説明

室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物

【課題】脱酢酸型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物において、刺激臭を極力低減し、かつ耐薬品性に優れた室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】(A)式(1):HO(SiR12O)nH(R1はC1〜10の一価炭化水素基、nは10以上の整数)のオルガノポリシロキサン、
(B)式(2):R2aSi(OCOR34-a(R2はC2〜10の一価炭化水素基、R3はC1〜10の一価炭化水素基、aは0〜2)のシラン化合物又はその部分加水分解物、
(C)式(3):Si(OCOR44-b(OR5b(R4、R5はC1〜10の一価炭化水素基、bは1〜3)のシラン化合物又はその部分加水分解物、
(D)アルミニウム原子を有する充填剤、
(E)結晶性シリカ、
(F)煙霧質シリカ、
(G)少なくとも1種の香料、
(H)硬化触媒
を必須成分としてなることを特徴とする室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性、耐薬品性(特に耐エンジンオイル性)に優れ、かつ従来の酢酸型に特有であった刺激臭(酢酸臭)を極力低減した室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物であり、主に自動車用FIPG(Formed In Place Gaskets)材料として有用とされる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のエンジン周辺のシールについては、従来、コルク、有機ゴム、アスベストなどで作られた耐油性のガスケット、パッキング材が使用されているが、これらには在庫管理及び作業工程が煩雑であるという不利があり、更にはそのシール性能にも信頼性がないという欠点がある。そのため、この種の用途には室温硬化型シリコーンゴムを利用したFIPG方式が採用されるようになり、作業性、密閉性、耐熱性の面で高い評価が得られている。
【0003】
現在、一般的に使用されている室温硬化型FIPG材料としては、脱オキシム型、脱酢酸型、脱アセトン型、脱アルコール型があるが、その中でも、脱酢酸型は他の硬化タイプと比較し、低コストで製造でき、かつ速硬化性で得られるゴム硬化物も良好であるため、海外自動車メーカーでは一般的に用いられている。
【0004】
しかしながら、この脱酢酸型の欠点は、縮合反応により常に酢酸が空気中に揮散され、強い酢酸臭が発生し、人体に対する影響(特に目や鼻への刺激)や、環境面からも好ましいとは言えなかった。また、脱酢酸型室温硬化性シリコーン組成物には、通常耐薬品性を向上させる成分として公知である炭酸カルシウムに代表されるような塩基性充填材の添加ができないことが知られている。そのため、得られるシリコーンゴムを耐薬品性試験、例えばエンジンオイルにおける劣化試験を行うと、炭酸カルシウムを添加できる脱オキシム型や脱アルコール型で得られるシリコーンゴムに比べ、劣化が起きやすい弱点があった。
【0005】
臭気の欠点を克服する試みとしては、ハイドロタルサイト類化合物を配合し、臭気を改善する方法(特開平8−245884号公報:特許文献1)が公知であるが、ハイドロタルサイト類を添加しても、架橋の際に発生する酢酸を十分にトラップすることができないため、有効な手段ではなかった。
【0006】
また、耐薬品性の欠点を克服する試みとしては、主鎖が含フッ素ポリマー構造からなり、分子鎖の両末端に加水分解性基を有するフッ素ポリマーを主成分として耐薬品性を向上する方法(特公昭63−61336号公報、米国特許第3950588号明細書及び欧州特許第0151877号明細書:特許文献2〜4)が公知であるが、この方法では主鎖がオルガノポリシロキサンやポリオキシアルキレンからなるポリマーを主成分とする硬化性組成物に比べて硬化速度が遅く、特に深部の硬化には長時間を要する問題があった。また、この問題を回避するべく、アミンとケトンを系内で反応させ、硬化速度を向上させる方法(特開2001−107023号公報、特開2002−226708号公報:特許文献5,6)があるが、脱酢酸型においてアミン化合物を添加すると、副生成物である酢酸とアミン化合物が反応し、4級アンモニウム塩を生成してしまうため、上記の効果が得られない問題があった。また一般的に耐薬品性を向上させる手法としては、上記で述べるような主鎖が含フッ素ポリマーであるものが有効であるが、含フッ素ポリマーは高価なポリマーであるため、得られる組成物は比較的高価となり、汎用品として使用するには無理が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−245884号公報
【特許文献2】特公昭63−61336号公報
【特許文献3】米国特許第3950588号明細書
【特許文献4】欧州特許第0151877号明細書
【特許文献5】特開2001−107023号公報
【特許文献6】特開2002−226708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、脱酢酸型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物において、従来の酢酸型に特有であった刺激臭(酢酸臭)を極力低減し、かつ耐薬品性(特に耐エンジンオイル性)に優れた室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、脱酢酸型に一般的に用いられている硬化剤であるメチルトリアセトキシシランのメチル基をエチル基又はビニル基等に置き換えた、エチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシランなどを用いることで、臭気を低減することができると共に、香料を添加することで人体が感じる酢酸臭を低減することを知見した。また、充填剤としてアルミニウム原子を有する充填剤、結晶性シリカ、煙霧質シリカを併用することで、硬化性を低下させることなく、耐薬品性(特に耐エンジンオイル性)に優れる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記に示す室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
