説明

家具または建材の表面構造体及び表面構造体の製造方法

【課題】 和紙、藺草織物、布、あるいは樹皮つきの自然木を使用することにより、従来の天然材や化粧合板にはない新しい柄表現が可能であり、更に和紙や藺草織物等の質感や風合いを損なうことなく、耐水性や耐汚染性にも優れた家具または建材の表面構造体及び表面構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】 家具または建材の表面構造体A1は、基板1と、該基板1の表面に接着して積層された和紙2と、該和紙2の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルム3と、を備えている。被覆フィルム3は、加熱用のヒーターを有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、和紙2表面の凹凸に沿って密着させてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家具または建材の表面構造体及び表面構造体の製造方法に関する。
更に詳しくは、和紙、藺草織物、布、あるいは樹皮つきの自然木を使用することにより、従来の天然材や化粧合板にはない新しい柄表現が可能であり、更に和紙や藺草織物等の質感や風合いを損なうことなく、耐水性や耐汚染性にも優れた備えた家具または建材の表面構造体及び表面構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家具の材質としては天然木や化粧合板が使用されている。天然木を使用したものはその木目を生かして塗装したものが多く、また化粧合板を使用したものは木目を模したプリント合板が大部分である。
【0003】
しかしながら、天然木や化粧合板を使用した従来の家具は、木目が多少違っていてもその外観から受ける全体の印象はどれもほぼ同じである。このため、消費者のニーズが多様化している現在では、変化に乏しい通り一辺のデザインでは通用しなくなっている。
【0004】
このような現状において、本願発明者は地場特産の和紙や藺草織物などに着目し、これらの素材を家具のデザインとして取り入れることによって、襖や障子あるいは畳といった和風の室内環境に合ったデザイン家具についての開発に着手した。
【0005】
ところで、和紙を家具の表面に貼着するという発想は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1には「例えば家具の前板の表面に澱粉糊を塗布した和紙を貼着する。澱粉糊が乾燥した後に、この和紙の表面に仕上げ塗装を滲ませないためのサイズ剤として澱粉糊を塗布して充分含浸させる。更に乾燥した後に仕上げ塗装を施す。」といった技術的事項が開示されている。
【特許文献1】特開2003−210268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のものは和紙を使用してはいるものの、和紙の表面を塗装しているため、その質感や風合いが明らかに和紙とは異なる。このことは和紙の代わりに、藺草織物を貼着した場合も同じである。
【0007】
(本発明の目的)
そこで本発明の目的は、和紙、藺草織物、布、あるいは樹皮つきの自然木を使用することにより、従来の天然材や化粧合板にはない新しい柄表現が可能であり、更に和紙や藺草織物等の素材本来の質感や風合いを損なうことなく、耐水性や耐汚染性にも優れた備えた家具または建材の表面構造体及び表面構造体の製造方法を提供することにある。
その他の本発明の目的は以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
第1の発明にあっては、
基板と、該基板の表面に接着して積層された和紙と、該和紙の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルムと、を備えており、
上記被覆フィルムは、加熱用のヒーターを有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、和紙表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
家具または建材の表面構造体である。
【0009】
第2の発明にあっては、
基板と、該基板の表面に接着して積層された藺草織物と、該藺草織物の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルムと、を備えており、
上記被覆フィルムは、加熱用のヒーターを有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、藺草織物表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
家具または建材の表面構造体である。
【0010】
第3の発明にあっては、
基板と、該基板の表面に接着して積層された布と、該布の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルムと、を備えており、
