説明

安定化された樹脂架橋剤

【課題】イオン反応により架橋する架橋剤組成物であって、被架橋樹脂と混合する際には均一に分散することができ、加熱溶融するまでは被架橋樹脂と反応することなく安定して共存し、加熱溶融することにより速やかに被架橋樹脂と架橋構造を形成して強度、耐熱性、機械特性等を向上させることができる架橋剤組成物、およびそのホットメルト接着や粉末積層造形への応用方法を提供する。
【解決手段】本発明の架橋剤組成物は、多官能性(メタ)アクリルアミド、多官能性(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アリル(イソ)シアヌレートから選択される少なくともひとつの多官能性化合物(A)が、マトリックスとしての、該多官能性化合物(A)よりも融点が低く、且つ、該多官能性化合物(A)に対して非反応性のポリマー(B)中に分散することにより安定化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト型接着や粉末積層造形において使用されるポリアミド共重合体に有用な安定化された架橋剤、およびそれを使用したホットメルト型接着剤や粉末積層造形法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の架橋は、成形加工後の樹脂の強度、耐熱性、機械特性等を向上させるために不可欠な技術である。そして、架橋剤は成形時には安定で、成形加工が終了後、或いは成形加工と同時に架橋が完成して上記強度、耐熱性、機械特性等を向上させることを必要とする。
【0003】
従来、架橋剤はそれ自身の反応性が高いため、長期間保存することにより自己反応が進み、架橋性の劣化が起こり、架橋剤の保存期間が短いという欠点があった。また、長い時間被架橋樹脂と共存すると架橋反応が進んでしまうという欠点があった。そのため、ポリオレフィンの架橋反応は、放射線などの物理作用によるものが多く、化学的な架橋反応はあまり利用されていなかった。また化学的な架橋反応を行う例としては、ゴムに硫黄化合物や過酸化物等を低温で添加し、ラジカル反応により架橋反応を行うことが知られている。この場合も、架橋剤は、架橋剤の劣化を防ぐため、ゴムの成形加工直前に混合する等、使用上の制限を設ける必要があった。
【0004】
一方、ポリアミド系ホットメルト樹脂としては、ドイツにおいて、芯地用等としての架橋反応性ポリアミドホットメルト樹脂が市販されている(ダイセル・エボニック社製、商品名「ベスタメルト」)。しかし、架橋剤を使用していないため、布地の接着剤としては有用であるが、強度等を必要とする樹脂の原料として使用することは困難であった。また、アメリカにおいては、架橋剤として多官能性アクリルアミド又は多官能性アクリレートを使用した架橋性ポリアミド系ホットメルト樹脂の発明が公開されている(特許文献1)。しかし、多官能性アクリルアミド又は多官能性アクリレートは、求核試薬との反応性が高く、比較的低温においても架橋反応が起きるため、架橋剤としては有用であるが、被架橋樹脂と共存した場合に保存安定性に欠ける。また、自己反応性が高いため、架橋剤としての劣化が起こり、保存できる期間が短く、実際の使用に十分対応することができずにいた。その上、多官能性アクリルアミド自体の毒性が製造過程において問題であった。すなわち、イオン反応により架橋する架橋剤であって、樹脂を形成加工するまでは安定した状態で保存することができ、被架橋樹脂と混合する際には均一に分散することができ、加熱溶融することにより速やかに架橋構造を形成して強度、耐熱性、機械特性等を向上させることができる架橋剤を見いだせていないのが現状である。
【0005】
また、金型を使用しない成形技術として、近年、ラピッド・プロトタイピングが注目されている。樹脂成形体を得るための一般的な方法は、レーザ焼結による粉末積層造形法であり、複雑な三次元形状を容易かつ迅速に製造できる(特許文献2)。この方法では、樹脂粉末層をレーザ照射することにより、粉末粒子同士が溶融結合し、再び凝固する課程を経た後、次の樹脂粉末層をレーザ照射するという工程を繰り返すが、溶融結合および凝固に時間を要するため、製造期間が長くなることが課題である。一方、架橋反応を利用する方法として、光硬化性樹脂を使用する方法(特許文献3)、カチオン硬化性樹脂を使用する方法(特許文献4)、金属塩により架橋する方法(特許文献5)などが公開されている。これらの方法では、樹脂は迅速に結合するが、それらの方法に適した化学構造を持つ特定の樹脂や組成を予め調整する必要があり、樹脂種の選択肢が限られることが課題である。
【0006】
その他、保護基を使用した架橋反応を利用することが考えられるが、反応後に脱離した保護基が気化すると、接着面が荒れたり、成形体に内部欠陥を生成するため、ホットメルト接着やラピッド・プロトタイピングには不向きである。
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/175008号明細書
【特許文献2】米国特許第6136948号明細書
【特許文献3】特表平11−513746号明細書
【特許文献4】特表2007−509192号明細書
【特許文献5】特表2005−521809号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、イオン反応により架橋する架橋剤組成物であって、被架橋樹脂と混合する際には均一に分散することができ、加熱溶融するまでは被架橋樹脂と反応することなく安定して共存し、加熱溶融することにより速やかに被架橋樹脂と架橋構造を形成して強度、耐熱性、機械特性等を向上させることができる架橋剤組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、該架橋剤組成物の製造方法、該架橋剤組成物を含有する架橋性樹脂組成物、及び該架橋性樹脂組成物の架橋方法、例えばホットメルト接着や粉末積層造形の方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリアミド共重合体がアミノ基を含有しなければ、多官能性アクリルアミド、多官能性アクリレート、又は多官能性(メタ)アリル(イソ)シアヌレートはポリアミド共重合体と反応することなく、安定して共存することができることを見出し、多官能性アクリルアミド、多官能性アクリレート、又は多官能性(メタ)アリル(イソ)シアヌレートをアミノ基を含有しないポリアミド共重合体と混合することにより安定化することができ、被架橋樹脂と混合する際には均一に分散することができ、溶融加熱することにより、速やかに架橋して、強度、耐熱性、機械特性等に優れた樹脂を得ることができることを見出して本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、多官能性(メタ)アクリルアミド、多官能性(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アリル(イソ)シアヌレートから選択される少なくともひとつの多官能性化合物(A)が、該多官能性化合物(A)に対して非反応性のマトリックスであるポリマー(B)中に分散している安定化された架橋剤組成物を提供する。
