説明

密封装置

【課題】回転トルクを増大させることなく、シール性能の信頼性が向上した新規な密封装置を提供する。
【解決手段】相対的に同軸回転する内側部材6及び外側部材7からなる2部材間に介装される密封装置9であって、前記2部材のうちの一方の部材6に嵌合固定されるスリンガ11と、前記2部材のうちの他方の部材7に嵌合固定される芯金12と、該芯金12に固着されるとともに前記スリンガ11に弾性的に摺接する複数のシールリップを有する弾性体製シールリップ部材13とよりなり、前記スリンガ11は、前記一方の部材6に嵌合固定される円筒部14と、該円筒部14の一端に連成されたフランジ部15と、前記円筒部14側に折り返すように該フランジ部15の周縁部に連設された折返部16とを含み、前記複数のシールリップは、前記折返部16の外面に摺接するアキシャルリップ13aを少なくとも含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的に同軸回転する内側部材及び外側部材からなる2部材間に介装され、該2部材間の環状空間をシールする密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記のような2部材としては、軸受装置を構成する部材であって、転動体を介して相対的に軸回転可能とされる内外の軌道輪(以下、内輪及び外輪と言う)が挙げられる。このような内外輪における各軌道面間には、ボールやころなどの転動体が転動可能に介在されている。この転動体が介在される部分が環状空間としての軸受空間とされ、当該軸受空間には、転動体の転動を円滑に行わせる為に、グリスなどの潤滑剤が充填される。その為、この軸受空間の両端部(軸方向に沿った両端部)には、潤滑剤の外部への漏出を防止すると共に外部からの泥水や塵埃の軸受空間内への浸入を防止する為の密封装置が設けられる。自動車の車輪懸架装置にもこのような軸受装置が適用され、内外輪の一方を車体側に固定し、他方を車輪に一体とし、車輪を車体に対して回転自在に支持するようにしている。そして、前記密封装置としては、前記2部材のうちの一方の部材に嵌合固定されるスリンガと、前記2部材のうちの他方の部材に嵌合固定される芯金と、該芯金に固着されるとともに前記スリンガに弾性的に摺接する複数のシールリップを有する弾性体製シールリップ部材とよりなる、所謂パックシールタイプの密封装置が多用されている(特許文献1〜3を参照)。
【0003】
前記のような密封装置においては、前記複数のシールリップが前記軸受空間と外部との間に並設され、これら複数のシールリップがスリンガに弾性摺接することによって前記シール機能を奏するものである。この場合、もし軸受空間から遠い位置(外部に近い位置)にあるシールリップのスリンガとの摺接部から泥水等が浸入したとしても、その次に位置するシールリップのスリンガとの摺接部によってこの浸入を阻止し、これが複数のシールリップにおいて繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−292032号公報
【特許文献2】特開2006−642827号公報
【特許文献3】特開2007−100844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記従来公知のパックシールタイプの密封装置においては、泥水等が外部側の前記摺接部を通過すると、スリンガを伝って隣接する摺接部に到達し、その一部が隣接する摺接部から軸受空間側に浸入するおそれもある。そのため、従来の密封装置においては、泥水等の浸入を防止して、シール性能の信頼性を向上させることが望まれていた。そこで、シール性能の信頼性を向上させる為には、シールリップのスリンガに対する弾接力を高めるか、隣接するシールリップのスリンガに対する摺接部の距離を大きくする為にシールリップ間の距離を大きくすることが考えられる。しかし、前者の場合、回転側部材の回転トルクが大きくなる。また、後者の場合、シールスペースに制約があり、これまで、シール性能の信頼性向上を実現させることは難しかった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、回転トルクを増大させることなく、シール性能の信頼性が向上した新規な密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る密封装置は、相対的に同軸回転する内側部材及び外側部材からなる2部材間に介装される密封装置であって、前記2部材のうちの一方の部材に嵌合固定されるスリンガと、前記2部材のうちの他方の部材に嵌合固定される芯金と、該芯金に固着されるとともに前記スリンガに弾性的に摺接する複数のシールリップを有する弾性体製シールリップ部材とよりなり、前記スリンガは、前記一方の部材に嵌合固定される円筒部と、該円筒部の一端に連成されたフランジ部と、前記円筒部側に折り返すように該フランジ部の周縁部に連設された折返部とを含み、前記複数のシールリップは、前記折返部の外面に摺接するアキシャルリップを少なくとも含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の密封装置において、前記折返部は、折返基部と、該折返基部に連成された環状板部とを有し、該折返基部を介して前記フランジ部の周縁部に連成されているものとしても良い。この場合、前記折返部が、前記折返基部との間に形成された薄肉部において折返し形成されているものとしても良い。
