説明

定在波距離センサ

【課題】測定対象物が停止しているときには測定対象物までの距離の測定と移動中のときには測定対象物が所定の時間経過後に到達する位置の予測を安定して高精度に行うことのできる定在波距離センサを提供する。
【解決手段】定在波距離センサは、送信波の周波数を掃引しながら送信波を送信する送信器および送信器と測定対象物との間に形成される定在波の振幅強度を検知する検知手段が備えられ、送信器から測定対象物までの距離を求める定在波距離センサにおいて、送信器は、送信波の周波数を掃引し、掃引された周波数に対する定在波の振幅強度の関係をフーリエ変換により検知される距離に対する定在波の振幅強度の関係に変換し、定在波の振幅強度のピークに対応する距離を送信器から測定対象物が所定の時間経過後に到達する位置までの距離であると予測する距離予測手段が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波やミリ波などの定在波を用いて測定対象物までの距離および移動中の測定対象物が所定の時間経過後に到達する位置を予測する定在波距離センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロ波やミリ波等の電波を用いた測距方法として、パルスレーダ方式やFMCW方式などがある。FMCW方式では、送信波と受信波との時間差に相当するビート周波数を測定することにより、測定対象までの距離を計測する。測定対象が移動する場合、ドップラーシフトを測定することにより、測定対象までの距離だけでなく速度も測定する。また、距離分解能を向上するため、位相差計測を付加することも行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−168946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
測定対象物までの距離を検知する距離センサは、単なる距離を測定するだけでなく、例えば接近する物体だけを検知するという応用が期待されている。例えば、エスカレータの自動運転システムでは人間がエスカレータに乗ろうとするときに起動をかける。エスカレータは起動して通常の駆動速度になるまでに時間がかかるため、前もって起動させることが必要となる。そこで、エスカレータに近づく人間だけを選択し、その到達時間を把握することが必要になる。このように各種節電システムでは節電効果を向上するため、人間が機器に近づいたときだけ起動をかけるなど、接近する人間だけを検知する距離センサが望まれている。
従来のFMCW方式の距離センサでは、物体が移動することによるビート周波数のドップラーシフトから物体速度を求めることができるので、距離と速度の情報から接近する物体だけを検知することが可能である。
【0005】
しかし、FMCW方式、パルスレーダ方式またはスペクトル拡散方式などの電波による測距方法は、基本的には送信波と受信波の時間差から距離を求める方法であるため、数十m以下の近距離では時間差がnsecオーダーという極めて短い時間となり、その処理が難しく高精度化が困難であるという問題がある。
また、従来の電波式の距離センサは、移動する人間の到達時間を把握することおよび人間を安定して精度良く検知できないという問題がある。
【0006】
この発明の目的は、測定対象物が停止しているときには測定対象物までの距離の測定と移動中のときには測定対象物が所定の時間経過後に到達する位置の予測を安定して高精度に行うことのできる定在波距離センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る定在波距離センサは、送信波の周波数を掃引しながら送信波を送信する送信器および上記送信器と測定対象物との間に形成される定在波の振幅強度を検知する検知手段が備えられ、上記送信器から上記測定対象物までの距離を求める定在波距離センサにおいて、上記送信器は、送信波の周波数を低周波数から高周波数、または高周波数から低周波数へ掃引し、掃引された周波数に対する定在波の振幅強度の関係をフーリエ変換により検知される距離に対する定在波の振幅強度の関係に変換し、上記定在波の振幅強度のピーク位置に対応する距離を上記送信器から上記測定対象物が所定の時間経過後に到達する位置までの距離であると予測する距離予測手段が備えられている。
【0008】