【0011】
前記架橋剤組成物としては、非反応性のポリマー(B)が、多官能性化合物(A)よりも融点が低いポリマーであることが好ましく、又は、ラジカル重合禁止剤を含むことが好ましい。
【0012】
また、多官能性化合物(A)が1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリ(メタ)アリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)トリオンから選択される少なくともひとつの多官能性化合物であることが好ましく、ポリマー(B)が非アミノ基含有ポリアミド又はポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0013】
更にまた、多官能性化合物(A)とポリマー(B)の混合割合[前者:後者(重量比)]が、5:95〜30:70であることが好ましい。
【0014】
更にまた、前記架橋剤組成物は粉末状であることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、多官能性(メタ)アクリルアミド、多官能性(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アリル(イソ)シアヌレートから選択される少なくともひとつの多官能性化合物(A)と、該多官能性化合物(A)よりも融点が低く且つ該多官能性化合物(A)に対して非反応性のポリマー(B)とを、該多官能性化合物(A)の融点よりも低い温度で溶融混練することを特徴とする安定化された架橋剤組成物の製造方法を提供する。
【0016】
本発明は、更にまた、多官能性(メタ)アクリルアミド、多官能性(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アリル(イソ)シアヌレートから選択される少なくともひとつの多官能性化合物(A)と、該多官能性化合物(A)に対して非反応性のポリマー(B)とを、ラジカル重合禁止剤と共に溶融混練することを特徴とする安定化された架橋剤組成物の製造方法を提供する。
【0017】
更にまた、前記架橋剤組成物の製造方法としては、溶融混練後、凍結粉砕することが好ましい。
【0018】
本発明は、更にまた、前記架橋剤組成物と、被架橋樹脂とを含む架橋性樹脂組成物を提供する。
【0019】
被架橋樹脂としては、アミノ基を含有するポリアミドであることが好ましく、架橋性樹脂組成物が、架橋性のホットメルト接着剤または粉末積層造形用の架橋性樹脂組成物であることが好ましい。
【0020】
更に、架橋剤組成物と被架橋樹脂との混合割合[前者:後者(重量比)]が、1:1.5〜1:10であることが好ましい。
【0021】
本発明は更に、前記架橋性樹脂組成物を、加熱溶融することにより架橋することを特徴とする架橋方法を提供する。
【0022】
本発明は、更にまた、前記架橋性樹脂組成物を用いて三次元物体を積層造形する方法において、該架橋性樹脂組成物から成る粉末層を形成する工程、及び該粉末層の選択的な範囲を加熱溶融することにより該範囲に存在する粉末を架橋する工程を含むことを特徴とする三次元物体を積層造形する方法、及びその方法によって製造された三次元物体を提供する。
【0023】
本発明は、更にまた、架橋剤組成物及び被架橋樹脂を用いて三次元物体を積層造形する方法において、該架橋剤組成物を含む粉末層と該被架橋樹脂を含む粉末層を交互に形成する工程、及び何れかの粉末層の選択的な範囲を加熱溶融することにより該範囲に存在する粉末を架橋する工程を含むことを特徴とする三次元物体を積層造形する方法、及びその方法によって製造された三次元物体を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の架橋剤組成物によれば、多官能性(メタ)アクリルアミド、多官能性(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アリル(イソ)シアヌレートから選択される少なくともひとつの多官能性化合物(A)を安定化することができ、それにより、長期間の保存に耐える架橋剤組成物を得ることができる。また、本発明の架橋剤組成物は、被架橋樹脂と混合しても、加熱溶融するまでは安定に共存することができるため、成形加工直前に混合する等の使用上の制限を設ける必要がない。その上、多官能性化合物(A)として多官能性(メタ)アクリルアミドを使用する場合は、ポリマー(B)中に分散することで、多官能性(メタ)アクリルアミド自体の毒性を抑制することができるため、製造過程においての問題を解消することができる。更に、該架橋剤組成物を被架橋樹脂と混合する際には均一に分散することができ、該架橋剤組成物と被架橋樹脂とからなる架橋性樹脂組成物は、溶融加熱することにより、速やかに多官能性化合物(A)と被架橋樹脂とが架橋構造を形成して、強度、耐熱性、機械特性等に優れた樹脂を形成することができる。また、本発明の架橋方法によれば、保存安定性に優れた架橋剤組成物を用いて、速やかな架橋構造を形成することができるため、作業環境や作業時間などの作業条件に大きく影響されることなく、強度、耐熱性、機械特性に優れた樹脂を得ることができ、例えば接着の用途においては、優れた接着強度を得ることができる。さらにまた、本発明の三次元物体を積層造形する方法によれば、多様な樹脂種を選択して、速やかな架橋構造を形成することができるため、従来の溶融結合などの方法に比べて、短い製造時間で、強度、耐熱性、機械特性に優れた、多様な材質の三次元物体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[架橋剤組成物]
本発明に係る架橋剤組成物は、多官能性(メタ)アクリルアミド、多官能性(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アリル(イソ)シアヌレートから選択される少なくともひとつの多官能性化合物(A)が、該多官能性化合物(A)に対して非反応性であるマトリックスとしてのポリマー(B)中に分散している安定化された架橋剤組成物であることを特徴とする。
【0026】
本発明において、多官能性化合物(A)は、多官能性(メタ)アクリルアミド、多官能性(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アリル(イソ)シアヌレートから選択される少なくともひとつの多官能性化合物を示し、(メタ)アクリルアミド基、(メタ)アクリレート基、又は(メタ)アリル(イソ)シアヌレート基を複数有する化合物であれば特に限定されない。本発明における多官能性化合物としては、例えば、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリ(メタ)アリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)トリオン、ジメタクリル酸−1,3−ブチレングリコール、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、ジメタクリル酸エチレングリコール、トリメチルプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。なかでも、架橋構造を形成して優れた強度を発揮することができる点で、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリ(メタ)アリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)トリオン、ペンタエリスリトールテトラアクリレートが好ましい。