上記被覆フィルムは、加熱用のヒーターを有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、布表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
家具または建材の表面構造体である。
【0011】
第4の発明にあっては、
和紙と、該和紙の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルムと、を備えており、
上記被覆フィルムは、加熱用のヒーターを有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、和紙表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
家具または建材の表面構造体である。
【0012】
第5の発明にあっては、
藺草織物と、該藺草織物の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルムと、を備えており、
上記被覆フィルムは、加熱用のヒーターを有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、藺草織物表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
家具または建材の表面構造体である。
【0013】
第6の発明にあっては、
布と、該布の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルムと、を備えており、
上記被覆フィルムは、加熱用のヒーターを有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、布表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
家具または建材の表面構造体である。
【0014】
第7の発明にあっては、
樹皮つきの自然木の樹皮表面に接着して積層された透視性を有する被覆フィルムは、自然木の樹皮表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
表面構造体である。
【0015】
第8の発明にあっては、
樹皮つきの自然木の樹皮表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルムは、加熱用のヒーターを有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、自然木の樹皮表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
表面構造体である。
【0016】
第9の発明にあっては、
樹皮つきの自然木の樹皮表面に接着して積層された透視性を有する被覆フィルムを自然木の樹皮表面の凹凸に沿って密着させることを特徴とする、
表面構造体の製造方法である。
【0017】
基板としては、例えば無垢板、中比重繊維板(MDF)やパーティクルボード等の木製の板材や合板(突板)等の薄板等を挙げることができる。
【0018】
家具の表面構造体は、例えば箪笥、食器棚、テレビ台、書棚、鏡台、靴箱等の戸板や引出しの前板、クローゼットの表面板、テーブルの天板等として使用することができる。建材の表面構造体は、例えば床材や壁材等の内装用建材として使用することができる。
【0019】
接着剤としては、乾燥後に透明性を有するものが好ましい。
熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルムの素材としては、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリアクリル、ポリエチレンテレフタレート(PET)等を挙げることができる。
なお、本明細書及び特許請求の範囲で「透視性を有する被覆フィルム」の用語は、透明または半透明の被覆フィルムの他、被覆フィルム自体に着色が施されたものも含む広い概念として使用している。
【0020】
被覆フィルムの厚みは0.08〜0.15mmが好ましく、更に0.08〜0.10がより好ましい。0.08mm未満では真空吸引操作時に破れる恐れがあるので好ましくなく、0.15mmを越えると和紙や藺草織物等の表面の凹凸に沿って密着しにくいので、好ましくない。
【0021】
なお、以上の具体例はあくまで代表的なものであり、特にこれらに限定するものではない。
【発明の効果】
【0022】
(a)本発明によれば、家具または建材の表面構造体の素材として和紙、藺草織物、布、あるいは樹皮つきの自然木を使用することにより、従来の天然材や化粧合板にはない新しい家具または建材の柄表現が可能である。
【0023】
(b)また加熱用のヒーターを有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、透視性を有する被覆フィルムは和紙や藺草織物等の表面の凹凸に沿って密着させてあるので、表面を塗装していた従来のものと比べ、和紙や藺草織物等の素材本来の質感や風合いは損なわれない。更に、和紙や藺草織物等は被覆フィルムにより被覆されているので、耐水性を有しており、表面に汚れが付着した場合でも雑巾等で水拭きすることができる。
