説明

定着装置及び画像形成装置

【課題】 定着時には定着ローラからシートを確実に剥離し、定着ローラと加圧ローラ間のニップに掛かる圧力を減圧した場合でも剥離部材が定着ローラに触れるのを回避する。
【解決手段】 実施形態の定着装置は、導電層を備え、画像を有する記録媒体に接する定着部と、前記定着部とニップを形成する加圧部と、前記導電層を電磁誘導加熱する誘導電流発生部と、前記ニップの出口にあって前記定着部と剥離ギャップを隔てる剥離位置に対向するプレートを備え、前記定着部と前記加圧部間の減圧に伴い前記プレートを前記定着部の回転基準から更に離れる退避位置に移動する定着剥離部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、複写機、プリンタ或いは複合機等に搭載され、用紙剥離装置を備える定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来Multi Function Peripheral(MFP)やプリンタ等の画像形成装置では、定着ローラと加圧ローラ間のニップを通過後に、定着ローラと非接触の剥離部材を用いて、定着ローラからシートを剥離する定着装置がある。
【0003】
定着ローラと非接触でシートを剥離する剥離部材は、定着ローラからシートを確実に剥離するために、シートの剥離時には定着ローラと剥離部材間のギャップをより小さくする必要がある。他方定着ローラと剥離部材間のギャップをより小さくした場合に、定着完了後に、定着ローラと加圧ローラ間のニップに掛かる圧力を減圧すると、加圧変形していた定着ローラが復元して、定着ローラと剥離部材間のギャップが更に縮まって、剥離部材の先端が定着ローラに触れて、定着ローラ表面を傷つけるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−63917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このが解決しようとする課題は、定着時には定着ローラと剥離部材とのギャップを適正に維持して、シートを定着ローラから確実に剥離し、定着ローラと加圧ローラ間のニップに掛かる圧力を減圧した場合でも剥離部材が定着ローラに触れるのを確実に回避する定着装置及び画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、実施形態の定着装置は、導電層を備え、画像を有する記録媒体に接する定着部と、前記定着部とニップを形成する加圧部と、前記導電層を電磁誘導加熱する誘導電流発生部と、前記ニップの出口にあって前記定着部と剥離ギャップを隔てる剥離位置に対向するプレートを備え、前記定着部と前記加圧部間の減圧に伴い前記プレートを前記定着部の回転基準から更に離れる退避位置に移動する定着剥離部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施形態の定着ユニットを搭載したMFPを示す概略構成図。
【図2】実施態様の定着ユニットを側面から見た概略構成図。
【図3】実施態様の定着ユニットの加圧ローラと加圧アームの駆動を示す概略説明図。
【図4】実施形態のモータに連結する、カムを駆動する第1のギア群と加圧ローラを駆動する第2のギア群を示す概略説明図。
【図5】実施形態の剥離プレートが剥離位置にある場合の退避リンクとのリンクを示す概略説明図。
【図6】実施形態の剥離プレートが退避位置にある場合の退避リンクとのリンクを示す概略説明図。
【図7】実施形態の剥離プレート、第1のバネ、リフト部、調整ネジを示す概略斜視図。
【図8】実施形態のリフト部とスタッドをメインに示す概略斜視図。
【図9】実施形態の調整ネジとコロの、スラスト方向の位相を示す概略説明図。
【図10】比較例の調整ネジとコロの、スラスト方向の位相を示す概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下実施形態について説明する。図1に示す、実施形態の定着装置を搭載したタンデム方式の画像形成装置であるカラーのMFP(Multi Functional Peripheral)1は、画像形成部であるプリンタ部10、給紙部11、排紙部12、スキャナ13を備える。プリンタ部10は、中間転写ベルト15に沿って並列に配置され、夫々感光体ドラム17Y、17M、17C及び17Kを備える、Y(イエロ)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の4組の画像形成ステーション16Y、16M、16C及び16Kを備える。
