定着具付きFRPプレート
【課題】定着具を小型化、軽量化することができ、施工に際してコンクリート表面の削る深さを最小限として、作業性の向上を図ることができ、且つ定着具の引抜耐力が高い定着具付きFRPプレートを提供する。
【解決手段】幅が35〜100mm、厚さが1〜4mmとされる矩形横断面形状を有し、軸線方向に延在した長尺のプレート状繊維強化プラスチックであるFRPプレート部材2と、FRPプレート部材2の両端に一体に取り付けた定着具3と、を有し、定着具3は、横断面が30〜60mmとされる短辺部と、短辺部より長くされた長辺部とから成る矩形の外形状を有し、中心部には、FRPプレート部材2の端部を受容するために、幅が40〜105mmであり、両端が半径5〜15mmの半円弧状とされるトラック形状の横断面を有した穴部4を備えている。
【解決手段】幅が35〜100mm、厚さが1〜4mmとされる矩形横断面形状を有し、軸線方向に延在した長尺のプレート状繊維強化プラスチックであるFRPプレート部材2と、FRPプレート部材2の両端に一体に取り付けた定着具3と、を有し、定着具3は、横断面が30〜60mmとされる短辺部と、短辺部より長くされた長辺部とから成る矩形の外形状を有し、中心部には、FRPプレート部材2の端部を受容するために、幅が40〜105mmであり、両端が半径5〜15mmの半円弧状とされるトラック形状の横断面を有した穴部4を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレート状の繊維強化プラスチック部材、即ち、FRPプレート部材の両端に鋼製定着具を膨張定着材で固定した定着具付きFRPプレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の補強方法として、近年、既存或いは新設のコンクリート構造物の表面に連続繊維シートを貼り付けたり、巻き付けたりする接着工法が開発されている。
【0003】
しかしながら、上記接着工法は、単純な接着のみであり、FRP剥離による構造物の早期破壊により、終局耐力の補強効果の向上に限界がある一方、コンクリート構造物の剛性向上や内部ひび割れの抑制効果に限界がある。その上、繊維強化プラスチック部材の高い性能が有効に活用されていない。
【0004】
このような問題を改善するべく、プレート状の繊維強化プラスチック部材、即ち、FRPプレート部材を用いた緊張接着工法が提案されている。
【0005】
斯かる緊張接着工法を用いた補強方法は、
(1)ひび割れの閉合効果が期待できる。
(2)中間支点上に正曲げモーメントを発生させる効果が期待できる。
(3)原型形状をほとんど損なわずに補強できる。
(4)既設鉄筋の発生応力度を低減させることができる。
といった利点を有している。
【0006】
しかしながら、上記緊張接着工法に採用される従来のFRPプレート部材は、図21に示すように、プレート状のFRPプレート部材100の両端を、金属或いはプラスチックの板状定着具102に接着剤で固定したものであり、FRPプレート部材100に導入される緊張力は、接着剤の強度に支配され、大きな引抜耐力を得ることができなかった。
【0007】
例えば特許文献1に記載されるように、補強材を円筒型定着具の内部に膨張性セメントを充填して固定する方法も提案されているが、定着具の厚さが厚くなるという欠点があった。
【0008】
そこで、本発明者らは、特許文献2に記載するように、定着具付きFRPプレートを提案した。この定着具付きFRPプレートにて、FRPプレート部材の両端に一体に取り付けられる定着具は、FRPプレート部材の端部を受容する穴部を備え、FRPプレート部材の各端部は、その表面が凹凸形状とされ、定着具の穴部内へと挿入し、その後、定着具の穴部の空隙に充填材を充填することによって、FRPプレート部材の両端に定着具を一体に取付ける構成とされる。
【0009】
斯かる構成の定着具付きFRPプレートは、軽量で、耐食性に優れ、高い引張強度を有し、且つ定着具の引抜耐力が高く、接合が容易な、橋梁、建築構造物の鉄筋コンクリート又はプレストレストコンクリート製の梁やスラブなどの引張応力作用面に固定することで曲げ耐力の向上を図ることができる、といった特長を有している。
【特許文献1】特開平5−18109号公報
【特許文献2】特開2002−97746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、斯かる構成の定着具付きFRPプレートを用いて橋梁などのコンクリート構造物の補強を行う場合には、図5〜図7に示すように、定着具3は、その半分の厚さ分がコンクリート構造物200に埋め込まれることとなり、そのためにコンクリート構造物表面を削り、凹所201を形成することが必須である。コンクリート構造物表面の削り作業は極めて時間を要し、又、作業が困難な場合もある。
【0011】
通常、鉄筋210の上方に打設されるコンクリートの被りは30mm程度であり、従って、コンクリート構造物表面の削り深さ(H0)は、30mm以内で、できるだけ浅い方がよく、又、軽量化のためにも定着具自体の小型化が好ましい。即ち、定着具の厚さ方向の寸法は、少なくとも60mm以下とされることが望まれる。
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するべく多くの研究実験を行った結果、図5〜図7に示す構成の定着具付きFRPプレート1にて、FRPプレート部材2を定着具3に固定するための充填材、即ち、膨張定着材12の配合を特異に調製して膨張圧を制御することと、定着具3の断面形状を最適化することにより達成し得ることを見出した。
【0013】
更に、本発明者らは、FRPプレート部材2について研究実験を行ったところ次のことが分かった。
【0014】
つまり、幅の狭いFRPプレート部材2では幅方向にかかる引張力はほぼ均等にかかるが、特に、強化繊維が一方向のみに配列された一方向配列強化繊維からなるFRPプレート部材2では、幅が広くなると、図19に示すように、幅方向にかかる引張力の分布(応力分布)に傾斜ができ、幅方向に端部から部分的に破断(以下、「片破断」という。)する可能性があることが分かった。片破断する場合には、引張耐力は低下する。
【0015】
本発明者らは、この片破断を防止するためにも種々の研究実験を行った。
【0016】
その結果、一方向に配置して形成された一方向配列強化繊維層の外層に多方向に繊維を配置した強化繊維の層を設けることにより、引張直角方向に力を分散させることができ、片破断を防止し得ることを見出した。また、斯かる構成により耐アルカリ性の向上をも図ることが可能となることが分かった。
【0017】
本発明は、斯かる本発明者らによる新規な知見に基づくものである。
【0018】
本発明の目的は、定着具を小型化、軽量化することができ、施工に際してコンクリート表面の削る深さを最小限として、作業性の向上を図ることができ、且つ定着具の引抜耐力が高い定着具付きFRPプレートを提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、片破断を防止し、引張耐力の低下を回避することのできる定着具付きFRPプレートを提供することである。
【0020】
更に、本発明の他の目的は、耐アルカリ性の向上を図ることのできる定着具付きFRPプレートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的は本発明に係る定着具付きFRPプレートにて達成される。要約すれば、本発明は、幅が35〜100mm、厚さが1〜4mmとされる矩形横断面形状を有し、軸線方向に延在した長尺のプレート状繊維強化プラスチックであるFRPプレート部材と、前記FRPプレート部材の両端に一体に取り付けた定着具と、を有する定着具付きFRPプレートであって、
前記定着具は、横断面が30〜60mmとされる短辺部と、前記短辺部より長い50〜200mmとされる長辺部とから成る矩形の外形状を有し、中心部には、前記FRPプレート部材の端部を受容するために、幅が40〜105mmであり、両端が半径5〜15mmの半円弧状とされるトラック形状の横断面を有した穴部を備え、
前記FRPプレート部材の各端部は、前記定着具の穴部内へと所定の定着長さだけ挿入し、その後、前記定着具の穴部の空隙に、膨張圧が10〜20N/mm2である膨張定着材を充填することによって、前記FRPプレート部材の両端に前記定着具を一体に取付けたことを特徴とする定着具付きFRPプレートである。
【0022】
本発明の一実施態様によると、前記膨張定着材は、単位量(m3)当たり、水をWkg、セメントをCkg、シリカフュームをSFkg、膨張材を300〜600kg含むとすると、水結合材比W/(C+SF)が30〜50%、シリカフューム置換率SF/(C+SF)が10〜30%である。本発明の他の実施態様によると、前記膨張材は、石灰系膨張材、エトリンガイト系膨張材、又は、エトリンガイト・石灰複合系膨張材である。
【0023】
本発明の他の実施態様によると、前記定着長さは、150〜400mmであり、また、前記定着具は、鋼製とされる。
【0024】
本発明の他の実施態様によると、前記FRPプレート部材の端部表面は、前記FRPプレート部材の端部表面に接着剤を塗布し、その上に粒状物を散布して接着することによって凹凸形状とされる。又、好ましくは、前記粒状物は、粒径が0.1mm〜5mmの珪砂或いは砕石である。
【0025】
本発明の他の実施態様によると、前記FRPプレート部材の端部表面は、前記FRPプレート部材部材の端部表面に強化繊維を巻き付け、接着剤にて表面に接着することによって凹凸形状とされる。
【0026】
本発明の他の実施態様によると、前記定着具の前記穴部の周面は、溝加工が施される。
【0027】
本発明の他の実施態様によると、前記FRPプレート部材は、強化繊維に樹脂を含浸して硬化したものであり、前記強化繊維は、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、又は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、PBOなどの有機繊維を一種、又は、複数種混入して使用され、前記樹脂は、熱硬化性樹脂である。前記熱硬化性樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂である。
【0028】
本発明の他の実施態様によると、前記FRPプレート部材の強化繊維は、前記FRPプレート部材の長手方向に沿って一方向に配列した一方向配列強化繊維とされるか、又は、クロスである。
【0029】
本発明の他の実施態様によると、前記FRPプレート部材の強化繊維は、前記FRPプレート部材の長手方向に沿って一方向に配列した一方向配列強化繊維にて形成される基材層としての一方向配列強化繊維層と、この一方向配列強化繊維層の両側面に配置された外側強化繊維層としての多方向配列強化繊維層を有する。
【0030】
本発明の他の実施態様によると、前記多方向配列強化繊維層は、マット又はクロスである。
【0031】
本発明の他の実施態様によると、前記FRPプレート部材の強化繊維は、前記多方向配列強化繊維層の外側に最外層として不織布層を有する。
【発明の効果】
【0032】
本発明の定着具付きFRPプレートによれば、定着具を小型化、軽量化することができ、施工に際してコンクリート表面の削る深さを最小限として、作業性の向上を図ることができ、且つ高い定着具引抜耐力を得ることができる。又、本発明の定着具付きFRPプレートによれば、片破断を防止し、引張耐力の低下を回避することができる。更には、本発明の定着具付きFRPプレートによれば、耐アルカリ性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係る定着具付きFRPプレートを図面に則して更に詳しく説明する。
【0034】
実施例1
図1及び図2に、本発明に係る定着具付きFRPプレート1の一実施例を示す。本実施例によると、定着具付きFRPプレート1は、FRPプレート部材2と、このFRPプレート部材2の両端に一体に取付けた定着具3と、を有する。
【0035】
(FRPプレート部材)
FRPプレート部材2は、強化繊維2aに樹脂2bを含浸させ硬化させたものであり、軸線方向に延在した長尺のプレート状、即ち、横断面にて幅方向長さ(Wp)に対して厚さ方向の長さ(Tp)が小さくされた(Wp≫Tp)、シート状或いは板状とされる。又、強化繊維2aは、FRPプレート部材2の長手方向、即ち、緊張力導入方向に沿って一方向に配列された一方向配列強化繊維とすることができ、場合によっては、クロス(織物)を使用することもできる。また、異なる構成の繊維層を積層して構成しても良い。
【0036】
本実施例によると、プレート状のFRPプレート部材2は、詳しくは後述するが、幅(Wp)が35〜100mm、厚さ(Tp)が1〜4mm、通常、2mm程度とされる矩形断面とされる。又、軸線方向の長さ(Lp)は、任意とし得るが、通常、2m以上、30m以内、場合によっては、30m以上とされる。
【0037】
