説明

安定化されたタンパク質を含む生体活性組成物及びその製造方法

【課題】多孔性ハイドロゲルマトリックスを含む生体活性組成物、並びに、有機溶剤中に安定であるハイドロゲルタンパク質複合材を提供する。
【解決手段】多孔性ハイドロゲルマトリックスを含む生体活性組成物。少なくとも1種のタンパク質は多孔性ハイドロゲルマトリックス中に固定化され、有機溶剤中に安定である前記ハイドロゲルタンパク質複合材。生体活性組成物の安定化法であって、タンパク質分子の周囲にハイドロゲルマトリックス細孔を形成、及び、ハイドロゲルマトリックス細孔内の含水率を低減し、有機溶剤中に安定であるハイドロゲルタンパク質複合材を形成する工程を含む前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は生体活性材料を安定化させる組成物及び生体活性材料を安定化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
タンパク質、核酸及び機能的な酵素などの生物活性高分子は、生物医学及び産業用途の様々な局面で利用されうる。タンパク質は洗剤の消化クリーニング効率を高めるために様々な洗剤混合物中で利用されうる一方、たとえば、核酸はポリメラーゼ連鎖反応のための遺伝子鋳型として利用することができる。さらに、消化性タンパク質又は酵素などのタンパク質は触媒して有機分子を分解するのに利用することができる。消化性タンパク質は有機媒体で利用することができ、それにより、様々な基質を利用できるようになる。もしも基質が水中で不溶性であるか又は水にわずかにしか可溶性でないならば、消化性タンパク質の最大活性は水溶液中で達成されえない。
【0003】
消化性タンパク質又は酵素などのタンパク質は様々な有機分子を分解しそしてその有機分子と反応することができるが、それは一般に高温で熱的に安定でない。さらに、このようなタンパク質又は消化性酵素は一般に非水性有機溶剤中で安定でない。
【0004】
それゆえ、高温及び乾燥条件下で使用することができる熱的に安定した生体活性組成物が当該技術分野において必要である。また、有機溶剤中で高い触媒活性を維持する生体活性組成物も当該技術分野において必要である。有機溶剤中で高い触媒活性を維持する熱的に安定な生体活性組成物及びその生体活性組成物の製造方法が当該技術分野においてさらに必要である。
【発明の概要】
【0005】
発明の要旨
1つの態様において、多孔性ハイドロゲルマトリックスを含む生体活性組成物が開示される。多孔性ハイドロゲルマトリックス中に固定化された少なくとも1種のタンパク質は有機溶剤中に安定であるハイドロゲルタンパク質複合材を形成している。
【0006】
別の態様において、タンパク質分子の周囲にハイドロゲルマトリックス細孔を形成すること、及び、前記ハイドロゲルマトリックス細孔内の含水率を低減し、有機溶剤中に安定であるハイドロゲルタンパク質複合材を形成することの工程を含む、生体活性組成物の安定化法が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は事前処理されたゲルに捕捉されたGOx、ならびに、未処理のゲルに捕捉されたGOx及び天然GOx酵素のエタノール中における相対活性の時間の関数としてのグラフである。
【0008】
【図2】図2はハイドロゲル中に捕捉する酵素の分子量のモノマー濃度の関数としてのプロットである。
【0009】
【図3】図3は80℃にて異なる時間インキュベートした後の、事前処理α−キモトリプシンに関する80℃での相対活性の時間の関数としてのグラフである。
【0010】
【図4】図4はα−CTの天然酵素、α−CTの未処理ハイドロゲル酵素及びα−CTの事前処理ハイドロゲル酵素に関するメタノール中における相対活性の時間の関数としてのプロットである。
【0011】
【図5】図5は処理されたゲルα−CT及びα−CTの天然酵素の両方に関するエステル転移反応の反応速度のプロットである。
【0012】
【図6】図6は異なる含水率に対する依存性を含めて、天然α−キモトリプシン及び乾燥ハイドロゲルに捕捉されたα−キモトリプシンの初期エステル転移速度を詳細に示すプロットである。
【0013】
