説明

対向車線横断時の障害物回避装置

【課題】自車両が対向車線を横断する際、対向車線横断後の障害物との衝突を回避しつつ、対向車線を走行する対向車両の走行妨害を回避し、また、対向車両との衝突を回避する障害物回避装置を提供する。
【解決手段】本発明の障害物回避装置は、対向車線横断後の障害物を検知する障害物検知手段と、対向車線の領域を推定する対向車線領域推定手段と、障害物との衝突を回避する要求減速度を算出する減速度算出手段と、要求減速度に基づいて自車両の停止位置を推定する停止位置推定手段と、自車両の停止位置と対向車線の領域とに基づいて対向車線の領域内に自車両が停止するか否かを判定する判定手段と、対向車線の領域内に自車両が停止すると判定された場合、自車両の要求減速度を補正する減速度補正手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両周辺における障害物との衝突を回避する障害物回避装置に関し、より特定的には、対向車線横断後の障害物との衝突を回避しつつ、対向車線を走行する対向車両との衝突を回避する障害物回避装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両には、プリクラッシュセーフティシステム(PCS)が装備され、自車両周辺の障害物を検知して、当該障害物との衝突を未然に回避する技術が普及している。例えば、PCSは、自車両と自車両周辺の障害物との距離に基づいて、自動的にブレーキを制御することによって、当該障害物との衝突を回避する。
【0003】
さらに、自車両が右折する際には、自車両と対向車線を走行する対向車両との距離を考慮しながら、PCSを作動させる技術がある(例えば、特許文献1参照)。具体的には、通常、自車両と障害物とが所定の距離となった時点で、自動的にブレーキ制御が開始されるが、自車両が右折する際には、自車両と対向車線を走行する対向車両との距離が所定の距離より小さな距離となった時点で、自動的にブレーキ制御が開始される。また、右折後の先行車両に対しては、自車両と右折後の先行車両との距離が所定の距離よりも小さな距離となった時点で、自動的にブレーキ制御が開始される。
【0004】
換言すれば、特許文献1に記載の車両用走行制御装置では、自車両が右折する際には、自動的にブレーキ制御が開始される条件を変更することによって、PCSによるブレーキ制御の介入を抑制している。これにより、自車両が右折する際に、対向車線から抜けやすくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−138748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の車両用走行制御装置では、自車両と対向車線を走行する対向車両との距離に応じて、PCSによるブレーキ制御を開始しているため、対向車両を正確に検知できない場合は、適切にブレーキ制御が開始されない。例えば、対向車両が2台連続で走行している場合、さらには、2台連続して走行する対向車両のうち、後続車両が2輪車である場合は、当該対向車両を正確に検知できずに、PCSによるブレーキ制御の介入を適切に抑制できない。
【0007】
また、従来の車両用走行制御装置では、自車両が右折する際に、自車両と右折後の先行車両との距離に応じて、PCSによるブレーキ制御を開始するものの、自車両が対向車線中に残存した場合、適切にブレーキ制御を解除していない。
【0008】
その結果、自車両が右折する際に、PCSによるブレーキ制御によって、自車両が対向車線を走行する対向車両の走行を妨害し、さらには、自車両が対向車両と衝突するという問題がある。
【0009】
それ故に、本発明の目的は、自車両が対向車線を横断する際、対向車線横断後の障害物との衝突を回避しつつ、対向車線を走行する対向車両の走行妨害を回避し、また、対向車両との衝突を回避する障害物回避装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の障害物回避装置は、対向車線を横断する際、自車両周辺の障害物を検知して、当該障害物との衝突を回避する障害物回避装置であって、対向車線横断後の障害物を検知する障害物検知手段と、対向車線の領域を推定する対向車線領域推定手段と、障害物検知手段によって検知された障害物との衝突を回避する要求減速度を算出する減速度算出手段と、減速度算出手段によって算出された要求減速度に基づいて、自車両の停止位置を推定する停止位置推定手段と、停止位置推定手段によって推定された自車両の停止位置と、対向車線領域推定手段によって推定された対向車線の領域とに基づいて、対向車線の領域内に自車両が停止するか否かを判定する判定手段と、判定手段によって対向車線の領域内に自車両が停止すると判定された場合、減速度算出手段によって算出された自車両の要求減速度を補正する減速度補正手段とを備える。
かかる構成により、判定手段は、停止位置推定手段によって推定された自車両の停止位置と、対向車線領域推定手段によって推定された対向車線の領域とに基づいて、対向車線の領域内に自車両が停止するか否かを判定し、減速度補正手段は、判定手段によって対向車線の領域内に自車両が停止すると判定された場合、減速度算出手段によって算出された自車両の要求減速度を補正するため、自車両が対向車線を横断する際、対向車線横断後の歩行者との衝突を回避しつつ、対向車線を走行する対向車両の走行妨害を回避し、また、対向車両との衝突を回避することができる。
【0011】
好ましい対向車線領域推定手段は、対向車線側の道路端線または当該道路端線を対向車線に沿って延長した仮想境界線を設定し、判定手段は、自車両が道路端線または仮想境界線を通過しない場合、対向車線の領域内に自車両が停止すると判定することを特徴とする。
かかる構成により、対向車線領域推定手段は、対向車線側の道路端線または当該道路端線を対向車線に沿って延長した仮想境界線を設定するため、判定手段は、自車両が道路端線または仮想境界線を通過するか否かを判定するため、より正確に、対向車線の領域内に自車両が停止するか否かを判定することができる。
【0012】
好ましい減速度補正手段は、減速度算出手段によって算出された自車両の要求減速度を、当該要求減速度より小さい減速度に補正することを特徴とする。
かかる構成により、減速度補正手段は、当該要求減速度より小さい減速度に補正するため、対向車線の領域内に自車両が停止せずに、対向車線を走行する対向車両の走行妨害を回避し、また、対向車両との衝突を回避することができる。
【0013】
さらに好ましい減速度補正手段は、対向車線の領域内に自車両が停止しないように、減速度算出手段によって算出された自車両の要求減速度を補正することを特徴とする。