また、前記折返部が、折返基部と、該折返基部に連成された環状板部とを有するとともに前記フランジ部とは別体に構成され、該折返基部をして前記フランジ部の周縁部に固定されているものとしても良い。
更に、前記折返部と前記スリンガのフランジ部とにより形成される空所に、吸水性素材を装填しても良い。
また、前記2部材が、軸受装置の構成部材であって、前記内側部材が当該軸受装置の内輪であり、外側部材が当該軸受装置の外輪としても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明の密封装置は、相対的に同軸回転する内側部材及び外側部材からなる2部材間に介装される。前記2部材のうちの一方の部材に嵌合固定されるスリンガに対して、前記2部材のうちの他方の部材に嵌合固定される芯金に固着された弾性体製シールリップ部材の複数のシールリップが弾性的に摺接し、相対的に同軸回転する前記2部材間がシールされる。そして、前記複数のシールリップは、前記折返部の外面に摺接するアキシャルリップを少なくとも含むから、このアキシャルリップのスリンガに対する摺接部と他のシールリップのスリンガに対する摺接部との間隔を大きく確保することができる。従って、前記アキシャルリップのスリンガに対する摺接部を通過した泥水等は、折返部の外面、折返部の内面及びフランジ部を伝って他のシールリップとスリンガとの摺接部に至ることになるので、後者の摺接部に到達するまでの時間が遅延される。これによって、回転トルクを増大させることなく、信頼性の高いシール性を備えた密封装置が実現される。
【0010】
本発明の密封装置において、前記折返部が、折返基部と、該折返基部に連成された環状板部とを有し、該折返基部を介して前記フランジ部の周縁部に連成されているものとした場合、前記折返部をフランジ部と一体に加工形成することができるから、部品点数の増大を抑制することができる。この場合、前記折返部が、前記折返基部との間に形成された薄肉部において折返し形成されているものとすれば、折返部の形成がより簡易になされる。また、前記折返部が、折返基部と、該折返基部に連成された環状板部とを有するとともに前記フランジ部とは別体に構成され、該折返基部をして前記フランジ部の周縁部に固定されているものとすれば、簡易な板金加工装置によって折返加工し、折返加工後の板金をフランジ部の周縁部に固定することで簡易に折返部を形成できる。
【0011】
本発明の密封装置において、前記折返部と前記スリンガのフランジ部とにより形成される空所に、吸水性素材を装填するようにすれば、前記アキシャルリップと前記折返部の外面との摺接部を通過した泥水等は、折返部の内面に至り吸水性素材に保水される。従って、前記他の摺接部に至る泥水等の量が抑えられ、前記効果がより顕著となる。吸水性素材としては、綿や、フェルト等の繊維性素材、更には、高吸水性樹脂等が望ましく採用される。
【0012】
本発明の密封装置において、前記2部材を軸受部材の内輪及び外輪とした場合、本密封装置はパックシールタイプの密封装置としてコンパクトに構成される。そして、軸受装置の転動体が介在する軸受空間が、本密封装置によってシールされ、軸受空間に充填される潤滑剤の外部への漏出や、外部から軸受空間への塵埃や泥水等の浸入が阻止される。この場合、本発明の密封装置は、内輪が回転側で外輪が固定側、或いは、内輪が固定側で外輪側が回転側のいずれにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る密封装置を備えた自動車用車輪懸架装置における軸受装置の一例を示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る密封装置の第一の実施形態であって、図1におけるX部に対応する部分の拡大図である。
【図3】本発明に係る密封装置の第二の実施形態であって、密封装置のみを抽出した図2と同様図である。
【図4】本発明に係る密封装置の第三の実施形態を示す図3と同様図である。
【図5】同密封装置の第一の変形例を示す図3と同様図である。
【図6】同密封装置の第二の変形例を示す図3と同様図である。
【図7】同密封装置の第三の変形例を示す図3と同様図である。
