説明

射出成形用金型

【課題】略U字状に延在する貫通孔を有する成形品を一度の射出成形工程で成形することで、樹脂界面や溶着跡が無い高品質の成形品を製作すると共に工程数を削減して生産性の向上を図ることを目的とする。
【解決手段】略U字状に延在する貫通孔を有する成形品を成形する射出成形用金型1であって、成形品の外面を成形するキャビティ20が形成されたキャビティ型2と、貫通孔を成形する略U字状のコア型3と、が備えられ、コア型3が、折り返し部分3aの中央で、キャビティ型2の外部からキャビティ20内にそれぞれ挿設された一対のスライドコア30,30に分割され、一対のスライドコア30,30が、U字状のコア型3の外側部分に位置する外型31と、U字状のコア型3の内側部分に位置する内型32と、にそれぞれ分割され、外型31と内型32とが、スライドコア30のスライド方向に沿って相対的にスライド可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば下記特許文献1に記載されているような、地中に管状の熱交換器を埋設し、その熱交換器内に熱媒体を流通させて熱交換させることで、暖房用の熱を地中から吸収したり室内の余剰熱を地中に放出したりする地中熱ヒートポンプシステムが提供されている。この地中熱ヒートポンプシステムにおける熱交換器は、2本のパイプの下端部同士が継手部材を介して連結された構成からなり、地中に形成された例えば直径90mm〜150mm程度の小径のボーリング孔の内側に挿入されている。前記した継手部材は、樹脂製のU字管継手であり、2本のパイプ同士を連通させるU字状の貫通孔が形成されている。
【0003】
ところで、上記した継手部材は、貫通孔がU字状に折り返された形状になっているので、通常の射出成形用金型を用いて成形しようとすると、離型時に、前記貫通孔を成形するコア型を抜くことが困難である。
そこで、上記した継手部材を製作する方法として、従来、例えば下記特許文献2に記載されているように、まず、U字管部を有する樹脂成形体をブロー成形し、その後、その樹脂成形体をインサートとして外殻を射出成形する製造方法が提案されている。
また、上記した継手部材を製作する他の方法として、例えば下記特許文献3に記載されているように、まず、射出成形法によって2つの分割パイプ(エルボ管)を作製し、それら2つの分割パイプの端部同士をバット溶着してU字状の接合パイプを形成し、その後、接合パイプをインサートとして樹脂被覆部を射出成形する製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−337569号公報
【特許文献2】特許第4360841号公報
【特許文献3】特開平10−128865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来技術(特許文献2及び3)では、インサート品(樹脂成形体、接合パイプ)と射出成形部(外殻、樹脂被覆部)との間の樹脂界面が弱く、割れなどが発生するおそれがある。
また、上記した前者の従来技術では、ブロー成形工程後に射出成形工程を行う必要があり、また、後者の従来技術では、一次射出成形工程(分割パイプ)後に、バット溶着工程を行い、その後、二次射出成形工程(樹脂被覆部)を行う必要があるため、工程数が多くて生産性が低くなるという問題がある。
さらに、上記した後者の従来技術では、U字状の貫通孔の内周面に、分割パイプ同士をバット溶着したときの溶着跡が残るという問題もある。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、略U字状に延在する貫通孔を有する成形品を一度の射出成形工程で成形することが可能な射出成形用金型を提供することによって、樹脂界面や溶着跡が無い高品質の成形品を製作すると共に、工程数を削減して生産性の向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る射出成形用金型は、上記した課題を解決するべく、下記の特徴を有する。
すなわち、本願の請求項1に係る射出成形用金型は、略U字状に延在する貫通孔を有する成形品を成形する射出成形用金型であって、前記成形品の外面を成形するキャビティが形成されたキャビティ型と、前記貫通孔を成形する略U字状のコア型と、が備えられており、該コア型が、折り返し部分の中央で、前記キャビティ型の外部から前記キャビティ内にそれぞれ挿設された一対のスライドコアに分割されており、該一対のスライドコアが、U字状の前記コア型の外側部分に位置する外型と、U字状の前記コア型の内側部分に位置する内型と、にそれぞれ分割されており、前記外型と前記内型とが、前記スライドコアのスライド方向に沿って相対的にスライド可能となっていることを特徴としている。
