説明

安定化フルオロポリマー及びその製造方法

本発明は、スルホン酸由来基含有フルオロポリマーを含む処理対象物にフッ素化処理を行うことにより安定化フルオロポリマーを製造することよりなる安定化フルオロポリマー製造方法であって、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、−SOM(Mは、H、NR又はM1/Lを表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、H若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。Mは、L価の金属を表す。)を有するフルオロポリマーであり、上記処理対象物は、水分が質量で500ppm以下であることを特徴とする安定化フルオロポリマー製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化フルオロポリマーの製造方法、該製造方法から得られた安定化フルオロポリマー及び該安定化フルオロポリマーの加水分解体を含む高分子電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレンと、−SOFを有するパーフルオロビニルエーテルとを共重合して得られるスルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、−SOFを加水分解したものについて、燃料電池、化学センサー等の電解質膜材料としての用途が知られている。
【0003】
このスルホン酸由来基含有フルオロポリマーの加水分解体は、例えば、燃料電池用電解質膜として長期間使用した場合、劣化し、燃料電池からの排水がHFを含むようになる問題が報告されている。
【0004】
この問題は、固体状態のスルホン酸由来基含有フルオロポリマーに対し、フッ素ガス等のフッ素ラジカル発生化合物を20〜300℃で接触させてポリマー鎖末端の不安定基の少なくとも40%を安定な基に転換する安定化処理により改善されることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
従来の安定化処理は、特にスルホン酸由来基含有フルオロポリマーが乳化重合により得たものである場合、不安定基の安定基への転換率が不充分となり、溶融成形時に着色、発泡等が発生するという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特公昭46−23245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、スルホン酸由来基含有フルオロポリマーを充分に安定化する方法、該方法から得られた安定化フルオロポリマー、及び、該安定化フルオロポリマーの加水分解体を含む高耐久性の燃料電池膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、スルホン酸由来基含有フルオロポリマーを含む処理対象物にフッ素化処理を行うことにより安定化フルオロポリマーを製造することよりなる安定化フルオロポリマー製造方法であって、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、−SOM(Mは、H、NR又はM1/Lを表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、H若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。Mは、L価の金属を表す。)を有するフルオロポリマーであり、上記処理対象物は、水分が質量で500ppm以下であることを特徴とする安定化フルオロポリマー製造方法である。
本発明は、上記安定化フルオロポリマー製造方法により得られたことを特徴とする安定化フルオロポリマーである。
【0009】
本発明は、下記一般式(II)
CF=CF−O−(CFY−A (II)
(式中、Yは、F、Cl、Br又はIを表す。mは、1〜5の整数を表す。mが2〜5の整数であるとき、m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SOX又は−COZを表す。Xは、F、Cl、Br、I又は−NRを表す。Zは、−NR又は−ORを表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、H、アルカリ金属元素、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で表される酸由来基含有パーハロビニルエーテルと、テトラフルオロエチレンとの重合を経て得られる安定化フルオロポリマーであって、上記安定化フルオロポリマーは、IR(赤外分光分析)測定において、カルボキシル基に由来するピーク〔x〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔x/y〕が0.05以下であることを特徴とする安定化フルオロポリマーである。
本発明は、前記一般式(II)で表される酸由来基含有パーハロビニルエーテルと、テトラフルオロエチレンとの重合を経て得られる安定化フルオロポリマーであって、前記安定化フルオロポリマーの加水分解体について、前記加水分解体を比誘電率が5.0以上の含酸素炭化水素系化合物に膨潤させて19F固体核磁気共鳴測定を行って求めた上記加水分解体の主鎖末端−CF基の積分強度と、主鎖から分岐したエーテル結合に隣接する側鎖−CF−の積分強度と、滴定法によって求めたイオン交換当量重量Ew値とを用いて算出した前記加水分解体の主鎖を構成する炭素原子10万個当りに存在する主鎖末端−CF基の個数〔X〕が10個以上であることを特徴とする安定化フルオロポリマーである。
本発明は、上述の安定化フルオロポリマーの加水分解体を含む高分子電解質膜である。
本発明は、上記安定化フルオロポリマーの加水分解体と活性物質とからなることを特徴とする活性物質固定体である。
本発明は、高分子電解質膜と電極とからなる膜/電極接合体であって、下記条件(1)及び(2)よりなる群から選ばれる少なくとも1つを満たすものであることを特徴とする膜/電極接合体である。(1)上記高分子電解質膜は、本発明の高分子電解質膜である。(2)上記電極は、上記活性物質固定体である。
本発明は、上記膜/電極接合体を有することを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の安定化フルオロポリマー製造方法は、スルホン酸由来基含有フルオロポリマーを含む処理対象物にフッ素化処理を行うことにより安定化フルオロポリマーを製造することよりなるものである。
【0011】
上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、−SOM(Mは、H、NR又はM1/Lを表す。)を有するフルオロポリマーである。
上記NRにおけるR、R、R及びRは、同一又は異なって、H若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。
上記炭素数1〜4のアルキル基としては特に限定されないが、直鎖アルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
上記Mは、L価の金属を表す。上記L価の金属は、周期表の1族、2族、4族、8族、11族、12族又は13族に属する金属である。
上記L価の金属としては特に限定されず、例えば、周期表の1族として、Li、Na、K、Cs等が挙げられ、周期表の2族として、Mg、Ca等が挙げられ、周期表の4族として、Al等が挙げられ、周期表の8族として、Fe等が挙げられ、周期表の11族として、Cu、Ag等が挙げられ、周期表の12族として、Zn等が挙げられ、周期表の13族として、Zr等が挙げられる。
【0012】
スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、上記−SOMに加えて、−SOX及び/又は−COZ(Xは、F、Cl、Br、I又は−NRを表す。Zは、−NR又は−ORを表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、H、アルカリ金属元素、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)を有していてもよい。
【0013】
上記−SOXにおけるXは、F、Cl又はBrが好ましく、より好ましくは、Fである。
上記−COZにおけるZは、−ORが好ましい。
上記アルカリ金属元素としては特に限定されず、例えば、Li、Na、K、Cs等が挙げられる。
上記アルキル基としては特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基等が挙げられる。上記アルキル基は、ハロゲン原子により置換されていてもよい。
上記スルホニル含有基は、スルホニル基を有する含フッ素アルキル基であり、例えば、末端に置換基を有していてもよい含フッ素アルキルスルホニル基等が挙げられ、上記含フッ素アルキルスルホニル基としては、例えば、−SO(Rは、含フッ素アルキレン基を表し、Zは、有機基を表す。)等が挙げられる。
上記有機基としては、例えば、−SOFが挙げられ、−SO(NRSOSONRSO−(kは、1以上の整数を表し、Rは、含フッ素アルキレン基を表す。)のように無限につながっていてもよく、例えば、−SO(NRSOSONRSOF(kは、1以上、100以下の整数を表す。R及びRfは、上記と同じ。)であってもよい。燃料電池用途で使用される場合、加水分解して生じる−COOHは、安定性に問題があるため、−COZを含まないことが好ましい。
【0014】
上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、更に、−COOHをポリマー鎖末端に有しているものであってもよい。
上記−COOHは、例えば、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーの主鎖末端に重合開始剤の分子構造に由来して導入される。
上記−COOHは、例えば、重合開始剤としてパーオキシジカーボネート等を用いた場合に上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーの主鎖末端に形成される。上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、乳化重合により得られたものである場合、通常、−COOHをポリマー鎖末端に有している。
また、パーフルオロアルキルジカルボン酸を重合開始剤として用い、非水系で重合した場合、ポリマー鎖末端の一部はパーフルオロアルキル基となるが、通常、−COOH及び−COFが形成される。これはパーハロビニルエーテルのβ−開裂(β−scission)に由来するものである。
【0015】
上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、酸由来基含有パーハロビニルエーテル、及び、上記酸由来基含有パーハロビニルエーテルと共重合可能なモノマーからなる2元以上の共重合体であることが好ましい。
【0016】
上記酸由来基含有パーハロビニルエーテルは、下記一般式(I)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A (I)
で表される化合物であることが好ましい。
【0017】
上記一般式(I)におけるYは、F、Cl、Br、I又はパーフルオロアルキル基を表し、なかでも、パーフルオロアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であることがより好ましく、−CFであることが更に好ましい。
