説明

密閉型圧縮機

【課題】商用周波数以外の運転周波数で駆動した場合の吸入弁装置での容積効率の低下を抑制し、制御性と効率の良い密閉型圧縮機を提供する。
【解決手段】吸入リード132と吸入孔131との間に初期隙間151を備え、電動要素103はインバータ制御装置により少なくとも電源周波数以外の複数の運転周波数で駆動され、効率の高くなる運転周波数のみを選択駆動するよう設定しているので、冷凍能力と運転周波数との線形制御性を保つことができ、また吸入抵抗を少なくでき、制御性と効率を良くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵庫、ショーケースなどの冷蔵、冷凍装置や空気調和装置に用いられる密閉型圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、冷蔵庫、ショーケースなどの冷蔵、冷凍装置や空気調和装置に使用される密閉型圧縮機は、冷凍能力制御を目的とした低速から高速までの可変速運転と、同時に省エネルギーのために高効率が求められている。
【0003】
一般的な密閉型圧縮機は、電動要素の回転子の回転により、圧縮要素のクランクシャフトが回転され、このクランクシャフトの偏心運動がコンロッドにより水平運動に変換され、ピストンが圧縮室内部で往復運動する。この際、ピストンが後退する動作により、冷媒ガスが冷却システムから吸入弁装置を介して圧縮室内部に吸入され、このように吸入された冷媒ガスは、ピストンの前進運動により圧縮され、吐出弁装置を介して冷却システムに供給される。
【0004】
従来、この種の密閉型圧縮機としては、吸入リードと吸入孔との間に初期隙間を備えた吸入弁装置を備え、容積効率を向上したものがある(例えば特許文献1参照)。
【0005】
このような密閉型圧縮機において、吸入弁装置の吸入リードの開閉タイミングは、効率向上に大きな影響を及ぼす。以下、図面を参照しながら、従来の密閉型圧縮機の吸入弁装置について説明する。
【0006】
図5は、特許文献1に記載された従来の冷凍用コンプレッサのリードバルブ動作を示すもので、(a)は吸入行程の状態図、(b)は圧縮行程の状態図である。具体的には、(a)はピストンの吸入行程における吸入リードの状態を示す図であり、(b)はピストンの圧縮行程における吸入リードの状態を示す図である。図6は、従来のコンプレッサの吸入リードの斜視図である。
【0007】
圧縮室1の開口端には、これを封止するようバルブプレート2が配設されており、バルブプレート2と圧縮室1の開口端との間には、吸入リード3が挟持されている。
【0008】
バルブプレート2には、吸入孔4が穿設されており、吸入孔4の圧縮室1側の外周には、吸入弁座6が形成されている。
【0009】
吸入リード3は、吸入弁座6を開閉する開閉部7と、吸入リード3の基部をなす支持端部8と、支持端部8と開閉部7を連結するアーム部9で形成されている。アーム部9の湾曲部10で圧縮室1側に折曲加工され、吸入リード3と吸入弁座6との間に初期隙間が形成されている。
【0010】
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下その動作を説明する。
【0011】
ピストン11が圧縮室1内を往復動することで、吸入行程時に圧縮室1内の圧力が下がり、吸入孔4と圧縮室1内の圧力差が生じる。この圧力差により、吸入リード3のアーム部9が支持端部8を支点に湾曲して圧縮室1内へ開き、これに伴い、吸入孔4から吸入弁座6を介して冷媒が圧縮室1内に吸入される。吐出行程時には、圧縮室1内の圧力が上がり、これに伴って吸入リード3が閉じ、吸入弁座6を塞ぐ。そして、冷媒が吐出弁装置を
介して圧縮室1外へ吐出される。
【0012】
吸入行程時には、初期隙間が設けられているので、少ない圧力差でも初期隙間がない場合と比べ、吸入リード3が早く開き、また最大の開き量が初期隙間分だけ大きく開くことで吸入抵抗の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平4−18148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、前記従来の吸入弁装置の構成では、電動要素を商用周波数以外の運転周波数で駆動した場合、吸入行程の時間が運転周波数によって異なるため、吸入リードの開閉タイミングが最適でない運転周波数では、吸入リードの閉じ遅れが発生していた。これにより、圧縮行程初期に圧縮室から吸入孔に冷媒が逆流し、容積効率が低下して、制御性と効率が悪くなる可能性があるという課題を有していた。