なお、本発明における「略U字状」には、折り返し部が円弧状のものだけでなくコ字状及びV字状のものも含むものとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る射出成形用金型によれば、上記した解決手段によって下記の作用及び効果を奏する。
すなわち、本願の請求項1に係る射出成形用金型を用いて成形品を成形する際には、まず、キャビティ内に溶融樹脂を射出充填し、その後、射出成形用金型を冷却して溶融樹脂を固化させる。次に、キャビティ型及びコア型を成形品からそれぞれ離型させる。コア型の離型方法としては、まず、一対のスライドコアの外型を内型に対してそれぞれスライドさせてキャビティ内(成形品の貫通孔内)から引き抜く。その後、一対のスライドコアをそれぞれ外側(一対のスライドコアの間隔が拡がる方向)にずらして一対のスライドコアの分割面を離間させる。これにより、一対のスライドコアの内型の鉤状の先端部が、成形品の貫通孔の折り返し部分の内壁面からそれぞれ外される。続いて、一対のスライドコアの内型をそれぞれキャビティ内(成形品の貫通孔内)から引き抜くことで、コア型が成形品の貫通孔内から離型される。
このように、本願の請求項1に係る射出成形用金型によれば、略U字状に延在する貫通孔を有する成形品を一度の射出成形工程で成形することができる。したがって、樹脂界面や溶着跡が無い高品質の成形品を製作することができ、また、工程数が削減されて生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態を説明するための射出成形用金型の縦断面図である。
【図2】図1に示す射出成形用金型によって成形される成形品を示した側面図である。
【図3】図1に示すA−A´間の横断面図である。
【図4】射出成形用金型の離型動作を説明するための図であって、外型を内型に対してスライドさせた状態を示す縦断面図である。
【図5】射出成形用金型の離型動作を説明するための図であって、スライドコアを外側にずらした状態を示す縦断面図である。
【図6】射出成形用金型の離型動作を説明するための図であって、内型を引き抜いた状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る射出成形用金型の実施形態について、図面に基いて説明する。
【0011】
図1に示す射出成形用金型1は、図2に示す合成樹脂製の成形品10を射出成形するための金型であり、溶融樹脂が射出充填される閉塞空間(成形空間)100が形成されている。
【0012】
ここで、射出成形用金型1によって成形される成形品10について説明する。
なお、本実施形態では、成形品10における各方向を便宜上、下記のとおりとする。すなわち、後述する貫通孔11の端部14の軸線に沿った方向(図2に示すY方向)を「縦方向」とし、縦方向に直交する方向のうち、貫通孔11の両側の端部14,14の軸線同士を結ぶ方向(図2に示すX方向)を「横方向」とし、縦方向及び横方向にそれぞれ直交する方向を「前後方向」とする。
【0013】
図2に示すように、成形品10は、地中熱ヒートポンプシステムの熱交換器の継手部材として用いられる樹脂成形体であり、例えば高密度ポリエチレンなどからなる。成形品10は、U字状に延在する丸孔状の貫通孔11が形成された本体部12と、図示せぬ錘を取り付けるための錘取付部13と、を備えている。
【0014】
本体部12は、側面視(前後方向に沿った矢視)において縦方向一方側(図2における下側)が矩形状に形成されて縦方向他方側(図2における上側)が半円形状に形成されている。さらに、本体部12は、前記した矩形状の部分の横方向の両端部分、及び前記した半円形状の部分の外周面が、断面視略半円状にそれぞれ形成されており、平面視(縦方向に沿った矢視)において長方円形状に形成されている。この本体部12に形成された貫通孔11は、本体部12の一端面(図2における下端面)において両端がそれぞれ開口され、本体部12の縦方向他方側の外周面に沿って円弧状に折り返されている。すなわち、貫通孔11は、本体部12の一端面から穿孔されて直線状に延在する両側の端部14,14と、円弧状に延在する折り返し部15と、からなる。貫通孔11の両側の端部14,14は、互いに平行に延在しており、また、貫通孔11の両側の端部14,14の内径は、折り返し部15の内径よりも大きくなっている。
【0015】