また、この発明に係る定在波距離センサは、周波数を掃引しながら送信波を送信する送信器および上記送信器と測定対象物との間に形成される定在波の振幅強度を検知する検知手段が備えられ、上記送信器から上記測定対象物までの距離を求める定在波距離センサにおいて、上記送信器は、送信波の周波数を低周波数から高周波数、または高周波数から低周波数へ掃引し、掃引された周波数に対する上記定在波の振幅強度の関係をフーリエ変換して得られた検知される距離に対する定在波の振幅強度の関係における上記定在波の振幅強度のピークの振幅強度が予め定められた強度しきい値を超えているとき、該ピークに対応する距離を上記送信器から人間までの距離であると判定する。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係わる定在波距離センサの効果は、周波数が低周波から高周波へ掃引された送信波と測定対象物で送信波が反射された反射波とにより形成される定在波の振幅強度をフーリエ変換により距離に対する定在波の振幅強度を得て、その距離に対する定在波の振幅強度のピーク位置を示す距離を所定の時間経過後に測定対象物が到達する位置までの距離と予測するので、測定対象物の移動速度にかかわらず、測定対象物の所定時間経過後の到達位置を高精度に予測することができる。
【0010】
また、定在波の振幅強度のピーク値が予め定めされたしきい値を超えているとき、該ピークに対応する距離を送信器から人間の位置までの距離であると判定するので、人体位置安定して高精度に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係わる定在波距離センサの構成図である。
定在波距離センサ1は、電圧制御発振機などの発振源2およびアンテナなどの送信手段3からなる送信器4、送信されたマイクロ波やミリ波などの送信波が測定対象物5で反射された反射波と送信波とが合成されて形成される定在波6の電界強度を測定する検知手段7、検知された電界強度をフーリエ変換して送信手段3と測定対象物5との所定時間経過後の距離を予測する距離予測手段8から構成されている。検知手段7は、送信手段3の近傍に備え付けられている検波器などである。
【0012】
発振源2における送信波の周波数の掃引方法は、図2に示すように、低周波側から高周波側へ順々に切り替えていく。例えば、周波数の切り替えの1ステップに要する切替時間幅Δtの間に1ステップ当たりの周波数変化量Δfだけ周波数を増加させ、掃引開始周波数fから高周波数(f+f)へ時間的に一定割合で増加させる。このとき、周波数の掃引の1ステップからnステップまでの切り替えに要する時間幅はn×Δtであるので、その間に変化する周波数はn×Δfである。
【0013】
検知手段7は、このように送信波の周波数が掃引されたときに形成される定在波6の電界強度を測定する。まず、測定対象物5が停止しているときについて説明する。図3は、送信波の周波数fを掃引開始周波数fから高周波数(f+f)まで掃引させたときの、検知手段7で検知された定在波6の電界強度pの一例を示したものである。図4は、定在波6の電界強度をフーリエ変換して得られた距離に対する定在波6の振幅強度pのデータである。
この定在波6の電界強度は、図3に示すように、周波数に対して周期的に増減している。そして、増減の周期は、送信波の周波数fおよび送信手段3と測定対象物5との間の距離dに依存する。この周期性を求めることにより距離dを知ることができる。そこで、距離dを測定するために送信波の周波数fを掃引し、発振周波数に対する定在波6の電界強度を測定する。そして、周波数に対する定在波6の電界強度の関係をフーリエ変換することにより検知される距離dに対する定在波6の振幅強度pの関係が図4に示されるように得られる。この検知される距離dに対する定在波6の振幅強度pの関係から、ある検知される距離dにおいて振幅強度pがピークを示す。そして、測定対象物5が停止しているときは、この振幅強度がピークを示す検知される距離dが送信手段3と測定対象物5との間の距離である。このように、測定対象物5が停止していることが別途分かっていれば、検知される距離dを送信手段3と測定対象物5との間の距離とみなすことができる。
【0014】
停止している測定対象物5が複数ある場合、2つの定在波6の合成波の電界強度が検知手段7で検知されるので、これをフーリエ変換すれば、図5に示すように、振幅強度のピークが複数表れる。そして、このピークを示す複数の検知される距離dF1、dF2を、停止している複数の測定対象物5までの送信手段3からの距離であるとみなせる。
【0015】
次に、測定対象物5が移動しているときの、測定対象物5までの距離測定について説明する。図6は、測定対象物5が一定速度vで送信手段3に接近している様子を示している。