FRPプレート部材2の強化繊維2aは、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、又は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、PBOなどの有機繊維を一種、又は、複数種混入して使用することができる。強化繊維2aに含浸されるマトリクス樹脂2bは、熱硬化性樹脂とされ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂とされる。
【0038】
FRPプレート部材2における樹脂含浸量、即ち、次式で定義される繊維割合Vfは、10〜99.9%、好ましくは、40〜70%、通常60%程度とされる。
繊維割合Vf(%)=(繊維の全体積)/(樹脂の全体積+繊維の全体積)
【0039】
上述のようにして作製されたFRPプレート部材2の端部は、その表面が凹凸形状とされる。このような凹凸形状表面は、例えば図1に示すように、FRPプレート部材2の端部表面に接着剤10を塗布し、その上に粒状物11を散布することによって形成し得る。これにより、FRPプレート部材端部の摩擦係数を高めることができる。
【0040】
接着剤10としては、例えば、エポキシ系接着剤などの任意のものを使用し得るが、FRPプレート部材2である繊維強化プラスチックに使用したマトリクス樹脂2bと相溶性の良いものを使用するのが好ましい。
【0041】
粒状物11としては、粒径が0.1mm〜5mmとされる珪砂或いは砕石が好ましい。
【0042】
FRPプレート部材2の端部表面の凹凸形状は、例えば、図2に示すように、FRPプレート部材2の端部表面に、紐状の繊維強化プラスチック11を巻き付け、例えば紐状繊維強化プラスチック11或はFRPプレート部材2の端部表面に塗布した接着剤10にてFRPプレート部材1の端部表面に接着することによっても形成し得る。
【0043】
FRPプレート部材2の端部に珪砂のような粒状物或は紐状繊維強化プラスチック11が固着されたあと、FRPプレート部材2の端部を所定長さ(定着長F)だけ定着具3の穴部4内へと挿入し、穴部4の空隙に充填材、即ち、膨張定着材12が充填される。膨張定着材12については後で詳しく説明する。
【0044】
上記構成により、FRPプレート部材2の両端部はそれぞれ、充填材12の膨張により穴部内に生じた内圧(膨張圧)によって圧縮状態の充填材12と完全に一体化され、これによって、定着具付きFRPプレート1が作製される。
【0045】
本実施例の定着具付きFRPプレート1によると、定着具3とFRPプレート部材2との間には、FRPプレート部材2への緊張力導入のために付加される引張力に十分対抗できる固定力を得ることができ、高い定着強度、即ち、引張耐力が得られる。
【0046】
このような構成の本実施例の定着具付きFRPプレート1は、軽量で耐食性に優れ、高い引張強度を有し、且つ定着具の引抜耐力が高く接合が容易なため、高耐力の補強材、或いは、緊張材として利用可能である。従って、例えば、橋梁や建築構造物の鉄筋コンクリート又はプレストレストコンクリート性の梁やスラブなどの部材の引張応力作用面にこの補強材を固定することで曲げ耐力の向上が図れる。
【0047】
(定着具)
次に、定着具3について詳しく説明する。
【0048】
先ず、定着具の外形状について言えば、もし、定着具3の横断面が円形状とされる場合には、定着具内部にFRPプレート部材2を受容するために必然的に定着具3の外形寸法は、FRPプレート部材2の幅方向長さより大とならざるを得ない。従って、100mm幅のFRPプレート部材3を定着することができ、しかも、定着具3の厚さ方向の長さを60mm以下とするといった、本発明の前提条件を満たすことができない。
【0049】
従って、本実施例によると、図3に示すように、定着具3は、厚さ(H)が30〜60mmとされる短辺部と、短辺部より長くされた幅(W)を有する長辺部とから成る矩形の外形状を有するものとした。短辺部の厚さ(H)は、後述するように、厚さ方向の強度を維持するために、30mm以上とされる。
【0050】
また、通常、図3、図4にて理解されるように、長径方向の肉厚t1部分において、最大応力が発生する。従って、この肉厚t1部分には、t1=10〜40mmの厚さが必要とされ、従って、長辺部の長さ(W)は、50mm以上、185mm以内とされる。185mmを越えるのは、定着具3の小型化、軽量化の点で好ましくない。
【0051】
次に、定着具3の中心部には、FRPプレート部材2の端部を挿入し保持するための穴部4が形成される。本実施例によると、図3に示すように、中心部には、プレート状とされるFRPプレート部材2の端部を受容するために、幅(w)が40〜105mmであり、両端が半径5〜15mmの半円弧状とされる高さ(h)を有した、所謂、トラック形状の横断面を有した穴部が形成される。穴部4の形状寸法については、穴部4に充填される充填材12との関係において後で説明する。
【0052】
また、穴部4の内周面には、充填材12と穴部内面との固着力を増大させ、充填材12と定着具3とのずれを防ぐために穴部周方向に溝4aを形成することも可能である。溝4aは、軸線方向に平行に複数形成するのが好ましい。図9に示す実施例では、穴部4の幅方向直線部のみに形成された。
【0053】
FRPプレート部材2の各端部は、定着具3の穴部内へと所定の定着長(F)(図1参照)だけ挿入し、その後、定着具3の穴部4の空隙に充填材である膨張定着材12を充填することによって、FRPプレート部材2の両端に定着具3が一体に定着される。本実施例で、定着長(F)は、150〜400mmとした。その理由は後述する。
【0054】
又、本実施例では、定着具1の穴部4の閉鎖端側である外側端部には外方へと突出して、取付部としてのボルト軸5が一体に形成されている。ボルト軸5は、複数設けても良い。
【0055】
図5〜図7に、本実施例の定着具付きFRPプレート1をコンクリート構造物200の表面に取り付けた状態を示す。
【0056】
本実施例によると、定着具1をコンクリート構造物200に取り付けるために、別部材として形成された取付具6が用意される。
【0057】
取付具6は、本実施例によると、図5〜図7に示すように、コンクリート構造物表面を削ることにより形成された凹所201を横断して配置された板状部材とされ、この支持板は、その中央部6aが肉厚とされ、凹所201内へと僅かに突出し、両端部6bがコンクリート構造物表面に取り付けられる。
【0058】
取付具6は、両端部6bに形成したボルト穴6cを利用して、コンクリート構造物200に植設されたアンカーボルト202に嵌合され、ナット203により固定される。
【0059】
一方、定着具3のボルト軸5は、取付具6の中央部6aに形成されたボルト穴6dを貫通して挿通され、ボルト軸5にナット5aが螺合されることにより、取付具6に定着具3が取り付けられる。
【0060】
又、補強施工時には、このボルト軸5が緊張装置(図示せず)に取り付けられ、FRPプレート部材2に緊張力を導入するのに利用される。その後、緊張が緩まないようにナット5aが締め付けられる。
【0061】
定着具3及び取付具6は、スチール(鋼材)にて作製される。本実施例では、鋼材SM490Yを使用した。
【0062】
(膨張定着材)
本実施例では、充填材12である膨張定着材(膨張ペースト)としては、水、セメント、シリカフューム及び膨張材を含むものを使用した。膨張材としては、石灰系膨張材又はエトリンガイト・石灰複合系膨張材を使用することができる。各成分は、次に説明する配合とすることによって、膨張圧10〜20N/mm2を得ることができた。
【0063】
つまり、膨張定着材は、単位量(m3)当たり、水をWkg、セメントをCkg、シリカフュームをSFkg、膨張材を300〜600kg含むとすると、水結合材比W/(C+SF)が30〜50%、シリカフューム置換率SF/(C+SF)が10〜30%とされる。
【0064】
次に、膨張定着材12について更に詳しく説明する。
【0065】
定着具付きFRPプレート1の緊張接着により既存コンクリート構造物200を補強する場合、定着具3の定着性能を把握し、定着具3の小型化、軽量化を図ることが必要である。
【0066】
本発明者らは、膨張定着材12、即ち、膨張ペーストを用いた付着型定着具3の定着特性を把握するために、膨張ペーストの最適配合を選定するための膨張圧試験を行った(シリーズI)。
【0067】
その結果から得られた膨張ペースト12の配合と、矩形断面を有する定着具3を用いた定着具付きFRPプレート1の引張試験を実施し、FRPプレート部材2の定着長(F)が定着性能に及ぼす影響について検討を行った(シリーズII)。
【0068】
A.実験概要
(1)シリーズI
表1に実験要因を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
膨張ペースト12には、セメントに普通ポルトランドセメント(密度:3.16g/cm3)、シリカフュームにノルウェー産粉体(密度:2.20g/cm3、比表面積:20m2/g)、膨張材にはエトリンガイト・石灰複合系膨張材(密度:2.90g/cm3)を使用した。
【0071】
図8に、拘束体30の概要図を示す。
【0072】
拘束体30の本体30aは、鋼管(圧力配管用炭素鋼鋼管 STPG38:外径42.7mm、肉厚3.6mm、長さ500mm)を使用し、両端に蓋部材30bを螺合し、密閉可能とした。本体30a内に膨張ペースト12を充填して3軸拘束下における膨張特性を検討した。
【0073】
膨張ペースト12の配合は、水結合材比[W/(C+FS)]を40%、シリカフューム置換率[SF/(C+SF)を20%とし、単位膨張材量を200、250、300、350、400、600kg/m3の6配合とした。
【0074】
鋼管中央部2箇所にひずみゲージ31(2軸2mm、1G3W、120Ω)を貼り付け、鋼管表面の軸方向及び周方向膨張ひずみの経時変化を恒湿恒温室(温度20±1℃、湿度90±5%)内で測定した。目標膨張圧は10〜20N/mm2とした。
【0075】
(2)シリーズII
表2に実験要因を示す。
【0076】
【表2】
【0077】
使用したFRPプレート部材2は、強化繊維として一方向に配列した炭素繊維を使用した、所謂、CFRPプレート部材であり、引抜成形型枠寸法を50mm×2mmとしてプルトルージョン法により作製した。つまり、CFRPプレート部材2は、幅(Wp)が50mm、厚さ(Tp)が2mmであった。又、全長(Lp)は1150mmとした。
【0078】
マトリクス樹脂としてはエポキシ樹脂を使用した。繊維体積含有率は70%で、理論引張強度は3395N/mm2、理論弾性係数は165kN/mm2の高強度タイプである。
【0079】
CFRPプレート部材2の両端部表面には、膨張ペースト12の付着を良好にする目的で珪砂を散布した。
【0080】
図9に、本実験で使用した矩形断面定着具3の断面を示す。
【0081】
つまり、定着具3は、厚さ(H)が40mmとされる短辺部と、幅(W)が84mmとされる長辺部とから成る矩形の外形状を有するものとした。
【0082】
定着具3の中心部には、プレート状とされるCFRPプレート部材2の端部を受容するために、幅(w)が52mmであり、両端は半径(R)が7.5mmの半円弧状とされる(即ち、高さ(h)が15mm)、所謂、トラック形状の横断面を有した穴部4が形成された。
【0083】
また、図示するように、トラック形状の穴部4には、膨張ペースト12と定着具3のずれを抑制するために、特に幅方向直線部(幅wg=37mm)において、断面が5×0.5mmとされる形状の溝4aが、軸線方向に10mmのピッチにて形成された。
【0084】
図10に、引張試験の概略を示す。
【0085】
引張試験において、供試体であるCFRPプレート部材2の下端は、上記構成の定着具3を取り付けた。
【0086】
このとき、引張試験において供試体に偏心力が作用しないように、定着具3には穴部4を延長してつかみ部3Aを設け、このつかみ部3Aには、充填材12のみが存在し、CFRPプレート部材2の端部は存在しないようにした。そして、このつかみ部3Aを万能試験機50の下方チャック51で直接把持した。つかみ部3Aの長さは150mmとした。
【0087】
なお、本引張試験において、定着長(F)は、150、300、400mmとして試験を行った。
【0088】
一方、CFRPプレート部材2の上端は、外径76.2mm、肉厚12mm、長さ350mmの鋼管の一端を閉鎖して構成した定着具40に取り付け、この定着具40を万能試験機50の上方チャック52で直接把持した。定着具40の内面にも溝40aを形成した。CFRPプレート部材2の上方端部は、定着具3による下方端部の定着と同様にして定着具40に定着した。
【0089】
測定項目は、最大荷重、プレートひずみ、矩形断面定着具3のひずみ、及び、口元変位であり、目視により破壊状況を確認した。口元変位は、矩形断面定着具3の入口部分に抜出変位計測器60を取り付け、計測を行った。
【0090】
なお、定着用膨張材の膨張状況を把握するために、引張試験直前まで、矩形断面定着具3の表面の膨張ひずみをひずみゲージ41(2軸2mm、1G3W、120Ω)により計測した。
【0091】
また、CFRPプレート部材2のひずみ状況を計測するために、上方定着具40より距離Lg=250mmの位置に、2個の1軸歪みゲージ42、42をプレート部材2の幅方向中央部に互いにWg=18mmだけ離間して配置した。
【0092】
(実験結果および考察)
(1)シリーズI
