説明

密閉形圧縮機及び空冷式ヘリウム圧縮装置

【課題】耐熱性と冷却効果を向上させることにより、信頼性と安全性をもつ密閉型圧縮機及び空冷式ヘリウム圧縮装置を提供する。
【解決手段】圧縮機部とコイルエンド部を有するステータ及びロータからなるモータ部とを密閉容器内に収納した密閉形圧縮機において、圧縮機部の吐出口から密閉容器内に吐出した作動ガスを、コイルエンド部を通してから密閉容器に設けた吐出管から当該密閉容器外に吐出するように構成すると共に、モータ部をさらに、コイル部、リード線、コイル部とリード線の結線部を包む絶縁フィルム、コイル部を縛る縛り紐及びコイル部表面を絶縁被覆するワニス材から構成し、コイル部とリード線の結線部を吐出配管の近傍のコイルエンド部に配置すると共に、モータ部の前記構成要素に耐熱温度155℃仕様または180℃の仕様の耐熱材料を用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性を向上させた密閉形圧縮機、及びヘリウム圧縮機ユニット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリウム用密閉形圧縮機等の密閉形圧縮機は、従来、特許文献1(特開2008―51050号)に示されるものがある。この従来技術は、インバータ制御するヘリウム用スクロール圧縮機であるが、商用電源時の商用周波数における圧縮機入力(入力電力)に比べ、AC仕様またはDC仕様インバータ駆動による高速運転における圧縮機入力が大きく増大し、モータ部の巻線温度も上昇する。近年、地球環境の温度上昇に伴い、圧縮機の周囲温度もおよそ40℃から地域的には50℃レベルまで上昇することになる。
【0003】
一方冷却系に関しては、ヘリウム用密閉形圧縮機と油分離器とガス冷却器及び油冷却器を備えたヘリウム圧縮装置では、使い勝手の良い冷却ファンによる空冷式ガス冷却器及び空冷式油冷却器を備えたユニットの場合、周囲温度上昇の影響によって、油冷却器の出口油温度は周囲温度に対して更に二十数度上昇し、ヘリウム圧縮機に注入される油インジェクション温度が高温となり、ひいてはモータ巻線温度の異常な上昇を引き起こす恐れがある。特に、インバータを使用したヘリウム圧縮機ユニットにおいては、インバータ内部の発生熱が加わるとユニット内の空気温度の上昇をもたらし、更に高温の約60℃に至る。このため、内部に配置された圧縮機のモータ巻線温度の更なる上昇につながる。
【0004】
図8に、ヘリウム圧縮機に注入される冷却用の油インジェクション量と、モータのモータ巻線温度との関係を示す。図9は、油インジェクション量とヘリウム圧縮機入力との関係を示す。両図から、空冷式油冷却器において周囲温度が60℃の場合、その時のモータ巻線温度は、水冷式に比べて数十度大きく上昇することになる。一方、図8から、油インジェクション量を増加すると圧縮機入力(電力)が増加するため、油インジェクション量には制限がある。このような空冷式ヘリウム圧縮機ユニットの条件下においては、圧縮機入力を省エネルギー化のために制限する観点から、モータ巻線温度は、従来の水道水などを利用した水冷式ユニットの場合と比較して、モータ巻線温度の大幅な上昇は避けられないという問題がある。
【0005】
また、図11に示すように、ヘリウム圧縮機の運転圧力比の低い圧力比域のPd/Ps=1.5〜1.7(Pdは吐出圧力、Psは吸入圧力を示す)では、給油差圧の確保が困難となるため油インジェクション量が低下し、それに伴い、周囲温度が高くなるほどモータ巻線温度が顕著に上昇するというヘリウム圧縮機固有の課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008―51050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来技術においては、周囲温度の高温度化に伴い、モータ巻線温度が異常上昇し、それに伴いモータ絶縁部(絶縁被膜層)の劣化が進み、そのことがモータ寿命の低下、及び運転中の圧縮機漏れ電流が増加するという問題がある。万が一、モータ焼損に至ると、ヘリウム圧縮機全体の信頼性の低下、及び上記した電気安全性の低下の恐れがある。