測定対象物5が移動していると、図6に示すように、周波数の掃引中に送信手段3から測定対象物5までの距離dが変化する。例えば、測定対象物5が送信手段3の方向へ速度vで接近する場合、周波数の掃引開始時の掃引開始周波数をfとして時間n×Δtが経過した後の周波数は(f+n×Δf)である。このときの測定対象物5までの距離dは、周波数の掃引開始時の位置をdとすると、式(1)で求められる。
【0016】
d=d−n×v×Δt (1)
【0017】
定在波の振幅強度は、送信波の周波数fと測定対象物5までの距離dに依存するので、周波数の掃引中に距離が変化すれば検知手段7で測定される定在波の振幅強度も変化する。図7は、測定対象物5が静止しているとき(速度v=0)と測定対象物5が一定の速度v(速度vが零より大きい)で送信手段3に接近しているときの、掃引周波数に対する定在波6の振幅強度の変化の様子を示した一例である。測定対象物5が静止しているときと、速度vで接近しているときとを比較すると、検知された定在波6の振幅強度の増減の周期が異なっている。したがって、検知された定在波6の振幅強度と掃引周波数の関係をフーリエ変換して得られる検知される距離に対する定在波6の振幅強度の関係は測定対象物5の速度により変化する。すなわち、振幅強度のピークに対応する検知される距離dが変化している。
図8は、周波数を1ステップ切り替えるのに要する切替時間幅Δt=51.2μs、掃引開始周波数f=24.112GHz、掃引周波数帯域幅f=76MHzのとき、実際の距離dが6mの位置における測定対象物5がそれぞれ接近速度v=0、0.5、1.0m/sのときのフーリエ変換後の検知される距離に対する定在波6の振幅強度の関係をそれぞれ重ねて図示したものである。
図8に示されるように、検知される距離dが速度に依存する。速度v=0のとき、すなわち測定対象物5が実際の距離dが6mのところで停止しており、検知される距離dも6mとなる。一方、速度v=0.5m/sのときは実際の距離dが6mにも拘わらず、検知される距離dが3.9mとなる。同様に、速度v=1.0m/sのときは実際の距離dが6mにも拘わらず、検知される距離dが1.8mとなる。
実際の距離d、接近速度v、検知される距離dの関係は、検討の結果、式(2)で近似できる。
【0018】
=|d−(K×v×Δt)/f| (2)
【0019】
なお、Kは比例定数であり、掃引開始周波数などの各種条件により決まる。式(2)より、検知される距離dと実際の距離dとの違いは、測定対象物5の移動速度に比例する。図9は、掃引開始周波数f=24.112GHz、掃引周波数帯域幅f=76MHz、切替時間幅Δt=51.2μsの条件のもと、実際の距離dが6m、8mのときの検知される距離dと接近速度vとの関係を式(2)に従って図示したものである。接近速度vが大きければ大きいほど、図9に示しように、検知される距離dが速度vに反比例して短くなる。
一方、検知すべき量は実際の距離dであるので、式(2)を変形し、実際の距離dを求める式を導出する。(d−(KvΔt)/f)>0が成り立つときは、式(2)を変形して、式(3)が得られる。
【0020】
= d+(K×v×Δt)/f (3)
【0021】
式(3)の関係を図示すると図10のようになる。例えば、図10の太線は検知される距離dが6mのときの、接近速度vおよび実際の距離dの関係を直線で示したものである。この直線の傾き(KΔt)/fは時間の次元を持っており、この直線上の点はすべて(KΔt)/f秒後に6mの位置に到達することを示している。すなわち、実際の距離dと接近速度vの関係が太線上にある場合、(KΔt)/f秒後、すなわち4.2秒後にはすべて6mの位置に到達するということである。
例えば、図11に示すように、測定時における送信手段3から測定対象物5までの実際の距離dが10.2mの位置で速度vが1m/sで接近している測定対象物5が、4.2秒経過後には送信手段3から測定対象物5までの実際の距離dが6mの位置に到達している。
また、測定時における送信手段3から測定対象物5までの実際の距離dが8.1mの位置で速度vが0.5m/sで接近している測定対象物5は、4.2秒経過後には送信手段3から測定対象物5までの実際の距離dが6mの位置に到着している。
【0022】
このような関係は、測定時における送信手段3から測定対象物5までの実際の距離dが他の位置にある測定対象物5、例えば図10のグラフ中の実線で示される検知される距離dが8mの場合においても、直線の傾きは検知される距離dが6mの場合と同様に(KΔt)/fであるため、(KΔt)/f秒後の測定対象物5の実際の距離dはすべて8mということになる。