【図8】同密封装置の第四の変形例を示す図3と同様図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は本発明の密封装置を備えた自動車用車輪懸架装置における軸受装置の一例を示し、図2は同密封装置の第一の実施形態であって、図1におけるX部に対応する部分の拡大図で示している。図1に示す軸受装置1において、等速ジョイント2を介して自動車のドライブシャフト3が連結され、ドライブシャフト3の外周には、円筒形ハブ輪4a及び該ハブ輪4aの一端部に連成されたハブフランジ4bからなるハブ4が一体にスプライン嵌合され、ナット3aによってハブ4の抜け止めがなされている。前記ハブフランジ4bにはボルト40を介して不図示の車輪(車輪)が取付けられる。また、ハブ輪4aの外径面には内輪部材5が一体に嵌装され、ハブ4と内輪部材5とにより内輪6が構成される。内輪6とドライブシャフト3とは一体関係で、両者によって回転側部材(内側部材)が構成される。回転側部材としての内輪6は、固定側部材(内側部材)としての外輪7に対して同軸的に軸回転可能に支持される。
【0015】
外輪7は、車体(不図示)に一体化され、この外輪7と内輪6との間に2列の転動体(玉)8…がリテーナ8aで保持された状態で介装されている。また、前記ドライブシャフト3の軸方向に沿った内外輪6,7間の両端部には、潤滑用グリスの漏出や泥水・塵埃等の浸入を防止する為の密封装置としてのベアリングシール9,10が介装されており、これらによりアンギュラ型の軸受装置(ハブベアリング)1が構成される。内外輪6,7間と両端のベアリングシール9,10とにより区画された空間が、転動体8…の軌道面を含む軸受空間Sとされる。即ち、固定側部材としての外輪7と、回転側部材としてのドライブシャフト3及び内輪6とにより、本発明に係る密封装置によるシール対象の2部材が構成され、環状空間としての前記軸受空間Sがシール対象空間とされる。
図1に示す軸受装置1は、自動車の駆動輪側に用いられるものであるが、従動輪側に用いられる軸受装置の場合、内輪6はドライブシャト3には連結されず、外輪7に対してフリー回転可能に支持される。
【0016】
前記ベアリングシール9,10として、本発明に係る密封装置が適用される。図2を参照して、車体側ベアリングシール9の構造について説明する。図例のベアリングシール9は、パックシールタイプに構成され、内輪(一方の部材)6に嵌合固定されるスリンガ11と、外輪(他方の部材)7に嵌合固定される芯金12と、該芯金12に固着され前記スリンガ11に弾性的に摺接する複数(図例では3個)のシールリップ13a,13b,13cを有する弾性体製シールリップ部材13とよりなる。スリンガ11は、前記内輪部材5の外径面に嵌合一体とされる円筒部14と、この円筒部14の前記軸受空間Sとは反対側の一端部から径方向に沿って外輪7側に向かうように連成された環状の外向フランジ部15と、前記円筒部14側に折返すように外向フランジ部15の外周縁部15aから一体に連設された折返部16とを含む。そして、スリンガ11は、鋼板等を加工して全体断面形状が概ねL字形状をなすように形成されている。図例の折返部16は、前記外周縁部15aから前記円筒部14と同心の円筒形状となすよう前記軸受空間S側に延出された折返基部160と、該折返基部160に連成された環状板部16aとを有し、外向フランジ部15と共に概略コの字形(図2では倒コの字形)をなすよう形成されている。即ち、環状板部16aは、シールリップ13aの延出方向に対して略直交し、ベアリングシール9の径方向に沿うよう形成されている。芯金12は、前記外輪7の内径面に嵌合一体とされる円筒部12aと、この円筒部12aの一端部に連成された内向フランジ部12bとを含み、スリンガ11と同様に、鋼板等を加工して概ね断面L字形状をなすように形成されている。弾性体製シールリップ部材13は、エラストマー等の弾性材の成型体からなり、断面L字形状をなす芯金12の、主に狭角側の面に加硫接着等によって固着一体とされている。
【0017】
スリンガ11及び芯金12は、ステンレスやSPCC等の鋼板を前記形状にプレス加工及び曲げ加工して得られる。また、シールリップ部材13を構成する弾性体としてはエラストマーが用いられ、具体的には、エチレンプロピレンゴム(EPM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム(ACM)、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、シリコーンゴム(VMQ)、フロロシリコーンゴム(FVMQ)、フッ素ゴム(FKM)、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンジェン共重合ゴム(EPDM)等のゴム材、熱可塑性エラストマー(オレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、スチレン系等)等が好ましく採用される。
