説明

射出成形品の離型力測定方法、及びそれに用いる測定用金型

【課題】射出成形品Mを金型Dから取り外す際の正面密着力を測定する際に、ばらつきを生じさせる要因を排除して、精度を高める。
【解決手段】可動型を型本体部材60及び捨てゴマ61に分割した成型用型部材6を準備し、これを固定型7及びスライド型8と組み合わせて射出成形機にセットする。形成後、スライド型8により捨てゴマ61を固定型7に押し当てて間に成形品Mを保持したまま、型本体部材60を取り外す。イジェクタピン73により成形品Mを押して、捨てゴマ61と共に固定型7から取り外すのに要する力をロードセル3によって検出し、これに基づいて正面密着力を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば樹脂や金属粉末の射出成形品等の離型性を定量的に評価するための測定方法、及び、そのための測定用金型の構造に係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、成形品の離型性を定量的に評価する方法として、例えば特許文献1に開示されるように、射出成形品の表面における基本的に離型方向に垂直な面に働く密着力(正面密着力)と、金型と成形品の側面部(成形品表面における基本的に離型方向に平行な面)に働く密着力、摩擦力等の抵抗力(側面抵抗力)とを、それぞれ独立して測定するようにしたものが公知である。
【0003】
前記平面密着力については、同文献の段落0023〜0027や図1、2に記載されているように、まず、固定型の成形面に相当する部位に、成形品の測定面に密着するように金属等の薄板材からなる試験片を配置する。そして、同段落0035〜0039や図4〜6に記載されているように、射出成形後に固定型から可動型を引き離す際に、この可動型と共に移動する成形品の測定面に密着して弾性変形する前記試験片の変形量を、変位センサにより計測して、両者の密着力、即ち正面密着力を求めるようにしている。
【0004】
一方、側面抵抗力については、同文献の段落0073等や図17、18に記載されているように、まず、金型と同じ材質のインサートピンが突き刺さった状態で成形品を製造し、この成形品を引っ張り試験機に取り付けてインサートピンを引き抜くときの力を、側面抵抗力として計測する。
【特許文献1】特開2002−001778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の方法は、正面密着力と側面抵抗力とを分離して測定する、という考え方に間違いはないものの、測定の精度については十分なものとはいえない。すなわち、平面密着力については、前記特許文献1の段落0037や図5に記載の如く、成形品の測定面に密着する試験片(薄板)が弾性変形した後に剥がれることになるが、型の成形面がそのように変形することはないから、実際の離型時とは異なる現象について計測するものであり、正面密着力の正確な測定は難しいと考えられる。
【0006】
しかも、前記の方法では、間に成形品を挟んで可動型を固定型から引き離すようにしており、成形品の測定面が固定型の試験片から剥がれるときに、この測定面とは反対の面が移動型の成形面から剥がれる虞れがある。そうして反対の面が一部分でも剥がれて浮き上がったりすれば、このことが測定にばらつきを生じさせる要因となり、その反対面の剥がれが大きくなれば、測定自体が無意味なものになりかねない。
【0007】
一方、側面抵抗力の測定については、インサートピンの突き刺さった成形品を型から取り外す際に、例えばインサートピンを掴んで成形品を取り外すとすれば、このときに、インサートピンと成形品との間の密着面に緩みを生じる虞れがあり、こうなれば、測定にばらつきを生じることは避けられない。
【0008】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、成形品を型から取り外すための力の測定方法において、そのための力の加え方や計り方、さらには測定用の金型の構造にも工夫を凝らして、測定にばらつきを生じさせる要因を排除し、その精度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明では、まず、測定開始までに成形品の測定面と型の成形面との間に緩みを生じないようにし、測定の際は測定面にのみ、それを型から剥がす力が加わるようにして、その力を測定するものである。