【0027】
本発明に係る多官能性化合物(A)としては、上記例に挙げられている多官能性化合物を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
ポリマー(B)としては、多官能性化合物(A)よりも融点が低く、且つ、多官能性化合物(A)に対して非反応性のポリマーであることが好ましい。本発明におけるポリマー(B)としては、なかでも、非アミノ基含有ポリアミド又はポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0029】
ポリマー(B)としての非アミノ基含有ポリアミドとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−または1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシルメタン)、m−またはp−キシリレンジアミン等の脂肪族、脂環族、芳香族等のジアミンと過剰のアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の脂肪族、脂環族、芳香族等のジカルボン酸との重縮合によって得られる非アミノ基含有ポリアミド;上記ジアミンとジカルボン酸の重縮合によって得られるポリアミドや、ε−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸の縮合によって得られるポリアミド、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等のラクタムから得られるポリアミドの末端アミノ基をアシル基等で封止した非アミノ基含有ポリアミド;あるいはこれらの成分からなる共重合非アミノ基含有ポリアミド;これらの非アミノ基含有ポリアミドの混合物等が例示される。
【0030】
非アミノ基含有ポリアミドのアミン当量は、例えば、0〜30meq/mg程度、好ましくは、0〜20meq/mg程度である。非アミノ基含有ポリアミドのカルボン酸当量は、例えば、20〜600meq/mg程度、好ましくは、100〜550meq/mg程度である。本発明において、アミン当量、カルボン酸当量は、酸とアルカリを使用した中和滴定法により求めることができる。
【0031】
ポリマー(B)としてのポリオレフィン系樹脂としては、炭素−炭素二重結合を一つ以上有する不飽和炭化水素であればよく、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などが挙げられ、耐熱性及び成形性の点ではポリプロピレン系樹脂が好ましく、断熱性、柔軟性及び耐久性の点ではポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0032】
前記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレンを主成分とするランダム又はブロック共重合体などが挙げられる。なお、エチレンを主成分とするランダム又はブロック共重合体としては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
【0033】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンを主成分とするランダム又はブロック共重合体などが挙げられる。このプロピレンを主成分とするランダム又はブロック共重合体としては、例えば、プロピレン−α−オレフィン共重合体が挙げられる。なお、α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ブテン、1−ペンテンなどが挙げられる。
【0034】
本発明におけるポリマー(B)としては、上記ポリマー(B)の例に挙げられている化合物を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。本発明におけるポリマー(B)の重量平均分子量は、特に制限されることはなく、例えば、5000〜2000程度、好ましくは、7000〜15000程度である。ポリマー(B)の融点は、上記多官能性化合物(A)よりも低ければよく、例えば、45〜180℃程度、好ましくは45〜140℃程度、さらに好ましくは45〜120℃程度である。
【0035】
本発明におけるポリマー(B)としては、非アミノ基含有ポリアミドとしては、商品名「ベスタメルト430」(ダイセル・エボニック社製、融点:110℃)、「ベスタメルト450」(ダイセル・エボニック社製、融点:110℃)、「ベスタメルト722」(ダイセル・エボニック社製、融点:100℃)、ポリオレフィン系樹脂としては、「ベステナマー」(ダイセル・エボニック社製、融点:55℃)、「ベストジントZ7321」(ダイセル・エボニック社製、融点:178℃)等を好適に使用することができる。
【0036】
上記多官能性化合物(A)とポリマー(B)の混合割合[前者:後者(重量比)]としては、用途により適宜調整することができ、例えば、1:99〜40:60程度、好ましくは5:95〜30:70、さらに好ましくは5:95〜15:85程度である。多官能性化合物(A)のポリマー(B)に対する混合割合[前者:後者(重量比)]が1:99を下回ると、架橋反応が起こりにくく、得られた樹脂の強度、耐熱性、機械特性等が不十分となる傾向がある。一方、多官能性化合物(A)のポリマー(B)に対する混合割合[前者:後者(重量比)]が40:60を上回ると、反応性が高くなりすぎ、保存安定性が低下する傾向がある。
【0037】
本発明に係る架橋剤組成物としては、上記多官能性化合物(A)とポリマー(B)以外に、必要に応じて適宜添加物を添加してもよく、上記多官能性化合物(A)のラジカル反応による自己架橋(自己反応)を阻害することを目的として、ラジカル重合禁止剤を添加することが好ましい。ラジカル重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン等のハイドロキノン類;ベンゾキノン、メチル−p−ベンゾキノン等のベンゾキノン類;t−ブチルカテコール等のカテコール類;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4−メトキシフェノール等のフェノール類;フェノチアジン等が挙げられる。本発明においては、なかでも、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン等のハイドロキノン類、特にメチルハイドロキノンが好適に使用される。ラジカル重合禁止剤の使用量としては、例えば、架橋剤組成物中の多官能性化合物(A)10重量部に対して0.01〜1重量部程度、好ましくは0.05〜0.5重量部程度である。