上記一般式(I)におけるnは、0〜3の整数を表し、n個のYは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記nは、好ましくは0又は1、より好ましくは0である。
上記一般式(I)におけるYは、F、Cl、Br又はIを表し、なかでも、Fが好ましい。
上記一般式(I)におけるmは、1〜5の整数を表す。mが2〜5の整数であるとき、m個のYは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記mは、好ましくは2である。
上記一般式(I)は、YがF、mが2であるものが好ましく、YがF、mが2、nが0であるものがより好ましい。
【0018】
上記一般式(I)におけるAは、酸由来基である−SOX又は−COZ(X及びZは、上述の定義と同じ。)を表す。
上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーが有していてもよいとして上述した−SOX及び/又は−COZは、上記一般式(I)で表される酸由来基含有パーハロビニルエーテルを重合することにより導入したものであってよい。
【0019】
上記酸由来基含有パーハロビニルエーテルは、下記一般式(II)
CF=CF−O−(CFY−A (II)
(式中、Y、m及びAは、上記一般式(I)におけるものと同じ。)で表される化合物であることがより好ましい。
上記酸由来基含有パーハロビニルエーテルは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
上記酸由来基含有パーハロビニルエーテルと共重合可能なモノマーは、上記酸由来基含有パーハロビニルエーテル以外のその他のビニルエーテル、及び、エチレン性モノマーであることが好ましい。上記酸由来基含有ハーハロビニルエーテルと共重合可能なモノマーとして、上記「酸由来基含有パーハロビニルエーテル以外のその他のビニルエーテル、及び、エチレン性モノマー」よりなる群から少なくとも1種を目的に応じて選択することができる。
【0021】
上記エチレン性モノマーは、エーテル酸素を有さず、ビニル基を有するモノマーであって、上記ビニル基は、フッ素原子により水素原子の一部又は全部が置換されていてもよいものである。
【0022】
上記エチレン性モノマーとしては、例えば、下記一般式
CF=CF−Rf
(式中、Rfは、F、Cl又は炭素数1〜9の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基を表す。)で表されるハロエチレン性モノマー、下記一般式
CHY=CFY
(式中、Yは、H又はFを表し、Yは、H、F、Cl又は炭素数1〜9の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基を表す。)で表される水素含有フルオロエチレン性モノマー等が挙げられる。
【0023】
上記エチレン性モノマーは、CF=CF、CH=CF、CF=CFCl、CF=CFH、CH=CFH、及び、CF=CFCFで表されるフルオロビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、なかでも、パーハロエチレン性モノマーがより好ましく、パーフルオロエチレン性モノマーが更に好ましく、テトラフルオロエチレンが特に好ましい。
上記エチレン性モノマーとしては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
上記酸由来基含有パーハロビニルエーテル以外のその他のビニルエーテルとしては上記酸由来基を含有しないものであれば特に限定されず、例えば、下記一般式
CF=CF−O−Rf
(式中、Rfは、炭素数1〜9のフルオロアルキル基又は炭素数1〜9のフルオロポリエーテル基を表す。)で表されるパーフルオロビニルエーテル、下記一般式
CHY=CF−O−Rf
(式中、Yは、H又はFを表し、Rfは、炭素数1〜9のエーテル酸素を有していてもよい直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基を表す。)で表される水素含有ビニルエーテル等が挙げられる。
上記その他のビニルエーテルとしては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーとしては、酸由来基含有パーハロビニルエーテルの少なくとも1種とエチレン性モノマーの少なくとも1種とを共重合してなる2元以上の共重合体が好ましく、酸由来基含有パーハロビニルエーテル1種とエチレン性モノマー1種とを共重合して得られる2元共重合体がより好ましいが、所望により、酸由来基含有パーハロビニルエーテルとエチレン性モノマーとに加え、酸由来基含有パーハロビニルエーテル以外のその他のビニルエーテルを共重合して得られる共重合体であってもよい。
【0026】
本発明におけるスルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、上記酸由来基含有パーハロビニルエーテルに由来する酸由来基含有パーハロビニルエーテル単位5〜40モル%、上記エチレン性モノマーに由来するエチレン性モノマー単位60〜95モル%、及び、上記その他のビニルエーテルに由来するその他のビニルエーテル単位0〜5モル%からなるものであることが好ましい。
上記酸由来基含有パーハロビニルエーテル単位のより好ましい下限は、7モル%、更に好ましい下限は、10モル%、より好ましい上限は、35モル%、更に好ましい上限は、30モル%である。
上記エチレン性モノマー単位のより好ましい下限は、65モル%、更に好ましい下限は、70モル%、より好ましい上限は、90モル%、更に好ましい上限は、87モル%である。
上記その他のビニルエーテル単位のより好ましい上限は、4モル%、更に好ましい上限は、3モル%である。
【0027】
上記「エチレン性モノマー単位」とは、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーの分子構造上の一部分であって、エチレン性モノマーの分子構造に由来する部分を意味する。例えば、テトラフルオロエチレン単位は、テトラフルオロエチレン〔CF=CF〕に由来する部分〔−CF−CF−〕を意味する。
上記「酸由来基含有パーハロビニルエーテル単位」とは、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーの分子構造上の一部分であって、酸由来基含有パーハロビニルエーテルの分子構造に由来する部分を意味する。
上記「その他のビニルエーテル単位」とは、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーの分子構造上の一部分であって、上記その他のビニルエーテルの分子構造に由来する部分を意味する。
【0028】
本明細書において、上記酸由来基含有パーハロビニルエーテル単位、エチレン性モノマー単位、及び、その他のビニルエーテル単位の含有率は、それぞれ全モノマー単位を100モル%とした値である。
上記「全モノマー単位」は、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーの分子構造上、モノマーに由来する部分の全てである。上記「全モノマー単位」が由来する単量体は、従って、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーをなすこととなった単量体全量である。
本明細書において、上記「酸由来基含有パーハロビニルエーテル単位」の含有率(モル%)は、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーにおける全モノマー単位が由来する単量体のモル数に占める、酸由来基含有パーハロビニルエーテル単位が由来する酸由来基含有パーハロビニルエーテルのモル数の割合である。上記「エチレン性モノマー単位」の含有率(モル%)及び上記「その他のビニルエーテル単位」の含有率(モル%)も同様に、由来する単量体のモル数の割合である。これら各単位の含有率は、高温19F−核磁気共鳴測定装置(日本国日本電子社製 JNM−FX100型)を用いて、300℃において無溶媒で測定することにより得られる値である。以下、この測定を略して高温NMRと表記する。
【0029】
上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーの重合方法としては、例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の従来公知の方法の何れであってもよいが、本発明の安定化フルオロポリマー製造方法が最も効果を奏する点で、乳化重合が好ましい。
【0030】
上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、例えば、−SOFを有するモノマーを乳化重合して得られたものである場合、重合過程において、−SOFのごく一部が−SOHに変換したものである。この−SOHは、NR又はM1L+の存在下に容易に−SONR又は−SO1/Lに変換することができる(上記R、R、R、R及びMは、上述の定義と同じ)。
上記−SOFを有するモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、上述の一般式(I)におけるAが−SOFである酸由来基含有パーハロビニルエーテル等が挙げられる。なお、本発明におけるスルホン酸由来基含有フルオロポリマーが有する−SOM(Mは、上述の定義と同じ。)は、上述の乳化重合したモノマーが有する−SOFに由来するものに限定されず、例えば公知の方法等により導入したものであってもよい。
【0031】
本発明の安定化フルオロポリマー製造方法は、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーを含む処理対象物にフッ素化処理を行うことよりなるものである。
本明細書において、上記「処理対象物」は、上記フッ素化処理を行う対象である。
上記処理対象物は、樹脂粉末状、ペレット状、成形して得た膜状の何れのであってもよい。上記処理対象物は、後述のフッ素化処理を充分に行う観点では、樹脂粉末状であることが望ましいが、取り扱い性の点で工業上はペレット状であることが望ましい。
【0032】
上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、フッ素化処理を従来法により行うと、フッ素化が不充分となる問題があった。フッ素化が不充分となる理由としては、次のことが考えられる。即ち、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、乾燥処理を経て、粉末状、ペレット状、成形体等の固体に調製したものであっても、通常、−SOMが高吸湿性であることにより空気中の水分を直ちに吸収してしまう。上記−SOMの高吸湿性は、例えば、−COOH、その塩、−COZ、−SOX等(Z及びXは、上述の定義と同じ。)のその他の官能基よりもはるかに大きい。この−SOMの高吸湿性により、実質的に上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーを主成分とする固体は、存在する雰囲気の湿度等にもよるが、通常、質量で500ppmを超える水分を含有している。このように含水率が高く上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーを含む固体に対して、従来の方法によりフッ素化処理を行うと、下記反応式(A)
2HO+4(F)→4HF+O (A)
で表される反応(A)にフッ素源(F)が消費されてしまい、その結果、スルホン酸由来基含有フルオロポリマーのフッ素化が阻害されるものと考えられる。
【0033】
