説明

官能基変性樹脂、難燃性樹脂組成物及び絶縁電線

【課題】耐寒性及び磨耗性の優れた官能基変性樹脂、難燃性樹脂組成物及び絶縁電線を提供する。
【解決手段】ホモポリプロピレンが100質量部に対し、官能基含有化合物を1質量部以上、重合開始剤を0.5質量部以上添加して反応させて得られた弾性率が2000MPa以上の官能基変性樹脂と、未変性のポリプロピレン樹脂と、水酸化マグネシウムと、酸化防止剤とを配合した難燃性樹脂組成物を、導体の周囲に押し出し成形して絶縁体層を形成して絶縁電線を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能基変性樹脂、該官能基変性樹脂を用いた難燃性樹脂組成物及び該難燃性樹脂組成物を用いた絶縁電線に関するものであり、特に自動車、電気・電子機器等に好適に使用される官能基変性樹脂、難燃性樹脂組成物及び絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、電子・電気機器等に使用される部材や絶縁材料には、機械特性、難燃性、耐熱性、耐寒性等の種々の特性が要求されている。従来、その材料としてポリ塩化ビニル化合物や、分子中に臭素原子や塩素原子を含むハロゲン系難燃剤を配合したコンパウンドが主として使用されてきた。
【0003】
上記の材料は、廃棄の際に焼却処理を行うと多量の腐食性ガスが発生する虞がある。このため、腐食性ガスの発生する虞のないノンハロゲン難燃材料が提案されている(例えば特許文献1参照)。また特許文献2〜4等に見られるように、ノンハロゲン難燃樹脂組成物として、表面処理を施した水酸化マグネシウムを難燃剤として用いた組成物等が公知である
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−83612号公報
【特許文献2】特許第3339154号公報
【特許文献3】特許第3636675号公報
【特許文献4】特開2004−189905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来提案されているノンハロゲン難燃樹脂組成物としては、水酸化マグネシウムを充填したポリオレフィン系樹脂が一般的に使用されている。しかしながら、上記従来の難燃樹脂組成物は、絶縁電線の絶縁体として使用した場合に耐寒性、磨耗性を十分備えていないという問題があった。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、上記問題点を解決しようとするものであり、耐寒性及び磨耗性の優れた官能基変性樹脂、難燃性樹脂組成物及び絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の官能基変性樹脂は、少なくともホモポリプロピレンと、官能基含有化合物と、重合開始剤とを反応させて得られた弾性率が2000MPa以上の官能基変性樹脂であって、前記ホモポリプロピレンが100質量部に対し、前記官能基含有化合物を1質量部以上、前記重合開始剤を0.5質量部以上添加して反応させたものであることを要旨とするものである。
【0008】
上記官能基変性樹脂は、前記官能基含有化合物と前記ホモポリプロピレンがグラフト共重合されたものであることや、前記官能基含有化合物の官能基が、カルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基、及びシラン基から選択される少なくとも1種の官能基であることや、前記重合開始剤が有機過酸化物であることや、前記有機過酸化物が、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−α−クミルパーオキサイドから選択される少なくとも1種の化合物であることや、前記重合開始剤の添加量(Y質量部)と前記官能基含有化合物の添加量(X質量部)の質量比(Z=X/Y)が、5以上であることが好ましい。
【0009】
本発明の難燃性樹脂組成物は、上記の官能基変性樹脂と難燃剤とを少なくとも含有することを要旨とするものである。
【0010】
本発明の絶縁電線は、上記の難燃性樹脂組成物を用いた絶縁体層が導体の周囲に形成されていることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ホモポリプロピレンが100質量部に対し、官能基含有化合物を1質量部以上、重合開始剤を0.5質量部以上添加して反応させて得られた弾性率が2000MPa以上の官能基変性樹脂であるから、該官能基変性樹脂を用いた難燃性樹脂組成物を絶縁被膜として用いた場合、耐寒性及び磨耗性の優れた絶縁電線が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の官能基変性樹脂はホモポリプロピレン100質量部に対し、官能基含有化合物を1質量部以上、重合開始剤を0.5質量部以上を混合し、混合物を溶融混合することで反応させて得られるものであり、少なくとも官能基含有化合物からなる変性剤の一部が、ホモポリプロピレンからなる主鎖に結合している変性樹脂である。
【0013】
官能基変性樹脂は、官能基含有化合物がホモポリプロピレンにグラフトしたグラフト重合体、或いは官能基含有化合物とホモポリプロピレンとの共重合体のいずれでもよいが、グラフト重合体であるのが好ましい。
【0014】
官能基変性樹脂に用いられる変性前のホモポリプロピレンは、弾性率が2000MPa以上のプロピレンの単独重合体が用いられる。変性前のホモポリプロピレンは弾性率が2000MPa以上であれば、変性後の変性樹脂も弾性率が2000MPa以上のものが得られる。
【0015】