【0010】
すなわち、請求項1の発明は、射出成形用の金型を構成する複数の型部材のうち、所定の第1型部材から成形品を取り外す際に、この成形品の取り外し方向に略直交する測定面を、対応する前記第1型部材の成形面から剥がすのに要する離型力である、正面密着力の測定方法に係るものである。
【0011】
そして、本発明の特徴は、前記正面密着力の測定の際に、成形品の測定面を第1型部材の成形面から剥がし終わるまで、その測定面を除いた成形品の他の全ての面が、それぞれに対応する他の型部材の成形面に密着したままになるよう、この他の型部材に対して成形品を少なくともその取り出し方向に押圧して保持するようにしたことにある。
【0012】
前記の方法では、金型内のキャビティに材料を射出して成形品を形成した後、離型力の測定を行うまでの間は、成形品の全ての面が対応する型の成形面に密着したままとなり、測定面と型の成形面との間にも緩みを生じることはない。
【0013】
次いで、測定のために前記成形品を第1型部材から取り外して、この取り外し方向に略直交する測定面を対応する成形面から剥がすときには、当該成形品を少なくとも取り出し方向に押圧することで、前記測定面にのみ型から剥がれるような力を加えることができ、この測定面が剥がれるよりも先に反対面が一部分でも剥がれて浮き上がったりすることはなくなる。
【0014】
よって、成形品を形成した後に正面密着力の測定を始める前、或いは測定の最中において、測定にばらつきを生じさせる要因を排除し、正面密着力の測定を従来よりも正確に行うことができる。
【0015】
好ましいのは、前記第1型部材には、成形品の測定面に対応する成形面から出没可能にイジェクタピンを配設しておき、正面密着力を測定するときには、前記のイジェクタピンにより成形品の測定面を押して、前記成形面から剥がすことである(請求項2)。こうすれば、成形品を取り外すためのイジェクタピンの動作を利用して、該成形品を他の型部材に押圧保持することができる。
【0016】
より好ましいのは、前記他の型部材を、型本体部材と、これよりも軽量で且つ成形面を有する成形面部材とに分割した測定用型部材とし、この測定用型部材の成形面部材を第1型部材に押し当ててその間に成形品を保持したまま型本体部材は取り外し、その後、前記第1型部材のイジェクタピンによって成形品の測定面を押して、それを成形面から剥がすことである(請求項3)。
【0017】
すなわち、仮に、前記他の型部材を型本体部材と成形面部材とに分割しないとすれば、イジェクタピンによって成形品を押して第1型部材から取り外すときには、大きくて重い他の型部材も動かさなくてはならないから、力の計測誤差が大きくなる虞れがある。
【0018】
この点、前記のように他の型部材を型本体部材と成形面部材とに分割し、測定の際に成形品と共に動かす成形面部材をできるだけ小さく軽量に構成すれば、計測誤差を小さくすることができ、正面密着力の計測精度を高める上で有利になる。
【0019】
そうして正面密着力の測定のための専用の金型(測定用金型)を用いるのであれば、前記のように型本体部材と成形面部材とからなる測定用型部材を備えるだけでなく、さらに、その測定用型部材の成形面部材を第1型部材に押し当てて保持するための保持部材を備えることが好ましい(請求項4)。
【0020】
次に、請求項5の発明は、射出成形用の金型を構成する複数の型部材のうち、所定の第1型部材から成形品を取り外す際に、この成形品の取り外し方向に略平行な測定面を、対応する前記第1型部材の成形面から剥がすのに要する離型力である、側面抵抗力の測定方法に係る。尚、成形品の取り外し方向に略平行な面というのは、取り出し方向と略平行な仮想の方向線を含む面のことである。
【0021】
そして、上述の請求項1の発明と同様に、側面抵抗力の測定の際にも、成形品の測定面を第1型部材の成形面から剥がし終わるまで、その測定面を除いた成形品の他の全ての面が、それぞれに対応する他の型部材の成形面に密着したままになるように、この他の型部材に対して成形品を少なくとも前記取り出し方向に押圧して保持するようにする。
【0022】
この方法では、前記請求項1の発明と同じく、離型力の測定前に成形品の測定面と型の成形面との間に緩みを生じることがなく、また、測定の際に測定面以外の面が一部分でも剥がれて浮き上がったりすることを防止できるので、測定にばらつきを生じさせる要因を排除し、側面抵抗力の測定を従来よりも正確に行うことができる。