〔請求項1〕
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン 100質量部、
HO(SiR12O)nH (1)
(式中、R1は炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。nは10以上の整数である。)
(B)下記一般式(2)で示されるアシルオキシ基を1分子中に2個以上有するシラン化合物又はその部分加水分解物 0.1〜30質量部、
2aSi(OCOR34-a (2)
(式中、R2は炭素数2〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、R3は炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、aは0、1又は2である。)
(C)下記一般式(3)で示されるシラン化合物又はその部分加水分解物 0.1〜10質量部、
Si(OCOR44-b(OR5b (3)
(式中、R4は炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、R5は炭素数1〜10の非置換一価炭化水素基であり、bは1〜3の整数である。)
(D)アルミニウム原子を有する充填剤 1〜300質量部、
(E)結晶性シリカ 1〜300質量部、
(F)煙霧質シリカ 1〜20質量部、
(G)少なくとも1種の香料 0.1〜10質量部、
(H)硬化触媒 0.01〜10質量部
を必須成分としてなることを特徴とする室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項2〕
(B)成分の一般式(2)中のR2が、エチル基又はビニル基である請求項1記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項3〕
(C)成分の一般式(3)中のR4がメチル基、R5がtert−ブチル基である請求項1又は2記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の酢酸型に特有であった刺激臭(酢酸臭)を極力低減し、かつ接着性、耐薬品性(特に耐エンジンオイル性)に優れた室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が得られる。本発明の組成物は、特に自動車用途及び建築用途等のシーリング材、接着剤に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(A)成分は、下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンである。
HO(SiR12O)nH (1)
【0013】
上記式(1)中、R1は炭素数1〜10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、あるいはこれらの基の水素原子が部分的に塩素、フッ素、臭素といったハロゲン原子等で置換された基、例えばトリフルオロプロピル基などが挙げられ、中でもメチル基、フェニル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。このR1は同一の基であっても異種の基であってもよい。上記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンは、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0014】
また、式(1)中のnは10以上の整数であり、このオルガノポリシロキサンの25℃における粘度が25〜500,000mm2/sの範囲、特に500〜100,000mm2/sの範囲となることが好ましい。なお、本発明において、粘度は回転粘度計により測定した値である。
【0015】
次に、(B)成分は、下記一般式(2)で示されるアシルオキシ基を1分子中に2個以上有するシラン化合物又はその部分加水分解物であり、本組成物において脱酢酸型特有の刺激臭を改善するために重要な構成要素で、本発明の組成物の臭気を低減させるために必須のものである。
2aSi(OCOR34-a (2)
(式中、R2は炭素数2〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、R3は炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、aは0、1又は2である。)
【0016】
ここで、R2としては、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、あるいはこれらの基の水素原子が部分的に塩素、フッ素、臭素といったハロゲン原子等で置換された基、例えばトリフルオロプロピル基などが挙げられ、その中でも炭素数2〜4の非置換一価炭化水素基、フェニル基が好ましく、特にエチル基、ビニル基が好ましい。このR2は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0017】
また、R3としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、あるいはこれらの基の水素原子が部分的に塩素、フッ素、臭素といったハロゲン原子等で置換された基、例えばトリフルオロプロピル基などが挙げられ、その中でも特にメチル基が好ましい。このR3は同一の基であっても異種の基であってもよい。