本発明の安定化フルオロポリマー製造方法において、処理対象物は、水分が質量で500ppm以下であるものである。500ppmを超えると、スルホン酸由来基含有フルオロポリマーのフッ素化を阻害することから好ましくない。好ましい上限は、450ppm、より好ましい上限は、350ppmである。上記処理対象物中の水分は、上記範囲内であれば経済性、生産性の観点から下限を例えば0.01ppmとすることができる。
上記処理対象物中の水分量は、カールフィッシャー滴定法を用いて測定し得られた値である。
【0034】
本発明の安定化フルオロポリマー製造方法は、処理対象物の含水量が上述の範囲となる条件下でフッ素化処理を行うことにより、上記反応(A)のようなフッ素化処理の阻害反応を抑制し、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーを充分にフッ素化することを可能にしたものである。
【0035】
処理対象物中の水分を上述の範囲にする方法としては特に限定されず、例えば、所望により遠心脱水等を経た後、80〜130℃で2時間〜50時間、温度を所望により段階的に変え、所望により減圧し、加熱する方法;ベント型押出機内で溶融させてベント孔から脱揮させる方法等の従来公知の乾燥方法を用いることができる。後者の方法を用いた場合、−SOMの一部は分解されることもあり得る点で好ましい。
上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーが高吸湿性の官能基を有するので、上記乾燥から後述するフッ素化処理までの工程は密閉化するか、またはなるべく手早く行うことが好ましい。
【0036】
本発明の安定化フルオロポリマー製造方法におけるフッ素化処理は、フッ素源を用いて行うものである。
上記フッ素源は、F、SF、IF、NF、PF、ClF及びClFからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、Fであることがより好ましい。
上記フッ素化処理は、上記フッ素源からなるガス状フッ素化剤を用いて行うことが好ましい。この場合、上記フッ素源は、上記ガス状フッ素化剤の1容積%以上であることが好ましい。より好ましい下限は、10容量%である。
上記ガス状フッ素化剤は、上記フッ素源と、フッ素化に不活性な気体とからなるものである。
上記フッ素化に不活性な気体としては特に限定されず、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0037】
上記フッ素化処理は、フルオロポリマーの融点未満で実施することが好ましく、通常、250℃以下、より好ましくは、室温〜150℃で行う。
上記フッ素化処理は、連続式、バッチ式の何れもの操作も可能である。
また、上記フッ素化処理において用いられる装置は、棚段型反応器、筒型反応器等の静置式反応器;攪拌翼を備えた反応器;ロータリーキルン、Wコーン型反応器、V型ブレンダー等の容器回転(転倒)式反応器;振動式反応器;攪拌流動床等の種々の流動床反応器;等から適宜選択される。
上記フッ素化処理において、反応温度を均質に保つために、フルオロカーボン類等のフッ素源に対して不活性な溶媒を用いることができる。また、処理対象物が、樹脂粉末状、ペレット状の場合には、容器回転式反応器又は振動式反応器にてフッ素化処理を行うことが、反応温度を均質に保ちやすい点で好ましい。
【0038】
上記フッ素化処理は、フッ素化処理前のスルホン酸由来基含有フルオロポリマーが有している熱分解しやすい不安定基をフッ素化することにより、熱分解しにくい安定基に変換するための処理である。
上記フッ素化処理は、好ましくは、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーが有している−CFSOM(Mは、上述の定義と同じ。)を−CFH、−CF等に変換し、更に、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーが所望により鎖末端に有する−COOHを−CFに、−SONHを−SOFに、それぞれ変換するものと考えられる。
上記フッ素化処理は、これらの変換により、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーを用いた溶融成形時に−SOM等の不安定基が熱分解して着色したり、−COOH等の不安定基が分解して発泡したりすることを防止することができる。
上記フッ素化処理によって、処理対象物中に含まれるオリゴマー等の低分子量体、未反応モノマー、副生産物等の不純物をも除去することができる。
【0039】
なお、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーが有する−SOM(Mは、上述の定義と同じ。)は、フッ素化処理により、イオン交換能を有しない−CFH、−CF等に変換されるが、上記−SOMが上述のモノマーが有する−SOFが乳化重合により変換したものである場合、−SOFから−SOMへの変換率はごく微量であるので、上記フッ素化処理を経て成形膜等をイオン交換用途に用いるときであってもイオン交換当量重量〔Ew〕を大きく増大させずに維持することができる。
【0040】
本発明の安定化フルオロポリマー製造方法は、上記フッ素化処理を行うことにより安定化フルオロポリマーを製造することよりなるものである。
本明細書において、上記「安定化フルオロポリマー」は、スルホン酸由来基含有フルオロポリマーから上記フッ素化処理を行うことにより得られるフルオロポリマーであって、上記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーが有していた−COOH、−CFSOM、−SONH等の熱分解しやすい不安定基が−CFH、−CF、−SOF等の熱分解しにくい安定基に変換されたものである。
上記安定化フルオロポリマーは、上記フッ素化処理後、HF等の揮発成分と併存していることがあるので、これを除去することが好ましい。
上記揮発成分の除去は、脱揮機構を有している押出機を用いて行うことが好ましく、ベント孔を少なくとも1個有するベント型押出機を用いて行うことがより好ましい。
【0041】
フッ素化処理を行う処理対象物としては樹脂粉末状が望ましいことを上述したが、処理対象物として樹脂粉末を用いる場合、処理対象物は、フッ素化処理の後、ベント型押出機内で溶融混練して上記揮発成分の除去を行い、引き続きペレット化することが好ましく、フッ素化処理を上述のベント型押出機内で行い、同じ押出機内で引き続き上記揮発成分の除去とペレット化とを行うことがより好ましい。
【0042】
上記フッ素化処理は、処理対象物が膜状である場合であっても、同様に安定化することが可能である。
膜状体に上記フッ素化処理を行うことは、該膜状体を電解質膜として使用する場合、安定化処理後に大きな熱的ダメージを受けることが無く、ポリマー鎖の断裂による不安定基の生成が無い点で、好ましい。
処理対象物が膜状である場合における上記フッ素化処理としては、例えば、前述のベント型押出機内で溶融させてベント孔から脱揮させる方法にて成形したペレットを用い、引き続いて溶融押し出し製膜した後、筒型反応器や巻き取り機を備えた反応装置を用いてフッ素化処理を施すことが好ましい。
【0043】
上記各種反応装置を用いるフッ素化処理に先立って乾燥処理を施す場合は、真空排気を行うか、又は、乾燥気体を流通させることが好ましい。
また、上記処理対象物中のスルホン酸由来基含有フルオロポリマーが不安定基として−COFを有する場合、これを安定化するためには、比較的高い温度が必要となるので、予め加水分解等により−COOHに変換した後、水分量を500ppm以下に調整し、フッ素化処理を施すことができる。
【0044】
本発明において、上記安定化フルオロポリマーは、上述のようにフッ素化処理前において通常有していたポリマー鎖末端の−COOHが上記フッ素化処理により−CFH、−CF等の安定基に変換されたものである。この変換率は、本発明の安定化フルオロポリマー製造方法において極めて高く、赤外分光分析〔IR〕測定において、カルボキシル基に由来するピーク〔x〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔x/y〕を0.05以下にすることができる。上記強度比〔x/y〕の好ましい上限は、0.04であり、より好ましい上限は、0.03である。
上記安定化フルオロポリマー製造方法により得られた安定化フルオロポリマー(以下、「安定化フルオロポリマー(A)」ということがある。)もまた、本発明の一つである。
本発明において、安定化フルオロポリマーは、安定化フルオロポリマー(A)の特徴を有し且つ後述の安定化フルオロポリマー(B)の特徴をも有するもの、安定化フルオロポリマー(A)の特徴を有し且つ後述の安定化フルオロポリマー(C)の特徴をも有するもの、又は、安定化フルオロポリマー(A)の特徴を有し且つ安定化フルオロポリマー(B)の特徴を有し且つ安定化フルオロポリマー(C)の特徴をも有するものであることが好ましい。
【0045】
本発明の安定化フルオロポリマー(以下、「安定化フルオロポリマー(B)」ということがある。)は、上記一般式(II)(Y、m及びAは、上述の定義と同じ。)で表される酸由来基含有パーハロビニルエーテルと、テトラフルオロエチレンとの重合を経て得られる安定化フルオロポリマーであって、上記安定化フルオロポリマーは、IR測定において、カルボキシル基に由来するピーク〔x〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔x/y〕が0.05以下であるものである。
上記酸由来基含有パーハロビニルエーテルとテトラフルオロエチレンとの重合は、乳化重合であることが好ましい。
【0046】
上記安定化フルオロポリマー(B)において、上記カルボキシル基〔−COOH〕は、主にポリマー鎖末端基として形成されたものであり、上記−CF−は、主にポリマー主鎖に存在するものである。
上記安定化フルオロポリマー(B)において、上記強度比〔x/y〕の好ましい上限は、0.04であり、より好ましい上限は、0.03である。
上記安定化フルオロポリマー(B)は、上記範囲内の強度比〔x/y〕を有するものであれば、その製造方法については特に限定されないが、本発明の安定化フルオロポリマー製造方法を用いることにより、容易に得ることができる。
【0047】
上記安定化フルオロポリマー(B)は、上述の本発明の安定化フルオロポリマー製造方法により効率良く得ることができるが、上記本発明の安定化フルオロポリマー製造方法により得られたものに必ずしも限定されない点で、上述の安定化フルオロポリマー(A)とは概念が異なるものである。
本明細書において、(A)、(B)又は後述の(C)を付すことなく、単に「安定化フルオロポリマー」というときは、安定化フルオロポリマー(A)、安定化フルオロポリマー(B)及び後述する安定化フルオロポリマー(C)の何れであるかを区別することなく、安定化フルオロポリマー(A)、安定化フルオロポリマー(B)及び/又は安定化フルオロポリマー(C)を含み得る上位概念である。
【0048】
上記安定化フルオロポリマーは、赤外分光分析[IR]測定において、上記強度比〔x/y〕が上述の範囲であるものであるので、溶融成形時に発泡が生じにくいものとすることができる。
本発明において、上記強度比〔x/y〕は、赤外分光光度計を用いて測定し得られた各ピークの強度から算出する。
上記カルボキシル基に由来するピーク〔x〕は、1776cm−1付近に観測されるカルボキシル基の会合体に由来する吸収ピーク強度と、1807cm−1付近に観測される非会合体に由来する吸収ピーク強度との和である。
上記−CF−に由来するピーク〔y〕は、−CF−の倍音に由来する吸収ピークである。
【0049】
上記安定化フルオロポリマーは、スルホニル基の量が200ppm以下であることが好ましい。より好ましい上限は、50ppmである。
上記安定化フルオロポリマーは、カルボキシル基の量が100ppm以下であることが好ましい。より好ましい上限は、30ppmである。
【0050】