官能基変性樹脂の弾性率が2000MPa未満では、該官能基変性樹脂を用いた難燃性樹脂組成物から形成される絶縁被膜において、十分な磨耗性及び耐寒性が得られない。また官能基変性樹脂の弾性率の上限は4000MPaであることが好ましい。官能基変性樹脂の弾性率が、4000MPaを超えると、低温における巻きつけ試験で絶縁被覆に亀裂が入る虞がある。官能基変性樹脂の好ましい弾性率の範囲は、2000〜3500MPaの範囲である。尚、本発明において弾性率の値は、JIS K7161に準拠して測定されたものである。
【0016】
官能基変性樹脂に用いる変性前のホモポリプロピレンは、メルトフローレート(MFR)に関係なく使用できるが、MFRが0.01〜10000g/minであることが好ましい。MFRが0.01g/min未満では混合が難しく、MFRが10000g/minを超えると、これも混合が難しくなる虞がある。尚、本発明において、MFRの値は全てJIS K7210に準拠して測定されるものである(温度230℃、荷重2.16kg)。
【0017】
官能基変性樹脂に用いられる官能基含有化合物の添加量(X質量部)は、ホモポリプロピレンが100質量部に対して1質量部以上であればよいが、好ましくは1.5質量部以上であり、更に好ましくは2.0質量部以上である。尚、本発明において官能基含有化合物及び重合開始剤の添加量は、特に断りがない限り、ホモポリプロピレン100質量部に対する質量部の値である。官能基含有化合物の添加量が1質量部未満では、本発明の効果を発揮することができない。また官能基含有化合物の添加量は、10質量部以下であるのが好ましい。官能基含有化合物の添加量が10質量部を超えると、未反応物が多くなる可能性がある。
【0018】
上記の官能基含有化合物の官能基としては、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基、及びシラン基から選択される少なくとも1種の官能基が挙げられる。官能基変性樹脂に用いられる官能基含有化合物は、単独で用いても複数の種類を用いても何れでもよい。官能基変性樹脂は、官能基含有化合物をホモポリプロピレンと反応させてホモポリプロピレンからなる主鎖に官能基が導入されているので、官能基変性樹脂を含む難燃性樹脂組成物から絶縁電線の絶縁体層を形成した際に、絶縁体層と導体と間の密着性を向上させることができる。
【0019】
カルボキシル基や酸無水物基の官能基を含む官能基含有化合物は、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα、β−不飽和ジカルボン酸、又はこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸等の不飽和モノカルボン酸等が挙げられる。
【0020】
エポキシ基を含む官能基含有化合物は、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、α−クロロアクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸等のグリシジルエステル類、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレン等が挙げられる。
【0021】
ヒドロキシル基を含む官能基含有化合物は、例えば、1−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
アミノ基を含む官能基含有化合物は、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、フェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
アルケニル環状イミノエーテル基を含む官能基含有化合物は、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−イソプロペニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン等が挙げられる。
【0024】
シラン基を含む官能基含有化合物は、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセチルシラン、ビニルトリクロロシラン等の不飽和シラン化合物等が挙げられる。
【0025】
官能基変性樹脂に用いられる重合開始剤の添加量(Y質量部)は、ホモポリプロピレン100質量部に対して0.5質量部以上であればよいが、好ましくは0.6質量部以上であり、更に好ましくは0.7質量部以上である。重合開始剤の添加量が0,5質量部未満では、本発明の効果を発揮することができない。また重合開始剤の添加量は、5質量部以下であるのが好ましい。重合開始剤の添加量が5質量部を超えると、分解が進みすぎて効率よく加工できなくなる虞がある。
【0026】
官能基変性樹脂に用いられる重合開始剤としては、加熱により効率よくラジカルを発生することが可能であることから、有機過酸化物が好ましく用いられる。重合開始剤として用いられる有機過酸化物としては、市販の各種有機過酸化物を用いることができる。
【0027】