【図7】図7はn−ヘキサン中でのエステル転移反応に関する天然α−CT酵素及びハイドロゲルに捕捉されたα−CT酵素の相対活性の時間の関数としてのプロットである。
【0014】
【図8】図8は加水分解エステル転移反応及び有機エステル転移反応の両方における様々な使用サイクルにわたるゲル閉じ込め酵素の相対活性のプロットである。
【0015】
好ましい実施形態の詳細な説明
多孔性ハイドロゲルマトリックス及びその多孔性ハイドロゲルマトリックス中に固定化された少なくとも1種のタンパク質を含み、有機溶剤中及び高温で安定であるハイドロゲルタンパク質複合材を形成する生体活性組成物がここに開示される。1つの態様において、ハイドロゲルタンパク質複合材は有機溶剤中にて遊離消化性タンパク質対照物の半減期の少なくとも1000倍長い半減期を有する。さらに、ハイドロゲルタンパク質複合材は有機溶剤中で活性を維持する。1つの態様において、ハイドロゲルタンパク質複合材は、有機溶剤中にて遊離消化性タンパク質対照物よりも1000倍高い活性を有する。
【0016】
ハイドロゲルタンパク質複合材の有機溶剤中での安定性に加えて、ハイドロゲルタンパク質は高温にて生物学的活性を維持する。1つの態様において、タンパク質は110℃までの温度に暴露された後に生物学的活性を維持する。
【0017】
様々なタンパク質はここに開示される生体活性組成物中において使用されうる。1つの態様において、タンパク質はプロテアーゼ、アミラーゼ、セルロース、リパーゼ、ペルオキシダーゼ、チロシナーゼ、グリコシダーゼ、ヌクレアーゼ、アルドラーゼ、ホスファターゼ、スルファターゼ、デヒドロゲナーゼ及びリゾチームならびにそれらの組み合せから選ばれることができる。さらに、抗体、核酸、脂肪酸、ホルモン、ビタミン、ミネラル、構造タンパク質、酵素、ならびに、ヒスタミンブロッカー及びヘパリンを含む治療薬を含む生体活性剤を使用できる。
【0018】
生体活性組成物は、含水率がハイドロゲルマトリックスの0〜0.5質量%であるハイドロゲルマトリックスを含む。1つの態様において、消化性タンパク質はハイドロゲルマトリックスの約0.1〜10乾燥質量%であり、そして1つの態様において、ハイドロゲルマトリックスの約0.2〜4.5乾燥質量%である。
【0019】
タンパク質分子の周囲にハイドロゲルマトリックス細孔を形成すること、及び、ハイドロゲルマトリックス細孔内の含水率を低減し、有機溶剤中に安定であるハイドロゲルタンパク質複合材を形成することを含む、生体活性組成物の安定化法もここに開示される。1つの態様において、タンパク質分子の周囲にハイドロゲルマトリックス細孔を形成する工程はタンパク質を脱イオン水中に所望の濃度で溶解させること、及び、プレポリマーを脱イオン水中に所望の濃度で溶解させること、及び、溶解したタンパク質及び溶解したプレポリマーを特定の比率で混合することの工程を含む。次に、プレポリマー組成物の重合を開始する。1つの態様において、重合を開始する工程は、架橋剤を添加すること、開始剤を添加すること、溶解したタンパク質と溶解したプレポリマーとの混合物の温度を調節することから選ばれることができる少なくとも1つの工程を含む。1つの態様において、溶解したプレポリマーの総体積に対する比率は20〜28質量%である。
【0020】
ハイドロゲルマトリックス細孔内の含水率を低減する工程はハイドロゲルマトリックスを20〜100℃の温度に24時間〜7日間加熱することを含むことができる。さらに、ハイドロゲルマトリックス内の含水率を低減する工程はハイドロゲルマトリックスを20〜80℃の温度に24時間加熱し、次いで、室温にて特定の時間、たとえば、1週間空気乾燥することを含むことができる。
【0021】
さらに、ハイドロゲルマトリックス細孔内の含水率を低減する工程はハイドロゲルマトリックスを20〜55℃の温度に24時間加熱し、次いで、室温にて特定の時間、たとえば、1週間空気乾燥することを含むことができる。
【0022】