本明細書において、上記スルホニル基の量及びカルボキシル基の量は、安定化フルオロポリマーを270℃、10MPaにおいて20分間ヒートプレスして厚さ150〜200μmの測定用膜を作成し、FT−IR分光器を用いてスペクトル測定し、以下の手順によって得られる値である。
まず、150℃で20時間フッ素化処理を行うことにより不安定基を完全に安定化した標準サンプルを別途作成しておき、そのIRスペクトルと測定用膜のIRスペクトルとの差スペクトルをC−F倍音の吸収ピークで規格化して導出し、得られた差スペクトルにおいて、1056cm−1付近に観測されるスルホン酸基に由来する吸収ピーク、1776cm−1付近に観測されるカルボキシル基の会合体に由来する吸収ピーク、及び、1807cm−1付近に観測される非会合体に由来する吸収ピークの強度を読み取り、それぞれC−F倍音のピーク強度で規格化して吸収ピーク強度Absを得る。
各官能基の量は、各官能基の吸収ピークの吸光係数ε(cm/mol・cm)、サンプルの比重d(g/cm)、及び、C−F倍音の強度が1のときのサンプル膜厚l(cm)からランバートベール則(Abs=εcl、cは濃度)を使って、下記式
官能基量(ppm)={Abs×(各官能基の分子量)}×1011/εdl
に基づいて算出される。
本明細書において、上記カルボキシル基の量は、カルボキシル基の会合体の量と非会合体の量との和である。
【0051】
上記一般式(II)で表される酸由来基含有パーハロビニルエーテルと、テトラフルオロエチレンとを重合して得られるフルオロポリマーであって、前記フルオロポリマーの加水分解体について、上記加水分解体を比誘電率が5.0以上の含酸素炭化水素系化合物に膨潤させて19F固体核磁気共鳴測定を行って求めた加水分解体の主鎖末端−CF基の積分強度と、主鎖から分岐したエーテル結合に隣接する側鎖−CF−の積分強度と、滴定法によって求めたイオン交換当量重量Ew値とを用いて算出した該加水分解体の主鎖を構成する炭素原子10万個あたりに存在する主鎖末端−CF基の個数(X)が10個以上であることを特徴とする安定化フルオロポリマー(以下、「安定化フルオロポリマー(C)」と称することもある)もまた、本発明の1つである。
【0052】
上記安定化フルオロポリマー(C)は、上記主鎖末端−CF基の個数(X)が10個以上であるものなので、主鎖末端基が充分に安定化されたものである。
上記主鎖末端−CF基の個数(X)は、下限が15個であることがより好ましい。
【0053】
上記主鎖末端−CF基の個数(X)は、19F固体核磁気共鳴測定を行うことにより得られる主鎖末端−CF基の積分強度と、主鎖から分岐したエーテル結合に隣接する−CF−の積分強度と、滴定法により求めた試料のイオン交換当量重量Ewとから算出することができる。
上記19F固体核磁気共鳴測定において、膨潤溶媒として、比誘電率が5.0以上の含酸素炭化水素系化合物を用いることができる。上記比誘電率が5.0以上の含酸素炭化水素系化合物としては、特に限定されず、例えば、N−メチルアセトアミド等が挙げられる。
本発明において、上記19F固体核磁気共鳴測定は、N−メチルアセトアミドにて膨潤させたフルオロポリマーについて、MAS(Magic Angle Spinning)回転数4.8kHz、測定周波数376.5MHz、化学シフト基準CFCOOH(−77ppm)、測定温度473Kにて、測定機器としてDSX400(ドイツ国Bruker Biospin社製)を用いて行う。上記19F固体核磁気共鳴測定において、主鎖末端−CF基の積分強度(A)は−79.7ppmをピークとするシグナルから、主鎖から分岐した側鎖のエーテル結合に隣接する側鎖−CF−の積分強度(B)は、−76.4ppmをピークとするシグナルから測定することができる。
上記主鎖末端−CF基の個数(X)は、上記積分強度(A)及び積分強度(B)、並びに、滴定法により求めた試料のイオン交換当量重量Ewより、下記式(III)
X=100000/[{(B/A)×3/2}×{2×(Ew−178−50×m)/100}+2](III)
を用いて算出することができる。ここで、mは前記一般式(II)におけるmの値に従う。
【0054】
上記安定化フルオロポリマー(C)は、上述のIR測定において、カルボキシル基に由来するピーク〔x〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔x/y〕が0.05以下であることが好ましい。
上記安定化フルオロポリマー(C)において、上記強度比〔x/y〕の好ましい範囲は、上記安定化フルオロポリマー(B)に関して説明した範囲と同じである。
【0055】
上記安定化フルオロポリマー(C)は、上記一般式(II)で表される酸由来基含有パーハロビニルエーテルと、テトラフルオロエチレンとの重合を経て得られるものであれば、その製造方法については特に限定されないが、上記重合は、乳化重合であることが好ましい。
上記安定化フルオロポリマー(C)は、上述の本発明の安定化フルオロポリマー製造方法により効率良く得ることができる。上記安定化フルオロポリマー(C)は、上記本発明の安定化フルオロポリマー製造方法により得られたものに必ずしも限定されない点で、上述の安定化フルオロポリマー(A)とは概念が異なるものである。
本発明の安定化フルオロポリマー(B)及び安定化フルオロポリマー(C)は、上記一般式(II)から明らかであるように、上記一般式(I)におけるnが0であるような側鎖が短いものである。
本発明者らは、後述のフェントン処理1の結果から明らかなように、側鎖の短いポリマーの方が化学的安定性に優れることを発見し、本発明の安定化フルオロポリマー(B)及び安定化フルオロポリマー(C)を完成したものである。
【0056】
本発明の安定化フルオロポリマーは、JIS K 7210に従って270℃、荷重2.16kgの条件下で測定したメルトインデックスが0.1〜20g/10分であることが好ましい。ここでいうメルトインデックス〔MI〕は、メルトマスフローレイト〔MFR〕と表現することもある。
本発明の安定化フルオロポリマーにおいて、上記メルトインデックス〔MI〕が0.1(g/10分)未満であると、溶融成形が困難となる傾向にあり、20(g/10分)を超えると、高分子電解質膜を燃料電池に使用した際に耐久性が悪化しやすい。
上記MIのより好ましい下限は0.5(g/10分)、より好ましい上限は10(g/10分)である。
本明細書において、MIは、JIS K 7210に従って、270℃にて荷重2.16kgをかけたときに特定の形状・大きさであるオリフィスから押し出されるポリマーの重量を10分間あたりのグラム数で表したものである。
また、本発明の安定化フルオロポリマーは、安定化していないものに比べ、溶融成形する場合であっても発泡が生じにくくなる。
【0057】
本発明の高分子電解質膜は、上述した本発明の安定化フルオロポリマーの加水分解体を含むものである。
上記「安定化フルオロポリマーの加水分解体」は、安定化フルオロポリマーを加水分解して得られるフルオロポリマーである。
上記安定化フルオロポリマーの加水分解体としては、例えば、本発明の安定化フルオロポリマーが有する酸由来基−SOFをケン化して−SONa、−SOK等の塩型基に変換させ、次いで酸を作用させること等により−SOHに変換したスルホン酸型フルオロポリマーや、−COOCHをケン化して−COONa、−COOK等の塩型基に変換させ、次いで酸を作用させること等により−COOHに変換したカルボン酸型フルオロポリマー等が挙げられる。
本発明の高分子電解質膜は、上記安定化フルオロポリマーの加水分解体を含むものであるので、燃料電池、化学センサー等における電解質膜材料として用いた際、長期間使用しても劣化せず、燃料電池の排水がHFを含むこととなる事態を回避することができる。
本発明の高分子電解質膜は、上記安定化フルオロポリマーの加水分解体として、例えば上述の一般式(II)におけるm及び/又はAが異なる、TFEとの共重合割合が異なる等により相違するものを1種又は2種以上含むものであってもよい。
【0058】
本発明の高分子電解質膜は、鉄(II)陽イオンの初期濃度が2ppm且つ過酸化水素の初期濃度が1質量%である過酸化水素水溶液aリットルに高分子電解質膜bグラムを膜液比〔b/a〕3.2にて浸漬して80℃にて2時間保持することよりなるフェントン処理により溶出したフッ化物イオン量が上記高分子電解質膜100質量部に対し、11×10−4質量部以下であるものが好ましい。
本発明の高分子電解質膜は、上記範囲内のフッ化物イオン量であれば、安定化フルオロポリマーの安定化の程度が充分に高いものである。
上記フェントン処理により溶出したフッ化物イオン量は、上記高分子電解質膜100質量部に対し、8.0×10−4質量部以下であるものがより好ましく、5.0×10−4質量部以下であるものが更に好ましい。上記フェントン処理により溶出したフッ化物イオン量は、上記範囲内であれば、上記高分子電解質膜100質量部に対し、例えば1.0×10−4質量部以上であっても工業上許容することができる。
本明細書において、上記フッ化物イオン量は、イオンクロマト法(日本国東ソー社製IC−2001、陰イオン分析用カラムとして、日本国東ソー社製TSKgel SuperIC−Anionを使用)にて、後述する「フェントン処理2」の方法にて測定したものである。
【0059】
本発明の高分子電解質膜は、膜厚が5〜100μmであるものが好ましい。5μm未満であると、燃料電池に使用した場合、燃料電池運転過程において機械的強度が低下しやすく、膜が破壊しやすい。100μmを超えると、燃料電池に使用した場合、膜抵抗が大きく、充分な初期特性を発揮することができない。
本明細書において、上記「初期特性」とは、本発明の高分子電解質を用いて燃料電池運転を行い、電流密度−電圧曲線を測定し電圧の数値の大きさと広い電流密度での発電性能等をいう。
上記高分子電解質膜の膜厚のより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は75μmである。
【0060】
本発明の高分子電解質膜は、成形、及び、加水分解を行うことにより得ることができる。
上記成形は、(1)本発明の安定化フルオロポリマーを膜状(フィルム状)に成形するものであってもよいし、(2)上述のフッ素化処理を経ていないスルホン酸由来基含有フルオロポリマーを膜状(フィルム状)に成形するものであってもよい。上記(2)の成形を行う場合、成形した後に上記フッ素化処理を行うことができる。
上記成形は、例えば、Tダイによる成形法、インフレーション成形法、カレンダーによる成形法等の溶融成形法により行うことができる。
上記成形は、上記(1)の成形における安定化フルオロポリマー又は上記(2)の成形におけるスルホン酸由来基含有フルオロポリマーに、必要に応じて第三成分を混合しても構わない。
上記成形の条件は、行う成形法等に応じ適宜設定することができ、例えば、Tダイによる溶融成形法の場合、溶融樹脂温度は、100〜400℃が好ましく、更に好ましくは200〜300℃である。
【0061】
上記加水分解は、上述のフッ素化処理を行った後であれば、成形前に行ってもよいし、成形後に行うものであってもよい。
上記加水分解は、本発明の安定化フルオロポリマーとNaOH水溶液やKOH水溶液等の強塩基とを接触させて、例えば−SOFを−SONa、−SOK等の金属塩に、また−COOCHを−COONa、−COOK等の金属塩に変換する等のケン化を行い、水洗後、更に、硝酸、硫酸、塩酸等の酸性液に作用させて(これにより、例えば−SONaを−SOHに、また−COONaを−COOHに変換する)、更に水洗することにより、上述の一般式(I)又は一般式(II)においてAで表した酸由来基、特に−SOXをスルホン酸基に変換することことができ、以上の方法によって、高分子電解質膜を得ることができる。
【0062】
上記(1)本発明の安定化フルオロポリマーを膜状(フィルム状)に成形する方法としては、また、膜キャスト液を支持体上にキャストして、支持体上に液状塗膜を形成し、そして、液状塗膜から液状媒体を除去する方法(キャスト法)も挙げることができる。