3軸拘束状態における軸方向及び周方向のケミカルプレストレスは、式(1)、(2)より求めた。
【0093】
【数1】
【0094】
ここで、
Es:拘束体の弾性係数、
ν:拘束体のポアソン比、
Asl:拘束体の軸方向断面積、
Acl:ペーストの断面積(=πr2/4)、
Ast:拘束体の周方向断面積(軸方向単位長さ当たりの拘束体周方向断面積の2倍)、
Act:r×1(r:ペースト断面の直径)、
εsl:拘束体の軸方向ひずみ、
εst:拘束体の周方向ひずみ
である。
【0095】
ケミカルプレストレスは、材齢3日から5日で最大値を示した後、材齢30日前後で一定値に落ち着いた。
【0096】
図11に、材齢30日におけるケミカルプレストレスと単位膨張材量の関係を示す。水結合材比40%、単位膨張材量400kg/m3の配合における周方向ケミカルプレストレスは、12.6N/mm2であり、単位膨張材量600kg/m3の配合における周方向ケミカルプレストレスは、18.5N/mm2であって、目標膨張圧(10〜20N/mm2)が得られることを確認した。
【0097】
(2)シリーズII
表3にプレートの引張試験結果、図12に引張応力とプレート中央ひずみの関係、図13に引張応力と口元変位の関係を示す。
【0098】
【表3】
【0099】
定着長(F)に関わらず、最大荷重及び弾性係数はほぼ同程度の値を示し、全ての供試体でCFRPプレート部材2が破断した。また、CFRPプレート部材2の定着長(F)に関わらず口元変位は同程度であり、最大荷重時で3mmであった。
【0100】
従って、膨張ペースト12を用いた矩形断面定着具3は、定着長(F)の範囲(150〜400mm)において十分な定着性能を有していると考えられる。
【0101】
定着長(F)の相違による最大引張荷重の差はほとんど観察されなかったことから、定着長(F)が最も短い150mmの定着具3でも十分な定着性能を有することが分かった。
【0102】
(定着具の断面寸法)
FRPプレート部材2の端部が挿入配置される定着具3の穴部内面に内圧として作用する膨張定着材12の膨張圧が高いと、定着具3に発生する応力が高くなるために、定着具3を形成している鋼材の肉厚が大きくなり、定着具3の寸法が大きくなる。
【0103】
上述のように、本実施例によれば、上述の配合とされた膨張定着材12を使用することにより、従来の略1/2とされる10〜20N/mm2の膨張圧を得ることができた。
【0104】
ここで、膨張圧15N/mm2を内圧と作用させて鋼材(SM490Y)の発生応力度を許容応力度190N/mm2以下とする形状をFEM解析により求めた。
【0105】
断面の決定に際しては、既設コンクリートの被りが30mm程度であることと、FRPプレート緊張工法における変高の角度が現行と大きく変化しないよう、60mm以内に収まることを条件として矩形状の検討を行った。
【0106】
計算結果を表4に示す。
【0107】
表4中、試料番号1、2が本実施例に従って構成された、図3に示す形状のFRPプレート用定着具である。試料番号3〜8は、比較例として作製したFRPプレート用定着具であり、試料番号3、4は、図14に示すように、穴部内面に入隅部(R部分)が形成されたFRPプレート用定着具を示す。また、試料番号5〜8は、図16に示すように、楕円形状とされるFRPプレート用定着具である。
【0108】
【表4】
【0109】
以下に断面寸法及び形状と応力分布の傾向についてその結果を纏めると次の通りであった。つまり、
(1)現行の50mmFRPプレート用の定着具(試料番号3)にて、最大主応力の最大値の位置は、細径方向の肉厚(t2)が極端に薄い定着具を除くと、穴部断面の入隅部(R部分)であった。そのときの応力分布状態を図15に示す。
(2)現行の50mmFRPプレート用の定着具の穴部断面を75mmFRPプレート用にした場合(試料番号4)には、即ち、穴部断面形状を入隅部(R部分)は5mmとし、幅を52mmから77mmに拡大した場合には、定着具の肉厚(t1、t2)が現行の2倍程度必要となった。
(3)最大主応力の低減は、穴部断面の入隅部における応力集中によるものであったことから、入隅部の断面力の分断範囲を広くすることで最大主応力の最大値を低減できた。本実施例に従った定着具(試料番号1、2)における応力分布状態を図4に示す。
(4)長径方向の肉厚t1を厚くすることでも最大主応力の最大値は低減できることが分かった。ただし、現行の細径方向の肉厚t2=16mm(h=54mm)程度では長径方向の肉厚t1は30mm(W=140mm)程度必要であり、その効果は小さかった。
(5)なお、外形状を楕円形状とした場合(試料番号5〜8)には、長径部円弧部分に応力が集中する。楕円形状が真円により近づけば応力集中は低減されるが、肉厚一定の楕円形状では、定着具の高さHが60mm以内となる範囲では許容値を満たす結果は得られなかった。
【0110】
結論として、定着具3の厚さ(H)を最少とするためには、外側は長方形状とし、内側の穴部形状は、長辺を直線、短辺を半円とした、所謂トラック形状で、半円の半径には最適寸法があることが分かった。
【0111】
つまり、半円の半径(R)を小さくし過ぎると、円弧部で応力集中が生じるため肉厚を厚くする必要があり、半径(R)を穴部4の幅(w)=40〜80mmに対して5〜15mmとすることにより、定着具3の厚さ(H)を最少とすることができた。
【0112】
実施例2
実施例1では、充填材12である膨張定着材(膨張ペースト)としては、水、セメント、シリカフューム及び膨張材を含むものを使用し、膨張材としては、石灰系膨張材又はエトリンガイト・石灰複合系膨張材を使用するものとした。
【0113】
しかしながら、膨張材としては、上記石灰系膨張材又はエトリンガイト・石灰複合系膨張材に限定されるものではない。本実施例では、エトリンガイト系の膨張材を使用し、実施例1と同様の効果を達成することができた。
【0114】
つまり、本実施例では、充填材12である膨張定着材(膨張ペースト)としては、水、セメント、シリカフューム及びエトリンガイト系膨張材を含むものを使用し、各成分を次に説明する配合とすることによって、膨張圧10〜20N/mm2を得ることができた。
【0115】
更に説明すると、本実施例では、膨張定着材は、単位量(m3)当たり、水をWkg、セメントをCkg、シリカフュームをSFkg、エトリンガイト系膨張材を300〜600kg含むとすると、水結合材比W/(C+SF)が30〜50%、シリカフューム置換率SF/(C+SF)が10〜30%とされる。
【0116】
また、本実施例にて、膨張ペースト12としては、セメントに普通ポルトランドセメント(密度:3.16g/cm3)、シリカフュームにノルウェー産粉体(密度:2.20g/cm3、比表面積:20m2/g)、膨張材にエトリンガイト系膨張材(密度:2.93g/cm3)を使用した。膨張ペースト12の配合は、水結合材比[W/(C+FS)]を40%、シリカフューム置換率[SF/(C+SF)を20%とし、本実施例では、単位膨張材量を400、500kg/m3の2配合とした。
【0117】
実施例1と同じ拘束体30を使用して、実施例1と同じ実験装置、実験方法及び計算式により、3軸拘束状態における軸方向及び周方向のケミカルプレストレスを求めた。その結果を図17及び図18に示す。
【0118】
図17及び図18から理解されるように、ケミカルプレストレスは、単位膨張量500kg/m3の配合において、10日以降目標膨張圧10〜20N/mm2を得ることができた。
【0119】
次に、上記結果から得られた膨張ペースト12の配合と、実施例1と同様のFRPプレート部材2及び定着具3を使用して、実施例1と同様にして引張試験を行った。
【0120】
引張試験の結果、本実施例においても、実施例1と同様の結果を得ることができた。
【0121】
つまり、定着長(F)に関わらず、最大荷重及び弾性係数はほぼ同程度の値を示し、全ての供試体でCFRPプレート部材2が破断した。また、CFRPプレート部材2の定着長(F)に関わらず口元変位は同程度であり、最大荷重時で3mmであった。
【0122】
従って、本実施例の膨張ペースト12を用いた矩形断面定着具3は、定着長(F)の範囲(150〜400mm)において十分な定着性能を有していると考えられる。
【0123】
定着長(F)の相違による最大引張荷重の差はほとんど観察されなかったことから、定着長(F)が最も短い150mmの定着具3でも十分な定着性能を有することが分かった。
【0124】
実施例3
実施例1では、FRPプレート部材2は、強化繊維2aに樹脂2bを含浸させ硬化させたものであり、軸線方向に延在した長尺のプレート状、即ち、横断面にて幅方向長さ(Wp)に対して厚さ方向の長さ(Tp)が小さくされた(Wp≫Tp)、シート状或いは板状とされ、特に、強化繊維2aは、FRPプレート部材2の長手方向、即ち、緊張力導入方向に沿って一方向に配列された一方向配列強化繊維層であるか、または、クロス(織物)を使用するものとした。
【0125】
上述したように、本発明者らの更なる研究実験の結果によると、幅の狭いFRPプレート部材2では幅方向にかかる引張力はほぼ均等にかかるが、特に、実施例1で説明した強化繊維2aが一方向のみに繊維を配置した一方向配列強化繊維層からなるFRPプレート部材2では、幅が広くなると、図19に示すように、幅方向にかかる引張力の分布(応力分布)に傾斜ができ、幅方向に端部から部分的に破断(即ち、片破断)する可能性があることが分かった。片破断する場合には、引張耐力は低下する。
【0126】
本発明者らは、この片破断を防止するために種々の研究実験を行った。
【0127】
その結果、一方向に配置した強化繊維層の外層に多方向に繊維を配置した強化繊維の層を設けることにより、引張直角方向に力を分散させることができ、片破断を防止し得ことを見出した。
【0128】
図20に、本実施例に従って構成されるFRPプレート部材2の強化繊維2aの横断面形状を示す。
【0129】
本実施例による強化繊維2aは、実施例1で説明したように、FRPプレート部材2の長手方向、即ち、緊張力導入方向に沿って一方向に配列された一方向配列強化繊維にて形成される基材層としての一方向配列強化繊維層2a1と、この一方向配列強化繊維層の両側面に配置された外側強化繊維層2a2と、の複数層にて構成される。
【0130】
特に、本実施例によれば、各外側強化繊維層2a2は、一方向配列強化繊維層2a1に直接積層された多方向配列強化繊維層2a2−Aを有する。即ち、一方向配列強化繊維層2a1を多方向配列強化繊維層2a2−Aにて挟持する構成とされる。更に、本実施例によれば、この多方向配列強化繊維層2a2−Aの外層であり、且つ、強化繊維2aの最外層を形成する不織布層2a2−Bと、にて構成される。
【0131】
本実施例によると、プレート状のFRPプレート部材2は、実施例1と同様に、幅(Wp)が35〜100mm、厚さ(Tp)が1〜4mm、通常、3mm程度とされる矩形断面とされる。又、軸線方向の長さ(Lp)は、任意とし得るが、通常、2m以上、30m以内、場合によっては、30m以上とされる。
【0132】
FRPプレート部材2における強化繊維2aの基材層をなす一方向配列強化繊維層2a1のための強化繊維としては、実施例1の場合と同様に、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、又は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、PBOなどの有機繊維を一種、又は、複数種混入して使用することができる。
【0133】
強化繊維2aの外側強化繊維層2a2をなす多方向配列強化繊維層2a2−Aは、マット状或いはフェルト状のシート、又は、クロス(織物)にて形成され、そのための強化繊維としては、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、又は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、PBOなどの有機繊維が好適に使用される。クロス(織物)は、強化繊維を使用して織成された、繊維の主軸が2軸、3軸、4軸とされるシート状の織物とすることができる。例えば、強化繊維を二方向に配向させた平織物、綾織物、朱子織物や、強化繊維2を三方向、四方向に配向させた3軸、4軸織物などを使用することができる。また、クロスは、1枚の織物シートで構成することもでき、又は、同じ構成の、或いは、異なる構成の複数枚の織物シートを積層して構成しても良い。
【0134】
また、強化繊維2aの最外層としての外側強化繊維層2a2をなす最外層層2a2−Bは、不織布にて形成され、そのための強化繊維としては、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、又は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、PBOなどの有機繊維を好適に使用することができる。本実施例にて、不織布とは、マット状又はフェルト状のシートを意味するものとする。
【0135】
強化繊維2a、即ち、一方向配列強化繊維層2a1、多方向配列強化繊維層2a2−A、最外層2a2−Bに含浸されるマトリクス樹脂2bは、熱硬化性樹脂とされ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂とされる。
【0136】
FRPプレート部材2の各繊維層における樹脂含浸量、即ち、次式で定義される繊維割合Vfは、10〜99.9%、好ましくは、40〜70%、通常60%程度とされる。
繊維割合Vf(%)=(繊維の全体積)/(樹脂の全体積+繊維の全体積)
【0137】
上述のようにして作製されたFRPプレート部材2の端部は、実施例1の場合と同様にして、所定長さ(定着長F)だけ定着具3の穴部4内へと挿入し、穴部4の空隙に充填材、即ち、膨張定着材12が充填される。膨張定着材12は、実施例1、2にて説明したものが好適に使用される。
【0138】
上記構成により、FRPプレート部材2の両端部はそれぞれ、充填材12の膨張により穴部内に生じた内圧(膨張圧)によって圧縮状態の充填材12と完全に一体化され、これによって、定着具付きFRPプレート1が作製される。
【0139】
本実施例の定着具付きFRPプレート1によると、定着具3とFRPプレート部材2との間には、FRPプレート部材2への緊張力導入のために付加される引張力に十分対抗できる固定力を得ることができ、高い定着強度、即ち、引張耐力が得られる。
【0140】
このような構成の本実施例の定着具付きFRPプレート1は、軽量で耐食性に優れ、高い引張強度を有し、且つ定着具の引抜耐力が高く接合が容易なため、高耐力の補強材、或いは、緊張材として利用可能である。従って、例えば、橋梁や建築構造物の鉄筋コンクリート又はプレストレストコンクリート性の梁やスラブなどの部材の引張応力作用面にこの補強材を固定することで曲げ耐力の向上が図れる。
【0141】
更に、本実施例の定着具付きFRPプレート1は、一方向配列強化繊維層2a1の外側に多方向配列強化繊維層2a2−Aを積層し、一方向配列強化繊維層2a1を多方向配列強化繊維層2a2−Aにて挟持する態様(即ち、サンドイッチ構造)の構成とされるので片破断を防止することができる。又、例えばガラス繊維などの耐アルカリ性の弱い強化繊維などを用いた場合は、最外層に、例えば有機繊維などにより作製した耐アルカリ性の強い不織布層2a2−Bを配置することで、不織布層2a2−Bが内層繊維層の保護層となり耐アルカリ性の向上を図ることができる。また、内層繊維の傷防止機能をも有している。
【0142】
上記構成の本実施例の定着具付きFRPプレート1について引張試験を行った。試験装置及び試験方法は、実施例1にて説明したと同様であった。
【0143】
なお、本実験にて比較例としては、実施例1で説明した構成の、即ち、強化繊維2aが一方向に配列した強化繊維層のみからなるFRPプレート部材2を採用した。
【0144】
表5に、比較例として使用した定着具付きFRPプレートの実験要因を示す。
【0145】
【表5】
【0146】
表6に、本実験にて使用した本実施例の定着具付きFRPプレートの実験要因を示す。
【0147】
【表6】
【0148】
又、本実施例及び比較例にて、膨張ペースト12は、実施例2で説明したエトリンガイト系膨張材を使用した。また、水結合材比40%、エトリンガイト系膨張材の単位体積重量は、本実施例は450kg/m3であり、比較例は500kg/m3であった。
【0149】
本実験にて使用した本実施例のFRPプレート部材2は、強化繊維2aの基材層をなす一方向配列強化繊維層2a1のための強化繊維としては、炭素繊維を使用し、多方向配列強化繊維層2a2−Aのための強化繊維としては、マット状のガラス繊維シートを使用した。又、本実験例では、強化繊維2aの最外層として多方向配列強化繊維層2a2−Aの外層をなす最外層層2a2−Bを設け、この強化繊維としては、マット状のガラス繊維シートを使用した。
【0150】
強化繊維2aの厚み(Tp)は3mmであった。つまり、一方向配列強化繊維層2a1の厚み(Tp1)が2.2mm、多方向配列強化繊維層2a2−Aの厚み(Tp2)が0.3mm、最外層2a2−Bの厚み(Tp3)が0.1mmとされた。
【0151】
これら多層からなるFRPプレート部材2は、引抜成形型枠寸法を75mm×3mmとしてプルトルージョン法により作製した。つまり、FRPプレート部材2は、幅(Wp)が750mm、厚さ(Tp)が3mmであった。又、全長(Lp)は1150mmとした。
【0152】
マトリクス樹脂としてはビニルエステル樹脂を使用した。繊維体積含有率は66.5%で、FRPプレート部材の引張耐力は548kNである。
【0153】
FRPプレート部材2の両端部表面には、膨張ペースト12の付着を良好にする目的で珪砂を散布した。
【0154】
実施例1で説明した、図9に示す形状の矩形断面定着具3を使用した。
【0155】
つまり、定着具3は、厚さ(H)が51mmとされる短辺部と、幅(W)が140mmとされる長辺部とから成る矩形の外形状を有するものとした。
【0156】
定着具3の中心部には、プレート状とされるFRPプレート部材2の端部を受容するために、幅(w)が77mmであり、両端は半径(R)が12.5mmの半円弧状とされる(即ち、高さ(h)が25mm)、所謂、トラック形状の横断面を有した穴部4が形成された。
【0157】
また、図示するように、トラック形状の穴部4には、膨張ペースト12と定着具3のずれを抑制するために、特に幅方向直線部(幅wg=52mm)において、断面が5×0.5mmとされる形状の溝4aが、軸線方向に10mmのピッチにて形成された。
【0158】
なお、本実験における引張試験において、定着長(F)は、200、350mmとして試験を行った。また、比較例の引張試験において、定着長(F)は、200、250、300、350mmとして試験を行った。表7に比較例の、表8に本実施例の試験結果を示す。
【0159】
【表7】
【0160】
【表8】
【0161】
(引張試験結果)
膨張ペースト12としてのエトリンガイト系膨張材に関しては、定着長350mmは、十分な定着性能を有していると考えられる。
【0162】
また、FRPプレート部材2に関しては、比較例としてあげた強化繊維が一方向配列強化繊維のみからなる炭素繊維プレート部材では、定着長200、250、300mmの範囲で片破断を起こした。
【0163】
本実施例によるFRPプレート部材2では、片破断は見られず、一方向配列強化繊維層2a1の外側に多方向配列強化繊維層2a2−Aを積層し、一方向配列強化繊維層2a1を多方向配列強化繊維層2a2−Aにて挟持するサンドイッチ構造の効果があることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】本発明に係る定着具付きFRPプレートの断面側面図である。
【図2】本発明に係る定着具付きFRPプレートにおけるFRPプレートの端部表面凹凸形状の他の実施例を示す斜視図である。
【図3】図1の線A−Aにとった定着具の正面図である。
【図4】FEM解析による、本発明に従った定着具の応力分布を示す図である。
【図5】本発明に係る定着具付きFRPプレートをコンクリート構造物表面に緊張施工した状態を示す断面図である。
【図6】本発明に係る定着具付きFRPプレートをコンクリート構造物表面に緊張施工した状態を示す平面図である。
【図7】図6の線B−Bにとった定着具付きFRPプレートをコンクリート構造物表面に緊張施工した状態を示す断面図である。
【図8】膨張定着材の実験に使用した拘束体の概要を示す斜視図である。
【図9】本発明に係る定着具付きFRPプレートの効果を実証するための実験に使用した定着具の横断面図である。
【図10】本発明に係る定着具付きFRPプレートの効果を実証するための引張り試験装置と、使用した定着具付きFRPプレートの構成を示す横断面図である。
【図11】ケミカルストレスと単位膨張材量の関係を示すグラフである。
【図12】引張応力と、FRPプレート中央ひずみの関係を示すグラフである。
【図13】引張応力と、口元変位の関係を示すグラフである。
【図14】比較例としての定着具の正面図である。
【図15】FEM解析による、比較例としての図14に示す定着具の応力分布を示す図である。
【図16】比較例としての定着具の正面図である。
【図17】本発明の他の実施例におけるケミカルストレスと経過時間の関係を示すグラフである。
【図18】本発明の他の実施例におけるケミカルストレスと経過時間の関係を示すグラフである。
【図19】本発明の定着具付きFRPプレートにおける片破断を説明するための説明図である。
【図20】本発明の定着具付きFRPプレートの他の実施例を示す、FRPプレートの横断面図である。
【図21】FRPプレートを使用した橋梁上部の緊張接着工法を説明する図である。
【符号の説明】
【0165】
1 定着具付きFRPプレート
2 繊維強化プラスチック部材(FRPプレート部材)
3 定着具
4 穴部
5 ネジ軸
6 取付具
12 膨張定着材(膨張ペースト)
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレート状の繊維強化プラスチック部材、即ち、FRPプレート部材の両端に鋼製定着具を膨張定着材で固定した定着具付きFRPプレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の補強方法として、近年、既存或いは新設のコンクリート構造物の表面に連続繊維シートを貼り付けたり、巻き付けたりする接着工法が開発されている。
【0003】
しかしながら、上記接着工法は、単純な接着のみであり、FRP剥離による構造物の早期破壊により、終局耐力の補強効果の向上に限界がある一方、コンクリート構造物の剛性向上や内部ひび割れの抑制効果に限界がある。その上、繊維強化プラスチック部材の高い性能が有効に活用されていない。
【0004】
このような問題を改善するべく、プレート状の繊維強化プラスチック部材、即ち、FRPプレート部材を用いた緊張接着工法が提案されている。
【0005】
斯かる緊張接着工法を用いた補強方法は、
(1)ひび割れの閉合効果が期待できる。
(2)中間支点上に正曲げモーメントを発生させる効果が期待できる。
(3)原型形状をほとんど損なわずに補強できる。
(4)既設鉄筋の発生応力度を低減させることができる。
といった利点を有している。
【0006】
しかしながら、上記緊張接着工法に採用される従来のFRPプレート部材は、図21に示すように、プレート状のFRPプレート部材100の両端を、金属或いはプラスチックの板状定着具102に接着剤で固定したものであり、FRPプレート部材100に導入される緊張力は、接着剤の強度に支配され、大きな引抜耐力を得ることができなかった。
【0007】
例えば特許文献1に記載されるように、補強材を円筒型定着具の内部に膨張性セメントを充填して固定する方法も提案されているが、定着具の厚さが厚くなるという欠点があった。
【0008】
そこで、本発明者らは、特許文献2に記載するように、定着具付きFRPプレートを提案した。この定着具付きFRPプレートにて、FRPプレート部材の両端に一体に取り付けられる定着具は、FRPプレート部材の端部を受容する穴部を備え、FRPプレート部材の各端部は、その表面が凹凸形状とされ、定着具の穴部内へと挿入し、その後、定着具の穴部の空隙に充填材を充填することによって、FRPプレート部材の両端に定着具を一体に取付ける構成とされる。
【0009】
斯かる構成の定着具付きFRPプレートは、軽量で、耐食性に優れ、高い引張強度を有し、且つ定着具の引抜耐力が高く、接合が容易な、橋梁、建築構造物の鉄筋コンクリート又はプレストレストコンクリート製の梁やスラブなどの引張応力作用面に固定することで曲げ耐力の向上を図ることができる、といった特長を有している。
【特許文献1】特開平5−18109号公報
【特許文献2】特開2002−97746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、斯かる構成の定着具付きFRPプレートを用いて橋梁などのコンクリート構造物の補強を行う場合には、図5〜図7に示すように、定着具3は、その半分の厚さ分がコンクリート構造物200に埋め込まれることとなり、そのためにコンクリート構造物表面を削り、凹所201を形成することが必須である。コンクリート構造物表面の削り作業は極めて時間を要し、又、作業が困難な場合もある。
【0011】
通常、鉄筋210の上方に打設されるコンクリートの被りは30mm程度であり、従って、コンクリート構造物表面の削り深さ(H0)は、30mm以内で、できるだけ浅い方がよく、又、軽量化のためにも定着具自体の小型化が好ましい。即ち、定着具の厚さ方向の寸法は、少なくとも60mm以下とされることが望まれる。
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するべく多くの研究実験を行った結果、図5〜図7に示す構成の定着具付きFRPプレート1にて、FRPプレート部材2を定着具3に固定するための充填材、即ち、膨張定着材12の配合を特異に調製して膨張圧を制御することと、定着具3の断面形状を最適化することにより達成し得ることを見出した。
【0013】
更に、本発明者らは、FRPプレート部材2について研究実験を行ったところ次のことが分かった。
【0014】