重合開始剤として用いられる有機過酸化物としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、イソブチリルパーオキサイド、ビス(3,5,5,−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチル−α−クミルパーオキサイド、ジ−α−クミルパーオキサイド、1,4(または1,3)ビス〔(t−ブチルパーオキシ)イソプロピル〕ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン等のジアルキルパーオキサイド類、n−ブチル=4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオドデカノエート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等のアルキルパーエステル類、ビス−(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ビス(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルイソプロピルパーカーボネート等のパーオキシカーボネート類等が挙げられる。
【0028】
上記有機過酸化物としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−α−クミルパーオキサイドから選択される少なくとも一種の化合物を用いることが、ラジカル発生効率、及び価格の点から好ましい。これらは一種単独で使用しても、二種以上を混合して使用してもいずれでも良い。
【0029】
更に官能基変性樹脂に用いられる官能基含有化合物の添加量(X質量部)と重合開始剤の添加量(Y質量部)の比(Z=X/Y)は5以上であることが好ましい。この比が5以上であれば、官能基含有化合物のグラフト量を向上させることが可能である。その結果、官能基変性樹脂を用いた難燃性樹脂組成物を含む絶縁体を有する絶縁電線の磨耗性を更に向上させることができる。
【0030】
上記グラフト量は、官能基変性樹脂において、ホモポリプロピレン主鎖に直接化学結合し、真のグラフトを形成している官能基化合物の量である。
【0031】
更に好ましい官能基含有化合物と重合開始剤の添加量の比(Z)は、グラフト量が多くなる点から、5.5以上である。また官能基含有化合物と重合開始剤の添加量の比(Z)の上限は、未反応物をなるべく抑えるという点から、20以下であるのが好ましい。
【0032】
官能基変性樹脂は、上記各成分を混練機等に投入して混合し、加熱して溶融させて反応させることで、製造することができる。この場合の加熱温度、反応時間等は、適宜選択することができる。
【0033】
本発明の難燃性樹脂組成物は、例えば(a)ポリオレフィン系樹脂、(b)上記官能基変性樹脂、(c)難燃剤、(d)酸化防止剤等のその他の添加剤等から構成することができる。尚、本発明の難燃性樹脂組成物は、少なくとも上記の官能基変性樹脂と難燃剤とを含有していればよい。以下、難燃性樹脂組成物について説明する。
【0034】
難燃性樹脂組成物における(a)ポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィンの単独重合体又は共重合体が用いられる。中でもポリプロピレン系樹脂が好ましく、プロピレンの単独重合体であっても良いし、他のモノマーとの共重合体であってもよい。上記ポリオレフィン系樹脂は、共重合体の場合は、プロピレン成分を50質量%以上含有してればよいが、プロピレン成分を60質量%以上含有しているのが好ましい。また、上記ポリオレフィン系樹脂は、極性基等の官能基を含む化合物によって変性された変性樹脂、或いは変性されていない未変性樹脂のいずれでもよいが、コストが低い点から、未変性樹脂を用いることが好ましい。
【0035】
また、上記ポリオレフィン系樹脂として、未変性ポリプロピレン系樹脂を用いる場合、メルトフローレート(MFR)が0.01〜1000g/min(230℃で測定)の範囲であるのが好ましい。また上記ポリオレフィン系樹脂として、未変性ポリプロピレン系樹脂を用いる場合、弾性率が500〜4000MPaの範囲であるのが好ましい。
【0036】
難燃性樹脂組成物において、(b)上記官能基変性樹脂の含有量は、難燃性樹脂組成物中において5〜30質量%であるのが好ましい。官能基変性樹脂の含有量が、5質量%未満では、絶縁電線の絶縁体層とした場合に十分な磨耗性が得られない虞がある。また官能基変性樹脂の含有量が、30質量%を超えると、絶縁電線の絶縁体層とした場合に耐寒性が低下する虞がある。また官能基変性樹脂の含有量は、難燃性樹脂組成物中における全樹脂成分中の、10〜60質量%の範囲であるのが好ましい。
【0037】
難燃性樹脂組成物に用いられる(c)難燃剤としては、水酸化マグネシウムを主成分とするものが好ましい。例えば水酸化マグネシウムとしては、合成水酸化マグネシウム、天然鉱物を粉砕した天然水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0038】
難燃剤の粒径は、平均粒径で0.1〜20μm、好ましくは0.2〜10μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。難燃剤の平均粒径が0.1μm未満では、二次凝集が起り易く、機械的特性が低下する。また難燃剤の平均粒径が20μmを超えると、絶縁電線の絶縁体層に用いた場合に、絶縁体層の外観不良となる虞がある。
【0039】
難燃性樹脂組成物における難燃剤の添加量は、樹脂成分100質量部に対し、通常、30〜250質量部添加される。好ましい難燃剤の添加量は、樹脂成分100質量部に対し、50〜200質量部であり、更に好ましくは60〜180質量部である。
【0040】
また難燃剤は、上記水酸化マグネシウム等の表面が表面処理剤により表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィンの単独重合体、若しくは相互共重合体、或いはそれらの混合物等が用いられる。また上記の表面処理剤は変性されていてもよい。
【0041】