aは0、1又は2であり、特に1であることが好ましい。
【0018】
一般式(2)で示されるシラン化合物の具体例としては、エチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、プロピルトリアセトキシシラン、ブチルトリアセトキシシラン、ヘキシルトリアセトキシシラン、オクチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、アリルトリアセトキシシラン、シクロヘキシルトリアセトキシシラン等が例示され、これらは1種を単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0019】
(B)成分のシラン化合物又はその部分加水分解物は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜30質量部、好ましくは1〜15質量部の範囲で使用されるものであり、配合量が少なすぎると十分な架橋が得られず、目的とするゴム弾性を有する組成物とならず、配合量が多すぎると機械特性に劣るものとなる。
【0020】
次に、(C)成分は、下記一般式(3)で示されるシラン化合物又はその部分加水分解物であり、本組成物に十分な接着性及び耐油性を付与させるための必須成分である。
Si(OCOR44-b(OR5b (3)
(式中、R4は炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、R5は炭素数1〜10の非置換一価炭化水素基であり、bは1〜3の整数である。)
【0021】
ここで、R4は炭素数1〜10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、あるいはこれらの基の水素原子が部分的に塩素、フッ素、臭素といったハロゲン原子等で置換された基、例えばトリフルオロプロピル基などが挙げられ、メチル基が好ましい。このR4は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0022】
また、R5は炭素数1〜10の非置換一価炭化水素基であり、R5の炭素数1〜10の非置換一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などが挙げられる。R5としては、tert−ブチル基、アミル基、フェニル基が好ましく、tert−ブチル基が特に好ましい。R5は同一の基であっても異種の基であってもよい。
bは1〜3の整数であり、好ましくは2又は3である。
【0023】
一般式(3)で示されるシラン化合物の具体例としては、ジ−tert−ブトキシ−ジアセトキシシラン、tert−ブトキシ−トリアセトキシシラン、トリ−tert−ブトキシ−アセトキシシラン、ジメトキシジアセトキシシラン、メトキシトリアセトキシシラン、トリメトキシアセトキシシラン、ジエトキシジアセトキシシラン、エトキシトリアセトキシシラン、トリエトキシアセトキシシラン、ジプロポキシジアセトキシシラン、プロポキシトリアセトキシシラン、トリプロポキシアセトキシシラン等が例示され、これらは1種を単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0024】
(C)成分のシラン化合物又はその部分加水分解物は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは1〜5質量部の範囲で使用されるものであり、配合量が少なすぎると十分な接着性・耐油性が得られないため目的とするゴム弾性を有する組成物とならず、配合量が多すぎると硬化が遅延したり、コスト高になってしまう。
【0025】
(D)成分のアルミニウム原子を有する充填剤は、得られる硬化物に適度な補強性、ゴム特性を与え、かつ良好な耐油性を付与するための必須成分である。添加するアルミニウム原子を有する充填剤としては、アルミニウム原子を含有する無機質充填剤が好ましく、表面処理の有無は特に関係しないが、表面が処理されている方が充填剤中に含まれる水分量を管理できるため好ましい。表面を処理する処理剤としては、シラン、シラザン、シロキサン等の有機ケイ素化合物や脂肪酸及びその誘導体、樹脂酸等が例示される。
【0026】
(D)成分のアルミニウム原子を有する充填剤の具体例としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、窒化アルミニウム、硫酸アルミニウム、氷晶石粉末、明礬粉末、水素化アルミニウム等が例示され、これらは1種を単独で又は2種以上を併用して使用することができる。その中でも酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムを使用することが好ましい。
【0027】
(D)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して1〜300質量部、特に5〜150質量部配合することが好ましい。1質量部未満では得られるゴムの機械特性が悪化するほか、エンジンオイル等の薬品に接触又は浸漬した場合、剪断接着力が著しく低下してしまい、300質量部を超える量では、得られる組成物の粘度が高すぎて吐出性が悪くなる。
【0028】
(E)成分の結晶性シリカは、得られる硬化物に適度な補強性、ゴム特性を与え、かつ(D)成分と共に作用し、良好な耐油性を付与するための必須成分である。
【0029】
(E)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して1〜300質量部、特に5〜200質量部配合することが好ましい。1質量部未満では得られるゴムの機械特性が悪化するほか、作業性・耐油性の向上効果がなく、300質量部を超える量では、得られる組成物の粘度が高すぎて吐出性が悪くなる。
【0030】
