説明

定着装置および画像形成装置

【課題】ベルトの非通紙領域の過昇温を抑制するとともに、画像ノイズの発生を抑制できる定着装置および画像形成装置を提供する。
【解決手段】定着ベルト51の外周面に設けられた一対の電極層515a,515bに接触して、外部電源500からの電力を抵抗発熱体層512に給電する一対の給電部材54a,54bと、定着ベルト51の一対の電極層515a,515b間の発熱域51aにおける非通紙領域を、加圧ローラー53を介して間接的に冷却する冷却手段80(冷却ダクト81,82)を備える。そして、加圧ローラー53の外周面53aの回転軸J方向の長さを、一対の電極層515a,515bの距離以上、一対の給電部材54a,54b間の距離未満とし、かつ、当該外周面53aが、回転軸J方向において、一対の給電部材54a,54b間にあって定着ベルト51の発熱域51a全体と接するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および当該定着装置を用いた画像形成装置に関し、特に、抵抗発熱体層を含むベルトを用いた定着装置において、ベルトの非通紙領域における過昇温を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンター、複写機等の画像形成装置の定着装置として、ジュール発熱する抵抗発熱体の層を含むベルトを用いた定着装置が利用されている。
特許文献1には、抵抗発熱体層を含む無端状のベルトと、ベルトの外周面を押圧してニップ部を形成する加圧ローラーとを備え、ニップ部に未定着画像が形成されたシートを通紙して熱定着させる定着装置が開示されている。ベルト外周面には、その幅方向(回転軸方向)両端に金属製の環状電極が設けられ、各環状電極に、外部電源に接続された給電部材を摺接させることにより抵抗発熱体層に給電がなされる構成となっている。給電された電流は、抵抗発熱体層の環状電極間をベルト幅方向に流れ、ジュール発熱し、ベルトが加熱される。
【0003】
このような定着装置では、通紙時において、ベルトのシートが通過する通紙領域では、シートにベルトの熱が奪われるが、シートが通過しない非通紙領域では熱が奪われないので通紙領域よりも温度が高くなる。通常、通紙領域の温度が定着温度になるようにベルトの加熱が行われるため、連続印刷時には、シートに熱が奪われない非通紙領域の温度が、許容範囲を超えて過昇温となる怖れがある。
【0004】
そこで、定着装置のハウジング内にダクトを配し、ダクトを介して外気などの冷却媒体をベルトの非通紙領域に当てて冷却することが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−109997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが確認したところ、上記構成の定着装置では、ベルトの非通紙領域に当てた外気の一部が、非通紙領域近傍の通紙領域に流れ込み、そのために当該近傍における通紙領域の温度が低下して、定着不良が生じることが判明した。
そこで、本発明者らは、このような定着不良が発生するのを抑制しつつベルトの非通紙領域を冷却するため、まず外気などにより加圧ローラーの非通紙領域を冷却し、冷却した加圧ローラーを介してベルトの非通紙領域の熱を奪い冷却する構成を考案している。
【0007】
この場合、冷却により加圧ローラーの通紙領域の一部の温度が低下したとしても、ベルトと加圧ローラーとの間に通紙されるシートが断熱材の役割を果たすため、当該温度低下に伴いベルトの通紙領域の温度が低下するのが抑制され、定着不良の発生を抑制することができる。また、加圧ローラーは、シートの未定着画像が形成された面の裏側と接するので、その温度低下が未定着画像の熱定着に与える影響は小さく、加圧ローラーの温度低下そのものにより定着不良が発生する可能性は低い。
【0008】
ところが、このような構成の場合、加圧ローラーの外周面(以下、「ローラー周面」という。)の回転軸方向の長さがベルトの環状電極間の距離よりも短いと、ベルトの給電により発熱する領域(環状電極間の領域)の回転軸方向の端部に、ローラー周面と接しない部分が生じるため、当該接しない部分において過昇温が発生する怖れがある。
逆に、ローラー周面の当該長さが環状電極間の距離より長い場合でも、給電部材間の距離よりも長くなり過ぎると、環状電極との接触により発生した給電部材の摩耗粉が、ローラー周面に付着して画像ノイズを引き起こす恐れがあることが判明した。給電部材の摩耗粉は、まず環状電極に付着し、ニップ部においてローラー周面側に移動(付着)する。さらにニップ部内で受ける圧により回転軸方向内側の通紙領域側へと押しやられ、ベルトの外周面にも付着する。こうしてベルトの通紙領域まで移動した摩耗粉が、シートに擦り付けられて画像ノイズを引き起こすのである。特に、ローラー形状が回転軸方向中心に向かうほど縮径された逆クラウン形状の場合、当該問題が顕著となることも分かった。
【0009】
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたものであって、ベルトの非通紙領域の過昇温を抑制するとともに、画像ノイズの発生を抑制できる定着装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る定着装置は、抵抗発熱体層を含み、回転走行する無端状のベルトの外周面に加圧回転体を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に未定着画像が形成されたシートを通紙して熱定着させるものであって、前記ベルトの外周面に設けられた一対の環状電極に接触して、外部電源からの電力を前記抵抗発熱体層に給電する一対の給電部材と、前記ベルトの一対の環状電極間の領域であり、かつシートが通過しない非通紙領域を、前記加圧回転体を介して間接的に冷却する冷却手段と、を備え、前記加圧回転体の外周面の回転軸方向の長さが、一対の環状電極間の距離以上、一対の給電部材間の距離未満であり、かつ、当該外周面が、回転軸方向において、一対の給電部材間にあって前記ベルトの環状電極間の領域全体と接していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記構成の定着装置によれば、加圧回転体の外周面の回転軸方向の長さが、ベルトの一対の環状電極間の距離以上あり、当該外周面がベルトの環状電極間の領域全体と接しているので、冷却手段により加圧回転体を冷却することによって、加圧回転体を介して、ベルトの給電により発熱する環状電極間の領域内の、非通紙領域全体を冷却することができる。これにより、ベルトの非通紙領域における過昇温を抑制することができる。
【0012】
また、加圧回転体の外周面の回転軸方向の長さは、一対の給電部材間の距離未満であって、当該外周面が、回転軸方向において一対の給電部材間にある。このため、環状電極に擦りつけられた給電部材の摩耗粉が、加圧回転体の外周面に接触して付着し難い。したがって、給電部材の摩耗粉が加圧回転体の外周面を介して通紙領域まで移動しなくなるので、画像ノイズの発生を抑制することができる。
【0013】
