説明

射出成形機の型締装置およびその組立方法

【課題】 型締装置の組立作業を効率的に行える構造とする。
【解決手段】 型締ピストン30にタイバー22の貫通孔36を形成し、タイバー22の端部外周に螺着結合されるリングナット38を設け、前記ピストン30に設けられた貫通孔36の一端部側には前記リングナット38を段差面(50,52)で係合させる拡径された嵌入装着部42を形成し、型締シリンダ32内のピストン30が受けた油圧による型締力を、前記リングナット38を介して、タイバー22に伝達される構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックやアルミの製品を成形する射出成形機の型締装置およびその組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の射出成形機は、図4に示すように、一対の固定金型2と可動金型1をそれぞれ固定プラテン3、可動プラテン4に取り付け、固定プラテン3に対して4本のタイバー5を移動ガイドとして可動プラテン4を接離移動させることで型合せを行い、タイバー5を介して型締力を発生させるようにしている。最近の射出成形機は、型合せに高速で長ストロークの型開閉シリンダ機構6を用い、型締には低速で短ストロークの型締シリンダ機構7を用いる複合式の型締装置が用いられている。この種の型締装置では、固定プラテン3と可動プラテン4とを連結している4本のタイバー5の一端を固定プラテン3又は可動プラテン4に固定し、他端側に設けたリング溝をハーフナット8で噛み込んで固定保持し、その後にタイバー5にて反力支持された状態で型締シリンダ機構7を作動させて大きな型締力を得る方式が採られる。そして、射出側から溶融状態のアルミやプラスチックを金型に射出注入し、冷却固化後、金型を開いて成形品を取り出すようにしている。
このような型締装置では、従前のトグル式型締装置に比べ、機械長が短くなり、省スペース化が可能であるので、一般に多く利用されている。
【特許文献1】特開平5−269749号公報
【特許文献2】特開平4−348916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、このような射出成形機における型締シリンダ機構7は、詳細を図5に示しているように、タイバー5の一端部にねじ結合により型締ピストン9を取り付けて固定プラテン3に形成したシリンダ10に装着する構造を採用している。大径で重量物の型締ピストン9をタイバー5にねじで結合しているため、射出成形機を組み立てる場合には、現地工事でタイバー5と型締ピストン9とを再度組み付けることは極めて困難であり、工場でタイバー5に型締ピストン9を組み付けた後は、分解せずに一体で出荷していた。
【0004】
したがって、従来では、タイバー5と型締ピストン9が一体のため、図6に示しているように、現地据付工事では固定プラテン3に組み込む時、射出側から長いタイバー5を挿入する必要があり、干渉を避けるため射出側の工事はタイバー5が組込まれた後でしか始めることができなかった。このため、射出成形機の組立工期が長くなってしまう問題があった。
【0005】
また、型締ピストン9周りのパッキンを現地工事で再度組み込む必要があり、パッキンとシムは、各タイバーに2セット、計8セットあるため、シム調整などに非常に時間がかかっているとともに、シムによるパッキン装着高さの調整がばらつき、油漏れが発生しやすくなり、型締シリンダ内の圧力上昇限までの時間がばらつき、成形品の品質に影響を与える。又、もれた油を回収処理、油の補充等の作業が増し、保全性、生産性、環境性を低下させるので改善要求が高いものであった。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に着目し、型締装置の組立作業を効率的に行える構造の射出成形機の型締装置を提供することを目的とする。また、加圧のためのシールなどの組み付け作業を工場で実施でき、現場組みつけ作業時にはピストンシリンダ間の基本的なシール調整作業などが不要な構造とした型締装置を提供することを目的とする。更に、本発明は、型締装置の組立に際して射出側の工事作業への影響が極めて少ない組立方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る射出成形機の型締装置は、固定プラテンと可動プラテンとを複数のタイバーによって連繋し、固定プラテンに設けられた型締シリンダ内に、タイバー先端部のピストンが装着されている射出成形機の型締装置において、前記ピストンに前記タイバーの貫通孔を形成し、前記タイバーの端部外周に螺着結合されるリングナットを設け、前記ピストンに設けられた貫通孔の一端部側には前記リングナットを段差面で係合させる拡径された嵌入装着部を形成し、型締シリンダ内のピストンが受けた油圧による型締力を、前記リングナットを介して、タイバーに伝達可能としたことを特徴としている。