【0038】
ラジカル重合禁止剤の使用量が、架橋剤組成物中の多官能性化合物(A)10重量部に対しての0.01重量部を下回ると、上記多官能性化合物(A)をポリマー(B)中に分散させる際に、多官能性化合物(A)が自己反応を起こし、ポリマー(B)中に分散することが困難となり、保存安定性を損なう場合がある。一方、ラジカル重合禁止剤の使用量が、架橋剤組成物中の多官能性化合物(A)10重量部に対して1重量部を上回ると、ラジカル重合禁止剤が過剰となり、不経済であるため好ましくない。
【0039】
本発明に係る架橋剤組成物は、被架橋樹脂と混合する際に、均一に分散することができる観点から、粉末状を呈していることが好ましく、なかでも、被架橋樹脂と同一の粒子径を有することがより好ましい。粉末状を呈する架橋剤組成物の平均粒子径としては、用途によって異なり、例えば、20〜200μm程度が好ましく、なかでも50〜150μm程度がより好ましい。架橋剤組成物の平均粒子径が200μmを上回ると、均一分散性が低下する傾向があり、一方、平均粒子径が20μmを下回ると、保存安定性が低下する傾向がある。本発明において、平均粒子径は、レーザー解析式粒径分布測定機により粉体を水中分散して測定することができる。
【0040】
本発明に係る架橋剤組成物によれば、多官能性化合物(A)が、該多官能性化合物(A)に対して非反応性の上記ポリマー(B)中に分散しているため、多官能性化合物(A)を安定化することができ、それにより、長期間の保存に耐えることができる。また、被架橋樹脂と混合する際には均一に分散することができ、被架橋樹脂と混合しても、加熱溶融するまでは安定して共存することで、成形加工直前に混合する等の使用上の制限を設ける必要がない。その上、多官能性化合物(A)として多官能性(メタ)アクリルアミドを使用する場合は、ポリマー(B)中に分散することで、多官能性(メタ)アクリルアミド自体の毒性を抑制することができるため、製造過程においての問題を解消することができる。そして、該架橋剤組成物を被架橋樹脂と混合し、溶融加熱することで、速やかに、架橋剤組成物中の多官能性化合物(A)が被架橋樹脂と架橋構造を形成し、強度、耐熱性、機械特性等に優れた樹脂を得ることができる。
【0041】
[架橋剤組成物の製造方法]
本発明に係る安定化された架橋剤組成物の製造方法のひとつは、上記多官能性化合物(A)と、該多官能性化合物(A)に対して非反応性であるマトリックス(分散媒)としての上記ポリマー(B)とを、該多官能性化合物(A)の融点よりも低い温度で溶融混練することを特徴とする。
【0042】
上記製造方法の場合、混練温度としては、使用する多官能性化合物(A)の融点よりも低く、且つ、使用するポリマー(B)の融点よりも高ければよい。混練温度が使用する多官能性化合物(A)の融点よりも高いと、多官能性化合物(A)の自己反応が起こり多官能性化合物(A)同士が架橋構造を形成する結果、ポリマー(B)中に均一に分散することが困難となる。一方、混練温度が使用するポリマー(B)の融点より低いと、ポリマー(B)が固体状態となり、多官能性化合物(A)をポリマー(B)中に均一に分散することが困難となる。
【0043】
本発明に係る安定化された架橋剤組成物の製造方法のまたひとつは、上記多官能性化合物(A)と、該多官能性化合物(A)に対して非反応性であるマトリックス(分散媒)としての上記ポリマー(B)とを、ラジカル重合禁止剤と共に溶融混練することを特徴とする。
【0044】
上記製造方法の場合、混練温度としては、使用する多官能性化合物(A)の融点よりも高くてもよい。また、混練温度としては、使用するポリマー(B)の融点よりも高いことが好ましい。ラジカル重合禁止剤は、該多官能性化合物(A)又は該ポリマー(B)と予め混合してもよく、また、該多官能性化合物(A)と該ポリマー(B)との混合後に添加してもよい。
【0045】
上記多官能性化合物(A)と上記ポリマー(B)との混練方法としては、多官能性化合物(A)を安定した状態で、ポリマー(B)と均一に混練することができればよい。混練に使用するミキサーとしては、特に制限されず周知慣用のミキサーを使用することができ、例えば、高速流動式混合混連機(商品名「スーパーミキサー」、カワタ(株)社製)等を好適に使用することができる。
【0046】
また、混練は、常圧下で行ってもよく、加圧下又は減圧下で行ってもよい。混練の雰囲気は混練を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。更に、ポリマー(B)中に、多官能性化合物(A)を一度に加えて混練してもよく、連続的又は間欠的に投入して混練してもよい。
【0047】
また、混練回転数としては、例えば、10〜100rpm程度、好ましくは30〜60rpm程度である。混練時間は、例えば、1〜10分、好ましくは2〜5分程度である。
【0048】
更に、本発明に係る架橋剤組成物の製造方法においては、溶融混練後、凍結粉砕することが好ましい。凍結粉砕することで、粉末状の架橋剤組成物を得ることができる。粉末状の架橋剤組成物は、被架橋樹脂と混合する際に均一に分散することができる点で好ましい。凍結粉砕方法としては、特に限定されず周知慣用の方法を使用することができる。本発明においては、例えば、混練後、得られた樹脂組成物を室温まで冷却し、液体窒素で凍結し、粉砕機を使用して粉砕することにより行うことができる。粉砕機としては、特に限定されず、周知慣用の粉砕機を使用することができる。
【0049】
本発明に係る架橋剤組成物の製造方法によれば、安定化した架橋剤組成物を効率的且つ安価に製造することができる。
【0050】
[架橋性樹脂組成物]
本発明に係る架橋性樹脂組成物は、架橋剤組成物と被架橋樹脂とを含むことを特徴とする。前記被架橋樹脂としては、多官能性化合物(A)とマイケル付加により架橋構造を形成することのできる樹脂であればよく、例えばアミノ基含有ポリアミド、アミノ基含有ポリエステル、アミノ基含有ポリウレタン等のアミノ基含有ポリマー;活性メチレン基を有するポリマー;水酸基含有ポリエステル、水酸基含有ポリウレタン等の水酸基含有ポリマーなどを挙げることができる。なかでも、アミノ基含有ポリアミドを好適に使用することができる。アミノ基含有ポリアミドは、被架橋樹脂にアミノ基を有することで、低温でも、例えば、120〜140℃においても、多官能性化合物(A)との間に良好な架橋構造を形成することができる点で優れている。そして前記架橋反応により得られた樹脂は、強度、耐熱性、機械特性等に優れた性質を有する。
【0051】