【0009】
各画像形成ステーション16Y、16M、16C及び16Kは、矢印a方向に回転する感光体ドラム17Y、17M、17C及び17Kの周囲に、チャージャ18Y、18M、18C及び18K、現像装置20Y、20M、20C及び20K、及び感光体クリーナ21Y、21M、21C及び21Kを備える。プリンタ部10は、画像形成ユニットを構成するレーザ露光装置22を備える。
【0010】
レーザ露光装置22は、各感光体ドラム17Y、17M、17C及び17Kに、各色に対応したレーザ光22Y、22M、22C及び22Kを照射して、各感光体ドラム17Y、17M、17C及び17Kに静電潜像を形成する。
【0011】
プリンタ部10は、中間転写ベルト15を支持するバックアップローラ24及び従動ローラ25を備え、中間転写ベルト15を、矢印b方向に走行する。プリンタ部10は、中間転写ベルト15を介して、各感光体ドラム17Y、17M、17C及び17Kと対向する位置に、1次転写ローラ23Y、23M、23C及び23Kを夫々備える。
【0012】
各1次転写ローラ23Y、23M、23C及び23Kは、各感光体ドラム17Y、17M、17C及び17Kに形成されるトナー像を中間転写ベルト15に1次転写して順次重ねる。各感光体クリーナ21Y、21M、21C及び21Kは、1次転写後に各感光体ドラム17Y、17M、17C及び17K上に残留するトナーを除去する。
【0013】
プリンタ部10は、中間転写ベルト15を介してバックアップローラ24と対向する位置に2次転写ローラ26を備える。2次転写ローラ26は、中間転写ベルト15に従動して矢印c方向に回転する。プリンタ部10は、ピックアップローラ27により給紙部11から記録媒体であるシートPを取り出し、中間転写ベルト15のトナー像が2次転写ローラ26位置に到達するタイミングに合わせて、搬送路28に沿ってシートPを2次転写ローラ26位置に給紙する。2次転写時、プリンタ部10は、中間転写ベルト15と2次転写ローラ26のニップに転写バイアスを形成して、中間転写ベルト15のトナー像を、シートPに一括2次転写する。
【0014】
プリンタ部10は、定着装置である定着ユニット32にて、シートPにトナー像を定着し、排紙ローラ対30によりシートPを排紙部12に排紙する。
【0015】
画像形成装置はタンデム方式に限らないし、現像装置の数も限定されない。画像形成装置は、感光体から直接記録媒体にトナー像を転写しても良い。
【0016】
次に定着ユニット32について詳述する。図2に示すように定着ユニット32は、ベルト支持部である定着ローラ33と、テンションローラ34に架け渡される定着ベルト36を備える。定着ローラ33、テンションローラ34及び定着ベルト36は、定着部を形成する。定着ユニット32は、定着ベルト36とニップを形成する加圧部である加圧ローラ37を備える。
【0017】
定着ローラ33は、例えば芯金33aの周囲に、発泡ゴム層33bを被覆して形成する。テンションローラ34は、例えばアルミ(Al)製の金属パイプの表面をコーティングして形成する。金属パイプの材料は、鉄、銅、ステンレス等でもよい。また、金属パイプの代わりにさらに熱伝導率のよいヒートパイプ等を用いてもよい。定着ベルト36は、例えば導電層ニッケル(Ni)等の金属導電層上に、ソリッドゴム層及び離型層を順に積層して構成する。加圧ローラ37は、例えば芯金37aの周囲に耐熱性のシリコンゴム層37bを備え、表面にPFAの離型層37cを被覆して形成する。加圧ローラ37は後述するモータ5の駆動により矢印g方向に回転する。定着ベルト36は、加圧ローラ37の回転に従動して、矢印u方向に従動回転する。
【0018】
定着ユニット32は、定着ベルト36の外周に、誘導電流発生部である電磁誘導コイル(以下IHコイルと略称する。)38を備える。定着ユニット32は、定着ローラ33、テンションローラ34、定着ベルト36及びIHコイル38を支持する固定フレームである定着フレーム40と、加圧ローラ37を支持する可動フレームである加圧アーム41を備える。定着フレーム40は、MFP1の本体フレーム1aに固定される。加圧アーム41は、第1の軸42を支点として、定着フレーム40に対して回動する。
【0019】