難燃剤の表面処理剤の変性は、例えば、不飽和カルボン酸やその誘導体等を変性剤として用い、上記のαオレフィン重合体等の重合体にカルボキシル基(酸)を導入して酸変性する方法が挙げられる。上記変性剤としては具体的には、不飽和カルボン酸としてはマレイン酸、フマル酸等が挙げられ、その誘導体としては無水マレイン酸(MAH)、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル等が挙げられる。変性剤としては、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましい。またこれらの変性剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。表面処理剤に酸を導入する酸変性方法としては、グラフト重合や直接法等が挙げられる。また、上記変性剤の使用量は、上記重合体に対して0.1〜20質量%程度、好ましくは0.2〜10質量%、更に好ましくは0.2〜5質量%である。
【0042】
難燃剤の表面処理方法は特に限定されず、各種処理方法を用いることができる。難燃剤の表面処理方法としては、例えば、難燃剤の粉砕と同時に行う方法や、予め粉砕した難燃剤と表面処理剤を混合して後から処理する方法が挙げられる。また、難燃剤の表面処理方法としては、溶媒を用いた湿式処理方法、溶媒を用いない乾式処理方法のいずれでもよい。
【0043】
難燃剤の湿式処理に用いられる溶媒は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素等が用いられる。また、難燃剤の表面処理は、難燃性樹脂組成物の調製時に、難燃剤と樹脂等に表面処理剤を加えて組成物を混練する際に同時に処理を行う方法でもよい。
【0044】
上記難燃性樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。難燃性樹脂組成物は、例えば、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸混練押出機、ロール等の通常の混練機で、官能基変性樹脂、ポリオレフィン系樹脂、難燃剤、添加剤等の各成分を溶融混練して、均一に分散することで得られる。
【0045】
難燃性樹脂組成物は、自動車、電子・電気機器に使用される部材や絶縁材料に利用することができ、特に絶縁電線の絶縁体層の形成材料として好適に用いられる。
【0046】
本発明の絶縁電線は、通常の絶縁電線の製造に用いられる電線押出成形機等を用いて、上記の官能基変性樹脂を含む難燃性樹脂組成物を導体の周囲に押し出して導体を被覆することで、上記難燃性樹脂組成物を用いた絶縁体層が導体の周囲に形成されているものである。絶縁電線に用いられる導体は、通常の絶縁電線に使用されるものが利用できる。また絶縁電線の導体の径や絶縁体層の厚み等は、特に限定されず、絶縁電線の用途などに応じて適宜決めることができる。絶縁体層は、単層であっても、2層以上の複数層から構成しても、いずれでもよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。
〔官能基変性樹脂の合成〕
合成例1−A〜1−F、合成例1−G〜1−J
ホモポリプロピレン(弾性率2100MPa)100質量部に対し、無水マレイン酸とジ−α−クミルパーオキサイド(日本油脂社製、商品名「パークミルD」)を表1、表2に示す添加量で加え、均一に混合した後、二軸混練機にて表1に示す温度と時間で反応させて官能基変性樹脂を得た。得られた官能基変性樹脂のグラフト量、弾性率等を表1、表2に示す。尚、表中のグラフト量は、ホモポリプロピレン100質量部に直接結合している官能基含有化合物の量(質量部)で示した。グラフト量は、下記の方法で測定した。
【0048】
〔グラフト量の測定方法〕
グラフト量は、まず所定の測定法により官能基変性樹脂の全官能基量(=遊離官能基量+結合官能基量)を測定する。官能基含有化合物と官能基変性樹脂の溶解度が異なる溶媒を用いて、遊離の官能基含有化合物を分離して、遊離官能基量(或いは結合官能基量)を測定する。全官能基量と遊離官能基量(或いは結合官能基量)から、計算によりグラフト量を求める。上記の官能基量の測定法は、官能基含有化合物の官能基の種類等に応じて、滴定法や機器分析法等の分析方法を適宜用いることができる。例えば変性剤が無水マレイン酸の場合、滴定法を用いることができる。
【0049】
合成例1−A〜1−Cの官能基含有化合物と重合開始剤の比Xが5未満であるのに対し合成例1−D〜1−Fの上記比Xは5以上である。合成例1−D〜1−Fは、官能基含有化合物のグラフト量が、合成例1−A〜1−Cに比較して高くなっていることが判る。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
合成例2−A〜2―C
重合開始剤をクメンハイドロパーオキサイド(日本油脂社製、商品名「パークミルH」)を用い、官能基含有化合物と重合開始剤の添加量を表3に示す添加量とした以外は、合成例1−Aと同様にして官能基変性樹脂を得た。得られた官能基変性樹脂のグラフト量、弾性率等を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
合成例3−A〜3−C
官能基含有化合物としてアクリル酸を用い、官能基含有化合物と重合開始剤の添加量を表4に示す添加量とした以外は、合成例1−Aと同様にして変性官能基変性樹脂を得た。得られた官能基変性樹脂のグラフト量、弾性率等を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
〔絶縁電線の作成〕
実施例1〜12