本発明において使用されるアミノ基含有ポリアミドとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−または1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシルメタン)、m−またはp−キシリレンジアミン等の脂肪族、脂環族、芳香族等のジアミンとアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の脂肪族、脂環族、芳香族等のジカルボン酸との重縮合によって得られるアミノ基含有ポリアミド;ε−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸の縮合によって得られるアミノ基含有ポリアミド;ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等のラクタムから得られるアミノ基含有ポリアミド;あるいはこれらの成分からなる共重合アミノ基含有ポリアミド;これらのアミノ基含有ポリアミドの混合物等が例示される。本発明においては、商品名「ベスタメルト1027」(ダイセル・エボニック社製、融点:110℃)、「ベスタメルト1038」(ダイセル・エボニック社製、融点:123℃)、「ベストジントL1600」(ダイセル・エボニック社製、融点:178℃)等を好適に使用することができる。
【0052】
アミノ基含有ポリアミドのアミン当量は、例えば、30〜350meq/mg程度、好ましくは、100〜300meq/mg程度である。アミノ基含有ポリアミドのカルボン酸当量は、例えば、0〜300meq/mg程度、好ましくは、0〜250meq/mg程度である。
【0053】
本発明に係る架橋性樹脂組成物は、架橋剤組成物と被架橋樹脂とを適宜混合することにより得ることができる。混合方法としては、熱の発生を抑制しつつ、均一に混合することができればよく、同一粒径の架橋剤組成物と被架橋樹脂とを混合することが均一に混合することができる点で好ましい。架橋剤組成物と被架橋樹脂の混合比[前者:後者(重量比)]としては、必要に応じて適宜調整することができ、例えば、1:1.5〜1:10程度、なかでも1:2〜1:8程度が好ましい。被架橋樹脂の配合量が架橋剤組成物配合量の1.5倍を下回ると、架橋性樹脂組成物の保存安定性が低下する傾向があり、一方、被架橋樹脂の配合量が架橋剤組成物配合量の10倍を上回ると、架橋反応が不十分となり、得られた樹脂の強度、耐熱性、機械特性等が低下する傾向がある。また、本発明に係る架橋性樹脂組成物には、上記架橋剤組成物と被架橋樹脂以外に、必要に応じて適宜添加剤を添加してもよい。
【0054】
本発明に係る架橋性樹脂組成物は架橋剤組成物と被架橋樹脂とを含み、架橋剤組成物は加熱溶融するまでは被架橋樹脂と安定化された状態で共存する。そして、本発明に係る架橋性樹脂組成物は加熱溶融することで架橋剤組成物中のマトリックスとしてのポリマー(B)が溶けるために多官能性化合物(A)が被架橋樹脂と反応し、速やかに架橋構造を形成し、強度、耐熱性、機械特性等を発揮することができる。そのため、架橋性のホットメルト接着剤として有用である。また、本発明に係る架橋性樹脂組成物は、工業的ホットメルト接着、例えば、金属の連結等に好適に使用することができる。更に、本発明に係る架橋性樹脂組成物は、加熱溶融することにより速やかに架橋構造を形成し、強度、耐熱性、機械特性等を発揮する樹脂を得ることができることから、ラピッドプロトタイピングによる粉末積層造形用粉体として好適に使用することができる。
【0055】
[架橋方法]
本発明に係る架橋方法は、架橋性樹脂組成物を加熱溶融することによる。加熱溶融してポリマー(B)が溶けることにより、ポリマー(B)中に分散して安定化されていた多官能性化合物(A)が、速やかに被架橋樹脂と反応し、架橋構造を形成する。加熱溶融温度としては、ポリマー(B)及び被架橋樹脂の融点以上であればよく、例えば、100〜200℃程度である。加熱溶融時間としては、ポリマー(B)及び被架橋樹脂が溶融すればよく、例えば、1〜420秒程度、好ましくは、10〜180秒程度である。
【0056】
加熱溶融に使用する加熱装置としては、特に制限されることなく周知慣用の加熱装置を使用することができ、例えば、恒温槽、赤外線ランプ、セラミックランプ等を好適に使用することができる。加熱溶融方法としては、例えば、熱風や赤外線を照射してもよく、恒温槽に静置してもよい。
【0057】
[粉末積層造形法]
本発明に係る三次元物体を積層造形する方法のひとつは、架橋性樹脂組成物から成る粉末層を形成した後、該粉末層の選択的な範囲をレーザ焼結等により加熱溶融する方法による。その際、加熱溶融された該範囲では、架橋剤組成物と被架橋樹脂の間でマイケル付加による架橋構造が生じる。そのような操作が積極的に繰り返されることにより、三次元物体が製造される。
【0058】
本発明に係る三次元物体を積層造形する方法のまたひとつは、架橋剤組成物又は架橋剤組成物を含む粉末層と、被架橋樹脂又は被架橋樹脂を含む粉末層を、交互に形成し、いずれかの該粉末層の選択的な範囲をレーザ焼結等により加熱溶融する方法による。その際、加熱溶融された該範囲では、架橋剤組成物を含む粉末層と被架橋樹脂を含む粉末層の間で、架橋剤組成物と架橋樹脂とのマイケル付加による架橋構造が生じる。そのような操作が積極的に繰り返されることにより、三次元物体が製造される。
【0059】
選択的な範囲を加熱により結合する方法として、インヒビターやマスキングを利用する方法(国際特許出願公開WO01/38061号、欧州特許出願公開1015214号)や、選択的な範囲にバインダを施与して、硬化させる方法(特開平6−218712号)が公開されている。一方、本発明においては、例えば、被架橋樹脂から成る粉末層を形成した後、公開された方法等により該粉末層の選択的な範囲に架橋剤組成物から成る粉末層を施与し、該範囲又はそれより広い範囲又はそれより狭い範囲を加熱溶融する操作を積極的に繰り返す方法によることにより、選択的な範囲を加熱により結合することができる。架橋構造が生じていない部分を物理的に切削したり溶融することにより、最終的に、選択的な範囲が結合した三次元物体を製造することができる。
【0060】
[三次元物体]
上記の粉末積層造形法により得られた三次元物体は、その架橋構造により、強度、耐熱性、耐薬品性、機械特性等に優れた性質を有する。三次元物体は、充填剤、助剤又は添加剤を含有していてもよい。充填剤は、ガラス、金属、金属酸化物又はセラミックであってもよい。助剤又は添加剤は、滑剤、難燃剤又は酸化防止剤であってもよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0062】
実施例及び比較例で使用した材料は、下記の通りである。
[多官能性化合物(A)]
多官能性(メタ)アクリルアミド:
1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン(トリアクリルホルマール)(ダイトーケミックス(株)社製、融点154℃)
1,3,5−トリ(メタ)アリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)トリオン(ダイトーケミックス(株)社製、融点25℃)