ここでの冷却手段は、加圧回転体の外周面の、ベルトの環状電極間における非通紙領域に対応する領域を冷却するのが望ましい。また、加圧回転体の外周面における回転軸方向の少なくとも一方の端縁が、ベルトの環状電極間の領域よりも回転軸方向外側に延びている場合には、冷却手段は、さら加圧回転体の環状電極と重なる領域も合わせて冷却するのが望ましい。
【0014】
冷却手段は、冷却媒体を供給する供給ダクトで構成され、供給ダクトの冷却媒体の排出口が、特定サイズのシートを通紙したときの加圧回転体の外周面の非通紙領域に対向して配され、通紙されるシートのサイズに応じて、供給ダクトの排出口の開口幅を調整する調整手段が設けられているのが望ましい。
この調整手段が、シャッターと、シャッターを駆動するシャッター駆動手段と、シャッター駆動手段を介してシャッターを開閉制御する開閉制御手段とで構成されているのが望ましい。または、調整手段が、ルーバーと、ルーバーを駆動するルーバー駆動手段と、ルーバー駆動手段を介してルーバーの角度を制御する角度制御手段とで構成されているのが望ましい。
【0015】
また、ここでは、供給ダクトから、冷却媒体が加圧回転体の外周面に沿うように供給されるのが望ましく、より望ましは、冷却媒体が、加圧回転体の回転方向と逆方向に向けて供給される構成である。
ここでの冷却媒体は、装置外から取り込まれた空気であるのが望ましい。
また、本発明は、上記構成の定着装置を備えた画像形成装置であってもよく、これにより上記構成の定着装置と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るプリンターの構成を示す概略図である。
【図2】上記プリンターが有する定着部の主要部の構成を示す斜視図である。
【図3】図2の定着部を仮想面Vで切断したときのY´方向から見た断面図である。
【図4】定着ベルトの積層構造を説明するための部分断面図である。
【図5】冷却部の構成を説明するための斜視図である。
【図6】ダクトと定着ベルトおよび加圧ローラーとの回転軸方向における位置関係を模式的に示す図である。
【図7】(a)は、シートサイズBの記録シートが通紙されたときの、シャッターおよびダクトの排出口の状態を示す図であり、(b)は、シートサイズAの記録シートが通紙されたときの、シャッターおよびダクトの排出口の状態を示す図である。
【図8】制御部の構成と、制御部による制御対象となる主構成要素との関係を示すブロック図である。
【図9】第2の実施の形態に係る定着部が有する冷却部の構成を示す斜視図である。
【図10】通紙される記録シートのサイズと、ルーバー制御との関係を説明するための図である。
【図11】ダクトの変形例を示す断面図である。
【図12】定着ベルトの変形例を示す部分断面図である。
【図13】定着ベルトの変形例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1の実施の形態>
以下、本発明に係る画像形成装置の第1の実施の形態について、タンデム型カラープリンター(以下、単に「プリンター」という)を例にして図面に基づき説明する。
<プリンターの全体構成>
図1は、プリンターの構成を示す概略図である。
【0018】
同図に示すように、プリンター1は、画像プロセス部3、給紙部4、定着部5および制御部60を備えている。このプリンター1は、ネットワーク(例えばLAN)に接続されていて、外部の端末装置(不図示)からのプリントジョブの実行指示を受付けると、その指示に基づいてイエロー、マゼンダ、シアンおよびブラックの各色のトナー像を形成し、これらを多重転写してカラー画像の形成を行う。
【0019】
以下、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの各再現色をY,M,C,Kと表し、各再現色に関連する構成部分の番号にこのY,M,C,Kを添字として付加する。
画像プロセス部3は、Y〜K色のそれぞれに対応する作像部3Y,3M,3C,3K、光学部10、中間転写ベルト11などを備えている。
作像部3Yは、感光体ドラム31Y、その周囲に配設された帯電器32Y、現像器33Y、一次転写ローラー34Y、感光体ドラム31Yを清掃するためのクリーナー35Yなどを備え、感光体ドラム31Y上にY色のトナー像を作像する。他の作像部3M〜3Kについても、トナーの色が異なる以外は作像部3Yと同様の構成になっており、同図では符号を省略している。
【0020】
中間転写ベルト11は、無端状のベルトであり、駆動ローラー12と従動ローラー13に張架されて矢印A方向に循環走行される。
光学部10は、レーザーダイオードなどの発光素子を備え、制御部60からの駆動信号によりY〜K色の画像形成のためのレーザー光Lを発し、帯電器32Y〜32Kにより帯電された感光体ドラム31Y〜31K上を露光走査する。この露光走査により、感光体ドラム31Y〜31K上に静電潜像が形成される。
【0021】
各静電潜像は現像器33Y〜33Kにより現像されて、感光体ドラム31Y〜31K上にY〜K色のトナー像が作像される。
中間転写ベルト11には、各作像部において作像されたトナー像が多重転写される。
給紙部4は、記録シートSを収容する給紙カセット41、給紙カセット41内の記録シートSを搬送路43上に1枚ずつ繰り出す給紙ローラー42、繰り出された記録シートSを二次転写位置46に送り出すタイミングをとるためのタイミングローラー対44などを備えている。給紙部4から給送された記録シートSには、二次転写位置46において二次転写ローラー45による静電力の作用により、中間転写ベルト11上のトナー像が二次転写される。二次転写位置46を通過した記録シートSは、さらに定着部5に搬送され、記録シートS上のトナー像(未定着画像)が定着部5における加熱、加圧により記録シートSに定着された後、排出ローラー対71を介して排出トレイ72上に排出される。
【0022】
制御部60は、これら画像プロセス部3、給紙部4および定着部5などを制御するものであり、詳細については後述する。
<定着部の構成>
次に、定着部5の構成について、図2および図3を参照しながら説明する。
図2は、定着部5の主要部の構成を示す斜視図であり、図3は、図2の仮想面Vで切断したときのY´方向から見た断面図である。
【0023】
定着部5は、抵抗発熱体層512を有する無端状の定着ベルト51、定着ベルト51の内側に遊嵌された押圧ローラー52、定着ベルト51外側の加圧ローラー53、抵抗発熱体層512に電力供給する給電部材54a,54b、温度センサー55,56、冷却部80などを備える。
加圧ローラー53は、定着ベルト51を介して押圧ローラー52に押圧され、定着ベルト51との間に定着ニップ部Nが形成されている。また、加圧ローラー53は、モータ(不図示)を動力源とし、歯車ギアやベルトなどの動力伝達機構を介して回転駆動される。押圧ローラー52および定着ベルト51は、加圧ローラー53の回転に従動して回転駆動され、互いに連動している。加圧ローラー53が矢印C方向に、押圧ローラー52および定着ベルト51が矢印B方向にそれぞれ回転する。
【0024】
以下、定着部5における各構成要素について詳しく説明する。
(定着ベルト)
定着ベルト51は、円筒状の弾性変形可能なベルトであり、その内部に抵抗発熱体層512が形成され、外周面の幅方向(回転軸J方向)両端には、抵抗発熱体層512に給電するための電極層515a,515bが設けられている。
【0025】