かかる構成により、減速度補正手段は、対向車線の領域内に自車両が停止しないように、要求減速度を補正するため、対向車線の領域内に自車両が停止せずに、対向車線を走行する対向車両の走行妨害を回避し、また、対向車両との衝突を回避することができる。
【0014】
また、好ましい減速度補正手段は、障害物検知手段によって検知された障害物に自車両の前車輪位置が到達しないように、減速度算出手段によって算出された自車両の要求減速度を補正することを特徴とする。
かかる構成により、減速度補正手段は、障害物に自車両の前車輪位置が到達しないように、要求減速度を補正するため、当該障害物が自車両の前車輪に巻き込まれることによって生じる被害を抑止できる。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本発明の障害物回避装置は、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かを判定する停止位置判定手段をさらに備え、停止位置判定手段によって対向車線の領域内に自車両が停止したと判定された場合、自車両の発進を促進することを特徴とすることが好ましい。
かかる構成により、対向車線の領域内に自車両が停止した場合であっても、自車両の発進を促進するため、早期に、自車両を発進させて、対向車線の領域内から脱出させることができる。
【0016】
また、上記目的を達成するために、本発明の障害物回避装置は、対向車線を横断する際、自車両周辺の障害物を検知して、当該障害物との衝突を回避する障害物回避装置であって、対向車線横断後の障害物を検知する障害物検知手段と、障害物検知手段によって検知された障害物との衝突を回避するために自車両を減速制御する減速制御手段と、対向車線の領域を推定する対向車線領域推定手段と、対向車線領域推定手段によって推定された対向車線の領域内に自車両が停止したか否かを判定する停止位置判定手段とを備え、停止位置判定手段によって対向車線の領域内に自車両が停止したと判定された場合、自車両の発進を促進することを特徴とする。
かかる構成により、減速制御手段は、障害物検知手段によって検知された障害物との衝突を回避するために自車両を減速制御して、対向車線横断後の歩行者との衝突を回避する。さらに、当該減速制御によって、対向車線領域推定手段によって推定された対向車線の領域内に自車両が停止した場合であっても、自車両の発進を促進するため、早期に、自車両を発進させて、対向車線の領域内から脱出させることができる。
【0017】
好ましくは、停止位置判定手段によって対向車線の領域内に自車両が停止していないと判定された場合、予め設定された停止保持時間だけ自車両の停止を保持し、停止位置判定手段によって対向車線の領域内に自車両が停止したと判定された場合、当該停止保持時間より短い時間だけ自車両の停止を保持する停止保持制御手段をさらに備えることを特徴とする。
かかる構成により、停止保持制御手段は、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かに応じた停止保持時間を設定するため、早期に、自車両を発進させて、対向車線の領域内から脱出させることができる。
【0018】
さらに、好ましくは、停止位置判定手段によって対向車線の領域内に自車両が停止していないと判定された場合、予め設定されたアクセル開度抑制時間だけ自車両のアクセル開度を抑制し、停止位置判定手段によって対向車線の領域内に自車両が停止したと判定された場合、当該アクセル開度抑制時間より短い時間だけ自車両のアクセル開度を抑制する停止保持解除制御手段をさらに備えることを特徴とする。
かかる構成により、停止保持解除制御手段は、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かに応じたアクセル開度抑制時間を設定するため、早期に、自車両を発進させて、対向車線の領域内から脱出させることができる。
【0019】
また、好ましくは、障害物検知手段によって検知される障害物は、歩行者または自転車であることを特徴とする。
かかる構成により、対向車線横断後の歩行者または自転車を保護することができる。
【0020】
上記目的を達成するために、本発明の障害物回避方法は、対向車線を横断する際、自車両周辺の障害物を検知して、当該障害物との衝突を回避する障害物回避装置が実行する障害物回避方法であって、対向車線横断後の障害物を検知する障害物検知ステップと、対向車線の領域を推定する対向車線領域推定ステップと、障害物検知ステップで検知された障害物との衝突を回避する要求減速度を算出する減速度算出ステップと、減速度算出ステップで算出された要求減速度に基づいて、自車両の停止位置を推定する停止位置推定ステップと、停止位置推定ステップで推定された自車両の停止位置と、対向車線領域推定ステップによって推定された対向車線の領域とに基づいて、対向車線の領域内に自車両が停止するか否かを判定する判定ステップと、判定ステップで対向車線の領域内に自車両が停止すると判定された場合、減速度算出ステップで算出された自車両の要求減速度を補正する減速度補正ステップとを含む。
かかる構成により、判定ステップにおいて、停止位置推定ステップで推定された自車両の停止位置と、対向車線領域推定ステップによって推定された対向車線の領域とに基づいて、対向車線の領域内に自車両が停止するか否かを判定し、減速度補正ステップにおいて、判定ステップで対向車線の領域内に自車両が停止すると判定された場合、減速度算出ステップで算出された自車両の要求減速度を補正するため、自車両が対向車線を横断する際、対向車線横断後の歩行者との衝突を回避しつつ、対向車線を走行する対向車両の走行妨害を回避し、また、対向車両との衝突を回避することができる。
【0021】
また、上記目的を達成するために、上述した本発明の障害物回避装置の各構成が行うそれぞれの処理は、一連の処理手順を与える障害物回避方法として捉えることができる。この方法は、一連の処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムの形式で提供される。このプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録された形態で、コンピュータに導入されてもよい。
【発明の効果】
【0022】
上述のように、本発明の障害物回避装置によれば、自車両が対向車線を横断する際、対向車線横断後の障害物との衝突を回避しつつ、対向車線を走行する対向車両の走行妨害を回避し、また、対向車両との衝突を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る障害物回避装置100の概略構成を示す機能ブロック図
