説明

実体顕微鏡および顕微鏡用制御装置

【課題】より確実かつ容易に観察対象物の像を立体視できるようにする。
【解決手段】画像生成部311は、撮像素子161Lおよび撮像素子161Rにより撮影された左眼用および右眼用の観察画像の画像信号に基づいて、左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データを生成する。輝度分析部312は、左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データの輝度分布を分析する。光量調整部313は、左眼用観察画像データと右眼用観察画像データの輝度分布の差が小さくなるように、光源装置201Lおよび光源装置201Rの光量を個別に調整する。本発明は、例えば、実体顕微鏡に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実体顕微鏡および顕微鏡用制御装置に関し、特に、より確実かつ容易に観察対象物の像を立体視できるようにした実体顕微鏡および顕微鏡用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、凹凸のある観察対象物の拡大像を、両眼で直接見る場合と同様な立体感で観察するために、実体顕微鏡が用いられている。実体顕微鏡は、例えば、観察対象物とピンセット等の道具との距離を容易に把握することができるため、精密機械工業、生物の解剖、手術等、道具を用いて緻密な作業を行う分野で特に有用である。
【0003】
実体顕微鏡は、左右の眼に写る像に視差を与えるために、左眼に入射する光が通過する光学系と右眼に入射する光が通過する光学系を少なくとも部分的に独立させるとともに、左右の光学系の光軸が観察対象物の表面で交わるように設計される。そして、観察対象物を異なる方向から見た左眼用と右眼用の2つの拡大像を生成し、接眼レンズを介して観察することにより、微小な観察対象物の拡大像を立体視することができる。
【0004】
また、実体顕微鏡の接眼レンズが設けられた双眼鏡筒を覗き込む姿勢は、観察者にとって自由度が少なく、長時間の観察には疲労を伴う。そこで、従来、左眼用および右眼用の光学系にそれぞれ撮像素子を設け、左眼用の画像と右眼用の画像を撮影し、得られた2つの画像を用いて観察対象物の立体画像を立体視ディスプレイ装置に表示するようにして、観察者の負担を軽減することが行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3209543号公報
【特許文献2】特開2005−323876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、実体顕微鏡では、照明方法や観察対象物の反射特性によって、左眼用の像を形成する光と右眼用の像を形成する光との間で、強度や分光分布が著しく異なる場合がある。
【0007】
例えば、図11を参照して、バンプ712が形成されているプリント基板711に照明装置701Lおよび照明装置701Rを用いて左右から照明光を照射しながら、実体顕微鏡を用いてプリント基板711の検査を行う場合について考える。
【0008】
バンプ712の表面は反射率が高い上に不規則な形状をしているため、バンプ712に照射された照明光は、鏡面反射や等方散乱とは異なり乱雑に反射される。また、プリント基板711の検査工程では、観察者が、実体顕微鏡の対物レンズ702に対して様々な方向にプリント基板711を傾けながら、プリント基板711の検査を行う。従って、バンプ712の同じ位置で反射された光のうち、太い矢印で示される左眼用の像を形成する光の強度と、細い矢印で示される右眼用の像を形成する光の強度との間に不均衡が生じ、左眼用の像の輝度と右眼用の像の輝度に大きな差が生じてしまう場合がある。
【0009】
また、例えば、反射防止膜などのように入射角により反射光の分光特性が異なる表面処理が施された観察対象物を実体顕微鏡で観察する場合、観察対象物の同じ位置で反射された光のうち、左眼用の像を形成する光の分光分布と右眼用の像を形成する光の分光分布の間に不均衡が生じ、左眼用の像の色調と右眼用の像の色調に大きな差が生じてしまう場合がある。
【0010】
そして、左眼用の像と右眼用の像の間で輝度や色調の差が大きくなると、接眼レンズを用いて観察するか、立体視ディスプレイ装置を用いて観察するかに関わらず、観察者は、2つの像から観察対象物を立体視するのが困難になり、観察対象物の像の立体感を体感しづらくなる。
【0011】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、より確実かつ容易に観察対象物の像を立体視できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の側面の実体顕微鏡は、観察対象物を異なる方向から見た左眼用の第1の像および右眼用の第2の像を形成する光学系と、第1の像と第2の像の輝度分布および分光分布のうち少なくとも一方の分布を分析する分析手段と、第1の像と第2の像の輝度分布および分光分布のうち少なくとも一方の差が小さくなるように、第1の像を形成する第1の光と第2の像を形成する第2の光の強度および分光分布のうち少なくとも一方を調整する調整手段とを備える。