[ポリマー(B)]
非アミノ基含有ポリアミド共重合体:
【表1】

ポリオレフィン系樹脂:
ポリオクテナマー(商品名「ベステナマー 8012」、ダイセル・エボニック社製、融点55℃)
ポリエチレン(商品名「ウルトゼックス 2081C」、プライムポリマー社製、融点123℃)
エチレン酢酸ビニル共重合体(商品名「ウルトラセン 681」、東ソー(株)社製、融点70℃)
[被架橋樹脂]
アミノ基含有ポリアミド共重合体:
【表2】

【0063】
架橋剤組成物を調製する際の架橋反応の有無は、混練性、押出加工特性評価試験装置(商品名「ラボプラストミル」、東洋精機製作所(株)社製)を使用し、トルク変化を観察することによる。トルクの上昇がみられる場合は、架橋反応が進行していることを示す。
【0064】
[実施例1]
非アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト430」)90重量部、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶10重量部、及びメチルハイドロキノン0.2重量部を押出加工特性評価試験装置(商品名「ラボプラストミル」、東洋精機製作所(株)社製)中に仕込み、50rpm、130℃で、4分間混練し、化合物1を得た。混練する際のトルクの上昇はみられなかった。得られた化合物1を室温まで冷却し、続いて、液体窒素で凍結し、凍結した化合物1を粉砕し、架橋剤組成物1を得た。
【0065】
実施例1で得られた架橋剤組成物1を1重量部、アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1027」)4重量部を混合し、架橋性樹脂組成物1を得た。
【0066】
[実施例2]
非アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト430」)90重量部、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶10重量部を押出加工特性評価試験装置(商品名「ラボプラストミル」、東洋精機製作所(株)社製)中に仕込み、50rpm、130℃で、4分間混練し、化合物2を得た。混練する際のトルク上昇が混練開始から1.5分経過後からみられた。得られた化合物2を室温まで冷却し、続いて、液体窒素で凍結し、凍結した化合物2を粉砕し、架橋剤組成物2を得た。
【0067】
得られた架橋剤組成物2を1重量部、アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1027」)4重量部を混合し、架橋性樹脂組成物2を得た。
【0068】
[実施例3]
非アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト450」)90重量部、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶10重量部、及びメチルハイドロキノン0.2重量部を押出加工特性評価試験装置(商品名「ラボプラストミル」、東洋精機製作所(株)社製)中に仕込み、50rpm、130℃で、4分間混練し、化合物3を得た。混練する際のトルクの上昇はみられなかった。得られた化合物3を室温まで冷却し、続いて、液体窒素で凍結し、凍結した化合物3を粉砕し、架橋剤組成物3を得た。
【0069】
得られた架橋剤組成物3を1重量部、アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1027」)4重量部を混合し、架橋性樹脂組成物3を得た。
【0070】
[実施例4−1]
非アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト722」)90重量部、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶10重量部、及びメチルハイドロキノン0.2重量部を押出加工特性評価試験装置(商品名「ラボプラストミル」、東洋精機製作所(株)社製)中に仕込み、50rpm、130℃で、4分間混練し、化合物4を得た。混練する際のトルクの上昇はみられなかった。得られた化合物4を室温まで冷却し、続いて、液体窒素で凍結し、凍結した化合物4を粉砕し、架橋剤組成物4を得た。
【0071】
得られた架橋剤組成物4を1重量部、アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1027」)2重量部を混合し、架橋性樹脂組成物4−1を得た。
【0072】
[実施例4−2]
実施例4−1で得られた架橋剤組成物4を1重量部、アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1027」)4重量部を混合し、架橋性樹脂組成物4−2を得た。
【0073】
[実施例4−3]
実施例4−1で得られた架橋剤組成物4を1重量部、アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1027」)8重量部を混合し、架橋性樹脂組成物4−3を得た。
【0074】
[実施例5−1]
ポリオレフィン(商品名「ベステナマー 8012」)90重量部、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶10重量部、及びメチルハイドロキノン0.2重量部を押出加工特性評価試験装置(商品名「ラボプラストミル」、東洋精機製作所(株)社製)中に仕込み、50rpm、100℃で、4分間混練し、化合物5を得た。混練する際のトルクの上昇はみられなかった。得られた化合物5を室温まで冷却し、続いて、液体窒素で凍結し、凍結した化合物5を粉砕し、架橋剤組成物5を得た。
【0075】
得られた架橋剤組成物5を1重量部、アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1027」)2重量部を混合し、架橋性樹脂組成物5−1を得た。
【0076】
[実施例5−2]
実施例5−1で得られた架橋剤組成物5を1重量部、アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1027」)4重量部を混合し、架橋性樹脂組成物5−2を得た。
【0077】
[実施例5−3]
実施例5−1で得られた架橋剤組成物5を1重量部、アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1027」)8重量部を混合し、架橋性樹脂組成物5−3を得た。
【0078】
[実施例6]
ポリエチレン(商品名「ウルトゼックス 2081C」)90重量部、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶10重量部、及びメチルハイドロキノン0.2重量部を押出加工特性評価試験装置(商品名「ラボプラストミル」、東洋精機製作所(株)社製)中に仕込み、50rpm、135℃で、4分間混練し、化合物6を得た。混練する際のトルクの上昇はみられなかった。得られた化合物6を室温まで冷却し、続いて、液体窒素で凍結し、凍結した化合物6を粉砕し、架橋剤組成物6を得た。