膜キャスト液は、上記フッ素化処理されたスルホン酸由来基含有フルオロポリマーをNaOH水溶液やKOH水溶液等の強塩基と接触させてケン化を行い水洗後、更に硝酸、硫酸、塩酸等の酸性液に作用させて、更に水洗して側鎖末端の酸由来基をスルホン酸基にする工程とこれによって得られたポリマーを水やアルコール、有機溶媒等を用いた適当な溶媒に必要に応じてオートクレーブ等を用いて80〜300℃で分散又は溶解して得られる。また上記ポリマーの分散又は溶液に際し、必要に応じて上記ポリマー以外の第三成分を混合しても構わない。
支持体上にキャストする方法としては、グラビアロールコータ、チュラルロールコータ、リバースロールコータ、ナイフコータ、ディップコータ、パイプドクターコータ等の公知の塗工方法を用いることができる。
キャストに用いる支持体は限定されないが、一般的なポリマーフィルム、金属箔、アルミナ、Si等の基板等が好適に使用できる。このような支持体は、膜/電極接合体(後述する)を形成する際には、所望により、高分子電解質膜から除去することができる。
【0063】
また、特公平5−75835号公報に記載のポリテトラフルオロエチレン[PTFE]膜を延伸処理した多孔質膜に膜キャスト液を含浸させてから液状媒体を除去することにより、補強体(該多孔質膜)を含んだ高分子電解質膜を製造することもできる。また、膜キャスト液にPTFE等からなるフィブリル化繊維を添加してキャストしてから液状媒体を除去することにより、特開昭53−149881号公報と特公昭63−61337号公報に示されるような、フィブリル化繊維で補強された高分子電解質膜を製造することもできる。
【0064】
本発明の高分子電解質膜は、所望により、40〜300℃、好ましくは80〜220℃で加熱処理(アニーリング)に付して得たものであってもよい。更に、本来のイオン交換能を充分に発揮させるために、所望により、塩酸や硝酸等で酸処理を行ってもよい。また、横1軸テンターや逐次又は同時2軸テンターを使用することによって延伸配向を付与することもできる。
【0065】
上記安定化フルオロポリマーの加水分解体は、後述する固体高分子電解質型燃料電池における膜/電極接合体を構成する膜及び/又は電極として使用することができる。
上記安定化フルオロポリマーの加水分解体は、固体高分子電解質型燃料電池を構成する膜/電極接合体において、膜を構成し電極を構成しないものであってよいし、膜を構成せず電極を構成するものであってよいし、膜及び電極を構成するものであってもよい。
【0066】
本発明の活性物質固定体は、上記安定化フルオロポリマーの加水分解体と活性物質とからなるものである。
上記活性物質固定体は、通常、上記安定化フルオロポリマーの加水分解体と活性物質とを液状媒体に分散した液状組成物を基材に塗装することにより得られたものであるが、上記安定化フルオロポリマーと活性物質とからなる液状組成物を基材に塗装した場合、通常、該塗装後に該安定化フルオロポリマーを加水分解して得ることができる。
上記活性物質としては、上記活性物質固定体において活性を有し得るものであれば特に限定されず、本発明の活性物質固定体の目的に応じて適宜選択されるが、例えば、触媒を好適に用いることができる場合がある。上記活性物質として触媒を用いた本発明の活性物質固定体は、燃料電池における膜/電極接合体を構成する電極として好適に用いることができる。
上記触媒としては、電極触媒が好ましく、白金を含有する金属であることがより好ましい。
上記触媒としては、電極触媒として通常使用されるものであれば特に限定されず、例えば、白金、ルテニウム等を含有する金属;通常1種類以上の金属からなる中心金属をもつ有機金属錯体であって、その中心金属の少なくとも1つが白金又はルテニウムである有機金属錯体等が挙げられる。
上記白金、ルテニウム等を含有する金属としては、ルテニウムを含有する金属、例えば、ルテニウム単体等であってもよいが、白金を含有する金属が好ましい。上記白金を含有する金属としては特に限定されず、例えば、白金の単体(白金黒);白金−ルテニウム合金等が挙げられる。
上記触媒は、通常、シリカ、アルミナ、カーボン等の担体上に担持させて用いる。
【0067】
上記液状媒体としては、上記安定化フルオロポリマー加水分解体からなる粒子または溶液の良好な分散性が望まれる場合には、水の他にも、メタノール等のアルコール類;N−メチルピロリドン〔NMP〕等の含窒素溶剤;アセトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;ジグライム、テトラヒドロフラン〔THF〕等の極性エーテル類;ジエチレンカーボネート等の炭酸エステル類等の極性を有する有機溶剤が挙げられ、これらのなかから1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0068】
上記液状組成物は、少なくとも、上記安定化フルオロポリマー又はその加水分解体と、上記活性物質とからなるものであり、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。
上記その他の成分としては、例えば、キャスト製膜、含浸等により膜状に成形する目的においては、レベリング性を改善するためのアルコール類、造膜性を改善するためのポリオキシエチレン類等が挙げられる。
【0069】
上記基材としては特に限定されず、例えば、多孔性支持体、樹脂成形体、金属板等が挙げられ、燃料電池等に用いられる電解質膜、多孔性カーボン電極等が好ましい。
上記電解質膜としては、通常の意味でのフッ素樹脂からなるものであることが好ましく、本発明の安定化フルオロポリマーの加水分解体からなるものであってもよい。上記電解質膜は、活性物質固定体の性質を妨げない範囲であれば、通常の意味でのフッ素樹脂及び安定化フルオロポリマーの加水分解体以外の物質をも含むものであってよい。
【0070】
上記「液状組成物を基材に塗装する」ことは、上記液状組成物を上記基材に塗布し、必要に応じて乾燥し、更に必要に応じて加水分解体に変換し、通常更に安定化フルオロポリマーの加水分解体の融点以上の温度で加熱することよりなる。
上記加熱の条件は安定化フルオロポリマーの加水分解体と活性物質とを基材上に固定することができるものであれば特に限定されないが、例えば、200〜350℃で数分間、例えば、2〜30分間加熱することが好ましい。
本発明の活性物質固定体としては、固体高分子型燃料電池として使用する場合、上記安定化フルオロポリマーの加水分解体、カーボン及び触媒(Pt等)からなる電極(「触媒層」ともいう。)が好ましい。
【0071】
本発明の膜/電極接合体は、高分子電解質膜と電極とからなる膜/電極接合体であって、下記条件(1)及び(2)よりなる群から選ばれる少なくとも1つを満たすものである。
(1)上記高分子電解質膜は、上述の本発明の高分子電解質膜である
(2)上記電極は、上述の本発明の活性物質固定体である
本発明の膜/電極接合体は、例えば、固体高分子型燃料電池に用いることができる。
【0072】
本発明の高分子電解質膜を、固体高分子型燃料電池に用いる場合、本発明の高分子電解質膜をアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体(membrane/electrode assembly)(以下、しばしば「MEA」と称する)として使用することができる。ここでアノードはアノード触媒層からなり、プロトン伝導性を有し、カソードはカソード触媒層からなり、プロトン伝導性を有する。また、アノード触媒層とカソード触媒層のそれぞれの外側表面にガス拡散層(後述する)を接合したものもMEAと呼ぶ。
【0073】
上記アノード触媒層は、燃料(例えば水素)を酸化して容易にプロトンを生ぜしめる触媒を包含し、カソード触媒層は、プロトン及び電子と酸化剤(例えば酸素や空気)を反応させて水を生成させる触媒を包含する。アノードとカソードのいずれについても、触媒としては白金もしくは白金とルテニウム等からなる合金が好適に用いられ、10〜1000オングストローム以下の触媒粒子であることが好ましい。また、このような触媒粒子は、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、活性炭、黒鉛といった0.01〜10μm程度の大きさの導電性粒子に担持されていることが好ましい。触媒層投影面積に対する触媒粒子の担持量は、0.001mg/cm以上、10mg/cm以下であることが好ましい。
さらにアノード触媒層とカソード触媒層は、前記一般式(II)で表される酸由来基含有パーハロビニルエーテルと、テトラフルオロエチレンとの重合を経て得られるフルオロポリマーの加水分解体を含有することが好ましい。触媒層投影面積に対する上記パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーの加水分解体の担持量は、0.001mg/cm〜10mg/cm以下であることが好ましい。
【0074】
MEAの作製方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。まず、安定化フルオロポリマーの加水分解体をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、触媒として市販の白金担持カーボン(例えば、日本国田中貴金属(株)社製TEC10E40E)を分散させてペースト状にする。これを2枚のPTFEシートのそれぞれの片面に一定量塗布して乾燥させて触媒層を形成する。次に、各PTFEシートの塗布面を向かい合わせにして、その間に本発明の高分子電解質膜を挟み込み、100〜200℃で熱プレスにより転写接合してから、PTFEシートを取り除くことにより、MEAを得ることができる。当業者にはMEAの作製方法は周知である。MEAの作製方法は、例えば、JOURNAL OF APPLIED ELECTROCHEMISTRY,22(1992)p.1−7に詳しく記載されている。
ガス拡散層としては、市販のカーボンクロスもしくはカーボンペーパーを用いることができる。前者の代表例としては、米国DE NORA NORTH AMERICA社製カーボンクロスE−tek,B−1が挙げられ、後者の代表例としては、CARBEL(登録商標、日本国ジャパンゴアテックス(株))、日本国東レ社製TGP−H、米国SPCTRACORP社製カーボンペーパー2050等が挙げられる。
また、電極触媒層とガス拡散層が一体化した構造体は「ガス拡散電極」と呼ばれる。ガス拡散電極を本発明の高分子電解質膜に接合してもMEAが得られる。市販のガス拡散電極の代表例としては、米国DE NORA NORTH AMERICA社製ガス拡散電極ELAT(登録商標)(ガス拡散層としてカーボンクロスを使用)が挙げられる。
【0075】
本発明の固体高分子型燃料電池は、上記膜/電極接合体を有するものである。
上記固体高分子電解質型燃料電池は、上記膜/電極接合体を有するものであれば特に限定されず、通常、固体高分子電解質型燃料電池を構成する電極、ガス等の構成成分を含むものであってよい。
【0076】
本発明の安定化フルオロポリマー及びその加水分解体は、上述したように化学的安定性に優れるので、使用条件が通常過酷な固体高分子電解質型燃料電池等の燃料電池の電解質膜及びその材料としても長期間好適に用いることができる。
【0077】
上述したキャスト製膜を行うことにより得られた膜、多孔性支持体上に形成された膜、活性物質固定体、高分子電解質膜又は固体高分子電解質型燃料電池は、何れも、安定化フルオロポリマーの加水分解体を用いてなるものである。上述の液状組成物は、安定化フルオロポリマーの加水分解体からなるものが好ましい。
【0078】
本発明の高分子電解質膜は、上記固体高分子電解質型燃料電池の膜材としての用途のほかにも、例えば、リチウム電池用膜、食塩電解用膜、水電解用膜、ハロゲン化水素酸電解用膜、酸素濃縮器用膜、湿度センサー用膜、ガスセンサー用膜、分離膜等の電解質膜又はイオン交換膜の膜材として用いることができる。