【0015】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、商用周波数以外の運転周波数で駆動した場合でも、制御性と効率の良い密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記従来の課題を解決するために、本発明の密閉型圧縮機は、吸入リードと吸入孔との間に初期隙間を備え、電動要素を、インバータ制御装置により、少なくとも電源周波数以外の複数の運転周波数で駆動する構成とし、効率の高くなる運転周波数のみを選択駆動して容積効率の低くなる運転周波数を回避することとしたものである。
【0017】
これによって、冷凍能力と運転周波数との線形制御性を保つことができ、また吸入損失を少なくできるという作用を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の密閉型圧縮機は、密閉型圧縮機における運転の制御性と、圧縮機の効率を良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の縦断面図
【図2】同実施の形態1における密閉型圧縮機の横断面図
【図3】同実施の形態1における密閉型圧縮機の吸入弁装置の分解斜視図
【図4】同実施の形態1における密閉型圧縮機の運転周波数に対する容積効率の特性図
【図5】(a)は従来の密閉型圧縮機の吸入弁装置の吸入行程の状態の断面図、(b)は従来の密閉型圧縮機の吸入弁装置の圧縮行程の状態の断面図
【図6】従来の密閉型圧縮機の吸入リードの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0020】
請求項1に記載の発明は、密閉容器内に潤滑油を貯溜するとともに、電動要素と前記電動要素によって駆動される圧縮要素を収容し、前記圧縮要素を、ピストンが往復動するシリンダと、前記シリンダの端部に備えられ、吸入孔が穿設されたバルブプレートと、板ばね材によって形成され、前記バルブプレートの前記シリンダ側に設けられて前記吸入孔を開閉する吸入リードを備える構成とし、前記吸入リードと前記吸入孔との間に初期隙間を
備え、さらに、前記電動要素を、インバータ制御装置により少なくとも電源周波数以外の複数の運転周波数で駆動し、かつ効率の高くなる運転周波数のみを選択して駆動するようにしたものである。
【0021】
かかることにより、容積効率の低くなる運転周波数での運転を回避することとで、冷凍能力と運転周波数との線形制御性を保つことができ、また吸入損失を少なくでき、制御性と効率を良くすることができる。
【0022】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記吸入リードの固有振動数を、200Hzから280Hzの範囲に設定したものである。
【0023】
かかることにより、冷蔵庫等の機器における省エネルギーへの寄与の大きい運転周波数範囲で吸入リードの開閉タイミングを最適化でき、その結果、請求項1に記載の発明の効果に加えて、更に効率を高くすることができる。
【0024】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記初期隙間を、吸入リードをシリンダ側に折曲させることで形成し、初期リフトの高さを、0.2mmから0.5mmの範囲としたものである。
【0025】
かかることにより、請求項1または2に記載の発明の効果に加えてさらに、初期リフトの高さを大きく設定することに伴い、運転周波数に対する容積効率の高低差が大きく現れるが、運転周波数を選択駆動することで、吸入損失を最小化でき、効率の向上効果を最大化することができる。
【0026】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記吸入孔の周りに吸入弁座を備え、潤滑油の粘度を、VG8以下としたものである。
【0027】
かかることにより、吸入リードと吸入弁座の衝突による衝撃力に対する吸入リードと吸入弁座との間に介在する潤滑油のダンピング効果が低くなりやすい場合でも、初期リフトによって衝突速度が低くなり、衝撃力を低くすることができる。したがって、リードの欠けを防止することができる。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の縦断面図、図2は、同実施の形態1における密閉型圧縮機の横断面図、図3は、同実施の形態1における密閉型圧縮機の吸入弁装置の分解斜視図である。
【0030】