【図2】本発明の第1の実施形態に係る障害物回避装置100が実行する障害物回避方法200の処理の流れを示すフローチャート
【図3】自車両が交差点を右折する場合であって、右折後道路を横断する歩行者との回避する様子を示す図
【図4】判定ステップS250の詳細な処理の流れを示すフローチャート
【図5】要求減速度Arを、補正減速度Acまたは前車輪非到達補正減速度Ahに補正する場合における減速度補正ステップS260の詳細な処理の流れを示すフローチャート
【図6】本発明の第2の実施形態に係る障害物回避装置600の概略構成を示す機能ブロック図
【図7】本発明の第2の実施形態に係る障害物回避装置600が実行する障害物回避方法700の処理の流れを示すフローチャート
【図8】停止保持制御ステップS710の詳細な処理の流れを示すフローチャート
【図9】停止保持解除制御ステップS720の詳細な処理の流れを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の各実施形態を、図面を参照しながら説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る障害物回避装置100の概略構成を示す機能ブロック図である。図1において、障害物回避装置100は、障害物検知手段110と、対向車線領域推定手段120と、減速度算出手段130と、停止位置推定手段140と、判定手段150と、減速度補正手段160とを備える。
【0025】
障害物検知手段110は、対向車線横断後の障害物を検知する。具体的には、障害物検知手段110は、例えば、ミリ波センサ、画像センサ、およびレーザーレーダなどの自車両周辺を監視する周辺監視センサであって、自車両が対向車線を横断する際、当該横断後に存在する歩行者、および自転車などを検知する。
【0026】
対向車線領域推定手段120は、対向車線の領域を推定する。具体的には、対向車線領域推定手段120は、例えば、ミリ波センサ、画像センサ、およびレーザーレーダなどの自車両周辺を監視する周辺監視センサによって取得された情報に基づいて対向車線の領域を推定する。また、対向車線領域推定手段120は、例えば、ナビゲーションシステム、路車間通信システム、および車車間通信システムなどによって取得された車線数、および道路幅などのインフラ情報に基づいて、対向車線の領域を推定してもよい。
【0027】
減速度算出手段130は、障害物検知手段110によって検知された障害物との衝突を回避する要求減速度を算出する。具体的には、減速度算出手段130は、例えば、車速センサによって取得された自車両の速度、および上記検知された障害物との距離に基づいて、当該障害物の手前で停止する減速度である要求減速度を算出する。
【0028】
停止位置推定手段140は、減速度算出手段130によって算出された要求減速度に基づいて、自車両の停止位置を推定する。具体的には、停止位置推定手段140は、例えば、GPS(Global Positioning System)、およびメモリなどの記録手段によって記録されている地図情報に基づいて、自車両の現在位置を取得し、さらに、上記算出された要求減速度に基づいて、自車両の停止位置を推定する。
【0029】
判定手段150は、停止位置推定手段140によって推定された自車両の停止位置と、対向車線領域推定手段120によって推定された対向車線の領域とに基づいて、対向車線の領域内に自車両が停止するか否かを判定する。判定手段150における判定方法の詳細は、後述する。
【0030】
減速度補正手段160は、判定手段150によって対向車線の領域内に自車両が停止すると判定された場合、減速度算出手段130によって算出された自車両の要求減速度を補正する。具体的には、減速度補正手段160は、当該対向車線の領域内に自車両が停止しないように、当該要求減速度より小さい減速度に補正する。減速度補正手段160における補正方法の詳細は、後述する。
【0031】
なお、上述した各機能ブロックは、例えば、障害物回避ECU(Electronic Control Unit)である制御手段(図示せず)によって制御されている。
【0032】
次に、本発明の第1の実施形態に係る障害物回避装置100が実行する障害物回避方法について、処理の流れを詳しく説明する。図2は、本発明の第1の実施形態に係る障害物回避装置100が実行する障害物回避方法200の処理の流れを示すフローチャートである。図2において、障害物回避方法200は、障害物検知ステップS210と、対向車線領域推定ステップS220と、減速度算出ステップS230と、停止位置推定ステップS240と、判定ステップS250と、減速度補正ステップS260とを含む。
【0033】
障害物検知ステップS210において、障害物検知手段110は、対向車線横断後の障害物を検知する。ここでは、例えば、自車両が交差点を右折する場合、右折後道路を横断する歩行者をミリ波センサによって検知するものとする。
【0034】
対向車線領域推定ステップS220において、対向車線領域推定手段120は、対向車線の領域を推定する。典型的には、ミリ波センサによって対向車線側の路側物を認識し、当該認識した路側物に基づいて、対向車線側の道路端線を設定する。路側物が認識できない領域(例えば、交差点など)には、上述した道路端線を対向車線に沿って延長した仮想境界線を設定する。また、ナビゲーションシステムなどと連携される地図情報から対向車線の道路幅を取得し、取得された道路幅から上述した対向車線側の道路端線および仮想境界線を設定しても構わない。ここでは、自車両が交差点を右折する場合であって、対向車線側の道路端線を当該対向車線に沿って延長した仮想境界線を、当該対向車線と右折後道路との境界に設定するものとする。
【0035】
減速度算出ステップS230において、減速度算出手段130は、要求減速度を算出する。ここで、要求減速度とは、自車両が障害物検知ステップS210で検知された障害物である歩行者との衝突を回避するための減速度である。より詳細には、車速センサによって現在の自車両の車速を取得し、当該取得された車速、および自車両と歩行者との距離に基づいて、自車両が歩行者の手前で停止するための要求減速度を算出する。
【0036】
停止位置推定ステップS240において、停止位置推定手段140は、減速度算出ステップS230で算出された要求減速度に基づいて、自車両の停止位置を推定する。より詳細には、自車両の現在位置および車速から、上述した要求減速度に基づいて減速した場合の自車両が停止する停止位置を推定する。
【0037】