【発明の効果】
【0079】
本発明の安定化フルオロポリマー製造方法は、スルホン酸由来基含有フルオロポリマーの不安定基を充分にフッ素化することができる。
本発明の安定化フルオロポリマーは、上述したように化学的安定性に優れるので、その加水分解体は、使用条件が通常過酷な固体高分子電解質型燃料電池等の燃料電池の電解質膜等の膜材又は電極にとして好適に用いることができ、排水中のフッ素イオンが少ない高耐久性の燃料電池膜又は電極を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0080】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0081】
測定方法
1.水分含有量測定方法
水分気化装置(商品名:ADP−351、京都電子工業社製)を用い、乾燥窒素をキャリアガスにして、サンプルを加熱して気化させた水分をカールフィッシャー式水分計に捕集し、電量滴定して水分量を測定した。
サンプル量は1g、測定温度は150℃とした。
【0082】
2.IRによる官能基定量
ポリマーサンプルを270℃、10MPaにおいて20分間ヒートプレスして厚さ150〜200μmの膜を作成し、FT−IR分光器を用いてスペクトル測定した。
【0083】
3.フェントン試薬による安定性試験
(1)フェントン処理1
ポリマーサンプルを270℃、10MPaにおいて20分間ヒートプレスした後、ポリマー側鎖の末端基をスルホン酸基に変換し安定性試験用膜とした。
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体製のボトルに、FeSO・7HO 1mgを30質量%過酸化水素水溶液20mlに溶解させて入れ、安定性試験用膜3gを浸漬し、85℃で20時間保持した。その後、室温まで冷却して安定性試験用膜を取り出し、フッ素イオンメーター(ORION社製Expandable ion Analyzer EA940)を用いて液相のフッ素イオン濃度を測定した。
(2)フェントン処理2
鉄(II)陽イオンの初期濃度が2ppm且つ過酸化水素の初期濃度が1質量%である過酸化水素水溶液aリットルに高分子電解質膜bグラムを膜液比〔b/a〕3.2にて浸漬して80℃にて2時間保持した後、試料ポリマー(上記高分子電解質膜)を取り除き、液量を測定したあと、適宜イオンクロマト用蒸留水で希釈し、イオンクロマト法でフッ化物イオンF量を測定した。測定装置は日本国東ソー社製のIC−2001、陰イオン分析用カラムとして、日本国東ソー社製のTSKgel SuperIC−Anionを使用した。溶出したフッ化物イオン量は、試料ポリマー質量100質量部当りの溶出したフッ化物イオンの質量で表した。
【0084】
4.イオン交換当量重量Ewの測定方法
0.1gに切り出した高分子電解質膜を飽和NaCl水溶液30mlに25℃の温度下に浸漬し、攪拌しながら30分間放置した後、フェノールフタレインを指示薬として、pHメータ(日本国東興化学研究所社製:TPX−90)の値が6.95〜7.05の範囲の値を示す点を当量点として、0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定した。中和後得られたNa型電解質膜を純粋ですすいだ後、真空乾燥して秤量した。中和に要した水酸化ナトリウムの当量をM(mmol)、Na型電解質膜の重量をW(mg)とし、下記式によりイオン交換当量重量Ew(g/eq)を求めた。
Ew=(W/M)−22
【0085】
5.19F固体核磁気共鳴測定方法
19F固体NMR測定は下記条件で行った。なお試料はNMR試験管内で膨潤溶剤に浸漬させながらNMR測定される。
・装置:ドイツ国Bruker Biospin社製 DSX400
・MAS回転数:4.8kHz
・観測周波数:376.5MHz
・化学シフト基準:CFCOOH(−77ppm)
・膨潤溶剤:N−メチルアセトアミド
・測定温度:473K
算出方法を以下に示す。主鎖末端−CF基(図1中a)は−79.7ppmに検出される。この積分強度をAとする。一方、側鎖のエーテルに隣接する−CF−(図2中b)の信号が−76.4ppmに観測される。この積分強度をBとする。該主鎖を構成する炭素原子10万個当りに存在する主鎖末端CF基の個数(X)は、このAとB及び前記4.記載のイオン交換当量重量Ewの測定方法により求めた試料のEwより下記式(III)を用いて計算することができる。
X=100000/[{(B/A)×3/2}×{2×(Ew−178−50×m)/100}+2](III)
ここで、mは、一般式(II)に記載のmの値に従う。
【0086】
6.燃料電池評価
高分子電解質膜の燃料電池評価を以下のように行った。まず、以下のように電極触媒層を作製する。Pt担持カーボン(日本国田中貴金属(株)社製TEC10E40E、Pt36.4wt%)1.00gに対し、5質量%フルオロポリマーを溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)の溶液とし、更に11質量%に濃縮したポリマー溶液を3.31g添加、さらに3.24gのエタノールを添加して後、ホモジナイザーでよく混合して電極インクを得た。この電極インクをスクリーン印刷法にてPTFEシート上に塗布した。塗布量は、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cmになる塗布量と、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.30mg/cmになる塗布量の2種類とした。塗布後、室温下で1時間、空気中120℃にて1時間、乾燥を行うことにより厚み10μm程度の電極触媒層を得た。これらの電極触媒層のうち、Pt担持量及びポリマー担持量が共に0.15mg/cmのものをアノード触媒層とし、Pt担持量及びポリマー担持量が共に0.30mg/cmのものをカソード触媒層とした。
このようにして得たアノード触媒層とカソード触媒層を向い合わせて、その間に高分子電解質膜を挟み込み、160℃、面圧0.1MPaでホットプレスすることにより、アノード触媒層とカソード触媒層を高分子電解質膜に転写、接合してMEAを作製した。
【0087】
このMEAの両側(アノード触媒層とカソード触媒層の外表面)にガス拡散層としてカーボンクロス(米国DE NORA NORTH AMERICA社製ELAT(登録商標)B−1)をセットして評価用セルに組み込んだ。この評価用セルを評価装置(日本国(株)東陽テクニカ社製燃料電池評価システム890CL)にセットして80℃に昇温した後、アノード側に水素ガスを150cc/min、カソード側に空気ガスを400cc/minで流した。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガスは80℃、空気ガスは50℃で加湿してセルへ供給した状態にて、電流密度−電圧曲線を測定して初期特性を調べた。
【0088】
初期特性を調べた後、耐久性試験をセル温度100℃で行った。いずれの場合もアノード、カソード共にガス加湿温度は60℃とした。セル温度が100℃の場合、アノード側に水素ガスを74cc/min、カソード側に空気ガスを102cc/minで流し、アノード側を0.30MPa(絶対圧力)、カソード側を0.15MPa(絶対圧力)で加圧した状態で、電流密度0.3A/cmで発電した。このとき膜や電極中のポリマーが劣化するとアノード側及びカソード側の排水中のフッ素イオン濃度が増加するので、排水中のフッ素イオン濃度をベンチトップ型pHイオンメーターモデル920Aplusのモデル9609B Nionplusフッ素複合電極(日本国メディトリアル社製)を用いて経時的に測定した。耐久性試験において、高分子電解質膜にピンホールが生じると、水素ガスがカソード側へ大量にリークするというクロスリークと呼ばれる現象が起きる。このクロスリーク量を調べるため、カソード側排気ガス中の水素濃度をマイクロGC(オランダ国Varian社製CP4900)にて測定し、この測定値が初期の10倍以上になった時点で試験終了とした。
7.メルトインデックス〔MI〕の測定方法
MIの測定は、フルオロポリマーを、JIS K 7210に従って270℃、荷重2.16kgの条件下で、日本国東洋精機社製MELT INDEXER TYPE C−5059Dを用いて測定した。押し出されたポリマーの重量を10分間あたりのグラム数で表した。
【実施例1】
【0089】
(1)ポリマー合成
容積3000mlのステンレス製攪拌式オートクレーブに、C15COONHの10%水溶液300gと純水1170gを仕込み、充分に真空、窒素置換を行った。オートクレーブを充分に真空にした後、テトラフルオロエチレン〔TFE〕ガスをゲージ圧力で0.2MPaまで導入し、50℃まで昇温した。その後、CF=CFOCFCFSOFを100g注入し、TFEガスを導入してゲージ圧力で0.7MPaまで昇圧した。引き続き0.5gの過硫酸アンモニウム[APS]を60gの純水に溶解した水溶液を注入して重合を開始した。重合により消費されたTFEを補給するため、連続的にTFEを供給してオートクレーブの圧力を0.7MPaに保つようにした。さらに供給したTFEに対して、質量比で0.53倍に相当する量のCF=CFOCFCFSOFを連続的に供給して重合を継続した。
供給したTFEが522gになった時点で、オートクレーブの圧力を開放し、重合を停止した。その後室温まで冷却し、SOFを含む過フッ化ポリマーを約33質量%含有する、やや白濁した水性分散体2450gを得た。
上記水性分散体を、硝酸で凝析させ、水洗し、90℃で24時間乾燥し、更に120℃で12時間乾燥して含フッ素ポリマーA800gを得た。
次に、得られた含フッ素ポリマーAの1gを、150℃に熱した管状炉に直ちに入れて水分を揮発させ、乾燥窒素をキャリアガスとしてカールフィッシャー水分測定装置に導入して水分量を測定したところ、質量で200ppmであった。
また、300℃における高温NMR測定の結果、含フッ素ポリマーA中のCF=CFOCFCFSOF単位の含有率は19モル%であった。
上記含フッ素ポリマーAを、270℃、10MPaにおいて20分間ヒートプレスして、170μmの厚みを有する透明な膜を得た。
IR測定の結果、スルホン酸に由来するピークは観測されなかった。また、カルボキシル基に由来するピーク〔x〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔x/y〕は0.23であった。
【0090】
(2)フッ素化
容積1000mlのオートクレーブ(ハステロイ製)に水分含有量200ppmの上記含フッ素ポリマーA 200gを入れ、真空脱気しながら120℃に昇温した。真空、窒素置換を3回繰り返した後、窒素をゲージ圧0MPaまで導入した。引き続き、フッ素ガスを窒素ガスで20容積%に希釈し得られたガス状フッ素化剤をゲージ圧が0.1MPaになるまで導入して、30分保持した。
次に、オートクレーブ内のフッ素を排気し、真空引きした後、フッ素ガスを窒素ガスで20容積%に希釈し得られたガス状フッ素化剤をゲージ圧が0.1MPaになるまで導入して、3時間保持した。
その後、室温まで冷却し、オートクレーブ内のフッ素を排気し、真空、窒素置換を3回繰り返した後、オートクレーブを開放し、安定化フルオロポリマーBを得た。
上記安定化フルオロポリマーBを、270℃、10MPaにおいて20分間ヒートプレスして、170μmの厚みを有する透明な膜を得た。
IR測定の結果、スルホン酸に由来するピークは観測されなかった。また、カルボキシル基に由来するピーク〔x〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔x/y〕は0.03であった。
得られた安定化フルオロポリマーをメルトインデックス計〔MI計〕で、270℃、5kgの荷重をかけて押し出しストランドを得た。得られたストランドを再度MI計で押し出す操作を2回繰り返した後のストランドは、殆ど着色していなかった。