【0023】
このような定在波距離センサ1は、掃引周波数に対する定在波の振幅強度のデータをフーリエ変換して検知される距離に対する振幅強度のデータを求め、振幅強度のピーク値に対応する検知される距離dは、測定対象物5の移動速度に拘わらず、定数(KΔt)/f秒後の測定対象物5が到達する距離を示したものにほかならないので、定在波距離センサ1は定数((KΔt)/f)秒後の測定対象物5の位置を予測することができる。
【0024】
また、定在波距離センサ1は、所定の時間経過後に所定の位置に存在する測定対象物5だけを選択的に予測することができる。例えば、図12に示すように、検知対象距離範囲を0mから2mの範囲に設定した場合、定数(KΔt)/f秒後の送信手段3との距離がこの範囲に入る測定対象物5を予測することができる。すなわち、複数の測定対象物5に関するデータから、送信手段3に接近し、定数(KΔt)/f秒後に検知対象距離範囲に存在する測定対象物5だけを選択的に予測することができる。
検知対象距離範囲は任意に設定することができ、また時間を表す定数(KΔt)/fも、例えば周波数を1ステップ切り替えるのに要する切替時間幅Δtの値を変えることにより任意の時間に設定することができる。よって、検知対象とする位置や時間は各アプリケーションによって自在に設定が可能である。
【0025】
このような定在波距離センサ1は、フーリエ変換により得られた検知される距離に対する定在波の振幅強度の関係から得られるピークのうち、あらかじめ定められた距離範囲内のピークのみを検知することにより、測定対象物5の移動速度にかかわらず、所定の時間経過後にあらかじめ定められた位置に到達する測定対象物5だけを選択的に高精度に予測することができる。
【0026】
次に、自動運転を行うエスカレータの乗降口に定在波距離センサ1を適用した場合について説明する。
エスカレータの起動は、通常、エスカレータ制御部が起動のためのトリガ信号を受け取ってから実際に駆動するまでの準備期間が必要である。通常の距離センサを用いた場合、起動のための準備期間を確保するために乗降口の遠方に検知位置を設定し、検知位置に人が来たときにエスカレータ起動トリガ信号を発生し、起動準備に入る。一般に、歩行する人間の速度は大きなばらつきがあり、起動トリガ信号の発生タイミングを通常の歩行速度で歩く人に適合するように調整したとすると、高速で接近する人に対しては起動準備期間が少なく起動遅れを生じてしまう。逆に通常よりも低速で歩行する人に対しては、エスカレータが起動してから実際に人が乗降口に到達するまでの間、無用にエスカレータが駆動することとなり、無駄な電力を消費してしまう。
【0027】
一方、この発明による定在波距離センサ1では、例えば図13に示すように、検知対象距離範囲を0mから2m、定数(KΔt)/fが3秒となるようにパラメータを設定した場合、エスカレータ11の乗降口12付近の人間の移動、およびエスカレータ11の起動は以下のようになる。通常の歩行速度程度である1m/s(3.6km/h)で接近する人間Aと、その2倍の速度である2m/s(7.2km/h)で接近する人間Bについて考える。この定在波距離センサ1では、定数(KΔt)/fを3秒に設定しているので、検知される距離dは3秒後の人間の位置を示す。よって、速度1m/sで接近する人間Aは乗降口12からの実際の距離dが5mの位置に来たときに、検知される距離dとして2mの位置として検知される。一方、速度2m/sで接近する人間Bは乗降口12からの実際の距離dが8mの位置に来たときに、検知される距離dとして2mの位置として検知される。したがって、歩行速度が速い人でも遅い人でも、到達時間を基準にエスカレータ11の起動をかけることができるため、起動遅れや無駄な運転を無くすことができる。よって、従来の距離センサでは実現できなかった、接近速度に依存しないエスカレータ11の起動が可能となり、無駄の無い運転を行うことができる。
【0028】
なお、上述の例では、接近する測定対象物5について述べたが、この発明による定在波距離センサ1は定数(KΔt)/f秒後の測定対象物5の位置を予測するので、測定対象物5の移動方向にかかわらず成り立つものである。したがって、遠ざかる測定対象物5のみを検知するようなアプリケーションにも適用することができる。
【0029】
また、実施の形態1において送信波の周波数の掃引を低周波数から高周波数へ行っているが、逆に高周波数から低周波数へ行ってもよい。
【0030】
実施の形態2.
