発明においては、攪拌軸に与えられる回転駆動力及び粉砕媒体に与えられる運動エネルギを、粒子の凝集体を分散させるのに要する程度の低い値にすることができるので、従来の方法に比して低動力で微細粒子サイズへの粉砕が可能になる。
本発明の方法においては、媒体攪拌型粉砕装置は、特許文献2の図1に記載されたような循環系配置とし、スラリーが粉砕装置に繰り返し通されるようにして、粉砕効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図について説明する。
図1(A)及び(B)は、本発明の第一の実施形態を示す縦断面図及び横断面図である。図に示すように、粉砕機1は、円筒状の容器2を備えており、該容器2の両端には蓋部材3及び底部材4が液蜜に取り付けられている。容器2の内部には、軸方向に延びるように回転自在な攪拌軸6が配置され、該攪拌軸6と容器2の内面との間に空間すなわち粉砕室5が形成されている。この粉砕室5にはガラスビーズやセラミックビーズのような粉砕媒体が充填される。粉砕媒体は、ナノメートルサイズの粉砕のために20〜200μmの直径である。
【0012】
攪拌軸6には、軸方向及び周方向に間隔をもって放射状に外向きに突出するように複数の棒状の攪拌部材7が固定されている。攪拌部材7は、棒状の代わりに円盤状としてもよく、円盤状の場合には、攪拌部材7は、複数個が軸方向に間隔をもって攪拌軸6に固定される。
【0013】
容器2の蓋部材3に隣接する軸方向一端部付近には、スラリ−入口管11が固定されてスラリ−入口を構成する。攪拌軸6は、蓋部材3を貫通して容器2の外部に延びる軸部分を有し、この軸部分が支持部材8により容器2に対し回転自在であるが軸方向には移動しないように支持される。攪拌軸6を回転駆動するための駆動装置は、図示しない電動モータその他適当な原動機である。攪拌軸6の上述した軸部分にはプーリー10が取り付けられ、該プーリー10が、伝動ベルト9により原動機の出力軸に設けたプーリー(図示せず)に連結されている。この連結により、攪拌軸6が電動モータ等の原動機により回転駆動される。
【0014】
攪拌軸6は、容器2のスラリ−入口管11から遠い側の端部が符号15で示すように開口したコップ型の中空形状であり、攪拌軸6は、その中空部12に対応する壁部分にスリット16が形成されている。攪拌軸6の端部における上述の開口15は粉砕媒体循環用入口を構成し、スリット16は粉砕媒体循環用戻り通路17を構成する。
攪拌軸6の中空部12には、攪拌軸6を貫通して該中空部12内に延びるスラリ−出口管18が配置される。スラリ−出口管18の端部は攪拌軸6の中空部12内に位置してスラリ−出口13を構成する。スラリ−出口管18は、スラリ−出口13に連通し、攪拌軸6を軸方向に通るスラリ−出口通路を構成する。
攪拌軸6の中空部12には、スクリーン14がスラリ−出口13を囲むように配置される。このスクリーン14は、攪拌軸6に固定され、該攪拌軸6とともに回転する。
作動に際しては、攪拌軸6を連続的に回転駆動しながら、粉砕すべき固形物を含むスラリ−、例えば炭酸カルシウムスラリ−がスラリ−ポンプ(図示せず)により所定の流量でスラリ−入口管11から連続的に導入される。媒体攪拌型粉砕装置の作動は周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0015】
粉砕室5のスラリ−入口管11から遠い側の端部近傍においては、スラリ−と粉砕媒体は、矢印20で示すように、攪拌軸6の端部の開口15により形成される粉砕媒体循環用入口から攪拌軸6の中空部12内に入り、スラリ−は、スクリーン14を通り、スラリ−出口13からスラリ−出口管18内を通って取り出される。粉砕媒体は、スクリーン14の回転に伴う遠心力の作用により半径方向外向きに付勢されるため、スクリーン14から離れてスリット16により形成される粉砕媒体循環用出口17を通って粉砕室5に戻される。したがって、粉砕媒体が微小直径の場合に、粉砕媒体がスクリーン14を目詰まりさせる恐れはなくなる。その結果、スクリーンの異常磨耗が防止され、異常発熱の問題も生じない。