図1から図3おいて、密閉型圧縮機は、密閉容器101内に、潤滑油102を貯留するとともに、電動要素103と、電動要素103の上方に配置された圧縮要素104で構成された電動圧縮要素105を収容している。また、密閉容器101内は、冷媒106で満たされている。圧縮要素104が吸入し、圧縮する冷媒106は、炭化水素系冷媒としてのR600aであり、潤滑油102の粘度は、VG3〜VG8の低粘度油である。
【0031】
電動要素103は、回転子111と固定子112で構成されており、インバータ制御装置(図示せず)により、少なくとも電源周波数以外の運転周波数を含む複数の運転周波数で駆動される。インバータ制御装置は、圧縮機における効率の高くなる運転周波数のみを選択し、駆動するソフトウェアが内蔵されている。
【0032】
圧縮要素104は、略鉛直方向に配設され、回転子111を固定した主軸部113と偏心軸部114と給油機構115とを備えたシャフト116と、シャフト116の主軸部113を軸支する主軸受117と圧縮室118を形成するシリンダ119を備えたブロック120と、連結手段121と、シリンダ119内を往復動するピストン122と、シリンダ119の端部123に設けられた吸入弁装置124と、バルブプレート125の反圧縮室側に形成した吐出弁装置127を備えている。
【0033】
吸入弁装置124は、吸入孔131が穿設されたバルブプレート125と、板ばね材によって形成され、バルブプレート125のシリンダ119側に設けられて吸入孔131を開閉する吸入リード132と、圧縮室118をシールするガスケット133の積層構造となっている。
【0034】
吸入リード132は、吸入弁座141を開閉する開閉部142と、吸入リード132の基部をなす支持端部143と、支持端部143と開閉部142とを連結するアーム部144で形成されており、固有振動数は200Hzから280Hzであり、本発明品では29rpsから30rpsで吸入リード132の開閉タイミングが最適となるように、固有振動数を260Hzに設定している。
【0035】
吸入リード132と吸入孔131の吸入弁座141との間には、図1に示すように初期隙間151を備えており、初期隙間151は、吸入リード132を支持端部143近傍の折曲部152でシリンダ119側に折曲させることで形成している。そして、初期リフトの高さ(図1中の寸法A)は0.2mmから0.5mmの範囲にある0.4mmに設定している。
【0036】
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0037】
電動要素103の回転子111は、シャフト116を回転させ、偏心軸部114の回転運動が連結手段121を介してピストン122に伝えられる。これにより、ピストン122は、シリンダ119を往復運動する。
【0038】
この動作により、冷媒106は、冷却システム(図示せず)から圧縮室118内へ吸入弁装置124を介して吸入され、圧縮された後、吐出弁装置127を介して再び冷却システムへと吐出される。
【0039】
シャフト116に形成された給油機構115によって潤滑油102が上方に汲み上げられ、主軸受117と主軸部113で形成される摺動面などに供給されるとともに、偏心軸部114の端部に形成された飛散孔(図示せず)から、密閉容器101内の全周方向へ水平に飛散してピストン122にも供給され、それぞれの部位で潤滑を行う。
【0040】
吸入弁装置124の動作について説明すると、吸入行程では圧縮室118内の圧力が下がり、吸入弁座141の内側と圧縮室118内の圧力差が生じる。これにより、吸入弁座141を塞いでいる吸入リード132の開閉部142に力が加わる。その結果、吸入リード132のアーム部144が支持端部143を支点に湾曲し、吸入リード132がシリンダ119内へ開く。これに伴い、吸入孔131から吸入弁座141の内側を介して冷媒106がシリンダ119内に吸入される。
【0041】
また、圧縮行程では、吸入リード132の開閉部142が、吸入弁座141上で吸入孔131を閉鎖し、圧縮された冷媒106が圧縮室118外に流出することを阻止する。
【0042】
図4は、本発明の実施の形態1における運転周波数に対する容積効率の特性図である。
【0043】
吸入リード132の挙動と圧縮室118内の圧力変化を、実験により測定した結果、図4の特性図に示すように、吸入リード132の開閉タイミングと吸入行程の時間が一致した場合に容積効率が高くなった。また、吸入リード132の開閉タイミングと吸入行程の時間が不一致、特に閉じ遅れが発生した場合には、圧縮行程初期に圧縮室118から吸入孔131に冷媒106が逆流し、容積効率が低下した。さらに、初期リフト量が大きい程、冷媒106の逆流が多くなり、容積効率の低下が大きくなった。
