説明

安定および保存化ケトチフェン眼用組成物

ケトチフェンおよび約0.001〜約0.1%(w/v)量の過酸化水素を提供する過酸化水素源を含む眼用組成物、およびこれらの組成物を使用するアレルギー性結膜炎の処置および予防法を、本発明によって提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は薬理活性剤としてケトチフェンを、そして保存剤として過酸化水素源を含む、アレルギー性結膜炎の処置に使用するための眼用組成物に関する。米国特許第5,725,887号(‘887特許)および第5,607,698号、ならびに出願番号第11/078,209号は、安定化した過酸化水素を使用した眼用溶液の保存法およびそのようにして保存された組成物について開示および特許請求している(これら全てを明示的に、その全体を出典明示により本明細書の一部とする)。しかし、過酸化水素は強い酸化剤である。多くの化学物質および薬剤は過酸化水素に受容性ではなく、すなわち過酸化水素による化学酸化に感受性である。ケトチフェンは過酸化水素による化学酸化に感受性の薬理活性剤である。ケトチフェンは中性pH、すなわち約pH7で製剤すると低濃度の過酸化水素に受容性ではないが、本発明において、中性pH未満のpHで製剤したとき低濃度の過酸化水素にケトチフェンが受容性であることを見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
発明の要約
1つの局面において、(a)ケトチフェン塩;
(b)約0.001〜約0.1%(w/v)の微量で過酸化水素を供給する過酸化水素源;
(c)1種以上の眼に適用可能な過酸化水素安定化剤を含んでなる眼用組成物であって、過酸化水素による酸化に対してケトチフェン塩を十分に安定化するpHである組成物を提供する。
【0003】
他の局面において、アレルギー性結膜炎を有するかまたは感受性である対象に、有効量の
(a)ケトチフェン塩;
(b)約0.001〜約0.1%(w/v)の微量で過酸化水素を供給する過酸化水素源;および
(c)1種以上の眼に適用可能な過酸化水素安定化剤を含んでなる眼用組成物であって、過酸化水素による酸化に対してケトチフェン塩を十分に安定化するpHである組成物を局所投与することを含む、アレルギー性結膜炎の処置および予防法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の詳細な説明
本発明はケトチフェン塩、約0.001〜約0.1%重量/体積(w/v)の量で過酸化水素を供給する過酸化水素源、および1種以上の眼に適用可能な過酸化水素安定化剤を含む安定な眼用組成物に関する。眼用組成物は過酸化水素による酸化に対してケトチフェン塩を十分に安定化するpH、例えばpH約3.5〜約6で製剤する。したがって、ケトチフェンの酸性形態がケトチフェンの中性形態よりも適している。
【0005】
ケトチフェン塩は例えば、ケトチフェン塩酸塩、ケトチフェン臭化水素酸塩、ケトチフェンパモ酸塩、ケトチフェンマレイン酸塩、ケトチフェン硫酸塩およびケトチフェンフマル酸塩である。好ましいケトチフェン塩はケトチフェンフマル酸塩である。ケトチフェンとしてのケトチフェン塩の濃度は典型的には、約0.01〜約0.1%(w/v)および好ましくは約0.02〜約0.06%(w/v)である。
【0006】
過酸化水素安定化剤、とりわけジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)または1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸で安定化される微量の過酸化化合物は、本発明の眼用組成物の保存剤として有用であり得る。過酸化水素源は水で加水分解されて過酸化水素を生産するあらゆる過酸化化合物である。有効量の過酸化水素を供給する過酸化水素源の例には、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム4水和物、過酸化ナトリウムおよび過酸化尿素が含まれる。有機過酸化化合物である過酢酸は本発明の系に利用すると安定化しないことが見出された。
【0007】
過酸化水素源は約0.001〜約0.1%(w/v)の過酸化水素、および好ましくは約0.001〜約0.01%(w/v)の過酸化水素を供給するのに十分な量で存在する。例として、過酸化水素源である過ホウ酸ナトリウムテトラ水和物は、約0.005〜約0.05%(w/v)の量で存在し得る。
【0008】
過酸化水素安定化剤は、本明細書において使用するとき、ホスホネート、ホスフェート、スタネート等を含むあらゆる既知の過酸化化合物の安定化剤を意味する。ホスホネートの生理的に適用可能な塩、例えばジエチレントリアミンペンタ(メチレン−ホスホン酸)および生理的に適用可能なその塩、ならびに1−ヒドロキシエチレン−1,1,−ジホスホン酸および生理的に許容されるその塩を使用することができる。本発明の実施において有用な他の過酸化化合物の安定化剤は、‘887特許、特に5欄、55行〜6欄、34行に記載されている。
