説明

射出成形機及び射出成形方法

【課題】シワ、ヒネリ、ジェッティングの成形不良の発生を防ぎ、容易かつ短時間に成形条件を設定する。
【解決手段】成形金型内に樹脂材料を充填するためのサーボモータと、サーボモータを制御することによって、射出速度を無段階に変化させ、かつ、樹脂材料が充填された成形金型内に加える保圧力が無段階に小さくなるように保圧力を変化させる制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形金型に樹脂材料を充填する射出速度、及び樹脂材料が充填された成形金型内に加える保圧力を制御する射出成形機及び射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に射出工程は、成形金型のキャビティ内に樹脂材料を充填する充填工程と、成形金型内に充填された樹脂材料の冷却に伴う収縮を補うためにキャビティ内の樹脂材料に保圧力を加える保圧工程とを有している。
【0003】
保圧工程において、成形品の表面には、徐々に固化していく樹脂材料に加わる力Fによって、図5に示すように、射出成形機のシリンダ103が連結された成形金型102のゲート109近傍でシワ110が発生する不都合がある。
【0004】
このような成形不良の対策としては、保圧力を段階的に低下させることで、成形金型102のゲート109近傍において成形品の表面にシワ110が生じるのを防ぐことができる。また、充填工程において射出速度を低下させることによって、シワ、歪によるヒネリ、キャビティ内で飛散した樹脂が付着した跡、いわゆるジェッティングが成形品に発生するのを防ぐことができる。
【0005】
例えば特許文献1には、充填工程における射出速度を段階的に変化させ、かつ、保圧工程での保圧力を段階的に小さくなるように変化させる技術が開示されている。そして、例えばポリスチレン等の硬質樹脂材料を用いて射出成形を行う場合には、このように段階的に制御する方法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平5−91827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば熱可塑性エラストマー、軟質塩化ビニール等の軟質樹脂材料を用いた射出成形を行う場合、硬質樹脂材料に比べて溶融時の粘度が低く、キャビティ内が比較的高圧になる。このため、軟質樹脂材料を用いる場合、キャビティ内の残留応力が比較的高く、ヒネリが発生しやすい問題点がある。
【0008】
したがって、軟質樹脂材料を用いる場合、特許文献1に記載の技術のように、射出速度及び保圧力を段階的に変化させる場合には、成形条件の数値を制御装置に手動で設定する作業が非常に繁雑であり、多数の成形条件を設定する際に数値を誤って設定してしまう問題もあった。したがって、このような難しい成形条件を確実に設定するためには、作業者に熟練及び技能を要するという不都合があった。
【0009】
すなわち、上述したような成形品の不良を防ぐための条件設定値の幅が広く、実際に成形品を成形して試してみなければわからない。このため、設定可能な数値の範囲内から成形品を良品として得られる最適な成形条件を見出して設定するまでには、時間を要し、生産性を低下させる要因となっている。
【0010】
また、成形条件を調整中に作られる成形品は、材料特性が不安定になるので全て廃棄されており、成形条件を見出すまでに作られる成形品に使用する樹脂材料が無駄に費やされる問題がある。
【0011】
また、成形不良を抑えるために、射出速度及び保圧力を緩やかに変化させる成形条件を見出して設定する場合、成形条件の多数の細かい設定が必要になる。このため、成形条件の設定箇所が増えてしまい、成形条件の設定時に数値の誤入力や、誤入力に伴う成形金型の破損を招くといった二次的な問題もある。
【0012】
そこで、本発明は、上記関連する技術の課題を解決し、成形条件の煩雑な設定作業を削減し、成形条件を容易かつ短時間に設定することができる射出成形機及び射出成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するため、本発明に係る射出成形機は、成形金型内に樹脂材料を充填するための駆動手段と、駆動手段を制御することによって、射出速度を無段階に変化させ、かつ、樹脂材料が充填された成形金型内に加える保圧力が無段階に小さくなるように保圧力を変化させる制御手段と、を備える。
【0014】
また、本発明に係る射出成形方法は、成形金型内に樹脂材料を充填する射出速度を無段階に変化させる充填工程と、樹脂材料が充填された成形金型内に加える保圧力が無段階に小さくなるように保圧力を変化させる保圧工程と、を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形品を良品として得られる成形条件を容易、かつ短時間に設定することが可能になる。また、本発明によれば、成形金型を破損するといった二次的な問題が生じることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態の射出成形機を示す模式図である。
【図2】実施形態の射出成形機の動作について簡単に説明するためのフローチャートである。
【図3】実施形態の射出成形機における充填工程及び保圧工程を説明するための図である。