つまり、幅の狭いFRPプレート部材2では幅方向にかかる引張力はほぼ均等にかかるが、特に、強化繊維が一方向のみに配列された一方向配列強化繊維からなるFRPプレート部材2では、幅が広くなると、図19に示すように、幅方向にかかる引張力の分布(応力分布)に傾斜ができ、幅方向に端部から部分的に破断(以下、「片破断」という。)する可能性があることが分かった。片破断する場合には、引張耐力は低下する。
【0015】
本発明者らは、この片破断を防止するためにも種々の研究実験を行った。
【0016】
その結果、一方向に配置して形成された一方向配列強化繊維層の外層に多方向に繊維を配置した強化繊維の層を設けることにより、引張直角方向に力を分散させることができ、片破断を防止し得ることを見出した。また、斯かる構成により耐アルカリ性の向上をも図ることが可能となることが分かった。
【0017】
本発明は、斯かる本発明者らによる新規な知見に基づくものである。
【0018】
本発明の目的は、定着具を小型化、軽量化することができ、施工に際してコンクリート表面の削る深さを最小限として、作業性の向上を図ることができ、且つ定着具の引抜耐力が高い定着具付きFRPプレートを提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、片破断を防止し、引張耐力の低下を回避することのできる定着具付きFRPプレートを提供することである。
【0020】
更に、本発明の他の目的は、耐アルカリ性の向上を図ることのできる定着具付きFRPプレートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的は本発明に係る定着具付きFRPプレートにて達成される。要約すれば、本発明は、幅が35〜100mm、厚さが1〜4mmとされる矩形横断面形状を有し、軸線方向に延在した長尺のプレート状繊維強化プラスチックであるFRPプレート部材と、前記FRPプレート部材の両端に一体に取り付けた定着具と、を有する定着具付きFRPプレートであって、
前記定着具は、横断面が30〜60mmとされる短辺部と、前記短辺部より長い50〜200mmとされる長辺部とから成る矩形の外形状を有し、中心部には、前記FRPプレート部材の端部を受容するために、幅が40〜105mmであり、両端が半径5〜15mmの半円弧状とされるトラック形状の横断面を有した穴部を備え、
前記FRPプレート部材の各端部は、前記定着具の穴部内へと所定の定着長さだけ挿入し、その後、前記定着具の穴部の空隙に、膨張圧が10〜20N/mm2である膨張定着材を充填することによって、前記FRPプレート部材の両端に前記定着具を一体に取付けたことを特徴とする定着具付きFRPプレートである。
【0022】
本発明の一実施態様によると、前記膨張定着材は、単位量(m3)当たり、水をWkg、セメントをCkg、シリカフュームをSFkg、膨張材を300〜600kg含むとすると、水結合材比W/(C+SF)が30〜50%、シリカフューム置換率SF/(C+SF)が10〜30%である。本発明の他の実施態様によると、前記膨張材は、石灰系膨張材、エトリンガイト系膨張材、又は、エトリンガイト・石灰複合系膨張材である。
【0023】
本発明の他の実施態様によると、前記定着長さは、150〜400mmであり、また、前記定着具は、鋼製とされる。
【0024】
本発明の他の実施態様によると、前記FRPプレート部材の端部表面は、前記FRPプレート部材の端部表面に接着剤を塗布し、その上に粒状物を散布して接着することによって凹凸形状とされる。又、好ましくは、前記粒状物は、粒径が0.1mm〜5mmの珪砂或いは砕石である。
【0025】
本発明の他の実施態様によると、前記FRPプレート部材の端部表面は、前記FRPプレート部材部材の端部表面に強化繊維を巻き付け、接着剤にて表面に接着することによって凹凸形状とされる。
【0026】
本発明の他の実施態様によると、前記定着具の前記穴部の周面は、溝加工が施される。
【0027】
本発明の他の実施態様によると、前記FRPプレート部材は、強化繊維に樹脂を含浸して硬化したものであり、前記強化繊維は、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、又は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、PBOなどの有機繊維を一種、又は、複数種混入して使用され、前記樹脂は、熱硬化性樹脂である。前記熱硬化性樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂である。
【0028】
本発明の他の実施態様によると、前記FRPプレート部材の強化繊維は、前記FRPプレート部材の長手方向に沿って一方向に配列した一方向配列強化繊維とされるか、又は、クロスである。
【0029】
本発明の他の実施態様によると、前記FRPプレート部材の強化繊維は、前記FRPプレート部材の長手方向に沿って一方向に配列した一方向配列強化繊維にて形成される基材層としての一方向配列強化繊維層と、この一方向配列強化繊維層の両側面に配置された外側強化繊維層としての多方向配列強化繊維層を有する。
【0030】
本発明の他の実施態様によると、前記多方向配列強化繊維層は、マット又はクロスである。
【0031】
本発明の他の実施態様によると、前記FRPプレート部材の強化繊維は、前記多方向配列強化繊維層の外側に最外層として不織布層を有する。
【発明の効果】
【0032】
本発明の定着具付きFRPプレートによれば、定着具を小型化、軽量化することができ、施工に際してコンクリート表面の削る深さを最小限として、作業性の向上を図ることができ、且つ高い定着具引抜耐力を得ることができる。又、本発明の定着具付きFRPプレートによれば、片破断を防止し、引張耐力の低下を回避することができる。更には、本発明の定着具付きFRPプレートによれば、耐アルカリ性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係る定着具付きFRPプレートを図面に則して更に詳しく説明する。
【0034】
実施例1
図1及び図2に、本発明に係る定着具付きFRPプレート1の一実施例を示す。本実施例によると、定着具付きFRPプレート1は、FRPプレート部材2と、このFRPプレート部材2の両端に一体に取付けた定着具3と、を有する。
【0035】
(FRPプレート部材)
FRPプレート部材2は、強化繊維2aに樹脂2bを含浸させ硬化させたものであり、軸線方向に延在した長尺のプレート状、即ち、横断面にて幅方向長さ(Wp)に対して厚さ方向の長さ(Tp)が小さくされた(Wp≫Tp)、シート状或いは板状とされる。又、強化繊維2aは、FRPプレート部材2の長手方向、即ち、緊張力導入方向に沿って一方向に配列された一方向配列強化繊維とすることができ、場合によっては、クロス(織物)を使用することもできる。また、異なる構成の繊維層を積層して構成しても良い。
【0036】
本実施例によると、プレート状のFRPプレート部材2は、詳しくは後述するが、幅(Wp)が35〜100mm、厚さ(Tp)が1〜4mm、通常、2mm程度とされる矩形断面とされる。又、軸線方向の長さ(Lp)は、任意とし得るが、通常、2m以上、30m以内、場合によっては、30m以上とされる。
【0037】
FRPプレート部材2の強化繊維2aは、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、又は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、PBOなどの有機繊維を一種、又は、複数種混入して使用することができる。強化繊維2aに含浸されるマトリクス樹脂2bは、熱硬化性樹脂とされ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂とされる。
【0038】
FRPプレート部材2における樹脂含浸量、即ち、次式で定義される繊維割合Vfは、10〜99.9%、好ましくは、40〜70%、通常60%程度とされる。
繊維割合Vf(%)=(繊維の全体積)/(樹脂の全体積+繊維の全体積)
【0039】
上述のようにして作製されたFRPプレート部材2の端部は、その表面が凹凸形状とされる。このような凹凸形状表面は、例えば図1に示すように、FRPプレート部材2の端部表面に接着剤10を塗布し、その上に粒状物11を散布することによって形成し得る。これにより、FRPプレート部材端部の摩擦係数を高めることができる。
【0040】
接着剤10としては、例えば、エポキシ系接着剤などの任意のものを使用し得るが、FRPプレート部材2である繊維強化プラスチックに使用したマトリクス樹脂2bと相溶性の良いものを使用するのが好ましい。
【0041】
粒状物11としては、粒径が0.1mm〜5mmとされる珪砂或いは砕石が好ましい。
【0042】
FRPプレート部材2の端部表面の凹凸形状は、例えば、図2に示すように、FRPプレート部材2の端部表面に、紐状の繊維強化プラスチック11を巻き付け、例えば紐状繊維強化プラスチック11或はFRPプレート部材2の端部表面に塗布した接着剤10にてFRPプレート部材1の端部表面に接着することによっても形成し得る。
【0043】
FRPプレート部材2の端部に珪砂のような粒状物或は紐状繊維強化プラスチック11が固着されたあと、FRPプレート部材2の端部を所定長さ(定着長F)だけ定着具3の穴部4内へと挿入し、穴部4の空隙に充填材、即ち、膨張定着材12が充填される。膨張定着材12については後で詳しく説明する。
【0044】
上記構成により、FRPプレート部材2の両端部はそれぞれ、充填材12の膨張により穴部内に生じた内圧(膨張圧)によって圧縮状態の充填材12と完全に一体化され、これによって、定着具付きFRPプレート1が作製される。
【0045】
本実施例の定着具付きFRPプレート1によると、定着具3とFRPプレート部材2との間には、FRPプレート部材2への緊張力導入のために付加される引張力に十分対抗できる固定力を得ることができ、高い定着強度、即ち、引張耐力が得られる。
【0046】
このような構成の本実施例の定着具付きFRPプレート1は、軽量で耐食性に優れ、高い引張強度を有し、且つ定着具の引抜耐力が高く接合が容易なため、高耐力の補強材、或いは、緊張材として利用可能である。従って、例えば、橋梁や建築構造物の鉄筋コンクリート又はプレストレストコンクリート性の梁やスラブなどの部材の引張応力作用面にこの補強材を固定することで曲げ耐力の向上が図れる。
【0047】
(定着具)
次に、定着具3について詳しく説明する。
【0048】
先ず、定着具の外形状について言えば、もし、定着具3の横断面が円形状とされる場合には、定着具内部にFRPプレート部材2を受容するために必然的に定着具3の外形寸法は、FRPプレート部材2の幅方向長さより大とならざるを得ない。従って、100mm幅のFRPプレート部材3を定着することができ、しかも、定着具3の厚さ方向の長さを60mm以下とするといった、本発明の前提条件を満たすことができない。
【0049】
従って、本実施例によると、図3に示すように、定着具3は、厚さ(H)が30〜60mmとされる短辺部と、短辺部より長くされた幅(W)を有する長辺部とから成る矩形の外形状を有するものとした。短辺部の厚さ(H)は、後述するように、厚さ方向の強度を維持するために、30mm以上とされる。
【0050】
また、通常、図3、図4にて理解されるように、長径方向の肉厚t1部分において、最大応力が発生する。従って、この肉厚t1部分には、t1=10〜40mmの厚さが必要とされ、従って、長辺部の長さ(W)は、50mm以上、185mm以内とされる。185mmを越えるのは、定着具3の小型化、軽量化の点で好ましくない。
【0051】
次に、定着具3の中心部には、FRPプレート部材2の端部を挿入し保持するための穴部4が形成される。本実施例によると、図3に示すように、中心部には、プレート状とされるFRPプレート部材2の端部を受容するために、幅(w)が40〜105mmであり、両端が半径5〜15mmの半円弧状とされる高さ(h)を有した、所謂、トラック形状の横断面を有した穴部が形成される。穴部4の形状寸法については、穴部4に充填される充填材12との関係において後で説明する。
【0052】
また、穴部4の内周面には、充填材12と穴部内面との固着力を増大させ、充填材12と定着具3とのずれを防ぐために穴部周方向に溝4aを形成することも可能である。溝4aは、軸線方向に平行に複数形成するのが好ましい。図9に示す実施例では、穴部4の幅方向直線部のみに形成された。
【0053】
FRPプレート部材2の各端部は、定着具3の穴部内へと所定の定着長(F)(図1参照)だけ挿入し、その後、定着具3の穴部4の空隙に充填材である膨張定着材12を充填することによって、FRPプレート部材2の両端に定着具3が一体に定着される。本実施例で、定着長(F)は、150〜400mmとした。その理由は後述する。
【0054】
又、本実施例では、定着具1の穴部4の閉鎖端側である外側端部には外方へと突出して、取付部としてのボルト軸5が一体に形成されている。ボルト軸5は、複数設けても良い。
【0055】
図5〜図7に、本実施例の定着具付きFRPプレート1をコンクリート構造物200の表面に取り付けた状態を示す。
【0056】
本実施例によると、定着具1をコンクリート構造物200に取り付けるために、別部材として形成された取付具6が用意される。