【0013】
本発明の第1の側面においては、観察対象物を異なる方向から見た左眼用の第1の像および右眼用の第2の像の輝度分布および分光分布のうち少なくとも一方の分布が分析され、第1の像と第2の像の輝度分布および分光分布のうち少なくとも一方の差が小さくなるように、第1の像を形成する第1の光と第2の像を形成する第2の光の強度および分光分布のうち少なくとも一方が調整される。
【0014】
本発明の第2の側面の顕微鏡用制御装置は、観察対象物を異なる方向から見た左眼用の第1の像および右眼用の第2の像を形成する光学系を有する実体顕微鏡の制御を行う顕微鏡用制御装置であって、第1の像と第2の像の輝度分布および分光分布のうち少なくとも一方の分布を分析する分析手段と、第1の像と第2の像の輝度分布および分光分布のうち少なくとも一方の差が小さくなるように、第1の像を形成する第1の光と第2の像を形成する第2の光の強度および分光分布のうち少なくとも一方を調整する調整手段とを備える。
【0015】
本発明の第2の側面においては、観察対象物を異なる方向から見た左眼用の第1の像および右眼用の第2の像の輝度分布および分光分布のうち少なくとも一方の分布が分析され、第1の像と第2の像の輝度分布および分光分布のうち少なくとも一方の差が小さくなるように、第1の像を形成する第1の光と第2の像を形成する第2の光の強度および分光分布のうち少なくとも一方が調整される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の側面または第2の側面によれば、より確実かつ容易に観察対象物の像を立体視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を適用した実体顕微鏡の一実施の形態の外観の構成例を示す図である。
【図2】本発明を適用した実体顕微鏡の一実施の形態の光学系の構成例を示す図である。
【図3】実体顕微鏡の照明方法の例を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態の制御部の構成例を示すブロック図である。
【図5】検出対象物の輝度の制御方法について説明するための図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態の制御部の構成例を示すブロック図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態の画像処理部の構成例を示すブロック図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態の制御部の構成例を示すブロック図である。
【図9】本発明の第5の実施の形態の画像処理部の構成例を示すブロック図である。
【図10】実体顕微鏡の照明方法の例を示す図である。
【図11】左眼用の像と右眼用の像の輝度に大きな差が生じる例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態という)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態
2.第2の実施の形態
3.第3の実施の形態
4.第4の実施の形態
5.第5の実施の形態
6.変形例
【0019】
<1.第1の実施の形態>
図1乃至図5を参照して、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0020】
[実体顕微鏡の構成例]
図1は、本発明を適用した実体顕微鏡の一実施の形態の外観の構成例を示し、図2は、光学系の構成例を示している。なお、本発明の第1乃至第5の実施の形態において、実体顕微鏡の外観および光学系の構成は共通である。
【0021】
実体顕微鏡101は、単対物双眼構成の平行光学系(ガリレオ式)の実体顕微鏡である。実体顕微鏡101は、ベース部(照明部)111、変倍レンズ鏡筒112、および、焦点合わせ装置113を備えている。焦点合わせ装置113は、ベース部111の上面の後端かつ左右方向の中央に立設され、変倍レンズ鏡筒112は、焦点合わせ装置113の前面の上部に設けられている。
【0022】
ベース部111には、透過照明装置(不図示)が内蔵され、透明部材が埋め込まれた観察対象載置台114が上面に設けられている。観察対象載置台114には、観察する対象となる観察対象物102(図2)が載置される。
【0023】
変倍レンズ鏡筒112の下面には、対物レンズ取付部115が設けられている。対物レンズ取付部115には、例えば、対物レンズを1つだけ取付けることが可能なタイプや、対物レンズを複数取付けて、使用する対物レンズを切替えることが可能なタイプがあり、いずれのタイプを採用してもよい。そして、観察者は、例えば、予め定められた複数の低倍率の対物レンズおよび複数の高倍率の対物レンズの中から、取付け可能な個数以下の対物レンズを選択し、対物レンズ取付部115に取付けた状態で実体顕微鏡101を使用する。
【0024】