定着ユニット32は、加圧アーム41を矢印d方向に引っ張る加圧バネ43を備える。加圧バネ43のバネ力により、加圧ローラ37は、定着ベルト36を矢印d方向に押して定着ベルト36との間にニップ44を形成する。定着ユニット32は、加圧バネ43のバネ力に抵抗して、加圧アーム41を矢印f方向に回動するカム機構46を備える。
【0020】
定着ユニット32は、矢印h方向に搬送されるシートPを、定着ベルト36と加圧ローラ37とのニップ44を通過させることにより、シートP上のトナーを溶融圧着して、シートP上にトナー像を定着する。定着ユニット32はシートPの出口側に、シートPを定着ベルト36から剥離する定着剥離部を構成するプレートである剥離プレート47と、シートPを加圧ローラ37から剥離する加圧剥離部である剥離爪48を備える。剥離プレート47は、定着ベルト36と非接触で、定着ベルト36からシートPを剥離する。剥離爪48は、加圧ローラ37に接触して、加圧ローラ37からシートPを剥離する。定着フレーム40は、剥離プレート47を回動可能に支持する。MFP1の本体フレーム1aは、剥離爪48を回動可能に支持する。
【0021】
カム機構46は、カム軸50aを中心に回転するカム50と、カムフォロワ51を備える。カム軸50aは定着フレーム40に設けられ、カムフォロワ51は加圧アーム41に設けられる。例えばMFP1が定着モードあるいはウォーミングアップモードの間、カム50は、カム軸50aに近いカム面50bがカムフォロワ51に接する。加圧ローラ37は、加圧アーム41を介して、加圧バネ43のバネ力により、定着ベルト36に対して加圧する。加圧ローラ37の加圧により、定着ベルト36と加圧ローラ37間に一定の幅のニップ44を形成して、定着性能を確保する。
【0022】
例えばMFP1がレディーモードあるいは休止モードの間、更には定着ユニット32でシートのジャムを除去する間、カム50は、カム軸50aから遠いカム面50cがカムフォロワ51に接する。加圧アーム41は、加圧ばね43のばね力に抵抗して、矢印f方向に回動する。加圧ローラ37は、加圧アーム41を介して、定着ベルト36に対する圧力を減圧する。
【0023】
加圧ローラ37の定着ベルト36に対する圧力を減圧して、定着ベルト36と加圧ローラ37に掛かる負荷を極力低下することにより、定着ベルト36と加圧ローラ37長寿命化を得る。減圧した場合の定着ベルト36と加圧ローラ37間の圧力は例えば、レディーモードであれば、加圧ローラ37の回転により定着ローラが従動回転できる程度で良く、圧力値がゼロでも良い。また例えば休止モードであれば、減圧した場合に、定着ベルト36と加圧ローラ37とを離間しても良い。
【0024】
加圧ローラ37の定着ベルト36に対する圧力を減圧することにより、加圧変形していた定着ローラ33は復元する。加圧ローラ37により常時加圧されるために生じる、定着ローラ33の永久ひずみを防止する。
【0025】
ウォーミングアップモードは、電源オンによるMFP1の起動から、定着ユニット32が定着可能温度になるまでとする。定着モードは、プリント中の状態を言う。レディーモードは、定着ユニット32が定着可能温度を保持していて、すぐに印刷を開始できる状態をいう。休止モードは、MFP1の電源はオン状態であるが、定着ユニット32は作動していない状態をいう。ジャムを除去する間は、MFP1の電源をオフする。
【0026】
定着ユニット32は図3に示すように、MFP1の全体を制御する本体制御部2に制御されるIH制御部3及び駆動制御部4を備える。IH制御部3は、IHコイル38に印加する高周波電流を制御する。駆動制御部4は、加圧ローラ37の回転駆動を制御する。更に駆動制御部4は、カム50の回転駆動を制御する。駆動制御部4は駆動部であるモータ5の駆動を制御し、第1のギア部である第1のギア群6を介してカム50の回転を制御する。駆動制御部4は、第2のギア部である第2のギア群7を介して中継ギア8の回転を制御する。中継ギア8は、加圧ギア9と噛み合い、加圧ローラ37を回転駆動する。駆動制御部4は、第1のギア群6と第2のギア群7の駆動を切り替える切替え部である第1のクラッチ6aと、第2のクラッチ7aを制御する。
【0027】