【0091】
比較例1
実施例1で得られた含フッ素ポリマーAを、空気中で2日間放置し、水分量を測定したところ、700ppmであった。
このポリマーを実施例1と同様にフッ素化して含フッ素ポリマーCを得た。含フッ素ポリマーCを得たオートクレーブの上部は緑色に変色しており、腐食が進んでいることがわかった。
得られた含フッ素ポリマーCを、270℃、10MPaにおいて20分間ヒートプレスして、160μmの厚みを有する透明な膜を得た。
IR測定の結果、スルホン酸に由来するピーク〔z〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔z/y〕は、0.03であった。また、カルボキシル基に由来するピーク〔x〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔x/y〕は、0.14であった。
得られた含フッ素ポリマーCをMI計で270℃、5kgの荷重をかけて押し出しストランドを得た。得られたストランドを再度MI計で押し出す操作を2回繰り返した後のストランドは、濃い茶色に着色していた。
以上の結果から、含水量が500ppm以下の含フッ素ポリマーAをフッ素化した実施例1は、含水量が700ppmの比較例1に比べて、末端を安定化することができた。また、含フッ素ポリマーの着色が抑制されていることがわかった。
【実施例2】
【0092】
実施例1(2)で得られた膜を、20%水酸化ナトリウム水溶液中、90℃で24時間処理した後水洗した。引き続き、6規定硫酸中、60℃で24時間処理した。その後洗浄液が中性になるまで水洗して、スルホン酸型の膜を得た。
この膜を110℃で充分に乾燥した後3gを採取し、フェントン処理1による安定性試験を行った結果、フッ素イオン濃度は5ppmであった。
【0093】
比較例2
スルホン酸由来基含有フルオロポリマーとしてCF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOFを重合してなるポリマー膜(商品名:ナフィオン117、デュポン社製)を用い、実施例2と同様にフェントン処理1による安定性試験を行ったところ、フッ素イオン濃度は20ppmであった。
上記安定性試験の結果から、CF=CFOCFCFSOFとTFEを共重合して得られ、さらにその末端を安定化したポリマーは、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOFを用いたポリマーに対して安定性に優れることがわかった。
【実施例3】
【0094】
(1)ポリマー合成
容積3000mlのステンレス製攪拌式オートクレーブを、充分に真空、窒素置換した後、オートクレーブを充分に真空にしてから、パーフルオロヘキサンを1530gとCF=CFOCFCFSOFを990g仕込み、25℃に温調した。ここにテトラフルオロエチレン〔TFE〕ガスをゲージ圧力で0.30MPaまで導入し、引き続き重合開始剤(CCOO)の10質量%パーフルオロヘキサン溶液13.14gを圧入して重合反応を開始した。重合により消費されたTFEを補給するため、連続的にTFEを供給してオートクレーブの圧力を0.30MPaに保つようにした。CF=CFOCFCFSOFを断続的に計47g供給して重合を継続した。
供給したTFEが73gになった時点で、オートクレーブの圧力を開放し、重合を停止した。
重合反応終了後、クロロホルムを1500ml投入し、10分間攪拌させた。次に、遠心分離器を用いて固液分離し、その固形分にクロロホルムを1500ml投入し、10分間攪拌させた。この操作を3回行い、ポリマーを洗浄した。次に、この洗浄ポリマーを120℃真空下で残留クロロホルムを除去し、128gの含フッ素ポリマーDを得た。
【0095】
次に、得られた含フッ素ポリマーDの1gを、150℃に熱した管状炉に直ちに入れて水分を揮発させ、乾燥窒素をキャリアガスとしてカールフィッシャー水分測定装置に導入して水分量を測定したところ、質量で50ppmであった。
また、300℃における高温NMR測定の結果、含フッ素ポリマーC中のCF=CFOCFCFSOF単位の含有率は18モル%であった。
上記含フッ素ポリマーDを、270℃、10MPaにおいて20分間ヒートプレスして、160μmの厚みを有する透明な膜を得た。
IR測定の結果、スルホン酸に由来するピークは観測されなかった。また、カルボキシル基に由来するピーク〔x〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔x/y〕は0.08であった。
【0096】
(2)フッ素化
含フッ素ポリマーD100gを実施例1と同様に処理し、安定化フルオロポリマーEを得た。
実施例1と同様にヒートプレスを実施して薄膜を作成し、IR測定した結果、スルホン酸に由来するピーク及びカルボキシル基に由来するピークは観測されなかった。
【実施例4】
【0097】
安定化フルオロポリマーEの薄膜を、実施例2と同様に処理して、スルホン酸型の膜を得た。
この膜を110℃で充分に乾燥した後3gを採取し、上記フェントン処理1を行った結果、フッ素イオン濃度は5ppmであった。
【実施例5】
【0098】
(1)ポリマー合成
容積6Lのステンレス製攪拌式オートクレーブに、C15COONHの10%水溶液150gと純水2840gを仕込み、充分に真空、窒素置換を行った。オートクレーブを充分に真空にした後、テトラフルオロエチレン〔TFE〕ガスをゲージ圧力で0.2MPaまで導入し、50℃まで昇温した。その後、CF=CFOCFCFSOFを180g注入し、TFEガスを導入してゲージ圧力で0.7MPaまで昇圧した。引き続き1.5gの過硫酸アンモニウム[APS]を20gの純水に溶解した水溶液を注入して重合を開始した。
重合により消費されたTFEを補給するため、連続的にTFEを供給してオートクレーブの圧力を0.7MPaに保つようにした。さらに供給したTFEに対して、質量比で0.70倍に相当する量のCF=CFOCFCFSOFを連続的に供給して重合を継続した。
供給したTFEが920gになった時点で、オートクレーブの圧力を開放し、重合を停止した。その後室温まで冷却し、SOFを含む過フッ化ポリマーを約32質量%含有する、やや白濁した水性分散体4650gを得た。
上記水性分散体を、硝酸で凝析させ、水洗し、90℃で24時間乾燥し、更に120℃で12時間乾燥して含フッ素ポリマーF1500gを得た。
【0099】
次に、得られた含フッ素ポリマーFの1gを、150℃に熱した管状炉に直ちに入れて水分を揮発させ、乾燥窒素をキャリアガスとしてカールフィッシャー水分測定装置に導入して水分量を測定したところ、質量で150ppmであった。
また、300℃における高温NMR測定の結果、含フッ素ポリマーF中のCF=CFOCFCFSOF単位の含有率は18.6モル%であった。
上記フルオロポリマーFを、270℃、10MPaにおいて20分間ヒートプレスして、170μmの厚みを有する透明な膜を得た。IR測定の結果、スルホン酸に由来するピーク〔z〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔z/y〕は、0.05であった。また、カルボキシル基に由来するピーク〔x〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔x/y〕は、0.20であった。
【0100】
(2)フッ素化
引き続き、容積3Lのハステロイ製オートクレーブに上記含フッ素ポリマーF700gを入れ、真空脱気しながら120℃に昇温した。真空、窒素置換を3回繰り返した後、窒素をゲージ圧−0.5MPaまで導入した。引き続き、フッ素ガスを窒素ガスで20容積%に希釈し得られたガス状フッ素化剤をゲージ圧が0MPaになるまで導入して、30分保持した。
次に、オートクレーブ内のフッ素を排気し、真空引きした後、フッ素ガスを窒素ガスで20容積%に希釈し得られたガス状フッ素化剤をゲージ圧が0MPaになるまで導入して、3時間保持した。
その後、室温まで冷却し、オートクレーブ内のフッ素を排気し、真空、窒素置換を3回繰り返した後、オートクレーブを開放し、安定化フルオロポリマーGを得た。
上記安定化フルオロポリマーGを、270℃、10MPaにおいて20分間ヒートプレスして、170μmの厚みを有する透明な膜を得た。
IR測定の結果、スルホン酸に由来するピーク、及びカルボキシル基に由来するピークはともに観測されなかった。
【0101】
この安定化ポリマーGのMIは、3.5(g/10分)であった。そして安定化フルオロポリマーGをTダイによる280℃の押し出し溶融成形により50μm厚の薄膜を得た。この薄膜を実施例2と同様に処理して、スルホン酸型の膜を得た。このスルホン酸型の膜を前述のイオン交換当量重量Ewの測定方法に従ってEwを測定した結果、720(g/eq)であった。また、19F固体核磁気共鳴測定方法に従って測定した結果、B/A=302.1、X=20.4(前記一般式(II)でm=2)であった。
更に、このスルホン酸型の膜の上記フェントン処理2を行った結果、フッ化物イオンは膜100質量部に対し3.1×10−4質量部であった。
次に、この電解質膜を用いて前述の方法に従い膜/電極接合体(MEA)を作製した。このとき電極に使用したフルオロポリマーも電解質膜と同じ安定化フルオロポリマーGをスルホン酸型に処理したポリマーを用いた。
このMEAを評価用セルに組み込み、セル温度80℃における初期特性を前述の方法に従い測定したところ、電圧(V)と電流密度(A/cm)の関係において、0.5A/cmで0.77V、1.0A/cmで0.68V、1.5A/cmで0.55Vと非常に高いセル性能が得られた。
また、100℃での耐久性試験においては、550時間の運転ができ、高い耐久性が得られた。50時間経過後の排水中のフッ素イオン濃度は、カソード側で0.16ppm、アノード側で0.23ppmであった。また、400時間後の排水中のフッ素イオン濃度は、カソード側で0.22ppm、アノード側で0.48ppmであった。
【0102】
比較例3
含フッ素ポリマーFに対し、フッ素化未処理である以外は全く同様に作製したポリマーを、実施例5と同様にTダイによる280℃の押し出し溶融成形により50μm厚の薄膜を得た。この含フッ素ポリマーFのMIは、3.5(g/10分)であった。この薄膜を実施例2と同様に処理して、スルホン酸型の膜を得た。
このスルホン酸型の膜を前述のイオン交換当量重量Ewの測定方法に従ってEwを測定した結果、720(g/eq)であった。また、19F固体核磁気共鳴測定方法に従って測定した結果、B/A=∞、X=0(前記一般式(II)でm=2)であった。更に、このスルホン酸型の膜の上記フェントン処理2を行った結果、フッ化物イオンは膜100質量部に対し13.3×10−4質量部であった。
次に、この電解質膜を用いて前述の方法に従い膜/電極接合体(MEA)を作製した。このとき電極に使用したフルオロポリマーも電解質膜と同じフッ素化未処理である含フッ素ポリマーFをスルホン酸型に処理したポリマーを用いた。
このMEAを評価用セルに組み込み、セル温度80℃における初期特性を前述の方法に従い測定したところ、電圧(V)と電流密度(A/cm)の関係において、0.5A/cmで0.72V、1.0A/cmで0.44V、1.5A/cmでは運転不能であった。
また、100℃での耐久性試験においては、85時間の運転でクロスリークにより運転が終了した。50時間経過後の排水中のフッ素イオン濃度は、カソード側で2.8ppm、アノード側で6.1ppmであった。
【0103】
比較例4