【0057】
取付具6は、本実施例によると、図5〜図7に示すように、コンクリート構造物表面を削ることにより形成された凹所201を横断して配置された板状部材とされ、この支持板は、その中央部6aが肉厚とされ、凹所201内へと僅かに突出し、両端部6bがコンクリート構造物表面に取り付けられる。
【0058】
取付具6は、両端部6bに形成したボルト穴6cを利用して、コンクリート構造物200に植設されたアンカーボルト202に嵌合され、ナット203により固定される。
【0059】
一方、定着具3のボルト軸5は、取付具6の中央部6aに形成されたボルト穴6dを貫通して挿通され、ボルト軸5にナット5aが螺合されることにより、取付具6に定着具3が取り付けられる。
【0060】
又、補強施工時には、このボルト軸5が緊張装置(図示せず)に取り付けられ、FRPプレート部材2に緊張力を導入するのに利用される。その後、緊張が緩まないようにナット5aが締め付けられる。
【0061】
定着具3及び取付具6は、スチール(鋼材)にて作製される。本実施例では、鋼材SM490Yを使用した。
【0062】
(膨張定着材)
本実施例では、充填材12である膨張定着材(膨張ペースト)としては、水、セメント、シリカフューム及び膨張材を含むものを使用した。膨張材としては、石灰系膨張材又はエトリンガイト・石灰複合系膨張材を使用することができる。各成分は、次に説明する配合とすることによって、膨張圧10〜20N/mm2を得ることができた。
【0063】
つまり、膨張定着材は、単位量(m3)当たり、水をWkg、セメントをCkg、シリカフュームをSFkg、膨張材を300〜600kg含むとすると、水結合材比W/(C+SF)が30〜50%、シリカフューム置換率SF/(C+SF)が10〜30%とされる。
【0064】
次に、膨張定着材12について更に詳しく説明する。
【0065】
定着具付きFRPプレート1の緊張接着により既存コンクリート構造物200を補強する場合、定着具3の定着性能を把握し、定着具3の小型化、軽量化を図ることが必要である。
【0066】
本発明者らは、膨張定着材12、即ち、膨張ペーストを用いた付着型定着具3の定着特性を把握するために、膨張ペーストの最適配合を選定するための膨張圧試験を行った(シリーズI)。
【0067】
その結果から得られた膨張ペースト12の配合と、矩形断面を有する定着具3を用いた定着具付きFRPプレート1の引張試験を実施し、FRPプレート部材2の定着長(F)が定着性能に及ぼす影響について検討を行った(シリーズII)。
【0068】
A.実験概要
(1)シリーズI
表1に実験要因を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
膨張ペースト12には、セメントに普通ポルトランドセメント(密度:3.16g/cm3)、シリカフュームにノルウェー産粉体(密度:2.20g/cm3、比表面積:20m2/g)、膨張材にはエトリンガイト・石灰複合系膨張材(密度:2.90g/cm3)を使用した。
【0071】
図8に、拘束体30の概要図を示す。
【0072】
拘束体30の本体30aは、鋼管(圧力配管用炭素鋼鋼管 STPG38:外径42.7mm、肉厚3.6mm、長さ500mm)を使用し、両端に蓋部材30bを螺合し、密閉可能とした。本体30a内に膨張ペースト12を充填して3軸拘束下における膨張特性を検討した。
【0073】
膨張ペースト12の配合は、水結合材比[W/(C+FS)]を40%、シリカフューム置換率[SF/(C+SF)を20%とし、単位膨張材量を200、250、300、350、400、600kg/m3の6配合とした。
【0074】
鋼管中央部2箇所にひずみゲージ31(2軸2mm、1G3W、120Ω)を貼り付け、鋼管表面の軸方向及び周方向膨張ひずみの経時変化を恒湿恒温室(温度20±1℃、湿度90±5%)内で測定した。目標膨張圧は10〜20N/mm2とした。
【0075】
(2)シリーズII
表2に実験要因を示す。
【0076】
【表2】
【0077】
使用したFRPプレート部材2は、強化繊維として一方向に配列した炭素繊維を使用した、所謂、CFRPプレート部材であり、引抜成形型枠寸法を50mm×2mmとしてプルトルージョン法により作製した。つまり、CFRPプレート部材2は、幅(Wp)が50mm、厚さ(Tp)が2mmであった。又、全長(Lp)は1150mmとした。
【0078】
マトリクス樹脂としてはエポキシ樹脂を使用した。繊維体積含有率は70%で、理論引張強度は3395N/mm2、理論弾性係数は165kN/mm2の高強度タイプである。
【0079】
CFRPプレート部材2の両端部表面には、膨張ペースト12の付着を良好にする目的で珪砂を散布した。
【0080】
図9に、本実験で使用した矩形断面定着具3の断面を示す。
【0081】
つまり、定着具3は、厚さ(H)が40mmとされる短辺部と、幅(W)が84mmとされる長辺部とから成る矩形の外形状を有するものとした。
【0082】
定着具3の中心部には、プレート状とされるCFRPプレート部材2の端部を受容するために、幅(w)が52mmであり、両端は半径(R)が7.5mmの半円弧状とされる(即ち、高さ(h)が15mm)、所謂、トラック形状の横断面を有した穴部4が形成された。
【0083】
また、図示するように、トラック形状の穴部4には、膨張ペースト12と定着具3のずれを抑制するために、特に幅方向直線部(幅wg=37mm)において、断面が5×0.5mmとされる形状の溝4aが、軸線方向に10mmのピッチにて形成された。
【0084】
図10に、引張試験の概略を示す。
【0085】
引張試験において、供試体であるCFRPプレート部材2の下端は、上記構成の定着具3を取り付けた。
【0086】
このとき、引張試験において供試体に偏心力が作用しないように、定着具3には穴部4を延長してつかみ部3Aを設け、このつかみ部3Aには、充填材12のみが存在し、CFRPプレート部材2の端部は存在しないようにした。そして、このつかみ部3Aを万能試験機50の下方チャック51で直接把持した。つかみ部3Aの長さは150mmとした。
【0087】
なお、本引張試験において、定着長(F)は、150、300、400mmとして試験を行った。
【0088】
一方、CFRPプレート部材2の上端は、外径76.2mm、肉厚12mm、長さ350mmの鋼管の一端を閉鎖して構成した定着具40に取り付け、この定着具40を万能試験機50の上方チャック52で直接把持した。定着具40の内面にも溝40aを形成した。CFRPプレート部材2の上方端部は、定着具3による下方端部の定着と同様にして定着具40に定着した。
【0089】
測定項目は、最大荷重、プレートひずみ、矩形断面定着具3のひずみ、及び、口元変位であり、目視により破壊状況を確認した。口元変位は、矩形断面定着具3の入口部分に抜出変位計測器60を取り付け、計測を行った。
【0090】
なお、定着用膨張材の膨張状況を把握するために、引張試験直前まで、矩形断面定着具3の表面の膨張ひずみをひずみゲージ41(2軸2mm、1G3W、120Ω)により計測した。
【0091】
また、CFRPプレート部材2のひずみ状況を計測するために、上方定着具40より距離Lg=250mmの位置に、2個の1軸歪みゲージ42、42をプレート部材2の幅方向中央部に互いにWg=18mmだけ離間して配置した。
【0092】
(実験結果および考察)
(1)シリーズI
3軸拘束状態における軸方向及び周方向のケミカルプレストレスは、式(1)、(2)より求めた。
【0093】
【数1】
【0094】
ここで、
Es:拘束体の弾性係数、
ν:拘束体のポアソン比、
Asl:拘束体の軸方向断面積、
Acl:ペーストの断面積(=πr2/4)、
Ast:拘束体の周方向断面積(軸方向単位長さ当たりの拘束体周方向断面積の2倍)、
Act:r×1(r:ペースト断面の直径)、
εsl:拘束体の軸方向ひずみ、
εst:拘束体の周方向ひずみ
である。
【0095】
ケミカルプレストレスは、材齢3日から5日で最大値を示した後、材齢30日前後で一定値に落ち着いた。
【0096】
図11に、材齢30日におけるケミカルプレストレスと単位膨張材量の関係を示す。水結合材比40%、単位膨張材量400kg/m3の配合における周方向ケミカルプレストレスは、12.6N/mm2であり、単位膨張材量600kg/m3の配合における周方向ケミカルプレストレスは、18.5N/mm2であって、目標膨張圧(10〜20N/mm2)が得られることを確認した。
【0097】
(2)シリーズII
表3にプレートの引張試験結果、図12に引張応力とプレート中央ひずみの関係、図13に引張応力と口元変位の関係を示す。
【0098】
【表3】
【0099】
定着長(F)に関わらず、最大荷重及び弾性係数はほぼ同程度の値を示し、全ての供試体でCFRPプレート部材2が破断した。また、CFRPプレート部材2の定着長(F)に関わらず口元変位は同程度であり、最大荷重時で3mmであった。
【0100】
従って、膨張ペースト12を用いた矩形断面定着具3は、定着長(F)の範囲(150〜400mm)において十分な定着性能を有していると考えられる。
【0101】
定着長(F)の相違による最大引張荷重の差はほとんど観察されなかったことから、定着長(F)が最も短い150mmの定着具3でも十分な定着性能を有することが分かった。
【0102】
(定着具の断面寸法)
FRPプレート部材2の端部が挿入配置される定着具3の穴部内面に内圧として作用する膨張定着材12の膨張圧が高いと、定着具3に発生する応力が高くなるために、定着具3を形成している鋼材の肉厚が大きくなり、定着具3の寸法が大きくなる。
【0103】
上述のように、本実施例によれば、上述の配合とされた膨張定着材12を使用することにより、従来の略1/2とされる10〜20N/mm2の膨張圧を得ることができた。
【0104】
ここで、膨張圧15N/mm2を内圧と作用させて鋼材(SM490Y)の発生応力度を許容応力度190N/mm2以下とする形状をFEM解析により求めた。
【0105】
断面の決定に際しては、既設コンクリートの被りが30mm程度であることと、FRPプレート緊張工法における変高の角度が現行と大きく変化しないよう、60mm以内に収まることを条件として矩形状の検討を行った。
【0106】
計算結果を表4に示す。
【0107】
表4中、試料番号1、2が本実施例に従って構成された、図3に示す形状のFRPプレート用定着具である。試料番号3〜8は、比較例として作製したFRPプレート用定着具であり、試料番号3、4は、図14に示すように、穴部内面に入隅部(R部分)が形成されたFRPプレート用定着具を示す。また、試料番号5〜8は、図16に示すように、楕円形状とされるFRPプレート用定着具である。
【0108】
【表4】
【0109】
以下に断面寸法及び形状と応力分布の傾向についてその結果を纏めると次の通りであった。つまり、
(1)現行の50mmFRPプレート用の定着具(試料番号3)にて、最大主応力の最大値の位置は、細径方向の肉厚(t2)が極端に薄い定着具を除くと、穴部断面の入隅部(R部分)であった。そのときの応力分布状態を図15に示す。
(2)現行の50mmFRPプレート用の定着具の穴部断面を75mmFRPプレート用にした場合(試料番号4)には、即ち、穴部断面形状を入隅部(R部分)は5mmとし、幅を52mmから77mmに拡大した場合には、定着具の肉厚(t1、t2)が現行の2倍程度必要となった。
(3)最大主応力の低減は、穴部断面の入隅部における応力集中によるものであったことから、入隅部の断面力の分断範囲を広くすることで最大主応力の最大値を低減できた。本実施例に従った定着具(試料番号1、2)における応力分布状態を図4に示す。
(4)長径方向の肉厚t1を厚くすることでも最大主応力の最大値は低減できることが分かった。ただし、現行の細径方向の肉厚t2=16mm(h=54mm)程度では長径方向の肉厚t1は30mm(W=140mm)程度必要であり、その効果は小さかった。
(5)なお、外形状を楕円形状とした場合(試料番号5〜8)には、長径部円弧部分に応力が集中する。楕円形状が真円により近づけば応力集中は低減されるが、肉厚一定の楕円形状では、定着具の高さHが60mm以内となる範囲では許容値を満たす結果は得られなかった。
【0110】
結論として、定着具3の厚さ(H)を最少とするためには、外側は長方形状とし、内側の穴部形状は、長辺を直線、短辺を半円とした、所謂トラック形状で、半円の半径には最適寸法があることが分かった。
【0111】
つまり、半円の半径(R)を小さくし過ぎると、円弧部で応力集中が生じるため肉厚を厚くする必要があり、半径(R)を穴部4の幅(w)=40〜80mmに対して5〜15mmとすることにより、定着具3の厚さ(H)を最少とすることができた。
【0112】
実施例2
実施例1では、充填材12である膨張定着材(膨張ペースト)としては、水、セメント、シリカフューム及び膨張材を含むものを使用し、膨張材としては、石灰系膨張材又はエトリンガイト・石灰複合系膨張材を使用するものとした。
【0113】
しかしながら、膨張材としては、上記石灰系膨張材又はエトリンガイト・石灰複合系膨張材に限定されるものではない。本実施例では、エトリンガイト系の膨張材を使用し、実施例1と同様の効果を達成することができた。
【0114】