さらに、ハイドロゲルマトリックス細孔内の含水率を低減する工程は湿潤ゲル体積と比較して15〜21%、孔体積を低減することができる。含水率を低減する工程は孔体積を低減することができ、そして基質が孔に入ることを可能にし、タンパク質と基質との間の反応が可能になる。このようにして、生体活性組成物は様々な反応において使用されうる。1つの態様において、生体活性組成物の架橋も、捕捉された酵素の細孔中への基質のアクセスを可能にするように調節されうる。生体活性組成物は様々な反応のために使用されるときに、繊維、ビーズ、フィラメント又はロッドなどの様々な形状を有することができる。
【表1】

【0023】
1つの態様において、生体活性組成物の事前処理は使用される酵素の構造変化を引き起こす転移温度に基づいて様々であることができる。下記の表を参照すると、様々な酵素は摂氏温度で転移温度ラベル化TMを有することが判る。グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、α−キモトリプシン、サーモリシン、α−アミラーゼ及びリパーゼを含む様々な酵素が表中に示されている。表から判るように、提案される事前処理温度は転移温度TMに基づいて様々であろう。表において判るように、提案される事前処理温度は酵素の大きな構造的変化をもたらす転移温度を大きく超えることはない。
【実施例】
【0024】
本発明の様々な態様は下記の非限定的な実施例により例示される。実施例は例示の目的のみであり、本発明の実施に対して限定しない。変更及び改変は本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行えることが理解されるであろう。

【0025】
例1−改良された熱及び触媒安定性をもたらすポリアクリルアミドハイドロゲル中へのグルコースオキシダーゼの捕捉
材料
アクリルアミド/ビス溶液及びN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)はBio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USAの製品であった。D-(+)-グルコース、クロコウジカビからのグルコースオキシダーゼ(GOX)(EC1.1.3.4)、セイヨウワサビからのペルオキシダーゼ(HRP)(EC1.11.1.7)、o−ジアニシジン、HPLCグレードのエタノール、メタノール及びクロロホルム、トルエン、過硫酸アンモニウムはSigma Chemical Co., St. Louis, MO, USAから入手した。特に言及しない限り、実験で使用される他のすべての試薬及び溶剤は市販の最高等級のものであった。
【0026】
ポリアクリルアミドハイドロゲル中へのグルコースオキシダーゼ(GOx)の捕捉
GOxのポリアクリルアミドハイドロゲル中への捕捉を下記の手順により行った。0.5〜10mgのGOXを含む0.1MのpH7.0のリン酸ナトリウム緩衝液 2mlを調製し、次いで、30%のアシルアミド/ビス溶液6.8ml及びDIH2O1.2mlと混合して、合計モノマー濃度20%(w/v)及び架橋剤濃度5%(w/w)を有する10mlの溶液を製造した。予め決められた形状のハイドロゲルディスクを得るためにエンクロージャ(8.3×7×0.075cm3)を使用して、100μlの新鮮に調製された過硫酸アンモニウム(脱イオン水中10%w/v)及び4μlのTEMEDを室温で添加することによって重合を開始した。完全にゲル化させて酵素を捕捉するのに少なくとも4時間を要した。得られたハイドロゲルディスクをガラスエンクロージャから取り出し、さらなる試験のために直径16mmの小さなディスクへと打ち抜き加工した。
【0027】
天然GOx及びヒドロゲルに捕捉されたGOxの活性アッセイ
セイヨウワサビペルオキシダーゼ及びo−ジアニシジンを用いた共役酵素反応を応用してGOxの活性を決定した。天然酵素に関しては、反応混合物(1.1ml)は0.1モルのグルコース、7μgのセイヨウワサビペルオキシダーゼ、0.17mMのo−ジアニシジン及び35μlの酵素(0.4〜0.8U/ml)を50mMのpH5.1の酢酸ナトリウム緩衝液中に含んだ。室温での500nmでの吸光度の増加を活性の計算のために記録した。ヒドロゲルに捕捉したGOxを用いた反応は20mlガラスバイアル中で行った。
【0028】