図4に示すように、第1のギア群6は、ギア61乃至66を有する。第2のギア群7は、ギア71乃至76を有する。モータ5のモータギア5aは、第1のギア群6のギア61と第2のギア群7のギア71と噛み合う。第1のクラッチ6aを連結して、第2のクラッチ7aを切断すると、モータ5の駆動は第1のギア群6に伝達してギア61乃至66を夫々矢印の通り回転して、カム50を矢印w方向に回転する。カム50を回転する間、モータ5の駆動は加圧ローラ37に伝達されない。第2のクラッチ7aを連結して、第1のクラッチ6aを切断すると、モータ5の駆動は第2のギア群7に伝達してギア71乃至76を夫々矢印の通り回転して、加圧ローラ37を矢印g方向に回転する。加圧ローラ37を回転する間、モータ5の駆動はカム50に伝達されない。
【0028】
例えばMFP1が定着モードあるいはウォーミングアップモードあるいはレディーモードの間、駆動制御部4は、第2のクラッチ7aを連結して、第1のクラッチ6aを切断する。モータ5の駆動は第2のギア群7に伝達して、加圧ローラ37を矢印g方向に回転する。加圧ローラ37とニップを形成する定着ベルト36は、加圧ローラ37に従動して矢印u方向に回転する。
【0029】
例えば加圧ローラ37の定着ベルト36に対する圧力を減圧する場合、あるいは、加圧ローラ37の定着ベルト36に対する減圧を解除する場合、駆動制御部4は、第1のクラッチ6aを連結して、第2のクラッチ7aを切断する。モータ5の駆動は第1のギア群6に伝達して、ギア66と同軸のカム50を矢印w方向に回動する。
【0030】
図5乃至図9に示すように、剥離プレート47は、定着フレーム40に設けられる回転軸47aを支点として回動する支持部47bに支持される。剥離プレート47は、定着ベルト36の幅方向の全長とほぼ同じ長さを備える。剥離プレート47の例えばリア側には、弾性部である第1のバネ53が設けられ、剥離プレート47の先端を定着ベルト36側に付勢する。回転軸47aは、第1のバネ53に抵抗して、剥離プレート47を図5に示す剥離位置αに位置決めするリフト部54を回動可能に支持する。定着フレーム40に設けられるスタッド56は、回転軸47aを支点として回動するリフト部54の回動を規制する。
【0031】
剥離プレート47の支持部47bにネジ留めされる調整部である調整ネジ57は、リフト部54に対する剥離プレート47との位置を規制して、剥離プレート47先端と定着ベルト36とのギャップGの幅を調整する。回転軸47a、第1のバネ53、リフト部54、スタッド56、調整ネジ57は、定着剥離部を構成する。
【0032】
例えばMFP1が定着モードあるいはウォーミングアップモードの間、剥離プレート47は、第1のバネ53により先端を定着ベルト36側に付勢される。一方、リフト部54がスタッド56に当接することにより、第1のバネ53の付勢力に抵抗して剥離プレート47の先端は、定着ベルト36表面からシートPを剥離する剥離ギャップであるギャップGを維持する。リフト部54は、加圧アーム41に設けられるリンク部である退避リンク52にリンクする。
【0033】
退避リンク52は、先端にコロ52aを支持し、ねじ52bで、加圧アーム41に取着される。リフト部54の自由端54aは、退避リンク52の内部空間52a内に位置する。
【0034】
例えばMFP1がレディーモード、休止モード或いは、定着ユニット32でシートのジャムを除去する間、加圧ローラ37の定着ベルト36に対する圧力を減圧する場合、モータ5の駆動を第1のギア群6に伝達して、カム50を矢印w方向に回転する。カム50を回転して、カム軸50aから遠いカム面50cをカムフォロワ51に対向させることにより、加圧アーム41を矢印f方向に回動する。加圧アーム41に連動して、退避リンク52が矢印j方向に回動して、退避リンク52のコロ52aが、リフト部54の自由端54aを押し上げる。
【0035】
リフト部54は、コロ52aにより自由端54aを押し上げられて、矢印k方向に回動する。剥離プレート47は、矢印k方向に回動するリフト部54と一体に、回転軸47aを支点として矢印m方向に回動する。剥離プレート47は、矢印m方向に回動して、定着ベルト36の回転基準から更に離間する図6に示す退避位置βに移動する。ここでは、定着ローラ33の回転中心33cを定着ベルト36の回転基準とする。
【0036】
剥離プレート47は、剥離位置αにある場合は、剥離プレート47の先端と定着ベルト36とは、シートPを剥離するのに適正なギャップGを維持することから、定着後のシートPを定着ベルト36から確実に剥離できる。剥離プレート47は、退避位置βにある場合は、剥離プレート47の先端が定着ベルト36から確実に離間することから、加圧ローラ37を減圧することにより加圧変形していた定着ローラ33が復元しても、剥離プレート47の先端が定着ベルト36に接触するのを防止できる。