判定ステップS250において、判定手段150は、停止位置推定ステップS240で推定された自車両の停止位置と、対向車線領域推定ステップS220で推定された対向車線の領域とに基づいて、対向車線の領域内に自車両が停止するか否かを判定する。対向車線の領域内に自車両が停止するか否かを判定する方法について、図3および図4を参照しながら説明する。
【0038】
図3は、自車両が交差点を右折する場合であって、右折後道路を横断する歩行者との回避する様子を示す図である。図3において、障害物検知ステップS210で右折後道路を横断する歩行者Tを検知して、対向車線領域推定ステップS220で対向車線側の道路端線を当該対向車線に沿って延長した仮想境界線Bが設定されている。自車両の位置は車両の先頭位置を基準とし、自車両がPCSによって自動的に減速を開始する位置を制動開始位置P1、停止位置推定ステップS240で、減速度算出ステップS230で算出された要求減速度に基づいて自車両が停止すると推定された位置を要求停止位置P2とする。
さらに、制動開始位置P1から要求停止位置P2までの距離を制動距離Ds、制動開始位置P1から仮想境界線Bまでの距離を対向車線境界距離Db、および自車両の長さを車両長Dvとする。
【0039】
図4は、判定ステップS250の詳細な処理の流れを示すフローチャートである。図4において、判定ステップS250は、制動距離算出ステップS251と、対向車線境界距離算出ステップS252と、対向車線領域通過判定ステップS253と、対向車線領域外推定ステップS254と、対向車線領域内推定ステップS255とを含む。
【0040】
制動距離算出ステップS251において、判定手段150は、制動距離Dsを算出する。制動距離Dsは、制動開始位置P1における自車両の速度V、および減速度算出ステップS230で算出された要求減速度Arを用いて、以下の(数1)のように算出される。
Ds=V2/2Ar ・・・(数1)
【0041】
対向車線境界距離算出ステップS252において、判定手段150は、対向車線境界距離Dbを算出する。典型的には、GPSおよび地図情報に基づいて、制動開始位置P1、および対向車線領域推定ステップS220で設定された仮想境界線Bの位置を取得し、制動開始位置P1から仮想境界線Bまでの対向車線境界距離Dbを算出する。
【0042】
対向車線領域通過判定ステップS253において、判定手段150は、自車両が対向車線領域を通過するか否かを判定する。より詳細には、判定手段150は、制動距離Dsと、対向車線境界距離Dbと車両長Dvとの和とを比較する。制動距離Dsが対向車線境界距離Dbと車両長Dvとの和以上の場合、自車両は仮想境界線Bを完全には通過し、対向車線領域を通過すると判定する(対向車線領域通過判定ステップS253のYes)。一方、制動距離Dsが対向車線境界距離Dbと車両長Dvとの和未満の場合、自車両は仮想境界線Bを完全には通過せず、対向車線領域を通過しないと判定する(対向車線領域通過判定ステップS253のNo)。
【0043】
対向車線領域通過判定ステップS253のYesの場合、対向車線領域外推定ステップS254において、判定手段150は、対向車線の領域内に自車両が停止しないと推定する。一方、対向車線領域通過判定ステップS253のNoの場合、対向車線領域内推定ステップS255において、判定手段150は、対向車線の領域内に自車両が停止すると推定する。
【0044】
このように、判定ステップS250において、判定手段150は、制動距離Ds、対向車線境界距離Db、および車両長Dvに基づいて、対向車線の領域内に自車両が停止するか否かを判定する。
【0045】
判定ステップS250において、対向車線の領域内に自車両が停止しないと判定された場合、処理を終了する(判定ステップS250のNo)。判定ステップS250において、対向車線の領域内に自車両が停止すると判定された場合、減速度補正ステップS260の処理に進む(判定ステップS250のYes)。
【0046】
減速度補正ステップS260において、減速度補正手段160は、判定ステップS250で対向車線の領域内に自車両が停止すると判定された場合、減速度算出ステップS230で算出された自車両の要求減速度を補正する。
【0047】
具体的には、図3に示したように、歩行者Tとの衝突を回避するために、自車両を制動開始位置P1から要求減速度Arで減速すれば、対向車線領域内で停止してしまう。これにより、自車両は、対向車線を走行する対向車両の走行を妨害することになり、さらには、自車両と当該対向車両とが衝突してしまう可能性もある。
【0048】
したがって、減速度補正手段160は、自車両が対向車線領域内で停止しないように、要求減速度Arを当該要求減速度Arより小さい補正減速度Acに補正する。ここで、自車両が対向車線領域内で停止しない条件は、制動距離Ds、対向車線境界距離Db、および車両長Dvの関係に基づいて、以下の(数2)のように示すことができる。
Ds≧Db+Dv ・・・(数2)
なお、ここでは、自車両が対向車線領域内で停止しない最低条件(Ds=Db+Dv)とすれば、補正減速度Acは、上述した(数1)を用いて、以下の(数3)のように算出される。
Ac=V2/2(Db+Dv) ・・・(数3)
【0049】
このように、減速度補正ステップS260において、減速度補正手段160は、判定ステップS250で対向車線の領域内に自車両が停止すると判定された場合、要求減速度Arを、当該要求減速度Arより小さい補正減速度Acに補正すれば、自車両は対向車線領域内で停止しないため、自車両の停止によって、対向車線を走行する対向車両の走行を妨害することがなくなり、自車両と当該対向車両との衝突を回避することができる。
【0050】
以上のように、本発明の第1の実施形態に係る障害物回避装置100および障害物回避方法200によれば、自車両が対向車線を横断する際、対向車線横断後の歩行者との衝突を回避しつつ、対向車線を走行する対向車両の走行妨害を回避し、また、対向車両との衝突を回避することができる。
【0051】
なお、本実施形態では、速度補正ステップS260において、減速度補正手段160は、判定ステップS250で対向車線の領域内に自車両が停止すると判定された場合、要求減速度Arを、当該要求減速度Arより小さい補正減速度Acに補正していた。しかし、要求減速度Arを、当該要求減速度Arより小さい補正減速度Acに補正することによって、自車両と、対向車線横断後の障害物である歩行者との衝突を完全に回避することがきでない可能性がある。
【0052】