【0044】
本実施の形態1では、インバータ制御装置で容積効率の低くなる運転周波数の25rpsから26rpsと、33rpsから34rpsを回避し、効率の高くなる運転周波数のみを選択駆動するよう設定したことにより、冷凍能力と運転周波数との線形制御性を保つことができ、また吸入損失を少なくでき、制御性と効率を良くすることができる。
【0045】
また、吸入リード132の固有振動数は、200Hzから280Hzであるとしたもので、冷蔵庫の省エネルギーへの寄与の大きい運転周波数範囲での吸入リード132の開閉タイミングを最適に設定でき、圧縮機の効率を高くすることができる。
【0046】
さらに、初期リフトの高さを0.2mm以上に大きく設定すると運転周波数に対する容積効率の高低差が大きく現れ、特定運転周波数での容積効率の低下が大きくなる。
【0047】
また、一方で初期リフトの高さが0.4mm付近で吸入損失低減効果が最大となるため、吸入リード132の開閉タイミングと吸入行程の時間が一致する運転周波数では効率が高くなる。
【0048】
本実施の形態1の初期隙間151は、吸入リード132をシリンダ119側に折曲させることで形成し、初期リフトの高さを、0.2mmから0.5mmの範囲としている。その結果、運転周波数を選択駆動することで、制御性を確保した上で、吸入損失を最小化でき、効率向上効果を最大化することができる。
【0049】
さらに、本実施の形態1においては、吸入孔131の周りに吸入弁座141を備え、潤滑油102の粘度をVG8以下とし、冷媒106を吸入する際に、密閉容器101内を飛散する潤滑油102を圧縮室118内に一緒に吸入する構成としている。したがって、吸入リード132と吸入弁座141との間には潤滑油102が介在する構成となっている。
【0050】
かかる構成は、吸入リード132と吸入弁座141の衝突による衝撃力に対する潤滑油102によるダンピング効果が低くなりやすい低粘度油を用いた場合でも、初期リフトにより衝突速度を抑制し、衝撃力を低くすることができる。そのため、吸入リード132が欠けることを防止することができる。
【0051】
なお、吸入し圧縮する冷媒106は、炭化水素系冷媒としてのR600aとしたが、フロンR134aとしても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明にかかる密閉型圧縮機は、制御性と効率を良くすることが可能となるので、冷蔵庫以外にも自販機や空調機器の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0053】
101 密閉容器
102 潤滑油
103 電動要素
104 圧縮要素
106 冷媒
119 シリンダ
122 ピストン
123 端部
125 バルブプレート
131 吸入孔
132 吸入リード
141 吸入弁座
151 初期隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に潤滑油を貯溜するとともに、電動要素と前記電動要素によって駆動される圧縮要素を収容し、前記圧縮要素を、ピストンが往復動するシリンダと、前記シリンダの端部に備えられ、吸入孔が穿設されたバルブプレートと、板ばね材によって形成され、前記バルブプレートの前記シリンダ側に設けられて前記吸入孔を開閉する吸入リードを備える構成とし、前記吸入リードと前記吸入孔との間に初期隙間を備え、さらに、前記電動要素を、インバータ制御装置により少なくとも電源周波数以外の複数の運転周波数で駆動し、かつ効率の高くなる運転周波数のみを選択して駆動するようにした密閉型圧縮機。
【請求項2】
前記吸入リードの固有振動数を、200Hzから280Hzの範囲に設定した請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
前記初期隙間を、吸入リードをシリンダ側に折曲させることで形成し、初期リフトの高さを、0.2mmから0.5mmの範囲とした請求項1または2に記載の密閉型圧縮機。
【請求項4】
前記吸入孔の周りに吸入弁座を備え、潤滑油の粘度を、VG8以下とした請求項1から3のいずれか一項に記載の密閉型圧縮機。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−11215(P2013−11215A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144004(P2011−144004)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】