【0037】
剥離プレート47の先端が定着ベルト36と適正なギャップGを維持するために、剥離プレート47を剥離位置αに位置調整するための、調整ネジ57の高さ調整は、例えば、定着ユニット32の製造時に行う。定着ユニット32の製造時に、加圧ローラ37の定着ベルト36に対する圧力を減圧した状態で、且つ、退避リンク52を加圧アーム41から取り外して調整ネジ57の高さを調整する。
【0038】
退避リンク52を加圧アーム41から取り外してあるので、加圧ローラ37の定着ベルト36に対する圧力を減圧した状態でも、退避リンク52のコロ52aが、リフト部54の自由端54aに当接して、定着ベルト36と剥離プレート47間のギャップを変化させる恐れが無く、リフト部54をスタッド56に当接する位置に静止した状態に保持できる。したがって、定着フレーム40側の第1のバネ53により剥離プレート47を定着ベルト36側に付勢し、且つリフト部54をスタッド56に当接する位置に静止した状態で、調整ネジ57を調整する。調整ネジ57の高さ調整時に、退避リンク52の影響を受けることなく剥離プレート47の位置調整を行え、定着ユニット32をMFP1に搭載した場合の、定着ベルト36と剥離プレート47先端とのギャップGを高精度に調整出来る。
【0039】
リフト部54と退避リンク52は、調整ネジ57とコロ52aとの相対的な配置を考慮することにより、剥離プレート47の剥離位置αと退避位置β間の移動をよりスムースにする。例えば、図9に示すように、調整ネジ57の先端がリフト部54と接するリフト部54の当接ポイント54bと、リフト部54の自由端54aに当接するコロ52aのスラスト方向の距離t1を近接して、リフト部54の当接ポイント54bとコロ52aのスラスト方向の位相を実質一致させる。スラスト方向は、リフト部54の回転軸47aと平行な方向を言う。
【0040】
スラスト方向において、リフト部54の当接ポイント54bとコロ52aの距離(位相)t1を近接することにより、調整ネジ57が当接ポイント54bでリフト部54を押し下げようとする負荷F1を、自由端54aのコロ52aがリフト部54を持ち上げようとする負荷F2で、ほぼ垂直に受けることが出来る。これにより、負荷F1と負荷F2により、リフト部54の回転軸47aと鉛直な方向に発生する回転モーメントを抑制することが出来る。
【0041】
従って、退避リンク52によりリフト部54を矢印k方向に回動する場合に、リフト部54と回転軸47aとの接触部に係る負荷を抑制できる。接触部に掛かる負荷を抑制することにより、リフト部54が回動する時に、接触部である回転軸47aとリフト部54の軸受け穴との間が引っかかるというような、かじり現象を生じるのを防止する。かじり現象によりリフト部54が回動しにくくなり、あるいはリフト部54の回動がロックするのを防止して、リフト部54をスムースに回動して、ひいては剥離プレート47を、剥離位置αと退避位置β間でスムースに移動する。更に回転モーメントを抑制しない場合に、リフト部54は、矢印k方向の回動以外の不必要な動きを生じる可能性が有る。このことからも回転モーメントを抑制することにより、リフト部54の不必要な動きを抑えて、調整ネジ57の先端部が磨耗するのを防止して、剥離プレート47先端と定着ベルト36間のギャップGを高精度に維持出来る。リフト部54の当接ポイント54bとコロ52aのスラスト方向の位相が一致すれば、リフト部54には、負荷F1と負荷F2による回転モーメントを発生しない。したがって、リフト部54の当接ポイント54bとコロ52aの距離t1は0であることが望ましい。
【0042】
これに対して、例えば比較例として図10に示すように、スラスト方向において、調整ネジ57の先端がリフト部54と接するリフト部54の当接ポイント54bと、コロ52aとの距離t2を離間すると、リフト部54を押し下げようとする負荷F1を、リフト部54を持ち上げようとする負荷F2で受け止められない。リフト部54を押し下げようとする負荷F1とリフト部54を持ち上げようとする負荷F2は、いずれもリフト部54を右回転させようとする回転モーメントM1と回転モーメントM2を発生する。
【0043】