ハイドロゲルに捕捉したGOxの活性を測定するために、乾燥したハイドロゲルディスクを脱イオン水中に少なくとも2時間浸漬し、活性試験の前に完全に膨潤した状態にさせた。セイヨウワサビペルオキシダーゼ0.14mg及びo−ジアニシジン1.1mgを含む0.1Mのグルコース溶液20.7mlに対してハイドロゲルディスクを添加した。各1mlのアリコートを周期的に取り出し、そして500nmでのUV吸光度を用いて製品濃度を測定した後に即座に再混合した。
【0029】
ハイドロゲルに捕捉した酵素の事前処理(乾燥)
ハイドロゲルに捕捉したグルコースオキシダーゼに関して、有効な事前処理温度は20℃〜80℃の範囲であることが判った。好ましくは、新鮮なハイドロゲルディスクをペトリ皿に入れ、炉内で80℃にて24時間インキュベートし、次いで、室温にて空気中で1週間乾燥し、完全な乾燥状態とした。最終的に、乾燥したハイドロゲルディスクをさらなる試験のために用い、活性を上記のとおりの水溶液中での加水分解により測定した。
【0030】
事前処理されたハイドロゲルに捕捉したGOxの熱安定性
GOxを含有するハイドロゲルディスクを上記のとおりに事前処理し、ガラスプレート上に置き、炉内で高温(80℃、110℃及び130℃)でインキュベートした。特定の時点で、ハイドロゲルディスクを炉から取り出し、残留触媒活性を上記のとおりのアッセイ手順を用いて評価した。
【0031】
事前処理されたハイドロゲルに捕捉したGOxの有機溶剤中での安定性
事前処理の後に、ハイドロゲルに捕捉した酵素の安定性を、アセトン、メタノール、エタノールなどの極性型溶剤もしくはトルエンなどの非極性型溶剤などの有機溶剤中で検査した。同一のバッチからの事前処理されたハイドロゲルディスクを、ネジでキャップした20mLバイアル中で各溶剤10ml中にてインキュベートした。天然の酵素及び事前処理していないハイドロゲルディスクを比較として用いた。ハイドロゲルディスクを活性アッセイのために特定の時刻で溶剤から取り出し、残留活性を決定した。
【0032】
室温にて、事前処理されたハイドロゲルに捕捉したGOxのメタノール中での平均寿命は5,650時間という長さであり、一方、天然酵素の平均寿命は5分未満であり、そして事前処理されていない湿潤ハイドロゲルに捕捉した酵素に関しては50.3時間であることが判った。
【表2】

【0033】
乾燥したハイドロゲルに捕捉したGOxの有機溶剤中での高温での安定性
事前処理の後に、ハイドロゲルに捕捉したGOxの安定性を、高温及び極性溶剤の随伴効果の下に調べた。典型的には、乾燥したハイドロゲルディスクを、10mlの純粋エタノール中で74℃の固定温度でインキュベートした。ネジでキャップした20mLバイアルを用いた。特定の時刻で、ハイドロゲルディスクをエタノール溶液から取り出し、残留活性を決定した。
【0034】
図1に詳細に示すとおり、事前処理した収縮したハイドロゲルに捕捉したGOxの活性は長時間にわたって有意な損失がないが、天然のGOx及び事前処理していない湿潤ハイドロゲルに捕捉したGOxの両方は急速に不活性化した。半減期は4500時間の範囲であると評価され、同一の条件下の天然の酵素と比較して2×106倍の驚くべき安定性の向上である。
【0035】
例2−向上した熱及び触媒安定性を生じるポリアクリルアミドハイドロゲル中のα−キモトリプシンの捕捉
材料
例1に詳述した多くの同一の材料を用い、さらに、ウシ膵臓からのα-キモトリプシン(α−CT)(EC3.4.21.1)、n−アセチル−L−フェニルアラニンエチルエステル(APEE)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びSigma-Aldrich (St. Louis, MO, USA)から購入したn-スクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe p-ニトロアニリド(n-Succinyl-Ala-Ala-Pro-Phe p- nitroanilide)(SAAPPN)を用いた。n−プロピルアルコール(N- PrOH、HPLC等級)はEM (Gibbstown, NJ)から購入した。すべての有機溶剤は使用される前に少なくとも24時間3Åモレキュラーシーブで処理した。特に言及しない限り、実験で使用される他のすべての試薬及び溶剤は市販の最高等級のものであった。