【0023】
そうして側面抵抗力を測定するための専用の金型(測定用金型)として、好ましいのは、第1型部材を、成形品を貫通するインサートピンとし、その一端を、他の複数の型部材のいずれか一つを貫通させて金型の外部にまで延ばす一方、そのインサートピンの他端面は、前記他の複数の型部材のうち、前記いずれか一つの型部材とは異なる別の型部材に密着させて、前記成形品から隔絶することである(請求項6)。
【0024】
前記構成の測定用金型を用いれば、成形品の形成後に、インサートピンをその軸方向の一端側に移動させて成形品から引き抜くことで、この成形品の測定面にのみインサートピンの外周面(型の成形面)から剥がれるような力を加えて、この力、即ち側面抵抗力を測定することができる。
【0025】
すなわち、前記のようにインサートピンを引き抜くときに、成形品は、いずれか一つの型部材によって、それ以外の別の型部材に対し少なくともインサートピンの引き抜き方向、即ち成形品の取り出し方向に押圧保持されて、測定面を除いた全ての面がそれぞれに対応する型の成形面に密着したままになるものである。
【発明の効果】
【0026】
以上、説明したように、本発明に係る射出成形品の離型力測定方法等によると、測定の前に成形品の測定面と型の成形面との間に緩みを生じることがなく、また、測定の際には測定面にのみ型から剥がれるような力を加えることで、それ以外の面が一部分でも型の成形面から剥がれたり、浮き上がったりすることを防止できる。つまり、離型力の測定にばらつきを生じる要因を排除して、正面密着力、側面抵抗力をそれぞれ独立に且つ精度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基いて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
(実施形態1)
図1は、本発明に係る成形品の離型力の測定を実施する測定装置Aの概略構成を示す。この測定装置Aは、長方形状の鋼板からなる天板10及び床板11の4隅付近を、それぞれ連結柱12,12,…にて連結してなる筐体部1を有し、その長手方向一側(図では右側)の端部に測定用金型Dをセットして、そこから成形品Mを取り外すのに要する力を測定するためのものである。
【0029】
すなわち、前記筐体部1の長手方向一側には、図外の射出成形機から取り外した金型Dをセットするスペースが設けられており、この金型Dの上縁部及び下縁部をそれぞれ係止するように、天板10及び床板11の長手方向一側端には、それぞれの幅方向に亘って各々下方及び上方に突出する横長の係止板13,13が取り付けられている。
【0030】
一方、筐体部1の長手方向の他側(図の左側)には、成形品Mを取り外すために金型Dのイジェクタピン73を押圧駆動する駆動機構2が配設されている。この駆動機構2は、電動モータ20とボールねじとを備え、ねじ軸21の回転によって、ナット(図示せず)の固定されたスライドプレート22が筐体部1の長手方向に駆動される。スライドプレート22の上縁及び下縁は、それぞれ、天板10及び床板11に埋設されたレール(図示せず)によりスライド自在に支持されている。
【0031】
そうして筐体部1の長手方向に進退駆動されるスライドプレート22の前面(図の右側面)には、ロードセル3を介在させてプッシュピン23が取り付けられており、このプッシュピン23が、後述するように、金型Dの内部に配設されているイジェクタピン73をその軸心の方向(図の軸線Xの方向)に押すようになっている。
【0032】
こうして駆動機構2によって金型Dのイジェクタピン73を押す力は、ロードセル3によって検出され、その検出信号が演算装置4に入力されて、所定の演算処理に供される。演算装置4は、電動モータ20の作動を制御する制御装置でもあり、パーソナルコンピュータ5への入力に応じて操作される。尚、この実施形態では、成形品Mは、例えば粉末状の金属材料を樹脂製バインダと共に金型D内のキャビティに射出して、成形したものであり、それを所定温度まで加熱して焼結させるための中間成形品である。
【0033】
図2に拡大して縦断面を示すように、測定用金型Dは、成形品Mの製造に使用される射出成形用金型の固定型7(第1型部材)をそのまま利用する一方で、可動型(他の型部材)は、それを型本体部材60と捨てゴマ61(成形面部材)とに分割した測定用型部材6に置き換えたものであり、さらに、その捨てゴマ61を固定型7に対し押し当てて保持するためのスライド型8,8(保持部材)を備えている。