特に特許文献1では、コイル部表面の絶縁被膜となるワニス材が複数層となって絶縁被膜厚さが厚くなるため、放熱作用が低下し、コイル部の温度上昇を更に助長させる恐れがある。また、上記絶縁フィルム材とリード線被覆材に高耐熱性の硬質性のものを用いた場合、柔軟性がなくなって、各部品同士の干渉・接触の危険性が高まると共に、組立作業等において扱い難いという問題がある。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、耐熱性と冷却効果を向上させることにより、信頼性と安全性をもつ密閉型圧縮機及び空冷式ヘリウム圧縮装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するため、本発明は、圧縮機部と、コイルエンド部を有するステータ及びロータからなるモータ部とを密閉容器内に収納した密閉形圧縮機において、
前記圧縮機部の吐出口から前記密閉容器内に吐出した作動ガスを、前記コイルエンド部を通してから密閉容器に設けた吐出管から当該密閉容器外に吐出するように構成するとともに、前記モータ部をさらに、コイル部、リード線、コイル部とリード線の結線部を包む絶縁フィルム、コイル部を縛る縛り紐及びコイル部表面を絶縁被覆するワニス材から構成し、
前記コイル部とリード線の結線部を前記吐出配管の近傍のコイルエンド部に配置すると共に、前記モータ部の前記構成要素に耐熱温度155℃仕様または180℃の仕様の耐熱材料を用いたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は上記目的を達成するため、作動ガスとしてヘリウムガスを用い、圧縮機部とコイルエンド部を有するステータ及びロータからなるモータ部とを密閉容器内に収納するとともに、前記圧縮機部は、円板状鏡板に渦巻状のラップを直立した固定スクロールと円板状鏡板に渦巻状のラップを直立した旋回スクロールとをそれぞれのラップを互いに内側にして噛み合わせ、前記旋回スクロールを旋回運動させて前記固定スクロールの外周部の吸入口よりヘリウムガスを吸入し、前記モータ部の周囲が吐出ガス域となる密閉形圧縮機において、
前記圧縮機の吐出口から前記密閉容器内に吐出した作動ガスを、前記コイルエンド部を通してから密閉容器に設けた吐出管から当該密閉容器外に吐出するように構成するとともに、前記モータ部をさらに、コイル部、リード線、コイル部とリード線の結線部を包む絶縁フィルム、コイル部を縛る縛り紐及びコイル部表面を絶縁被覆するワニス材から構成し、
前記コイル部とリード線の結線部を前記吐出配管の近傍のコイルエンド部に配置すると共に、前記モータ部の前記構成要素に耐熱温度155℃仕様または180℃の仕様の耐熱材料を用いたことを特徴とする。
【0011】
また、上記に記載の密閉形圧縮機において、前記モータ部はコイル部とリード線に耐熱温度180℃の仕様の耐熱材料を用い、その他の構成要素に耐熱温度155℃仕様の耐熱材料を用いたことを特徴とする。
【0012】
また、上記に記載の密閉形圧縮機において、フレームにて前記密閉容器内を吐出室とモータ室とに区画し、前記フレームの外周面と前記密閉容器の内壁面との間に、前記吐出室と前記モータ室を連通して作動ガスを流す第1通路を設け、該第1通路下方部の容器内壁面に油分離手段を備え、コイル部とリード線の結線部を、耐熱温度155℃仕様品の耐熱性材料の絶縁フィルムで包むとともに、前記油分離手段とほぼ反対位置となる前記吐出配管の近傍に配置することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、ヘリウム用密閉形圧縮機と、前記密閉形圧縮機の吐出ガスを冷却するガス冷却器と、吐出ガスの油を分離する油分離器と、前記密閉形圧縮機の油を冷却してインジェクション管に供給する油冷却器を備えたヘリウム圧縮装置において、