【0079】
得られた架橋剤組成物6を1重量部、アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1027」)4重量部を混合し、架橋性樹脂組成物6を得た。
【0080】
[実施例7]
エチレン酢酸ビニル共重合体(商品名「ウルトラセン 681」)90重量部、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶10重量部、及びメチルハイドロキノン0.2重量部を押出加工特性評価試験装置(商品名「ラボプラストミル」、東洋精機製作所(株)社製)中に仕込み、50rpm、120℃で、4分間混練し、化合物7を得た。混練する際のトルクの上昇はみられなかった。得られた化合物7を室温まで冷却し、続いて、液体窒素で凍結し、凍結した化合物7を粉砕し、架橋剤組成物7を得た。
【0081】
得られた架橋剤組成物7を1重量部、アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1027」)4重量部を混合し、架橋性樹脂組成物7を得た。
【0082】
[比較例1]
アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1027」)90重量部、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶10重量部、及びメチルハイドロキノン0.2重量部を押出加工特性評価試験装置(商品名「ラボプラストミル」、東洋精機製作所(株)社製)中に仕込み、50rpm、130℃で、4分間混練した。混練開始から1分以内にトルクの急上昇がみられた。
【0083】
[比較例2]
アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベスタメルト1038」)90重量部、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶10重量部、及びメチルハイドロキノン0.2重量部を押出加工特性評価試験装置(商品名「ラボプラストミル」、東洋精機製作所(株)社製)中に仕込み、50rpm、130℃で、4分間混練した。混練開始から1分以内にトルクの急上昇がみられた。
【0084】
[実施例8〜13]
1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶を1,3,5−トリ(メタ)アリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)トリオンに代えた他は、実施例1、3、4−2、5−2、6、7と同様の方法により、各々、架橋性樹脂組成物8〜13を得た。
【0085】
[比較例3〜4]
1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶を1,3,5−トリ(メタ)アリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)トリオンに代えた他は、比較例1、2と同様の方法により実施した。
【0086】
[実施例14]
非アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベストジントZ7321」)90重量部、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶10重量部、及びメチルハイドロキノン0.2重量部を押出加工特性評価試験装置(商品名「ラボプラミストミル」、東洋精機製作所(株)社製)中に仕込み、50rpm、190℃で、4分間混練し、化合物14を得た。混練する際のトルクの上昇はみられなかった。得られた化合物14を室温まで冷却し、続いて、液体窒素で凍結し、凍結した化合物14を粉砕し、架橋剤組成物14を得た。
【0087】
実施例14で得られた架橋剤組成物14を1重量部、アミノ基含有ポリアミド(商品名「ベストジントL1600」)4重量部を混合し、架橋性樹脂組成物14を得た。
【0088】
[実施例15]
1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン結晶を1,3,5−トリ(メタ)アリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)トリオンに代えた他は、実施例14と同様の方法により、各々、架橋性樹脂組成物15を得た。
【0089】
[架橋性試験]
実施例で得られた架橋性樹脂組成物1〜13について、調製直後、及び3週間室温(25〜30℃)で保存した後における架橋性樹脂組成物を試験体とし、以下の方法により試験を行った。
試験体約5gを粉末状態でよく混合し、広く伸ばして、均一に混合した粉末粒子が一層に敷き詰められた状態で恒温槽(150℃)中に3分間静置し、その後、恒温槽から取り出した。取り出した試験体を、室温(25〜30℃)のヘキサフルオロイソプロパノール3ml中に浸漬し、試験体がヘキサフルオロイソプロパノールに溶解するか否かを肉眼で観察し、下記の基準に従って評価した。
評価基準
溶解しなかった:○
溶解した:×
【0090】
上記試験の結果、実施例において得られた架橋性樹脂組成物は、調製直後に加熱溶融処理を施した場合、及び、調製後3週間室温(25〜30℃)で保存した後に加熱溶融処理を施した場合のどちらも、加熱溶融後の架橋性樹脂組成物はヘキサフルオロイソプロパノールに溶解しないことから、本発明に係る安定化された架橋剤組成物によれば、加熱溶融処理を施すまでは、被架橋樹脂と安定して共存させることができ、加熱溶融処理を施すことにより、架橋剤組成物中の多官能性化合物(A)が被架橋樹脂と速やかに反応し、良好に架橋構造を形成することができることがわかった。一方、比較例より、ポリマー(B)の代わりに、多官能性化合物(A)に対して反応性を有するポリマーを使用した場合は、多官能性化合物(A)と該ポリマーとを混練する際にトルクの急上昇がみらることから明らかなように、多官能性化合物と該ポリマーとの間に架橋反応が起こり、安定化された架橋剤組成物を得ることができないことが確認された。以上の結果を、下記表3及び表4にまとめて示す。
なお、表中、「架橋剤組成物の安定化」における「○」は、安定化できたことを示し、「×」は、安定化できなかったことを示す。また、「架橋性」における「○」、「×」は、上記架橋性試験における評価基準に同じ。
【0091】
なお、表3及び表4中における略号は、以下の通りである。また、被架橋樹脂はいずれもベスタメルト1027である。
TAF:1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン
MQ:メチルハイドロキノン
TAIC:1,3,5−トリ(メタ)アリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)トリオン