【0034】
前記型本体部材60は、概略矩形ブロック状とされ、所定の面(図の下面)に、捨てゴマ61に対応する摺り鉢状の凹部60aが形成されるとともに、この凹部60aに臨んで開口するようにランナ60bが形成されている。一方、捨てゴマ61は、可動型において成形面の形成されている部分を全て包含するように、可動型からくり抜いたような形状であり、この例では扁平な円錐台状とされ、その底面(図の下面)に開口する凹部61aの内面が、キャビティを囲む成形面となる。
【0035】
また、前記捨てゴマ61には、一端が型本体部材60のランナ60bと連通し、他端が底面の凹部61aに臨んで開口するゲート61bが形成されている。尚、この捨てゴマ61の材料は、型本体部材60と同じでもよいし、異なる材料であってもよいが、その大きさや重さは型本体部材60に比べて小さくするのがよい。
【0036】
前記固定型7は、上述したように出成形用金型の固定型そのものであるが、この例では所定の面(図2の上面)に成形面70aが形成された矩形ブロック状の型本体部材70と矩形板状のベース部材71とが、矩形状の連結枠部材72によって連結されて、内部に中空部を有するボックス状となっている。型本体部材70には、成形面70aの略中央に開口するように貫通孔70bが形成されていて、その孔内に摺動自在にイジェクタピン73の先端側(図の上端側)が収容されている。
【0037】
このイジェクタピン73の先端側は、型本体部材70の成形面70aからキャビティ内に向かって出没可能になっており、一方、基端側は固定型7内の中空部においてベース部材71の付近まで延びていて、その端部にイジェクタピンプレート74が取り付けられている。このイジェクタピンプレート74の背面(図の下面)に対向して、ベース部材71には軸線Xに沿って延びるように貫通孔71aが形成されており、ここに、上述した駆動機構2のプッシュピン23が挿入される。
【0038】
尚、スライド型8,8は、この例では各々射出成形機に取り付けられて、軸線Xと直交する方向に進退駆動されるものであり、先端にテーパ面を有する係止部8aにより捨てゴマ61の外周面を係止して、固定型7に対し押し当てるようになっている。
【0039】
次に、前記の測定用金型Dを使用して成形品Mの離型力を測定する方法について、図2(b)〜(d)を参照して具体的に説明する。ここでは、固定型7の型本体部材70に形成された成形面70a(以下、単に固定型7の成形面70aともいう)から、これに直交する方向(軸線Xの方向)に成形品Mを取り外すのに要する力、すなわち、成形品Mの取り外し方向に略直交する測定面m1を、対応する固定型7の成形面70aから剥がすのに要する力(正面密着力)の測定方法について説明する。
【0040】
まず、前記測定用型部材6(型本体部材60、捨てゴマ61)、固定型7及びスライド型8を組み合わせて、図示しない射出成形機にセットし、所定の手順に従って型締めした後に、図示しないスプルーから型本体部材60のランナ60bと捨てゴマ61のゲート61bとを経て、キャビティに粉末状金属材料を充填する。それから所定時間が経過して、バインダが固まると成形品Mが形成される(図2(a))。
【0041】
続いて同図(b)に示すように、スライド型8,8により捨てゴマ61を固定型7に押し当てて保持したまま、射出成形機を作動させて、型本体部材60を取り外す(同図(b))。このとき、型本体部材60のランナ60bと捨てゴマ61のゲート61bとの境界付近で余分な金属材料が切断されることになるが、成形品Mは、スライド型8,8により押し当てられた捨てゴマ61と固定型7との間に保持されており、その測定面m1と固定型7の成形面70aとの密着状態が緩むことはない。
【0042】
それからスライド型8,8を移動させて(同図(c))、捨てゴマ61及び固定型7を、間に成形品Mを保持したまま射出成形機から取り外し、これを図1のように測定装置Aにセットする。そして、同図(d)に示すように、プッシュピン23によってイジェクタピンプレート74を押して、イジェクタピン73をその軸心の方向(軸線Xの方向)に進出させ、これにより成形品Mを押して、捨てゴマ61と共に固定型7から取り外す。
【0043】