錘取付部13は、本体部12の他端部(図2における上端部)に突設された板状部であり、錘取付用の取付孔16,16が形成されている。
【0016】
次に、上記した射出成形用金型1の構成について詳しく説明する。
【0017】
なお、本実施形態では、射出成形用金型1における各方向を、成形品10と同様に便宜上、下記のとおりとする。すなわち、後述するスライドコア30の軸線Lに沿った方向(図1に示すY方向)を「縦方向」とし、縦方向に直交する方向のうち、両側のスライドコア30,30の軸線L,L同士を結ぶ方向(図1に示すX方向)を「横方向」とし、縦方向及び横方向にそれぞれ直交する方向(図3に示すZ方向)を「前後方向」とする。
【0018】
図1、図3に示すように、射出成形用金型1の概略構成としては、図2に示す成形品10の外面を成形するキャビティ20(凹部)が形成された一対のキャビティ型2,2と、成形品10の貫通孔11を成形するU字状のコア型3と、を備えている。
【0019】
一対のキャビティ型2,2は、一方が図示せぬ取付板などに固定された固定側型板であり、他方が前記した固定側型板から離間する方向に移動可能な可動側型板であり、前後方向から重ね合わせられている。一対のキャビティ型2,2のパーティング面22,22には、互いに向かい合わせに形成された略同形状のキャビティ20,20が形成されている。このキャビティ20,20は、図2に示す成形品10の外面形状に対応した形状の凹部であり、成形品10を前後方向に分割した形状に形成されている。また、キャビティ型2,2には、上記した成形品10の取付孔16,16を形成する丸棒状の金型ピン21,21が貫設されている。
【0020】
コア型3は、キャビティ20,20の内側に差し込まれて図2に示す成形品10の貫通孔11を形成する丸棒状の金型であり、円弧状に折り返されたU字形状に形成されている。このコア型3は、その折り返し部3aの横方向の中央部分で2つのスライドコア30,30に分割されている。このスライドコア30,30は、キャビティ型2,2の外部からキャビティ20,20内に引き抜き可能にそれぞれ挿設されたスライド可能な金型である。詳しく説明すると、スライドコア30,30は、一対のキャビティ型2,2の縦方向一方側(図1における下側)からキャビティ20,20内にそれぞれ挿入されており、図示せぬ移動機構によって軸線Lに沿って縦方向に移動可能となっている。また、一対のスライドコア30,30は、それぞれ先端部が90度に折り曲げられてJ字形状に形成されていると共に、横方向に対称を成す向きに配設され、さらに、それら一対のスライドコア30,30の先端面同士が突き合わされている。これにより、一対のスライドコア30,30によってU字状のコア型3が形成されている。
【0021】
上記した一対のスライドコア30,30は、U字状のコア型3の横方向の外側部分に位置する外型31と、U字状のコア型3の横方向の内側部分に位置する内型32と、にそれぞれ分割されている。これら外型31と内型32とは、スライドコア30のスライド方向(縦方向)に沿ってスライド可能になっている。すなわち、外型31と内型32とは、縦方向に延在する分割面35を介して組み合わされており、その分割面35に沿って外型31が内型32に対して相対的に縦方向一方側(図1における下側)に移動可能となっている。なお、前記した分割面35は、横断面視において前後方向に沿って延在された平面部であり、スライドコア30の軸線Lよりも横方向内側寄りの位置に配設されている。つまり、一対のスライドコア30,30は、それぞれ各々の軸線L,Lの間の位置で外型31と内型32とに分割されている。また、前記した外型31及び内型32には、金型冷却時に冷却水を流通させて水冷式の冷却を行うための冷却孔33,34がそれぞれ形成されている。
【0022】
次に、上記した構成からなる射出成形用金型1の作用について説明する。
【0023】
上記した射出成形用金型1を用いて成形品10を成形する際には、まず、図1、図3に示すように、可動側のキャビティ型2を固定側のキャビティ型2側に移動させて各々のパーティング面22,22同士を合わせると共に、一対のスライドコア30,30をそれぞれキャビティ20,20の内側に挿入してU字状のコア型3の先端部をキャビティ20,20内に配置させ、さらに、キャビティ20,20内に金型ピン21,21を貫設させる。これにより、射出成形用金型1内に密閉空間100が形成される。
【0024】