減速度補正手段160が要求減速度Arを、当該要求減速度Arより小さい補正減速度Acに補正した場合であって、仮に、自車両と、対向車線横断後の障害物である歩行者とが衝突する可能性がある場合であっても、当該衝突までに、運転者は、自車両目前の歩行者に気付き、運転者自らがブレーキを操作することによって自車両を停止させることが多い。さらには、本発明の第1の実施形態に係る障害物回避装置100では、自車両をPCSによって自動的に減速制御すると共に、自車両目前の歩行者に対して運転者自らがブレーキを操作するように、運転者に対して警告するようにしても構わないし、歩行者の安全を確保するために歩行者保護用フードエアバッグを作動させても構わない。
【0053】
また、自車両と、対向車線横断後の障害物である歩行者とが衝突する可能性がある場合であって、当該衝突までに、運転者が自車両目前の歩行者に気付かない場合であっても、当該衝突直前では、通常、自車両は十分に減速されている状態である。仮に、自車両と、対向車線横断後の障害物である歩行者とが衝突した場合であっても、被害は小さいと想定されるが、歩行者が車輪に巻き込まれると被害が大きくなる傾向にある。
【0054】
このため、仮に、自車両と、対向車線横断後の障害物である歩行者とが衝突した場合であっても、被害の拡大を抑止する条件として、自車両の前車輪が歩行者に到達しないことが挙げられる。この場合、減速度補正手段160は、当該衝突に対する被害を抑止するために、要求減速度Arを補正減速度Acに補正するのではなく、当該要求減速度Arを前車輪非到達補正減速度Ahに補正する。ここで、前車輪非到達補正減速度Ahは、要求減速度Arより小さく、補正減速度Acより大きい値であって、自車両の前車輪位置が歩行者に到達しない減速度である。
【0055】
図5は、要求減速度Arを、補正減速度Acまたは前車輪非到達補正減速度Ahに補正する場合における減速度補正ステップS260の詳細な処理の流れを示すフローチャートである。図5において、減速度補正ステップS260は、前車輪到達判定ステップS261と、前車輪非到達補正減速度設定ステップS262と、補正減速度設定ステップS263とを含む。
【0056】
前車輪到達判定ステップS261において、減速度補正手段160は、自車両が対向車線領域内で停止しないように補正減速度Acで減速した場合、自車両の前車輪位置が障害物である歩行者に到達するか否かを判定する。より詳細には、制動開始位置P1から、補正減速度Acで減速した場合における自車両の停止位置までの距離を制動距離Dscとし、自車両の先頭から前車輪までの距離をオーバーハングDhとし、減速度補正手段160は、制動距離Dscと当該オーバーハングDhとの和と、対向車線境界距離Dbと車両長Dvとの和とを比較する。制動距離DscとオーバーハングDhとの和が対向車線境界距離Dbと車両長Dvとの和以上の場合、自車両の前車輪位置が歩行者に到達すると判定する(前車輪到達判定ステップS261のYes)。一方、制動距離DscとオーバーハングDhとの和が対向車線境界距離Dbと車両長Dvとの和未満の場合、自車両の前車輪位置が歩行者に到達しないと判定する(前車輪到達判定ステップS261のNo)。
【0057】
前車輪到達判定ステップS261のYesの場合、前車輪非到達補正減速度設定ステップS262において、減速度補正手段160は、自車両の前車輪位置が歩行者に到達しないように、要求減速度Arを前車輪非到達補正減速度Ahに補正する。ここで、自車両の前車輪位置が歩行者に到達しない条件は、制動距離Dsc、対向車線境界距離Db、車両長Dv、およびオーバーハングDhの関係に基づいて、以下の(数4)のように示すことができる。
Dsc≧Db+Dv−Dh ・・・(数4)
なお、ここでは、自車両の前車輪位置が歩行者に到達しない最低条件(Dsc=Db+Dv−Dh)とすれば、前車輪非到達補正減速度Ahは、上述した(数3)を用いて、以下の(数5)のように算出される。
Ar=V2/2(Dsc+Dh) ・・・(数5)
【0058】
前車輪到達判定ステップS261のNoの場合、補正減速度設定ステップS263において、減速度補正手段160は、要求減速度Arを補正減速度Acに補正する。自車両が対向車線領域内で停止しないように補正減速度Acで減速した場合であっても、自車両の前車輪位置が歩行者に到達しないため、上述した(数3)により、要求減速度Arを補正減速度Acに補正する。
【0059】
このように、減速度補正ステップS260において、減速度補正手段160は、前車輪到達判定ステップS261で自車両の前車輪位置が歩行者に到達すると判定すると判定された場合、要求減速度Arを前車輪非到達補正減速度Ahに補正すれば、自車両の前車輪位置が歩行者に到達しないため、仮に、自車両と歩行者とが衝突した場合であっても、歩行者が車輪に巻き込まれて被害が拡大することを抑止できる。
【0060】
さらに、自車両が障害物との衝突を回避するために、PCSによって自動的に減速制御する場合、許容される減速度が規定されていることがある。具体的には、最小要求減速度(例えば、4.9m/ss)以上の減速度で制御しなければならないと規定されていることがある。前車輪非到達補正減速度設定ステップS262で設定された前車輪非到達補正減速度Ah、または補正減速度設定ステップS263で設定された補正減速度Acが当該最小要求減速度より小さい場合は、要求減速度Arを当該最小要求減速度に補正することになる。
【0061】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態では、本発明の第1の実施形態で示したように、PCSによって自動的に減速制御した結果、自車両が対向車線の領域内に停止した場合、自車両の発進を促進する処理について説明する。
【0062】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る障害物回避装置600の概略構成を示す機能ブロック図である。図6において、障害物回避装置600は、障害物検知手段110と、対向車線領域推定手段120と、減速度算出手段130と、停止位置推定手段140と、判定手段150と、減速度補正手段160と、停止位置判定手段610と、停止保持制御手段620と、停止保持解除制御手段630とを備える。なお、図6において、図1に示した本発明の第1の実施形態に係る障害物回避装置100と同一の構成については、同一の参照符号を付すことによって、詳細な説明は省略する。本実施形態では、主に、本発明の第1の実施形態と異なる構成について説明する。
【0063】
停止位置判定手段610は、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かを判定する。具体的には、停止位置判定手段610は、例えば、GPSおよびメモリなどの記録手段によって記録されている地図情報に基づいて、自車両が停止した現在位置を取得し、当該現在位置と、対向車線領域推定手段120によって推定された対向車線の領域とに基づいて、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かを判定する。