このときイジェクタピン73に加わる反力は、成形品Mの測定面m1を対応する固定型7の成形面70aから剥がすのに要する力(正面密着力)であり、この力に加えてイジェクタピン73やプッシュピン23の移動における摩擦抵抗力が、ロードセル3によって検出される。これらの摩擦抵抗力は予め測定しておくことができるから、その分を減算すれば、正面密着力のみを求めることができる。
【0044】
すなわち、ロードセル3からの信号を所定のサンプリングタイム毎に演算装置4に入力し、時系列のデータとしてメモリに蓄積する。こうして蓄積したデータを所定の演算プログラムによって処理することで、成形品Mの測定面m1を固定型7の成形面70aから剥がすのに要する正面密着力が求められる。
【0045】
したがって、この実施形態1に係る離型力の測定方法によると、まず、測定対象である成形品Mの成形後に測定用金型Dを射出成形機から取り外す際に、スライド型8,8により捨てゴマ61と固定型7との間に成形品Mをしっかりと保持するようにしているので、余剰の金属材料を切断する等のために成形品に外力を加えることになっても、その測定面m1と固定型7の成形面70aとの密着状態にばらつきを生じることはない。
【0046】
そして、前記測定用金型Dを測定装置Aにセットして、成形品Mを取り外すときには、その取り外し方向に直交する測定面m1をイジェクタピン73により押圧して、成形面70aから剥がすようにしており、このイジェクタピン73によって成形品Mが捨てゴマ61に押し付けられて保持されることから、測定面m1を成形面70aから剥がし終わるまで、その測定面m1を除いた成形品Mの他の全ての面は、それぞれに対応する捨てゴマ61の成形面に密着したままになる。
【0047】
すなわち、仮に、捨てゴマ61を把持して固定型7から引き剥がし、そのための力を測定するようにした場合は、測定面m1を対応する成形面70aから剥がし終わる前に、成形品Mの他の面が(一部分であっても)捨てゴマ61の成形面から剥がれることがあり、このことによって測定にばらつきを生じる虞れがあるが、前記のように成形品Mをイジェクタピン73により押して、捨てゴマ61に押圧保持するようにすれば、測定面m1を成形面70aから剥がすのに要する力のみを安定して測定することができる。
【0048】
しかも、そうして成形品Mを捨てゴマ61に押圧保持するために特別な構造を必要とせず、射出成型用金型に本来、備わっているイジェクタピン73を利用し、これにより成形品Mを固定型7から取り外す動作によって、前記のような作用効果を得ることができる。
【0049】
尚、前記した実施形態では、射出成型用金型の可動型を、型本体部材60及び捨てゴマ61からなる測定用型部材6に置き換えているが、可動型をそのまま利用することも可能ではある。
【0050】
但し、そうした場合は、イジェクタピン73によって成形品Mを押して固定型7から取り外すときに、大きくて重い可動型も動かさなくてはならず、それに要する力がかなり大きいことから、計測誤差が大きくなる虞れがある。
【0051】
この点、前記実施形態のようにして、測定時に成形品Mと共に固定型7から取り外す捨てゴマ61を、できるだけ小型且つ軽量にすれば、計測誤差は非常に小さくなり、正面密着力の計測精度を高める上で有利になる。
【0052】
また、前記の実施形態において成形品M及び捨てゴマ61を固定型7から取り外す際に必ずしもイジェクタピン73を利用する必要はなく、成形品Mを捨てゴマ61に押圧して保持することができれば、それらを固定型7から引き剥がすようにして、そのための力を測定することも可能であるが、前記したようにイジェクタピン73を利用すれば、構造が簡単になり、好ましい。
【0053】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施形態2に係る測定用金型D’を概略的に示す。この金型D’の構造は実施形態1のものとは異なるが、説明の便宜上、可動型や固定型等、金型において基本的に同じ機能を有する型部材には「’」を加えて同一の符号を付する。また、ロードセル3のように同一のものには同一符号を付して、その説明は省略する。
【0054】
この実施形態2では、成形品Mは例えば円筒状であり、その筒孔の横断面形状(円形状)が筒軸Xに沿って略一様とされている。この実施形態2では、金型D’から成形品Mをその筒軸Xの方向に取り外す際に、取り外し方向に略平行な測定面である筒孔の内周面m1を、対応するインサートピン9(第1型部材)の外周面9a(成形面)から剥がすのに要する力(側面抵抗力)を測定する。