前記ヘリウム用密閉形圧縮機に請求項1記載の密閉形圧縮機を用いると共に、前記冷却器として空冷式ガス冷却器及び空冷式油冷却器を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モータ部の電気絶縁材に高耐熱仕様のものを用いるとともに、モータ部を冷却に適した構成にすることにより、モータ絶縁部の劣化を防止してモータの長寿命化が図れ、密閉形圧縮機の信頼性を向上させることができる。また、冷却に必要な油インジェクション量を少なくできるので、圧縮機の入力(入力電力)を低く抑えられ、高性能なヘリウム圧縮機が得られる。
【0015】
また、高耐熱性仕様の絶縁材を用いることで絶縁材が硬質性となっても、リード線とコイル部の結線部と、油分離手段との干渉・接触のない適正配置によって、モータステータのケーシング部への組立作業性が改善され、工数の低減(コスト低減)を図ることができる。
【0016】
また、モータの絶縁劣化を防止できるので漏れ電流の低減が図れ、電気安全性の向上効果がある。特にヘリウムガスでは、漏れ電流が他の冷凍空調用冷媒ガスR22,R410,R404等の作動ガスに比べて大きくなるという固有な特性があり、上記漏れ電流の低減効果はヘリウム圧縮機で大きい。
【0017】
さらに、従来技術では、冷却のための油インジェクション量を確保する上で、低圧力比Pd/Ps=1.5〜1.7の領域での運転が不可能であったが、本発明では可能となり運転範囲の拡大が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態のインバータ駆動のヘリウム用密閉形圧縮機のを示す縦断面図。
【図2】同じく要部を切欠いて示す縦断面図。
【図3】同じく図1のA−A断面におけるモータ上部の平面図。
【図4】同じくステータの平面図。
【図5】同じくステータの縦断面図。
【図6】同じくステータスロット部の部分断面図。
【図7】本発明の実施形態の空冷式ヘリウム圧縮機装置の構成機器の配置図。
【図8】油インジェクション量とモータ巻線温度との関係を示す説明図。
【図9】油インジェクション量とヘリウム圧縮機入力との関係を示す説明図。
【図10】モータ巻線温度とモータ寿命との関係を示す説明図。
【図11】運転圧力比と油インジェクション量及びモータ巻線温度との関係を示す説明図。
【図12】油分離手段とモータコイルエンド部及び結線部との位置関係を示す参考図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図1から図12により詳細に説明する。各実施形態の図における同一符号は、同一物または相当物を示す。図1は、作動ガスとしてヘリウムガスを用い、固定スクロール5と旋回スクロール6を備えたスクロール形圧縮機部2と、コイルエンド部3c、3dを有するステータ3a、及びロータ3bからなるモータ部3とを、密閉容器1内に収納したヘリウム用密閉形圧縮機100の縦断面を示す。
【0020】
図1、図3において、モータ部3はさらに、コイル部3e、絶縁フィルム部3y、リード線3m、縛り紐3f及びコイル部表面を絶縁被膜するワニス材3zから構成され、各部材の耐熱温度が、155℃仕様品または180℃仕様品の高耐熱性材料が用いられる。
【0021】
従来のヘリウム圧縮機におけるモータ耐熱仕様は、リード線3m及び縛り紐3fの被覆材の最高温度は120℃仕様品であった。従って、この圧縮機を用いた空冷式ヘリウム圧縮機ユニット装置では、周囲温度に異常上昇があると冷却用油インジェクション温度も大幅に上昇し、その結果、ヘリウム圧縮機容器内のモータ周囲温度及びモータ巻線温度は容易に120℃を越える結果となり、耐熱上問題であった。これに対し、本実施形態では、上記120℃を越える温度条件下においても絶縁劣化及び絶縁破壊が起こらないように、前記した高耐熱性材料を用いて高耐熱仕様のモータ部(最高温度155℃レベル)を構成している。
【0022】
図1で、ヘリウム用密閉形圧縮機100は、インバータ400により駆動される。ヘリウム用密閉形圧縮機100は、作動ガスとしてヘリウムガスが用いられ、密閉容器1内に圧縮機部2とモータ部3とを上下に位置して、回転軸14で回転軸14で連接して収納すると共に、密閉容器1の底部に貯留された潤滑油23を圧縮機部2の圧縮室8に注入する油インジェクション機構部60を備えている。油インジェクション機構部60の先端には油インジェクション管31が接続され、この油インジェクション管31は、密閉容器1の上フタ1cを貫通して固定スクロール5の鏡板部5aに設けた油注入用ポート22に接続している。