【0009】
上記安定化剤は下記適用のほぼ全てにおいて使用することができる。しかし、溶液がヒドロゲルソフトコンタクトレンズと接触するとき、レンズ材を「曇らせる」おそれがあるのでスタネート安定化剤は回避するべきである。
【0010】
過酸化安定化剤がエチレントリアミンペンタ(メチレン−ホスホン酸)であるとき、それは組成物中約0.001〜約0.02%(w/v)または約0.002〜約0.012%(w/v)の量で存在し得る。
【0011】
過酸化安定化剤が1−ヒドロキシエチレン−1,1,−ジホスホン酸であるとき、それは組成物中約0.002〜約0.2%(w/v)の量で存在し得る。
【0012】
ジエチレントリアミンペンタ(メチレン−ホスホン酸)(Monsanto Company、St. Louis、Mo.からDEQUEST 2060の商品名で販売)および生理的に適用可能なその塩、ならびに1−ヒドロキシエチレン−1,1,−ジホスホン酸および生理的に適用可能なその塩以外の安定化剤を、生理的に適用可能な量で使用する。
【0013】
溶解性のアルカリ土類金属塩を眼用組成物中、保存溶液の約0.002〜約0.2%(w/v)、または保存溶液の約0.01%〜約0.1%(w/v)の量で使用することができる。水溶性のマグネシウム塩およびカルシウム塩は、アルカリ土類金属塩の例である。かかる溶解性アルカリ土類金属塩の添加によって少量の過酸化水素で保存されている眼用組成物中の抗真菌保存効果を上昇させる。
【0014】
上記の通り、本発明の眼用組成物を過酸化水素による酸化に対してケトチフェン塩を安定化するのに十分な、中性pHより低いpH値、例えばpH約3.5〜約6、好ましくはpH約3.8〜約5.5、およびより好ましくはpH約4〜約5.3で製剤する。例として、眼用組成物をpH3.5〜6、好ましくはpH3.8〜5.5、より好ましくはpH4〜5.3で製剤する。pHを、適当な量の生理的に耐用性な性質の酸または塩基、例えば当該量の塩酸および水酸化ナトリウムを使用して所望のとおりに調節することができる。
【0015】
本発明の眼用組成物中に、1種以上の常套の、実質的に不活性な生理的に許容される等張促進剤が存在していてもよい。適当なかかる剤には、例えばマンニトール、ソルビトール、グリセロール、アルカリ金属ハライド、ホスフェート、水素ホスフェートおよびボレートが含まれる。塩酸ナトリウム、リン酸ナトリウム1塩基およびリン酸ナトリウム2塩基が好ましい。かかる等張促進剤の機能は、眼に注入するときの組成物のおよその生理的等張性を保証すること、または上記過酸化物のために眼に接触させる前に希釈が必要である場合の希釈に対しかかる等張性を保証することである。
【0016】
好ましくは、実質的に等張であるか、またはその中の過酸化水素の分解もしくは希釈によって得られた組成物が実質的に等張である、例えば0.9%(w/v)塩化ナトリウム水溶液の等張に相当するように、実質的に十分な等張促進剤が眼用組成物中に存在する。好ましくは、眼用組成物中に存在する等張促進剤の量は約0.01〜約1%(w/v)である。
【0017】
本発明の眼用組成物はまた、1種以上の増粘剤を含んでいてもよい。増粘剤の例には、これらに限定されないが、セルロースエーテル、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)およびエチルヒドロキシエチルセルロース;ポリアクリル酸;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;アルギン酸;カラギーナン;グアーガム、カラヤガム、アガロースガム、ローカストビーンガムおよびキサンタンガムが含まれる。
【0018】
例として、本発明の眼用組成物は約0.0138〜約0.138%(w/v)のケトチフェンフマル酸塩、および約0.005〜約0.5%(w/v)の過ホウ酸ナトリウム、約0.001〜約0.01%(w/v)のジエチレントリアミンペンタ(メチレン−ホスホン酸)および生理的に適用可能なその塩、または約0.002〜約0.2%(w/v)の1−ヒドロキシエチレン−1,1,−ジホスホン酸および生理的に適用可能なその塩を含み、約3.5〜約6のpHを有する。精製水を加えて全量を100%とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の眼用組成物は、加速条件下、例えば溶液を100℃に24時間加熱することによってさえ発揮される顕著な安定性によって特徴付けられる。したがって、これらの組成物の貯蔵寿命が向上する。さらに、本発明の組成物は過酸化水素分解後の生理的耐用性によって特徴付けられる。
【0020】