【0018】
共に断面L字形状をなす前記スリンガ11と弾性体製シールリップ部材13を有する芯金12とは、その狭角側の面が互いに対角方向に向き合うように組み合わされてパックシールタイプのベアリングシール9が構成される。この組み合わせ状態では、前記各シールリップ13a,13bの先端部がスリンガ11のアキシャル面に弾接する一方、シールリップ13cの先端部がラジアル面に弾接する。即ち、シールリップ13aはアキシャルリップとして折返部16、即ち、環状板部16aの外面(前記軸受空間S側に向く面)16eに弾接し、シールリップ13bはアキシャルリップとして前記外向フランジ部15の狭角側内面(前記軸受空間S側に向く面)15bに弾接し、シールリップ13cはラジアルリップとして前記円筒部14の外径面に弾接する。そして、このように構成されたベアリングシール9は、軸受装置1の内輪6と外輪7との間に介装される。車輪側のベアリングシール10も同様に構成され、図1に示すように軸受装置1の内輪6と外輪7との間に介装され、両ベアリングシール9,10によって前記軸受空間Sがシールされる。但し、車輪側のベアリングシール10は、必ずしも車体側ベアリングシール9と同様に構成されていなくても良い。例えば、スリンガがなく、シールリップがハブ輪4aに直接弾接するように構成されたものでも良い。
【0019】
前記のとおり、ベアリングシール9,10を備えた軸受装置1において、ドライブシャフト3が回転すると、内輪6が外輪7に対して転動体8…の転動を伴って同軸回転する。この時、前記弾性体製シールリップ部材13の各シールリップ13a,13b,13cは、スリンガ11に前記のように弾接した状態で相対摺接する。従って、ドライブシャフト3の稼動中においても、軸受空間Sに充填された潤滑剤の外部漏出、外部からの塵埃や泥水等の軸受空間S内への浸入が防止される。ところで、この種のパックシールタイプのベアリングシール9の場合、前記外向フランジ部15の外周縁部15aと、その遠心側に位置するシールリップ部材13との間に、塵埃等の通過を阻止し得るラビリンスrが形成される。しかし、このラビリンスrによっては、泥水のベアリングシール9の内部空間S1内への浸入を完全に阻止することができず、一部が内部空間S1内に浸入することもある。内部空間S1内に浸入した泥水は、矢印aに示すように、折返部16の外面16eを伝い、アキシャルリップ13aと折返部16の外面16eとの摺接部(以下、「アキシャルリップ13aの摺接部」と言う)に達する。この摺接部では、泥水の通過が阻止されるが、一部が不可避的に通過する。
【0020】
アキシャルリップ13aの摺接部を通過した泥水は、折返部16の外面16eから内面16bに回り込んだ後、当該内面16bを伝って折返基部160の内面16aa,外向フランジ部15の内面15bに至り、更に、アキシャルリップ13bと外向フランジ部15との摺接部(以下、「アキシャルリップ13bの摺接部」と言う)に向かおうとする。しかし、図2の矢印aで示す泥水が伝う経路のように、泥水はアキシャルリップ13aの摺接部からアキシャルリップ13bの摺接部に至るまでに折返部16の存在により迂回し、実質的にその経路長が大となる。その為、アキシャルリップ13aの摺接部を通過した泥水が、アキシャルリップ13bの摺接部に至るまでに要する時間は延びる。これによって、泥水は、アキシャルリップ13bの摺接部に至るまでに飛散するなどし、アキシャルリップ13bの摺接部に至る泥水は少なくなり、一部泥水がアキシャルリップ13bの摺接部に至ったとしても、この摺接部によって通過が阻止される。これによって、回転トルクを増大させることなく、ベアリングシール(密封装置)9のシール性能の信頼性を向上させることができる。更に、シール寿命の長いベアリングシール9が実現される。
【0021】
図3及び図4は、本発明に係る密封装置の第二及び第三の実施形態を示す。具体的には、折返部16の形成態様の別例を示している。図3の例では、図2の例と同様に、折返部16が、折返基部160と、該折返基部160に連成された環状板部16aとを有し、環状板部16aは、折返基部160より薄肉とされている。該折返基部160と環状板部16aとの間(連成部)には、折返し前の状態では、他の部分より肉厚が薄く容易に屈曲可能な薄肉部16cが形成されている。環状板部16aは、折返し前の状態では、該折返基部160の先端から薄肉部16cを介して2点鎖線で示すように連成されている。そして、環状板部16aはこの薄肉部16cにおいて折返し加工することによって、実線で示すように環状板部16aが径方向における円筒部14側に折返すように形成されている。尚、第二の実施形態では、環状板部16aの肉厚が、折返基部160の肉厚より薄くなるよう形成しているが、両者の肉厚は等しくても良い。