【0064】
停止保持制御手段620は、停止位置判定手段610によって対向車線の領域内に自車両が停止していないと判定された場合、予め設定された停止保持時間だけ自車両の停止を保持する。一方、停止保持制御手段620は、停止位置判定手段610によって対向車線の領域内に自車両が停止したと判定された場合、当該停止保持時間より短い時間だけ自車両の停止を保持する。換言すれば、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かに応じて、強制的に自車両を停止させるための停止保持時間を変更している。
【0065】
停止保持解除制御手段630は、停止位置判定手段610によって対向車線の領域内に自車両が停止していないと判定された場合、予め設定されたアクセル開度抑制時間だけ自車両のアクセル開度を抑制する。一方、停止保持解除制御手段630は、停止位置判定手段610によって対向車線の領域内に自車両が停止したと判定された場合、当該アクセル開度抑制時間より短い時間だけ自車両のアクセル開度を抑制する。換言すれば、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かに応じて、強制的にアクセル開度を抑制するためのアクセル開度抑制時間を変更している。
【0066】
なお、上述した各機能ブロックは、例えば、障害物回避ECUである制御手段(図示せず)によって制御されている。
【0067】
次に、本発明の第2の実施形態に係る障害物回避装置600が実行する障害物回避方法について、処理の流れを詳しく説明する。図7は、本発明の第2の実施形態に係る障害物回避装置600が実行する障害物回避方法700の処理の流れを示すフローチャートである。図7において、障害物回避方法700は、障害物検知ステップS210と、対向車線領域推定ステップS220と、減速度算出ステップS230と、停止位置推定ステップS240と、判定ステップS250と、減速度補正ステップS260と、停止保持制御ステップS710と、停止保持解除制御ステップS720とを含む。なお、図7において、図2に示した本発明の第1の実施形態に係る障害物回避方法200と同一の構成については、同一の参照符号を付すことによって、詳細な説明は省略する。本実施形態では、主に、本発明の第1の実施形態と異なる構成について説明する。
【0068】
停止保持制御ステップS710において、停止保持制御手段620は、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かに応じて、強制的に自車両を停止させるための停止保持時間を設定し、当該設定した停止保持時間に基づいて自車両の停止を保持する。
【0069】
図8は、停止保持制御ステップS710の詳細な処理の流れを示すフローチャートである。図8において、停止保持制御ステップS710は、停止位置判定ステップS711と、通常モード設定ステップS712と、短時間モード設定ステップS713と、停止保持時間判定ステップS714と、停止保持制御継続ステップS715と、停止保持制御解除ステップS716とを含む。
【0070】
停止位置判定ステップS711において、停止位置判定手段610は、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かを判定する。停止位置判定ステップS711において、対向車線の領域外に自車両が停止したと判定された場合、通常モード設定ステップS712の処理に進む(停止位置判定ステップS711のNo)。一方、停止位置判定ステップS711において、対向車線の領域内に自車両が停止したと判定された場合、短時間モード設定ステップS713の処理に進む(停止位置判定ステップS711のYes)。
【0071】
なお、停止位置判定手段610における判定方法は、例えば、本発明の第1の実施形態で示したように、自車両が仮想境界線を完全に通過したか否かで判定する方法を用いても構わない。
【0072】
通常モード設定ステップS712において、停止保持制御手段620は、通常モード保持時間(例えば、2秒)を停止保持時間として設定する。ここで、通常モード保持時間は、自車両がPCSによって自動的に停止した後、強制的に自車両を停止させるための時間である。
【0073】
短時間モード設定ステップS713において、停止保持制御手段620は、短時間モード保持時間(例えば、1秒)を停止保持時間として設定する。ここで、短時間モード保持時間は、上述した通常モード保持時間より短い時間である。
【0074】
停止保持時間判定ステップS714において、停止保持制御手段620は、通常モード設定ステップS712、または短時間モード設定ステップS713で設定された停止保持時間が経過しているか否かを判定する。停止保持時間判定ステップS714において、停止保持時間が経過していないと判定された場合、停止保持制御継続ステップS715の処理に進む(停止保持時間判定ステップS714のNo)。一方、停止保持時間判定ステップS714において、停止保持時間が経過していると判定された場合、停止保持制御解除ステップS716の処理に進む(停止保持時間判定ステップS714のYes)。
【0075】
停止保持制御継続ステップS715において、停止保持制御手段620は、自車両が自動的に停止した状態から継続して、そのまま自車両を停止させるように制御する。そして、停止保持制御手段620は、停止保持時間判定ステップS714の処理に戻る。
【0076】
停止保持制御解除ステップS716において、停止保持制御手段620は、自車両が自動的に停止し、継続して自車両を停止させていた状態から、当該自車両を停止させていた制御を解除する。
【0077】
このように、停止位置判定手段610、停止保持制御手段620、および停止保持制御ステップS710によれば、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かに応じた停止保持時間を設定しているため、対向車線の領域内に自車両が停止した場合には、早期に、自車両を発進させて、対向車線の領域内から脱出させることができる。
【0078】
次に、停止保持解除制御ステップS720において、停止保持解除制御手段630は、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かに応じて、強制的にアクセル開度を抑制するためのアクセル開度抑制時間を設定し、当該設定したアクセル開度抑制時間に基づいて自車両のアクセル開度を抑制する。
【0079】