【0023】
密閉容器1内の吸入配管17側となる上部にはスクロール圧縮機部2が、下側に高耐熱仕様のモータ部3が収納されている。そして、密閉容器1内はフレーム7をはさんで吐出室1aと、モータ室1bとに区画されている。スクロール圧縮機部2は、固定スクロール5と旋回スクロール6を互いに噛み合せて圧縮室(密閉空間)8を形成している。上記圧縮機部2として、円板状鏡板5aに渦巻状のラップ5bを直立した固定スクロール5と、円板状鏡板6aに渦巻状のラップ6bを直立した旋回スクロール6とをそれぞれのラップを互いに内側にして噛み合わせている。
【0024】
固定スクロール5の中心部に吐出口10、外周部に吸入口15を備えている。旋回スクロール6の鏡板6aの反ラップ側に旋回軸受部32を内側に備えたボス部6cを構成する。フレーム7の中央部に軸受部40を形成し、この軸受部に回転軸14が支承され、回転軸先端の偏心軸14aは、上記ボス部6cに旋回運動が可能なように挿入されている。またフレーム7には固定スクロール5が複数本のボルト81によって固定され、旋回スクロール6はオルダムリングおよびオルダムキーよりなるオルダム機構38によってフレーム7に支承され、旋回スクロール6は固定スクロール5に対して、自転しないで旋回運動をするように構成されている。
【0025】
回転軸14はモータ軸14bに一体に連設し、表面が絶縁被膜としてワニス処理されたコイルエンド部3c、3dを有するモータ部3に直結している。固定スクロール5の吸入口15には、密閉容器1の上フタ1cを貫通して吸入管17が接続されている。吐出口10が開口している吐出室1aは、フレーム7の外縁部と密閉容器1の内壁面との間に設けられた第1通路18a,18bを介してモータ室1b(1b1)と連通している。吐出管20は、上記第1通路18a,18bの位置に対してほぼ反対側の位置のケーシング部1dに設置されている。
【0026】
モータ室1bは、ステータ3aの上部空間1b1と、下部空間1b2とに区分されている。この両側の空間1b1、1b2を連通するように、モータステータ3aのコアカット部3pと、ケ−シング部1dの内壁面1m側との間に、油とヘリウムガスの流路部となる円弧状の通路25(25a、25b、25c、25d、図3、図4参照)が形成される。モータエアーギャップの隙間26も通路となる。なお吸入管17と固定スクロール5との間には高圧部と低圧部とをシールするOリング53を設けている。
【0027】
旋回スクロール6の鏡板の背面には、スクロール圧縮機部2とフレーム7で囲まれた空間36(以下背圧室と呼ぶ)が形成され、この背圧室36には旋回スクロールの鏡板に穿設した細孔6dを介し、吸入圧力と吐出圧力の中間の圧力Pbが導入され、旋回スクロール6を固定スクロール5に押付ける軸方向の付与力を与えている。
【0028】
密閉容器1の底部の潤滑油23は、密閉容器内の高圧圧力と、上記背圧室36の中間圧力Pbとの差圧により油吸上管27へ吸上げられた後、回転軸14内を流れ、旋回軸受32、横穴51を介して副軸受39、主軸受40、32へ給油される。軸受部40、32へ給油された油は、前記背圧室36を経て前記穴6dを介してスクロールラップ内部の圧縮室8へ移動し、圧縮ガス(作動ガス)のヘリウムガスと混合され、次いで吐出口10から吐出室1aへ吐出される。
【0029】
前記密閉容器1の底部には、潤滑油23を器外へ取出す油取り出し管30が設けられている。潤滑油23は、密閉容器1内の圧力(吐出口10の吐出圧力)と前記圧縮室8の圧力との差圧によって油取り出し管30内を流れ、油取り出し管30から外部油配管36aを通って空冷式油冷却器33へ至る。332は冷却用ファン手段で、周囲温度より約20℃から30℃高い油温度にまで適宜冷却され、その冷却油は、油配管36bを介して油インジェクション管31およびポート22を経て圧縮室8へ注入される。271は、油流量調節弁である。
【0030】