【図4】実施形態の射出成形機において切換スイッチを操作する場合を説明するためのフローチャートである。
【図5】射出成形機における保圧工程にて成形品に作用する力について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、実施形態の射出成形機を示す模式図である。図1に示すように、射出成形機1は、成形金型2のゲートにノズルが連結されるシリンダ3と、樹脂材料を搬送して成形金型2のキャビティ内に充填するためのスクリュ5と、スクリュ5を回転する駆動手段としてのサーボモータ6と、を備えている。
【0019】
また、射出成形機1は、成形金型2内に樹脂材料を充填するためのサーボモータ6を制御することによって、射出速度を無段階に変化させ、かつ、樹脂材料が充填された成形金型2内に加える保圧力を無段階に小さくなるように変化させる制御手段としての制御部7を備えている。
【0020】
また、射出成形機1は、射出速度を無段階に変化させ、かつ、保圧力を無段階に変化させる作動状態と、射出速度及び保圧力をそれぞれ段階的に変化させる別の作動状態とに切り換える切換手段として切換スイッチ8を備えている。
【0021】
サーボモータ6は、制御部7によって回転駆動されることで、シリンダ3内のスクリュ5を回転駆動させ、成形金型2内に樹脂材料を充填する。
【0022】
制御部7は、制御回路が形成された制御基板7aを有しており、制御基板7aがサーボモータ6と電気的に接続されている。また、制御部7は、切換スイッチ8及び各種の設定スイッチが設けられたコントローラを有している。
【0023】
切換スイッチ8は、制御部7の制御基板7aに電気的に接続されている。運転者が切換スイッチ8を切換操作することで、上述したようにサーボモータ6を用いて例えば射出速度及び保圧力を段階的に変化させる標準的な多段階モードと、射出速度及び保圧力を無段階に変化させる無段階モードとに切り換えて駆動させることが可能に構成されている。
【0024】
つまり、本実施形態において、制御部7は、切換スイッチ8がオン状態のとき、射出速度が無段階に大きくなるように変化させると共に、保圧力が無段階に小さくなるように変化させる。また、制御部7は、切換スイッチ8がオン状態のとき、射出速度が無段階に変化するように制御すると共に、成形金型2内に所定量の樹脂材料が充填されたときに射出速度を無段階に小さくなるように制御する。
【0025】
また、制御部7は、切換スイッチ8がオフ状態のとき、射出速度が例えば1段階から6段階までの任意の段階で大きくなるように制御すると共に、成形金型2内に所定量の樹脂材料が充填されたときに射出速度を例えば1段階だけ小さくなるように制御する。また、制御部7は、切換スイッチ8がオフ状態のとき、保圧力が例えば1段階から6段階までの任意の段階で小さくなるように変化させる。なお、切換スイッチ8がオフ状態のときに、保圧力が、無段階に小さくなるように制御されてもよい。
【0026】
図2は、実施形態の射出成形機1の動作について簡単に説明するためのフローチャートである。図2に示すように、上述したように射出速度及び保圧力をそれぞれ無段階に変化させる場合、射出成形機1の制御部7のコントローラを操作し(ステップS1)、切換スイッチ8をオン状態にする(ステップS2)。制御部7は、制御基板7aの切換スイッチ8がオン状態に切り換えられることで、制御を開始し(ステップS3)、サーボモータ6の駆動が開始される(ステップS4)。そして、制御部7は、サーボモータ6によってスクリュ5を回転し、射出速度及び保圧力を無段階に変化させる。
【0027】
以上のように構成された射出成形機1において、成形品を成形する際に行われる、射出速度及び保圧力の制御について説明する。
【0028】
図3は、実施形態の射出成形機1における充填工程及び保圧工程を説明するための図である。図3において、縦軸が、射出速度及び射出圧力、保圧力の大きさを示し、横軸が時間を示している。図4は、実施形態の射出成形機1において切換スイッチ8を操作する場合を説明するためのフローチャートである。
【0029】
本実施形態の射出成形機1では、図3に示すように、射出工程における充填工程において、シリンダ3内でスクリュ5がノズル側に向かって移動する距離、言い換えれば時間の経過に伴って、例えば図中に破線で示すように射出速度が直線的に徐々に大きくなるように制御される。このとき、例えば図中に実線で示すような曲線をなすように射出圧力が変化する。
【0030】
また、本実施形態では、成形金型2のキャビティ内への樹脂材料の充填が完了する直前、例えば、キャビティの容積の80%〜90%程度が充填された時点で、成形金型2内の圧力を所定の圧力まで低下させるために、射出速度が直線的に小さくなるように制御を行う。なお、成形条件の必要に応じて運転者が任意に設定することによって、制御部7は、射出速度の低下を開始する時点でのキャビティ内への充填率、すなわち減速点の制御を行うように構成されてもよい。
【0031】
また、制御部7は、樹脂材料が充填された成形金型2内に加える保圧力が無段階に小さくなるように制御を行う。なお、保圧力は、スクリュ5の背圧に基づいて制御される。また、保圧力を低下させるタイミングとしては、例えば、キャビティ内に樹脂材料を95%〜98%程度まで充填した時点から保圧力の低下が開始するように制御を行う。
【0032】