この電極層515a,515bに、リード線501を介して交流電源500に電気的に接続された給電部材54a,54bが摺接され、それにより、交流電源500の電力が抵抗発熱体層512に供給される構成となっている。
図4は、定着ベルト51の積層構造を説明するための断面図である。
図4に示すように、電極層515a,515bは、絶縁層511上に形成されていて、絶縁層511上の電極層515a,515b間の領域51aでは、抵抗発熱体層512、弾性層513および離型層514がこの順で積層されている。抵抗発熱体層512は、電極層515a,515bの一部に被さるように設けられ、さらにその上から弾性層513が覆い被さるように設けられている。こうして、抵抗発熱体層512と電極層515a,515bとの接着性を良くなるようにしている。
【0026】
絶縁層511は、抵抗発熱体層512および電極層515a,515bの内周面を絶縁するとともに、ベルトの強度を確保する層である。絶縁層511の構成材料として、例えば、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等の耐熱性の絶縁樹脂を用いることができる。
抵抗発熱体層512は、電力供給を受けてジュール熱を発生させる層であり、耐熱性の絶縁樹脂に、導電性フィラーを均一に分散して構成されている。抵抗発熱体層512において、絶縁樹脂中の導電性フィラーの体積含有率を変えることで、単位体積当たりの電気抵抗率を調整することができ、所望の発熱量が得られる電気抵抗値に設定されている。
【0027】
抵抗発熱体層512を構成する耐熱性の絶縁樹脂として、PI,PPS,PEEK等を用いることができる。好ましくは、耐熱性および耐圧性の点で最も優れているPIを用いるのがよい。よって、本実施の形態では、PIを用いている。また、導電性フィラーとしては、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル等の金属粉末や、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンマイクロコイル等の炭素化合物粉末、およびこれらのうち2種類以上混合したものを用いることができる。導電性フィラーの形状は、繊維状、フレーク状または球状が好ましい。より好ましくは、導電性フィラー同士の接触確率が高くなるとともに、パーコレーションしやすい繊維状である。抵抗発熱体層512の導電性フィラーの含有率が、体積分率で40〜50vol%であることが好ましい。体積分率が50vol%を超えると、抵抗発熱体層512の電気抵抗が小さくなり過ぎて過電流が流れる恐れがあり、体積分率が40vol%未満だと、電気抵抗が大きくなり過ぎて流れる電流が少なくなり所望の発熱量が得られなくなる恐れがあるからである。また、抵抗発熱体層512の電気抵抗率は、1.0×10−6〜1.0×10−2Ωmが望ましい。より望ましくは1.0×10−5〜5.0×10−3Ωmである。このような抵抗発熱体層512は、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとを有機溶媒中で重合して得られるポリイミドワニスに導電フィラーを均一分散させてから金型に塗布しイミド転化させて製造することができる。
【0028】
弾性層513は、耐熱性、弾性および絶縁性を有するゴム材や樹脂材、例えばシリコーンゴムまたはフッ素ゴムなどからなる。この弾性層513を設けることにより、トナー像が押しつぶされたり、トナー像が不均一に溶融されたりするのを防止し、画像ノイズの発生を防止している。また、カラー画像の光沢ムラなども防止することができる。
離型層514は、定着後の記録シートSとの離型性を高めるための層であり、例えばPFA(パーフルオロアルコキシフッ素樹脂)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(ポリエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)等のフッ素系チューブ、フッ素系コーティングなどの離型性を有する材料からなる。導電性としても良い。フッ素系チューブの例としては、三井・デュポンフロロケミカル(株)製PFA350−J、451HP−J、951HP Plusなどがある。水との接触角は90度以上が良く、より望ましくは110度以上が良い。表面粗さは、Ra:0.01〜50μm程度が望ましい。
【0029】
電極層515a,515bは、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、真鍮、リン青銅等の金属材料からなる金属層である。このような電極層515a,515bは、例えば、抵抗発熱体層の表面に、まず化学メッキを施して金属層の下地を形成し、その後、所定の厚みになるまで電気メッキを施すことにより形成することができる。また、抵抗発熱体層の表面に、金属箔を導電性接着剤で接着して形成する、または導電性インクやペーストを塗布して形成することもできる。
【0030】
電極層515a,515bの単位体積当たりの電気抵抗率は、抵抗発熱体層512よりも低いので、給電部材54a,54bを介して供給される電流iは、電極層515a,515bを回転軸J方向(Y軸方向)に流れ、抵抗発熱体層512内においては電極層515a,515b間の最短経路を流れるようになる。したがって、電極層515a,515b間においてジュール熱が発生し、ベルトが加熱される。つまり、定着ベルト51の電極層515a,515b間の領域51aが発熱域となる(以下、「発熱域51a」という。)。
【0031】
上記各層の厚みは、全周に亘って均一である。具体的には、絶縁層511が5〜100μm、抵抗発熱体層512が30〜150μm、弾性層513が100〜300μm、離型層514が5〜100μm、電極層515a,515bが5〜50μmである。定着ベルト51の内径は、30mmに設定されている。
定着ベルト51の幅寸法は、最大サイズの記録シートSの通紙幅(A3縦通し)および電極層515a,515bの幅を合算した値よりも大きい370mmに設定されている。
【0032】
(押圧ローラー)
図3に戻って、押圧ローラー52は、長尺で円柱状の芯金521の周囲に弾性層522が形成されてなる。芯金521は、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等からなり、その軸方向両端に、定着部5のハウジング50に設けられた軸受部(不図示)に回転自在に支持される軸部521a,521bが設けられている(図2)。
【0033】
弾性層522は、耐熱性および断熱性の高い、例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の発泡弾性体などの材料からなる。この弾性層522を設けることにより、押圧ローラー52と定着ベルト51とが弾性接触するようにして、できるだけ接触圧の偏りを無くし、接触状態が良好になるようにしている。また、この弾性層522が断熱材としても機能するので、定着ベルト51で発生した熱が、押圧ローラー52を介して放熱されるのを抑制することができる。弾性層522の厚みは1〜10mmが好ましい。
【0034】
例えば、芯金521(軸部521a,521bを除く)の外径が約18mm、弾性層522の厚みが約5mmに設定され、これらを合わせた押圧ローラー52の外径は、定着ベルト51の内径よりも小さい。また、押圧ローラー52の軸部521a,521bを除いた長さは定着ベルト51の幅寸法と等しい。