従って、退避リンク52との当接によりリフト部54を矢印k方向に回動する場合に、回転軸47aに対してリフト部54が右下がりに傾く恐れがある。回転軸47aに対してリフト部54が傾くと、リフト部54と回転軸47aとの接触部に負荷が掛かり、回転軸47aとリフト部54の軸受け穴とのかじり現象により、リフト部54は回動しにくくなり、ひいてはリフト部54の回動がロックされる場合がある。更にリフト部54が傾いた状態で回動する際のリフト部54の不必要な動きにより、調整ネジ57の先端部が磨耗して、ギャップGが変動する場合も生じる。
【0044】
次に定着ユニット32の動作について説明する。電源をオンして、MFP1のウォーミングアップモードを開始すると、駆動制御部4は、第1のクラッチ6aを連結し、第2のクラッチ7aを切断して、カム50を矢印w方向に回転して、カム軸50aに近いカム面50bがカムフォロワ51に接する位置で、カム50を停止する。加圧バネ43のバネ力により、加圧アーム41を矢印e方向に回動し、加圧ローラ37を定着ベルト36に加圧して、ニップ44を形成する。
【0045】
剥離プレート47は、第1のバネ53のバネ力と、スタッド56に当接して位置決めされるリフト部54により規制されて、剥離プレート47の先端と定着ベルト36表面とのギャップをギャップGに維持する。剥離爪48は、加圧ローラ37に接触する。
【0046】
ニップ44を形成した状態で、駆動制御部4は、第1のクラッチ6aと第2のクラッチ7aとを切り替える。駆動制御部4は、第2のクラッチ7aを連結し、第1のクラッチ6aを切断して、加圧ローラ37を矢印g方向に回転駆動し、加圧ローラ37の矢印g方向の回転に従動して定着ベルト36を矢印u方向に回転する。IH制御部3は、IHコイル38に高周波電流を印加する。IHコイル38が発生する磁束により、定着ベルト36が発熱し、定着可能温度に達するとMFP1はウォーミングアップを完了する。この後直ちにプリント操作をしない場合は、MFP1はレディーモードに切り替わる。
【0047】
MFP1がプリント操作を開始すると、定着ユニット32は、ウォーミングアップモードから定着モードに移行する。定着モードでは、駆動制御部4は、ニップ44を形成した状態で、加圧ローラ37を回転駆動する。定着モードでは、IH制御部3によりIHコイル38に印加する高周波電流を調整して、定着ベルト36を定着温度に維持する。定着ユニット32は、シートPがニップ44を通過する間にシートPにトナー像を定着する。定着ベルト36表面とギャップGを維持する剥離プレート47は、ニップ44を抜けたシートPを、定着ベルト36から剥離する。加圧ローラ37に接触する剥離爪48は、ニップ44を抜けたシートPを、加圧ローラ37から剥離する。
【0048】
定着モード完了後、MFP1がレディーモードに切り替わると、駆動制御部4は、第1のクラッチ6aと第2のクラッチ7aとを切り替えて、加圧ローラ37の回転を停止する一方、カム50を回転して、カム軸50aから遠いカム面50cがカムフォロワ51に接する位置で、カム50を停止する。加圧アーム41が矢印f方向に回動して、加圧ローラ37の、定着ベルト36に対する圧力を減圧する。
【0049】
加圧アーム41が矢印f方向に回動すると、剥離プレート47は、退避リンク52のコロ52aに押し上げられて、矢印k方向に回動するリフト部54と一体に矢印m方向に回動する。剥離プレート47は、加圧アーム41の回動に連動して退避位置βに移動する。
【0050】
レディーモード時は、定着ベルト36に対する圧力を減圧した後、必要に応じて、加圧ローラ37を回転し、定着ベルトを従動回転する。但し加圧ローラ37の、定着ベルト36に対する圧力が減圧されていることから、加圧ローラ37の回転駆動による定着ベルト36及び加圧ローラ37にかかる負荷を軽減出来、定着ベルト36及び加圧ローラ37の長寿命化を得られる。又レディーモード時には、剥離プレート47が退避位置βに移動していることから、加圧変形していた定着ローラ33が復元しても、剥離プレート47が定着ベルト36に接触するのを防止出来る。
【0051】
MFP1が、レディーモードを経て休止モードになると、本体制御部2は、定着ベルト36に対する加圧ローラ37の圧力を減圧した状態で、IH制御部3及び駆動制御部4を停止制御し、IHコイル38への高周波電流の印加を停止する。
【0052】