本実施形態では、射出速度を無段階に直線的に変化させることで、射出速度を多段階に変化させる場合と比較して、キャビティ内に充填された樹脂材料の残留応力が低くなり、ヒネリの発生が抑えられる。射出速度と同様に、本実施形態では、保圧力が無段階に直線的に小さくされることで、保圧力が多段階に小さくされる場合と比較して、キャビティ内に充填された樹脂材料の残留応力が低くなり、ヒネリの発生が抑えられる。
【0033】
本実施形態における切換スイッチ8の切換操作について簡単に説明する。図4に示すように、成形を開始し(ステップS11)、成形された成形品にシワ等の成形不良の発生があるか否かを運転者が判断する(ステップS12)。成形品にシワ等が発生していた場合には、切換スイッチ8をオン状態にすることで、制御部7によって上述したように射出速度及び保圧力がそれぞれ制御される。このように制御部7が作動することで、射出速度及び保圧力をそれぞれ段階的に変化させる場合に必要な成形条件の設定を運転者が行う必要がなくなる。したがって、運転者が複雑な設定作業の一部を行う必要がなくなり、成形条件の設定を容易に行うことが可能になる。次に、運転者は成形条件を手動で設定する(ステップS14)。
【0034】
また、成形品に成形不良が発生していなかった場合には、切換スイッチ8がオフ状態のままで、成形条件の設定が行われる(ステップS14)。なお、この場合、射出速度及び保圧力はそれぞれ多段階に変化するように制御が行われる。
【0035】
成形条件を設定した後、成形された成形品にシワ等の成形不良の発生があるか否かを運転者が判断する(ステップS15)。このとき、成形品に成形不良が発生していた場合には、ステップS14に戻り、再度、成形条件の設定が行われ、以降、成形品に成形不良が発生しなくなるまで、成形条件の設定が繰り返される。そして、成形品に成形不良が発生していなかった場合には、その成形条件にて所望量の成形品を生産し(ステップS16)、成形を終了する(ステップS17)。
【0036】
上述したように、実施形態の射出成形機1によれば、制御部7が、成形金型2内に樹脂材料を充填するためのサーボモータ6を制御することによって、射出速度を無段階に変化させ、かつ、樹脂材料が充填された成形金型2内に加える保圧力を無段階に小さくなるように変化させる。これによって、本実施形態は、特に硬質樹脂材料に比べて溶融時の粘度が低い軟質樹脂材料を用いて射出成形を行う場合に、充填工程において、成形不良を招くような高圧が生じないように比較的低圧で樹脂材料の充填を行うことができ、かつ保圧工程においても、成形不良を招くような高圧が生じないように比較的低圧で保圧を行うことができる。
【0037】
したがって、本実施形態によれば、シワ、歪みによるヒネリ、ジェッティングの発生を防ぎ、成形品が良品として得られる成形条件を容易、かつ短時間に設定することが可能になる。このため、最適な成形条件を設定するために必要な樹脂材料を削減し、成形品の生産性を向上することができる。また、本実施形態によれば、成形金型2を破損するといた二次的な問題が生じることを防ぐことができる。
【0038】
なお、本実施形態の射出成形機1では、射出速度が直線的に徐々に大きくなるように制御し、かつ保圧力が直線的に徐々に小さくなるように制御されたが、このような制御に限定されるものではない。成形条件の必要に応じて、例えば、射出速度及び保圧力が変化する直線の傾斜角が変化するように制御されたり、射出速度及び保圧力が曲線的に徐々に変化するように制御されたりしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 射出成形機
2 成形金型
6 サーボモータ
7 制御部
8 切換スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形金型内に樹脂材料を充填するための駆動手段と、
前記駆動手段を制御することによって、射出速度を無段階に変化させ、かつ、前記樹脂材料が充填された前記成形金型内に加える保圧力が無段階に小さくなるように前記保圧力を変化させる制御手段と、を備える射出成形機。
【請求項2】
前記射出速度を無段階に変化させ、かつ、前記保圧力を無段階に変化させる作動状態と、前記射出速度及び前記保圧力をそれぞれ段階的に変化させる別の作動状態とに切り換える切換手段を備える、請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記制御手段は、前記射出速度を直線的に変化させると共に、前記保圧力を直線的に小さくなるように変化させる、請求項1または2に記載の射出成形機。
【請求項4】
成形金型内に樹脂材料を充填する射出速度を無段階に変化させる充填工程と、
前記樹脂材料が充填された前記成形金型内に加える保圧力が無段階に小さくなるように保圧力を変化させる保圧工程と、を有する射出成形方法。
【請求項5】
前記充填工程において、前記射出速度を直線的に変化させると共に、前記保圧力を直線的に小さくなるように変化させる、請求項4に記載の射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−161982(P2012−161982A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23729(P2011−23729)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】