変倍レンズ鏡筒112には、左眼用の変倍光学系152L乃至偏向素子154L(図2)、並びに、右眼用の変倍光学系152R乃至偏向素子154R(図2)が内蔵されている。また、変倍レンズ鏡筒112の左側面および右側面には、変倍ノブ116が設けられている。さらに、変倍レンズ鏡筒112には、左眼用の撮影ユニット156L(図2)および右眼用の撮影ユニット156R(図2)を取付けることが可能である。
【0025】
変倍レンズ鏡筒112の上部には、双眼鏡筒117が設けられている。双眼鏡筒117には、左眼用の結像レンズ155L(図2)および接眼レンズ(不図示)、並びに、右眼用の結像レンズ155R(図2)および接眼レンズ(不図示)が内蔵されている。
【0026】
焦点合わせ装置113の左右の側面の上部には、焦点合わせノブ118が設けられている。また、焦点合わせ装置113には、焦点合わせノブ118の回転に伴い、変倍レンズ鏡筒112を光軸に沿って上下動させる機構部(不図示)が設けられている。
【0027】
観察対象物102からの光(以下、観察光と称する)は、対物レンズ151を透過した後、その光路によって変倍光学系152Lおよび変倍光学系152Rに分かれて入射する。変倍光学系152Lおよび変倍光学系152Rをそれぞれ構成する各変倍レンズ群には、観察倍率を調整するための可動群が含まれている。そして、変倍ノブ116を回転することにより、回転量に応じた距離だけ各可動群が光軸方向に移動し、観察倍率を調整することができる。また、各変倍レンズ群には可変絞り(不図示)が含まれており、変倍レンズ鏡筒112に設けられている調節機構(不図示)により、可変絞りの絞り量を調節することができる。
【0028】
変倍光学系152Lから射出された観察光は、可変式NDフィルタ153Lに入射する。可変式NDフィルタ153Lは、例えば、円環状で円周方向に透過率が連続して変化する可変式のNDフィルタにより構成される。そして、アクチュエータ402L(図6)を用いて可変式NDフィルタ153Lを円周方向に回転させ、観察光の入射位置を変えることにより、減光量を調整することができる。可変式NDフィルタ153Lにより減光された観察光は、例えばビームスプリッタプリズムにより構成される偏向素子154Lに入射し、偏向素子154Lを透過して結像レンズ155Lに入射する接眼用の光と、偏向素子154Lにより反射されて撮影ユニット156Lに入射する撮影用の光に分割される。
【0029】
同様に、変倍光学系152Rから射出された観察光は、可変式NDフィルタ153Lと同様の構成の可変式NDフィルタ153Rに入射する。可変式NDフィルタ153Rも、可変式NDフィルタ153Lと同様に、アクチュエータ402R(図6)を用いて円周方向に回転させ、観察光の入射位置を変えることにより、減光量を調整することができる。可変式NDフィルタ153Rにより減光された観察光は、偏向素子154Lと同様の構成の偏向素子154Rに入射し、偏向素子154Rを透過して結像レンズ155Rに入射する接眼用の光と、偏向素子154Rにより反射されて撮影ユニット156Rに入射する撮影用の光に分割される。
【0030】
そして、結像レンズ155Lおよび結像レンズ155Rにより、左眼用および右眼用の2つの像(以下、観察像と称する)が形成される。左眼用の観察像と右眼用の観察像の間には視差があり、観察者は、接眼レンズ(不図示)を介して、左眼用の観察像を左眼で見て、右眼用の観察像を右眼で見ることにより、観察対象物102の像を立体視することができる。
【0031】
また、撮影ユニット156Lの撮像素子161Lは、偏向素子154Lにより反射された観察光による像を撮影し、得られた左眼用の画像(以下、観察画像)を示す画像信号を制御部301(図4)に供給する。同様に、撮影ユニット156Rの撮像素子161Rは、偏向素子154Rにより反射された観察光による像を撮影し、得られた右眼用の観察画像を示す画像信号を制御部301(図4)に供給する。
【0032】
[照明方法の例]
図3は、実体顕微鏡101の照明方法の一例を示している。この照明方法は、例えば、プリント基板など、観察対象物102の表面が非鏡面である場合に用いられるものである。
【0033】
光源装置201Lから発せられた照明光は、導光用ファイババンドル202Lによって導かれ、左斜め上方向から観察対象物102に照射される。また、光源装置201Rから発せられた照明光は、導光用ファイババンドル202Rによって導かれ、右斜め上方向から観察対象物102に照射される。このように左右の異なる方向から観察対象物102を照らすことにより、色再現性が良く、凹凸部に対して適度な陰影によるコントラストをつけた観察像および観察画像を得ることができる。
【0034】
また、光源装置201Lおよび光源装置201Rは、それぞれ個別に光量および分光分布を調整することが可能である。
【0035】
[制御部の構成例]
図4は、実体顕微鏡101の制御を行う制御部301の構成例を示している。制御部301は、例えば、コンピュータ、または、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ等により構成され、所定の制御プログラムを実行することにより、画像生成部311、輝度分析部312、光量調整部313、および、立体画像生成部314を含む機能を実現する。
