説明

定着ローラ

【課題】
耐熱性、耐磨耗性、熱伝導性および導電性に優れた画像形成装置に用いられる定着ローラを提供する。
【解決手段】
定着ローラ1の表面層4を離型性に優れ、180℃以上の耐熱性を持つ弗素系樹脂をマトリックスとし、管の直径が1μm以下、長さ方向の熱伝導率が金属以上であるカーボンナノチューブもしくはカーボンナノファイバをフィラーとした複合材料で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーを付着した用紙を加熱、加圧することで用紙にトナーを定着させるローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置において、用紙にトナーを定着させる手法として定着ローラが広く用いられている。この定着ローラは図4に示すように、通常上下に2機のローラが配置されており、該ローラ間を現像部あるいは転写部等でトナーを付着した用紙が通過する際、ローラ表面温度が180〜200℃の熱と数十kgfの荷重による圧力を加えることで用紙にトナーが定着される。
【0003】
この定着ローラの材料として、例えば特公平2−59468号によれば、定着ローラの表面層を炭素繊維を含有する弗素系樹脂からなる複合材料で形成することにより、オフセット防止効果および、高い耐磨耗性をもつ定着ローラを得ている。
【0004】
この特公平2−59468号では、定着ローラ1の表面層4は9〜25重量%の炭素繊維9を弗素系樹脂10に含有して成形し、定着ローラ1の表面の耐磨耗性を上げ、表面層4を芯金2に接着するためのプライマー層8を介して一体化、表面層4を薄くすることで熱伝導性を高めている。
【0005】
また、例えば特公昭58−23626号によれば、表面層4に導電性であるカーボンブラックの粉末と二酸化チタンの粉末を弗素系樹脂10に含有した層を形成し、表面層4の電気抵抗を低くすることで、定着時のローラの帯電防止機能を付加し、ローラ表面層が絶縁物であることで発生するオフセット現象、用紙のローラへの巻付き、通過する用紙への帯電、ローラの静電気力による定着前の付着トナーの反撥を防止している。

【特許文献1】特公平2−59468号公報
【特許文献2】特公昭58−23626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の定着ローラには次のような解決すべき問題が存在していた。
【0007】
まず、従来の定着ローラは以上のように構成され、表面層4に炭素繊維9を含有することは、高強度な物質の含有による耐磨耗性の向上を図っているが、樹脂成形の工程の紡糸を経て製造されるような炭素繊維9の直径は5μm以上であり、薄くて十分な耐磨耗性があったとしても表面層4の厚さを炭素繊維9の直径以下に薄く製作することは不可能で、表面層4の表面粗さや寸法精度を数μm以下にすることは困難である。
【0008】
このように定着ローラ1の表面層4が同じ材料で厚くなる場合、熱抵抗がほぼ寸法比率で増加し、連続した定着動作でトナー6のローラ表面温度の追従性が悪くなり表面温度を低下させるため、トナー6の定着が困難となる。ローラ表面温度の低下を防止するためには、熱設計上、芯金内部のヒータ5の温度を表面層4が厚くなる程、高温する必要があり、ヒータ5やローラ材料の劣化を加速させる問題が起こる。
【0009】
更に、下層の弾性層3と比較して高硬度の表面層4が厚くなる場合、下層の低硬度の弾性特性を定着ローラ1の機能として活かすことが出来ないため、定着時に必要なニップ幅(ローラ回転軸方向から見た場合の2機のローラと用紙が接触している幅)の確保が困難になり、定着装置に高い面圧力と高い加熱温度が要求される問題がある。
【0010】
また、表面層4の表面粗さが大きい場合には、用紙7に定着されるトナー6の厚さや用紙7との接着力も表面層4の粗さの範囲でバラツキを生じさせる問題やトナー6の離型性が低下し、トナー粒径と近傍もしくはそれ以下の数μmのレベルでは、定着ローラ1の表面にトナー6の一部が付着することで用紙7にトナー6が定着出来なくなるいわゆるアンカー効果や以後の動作で用紙7の汚れを発生させる原因となる。
【0011】
また、ローラ表面層4の弗素系樹脂にフィラーとしてカーボンブラックのみを含有させる場合には、カーボンブラックの粒径が20〜50nm程度とナノスケールの寸法であることから、表面層4の必要な厚さを10〜100μm程度としてもフィラーの寸法が厚さに与える影響はほとんどなく、表面粗さや精度に関しても問題ない。しかしながら、帯電防止、導電性の付与を目的とするカーボンブラックの含有は、特公昭58−23626号に示されてもいるように多量に含有させる必要があるために弗素樹脂の特性である離型性の低下を招いていた。
【0012】