【0024】
(c) 透視性を有する被覆フィルムを樹皮つきの自然木の樹皮表面に接着して積層したものは、樹皮表面の凹凸の形成が自然で、樹皮の質感や風合いが損なわれない。また本来、樹皮はコルク層によって内部と遮断され絶えず裂けて剥がれ落ちるようなものであるが、本発明ではその樹皮表面の凹凸に沿って被覆フィルムが密着した状態で積層されているため、樹皮片が剥がれ落ちたり、木粉が出るような恐れはない。また被覆フィルムによって樹皮表面のケバ立ちも保護できるので、汚れが付着した場合でも雑巾で水拭きすることができる。更には、洗剤を含ませたスポンジ等を使用して表面を水洗いすることもできる。また虫食いも防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
本発明を図面に示した実施例に基づき更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明に係る家具の表面構造体の第一の実施例を示す一部切欠斜視説明図、
図2は、図1の横断面を示す概略説明図、
図3は、図1に示す表面構造体を使用して製造した箪笥の正面視説明図である。
【0028】
図1に示す表面構造体A1は、例えば図3に示すような箪笥の引出しの前板として使用できる。なお、図3では、一番上の引出しの前板として使用した場合を図示している。
【0029】
表面構造体A1は、木製の板材である基板1と、基板1のうちの底面11以外の面(上面12と側面13の全周)に接着により積層された和紙2と、更に和紙2の表面に接着により積層された熱可塑性樹脂からなる透明または半透明の被覆フィルム3を備えている。そして、被覆フィルム3は、後述する加熱用のヒーター46を有する真空吸引積層装置B1,B2を用いた加熱操作と真空吸引操作により、和紙2表面の凹凸に沿って密着させてある。
【0030】
このように、家具または建材の表面構造体の素材として和紙2を使用することにより、従来の天然材や化粧合板にはない新しい家具または建材の柄表現が可能である。また透明または半透明の被覆フィルム3が和紙2の表面の凹凸に沿って密着させてあるので、和紙の表面を塗装していた従来のものと比べ、和紙2本来の質感や風合いが損なわれない。更に、和紙2は被覆フィルム3により被覆されているので、耐水性を有しており、表面に汚れが付着した場合でも雑巾で水拭きすることができる。
【0031】
図2に示すように、基板1の上面12の周縁部121は、断面視で円弧状に角を無くして形成されている。本実施例では、和紙2として植物の花びらや葉を一緒に漉き込んで、意匠上の付加価値を高めたものを使用している。被覆フィルム3としては、ポリ塩化ビニルやポリオレフィン製の熱可塑性フィルムを使用している。熱可塑性フィルムの厚みは0.08〜0.10mmのものを使用している。
【0032】
(真空吸引積層装置B1を用いた表面構造体A1の製造方法)
図4は、真空吸引積層装置を用いて本実施例に係る表面構造体を製造している状態を示す側面視説明図、
図5は、真空吸引積層装置と一緒に使用する成形治具の位置を説明するための平面視概略説明図である。
【0033】
表面構造体A1の製造には、図4に示す真空吸引積層装置B1を使用する。真空吸引積層装置B1は、上下向かい合わせに配置された昇降チャンバ4と吸引チャンバ5を備えている。
【0034】
昇降チャンバ4は、流体圧シリンダ装置のピストンロッド41先端に連結されており、昇降可能となっている。昇降チャンバ4は、下部側に開口部421を備えた箱状体によって形成された昇降チャンバ本体42を備えている。昇降チャンバ本体42の開口部421側には、開口部421を塞ぐように伸縮性及び耐熱性を備えた加圧用のゴム状弾性膜43が張設されている。ゴム状弾性膜43はシリコン製のシートで形成されている。
【0035】
昇降チャンバ本体42には、昇降チャンバ本体42とゴム状弾性膜43によって区画された空間部44に流体、好ましくは空気の供給または排出を行う空気流通部45が設けてある。更に、昇降チャンバ本体42の内面上部側には、加熱用のヒーター46が設けてある。このヒーター46によって、上記空間部44内の空気及びゴム状弾性膜43が所要の温度に加熱される。
【0036】
吸引チャンバ5の上面部は、基板1や被覆フィルム3等を載置する吸引載置面51を構成している。吸引チャンバ5は箱状に形成されており、吸引載置面51側には所要の配列状態で複数の通気孔(図示省略)が設けてある。吸引チャンバ5には空気吸引部52を介して真空吸引装置(図示省略)が接続されている。真空吸引装置により、上記通気孔を介して吸引載置面51に載置した被覆フィルム3を吸引できるように構成されている。
【0037】
更に、真空吸引積層装置B1を使用して基板1に被覆フィルム3を接着する際は、成形用治具を使用する。成形用治具は、基板1を載置する載置具61と、載置具61の周囲に配置されたフレーム62を備えている。載置具61は所要の厚みを有する板状体であり、基板1よりも一回り小さい。また、フレーム62は図5に示すような平面視L形状の細長い棒状体であり、載置具61に載置された基板1の四隅部分を外から囲むように四箇所配置されている。フレーム62の高さは載置具61と同程度か、やや高く、載置具61に載置した際の基板1の高さよりも低くなっている。なお、基板1の周りを一周囲むことができるようにフレーム62を枠状に形成することもできる。