【0036】
画像生成部311は、撮影ユニット156Lの撮像素子161Lから供給される画像信号に基づいて、左眼用の観察画像のデータを生成し、撮影ユニット156Rの撮像素子161Rから供給される画像信号に基づいて、右眼用の観察画像のデータを生成する。画像生成部311は、生成した左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データを、輝度分析部312および立体画像生成部314に供給する。
【0037】
輝度分析部312は、左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データの輝度分布を分析し、分析結果を光量調整部313に供給する。
【0038】
光量調整部313は、図5を参照して後述するように、左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データの輝度分布の分析結果に基づいて、光源装置201Lおよび光源装置201Rの光量を個別に調整する。
【0039】
立体画像生成部314は、左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データに基づいて、立体画像データを生成し、裸眼立体視ディスプレイ装置302に供給する。例えば、立体画像生成部314は、左眼用観察画像データの縦方向の画素列、および、右眼用観察画像データの縦方向の画素列を一列置きに交互に並べることにより、立体画像データを生成する。また、裸眼立体視ディスプレイ装置302は、例えば、レンチキュラー方式またはパララックスバリア方式の裸眼立体視ディスプレイ装置により構成される。そして、裸眼立体視ディスプレイ装置302は、立体画像データに基づく立体画像を表示したときに、左眼用の画素列から発せられた光が点線の矢印の方向に進んで観察者303の左眼に入射し、右眼用の画素列から発せられた光が実線の矢印の方向に進んで観察者303の右眼に入射するように、各画素からの光の進路を調整する。
【0040】
これにより、観察者303は、専用の3D眼鏡等を用いずに、撮影ユニット156Lにより撮影された左眼用の観察画像を左眼で見て、撮影ユニット156Rにより撮影された右眼用の観察画像を右眼で見ることができ、観察対象物102の像を立体視することができる。
【0041】
[光量調整部313の処理の詳細]
ここで、図5を参照して、制御部301の光量調整部313の処理の詳細について説明する。
【0042】
図5の左右のグラフは、輝度分析部312により得られる左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データの輝度分布の分析結果の例を示している。両方のグラフとも横軸は輝度を表し、縦軸は画素数を表している。
【0043】
左側のグラフは、左眼用の像を形成する観察光の強度と右眼用の像を形成する観察光の強度の差が大きい場合の輝度分布の例を示しており、ヒストグラム351Lは左眼用観察画像データの輝度分布を表し、ヒストグラム351Rは右眼用観察画像データの輝度分布を表している。また、輝度ALは、左眼用観察画像データの平均輝度を表し、輝度ARは、右眼用観察画像データの平均輝度を表している。
【0044】
光量調整部313は、例えば、輝度分析部312による分析結果に基づいて、左眼用観察画像データの平均輝度ALと、右眼用観察画像データの平均輝度ARとの差が小さくなるように、光源装置201Lおよび光源装置201Rの光量のフィードバック制御を行う。これにより、図5の右側のグラフのように、左眼用観察画像データの輝度のヒストグラム361Lと、右眼用観察画像データの輝度のヒストグラム361Rとの差が小さくなり、左眼用の像を形成する観察光の強度と右眼用の像を形成する観察光の強度の差が小さくなるように、光源装置201Lおよび光源装置201Rの光量がリアルタイムに制御される。
【0045】
その結果、撮影ユニット156Lにより撮影される左眼用の観察画像における観察対象物102の像の輝度と、撮影ユニット156Rにより撮影される右眼用の観察画像における観察対象物102の像の輝度の差が小さくなる。同様に、結像レンズ155Lにより結像される左眼用の観察像における観察対象物102の像の輝度と、結像レンズ155Rにより結像される右眼用の観察像における観察対象物102の像の輝度の差が小さくなる。
【0046】
そして、観察者は、双眼鏡筒117を介して観察対象物102を観察する場合、および、裸眼立体視ディスプレイ装置302を介して観察対象物102を観察する場合の両方において、より確実かつ容易に観察対象物102の像を立体視することが可能になり、観察対象物102の像の立体感を体感しやすくなる。
【0047】
<2.第2の実施の形態>
次に、図6を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態と比較して、図4の制御部301の代わりに制御部401が設けられている点が異なる。
【0048】
[制御部の構成例]
