説明

密度勾配型不織布及びその製造方法

【課題】一種類の極細繊維のみから構成され、繊維密度の高い部分と低い部分をと有し、繊維密度が規則的に勾配する細胞培養等に適した不織布、及びそのような不織布の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の密度勾配型不織布の製造方法は、有機重合性物質を有機溶媒に溶解させた紡績液を調製する調製工程と、格子状の開口部を有する円筒状の集積用導電体を回転させながら、前記紡績液に高電圧を印加して、アースを施した前記集積用導電体に向かって静電噴霧することにより、静電紡糸有機性繊維を前記集積用導電体の外表面上に不織布として形成させる静電噴霧工程とを含み、前記不織布が、格子状の高密度部分と、前記高密度部分に取り囲まれたウェブ状の低密度部分とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養等に適した有機繊維から構成される不織布であって、高密度部分とウェブ状の低密度部分という2つの密度部分を有する密度勾配不織布及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極細繊維を用いた不織布は、主に自動車用吸気フィルターとして利用される。そして、高い清浄効果を維持しつつ、フィルター寿命を長くするための手段としては、各種密度勾配型不織布が利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、平均デニールが大から小になるように2槽以上の繊維層を積層し、細い繊維層側からニードルパンチを施し、構成繊維を互いに絡着させたフィルター用密度勾配型不織布が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、外側層が撥水処理されたスパンボンド不織布であり、中間層が疎水性繊維と親水性繊維からなる繊維層で、内側層が疎水性繊維と親水性繊維と熱融着性繊維からなる繊維層である三層構造繊維積層体を内側層から外側層方向に向けて物理的交絡処理を行って、一体化してなると共に、該三層構造繊維積層体全体を樹脂ボンディングし、かつさらに、波形加工処理を施すことにより密度勾配型としたことを特徴とする薄型フィルターが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、ある特定以下の細い繊度の繊維を、枠体をメッシュシートで補強したフィルター構造が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、海島構造の分割繊維により不織布を作製した後に分割処理を行い、極細繊維として分散させる不織布の製造方法が開示されている。
【0007】
さらに、分割繊維で編物又は織物を作製し、その後分割処理することにより、極細繊維に方向性を持たせるクロスの製造方法が、それぞれ特許文献5と特許文献6に開示されている。
【0008】
なお、合成樹脂を原料とした一般的なウェブ状加工品及びその製造方法は、非特許文献1及び非特許文献2に開示されている。
【0009】
一方、細胞培養の分野においては、培養細胞を増殖させる際に、細胞の支持体が必要な場合があり、皮膚細胞等の培養ではコラーゲン多孔質ゲルが使用される。
【0010】
ここで、細胞培養においては、細胞に適当な刺激を与えることも重要とされているが、培養細胞の支持体として高分子フィルムやゲルを使用した場合には、培養細胞が「面」で支えられることになり、細胞に十分な刺激を与えることができない。
【特許文献1】特開平10−180023号公報
【特許文献2】特開2003−210921号公報
【特許文献3】特開平11−179121号公報
【特許文献4】特開平9−302563号公報
【特許文献5】特開2000−265343号公報
【特許文献6】特開2000−342501号公報
【非特許文献1】http://www.daikin.co.jp/chm/pro/fluoro/polyflonweb/
【非特許文献2】http://www.asahi-kasei.co.jp/eltas/seizo.htm
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
細胞培養においても極細繊維から構成される不織布を、培養細胞の支持体として利用する場合、繊維が密集していると不織布表面の凹凸に細胞が載るだけであるが、繊維密度を下げれば奥行き方向にも細胞が入り込むと考えられるため、強度を維持しつつ、部分的に繊維密度の低い領域を有する不織布があれば理想的といえる。
【0012】
しかし、特許文献1又は特許文献2に開示されている不織布は、異なる繊維径の繊維層を積層する必要があるため、製造工程が複雑である。また、繊維密度を厚み方向にしか制御することができない。