続いて、固定側のキャビティ型2に形成された図示せぬスプルーに溶融樹脂を射出して上記した密閉空間100に溶融樹脂を充填する。その後、コア型3の冷却孔33,34及びキャビティ型2,2の図示せぬ冷却孔に冷却水を流通させて射出成形用金型1を冷却する。これにより、密閉空間100内に充填された溶融樹脂が固化して成形品10が成形される。
【0025】
次に、図4に示すように、一対のスライドコア30,30の外型31を図示せぬ移動機構によって縦方向一方側(図4における下側)に向かってそれぞれスライドさせてキャビティ20,20内(貫通孔11内)から引き抜く。これにより、外型31が成形品10の貫通孔11内から離型され、貫通孔11内に残った内型32の横方向外側にスペースができる。
【0026】
次に、図5に示すように、一対のスライドコア30,30を、縦方向一方側(図5における下側)に移動させながらそれぞれ横方向外側にずらして一対のスライドコア30,30の分割面30a,30aを離間させる。これにより、一対のスライドコア30,30の内型32,32の鉤状の先端部が、成形品10の貫通孔11の折り返し部分15の内壁面15aからそれぞれ外される。
【0027】
次に、図6に示すように、一対のスライドコア30,30をそれぞれスライドさせて内型32,32をそれぞれキャビティ20,20内(貫通孔11内)から引き抜く。
以上により、コア型3が成形品10の貫通孔11内から離型される。
【0028】
また、上述したコア型3の離型の後、或いはコア型3の離型と同時に、可動側のキャビティ型2を固定側のキャビティ型2から離間する方向に移動させると共にキャビティ型2に備えられた図示せぬエジェクターピンなどで成形品10を突き出すことで、成形品10をキャビティ型2から離型させる。また、このとき、金型ピン21,21も成形品10の取付孔16,16から引き抜いて離型する。
【0029】
上記した射出成形用金型1によれば、略U字状に延在する貫通孔11を有する成形品10を一度の射出成形工程で成形することができる。したがって、樹脂界面や溶着跡が無い高品質の成形品10を製作することができ、また、工程数が削減されて生産性の向上を図ることができる。
【0030】
以上、本発明に係る射出成形用金型の実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施形態における射出成形用金型1では、先端部が円弧状に曲げられてJ字状に形成された一対のスライドコア30,30を組み合わせることで折り返し部が半円弧状のコア型3を形成しているが、本発明に係る射出成形用金型は、先端部がL字状に屈曲された一対のスライドコアを組み合わせることで折り返し部がコ字状のコア型を形成してもよく、或いは、先端部がく字状に屈曲された一対のスライドコアを組み合わせることで折り返し部がV字状のコア型を形成してもよい。
【0031】
また、上記した実施形態では、射出成形用金型1によって成形される成形品10が、本体部12にU字状に延在する貫通孔11が形成された構成となっているが、本発明に係る射出成形用金型は、略U字状に折り曲げられた形状のパイプ部材(U字管)を成形するものであってもよい。
【0032】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 射出成形用金型
2 キャビティ型
3 コア型
3a 折り返し部
10 成形品
11 貫通孔
20 キャビティ
30 スライドコア
31 外型
32 内型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略U字状に延在する貫通孔を有する成形品を成形する射出成形用金型であって、
前記成形品の外面を成形するキャビティが形成されたキャビティ型と、前記貫通孔を成形する略U字状のコア型と、が備えられており、
該コア型が、折り返し部分の中央で、前記キャビティ型の外部から前記キャビティ内にそれぞれ挿設された一対のスライドコアに分割されており、
該一対のスライドコアが、U字状の前記コア型の外側部分に位置する外型と、U字状の前記コア型の内側部分に位置する内型と、にそれぞれ分割されており、
前記外型と前記内型とが、前記スライドコアのスライド方向に沿って相対的にスライド可能となっていることを特徴とする射出成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−201027(P2012−201027A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68726(P2011−68726)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】