図6は、制御部401の構成例を示すブロック図である。なお、図中、図4と対応する部分には、同じ符合を付しており、処理が同じ部分については適宜説明を省略する。
【0049】
制御部401は、例えば、コンピュータ、または、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ等により構成され、所定の制御プログラムを実行することにより、画像生成部311、輝度分析部312、光量調整部411、および、立体画像生成部314を含む機能を実現する。従って、制御部401は、図4の制御部301と比較して、画像生成部311、輝度分析部312、および、立体画像生成部314が設けられている点で一致し、光量調整部313の代わりに、光量調整部411が設けられている点が異なる。
【0050】
光量調整部411は、左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データの輝度分布の分析結果を輝度分析部312から取得する。そして、光量調整部313は、取得した分析結果に基づいて、アクチュエータ402Lおよびアクチュエータ402Rを駆動して、可変式NDフィルタ153Lおよび可変式NDフィルタ153Rの減光量を個別に調整することにより、結像レンズ155Lおよび撮像素子161Lに入射する観察光の強度、および、結像レンズ155Rおよび撮像素子161Rに入射する観察光の強度を調整する。
【0051】
より具体的には、光量調整部411は、例えば、輝度分析部312による分析結果に基づいて、左眼用観察画像データの平均輝度ALと、右眼用観察画像データの平均輝度ARとの差が小さくなるように、アクチュエータ402Lおよびアクチュエータ402Rを介して、可変式NDフィルタ153Lおよび可変式NDフィルタ153Rの減光量のフィードバック制御を行う。これにより、上述した図5の右側のグラフのように、左眼用観察画像データの輝度のヒストグラム361Lと、右眼用観察画像データの輝度のヒストグラム361Rとの差が小さくなり、左眼用の像を形成する観察光の強度と右眼用の像を形成する観察光の強度の差が小さくなるように、可変式NDフィルタ153Lおよび可変式NDフィルタ153Rの減光量がリアルタイムに制御される。
【0052】
その結果、第1の実施の形態の場合と同様に、左眼用の観察画像における観察対象物102の像の輝度と右眼用の観察画像における観察対象物102の像の輝度の差、および、左眼用の観察像における観察対象物102の像の輝度と右眼用の観察像における観察対象物102の像の輝度の差が小さくなる。
【0053】
そして、観察者は、双眼鏡筒117を介して観察対象物102を観察する場合、および、裸眼立体視ディスプレイ装置302を介して観察対象物102を観察する場合の両方において、より確実かつ容易に観察対象物102の像を立体視することが可能になり、観察対象物102の像の立体感を体感しやすくなる。
【0054】
<3.第3の実施の形態>
次に、図7を参照して、本発明の第3の実施の形態について説明する。本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態と比較して、制御部301の代わりに画像処理部451が設けられている点が異なる。
【0055】
[画像処理部の構成例]
図7は、画像処理部451の構成例を示すブロック図である。なお、図中、図4と対応する部分には、同じ符合を付しており、処理が同じ部分については適宜説明を省略する。
【0056】
画像処理部451は、例えば、コンピュータ、または、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ等により構成され、所定の制御プログラムを実行することにより、画像生成部311、輝度分析部312、輝度調整部461、および、立体画像生成部314を含む機能を実現する。従って、画像処理部451は、図4の制御部301と比較して、画像生成部311、輝度分析部312、および、立体画像生成部314が設けられている点で一致し、光量調整部313の代わりに、輝度調整部461が設けられている点が異なる。
【0057】
輝度調整部461は、左眼用観察画像データ、右眼用観察画像データ、並びに、左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データの輝度分布の分析結果を、輝度分析部312から取得する。また、輝度調整部461は、左眼用観察画像データの平均輝度ALと、右眼用観察画像データの平均輝度ARとの差が所定の閾値以下になるように、左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データの輝度を調整するためのゲインの値を個別に調整する。そして、輝度調整部461は、設定したゲインにより左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データの輝度を調整し、立体画像生成部314に供給する。
【0058】
立体画像生成部314は、輝度調整部461により輝度の差が小さくなるように調整された左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データに基づいて、立体画像データを生成し、裸眼立体視ディスプレイ装置302に供給する。