(加圧ローラー)
加圧ローラー53は、長尺で中空円柱状の芯金531の周囲に、弾性層532と離型層533とがこの順に積層されている。芯金531は、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等からなり、その軸方向両端に、ハウジング50に設けられた軸受部(不図示)に回転自在に支持される軸部531a,531bが設けられている。弾性層532は、例えば、シリコーンゴムからなり、離型層533は、例えば、PFA、PTFE等のフッ素系チューブ、フッ素系コーティングなどの離型性を有する材料からなる。なお、離型層533は導電性としても良い。弾性層532を設けることにより、加圧ローラー53と定着ベルト51とが弾性接触するようにして、できるだけ接触圧の偏りを無くし、接触状態が良好になるようにしている。弾性層532の厚みは1〜20mm、離型層533の厚みは5〜50μm、これらを含む加圧ローラー53の外径は、20〜100mmが好ましい。例えば、加圧ローラー53の外径が約30mmに設定される。
【0035】
また、図2に示すように、加圧ローラー53のローラー周面(外周面)53aの端縁T1,T2は、それぞれ定着ベルト51の発熱域51aよりも回転軸J方向外側に延出され、ローラー周面53aの回転軸J方向の長さLが、定着ベルト51の電極層515a,515b間の距離D1以上、給電部材54a,54b間の距離D2未満に設定されている(距離D1,D2は図4参照)。そして、ローラー周面53aが、回転軸J方向において、給電部材54a,54b間において、定着ベルト51の発熱域51a全体と接するように配されている。
【0036】
(給電部材)
給電部材54a,54bは、ブロック状のカーボンブラシであって、摺動性および電導性を有する銅黒鉛質や炭素黒鉛質等の材料からなる。
給電部材54bは、不図示のガイド部材により矢印E方向(図3参照)に移動可能に保持され、かつバネなどの付勢部材(不図示)により定着ベルト51に向けて付勢されている。これにより、給電部材54bが、定着ベルト51の電極層515bに摺接される。給電部材54aも、同様に保持、付勢され、電極層515aに摺接される。
【0037】
給電部材54a,54bの大きさは、例えば、縦10mm(Y軸方向)、横5mm(X軸方向)、高さ11mm(Z軸方向)に設定されている。
交流電源500は、例えば、電圧100V、周波数が50Hzまたは60Hzの家庭用電源である。なお、リード線501には、制御部60の制御を受けて電力供給をオン・オフする公知の継電器(リレースイッチ)(不図示)が挿設されている。
【0038】
(温度センサー)
温度センサー55,56は、例えば赤外線検知型のサーモパイルからなる。
温度センサー55は、定着ベルト51の回転軸J方向の略中央付近に配され、定着ベルト51の通紙領域の表面温度を検出して制御部60に出力する。制御部60は、温度センサー55の検出結果に基づき、定着ベルト51の通紙領域の表面温度が所定の定着温度(例えば、170℃)になるように、交流電源500から抵抗発熱体層512に供給する電力を制御する。
【0039】
また、温度センサー56は、定着ベルト51の回転軸J方向の一方の端部付近に配され、定着ベルト51の非通紙領域の表面温度を検出して制御部60に出力する。制御部60は、温度センサー56の検出結果に基づき、定着ベルト51の非通紙領域が過昇温しないように、後述する冷却部80を制御する。
温度センサー55,56のそれぞれは、不図示の保持部材により保持されている。
【0040】
(冷却部)
冷却部80は、送風により加圧ローラー53の記録シートSが通過しない非通紙領域R1,R2を冷却するものであり、定着ベルト51に回転接触する加圧ローラー53を利用して、定着ベルト51の非通紙領域を間接的に冷却するためのものである。
図5は、この冷却部80の構成を説明するための斜視図である。
【0041】
同図に示すように、冷却部80は、L字状のダクト81,82を有する。ダクト81が非通紙領域R1に対応し、ダクト82が非通紙領域R2に対応する。
ダクト81内には、吸入ファン83が設けられており、吸入ファン83の駆動により、吸入口811から装置外部の空気が吸入され、排出口812から排出される。
ダクト81の排出口812には、排出空気を加圧ローラー53のローラー周面53aの回転方向に沿った方向に導く案内板85と、シャッター87とが設けられている。
【0042】
ダクト82も、同様であり、内部に吸入ファン84が設けられ、排出口822に、案内板86と、シャッター88とが設けられている。
シャッター87,88は、それぞれ排出口812、822に対して加圧ローラー53の回転軸と平行な方向(以下、単に「軸方向」という。)にスライド可能であって、これらを内側に移動させることにより、軸方向における冷却範囲を増加させることができるように構成されている。
【0043】
シャッター87,88の移動機構として、本実施の形態では、ラックアンドピニオン機構90が採用されている。
シャッター87の上部とシャッター88の下部のそれぞれには、ラック92,93が軸方向に平行で、かつ、その歯列を対向させた状態で付設されており、両方のラック92、93にピニオン91が噛合している。
【0044】
制御部60は、モーター94の駆動制御により上記ピニオン91を回転させて、ラック92,93をY軸方向に互いに近接または離間するように移動させてシャッター87,88の開閉制御を行う。これにより、排出口812,822の開口幅がそれぞれ調整される。また、制御部60は、吸入ファン83,84の駆動制御を行う(詳細は後述する)。
モーター94は、例えばステッピングモーターからなり、定着部5のハウジング50(図3)の外側に配され、その駆動軸941が、ハウジング50を貫通してピニオン91に連結されている。ラック92,93は、不図示のガイド部材によりY軸方向に移動自在に保持されている。
【0045】
図3に戻って、ダクト81の排出口812を含む一部分が、ハウジング50の記録シートSの搬送方向(矢印H方向)上流側の側壁501内に挿通され、排出口812が加圧ローラー53のローラー周面53a付近に配されている。他端の吸入口811は、プリンター1の筐体(図1参照)に形成された不図示の貫通孔を介してプリンター1外側の空気(以下、「外気」ともいう。)を吸入できるようになっている。ハウジング50の搬送方向下流側の側壁502には、ダクト81を介して供給された外気を排出する排出口503と、流入した空気を排出口503に向けて導く排出案内板89が設けられている。
【0046】
吸入ファン83の駆動によりダクト81内に流入した外気は、排出口812からハウジング50内に供給される。この際、外気は、案内板85により、同図の矢印で示すように、定着ニップ部Nから離れる方向かつローラー周面53aに沿う方向に導かれ、ローラー周面53aに沿うようにして流れた後、排出案内板89により排出口503に導かれ、ハウジング50の外に排出される。こうして流れる外気によってローラー周面53aが冷却される。
【0047】
ダクト82側も同じ構成であり、排出口503および排出案内板89は、ダクト82側にも設けられている。