【0055】
測定用金型D’は、成形品Mの製造に使用される射出成形用金型の可動型6’、固定型7’及びスライド型8’(他の複数の型部材)を、概ねそのまま利用する。インサートピン9は、その一端側(図の下端側)が固定型7’(他の一つの型部材)を貫通して金型D’の外部にまで延び、図の例ではさらにイジェクタピンプレート79も貫通している。インサートピン9の一端部にはロードセル3が取り付けられる。
【0056】
一方、インサートピン9の他端面は、この例では半球状凸面9bとされ、これに対応して可動型6’(他の別の型部材)の所定の面(図の下面)に凹設された半球状凹面6’aに密着して、キャビティから隔絶されるようになっている。可動型6’には、前記半球状凹面6’aに臨んで開口する貫通孔6’bが形成されるとともに、これに並んでランナ6’c及びゲート(符号省略)も形成されている。
【0057】
尚、図の例では固定型7’は、実施形態1の固定型7と同様に矩形状の型本体部材75、ベース部材76及び連結枠部材77により構成され、ベース部材76を貫通するように2本のイジェクタピン78,78が配設されている。
【0058】
そして、通常、成形品Mの製造に使用される射出成形用金型においては、前記図(a)のように成形品Mを形成した後に、図示は省略するが、可動型6’を取り外し、イジェクタピン78,78によりスライド型8’を押して、成形品Mを取り外すのであるが、前記の測定用金型D’を用いて離型力(側面抵抗力)を測定するときには、インサートピン9のみを引き抜いて、これに要する力を測定する。
【0059】
すなわち、前記図1に示した測定装置Aに金型D’をセットし、駆動機構2のスライドプレート22にロードセル3を取り付けて、前記実施形態1とは反対にスライドプレート22を後退させることにより、インサートピン9をその軸方向(X方向)に引き抜くようにする。こうすると、図3(b)のように成形品Mを金型D’内のキャビティに収めたまま、インサートピン9の先端側のみがキャビティ外へ移動し、その外周面9aが成形品Mの筒孔内周面m1(測定面)から剥がされる。
【0060】
こうしてインサートピン9を引き抜くときには、これに連れて成形品Mも筒軸方向(軸線X方向)に移動しようとするが、これに対しスライド型8’から加わる反力によって成形品Mは可動型6’に向かい(図の上側に)押圧保持されることになり、その測定面m1がインサートピン9の外周面9a(成形面)から剥がれるまで、当該測定面m1を除いた成形品Mの他の全ての面は、それぞれに対応する可動型6’や固定型7’の成形面に密着したままになる。
【0061】
したがって、前記のような側面抵抗力の測定の際にも、上述した実施形態1の正面密着力の測定と同様に、成形品Mの測定面m1(筒孔内周面)にのみ、型(インサートピン9)の成形面(外周面9a)から剥がれるような力を加えて、それ以外の面には一部分でも剥がれや浮きを生じることなく、それを成形面9aから剥がすのに要する力を安定して測定することができる。
【0062】
また、インサートピン9の他端の半球状凸面9bが可動型6’の半球状凹面6’aに密着して、キャビティから隔絶されているので、その間に成形材料が入り込んで余計な接着力を生じる虞れはなく、しかも、その半球状凹面6’aに臨んで開口する貫通孔6’bが形成されているので、インサートピン9の引き抜きに余計な抵抗となる負圧を生じることもない。
【0063】
尚、前記実施形態1、2では、一例として金属材料の射出成形について説明したが、これに限定されることはなく、本発明は、より一般的な樹脂の射出成形についても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上、説明したように、本発明によれば、簡単な構成で射出成形品等の離型性を定量的に評価することができるから、産業上の利用可能性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態1に係る離型力の測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】測定用金型の構造、及びそれを用いた測定方法を示す図である。
【図3】実施形態2に係る図2相当図である。
【符号の説明】
【0066】
A 離型力の測定装置
M 成形品
m1 測定面
X 成形品の取り外し方向線

D 測定用金型
6 測定用型部材(可動型)