【0038】
なお、本実施例では吸引載置面51に載置具61を一枚載置した状態を示しているが、載置具61を複数載置して同時に複数枚をラミネート処理することもできる。その場合は、載置具61の数と同じ数の載置具61が必要であるが、フレーム62は複数の載置具61を囲むように外側だけに所要数配置しても良い。
【0039】
以下、上記した真空吸引積層装置B1及び成形用治具を用いて、基板1に和紙2と被覆フィルム3をラミネート加工する方法について説明する。図4を参照する。
【0040】
まず、スプレーガン等を使用して、基板1の表面(上面12及び側面13の全周)に液状の接着剤を均一に塗布する。塗布後、接着面がセミドライ(半乾きや多少乾いた)状態になるまで室温でやや乾燥させ、接着剤中の水分を適度に蒸発させる。そして、基板1の表面に和紙2を張り合わせる。張り合わせた際に、基板1の側面や角部等に皺ができた場合には、皺を取り除く程度にアイロンがけを行っても良い。
【0041】
更に、基板1に貼り合わせた和紙2の表面(上面及び側面の全周)に同様に接着剤を塗布し、同様にセミドライ状態になるまでやや乾燥させる。その後、図4に示すように、和紙2を貼り合わせた基板1を吸引チャンバ5に配置した載置具61上に載置する。フレーム62は図5に示すように、基板1を取り囲むようにして基板1からやや離した位置に配置する。
【0042】
そうして、ヒーター46によって昇降チャンバ4のゴム状弾性膜43を加熱しつつ、ゴム状弾性膜43で区画された空間部44に流入した空気を加熱する。ヒーター46は基板1表面の温度が80〜100℃になるように設定する。空間部44の空圧は4kgf/m(39.2kPa)である。
【0043】
以上のようにして、昇降チャンバ4が加熱された状態において、和紙2が張り合わせされた基板1とフレーム62全体を跨るようにして被覆フィルム3を被せる。この際、被覆フィルム34はフレーム62よりも外側へはみ出すように被せる。これにより、フレーム62と基板1との間には、真空吸引操作により被覆フィルム3が吸引可能な空間部60が形成される。そして、昇降チャンバ4を降下させ、ゴム状弾性膜43によって和紙2が張り合わせされた基板1と被覆フィルム3を所定の圧力で押圧する。
【0044】
次に、吸引チャンバ5に接続された真空吸引装置を操作して、吸引載置面51上の吸引孔から真空吸引を行う。この際、ゴム状弾性膜43により加熱軟化した被覆フィルム3、和紙2及び基板1が押圧されると共に、真空吸引操作において被覆フィルム3が基板1の外周下方に吸引される。これにより、被覆フィルム3は延伸して和紙2表面の凹凸形状に沿って密着する。更に、基板1とフレーム62の間にある被覆フィルム3は、空間部60に引き寄せられ、基板1の側面13の全周を取り巻くように延伸した状態で密着し、これにより基板1の四隅部分に皺ができない。そして、被覆フィルム3は加熱によって硬化した接着剤により、基板1の上面12及び側面13の全周に沿って接着される。
【0045】
この昇降チャンバ4による押圧と吸引チャンバ5による真空吸引は、130〜140秒程度行われる。この吸引が終了後、昇降チャンバ4が昇降し、和紙2の表面の凹凸に沿って被覆フィルム3が積層された基板1を取り出す。そして、最後に基板1の側面13の全周からはみ出した被覆フィルム3を切断して、目的とする表面構造体A1を得る。
【0046】
なお、本実施例では基材1である木製の板材の表面に和紙2と被覆フィルム3を積層した場合を例に挙げたが、基材1として薄板(突板)を用い、薄板の表面に和紙2と被覆フィルム3を積層して表面構造体を形成することもできる。薄板(突板)を使用して形成した表面構造体は、例えば洋服タンスの戸板に貼る化粧板として好適に使用できる。また表面に被覆フィルム3が積層されているので、やや力を加えて表面構造体を湾曲させても突板が割れにくいという効果もある。これにより、例えば湾曲した扉板や柱材の化粧板として、あるいはロール状に折り曲げてランプのカバー等としても好適に使用できる。
【0047】
(表面構造体A1の他の製造方法)
図6は、図4で説明した真空吸引積層装置とは異なる真空吸引積層装置を用いて、本実施例に係る表面構造体を製造している状態を示す側面視説明図である。
なお、図4で説明した真空吸引積層装置B1と同一または同等箇所には同一の符号を付して示している。また、図4で説明した真空吸引積層装置B1で説明した箇所については、説明を省略し、主に相異点を説明する。
【0048】
図6に示す真空吸引積層装置B2を用いた製造方法では、図4で説明したものと相違してゴム状弾性膜43による押圧は行わない。これにより、和紙2表面の凹凸の質感や風合いがより一層自然な感じに仕上がるようになっている。
【0049】
図6を参照して、真空吸引積層装置B2について説明する。