つまり、本実施例では、充填材12である膨張定着材(膨張ペースト)としては、水、セメント、シリカフューム及びエトリンガイト系膨張材を含むものを使用し、各成分を次に説明する配合とすることによって、膨張圧10〜20N/mm2を得ることができた。
【0115】
更に説明すると、本実施例では、膨張定着材は、単位量(m3)当たり、水をWkg、セメントをCkg、シリカフュームをSFkg、エトリンガイト系膨張材を300〜600kg含むとすると、水結合材比W/(C+SF)が30〜50%、シリカフューム置換率SF/(C+SF)が10〜30%とされる。
【0116】
また、本実施例にて、膨張ペースト12としては、セメントに普通ポルトランドセメント(密度:3.16g/cm3)、シリカフュームにノルウェー産粉体(密度:2.20g/cm3、比表面積:20m2/g)、膨張材にエトリンガイト系膨張材(密度:2.93g/cm3)を使用した。膨張ペースト12の配合は、水結合材比[W/(C+FS)]を40%、シリカフューム置換率[SF/(C+SF)を20%とし、本実施例では、単位膨張材量を400、500kg/m3の2配合とした。
【0117】
実施例1と同じ拘束体30を使用して、実施例1と同じ実験装置、実験方法及び計算式により、3軸拘束状態における軸方向及び周方向のケミカルプレストレスを求めた。その結果を図17及び図18に示す。
【0118】
図17及び図18から理解されるように、ケミカルプレストレスは、単位膨張量500kg/m3の配合において、10日以降目標膨張圧10〜20N/mm2を得ることができた。
【0119】
次に、上記結果から得られた膨張ペースト12の配合と、実施例1と同様のFRPプレート部材2及び定着具3を使用して、実施例1と同様にして引張試験を行った。
【0120】
引張試験の結果、本実施例においても、実施例1と同様の結果を得ることができた。
【0121】
つまり、定着長(F)に関わらず、最大荷重及び弾性係数はほぼ同程度の値を示し、全ての供試体でCFRPプレート部材2が破断した。また、CFRPプレート部材2の定着長(F)に関わらず口元変位は同程度であり、最大荷重時で3mmであった。
【0122】
従って、本実施例の膨張ペースト12を用いた矩形断面定着具3は、定着長(F)の範囲(150〜400mm)において十分な定着性能を有していると考えられる。
【0123】
定着長(F)の相違による最大引張荷重の差はほとんど観察されなかったことから、定着長(F)が最も短い150mmの定着具3でも十分な定着性能を有することが分かった。
【0124】
実施例3
実施例1では、FRPプレート部材2は、強化繊維2aに樹脂2bを含浸させ硬化させたものであり、軸線方向に延在した長尺のプレート状、即ち、横断面にて幅方向長さ(Wp)に対して厚さ方向の長さ(Tp)が小さくされた(Wp≫Tp)、シート状或いは板状とされ、特に、強化繊維2aは、FRPプレート部材2の長手方向、即ち、緊張力導入方向に沿って一方向に配列された一方向配列強化繊維層であるか、または、クロス(織物)を使用するものとした。
【0125】
上述したように、本発明者らの更なる研究実験の結果によると、幅の狭いFRPプレート部材2では幅方向にかかる引張力はほぼ均等にかかるが、特に、実施例1で説明した強化繊維2aが一方向のみに繊維を配置した一方向配列強化繊維層からなるFRPプレート部材2では、幅が広くなると、図19に示すように、幅方向にかかる引張力の分布(応力分布)に傾斜ができ、幅方向に端部から部分的に破断(即ち、片破断)する可能性があることが分かった。片破断する場合には、引張耐力は低下する。
【0126】
本発明者らは、この片破断を防止するために種々の研究実験を行った。
【0127】
その結果、一方向に配置した強化繊維層の外層に多方向に繊維を配置した強化繊維の層を設けることにより、引張直角方向に力を分散させることができ、片破断を防止し得ことを見出した。
【0128】
図20に、本実施例に従って構成されるFRPプレート部材2の強化繊維2aの横断面形状を示す。
【0129】
本実施例による強化繊維2aは、実施例1で説明したように、FRPプレート部材2の長手方向、即ち、緊張力導入方向に沿って一方向に配列された一方向配列強化繊維にて形成される基材層としての一方向配列強化繊維層2a1と、この一方向配列強化繊維層の両側面に配置された外側強化繊維層2a2と、の複数層にて構成される。
【0130】
特に、本実施例によれば、各外側強化繊維層2a2は、一方向配列強化繊維層2a1に直接積層された多方向配列強化繊維層2a2−Aを有する。即ち、一方向配列強化繊維層2a1を多方向配列強化繊維層2a2−Aにて挟持する構成とされる。更に、本実施例によれば、この多方向配列強化繊維層2a2−Aの外層であり、且つ、強化繊維2aの最外層を形成する不織布層2a2−Bと、にて構成される。
【0131】
本実施例によると、プレート状のFRPプレート部材2は、実施例1と同様に、幅(Wp)が35〜100mm、厚さ(Tp)が1〜4mm、通常、3mm程度とされる矩形断面とされる。又、軸線方向の長さ(Lp)は、任意とし得るが、通常、2m以上、30m以内、場合によっては、30m以上とされる。
【0132】
FRPプレート部材2における強化繊維2aの基材層をなす一方向配列強化繊維層2a1のための強化繊維としては、実施例1の場合と同様に、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、又は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、PBOなどの有機繊維を一種、又は、複数種混入して使用することができる。
【0133】
強化繊維2aの外側強化繊維層2a2をなす多方向配列強化繊維層2a2−Aは、マット状或いはフェルト状のシート、又は、クロス(織物)にて形成され、そのための強化繊維としては、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、又は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、PBOなどの有機繊維が好適に使用される。クロス(織物)は、強化繊維を使用して織成された、繊維の主軸が2軸、3軸、4軸とされるシート状の織物とすることができる。例えば、強化繊維を二方向に配向させた平織物、綾織物、朱子織物や、強化繊維2を三方向、四方向に配向させた3軸、4軸織物などを使用することができる。また、クロスは、1枚の織物シートで構成することもでき、又は、同じ構成の、或いは、異なる構成の複数枚の織物シートを積層して構成しても良い。
【0134】
また、強化繊維2aの最外層としての外側強化繊維層2a2をなす最外層層2a2−Bは、不織布にて形成され、そのための強化繊維としては、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、又は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、PBOなどの有機繊維を好適に使用することができる。本実施例にて、不織布とは、マット状又はフェルト状のシートを意味するものとする。
【0135】
強化繊維2a、即ち、一方向配列強化繊維層2a1、多方向配列強化繊維層2a2−A、最外層2a2−Bに含浸されるマトリクス樹脂2bは、熱硬化性樹脂とされ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂とされる。
【0136】
FRPプレート部材2の各繊維層における樹脂含浸量、即ち、次式で定義される繊維割合Vfは、10〜99.9%、好ましくは、40〜70%、通常60%程度とされる。
繊維割合Vf(%)=(繊維の全体積)/(樹脂の全体積+繊維の全体積)
【0137】
上述のようにして作製されたFRPプレート部材2の端部は、実施例1の場合と同様にして、所定長さ(定着長F)だけ定着具3の穴部4内へと挿入し、穴部4の空隙に充填材、即ち、膨張定着材12が充填される。膨張定着材12は、実施例1、2にて説明したものが好適に使用される。
【0138】
上記構成により、FRPプレート部材2の両端部はそれぞれ、充填材12の膨張により穴部内に生じた内圧(膨張圧)によって圧縮状態の充填材12と完全に一体化され、これによって、定着具付きFRPプレート1が作製される。
【0139】
本実施例の定着具付きFRPプレート1によると、定着具3とFRPプレート部材2との間には、FRPプレート部材2への緊張力導入のために付加される引張力に十分対抗できる固定力を得ることができ、高い定着強度、即ち、引張耐力が得られる。
【0140】
このような構成の本実施例の定着具付きFRPプレート1は、軽量で耐食性に優れ、高い引張強度を有し、且つ定着具の引抜耐力が高く接合が容易なため、高耐力の補強材、或いは、緊張材として利用可能である。従って、例えば、橋梁や建築構造物の鉄筋コンクリート又はプレストレストコンクリート性の梁やスラブなどの部材の引張応力作用面にこの補強材を固定することで曲げ耐力の向上が図れる。
【0141】
更に、本実施例の定着具付きFRPプレート1は、一方向配列強化繊維層2a1の外側に多方向配列強化繊維層2a2−Aを積層し、一方向配列強化繊維層2a1を多方向配列強化繊維層2a2−Aにて挟持する態様(即ち、サンドイッチ構造)の構成とされるので片破断を防止することができる。又、例えばガラス繊維などの耐アルカリ性の弱い強化繊維などを用いた場合は、最外層に、例えば有機繊維などにより作製した耐アルカリ性の強い不織布層2a2−Bを配置することで、不織布層2a2−Bが内層繊維層の保護層となり耐アルカリ性の向上を図ることができる。また、内層繊維の傷防止機能をも有している。
【0142】
上記構成の本実施例の定着具付きFRPプレート1について引張試験を行った。試験装置及び試験方法は、実施例1にて説明したと同様であった。
【0143】
なお、本実験にて比較例としては、実施例1で説明した構成の、即ち、強化繊維2aが一方向に配列した強化繊維層のみからなるFRPプレート部材2を採用した。
【0144】
表5に、比較例として使用した定着具付きFRPプレートの実験要因を示す。
【0145】
【表5】
【0146】
表6に、本実験にて使用した本実施例の定着具付きFRPプレートの実験要因を示す。
【0147】
【表6】
【0148】
又、本実施例及び比較例にて、膨張ペースト12は、実施例2で説明したエトリンガイト系膨張材を使用した。また、水結合材比40%、エトリンガイト系膨張材の単位体積重量は、本実施例は450kg/m3であり、比較例は500kg/m3であった。
【0149】
本実験にて使用した本実施例のFRPプレート部材2は、強化繊維2aの基材層をなす一方向配列強化繊維層2a1のための強化繊維としては、炭素繊維を使用し、多方向配列強化繊維層2a2−Aのための強化繊維としては、マット状のガラス繊維シートを使用した。又、本実験例では、強化繊維2aの最外層として多方向配列強化繊維層2a2−Aの外層をなす最外層層2a2−Bを設け、この強化繊維としては、マット状のガラス繊維シートを使用した。
【0150】
強化繊維2aの厚み(Tp)は3mmであった。つまり、一方向配列強化繊維層2a1の厚み(Tp1)が2.2mm、多方向配列強化繊維層2a2−Aの厚み(Tp2)が0.3mm、最外層2a2−Bの厚み(Tp3)が0.1mmとされた。
【0151】
これら多層からなるFRPプレート部材2は、引抜成形型枠寸法を75mm×3mmとしてプルトルージョン法により作製した。つまり、FRPプレート部材2は、幅(Wp)が750mm、厚さ(Tp)が3mmであった。又、全長(Lp)は1150mmとした。
【0152】
マトリクス樹脂としてはビニルエステル樹脂を使用した。繊維体積含有率は66.5%で、FRPプレート部材の引張耐力は548kNである。
【0153】
FRPプレート部材2の両端部表面には、膨張ペースト12の付着を良好にする目的で珪砂を散布した。
【0154】
実施例1で説明した、図9に示す形状の矩形断面定着具3を使用した。
【0155】
つまり、定着具3は、厚さ(H)が51mmとされる短辺部と、幅(W)が140mmとされる長辺部とから成る矩形の外形状を有するものとした。
【0156】
定着具3の中心部には、プレート状とされるFRPプレート部材2の端部を受容するために、幅(w)が77mmであり、両端は半径(R)が12.5mmの半円弧状とされる(即ち、高さ(h)が25mm)、所謂、トラック形状の横断面を有した穴部4が形成された。
【0157】
また、図示するように、トラック形状の穴部4には、膨張ペースト12と定着具3のずれを抑制するために、特に幅方向直線部(幅wg=52mm)において、断面が5×0.5mmとされる形状の溝4aが、軸線方向に10mmのピッチにて形成された。
【0158】
なお、本実験における引張試験において、定着長(F)は、200、350mmとして試験を行った。また、比較例の引張試験において、定着長(F)は、200、250、300、350mmとして試験を行った。表7に比較例の、表8に本実施例の試験結果を示す。
【0159】
【表7】
【0160】
【表8】
【0161】
(引張試験結果)
膨張ペースト12としてのエトリンガイト系膨張材に関しては、定着長350mmは、十分な定着性能を有していると考えられる。