図14は、この発明の実施の形態2に係る定在波距離センサの構成図である。
実施の形態2に係わる定在波距離センサ1Bは、掃引された周波数に対する定在波の振幅強度をフーリエ変換することにより距離に対する定在波の振幅強度を求めるところまでは実施の形態1に係わる定在波距離センサ1と同様であるが、距離予測手段8の替わりに信号処理手段9および振幅強度判定手段10が備えられ、定在波の振幅強度のピークのピーク値が所定の強度しきい値を超えているときだけ、そのピークに該当する位置を送信手段3から測定対象物5までの距離と判定することが異なっており、その他は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
図15は、実施の形態2に係わる定在波距離センサ1Bによるフーリエ変換により得られた検知される距離に対する定在波の振幅強度をグラフ化したものである。図15の横軸は検知される距離d、縦軸は定在波の振幅強度pである。図15では、3.6m付近、11.5m付近、17.4m付近に測定対象物5があることを示しているが、これは図中の一点鎖線で示された強度しきい値以上の振幅強度を持つピークの位置に相当する。
【0031】
定在波の振幅強度は反射波の強度に比例し、反射波の強度は反射面の面積、ビーム軸に対する角度および表面状態に依存する。例えば、測定対象物5が人間の場合、反射面である人体表面は平滑でなく凸凹があり、さらに呼吸等によるわずかな動きがある。したがって、呼吸等の動きにより反射面の角度に違いが生じ、定在波の振幅強度が変動することがわかっている。さらに反射面に凹凸があることにより、反射波に位相差ができ反射波が互いに干渉することによっても反射波強度が変動する。したがって、人間を計測すると定在波の振幅強度が大きく変動する。そして、強度が大きく変動することは位置計測の精度に影響を及ぼす。
【0032】
図16は、送信手段3から実際の距離dが10mの位置に静止している人間を測定対象物5として、フーリエ変換により得られた検知される距離に対する定在波の振幅強度のピーク値とそのピーク位置に対応する検知される距離dの測定結果を時系列データとして示したものであり、図の横軸が時間、左軸が定在波の振幅強度のピーク値、右軸がピーク位置に対応する検知される距離dのデータである。
図16に示しように、定在波の振幅強度のピーク値は大きく変動していることがわかる。また、ピーク位置に対応する検知される距離dは概ね10mを示しているが、定在波の振幅強度のピーク値が低下したときには誤差が大きくなっている。逆に、定在波の振幅強度のピーク値が所定値以上のときはそのピーク位置に対応する検知される距離dは精度が高いということである。
【0033】
このように、定在波の振幅強度のピーク値に対する適当な強度しきい値を設定することにより、ピーク値が強度しきい値を超えたときだけ距離を判定するので、安定して高精度な判定が可能となる。人体は呼吸等により絶えずわずかに動いているため、反射強度が大きくなるときが少なからずあるので、サンプリングレートを高くして測定を行うことにより検知漏れを防ぐことができる。
【0034】
実施の形態3.
図17は、この発明の実施の形態3に係わる定在波距離センサによるフーリエ変換により得られた検知される距離に対する定在波の振幅強度を示すグラフである。
実施の形態2に係わる定在波距離センサ1Bでは、ピーク値に対する強度しきい値が距離に無関係に1つ設定されているが、実施の形態3に係わる定在波距離センサでは、距離に従って異なる強度しきい値が設定されていることが、実施の形態2に係わる定在波距離センサ1Bと異なっており、その他は同様であるので、同様な部分の説明は省略する。
【0035】
図17に示すように、距離に従って異なった強度しきい値が設定されている。計測精度を向上するためには、雑音成分を取り除くことが重要となる。検知手段7の雑音は増幅器などの回路系の雑音があるが、周波数依存性がある場合、周波数に対する定在波の振幅強度の関係をフーリエ変換して得られた検知される距離に対する定在波の振幅強度の関係は、距離に沿って雑音のレベルが変わる。例えば、周波数に対する定在波の振幅強度の関係に含まれる雑音に低周波数成分が多く含まれているときは、フーリエ変換後の検知される距離に対する定在波の振幅強度の関係において近距離領域に雑音を多く含む。この雑音を除去するためには、近距離領域では強度しきい値を高めに設定することにより除去することができる。なお、近距離領域では測定対象物5の信号強度が強いため、しきい値を高く設定しても検知漏れすることはない。
【0036】
このような定在波距離センサは、強度しきい値が距離に従って異なっているので、人間または測定対象物5の位置をさらに高精度に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる定在波距離センサの構成図である。