【0008】
この場合において、前記タイバー貫通穴を形成した型締シリンダは工場組立時にシリンダ構成部品を組込んだ状態で輸送できる構造としておけばよい。すなわち、パッキン、ピストン、パッキン押え等のシリンダ構成部品を取り外すことなくシリンダ内に組み込んでおくのである。
【0009】
また、本発明に係る射出成形機の型締装置組立方法は、固定プラテンと可動プラテンとを複数のタイバーによって連繋し、固定プラテンに設けられた型締シリンダ内に、タイバー先端部のピストンが装着されている射出成形機の型締装置組立方法において、予め固定プラテンの型締シリンダにタイバーが貫通できる孔を設けたピストンを装着しておき、対向配置された固定プラテンと可動プラテンに対し、可動プラテン側から固定プラテンにタイバーを貫通又は、射出側が固定プラテンにタイバーを貫通させ、その貫通端部にリングナットを螺着固定し、前記ピストンにおけるタイバー貫通穴の拡径された装着部に前記リングナットを嵌入させて組み付けることを特徴としてなる。
【発明の効果】
【0010】
上記構成によれば、現地据付工事において、可動プラテン後部側からも固定プラテンの型締シリンダ内にリングナットを取り外したタイバーを挿入可能となったので、型締側と射出側の同時据付作業が可能となり、工程に制約を受ける事なく工事を進められるため、工期を短縮することができる。しかも、ピストンとパッキンを解体せずに、固定プラテンと一体で出荷できるので、現地において出荷検査時の品質を維持することができる。したがって、現地でパッキンを再度組立て、シム調整するための費用と日数が削減できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る射出成形機の型締装置およびその組立方法の最良の実施の形態につき、具体的に図面を参照しつつ、詳細に説明する。
図1は実施形態に係る型締装置の全体構成の概略を示す部分断面側面図である。図示のように、この型締装置100は、ベース12上に固定配置された固定プラテン14と、当該固定プラテン14に対面配置されてこれに接近離反移動できるように配置された可動プラテン16とを装備している。これらプラテン14、16の対面部分には各々固定金型18と可動金型20が取り付けられている。可動金型20と固定金型18の型合せのために固定プラテン14と可動プラテン16の間に型開閉シリンダ機構23が設けられており、これは後述する型締シリンダ機構28に比較して小径断面で長ストローク構造とされて高速移動を可能ならしめている。
【0012】
固定プラテン14と可動プラテン16との間には4本のタイバー22が金型18,20を取り囲む領域の四隅部分に位置して渡し掛けられている。このタイバー22は、型締シリンダ機構28の端部を固定端として可動プラテン16側に延び、可動プラテン16を貫通している。タイバー22における可動プラテン16への貫通側には、複数のリング溝24が定ピッチで刻まれている。このリング溝部分に対応して、可動プラテン16の外面部にはハーフナット機構26が設けられ、金型18、20の型合せが行われた位置でハーフナットをリング溝24に噛み合せ、これによって両者を結合し、型締時の反力を支持するようにしている。
【0013】
一方、固定プラテン14側に位置するタイバー22の端部には型締シリンダ機構28が構成されている。この型締シリンダ機構28は、タイバー22の端部に固定したリングナット38と、固定プラテン14の背面部(金型取付面と反対側)に形成され前記型締ピストン30を貫入させた型締シリンダ32とを有し、型合せの後、両者の間に形成した油圧室34に作動油を供給することにより、タイバー22を介して可動プラテン16を固定プラテン14側に牽引し、型締力を発生させるようにしている。
【0014】
このような構成において、本実施形態では、図2に詳細を示しているように、前記型締ピストン30に前記タイバー22の貫通孔36を形成し、前記タイバー22の端部外周に螺着結合されるリングナット38を設けるようにしている。一方、前記型締ピストン30に設けられた貫通孔36の一端部側には前記リングナット38を係合段部50で係合させる拡径された嵌入装着部42を形成している。これにより、型締シリンダ32内のピストン30が受けた油圧による型締力が、前記リングナット38を介して、タイバー22に伝達されるようにしているのである。