圧縮室8へ注入された油は、作動ガスと共に圧縮された後、吐出口10より吐出室1aへ吐出され、次に第一通路18を介して、図2、図3に示す油分離手段80に導かれ、モータ室1b1に移動する。そのモータ室1b1で、ガス中の油はヘリウムガスから分離されて、下方の第2通路25(25a〜25d)を介して流下し、密閉容器1の底部に溜まる。油分離手段80は、図2に示すように、第1通路18bの下方部で第2通路25bの真上に位置して容器内壁面に設けられ、上方が開口し、底部に衝突板80aを、側面の上半分に側壁80bを、側面の下半分に開口部80cを備えた略方形を有している。
【0031】
第1通路18bを通ったガスと油の混合体は、上方の開口から油分離手段80内に流れ込み、衝突板80aに衝突して油が分離されると共に流れが変換され、開口部80cから水平方向に流れる。開口部80cから流れた該混合体は、さらにコイルエンド部3cの上端面に直接衝突することになり、該コイルエンド部3cでデミスタ作用が機能して油分離がなされ、油分離効率が向上する。
【0032】
油分離手段80とコイルエンド部3cへの衝突により分離された油は、僅かにガスが混合した状態で第2通路25を通じて密閉容器1の底部に導かれる。他方、衝突により分離されたガスは、僅かに油が混合した状態でモータ室1b1に流れて広がり、コイルエンド部3cの表面を流れる。油分離手段80は上述したように第1通路18a,18bの真下にあり、図2に示すように、吐出管20とは反対側のケーシングに配置される。従って、油分離手段80から流れ出たガスは、反対側の吐出管20に向かってコイルエンド部3cの上端面を両側から円弧状に流れ、吐出管20の吐出口20aに集められて負荷(図示せず)に供給される。このように、コイルエンド部3cは端面の全体にわたってガスが流れるので、効率的に冷却される。
【0033】
密閉容器1のケーシング部1dには、モータ部3にリード線3mを介して接続されたハーメチック端子70が設置されている。このハーメチック端子70には、商用電源500から配線450、インバータ400及び配線390を通して電源電圧が供給される。図3に示すように、リード線3mは、コイル部3e(エナメル線)と結線部3rで接続され、この結線部3rの周りを円筒状の高耐熱材料(例えば155℃仕様品)の絶縁フィルム3yで包んで、剥き出しの導電部となっている結線部3rを絶縁する。そして、この結線部3rとこれを包む絶縁フィルム3yは、油分離手段80とは反対側の吐出管20の付近に配置される。
【0034】
該油分離手段80と、モータコイルエンド部3c及び前記結線部3rとの位置関係は、例えば参考図12で示した配置関係になると、三相のコイル部3e(エナメル線)とリード線3mとの結線部3rを被覆している絶縁フィルム部3yの端部と、上記油分離手段80とが接近した構造となっている。この場合、両者80と3yが干渉したり、さらに3本のリード線3mが油分離手段80と接触したり、油分離手段80から流れたガスの通るが悪くなるなど、モータステータ3a、3cをケーシング部1dへ組み込む際の作業性と安全性と、コイルエンド部の冷却が悪くなるという問題が生じる。
【0035】
本実施態様では、図3〜図5に示すように結線部3rとこれを包む絶縁フィルム3yとを、油分離手段80とは反対側の吐出管20のガス流出口20a付近に最適配置することにより、前記組立作業性と安全性に問題を解決する。さらに、吐出配管口20aの近傍はガスの流れが集中するため、この集中するガス流を結線部3rを包む絶縁フィルム3yとリード線3mに当てて、両者を冷却することができる。モータ部3では通電されるコイル部3e(エナメル線)が発熱源のため温度が最も高くなり、この熱が伝達されるリード線3mの温度も上昇し易い。従って、上記のように集中するガス流により、絶縁フィルム3yとリード線3mの冷却は、モータ部全体の耐熱性の向上に役立つ。
【0036】
図3〜図5において、高耐熱仕様のモータ部としての構成部品は、コイル部(エナメル線)3eがあり、該コイル部3eは線導体部(ワイヤ部)と絶縁被膜部とからなり、該絶縁被膜部を高耐熱仕様の材料手段(最高温度155℃以上でポリエステル系被膜エナメル線の例)の仕様品とする。また、コイル部3eの主な絶縁材料となる絶縁フィルム部3yとしては薄型形状であって、その材質は高耐熱性の155℃以上を有するポリエステル系絶縁材料とする。