【0013】
また、特許文献3に開示されているフィルターは、材質がポリエステルであり、バインダーも使用するために、細胞培養の用途には不適当という問題がある。
【0014】
さらに、特許文献4に開示されている不織布では、分割前の繊維が持つ規則性(方向性)を、分割処理後にもある程度残すことは可能であるが、高度な規則性を不織布に持たせることはできない。特許文献5及び特許文献6に開示されているクロス製造方法も、編み方や織り方に方向性付与が限定されるため、細胞培養にとって理想的な密度勾配型不織布の製造方法とはなり得ない。
【0015】
本発明は、一種類の極細繊維のみから構成され、繊維密度の高い部分と低い部分をと有し、繊維密度が規則的に勾配する細胞培養等に適した不織布、及びそのような不織布の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、有機重合性物質からなる紡績液に高電圧を印可し、表面に複数の開口部を有する集積用導電体に静電噴霧することにより、直径が0.1〜20μm以下の極細繊維を、繊維密度の高い部分と、繊維密度の低いウェブ状の部分とを有する不織布として形成させる密度勾配型不織布の製造方法に関する。
【0017】
具体的に、本発明は、
有機重合性物質を有機溶媒に溶解させた紡績液を調製する調製工程と、
複数の開口部を有する円筒状の集積用導電体を回転させながら、前記紡績液に高電圧を印加して前記集積用導電体に向かって静電噴霧することにより、静電紡糸有機性繊維を前記集積用導電体の外表面上に不織布として形成させる静電噴霧工程とを含み、
前記不織布が、高密度部分と、高密度部分に取り囲まれたウェブ状の低密度部分とを有することを特徴とする密度勾配型不織布の製造方法に関する(請求項1)。
【0018】
また、本発明は、
有機重合性物質を静電紡糸した有機性繊維から構成される不織布であって、
高密度部分と、
高密度部分に取り囲まれたウェブ状の低密度部分とを有する密度勾配型不織布に関する(請求項6)。
【0019】
有機重合性物質は、ポリカプロラクトン、ヒドロキシアルカノエートの単重合体又は共重合体、コラーゲン又は乳酸/グリコール酸共重合体といった生分解性有機物であることが好ましい(請求項2,7)。静電紡糸有機性繊維が生分解性であれば、細胞培養等において不織布を後で取り除く必要がないためである。
【0020】
ヒドロキシアルカノエートの単重合体としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。この中でも、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)が好ましい。
【0021】
ヒドロキシアルカノエートの共重合体としては、3-ヒドロキシブチレート/3-ヒドロキシヘキサノエート共重合体が好ましい。
【0022】
紡績液への印加電圧は、5kV以上40kV以下であることが好ましい(請求項3)。
【0023】
不織布の高密度部分の厚みは、0.1mm以上2mm以下であることが好ましい(請求項4,8)。0.1mm未満では不織布としての強度が不足するためであり、一方、2mmを超えると密度勾配効果を得にくいからである。
【0024】
不織布の繊維径は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましい(請求項5,9)。0.1μm未満では不織布としての強度が不足することになり、一方、20μmを超えると密度勾配材料としての効果が得られないという問題が生じるためである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の密度勾配型不織布は、一種類の極細繊維から構成されるにもかかわらず、高密度部分と低密度部分とを規則的に制御されており、かつ、格子状の高密度部分によって低密度部分が囲まれているという従来にない形態を有する。また、格子状の高密度部分を有するために、機械的強度もあり、繊維径も非常に均一である。
【0026】
細胞培養部分と空間保持部分とが同一であり、また、織物では不可能な小さなメッシュサイズと低密度部分を有することにより、3次元細胞培養に適している。
【0027】
また、本発明の密度勾配型不織布の製造方法は、静電噴霧法と特殊形状の集積用導電体とを組み合わせることにより、繊維化と密度勾配化をひとつの単純な製造工程によって、密度勾配型不織布を製造することができる。繊維の「織り」工程又は「編み」工程も、「融着」工程も不要である。
【0028】
さらに、メッシュ構造の形を、集積用導電体の形状によって制御することが可能であり、繊維を交差させるのではなく堆積させて不織布とするため、繊維の太さによる凹凸もできない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、これらに限定されない。