(F)成分の煙霧質シリカは、得られる硬化物に適度な補強性、ゴム特性を与え、かつ液状組成物のチクソ性を向上させるための必須成分である。添加する煙霧質シリカは、表面が処理されていることが好ましく、特に表面を反応性シランや、シロキサン、シラザン等で疎水化処理した煙霧質シリカが好ましい。その中でもジメチルジクロロシランで処理された煙霧質シリカが最も好ましい。この場合、メチルトリクロロシランやトリメチルモノクロロシラン等が50質量%以内で混合されていてもよい。
【0031】
(F)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して1〜20質量部、特に3〜15質量部配合することが好ましい。1質量部未満では得られる補強性効果がなく、20質量部を超える量では、得られる組成物の粘度が高すぎて吐出性が悪くなる。
【0032】
(G)成分の香料としては、天然香料、合成香料又はこれらの混合物である調合香料が挙げられる。具体的には、オルガノポリシロキサン架橋物に対する溶解性の点から、ヘキサノール,ヘプタノール,オクタノール,ノナノール,デカノール,シス−3−ヘキセノール,ι−メントール等の脂肪族アルコール;ヘキサナール,ヘプタナール,オクタナール,ノナナール,デカナール,10−ウンデセナール等の脂肪族アルデヒド;2−オクタノン,メチルヘプテノン等の脂肪族ケトン;酢酸イソペンチル,酢酸シス−3−ヘキセニル,シクロヘキシルプロピオン酸アリル,ι−メンチルアセテート等の脂肪族エステル;イソパラフィン等の脂肪族炭化水素;β−ピネン,ι−リモネン,D−リモネン,P−サイメン等のテルペン系炭化水素;リナロール,ターピネオール,シトロネロール等のテルペン系アルコール;シトラール,シトロネラール等のテルペン系アルデヒド;カンファー,L−カルボン,メンソン等のテルペン系ケトン;酢酸ゲラニル,プロピオン酸リナリル,イソ酪酸シトロネリル等のテルペン系エステル;ローズオキシド,リナロールオキシド等のテルペン系エーテル;ハッカ油,レモン油,オレンジ油,ライム油等の柑橘精油;ラベンダー油,ローズマリー油,ペパーミント油等のハーブ精油;ローズ油,ネロリ油等の花精油;シクロペンタデカノリド等の合成ムスク香料が例示される。このような香料は1類を単独で使用してもよく、2種以上の混合物を使用してもよい。なお、これらの香料は、通常、常温において液状である。その中でも比較的入手しやすく、かつ低コストである天然香料、その中でもハッカ油が好ましい。
【0033】
(G)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜10質量部、特に0.2〜5質量部配合することが好ましい。0.1質量部未満では人体に感じる脱酢酸型特有の刺激臭(酢酸臭)を低減することができず、10質量部を超える量では、逆に香料の臭気が多すぎて不快に感じるほか、コスト面で不利となる。
【0034】
(H)成分の硬化触媒は、本組成物を良好に硬化させ、かつエンジンオイル等の薬品に接触又は浸漬した場合のゴム物性変化を少なくするための必須成分である。硬化触媒としては、例えばこの種の組成物の硬化促進剤として従来から一般的に使用されている有機錫化合物、有機チタン化合物が例示され、有機錫化合物が好適に用いられる。
【0035】
(H)成分の硬化触媒の具体例としては、ジメチルジメトキシスズ、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジベンジルマレート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート等の有機錫化合物が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
(H)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.01〜10質量部、特に0.1〜1質量部配合することが好ましい。0.01質量部未満では表面硬化が遅くなるほか、エンジンオイル等の薬品に接触又は浸漬した場合のゴム物性変化が著しくなってしまい、10質量部を超える量では、硬化が速すぎて製造困難になるほか、得られる組成物の伸びが低下し、ゴムの機械特性が悪化する。
【0037】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、前記した(A)〜(H)成分の他に、更に必要に応じて、硬化前の流れ特性を改善し、硬化後のゴム状弾性体に必要な機械的性質を付与するために、微粉末状の無機質充填剤を添加することもできる。無機質充填剤としては石英微粉末、煙霧質二酸化チタン、珪藻土、マグネシア及びこれらをシラン類、シラザン類、低重合度シロキサン類、有機化合物などで表面処理したものなどが例示される。
更に、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、有機溶剤、防カビ剤、難燃剤、耐熱剤、可塑剤、チクソ性付与剤、接着促進剤、硬化促進剤、顔料などを添加することができる。
【0038】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、(A)〜(H)成分及び必要に応じて各種添加剤を、湿気を遮断した状態で混合することにより得られる。得られた組成物は密閉容器中でそのまま保存し、使用時に空気中の水分に晒すことによりゴム状弾性体に硬化する、いわゆる1包装型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物として用いることができる。
【0039】
本発明の組成物は、特に自動車用途及び建築用途等のシーリング材、接着剤に有効である。
なお、本発明組成物の硬化条件等は、この種の公知の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の場合と同様である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0041】
[実施例1]