【0037】
リード線3mとしては、リード線内部の導電部と該導電部を高耐熱性155℃以上を有するフッ素樹脂系材質を使用した被膜部からなる。しばり紐3fとしては、高耐熱性の155℃以上を有するポリエステル系繊維質の材料を使用する。コイル部(エナメル線)3eの表面に絶縁被膜層となるワニス材3zには、高耐熱性の155℃以上を有するエポキシ系ワニス材質を用いる。
【0038】
また、耐熱仕様として、最も温度の高くなりやすい部分のコイル部3eとリード線3mに上位の高耐熱クラス仕様品(最高温度180℃仕様)用い、その他を155℃仕様とすれば、低コストで高耐熱の性能が得られる。このように、155℃仕様品と180℃仕様品とを組合わせて用いることができる。
【0039】
図6は図5に示すステータ3aのスロット部3s周辺の断面模様の模式図である。該スロット部内にも高耐熱性絶縁フィルム3yを使用する。該絶縁フィルム3yの使用部位として、上記スロット部絶縁用のほか相間絶縁用等がある。本実施態様は、耐熱仕様を155℃以上を確保できるモータ部3とすることであり、他の例として、モータ部3の構成部品であるコイル部3eは180℃仕様品、絶縁フィルム部3yは155℃仕様品、リード線3mは180℃仕様品、縛り紐3fは155℃仕様品及びコイル部表面を被覆しかつコイルエンド部3c、3dをコイル間を固定し絶縁被覆せしめるワニス部材3zは155℃仕様品にそれぞれ設定して、高耐熱仕様品を組合せている。このように、ワニス材を除いてモータ構成部品の被膜材料としては高耐熱性ポリエステル系材料手段またはフッ素樹脂系(テフロン(登録商標)系)材料手段が実用的である。
【0040】
本実施態様は、モータ部3の周囲が吐出圧力域の高圧チャンバ構造の例であるが、モータ周囲が吸入圧力の雰囲気となる低圧チャンバ構造の密閉形圧縮機においても適用できる。即ち、モータ部3の周囲が低圧の吸入ガス域となるヘリウム用密閉形圧縮機100において、高耐熱性仕様モータを配置した実施例である。図示は、明白なため省略する。
【0041】
図4及び図5は、コイルエンド部3c、3dとステータ部3aのコアーカット部の具体的な形状の実施例である。本実施態様の場合には、コイル整形作業時の電工作業におけるコイルエンド部3c、3dの外径Dc寸法及び高さLm1,Lm2寸法を極力大きく設定し、コイルエンド部3c、3dのコイル密度を粗くする。これにより、電工作業時におけるコイル部のエナメル線3e表面のキズの発生とコイル部への損傷を抑制する。
【0042】
図4及び図5において、モータ部の上下のコイルエンド部3c、3dの外径Dcとステータ3aの外径Dsとの比となるDc/Ds値を約0.90〜0.95に設定し、コイル整形率を従来より小さく設定している。コイル整形率とは、概略「コイル断面積/コイル部全体の占有面積」で表現され、この値が大きいほどコイル相互間の隙間が小さくなり、コイル相互間で接触する度合いが大きくなる。本実施態様では、コイル整形率を従来の65%を約50%へと小さく設定する。コイルエンド部の高さLm1寸法はLm2寸法とほぼ同等としている。
【0043】
このようにコイル整形率の緩和化により、コイル間の隙間が従来より広がり、ワニス処理の実施時にワニス材が浸透しやすくなって、コイル部表面に介在する微小なピンホールやコイルキズがあっても、それらの微小な欠陥部を完全にワニスで被覆できる作用がある。このため、高耐熱性仕様のモータ化との相乗効果によって、電気絶縁性が飛躍的に向上できる。
【0044】
なお、3kはハーメチック端子部70と接続するリセプタクル(コネクタ部品)である。また、第2通路を構成するコア−カット部3pを4ヶ所に形成する。3eはコイル部のエナメル線である。
【0045】