図6は、ダクト81,82と、定着ベルト51および加圧ローラー53との、回転軸J方向における位置関係を模式的に示す図である。同図では、シャッター87,88を開けて、ダクト81,82の排出口812,822が全開された状態で示されている。なお、簡単のため、排出口812,822の案内板85,86を省略している。
【0048】
また、同図には、特定サイズ(ここでは、シートサイズC)の記録シートSを通紙したときの、定着ベルト51の発熱域51aにおける非通紙領域がRh1,Rh2、加圧ローラー53の非通紙領域がR1c,R2cで示されている。
加圧ローラー53の非通紙領域R1cは、発熱域51aの非通紙領域Rh1に対応する第1の領域R11と、第1の領域R11からローラー周面53aの端縁T1までの第2の領域R12とからなる。領域R12は、加圧ローラー53の、定着ベルト51における電極層515aの領域と重なる領域である。また、非通紙領域R2cは、発熱域51aの非通紙領域Rh2に対応する第1の領域R21と、第1の領域R21からローラー周面53aの端縁T2までの第2の領域R22とからなる。領域R22は、加圧ローラー53の、定着ベルト51における電極層515bの領域と重なる領域である。
【0049】
記録シートの例として示されたシートサイズA〜Cの大きさは、例えば、シートサイズAがA3縦通し、シートサイズBがA4縦通し、シートサイズCがA5縦通しである。ここでは、プリンター1に使用される最大サイズがシートサイズAとなっている。
ダクト81の排出口812の全開したときの開口幅W1cは、加圧ローラー53の非通紙領域R1cの回転軸J方向の長さと等しく、排出口812が非通紙領域R1cに対向して配置されている。同様に、ダクト82の排出口822の全開時の開口幅W2cは、加圧ローラー53の非通紙領域R2cの回転軸J方向の長さと等しく、排出口812が非通紙領域R2cに対向して配置されている。
【0050】
このような構成により、加圧ローラー53の非通紙領域R1c,R2cに外気を当てて冷却することができる。また、こうして冷却される加圧ローラー53が、定着ベルト51と回転接触することにより、発熱域51aの非通紙領域Rh1,Rh2の熱を奪って冷却することができるので、非通紙領域Rh1,Rh2の過昇温を抑制することができる。
なお、この場合、加圧ローラー53の非通紙領域R1c,R2cに当てた外気の一部が、通紙領域R3cの非通紙領域近傍の領域R31,R32にも流れ込むと、領域R31,R32が冷却されてその温度が低下する。しかしながら、加圧ローラー53の通紙領域R3cと定着ベルト51の通紙領域Rh3との間には記録シートSが通紙され、記録シートSがいわば断熱材の役割を果たすので、通紙中の、加圧ローラー53の領域R31,R32により定着ベルト51の通紙領域Rh3の熱が奪われるのを抑制することができる。したがって、定着ベルトを直接冷却する構成を採る場合よりも、冷却に起因する通紙領域の温度低下を抑制でき、定着不良を抑制することができる。
【0051】
図7(a)は、シートサイズBの記録シートSが通紙されたときの、シャッター87,88およびダクト81,82の排出口812,822の状態を示している。
同図に示すシャッター87,88は、図6の開いた状態から、ピニオン91を所定角回転させて所定量α1閉じた状態となっている。所定量α1は、シートサイズBとシートサイズCとの幅の差の半分の大きさである。こうして、排出口812,822の開口幅W1b,W2bを、加圧ローラー53の非通紙領域の大きさに合わせている。
【0052】
図7(b)は、シートサイズAの記録シートSが通紙されたときの、シャッター87,88およびダクト81,82の排出口812,822の状態を示している。
同図に示すシャッター87,88は、図6の開いた状態から、ピニオン91を所定角回転させて所定量α2閉じた状態となっている。所定量α2は、シートサイズAとシートサイズCとの幅の差の半分の大きさである。こうして、排出口812,822の開口幅W1a,W2aを、加圧ローラー53の非通紙領域の大きさに合わせている。
【0053】
上記シートサイズA,B,C以外の記録シートであっても、当該記録シートを通紙したときの加圧ローラー53の非通紙領域の大きさに合わせて、シャッター87,88を移動させ、ダクト81,82の排出口812,822の開口幅を調整すればよい。非通紙領域の大きさは、シートサイズと、加圧ローラー53の寸法などを用いて計算により求めることができる。
【0054】
このように通紙されるシートサイズに応じて、シャッター87,88を開閉制御することにより、加圧ローラー53の非通紙領域を冷却することができ、当該加圧ローラー53を介して、定着ベルト51の発熱域51aの非通紙領域全体を冷却することができる。
<制御部>
図8は、制御部60の構成と、制御部60による制御対象となる主構成要素との関係を示すブロック図である。
【0055】
同図に示されるように、制御部60は、CPU(Central Processing Unit)601、ROM(Read Only Memory)602、RAM(Random Access Memory)603、通信インターフェース(I/F)部604および画像データ記憶部605などを備えている。
CPU601は、画像プロセス部3、給紙部4、定着部5、操作パネル6等を制御するためのプログラムを実行する。ROM602は、CPU601により実行される各種プログラムを格納するストレージである。RAM603は、CPU601がプログラムを実行するときのワークエリアである。通信I/F部604は、LANカード、LANボードといったLANに接続するためのインターフェースである。
【0056】
画像データ記憶部605は、通信I/F部604や不図示の画像読取部を介して入力された、印刷用の画像データを記憶する。
操作パネル6は、プリンター1の上部の操作しやすい位置に配設され、印刷設定のための操作画面や印刷結果等の情報を表示する液晶ディスプレイ、液晶ディスプレイに積層されたタッチパネルや各種指示を入力するための操作ボタン等から構成され、ユーザーから各種指示の入力を受付ける。
【0057】
また、CPU601は、例えば、外部の端末からプリントジョブを受け付けると、当該プリントジョブのデータのヘッダに含まれているシートサイズに関する情報を抽出して、記録シートSのサイズに基づきモーター94の駆動を制御し、それによりラックアンドピニオン機構90を介してシャッター87,88を開閉制御して、ダクト81,82の排出口812,822の開口幅を調整する。また、CPU601は、温度センサー55の検出結果が示す温度が定着温度になるように、抵抗発熱体層512への電力供給を制御する。温度センサー55の検出結果が示す温度が定着温度に達すれば、プリントジョブより抽出したシートサイズに関する情報に基づき、画像形成時に当該サイズの記録シートSを給紙させる。
【0058】
ここで、給紙カセット41内の記録シートSが指定サイズでない場合には、CPU601が、プリントジョブを発信した外部の端末にエラー情報を返す。そして、給紙カセット41に指定サイズの記録シートSがセットされると、CPU601は、記録シートSを給紙する。なお、給紙カセット41に収納されている記録シートSのサイズは、公知のサイズ検出センサーで検出することにより、もしくは記録シートSを給紙カセットにセットする際にユーザーが操作パネル6から入力することにより得られる。