ここで、アクセル開度を抑制する処理とは、自車両がPCSによって自動的に停止した後、強制的に自車両を停止させていた停止保持制御が解除されて、その直後に、運転者によるアクセル操作によって、自車両が急発進する危険性を防止するためのものである。
【0080】
図9は、停止保持解除制御ステップS720の詳細な処理の流れを示すフローチャートである。図9において、停止保持解除制御ステップS720は、停止位置判定ステップS721と、通常モード設定ステップS722と、短時間モード設定ステップS723と、アクセル開度抑制時間判定ステップS724と、アクセル開度抑制継続ステップS725と、アクセル開度抑制解除ステップS726とを含む。
【0081】
停止位置判定ステップS721において、停止位置判定手段610は、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かを判定する。停止位置判定ステップS721において、対向車線の領域外に自車両が停止したと判定された場合、通常モード設定ステップS722の処理に進む(停止位置判定ステップS721のNo)。一方、停止位置判定ステップS721において、対向車線の領域内に自車両が停止したと判定された場合、短時間モード設定ステップS723の処理に進む(停止位置判定ステップS721のYes)。
【0082】
なお、停止位置判定ステップS721は、上述した図8の停止位置判定ステップS711と共通の処理としても構わない。
【0083】
通常モード設定ステップS722において、停止保持解除制御手段630は、通常モード抑制時間(例えば、2秒)をアクセル開度抑制時間として設定する。ここで、通常モード抑制時間は、強制的に自車両を停止させていた停止保持制御が解除されてから、強制的にアクセル開度を抑制させるための時間である。
【0084】
短時間モード設定ステップS723において、停止保持解除制御手段630は、短時間モード抑制時間(例えば、1秒)をアクセル開度抑制時間として設定する。ここで、短時間モード抑制時間は、上述した通常モード抑制時間より短い時間である。
【0085】
アクセル開度抑制時間判定ステップS724において、停止保持解除制御手段630は、通常モード設定ステップS722、または短時間モード設定ステップS723で設定されたアクセル開度抑制時間が経過しているか否かを判定する。アクセル開度抑制時間判定ステップS724において、アクセル開度抑制時間が経過していないと判定された場合、アクセル開度抑制継続ステップS725の処理に進む(アクセル開度抑制時間判定ステップS724のNo)。一方、アクセル開度抑制時間判定ステップS724において、アクセル開度抑制時間が経過していると判定された場合、アクセル開度抑制解除ステップS726の処理に進む(アクセル開度抑制時間判定ステップS724のYes)。
【0086】
アクセル開度抑制継続ステップS725において、停止保持解除制御手段630は、強制的にアクセル開度を抑制した状態から継続して、そのままアクセル開度を抑制するように制御する。そして、停止保持解除制御手段630は、アクセル開度抑制時間判定ステップS724の処理に戻る。
【0087】
アクセル開度抑制解除ステップS726において、停止保持解除制御手段630は、強制的に自車両を停止させていた停止保持制御が解除されて、強制的にアクセル開度を抑制し、継続してアクセル開度を抑制していた状態から、当該アクセル開度を抑制する制御を解除する。
【0088】
このように、停止位置判定手段610、停止保持解除制御手段630、および停止保持解除制御ステップS720によれば、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かに応じたアクセル開度抑制時間を設定しているため、対向車線の領域内に自車両が停止した場合には、早期に、自車両を発進させて、対向車線の領域内から脱出させることができる。
【0089】
以上のように、本発明の第2の実施形態に係る障害物回避装置600および障害物回避方法700によれば、自車両が対向車線を横断する際、対向車線横断後の歩行者との衝突を回避しつつ、対向車線を走行する対向車両の走行妨害を回避し、また、対向車両との衝突を回避することができる。
【0090】
さらに、対向車線の領域内に自車両が停止した場合であっても、対向車線の領域内に自車両が停止したか否かに応じた停止保持時間および/またはアクセル開度抑制時間を設定することによって、早期に、自車両を発進させて、対向車線の領域内から脱出させることができる。
【0091】
なお、本実施形態では、本発明の第1の実施形態で示した減速度補正ステップS260を実行した後に、停止保持制御ステップS710、および停止保持解除制御ステップS720を実行することとして説明したが、停止保持制御ステップS710、および停止保持解除制御ステップS720を実行する場面は、これに限定されるものではない。PCSによって自動的に減速制御した結果、自車両が対向車線の領域内に停止する場合であれば、その他の場面において適用しても構わない。
【0092】
なお、本発明の第1および第2の実施形態では、対向車線横断後の障害物として検知する障害物は、自車両の右折後道路を横断する歩行者として説明したが、当該検知する障害物は歩行者に限定されるものではなく、例えば、自車両の右折後道路を横断する自転車であっても構わない。
【0093】
なお、本発明の第1および第2の実施形態では、自車両が右折する場面について説明したが、自車両が右折する場面に限定されるものではない。例えば、外国などでは、車両が右側通行であるため、本発明に係る障害物回避装置および障害物回避方法を、自車両が左折する場面で適用すれば、本発明の第1および第2の実施形態で述べた効果と同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0094】
さらに、本発明に係る障害物回避装置および障害物回避方法は、自車両が交差点を右折または左折する場面に限定して適用されるものではなく、自車両が対向車線を横断する場面であれば、あらゆる場面に適用することができる。例えば、自車両が対向車線側に存在する店舗の駐車場に進入したい場合、自車両は、対向車線を横断して当該駐車場に進入することになり、本発明に係る障害物回避装置および障害物回避方法を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、自車両周辺における障害物との衝突を回避する障害物回避装置に適用可能であって、対向車線を横断する場合、横断後の障害物との衝突を回避しつつ、対向車線を走行する対向車両との衝突における2次災害を防止する場合などに有用である。
【符号の説明】
【0096】