昇降チャンバ本体42aの開口部421a側にはゴム状弾性膜43は設けられておらず、開口部421aを囲む枠部で構成される当接部47が被覆フィルム3に当接するようになっている。当接部47の表面にはゴム等の弾性体471が取り付けてある。また、昇降チャンバ本体42には孔で構成された空気流通部48が設けてある。
【0050】
以下、上記した真空吸引積層装置B2を用いて、基板1に和紙2と被覆フィルム3をラミネート加工する製造方法について説明する。なお、成形用治具を用いることは実施例1と同じである。
【0051】
吸引チャンバ5に載置した載置具61上に和紙2を貼り合わせた基板1を載置し、更にその上から被覆フィルム3を被せるまでの工程は、実施例1と同じである。
【0052】
次に、昇降チャンバ4aを降下させ、当接部47で基板1を取り囲むように、基板1から側方にはみ出した被覆フィルム3を所定の圧力で押圧する。そして、吸引チャンバ5に接続された真空吸引装置を操作して、吸引載置面51上の吸引孔(図示省略)から真空吸引を行う。この後の操作は、上記した真空吸引積層装置B1を用いた場合と同じである。このように、真空吸引積層装置B2では、ゴム状弾性膜43による押圧は行わないので、和紙2表面の凹凸の質感や風合いがより一層自然な感じに仕上がるようになっている。
【0053】
なお、空気流通部48は、ヒーター46によって温められた空気が逃げないように電磁弁等を用いて閉鎖されるように構成することもできる。
【実施例2】
【0054】
図7は、本発明に係る家具の表面構造体A1の第二の実施例を示す一部切欠斜視説明図である。
なお、第1の実施例で示した作用のうち同様のものは説明を省略する。また、第1の実施例で示してある箇所と同等箇所については、説明を省略し、主に相異点を説明する。これについては後述する実施例についても同様である。
【0055】
図7に示す表面構造体A2では、和紙2ではなく、藺草織物7を基板1に接着し、更に被覆フィルム3でラミネート加工している。また実施例1と同様に、箪笥の引出しの前板として使用した場合を例に挙げて図示している。表面構造体A2の製法は実施例1と同じであるため、省略する。
【実施例3】
【0056】
図8は、本発明に係る家具の表面構造体A1の第三の実施例を示す一部切欠斜視説明図である。
【0057】
図8に示す表面構造体A3では、和紙2ではなく、布8を基板1に接着し、更に被覆フィルム3でラミネート加工している。また実施例1と同様に、箪笥の引出しの前板として使用した場合を例に挙げて図示している。表面構造体A2の製法は実施例1と同じであるため、省略する。
【実施例4】
【0058】
図9は、本発明に係る建材の表面構造体の一実施例を示す一部切欠斜視説明図、
図10は図9の部分拡大断面説明図である。
図9に示す表面構造体A4は、例えば和食処や居酒屋等の壁面の化粧板(腰板等)として好適に使用できる。表面構造体A4は、所要の大きさに切削した樹皮(木皮)がついたままの自然木92を接着剤を用いてベニヤ板91に所要数(本実施例では長板状の自然木92を三枚)貼り付け、更にその底面911を除いた上面912及び側面913の全周に透明または半透明の被覆フィルム3を接着してラミネートしたものである。表面構造体A1の製法は実施例1と同じであるため、省略する。
【0059】
被覆フィルム3は樹皮表面の凹凸に沿って延伸した状態で密着しているので、樹皮表面の凹凸の形成は自然である。また本来、樹皮はコルク層によって内部と遮断され絶えず裂けて剥がれ落ちるようなものであるが、本実施例ではその樹皮表面に被覆フィルム3が密着した状態で積層されているため、樹皮片が剥がれ落ちたり、木粉が出るような恐れはない。
【0060】
また被覆フィルム3によって樹皮表面のケバ立ちも保護できるので、汚れが付着した場合でも雑巾で水拭きすることができる。更には、洗剤を含ませたスポンジ等を使用して表面を水洗いすることもできる。また虫食いも防止できる。
【0061】
以上説明した本実施例と異なり、樹皮の表面を塗装することによって、樹皮の剥がれ落ちを防止したり、ケバ立ちを保護したりする方法も考えられる。しかしながら、一、二回の塗装だけでは塗料が樹皮内部に浸透して樹皮表面に定着しない。よって、上から何度も繰り返して塗装する必要があるが、そうすると樹皮表面の塗膜が厚くなり、樹皮本来の質感や風合いは著しく損なわれるので好ましくない。また塗膜面を厚くしたとしても、長期使用によって塗膜面そのものにヒビが入れば、樹皮の剥がれ落ちを完全には防止することはできない。
【実施例5】
【0062】
図11は、真空吸引積層装置を用いて長尺な和紙に被覆フィルムをラミネートしている状態を示す側面視説明図、
図12は、吸引チャンバに対する和紙と被覆フィルムの位置関係を示す平面視概略説明図である。
【0063】
上記した実施例1(図1参照)と相違して、基板1は使用せず、和紙2の表面に被覆フィルム3をラミネート加工して、これを所要の大きさに切ったものを家具や建材の表面構造体として使用することができる。実際に家具や建材に使用する場合は、被覆フィルム3を張った和紙2を接着剤等を用いて家具の戸板に貼ったり、化粧シートとして壁面に貼ったりして使用する。
【0064】