又プリント操作中にジャムを生じた場合は、駆動制御部4は、第1のクラッチ6aと第2のクラッチ7aの制御を切り替える。駆動制御部4は、第1のクラッチ6aを連結し、第2のクラッチ7aを切断して、カム50を矢印w方向に回転して、カム軸50aから遠いカム面50cがカムフォロワ51に接する位置で、カム50を停止する。加圧アーム41が矢印f方向に回動して、加圧ローラ37の定着ベルト36に対する圧力を減圧する。加圧アーム41の矢印f方向の回動により、剥離プレート47は退避位置βに移動する。又本体制御部2は、IH制御部3を停止制御して、IHコイル38への高周波電流の印加を停止する。
【0053】
レディーモード或いは休止モードからプリント操作が入力されると、MFP1は定着モードに切り替わる。加圧ローラ37の定着ベルト36に対する減圧を解除するために、駆動制御部4は、第1のクラッチ6aを連結し、第2のクラッチ7aを切断して、カム50を矢印w方向に回転する。カム軸50aに近いカム面50bがカムフォロワ51に接するまでカム50を回転後停止する。カム50の回転に伴い加圧アーム41は矢印e方向に回動し、加圧ローラ37の定着ベルト36に対する減圧を解除して、加圧ローラ37と定着ベルト36の間にニップ44を形成する。
【0054】
加圧ローラ37の定着ベルト36に対する減圧を解除すると、退避リンク52は矢印i方向に回動し、コロ52aが、リフト部54の自由端54aから離れる。リフト部54は矢印q方向に回動して、スタッド56に当接する位置で停止する。剥離プレート47は、リフト部54と一体に矢印x方向に移動して、先端が定着ベルト36表面とのギャップGを維持する剥離位置αに戻る。剥離プレート47は、ニップ44を通過したシートPを定着ベルト36から確実に剥離する。
【0055】
この実施態様によると、加圧ローラ37と定着ベルト36間を減圧する場合に、退避リンク52により、リフト部54と剥離プレート47を一体に回動して、剥離プレート47を剥離位置αから、退避位置βに移動する。加圧ローラ37により加圧変形していた定着ローラ33が復元しても、剥離プレート47の先端が定着ベルト36に接触するのを確実に防止して、剥離プレート47の先端が接触して定着ベルト36を損傷するのを防止する。
【0056】
モータ5は、カム50と加圧ローラ37とを駆動し、第1のクラッチ6aと第2のクラッチ7aを切り替えることにより、カム50あるいは加圧ローラ37のいずれかを回転する。加圧ローラ37と定着ベルト36間を減圧するために、カム50を回転する間であって、剥離プレート47が剥離位置αから、退避位置βに移動する前に、加圧変形していた定着ローラ33が復元したとしても、加圧ローラ37に従動する定着ベルト36は回転停止している。もし剥離プレート47の先端が復元した定着ベルト36に接触したとしても、剥離プレート47が定着ベルト36を摺接するのを回避できる。
【0057】
又剥離プレート47の位置調整は、製造時に加圧アーム41から退避リンク52を取り外してリンク部54に対する調整ネジ57の高さ調整を行うことにより実施する。退避リンク52の影響を受けることなくリンク部54に対する調整ネジ57の高さを調整できることから、剥離プレート47の先端と定着ベルト36との間のギャップGを高精度に調整出来る。
【0058】
更にリフト部54の回転軸47aと平行な方向において、リフト部54の当接ポイント54bとコロ52aの位相t1を近接することにより、リフト部54の回転軸47aと鉛直な方向に回転モーメントが発生するのを抑制して、剥離プレート47の剥離位置αと退避位置β間の移動をスムースにし、且つ剥離プレート47先端と定着ベルト36間のギャップGを高精度に維持する。
【0059】
この発明は上記実施形態に限られるものではなく種々変更が可能である。例えば定着部は定着ベルトを用いて説明をしたが、これに限定されることなく、定着ローラを有する構造を定着部としてもよい。また、加圧部は加圧ローラを用いて説明をしたが、これに限定されることなく、加圧ベルトを有する構造を加圧部としてもよい。更にカムを駆動する駆動源と、定着部を駆動する駆動源とを夫々別に設けてもよい。
【0060】
この発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことが出来る。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
36…定着ベルト
37…加圧ローラ
47a…回転軸
47b…支持部
48…剥離爪
48a…支持軸
52…退避リンク
52a…コロ
52b…ねじ
53…第1のバネ
54…リフト部
54a…自由端
54b…当接ポイント
56…スタッド