【0016】
図2は、本発明の他の実施形態を示す縦断面図である。この実施形態においては、図1の実施形態に対応する部分は図1と同一の符号付して示し、説明は、図1の実施形態との相違点についてのみ行う。
この実施形態においては、スラリ−出口管18は、攪拌軸6から分離して形成される。
スラリ−出口管18の一端部は攪拌軸6の中空部12内に位置してスラリ−出口13を構成する。スラリ−出口13を囲むスクリーン14は、底部材4を軸方向に貫通して容器2の外側に延びる回転軸を有し、この回転軸は、支持部材21により底部材4に対し回転自在であるが軸方向には移動しないように支持される。スクリーン14の回転軸の外側端部にはプーリー23が固定され、この回転軸は、該プーリー23に巻かれた伝動ベルト22を介して図示しない電動モータのような駆動装置により回転駆動される。この実施形態の作動は、図1の実施形態の作動と同一であるので、詳細については説明を省略する。
図3ないし図6は、攪拌部材7の種々の形状を示す断面図である。図3は円盤状の攪拌部材の例を示す。図4は扇型の攪拌部材の例であり、図5は3角形攪拌部材、図6は円柱状攪拌部材の例である。図6の例では、攪拌軸の外面に円柱形状の突出部が形成され、この突出部を貫通してスリット16が形成される。
図7は、媒体攪拌型粉砕装置を循環系として使用する例装置示す概略図である。図1に示す粉砕機1のスラリー出口管18が管路24によりスラリータンク26の上部に接続される。スラリータンク26の底部は、スラリーポンプ25を有する管路27により粉砕機1のスラリー入口11に接続される。スラリータンク26には、電動機28により回転駆動される攪拌羽根29が設けられる。このような循環系は、特許文献2に記載されている。
【0017】
本発明においては、粉砕媒体の直径は、前述の通り20から200μmであり、攪拌軸6は、その周速が3〜8m/secとなるように回転駆動される。ここで、攪拌軸6の周速とは、該攪拌軸6に攪拌部材7が設けられる場合には、該攪拌部材7の先端の回転方向速度である。
(実施例)
本発明の方法により、結晶構造アナターゼ型の光触媒用酸化チタンを粉砕すなわち分散させた。スラリーは、溶媒に水を使用し、固形分濃度が5%となるように調整した。分散剤として東亜合成株式会社によりアロンT40の名称で市販されている合成ポリカルボン酸ナトリウム塩を、酸化チタンに対し重量比5%の割合で添加した。媒体攪拌型粉砕機は図1に示す構造のものを使用し、図7に示すように攪拌羽根29を備えるスラリータンクを配置して、循環系を構成した。スラリーの供給量は、180kg/hとした。粉砕媒体としてジルコニア球を使用し、該粉砕媒体の直径が300μm、200μm、100μmの場合について粉砕を行った。攪拌軸の周速は4m/secとした。得られた結果を、粉砕後の粒子径と投入動力との関係で図8に示す。粒子の粒度は、日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置を使用して測定した。
同じ粉砕装置において、200μmのジルコニア球の粉砕媒体を使用して上述のように調整したスラリーについて粉砕処理を行った。この場合の攪拌軸の周速は、13m/sec、10m/sec、8m/sec、6m/sec、4m/secであった。得られた結果を図9に示す。
図8から分かるように、攪拌軸周速4m/secのもとで、粉砕媒体直径が300μmの場合、投入動力を増大させても0.1μm以下の粉砕を行うことは困難である。また、図9から分かるように、直径200μmの粉砕媒体を使用した場合、攪拌軸周速が8m/sec以下にならないと0.1μm以下の微細粒に粉砕できない。これは、一旦粉砕された粒子が、与えられるエネルギにより再凝集する結果であると推察される。さらに、粉砕媒体直径が小さいほど、また攪拌軸周速が低いほど、低投入動力で高い粉砕効果を達成できることが分かる。
図10に、粉砕前の粒子の粒度分布と、直径200μmの粉砕媒体を使用し、攪拌軸周速13m/sec及び4m/secにおいて粉砕処理をした後の粒度分布を対比して示す。この図から、4m/secの周速のもとでの粉砕により、粒度分布を小さくする効果が達成できることが分かる。これに対して、攪拌軸周速13m/secでは、粒度分布が幅広になるという好ましくない結果が得られる。