【0015】
より具体的には、型締ピストン30は、タイバー22の貫通孔36を中心に形成してなるもので、円筒状のピストン本体30aを有し、固定プラテン14に形成した型締シリンダ32に嵌入し、両者の段差面40での接合部間に油圧室34を形成し、導入される油圧によりピストン本体30aを図中右方向に押出できるようにしている。ピストン本体30aの一端側(金型側)にはスリーブ30bを延設しており、これをタイバー22と固定プラテン14の孔との間に嵌入させ、油圧室34に通じる接合面にはパッキン44をパッキン押え46で押付保持させるようにしている。パッキン押え46は円筒リングの端部にフランジを形成したもので、円筒リング端面でパッキン44を押し付けるようになっているとももに、フランジ部分にはシム48を介在させて押え寸法の調整を行わせている。
【0016】
一方、ピストン本体30aの外端側における貫通孔36の開口部内にて係合段部50を形成して二重に拡径させており、開口端側の最大拡径部分を前述したリングナット38の嵌入装着部42としている。リングナット38はタイバー22の端部に形成した雄ねじ部22aに螺合する雌ねじ部38aを有し、タイバー22の端部に螺着外装されるようになっている。このリングナット38の先端部には雄ねじ部22a及び雌ねじ部38aのねじ応力を緩和するテーパスリーブ38bが設けられているが、このテーパスリーブ38bの基端部分の外周部にはピストン30からの型締力を受ける圧力受け段部52が前記ピストン側係合段部50に当接するように設けられている。これにより、型締ピストン30が油圧により発生した型締力がリングナット38を通じてタイバー22に伝達されるようになっている。
型締ピストン30と、リングナット38、並びにタイバー22を組み付け、これらの部品端面に共用するエンドプレート54をボルト、ノックピン等で止め、これらが一体で挙動するように構成している。
【0017】
なお、固定プラテン14の射出側端面部にて、油圧室34に通じる型締ピストン30と型締シリンダ32との摺動面からの油圧漏れを防止するため、パッキン44Aをパッキン押え46Aで押付保持させるようにしている。これもピストンスリーブ30b側と同様に構成され、円筒リングの端部にフランジを形成したパッキン押え46Aにより、パッキン44Aを押し付けるようになっているとももに、フランジ部分にはシム48Aを介在させて押え寸法の調整を行わせている。
【0018】
このような構成に係る型締装置100では、油圧により型締ピストン30に発生する力は、ピストン30→リングナット38→タイバー22→ハーフナット機構26→可動プラテン16→金型18,20→固定プラテン14と伝達され、型締力を金型18,20に作用させることができる。
【0019】
このような型締装置100を具備する射出成形機は、各部品の製造後に一旦組み立て、工場内での試運転、検査を行った後、解体して出荷を行う。解体時には、リングナット38をタイバー22から外し、タイバー22を型締ピストン30から抜く。型締ピストン30はパッキン44、44A、パッキン押え46、46Aとともに固定プラテン14の中に組み込んだまま出荷する。タイバー22からリングナット38を取り外し、型締ピストン30からタイバー22を抜き去って中空構造としておけばよい。
【0020】
現地据付工事では、マシンベース12上に固定プラテン14と可動プラテン16を載置した後、タイバー22を可動プラテン16の後部側から挿入し、固定プラテン14内の型締ピストン30に通す。そして、タイバー22の端部にリングナット38をねじにより取り付け、固着する。
【0021】
長いタイバー22を射出側から挿入する必要がなく干渉も無いので、射出側と型締側の据付工事を同時に行うことができる。型締装置側にタイバーの挿入スペースが無く、可動プラテン側からの挿入できない場合や、同時作業が必要でない時は、射出側から挿入してももちろん良い。
なお、型開閉シリンダ機構28は、サーボモータとボールねじの組み合わせ構造とすることができる。
【0022】
