説明

完熟梅ピューレの製造方法

【課題】完熟した梅本来の風味を有し、梅果実の果皮やヘタ、種子が容易に除去することができ、苦味がなく、適度な酸味と甘味とを有する完熟梅ピューレの製造方法を提供する。
【解決手段】加熱処理された完熟梅の果実から果皮、種子を分離して梅原液を得た後、該梅原液1質量部に対して砂糖を0.5〜1.3質量部加えて、砂糖との共存下において温度60〜75℃で10〜60分間の熱処理することにより、完熟梅ピューレを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味が優れる完熟梅ピューレの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
梅の果実は古くから梅干や梅酢、梅酒などに加工されて飲食に供されている。
【0003】
未熟な梅の果実(青梅)には、アミグダリンといわれる青酸配糖体の一種が含まれている。アミグダリンは加水分解により青酸塩を生じる。そのため、青梅はそのまま食べると中毒を起すといわれている。
【0004】
梅酒は、梅果実(青梅)を氷砂糖とともに焼酎に漬け、1年間以上熟成させることにより製造される。青梅に含まれるアミグダリンは、長期間の熟成により無毒化される。梅酒は熟成に長期間を要する。そのため、熟成工程の管理が煩雑である。
【0005】
近年、梅果実は清涼飲料水や羊羹、ヨーグルトなどの飲食品に広く配合されて用いられている。これらの飲食品には、梅果実の果皮やヘタ、種子が除去されてピューレ状に加工された梅果実(以下、「梅ピューレ」ともいう。)が好ましく用いられる。
【0006】
梅ピューレは、完熟した又は追熟させた梅果実から、種子や果皮を除去した後、梅果肉をすり潰して裏ごしし、砂糖と共に加熱して製造されている。
【0007】
この加熱工程は、完熟梅の風味を著しく悪化させる。また、得られる梅ピューレは茶褐色に変色する。この梅ピューレを各種飲食品へ配合しても、梅本来の風味や外観が得られず、商品価値を低下させている。
【0008】
特許文献1には、冷凍保存した完熟又は追熟させた梅を短時間で加熱解凍した、梅の加工食品の製造方法が開示されている。係る方法によれば、梅果実から種子を取り除く際に100℃程度に加熱されるため、梅の風味が損われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−080622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、梅本来の風味を有し、梅果実の果皮やヘタ、種子が容易に除去でき、苦味がなく、適度な酸味と甘味を有する梅ピューレの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、加熱処理により種子と果皮を分離させた梅原液を、砂糖との共存下で60〜75℃で加熱することにより、梅本来の風味を有する梅ピューレを製造することが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0013】
〔1〕 加熱処理された梅果実から果皮、種子を分離して梅原液を得た後、該梅原液1質量部に対して砂糖を0.5〜1.3質量部加えて、60〜75℃で10〜60分間熱処理する完熟梅ピューレの製造方法。
【0014】
〔2〕 前記梅果実の加熱処理が54〜60℃で10分間以上の加熱処理である〔1〕に記載の完熟梅ピューレの製造方法。
【0015】
〔3〕 〔1〕に記載の方法により製造した梅ピューレ1質量部と日本酒0.5〜2.0質量部とを混合する完熟梅ピューレ含有酒。
【0016】
〔4〕 〔1〕に記載の方法により製造した梅ピューレ1質量部とヨーグルト1.3〜5.0質量部とを混合する完熟梅ピューレ含有ヨーグルト。
【0017】
〔5〕 〔1〕に記載の方法により製造した梅ピューレ1質量部と炭酸水1.5〜10質量部とを混合する完熟梅ピューレ含有炭酸飲料。
【発明の効果】
【0018】
本発明の完熟梅ピューレの製造方法によれば、苦味がなく、適度な酸味と甘味を有する完熟梅ピューレが製造できる。この完熟梅ピューレは各種飲食品に配合できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、皮種子搾取機の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
〈原料梅〉
本発明の完熟梅ピューレの製造方法に用いる原料梅は、6〜7月頃に採れる通常の完熟梅や、未熟な梅果実を追熟させたものである。追熟は、通常25℃程度の暗所に放置して行われる。これらは通常市販されているものが利用できる。未熟な青梅をそのまま使用することは不適当である。梅の種類は特に制限が無いが、著名な梅としては南高梅や小梅が例示される。これらの梅果実は、通常冷凍保管される。
【0022】
〈加熱処理工程〉