図11は、粒子の結晶構造を示すX線回折図である。図から分かるように、攪拌軸周速4m/secの粉砕処理では、粒子の結晶構造にほとんど変化がない。これに対して、攪拌軸周速13m/secでは、結晶構造が壊れ、非晶質化していることが分かる。
(効果)
本発明においては、攪拌軸に、容器の他端近傍に粉砕媒体入口を有する中空部と、この中空部を攪拌軸と容器内面との間の空間に連通させるスリットとが形成され、スラリ−の動きに伴って容器端部近傍に達した粉砕媒体が、スラリー入口から攪拌軸の中空部に入り、スリットから上記空間に戻る循環運動をするので、粉砕媒体が容器端部に集中する傾向が防止される。さらに、本発明によれば、攪拌軸の中空部内にスラリ−出口が配置され、中空部内にスラリー出口を囲むようにスクリーンが設けられ、該スクリーンが回転駆動されるように構成されているため、スラリ−より重い粉砕媒体は、遠心力の作用によりスクリーンから遠ざかる方向に付勢され、ナノメートルサイズの粉砕のために微細粒径の粉砕媒体を使用してもスクリーンを目詰まりさせる恐れがなくなる。したがって、本発明においては、スクリーンの目詰まりを心配することなく微細直径の粉砕媒体を使用することが可能になり、しかも、攪拌軸の周速を低くして低エネルギの粉砕を行うことが可能になる。このため、粒子の結晶構造に悪影響を与えることなく、工業的規模において、ナノメートルサイズの粉砕を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)は、本発明の一実施形態を示す媒体攪拌型粉砕装置の縦断面図、(B)は、(A)に示す粉砕装置の横断面図。
【図2】本発明の第二の実施形態を示す媒体攪拌型粉砕装置の縦断面図。
【図3】円盤状攪拌部材の例を示す粉砕装置の横断面図。
【図4】扇型の攪拌部材の例を示す粉砕装置の横断面図。
【図5】3角形状の攪拌部材の例を示す粉砕装置の横断面図。
【図6】円柱状の攪拌部材の例を示す粉砕装置の横断面図。
【図7】図1に示す媒体攪拌型粉砕装置をスラリータンクに接続して循環系とした配置を示す概略図。
【図8】図7の装置において、幾つかの異なる直径の粉砕媒体を使用して粉砕を行った結果を示す図表。
【図9】図7の装置において、幾つかの異なる攪拌軸周速により粉砕を行った結果を示す図表。
【図10】攪拌軸周速と粒度分布の関係を示す図表。
【図11】攪拌軸周速が結晶構造に及ぼす影響を示す図表。
【符号の説明】
【0019】
1 粉砕機
2 容器
3 蓋部材
4 底部材
5 粉砕室
6 攪拌軸
7 攪拌部材
12 中空部
13 スラリ−出口
14 スクリーン
15 媒体循環用入口
16 スリット
17 媒体循環用出口
18 スラリ−出口管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側にスラリー入口を有する筒状の容器と、前記容器内に長手方向に配置された回転自在な攪拌軸と、前記攪拌軸を回転駆動するために駆動装置とを備え、前記攪拌軸と前記容器との間の粉砕室に粉砕媒体が充填され、前記攪拌軸を回転駆動しながら前記スラリー入口からスラリーを導入し、前記容器内部を容器外部に接続するスラリー出口からスラリーを排出することによりスラリー内の固形物を粉砕するようになった媒体攪拌型粉砕装置を使用して固形物のナノメートルサイズ粉砕を行う粉砕方法であって、
前記媒体攪拌型粉砕装置として、前記攪拌軸に中空部が形成され、前記中空部が前記容器の他端近傍において前記容器内部に開口され、前記攪拌軸にはこの中空部を攪拌軸と容器内面との間の上述の空間に連通させる粉砕媒体戻り通路が形成され、スラリ−の動きに伴って容器の前記他端近傍に達した粉砕媒体が、スラリー入口から攪拌軸の中空部に入り、前記粉砕媒体戻り通路から前記攪拌軸と容器内面との間の前記空間に戻る循環運動をするようになっており、前記中空部内にスラリー出口が形成され、前記スラリー出口を囲むようにスクリーンが設けられ、前記スクリーンが回転駆動されるようになった形式の装置を使用し、