【0036】
ポリアクリルアミドハイドロゲル中のα−キモトリプシン(α−CT)の捕捉
ポリアクリルアミドハイドロゲル中へのα-CTの捕捉は下記手順により行った。0.5〜 10mgのα−CTを含む0.01MのpH7.5の酢酸ナトリウム緩衝液0.42mlを調製し、次いで、30%アシルアミド/ビス溶液9.33ml及びDIH2O0.25mlと混合し、合計モノマー濃度28%(w/v%)及び架橋剤濃度5%を有する10mlの溶液を製造した。予め決められた形状(8.3×7×0.075cm3)のハイドロゲルディスクを得るためのガラスエンクロージャを使用して、100μlの新鮮に調製された過硫酸アンモニウム(脱イオン水中10%w/v)及び4μlのTEMEDを室温で添加することによって重合を開始した。完全にゲル化させて酵素を捕捉するのに少なくとも4時間を要した。得られたハイドロゲルディスクをガラスエンクロージャから取り出し、さらなる試験のために直径16mmの小さなディスクへと打ち抜き加工した。
【0037】
天然のα―CT及びハイドロゲルに捕捉したα-CTに関する水性活性アッセイ
天然の酵素では、酵素溶液(1mg/ml)50μlを、SAB2.44ml及びDMSO中の160mMのSAAPPN原料溶液13μlと混合した。反応速度は410nmでの吸光度をモニターすることによって決定した。
【0038】
ハイドロゲルに捕捉したα−CTの場合には、乾燥したゲルディスクを脱イオン水中に少なくとも2時間浸漬し、活性試験の前に完全に膨潤した状態にさせた。5mMの酢酸カルシウムを含むpH7.5で10mMの酢酸ナトリウム緩衝液4.975ml及び160mMのSAAPPN原料25μlを含む20mLバイアル中での反応により活性を測定した。200rpmで攪拌しながら、ハイドロゲルに捕捉した酵素を添加することにより反応を開始した。各1mlのアリコートを周期的に取り出し、そして410nmでのUV吸光度を用いて製品濃度を測定した後に即座に再混合した。
【0039】
ハイドロゲルに捕捉した酵素の事前処理(乾燥)
ハイドロゲルに捕捉したα−キモトリプシンに関して、有効な乾燥温度は20℃〜55℃の範囲であることが判った。好ましくは、新鮮なハイドロゲルディスクを炉内で55℃で24時間インキュベートし、次いで、室温にて空気中で1週間乾燥し、完全な乾燥状態とした。最終的に、乾燥したハイドロゲルディスクをさらなる試験のために用い、活性を上記のとおりの水溶液中での加水分解により測定した。
【0040】
図3において判るように、α−キモトリプシンの事前処理により、80℃での酵素熱安定性の驚くべき向上が得られ、単一法(室温又は55℃での乾燥)で有意な差異は観測されえない。1000時間にわたって、80℃という高温であるにも関わらず、初期活性の15%しか損失せず、一方、湿潤及び乾燥状態の天然酵素はずっと速く活性を損失した。
【0041】
事前処理された(乾燥)ハイドロゲルに捕捉したα−CTのメタノール中での安定性
事前処理の後に、ハイドロゲルに捕捉したα−CTの安定性を、メタノール中で検査した。同一のバッチからの単一の事前処理されたハイドロゲルディスクを、ネジでキャップした20mLバイアル中で純粋メタノール10ml中にてインキュベートした。天然の酵素及び事前処理していないハイドロゲルディスクを比較として用いた。ハイドロゲルディスクを特定の時刻で溶剤から取り出し、残留活性を決定した(上記のアッセイ)。
【0042】
ゲルに捕捉したα―CTは、また、図4に詳細に示すとおり、有機溶剤中での大きく向上した安定性を示す。乾燥ゲルα−CTの半減期はメタノール中で約140日であり、天然のα―CTよりも105倍という驚くべき向上である。
【0043】
天然のα−CT及び事前処理されたハイドロゲルα―CTのエステル転移活性
室温にて、APEE(2.5〜30Mmの範囲の濃度)事及び0.5Mのn−PrOHを含むヘキサン又はイソオクタン中で、天然のα−CTの有機溶剤中でのエステル転移活性を測定した。典型的には、5mgの天然CT粉末を、反応溶液10mLに添加して反応を開始した。200rpmでの反応の間に、反応溶液からのアリコート200μLを、0.22μmPTFEシリンジフィルターを用いたろ過により周期的に取り出し、次いで、13,000rpmで5分間遠心分離した。100μlの体積の上層液をガスクロマトグラフ分析(下記のGC法)のために用いた。