【0059】
また、ここで仮に、プリンター1が有する給紙カセットが複数あって、それぞれに異なるサイズの記録シートが収容されている場合には、CPU601は、プリントジョブのシートサイズに関する情報により、該当する記録シートが収容される給紙カセットを選択して、画像形成時に記録シートを給紙させる。
プリントジョブ中、CPU601は、常に、温度センサー55の検出結果を監視し、定着ベルト51の通紙領域の表面温度が定着温度に維持されるように抵抗発熱体層512への電力供給を制御する。
【0060】
また、CPU601は、この間、定着ベルト51の非通紙領域が過昇温とならないように、温度センサー56の検出結果を監視する。温度センサー56の検出結果が示す温度が定着温度を大幅に超える第1の温度(例えば、220℃)に達すれば、CPU601は、吸入ファン83,84を駆動して、ダクト81,82内に吸入した外気を、加圧ローラー53の非通紙領域に供給し、冷却を開始する。こうして冷却された加圧ローラー53が回転して、定着ベルト51に接触することで、定着ベルト51の非通紙領域が冷却される。
【0061】
この後、冷却により定着ベルト51の非通紙領域の表面温度が低下し、温度センサー56の検出結果が示す温度が、定着温度よりも少し高い第2の温度(例えば、180℃)まで低下すれば、CPU601は、吸入ファン83,84の駆動を停止する。また、CPU601は、プリントジョブの終了時点において、吸入ファン83,84が駆動している場合には、駆動を停止させる。
【0062】
なお、「第1の温度」は、定着ベルト51の非通紙領域の過昇温を抑制可能な温度であればよい。また、「第2の温度」は、定着ベルト51の非通紙領域の温度が定着温度よりも低下することがないような温度であればよい。非通紙領域の温度が定着温度より低下すると、通紙領域の、非通紙領域近傍の領域の温度がその影響により下がってしまうため、定着不良が生じるおそれがあるからである。これら、第1および第2の温度は、冷却部80の冷却能力や、定着部5の仕様などに基づき設定される。
【0063】
上記構成の定着部5によれば、冷却部80により、まず加圧ローラー53の非通紙領域R1c,R2cを冷却し、冷却した加圧ローラー53を介して、定着ベルト51の発熱域51aの非通紙領域Rh1,Rh2全体を冷却することができるので、定着ベルト51の過昇温を抑制することができる。
また、加圧ローラー53のローラー周面53aが、回転軸J方向において、給電部材54a,54b間の内側に配されているので、給電部材54a,54bにより電極層515a,515bの表面に擦り付けられたカーボンの摩耗粉が、ローラー周面53aに接触して付着するようなことがない。これにより、摩耗粉に起因する画像ノイズの発生を抑制することができる。
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態は、第1の実施の形態におけるシャッターに代えて、ダクト排出口の奥側に、回動扉、具体的にはルーバーを配し、ルーバーの角度を変えることによりダクトの開口幅を調整する構成となっている点で、第1の実施の形態と相違する。
【0064】
その他の構成については、基本的に第1の実施の形態のプリンター1と同様であるので、同じ構成については、同じ符号で示し、その説明を省略する。
図9は、第2の実施の形態に係る定着部が有する冷却部の構成を示す斜視図である。同図では、ダクト81,82内のルーバー181,182を示すため、各ダクトの紙面上側の側板や案内板を取り外した状態が示されている。
【0065】
図9に示すように、ダクト81の排出口812奥側の内部空間81aに、ルーバー181が配され、ダクト82の排出口822奥側の内部空間82aに、ルーバー182が配されている。
各ルーバー181,182は長板部材からなり、それぞれの長手方向一端が揺動軸181a,182aとなっている。揺動軸181aは、ダクト81の内壁に設けられた軸受部(不図示)により揺動自在に支持され、かつモーター191の駆動軸191aが連結されている。同様に、揺動軸182aもダクト82内の軸受部(不図示)により揺動自在に支持され、モーター192の駆動軸192aが連結されている。ルーバー181,182は、モーター191,192の駆動により互いに逆方向に揺動可能に構成されている。
【0066】
揺動軸方向(X軸方向)において、ルーバー181とダクト81の内壁との間、およびルーバー182とダクト82の内壁との間には、ルーバーが揺動可能な程度の隙間が設けられている。
各モーター191,192は、例えばステッピングモーターからなり、第1の実施の形態におけるモーター94と同様、定着部5のハウジング50(図3参照)の外側に配されている。
【0067】
制御部60は、各モーター191,192の回転を制御して、ルーバー181,182の揺動角を変化させることにより、ダクト81,82の開口幅を調整する。
図10は、通紙される記録シートSのサイズと、ルーバー制御との関係を説明するための図である。
ルーバー181,182は、例えば、同図の実線で示す第1の姿勢S1と、長破線で示す第2の姿勢S2と、短破線で示す第3の姿勢S3とに切り替え可能に構成されている。
【0068】
第1の姿勢S1は、ルーバーを全開にした姿勢であり、このときのダクト81,82の開口幅がW1c,W2cであり、シートサイズCの記録シートSが通紙されたときの、加圧ローラー53の非通紙領域R1c,R2cの大きさに対応している。
第2の姿勢S2は、第1の姿勢S1から角度Θ1揺動させた姿勢であり、このときのダクト81,82の開口幅がW1b,W2bであり、シートサイズBの記録シートSが通紙されたときの、加圧ローラー53の非通紙領域の大きさに対応している。
【0069】
第3の姿勢S3は、第1の姿勢S1から角度Θ2揺動させた姿勢であり、このときのダクト81,82の開口幅がW1a,W2aであり、シートサイズAの記録シートSが通紙されたときの、加圧ローラー53の非通紙領域の大きさに対応している。
また、上記シートサイズA,B,C以外の記録シートであっても、当該記録シートを通紙したときの加圧ローラー53の非通紙領域の大きさに合わせて、ルーバー181,182を揺動させ、ダクト81,82の開口幅を調整することができる。
【0070】
本実施の形態においても、通紙されるシートサイズに応じて、ルーバー181,182を制御することにより、加圧ローラー53の非通紙領域を冷却することができ、加圧ローラー53を介して定着ベルト51の発熱域51aの非通紙領域を冷却することができるので、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができ、定着ベルト51の過昇温を抑制することができる。
[変形例]
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明が上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例を実施することができる。
【0071】
(1)上記実施の形態では、加圧ローラー53の非通紙領域全体に外気を当てて冷却する構成としているが、これに限定するものではない。