【0030】
本発明の密度勾配型不織布の製造方法において使用する静電噴霧装置の一例を、図1に示す。静電噴霧装置1は、密閉容器2の上部に絶縁板3を備えている。絶縁板3には金属製ホルダー4に接続された金属製ノズル5が固定されている。金属製ホルダー4には、金属製ノズル5の反対側に送液配管7が接続されると共に、高圧電源6が接続されている。
【0031】
送液配管7は、別の密閉容器8の内部に収容されている容器9へと通じており、容器9内には紡績液10として生分解性有機重合性繊維の有機溶媒溶液が満たされている。さらに、密閉容器8は、コンプレッサー11と接続しており、内部を加圧状態にすることができる。
【0032】
コンプレッサー11をONにすると、密閉容器8の内部が加圧され、容器9内の紡績液10は、送液配管7を通って金属製ノズル3へと送液される。
【0033】
密閉容器2の内部には、集積用導電体12が設置される。集積用導電体12の内孔には、導電性の支柱17が挿入されている。この支柱17には、アース14が設置されている。
【0034】
また、支柱17は、モーター13に接続しており、モーター13を起動させることにより、中心軸を回転中心として回転させることができる。
【0035】
モーター13の上部には、静電噴霧された有機重合性繊維がモーター13に付着することを防止するために、カバー16が設置されている。
【0036】
次に、集積用導電体12について、図2を参照しながら説明する。集積用導電体12は、例えば、図2(a)に示すような金属、炭素繊維等の導電性物質から構成され、複数の開口部を有する導電板21を、図2(b)に示すような円筒状に丸めた状態となっている。導電板21には、格子部22と開口部23とが存在しており、集積用導電体12として形成された後には、開口部23と内孔24とが通じている。
【0037】
なお、図2では導電板21及び集積用導電体の開口部形状が正方形の一例を示したが、これに限らず長方形、円形、楕円形、多角形、平行四辺形等であってもよい。ただし、開口部の面積が大きすぎると、紡績液を静電噴霧しても開口部に有機性繊維が集積しない。このため、開口部形状が正方形の場合には1辺の長さを20mm以下にすることが好ましい。
【0038】
一方、開口部の面積が小さすぎると、紡績液を静電噴霧すると格子部と開口部とに有機性繊維が同じように集積するため、密度勾配型不織布を製造できない。このため、開口部形状が正方形の場合には1辺の長さを0.25mm以上にすることが好ましい。
【0039】
集積用導電体12は、内孔24に支柱17を挿入し、支柱17に取り付けた2個のゴムリング18に挟持させて固定する。
【0040】
ここで、高圧電源6をONにすると、金属製ホルダー4を通して金属製ノズル5に高電圧が印加される。このとき、図3に示すように、高電圧によって金属製ノズル5内を流れる紡績液10に電荷が誘発、蓄積される。金属製ノズル5から噴出された後、紡績液10は、プラスに帯電するために互いに反発する。
【0041】
この反発力は、紡績液の表面張力に対抗し、荷電臨界を超えると(表面張力を超えると)、紡績液は帯電ミストになる。この帯電ミストの表面積は、体積に対して非常に大きいため、有機溶媒が効率良く蒸発し、さらに体積の減少により電荷密度が高くなるため、紡績液は帯電微少ミスト15へと分裂していく。
【0042】
金属製ノズル5は高電圧を印加されているが、導電性の支柱17及び支柱17に固定されている集積用導電体12はアースされているので、金属製ノズル5と集積用導電体12との間には、強い電界が形成されている。帯電微少ミスト15は、互いに反発しながら、形成された電界により集積用導電体12に向かって進行するが、途中で溶媒が揮散し、繊維化した有機重合性繊維として、集積用導電体12上に捕集される。このとき、金属製ノズル5に付与された荷電と反対の符号を有する荷電を集積用導電体12に付与してもよい。
【0043】
なお、金属製ノズル5の内径は、0.1 mm以上2.0 mm以下であることが好ましく、0.1 mm以上1.0 mm以下であることがより好ましい。
【0044】
金属製ホルダー4(及び金属製ノズル5)に印加する高電圧は、5 kV以上40 kV以下の直流電圧であることが好ましく、15 kV以上30 kV以下の直流電圧であることがより好ましい。
【0045】
金属製ノズル5からの紡績液の吐出速度は、0.01mL/分以上10mL/分以下であることが好ましい。この吐出速度は、密閉容器8内を加圧するコンプレッサー11の出力を制御することにより、調整することが可能である。
【0046】