未変性のポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製、商品名「EC7」、弾性率1200MPa、MFR0.5)、官能基変性樹脂(合成例1−A〜1−F、2−A、2−B、3−A、3−B)、水酸化マグネシウム(協和化学社製、商品名「キスマ5A」)、酸化防止剤(チバスペシャリテーケミカルズ社製、商品名「イルガノックス1010」)を、表1に示す配合量で、二軸混練機を用いて200℃で混合した後、ペレタイーザにてペレット状に成形して難燃性樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを押出し成形機を用いて、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅より線の導体(断面積:0.5mm)の外周に0.2mm厚で押し出して、難燃性樹脂組成物からなる絶縁体層により導体が被覆された実施例1〜12の絶縁電線を得た。
【0057】
比較例1〜6
実施例1の官能基変性樹脂1−Aを表7に示すように官能基変性樹脂1−G〜1−J、2−C、3−Cに変えた以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を製造した。
【0058】
実施例及び比較例で得られた絶縁電線を用いて、耐寒性試験及び磨耗性試験を行った。試験の結果を表5〜表7に示す。耐寒性試験方法及び磨耗性試験方法は下記の通りである。
【0059】
〔耐寒性試験方法〕
JIS C3055に準拠して行った。すなわち、実施例、比較例の絶縁電線を38mmの長さに切断し試験片とし、試験片を耐寒性試験機に装着し、所定の温度まで冷却し、打撃具で打撃して、試験片の打撃後の状態を観察した。5本の試験片を用いて、5本の試験片が全て割れた温度を耐寒温度とした。
【0060】
〔磨耗性試験方法〕
社団法人自動車技術規格「JASO D611−94」に準拠して、ブレード往復法により試験を行った。すなわち、実施例、比較例の絶縁電線を750mmの長さに切り出して試験片とした。そして、23±5℃の室温下で試験片の被覆材(絶縁体層)に対し軸方向に10mm以上の長さでブレードを毎分50回の速さで往復させ、導体に接するまでの往復回数を測定した。この際、ブレードにかかる加重は、7Nとした。回数については200回以上のものを合格とし、200回未満のものを不合格とした。
【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

【0064】
実施例1〜12は、表5及び表6に示すように、全て耐寒性が良好であり、磨耗性が合格であった。これに対し比較例1〜6は、表7に示すように、全て磨耗性が不合格であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともホモポリプロピレンと、官能基含有化合物と、重合開始剤とを反応させて得られた弾性率が2000MPa以上の官能基変性樹脂であって、
前記ホモポリプロピレンが100質量部に対し、前記官能基含有化合物を1質量部以上、前記重合開始剤を0.5質量部以上添加して反応させたものであることを特徴とする官能基変性樹脂。
【請求項2】
前記官能基含有化合物と前記ホモポリプロピレンがグラフト共重合されたものであることを特徴とする請求項1記載の官能基変性樹脂。
【請求項3】
前記官能基含有化合物の官能基が、カルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基、及びシラン基から選択される少なくとも1種の官能基であることを特徴とする請求項1又は2記載の官能基変性樹脂。
【請求項4】
前記重合開始剤が有機過酸化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の官能基変性樹脂。
【請求項5】
前記有機過酸化物が、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−α−クミルパーオキサイドから選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項4記載の官能基変性樹脂。
【請求項6】
前記重合開始剤の添加量(Y質量部)と前記官能基含有化合物の添加量(X質量部)の質量比(Z=X/Y)が、5以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の官能基変性樹脂。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の官能基変性樹脂と難燃剤とを少なくとも含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
更に未変性のポリプロピレン系樹脂を含有することを特徴とする請求項7記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項9】
前記難燃剤が、水酸化マグネシウムを主成分とするものであることを特徴とする請求項7又は8記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項10】
前記官能基変性樹脂の含有量が、5〜30質量%であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を用いた絶縁体層が、導体の周囲に形成されていることを特徴とする絶縁電線。

【公開番号】特開2011−32419(P2011−32419A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182037(P2009−182037)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】