57…調整ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を有する記録媒体に接する定着部と、
前記定着部とニップを形成する加圧部と、
前記ニップの出口にあって前記定着部と剥離ギャップを隔てる剥離位置に対向するプレートを備え、前記定着部と前記加圧部間の減圧に伴い前記プレートを前記定着部の回転基準から更に離れる退避位置に移動する定着剥離部とを具備する定着装置。
【請求項2】
前記定着部及び前記定着剥離部を支持する固定フレームと、前記加圧部を支持して前記固定フレームに対して回動する可動フレームと、前記可動フレームに設けられて、前記可動フレームの前記回動に伴い前記定着剥離部に接触して、前記プレートを前記退避位置に移動するリンク部を更に備え、
前記定着剥離部は、前記プレートを前記定着部側に付勢する弾性部と、前記プレートの回転軸と同じ回転軸に取着して、前記弾性部の前記プレートを付勢する力に対抗して、前記プレートを前記剥離位置に維持し、前記可動フレームの前記回動に伴い前記リンク部にリンクして、前記プレートと一体に回動するリフト部を含む請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
前記定着剥離部は、前記剥離ギャップの大サイズ調整する調整部を含む請求項1又は請求項2記載の定着装置。
【請求項4】
前記定着剥離部は、前記剥離ギャップの大サイズ調整する調整部を含み、
前記リンク部は、前記可動フレームと着脱出来、前記調整部により前記剥離ギャップの大きさを調整する場合には、前記リンク部を前記可動フレームから取り外す請求項2記載の定着装置。
【請求項5】
前記定着剥離部は、前記剥離ギャップの大サイズ調整する調整部を含み、
前記リフト部は前記リンク部に当接し、前記調整部は、先端が前記リフト部に当接して前記プレートと前記リフト部との距離を調整する調整ネジであり、前記リフト部の回転軸と平行な方向において、前記調整ネジの前記リフト部との当接位置と前記リフト部と前記リンク部との当接位置との距離を近接して、前記調整ネジの前記リフト部との当接位置と前記リフト部と前記リンク部との当接位置の前記リフト部の回転軸と平行な方向における位相を実質一致させる請求項2記載の定着装置。
【請求項6】
前記定着部は、前記プレートを前記剥離位置から前記退避位置に移動する間は、回転を停止する請求項1乃至請求項6のいずれか記載の定着装置。
【請求項7】
前記定着部及び前記定着剥離部を支持する固定フレームと、前記加圧部を支持して前記固定フレームに対して回動する可動フレームと、前記可動フレームを回動させるカム部と、前記加圧部あるいは前記カム部のいずれかを回転する駆動部と、前記駆動部の駆動を前記カム部に伝達する第1のギア部と、前記駆動部の駆動を前記加圧部に伝達する第2のギア部と、前記第1のギア部と前記第2のギア部とを切替える切替え部とを更に備えて、駆動部の駆動を前記カム部に伝達する間は前記加圧部の駆動を停止する請求項1記載の定着装置。
【請求項8】
記録媒体に画像を形成する画像形成部と、
前記画像を有する記録媒体に接する定着部と、
前記定着部とニップを形成する加圧部と、
前記ニップの出口にあって前記定着部と剥離ギャップを隔てる剥離位置に対向するプレートを備え、前記定着部と前記加圧部間の減圧に伴い前記プレートを前記定着部の回転基準から更に離れる退避位置に移動する定着剥離部とを具備する画像形成装置。
【請求項9】
前記定着剥離部は、
前記プレートを前記定着部側に付勢する弾性部と、前記プレートの回転軸と同じ回転軸に取着して、前記弾性部の前記プレートを付勢する力に対抗して、前記プレートを前記剥離位置に維持し、前記定着部及び前記定着剥離部を支持する固定フレームに対して回動し、前記加圧部を支持する可動フレームの回動に伴い、前記定着剥離部に接触して、前記プレートを前記退避位置に移動するリンク部にリンクして、前記プレートと一体に回動するリフト部と、前記剥離ギャップのサイズを調整する調整部を含む請求項8記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−123389(P2012−123389A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−265714(P2011−265714)
【出願日】平成23年12月5日(2011.12.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】