更に、カーボンブラックを熱伝導性の向上を目的として、マトリックス材の樹脂に含有させる場合には、形状が粒径であることからマトリックス材内部でフィラー間の熱伝導に寄与する接触、ネットワークが形成されにくいことや黒鉛化されたカーボンブラックであっても熱伝導率は80〜230W/m・K程度で金属程度の熱伝導率であることから、複合材料としての熱伝導率の向上が期待できない。このため、熱伝導性を上げるために高充填化する場合には、前記と同様、離型性を損なう恐れと硬度が高くなり、成形自体が困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく請求項1記載の定着ローラは、トナーを用紙に定着させる画像形成装置の定着ローラにおいて、前記定着ローラの表面層が、弗素系樹脂をマトリックスとし、カーボンナノチューブもしくはカーボンナノファイバをフィラーとした複合材料で構成されることを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成すべく請求項2記載の定着ローラは、請求項1記載の定着ローラにおいて、前記表面層の下層にあって、該表面層と比較して硬度の低いシリコーンゴムあるいは弗素系ゴムからなる弾性層を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明に係る定着ローラは、ローラの表面層を離型性に優れ、180℃以上の耐熱性を持つ弗素系樹脂をマトリックスとし、管の直径が1μm以下、長さ方向の熱伝導率が金属以上であるカーボンナノチューブもしくはカーボンナノファイバをフィラーとした複合材料で構成したことにより、耐熱性、耐磨耗性、熱伝導性および導電性に優れ、寸法精度が数μm以下で表面層の厚さを数十μmに薄くすることが可能となる。また、定着ローラへのトナーの付着を防ぎ、用紙へのトナーの定着を容易にし、表面温度の追従性に優れ、ヒータ温度を低下させることが可能となる。
【0016】
また、定着ローラの表面層の下層にあって、表面層と比較して低い硬度のシリコーンゴムあるいは弗素系ゴムからなる180℃以上の高い耐熱性をもった弾性層を備えていることにより、定着ローラの弾性機能を活かし、定着時に必要なニップ幅の確保が容易となり、定着時の面圧力と加熱温度を低くすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明に係る好適な実施例を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
まず、本発明の理解を容易にするため実際の構成および動作を図1および図2を参照して説明する。図1は本発明における定着ローラの全体像を表し、芯金2、弾性層3および表面層4で構成されている。
【0019】
用紙7上に転写されたトナー6を定着する定着部において、定着ローラ1は、一般に図2に示すように上下1対のローラにて構成される。
【0020】
上下2機のローラは用紙7の配送する方向やトナー6の付着面あるいは、ローラの表面硬度やヒータ5の有無、寸法等の構成条件に合わせて加圧ローラ1a、加熱ローラ1bのようにわけて使用する場合もある。
【0021】
不図示の現像部あるいは転写部にてトナー6が付着された用紙7は、加圧ローラ1a、加熱ローラ1bの間を通過する際に、加圧およびハロゲンランプ5の加熱が与えられ定着される。
【0022】
次に、定着ローラ1の表面層4および弾性層3に使用される材料構成について詳細に説明する。
【0023】
用紙7上に転写されたトナー6を定着させる際に、定着ローラ1の表面で必要となる加熱温度は、連続したトナー定着動作で180℃以上が必要となる場合がある。つまり、定着ローラ1を構成する全ての材料の耐熱温度も180℃以上必要となり、表面層4で使用する樹脂は、連続使用での耐熱温度が200℃以上であるPTFE(ポリテトラフルオロシエチレン)樹脂、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキビニルエーテル共重合体)樹脂、FEP(プロピレンテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)樹脂などの弗素系樹脂を選択する必要がある。
【0024】
また、弾性層3には連続使用での耐熱温度が200℃以上で定着ローラ1の弾性機能を活かし、定着時に必要なニップ幅の確保を容易にするため、表面層4と比較して硬度の低いシリコーンゴムあるいは弗素系ゴムを選択するのが望ましい。
【0025】
上記理由とトナー6とその定着剤や用紙7に対して優れた離型性を保ち、用紙7との摩擦による磨耗に耐えるレベルの耐磨耗性を有する理由より、弗素系樹脂を表面層4に用いる複合材料のマトリックス(母材)としている。
【0026】