【0162】
また、FRPプレート部材2に関しては、比較例としてあげた強化繊維が一方向配列強化繊維のみからなる炭素繊維プレート部材では、定着長200、250、300mmの範囲で片破断を起こした。
【0163】
本実施例によるFRPプレート部材2では、片破断は見られず、一方向配列強化繊維層2a1の外側に多方向配列強化繊維層2a2−Aを積層し、一方向配列強化繊維層2a1を多方向配列強化繊維層2a2−Aにて挟持するサンドイッチ構造の効果があることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】本発明に係る定着具付きFRPプレートの断面側面図である。
【図2】本発明に係る定着具付きFRPプレートにおけるFRPプレートの端部表面凹凸形状の他の実施例を示す斜視図である。
【図3】図1の線A−Aにとった定着具の正面図である。
【図4】FEM解析による、本発明に従った定着具の応力分布を示す図である。
【図5】本発明に係る定着具付きFRPプレートをコンクリート構造物表面に緊張施工した状態を示す断面図である。
【図6】本発明に係る定着具付きFRPプレートをコンクリート構造物表面に緊張施工した状態を示す平面図である。
【図7】図6の線B−Bにとった定着具付きFRPプレートをコンクリート構造物表面に緊張施工した状態を示す断面図である。
【図8】膨張定着材の実験に使用した拘束体の概要を示す斜視図である。
【図9】本発明に係る定着具付きFRPプレートの効果を実証するための実験に使用した定着具の横断面図である。
【図10】本発明に係る定着具付きFRPプレートの効果を実証するための引張り試験装置と、使用した定着具付きFRPプレートの構成を示す横断面図である。
【図11】ケミカルストレスと単位膨張材量の関係を示すグラフである。
【図12】引張応力と、FRPプレート中央ひずみの関係を示すグラフである。
【図13】引張応力と、口元変位の関係を示すグラフである。
【図14】比較例としての定着具の正面図である。
【図15】FEM解析による、比較例としての図14に示す定着具の応力分布を示す図である。
【図16】比較例としての定着具の正面図である。
【図17】本発明の他の実施例におけるケミカルストレスと経過時間の関係を示すグラフである。
【図18】本発明の他の実施例におけるケミカルストレスと経過時間の関係を示すグラフである。
【図19】本発明の定着具付きFRPプレートにおける片破断を説明するための説明図である。
【図20】本発明の定着具付きFRPプレートの他の実施例を示す、FRPプレートの横断面図である。
【図21】FRPプレートを使用した橋梁上部の緊張接着工法を説明する図である。
【符号の説明】
【0165】
1 定着具付きFRPプレート
2 繊維強化プラスチック部材(FRPプレート部材)
3 定着具
4 穴部
5 ネジ軸
6 取付具
12 膨張定着材(膨張ペースト)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅が35〜100mm、厚さが1〜4mmとされる矩形横断面形状を有し、軸線方向に延在した長尺のプレート状繊維強化プラスチックであるFRPプレート部材と、前記FRPプレート部材の両端に一体に取り付けた定着具と、を有する定着具付きFRPプレートであって、
前記定着具は、横断面が30〜60mmとされる短辺部と、前記短辺部より長い50〜200mmとされる長辺部とから成る矩形の外形状を有し、中心部には、前記FRPプレート部材の端部を受容するために、幅が40〜105mmであり、両端が半径5〜15mmの半円弧状とされるトラック形状の横断面を有した穴部を備え、
前記FRPプレート部材の各端部は、前記定着具の穴部内へと所定の定着長さだけ挿入し、その後、前記定着具の穴部の空隙に、膨張圧が10〜20N/mm2である膨張定着材を充填することによって、前記FRPプレート部材の両端に前記定着具を一体に取付けたことを特徴とする定着具付きFRPプレート。
【請求項2】
前記膨張定着材は、単位量(m3)当たり、水をWkg、セメントをCkg、シリカフュームをSFkg、膨張材を300〜600kg含むとすると、水結合材比W/(C+SF)が30〜50%、シリカフューム置換率SF/(C+SF)が10〜30%であることを特徴とする請求項1の定着具付きFRPプレート。
【請求項3】
前記膨張材は、石灰系膨張材、エトリンガイト系膨張材、又は、エトリンガイト・石灰複合系膨張材であることを特徴とする請求項2の定着具付きFRPプレート。
【請求項4】
前記定着長さは、150〜400mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項5】
前記定着具は、鋼製とされることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項6】
前記FRPプレート部材の端部表面は、前記FRPプレート部材の端部表面に接着剤を塗布し、その上に粒状物を散布して接着することによって凹凸形状とされることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項7】
前記粒状物は、粒径が0.1mm〜5mmの珪砂或いは砕石であることを特徴とする請求項6の定着具付きFRPプレート。
【請求項8】
前記FRPプレート部材の端部表面は、前記FRPプレート部材部材の端部表面に強化繊維を巻き付け、接着剤にて表面に接着することによって凹凸形状とされることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項9】
前記定着具の前記穴部の周面は、溝加工が施されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項10】
前記FRPプレート部材は、強化繊維に樹脂を含浸して硬化したものであり、前記強化繊維は、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、又は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、PBOなどの有機繊維を一種、又は、複数種混入して使用され、前記樹脂は、熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項11】
前記FRPプレート部材の強化繊維は、前記FRPプレート部材の長手方向に沿って一方向に配列した一方向配列強化繊維とされるか、又は、クロスであることを特徴とする請求項10の定着具付きFRPプレート。
【請求項12】
前記FRPプレート部材の強化繊維は、前記FRPプレート部材の長手方向に沿って一方向に配列した一方向配列強化繊維にて形成される基材層としての一方向配列強化繊維層と、この一方向配列強化繊維層の両側面に配置された外側強化繊維層としての多方向配列強化繊維層を有することを特徴とする請求項10の定着具付きFRPプレート。
【請求項13】
前記多方向配列強化繊維層は、マット又はクロスであることを特徴とする請求項12の定着具付きFRPプレート。
【請求項14】
前記FRPプレート部材の強化繊維は、前記多方向配列強化繊維層の外側に最外層として不織布層を有することを特徴とする請求項12又は13の定着具付きFRPプレート。
【請求項15】
前記熱硬化性樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂であることを特徴とする請求項10〜14のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項1】
幅が35〜100mm、厚さが1〜4mmとされる矩形横断面形状を有し、軸線方向に延在した長尺のプレート状繊維強化プラスチックであるFRPプレート部材と、前記FRPプレート部材の両端に一体に取り付けた定着具と、を有する定着具付きFRPプレートであって、
前記定着具は、横断面が30〜60mmとされる短辺部と、前記短辺部より長い50〜200mmとされる長辺部とから成る矩形の外形状を有し、中心部には、前記FRPプレート部材の端部を受容するために、幅が40〜105mmであり、両端が半径5〜15mmの半円弧状とされるトラック形状の横断面を有した穴部を備え、
前記FRPプレート部材の各端部は、前記定着具の穴部内へと所定の定着長さだけ挿入し、その後、前記定着具の穴部の空隙に、膨張圧が10〜20N/mm2である膨張定着材を充填することによって、前記FRPプレート部材の両端に前記定着具を一体に取付けたことを特徴とする定着具付きFRPプレート。
【請求項2】
前記膨張定着材は、単位量(m3)当たり、水をWkg、セメントをCkg、シリカフュームをSFkg、膨張材を300〜600kg含むとすると、水結合材比W/(C+SF)が30〜50%、シリカフューム置換率SF/(C+SF)が10〜30%であることを特徴とする請求項1の定着具付きFRPプレート。
【請求項3】
前記膨張材は、石灰系膨張材、エトリンガイト系膨張材、又は、エトリンガイト・石灰複合系膨張材であることを特徴とする請求項2の定着具付きFRPプレート。
【請求項4】
前記定着長さは、150〜400mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項5】
前記定着具は、鋼製とされることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項6】
前記FRPプレート部材の端部表面は、前記FRPプレート部材の端部表面に接着剤を塗布し、その上に粒状物を散布して接着することによって凹凸形状とされることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項7】
前記粒状物は、粒径が0.1mm〜5mmの珪砂或いは砕石であることを特徴とする請求項6の定着具付きFRPプレート。
【請求項8】
前記FRPプレート部材の端部表面は、前記FRPプレート部材部材の端部表面に強化繊維を巻き付け、接着剤にて表面に接着することによって凹凸形状とされることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項9】
前記定着具の前記穴部の周面は、溝加工が施されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項10】
前記FRPプレート部材は、強化繊維に樹脂を含浸して硬化したものであり、前記強化繊維は、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、又は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、PBOなどの有機繊維を一種、又は、複数種混入して使用され、前記樹脂は、熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【請求項11】
前記FRPプレート部材の強化繊維は、前記FRPプレート部材の長手方向に沿って一方向に配列した一方向配列強化繊維とされるか、又は、クロスであることを特徴とする請求項10の定着具付きFRPプレート。
【請求項12】
前記FRPプレート部材の強化繊維は、前記FRPプレート部材の長手方向に沿って一方向に配列した一方向配列強化繊維にて形成される基材層としての一方向配列強化繊維層と、この一方向配列強化繊維層の両側面に配置された外側強化繊維層としての多方向配列強化繊維層を有することを特徴とする請求項10の定着具付きFRPプレート。
【請求項13】
前記多方向配列強化繊維層は、マット又はクロスであることを特徴とする請求項12の定着具付きFRPプレート。
【請求項14】
前記FRPプレート部材の強化繊維は、前記多方向配列強化繊維層の外側に最外層として不織布層を有することを特徴とする請求項12又は13の定着具付きFRPプレート。
【請求項15】
前記熱硬化性樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂であることを特徴とする請求項10〜14のいずれかの項に記載の定着具付きFRPプレート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2006−97462(P2006−97462A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258406(P2005−258406)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(591030178)ドーピー建設工業株式会社 (16)
【出願人】(500442881)株式会社国際建設技術研究所 (5)
【出願人】(599104369)日鉄コンポジット株式会社 (51)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(591030178)ドーピー建設工業株式会社 (16)
【出願人】(500442881)株式会社国際建設技術研究所 (5)
【出願人】(599104369)日鉄コンポジット株式会社 (51)
【Fターム(参考)】
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