【0022】
また、図4に示す例では、前記折返部16が、折返基部160と、該折返基部160に連成された環状板部16aとを有するとともに前記フランジ部とは別体に調製され、該折返基部160をして前記フランジ部の外周縁部15aに固定的に圧嵌することによって連結されている。即ち、外周縁部15aがアキシャルリップ13a側に延出された前記円筒部14と同心の円筒形状とされる。一方、前記折返部16の折返基部160がこの外周縁部15aに圧嵌状態で外嵌される円筒形状とされている。折返部16、即ち、環状板部16aは、折返基部160が外周縁部15aに連結された状態において、径方向における円筒部14側に折返された状態とされる。図示のように、折返基部160は、外周縁部15aに対して圧嵌によって連結されるが、必要によって、接着剤や溶接等によって一層強固な固定関係とすることも可能である。また、外周縁部15aと折返基部160とを圧嵌関係とすることによって連結する代わりに、例えば、レーザ溶接等の溶接加工によって外周縁部15aと折返基部160とを連結しても良い。
図3及び図4に示す折返部16の形成態様は、折返部16の形成を簡易、且つ精度良く形成できるので望ましく採用されるが、その他の形成態様も除外するものではない。
【0023】
図5は、前記第一の実施形態に係るベアリングシール9の第一の変形例を示す。また、図6は、前記第一の実施形態に係るベアリングシール9の第二の変形例を示す。図5に示す例では、折返部16の折返基部160が円筒形ではなく、断面が半円弧状に形成され、折返部16、即ち、環状板部16aが折返基部160を介して外向フランジ部15と共にU字形(図例で、逆U字形)をなすように形成されている。また、図6に示す例では、折返部16、即ち、環状板部16aが、折返基部160において鋭角に折り曲げられ、外向フランジ部15と共にV字形(図例で、逆V字形)をなすように形成されている。更に、図6の例では、環状板部16aが折返基部160から先側に向け、軸方向において前記外向フランジ部15とは反対側(軸受空間S側)に向くよう形成されているから、ラビリンスrを通過した泥水は、折返部16の外面を伝う間に飛散し易く、アキシャルリップ13aの摺接部を通過した泥水も、図8に示す例と同様に折返部16の外面から内面16bに回り込む際に、より飛散し易くなる。その結果、図2に示すような経路を経てアキシャルリップ13bの摺接部に達する泥水が少なくなり、図2に示す例における前記効果がより助長される。その他の構成は、前記と同様であるので、共通部分に同一の符号を付しここでもその説明を割愛する。尚、図6に示す折返基部160に対して、他の部分よりも肉厚が薄く容易に屈曲可能な薄肉部を形成しても良い。
【0024】
図7は、前記第一の実施形態に係るベアリングシール9の第三の変形例を示す。この例では、前記折返部16と前記スリンガ11の鍔状部15とにより形成される空所17(図2も参照)に、吸水性素材18が装填されている。吸水性素材18としては、前述のとおりフェルトや綿等の吸水及び保水性に優れた繊維性の素材、更には、高吸水性樹脂等が用いられる。このような吸水性素材18が前記空所17に装填されていると、前記と同様に折返部16の外面を矢印aに沿って伝い、アキシャルリップ13aの摺接部を通過して折返部16の内面に至った泥水は、この吸水性素材18に吸水されて保水される。従って、ラビリンスrから前記内部空間S1内に浸入した泥水が、アキシャルリップ13bの摺接部に至ることが殆ど皆無とされ、前記効果がより顕著となる。吸水性素材18の形状は、空所17に装填可能な形状であれば、特に限定されない。その他の構成は、前記と同様であるので、共通部分に同一の符号を付しその説明を割愛する。
【0025】
図8は、前記第一の実施形態に係るベアリングシール9の第四の変形例を示す。この例では、前記環状板部16aが、その途中から先側に向け、前記外向フランジ部15とは反対側(軸受空間S側)に屈折された形状とされている。このように、環状板部16aの先側部16dが外向フランジ部15とは反対側に屈折された形状とされていると、アキシャルリップ13aの摺接部を通過した泥水が、折返部16の外面からその内面16bに回り込む際に飛散し易くなる。その結果、図2に示すような経路を経てアキシャルリップ13bの摺接部に達する泥水が少なくなり、図2に示す例における前記効果がより助長される。その他の構成は、前記と同様であるので、共通部分に同一の符号を付しここでもその説明を割愛する。尚、第二、第三の実施例における折返部16の先側を、第二の変形例で例示したように、外向フランジ部15とは反対側に屈折された形状としても良い。
【0026】