60 型本体部材
61 捨てゴマ(成形面部材)
7 固定型(第1型部材)
70a 成形面
73 イジェクタピン
8 スライド型(保持部材)

D’ 測定用金型
6’ 可動型(他の型部材)
7’ 固定型(他の型部材)
8’ スライド型(他の型部材)
9 インサートピン(第1型部材)
9b 半球状凸面(他端面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形用の金型を構成する複数の型部材のうち、所定の第1型部材から成形品を取り外す際に、この成形品の取り外し方向に略直交する測定面を、対応する前記第1型部材の成形面から剥がすのに要する離型力である、正面密着力の測定方法であって、
前記成形品の測定面を前記第1型部材の成形面から剥がし終わるまで、その測定面を除いた成形品の他の全ての面が、それぞれに対応する他の型部材の成形面に密着したままになるよう、この他の型部材に対して成形品を少なくとも前記取り出し方向に押圧して保持する、ことを特徴とする射出成形品の離型力測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の離型力測定方法において、
第1型部材には、成形品の測定面に対応する成形面から出没可能にイジェクタピンを配設しておき、
前記イジェクタピンにより成形品の測定面を押して、前記成形面から剥がすのに要する力を測定する、ことを特徴とする射出成形品の離型力測定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の離型力測定方法において、
他の型部材を、型本体部材と、これよりも軽量で且つ成形面を有する成形面部材とに分割してなる、測定用型部材を準備し、
前記成形面部材を第1型部材に押し当てて、その間に成形品を保持したまま、その成形面部材から前記型本体部材を取り外し、
その後、前記第1型部材のイジェクタピンにより前記成形品の測定面を押して、当該第1型部材の成形面から剥がす、ことを特徴とする射出成形品の離型力測定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の離型力測定方法を実施するための測定用金型であって、
射出成形用金型を構成する複数の型部材のうち、イジェクタピンの配設された第1型部材と、
前記第1型部材を除いた他の型部材のうち、成形面の形成されているものを、型本体部材と、これよりも軽量で且つ成形面を有する成形面部材と、に分割してなる測定用型部材と、
前記成形面部材を、前記第1型部材に押し当てて保持するための保持部材と、を備えたことを特徴とする測定用金型。
【請求項5】
射出成形用の金型を構成する複数の型部材のうち、所定の第1型部材から成形品を取り外す際に、この成形品の取り外し方向に略平行な測定面を、対応する前記第1型部材の成形面から剥がすのに要する離型力である、側面抵抗力の測定方法であって、
前記成形品の測定面を前記第1型部材の成形面から剥がし終わるまで、その測定面を除いた成形品の他の全ての面が、それぞれに対応する他の型部材の成形面に密着したままになるよう、この他の型部材に対して成形品を少なくとも前記取り出し方向に押圧して保持する、ことを特徴とする射出成形品の離型力測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の離型力測定方法を実施するための測定用金型であって、
第1型部材が成形品を貫通するインサートピンであって、その一端が他の複数の型部材のいずれか一つを貫通して金型の外部にまで延びる一方、
前記インサートピンの他端面は、前記他の複数の型部材のうち、前記いずれか一つの型部材とは異なる別の型部材に密着して前記成形品から隔絶されている、ことを特徴とする測定用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−39889(P2009−39889A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204993(P2007−204993)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【出願人】(393015874)株式会社キャステムエンジニアリング (4)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】