【図2】実施の形態1における送信波の周波数掃引方法の一例である。
【図3】実施の形態1における周波数に対する定在波の振幅強度のデータ例である。
【図4】図3のデータ例をフーリエ変換して得られた検知される距離に対する振幅強度のデータ例である。
【図5】実施の形態1において2つの測定対象物を測定して得られた検知される距離に対する振幅強度のデータ例である。
【図6】実施の形態1において、測定対象物が接近するときの様子を示す図である。
【図7】実施の形態1において、停止しているおよび移動している測定対象物に対する周波数に対する定在波の振幅強度のデータ例である。
【図8】実施の形態1において、停止しているおよび移動している測定対象物に対する検知される距離に対する振幅強度のデータ例である。
【図9】実施の形態1において、実際の距離をパラメータとして検知される距離の接近速度依存性を示したグラフである。
【図10】実施の形態1における、検知される距離をパラメータとして実際の距離の接近速度の依存性を示したグラフである。
【図11】実施の形態1における、接近速度と所定の時間経過後の位置の関係を示したグラフである。
【図12】実施の形態1において、検知対象距離範囲を定めて、フーリエ変換して得られた検知される距離に対する振幅強度のデータをマスキングする様子を示す図である。
【図13】実施の形態1の定在波距離センサをエスカレータの乗降口付近に配置した図である。
【図14】この発明の実施の形態2に係わる定在波距離センサの構成図である。
【図15】実施の形態2に係わる定在波距離センサにより得られたフーリエ変換後の検知される距離に対する振幅強度のデータ例である。
【図16】実施の形態2において、フーリエ変換後の振幅強度のピーク値と検知される距離の関係を時系列データにしたグラフである。
【図17】この発明の実施の形態3に係わる定在波距離センサにより得られたフーリエ変換後の検知される距離に対する振幅強度のデータ例である。
【符号の説明】
【0038】
1 定在波距離センサ、2 発振源、3 送信手段、4 送信器、5 測定対象物、6 定在波、7 検知手段、8 距離予測手段、9 信号処理手段、10 振幅強度判定手段、11 エスカレータ、12 乗降口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数を掃引しながら送信波を送信する送信器および上記送信器と測定対象物との間に形成される定在波の振幅強度を検知する検知手段が備えられ、上記送信器から上記測定対象物までの距離を求める定在波距離センサにおいて、
上記送信器は、送信波の周波数を低周波数から高周波数、または高周波数から低周波数へ掃引し、
掃引された周波数に対する定在波の振幅強度の関係をフーリエ変換して得られた検知される距離に対する定在波の振幅強度の関係における上記定在波の振幅強度のピーク位置に対応する距離を上記送信器から上記測定対象物が所定の時間経過後に到達する位置までの距離であると予測する距離予測手段が備えられていることを特徴とする定在波距離センサ。
【請求項2】
上記距離予測手段は、上記フーリエ変換して得られた検知される距離に対する定在波の振幅強度の関係における上記定在波の振幅強度のピークに対応する距離が予め定められた距離の範囲内にあるとき、該ピークに対応する距離を上記送信器から上記測定対象物が所定の時間経過後に到達する位置までの距離であると予測することを特徴とする請求項1に記載する定在波距離センサ。
【請求項3】
周波数を掃引しながら送信波を送信する送信器および上記送信器と測定対象物との間に形成される定在波の振幅強度を検知する検知手段が備えられ、上記送信器から上記測定対象物までの距離を求める定在波距離センサにおいて、
上記送信器は、送信波の周波数を低周波数から高周波数、または高周波数から低周波数へ掃引し、
掃引された周波数に対する上記定在波の振幅強度の関係をフーリエ変換して得られた検知される距離に対する定在波の振幅強度の関係における上記定在波の振幅強度のピークの振幅強度が予め定められた強度しきい値を超えているとき、該ピークに対応する距離を上記送信器から人間までの距離であると判定することを特徴とする定在波距離センサ。
【請求項4】
上記強度しきい値は、検知される距離に従って異なっていることを特徴とする請求項3に記載の定在波距離センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−258467(P2006−258467A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73065(P2005−73065)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】