また、金属製ノズル5からの紡績液の押出圧力は、0.01MPa/分以上2MPa以下であることが好ましく、0.01MPa/分以上0.5MPa以下であることがより好ましい。この押出圧力も、密閉容器8内を加圧するコンプレッサー11の出力を制御することにより、調整することが可能である。
【0047】
なお、ここでは、ホルダー及びノズルを金属製としたが、金属製に限らず導電性材料であればよい。また、密閉容器2を用いずに、開放系で紡績液を静電噴霧してもよい。
【0048】
また、集積用導電体12と金属製ノズル5を水平に配置し、水平方向から静電噴霧を行ってもよい。
【0049】
静電噴霧により微細化し、正又は負の電荷を帯びた有機性繊維は、アース14を設置した集積用導電体12に引き寄せられて不織布として集積されるが、本発明の密度勾配型不織布の製造方法においては、この集積用導電体12に格子部22と開口部23とを設けることにより、アースにより引き寄せられる力に勾配を持たせ、集積される有機性繊維25の繊維密度を制御することが可能である。
【0050】
すなわち、図4に示すように、集積用導電体12の格子部22と開口部23とを比較すると、格子部22の方が電気的な吸引力が強いため、有機性繊維25は格子部22の上により多く集積し、高密度部分(繊維密度の高い部分)となる。その反対に、開口部23には有機性繊維25が集積しにくいため、低密度部分(繊維密度の低い部分)となる。
【0051】
さらに、集積用導電体12を回転させることにより、繊維径及び分散状態が均一な密度勾配型不織布の製造が可能となる。
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されない。
【0053】
[実施例1]
本発明の実施例1として、以下の製造方法により、ヒドロキシアルカノエートの単重合体又は共重合体の一種である3-ヒドロキシブチレート/3-ヒドロキシヘキサノエート共重合体(以下、PHBHという)繊維から構成される密度勾配型不織布を製造した。
【0054】
1)調製工程
まず、PHBH(平均分子量77.2万、3-ヒドロキシブチレート:3-ヒドロキシヘキサノエート=93.9:6.1(モル比)、株式会社カネカ製)をジクロロメタンに溶解させた後、ろ過してPHBHジクロロメタン溶液(PHBH濃度:10重量%)を得た。なお、PHBH濃度は、5重量%以上15重量%以下であることが好ましい。
【0055】
2)静電噴霧工程
次に、上記調製工程で製造したPHBHジクロロメタン溶液を、図1に示す静電噴霧装置1を用いて繊維化し、集積用導電体12の表面にPHBH繊維として集積させた。ここでは、金属製ノズル5として内径0.32 mm、長さ1cmのステンレス製ノズルを使用し、金属製ノズル5の下端部から集積用導電体12までの距離を10cmとした。また、ステンレス製ホルダー(金属製ホルダー4)に可変電圧器(高圧電源6:パルス電子技術株式会社製)を接続し、15 kVの直流電圧を印加した。なお、PHBHジクロロメタン溶液の押出圧力は、0.02MPaとした。
【0056】
集積用導電体12としては、150メッシュのステンレス網(2cm×3cmの長方形、材質SUS304、ステンレス線の直径0.05mm)を、円柱状に形成したものを使用した。支柱17としては、直径6 mmのステンレス製の円柱を使用し、集積用導電体12と支柱17は、図1に示すように、2個のゴムリング18を用いて固定した。
【0057】
支柱17は、モーター13によって毎分2625回転させた。なお、支柱17は、毎分200〜3000回転させることが好ましい。
【0058】
集積用導電体12を回転させながら紡績液を静電噴霧した結果、集積用導電体12の格子部22にはPHBH繊維の大部分が集積し、格子部22上の繊維は高密度となった。一方、開口部23にはPHBH繊維はあまり集積せず、開口部23内の繊維は低密度となった。
【0059】
約10分間静電噴霧した後、支柱17からPHBH繊維が外表面に集積した集積用導電体12を取り外し、集積用導電体12の長軸に沿ってカッターナイフで切れ目をつけた。そして、集積用導電体12の外表面から概長方形で、格子状の高密度部分と、高密度部分に取り囲まれたウェブ状の低密度部分とを有する密度勾配型不織布を取り外した。その一部の拡大写真を、図5に示す。
【0060】
実施例1の密度勾配型不織布は、電子顕微鏡写真を撮影した結果、平均繊維径が約5μmで、繊維径のバラツキは少なかった。繊維表面も非常に平滑であった。また、密度勾配型不織布全体としての形状は、集積用導電体12を形成するステンレスメッシュとほぼ同じであった。
【0061】
[実施例2]
次に、実施例2として、ポリカプロラクトン(以下、PCLという)(平均分子量7〜10万)をジクロロメタンに溶解させ、10重量%とした溶液を紡績液として使用した。なお、PCL濃度は、8重量%以上20重量%以下であることが好ましく、10重量%以上14重量%以下であることがより好ましい。