図11に示す真空吸引積層装置B3を使用すれば、和紙2を長尺物のままラミネート処理できる。真空吸引積層装置B3は、図6で示した真空吸引積層装置B2と大体同じであるが、図11及び図12に示すように、吸引チャンバ5aの内部が中央部分とその外周部分の二つの空間部に区画され、それぞれの空間部が別々の真空吸引装置で吸引されるようになっている。即ち、吸引チャンバ5a内の空間部は、昇降チャンバ4aの当接部47が当接する吸引チャンバ5aの縁部分下の外周空間部501と、外周空間部501の内方に位置する中央空間部502に区画されている。
【0065】
そして、表面に接着剤が塗布された和紙2の上に被覆フィルム3が重なるように、和紙2と被覆フィルム3が図11及び図12で左から右方向へ所要速度で送られながら真空吸引積層装置B3により加工される。
【0066】
また被覆フィルム3は和紙2の幅よりも広い幅のものを使用している。そして、真空吸引積層装置B3の昇降チャンバ4aが所定の間隔(所定の時間間隔)で断続的に降下すると共に、吸引チャンバ5aから通気孔(図示省略)を介し被覆フィルム3を和紙2側に吸引し、接着固定化される。
【0067】
この際、昇降チャンバ4aの当接部47で被覆フィルム3の上から和紙2と強く押圧すると、和紙2表面の凹凸がつぶれて和紙2独特の質感や風合いが損なわれる可能性があるので、本実施例ではあまり強く押圧しないように昇降チャンバ4aの押圧力が制御されている。ただし、昇降チャンバ4aの押圧力が弱いと、昇降チャンバ4aの外から和紙2と吸引載置面51の間を通って空気が吸引チャンバ5a内に入り込む可能性がある。そうなると、吸引チャンバ5aによる吸引力が低下し、被覆フィルム3が和紙2の表面にうまく密着しない恐れがある。
【0068】
そこで、上記したように、本実施例では吸引チャンバ5a内を昇降チャンバ4aの当接部47が当接する外周空間部501と中央空間部502に区画してそれぞれ異なる真空吸引装置で吸引するようにしている。これにより、昇降チャンバ4aの外から和紙2と吸引載置面51の間を通って空気が入り込んだとしても、外周空間部501の吸引力が低下するだけで、中央空間部502の吸引力が低下しないように構成されている。よって、被覆フィルム3は和紙2表面の凹凸に沿って確実に密着する。そうして、ラミネート加工された和紙2を所要の大きさに切って使用する。
【0069】
なお、本実施例では和紙2を例にして説明したが、布や藺草織物(畳表や筵、縁がないものも含む)の場合も同じである。また本実施例では長尺な和紙をラミネート処理する場合を例に挙げて説明したが、長尺物ではない一枚ものの和紙、布または藺草織物をラミネート処理することもできることは言うまでもない。その場合は、図4または図6に示す真空吸引積層装置B1、B2も使用することも可能である。その際は成形治具は不要である。
【0070】
本明細書で使用している用語と表現はあくまで説明上のものであって、限定的なものではなく、上記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。また、本発明は図示の実施例に限定されるものではなく、技術思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【0071】
更に、特許請求の範囲には、請求項記載の内容の理解を助けるため、図面において使用した符号を括弧を用いて記載しているが、特許請求の範囲を図面記載のものに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る家具の表面構造体の第一の実施例を示す一部切欠斜視説明図。
【図2】図1の横断面を示す概略説明図。
【図3】図1に示す表面構造体を使用して製造した箪笥の正面視説明図。
【図4】真空吸引積層装置を用いて本実施例に係る表面構造体を製造している状態を示す側面視説明図。
【図5】真空吸引積層装置と一緒に使用する成形治具の位置を説明するための平面視概略説明図。
【図6】図4で説明した真空吸引積層装置とは異なる真空吸引積層装置を用いて、本実施例に係る表面構造体を製造している状態を示す側面視説明図。
【図7】本発明に係る家具の表面構造体A1の第二の実施例を示す一部切欠斜視説明図。
【図8】本発明に係る家具の表面構造体A1の第三の実施例を示す一部切欠斜視説明図。
【図9】本発明に係る建材の表面構造体の一実施例を示す一部切欠斜視説明図。
【図10】図9の部分拡大断面説明図。
【図11】真空吸引積層装置を用いて長尺な和紙に被覆フィルムをラミネートしている状態を示す側面視説明図。
【図12】吸引チャンバに対する和紙と被覆フィルムの位置関係を示す平面視概略説明図。
【符号の説明】
【0073】
A1〜A4 表面構造体
B1〜B3 真空吸引積層装置
1 基板
2 和紙
3 被覆フィルム
4,4a 昇降チャンバ
5,5a 吸引チャンバ
7 藺草織物
8 布
11 底面
12 上面
13 側面
34 被覆フィルム
41 ピストンロッド
42,42a 昇降チャンバ本体
43 ゴム状弾性膜
44 空間部
45 空気流通部
46 ヒーター
47 当接部
48 空気流通部
51 吸引載置面
52 空気吸引部
60 空間部
61 載置具
62 フレーム
91 ベニヤ板
92 自然木