本発明の実施態様となる図1の圧縮機においては、油インジェクションによるモータ冷却を図っているが、更に、上記で説明したモータ部3aのコイル整形率緩和化によってコイルエンド部の内部に冷却用油が浸透しやすくなり、コイルへの冷却効果が促進できる効果及びモータ効率の向上効果も得られる。また、モータの高耐熱性仕様化においては、各構成部品の絶縁被膜厚さが厚くなり、各部品のHeガス中への放熱作用が低下する傾向にるが、上記の油インジェクションによる冷却効果によりコイル部の温度を低減できる。
【0046】
また、本実施態様では、高耐熱性仕様により絶縁フィルム材とリード線被覆材の硬質性により非柔軟性となって扱い難くなっても、コイルエンド部でのリード線とコイル部との結線部の適正配置によって、モータステータのケーシング部への組立て作業の際に、組立部品(例えば油分離手段80)間の干渉・接触が解消され、作業性が改善でき、組立工数の低減(コスト低減)を図る効果がある。
【0047】
図10はモータ巻線温度とモータ寿命との関係を示す説明図である。モータ寿命Lmは、モータ巻線温度Tmoが高いほど顕著に低下し、大きく影響を受ける。空冷式ヘリウム圧縮装置においては、従来技術のモータ巻線温度Tmo2の条件にてB点寿命となり、目標寿命Lmoを満足していない。本実施態様の高耐熱仕様のモータ部とすることにより、C点寿命に向上し目標寿命を満たすことになる。C点からD点への寿命アップは、図3に示すように、結線部3rの最適配置による冷却効果と、図4、図5のコイルエンド部の整形率緩和形状によるモータ部の冷却促進によるものである。本実施態様により、従来機に対してモータ寿命は、高耐熱仕様モータ化と上記モータ冷却促進改善による相乗作用により、約1.5倍前後の長寿命化が図れるようになる。
【0048】
上述した環境温度、周囲温度の上昇が、コイル部温度の上昇の要因になるが、これを、油インジェクションによる冷却作用と、容器内のガス流の適正化及びコイル整形率の緩和化構造によって、モータ全体の冷却が促進され、またモータ寿命の向上する効果が得られるものである。
【0049】
図7は、本実施態様の空冷式ヘリウム圧縮装置800の外観図および注油系統図である。本実施態様の空冷式ヘリウム圧縮機ユニット装置800を一点鎖線の枠内に示す。図7に示すように、圧縮機100は図1に示される圧縮機であり、ここから吐出されたヘリウムガスは、空冷式ガス冷却器710に至る。772は冷却用ファン手段であり、ヘリウムガスを周囲温度より約10℃から15℃高い温度まで適宜冷却する。ヘリウムガスは、該ガス冷却器710から油分離器700に送られ、ここで油が分離されたあと油吸着器812に送られ、配管720を経由してヘリウム冷凍機860で断熱膨張して冷熱源となる。その後再び配管730、さらに直接に吸入管路736を通り、常温の吸入ガスとして圧縮機100に戻る。油配管740は、油分離器700と吸入配管736とを接続して、分離した油を圧縮機吸入側に戻すものである。空冷式ヘリウム圧縮機ユニット装置800は、圧縮機100の持つ前記効果をそのまま有している。
【0050】
本実施態様は、インバータ駆動のヘリウム圧縮機について説明したが、商用電源電圧仕様の一定速度用ヘリウム用密閉形圧縮機に対しても適用できるので、上述した同様な効果が得られる。また、前述したように、上記モータ部を電気絶縁の高耐熱仕様モータ(最高温度155℃仕様)に対して、更に上位の高耐熱仕様モータ(最高温度180℃)あるいは、両者の組合せ仕様のモータ部の構成としたヘリウム用密閉形圧縮機構造においても、更に改善した効果が得られるものである。
【符号の説明】
【0051】
1…密閉容器、1a…吐出室、1b、1b1、1b2…モータ室、1d…ケーシング部、2…圧縮機部、3…モータ部、3a…モータステータ、3b…モータロータ、3c、3d…コイルエンド部、3e…コイル部(エナメル線)、3p…コアーカット部、3m…主電源用リード線、3r…結線部、3y…絶縁フィルム、3f…しばり紐、3k…リード線端子部、3S…ステータスロット部、3z…絶縁被膜用ワニス材、5…固定スクロール、6…旋回スクロール、8…圧縮室、10…吐出口、7…フレーム、15…吸入口、14…回転軸、14a…偏心軸、17…吸入管、18a,18b…第1通路、25…第2通路、20…吐出管、22…ポート、40…主軸受、39…補助軸受、30…油取り出し管、31…油インジェクション管、32…旋回軸受、70…ハーメチック端子部、80…油分離手段、100…密閉形圧縮機、332、772…ファン手段、33…空冷式油冷却器、710…空冷式ガス冷却器、400…インバータ、390、450…商用電源線、500…商用電源、800…空冷式ヘリウム圧縮装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機部と、コイルエンド部を有するステータ及びロータからなるモータ部とを密閉容器内に収納した密閉形圧縮機において、