【0062】
集積用導電体12としては、格子部の幅0.1mm、開口部の1辺0.5mm、厚み0.1mmのステンレス板(材質SUS304)を、内径1cm×長さ2cmの円柱状に形成したものを使用した。それ以外は、すべて実施例1と同様にして、密度勾配型不織布を作製した。
【0063】
図6(a)〜図6(d)は、静電噴霧時間をそれぞれ5分間、10分間、15分間及び20分間とした場合に作製された本実施例の密度勾配型不織布の一部を拡大した写真である。これらの図から明らかなように、静電噴霧時間を調整することによってウェブ状の低密度部分の密度や厚みを制御することが可能であった。
【0064】
実施例2の密度勾配型不織布(高密度部の厚み約1.2mm)は、電子顕微鏡写真を撮影した結果、平均繊維径が約5μmで、繊維径のバラツキは少なかった。繊維表面も非常に平滑であった。また、密度勾配型不織布全体としての形状は、集積用導電体12を形成するステンレスメッシュとほぼ同じであった。
【0065】
また、実施例2の密度勾配型不織布は、使用した集積用導電体12の格子部が実施例1と比較すると平面的であったため、高密度部分の形状が実施例1の密度勾配型不織布よりも平面的であった。そして、機械的な強度も、実施例1の密度勾配型不織布よりも勝っていた。
【0066】
[実施例3]
次に、実施例3として、乳酸/グリコール酸共重合体(以下、PLGAという)(平均分子量22万、乳酸:グリコール酸=75:25(モル比))をジクロロメタンに溶解させ、15重量%とした溶液を紡績液として使用した。なお、PCL濃度は、10重量%以上30重量%以下であることが好ましく、12重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。
【0067】
集積用導電体12は、実施例2と同じものを使用した。また、20 kVの直流電圧を印加し、PLGAジクロロメタン溶液の押出圧力を0.05MPaとしたこと以外、すべて実施例2と同様にして密度勾配型不織布を製造した(静電噴霧時間約10分間)。なお、実施例3の密度勾配型不織布の一部を拡大した写真を、図7に示す。
【0068】
実施例3の密度勾配型不織布は、電子顕微鏡写真を撮影した結果、平均繊維径が約5μmで、繊維径のバラツキは少なかった。繊維表面も非常に平滑であった。また、密度勾配型不織布全体としての形状は、集積用導電体12を形成するステンレスメッシュとほぼ同じであった。
【0069】
[実施例4]
次に、実施例4として、コラーゲンを含む溶液を紡績液として使用した。まず、可溶性コラーゲンをpH2に調整した塩酸に溶解させた後、ろ過してコラーゲン水溶液を得た。次に、このコラーゲン水溶液に対して20重量%の割合でヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を添加して、コラーゲン溶液を得た(20重量%HFIP溶液におけるコラーゲン濃度は6.5重量%)。
【0070】
なお、コラーゲン溶液中の水とHFIPの重量比は、8:2〜5:5とすることが好ましく、コラーゲン溶液におけるコラーゲン含量は、5重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0071】
コラーゲン水溶液は、粘度が高く、そのままの状態では静電噴霧によってコラーゲン繊維を製造することはできないが、HFIPを添加することにより、粘度が低下して静電噴霧によってコラーゲン繊維を製造することが可能となった。
【0072】
集積用導電体12は、20メッシュのステンレス網(2cm×3cmの長方形、材質SUS304、ステンレス線の直径0.2mm)を、円柱状に形成したものを使用した。また、25 kVの直流電圧を印加し、上記コラーゲン溶液の押出圧力を0.1MPaとしたこと以外、すべて実施例1と同様にして密度勾配型不織布を製造した。なお、実施例4の密度勾配型不織布の一部を拡大した写真を、図8に示す。
【0073】
実施例4の密度勾配型不織布は、電子顕微鏡写真を撮影した結果、平均繊維径が約5μmで、繊維径のバラツキは少なかった。繊維表面も非常に平滑であった。また、密度勾配型不織布全体としての形状は、集積用導電体12を形成するステンレスメッシュとほぼ同じであった。
【0074】