25℃における粘度が50,000mm2/sの末端がシラノール基で封鎖されたポリジメチルシロキサン100質量部に、結晶性シリカ(商品名;クリスタライトVXS−2,東新化成(株)製)80質量部、酸化アルミニウム(商品名;アルミナAL−47−1,昭和電工(株)製)20質量部、表面をジメチルジクロロシランで処理した煙霧質シリカ8質量部を加え、混合機で混合した後、ビニルトリアセトキシシラン5質量部、ジ−tert−ブトキシ−ジアセトキシシラン2質量部、香料(商品名;ハッカ油,東洋薄荷工業(株)製)0.5質量部、ジオクチルスズジラウレート0.2質量部を加えて、減圧下で完全に混合し、サンプル1を得た。
【0042】
[実施例2]
実施例1の酸化アルミニウムの代わりに水酸化アルミニウムを80質量部配合した以外は同様の条件にて調製し、サンプル2を得た。
【0043】
[実施例3]
実施例1のビニルトリアセトキシシランの代わりにエチルトリアセトキシシランを5質量部配合した以外は同様の条件にて調製し、サンプル3を得た。
【0044】
[比較例1]
実施例1の結晶性シリカを除いた他は同様の条件にて調製し、サンプル4を得た。
【0045】
[比較例2]
実施例1の酸化アルミニウムを除いた他は同様の条件にて調製し、サンプル5を得た。
【0046】
[比較例3]
実施例1の煙霧質シリカを除いた他は同様の条件にて調製し、サンプル6を得た。
【0047】
[比較例4]
実施例1のビニルトリアセトキシシランの代わりにメチルトリアセトキシシランを5質量部配合した以外は同様の条件にて調製し、サンプル7を得た。
【0048】
[比較例5]
実施例1のジ−tert−ブトキシ−ジアセトキシシランを除いた他は同様の条件にて調製し、サンプル8を得た。
【0049】
[比較例6]
実施例1の香料を除いた他は同様の条件にて調製し、サンプル9を得た。
【0050】
[比較例7]
実施例1のジオクチルスズジラウレートを除いた他は同様の条件にて調製し、サンプル10を得た。
[比較例8]
実施例1の香料の代わりに市販の消臭剤(商品名;ケスモンNS−10N、東亜合成(株)製)を3質量部添加した他は同様の条件にて調製し、サンプル11を得た。
【0051】
上記実施例及び比較例で得られたサンプルを用いて、下記に示す方法により各種試験を行った。これらの試験結果を下記表1に示す。
【0052】
試験方法
上記実施例、比較例のサンプルである室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物(シリコーンゴム組成物)を2mmの型枠に流し込み、23℃、50%RHで7日間養生して2mm厚のゴムシートを得た。その際、硬化途中(硬化開始6時間後)に雰囲気中に揮散する酢酸臭を人の嗅覚により確認し、雰囲気中の臭気が不快と感じるかを確認した。また、JIS A5758に規定する方法に準じてタックフリータイム(指触乾燥時間)及びスランプ性(流動性)を測定し、JIS K6249に準じて2mm厚シートよりゴム物性を測定した。更に、この組成物と、幅25mm、長さ100mmの被着体(アルミニウム、鉄)を用い、23℃、50%RHで7日間養生して接着面積2.5mm2、接着厚さ1mmの剪断接着試験体を作製し、JIS K6850に準じてそれぞれの剪断接着力及び凝集破壊率を測定した。
また、上記実施例、比較例の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の保存安定性を確認するため、該組成物を常温で6ヶ月保存した後、上記と同様の評価を行った。
更に、硬化物の耐薬品性能を確認するため、ゴムシート(各試験片)及び剪断接着試験体を120℃及び150℃のエンジンオイルにそれぞれ10日間浸漬し、耐薬品試験を行った。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン 100質量部、
HO(SiR12O)nH (1)
(式中、R1は炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。nは10以上の整数である。)
(B)下記一般式(2)で示されるアシルオキシ基を1分子中に2個以上有するシラン化合物又はその部分加水分解物 0.1〜30質量部、
2aSi(OCOR34-a (2)
(式中、R2は炭素数2〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、R3は炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、aは0、1又は2である。)
(C)下記一般式(3)で示されるシラン化合物又はその部分加水分解物 0.1〜10質量部、
Si(OCOR44-b(OR5b (3)
(式中、R4は炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、R5は炭素数1〜10の非置換一価炭化水素基であり、bは1〜3の整数である。)
(D)アルミニウム原子を有する充填剤 1〜300質量部、
(E)結晶性シリカ 1〜300質量部、
(F)煙霧質シリカ 1〜20質量部、
(G)少なくとも1種の香料 0.1〜10質量部、
(H)硬化触媒 0.01〜10質量部
を必須成分としてなることを特徴とする室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(B)成分の一般式(2)中のR2が、エチル基又はビニル基である請求項1記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
(C)成分の一般式(3)中のR4がメチル基、R5がtert−ブチル基である請求項1又は2記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。

【公開番号】特開2011−21116(P2011−21116A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167829(P2009−167829)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】