先ず、生梅果実又は冷凍された梅果実を水中で加熱処理する。これにより、梅果実は解凍されるとともに果皮が柔らかくなり、果皮と種子を除去しやすくなる。
【0023】
加熱温度は54〜60℃が好ましく、56〜58℃が特に好ましい。加熱温度が54℃未満であると梅に渋味が残りやすい。60℃を超えると梅果実の酸味が減少しやすい。その結果、後工程で加える砂糖の甘味の発現が強くなり過ぎる。
【0024】
加熱時間は10分間以上であり、10〜30分間が好ましく、10〜20分間が特に好ましい。加熱時間が10分間未満の場合、果皮が十分に柔らかくならず、梅ピューレ中に残存しやすい。その結果、得られる梅ピューレが滑らかにならない。加熱時間が30分間を超えると梅果実が水中で崩壊してドロドロになる。その結果、梅果実と水とを分離できなくなる。
【0025】
〈種子等の除去工程〉
上記の加熱処理の後、梅果実と水とは分離される。その後、梅果実の種子や硬い果皮が遠心分離等により除去される。
【0026】
図1は、遠心分離方式の皮種子搾取機10の構造を示す説明図である。円筒形状の外筒1の内部にはセパレータ3が収容されている。外筒1には果肉取出口9が形成されている。セパレータ3には、孔5が開けられている。投入口7から投入された梅果実は、高速回転するセパレータ3内で果肉と種子等とが分離される。種子等は孔3よりも大きいため、セパレータ内に留まる。果肉は、孔3を通じて果肉取出口9から取り出される。これにより、梅果実から種子や固い果皮が分離除去された梅原液が得られる。
【0027】
遠心分離器は公知のものが使用でき、遠心分離器内に備えるセパレータは種子よりも小さい目開きのものが選択される。
【0028】
本発明においては、梅果皮の突き刺し工程を追加することにより、更に円滑に種子等を除去することができる。突き刺し工程は、加熱処理工程後に梅果皮を針で突き刺す工程である。直径が0.5〜5mmの針を用いて梅果皮を梅1箇につき1〜5箇所突き刺すことが好ましい。
【0029】
上記直径で長さが0.5〜3cmの針を所定間隔で植設した突き刺し具を用いると効率が良い。針の間隔としては、3〜20mmが好ましい。このような突き刺し具としては、生花で使用する剣山が利用できる。特に、樹脂板に多数の針が固定された市販の剣山が好ましい。
【0030】
〈ピューレ化工程〉
次に、前記梅原液に砂糖を加えて加熱撹拌することにより、梅ピューレが得られる。砂糖の配合量は、梅原液100質量部に対して50〜130質量部であり、100〜120質量部が好ましい。50質量部未満の場合は、得られる梅ピューレの酸味が強く発現する。130質量部を越える場合は、得られる梅ピューレの甘味が強く発現する。
【0031】
砂糖は車糖が好ましく、上白糖が特に好ましい。
【0032】
加熱温度は60〜75℃である。60℃未満であると得られる梅ピューレが腐敗しやすい。75℃を超える場合、得られる梅ピューレが硬化するとともに、褐色化しやすい。
【0033】
加熱時間は10〜60分間であり、15〜45分間が好ましく、20〜30分間が特に好ましい。10分間未満では、砂糖との混合が不十分となる。60分間を超えて加熱すると得られる梅ピューレがゲル化する。
【0034】
攪拌機は、加熱機構を備えたニーダーなどを用いることが出来る。
【0035】
上記のようにして得られた梅ピューレは各種飲食品に配合することが出来る。
【0036】
例えば、酒類に砂糖とともに混合することにより、梅酒様アルコール飲料を製造することが出来る。この梅酒様アルコール飲料は熟成させる必要がなく、直ちに飲用に供することが出来る。梅ピューレに混合する酒類の量は、梅ピューレ1質量部に対し、酒類0.5〜2.0質量部である。梅ピューレを混合する酒類は日本酒が好ましく、吟醸酒が特に好ましい。砂糖は車糖が好ましく、上白糖が特に好ましい。
【0037】
また、梅ピューレと炭酸水とを混合することにより、梅ピューレ含有炭酸飲料を製造することが出来る。梅ピューレと炭酸水との混合割合は、梅ピューレ1質量部に対して炭酸水1.5〜10質量部である。
【0038】
梅ピューレとヨーグルトとを混合することにより、梅ピューレ含有ヨーグルトを製造することが出来る。梅ピューレに対するヨーグルトの配合量は、梅ピューレ1質量部に対してヨーグルト1.3〜5.0質量部である。
【実施例】
【0039】
〈完熟梅ピューレの製造〉
(実施例1)
宇賀神製作所製撹拌装置(商品名HK−6S)に水200kg、冷凍された完熟梅20kgを投入し、55〜60℃で25分間加熱した。次に、遠心分離方式の皮種子搾取機を用いて梅果実の果皮、種子等を分離除去して梅原液12kgを得た。この梅原液12kgを撹拌装置に投入し、上白糖を6kg加え、60〜75℃で25分間熱処理しながら撹拌して完熟梅ピューレを得た。攪拌槽内の圧力は常圧であった。
【0040】
(実施例2、比較例1〜7)
表1に示すように梅原液、上白糖の配合量、熱処理条件を変更した以外は、実施例1と同様に操作して完熟梅ピューレを得た。
【0041】
【表1】