尚、前記実施形態では、スリンガ15の外向フランジ部15が、円筒部14の前記軸受空間Sとは反対側の一端部から径方向に沿って外輪7側に向かうように連成された例を示したが、円筒部14の軸受空間S側に向く他端部より外輪7側に向かうように連成されたものであっても良い。この外向フランジ部15の外周縁部15aに前記と同様にアキシャルリップ13aが外面16eに摺接する折返部16を形成しても良い。この場合でも、折返部16は径方向において、円筒部14側に折返されるように外周縁部15aに連接されていれば良い。また、図7に示す例における吸水性素材18を、図3〜図6及び図8に示す例における空所17に装填することも可能である。また、前記各実施形態では、いずれも内側部材が回転側、外側部材が固定側としたが、内側部材が固定側、外側部材が回転側の場合でも、本発明の密封装置が適用される。更に、スリンガが回転側部材に嵌合固定され、芯金が固定側部材に嵌合固定される場合に限らず、スリンガが固定側部材に嵌合固定され、芯金が回転側部材に嵌合固定される場合であっても良い。従って、スリンガ11及び芯金12における各円筒部14,12aの嵌合対象部材に対する嵌合関係(内嵌か外嵌か)がそれぞれ例示の場合とは異なり、更には、各鍔状部15,12bの形成方向(内向きか外向きか)がそれぞれ例示の場合とは異なることもある。また、折返部16の外面16eに摺接するアキシャルリップ13aは、1個に限らず複数個も設けても良い。また、複数のシールリップが、3個のシールリップ13a,13b,13cである例について述べたが、少なくとも、折返部16の外面に摺接するアキシャルリップ13aを含むものであれば、シールリップ13b,13cはどちらか一方のみでも良く、或いは、これらシールリップ13b,13cのいずれかと同等のシールリップを複数備えているものでも良い。
【符号の説明】
【0027】
1 軸受装置
6 内輪(内側部材)
7 外輪(外側部材)
9 ベアリングシール(密封装置)
11 スリンガ
12 芯金
13 シールリップ部材
13a アキシャルリップ(シールリップ)
13b アキシャルリップ(シールリップ)
13c ラジアルリップ(シールリップ)
14 円筒部
15 外向フランジ部(フランジ部)
15a 外周縁部(周縁部)
16 折返部
160 折返基部
16a 環状板部
16c 薄肉部
17 空所
18 吸水性素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に同軸回転する内側部材及び外側部材からなる2部材間に介装される密封装置であって、
前記2部材のうちの一方の部材に嵌合固定されるスリンガと、前記2部材のうちの他方の部材に嵌合固定される芯金と、該芯金に固着されるとともに前記スリンガに弾性的に摺接する複数のシールリップを有する弾性体製シールリップ部材とよりなり、
前記スリンガは、前記一方の部材に嵌合固定される円筒部と、該円筒部の一端に連成されたフランジ部と、前記円筒部側に折り返すように該フランジ部の周縁部に連設された折返部とを含み、
前記複数のシールリップは、前記折返部の外面に摺接するアキシャルリップを少なくとも含むことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1に記載の密封装置において、
前記折返部は、折返基部と、該折返基部に連成された環状板部とを有し、該折返基部を介して前記フランジ部の周縁部に連成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項2に記載の密封装置において、
前記環状板部が、前記折返基部との間に形成された薄肉部において折返し形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項1に記載の密封装置において、
前記折返部が、折返基部と、該折返基部に連成された環状板部とを有するとともに前記フランジ部とは別体に構成され、該折返基部をして前記フランジ部の周縁部に固定されていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の密封装置において、
前記折返部と前記スリンガのフランジ部とにより形成される空所に、吸水性素材が装填されていることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の密封装置において、
前記2部材が、軸受装置の構成部材であって、前記内側部材が当該軸受装置の内輪であり、外側部材が当該軸受装置の外輪であることを特徴とする密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−163175(P2012−163175A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25058(P2011−25058)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】