例えば、図6を参照して、シートサイズCの記録シートが通紙された場合において、加圧ローラー53の非通紙領域R1cのうち、発熱域51aの非通紙領域Rh1に対応する第1の領域R11、および非通紙領域R2cのうち、発熱域51aの非通紙領域Rh2に対応する第1の領域R21のみを冷却する構成としてもよい。
【0072】
もっとも、上記実施の形態で示したように、加圧ローラー53の第2の領域R12,R22を含め、非通紙領域c1,c2全体を冷却した場合には、第1の領域R11,R21のみを冷却する場合よりも、当該第1の領域R11,R21の冷却を安定させることができるという利点がある。よって、好ましくは、加圧ローラーの、定着ベルトの発熱域における非通紙領域および電極層の領域と重なる領域、つまり非通紙領域全体を冷却する構成である。
【0073】
さらに、第1の領域R11,R21と回転軸J方向内側で隣接する通紙領域R3cの領域R31,R32を含めて冷却する構成としても構わない。なお、この場合には、第1の実施の形態で説明したような、外気の一部が領域R31,R32に流れ込むことにより冷却してしまうのとは異なり、外気を直接当てて冷却するので、その分、領域R31,R32の温度が低下する。そのため、記録シートSの通紙と通紙の間の紙間において、冷却された領域R31,R32の発熱域51a(通紙領域)から奪う熱量が増えて、定着不良が生じる可能性が高くなることから、定着不良が生じるのを抑制するため、冷却する領域R31,R32の幅を定着部5の仕様に応じて適宜設定するのが好ましい。具体的には、例えば、予めシートサイズ毎に設定された非印字領域(画像が印字されない領域)の幅と同じ寸法に設定するのがよい。
【0074】
加圧ローラー53の冷却する領域の大きさおよび配置等は、加圧ローラー53を介して発熱域51aの非通紙領域Rh1,Rh2全体を冷却することができる限り、特に限定されるものではない。
(2)上記実施の形態では、赤外線検知型のサーモパイルからなる温度センサー55,56を用いた構成を示したが、これに限定するものではない。例えば、温度センサーとして、非接触型サーミスター、複数のサーモパイルからなるサーモパイルアレイ等を用いることができる。
【0075】
(3)上記実施の形態では、冷却部80の吸入ファン83,84をオン・オフするだけの制御例を示したが、これに限定するものではない。例えば、定着ベルト51の非通紙領域の表面温度に応じて吸入ファン83,84の回転速度を調整する構成にすれば、より効果的に非通紙領域を冷却することができ、過昇温を抑制することができるようになる。
さらに、通紙されるシートサイズによって変動する非通紙領域に対応するため、複数個所の温度を検出する構成とするのが好ましい。非通紙領域の温度を細かく見ることにより、より確実に冷却することができるようになる。この場合において、サーモパイルアレイは、視野角が広く、複数個所の温度測定が可能なので、配置する個数を減らすことができ、温度センサー56として有用である。
【0076】
また、冷却部80の冷却能力や、定着部5の仕様によっては、プリントジョブ実行中、常に、吸入ファン83,84を駆動させる構成とすることも可能である。この場合、非通紙領域の表面温度の検出結果に基づく制御が不要になる分、構成が簡単になる。
(4)上記実施の形態では、ダクト81,82のシャッター87,88の開閉制御を行うタイミングとして、プリントジョブを受け付け、シートサイズに関する情報を抽出した後に行う例を示したが、これに限定するものではない。例えば、定着ベルト51の非通紙領域の温度が上記第1の温度に達した後の、吸入ファン83,84の駆動を開始する前に、シャッター87,88の開閉制御を行う構成としても構わない。
【0077】
(5)上記実施の形態では、ダクト81,82からの外気が、加圧ローラー53のローラー周面53aに沿うように、かつローラーの回転方向(矢印C方向)と逆方向に向けて供給される構成を示したが(図3参照)、これに限定するものではない。
例えば、ダクト81,82を、ハウジング50の搬送方向(矢印H方向)下流側に配し、排出口503を搬送方向上流側に設け、ダクト81,82からの外気を、ローラー周面53aに沿うように、かつ回転方向(矢印C方向)に向けて供給する構成としても構わない。もっとも、外気を回転方向と逆方向に向けて供給する方が、ローラー周面53aに接する外気の実質的な流量を増加させることができるので、より効率的に冷却することができる。
【0078】
(6)上記実施の形態では、ハウジング50に、ダクト81,82から供給された外気を排出する排出口503だけを設けた構成を示したが、これに限定するものではない。
例えば、排出口503に外気をプリンター1の外側まで排出させる排出ダクトを嵌め込んだ構成としても構わない。
また、各排出口503に、第1の実施の形態で示したシャッター87,88と同様のシャッターを設け、設けたシャッターをそれぞれシャッター87,88と連動させて、加圧ローラー53の非通紙領域の大きさに合わせて、各排出口503の開口幅を調整するのが望ましい。これにより、ローラー周面53aに沿って流れる外気の拡がりを抑制することができるようになるので、通紙領域に外気が流れ込むのを抑制することができる。
【0079】
(7)上記実施の形態では、L字状のダクト81,82を用いた構成を示したが、ダクトの形状は特に限定されるものではなく、ダクトの排出口が、加圧ローラーの非通紙領域に対向して配置された構成であれば構わない。
また、上記実施の形態では、ダクト81,82を介して、定着部5のハウジング50内に外気を供給する構成を示したが、これに限定するものではない。
【0080】
例えば、図11に示すように、ダクトを加圧ローラー53のローラー周面53aに沿うように形成し、ダクト内に冷却媒体としての外気を流すことによりローラー周面53aの非通紙領域を冷却する構成とすることもできる。同図のダクト280は、L字管281と、ローラー周面53aに沿って形成された円弧管282と、排出口503に連接された管283からなり、円弧管282の上流側に、第1の実施の形態と同様のシャッター287が設けられた構成となっている。よって、シャッター287を開閉制御することにより、加圧ローラー53の非通紙領域に対応することができる。
【0081】
(8)上記実施の形態では、冷却媒体として、外気(空気)を用いた構成を示したが、冷却媒体を限定するものではない。例えば、冷却媒体として冷却用の不活性ガスを使用しても構わない。この場合には、ガスタンクとガスを循環させるポンプが必要となる。
(9)上記実施の形態では、定着ベルト51が、絶縁層511、抵抗発熱体層512、弾性層513および離型層514がこの順で積層され、電極層515a,515bが絶縁層511上に積層された構成を示したが、これに限定するものではなく、定着部の仕様に応じて、定着ベルトの構成や各層の厚みを適宜決定することができる。
【0082】
例えば、ベルトの内周面側の絶縁性が確保されている場合には、図12に示すように、ベルトの強度を確保するための絶縁層511を、抵抗発熱体層512の外周側に積層した構成としても構わない。この場合、電極層515a,515bの厚みは、図4に示す構成の場合よりも厚い方が望ましく、例えば、30〜100μmに設定される。この定着ベルト251においても、電極層515a,515b間が発熱域251aとなる。
【0083】
また、抵抗発熱体層512および電極層515a,515bの強度が十分である場合には、絶縁層を設けなくても構わない。