【0044】
ハイドロゲルに捕捉したα−CTでは、1片の乾燥したハイドロゲルディスクを、APEE(2.5〜30Mmの範囲の濃度)及び0.5Mのn−PrOHを含むヘキサンもしくはイソオクタン10ml中に添加した。反応物を200rpmで振盪させ、一方、200μlのアリコートを周期的に取り出し、そして13,000rpmで5分間遠心分離した。100μlの体積の上層液をガスクロマトグラフ分析のために用いた。
【0045】
生成物の濃度を、FID検出器及びRTX−5キャピラリーカラム(0.25mm×0.25μm×10m、Shimadzu)を装備したガスクロマトグラフを用いてモニターした。20℃/分の加熱速度で100〜190℃の温度勾配、次いで、190℃で5分間保持を使用した。インジェクション温度カラムを210℃に維持し、一方、検出器温度は280℃であった。n−アセチル−L−フェニルアラニンプロピルエステル(APPE)の生成の初期反応速度を算出した。図5に示すように。1%の含水率では0.8μmolAPPE/分/mg酵素の初期エステル転移速度となり、それは天然の酵素の比活性と比較して約13倍高くなっていた。
【0046】
活性に対する含水率の効果
ゲルに閉じ込められたα-CTの活性を、0〜1.5v/v%の範囲の様々な水の量をn−ヘキサン中に含む有機溶媒中で調べた。同一の含水率を有するヘキサン中に懸濁された天然のα-CT粉末を対照物として用いた。図6で詳細に示すとおり、含水率はゲルに閉じ込められたα-CTの活性に有意な影響を与え、1%の水で最大値となる。この含水率で、反応物に追加の水を添加しなかった場合に、ゲルに閉じ込められた酵素は、ヘキサン中に懸濁した天然のα-CTの粉末と比較して、エステル転移活性の3桁以上の向上を示した。0.1%及び0.5%の含水率では、ゲルに捕捉された酵素は、天然の酵素と比較して2倍及び4.5倍しか活性の向上を示さなかった。この観察は、ハイドロゲル及び酵素分子の間の水競合効果、及び、基質及び生成物の両方についてのゲル中の物質移動の制限によるものである可能性がある。含水率を1.0%から1.5%に増加させたときに、初期反応速度に増加は観測されなかった。このことから、ゲルが1.0%のしきい値含水率を超えて水和したときに、物質移動が大きな役割を果たさないことが推測される。
【0047】
図7を参照すると、有機溶剤中のゲルに閉じ込められたα-CTは活性だけでなく、操作安定性も改善されたことが理解できる。天然の酵素の反応速度は時間とともに急速に減少し、天然の酵素は最初の5時間以内に初期活性の90%を超える量で活性を失うが、一方、ゲルに閉じ込められた酵素は、16時間の間に10%のみの活性の損失を示した。また、ゲルに閉じ込められた酵素は、図8に示すように、水性加水分解及び有機エステル転移反応の両方に対する活性を有意に失うことなく、少なくとも5サイクル再利用できることも示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性ハイドロゲルマトリックス、
前記多孔性ハイドロゲルマトリックス中に固定化され、有機溶剤中で安定であるハイドロゲル−タンパク質複合材を形成している、少なくとも1種のタンパク質、
を含む生体活性組成物。
【請求項2】
前記ハイドロゲル−タンパク質複合材は有機溶剤中にて遊離消化性タンパク質対照物の半減期の少なくとも1000倍長い半減期を有する、請求項1記載の生体活性組成物。
【請求項3】
前記ハイドロゲル−タンパク質複合材は有機溶剤中で活性を維持する、請求項1記載の生体活性組成物。
【請求項4】
前記ハイドロゲル−タンパク質複合材は、有機溶剤中にて遊離消化性タンパク質対照物よりも1000倍高い活性を有する、請求項1記載の生体活性組成物。
【請求項5】
前記ハイドロゲルタンパク質は高温にて生物学的活性を維持する、請求項1記載の生体活性組成物。
【請求項6】
前記タンパク質は最大110℃の温度に暴露された後に生物学的活性を維持する、請求項1記載の生体活性組成物。