また、マトリックスである弗素系樹脂以上に耐磨耗性、熱伝導性を高め、導電性を付加するため、気相成長法によって6員環が連続して配列するグラッフェンシートで各層を形成した多層構造の筒型の分子構造で、長さ方向の熱伝導率が1600W/m・K以上の金属以上の優れた熱伝導性と10−4 Ω・cmレベルの比抵抗で導電性を有する管の直径が1μm以下であるカーボンナノチューブもしくはカーボンナノファイバを複合材料のフィラー(充填材)としている。
【0027】
次に定着ローラ1の表面層4の作製方法の一例について述べる。
【0028】
気相成長法で製造される直径約150nmのカーボンナノファイバ(昭和電工製 VGCF)をフィラーとし、揮発性溶剤と一緒に溶剤可溶性の弗素系樹脂マトリックス中に混合させ、カーボンナノファイバを分散させた状態でスプレーコーティングにより弾性層3の表面に均一に塗布し、下層表面との接合も兼ねて熱処理することによって成形する。
【0029】
本実施例では、マトリックスである弗素系樹脂に重量比で2%のカーボンナノファイバ(フィラー)を含有した厚さ30μm、表面粗さ1μm以下の複合材料を定着ローラ1の表面層4とした。また、カーボンナノファイバの代わりにカーボンナノチューブを用いても同様の効果が得られるため、以後、理解を容易にするためにカーボンナノファイバのみについて言及するものとする。
【0030】
次に、本実施例にて作製した定着ローラ1と弗素系樹脂のみを表面層4とした定着ローラ1を回転させ、ステンレス製の金属摩擦片を一定荷重で接触させて磨耗を比較した実験結果について述べる。
【0031】
従来品である弗素系樹脂を表面層4とした定着ローラ1の表面と比較して、本実施例のように表面層4を弗素系樹脂とカーボンナノファイバを混合して弾性層3上にスプレーコーティングして成形した定着ローラ1の表面は、同じ試験条件で比較して約30倍の耐磨耗性が得られた。
【0032】
また、マトリックス材に対して重量比2wt%のカーボンナノファイバを熱伝導率が弗素系樹脂よりも低い評価用の樹脂に含有した場合においても、帯電防止に十分な1010 Ω・cmレベルの抵抗値が得られた。
【0033】
図3にカーボンナノファイバ含有量変化における熱伝導率の向上効果について粒径40nm程度のカーボンブラックの場合と比較したグラフを示す。
【0034】
図3よりカーボンブラックと比較してカーボンナノファイバの含有量の増加に伴い、熱伝導率の増加が大きくなることがわかる。
【0035】
定着ローラ1の弾性層3は、材料硬度がJIS−A規格で10°のシリコーンゴムを使用し、肉厚3mmのアルミニウム製の芯金に1mmの厚さで成形する。前記シリコーンゴムでのみ弾性層3が形成された状態で表面硬度をAsker C型で1kg荷重の硬度測定を実施すると77°の結果を得るが、この上にマトリックスとする弗素系樹脂を厚さ30μm成形した後に測定した場合、同硬度測定方法で81°の結果を得る。更に、同材料の弗素系樹脂の厚さを100μm成形した場合には、同硬度測定方法で85°の結果を得る。
【0036】
この測定から、表面層4の硬度は、弾性層3よりも硬度が高く、表面層4の厚さが増すに従って、定着ローラの表面硬度が高くなることが分る。いいかえれば、弾性層3の硬度を低くしつつ比較的高硬度な表面層4を薄く作製することで定着ローラ1の表面硬度を使用に適した値にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施形態である。
【図2】用紙にトナーを定着させる定着部の説明図である。
【図3】各フィラー含有率と熱伝導率の関係図である。
【図4】従来の定着ローラの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1:定着ローラ
2:芯金
3:弾性層
4:表面層
5:ヒータ
6:トナー
7:用紙
8:プライマー層
9:炭素繊維
10:絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナーを用紙に定着させる画像形成装置の定着ローラにおいて、前記定着ローラの表面層が、弗素系樹脂をマトリックスとし、カーボンナノチューブもしくはカーボンナノファイバをフィラーとした複合材料で構成されることを特徴とする定着ローラ。
【請求項2】
前記表面層の下層にあって、該表面層と比較して硬度の低いシリコーンゴムあるいは弗素系ゴムからなる弾性層を備えていることを特徴とする請求項1記載の定着ローラ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−304374(P2007−304374A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133457(P2006−133457)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000214836)長野日本無線株式会社 (140)
【Fターム(参考)】