【0042】
〈梅ピューレの官能評価〉
20〜60代の健常男子5〜6名からなるパネルにより、実施例1〜2及び比較例2〜7で得られた梅ピューレの官能試験を行った。梅ピューレは製造後5日目及び10日目の2度に亘って評価した。得られた結果を表2〜9に示した。なお、比較例1の梅ピューレはカビが発生したため評価しなかった。
【0043】
上記官能試験は、各梅ピューレの甘味、酸味、舌触り、硬さ、色合いの各項目について評価した。各項目の評価指標は相対評価で以下の通りである。
【0044】
甘味、酸味について
かなり強い:5点
強い:4点
ちょうど良い:3点
弱い:2点
かなり弱い:1点
感じられない:0点
【0045】
舌触りについて
とても滑らかである:5点
滑らかである:4点
やや滑らかである:3点
ややざらつきが感じられる:2点
ざらつきが感じられる:1点
強いざらつきが感じられる:0点
【0046】
硬さについて
かなり硬い:5点
硬い:4点
やや硬い:3点
普通:2点
やや柔らかい:1点
かなり柔らかい:0点
【0047】
色合いについて
かなり褐色が強い:5点
褐色が強い:4点
やや褐色が強い:3点
僅かに褐色である:2点
ごく僅かに褐色である:1点
黄色である:0点
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
【表9】

【0056】
以上の結果より、実施例1〜2では酸味が適当で苦味が少なく、甘過ぎない梅ピューレが製造された。比較例1は、加熱温度が低く、砂糖の配合量が少ないため、腐敗しやすかった。比較例2、4は、加熱温度が高すぎるため、得られるピューレがゲル化しやすかった。比較例3は、加熱温度が低すぎるため、酸味が無くなりやすかった。比較例5〜7は、砂糖の配合量が多すぎるため、甘味が強く発現して、梅本来の酸味が感じられにくかった。
【0057】
(実施例3)
実施例1で得られた梅ピューレをヨーグルトに添加して官能試験を行った。ヨーグルトに対する梅ピューレの配合量(質量比)は表10に示した。官能試験は、20〜60代の健常男女6名からなるパネルにより行った。各ヨーグルトの甘味、酸味、苦味、渋み、味の濃さ、香りの各項目について評価した。各項目は以下の6段階により評価し、6名のパネルの合計点を表10に示した。
【0058】
かなり強い:5点
強い:4点
ちょうど良い:3点
弱い:2点
かなり弱い:1点
感じられない:0点
【0059】
【表10】

【0060】
以上の結果より、ヨーグルトと梅ピューレとの配合比は20/4〜20/15程度が各風味のバランスがとれた範囲といえる。
【符号の説明】
【0061】
10・・・皮種子搾取機
1・・・外筒
3・・・セパレータ
5・・・孔
7・・・投入口
9・・・果肉取出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱処理された梅果実から果皮、種子を分離して梅原液を得た後、該梅原液1質量部に対して砂糖を0.5〜1.3質量部加えて、60〜75℃で10〜60分間熱処理する完熟梅ピューレの製造方法。
【請求項2】
前記梅果実の加熱処理が54〜60℃で10分間以上の加熱処理である請求項1に記載の完熟梅ピューレの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法により製造した梅ピューレ1質量部と日本酒0.5〜2.0質量部とを混合する完熟梅ピューレ含有酒。
【請求項4】
請求項1に記載の方法により製造した梅ピューレ1質量部とヨーグルト1.3〜5.0質量部とを混合する完熟梅ピューレ含有ヨーグルト。
【請求項5】
請求項1に記載の方法により製造した梅ピューレ1質量部と炭酸水1.5〜10質量部とを混合する完熟梅ピューレ含有炭酸飲料。

【図1】
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【公開番号】特開2012−24022(P2012−24022A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165756(P2010−165756)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(510201919)アドハウス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】