【0059】
これにより、観察者は、裸眼立体視ディスプレイ装置302を介して観察対象物102を観察する場合、より確実かつ容易に観察対象物102の像を立体視することが可能になり、観察対象物102の像の立体感を体感しやすくなる。
【0060】
<4.第4の実施の形態>
次に、図8を参照して、本発明の第4の実施の形態について説明する。本発明の第4の実施の形態は、第1の実施の形態と比較して、図4の制御部301の代わりに制御部501が設けられている点が異なる。
【0061】
[制御部の構成例]
図8は、制御部501の構成例を示すブロック図である。なお、図中、図4と対応する部分には、同じ符合を付しており、処理が同じ部分については適宜説明を省略する。
【0062】
制御部501は、例えば、コンピュータ、または、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ等により構成され、所定の制御プログラムを実行することにより、画像生成部311、分光分析部511、分光分布調整部512、および、立体画像生成部314を含む機能を実現する。従って、制御部501は、図4の制御部301と比較して、画像生成部311および立体画像生成部314が設けられている点で一致し、輝度分析部312および光量調整部313の代わりに、分光分析部511および分光分布調整部512が設けられている点が異なる。
【0063】
分光分析部511は、左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データを画像生成部311から取得する。分光分析部511は、左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データの両方から、同一の主要な観察対象物(以下、主要対象物と称する)を検出する。なお、主要対象物を検出する方法は、任意の方法を採用することができる。
【0064】
例えば、主要対象物は画像の中央に位置することが多いため、画像の中央の所定の範囲を主要対象物が存在する領域として予め設定しておくようにしてもよい。また、例えば、エッジ検出や画像認識等を用いて画像内の物体を検出し、検出した物体のうち最も中央に近い位置に存在する物体、あるいは、最も大きな物体を主要対象物に設定するようにしてもよい。あるいは、例えば、観察者が画像内の主要対象物を手動で指定するようにしてもよい。
【0065】
そして、分光分析部511は、左眼用観察画像データにおける主要対象物の画像の分光分布、および、右眼用観察画像データにおける主要対象物の画像の分光分布を分析し、分析結果を分光分布調整部512に供給する。
【0066】
分光分布調整部512は、例えば、分光分析部511による分析結果に基づいて、左眼用観察画像データにおける主要対象物の画像の分光分布と、右眼用観察画像データにおける主要対象物の画像の分光分布の差が小さくなるように、光源装置201Lおよび光源装置201Rから発せられる照明光の分光分布のフィードバック制御を行う。
【0067】
その結果、撮影ユニット156Lにより撮影される左眼用の観察画像における主要対象物の色調と、撮影ユニット156Rにより撮影される右眼用の主要対象物の色調の差が小さくなる。同様に、結像レンズ155Lにより結像される左眼用の観察像における主要対象物の色調と、結像レンズ155Rにより結像される右眼用の観察像における主要対象物の色調の差が小さくなる。
【0068】
そして、観察者は、双眼鏡筒117を介して観察対象物102を観察する場合、および、裸眼立体視ディスプレイ装置302を介して観察対象物102を観察する場合の両方において、より確実かつ容易に観察対象物102の像を立体視することが可能になり、観察対象物102の像の立体感を体感しやすくなる。
【0069】
<5.第5の実施の形態>
次に、図9を参照して、本発明の第5の実施の形態について説明する。本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態と比較して、制御部501の代わりに画像処理部551が設けられている点が異なる。
【0070】
[画像処理部の構成例]
図9は、画像処理部551の構成例を示すブロック図である。なお、図中、図8と対応する部分には、同じ符合を付しており、処理が同じ部分については適宜説明を省略する。
【0071】
画像処理部551は、例えば、コンピュータ、または、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ等により構成され、所定の制御プログラムを実行することにより、画像生成部311、分光分析部511、ホワイトバランス調整部561、および、立体画像生成部314を含む機能を実現する。従って、画像処理部551は、図8の制御部501と比較して、画像生成部311、分光分析部511、および、立体画像生成部314が設けられている点で一致し、分光分布調整部512の代わりに、ホワイトバランス調整部561が設けられている点が異なる。
【0072】