眼用組成物に過酸化水素を使用する他の利点は、微量の過酸化水素が一旦眼と接触すると分解されることである。例えば、眼組織に存在するカタラーゼは過酸化水素を水と酸素に分解する。結果として、眼用組成物は使用時に保存剤が存在せず、有害反応を顕著に低減する。他の保存剤に関連する問題、例えば無害な化合物に分解することができないことは解消する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の眼用組成物をあらゆる常套の方法で製造することができる。例えば、過酸化水素および水以外の全ての成分を容器に入れ、新鮮な、好ましくは濃過酸化水素をそれに加えて混合することができる。あるいは、乾燥成分を少量部の液体安定化剤と練合し、残りの保存剤を加え、その後過酸化水素およびほとんどの水を加えることができる。他の成分、例えば等張促進剤および増粘剤を次いで加えるか、または製剤した組成物を当該剤に加えることができる。当業者は本発明の組成物の製剤法に様々なバリエーションを見出すであろう。
【0022】
本発明の他の局面は、アレルギー性結膜炎の処置および予防法に関する。かかる方法はアレルギー性結膜炎を有するかまたは感受性である対象に、有効量の上記眼用組成物を投与することを含む。
【0023】
この方法の他の局面において、眼用組成物を眼に局所的に、好ましくは点眼剤の形態で、アレルギー性結膜炎のための眼の痒みを処置および減少するために、および季節性アレルギー性結膜炎の徴候または任意の症状を処置および減少するために使用することができる。眼用組成物の用量はアレルギー性結膜炎の重症度および組成物中のケトチフェン塩の濃度に依存し、そして当業者によって容易に決定することができる。本発明の組成物を使用するとき、典型的には1滴〜10滴、または1滴〜5滴、または1滴〜3滴を一時に投与する。
【0024】
この方法のさらに他の方法において、眼用組成物はまた、コンタクトレンズケア溶液、例えばコンタクトレンズ湿潤、貯蔵、潤滑、洗浄、消毒および美容ケア溶液において使用するために製剤することができる。本発明の眼用組成物をあらゆる薬学的に許容される容器に封入することができるが、スクイーズプラスチック多用量容器、例えば点眼ボトルに封入するのが望ましい。かかるボトルをポリエチレンまたはポリプロピレン、またはそれらの混合物で製造することができる。点眼ボトルは典型的には、1滴あたり約12μL〜約50μLを分注する。過酸化活性を「中和する」ことが望まれるとき、あらゆる既知の方法、例えばリンスによって、溶液をプラチナ、カタラーゼまたは過酸化水素を分解することが知られているあらゆる既知の多の物質と接触させることで十分である。さらなる生理的に適用可能な過酸化中和剤には、ピルビン酸のような還元剤;およびその適当な塩、例えばナトリウム塩が含まれる。
【0025】
下記実施例は説明目的で存在し、本発明の範囲を限定することを意図しないが、本発明によって安定化された眼用組成物の安定性を示す。他に記載がない限り、全割合は%(w/v)による。
【実施例】
【0026】
実施例1
【表1】

【0027】
表1に示す製剤の安定性を、製剤をボトルに入れ、製剤を55℃で様々な時間貯蔵することによって評価する。結果を下記表2に要約する。
【表2】

表2に記載の製剤は眼用溶液の保存についてFDAによって要求されるUSP保存効果試験基準に適合した。
表2に示した結果は、ケトチフェンが評価した条件下で、とりわけ製剤1よりも低pHで製剤している製剤4で安定であることを示している。
【0028】
【表3】

【0029】
表3に示す製剤の安定性を、100℃で24時間製剤を加熱することによって評価する。結果を下記表4に要約する。
【表4】

表4に示した結果は、ケトチフェンが上記加速条件下で安定であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ケトチフェン塩;
(b)約0.001〜約0.1%(w/v)の微量で過酸化水素を供給する過酸化水素源;
(c)1種以上の眼に適用可能な過酸化水素安定化剤を含んでなる眼用組成物であって、過酸化水素による酸化に対してケトチフェン塩を十分に安定化するpHである、組成物。
【請求項2】
組成物のpHが約3.5〜約6である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物のpHが4〜5.3である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ケトチフェン塩が約0.01〜約0.1%(w/v)の濃度のケトチフェンフマル酸塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
過酸化水素源が、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム4水和物、過酸化ナトリウムおよび過酸化尿素からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
過酸化水素源が約0.001〜約0.01%(w/v)の量で過酸化水素を供給する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