粉砕媒体の大きさを20〜200μmとし、
前記攪拌軸をその周速が3〜8m/secとなるように駆動する、
ことを特徴とする粉砕方法。
【請求項2】
請求項1に記載した方法であって、前記攪拌軸には攪拌部材が半径方向外向きに突出するように形成された形式の装置を使用することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載した方法であって、前記粉砕媒体の充填量は粉砕室有効容積の60から90%とすることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載した方法であって、前記粉砕媒体は、ジルコニア、シリカ、ガラス、樹脂のいずれかから形成されたものであることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載した方法であって、スラリー内の固形物は酸化チタンであることを特徴とする方法。
【請求項1】
一端側にスラリー入口を有する筒状の容器と、前記容器内に長手方向に配置された回転自在な攪拌軸と、前記攪拌軸を回転駆動するために駆動装置とを備え、前記攪拌軸と前記容器との間の粉砕室に粉砕媒体が充填され、前記攪拌軸を回転駆動しながら前記スラリー入口からスラリーを導入し、前記容器内部を容器外部に接続するスラリー出口からスラリーを排出することによりスラリー内の固形物を粉砕するようになった媒体攪拌型粉砕装置を使用して固形物のナノメートルサイズ粉砕を行う粉砕方法であって、
前記媒体攪拌型粉砕装置として、前記攪拌軸に中空部が形成され、前記中空部が前記容器の他端近傍において前記容器内部に開口され、前記攪拌軸にはこの中空部を攪拌軸と容器内面との間の上述の空間に連通させる粉砕媒体戻り通路が形成され、スラリ−の動きに伴って容器の前記他端近傍に達した粉砕媒体が、スラリー入口から攪拌軸の中空部に入り、前記粉砕媒体戻り通路から前記攪拌軸と容器内面との間の前記空間に戻る循環運動をするようになっており、前記中空部内にスラリー出口が形成され、前記スラリー出口を囲むようにスクリーンが設けられ、前記スクリーンが回転駆動されるようになった形式の装置を使用し、
粉砕媒体の大きさを20〜200μmとし、
前記攪拌軸をその周速が3〜8m/secとなるように駆動する、
ことを特徴とする粉砕方法。
【請求項2】
請求項1に記載した方法であって、前記攪拌軸には攪拌部材が半径方向外向きに突出するように形成された形式の装置を使用することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載した方法であって、前記粉砕媒体の充填量は粉砕室有効容積の60から90%とすることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載した方法であって、前記粉砕媒体は、ジルコニア、シリカ、ガラス、樹脂のいずれかから形成されたものであることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載した方法であって、スラリー内の固形物は酸化チタンであることを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−212489(P2006−212489A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25484(P2005−25484)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(504124783)アシザワ・ファインテック株式会社 (21)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(504124783)アシザワ・ファインテック株式会社 (21)
【Fターム(参考)】
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