100、600 障害物回避装置
200、700 障害物回避方法
110 障害物検知手段
120 対向車線領域推定手段
130 減速度算出手段
140 停止位置推定手段
150 判定手段
160 減速度補正手段
610 停止位置判定手段
620 停止保持制御手段
630 停止保持解除制御手段
P1 制動開始位置
P2 要求停止位置
Ds 制動距離
Db 対向車線境界距離
Dv 車両長
B 仮想境界線
T 歩行者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向車線を横断する際、自車両周辺の障害物を検知して、当該障害物との衝突を回避する障害物回避装置であって、
前記対向車線横断後の障害物を検知する障害物検知手段と、
前記対向車線の領域を推定する対向車線領域推定手段と、
前記障害物検知手段によって検知された障害物との衝突を回避する要求減速度を算出する減速度算出手段と、
前記減速度算出手段によって算出された要求減速度に基づいて、前記自車両の停止位置を推定する停止位置推定手段と、
前記停止位置推定手段によって推定された前記自車両の停止位置と、前記対向車線領域推定手段によって推定された前記対向車線の領域とに基づいて、前記対向車線の領域内に前記自車両が停止するか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記対向車線の領域内に前記自車両が停止すると判定された場合、前記減速度算出手段によって算出された前記自車両の要求減速度を補正する減速度補正手段とを備える、障害物回避装置。
【請求項2】
前記対向車線領域推定手段は、前記対向車線側の道路端線または当該道路端線を前記対向車線に沿って延長した仮想境界線を設定し、
前記判定手段は、前記自車両が前記道路端線または前記仮想境界線を通過しない場合、前記対向車線の領域内に前記自車両が停止すると判定することを特徴とする、請求項1に記載の障害物回避装置。
【請求項3】
前記減速度補正手段は、前記減速度算出手段によって算出された前記自車両の要求減速度を、当該要求減速度より小さい減速度に補正することを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の障害物回避装置。
【請求項4】
前記減速度補正手段は、前記対向車線の領域内に前記自車両が停止しないように、前記減速度算出手段によって算出された前記自車両の要求減速度を補正することを特徴とする、請求項3に記載の障害物回避装置。
【請求項5】
前記減速度補正手段は、前記障害物検知手段によって検知された障害物に前記自車両の前車輪位置が到達しないように、前記減速度算出手段によって算出された前記自車両の要求減速度を補正することを特徴とする、請求項3に記載の障害物回避装置。
【請求項6】
前記対向車線の領域内に前記自車両が停止したか否かを判定する停止位置判定手段をさらに備え、
前記停止位置判定手段によって前記対向車線の領域内に前記自車両が停止したと判定された場合、前記自車両の発進を促進することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の障害物回避装置。
【請求項7】
対向車線を横断する際、自車両周辺の障害物を検知して、当該障害物との衝突を回避する障害物回避装置であって、
前記対向車線横断後の障害物を検知する障害物検知手段と、
前記障害物検知手段によって検知された障害物との衝突を回避するために前記自車両を減速制御する減速制御手段と、
前記対向車線の領域を推定する対向車線領域推定手段と、
前記対向車線領域推定手段によって推定された前記対向車線の領域内に前記自車両が停止したか否かを判定する停止位置判定手段とを備え、
前記停止位置判定手段によって前記対向車線の領域内に前記自車両が停止したと判定された場合、前記自車両の発進を促進することを特徴とする、障害物回避装置。
【請求項8】
前記停止位置判定手段によって前記対向車線の領域内に前記自車両が停止していないと判定された場合、予め設定された停止保持時間だけ前記自車両の停止を保持し、前記停止位置判定手段によって前記対向車線の領域内に前記自車両が停止したと判定された場合、当該停止保持時間より短い時間だけ前記自車両の停止を保持する停止保持制御手段をさらに備えることを特徴とする、請求項6〜7のいずれかに記載の障害物回避装置。
【請求項9】
前記停止位置判定手段によって前記対向車線の領域内に前記自車両が停止していないと判定された場合、予め設定されたアクセル開度抑制時間だけ前記自車両のアクセル開度を抑制し、前記停止位置判定手段によって前記対向車線の領域内に前記自車両が停止したと判定された場合、当該アクセル開度抑制時間より短い時間だけ前記自車両のアクセル開度を抑制する停止保持解除制御手段をさらに備えることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の障害物回避装置。
【請求項10】
前記障害物検知手段によって検知される障害物は、歩行者または自転車であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の障害物回避装置。
【請求項11】
対向車線を横断する際、自車両周辺の障害物を検知して、当該障害物との衝突を回避する障害物回避装置が実行する障害物回避方法であって、
前記対向車線横断後の障害物を検知する障害物検知ステップと、
前記対向車線の領域を推定する対向車線領域推定ステップと、
前記障害物検知ステップで検知された障害物との衝突を回避する要求減速度を算出する減速度算出ステップと、
前記減速度算出ステップで算出された要求減速度に基づいて、前記自車両の停止位置を推定する停止位置推定ステップと、
前記停止位置推定ステップで推定された前記自車両の停止位置と、前記対向車線領域推定ステップによって推定された前記対向車線の領域とに基づいて、前記対向車線の領域内に前記自車両が停止するか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップで前記対向車線の領域内に前記自車両が停止すると判定された場合、前記減速度算出ステップで算出された前記自車両の要求減速度を補正する減速度補正ステップとを含む、障害物回避方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−56347(P2012−56347A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198967(P2010−198967)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】