ホワイトバランス調整部561は、左眼用観察画像データ、右眼用観察画像データ、並びに、左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データにおける主要対象物の分光分布の分析結果を、分光分析部511から取得する。また、ホワイトバランス調整部561は、左眼用観察画像データにおける主要対象物の分光分布と、右眼用観察画像データにおける主要対象物の分光分布との差が所定の閾値以下となるように、左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データのホワイトバランスを個別に調整する。そして、ホワイトバランス調整部561は、ホワイトバランスを調整した左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データを立体画像生成部314に供給する。
【0073】
立体画像生成部314は、ホワイトバランス調整部561により主要対象物の分光分布の差が小さくなるようにホワイトバランスが調整された左眼用観察画像データおよび右眼用観察画像データに基づいて、立体画像データを生成し、裸眼立体視ディスプレイ装置302に供給する。
【0074】
これにより、観察者は、裸眼立体視ディスプレイ装置302を介して観察対象物102を観察する場合、より確実かつ容易に観察対象物102の像を立体視することが可能になり、観察対象物102の像の立体感を体感しやすくなる。
【0075】
<6.変形例>
以上の説明では、第1乃至第3の実施の形態において、左眼用観察画像データと右眼用観察画像データの平均輝度の差を小さくするように制御する例を示したが、平均輝度以外にも、例えば、左眼用観察画像データと右眼用観察画像データの輝度のヒストグラムの中央値あるいは最頻値の差を小さくするように制御したり、2つのヒストグラム間の距離を小さくするように制御したりしてもよい。
【0076】
また、制御部301、制御部401、画像処理部451、制御部501、および、画像処理部551は、実体顕微鏡101に内蔵するようにしてもよいし、実体顕微鏡101とは別に設けるようにしてもよい。あるいは、制御部301、制御部401、画像処理部451、制御部501、および、画像処理部551の一部を、実体顕微鏡101や、撮影ユニット156Lおよび撮影ユニット156Rに内蔵するようにしてもよい。
【0077】
さらに、以上の説明では、裸眼立体視ディスプレイ装置302を用いて裸眼で立体画像を観察する例を示したが、本発明は、眼鏡式3Dディスプレイ等を用いて立体画像を観察する場合にも適用することが可能である。
【0078】
また、以上の説明では、制御部301においてフィードバック制御により光源装置201Lおよび光源装置201Rの光量を制御する例を示したが、フィードバック制御以外の任意の制御方法を採用することが可能である。これは、制御部401および制御部501についても同様である。
【0079】
さらに、本発明は、左右の光学系が完全に独立したグリノー式の実体顕微鏡にも適用することが可能である。
【0080】
また、実体顕微鏡101の照明方法は、図3に示される例に限定されるものではなく、任意の方法を採用することができる。例えば、図10に示されるように、左右にLEDアレイ611LおよびLEDアレイ611Rを備えるLEDアレイ光源装置601を、対物レンズ取付部115の外周に取付けて、左斜め上方向および右斜め上方向から観察対象物102に照明光を照射するようにしてもよい。
【0081】
さらに、照明光を照射する方向は、図3および図10に示されるように左右の2方向に限定されるものではなく、例えば、3つ以上の異なる方向から観察対象物102に照明光を照射するようにして、各照明光の光量または分光分布を制御するようにしてもよい。
【0082】
また、本発明の第2、第3、第5の実施の形態は、1方向からのみ照明光を照射する場合にも有効である。
【0083】
さらに、例えば、本発明の第1乃至第3の実施の形態のうちの1つと、第4および第5の実施の形態のうちの1つを組み合わせて、観察対象物102の像の輝度と分光分布の両方を調整するようにしてもよい。
【0084】
また、第2の実施の形態以外の実施の形態では、可変式NDフィルタ153L,153Rの代わりに、減光量が固定のNDフィルタを設けることが可能である。
【0085】
さらに、本発明の第2の実施の形態において、可変式NDフィルタ153L,153Rの減光量以外にも、例えば、左右の開口絞りの絞り量を個別に制御して、結像レンズ155Lおよび撮像素子161Lに入射する観察光の強度、および、結像レンズ155Rおよび撮像素子161Rに入射する観察光の強度を調整するようにしてもよい。ただし、開口絞りの絞り量を制御するようにした場合、観察光の分光分布が変化する場合があるので、注意が必要である。また、他にも左右の各々の光路に2枚の偏光板を設け、各光路の2枚の偏光板の偏光方位の差を変えることで、観察光の強度を調整するようにしてもよい。
【0086】
また、本発明の第4および第5の実施の形態において、主要対象物の像の色調を合わせるように制御した場合、主要対象物以外の物体の像の色調が左右で大きく異なる副作用が発生する場合が想定される。従って、制御の実行の有無や制御量を任意に設定できるようにすることが望ましい。