比較例1で得られたフッ素化した含フッ素ポリマーCを、実施例5と同様にTダイによる280℃の押し出し溶融成形により50μm厚の薄膜を得た。この含フッ素ポリマーCのMIは3.2(g/10分)であった。この薄膜を実施例2と同様に処理して、スルホン酸型の膜を得た。このスルホン酸型の膜を前述のイオン交換当量重量Ewの測定方法に従ってEwを測定した結果、720(g/eq)であった。また、19F固体核磁気共鳴測定方法に従って測定した結果、B/A=921、X=6.7(前記一般式(II)でm=2)であった。更に、このスルホン酸型の膜の上記フェントン処理2を行った結果、フッ化物イオンは膜100質量部に対し12.8×10−4質量部であった。
次に、この電解質膜を用いて前述の方法に従い、膜/電極接合体(MEA)を作製した。このとき電極に使用したフルオロポリマーも電解質膜と同じ含フッ素ポリマーCをスルホン酸型に処理したポリマーを用いた。
このMEAを評価用セルに組み込み、セル温度80℃における初期特性を前述の方法に従い測定したところ、電圧(V)と電流密度(A/cm)の関係において、0.5A/cmで0.75V、1.0A/cmで0.52V、1.5A/cmで0.18Vであった。
また、100℃での耐久性試験においては、120時間の運転でクロスリークにより運転が終了した。50時間経過後の排水中のフッ素イオン濃度は、カソード側で1.18ppm、アノード側で2.5ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の安定化フルオロポリマー製造方法は、燃料電池電解質膜等の苛酷条件下において使用される膜材に適した原料の製造に供することができる。
本発明の安定化フルオロポリマーは、上述したように化学的安定性に優れるので、その加水分解体は、使用条件が通常過酷な固体高分子電解質型燃料電池等の燃料電池の膜材又は電極に好適に用いることができ、排水中のフッ素イオンが少ない高耐久性の燃料電池膜又は電極を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】実施例5にて得られた安定化フルオロポリマーGを19F固体核磁気共鳴測定して得られたNMRチャート(縦軸を図2の13倍に拡大したもの)である。
【図2】実施例5にて得られた安定化フルオロポリマーGを19F固体核磁気共鳴測定して得られたNMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸由来基含有フルオロポリマーを含む処理対象物にフッ素化処理を行うことにより安定化フルオロポリマーを製造することよりなる安定化フルオロポリマー製造方法であって、
前記スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、−SOM(Mは、H、NR又はM1/Lを表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、H若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。Mは、L価の金属を表す。)を有するフルオロポリマーであり、前記処理対象物は、水分が質量で500ppm以下である
ことを特徴とする安定化フルオロポリマー製造方法。
【請求項2】
スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、更に、−SOX及び/又は−COZ(Xは、F、Cl、Br、I又は−NRを表す。Zは、−NR又は−ORを表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、H、アルカリ金属元素、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)を有している請求項1記載の安定化フルオロポリマー製造方法。
【請求項3】
スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、更に、−COOHをポリマー鎖末端に有している請求項1又は2記載の安定化フルオロポリマー製造方法。
【請求項4】
フッ素化処理は、フッ素源からなるガス状フッ素化剤を用いて行うものであり、
前記フッ素源は、F、SF、IF、NF、PF、ClF及びClFからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記フッ素源は、前記ガス状フッ素化剤の1容積%以上である請求項1、2又は3記載の安定化フルオロポリマー製造方法。
【請求項5】
フッ素源は、Fである請求項4記載の安定化フルオロポリマー製造方法。
【請求項6】
スルホン酸由来基含有フルオロポリマーは、下記一般式(I)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A (I)
(式中、Yは、F、Cl、Br、I又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表し、n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、F、Cl、Br又はIを表す。mは、1〜5の整数を表す。mが2〜5の整数であるとき、m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SOX又は−COZを表す。Xは、F、Cl、Br、I又は−NRを表す。Zは、−NR又は−ORを表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、H、アルカリ金属元素、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で表される酸由来基含有パーハロビニルエーテル、及び、前記酸由来基含有パーハロビニルエーテルと共重合可能なモノマーからなる2元以上の共重合体であり、
前記共重合可能なモノマーは、前記酸由来基含有パーハロビニルエーテル以外のその他のビニルエーテル、及び、エチレン性モノマーであり、
前記共重合体は、前記酸由来基含有パーハロビニルエーテルに由来する酸由来基含有パーハロビニルエーテル単位5〜40モル%、前記エチレン性モノマーに由来するエチレン性モノマー単位60〜95モル%、及び、前記その他のビニルエーテルに由来するその他のビニルエーテル単位0〜5モル%からなるものである請求項1、2、3、4又は5記載の安定化フルオロポリマー製造方法。
【請求項7】
nは、0である請求項6記載の安定化フルオロポリマー製造方法。
【請求項8】
は、Fであり、mは、2である請求項6又は7記載の安定化フルオロポリマー製造方法。
【請求項9】
下記一般式(II)
CF=CF−O−(CFY−A (II)
(式中、Yは、F、Cl、Br又はIを表す。mは、1〜5の整数を表す。mが2〜5の整数であるとき、m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SOX又は−COZを表す。Xは、F、Cl、Br、I又は−NRを表す。Zは、−NR又は−ORを表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、H、アルカリ金属元素、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で表される酸由来基含有パーハロビニルエーテルと、テトラフルオロエチレンとの重合を経て得られる安定化フルオロポリマーであって、
前記安定化フルオロポリマーは、IR測定において、カルボキシル基に由来するピーク〔x〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔x/y〕が0.05以下である
ことを特徴とする安定化フルオロポリマー。
【請求項10】
下記一般式(II)
CF=CF−O−(CFY−A (II)
(式中、Yは、F、Cl、Br又はIを表す。mは、1〜5の整数を表す。mが2〜5の整数であるとき、m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SOX又は−COZを表す。Xは、F、Cl、Br、I又は−NRを表す。Zは、−NR又は−ORを表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、H、アルカリ金属元素、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で表される酸由来基含有パーハロビニルエーテルと、テトラフルオロエチレンとの重合を経て得られる安定化フルオロポリマーであって、
前記安定化フルオロポリマーの加水分解体について、前記加水分解体を比誘電率が5.0以上の含酸素炭化水素系化合物に膨潤させて19F固体核磁気共鳴測定を行って求めた前記加水分解体の主鎖末端−CF基の積分強度と、主鎖から分岐したエーテル結合に隣接する側鎖−CF−の積分強度と、滴定法によって求めたイオン交換当量重量Ew値とを用いて算出した前記加水分解体の主鎖を構成する炭素原子10万個当りに存在する主鎖末端−CF基の個数〔X〕が10個以上である
ことを特徴とする安定化フルオロポリマー。
【請求項11】
フルオロポリマーは、更に、IR測定において、カルボキシル基に由来するピーク〔x〕と、−CF−に由来するピーク〔y〕との強度比〔x/y〕が0.05以下である請求項10記載の安定化フルオロポリマー。
【請求項12】
酸由来基含有パーハロビニルエーテルと、テトラフルオロエチレンとの重合は、乳化重合である請求項9、10又は11記載の安定化フルオロポリマー。
【請求項13】
請求項7記載の安定化フルオロポリマー製造方法により得られたものである請求項9、10、11又は12記載の安定化フルオロポリマー。
【請求項14】
請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の安定化フルオロポリマー製造方法により得られた
ことを特徴とする安定化フルオロポリマー。
【請求項15】
JIS K 7210に従って270℃、荷重2.16kgの条件下で測定したメルトインデックスが0.1〜20g/10分である請求項9、10、11、12、13又は14記載の安定化フルオロポリマー。
【請求項16】
請求項9、10、11、12、13、14又は15記載の安定化フルオロポリマーの加水分解体を含む
ことを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項17】
鉄(II)陽イオンの初期濃度が2ppm且つ過酸化水素の初期濃度が1質量%である過酸化水素水溶液aリットルに高分子電解質膜bグラムを膜液比〔b/a〕3.2にて浸漬して80℃にて2時間保持することよりなるフェントン処理により溶出したフッ化物イオン量が前記高分子電解質膜100質量部に対し、11×10−4質量部以下である請求項16記載の高分子電解質膜。
【請求項18】
請求項9、10、11、12、13、14又は15記載の安定化フルオロポリマーの加水分解体と、活性物質とからなる
ことを特徴とする活性物質固定体。
【請求項19】
活性物質は、触媒である請求項18記載の活性物質固定体。
【請求項20】
触媒は、白金を含有する金属である請求項19記載の活性物質固定体。
【請求項21】
高分子電解質膜と電極とからなる膜/電極接合体であって、
下記条件(1)及び(2)よりなる群から選ばれる少なくとも1つを満たすものであることを特徴とする膜/電極接合体。
(1)前記高分子電解質膜は、請求項16又は17記載の高分子電解質膜である
(2)前記電極は、請求項18、19又は20記載の活性物質固定体である
【請求項22】
請求項21記載の膜/電極接合体を有する
ことを特徴とする固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/028522
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514024(P2005−514024)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013241
【国際出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】