121 周縁部
421,421a 開口部
471 弾性体
501 外周空間部
502 中央空間部
911 底面
912 上面
913 側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(1)と、該基板(1)の表面に接着して積層された和紙(2)と、該和紙(2)の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルム(3)と、を備えており、
上記被覆フィルム(3)は、加熱用のヒーター(46)を有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、和紙(2)表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
家具または建材の表面構造体。
【請求項2】
基板(1)と、該基板(1)の表面に接着して積層された藺草織物(7)と、該藺草織物(7)の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルム(3)と、を備えており、
上記被覆フィルム(3)は、加熱用のヒーター(46)を有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、藺草織物(7)表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
家具または建材の表面構造体。
【請求項3】
基板(1)と、該基板(1)の表面に接着して積層された布(8)と、該布(8)の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルム(3)と、を備えており、
上記被覆フィルム(3)は、加熱用のヒーター(46)を有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、布(8)表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
家具または建材の表面構造体。
【請求項4】
和紙(2)と、該和紙(2)の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルム(3)と、を備えており、
上記被覆フィルム(3)は、加熱用のヒーター(46)を有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、和紙(2)表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
家具または建材の表面構造体。
【請求項5】
藺草織物(7)と、該藺草織物(7)の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルム(3)と、を備えており、
上記被覆フィルム(3)は、加熱用のヒーター(46)を有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、藺草織物(7)表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
家具または建材の表面構造体。
【請求項6】
布(8)と、該布(8)の表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルム(3)と、を備えており、
上記被覆フィルム(3)は、加熱用のヒーター(46)を有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、布(8)表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
家具または建材の表面構造体。
【請求項7】
樹皮つきの自然木(92)の樹皮表面に接着して積層された透視性を有する被覆フィルム(3)は、自然木(92)の樹皮表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
表面構造体。
【請求項8】
樹皮つきの自然木(92)の樹皮表面に接着して積層された熱可塑性樹脂からなる透視性を有する被覆フィルム(3)は、加熱用のヒーター(46)を有する真空吸引積層装置を用いた加熱操作と真空吸引操作により、自然木(92)の樹皮表面の凹凸に沿って密着させてあることを特徴とする、
表面構造体。
【請求項9】
樹皮つきの自然木(92)の樹皮表面に接着して積層された透視性を有する被覆フィルム(3)を自然木(92)の樹皮表面の凹凸に沿って密着させることを特徴とする、
表面構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−142662(P2006−142662A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336260(P2004−336260)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(504428740)
【出願人】(504430190)
【Fターム(参考)】