【0087】
さらに、制御部301、制御部401、画像処理部451、制御部501、および、画像処理部551の処理は、ハードウェアにより実行することもできるし、ソフトウェアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウェアにより実行する場合には、例えば、そのソフトウェアを構成するプログラムが、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータ、または、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどに、プログラム記録媒体からインストールされる。また、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであっても良いし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであっても良い。
【0088】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明
の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0089】
101 実体顕微鏡, 102 観察対象物, 151 対物レンズ, 152L,152R 変倍光学系, 153L,153R 可変式NDフィルタ, 154L,154R 偏向素子, 155L,155R 結像レンズ, 156L,156R 撮影ユニット, 161L,161R 撮像素子, 201L,201R 光源装置, 301 制御部, 302 裸眼立体視ディスプレイ装置, 311 画像生成部, 312 輝度分析部, 313 光量調整部, 314 立体画像生成部, 401 制御部, 402L,402R アクチュエータ 411 光量調整部, 451 画像処理部, 461 輝度調整部, 501 制御部, 511 分光分析部, 512 分光分布調整部, 551 制御部, 561 ホワイトバランス調整部, 601 LEDアレイ光源装置, 611L,611R LEDアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象物を異なる方向から見た左眼用の第1の像および右眼用の第2の像を形成する光学系と、
前記第1の像と前記第2の像の輝度分布および分光分布のうち少なくとも一方の分布を分析する分析手段と、
前記第1の像と前記第2の像の輝度分布および分光分布のうち少なくとも一方の差が小さくなるように、前記第1の像を形成する第1の光と前記第2の像を形成する第2の光の強度および分光分布のうち少なくとも一方を調整する調整手段と
を備えることを特徴とする実体顕微鏡。
【請求項2】
前記調整手段は、前記第1の像と前記第2の像の輝度分布の差が小さくなるように、前記観察対象物を異なる方向から照らす複数の照明光の光量を個別に調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の実体顕微鏡。
【請求項3】
前記光学系は、
前記第1の像を形成する第1の光学系において前記第1の光を減光するとともに、減光量が調整可能な第1の減光手段と、
前記第2の像を形成する第2の光学系において前記第2の光を減光するとともに、減光量が調整可能な第2の減光手段と
を備え、
前記調整手段は、前記第1の像と前記第2の像の輝度分布の差が小さくなるように、前記第1の減光手段の減光量および前記第2の減光手段の減光量を個別に調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の実体顕微鏡。
【請求項4】
前記調整手段は、前記第1の像と前記第2の像の分光分布の差が小さくなるように、前記観察対象物を異なる方向から照らす複数の照明光の分光分布を個別に調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の実体顕微鏡。
【請求項5】
観察対象物を異なる方向から見た左眼用の第1の像および右眼用の第2の像を形成する光学系を有する実体顕微鏡の制御を行う顕微鏡用制御装置において、
前記第1の像と前記第2の像の輝度分布および分光分布のうち少なくとも一方の分布を分析する分析手段と、
前記第1の像と前記第2の像の輝度分布および分光分布のうち少なくとも一方の差が小さくなるように、前記第1の像を形成する第1の光と前記第2の像を形成する第2の光の強度および分光分布のうち少なくとも一方を調整する調整手段と
を備えることを特徴とする顕微鏡用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−191517(P2011−191517A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57592(P2010−57592)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】