さらに、図13に示すように、抵抗発熱体層512上に電極層515a,515bが積層された構成としても構わない。この場合にも、給電部材54a,54bを介して供給される電流iは、抵抗発熱体層512内において電極層515a,515b間の最短経路を流れるようになる。よって、定着ベルト151の電極層515a,515b間が発熱域151aとなる。
【0084】
また、抵抗発熱体層512の構成材料として、例えば、電気抵抗率の調整を目的として金属合金、金属間化合物などの導電性粒子を適度に入れても構わないし、機械的強度の向上のため、ガラスファイバー、酸化チタン、チタン酸カリウムなどのウィスカを入れても構わない。また、熱伝導率の向上のため、窒化アルミ、アルミナなどを入れても構わない。さらに、製造安定性を考慮して、イミド化剤、カップリング剤、界面活性剤、消泡剤を入れても構わない。
【0085】
(10)上記実施の形態では、定着ベルト51の内側に押圧ローラー52が遊嵌され、押圧ローラー52が定着ベルト51を介して加圧ローラー53から押圧される構成を示したが、これに限定するものではない。例えば、押圧ローラー52に代えて、定着ベルト51の内周面に接触する長尺状のパッド部材を配し、当該パッド部材が定着ベルト51を介して加圧ローラー53から押圧される構成としても構わない。
【0086】
(11)上記実施の形態では、中空円柱状の加圧ローラー53を用いた構成を示したが、これに限定するものではない。例えば、加圧ローラーが中実であっても良いし、断面が三ツ矢形状などの異型のものを用いるとしても良い。
(12)第2の実施の形態では、ルーバー181,182を2つのモーター191,192を用いて互いに逆方向に揺動させる構成を示したが、これに限定するものではない。
【0087】
例えば、1つのモーターと、歯車ギアやベルトなどの動力伝達機構を介して、ルーバー181,182を互いに逆方向に揺動させるように構成しても構わない。
(13)上記実施の形態では、画像形成装置として、タンデム型カラープリンターを用いて説明したが、本発明の適用範囲は、これに限らず、抵抗発熱体を用いた定着部を有する複写機、ファクシミリ装置、プリンターなどに適用することができる。
【0088】
また、上記実施の形態及び変形例の内容は、可能な限り組み合わせても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、定着装置および当該定着装置を用いた画像形成装置に関し、特に、抵抗発熱体層を含むベルトを用いた定着装置において、ベルトの非通紙領域における過昇温を抑制する技術として利用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 プリンター
3 画像プロセス部
4 給紙部
5 定着部
6 操作パネル
51 定着ベルト
51a 発熱域
52 押圧ローラー
53 加圧ローラー
53a ローラー周面
54a,54b 給電部材
55 温度センサー
60 制御部
80 冷却部
81,82 ダクト(供給ダクト)
87,88 シャッター
90 ラックアンドピニオン機構
94 モーター
181,182 ルーバー
191,192 モーター
511 絶縁層
512 抵抗発熱体層
513 弾性層
514 離型層
515a,515b 電極層
811,821 吸入口(ダクト)
812,822 排出口(ダクト)
D1 距離(電極層間の距離)
D2 距離(給電部材間の距離)
R1,R2,R1c,R2c 非通紙領域(加圧ローラー)
R11,R21 第1の領域(加圧ローラー)
R12,R22 第2の領域(加圧ローラー)
Rh1,Rh2 非通紙領域(定着ベルトの発熱域)
T1,T2 端縁(ローラー周面)
W1a,W1b,W1c,W2a,W2b,W2c 開口幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗発熱体層を含み、回転走行する無端状のベルトの外周面に加圧回転体を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に未定着画像が形成されたシートを通紙して熱定着させる定着装置であって、
前記ベルトの外周面に設けられた一対の環状電極に接触して、外部電源からの電力を前記抵抗発熱体層に給電する一対の給電部材と、
前記ベルトの一対の環状電極間の領域であり、かつシートが通過しない非通紙領域を、前記加圧回転体を介して間接的に冷却する冷却手段と、を備え、
前記加圧回転体の外周面の回転軸方向の長さが、一対の環状電極間の距離以上、一対の給電部材間の距離未満であり、かつ、当該外周面が、回転軸方向において、一対の給電部材間にあって前記ベルトの環状電極間の領域全体と接している
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記冷却手段が、前記加圧回転体の外周面の、前記ベルトの環状電極間における非通紙領域に対応する領域を冷却する
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記加圧回転体の外周面における回転軸方向の少なくとも一方の端縁が、前記ベルトの環状電極間の領域よりも回転軸方向外側に延びており、
前記冷却手段は、前記加圧回転体の前記環状電極と重なる領域も合わせて冷却する
ことを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記冷却手段が、冷却媒体を供給する供給ダクトで構成され、
前記供給ダクトの冷却媒体の排出口が、特定サイズのシートを通紙したときの前記加圧回転体の外周面の非通紙領域に対向して配され、
通紙されるシートのサイズに応じて、供給ダクトの排出口の開口幅を調整する調整手段が設けられている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記調整手段が、シャッターと、シャッターを駆動するシャッター駆動手段と、シャッター駆動手段を介してシャッターを開閉制御する開閉制御手段とで構成されている
ことを特徴とする請求項4に記載の定着装置。
【請求項6】
前記調整手段が、ルーバーと、ルーバーを駆動するルーバー駆動手段と、ルーバー駆動手段を介してルーバーの角度を制御する角度制御手段とで構成されている
ことを特徴とする請求項4に記載の定着装置。
【請求項7】
前記供給ダクトから、冷却媒体が前記加圧回転体の外周面に沿うように供給される
ことを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項8】
前記冷却媒体が、前記加圧回転体の回転方向と逆方向に向けて供給される
ことを特徴とする請求項7に記載の定着装置。
【請求項9】
前記冷却媒体が、装置外から取り込まれた空気である
ことを特徴とする請求項4から8のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−113964(P2013−113964A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258717(P2011−258717)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】