【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
[粉末積層造形試験]
実施例で得られた架橋性樹脂組成物1〜15について、調製直後、及び3週間室温(25〜30℃)で保存した後における架橋性樹脂組成物を試験体とし、以下の方法により試験を行った。
試験体を粉末状態でよく混合し、レーザ焼結装置(EOSINT P350、 EOSGmbH社、Planegg)により、架橋性樹脂組成物から成る粉末層を形成した後、該粉末層の選択的な範囲をレーザ焼結により加熱溶融する方法により、試験成形体(80×3.2×10mm)を構築した。得られた試験成形体を、室温(25〜30℃)のヘキサフルオロイソプロパノール中に浸積し、試験成形体の表面がヘキサフルオロイソプロパノールに溶融するか否かを肉眼で観察した。上記架橋性試験と同じ評価基準に従って評価した。
【0095】
上記試験の結果、実施例において得られた架橋性樹脂組成物は、調製直後に試験成形体を構築した場合、及び、調製後3週間室温(25〜30℃)で保存した後に試験成形体を構築した場合のどちらも、試験成形体として構築された架橋性樹脂組成物はヘキサフルオロイソプロパノールに溶解しないことから、本発明に係る安定化された架橋剤組成物によれば、試験成形体を構築するまでは、被架橋樹脂と安定して共存させることができ、試験成形体を構築することにより、架橋剤組成物中の多官能性化合物(A)が被架橋樹脂と速やかに反応し、良好に架橋構造を形成できることがわかった。以上の結果を、下記表5にまとめて示す。
なお、表中、「架橋剤組成物の安定化」及び「架橋性」における、試験結果の表記及び評価基準は、上記架橋性試験におけるものに同じ。
【0096】
なお、表5中における略号は、以下の通りである。また、被架橋樹脂はいずれもベスタメルト1027である。
TAF:1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン
MQ:メチルハイドロキノン
TAIC:1,3,5−トリ(メタ)アリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)トリオン
【0097】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能性(メタ)アクリルアミド、多官能性(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アリル(イソ)シアヌレートから選択される少なくともひとつの多官能性化合物(A)が、該多官能性化合物(A)に対して非反応性であるマトリックスとしてのポリマー(B)中に分散している安定化された架橋剤組成物。
【請求項2】
非反応性のポリマー(B)が、多官能性化合物(A)よりも融点が低いポリマーである請求項1に記載の架橋剤組成物。
【請求項3】
ラジカル重合禁止剤を含む請求項1〜2の何れかの項に記載の架橋剤組成物。
【請求項4】
多官能性化合物(A)が、1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリ(メタ)アリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)トリオンから選択される少なくともひとつの多官能性化合物である請求項1〜3の何れかに記載の架橋剤組成物。
【請求項5】
ポリマー(B)が非アミノ基含有ポリアミド又はポリオレフィン系樹脂である請求項1〜4の何れかに記載の架橋剤組成物。
【請求項6】
多官能性化合物(A)とポリマー(B)の混合割合[前者:後者(重量比)]が、5:95〜30:70である請求項1〜5の何れかの項に記載の架橋剤組成物。
【請求項7】
粉末状である請求項1〜6の何れかの項に記載の架橋剤組成物。
【請求項8】
多官能性(メタ)アクリルアミド、多官能性(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アリル(イソ)シアヌレートから選択される少なくともひとつの多官能性化合物(A)と、該多官能性化合物(A)よりも融点が低く且つ該多官能性化合物(A)に対して非反応性のポリマー(B)とを、該多官能性化合物(A)の融点よりも低い温度で溶融混練することを特徴とする安定化された架橋剤組成物の製造方法。
【請求項9】
多官能性(メタ)アクリルアミド、多官能性(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アリル(イソ)シアヌレートから選択される少なくともひとつの多官能性化合物(A)と、該多官能性化合物(A)に対して非反応性のポリマー(B)とを、ラジカル重合禁止剤と共に溶融混練することを特徴とする安定化された架橋剤組成物の製造方法。
【請求項10】
溶融混練後、凍結粉砕することを特徴とする請求項8〜9の何れかの項に記載の架橋剤組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜7の何れかの項に記載の架橋剤組成物と、被架橋樹脂とを含む架橋性樹脂組成物。
【請求項12】
被架橋樹脂がアミノ基を含有するポリアミドである請求項9に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項13】
架橋剤組成物と被架橋樹脂との混合割合[前者:後者(重量比)]が、1:1.5〜1:10である請求項11〜12の何れかの項に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項14】
架橋性のホットメルト接着剤である請求項11〜13に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項15】
請求項11〜14に記載の架橋性樹脂組成物を、加熱溶融することにより架橋することを特徴とする架橋方法。
【請求項16】
請求項11〜13に記載の架橋性樹脂組成物を用いて三次元物体を積層造形する方法において、該架橋性樹脂組成物から成る粉末層を形成する工程、及び該粉末層の選択的な範囲を加熱溶融することにより該範囲に存在する粉末を架橋する工程を含むことを特徴とする三次元物体を積層造形する方法。
【請求項17】
請求項1〜7に記載の架橋剤組成物及び被架橋樹脂を用いて三次元物体を積層造形する方法において、該架橋剤組成物を含む粉末層と該被架橋樹脂を含む粉末層を交互に形成する工程、及び何れかの粉末層の選択的な範囲を加熱溶融することにより該範囲に存在する粉末を架橋する工程を含むことを特徴とする三次元物体を積層造形する方法。
【請求項18】
請求項16又は請求項17に記載の方法によって製造された三次元物体。

【公開番号】特開2009−120825(P2009−120825A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272442(P2008−272442)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000108982)ダイセル・エボニック株式会社 (31)
【Fターム(参考)】