【請求項7】
前記タンパク質はプロテアーゼ、アミラーゼ、セルロース、リパーゼ、ペルオキシダーゼ、チロシナーゼ、グリコシダーゼ、ヌクレアーゼ、アルドラーゼ、ホスファターゼ、スルファターゼ、デヒドロゲナーゼ及びリゾチームならびにそれらの組み合せから選ばれる、請求項1記載の生体活性組成物。
【請求項8】
抗体、核酸、脂肪酸、ホルモン、ビタミン、ミネラル、構造タンパク質、酵素、ならびに、ヒスタミンブロッカー及びヘパリンを含む治療薬からなる群より選ばれる生化学活性剤をさらに含む、請求項1記載の生体活性組成物。
【請求項9】
前記ハイドロゲルマトリックスは含水率がハイドロゲルマトリックスの0〜5質量%である、請求項1記載の生体活性組成物。
【請求項10】
前記消化性タンパク質はハイドロゲルマトリックスの約0.2〜4.5乾燥質量%である、請求項1記載の生体活性組成物。
【請求項11】
タンパク質分子の周囲にハイドロゲルマトリックス細孔を形成すること、及び、
前記ハイドロゲルマトリックス細孔内の含水率を低減し、有機溶剤中に安定であるハイドロゲル−タンパク質複合材を形成すること、
を含む、生体活性組成物の安定化法。
【請求項12】
タンパク質分子の周囲にハイドロゲルマトリックス細孔を形成する工程はタンパク質を脱イオン水中に所望の濃度で溶解させること、プレポリマーを脱イオン水中に所望の濃度で溶解させること、溶解したタンパク質及び溶解したプレポリマーを所望の比率で混合すること、及び、該プレポリマーの重合を開始することの工程を含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
重合を開始する工程は、架橋剤を添加すること、開始剤を添加すること、及び、溶解したタンパク質と溶解したプレポリマーとの混合物の温度を調節すること、から選ばれる少なくとも1つの工程を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
溶解したプレポリマーの比率は総体積に対して20〜28質量%である、請求項11記載の方法。
【請求項15】
ハイドロゲルマトリックス細孔内の含水率を低減する工程はハイドロゲルマトリックスを20〜110℃の温度に24時間〜7日間加熱することを含む、請求項11記載の方法。
【請求項16】
ハイドロゲルマトリックス細孔内の含水率を低減する工程はハイドロゲルマトリックスを20〜80℃の温度に24時間加熱し、次いで、室温にて1週間空気乾燥することを含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
ハイドロゲルマトリックス細孔内の含水率を低減する工程はハイドロゲルマトリックスを20〜55℃の温度に24時間加熱し、次いで、室温にて1週間空気乾燥することを含む、請求項15記載の方法。
【請求項18】
ハイドロゲルマトリックス細孔内の含水率を低減する工程は湿潤ゲル体積と比較して15〜21%、孔体積を低減する、請求項11記載の方法。
【請求項19】
ハイドロゲルマトリックス細孔内の含水率を低減する工程は孔体積を低減し、そして基質が孔に入ることを可能にし、前記タンパク質と前記基質との間の反応が可能になる、請求項11記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−95648(P2012−95648A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−225081(P2011−225081)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(507342261)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド (135)
【出願人】(511246197)ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ,デパートメント オブ バイオプロダクツ アンド バイオシステムズ エンジニアリング (1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】