なお、実施例2において、集積用導電体12の開口部(正方形の場合)の1辺が0.25mm以上20mm以下の範囲では、密度勾配型不織布が形成されるが、開口部の1辺が20mmを超えると、図9に示すような紐状不織布となる傾向が認められた。一方、開口部の1辺が0.25mm未満になると、高密度部分と低密度部分との区別ができなくなり、通常の不織布となる傾向が認められた。そして、このような現象は、実施例1、実施例3及び実施例4にも共通して確認された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の密度勾配型不織布及びその製造方法は、細胞培養等の生物関連分野だけでなく、不織布フィルターを使用する化学、機械等の幅広い産業分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明のコラーゲン繊維の製造方法において使用する静電噴霧装置の一例を示す概略図である。
【図2】集積用導電体の一例を説明する図であり、図2(a)は格子状の導電板、図2(b)はそれを形成した集積用導電体の外観図である。
【図3】静電噴霧装置を作動させた時の、金属製ノズル下端部付近の紡績液の状態を示す拡大概略図である。
【図4】本発明の密度勾配型不織布の製造方法における集積用導電体への繊維集積状体を説明する概念図である。
【図5】実施例1の密度勾配型不織布の一部を拡大した写真である。
【図6】実施例2の密度勾配型不織布の一部を拡大した写真であり、図6(a)は5分間、図6(b)は10分間、図6(c)は15分間、図6(d)は20分間静電噴霧した場合の密度勾配型不織布である。
【図7】実施例3の密度勾配型不織布の一部を拡大した写真である。
【図8】実施例4の密度勾配型不織布の一部を拡大した写真である。
【図9】実施例2と同じ条件で、集積用導電体の開口部の1辺を、25mmとした場合に形成される紐状不織布の一部を拡大した写真である。
【符号の説明】
【0077】
1:静電噴霧装置
2:密閉容器
3:絶縁板
4:金属製ホルダー
5:金属製ノズル
6:高圧電源
7:送液配管
8:別の密閉容器
9:容器
10:紡績液
11:コンプレッサー
12:集積用導電体
13:モーター
14:アース
15:帯電微小ミスト
16:カバー
17:支柱
18:ゴムリング
21:導電板
22:格子部
23:開口部
24:内孔
25:有機性繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機重合性物質を有機溶媒に溶解させた紡績液を調製する調製工程と、
複数の開口部を有する円筒状の集積用導電体を回転させながら、前記紡績液に高電圧を印加して、アースを施した前記集積用導電体に向かって静電噴霧することにより、静電紡糸有機性繊維を前記集積用導電体の外表面上に不織布として形成させる静電噴霧工程とを含み、
前記不織布が、高密度部分と、高密度部分に取り囲まれたウェブ状の低密度部分とを有することを特徴とする密度勾配型不織布の製造方法。
【請求項2】
前記有機重合性物質がポリカプロラクトン、ヒドロキシアルカノエートの単重合体又は共重合体、コラーゲン又は乳酸/グリコール酸共重合体である請求項1に記載の密度勾配型不織布の製造方法。
【請求項3】
前記紡績液への印加電圧が5kV以上40kV以下である請求項1又は2に記載の密度勾配型不織布の製造方法。
【請求項4】
前記不織布の高密度部分の厚みが、0.1mm以上2mm以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の密度勾配型不織布の製造方法。
【請求項5】
前記不織布の平均繊維径が、0.1μm以上20μm以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の密度勾配型不織布の製造方法。
【請求項6】
有機重合性物質を静電紡糸した有機性繊維から構成される不織布であって、
高密度部分と、
高密度部分に取り囲まれたウェブ状の低密度部分とを有する密度勾配型不織布。
【請求項7】
前記有機重合性物質がポリカプロラクトン、3-ヒドロキシ酪酸/3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体、コラーゲン又は乳酸/グリコール酸共重合体である請求項6に記載の密度勾配型不織布。
【請求項8】
前記不織布の高密度部分の厚みが、0.1mm以上2mm以下である請求項6又は7に記載の密度勾配型不織布。
【請求項9】
平均繊維径が、0.1μm以上20μm以下である請求項6乃至8のいずれか1項に記載の密度勾配型不織布。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−303021(P2007−303021A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132445(P2006−132445)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(500342732)甲子園金属株式会社 (2)
【Fターム(参考)】