前記圧縮機部の吐出口から前記密閉容器内に吐出した作動ガスを、前記コイルエンド部を通してから密閉容器に設けた吐出管から当該密閉容器外に吐出するように構成すると共に、前記モータ部をさらに、コイル部、リード線、コイル部とリード線の結線部を包む絶縁フィルム、コイル部を縛る縛り紐及びコイル部表面を絶縁被覆するワニス材から構成し、
前記コイル部とリード線の結線部を前記吐出配管の近傍のコイルエンド部に配置すると共に、前記モータ部の前記構成要素に耐熱温度155℃仕様または180℃の仕様の耐熱材料を用いたことを特徴とする密閉形圧縮機。
【請求項2】
作動ガスとしてヘリウムガスを用い、圧縮機部と、コイルエンド部を有するステータ及びロータからなるモータ部とを密閉容器内に収納するとともに、前記圧縮機部は、円板状鏡板に渦巻状のラップを直立した固定スクロールと円板状鏡板に渦巻状のラップを直立した旋回スクロールとをそれぞれのラップを互いに内側にして噛み合わせ、前記旋回スクロールを旋回運動させて前記固定スクロールの外周部の吸入口よりヘリウムガスを吸入し、前記モータ部の周囲が吐出ガス域となる密閉形圧縮機において、
前記圧縮機部の吐出口から前記密閉容器内に吐出した作動ガスを、前記コイルエンド部を通してから密閉容器に設けた吐出管から当該密閉容器外に吐出するように構成すると共に、前記モータ部をさらに、コイル部、リード線、コイル部とリード線の結線部を包む絶縁フィルム、コイル部を縛る縛り紐及びコイル部表面を絶縁被覆するワニス材から構成し、
前記コイル部とリード線の結線部を前記吐出配管の近傍のコイルエンド部に配置すると共に、前記モータ部の前記構成要素に耐熱温度155℃仕様または180℃の仕様の耐熱材料を用いたことを特徴とする密閉形圧縮機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の密閉形圧縮機において、前記モータ部はコイル部とリード線に耐熱温度180℃の仕様の耐熱材料を用い、その他の構成要素に耐熱温度155℃仕様の耐熱材料を用いたことを特徴とする密閉形圧縮機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の密閉形圧縮機において、フレームにて前記密閉容器内を吐出室とモータ室とに区画し、前記フレームの外周面と前記密閉容器の内壁面との間に、前記吐出室と前記モータ室を連通して作動ガスを流す第1通路を設け、該第1通路下方部の容器内壁面に油分離手段を備え、前記コイル部とリード線の結線部を、耐熱温度155℃仕様品の耐熱性材料の絶縁フィルムで包むとともに、前記油分離手段とほぼ反対位置となる前記吐出配管の近傍に配置することを特徴とする密閉形圧縮機。
【請求項5】
ヘリウム用密閉形圧縮機と、前記密閉形圧縮機の吐出ガスを冷却するガス冷却器と、吐出ガスの油を分離する油分離器と、前記密閉形圧縮機の油を冷却してインジェクション管に供給する油冷却器を備えたヘリウム圧縮装置において、
前記ヘリウム用密閉形圧縮機に請求項2に記載の密閉形圧縮機を用いると共に、前記冷却器として空冷式ガス冷却器及び空冷式油冷却器を備えたことを特徴とする空冷式ヘリウム圧縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−38461(P2011−38461A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185842(P2009−185842)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】