1種以上の過酸化水素安定化剤が、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸および生理的に適用可能なその塩からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
組成物が約0.001〜約0.02%(w/v)のジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)または生理的に適用可能なその塩を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
組成物が約0.002〜約0.2%(w/v)の1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸または生理的に適用可能なその塩を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
さらに等張促進剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
(a)ケトチフェンとして約0.02〜約0.06%(w/v)のケトチフェン塩;
(b)約0.001〜約0.01%(w/v)の過酸化水素;および
(c)1種以上の眼に適用可能な過酸化水素安定化剤を含む請求項1に記載の組成物であって、過酸化水素による酸化に対してケトチフェン塩を十分に安定化するpHである、組成物。
【請求項12】
アレルギー性結膜炎を有するかまたは感受性である対象に、有効量の
(a)ケトチフェン塩;
(b)約0.001〜約0.1%(w/v)の微量で過酸化水素を供給する過酸化水素源;および
(c)1種以上の眼に適用可能な過酸化水素安定化剤を含んでなる眼用組成物であって、過酸化水素による酸化に対してケトチフェン塩を十分に安定化するpHである組成物を局所投与することを含む、アレルギー性結膜炎の処置および予防法。
【請求項13】
組成物のpHが約3.5〜約6である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
組成物のpHが4〜5.3である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
ケトチフェン塩が約0.01〜約0.1%(w/v)の濃度のケトチフェンフマル酸塩である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
過酸化水素源が、過酸化水素、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム4水和物、過酸化ナトリウムおよび過酸化尿素からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
過酸化水素源が約0.001〜約0.01%(w/v)の量で過酸化水素を供給する、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
1種以上の過酸化水素安定化剤が、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸および生理的に適用可能なその塩からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
組成物が約0.001〜約0.02%(w/v)のジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)または生理的に適用可能なその塩を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
組成物が約0.002〜約0.2%(w/v)の1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸または生理的に適用可能なその塩を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
さらに等張促進剤を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
アレルギー性結膜炎の処置および予防のための請求項1に記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2009−506064(P2009−506064A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528165(P2008−528165)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/033161
【国際公開番号】WO2007/025092
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】