以上説明したように、本実施の形態では、型締ピストン30にタイバー22の貫通孔36を形成し、タイバー22の端部外周に螺着結合されるリングナット38を設け、前記ピストン30に設けられた貫通孔36の一端部側には前記リングナット38を段差面(50,52)で係合させる拡径された嵌入装着部42を形成し、型締シリンダ32内のピストン30が受けた油圧による型締力を、前記リングナット38を介して、タイバー22に伝達される構造となる。そして、型締装置100の組み立てに際しては、予め固定プラテン14の型締シリンダ32にタイバー22が貫通できる孔36を設けた型締ピストン30を装着しておき、対向配置された固定プラテン14と可動プラテン16に対し、可動プラテン16側から固定プラテン14にタイバー22を貫通させ、その貫通端部にリングナット38を螺着固定し、前記ピストン30におけるタイバー貫通穴36の拡径された嵌入装着部42に前記リングナット38を嵌入させて組み付けるようにしたので、現地組み立てに際して、射出装置側の組み立て作業を同時並列的に行うことが可能となり、作業効率を大幅に向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、プラスチックやアルミの製品を成形する射出成形機の型締装置およびその組立方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係る型締装置を備えた射出成形機の部分断面側面図である。
【図2】同装置の型締シリンダ機構の詳細断面図である。
【図3】同装置の組立状態を示す分解説明図である。
【図4】従来の射出成形機の部分断面側面図である。
【図5】同装置の型締シリンダ機構の詳細断面図である。
【図6】同装置の組立状態を示す分解説明図である。
【符号の説明】
【0025】
100………型締装置、12………ベース、14………固定プラテン、16………可動プラテン、18………固定金型、20………可動金型、22………タイバー、23………型開閉シリンダ機構、24………リング溝、26………ハーフナット機構、28………型締シリンダ機構、30………型締ピストン、30a………ピストン本体、30b………スリーブ、32………型締シリンダ、34………油圧室、36………貫通孔、38………リングナット、38a………雌ねじ部、38b………テーパスリーブ、40………段差面、42………嵌入装着部、44、44A………パッキン、46、46A………パッキン押え、48、48A………シム、50………係合段部(ピストン側)52………圧力受け段部、54………エンドプレート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定プラテンと可動プラテンとを複数のタイバーによって連繋し、固定プラテンに設けられた型締シリンダ内に、タイバー先端部のピストンが装着されている射出成形機の型締装置において、
前記ピストンに前記タイバーの貫通孔を形成し、前記タイバーの端部外周に螺着結合されるリングナットを設け、前記ピストンに設けられた貫通孔の一端部側には前記リングナットを段差面で係合させる拡径された嵌入装着部を形成し、型締シリンダ内のピストンが受けた油圧による型締力を、前記リングナットを介して、タイバーに伝達可能としたことを特徴とする射出成形機の型締装置。
【請求項2】
前記タイバー貫通穴を形成した型締シリンダは工場組立時にシリンダ構成部品を組込んだ状態で輸送できる構造としたことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機の型締装置。
【請求項3】
固定プラテンと可動プラテンとを複数のタイバーによって連繋し、固定プラテンに設けられた型締シリンダ内に、タイバー先端部のピストンが装着されている射出成形機の型締装置組立方法において、
予め固定プラテンの型締シリンダにタイバーが貫通できる孔を設けたピストンを装着しておき、対向配置された固定プラテンと可動プラテンに対し、可動プラテン側から固定プラテンにタイバーを貫通又は、射出側から固定プラテンにタイバーを貫通させ、その貫通端部にリングナットを螺着固定し、前記ピストンにおけるタイバー貫通穴の拡径された装着部に前記リングナットを嵌入させて組み付けることを特徴とする射出成形機の型締装置組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−321204(P2006−321204A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148739(P2005−148739)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】